新・地方自治ニュース 2010 No.22 (2011 年 2 月 25 日) 2011 年地方行財政の課題④「不動産投資と地方経済 ~キャピタルゲイン期待の限界~」 2011 年の地方財政と金融との関係で留意すべき点は、第1は、地方自治体の財政規律確保の問題 が挙げられる。地方銀行、信用金庫等地域金融機関からの低利融資資金の確保が金融機関間競争の激 化により従来以上に可能となり、加えて交付金等国からの財政資金の供給拡大で地方自治体の足元の 資金繰りは総じて潤沢な状況にある。このことが財政規律の緩みを増幅させる要因となる。第2は、 第三セクター等地方自治体の外郭組織の経営財務問題の顕在化である。4月の統一地方選まで先送り してきた第三セクターや公社等の経営財務問題が 2013 年度の三セク債発行期限到来や住民訴訟活発 化などで、2011 年度にさらに顕在化し、外郭組織の破綻整理議論が再度表面化せざるを得ない。そ のことは、地方財政と地域金融間のリスク関係に全国的に影響を与え、地方債改革議論にも結び付く 要因となる。第3は、地域金融機関の資金運用は、業態上、地元地方自治体に傾斜せざるを得ず、金 融的に特定の地域への資金運用のリスクが高まりそれへの対処が必要となることである。 第三セクター等の経営財務問題と地域への資金運用リスク拡大の大きな原因として、1990 年代の バブル経済崩壊やリーマンショックに伴う負の資産の歪みが最終的に公的セクターに凝縮され、地方 債残高の増加に伴う将来負担の悪化、そして公的資産の含み損の拡大を生じさせていることが指摘で きる。特に、観光施設、土地開発・住宅関係等不動産投資と関連した事業において顕在化する。日本 の投資不動産規模は、依然として世界第3位の規模にある。米国が約 700 兆円規模、中国が約 430 兆円規模、そして日本が 200 兆円強の規模と推計され、経済の構造的問題を抱えながらも投資対象と しての日本不動産の規模は依然として大きく無視できない存在である。問題は、投資不動産が東京に 偏在している点にある。例えば、賃貸オフィスビルの地域別シェアは東京圏が全体の 65%を占めてお り、東京だけでも 56%に達している。次が大阪圏(大阪・京都・神戸等)の 20%、名古屋圏に至っ ては6%程度にとどまっており、こうした東京圏へのシェア拡大はむしろ高まっている。こうした傾 向は、訪日外国人の訪問率が 60%と最も高い東京のホテル稼働率の上昇とそれに伴うホテル投資の増 加等幅広い分野に及んでいる。 日本の不動産に対する投資資金は、大きく分けて欧米投資資金、国内の年金等の投資資金、そして アジア新興国を中心とする投資資金に分けられる。欧州の財政危機問題や不動産価格下落等の問題を 抱える欧米系の投資ファンド資金の対日投資余力は限定的となっており、日本国内のファンドも年金 資金等の成熟化により投資余力を大きく落とす段階に入っている。唯一、今後も投資余力を拡大させ るのがアジア系投資ファンドであり、中国系に加え、マレーシア系、韓国系、シンガポール系等の投 資資金が活発化している。その投資範囲は、オフィスビルやホテルにとどまらず、企業の本社ビルや 老人ホーム等にも拡大している。今後、アジア系ファンドの投資戦略が日本の不動産動向に大きな影 響を与えざるを得ない。不動産投資を判断する重要な要素となるトータルリターンは、キャピタルゲ イン(不動産価格上昇益)とインカムゲイン(賃料等運用収益)で構成され、キャピタルゲインを期 待できる地域はかなり限定的となり、第三セクターのストック面での含み損を解消すること困難な時 代に入っている。インカムゲインは経営モデルの良し悪しで大きく左右されることになる。第三セク ター等の運営においてもキャピタルゲインを潜在的にも期待するのではなく、事業モデルの転換や整 理等を意図した抜本的見直しが必要となる。 © 2010 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
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