【熱力学】 ☆理想気体の状態方程式 「極めて多数の粒子系の現象論」 N ∼ 1023 のオーダーであるので運動方程式で個々に解くことは不可能。 そこで実験より得られた状態方程式と呼ばれる方程式を用いて多数の粒子の振る舞いを調 べる。 この方程式は熱平衡状態,理想気体という体積が0で,分子間力も0である気体について よく成立することが知られている。 状態方程式は力学での運動方程式,電磁気学での回路方程式に対応する方程式で極めて重 要であるので暗記をすること。 P V = nRT 圧力 P [N/m2 ]or[Pa], 体積 V [m3 ] 気体定数 R ≈ 8.31[J/mol・K], 絶対温度 T [K] ※物質量 (モル数)n[mol] モルは個数であることをしっかり認識すること。今, 気体が N 個あるとするとこの気体の モル数 n は次のようにして決める。 n= N (アボガドロ数 NA ≈ 6.02 × 1023 ) NA モル数と分子量 M と質量 W の間には次の関係がある。 分子量 M ×モル数 n[mol] = 質量 W [g] ☆ボイル・シャルルの法則 密閉気体の状態変化では n = 一定 であるから 状態方程式より PV = 一定 T となる。これは問題を解く際に有効である。 1 ☆気体分子運動論 ミクロな立場から温度を定義する。 vx S L m L L 図のように一辺の長さ L の立方体の中に N この単原子分子理想気体が入っている。1つ の気体が右の壁と衝突するとする。気体と壁は熱平衡状態とする。よって壁とエネルギー のやり取りはしないのでこの衝突は弾性衝突となる。 1回の衝突において分子が受ける力積 i は左向きを正として mvx − (−mvx ) = i ∴ i = 2mvx よって作用・反作用の法則より壁に加わる力積の大きさは 2mvx となる。 また,分子が ∆t の間に壁に衝突する回数は vx ∆t [回] 2L であるから ∆t の間に N 個の全分子から壁が受ける力積の合計 I は I = N × 2mvx × vx ∆t mvx2 = ∆t[N・S] 2L L F F Δt 壁が受ける平均の力 F = P = I なので壁に加わる圧力は ∆t F mv 2 mvx2 = 3x = (∵ L3 = V ) 2 L L V 2 t ここで運動の対称性より v 2 = vx2 + vy2 + vz2 vx = vy = vz より vx2 = 1 2 v 3 ∴ PV = 1 N mv 2 3 ここで気体の状態方程式と比較すれば 1 N mv 2 = nRT 3 1 3 N ・ mv 2 = nRT 2 2 これは気体の運動エネルギーの総和 K が K= 3 3 nRT = P V 2 2 となり,これは温度が気体分子の運動エネルギーに相関していることを意味する。この結 果は暗記しておくこと。 また ボルツマン定数 kB = R ≈ 1.38 × 10−23 [J/K] NA を用いれば 3 K = N ・ kB T 2 となる。 つまり1粒子の1つの自由度(x, y, z 方向)あたり,それぞれ 1 kB T 2 のエネルギーが分配されることが分かる。 また状態方程式はボルツマン定数を用いて P V = N kB T 3 とも表記できる。 ※分子の2乗平均速度 1 3 mv 2 = kB T 2 2 " " " ! 3kB 3kB NA 3RT 2 v = T = T = m mNA M 分子量を M とした。空気では 500[m/s] 程度になる。 ちなみに2原子分子に関しては K= 5 nRT 2 となる。 また,状態方程式はこの導出より定常状態 (熱平衡状態) でのみ成立することが分かる。 4 ☆エネルギーについて 熱力学においても同様にエネルギー原理が成り立つ。 ∆U = Q + W外 ここで U は内部エネルギーすなわち運動エネルギー K と位置エネルギーの和である。力 学との違いは加えた熱量 Q[J] が加わることである。熱が逃げていく場合は Q は負とな る。W外 は外部から系になされた仕事である。 また熱力学においては次のエネルギー原理も押さえておくとよい。 Q = ∆K + W気 この式は熱力学第 1 法則と呼ばれ,内部の気体に着目したエネルギー原理だ。 意味は気体に加えられた熱量 Q が温度上昇と仕事に使われたことを意味する。 ※ W気 について 気体が外部にする仕事について詳しく述べる S P(x) ΔV x1 x2 x 図においてピストンが位置 x1 から x2 まで押されたとすると W気 = ! x2 P (x)Sdx = x1 ! x2 P (V )dV x1 ここで Sdx = dV を用いた。これは P − V 図で囲まれた面積が気体が外部にする仕事 W気 だと意味している。 P W V2 V1 5 V V が大きくなっていれば仕事は正,小さくなっていれば仕事は負になることに要注意で ある。 なお微小変化では ∆W = p∆V (dW = pdV ) としてよい(圧力一定と見なす)。 次の例は受験生が苦手とする問題であるがこのエネルギー原理を正確に押さえれば容易 である。 (例)最初図のようにピストンの面積 S, 質量 m, 自然長 h のバネがある。中には単原子分 子理想気体が封入されている。大気圧は p0 である。最初, 内圧は p1 , ピストンの高さは h である。気体をヒーターで加熱したところ内圧は p2 , ピストンの高さは 2h になった。こ のとき加えた熱量 Q を求めよ。 解法1:ピストンにはたらく力のつり合い mg + p0 S = p1 S , mg + p0 s + kh = p2 S エネルギー原理 左辺:∆U = 3 1 (p2 2h − p1 h)S + mg(2h − h) + k(h2 − 0) 2 2 外力は大気による力であるから 右辺:Q − po (2h − h) 解法2:ばねののび x でのピストンにはたらく力のつり合い mg + p0 S + kx = pS なので気体のする仕事は P − V 図の面積となる。 6 P p 2 p1 W hS 2hS 熱力学第 1 法則 3 (p2 2h − p1 h) 2 左辺:∆K = 右辺:Q + ! 0 h 1 pSdx = Q + (p1 + p2 )hS 2 7 V ☆内部エネルギー保存 (i) 断熱自由膨張 n T0 n 0 T エネルギー原理よりこの系において Q = 0,W外 = 0 であるから ∆U = 0 となるので内 部エネルギーが保存する。よって温度は T0 のまま変わらない。 ※準静的断熱膨張 ピストンをゆっくり右に動かしていくような,ゆっくりとした(準静的な)断熱膨張では, 移動中外力が負の仕事をするので ∆U = 0 + W外 より温度は下がる。 ※ この場合、ポアソンの法則 T V γ−1 = 一定 が成立している。 (ii) 断熱混合 nA TA nB nA + n B TB T (i) と同様に ∆U = 0 なので 3 3 3 nA RTA + nB RTB = (nA + nB )RT 2 2 2 となる。 8 ☆熱容量と比熱 ・熱容量 C[J/K]…ある物質を 1K あげるのに必要な熱量 Q = C∆T ・比熱 c[J/kg・K]…ある物質 1kg を1Kあげるのに必要な熱量 Q = mc∆T ※ C = mc の関係が成り立つ。 ・モル比熱 C0 [J/mol・K]…ある物質 1mol を1K上げるのに必要な熱量 Q = nC0 ∆T ☆気体の密度 気体の密度 ρ[kg/m3 ] P V = nRT = ρ= W RT W : 質量,M : 分子量 M W [kg] PM = V [m3 ] RT 9 ☆状態図 状態方程式 P V = nRT より n = 一定 とすると独立変数は2つになる。 すなわち P − V, T − V, P − T いずれかのグラフを書けば気体の変化の様子が分かるよう になる。一般的に気体の仕事が計算できる P − V 図で気体の状態を調べる。 (i) 定積変化 P P1 P0 T1 T0 V V0 P0 P1 = T0 T1 ボイル・シャルル: 熱力学第1法則:Q = ∆K + 0 ここで定積変化のモル比熱 CV(定積変化)とすれば ∆K = nCV ∆T ∴ K = nCV T となる。これは定積変化に限らず任意の変化で成立する。単原子分子理想気体ならば K= 3 nRT 2 より CV = 3 R 2 となる。 10 (ii) 定圧変化 P P0 T1 T0 V0 V1 V V0 V1 = T0 T1 ボイル・シャルル: 熱力学第1法則:Q = ∆K + W気 P − V グラフの面積が W気 なので W気 = P0 (V1 − V0 ) = nR∆T Q = nCV ∆T + nR∆T = n(CV + R)∆T ここで定圧変化のモル比熱を CP とすれば CP = CV + R(マイヤーの関係) が成立する。 (iii) 等温変化 P P0 P1 T0 V0 V1 ボイル・シャルル:P0 V0 = P1 V1 熱力学第1法則:Q = 0 + W気 ここで W気 = ! V1 V0 P dV = ! V1 V0 nRT0 V1 dV = nRT0 log V V0 11 V (iv) 断熱変化 P P1 T1 P0 P2 T2 V1 V0 V2 T0 V P 0 V0 P1 V1 P2 V2 = = T0 T1 T2 ボイル・シャルル: 熱力学第1法則:0 = ∆K + W気 定性的には V が増えると W は正になるので熱力学第 1 法則より ∆K は負となり温度が 下がる。V が減ると W は負になるので熱力学第 1 法則より ∆K は正となり温度が上が る。よって P − V グラフの傾きは等温変化より急になる。 またボイルシャルルと熱力学第1法則を数学的に処理すると ポアソンの式: P V γ = 一定もしくは T V γ−1 = 一定(比熱比:γ = が得られる。単原子分子理想気体では γ = 5 3 となる。 ★ポアソンの式の導出 微小変化を考えると 状態方程式:P V = nRT 熱力学第1法則:0 = nCV dT + P dV P を消去して dT R dV =− T CV V 両辺積分して ! γ= CP CV dT =− T =1+ R CV ! R dV CV V を使うと T V γ−1 = 一定 が得られる。 12 Cp ) CV ☆熱効率 e= W気 cycle Qout =1− Qin Qin P W V W気 cycle は1サイクルで気体のした仕事,すなわち図の内部の面積になる。回り方に よって正,負が異なるので注意。また Qin は気体の吸収した熱量であるから放出した熱 量(負の熱量)は含めてはいけない。1サイクル当たりの熱力学第1法則は温度は元にも どるので ∆K = 0 となるので Qin − Qout = 0 + W気 cycle より3項目が得られる。この結果より必ず e < 1 となりエネルギーが外部に逃げていくこ とが分かる。これを熱力学第2法則という。 13 ※ 『ゆっくり』(準静的変化) の定量的な考察 ピストンや気球をゆっくり変化させるという記述があったのなら,条件は ・力のつり合いが常に成立している ( dv = 0) dt ・状態方程式が常に成立している(常に熱平衡状態) とする。 1 2 図のような装置で間を導線でつないでゆっくりと熱を移動させたと記述があったなら p1 V1 = nRT1 p1 V2 = nRT2 ∴ p1 (V1 + V2 ) = nR(T1 + T2 ) 力のつり合いが成立しているので定圧変化であり,かつ状態方程式が成立するので,1 か ら2へ流れた熱量を dQ として −dQ = nCp (dT1 ) ,dQ = nCp dT2 ∴ dT = dT2 = −dT1 p(V1 − dV ) = nR(T1 − dT ) p(V2 + dV ) = nR(T2 + dT ) ∴ p(V1 + V2 ) = nR(T1 + T2 ) たしかに p = p1 となる。 では,準静的変化の目印を具体的に見ていこう。準静変化であれば p − V グラフが描ける ので,熱力学第一法則を適用することが可能である。 ① ヒーターでゆっくり加熱する ② バルブをゆっくり開く ③ ピストンにプロペラを付ける プロペラが出した熱を気体が吸収するため,気体の急な変化を緩和できる。プロペラには 質量,体積,熱容量は存在しないとする。よって,プロペラによるエネルギーは考える必 要はない。 14 ④ 水をゆっくり注ぐ 水の重さ ρySg と大気圧による力とピストンの重さと内圧 P による力がつり合ったまま ピストンが動く。 ρySg + mg + P0 S = P S 気体の体積を V = hS − yS とすると, ρ mg ρ(hS − V )g + mg + P0 S = P S ∴ P = − V + hg + + P0 g S となり,p − V の関係は線形となる。 15 映像: (典型)熱力学1 気体分子運動論 ★★★★ 半径 r の球形容器の中に理想気体が入っていて気体分子は容器と弾性衝突するとする。今この気体分子の速さ は v であった。 v θ θ r m O (1) 1回の衝突でこの気体分子が壁に与える力積の大きさを求めよ。 (2) 衝突間の距離を考えて,∆t の間に衝突する回数を求めよ。 (3) 球全体にある気体の全粒子数を N , 速さの2乗平均を v 2 とするとき全体が容器に与える力を考えて,気体 の圧力 P を求めよ。 (4) 理想気体の状態方程式と比較して分子1つあたりの運動エネルギーを求めよ。なお,気体定数を R, アボ ガドロ数を NA とする (5) この分子が単原子分子としたときに n モルの気体の運動エネルギーを n, R, T で記せ。 (横浜市立大) 1 映像: (典型)熱力学2 熱気球 ★★★★ 熱気球がある。下部に小さな開口部があり,内部と外部は等しい圧力に保たれているとする。ヒーターにより 内部の空気の温度を調整できるとする。風船部の体積は一定で V , 内部の空気を除いた気球全体の質量を W , 地表付近の大気圧を P0 , 密度を ρ0 , 重力加速度を g とする。なお外部の温度は高度によらず T0 とする。扱う 気体は理想気体の状態方程式を満たすとする。 風船部 ゴンドラ (1) 気体の密度を ρ,圧力 P ,温度 T としたときに P = 一定 ρT になることを示せ。 (2) 今ヒーターで内部の空気を暖めていったところ,気球が浮き上った。このときの内部の空気の密度を求め よ。またそのときの温度 T1 を求めよ。 (3) 温度を T1 に保ちながら熱気球のゴンドラから積み荷を捨て質量を計 w だけ 軽くしていったところゆっく り気球は上昇しながら積み荷を捨て終わった地点で静止した。このときの大気の密度 ρ1 を求めよ。 (4) このときの大気圧 P1 と高度を求めよ。ただし ρ1 ,高度には P1 を用いてよい。 (東大改) 2 エネルギー原理 ★★★★ 鉛直シリンダーに単原子分子の理想気体を入れ,滑らかに動く質量 M ,面積 S のピストンをシリンダーの底 と自然長が l でばね定数 k の軽いばねで連結する。大気圧を P0 , 重力加速度を g として以下の問いに答えよ。 最初の状態 I では内圧は P0 であり,ピストンは静止していた。 P0 P0 M k II I (1) 状態 I のばねの縮みを求めよ。 続いてヒーターにて気体に熱量 Q をゆっくりと加え,ばねの自然長の位置でヒーターを切った。 (2) ばねの弾性エネルギーの変化とピストンの位置エネルギーの変化を求めよ。 (3) 気体の内部エネルギーの変化を求めよ。 (4) 熱量 Q を求めよ。 (名古屋大改) 3 映像: (典型)熱力学3 P − V 図 ★★★★★ 単原子分子理想気体からなる圧力と体積の関係を図のように変化させた。状態 A での圧力を P0 , 体積を V0 と する。 P 2P0 P0 B C A V0 2 V0 V (1) 状態 A → B 間,C → A 間で気体が吸収した熱量をもとめよ。 (2) 状態 A → B → C → A で気体が外部にした仕事を求めよ。 (3) 状態 A での温度を TA とするときこのサイクルでの最高温度を TA を用いて表せ。 (4) 状態 B → C 間である途中までは熱を吸収し,そこから放出に切り替わる。切り替わるときの気体の体積 を求めよ。 (5) この熱機関の熱効率求めよ。 (創作問題) 4 気体の状態変化 ★★★★★ 図のように、断熱壁で囲まれた同一シリンダーが、B がコック C のついた体積の無視できる細い管でつなが れている。最初、コック C は閉じていて、シリンダー A には圧力 P0 , 体積 V0 , モル数 n の単原子分子理想気 体が質量 m の断熱板で閉じ込められている。断熱板は滑り落ちないように、下からストッパーで支えられて おり、天井から質量の無視できるばね定数 k のばねが取り付けられている。ばねの長さは自然長に等しい。ま た、シリンダー A 内には、ヒーターがあり、スイッチを入れると、気体を加熱することができる。シリンダー B は真空になっていて、内部の容積が V0 になるような高さに断熱板があり、留め具により固定されている。 断熱材の断面積を S, 重力加速度を g, 気体定数を R として、以下の設問に答えよ。ただし、断熱材はシリン ダー内を滑らかに動くものとする。シリンダー外部の圧力による影響は無視してよい。 I コック C をゆっくり開く。十分に時間が経過して、気体がシリンダー A,B の内部に一様に充満したとき の気体の状態を Z1 とし、そのときの温度 T1 と圧力 P1 を求めよ。ただし、シリンダー A ないの断熱板はス トッパーから離れないものとする II 状態 Z1 において、ヒーターのスイッチを入れて気体をゆっくり加熱すると、しばらくしてシリンダー A の断熱板が動き始めた。その瞬間に、ヒーターのスイッチを切った。スイッチを切った後の気体の状態を Z2 とし、そのときの気体の圧力 P2 と温度 T2 を求めよ。 III 状態 Z2 において、ヒーターのスイッチを入れて気体を徐々に加熱すると、シリンダー A の断熱板がゆっ くりと上方に動いた。気体の体積が ∆V だけ増えたとき、ヒーターのスイッチを切った。スイッチを切った 後の気体の状態を Z3 とし、状態 Z2 から状態 Z3 への変化に関して、以下の設問に答えよ。 (1) 気体の圧力増加 ∆P を ∆V によって表せ (2) 気体がした仕事 Wg を P2 , ∆P, ∆V によって表せ (3) ヒーターが気体に与えた熱 Qh を P2 , V0 , ∆V, ∆P によって表せ IV 状態 Z2 において、コック C を閉め、シリンダー B の断熱板の留め具をはずし、その断熱板を機械的 に速く上下に振動させた後に、元の位置に戻し、再び留め具で固定した。この間に、気体がなされた仕事を Wm( > 0)とする。その後、十分に時間が経過したときの状態を Z4 とする。状態 Z4 の温度 T4 を T2 , Wm に よって表せ V 状態 Z4 において、コック C をゆっくりと開くと、シリンダー A の断熱板がゆっくりと上方に動き、状 態 Z3 と同じ状態になった。このとき、Wm と Qh の関係を記せ。また、その関係が成り立つ理由を簡潔に述 べよ。 5 A B C (00 東大) 6 ピストン連結気体の内部エネルギー ★★★★★ 図のように、二つの容器 1,2 のそれぞれに 1 モルの気体 1,2 を入れ、水平な床に固定する。これらの気体は ともに理想気体とする。二つの容器は摩擦なしに水平に動くことのできるピストン A でつながれている。ピ ストン A の容器 1 内の底面積は S0 であり、容器 2 内の底面積は 2S0 である。容器 2 にはさらに、上下に動 くことのできるピストン B がついており、その上に質量 m のおもりがのせてある。ピストン B の底面積は S であり、その質量は無視できる。容器 1 には体積の無視できるヒーターが取り付けられている。ピストン A, B と容器は熱を通さない。気体は容器の外にもれず、容器の外は真空である。気体定数を R,重力加速度を g とする。 m 2S 0 S0 1 図 I ピストン B が動かないように固定されている場合を考える。 (1) ピストン A が静止している状態において、気体 1 の圧力 P1 と気体 2 の圧力 P2 の間に成り立つ関係式を 書け。 (2) はじめ気体 1 の方が気体 2 より温度が低く、気体 1 の体積が V1 ,気体 2 の体積が V2 であった。ヒーター で気体 1 を加熱して気体 1,2 を等しい温度にした。このときの気体 2 の体積 V2 を、V1 ,V2 を用いて表せ。 ! II ピストン B が摩擦なく動くことができる場合を考える。ピストン A,B が静止している状態において、 気体 1 の温度が T であるとき、気体 1 の体積 V1 を、S ,T ,R,m,g を用いて表せ。 ! III 問 II の状態から気体 I をヒーターで加熱したところ、気体 1 の温度は T になり、気体 2 の温度は変わ ! らなかった。また、ピストン A は右に距離 x だけゆっくりと移動し、ピストン B は h だけ上昇した。 (1) 移動距離 x を、S0 ,S ,h を用いて表せ。 (2) 温度 T を、T ,R,m,g ,h を用いて表せ。 ! 7 (3) 気体 1 は単原子理想気体として、ヒーターから加えられた熱量 Q を、m,g ,h を用いて表せ。 (04 東大) 8 気体の混合 ★★★ 図のように,容器 A,B とシリンダー C をコック K1 , K2 のついた細管で接続する。C には気密性を保ったま ま滑らかに動くピストンがはめ込まれ,ピストンの右側の気圧は大気圧 p になっている。 B C A K1 V K2 p 2V 図1 A,B の容積はそれぞれ V, 2V で初め,K1 , K2 が閉じ,ピストンが C の底まで押し込まれている状態で,A には圧力 3p, 温度 3T で定積モル比熱が 52 R の理想気体 G1 が入っている。B には圧力 2p,温度 2T で定積モ ル比熱が 32 R の理想気体 G2 が入っている。ここで R は気体定数である。 装置の全て断熱材でできており,外部との熱のやり取りはなく,その熱容量は無視できる。また細管の容積も 無視できるものとする。 I 初めの状態について以下の問に答えよ (1) 気体 G1 のモル数は気体 G2 のモル数の何倍か (2) 気体 G1 の内部エネルギーは気体 G2 の内部エネルギーの何倍か。 II 次にコック K2 を閉じたまま,K1 をゆっくり開いて G1 と G2 を混合する。十分に時間が経ち熱平衡状 態に達したときについて以下の問いに答えよ。 (3) 混合気体の温度は T の何倍か (4) 混合気体の圧力は p の何倍か III さらに,コック K2 をゆっくり開いて,混合気体を C の中に膨張させる。このとき,C 内の圧力は常に p に保たれたままピストンが移動するものとする。全体が熱平衡状態に達したときについて以下の問いに答えよ (5) C 内にある混合気体の体積は V の何倍か (6) 混合気体の温度は T の何倍か 9 (12 東京慈恵医大) 10 内部エネルギー ★★★★ 熱容量 C ,温度 2T の金属球を,図1に示すように,温度 T , 物質量 2n の単原子理想気体が入った体積 V 2 の 容器 A に投入した。容器 A 内部の温度などの物理量は,投入直後から変化し続け,十分長い時間が経った後 では,すべての物理量が一定の値となった。気体定数を R として以下の問いに答えなさい。ただし,金属球 の体積は容器の体積 V 2 に対して無視できるほど小さいとする。また,容器 A は真空中に置かれており,周囲 (真空)との熱のやりとりは無いものとし,容器 A の熱容量は無視できるほど小さいとする。 A C 図1 (1) 十分時間が経ったときの気体の温度を T + ∆T としたとき,気体の温度変化分 ∆T を求めなさい。 (2) 十分時間が経ったときの金属球の温度を答えなさい。また,投入直後を t = 0 として,金属球の温度変化 のグラフを描きなさい。 (3) 金属球の熱容量 C が C = 6nR のとき,十分時間が経ったときの状態における気体の圧力を求めなさい。 11 さらに,図 2 に示すように,容器 A と容器 B をなめらかなピストンを介してつなぐ場合を考える。容器 A と B は空間に固定する。ピストンの断面積は容器 A 側を S, 容器 B 側を 6S とし,最初ピストンは固定する。 容器 A には (1),(2) の状態の気体を入れ,容器 B には,温度 T , 体積 V , 物質量 n の単原子分子理想気体を入 れる。なお,金属球の熱容量は (3) と同様に C = 6nR とする。また,容器 A と B およびピストンは真空中 に置かれており,容器 A と B の熱容量は無視できるほど小さく,周囲との熱のやり取りは無いものとする。 B A C S 6S 図2 (4) ピストンの固定を外した直後,ピストンはどちらの方向に移動するか (5) (4)の後,ピストンは十分時間が経った後に静止した。また,このとき,気体の温度が一定の値となっ た。静止時の容器 A 内および B 内の温度を求めなさい。ただし,ピストンは熱を伝える物質で出来ており, その熱容量は気体部分の熱容量に比べて十分小さいとする。 (6) (5) のときの容器 A と B の体積の比を求めなさい。 (12 千葉大) 12 理想気体の状態変化 ★★★★★ 図のように、断熱壁でできた気密な箱(内部の高さ L)の中に、気密を保ちつつ上下滑らかに動くことのでき る仕切り板(質量 M )があって、内部を上下2つの空間に分けている。この仕切り板には外部からの信号に よって自由に開閉できる弁がつけられており、箱の下部にはヒーターが設けられている。また、箱の内側の下 から L/4 の高さにはストッパーがつけられていて、仕切り板はこれより下には落ち込まない。 最初、弁は閉じられており、上部の空間は真空である。また、下部の空間には絶対温度 T0 、1mol の単原子 分子理想気体がつめられているが、仕切り板はその自重によりストッパーにのっている。 重力加速度を g, 気体定数を R, アボガドロ数を N として、以下の設問に答えよ。ただし、箱と仕切り板の熱容量および仕切り たいの厚さは無視できるものとする I 最初の状態における気体1分子あたりの平均エネルギーを書け II ヒーターによって気体をゆっくり加熱したところ、しばらくして仕切り板が上方に動き始めた。このとき の気体の絶対温度とそれまでに気体に加えた熱量を求めよ III さらに加熱を続けて仕切り板の高さが L/2 になったところで加熱をとめた。仕切り板が動き始めてから 加えた熱量を求めよ。また、加熱を止めた後の気体の内部エネルギーを書け。 IV その後、弁を短時間開いて気体の一部を上部に逃がして、再び弁を閉じた。しばらく経過すると、上部と 下部の気体の温度が等しくなり、平衡状態に達した。このときの仕切り板の高さは L/3 であった。平衡状態 における気体の絶対温度と上部に逃げた気体の mol 数を求めよ。また、最終状態での気体の内部エネルギー を III の値と比較し、その違いの原因を求めよ。 L L 4 13 (88 東大) 14 ピストンばね ★★★★★ 図のような長さが 2l, 断面積 S の直方体容器を用意し,質量 M のなめらかに動く断熱素材のピストンで左 右の部屋を区切った。左室には n[mol] の単原子分子理想気体が,右室は真空になっており気体の出入りはで きないとする。右室にはばね定数 k, 自然長 l のばね,開閉バルブが取り付けられている。容器全体は断熱素 材でできているが,左室にはヒーターが取り付けられていて熱を加えることができる。今ピストンは左端から 3 l で静止している。気体定数を R, 重力加速度を g として以下の問いに答えよ。 2 3 -l 2 2l n n 1 -l 2 1 -l 2 (1) このときの左部屋の温度 T0 を求めよ。 次にこの容器を左室が床につくように縦におくと,下から上方 を状態 I とする。 l のところでピストンは静止した。この状態 2 さらにヒーターで熱量を加えると,ピストンは下から上方 l の位置で静止した。この状態を状態 II とする。 (2) 状態 I から II の過程での気体の内部エネルギーの変化量を求めよ。 (3) このとき加えた熱量 Q を求めよ。 さらに,上室のバルブを開け n[mol の気体を入れた. ピストンは滑らかに移動し,最終的に上下室の圧力が等 しくなったところで静止した。 (4) このときのピストンの位置は下から上方どれだけか。 (5) 下室の圧力を求めよ。なお,必要とあれば密閉された理想気体の断熱変化では ポアソンの式 pV 5 3 = 一定 が成立することを用いてよい. (創作問題) 15 2つの容器内の気体の状態変化 ★★★★★ 同じ形の2つのシリンダーが図のように向き合って水平に固定されている。一定の長さの軸で連結された左右 のピストンは、いっしょになめらかに動くことができる。シリンダーとピストン、および軸は熱を伝えない が、ピストンと軸の中に熱伝導するための金属線が通してあって、熱スイッチ S を閉じることにより、左右の シリンダー内の気体の間で、熱をゆっくり流すことができる。ピストンの断面積は A、左右のピストンと軸お よび金属線の全質量は M で、左右のシリンダーの中には、それぞれ1モルの単原子分子理想気体が封入され ている。気体定数は R とする。 はじめ、熱スイッチ S は開いていて、ピストンは静止していた(以下ではピストンのこの位置を平衡の位置と 呼ぶ)。このとき、左シリンダー内の気体の体積と絶対温度はそれぞれ V1 , T1 であり、右シリンダー内の気体 の体積と絶対温度はそれぞれ V2 , T2 で T1 > T2 であった。 以下の設問では、金属線の熱容量は無視して答えよ。また1に比べて十分に小さい量があったとき、その二 次およびそれ以上の微少量は無視せよ。|x| が1より十分小さいとき (1 + x)n ≈ 1 + nx を用いてよい。 I ピストンの軸を手でもち、これを右へゆっくりわずかに動かした。その結果、左シリンダー内の気体の体 積と温度が、それぞれ V1 + ∆V1 , T1 + ∆T1 に変化した。このとき左シリンダー内の気体がなした仕事 W1 を V1 , T1 , ∆V1 , R を用いて表せ。ただし、体積変化の割合 |∆V1 /V1 | は1に比べて十分に小さいとする。 さらに熱力学の第1法則を用いて ∆T1 を V1 , T1 , ∆V1 で表せ。 II 設問 I で左シリンダー内の気体の圧力がわずかに変化した。その変化 ∆P1 を ∆P1 = − 1 ∆V1 K1 V1 と表す。K1 を求めよ III ここで、ピストンの軸から手を離したところ、左右の圧力差によって、ピストンは平衡の位置を中心と する単振動を始めた。その振動数 f を V1 , V2 , K1 , A, M を用いて表せ。ただし, 変化の過程において, 常に状 態方程式が成立しているものとする。 IV ピストンを再び平衡の位置に静止させて、はじめの状態にもどしてから、熱スイッチ S を閉じて熱を ゆっくりと流し、右シリンダー内の気体の温度が T2 + ∆T2 となったとき、S を開いた。|∆T2 /T2 | は1に比 べて十分に小さかった。このとき左シリンダー内の気体の体積と温度がそれぞれ V1 , T1 となった。 左シリ ! ! ンダー内の気体の温度変化 T1 − T1 と体積変化 V1 − V1 , および左シリンダー内の気体から右シリンダー内の ! ! 気体へ流れた熱量 Q を T2 , V2 , ∆T2 , R を用いて表せ。 5 1 S 2 (84 東大) 6 映像: (難問)熱力学3 ピストン単振動 ★★★★★ 図のように,鉛直に立てられた,熱をよく通す薄い断面積 S のシリンダーに,滑らかに動く,断熱材でできた 質量 m のピストンがはまって静止している。シリンダーの中には,単原子分子理想気体 n[mol] が閉じこめら れている。この理想気体は,シリンダーと熱平衡にあり,質量は無視できるとする。外側の気圧を p0 ,重力加 速度を g, 気体定数を R とする。 m V0 図1 I まずシリンダーの温度を T に保つ。ピストンを最初に静止していたつりあいの位置(以下,この位置を「基 準位置」と呼ぶ)から少しだけ押し下げ静かに放したところ,ピストンは上下に振動を始めた。この振動は単 振動でよく近似された。この単振動の周期を次のように考えて求めてみよう。以下の文の (a) から (e) に入る 適切な式を書け。「基準位置での気体の圧力は ( a ) で,体積 V0 は ( b ) である。基準位置からのずれ を,上向きを正にとって y とする。これによる気体の体積変化 ∆V は yS であるから,このずれのあるときの 気体の圧力 p は p = ( c ) ( V0 , y, s, P0 , m, g を用いよ) となる。|∆V | << 1 として,上の式に対して近似公式 1 ≈ 1 − x (|x| << 1) 1+x を適用すると,ピストンにかかる合力は ( d ) × y ( V0 , y, s, P0 , m, g を用いよ) となり,これと単振動の復元力 F = −ky(k は比例定数) を比較することにより,ピストンは周期( e )の 単振動をすることが分かる」 7 II ピストンを基準位置で止め,温度はそのままで,シリンダーを断熱材で覆った。その後で I と同じ事をしたと ころ,やはり単振動を始めた。シリンダーの熱容量,および熱の出入りは無視できるとする。このときの振動 の周期は I に比べて長くなるか,短くなるか,理由を付して答えよ。理由は計算で示してもよい。 III 図2 ピストンの下に,図2のように,プロペラを取り付けた。このプロペラの体積,熱容量,および質量は無視 できるものとする。いったん断熱材を外し,温度を T に保ったまま,ピストンを基準位置から h だけ持ち上 げて止め,その状態で再び断熱材でシリンダーを覆ってから静かに放した。プロペラは振動にともなって回転 し,気体内に熱を発生した。振動は次第に小さくなり,ピストンは理想気体の圧力,外気の圧力,およびピス トンにはたらく重力がつりあった位置で静止し,プロペラも同時に静止した。このピストンの静止位置の基準 位置からのずれを求めよ。 (96 東京大) 8 映像: (難問)熱力学2 気球 ★★★★★ 今極めて軽く質量の無視できる素材でできた風船を考える。中には単原子分子理想気体が封入されている。中 の気体の分子量を m,空気の分子量を M , 地表での気圧を P0 , 温度を T0 とし,風船の内圧と外圧は常に等し いとする。気体定数を R, 重力加速度を g として以下の問題に答えよ。 I 最初,風船地表付近にあり,体積は V0 , 温度は T0 であった。 (1) 中の気体に働く重力と,風船にはたらく浮力の大きさを求めよ。 II M = 2m として以下の問に答えよ。今風船は浮力により上昇していく。 次の (イ)(ロ)(ハ) の3過程において以下の問いに答えよ。なお大気の圧力は地表からの高度を用いて P = P0 (k : 正の定数) 1 + kh と表される。また大気の温度は高度によらず T0 で一定であるとする。 (イ) 風船内部の温度を T0 に保ったまま,高度 h まで上昇させた。ただし, この間風船の内圧と外圧は常に等 しい。 (2) このときの風船の体積を求めよ。 (3) 風船の高度 h に達するまでの時間を求めよ。 (ロ) 地表に再び風船を戻し, 風船の体積 V0 に保ったまま,高度 h まで上昇させた。ただし, この間風船の内圧 と外圧は常に等しい。 (4) このときの風船の温度を求めよ。 (5) 到達する力のつり合いの位置の地表からの高さを求めよ。 (ハ) 表に再び風船を戻し, 風船の出入りする熱の出入りを遮断(断熱変化)したまま,高度 h まで上昇させた。 ただし, この間風船の内圧と外圧は常に等しい。 なお,密閉された単原子分子理想気体では断熱変化において次のポアソンの関係式が成立する。 PV 5 3 = 一定 (6) このときの風船の体積と到達する力のつり合いの位置の地表からの高さを求めよ。 (7)(イ)(ロ)(ハ) の3過程において高度 h になるまでの気体の状態を P − V 図に記せ。また過程 (イ)(ロ) にお いて過程に出入りした熱量を求めよ。ただし吸熱か発熱か分かるように記せ。なお必要ならば次の積分公式を 1 用いてもよい。 ! V1 V0 1 V1 dV = log V V0 (創作問題) 2 気球と断熱変化 ★★★★★ 図 1 のように、気球部と機械部で構成される気球がある。気球部は熱を通さない断熱膜 でできており、その内部には n モルの空気が密閉されていて気体の出入りはない。気球 部の体積は変化でき、内部の空気と外部の大気の圧力は常に等しい。一方、気球内部の空 気 (以後、気球内ガスと呼ぶ) に対しては、機械部にある装置によって熱を加えたり奪っ たりすることができる。気球は質量の無視できるロープで地上の巻き上げ機につながって おり、断熱膜と機械部の体積は無視できるとする。 大気の圧力は地上においては p0 であり、高さとともに減少する。一方、大気の温度は高 さによらず一定の値 T0 であるとする。空気は理想気体と見なしてよい。また、気体定数 を R,温度を T とすると、1 モルの空気の内部エネルギー u は u = 52 RT としてよい。 気球が押しのけた領域にあった大気の平均密度は、気球の中心の高さにおける大気の密度 で近似できるものとする。空気 1 モルあたりの質量を m とし、重力加速度の大きさを g とする。以下の問いに答えよ。 (a) 圧力が p で温度が T0 の大気の密度 (単位体積あたりの質量)r を、p,T0 ,R,m を用 いて表せ。 (b) 図 1 のように、気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスを加熱したところ、気球 内ガスの温度が T1 になったとき気球に働く浮力と重力がつり合った。このとき、気球内 ガスを除いた気球の質量 (断熱膜と機械部の質量の和)M を、T0 ,T1 ,n,m を用いて表せ。 (c) 気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスをさらに加熱し、温度を T2 にした。温度 T1 の状態から温度 T2 になるまでに加えられた熱量 Q を、R,n,T1 ,T2 を用いて表せ。 (d) 問 (c) で温度が T2 のときのロープの張力はどれだけか。問 (b) の結果も用い、張力を g ,m,n,T0 ,T1 ,T2 を用いて表せ。 (e) 問 (c) で温度を T2 にしたあと、図 2 のように巻き上げ機をゆるめて気球をゆっくりと 上昇させる。すると気球はある高さまで上昇し、つり合って止まった。このときの気球内 ガスの温度 T3 を求めよ。 (f) 問 (e) の上昇過程で、気球内ガスが外の大気に対してした仕事 W23 を求めよ。 (g) 問 (e) の過程ののち、ロープを切り離す。その後、気球内ガスから熱をゆっくりと奪 い、気球をゆっくりと下降させて地上の台上にもどした。このときの気球内ガスの状態変 4 化はどのようなものか。次の 5 つの選択肢の中から 1 つを選んでその番号を記せ。 ① 定積変化, ② 定圧変化, ③ 等温変化, ④ 断熱変化, ⑤ ①∼④のどれでもない 図1 図2 (09 東工大) 5 映像:(難問)熱力学4 断熱変化 ★★★★ n モルの単原子分子理想気体を考える。気体の圧力を p,体積を V ,温度を T ,気体定数を R としたとき、状態方程式は pV = nRT で与えられ、内部エネルギー E は E = 32 nRT である。以下では、その理想気体が、なめらかに動くピストンの付いた密閉された容器に 入れられ、断熱変化する過程を扱うことにする。 A ピストンを少し動かすことにより、内部エネルギーが E から E + ∆E へ、体積が V から V + ∆V へ、温度が T から T + ∆T へそれぞれ微小変化した。 (a) ∆E と ∆V の間に成り立つ関係式を求めよ。ただし,気体の圧力 p を用いてよい。 ∆T (b) ∆V を T と V を用いて表せ。 (c) C ,α を定数として、T と V との間に T = CV α の関係が成り立つと仮定する。この とき ∆T = CαV α−1 ∆V となることを示せ。ただし、微小量 e および実数 b について、(1 + ")b = 1 + b" としてよ い。 (d) 問い (b) と (c) の結果より、α の値を求めよ。 B ゆっくりとした状態変化により、この理想気体が体積 V1 ,温度 T1 の状態から体積が V2 の状態に移った。 (e) 設問 [A] の結果に基づき、その間に気体が行った仕事を n,R,T1 ,V1 ,V2 を用いて 表せ。 7 (8 東工大) 8 気体の状態変化とエネルギー ★★★★★ 気密で滑らかに動く断熱壁 S で仕切られた2つの密閉容器 A,B がある。A には 100 ℃,1 気圧の水蒸気 1 モルが入っていて,ごく少量の水と共存している。B には,同じく 100 ℃,1 気圧の He ガス 1 モルが入っている。両者の体積は等しく,断熱壁 S は中央に あるとする。B 内にはヒーターがあり,He ガスに熱を供給することができる。また,A の左端と B の右端は,断熱壁と伝熱壁の切り替えができるようになっている。100 ℃を T0 [K],気体定数を R[J/K・mol] とし,記号を用いて以下の設問に答えよ。 I 容器 B の右端を断熱壁で仕切り,容器 A の左端を 100 ℃に保った大きな物体(熱溜め) に伝熱壁を介して接触させ,熱の移動ができるようにした。この状態で He ガスにゆっ くり熱を与えたところ,断熱壁 S は除々に左方へ移動し,水蒸気は定圧のまま液化を始 めた。断熱壁 S がほぼ左端に達し,ちょうどすべての水蒸気が液化したところで B 内の ヒーターを切った。 (1) この状態での He ガスの絶対温度および内部エネルギーはそれぞれいくらか。ただ し,液化した H2 O の体積は無視でき,He ガスは単原子分子理想気体とする。 (2) 断熱壁 S が左端に達するまでに He ガスがなした仕事はいくらか。 (3) この状態に達するまでにヒーターから供給された熱量はいくらか。 (4) 左端の伝熱壁を通って,熱溜めへ流れ出た熱量を求めよ。ただし,水蒸気が液化す る際の内部エネルギーの減少量を L[J/mol] とする。 II 次に,この状態で容器 A の左端を断熱壁に切り換えて熱を遮断し,容器 B の右端を伝熱 壁に切り換えて 100 ℃の熱溜めに接触させ,熱の移動ができるようにした(図2)。する と,断熱壁 S は徐々に動き始め,左端から少し離れた位置で止まった。 (1) 熱的平衡に達するまでに容器 B の右端から熱溜めに流れ出た熱量はいくらか。ただ し,断熱壁の移動により He ガスが受けた仕事は W [J] とする。 (2) この最終状態における容器 A,B を合わせた系全体の内部エネルギーは図1の初期状 10 態に比べてどれだけ変化したか。 He 水蒸気 図1 He 図2 (90 東大) 11 映像:(難問編)熱力学1 内部エネルギー保存 ★★★★★ 図のように断熱壁で囲まれた同一形状のシリンダーA,Bが,コックCが壁面の中央 についた体積の無視できる薄い仕切りでつながっている。最初,コックCは閉じていて, シリンダーAには,圧力 P0 , 体積 V0 , 物質量 n の単原子分子理想気体が質量 m の断熱板 で閉じこめられている。断熱板は滑り落ちないように,下から体積の無視できるストッ パーで支えられており,天井から質量の無視できるばね定数 k のばねが取り付けられて いる。ばねの長さは自然長に等しい。また,シリンダーA内にはヒーターがあり,スイッ チをいれると,気体を加熱することができる。シリンダーBは真空になっていて,容積が V0 になるような高さに断熱板があり,留め具により固定されている。断熱板の断面積を S ,重力加速度を g ,気体定数を R として,以下の問いに答えよ。ただし,容器全体は断 熱素材でできており,断熱板はシリンダー内を滑らかに動くものとする。シリンダー外部 の圧力による影響は無視してよい。 k m S S P0 V0 V0 n C A B (1) コック C をゆっくり開く。十分に時間が経過して,シリンダー A,B の内部に一様に 気体が充満した状態を状態 I とする。そのときの温度 T1 と圧力 P1 を求めよ。 (2) もしコックCを閉めたまま,仕切りをゆっくり B の右の壁まで動かすとき最初の状態 の A の温度と比べて温度は高くなるか,低くなるか答よ。 (3) 状態 I においてコックCをしめた後,ヒーターで気体Aを加熱して T まで温度を上げ る。このとき断熱板がストッパーから離れることはなかった。そしてふたたびコックCを 開いた。十分時間が経過したときの温度を求めよ。 (4) 状態 I においてヒーターのスイッチを入れて,気体をゆっくり加熱すると,しばらく してシリンダー A の断熱板が動き始めた。その瞬間に,ヒーターのスイッチを切った。 4 スイッチを切った後の気体の状態を状態 II とする。そのときの気体の温度 T2 , 圧力 P2 を 求めよ。 (5) 状態 II において,ヒーターのスイッチを入れて気体を徐々に加熱するとシリンダー A の断熱板がゆっくり上方に動いた,シリンダー A が最初より x だけ上昇したとき,ヒー ターのスイッチを切った。スイッチを切った後の気体の状態を状態 III とする。この過程 での温度上昇を ∆T とするとき,気体にヒーターから加えられた熱量 Qh を求めよ。 (6) 状態 II において,コックCを閉め,シリンダーBの断熱板の留め具を外し,その断熱 板を機械的に速く上下させた後に,元の位置に戻し,再び留め具で固定した。この間に気 体がなされた仕事を W m とする。その後,十分に時間が経過したときの状態を状態 IV と する。このときのシリンダー B の温度 T4 を T2 ,W m により表せ。 (7) 状態 IV において,コックCをゆっくり開くと,シリンダーAの断熱板がゆっくりと 上方に動いてゆき,状態 III と同じ状態となった。このときの Qh ,W m の関係を理由とと もに記せ。 ※補題 (2) のときの温度を求めよ (創作問題 + 東京大改) 5 分子運動論と断熱変化 ★★★★★ I 気体を断熱状態で準静的に膨張させると温度が下がることが知られている。このことを 単原子分子理想気体の分子運動論を用いて考察する。質量 M で断面積 S のピストンのつ いた体積 V の断熱容器の中に温度 T の気体が閉じこめられている。今ピストンを等速度 w で上向きに移動させることを考える。はじめの気体の 1 分子あたりの上向きの平均速 度成分を v0 として以下の問いに答えよ。また気体 1 分子の質量を m とし,気体はピスト ンやシリンダーと弾性衝突をし,ピストンの移動速度 w は気体の速度 v より十分遅く常 に v >> w が成立しているとする。 M w S m v0 V T0 図 (1)1 回衝突後の気体の1分子あたりの上向き平均速度成分を求めよ。またこのときの運 動エネルギーの変化を求めよ。 (2) 近似を用いて 2 回目の衝突での運動エネルギーの変化を求めよ また ∆t の間の運動エネルギーの変化を求めよ。ただし気体1分子の往復回数はピストン が初めの位置に静止しているものとして近似できるとする。 (3)∆t で体積が ∆V 変化したとする。またはじめの状態での気体1分子あたりの 2 乗平 均速度を v 2 として,∆t で失われるエネルギーを m,∆V ,v 2 ,V で表せ。 (4) ボルツマン定数を k とすると分子 1 個の平均運動エネルギー e は e = 32 kT と表される。これを利用して ∆t での温度変化 ∆T と体積変化 ∆V の関係を導け。この 関係式よりポアソンの関係式である。 TV 2 3 = 一定 が導かれる。 7 II 続いてポアソンの関係式を用いてこの気体がピストンのつり合いの位置から微少量 ∆V 変化したときのピストンの運動を調べたらピストンは単振動していた。ピストンの運動に よる気体の体積変化は十分小さく、内部の気体は常に熱平衡状態にあるとする。大気圧を P0 ,重力加速度を g として以下の問いに答えよ。 P0 ΔV S M V 断熱容器 (5) このときの内部の圧力を求めよ。 (6) 単振動の周期とはじめから ∆V 変化するときの内部エネルギーの変化を求めよ。 III つり合いの位置から手で持っていったん断熱材をはずし温度を T に保ったまま,体積 と熱容量,質量の無視できるプロペラをピストンに取り付け,ピストンを微小でない H の高さに静止させた。その後,再び断熱材でシリンダーを覆い静かに離すとピストンはつ り合いの位置から h の位置で静止した。 (7)h を H で表せ。 (東大改+京大改+創作問題) 8
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