CMOS イメージセンサー のISO感度特性 11s1-072 鷲尾 圭介 1 目次 1.概要 2.理論 2-1.撮影の原理 2-2.明るさを決める設定 2-3.撮像素子 3.実験方法 3-1.使用機材 3-2.実験手順 3-2-1.撮影時の設定 3-2-2.画像処理 3-2-3.測光 3-3.目標天体 4.実験結果 5.考察 6.参考文献 7.謝辞 2 1,概要 近年では、天体写真の撮影にデジタル一眼レフカメラが用いられるようになった。その 撮像素子には CMOS と呼ばれるイメージセンサーが使われているが、このイメージセンサ ーには受光して発生する電気信号を増幅させるトランジスタが搭載されており、この増幅 させる量の目安となる ISO 感度という数値がある。この数値が 2 倍になると単純に増幅さ れる信号も 2 倍になるということだ。つまりカメラの露出時間を 2 倍にして受光量を 2 倍 にした時と同じ効果が期待できるが、これはメーカー純正の現像処理(カラー画像化)を行っ た場合において同じ階調に匹敵するということだけであって、RAW 画像上における階調値 が同じになるかどうかは保証されていない。 このことはカメラメーカーに問い合わせても企業秘密なので教えてくれない。よって今回 私は一定の光源を露出時間、ISO 感度を変えながら撮影し、本当に理論通りの結果が得ら れるかどうか検証してみた。 検証方法は、まず実際に天体写真をデジタル一眼レフカメラで RAW ファイルにて撮影をし てみる。そして天体画像処理ソフトにて撮影した天体の明るさを測る。これによって撮影 時の設定に応じて明るさが変化していれば、CMOS イメージセンサーは前述した理論通り の特性を持っていると言えるだろう。 検証の結果、理論通りカウント値は露出時間に比例することが分かった。一方で露出時間 を同じにし、ISO 感度を変えて撮影した場合にはカウント値は理論よりやや低くなること が判明した。 3 2,理論 2-1.撮影の原理 図1 デジタル一眼レフカメラの原理 引用: Aperture,デジタル写真の基礎 デジタル一眼レフカメラの撮像素子前面には、レフレックスミラーと呼ばれる鏡がある。 撮影前にレンズから入射した光をファインダーを覗き確認をすることができる。撮影時に はシャッターボタンを押すことによりこの鏡が跳ね上がり(図1左下参照)、直接撮像素子に 光を当てることにより電気信号を発生させ、アナログデジタル変換回路によってデジタル データ化される。 4 2-2.明るさを変える設定 ・シャッター速度 露出時間を変える設定。シャッター速度を早くすることによりブレのないピタリと止 まった写真を撮ることができるが、集光量が少なくなるため全体的に暗い写真となる。 ・絞り値 レンズ内にある羽の閉まり具合を表す設定。数値が大きいほど羽が閉まり、入射する 光の量が減るが、ピントが合う範囲(被写界深度)が広がるという利点がある。 ・ISO 感度 国際標準化機構(ISO)が定めた、フィルムの感度の良さを表す数値として使用されてい た数値で、現在ではデジタルカメラにも用いられている。数値を倍にすると得られる 信号量も倍になる。一般的なデジタル一眼レフカメラでは 100 から 12800 あたりまで 設定でき、高級機になれば 25600 以上もの数値に設定することもできる。 ただし、ISO 感度を上げすぎることによって撮像素子そのものが発生させる熱により 電気信号を発生させてしまう「暗電流ノイズ」が信号と一緒に大きく増幅されるよう になり、画質の劣化が起こる。このノイズの影響を受け始める ISO 感度は 400 以上か らと言われている。 シャッター速度と ISO 感度それぞれの原理より、露出時間と ISO 感度の積を同じ値に すると、同じ被写体において同じ明るさの画像を手に入れることが期待できる。 (例えば露出時間を短くして ISO 感度を相応に長くすれば、動きの速い被写体を必要な 明るさでブレることなく撮影することができる。) 5 2-3.撮像素子 CMOS イメージセンサーはマイクロレンズ、カラーフィルター、フォトダイオード、増 幅トランジスタから構成される。カラーフィルターは人間の目で色を感じる錐体細胞と 同様に緑を通すフィルターが赤と青に比べて多くなっており、ベイヤー配列と呼ばれる 並び方で規則正しく並んでいる。 フォトダイオードに光子が当たることにより電気信号が発生し、指定された ISO 感度に 従い増幅トランジスタで信号が増幅され、その後アナログデジタル変換回路によりデジ タルデータ化される。 また、デジタル一眼レフカメラのイメージセンサーには機種によって異なったサイズが 使用されている。 入門機から中級機には APS-C と呼ばれる撮像素子が使われ、大きさは約 23.5 ㎜×16 ㎜ である。 プロ仕様の機種には 36 ㎜×24 ㎜の大きさの撮像素子が使用されており、一般的にフルサ イズと呼ばれている。 図2 CMOS イメージセンサーのイメージ図 引用: Aperture,デジタル写真の基礎 6 3.実験方法 3-1.使用機材 今回の検証には明星大学天文台にある、Canon EOS 5D Mark Ⅱを使用した。 撮像素子のサイズ:36 ㎜×24 ㎜ 画素数:約 2110 万画素 SS:1/8000~30 秒 連続撮影速度:3,9 コマ/秒 ISO 感度:50~25600 図3 明星大学天文台のデジタル一眼レフカメラ また、今回は光源を天体に設定するので明星大学天文台にて望遠鏡を使用した。 リッチークレチアン式 40cm 望遠鏡 口径:40cm 焦点距離:2800cm 口径比:F7 集光力:3265 倍 実施極限等級:17.78 等級 有効最高倍率:800 倍 7 3-2.実験手順 3-2-1.撮影時の設定 今回の実験は、近年天体写真の撮影に用いられるようになったデジタル一眼レフカメラ、 それの持つ撮像素子の性能について評価する実験なので撮影する写真は天体写真とする。 続いてカメラ側での設定だが、今回の実験で計算のしやすい数字を用いることにした。 用いる設定を以下の表に示す。 ISO 感度 シャッター速度 100 2.5s 200 5.0s 400 10.0s 800 20.0s 1600 3200 6400 図4 撮影時の設定 各シャッター速度で各 ISO 感度に設定し撮影、シャッター速度ごとに ISO 感度の特性が 現れているか確認するため撮影した天体を測光。表示されたカウント値をグラフにプロ ットすることにより ISO 感度の線型性を確かめるという方法だ。非常にシンプルな方法 ではあるがこの実験により ISO 感度の理論に忠実な線型性が確認できれば今後の天体撮 影に用いるデジタル一眼レフカメラへの信頼性の裏付けとなるだろう。 (カウント値とは、天体画像処理ソフトで測光する際に天体の明るさを表す数値である) 尚、今回の撮影は 2016 年 1 月 28 日午後 10 時 00 分~11 時 00 分に撮影を行った。 天気は快晴、途中で薄い雲や飛行機などが写り込まないよう撮影時には細心の注意を払 った。 8 3-2-2.画像処理 次に、測光を行う前にダーク補正という作業を行う。 ダーク補正とは、撮像素子に一切光が入らない状態(ダーク)で撮影を行い、その撮影によ って生じる暗電流ノイズによる天体とは全く関係のない明るさを天体写真から引き算す ることによって天体そのものの明るさをノイズに邪魔されることなく測光できるように する作業だ。ノイズの出方はカメラごとの個性でもあり、周りの温度にも左右されるも のなので撮影をするごとに同じカメラでダークでの撮影をする必要がある。 今回このダーク補正を行うに当たって天体画像処理ソフト、ステライメージ7を使用し た。このソフトを用いる主な理由としては、通常天体画像処理を行う場合は FITS と呼ば れるファイルに変換する必要があり、天体画像処理ソフト側でこの FITS ファイルしか読 み込めない場合がある。ステライメージ7ではデジタル一眼レフカメラで現像処理をす る前の段階、RAW ファイルで撮影をするのだが、この RAW ファイルも読み込むことが 可能なのである。 まずは、より正確な引き算ができるようダーク画像の合成をおこなう。今回は各設定に おいて 10 枚ずつダーク画像の撮影を行った。 続いて以下の図のように実際に撮影した天体写真を合成したダーク画像により補正を行 う。この過程で自動的に FITS ファイルへの変換も行うことができる。 図5 ステライメージ7の操作画面 ん 9 3-2-3.測光 測光については、簡単な操作性からフリーの天体画像解析ソフト「マカリ」を用いた。 測光ボタンを押すと開口測光と矩形測光の二種類の測光方法が提示されるが今回は開口測 光で測光した。 開口測光とは画像上で指定した半径内のカウント値を積算してから背景光を減算する測光 方法である。 暗い設定と明るい設定では画像上で嫌でも星の大きさの違いが現れてしまうので、マカリ が測定した画像上での星のピクセル数(マス目の数)で総カウント値を割り、1 ピクセルごと の平均カウント値を算出し、それを最終的なデータとして用いることにした。 図6はシャッター速度 2.5、ISO 感度 100 で撮影した写真の測光している画面である。 図6 マカリの操作画面 10 3-3.目標天体 今回はこいぬ座β星(ゴメイサ)を目標天体とした。 実験当初はα星のプロキオンにて検証を進めていたのだが、明るすぎてマカリが正確なカ ウント値を算出できなくなってしまったので今回の実験には適さないと判断した。そこで プロキオンを撮影した際に写り込んでいたβ星のゴメイサについて調べてみると、特に変 光星との文献も見当たらなかったので、こちらの天体で測光することにした。 図7 こいぬ座の二つの星 11 4.実験結果 以下に、実験により算出されたカウント値を表とグラフにて表す。 グラフにある理論値とは、シャッター速度 2.5 秒、ISO 感度 100 での結果を基準に露出時 間又は ISO 感度を倍にすれば明るさも倍になるという理論に基づいた数値である。 ISO 2.5s 100 200 400 800 1600 3200 6400 2.5 92.68 163.96 320.15 645.95 1308.9 2686.6 4774.07 シャッター速度 5 10 20 160.41 298.75 616.38 295.28 583.39 1318.46 621.55 1264.74 2893.95 1185.06 2561.25 5886.9 2412.03 5109.28 10571.43 4756.84 10059.36 21171.23 8876.56 19615.22 39526.56 ※色が同じマスは理論上同じ数値が期待できるマス(白を除く) 図8 実験結果(表) 12 図9 実験結果①(グラフ) 13 図10 実験結果②(理論値との比較) 14 図11 実験結果③(理論値との比較) 15 5.考察 図8より、理論上同じになりえる設定同士では、各々ばらつきはあるものの、概ね期待通 りの数値が得られた箇所がある。また、表は理論上右または下に 1 マス移動すると数値が 倍になる関係性があるが、どの様に移動してもおよそ 1.7~2.3 倍程度の数値が得られてい る。 図10、図11より、ISO 感度とシャッター速度を上げるにつれ、理論値との誤差が徐々 に大きくなっていることが分かる。実測値を理論値で割り誤差率を求めたところ、ISO 感 度 1600 では平均約 0.88 倍、ISO 感度 3200 では平均約 0.86 倍、ISO 感度 6400 では平均 約 0.80 倍となった。どの感度においても一定の誤差率が算出できたので、ISO 感度を上げ るにつれ増幅される信号量の誤差が生まれるという結果もまた、CMOS イメージセンサー の特性の一つであると考えられる。 ただし、今回の実験は撮影回数の少なさが指摘できる。撮影回数を多くこなすことにより、 今回の実験より更に正確な結果が出せるであろう。 また、明星大学天文台には他にも Canon EOS 1D-s という別のデジタル一眼レフカメラも 所有している。このカメラについても同じような結果が得られれば今回の Canon EOS 5D Mark Ⅱのみならず、Canon 開発のフルサイズの撮像素子を搭載したデジタル一眼レフカ メラにおいて撮像素子の性能の保証をすることができるだろう。 16 7.参考文献 ・Aperture,デジタル写真の基礎 AppleComputer,Inc ・CCD/CMOS カメラの原理と実践 オーム社 安藤 幸司(著) ・Canon ホームページ(http://canon.jp/) ・すばる天体画像解析ソフト マカリ https://makalii.mtk.nao.ac.jp/index.html.ja 17 7.謝辞 本研究において親身に指導してくださった小野寺先生、井上先生、日々野先生をはじめと する、天文学研究室の皆様に深くお礼申し上げます。 18
© Copyright 2024 Paperzz