雪国におけるICT技術を活用したマルチモーダル情報とビックデータ交通情報について 三上 1.はじめに 泰光*1 ○ABS 作動地点マップ(図4) 青森市は、冬期の渋滞・公共交通機関の遅延や運休な 急制動(ABS)が発生した地点の月別累計情報を赤い どが昔からの課題であり、市役所等に寄せられる除雪関 点で表示するシステムである。凍結抑制剤散布の効率化 係の苦情は年間数万件にも及ぶ。また、近年では、国道 等への活用の可能性を検証する。 279号の地吹雪による通行止め、玉突き多重事故によ る通行止めなどが多発し、市民の円滑な移動に支障を来 している。 本報告は、道路利用者が大雪時等でも安全・快適に移 動できるように ICT 技術を活用して、少しでも改善して いこうという社会実験の結果を報告するものである。 2.社会実験の内容 本社会実験は下記の示す2本の柱で構成されている。 ①ICT 技術を活用し、道路情報と公共交通情報等を一元化 したマルチモーダル情報を市民に提供。 ②ビックデータの解析情報を除雪作業補助情報として各 図1.マルチモーダルシステム構造図 道路管理者に提供。 2.1,マルチモーダル情報(図1) 全国初の試みとして、パソコン・携帯電話・スマート フォン等の様々なツールを活用し、道路情報のほかに公 共交通情報等(電車・バス・飛行機等)を一元的に提供 する(システム: 「あおもり交通情報」)。これにより、今 まで煩雑だった交通機関等の情報収集が円滑になり、代 替交通の選択や出発時間の調整など、スムーズな移動の 切り札となることを期待するものである。 2.2,ビックデータ(図2~図4) 図2.プローブ VICS 合体データ 青森市内の除排雪作業・凍結抑制剤散布などは国・県・ 市の各道路管理者の連携を図るため、ビックデータ交通 情報サービスのプローブ解析情報や ABS 作動情報を各道 路管理者が同時に活用することによって、除排雪作業等 が効率的に行われることを期待するものである。 ○プローブ情報(図2) プローブ車両の走行状況をもとに、渋滞情報を色別 (赤:渋滞、黄:混雑、青:順調)で表示する。情報量 図3.通れた道マップ が少なく幅広く情報サービスを提供することから交通管 理者間と調整を行い VICS 情報の表示も同時に行った。 ○通れた道マップ(図3) プローブ解析情報を元に過去24時間の通行実績(通 れた道マップ)を表示するシステムである。通常の除排 雪作業には活用できないが、交通マヒが起こるような大 雪時等における通行状況への活用の必要性を検証する。 図4.ABS 作動地点マップ *1 国土交通省 東北地方整備局 青森河川国道事務所 調査第二課 3.効果の検証(アクセス・アンケート集計結果) 大雪時等の移動の際、どのような情報が必要だと思いますか?(複数回答) 気象情報 3.1,マルチモーダル情報 運行・運航情報 乗り継ぎ情報 目的地の情報 その他 3.9% 3.1.1,利用状況について 市民 60.9% 56.5% 14.7% 23.5% 612 期間中の一日あたりの平均アクセス数は343件であ るが、これを大きく超える日が何日かみられる。600 Web 76.2% 76.2% 32.7% 16.8% 101 48.5% 件を超える日は注意報が出されるような悪天候に見舞わ れ、公共交通機関の運行・運航の遅れや運休が生じてお 6.7% 交通事業者 46.7% 86.7% 33.3% 46.7% り、ユーザーが移動する際に有効なツールとして利用さ れたことが推測される。 計 5.6% 公安委員会・ 道路管理者 パソコン 携帯 15 72.2% 88.9% 22.2% 18 スマートフォン 図9.大雪時の移動の際、必要とする情報について 1600 体験PRイベント初日 1400 大雪注意報 風雪注意報 パソコン 1200 1000 大雪注意報 大雪注意報 風雪注意報 大雪・風雪注意報 風雪注意報 800 600 400 2月27日 2月24日 2月21日 2月18日 2月15日 2月9日 2月12日 2月6日 2月3日 1月31日 1月28日 1月25日 1月22日 1月19日 1月16日 1月13日 1月7日 1月10日 1月4日 1月1日 12月29日 12月26日 12月23日 12月20日 12月17日 12月14日 0 12月11日 200 携帯 スマートフォン 15,000 14,000 13,000 12,000 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 図5.日毎のアクセス数(12月~2月) 3.1.2,交通情報集約化の必要性について 図10.コンテンツ毎のアクセス数(12月~2月累計) 「通年で必要と思う」と「冬場のみ必要と思う」の合 計は、市民が91%、Web は100%、交通事業者は74%、 3.2,ビックデータ 公安委員会・道路管理者は83%となり、集約化に対す 3.2.1,活用状況 る高い必要性が伺える。 プローブ情報での日常的な道路渋滞区間の監視や除 交通情報の集約化は必要だと思いますか? 通年で必要と思う 冬場のみ必要と思う よくわからない 排雪後の渋滞状況の監視、事故情報との関連性を確認す 必要と思わない 3.4% 市民 65.1% 26.0% 5.4% 611 9.9% 101 るため ABS 情報との相互比較等を中心に活用している。 問題となる道路箇所を事前に監視、発見することで、 交通事故・障害を未然に防止する対策を取る際の有益な Web 90.1% 交通事業者 66.7% 6.7% 26.7% 15 ツールとなることから、今後の必要性に関するアンケー ト結果では通年あるいは冬場に「必要と思う」が53% となっており、今後の活用が期待できる。 公安委員会・ 道路管理者 72.2% 0% 20% 40% 11.1% 60% 80% 16.7% 18 100% 道路維持管理上、ビックデータ交通情報サービスは、今後も必要だと思いますか? 通年で必要と思う 冬場のみ必要と思う よくわからない 必要と思わない 図6.交通情報の集約化の必要性について 11.8% 29.4% 3.1.3,大雪時等の移動に必要とする情報について 大雪時の移動の際、必要と思う情報は、 「運行・運航情 53% 35.3% 報」、 「気象情報」となっており、特に「運行・運航情報」 を一部配信する業務と関わっている交通事業者や公安委 員会・道路管理者は高い割合となっている。コンテンツ 毎のアクセス数では、鉄道・バス・車が多くなっており、 日常の移動手段に関する情報が求められている。 23.5% 17 N=17 図11.ビックデータ交通情報の必要性に ついて(公安委員会・道路管理者) 今回の社会実験の取り組みを、どのように評価しますか? 3.2.2,活用可能性 よい取り組み よくわからない 無駄な取り組み 大雪時の有効コンテンツとしては、「プローブ交通情 報」、「通行実績」、「ABS 作動地点マップ」の順番であり、 0.2% 85.3% 市民 14.5% 612 特に公安委員会・道路管理者は61%が「プローブ交通 情報」と「通行実績」であり有効コンテンツと見ている。 大雪時等に有効と思えるコンテンツは何ですか?(複数回答) プローブ交通情報 通行実績 73.3% 交通事業者 公安委員会・ 道路管理者 ABS作動地点マップ 83.3% 0% 69.9% 市民 38.7% 24.8% 26.7% 20% 15 18 16.7% 40% 60% 80% 100% 図14.社会実験に対する評価 612 3.3.2,今後の必要性 「必要と思う」が比較的多い。今後も継続的な発信を 公安委員会・ 道路管理者 61.1% 61.1% 38.9% 18 期待する回答が多く、情報が届きにくい市民の期待が高 いことは、市民のニーズに適合した取組であると考えら れる。 今回の社会実験の取り組みは、今後も必要だと思いますか? 図12.大雪時等に有効と思えるコンテンツについて 必要と思う よくわからない 必要と思わない 0.8% 3.2.3,災害時における活用可能性 88.9% 市民 10.3% 611 市民は「利用する」が68%であるが、公安委員会・ 道路管理者は「よくわからない」と「利用しない」を合 交通事業者 66.7% 33.3% 15 公安委員会・ 道路管理者 66.7% 33.3% 18 わせると72%となっており、反対の傾向となった。 「デ ータが少ないため他社との連携が必要」「ABS のデータも リアルタイムや過去のデータもみたい」など業務に役立 ったという実体験が少なかった事が理由と考えられる。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図15.社会実験の必要性 災害時の移動の際、通行実績を利用しますか? 利用する よくわからない 4.課題と今後の展開 利用しない 4.1,マルチモーダル情報に関する課題 67.5% 市民 23.1% 9.3% 612 4.1.1,広報の強化 「あおもり交通情報」を知っていた割合が、特に市民 では16%と低く、充分な期間、事前の広報を実施でき なかったことが主な要因であると考えられる。市民向け 公安委員会・ 道路管理者 27.8% 55.6% 72.3% 16.7% 18 の体験 PR イベント実施後、複数メディアからの取材も あり、新聞、TV などのマスメディアにも取り上げられ 図13.災害時の通行実績の利用について 3.3,社会実験の評価 たが、今後も、広報リーフレット等を広く配布し、メデ ィアを通じて社会実験の成果の一部を紹介するなど、積 極的・効果的な広報活動を継続する必要がある。 3.3.1,社会実験の取り組みへの評価 知っていた 知らなかった 「良い取り組み」が多く、高い評価を得ている。主な 意見としては、 「土地にあった情報等が分かり便利」、 「青 森は雪が多くバスの通学が大変なので時間がわかるのが 市民 16.3% 612 83.7% Web 79.2% 101 20.8% 便利」、「出かける前に調べられるので利用したい」、「前 もっていろんな情報があると便利」、「データが少ないの 交通事業者 46.7% 15 53.3% は否めないが、取組自体は将来の維持管理に役立つと思 う」、「便利な機能だと思うが、道路維持管理はこれらに 頼るものではない気がする。ただし、通行止め等が生じ る災害時は、有効に活用すべきである」などがあった。 公安委員会・ 道路管理者 83.3% 0% 20% 40% 16.7% 60% 80% 18 100% 図16. 「あおもり交通情報」の認知度 4.1.2,一次情報の充実 またそれと同時に、プローブ情報を収集する要とも言 大雪時等の移動の際、必要と思う情報は、「運行・運 える、通信機能を持つ車載用カーナビを民間普及させる 航情報」、「気象情報」となっているが、鉄道・バスに べく補助制度の導入やバスプローブ活用政策等につい おいて、Web 上で「運行・運航情報」を提供している交 て検討がなされる必要があると考える。 通事業者は、鉄道:2/4社、バス:3/7社と多くは ない。また、軽微な遅れを含め Web 上でリアルタイムに 4.2.2,必要情報 情報提供している交通事業者はほとんどいない。マルチ 具体的な除雪あるいは凍結剤散布等の作業を行うか モーダル情報の完全性は、参照している一次情報源の充 どうかの判断をする場合、監視カメラと巡回による確認 実性や更新頻度に依存しているため、地元交通事業者へ 作業が必要となることがわかった。ビックデータの補助 の支援を検討していく必要がある。 情報として、定点監視カメラよる現場の映像情報は不可 欠と考える。また、道路管理者向けには、気象情報や天 4.1.3,サービス・機能の充実 気予報情報も、路面状況の把握・推測や除排雪車の出動 充実して欲しいサービス・機能として、交通情報に関 時の補助情報となるものと考える。 連する「市営バスのリアルタイムの走行情報」等の他、 気象情報に関連した「路面凍結しやすい場所表示」等の 4.2.3,サービス・機能の充実 ように、現在、参照・集約化を行なっている一次情報自 試験提供されたビックデータ交通情報では、ABS 作動 身の改良を要するものや、新たな情報ソースの組み込み 地点マップが月単位で蓄積されたものが表示されてお を要するものが多く見られた。これらについては、一次 り、ABS 作動した原因として、背景にどのような道路交 情報を配信する機関との連携や、参照情報の見直し等を 通状況にあったのか特定が困難なこともあり、よりリア 行い、着手可能なものについては対応していく必要があ ルタイムに近い時間間隔でのデータ表示が必要である。 る。その他に、ユーザーが利用したい情報に関して、更 また、プローブ交通情報や通行実績の時点データを、ユ 新の通知がメール配信される機能や、スマートフォン用 ーザーが任意で保存し、後日、比較・分析のため参照で のアプリ化、利用者からの情報(ツイッター)の活用等 きる機能が望まれるところである。蓄積データの分析に について提案があり、これらの中で技術的に対応が可能 よりヒヤリハット箇所として「走行上の危険箇所」等の な機能の追加については、利用者の利便性を高めること 事前周知には有効性があると考えられる。 を念頭に開発を検討していく必要がある。 交通情報 気象情報 情報配信機能 代替交通機関 アプリ化 その他 4.3,今後の展開 マルチモーダルの社会実験では、交通情報の集約化の 必要性・有効性が確認され、来年度以降における事業の Web 25.0% 15.6% 14.1% 9.4% 9.4% 26.5% 継続を希望する声が多く寄せられた。さらに、アンケー トで寄せられたニーズに対して、提供コンテンツの機能 ※その他の主な意見 ・ツイッターなどの情報(現場にいる人からの最新情報) ・観光情報、外国語サービス、フリーパス等のお得な切符情報 ・twitter/facebook など。 図17. 「今後、どのようなサービス・機能があ ればよいと思いますか?」 の改良や追加の検討も必要である。また、交通情報の集 約化に対するニーズは高く、マスメディア等を積極的に 活用し幅広い広報活動を展開しながら、県内の市町村へ も協力・働きかけを行っていく必要があると考える。ま た、システムを維持管理していく体制の構築を急ぐ必要 があることから、関係機関を含めて WG 等を開催し、継 4.2,ビックデータに関する課題 続可能な維持管理体制を構築し確立していくことが重 4.2.1,プローブ量 要と考える。 本格実施に向けた改善点に関しては、プローブデータ ビックデータの社会実験では、単一民間メーカの情報 量の不足について多く述べられている。単一民間メーカ が少なくプローブ情報量の絶対的な不足は否めなかっ の情報のみでは、地方レベルの広域の交通を把握する情 た。今回は VICS 情報も活用したが、ビックデータとし 報量としては不十分なため、VICS 情報、主要自動車メー てのプローブ情報、通行実績、ABS 作動地点マップなど カが提供する民間プローブとの連携や、今後、一般道へ の活用に向けて更なる検討が必要となった。 の設置が進んでいくと思われる ITS スポットで収集され る ITS プローブ情報等との連携が必要である。
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