韓国における全国的狂犬病制御の戦略 - 鹿児島大学 共同獣医学部

韓国における全国的狂犬病制御の戦略
Strategic model of national rabies control in Korea
Clin Exp Vaccine Res. 2014 Jan
韓国獣医師会
要約
狂犬病は公衆衛生および獣医衛生の分野における重要な人獣共通感染症で
ある。この論文は、現在の狂犬病発生の状況、国の現在の狂犬病制御システム
の解析、国の現在の狂犬病制御戦略の弱点の検討、ならびに現在の状況を管理
する適切な解決策の特定に関する情報を提供する。現在の狂犬病発生は、農村
地域から都市部まで存在していることが示された。さらに、全世界の状況は各
国が狂犬病の予防や制御に苦闘していることを実証している。狂犬病制御計画
の適切な適用と遂行は、既存の弱点の克服を必要とする。ワクチン含有餌およ
びその他の複雑な計画は、狂犬病の伝播や感染を防ぐことを示唆している。狂
犬病制御戦略の加速には、現在の政策および公的情報伝達の補強も必要とする。
さらに、これらの予防戦略は狂犬病制御のため中長期的に施行されなければな
らない。
緒言
狂犬病は公衆衛生および獣医分野における重要な人獣共通感染症である。ヒ
トを含む全ての温血動物に感染可能で、世界中に分布している。ヒトが感染し
た時、とくに「恐水症」と呼ばれる。狂犬病ウイルスは Lyssa 属 Rhabdoviridae
科に属し、弾丸状をしている。4 種類の株が報告されており、主に神経組織、唾
液腺および角膜上皮細胞で増殖する。狂犬病は、様々な神経症状と脳炎を含む
中枢神経系疾患を引起す。個々の発生における致命率はほぼ 100%である。この
病気は、韓国において家畜の第 2 区分の感染症であり、世界獣疫局(OIE)に
報告すべき疾患である。
狂犬病は 2 種類の異なる疫学的状態を引起す;主な保有動物と伝播者として
飼いイヌが関与する都市型と、キツネやタヌキなどの様々な野生動物が関与す
る森林型。タヌキは森林型狂犬病の主要な保有動物・伝播者であり、疫学的発
生記録によれば韓国における感染の大きな割合を占めている。解析によって、
ワクチンと制御方法の策定と規定のため都市型から野生型へと変わったと判断
できた。
狂犬病は致命率が高い人獣共通感染症であるが、動物の予防接種によって容
易に予防できる。感染し得る家畜やペットを管理するために、ワクチン接種を
-1-
利用することができる。ただし、野生動物に関しては、全ての対象動物にワク
チン接種することはきわめて困難である。狂犬病の感受性が高い野生動物はキ
ツネ、コヨーテおよびオオカミが、感受性が比較的低い動物にはスカンク、タ
ヌキ、コウモリおよびマングースが含まれる。感受性が比較的低い動物は保有
動物(キャリア)として働き、ウイルスを広げる。したがって、タヌキ(raccoon
dog)は韓国における家畜の狂犬病感染と関連する主要な野生動物である。狂犬
病制御システムを更新するためさらなる研究が必要である。
本研究の目的は、狂犬病発生を効果的に予防し、家畜の感染を最終的に撲滅
することである。既存の狂犬病制御戦略の弱点を特定し、それと取組む新たな
狂犬病制御戦略を提案することも我々は試みた。第一に、この研究は狂犬病発
生を解析し、既存の狂犬病制御システムの弱点を検討した。第二に、別の国の
様々な狂犬病制御戦略、データおよび政策を収集し、効果的な狂犬病制御戦略
の中長期的計画を提案した。
韓国における狂犬病発生
年次別発生
狂犬病の最初の報告は 1907 年で、それ以来毎年 200~800 例が報告され、
1945 年まで発生が続いた。その後 1970 年代まで、年間 3~91 例が発生した。
そして毎年発生が増加したが、1981 年に 1 例のみとなり、政府による予防接種
計画と捨て犬予防政策によって 1992 年まで発生がなくなった。しかしながら
1993 年 9 月に江原道鉄原郡で犬の狂犬病が発生し、毎年継続的に発生した。最
近になって、2012 年に犬 2 例、牛 1 例とタヌキ 4 例が、2013 に 2 例(牛と猫)
および 4 例(犬)が狂犬病と確認された。狂犬病は 1 月、11 月、12 月、2 月お
よび 4 月の発生率が高く、季節別では冬(12 月から 2 月)が最も高頻度だった
(表 1)。
表 1.韓国における年次別狂犬病発生(1997-2012)
年
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
家畜(犬、牛、ネコ)
19 頭
60
35
28
30
79
26
20
13
17
1
7
-2-
タヌキ
0頭
0
0
8
5
11
6
9
2
4
2
7
計
19 頭
60
35
28
35
90
32
29
15
21
3
14
2009
2010
2011
2012
13
9
5
3
5
1
0
4
18
10
4
7
出典:動植物検疫局、動物数。
地域別発生
1960 年代、全国的に狂犬病の発生があり、1970~1980 年代には忠清南道、
済州を除く地域のほとんどで狂犬病が発生した。1993 年に、軍事境界線に近い
江原道の鉄原郡、京畿道の漣川郡、坡州市、坡州市などの地域で発生があった。
江原道の麟蹄郡、楊口郡、鉄原郡などの地域では、発生はより頻繁であった。
2002 年以降、江原道の北部地域(高城郡で 29 例)と京畿道(漣川郡で 27 例、
坡州市で 25 例、楊州市で 25 例)で発生する傾向があった。2005 年に漢江南部
の金浦市で 2 例、楊平郡で 1 例の連続発生があった。
最近では、京畿道水原、始華湖地域における工業団地の開発のため、野生の
タヌキが新しい生息地に移動した。これらの移動は、狂犬病に感染した動物と
の接触およびヒトや他の動物への狂犬病の伝播の可能性を増加させた。実際に、
2006 年に京畿道高陽市で 2 例(タヌキ)、ソウルの恩平区で 1 例(タヌキ)が
発生し、7 年後の 2012 年には京畿道の水原市と華城市で増加し、狂犬病が農村
部と山間部から避難して人口の多い都市部へ移動した(表 2)。
表 2.韓国における地域別狂犬病発生(1997-2012)
年
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
京畿道
9
41
23
22
19
57
19
7
6
11
1
4
江原道
10
18
11
2
6
21
11
19
8
7
3
13
18
10
4
3
計(タヌキを含む)
19(20)
59(60)
34(42)
24(27)
25(30)
78
30
26
14
19(ソウル 1 を含む)
3
14
18
10
4
7
出典:動植物検疫局、動物数、カッコ内はタヌキを含む数。
-3-
動物種別発生
動物においては、狂犬病は一般的に牛、犬およびタヌキで発生する。発生の
増減は、牛と犬で明らかに類似した傾向を示す。牛と犬を飼育する農場におい
て、狂犬病が両種から見つかった。政府が野生動物の狂犬病感染の調査を開始
した 1997 年以降、タヌキは家畜に狂犬病を伝播する主な動物と考えられている
(業 3)。
表 3.韓国における動物種別の狂犬病発生
動物種
牛
犬
タヌキ
猫
鹿
その他
計
罹患動物数
166
163
69
3
1
18
420
割合(%)
39.5
38.8
16.4
0.7
0.2
4.3
100.0
出典:動植物検疫局
ヒトの恐水症
恐水症は、1962 年から公式に記録されるようになり、最初の発生は 1984
年であった。1999 年以前は、韓国でヒトの恐水症は報告されなかった。ヒトの
恐水症と動物の狂犬病の発生の様相は直接比例しない。ただし、疫学的特徴は
相当類似しており、地理的解析もそれらの発生に類似性を明らかにしている。
免疫血清による治療と予防接種は、感染動物に咬まれた者の恐水症を防ぐこ
とができる。ただし、咬まれた後治療を受けなかった者の死亡が報告されてい
る。継続的に発生している恐水症は、2004 年から 2013 年の間報告されなかっ
た(表 4)。
表 4.韓国における恐水症発生
発生年
1999 年 5 月
2001 年 12 月
2002 年 6 月
2003 年 2 月
2003 年 5 月
2004 年 5 月
地域
京畿道坡州市
京畿道水原市
京畿道永川市
京畿道抱川市
京畿道抱川市
京畿道高陽市
性別
男
男
男
男
男
男
年齢
53
68
46
60
44
72
原因動物
犬
タヌキ
犬
犬
タヌキ
犬
出典:韓国疾病制御予防センター
-4-
咬傷後の処置
記録なし
治療を受けず
後で免疫グロブリン
不適切な治療
治療を受けず
治療を受けず
狂犬病流行の解析
主に軍事境界線近くの地域で発生した狂犬病は、時の経過とともに南に移動
する傾向を示した。狂犬病制御戦略は、狂犬病の流行が変わったのでモデルの
変更が必要である。狂犬病の流行は、主に農村部(人口が少ない地域)で発生
していた過去と比較して、都市部(人口の多い地域)へ徐々 に移動したことが
判っている。
動物種の発生の解析から、主に牛、犬、タヌキが感染しており、京畿道と江
原道の地域で主要な伝播者はタヌキであると推定された。季節的発生は、冬に
最も多かった。次いで、春、秋、夏の順序で発生が多かった。これは、狂犬病
の主要な伝播者であるタヌキが最も活動的な時期と一致する。
狂犬病発生場所と環境地形条件の解析は、狂犬病が発生した約 85%の場所
は、野生動物との接触の可能性が高い山の麓、谷および河川の周辺地域である
ことを示した。タヌキは、釣りなどをする場所に出現することがこれを裏付け
る。
韓国における狂犬病制御システム
家畜(犬と牛)のための疾病予防計画
狂犬病は予防接種によって予防可能である。犬と牛に的を絞った予防接種の
適用は需要である。政府は、家畜疾病予防計画の下で狂犬病ワクチンの年間供
給量を確保する。全国の道知事は、家畜における狂犬病発生の状況に応じて狂
犬病ワクチン供給量を割当てる。市町村長は、動物伝染病予防法の下でワクチ
ンを注文し、公的情報を提供する。政府は、予防接種を行う動物病院を指定す
るか、または予防接種機関(獣医検査官、公的獣医師、予防接種補助員)によ
って直接家畜に予防接種する。その後、政府は所有者に予防接種票を発行する
(表 5)。
表 5.韓国における狂犬病制御システムのための行政と社会団体の役割
機関
農業省
中央政府
動植物検疫局
疾病制御予防センタ
ー
役割
政策策定(動物伝染病予防法など)
疾病予防計画の策定と指示
公的な予防措置と予防規則
関連組織の連携
狂犬病の診断と技術開発
市、道の家畜疾病予防機関に対する技術支援と教育
狂犬病血清検査
狂犬病関連研究
狂犬病予防のための教育と広報活動
伴侶動物(犬、猫など)の検疫業務
咬まれた患者の治療(ワクチンなど)
恐水症予防の教育と広報活動
-5-
市、道
市、郡、道
地方当局
市、道の家畜疾病予
防部
社会団体
韓国獣医師会
狂犬病ワクチンの注文と管理
発生報告(通知)
発生農場のための疾病予防管理
疫学調査
疾病予防管理(伝染病感染症が疑われる動物の殺処分
命令、検疫命令、動物の移動制限命令など)
殺処分した動物の補償
予防接種の計画と執行
疾病予防の教育と広報活動
制御地域内の関連部局と恐水症に係る連携
伝染病感染症が疑われる動物の殺処分命令の勧告
移動制限と発見の命令について、発生農場に対する疾
病予防管理の要求
発生農場についての発生報告、疫学調査、追跡調査
感染が疑われる動物の綿密な検査
狂犬病予防のための教育と広報活動
狂犬病予防のための教育と広報活動
狂犬病血清解析
狂犬病血清解析は、江原道と京畿道の市と郡および市と郡の近くの犬と牛に
ついて 2002 年から毎年実施された。血液収集は動植物検疫所と家畜疾病予防機
関との共同活動によって実行された。両機関は農場を直接訪れ、動物から血液
を採取した。血清の分析は、動植物検疫所が免疫ペルオキシダーゼ標識 抗体法
によって行った(表 6、7)。
表 6.韓国における狂犬病の年次別血清陽性率
年
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
犬
491
618
703
769
816
841
753
652
520
360
検体数
牛
213
311
348
374
388
410
449
369
490
180
抗体陽性率(%)
犬
牛
43.1
25.1
72.8
50.8
78.0
56.9
62.4
44.7
62.1
31.7
64.1
56.3
57.0
48.1
65.3
33.1
72.3
40.8
64.7
52.2
計
704
929
1,051
1,143
1,204
1,251
1,202
1,021
1,010
540
出典:動植物検疫局
表 7.韓国における狂犬病の地域別血清陽性率(%)
年
2007
ソウル市
犬
牛
44.7
-
京畿道
犬
62.9
-6-
江原道
牛
52.9
犬
67.8
牛
68.1
2008
2009
2010
2011
50.7
86.5
-
-
55.3
65.0
-
49.0
32.4
-
59.7
62.5
72.3
64.7
52.5
40.4
40.8
52.2
出典:動植物検疫局
野生動物の疾病予防計画
タヌキに対するワクチン含有餌は、関心のある重要な介入策であり、2001
年から野生動物に狂犬病に対する免疫を付与する主な方法となっている。ワク
チン含有餌は、直接散布法を用いており、手で散布している。
(つづく 2015/8/28)
海外諸地域の狂犬病予防
保有動物の頭数制限
狂犬病の伝播は、その地域における感受性動物の密度に影響される。疑われ
る動物の頭数制限は、この疾病の発生数を減らすために利用されてきた。しか
しながら、野生動物集団は回復力が早いので多くの場合効果が低い。たとえば、
ヨーロッパで過去にキツネを淘汰または狩りをしたが、キツネの頭数は減らず、
狂犬病の発生数も減らなかった。感受性動物の頭数制限と並行した予防接種の
方法は、カナダで 1999 年から実施され、タヌキにおける狂犬病発生を減らす効
果があった、
狂犬病に対する野生動物の予防接種
狂犬病を防ぐために、ワクチン含有餌、経口ワクチンが開発された。1978
年にスイスが初めてワクチン含有餌を使用して以来、公的な方法と見做され、
ヨーロッパ諸国で使用されてきた。予防接種の最適の結果を達成するため、ワ
クチン含有餌の散布および野生動物の推定数に対する効果的な方法を検討すべ
きである。各国が予防接種を開始した年は、スイス(1982)、ドイツ(1983)、
イタリア(1984)、オーストリア、ベルギー、フランス、ルクセンブルグ(1986)、
フィンランド、チェコ(1988)、カナダ(1989)、米国(1991)、韓国(2001)
である。米国はアライグマ(raccoon dog)による狂犬病を止めるためにワクチ
ン含有餌散布を決めた。ヨーロッパにおいて、ワクチン含有餌の適用は、オラ
ンダ、イタリア、スイス、フランス、ベルギー、ルクセンブルグおよびチェコ
から狂犬病を撲滅した。
訳注:「raccoon dog」が韓国と米国で使用されているが、日本、朝鮮半島、
中国、ロシア東部にはタヌキが分布しており、アライグマは米国、カナダ南部、
メキシコなどを原産地とする。米国では明らかにアライグマ(raccoon)である
が、韓国では日本の様に多数のアライグマが野生化していないと思われ、タヌ
キとした。
-7-
様々な国における狂犬病予防
1975 年以前、狂犬病に罹っている疑いのある野生動物にヒトが咬まれた時、
ウイルスの増殖を止めるため免疫療法が用いられ、米国のアラスカでのその頻
度は毎年 10 万人当り 104.8 であった。1975 年からアラスカ州は、医療、獣医
公衆衛生および畜産部の協力による包括的狂犬病予防のためのプロジェクトに
着手した。このプロジェクトの鍵となる考え方は、狂犬病予防接種の範囲の改
善と予防接種記録の電子管理であった。野生動物が狂犬病感染の重要な伝播者
であるけれども、犬は咬傷によってヒトを感染させるより一般的な伝播者であ
る。疾病予防の管理の側面を比較すると、犬は野生動物よりも管理し易い。狂
犬病予防接種率を改善するためのあるプログラムが、獣医公衆衛生サービスが
利用しにくい農村地域で実施された。先ず、政府は道の公衆衛生部に予算を付
けて狂犬病ワクチンを供給した。次に、予防接種が個人の動物病院で行われた
場合にのみ所有者はワクチン料金を支払う。第三に、政府は、病院を利用しに
くい地域で動物に無料で予防接種するため、非専門家の予防接種員を教育し、
訓練した。これらの獣医師や予防接種員は政府に報告し、予防接種記録を管理
した。
1997 年 3 月に、オハイオ州でアライグマの狂犬病の最初の発生があり、そ
の後狂犬病発生件数は急速に増加した。1997 年以降、政府は、ワクチン含有餌
の散布プロジェクト、野生アライグマの捕獲と解析計画、感染の疑われる動物
の狂犬病診断計画、および一般への広報計画と関連した複雑な計画を実行した。
2000 年には、アライグマの狂犬病の報告はなくなった。2001 年以降、ペンシル
バニア州との境界周辺の 1.6-km 内地域で毎年 1~2 例のアライグマの狂犬病が
報告された。近隣の州と共同で、州政府は狂犬病の拡大を防ぐためワクチン含
有餌散布地帯(緩衝地帯)を設定した。それによって、狂犬病発生地域のペン
シルバニア州、ウェストバージニア州およびバージニア州から、西方にあるオ
ハイオ州、ケンタッキー州およびテネシー州へのアライグマの狂犬病の拡大を
防いだ。
訳注:アライグマの狂犬病発生は減少しているとはいえ、野生動物における
発生のトップを占め続けている。その大半が東部の諸州であり、「拡大を防い
だ」という記述は事実と異なる。また、東部の州におけるアライグマの狂犬病
の最初の発生は、1977 年のウェストバージニア州である。その後バージニア州
1978 年、メリーランド州 1981 年、コロンビア州 1982 Pennsylvania:1982 年、
デラウェア州 1987 年、ニュージャージー州 1989 年、ニューヨーク 1990 年、
コネティカット州 1991 年、ノースカロライナ州 1991 年、マサチューセッツ州
1992 年、ニューハンプシャー州 1992 年と次々に拡大していった。オハイオ州
でのアライグマの狂犬病は、1980~89 年 3 頭、1990~99 年 86 頭、2000~09
年 110 頭であり(Rabies in Ohio, 2013)、1997 年にペンシルバニア州から新
-8-
たな株が侵入したためとされている(Ohio Department of Health)。
出典:Rabies in Wild Animals, 1960-2010
出典:Rabid Raccoons Reported in the United States during 2010
-9-
カナダの広大な自然地域のあるオンタリオ州は、野生動物に関する研究に基
づいて狂犬病予防計画の主要な戦略を採用した。オンタリオ州の東部と北西部
におけるキツネとスカンクの狂犬病発生が問題であった。野生動物に対するワ
クチン含有餌の開発後、ワクチンは飛行機を使った空中散布で撒かれた。1992
年から、このプログラムの結果としてこの地域で狂犬病はほぼ撲滅された。州
は、野生動物を野生型狂犬病から護るため自然・資源省の下に狂犬病研究班も
設置した。この研究班は、狂犬病の世界的発生を監視し、様々な国の狂犬病陽
性動物の脳サンプルから分離された狂犬病ウイルスの型を解析した。トロント
などの都市部は、狂犬病保護計画として捕獲・予防接種・解放(TVR)の方法
を採用した。野生動物は、捕獲され、予防接種を受けた後に捕獲された同じ場
所に解放された。統計記録によると、都市部に生息していたスカンクとアライ
グマの 60~70%が 1987 年から 1992 年の間に予防接種された。カナダと米国の
境界には、ワクチン含有餌散布と捕獲・予防接種・解放(TVR)を含む両方を
合わせた予防接種計画が遂行される疾病予防地域が設定された。狂犬病感染状
況は、米国とカナダの間の国際協力を通してこれらの地域内の野営動物死体の
解析によって監視された。
ドイツのバイエルン地方で最初に用いられたバイエルンモデルは、キツネの
狂犬病予防に利用された。この計画は、ボランティアのハンターによって実行
された。各ハンターは地図の 1 区画を受け持った。彼らは、対象動物によって
摂取されるように区画内にワクチン含有餌を散布した。ワクチン含有餌を散布
した後、ハンターはそれが摂取されたかどうかを監視した。最後に、対象動物
の抗体陽性率を推定するために血清抗体解析が行われた。その後、多くのヨー
ロッパ諸国が狂犬病予防活動にこの方法を利用し、狂犬病予防に良い結果を生
み出した。
ベルギーにおけるワクチン含有餌を用いた狂犬病予防は、1986 年に始まっ
た。ワクチン含有餌を始める前、毎年 500 例以上の狂犬病症例があった。ワク
チン含有餌使用から 2 年後、狂犬病の発生は約 50%まで減少した。ただし、1989
年と 1990 年に、それぞれ 515 症例と 842 症例があった。これは 1983 年以降最
も多い発生数だった。狂犬病発生を減らすため、30-km のワクチン含有餌散布
地域(緩衝地帯)を設定し、その後 50~70 km に拡大された。1994 年に行われ
たアカキツネの狂犬病抗体陽性率を比べた調査結果によると、ワクチン含有餌
が散布された地域の平均抗体陽性率は 25~86%であった。ワクチン含有餌の空
中散布が 3 月と 6 月および 1995 年秋に実施され、散布密度は 15.7~17.2/km2
となり、追加のワクチン含有餌が全てのアカキツネ生息地近辺に 5 回散布され
た。全散布地域は 8,700 km2 に広がったが、213 例の狂犬病が発生した。ワク
チン含有餌散布は、フランスとドイツとの国境地域では実施されず、それは国
- 10 -
際的協力活動を必要とした。ワクチン含有餌の摂取を確認するため、100 km2
当り 15 頭のキツネが検査された。散布方法は 1996 年と同じだったが、使用し
たワクチン含有餌量が増やされた。動物の歯のテトラサイクリン解析によって、
ワクチン含有餌を摂取した動物数は増えていることが明らかになった。1998 年
以降、アカキツネで狂犬病が発生しなくなり、狂犬病の最後の発生は 1999 年に
牛で起きた。1966 年から 2000 年の間に、29,000 サンプルの内約 7,000 が狂犬
病陽性であり、それらの内約 4,000 例はアカキツネと関係していた。OIE のデ
ータによると、ベルギーは 2001 年以降狂犬病が発生していない国に区分された。
現在の狂犬病予防戦略の弱点
ワクチン含有餌
ワクチン含有餌方法は、いくつかの提案された狂犬病予防法の中で十分効果
的な計画として知られている。この取組み方はその他の計画と比べて少ない費
用で高い効果が得られる。ワクチン含有餌にもいくつかの弱点があり、それは
現在の狂犬病予防戦略にも見られる。
ワクチン含有餌の量を決める最も重要な要素は、対象動物である野生のタヌ
キの生息密度である。狂犬病が江原道で継続的に発生し、京畿道で数年間発生
しなかった主な理由は、需要に対してワクチン含有餌の供給不足であった。江
原道は京畿道と比べてタヌキの生息密度が高く、山岳地帯の割合が大きいが、
ワクチン含有餌の量を決める際にそれらが考慮されなかった。現在、これらの
点が考慮され、供給はタヌキの生息密度に応じている。ただし、それぞれの地
方当局が実際の状態を検討する際、ワクチン含有餌の不十分な供給が依然とし
てある。この供給量不足は地方当局の予算内での追加購入によって補われるの
で、各地方当局の財政能力に依存している。したがって、各地方当局の狂犬病
予防システムの間にギャップがある。このことは、狂犬病予防に成功するため
タヌキの生息密度に応じた散布すべきワクチン含有餌の量を決める研究が必要
とされている。
ワクチン含有餌は、3-cm 四方の褐色の形をしている。魚肉や鶏肉の練り粉
などと一緒にワクチンを野生動物が摂取すると免疫が付与される。しかしなが
ら、面談調査によると、タヌキはワクチン含有餌全体を食べずに餌部分(ワク
チン含有餌の表面)のみを食べていると一部の者が報告している。ワクチン含
有餌を散布する者に対して指示が明確に出されておらず、行政による散布も不
適切であり、最適の計画された混和がなされていない。一部の計画を監視する
ため、散布後の評価が求められている。対象外の動物がワクチン含有餌を摂取
する多くの機会が存在する。さらに、散布後の対象動物の抗体陽性率を調査し
なければならない。
- 11 -
捨てられた動物(犬と猫)に対して狂犬病ワクチンを直接接種することは容
易でない。獰猛な犬への摂取も困難である。狂犬病予防のための経口ワクチン
は、このような動物に対してより適切である。その結果として、効果が低いワ
クチン含有餌が犬と猫に適用される可能性がある。
注射用ワクチン
伴侶動物(犬と猫)部門において、政府は狂犬病ワクチンと注射器を購入し
て毎年春と秋に地方当局に供給している。地方当局はそのワクチンと注射器を
地元の動物病院に配布している。ペットの所有者は狂犬病予防接種のためそれ
らの病院を訪れ、一定の作業料を負担する。犬の予防接種のため、教育および
広報は適切に行われており、ほとんどの伴侶犬所有者は狂犬病ワクチンを自分
の犬に接種しようと努めている。しかしながら、猫に対する予防接種について
は、猫は動物伝染病予防法に含まれる動物であるにも関わらず、不十分な広報
の結果猫の所有者の多くは猫も狂犬病予防接種を必要とすることを知らない。
予防接種の時期について、現在の政策は、毎年、固定した時期(春と秋)の 2
週間に実施する効率の悪い方法である。狂犬病を防ぐため、最初の接種は3か
月齢を過ぎたら速やかに行っている。その後、追加接種は獣医師の管理下で適
切な時期に行われている。しかしながら、全てに対する予防接種の取組みが春
と秋である現在のシステムの下で追加接種が行われない可能性がある。さらに、
所有者は経済的理由でキャンペーン期間中に予防接種しようとし、免疫上昇の
空白期間が生じるか、短い接種間隔のため接種を諦める可能性がある。このこ
とは、現在の政策が非効率的である可能性を意味する。
狂犬病予防接種が実際の状況に対して調整を必要とする時、その作業は動物
病院の労力を費やす。一頭の動物が来院した時、獣医師以外の労働費用、余計
な労賃(大型犬の場合)、消毒などが想定される。接種施設の影響や被害も責
任の範囲でなく、政府の支援を必要とするが、獣医師は全ての責任を負ってい
る。2011 年 6 月から、付加価値税が作業費用に追加され、動物病院の経費をさ
らに減らしている。その反面、狂犬病ワクチン供給の配布は調整を必要として
いる。動物病院の規模や数を考慮することなく供給を一律に計算するのは不十
分な方法である。
家畜部門(牛)において、各農場に直接ワクチンが支給された後に狂犬病ワ
クチンの接種が行われる。しかし、ほとんどの農家は牛の狂犬病予防接種を好
まない。その理由の一つは生ワクチンに副作用の可能性があると信じているこ
とにある。狂犬病発生地域の農場には不活化ワクチンが供給されるが、発生し
ていない地域の農場には生ワクチンが供給される。さらに、ワクチンの副作用
で牛が死亡した場合政府の補償を受けるけれども、農家は狂犬病予防接種を無
視しがちである。牛ブルセラ病などとは異なり狂犬病予防接種は取引に必要が
- 12 -
なく、狂犬病ワクチンは牛に不可欠なものではないため、狂犬病予防接種率が
低い可能性もある。
番犬、猟犬およびその他の犬種の中で、狂犬病発生地域やその周辺の工場や
農場の警備のため飼育されている番犬は、狂犬病予防接種の盲点である。工場
主はこうした動物の予防接種の世話をしようとせず、従業員は番犬の健康につ
いて無関心の傾向がある。猟犬については、大規模な大半のブリーダーは狂犬
病予防接種に注意しているが、小規模なブリーダーは様々な理由から関心がな
い。狩猟のため当初繁殖された犬が役目を終え、野生の中で放されるかまたは
遺棄されて放浪犬になると、それらは狂犬病に罹り易く、ヒトを感染させ得る。
遺棄された犬に法令を適用することは難しい。放浪犬になった遺棄された犬は、
野生動物と区別するのが難しい。
動物が予防接種されていない場合、現在の動物伝染病法第 15 条と第 60 条
の規定の下で、所有者は起訴され、罰金を科せられる。この法律の第 16 条の施
行規程は、初犯 500 ドル、再犯 2,000 ドル、それ以上の違反は 5,000 ドルの罰
金を科している。しかしながら、政府によって犯罪者が実際に罰せられる場合
は希である。
責任部局の不在
狂犬病発生に全面的責任を負う独立した機関は、現在存在しない。とくに、
狂犬病は短期間で防ぐことが容易でない。したがって、継続的に狂犬病予防計
画を執行する機関を創設しなければならない。
タヌキの遺伝子マップの不在
重要な伝播動物は野生のタヌキであり、それがその他の動物に狂犬病を広げ
ている。タヌキの遺伝子マップの研究は、ミトコンドリア単一ヌクレオチド多
型性(SNP)を用いて実施されている。全国的解析に基づくと、この研究はタ
ヌキに地域的相違があることを確立した。しかしながら、詳細な遺伝子マップ
を作成するためのさらなる研究が必要である。さらに、ウイルスと対象動物の
遺伝子マップを解析するため、動植物検疫所などの中央機関がその他の機関と
協力して確認された狂犬病サンプルを解析することを要請する必要がある。
(つづく 2015/8/31)
推奨される狂犬病予防戦略
狂犬病発生に係る計画
狂犬病予防地帯の設定と解除
狂犬病が疑われる動物が発生した時、政府は地理的状況を考慮して発生地の
半径 3-km 以内に防御地帯(protection zone)を、半径 10-km 以内に発生動向
調査地帯(surveillance zone)を直ちに設定する。防御地帯と発生動向調査地
帯が設定された後、政府は重要な狂犬病感受性動物(犬、猫および牛)の移動
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制限を命じる。疑い動物が陽性と確認された場合、政府は重要な狂犬病感受性
動物(3 ヶ月齢以上の犬、猫および牛)全ての予防接種を命じる。狂犬病が発生
した農場および周辺の農場と施設の消毒も行われる。臨床徴候と検査室解析に
基づいて陰性結果が確認された場合、障壁地帯(barrier zone)は徐々に解除さ
れる。予防遅滞(prevention zone)の解除は、発生動向調査地帯から防御地帯
まで段階的過程で行われる。防御地帯は、防御地帯が発生動向調査地帯へ変更
されてから 15 日後に解除される。
狂犬病が疑われる動物の採るべき行動
疑われる動物の移動は、ヒトやその他の動物との接触を防ぐため、安全な施
設に制限される。当該動物は少なくとも 14 日間臨床徴候を観察しなければなら
ず、狂犬病の典型的な臨床徴候を示した場合、またはヒトを曝露させた場合、
直ちに殺処分して検査室の狂犬病診断が求められる。疫学調査は、疑われる動
物がいた農場について、牛では 1 ヶ月間、犬では 6 ヶ月間実施される。
短期的な狂犬病予防戦略
狂犬病予防の短期的戦略において、発生が非発生地域へ拡大するのを防ぐこ
とが重要である。狂犬病予防計画の精力的実行が、最近発生した地域における
拡散とさらなる発生を防ぐために必要である。
表 8.年次別のタヌキの密度
年
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
密度(100 ha 当り頭数)
4.9
5.3
5.0
4.9
5.3
4.7
4.5
4.0
4.3
4.0
狂犬病発生地域におけるワクチン含有餌の広範な散布
ワクチン含有餌による予防計画は、伝播者としての役割を止めるために野生
のタヌキに狂犬病に対する免疫を誘発する方法である。この方法は、費用と最
終的効果に基づいて評価されたように、効果的である。散布地域とワクチン含
有餌の量は、野生タヌキの生息密度と最近の狂犬病発生地域を考慮して推定さ
れる。環境省による調査は、100 ha 当り 5 頭の野生タヌキの生息密度が 2002
年から継続して維持されていると決定した。全羅北道の密度が最も高く 100 ha
当り 6.1 頭、京畿道の密度は最も低く 100 ha 当り 0.2 頭であった。山や沼地な
ど散布が難しい地域においては、飛行機やヘリコプターからのワクチン含有餌
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の散布が用いられ、森での焚火の観察が役立ち、とくに冬季ではそうである(表
8、9)。
表 9.地域別のタヌキの密度
年
京畿道
江原道
忠清北道
忠清南道
全羅北道
全羅南道
慶尚北道
慶尚南道
済州島
平均
密度(100 ha 当り頭数)
0.2
5.2
3.6
4.2
6.1
4.2
3.4
4.9
4.0
狂犬病発生地域内の全ての狂犬病感受性動物の予防接種
都市部に侵入した狂犬病抗体陰性のタヌキが伝播者として働く可能性があ
る。したがって、野生タヌキの生息地に接近している農場の家畜(牛)および
ペット(犬と猫)に対して、予防接種と抗体調査が必要である。狂犬病発生地
域内の全ての狂犬病感受性動物を予防接種しなければならない。
予防接種後、それぞれの市と郡における抗体陽性率を解析しなければならな
い。抗体陽性率が 70%以下の市と郡はさらなる対策を必要とする。予防接種と
制御の計画を作成するため、所有者と動物の調査を実施しなければならない。
とくに、狩猟期を通した猟犬の管理が必要である。
狂犬病発生時の行政管理の強化
狂犬病発生地域内およびその近辺の動物が予防接種されていない場合、所有
者に罰金を科すより強力な法的制約を裏付ける基盤がなければならない。家畜
(牛)で狂犬病が発生した場合、狂犬病予防接種状態を調べるための制約を裏
付ける基盤がなければならず、動物が予防接種されていない時には殺処分の補
償から除外すべきである。咬まれた者が恐水症に罹患した場合、咬傷を起した
動物の所有者が治療費の全額を払うことを強制する法的制約を裏付ける基盤が
なければならない。このことは、予防接種を回避する事例を防ぎ、行政的監理
の執行を伴うことによって、ペット所有者の責任に注意を引き付けることによ
って、狂犬病予防と予防接種の重要性の認識を高めることが期待される。
捕獲による頭数削減および遺棄動物の殺処分
遺棄された動物(犬と猫)は、狂犬病の二次感染を防ぐため関連する規定に
したがって疾病制御のため捕獲して殺処分すべきである。捕獲した動物の狂犬
病抗体の状態の血清学的解析、狂犬病抗体がない捕獲動物の予防接種、予防接
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種した動物を現在の捕獲・去勢・解放(TNR)計画に従って自然に開放するた
めの追加手順がなければならない。
長期的な狂犬病予防戦略
短期的予防戦略は、狂犬病撲滅のためには不十分であり、狂犬病を制御する
ために長期的予防戦略を実施しなければならない。OIE は、2 年以上ヒトおよび
動物で狂犬病発生がないことに基づいて狂犬病清浄を判定する。狂犬病清浄を
目標とし、2018 年までに狂犬病清浄を獲得するため 2 年以上制御システムを維
持することが必要である。東南アジアの 10 ヶ国は狂犬病清浄計画を発表し、
2020 年までに狂犬病清浄宣言することを目標としている。
訳注:OIE の陸生動物衛生規約では、2 年以上狂犬病発生がないだけでなく、
有効な発生動向調査システムが 2 年以上機能していることも清浄要件となって
いる。すなわち、狂犬病ウイルスが存在しないことを発生動向調査によって実
証することが求められており、野生動物を含めた調査体制の構築が不可欠であ
る。東南アジアの ASEAN の狂犬病撲滅戦略は地域全体の清浄化を目指してお
り、発生国に囲まれた状態で野生動物を含めた狂犬病清浄を達成することはき
わめて困難であろう。東北アジアにおける越境性疾病制御に関する国際協力体
制を構築することが先決課題である。
(つづく
2015/9/2)
狂犬病の責任部局の設置
それぞれの地方当局に狂犬病の責任部局を設置する必要がある。狂犬病を撲
滅するために、専門的人材と特別の施設を備えた狂犬病の制御と管理の責任を
持つ特別な機関が必要である。この撲滅に責任を持つ機関は、狂犬病予防接種、
発生動向調査および監視後の措置に関する様々なプログラムと政策を実行する。
頭数削減(PR)、捕獲・予防接種・解放(TVR)および狂犬病経口予
防接種(OVR)を複合したプログラムの系統的導入
殺処分やその他の方法によって韓国における野生タヌキなどの対象動物の
削減をしなければならない。現在のワクチン含有餌と予防注射の計画に加えて、
狂犬病制御のための PR、TVR および OVR の複合プログラムの系統的導入が役
立つ。頭数削減(PR)は、狂犬病発生地域から半径 1-km に適用され、タヌキ
の生息域 3.4-km2 を検討する。韓国において夜間に銃器の使用許可を得ること
は困難であり、したがって野生タヌキを減らすために猟犬を使ったより容易な
取組み方を検討すべきである。
捕獲・予防接種・解放(TVR)プログラムは、狂犬病免疫レベルの計画に従
って野生タヌキの捕獲、予防接種、個体標識のサイクルを繰り返して、野生タ
ヌキの狂犬病抗体を維持する方法である。このプログラムの目的は、高リスク
地域から正常地域への狂犬病拡散を最小限にすることである。TVR プログラム
- 16 -
は、狂犬病発生地域から半径 1-5-km に適用し、タヌキの生息域 3.4-km2 を検討
する。このプログラムの適用のため、以下の手順に従うことが必要である。先
ず、TVR プログラムは、政治的提案によって農業食料農村省の全国検疫プログ
ラムに追加される。狂犬病発生地周辺の TVR プログラムのため適切な適用地域
を選ぶ必要がある。1 km2 毎に分けられる適用地域における野生タヌキの密度は、
確認すべきである。野生タヌキが主に通る地域に 1 km2 当り 50~75 の捕獲わな
とすべきである。捕獲されたタヌキは予防接種され、必要に応じて、去勢手術
が行われた後に予防接種記録タグや電子タグの確認をする。次に、捕獲された
タヌキは同じ場所に放される。このことが 70%の狂犬病抗体が維持されるまで
繰り返され、その情報は韓国動物衛生統合システムに入力される。
狂犬病経口予防接種(OVR)は、ワクチン含有餌を用いた狂犬病予防措置
である。ワクチン含有餌戦略は最も効果的な予防措置として認められている。
ワクチン含有餌を用いた予防措置は、韓国において継続的に進められてきた。
その結果、2006 年から 2011 年までに京畿道で狂犬病の報告がなく、江原道の
狂犬病感染は減少傾向を示している。この計画は、狂犬病発生地域から半径
5-km 内に適用されている。
タヌキが空腹になった時、ワクチン含有餌を容易に摂取する。ワクチン含有
餌は、餌が雪や落ち葉で覆われる前のタヌキが活発に動き、生息地で餌が不足
する時に主に散布する。11 月と 12 月は、地域差はあるが、十分な餌がない。
この時期は、タヌキは冬眠期間の体脂肪を蓄えるために食欲旺盛であり、しか
も十分な餌を見つけるのが困難である。さらに、1 月中旬から 3 月中旬に、冬季
のエネルギー不足を補い交尾を始めるために、タヌキは冬眠から覚めて活発に
餌を探す。ワクチン含有餌は先ず春(3 月頃)、その後秋(11 月頃)に散布す
ることが推奨される。
ワクチン含有餌を散布する 2 つの方法があり、直接散布と空中散布である。
直接散布には、手で散布し、食べたことの定期的チェックが含まれる。散布者
は、ヒトの匂いを付けないため 2 重の手袋(内側は綿、外側はゴム)をしなけ
ればならない。この散布方法は韓国政府が使っている。
空中散布は、飛行機やヘリコプターによって空から規則的な間隔と密度でワ
クチン含有餌を投下する。この方法は、カナダのオンタリオ州や米国のニュー
ヨーク州など広大な地域をカバーできる。非武装地帯(DMZ)やヒトが入れな
い森林にも適用できる。とくに市民の立入りが制限されている地域において、
ワクチン含有餌を空中散布することが推奨される。空中散布の際、散布者はワ
クチン含有餌投下によってヒトを傷付けたり、家屋、小屋、温室などに障害を
与えないように注意しなければならない。非武装地帯の近くに軍が展開してい
る場合、タヌキが餌を探しているのに隊員がしばしば遭遇することがある。
- 17 -
ワクチン含有餌の散布終了後の管理は以下のように実施する。ワクチン含有
餌の摂取率は、散布日から所定期間の後散布地域を再訪問して解析する。ただ
し、この方法は対象動物がワクチン含有餌を摂取した確証はない。対象動物が
ワクチン含有餌を摂取したことを確認するため、CCTV の使用が必要である。
ワクチン含有餌散布地域(京幾道、江原道)において、タヌキの狂犬病抗体の
解析が求められている。目標は平均抗体陽性率 70%の維持である。この方法に
は、散布地域を再訪問して、ワクチン含有餌の摂取をチェックして残ったもの
の回収が含まれる。再訪問日から 4 週後、散布地域で野生動物、とくにタヌキ
をサンプリングのため捕獲する。捕獲した動物にはタグを付ける。動物から血
液サンプルを採取した後、捕獲した場所に放す。採取した血液を用いて狂犬病
抗体価を測定する。ただし、ワクチン含有餌の散布した量と期間と関連した効
果は研究されていない。したがって、ワクチン含有餌の最適散布量を判定する
ための調査が推奨される。
家畜と遺棄動物の数の調査
狂犬病予防戦略の最も重要なデータは、予防接種された動物を特定し、動物
と家畜の生息地を調査することである。それぞれの地方当局はその地域の動物
の頭数を判定しなければならない。この目的のため、地方当局は全ての動物(伴
侶動物、家畜)を強制的に計数し、それをコンピュータのデータベースに入力
する。伴侶動物については、伴侶動物登録システムと関連付けると計数に役立
つ。したがって、地方当局は動物の所有者に登録を積極的に奨励する。さらに、
地方当局は遺棄動物を管理して計数する必要がある。それらの動物は、一般的
に狂犬病予防接種を受けておらず、生息地も一定しておらず、野生タヌキと接
触しがちである。その結果、遺棄動物は狂犬病に容易に感染し、ヒトを襲って
咬むことすらある。この感染経路を減らすため、動物登録政策は遺棄動物数を
減らし所有者を見つける機会を増やすのに役立つ。
狂犬病予防接種に係る規制の修正
この研究が示したように、現在の予防接種戦略は伴侶動物と家畜の両方に対
していくつかの弱点がある。それらの問題を解決するため、いくつかの解決策
が推奨される。政府は現在の予防接種政策を修正する必要がある。現在、限ら
れた期間内に年 2 回動物病院を通した狂犬病予防接種が義務となっている。そ
の代りに、伴侶動物の狂犬病予防接種を管理するより効果的な方法は、所有者
が自分の伴侶動物を都合の良い時に動物病院へ連れて行き、狂犬病ワクチン料
を支払う。政府は、狂犬病予防接種の重要性を通知し、所有者に伴侶動物を動
物病院へ連れて行くよう奨励するだけで良い。動物病院は、狂犬病ワクチンの
接種、副作用の取扱いおよび接種義務日の所有者への通知など残りの過程を管
理する。所有者の費用の増加について議論がある。それは、狂犬病予防接種の
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理由と必要性を所有者に説明して推進することによって解決できる。さらに、
動物登録システムと結び付けることは、狂犬病予防接種の記録が効果的に管理
でき、この政策を指示しない所有者を罰金に科すことができ、伴侶動物の狂犬
病予防接種率を改善する。
野生動物、家畜、伴侶動物および遺棄動物の定期的狂犬病抗体調査の強
化
以前のデータによると、過去 5 年間における犬の狂犬病抗体保有率は 64.7%
で、牛は 46.1%であった。この結果は、牛は犬よりも狂犬病予防接種を受けて
いないことを意味する。国際的に、狂犬病の適切な管理のため平均 70%の抗体
陽性率が求められている。70%の狂犬病抗体陽性率は定期的予防接種と検査に
よって維持しなければならない。狂犬病抗体検査のための血液サンプルを採取
する最適な時期は、予防接種後 1~2 ヶ月である。
遺棄動物と番犬に対する計画
動物の登録(登録しなければ、所有者に罰金を科す)は、遺棄動物数を減ら
し得る。遺棄動物(犬と猫)の狂犬病二次感染を予防するため、その頭数を管
理するための関連規則に従って捕獲して安楽死させなければならない。捕獲・
去勢・解放(TNR)計画において、狂犬病の抗体価検査を行い、抗体価に応じ
て狂犬病ワクチンを接種しなければならない。捕獲と予防接種は遺棄動物の全
てを網羅することができない。犬と猫に対するワクチン含有餌を開発し、散布
すべきである。
番犬は、タヌキと容易に接触することから狂犬病に曝露され易い。その頭数
を解析し、所有者に狂犬病ワクチンの接種を助言すべきである。それに従わな
ければ、関連法規に従って所有者は罰金を科せられるべきである。
野生動物や遺棄動物のように郊外の山岳部に住み着く放浪する遺棄動物を
特定することは困難である。政府が適用すべき規則や決定は未確定である。そ
の結果、これを明確化するため法と規則を修正すべきである。
タヌキの生息地調査と遺伝子マップの作成
韓国において最も重要な狂犬病伝播者は野生のタヌキである。タヌキの遺伝
子マップは、狂犬病の広がり方を明確にできる。現在、250 万頭のミトコンドリ
ア単一ヌクレオチド多型性(SNP)がある。それらを用いて、タヌキの遺伝子
は SNP または短鎖繰り返しで効果的にマッピングできる。遺伝子マッピングの
ため、狂犬病と診断で確認されたタヌキの遺伝子解析を政府の研究所(動植物
検疫所)に要請すべきである。
狂犬病についての大衆教育
狂犬病流行地域の住民および訪問者には、タヌキおよび野生動物が狂犬病感
染を引起すことについて教育しなければならない。それに加えて、疑い動物が
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見つかった時、人々はそれを地方当局と獣医学研究所へ報告しなければならず、
安全な装備なしで捕獲しようとしてはならない。野生動物による咬傷の処置に
ついて彼らを教育しなければならない。家畜の飼養者は、自分の家畜に対する
狂犬病予防接種の必要性を学ぶ必要がある。さらに、狂犬病感染についての教
育を全国的にかつ定期的に実施すべきである。狂犬病流行地域の軍の隊員に狂
犬病予防を教えるべきである。狂犬病流行地域の住民および訪問者には、ワク
チン含有餌の目的を教育すべきである。ワクチン含有餌の散布者は、製造者の
説明書に従わなければならない。一部の散布者は、ワクチン含有餌を指定され
た場所に散布していない。とくに予防に従事している者に対して特別な教育を
行い、ワクチン含有餌について訓練する必要がある。国立公園と田舎道の入り
口には、狂犬病に関する広報を掲示すべきである。
関連当局の認識
狂犬病を制御するため様々な関連当局で諮問委員会を設置すべきである。動
植物検疫所は狂犬病抗体価検査を行い、ワクチン含有餌を開発し、タヌキの遺
伝子マップを作成する。環境省と国立環境研究所は、野生動物のデータベース
を構築し、タヌキの地域的密度を調べるべきである。保健福祉省と韓国疾病制
御予防センターは、狂犬病特別管理地域と共同研究を管理すべきである。国防
省は、非武装地帯(DMZ)における狂犬病発生に対する初動対応マニュアルを
起草し、狂犬病緩衝地帯として非武装地帯を指定してワクチン含有餌を散布し、
狂犬病感染について隊員を教育すべきである。国土交通省と環境省は、市が作
成する前に環境予備調査を実施し、野生動物が都市部に移動するのを防ぐため
代替生息地を準備すべきである。韓国森林局は、森林地域での野生動物の生息
地を研究し、ワクチン含有餌の散布に協力すべきである。韓国高速道路公団は、
運転者に野生動物について通知すべきである。野生動物が道路や車両と接触し
がちであることも公団は研究すべきである。京幾道(畜産獣医局)、江原道(獣
医学研究所)は、農業部門との連携網を構築すべきである。
韓国と北朝鮮との合同狂犬病研究
狂犬病は非武装地帯(DMZ)周辺で発生するので、北朝鮮に狂犬病感染が
存在する。したがって、韓国と北朝鮮との間の合同研究は、疫学的狂犬病予防
活動を促進するだろう。これを実現するため、世界保健機関(WHO)、食糧農
業機関(FAO)、国際獣疫局(WHO)などの国際機関が北朝鮮に対して研究を
強力に勧告すべきである。
結論
人口密度が高い京畿道の水原市および華城市における狂犬病感染の発生は、
人々が狂犬病に感染し得る機会となるので、深刻に検討しなければならない。
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現在の狂犬病制御戦略は、限られた予算で計画された短期的予防である。それ
は経済的に効率的であるが、狂犬病発生を効果的に撲滅できない。狂犬病制御
戦略に関わっている公務員によると、現在の予算と人員は狂犬病撲滅には不十
分である。狂犬病問題を解決するため、狂犬病制御戦略の予算と人員を増やし、
長期的な狂犬病制御戦略の再構築と結び付けるべきである。この報告は、狂犬
病制御戦略の現在の弱点を明らかにした現場調査に基づくものである。
補足説明
この記事に関連する利益相反の可能性は報告されていない。
この記事は、農業食料農村省の下で全国狂犬病制御の戦略モデルの研究報告
によって支援された。
参考資料(省略)
訳注:「推奨される狂犬病予防戦略」は、筆者の意気込みは理解できるもの
の、費用と人員を考えると実現可能性を疑ってしまう。野生タヌキの生息調査
や抗体検査はまだしも、抗体価の測定を実施し、追加のワクチン接種となると
その手間は相当増えることになる。国境のない野生タヌキが北朝鮮から越境し
てくることを考えると、抗体陽性率 70%を達成するのは至難の業であろう。
「韓国と北朝鮮との合同狂犬病研究」の必要性は当然のことであるが、国際
機関に依存するだけでは実現できないだろう。政府間の事案ではなく、獣医師
会という民間組織の利点を生かした民間交流から着手しないと、政治的暗礁に
乗り上げてしまう可能性が高い。狂犬病に限定せず口蹄疫や鳥インフルエンザ
を含めて、ASEAN のように韓国、北朝鮮、中国、台湾および日本を加えた「東
北アジア越境性疾病制御計画」を学術交流によって検討することから始めると、
国際機関の支援も受け易いであろう。
2011年3月に「口蹄疫防疫に関する東北アジア協力シンポジウム-東北アジ
ア越境性疾病の防疫に関する学術ネットワークの構築-(概要、プログラム、
専門家会合、シンポジウム)」を日本学術振興会の助成を得て鹿児島大学で開
催した。中国・韓国・台湾・日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局の参
加を予定したが、東北大地震の影響で中国は出国停止となり参加できなかった
が、成功裏に終わった。退官のため継続できなかったが、日本獣医師会は「One
World, One Health」の理念の下で「中国獣医協会の皆様を迎え、有意義な意見交
換」などの活動を始めており、東北アジアのネットワーク樹立の道は拓けてい
る。WHO憲章の「健康増進や感染症対策の進み具合が国によって異なると、す
べての国に共通して危険が及ぶことになります」を推進することが、世界平和
への道でもある。
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