対訳 - 名古屋市民コーラス

名古屋市民コーラス
2.歌詞対訳
《 》:マーラーによって付け加えられたか、詞句を変更された部分
【 】:マーラーが作曲しなかった部分
1.TEIL
第1部
Hymnus: “Veni, creator spiritus”
賛歌「来たれ、創造主たる聖霊よ」
伝 ラバヌス・マウルス
Rabanus
Maurus
P.3 No.0 - 6
Veni, creator spiritus,
Mentes tuorum visita;
来たれ!創造主なる聖霊よ!
あなたの民の心を訪れたまえ!
P.9 No.7 - 16
Imple superna gratia,
Quae tu creasti pectora.
天の恵みで満たしたまえ!
あなたの創りし民の心を。
Qui Paraclitus diceris,
Donum Dei altissimi,
Fons vivus, ignis, caritas,
Et spiritalis unctio.
慈悫深き主と呼ばれし御身、
至高なる神の賜物、
生命の泉・火・慈愛にして、
霊の聖油を注ぐ者よ。
《 Veni, creator~ 》
《 来たれ、創造主よ!~ 》
P.24 No.19 - 36
Infirma nostri corporis
Virtute firmans perpeti;
Accende lumen sensibus,
Infunde amorem cordibus.
われらが肉体の弱さを
絶えざる勇気で力づけたまえ。
我らの五感に光をともしたまえ。
我らの心に愛を注ぎたまえ。
P.36 No.37 - 41
《 Accende lumen sensibus,
Infunde amorem cordibus. 》
《 我らの五感に光をともしたまえ。
我らの心に愛を注ぎたまえ。》
P.43 No.42 - 51
Hostem repellas longius,
Pacemque dones protinus;
Ductore sic te praevio
Vitemus omne pessimum.
敵をより遠くに排斥したまえ。
そして絶えず平和を不えたまえ。
されば先行するあなたに導かれて、
我らはすべての悪を避けよう。
Tu septiformis munere,
Dexterae paternae digitus.
【Tu rite promissum Patris,
Sermone ditans guttura.】
御身は7つの贈り物により
御父の右手の指にまします。
【御父より約束された尊い者なる御身
人の喉に御言葉を豊かに不えたもう】
P.57 No.52 - 54
Per te sciamus da Patrem,
Noscamus 【atque】 Filium,
【Te utriusque】 spiritum
Credamus omni tempore.
御身によって我らは父なる神を知り、
子なる神キリストをも知らせたまえ。
【両位より出現した】 聖霊なる御身を
いつの時にも信ぜさせ給え。
名古屋市民コーラス
P.62 No.55 - 70
《 Accende lumen sensibus,
Infunde amorem cordibus.
Veni, creator spiritus.
Qui Paraclitus diceris,
Donum Dei altissimi. 》
《 我らの五感に光をともしたまえ。
我らの心に愛を注ぎたまえ。
来たれ!創造主なる聖霊よ!
慈悫深き主と呼ばれし御身よ、
至高なる神の賜物よ。》
P.79 No.71- 75 (soloのみ)
Da gaudiorum praemia,
Da gratiarum munera;
Dissolve litis vincula,
Adstringe pacis foedera.
喜びの賜物を不えたまえ、
恵みの贈り物を不えたまえ、
争いの結び目を解き、
平和の契約を堅く結びたまえ。
P.79 No.71 - 79
《 Pacemque dones protinus,
Ductore sic te praevio
Vitemus omne pessimum. 》
《 絶えず平和を不えたまえ、
されば先行するあなたに導かれて、
我らはすべての悪を避けよう。》
P.90 No.83 - 92
Gloria Patri Domino,
Natoque, qui a mortuis
Surrexit, ac Paraclito
In saeculorum saecula.
主なる父に栄光あれ、
死者の中からよみがえった息子に、
そして聖霊に栄光あれ。
千代に渡って栄光あれ。
2.TEIL
第2部
Schlußszene aus „Faust“
Letzte Szene aus dem zweiten Teil
von Goethes Faust
ゲーテ『ファウスト』
第2部「山峡」から終幕の場
ゲーテ
Johann Wolfgang von Goethe
=直前までのあらすじ=
知識の無力に絶望した学者ファウストは、悪魔メフィストテレスに出会い、悪魔の力を借りて最高の満足を得ること
ができたら魂を渡すという契約をする。
悪魔はまず官能的享楽の追求にファウストを導いた。結果としてファウストは、一途に自分を愛する少女グレート
ヒェンを誘惑し、嬰児殺しへと転落させてしまう(第1部)。
反省したファウストは宮廷に入り、皇帝の信頼を得る。美を追求し、冥界から呼び出したギリシャの美女ヘレナを得
るが、もうけた子は戦いに身を投じて死に、悲しみに沈んだヘレナは再び冥界に去る(第2部1-3幕)。
彼はついで社会のための創造的活動に意義を認め、海岸沿いの不毛の地を干拓し、繁栄させる。「自由な土地に
自由な民と共に住む」という理想に満足を感じたとき、彼は契約通り死に、魂を悪魔に渡す。しかしファウストの達し
た境地は、悪魔の誘惑にも関わらず天の理想に相通じるものであった(第1部序曲)ので、主は天使を遣わした。
天使の撒くバラの花は悪魔の身を焼き、ファウストは天に救い出される(第2部4-5幕)。
P.104 No.0 - 23
[ Inetrumental-Einleitung ]
P.110 No.24
[ 管弦楽導入部 ]
Bergschluchten, Wald, Fels, Einöde.
山峡 森と岩と荒野と
聖なる隠者たち、山の上へ向かって岩の間に
Heilige Anachoreten gebirgauf verteilt,
gelagert zwischen Klüften.
分かれ分かれに座を占めている。
名古屋市民コーラス
(Ⅰ+Ⅱchor)P.110 No.24 - 31
Chor und Echo
Waldung, sie schwankt heran,
Felsen, sie lasten dran,
Wurzeln, sie klammern an,
Stamm dicht an Stamm hinan.
Woge nach Woge spritzt,
Höhle, die tiefste, schützt.
Löwen, sie schleichen stumm,
Freundlich um uns herum,
Ehren geweihten Ort,
Heiligen Liebeshort.
合唱と木魂(こだま)
木立は揺らぎ寄り、
岩は重く寄りかかり、
木の根は絡みつき、
幹は幹に接せり。
谷川はしぶきを上げ、
深き岩屋は奥暗し。
獅子は黙して、我らが周囲を
やさしくめぐり歩き、
聖(きよ)らなるこの場所を、
清浄なる愛の棲み家を護りぬ。
(ソロ)P.115 No.32 - 36
Pater Ecstaticus
( auf und abschwebend: )
Ewiger Wonnebrand,
Glühendes Liebesband,
Siedender Schmerz der Brust,
Schäumende Gotteslust.
Pfeile, durchdringet mich,
Lanzen, bezwinget mich,
Keulen, zerschmettert mich,
Blitze, durchwettert mich;
Daß ja das Nichtige
Alles verflüchtige,
Glänze der Dauerstern,
Ewiger Liebe Kern!
恍惚境にある神父
(昇りつつ下りつつ)
永遠なる歓楽の炎、
燃ゆる愛の絆、
胸裡に沸き立つ苦悩、
泡立つ神の快楽!
矢は我を射よ、
槍は我を貫け、
杖は我を砕け、
雷火は我を焼け!
仇なるものはみな
吹き散らせ。
永遠の愛の核心たる
永劫の星を輝かしめよ!
(ソロ)P.117 No.39 - 53
Pater Profundus
沈思する教父
(深き所にて)
( tiefe Region: )
深き谷底にて重々しく、
Wie Felsenabgrund mir zu Füßen
わが足許の岩の壁の坐れるが如く、
Auf tiefem Abgrund lastend ruht,
百千の小川の煌めき流れつ、
Wie tausend Bäche strahlend fließen
しぶきを上ぐる滝となるが如く、
Zum grausen Sturz des Schaums der
Flut,strack, mit eig'nem kräft'gen Triebe,
自らの強き力もて、
Wie
幹は直ぐに伸び立てる如く、
Der Stamm sich in die Lüfte trägt;
万能なる愛は、すべてのものを創り成し、
So ist es die allmächt'ge Liebe,
なべてのものを抱きはぐくむ。
Die alles bildet, alles hegt.
Ist um mich her ein wildes Brausen,
Als wogte Wald und Felsengrund,
Und doch stürzt, liebevoll im Sausen,
Die Wasserfülle sich zum Schlund,
Berufen gleich das Tal zu wässern:
Der Blitz, der flammend niederschlug,
Die Atmosphäre zu verbessern,
Die Gift und Dunst im Busen trug!
森も岩根も揺れんばかりに
わが身をめぐりて水音すさまじけれど、
立ち騒ぎつつも優しく、
谷間に水を送らんとして、
水は豊かにたぎり落ちたり。
瘴気(しょうき)を孕める下界の靄(もや)を
浄らかならしめんため、
雷火は閃き落ちかかる。
名古屋市民コーラス
Sind Liebesboten, sie verkünden,
Was ewig schaffend uns umwallt.
Mein Inn'res mög' es auch entzünden,
Wo sich der Geist, verworren, kalt,
Verquält in stumpfer Sinne Schranken,
Scharf angeschloss'nem Kettenschmerz.
O Gott! beschwichtige die Gedanken,
Erleuchte mein bedürftig Herz!
我らを囲み、永遠に創造する力を、
愛の御使は告げ知らしむるなり。
鈍き官能の縛(いまし)めに苦しみ、
苦痛の厳しき鎖につながれ、
惑乱し冷やかなる心の宿れる、
わが胸のうちに愛の火を点ぜよ。
神よ、雑念を去らしめ、
わが貧しき心を照らしたまえ!
※以下の「天使めく神父」と「昇天した少年たちの合唱」は作曲者がカット
天使めく神父
(中ほどの高みにて)
樅の揺らめく葉蔭越しに、
暁の雲が一片漂っているが、あれはなんだろう。
あの雲の中にいるのは何者だろうか。
幼い霊の群らしい。
昇天した少年たち(*)の合唱
お父さん、僕たちはどこを漂っているのでしょうか。
僕たちは一体どうなってしまったのでしょう。
僕たちは幸せですね。だって
誰でもほんとに楽に生きていられますもの。
天使めく神父
尐年たちよ、真夜中に生まれ、
心も官能も半ば醒めただけで、
早く両親に死に別れ、
今、天使に迎え取られる子供たちよ。
お前たちを慈しむ者が一人、
ここにいるのがわかるだろう。さあ、こっちへおいで。
しかしお前たちは幸せ者だ、
世間の艱難(かんなん)を尐しも知らずにきたのだから。
この世で大層役に立つ、わたしのこの、
眼の中へ降りておいで、
この眼を借りて、
まあ、この辺りの様子を見てごらん。
(少年たちを自分の中へ容れる)
これが木で、あれが岩だ。
あれは、たぎり落ちて、
すさまじい瀬になって、
険しい道を縮めてしまう清水の流れだ。
昇天した少年たち
(内部から)
大変な眺めですね。
それでも、この辺はあんまり陰気で、
なんだか恐くてびくびくしてしまいます。
気高いお方、どこかへ行かせてくださいな。
天使めく神父
次第に高い所へ昇っていくがよい。
永遠に浄らかなやり方で、
神が見守っていて下さるのだから、
知らないうちに大きくなって行くがよい。
この広大な大気の中にあるものが、
霊たちの食べ物なのだ。
また至福の境地へひらけ行くべき
永遠なる愛の啓示なのだ。
*昇天した尐年たち・・・生後すぐに死んだ子供たちで、現世では罪を犯していないため昇天
名古屋市民コーラス
(Ⅰ+Ⅱchor 女声)P.125 No.56 - 60
Chor der Engel
天使
(Schwebend in der höheren Atmosphäre,
Faustens Unsterbliches tragend):
(ファウストの霊を捧げて、
一段と高い空中を舞い漂いつつ)
Gerettet ist das edle Glied
Der Geisterwelt vom Bösen:
Wer immer strebend sich bemüht,
Den können wir erlösen;
Und hat an ihm die Liebe gar
Von oben teilgenommen,
Begegnet ihm die sel'ge Schar
Mit herzlichem Willkommen.
霊の世界の気高い一員が
悪の手から救いとられました。
「絶えず努力して励む者を、
われらは救うことができる」
その上、この方には、
天上の愛が手を差しのべています。
神々しい群が、この人を
心から歓迎しています。
(少年少女)P.126 No.58 - 60
Chor Seliger Knaben
(um die höchsten Gipfel kreisend):
Hände verschlinget 《euch》
Freudig zum Ringverein,
Regt euch und singet
Heil'ge Gefühle drein!
Göttlich belehret,
Dürft ihr vertrauen;
Den ihr verehret,
Werdet ihr schauen.
昇天した少年たちの合唱
(山頂をめぐり飛びながら)
手に手をつないで、
たのしく輪を作って、
ぐるぐる回って、
尊い気持ちを歌に歌おう。
神の教えを受けて、
神にすべてをおまかせしよう。
やがて敬いまつる
神の御姿を拝するだろう。
(Ⅰchor 女声)P.128 No.63 - 73
Chor der Jüngeren Engel:
Jene Rosen, aus den Händen
Liebend-heil'ger Büßerinnen,
Halfen uns den Sieg gewinnen
Und das hohe Werk vollenden,
Diesen Seelenschatz erbeuten.
Böse wichen, als wir streuten,
Teufel flohen, als wir trafen.
Statt gewohnter Höllenstrafen
Fühlten Liebesqual die Geister;
Selbst der alte Satans-Meister
War von spitzer Pein durchdrungen.
Jauchzet auf! es ist gelungen.
若い天使たち
愛に溢れた神聖な贖罪の女たちの
手から授けられたあの薔薇の花が、
わたしたちを助けて勝たせてくれました。
この尊い魂をわがものにするという、
大きな仕事を成就させてくれました。
その薔薇の花を撒くと悪者は避け、
それをあててやると悪魔は逃げました。
いつもの地獄の刑罰の代わりに、
悪霊たちは愛の苦しみに悩まされました。
あの悪魔の頭株の年寄さえ、
体中に火ぶくれをこしらえて苦しみました。
全戦全勝です、大成功です。
(Ⅱchor 1,2グループ)P.135 No.76 - 80
Die Vollendeteren Engel (Chor mit Altsolo):
Uns bleibt ein Erdenrest
Zu tragen peinlich,
Und wär' er von Asbest,
Er ist nicht reinlich.
Wenn starke Geisteskraft
Die Elemente
An sich herangerafft,
やや成熟した天使たち (アルトソロと合唱)
地上の残滓(ざんし)を運ぶのは、
とても苦しくてたまりません。
それが石綿だったとしても
清浄ではありません。
逞しい精神力が
諸々の元素を
しっかりと集めて握っていると、
名古屋市民コーラス
Kein Engel trennte
Geeinte Zwienatur
Der innigen beiden;
Die ew'ge Liebe nur
Vermag's zu scheiden.
霊と肉とが緊密に結びついた
二重の体を分けることは、
天使にもできないのです。
永遠の愛だけが、
その二つを分けられるのです。
(Ⅰchor 女声)P.138 No.81 - 84
Die Jüngeren Engel:
《 Ich spür' soeben,
Nebelnd um Felsenhöh',
Ein Geisterleben.
Regend sich in der Näh'.
【Die Wölkchen werden klar.】
Seliger Knaben,
Seh' ich bewegte Schar.》
Los von der Erde Druck,
Im Kreis gesellt,
Die sich erlaben
Am neuen Lenz und Schmuck
Der obern Welt.
Sei er zum Anbeginn,
Steigendem Vollgewinn
Diesen gesellt!
若い天使たち
《 岩山のまわりに霧のようにたなびいて
近くを動いてやってくる
霊の気配を、
今私たちは感じ取っています。
【雲が透き通ってきて、】
幸せな子供たちの
賑やかな群が見えます。》
あの子たちは、下界の圧迫を免れて
寄り合って輪を描き、
天上の世界の
新たな春と装いを見て、
すっかり元気を取り戻しました。
この人も、まず最初は
この子供たちの仲間入りをして、
おいおいに最後の目標に到達すればいいのです。
(少年少女)P.141 No.85 - 88
Chor Seliger Knaben:
Freudig empfangen wir
Diesen im Puppenstand;
Also erlangen wir
Englisches Unterpfand.
Löset die Flokken los,
Die ihn umgeben!
Schon ist er schön und groß
Von heiligem Leben.
昇天した少年たち(の合唱)
僕たちは悦んで、
蛹(さなぎ)のようになっているこの方をお迎えします。
これでぼくたちは、
天使の託したものを受け取ったのです。
この方をくるんでいる
繭の綿毛を取り除きましょう。
神聖ないのちを享けて、
この方はもう大きく美しくなられました。
(ソロ)P.140 No.84 - 98
Doctor Marianus
(in der höchsten, reinlichsten Zelle):
Hier ist die Aussicht frei,
Der Geist erhoben.
Dort ziehen Frauen vorbei,
Schwebend nach oben;
Die Herrliche mittenin
Im Sternen kranze,
Die Himmelskönigin,
Ich seh's am Glanze!
(entzückt)
Höchste Herrscherin der Welt!
Lasse mich im blauen,
マリアを崇拝する学士
(最も高く清らかな岩窟で)
ここは見晴らしがよくて、
精神が高められる。
向こうを女の群が漂いながら
上の方へ進んで行く。
その真ん中に、星の冠をかぶった
立派なお方の姿がある。
あれは天界の女王だ、
輝きでそれと知られる。
(恍惚として)
世界を支配する至高の女王よ。
青い蒼穹(そうきゅう)の天幕のうちに、
名古屋市民コーラス
Ausgespannten Himmelszelt
Dein Geheimnis schauen!
Bill'ge, was des Mannes Brust
Ernst und zart beweget
Und mit heil'ger Liebeslust
Dir entgegen trägt!
御身の秘密を
窺(うかが)わしめよ。
男の心を、
厳かにも優しく動かし、
聖なる愛の悦びをもって
御身に向わしむるものを受け容れたまえ。
Unbezwinglich unser Mut,
Wenn du hehr gebietest;
Plötzlich mildert sich die Glut,
Wenn du uns befriedest.
あなたが気高くお命じになられると、
私たちの勇気は丌動のものになります。
私たちを満足させてくださると、
情熱も突如として柔らぎ和みます。
(Ⅰ+Ⅱchor)P.146 No.99 - 103
(Doctor Marianus und CHOR:)
Mutter, Ehren würdig,
Jungfrau, rein im schönsten Sinne,
Uns erwählte Königin,
Göttern ebenbürtig.
(マリア崇敬の博士と合唱)
こよなく美しき意味にて純潔なる処女よ、
ありがたきおん母よ、
われらの女王よ、
神々と肩を並べたもう女人よ。
P.149 No.106
(Mater Gloriosa schwebt einher)
(輝く聖母、漂い来たる)
※以下は作曲者がカット
軽やかな雲が、
あの方のまわりに漂っている。
あれは贖罪の女たちだ。
あの方のお膝を中に、
灝気(こうき)を吸いながら、
御恵みを仰ごうとする。
優しい人たちだ。
(Ⅰ+Ⅱchor)P.150 No.109 - 114
Chor:
Dir, der Unberührbaren,
ist es nicht benommen,
Daß die leicht Verführbaren
Traulich zu dir kommen.
In die Schwachheit hingerafft,
Sind sie schwer zu retten;
Wer zerreißt aus eig'ner Kraft
Der Gelüste Ketten?
Wie entgleitet schnell der Fuß
Schiefem, glattem Boden?
【Wen betört nicht Blick und Gruß,
Schmerichenlhafter Odem?】
合唱
触れるべからざるあなたにも、
誘惑にかかりやすい人たちが
親しくおすがり申すことは、
禁じられてはおりません。
弱さの故に罪を犯した
あの人たちを救うのは容易ではない。
自分で歓楽の鎖を
引き千切れる者がいようか。
斜めの、滑らかな床の上では、
つい足を滑らせてしまうものだ。
【秋波や世辞や媚(こび)ある息に
心を惑わされない者がいようか。】
(Ⅱchor sop)P.155 No.114 - 116
Chor der Büßerinnen
(und Una Poenitentium):
Du schwebst zu Höhen
Der ewigen Reiche,
贖罪の女たちの合唱
(と一人の告白する女⇒グレートヒェン)
永遠の境界の
高みを漂いきませる、
名古屋市民コーラス
Vernimmt das Flehen,
Du Gnadenreiche!
Du Ohnegleiche!
類(たぐい)なきおん方よ、
われらが願いを聴かせられたまえ、
御恵み深きおん方よ。
(ソロ)P.157 No.117 - 120
Magna Peccatrix (St. Lucae Vll, 36):
Bei der Liebe, die den Füßen
Deines gottverklärten Sohnes
Tränen ließ zum Balsam fließen,
Trotz des Pharisäer-Hohnes:
Beim Gefäße, das so reichlich
Tropfte Wohlgeruch hernieder,
Bei den Lokken, die so weichlich
Trockneten die heil'gen Glieder.
大いなる罪の女(*)(「ルカによる福音書」第7章36節)
パリサイ人の嘲りをものともせず、
神となられましたおん子のおみ足に、
香油ならぬ涙をお注ぎ申した
その愛にかけておすがり申しまする。
あれほど豊かな香気をしたたらせた
壺にかけて、また神聖なおからだを、
あんなに柔らかにお拭き申した
捲毛(まきげ)にかけておすがり申しまする---
*大いなる罪の女・・・マグダラのマリア
P.159 No.121 - 125
Mulier Samaritana (St. Joh. IV):
Bei dem Bronn, zu dem schon weiland
Abram ließ die Herde führen:
Bei dem Eimer, der dem Heiland
Kühl die Lippe durft' berühren;
Bei der reinen, reichen Quelle,
Die nun dorther sich ergießet,
Überflüssig, ewig helle,
Rings, durch alle Welten fließt -
サマリアの女(「ヨハネによる福音書」第4章)
その上、アブラハムが家畜を水飼いした、
泉にかけてお願い申し上げまする。
救世主の唇に涼しく触るることを許された
水甕(みずがめ)にかけておすがり申しまする。
今そこからこんこんと流れ出て、
永遠に澄んで世界中を流れる
清き豊かな
泉にかけて---
P.162 No.128 - 133
Maria Aegyptiaca (Acta Sanctorum):
Bei dem hochgeweihten Orte,
Wo den Herrn man niederließ,
Bei dem Arm, der von der Pforte,
Warnend mich zurükke stieß,
Bei der vierzigjähr'gen Buße,
Der ich treu in Wüsten blieb,
Bei dem sel'gen Scheidegruße,
Den im Sand ich niederschrieb -
エジプトのマリア(*)(『聖徒行状記』)
主をお坐らせ申した
ありがたい場所にかけて、
わたくしを叱って教会の入り口から
わたくしを突き戻した腕にかけて、
慎んで荒野で修した
40年の懺悔(ざんげ)の行(ぎょう)にかけて、
わたくしが砂に書き残した
殊勝な遺言にかけておすがり申しまする---
*エジプトのマリア・・・淫蕩な生活を送っていた彼女は、エルサレムの教会に入ろう
とすると眼に見えぬ手で付き戻され、罪業の深さを知り、ヨルダンの砂漠で40年
間(あるいは48年間)贖罪を続け、遺言を砂上に書いて死んだ。
P.164 No.136 - 147
Zu Drei:
Die du großen Sünderinnen
Deine Nähe nicht verweigerst,
Und ein büßendes Gewinnen
In die Ewigkeiten steigerst,
Gönn' auch dieser guten Seele,
Die sich einmal nur vergessen,
Die nicht ahnte, daß sie fehle
Dein Verzeihen angemessen!
3人ともどもに
罪深き女らを
却(しりぞ)けたまわず、
贖罪の功徳(くどく)を
永遠のものとしたもうおん身よ、
ふと吾を忘れしのみにて、
自らの罪過に気づかざりし
この善き魂にも
御赦(みゆる)しを賜りたまえ。
名古屋市民コーラス
P.170 No.149 - 152
Una Poenitentium
(sonst Gretchen genannt,sich anschmiegend) :
Neige, neige,
Du Ohnegleiche,
Du Strahlenreiche,
Dein Antlitz gnädig meinem Glück!
Der früh Geliebte,
Nicht mehr Getrübte,
Er kommt zurück.
贖罪の女のひとり
(かつてグレートヒェンと呼ばれし女、聖母にすがりつつ)
比べようのない聖母さま、
光明に溢れる聖母さま、
どうぞお恵み深くそのお顔をお向けあそばして、
わたくしの幸せをご覧くださいまし。
昔の恋人が、
今はもう濁りのない方が、
戻って参ったのでございます。
(少年少女・Ⅱchor sop) P.173 No.154 - 164
Selige Knaben
(in Kreisbewegung sich nähernd):
Er überwächst uns schon
An mächt'gen Gliedern,
Wird treuer Pflege Lohn
Reichlich erwidern.
Wir wurden früh entfernt
Von Lebechören;
Doch dieser hat gelernt,
Er wird uns lehren.
昇天した少年たち
(輪を描いて近寄りつつ)
もう手足もお伸びになって。
ぼくたちより大きくおなりです。
お世話した恩返しも
たっぷりしてくださるでしょう。
ぼくたちは幼い時分に、
地上の団居(まどい)から別れてしまいました。
けれどこのお方は修業を積まれたのです、
きっとぼくたちにお教えくださるでしょう。
P.177 No.164 - 170
Una Poenitentium
(Gretchen):
Vom edlen Geisterchor umgeben,
Wird sich der Neue kaum gewahr,
Er ahnet kaum das frische Leben,
So gleicht er schon der heil'gen Schar.
Sieh, wie er jedem Erdenbande
Der alten Hülle sich entrafft.
Und aus ätherischem Gewande
Hervortritt erste Jugendkraft!
Vergönne mir, ihn zu belehren!
Noch blendet ihn der neue Tag.
贖罪の女のひとり
(グレートヒェン)
気高い霊の合唱に取り囲まれて、
この方は自分で自分がおわかりにならないのです。
まだ新しい生命にお気づきにならないのです。
それでも尊い方々に似ていらっしゃいました。
ご覧なさいまし、地上の絆を一切断って、
そこから抜け出してしまわれて、
まとった霊気の衣の下からは、
若々しい新たな力を湧き出させていらっしゃいます。
あの方にお教えすることをお許しくださいまし。
新しい日の光をまだまだまばゆがっておいでです。
(Ⅰ+Ⅱchor) P.179 No.172 - 194
Mater Gloriosa (und Chor):
Komm! Hebe dich zu höhern Sphären!
Wenn er dich ahnet, folgt er nach.
輝ける聖母(と、合唱)
おいで、もっと高くお昇り。
お前だということがわかれば、ついていきます。
Doctor Marianus (und Chor)
マリアを崇拝する学士(と、合唱)
(auf dem Angesicht anbetend)
(伏して拝しつつ)
Blikket auf zum Retterblick,
Alle reuig Zarten,
Euch zu sel'gem Glück
Dankend umzuarten!
Werde jeder bess're Sinn
悔いを知れるなべての優しき者よ。
感謝しつつ己が性(さが)を変え、
清らけき福を得べく、
われらを救わせたもう御方を仰ぎ見よ。
心すぐなる者はみな、
名古屋市民コーラス
Dir zum Dienst erbötig;
Jungfrau, Mutter, Königin,
Göttin, bleibe gnädig!
おん身に仕えまつるべし。
処女よ、神母よ、天の女王よ、
女神よ、永く御恵深くおわしませ。
(Ⅰ+Ⅱchor) P.197 No.202 - 217
Chorus Mysticus:
Alles Vergängliche
Ist nur ein Gleichnis;
Das Unzulängliche,
Hier wird's Ereignis;
Das Unbeschreibliche,
Hier ist's getan;
Das Ewig-Weibliche
Zieht uns hinan.
神秘の合唱
すべて移ろい行くものは、
永遠なるものの比喩にすぎず。
かつて満たされざりしもの、
今ここに満たさる。
名状すべからざるもの、
ここに遂げられたり。
永遠にして女性的なるもの、
われらを牽(ひ)きて昇らしむ。
対訳:「ファウスト」高橋義孝訳(新潮文庫)より転載
※著作権のため、団内のみの使用とさせていただきます。
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参考サイト:
・「ラテン語宗教曲、単語の意味と日本語訳」伊藤啓氏
http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/music/musica_sacra.pdf