第8次 台湾自然観察の旅 報告

自然研究
第8次 台湾自然観察の旅 報告
千曲市立東小学校
田中 光枝
1 はじめに
「第8次台湾自然観察の旅」は、県下各地から 11 名の参加者を得て、2006 年 8 月 3 日(木)~8 月 8 日(火)
に実施されました。
今回は昨年度、台風の被害を受けて断念した台湾中部の中央山地にある環山に入山でき、調査をする事
ができましたので、ここにその概要を報告いたします。
調査にあたり、郭玉祥先生とご家族の皆様、張袖傑先生、環山の小林淑子先生をはじめ、多くの方々の
お世話をいただくこととなりました。また、環山の方々には歓迎の宴を準備していただき、民族舞踊など
を披露していただくなど、私たちの研修のために台湾で多くの方々に、ご尽力をいただきました。また、
台湾自然観察の旅の実施に際しては、信州理科教育研究会から深いご理解とご支援を賜るとともに、報告
の機会を与えていただきました。お世話になった方々、関係各位の皆様に対して深甚なる感謝の意を表し
ます。
2 参加者
相談役・総務:倉田 稔(信州理研元会長・昆虫)
相談役・総務:佐野 昌男(信州理研元会長・鳥類)
相談役・渉外:西澤 繁幸(長野市立昭和小・昆虫)
団長・総務:土屋 次男(長野市立東北中・魚類)
副団長・報告書:宮下 健司(長野県立歴史館・民族)
秘書長・保健:田中 光枝(千曲市立東小・植物)
副秘書長・渉外:松崎 善幸(駒ヶ根市立東伊那小・鳥類)
会計・食事:西澤 繁樹(長野市立豊野東小・民族)
食事:原 一彦(宮田村立宮田小・鳥類)
宿舎・荷物:小澤 正行(小諸市立小諸東中・魚類)
宿舎・荷物:相渡 弘(王滝村立王滝中・陸水)
《環山の集落全景》
3 行程と日程の概略
第 1 日目 8 月 3 日(木) 成田 快晴
12:10 成田国際空港 最初のミーティング
14:15 成田発
16:15 中正国際空港着【時差:-1 時間】 晴れ
…ここから台湾時間での記載
17:00 郭玉祥先生とともに空港バスにて空港発
18:05 圓山捷運站着 (市區巴士)
18:15 名古屋発の団員と合流
18:25 電車(淡水線・新北投支線)にて、圓山站発
18:51 新北投站着
19:10 ホテル着 部屋割り
19:50 歩いて夕食に出発
郭先生ご夫妻、張袖傑先生、蓁さん、蓁さんのお友達の張庭瑜さんを交えて夕食。土屋団長より挨拶
22:00
各自荷物整理等して就寝
第 2 日目 8 月 4 日(金) 晴れ
8:00 ホテル内で朝食
8:55 マイクロバスに荷物を積み込み出発
10:35
11:45
13:33
16:00
17:00
17:25
18:00
19:00
20:30
郭先生ご夫妻、蓁さん、張庭瑜さんも同乗。基隆市を経由、海沿いに宜蘭市へ進む。
澳底にて休憩と観察・調査
海鮮餐廳にて昼食
宜蘭市内の友愛百貨店内の誠品書店にて書籍選び。
南山にて休憩と観察・調査
梨山風景區入山。昨年引き返した崩落現場も修復されて無事通過。
環山着
泰雅(タイヤル)族文物館に到着。荷物を下ろす。西澤顧問から小林淑子(詹秀美)さんの紹介。
小林淑子さんの挨拶の後、各自荷物整理。
淑子さんの本宅にて夕食
泰雅族文物館にて歓迎の宴。
タイヤル語を教わり、淑子さんのご家族やタイヤルの人たちから歓迎の歌や踊りが披露される。
泰雅族文物館 2F に床が敷かれ、各自就寝
第 3 日目 8 月 5 日(土) 晴れ
7:30
8:30
17:00
18:30
早朝より各班、調査を行う。
朝食。各班、行動予定を発表。
各班調査を開始。司界蘭(スケラン)渓や環山集落内を中心に行う。昼食は班ごとで。
調査を終え、宿舎に戻る。
夕食。各班の調査報告。明日の行動日程について連絡。
第 4 日目 8 月 6 日(日) 晴れ
早朝より各班、調査を行う。
7:30 朝食。本日の行動予定確認。
8:30 マイクロバスにて本隊は梨山へ出発。魚類班は午前、司界蘭渓の調査。
10:40 大兎嶺に到着。休憩。
12:22 梨山着。昼食(玉米)を購入。
13:30 環山到着。魚類班と合流して武陵農場へ。
14:07 武陵物費站着。バスから下車。
14:26 武陵山荘から各自、調査。
17:10 調査の収穫を得て、帰路につく。
観魚台にて櫻花鉤吻鮭(ヤマメ)を観察。
18:00 泰雅族文物館着。
19:30 夕食。環山最後の晩を淑子さんと久江さんと歌を歌って、別れを惜しむ。
食後、各自、荷物の整理、調査のまとめ。
第 5 日目 8 月 7 日(月) 晴れ
6:30
7:30
9:15
10:45
11:54
13:46
15:35
18:15
20:03
21:25
朝食。泰雅族文物館にて記念撮影。
環山発。途中、雪山を見ながら進む。
南山にて休憩。
宜蘭市に入る。
海鮮餐廳にて昼食。
澳底仁和宮にて休憩。新聞にて、台風が三つも近づいていることを知る。
中華工藝館にて買い物。台北植物園にて調査。
答礼晩餐会。郭先生ご夫妻、張先生、李さん(バス運転手)に感謝しての夕食。土屋団長より挨拶
台北市内の観光。書店に立ち寄る。台北 101 のビルが前に見える。
劍潭海外青年活動中心着。各自入室。
希望者は夜市見学など。郭先生ご夫妻、林先生ご家族と交流会
第 6 日目 8 月 8 日(火) 晴れ
7:00 宿舎にて朝食。その後、調査班ごとの行動。
台北植物園、劍潭付近の池や川、士林国民小学校(芝山厳学堂を継承する小学校)など調査。
10:00
10:50
11:35
12:25
14:20
18:30
宿舎に全員集合。荷物の積み込み。記念撮影。
郭先生ご夫妻、張先生と昼食
台北出発
中正空港着。搭乗手続き。解団式。土屋団長、郭先生より挨拶
台北発
成田空港着【時差:+1 時間】
4 調査内容の概要
調査は、昆虫、植物、鳥類、魚類、陸水、民族の専門分野ごとに行われた。
(1)昆虫
梨山で雪山遠望予定が駐車場の都合で結論的に大兎嶺までのドライブとなり車
窓観察となった。山地急斜面の高原野菜栽培地が台風による崩落、道路の崩れ
の、その復旧活動中に遭遇、工事信号の停止で車窓より「有骨消に群がる蝶」を
発見、直ちに全員下車撮影開始、アメシロの大発生を思わせる蝶の軍団を観察す
る機会に恵まれた。武陵農場でも川筋の林内で「有骨消に群がる蝶」に再会する
ことができた。小林淑子女史宅での夜間観察は、初日に「巨豹紋尺蛾」が所狭しと
押し寄せた。夜半過ぎに月の明暗と共に「ヤママユ・青黄枯葉蛾・烏麗燈蛾・ウン
モンスズメ・モンシロモドキ・シロスジヒトリモドキ」等が数頭飛来した。
(2)植物
植物班にとって、今回の環山、梨山、武陵農場は、夏の高山を観察
するに相応しい調査地だったといえよう。日本の山間地を思わせるよ
うな植生。アカマツなどの針葉樹やケヤキなどの広葉樹の林床にはタ
イワンホトトギス(台湾油點草)、ヒヨドリバナ属(島田氏澤蘭)など花や実
を付けた植物が数多く観察できた。
また、武陵農場では 2 種類のラン科が観察できた。シュスラン属 sp
とムカゴソウ(脚根蘭)である。ムカゴソウは花が観察できたがシュスラ
ン属 sp は、まだ、つぼみだったため同定できず残念だった。
《ムカゴソウの花》
(3)鳥類 『台北のゴシキドリ』
台北市にある「台湾省林業試験所植物園」を訪れた。第 8 次の調査地「環山」(標高
1650m)に比べると、大都会の台北は蒸し暑い。しかし、植物園は緑が豊富で、オアシス
のような所である。
その中の遊歩道を歩いていると、一本の枯れ木に向かって望遠レンズを向けている
カメラマンに出会った。早速、佐野顧問が「你好!」と、得意の中国語で話しかけた。す
ると、そのカメラマンは、枯れ木を指さして何やら話をしてくる。彼が指さした方向には、
一つの小さな樹洞が見えた。
と…突然、その中から一羽の鳥が姿を見せたのである。それは、巣立ち直前のゴシキ
ドリ<五色鳥>のヒナであった。台湾の代表的な鳥「ゴシキドリ」は、緑の体に水色の
頭、黄色の口元など、とてもカラフルな鳥である。慌てて我々もカメラを構えた。
(4)魚類 『国宝魚台湾ヤマメの確認』
氷河期の生き残りである台湾ヤマメ(櫻花鉤吻鮭)は今回の調査地である環山
(標高 1700m)より上流の冷水域のみに生息している。この魚は台湾固有種で台
湾において陸封され進化してきた。台湾でのサケ科魚類は外来種ニジマス以外
には、この台湾ヤマメしか生息しておらず、国宝として大切に保護されている。今
回の調査では、この魚の生息と台湾の国をあげての保護の様子を確認すること
ができた。
『大甲渓水域の魚類』
すばらしい渓相の続く大甲渓だったが、2 種類の魚類を確認することしかで き
なかった。魚魚は石の表面についている藻類を主に食べており川虫などのエサ
が少ない環境でも多くの個体を確認できた。台湾ヤマメは支流の七家湾渓で厳
重に保護されており、橋の上からでも泳ぐ姿がわかるほど数多くの個体を確認で
きた。調査全体を通して気になったのは、すばらしい渓流であるにもかかわらず、
川虫や魚類の種類が少なすぎることだった。原因として考えられるのは流域に広
がるキャベツ畑や梨畑からの農薬の流入である。保護されている七家湾渓以外
では大規模な農場が連続しており、森林は伐採されている。そして使用されてい
る消毒や肥料が生息している虫や魚たちに少なからず影響しているだろうと考え
られる。
(5)陸水 『川の環境について』
台湾の河川環境は、日本の環境と異なり、粘板岩と砂岩の河原であった。海から入った河原は広く、スイカとキャベ
ツ畑になっていた。環山へ向かうにつれて、山の斜面は急になり崩落が多くなった。急な山肌の間を巡る環山の大甲
渓と支流の司界渓の環境について、調べることができた。
川は少し濁っていて、透明ではない。川の水質は、COD では、支
流の司界渓の値は 5(mg/l)に近く、本流の大甲渓では 0(mg/l)であ
った。また、支流が、アルカリ性に傾いた水であった。
水生昆虫は、シロタニガワカゲロウ、コグサアミメカワゲラ属の仲間と
思われる幼虫が、確認できた。 大甲渓と司界渓では、カゲロウやカワ
ゲラのでる頻度が若干違うように考えられる。河原には、コセンダング
サ、オオアレチノギクなど帰化植物が覆い、大変あれた状況である。
(6)民族 『台湾環山タイヤル族の生活と文化』
今回宿泊を含めてお世話いただいた詹秀美さん(日本名小林淑子)の自宅隣はタイヤル(泰雅)族文物館となって
いた。中には石屋根の家と粟の倉庫が残され、それに伴う狩猟・漁労・焼き畑農耕関係の民具が保存・展示されて
いるのを調査することができた。
家は 120 年の歴史をもつ建物で、集落の下を流れる大甲渓の河岸から採
取してきた千枚岩で屋根を葺いた板壁の家で、タイヤル語でムヤウバトノフ
(石の家の意)という。こうした伝統的な生活も、1960 年に開通した中部横貫
公路によって山地の村と台中・宜蘭などの都市とが結ばれたことによって、
商品作物としての梨栽培が始まり、それに伴う現金収入によって近代的な家
屋に変わり、生活も大きく変貌した。しかし、タイヤル族独特の歌や踊り、民
族衣装などは大事にその伝統を守っており、現地入りした夜、我々もその踊
りで大歓迎された。
《歓迎会でのタイヤル族の踊りと民族衣装》
5 おわりに
今回は台風接近もなく、終日晴れ間が続き、野外の調査には最適な環境でした。来年度も続けていく予定です。
初めての方も大歓迎ですので、是非、ご参加ください。