(31) y形溶接割れ試験

(31)
y形溶接割れ試験
<概要>
y形溶接割れ試験は、溶接部の低温割れ感受性を調べる試験です。開先溶接の中では最も応力
が集中する初層溶接を模擬した開先形状の試験板を溶接し、拡散性水素が十分拡散する期間(炭
素鋼では 48 時間)以上の経過後に、割れの検査を行います。JIS Z 3158(y形溶接割れ試験方
法)では、表面割れ率、ルート割れ率、断面割れ率を求めて評価します。
なお、試験板の予熱温度および溶接環境(温度・湿度制御ルーム)の条件を変えることで、割れ
停止予熱温度などが求められます。
<適用対象>
・炭素鋼、特殊鋼(低合金鋼、高張力鋼、低温用鋼など)の溶接部(溶接熱影響部および溶
接金属)
<試験項目>
・溶接部の低温割れ感受性
<適用例>
・HT490 級鋼溶接部の低温割れ感受性調査
・HT780 級鋼溶接部の低温割れ感受性調査
・耐熱鋼溶接部の低温割れ感受性調査
・1.5 %Ni 低温用鋼溶接部の低温割れ感受性調査
A-A'
200
60゜
試験溶接
t/2
拘束溶接
t/2
A
B
g
150
A'
60
80
B'
B-B'
60
ルート割れ率
(%)
〔y形溶接割れ試験板の形状・寸法〕
鋼板の初温
(℃)
〔HT780 級鋼被覆アーク溶接部の割れ試験〕
シングルビード
(32)
バレストレイン試験
<概要>
バレストレイン試験(Varestraint:可変拘束試験)は、高温時に発生する溶接割れ感受性を調
べる試験の一つです。この試験は、TIG溶接トーチで溶融中の試験板に瞬間的に曲げ変形を
加えて溶融ビードに高温割れを強制的に発生させる試験であり、凝固割れ、再加熱による液化
割れを区分して評価できます。溶接材料の耐割れ性比較や溶接条件の選定に用いられますが、
ジグの曲げ半径(ひずみ量)を変えたり試験片の割れ温度域を測定することで、割れを定量的
に評価することができます。
<適用対象>
・炭素鋼、特殊鋼(低合金鋼、ステンレス鋼など)の溶接部(溶接金属および溶接熱影響部)
・非鉄金属(ニッケル合金など)の溶接部
<試験項目>
・溶接部の高温割れ感受性
<適用例>
・オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属の高温割れ感受性調査
・ニッケル合金溶接金属の高温割れ感受性調査
・炭素鋼溶接金属の高温割れ感受性調査
ジグ
〔バレストレイン試験の概要〕
〔バレストレイン試験機〕
〔炭素鋼サブマージアーク溶接金属の凝固割れぜい化特性〕
(33)
溶接ヒュームの測定
<概要>
溶接ヒュームは粉じんの一種であり、溶接アーク中で蒸気となった金属が冷却過程中に酸素と
結びつき微細な金属酸化物となったものです。その発生量を、ハイボリューム・エアサンプラ
ー(1.5 m3 / 分)を使用した全量捕集法(JIS Z 3930)に従って測定します。すなわち、内容積
0.32 m3 のヒューム捕集箱の中で、手溶接棒又は溶接ワイヤ固定の下向ビードオン・プレート溶
接を行い、その際発生するヒュームをろ紙(ガラス繊維製)上に全量捕集して、時間当たり又は
消費溶接材料量当たりのヒューム発生量を求めます。
また、上記方法でろ紙上に捕集した各種溶接ヒュームの化学分析も、JIS Z 3920「溶接ヒューム
分析方法」などに基づき行えます。
<適用対象>
・溶接材料
<測定項目>
・単位時間当たりのヒューム発生量測定(mg/min)
・消費溶接材料量当たりのヒューム発生量測定(mg/g)
・溶接ヒューム中の各種成分の化学分析
<適用例>
・マグ・ミグ溶接ワイヤのヒューム発生量測定
・被覆アーク溶接棒のヒューム発生量測定
・TIG 溶接ワイヤのヒューム発生量測定
・マグ溶接でシールドガス組成とヒューム発生量の関係調査
・各種溶接材料のヒューム分析
(Fe2O3、Si02、MnO、TiO2、Al2O3、Na2O、K2O、F、NiO、Cr2O3、CuO、PbO、ZnO など)
〔アーク溶接用ヒューム捕集箱〕
〔低ヒューム溶接棒のヒューム発生量測定〕
(34)
溶接スパッタの測定
<概要>
溶接スパッタは、溶接棒や溶接ワイヤの端部および溶融池から飛散する溶融金属の微粒子です。ス
パッタ発生量の測定は、JIS などの規格がないことから各種の測定方法が行われていますが、一般に
は、「アーク点から飛散したスパッタを捕集箱で集める方法」で測定します。すなわち、下向ビー
ドオン・プレート溶接を行い、その際に発生するスパッタを周囲に設置された銅製の捕集箱で集め
て質量を計測し、単位時間当たり又は消費溶接材料量当たりのスパッタ発生量を求めます。また、
上記方法で捕集したスパッタの粒度分布測定もできます。
<適用対象>
・溶接材料
・溶接機
<測定項目>
・単位時間当たりのスパッタ発生量(mg/min)
・消費溶接材料量当たりのスパッタ発生量(mg/g)
・溶接スパッタの粒度分布
<適用例>
・マグ・ミグ溶接ワイヤのスパッタ発生量測定
・被覆アーク溶接棒のスパッタ発生量測定
・マグ・ミグ溶接機のスパッタ発生量測定
・マグ溶接でシールドガス組成とスパッタ発生量の関係調査
・マグ溶接で鋼板表面状態(スパッタ付着防止材の有無など)とスパッタ発生量の関係調査
トーチ
捕集箱
25 t
ワイヤ径:1.2 mmφ
シールドガス:Ar+20 %CO2
l=450
スパッタ
60 w
試験板
鋼板寸法:25t×60w×450l(mm)
〔スパッタ捕集装置〕
〔スパッタ発生量に及ぼす溶接電流の影響調査〕
(35)
溶接ひずみ・残留応力測定
<概要>
動ひずみや残留応力などを測定します。動ひずみを測定する場合は、試料にゲージやセンサを
取付けた状態で溶接や試験を行い、時間とともに変化するひずみ量を測定します。計測機器と
しては、デジタルロガーを使用します。
残留応力を測定する方法としては、ひずみゲージ法と X 線残留応力測定法があります。
ひずみゲージ法は、まず試料の測定したい箇所にゲージを貼付けます。ゲージ貼付けが完了後、
ゲージの周囲を切断する前後でのひずみ量の差を測定し、材料特性(ヤング率・ポアソン比)
を元に試料に残留していた応力を求めます。
X 線残留応力測定法は、測定箇所に X 線を照射し、回折した X 線を検出することで、ひずみ・残
留応力を測定します。
<測定対象>
・溶接継手
・機械試験片
・金属材料・部材全般
<測定項目>
・溶接ひずみ
・残留応力
<測定例>
・アルミニウム溶接継手の溶接中の動ひずみ
・炭素鋼管溶接継手の残留応力
・アルミニウム FSW 継手の残留応力
・引張試験片の動ひずみ
・ステンレス鋼曲げ管の残留応力
<保有機器の主な仕様>
・National Instruments 製データロガー SCXI1121+LabVIEW(動ひずみ用)
・共和電業製データロガー UCAM-65A(ひずみゲージ法、静ひずみ用)
・リガク製 X 線応力測定装置 PSPC/MSF-3M
200
300
溶接のまま
ショット加工後
150
ビード並行方向
ビード直角方向
200
50
0
-50
溶接金属部
-100
熱影響部
残留応力(MPa)
残留応力(MPa)
100
100
0
-100
ビード
-200
-150
-200
15 40
10
-300
-250
20
-400
-300
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
ビード止端部からの距離(mm)
〔X線残留応力測定結果 ショットピーニングと残留応力の関係〕
5
0
5
10
15
20
25
30
35
ビード止端部からの距離(mm)
40
〔ひずみゲージ法測定結果 止端部の残留応力〕
45
(36)
溶接シミュレーション
<概要>
溶接時の伝熱・変形・残留応力などを有限要素法(FEM)によってシミュレーションします。弊
社では Quick Welder というシミュレーションソフトを使用しています。溶接電流・アーク電圧
・溶接速度・パス間温度等をそのままパラメータとして入れることができるので、条件設定が
しやすいのが特長です。簡易的な形状であればごく短時間で解析でき、また、粗いメッシュで
も比較的精度良い結果が得られます。
<解析対象>
・溶接継手
<解析項目>
・温度履歴・分布
・冷却速度・冷却時間
・溶接変形
・残留応力
<測定例>
・CO2 溶接継手の伝熱・変形解析
・エレクトロガスアーク溶接(SEG アーク法)の伝熱解析
・プーリ溶接部材の伝熱・変形・残留応力解析
・薄鋼板アーク溶接継手の伝熱・残留応力解析
・電子ビーム溶接継手の伝熱・変形・残留応力解析
<保有器機の主な仕様>
・Quick Welder
要素数 約 30,000 以内。
(株)計算力学研究センター製
〔T継手すみ肉溶接の伝熱・変形解析〕
横断面温度分布
〔赤線は横板板厚中央ラインの温度分布〕