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モーニングカンファレンス 2015.9.10
当院における
大腸ステント留置術の現況
高松赤十字病院 消化器内科
松中寿浩 柴峠光成 野田晃世 荒澤壮一
出田雅子 久保敦司 小川 力 玉置敬之
自己拡張型金属製ステント
(self-expamdable metallic stent :SEMS)
血管・気管・消化管・胆管などの狭窄部を内側から広げるために用いられる、
金属製の網状の筒。カテーテルや内視鏡を使って目的の場所まで挿入し、留
置する。狭心症、脳梗塞、癌(がん)による狭窄などの治療に用いられる。
内視鏡を用いて、がんにより狭く
なった箇所に透視下に、ガイドワイヤー
を用いてステントを進め、その場所
でチューブから出して広げる。広が
ると径は20mm程度となる。
臓器別の専用のステントを使うことで、手技は比較的容易で、通常の内視鏡検
査とほぼ同じ程度の短時間(20分程度)で終了することができる。
悪性消化管閉塞に対するステント療法
悪性腫瘍の進行に伴い食道、胃・十二指腸、大腸に狭窄を来たした病態
ステントデリバリーシステムの発展→低侵襲な内視鏡的ステント留置術が可能
• 1995年 食道ステント
• 2010年 胃・十二指腸ステント
手術不能
緩和目的
+
• 2012年 大腸ステント
緊急手術
回避目的
大腸悪性狭窄
✔
従来、大腸悪性狭窄による大腸イレウスに対し、
緊急減圧:経肛門的イレウスチューブ留置
人工肛門造設術
→待機的に手術→著しくQOLを下げる。
✔
2012年1月より、本邦にて大腸ステントが保険収載されて以来、患者QOL
の向上に有用であることや安全性が、数々報告されてきている。
✔
一方、大腸ステント留置術は、食道/胃・十二指腸ステント療法と比べ、緊
急性、合併症が高く、大腸ステント安全手技研究会を中心に、安全に処
置を行えるように啓蒙、普及がなされてきた。
✔
当院でも消化器外科からの強い要望もあり、大腸ステント療法を導入。
2012年5月から2015年6月まで、当院で経験した9例について報告する。
大腸ステント安全留置のためのミニガイドライン
大腸ステント安全手技研究会
・適応
・穿孔を伴わない悪性大腸狭窄症
・術前処置(Bridge to surgery ; BTS):緊急手術回避
・緩和目的(palliative care):人工肛門を作らない
・適応外
・長い狭窄・複雑な狭窄
・出血・炎症を伴う
・肛門縁に近い下部狭窄
・閉塞症状を伴わない、内視鏡が通過可能な狭窄の予防留置
・偶発症が高い
穿孔率 5%、逸脱率 10%、死亡率 0.5%
Saida Y, et al. Dis Colon Rectum 2003;46(10 Suppl):S44-S49
The ColoRectal Obstruction Scoring System : CROSS(大腸閉塞スコア)
大腸ステント安全手技研究会
Level of oral intake
継続的な腸管減圧を要する
Requiring continuous decompressive procedure
Score
0
経口摂取不能
1
No oral intake
水分、経腸栄養剤もしくは完全流動食*が摂取可能
Liquid or enteral nutrient
食事(低残渣/粥/普通食)摂取可能で、腸管閉塞症状あり
Soft solids, low-residue, and full diet with symptoms of strcture†
食事(低残渣/粥/普通食)摂取可能で、腸管閉塞症状なし
Soft solids, low-residue, and full diet without symptoms of stricture†
2
3
4
*完全流動食とは、ストローなどで飲める状態のものを指す
†symptoms of stricture contain abdominal pain/cramps, abdominal distension, nausea,
vomiting, constipation, and diarrhea which are related to gastrointestinal transit.
(狭窄症状とは、食事により引き起こされる、腹痛、腹部膨満、悪心、嘔吐、便秘および 下痢を指す)
当院での大腸ステント留置術例
2012.5月~2015.6月:9例
・対象 ・閉塞症状(便秘、腹痛)あり
・CTにて、大腸癌が原因と判断できる大腸イレウス
・外科とも協議のうえバックアップ
・内視鏡が通過できない。
・目的:Bridge To Surgery:5例
Palliative care:4例
・年齢:平均 77才 (64-90才)
・性別:男性6名:女性3名
・狭窄部位:
上行:1
横行:2
下行:1
S状:3
直腸:2
当院での大腸ステント留置術例
結果
・技術的成功率:77% (7/9)
BTS: 80% (4/5)
Palliative: 75% (3/4)
・手技に伴う有害事象:なし
・術後合併症:なし
成功
不成功
CROSS評価(処置前と1週間後の摂食状況)
BTS 4例
4
3
2
1
0
Palliative 3例
4
3
2
1
0
前
後
前
後
Bridge To Surgery:5例の詳細
Case 年齢 性別 盲腸径
処置
まで
部位
ステ
ント
規格
食事
開始
CS
再検
手術
術後
手術
Stage
まで
在院
―
―
―
7日
開腹 (16日) (IIIa)
1
81
M
6cm
3日
T
―
2
67
F
5cm
2日
S
Wall
22mm
3日
6cm
6日
12日
腹腔
14日
鏡下
IIIb
3
76
F
8.3cm
0日
S
Wall
22mm
5日
6cm
14日
18日
腹腔
20日
鏡下
IIIa
4
75
M
10cm
1日
Rs
Niti-S
18mm
3日
6cm
14日
31日
腹腔
41日
鏡下
IV
5
85
M
7.2cm
1日
D(脾) Niti-S
22mm
4日
12cm
4日
10日
腹腔
13日
鏡下
II
平均
76
7.3cm 1.4日
3.8日 9.5日 17.8日
22日
症例提示1.BTS 不成功例
症例 :81才 男性
現病歴:1週間続く便秘、腹部膨満、下腹部痛にて救急紹介来院。
腹部CT:横行結腸に、内腔を閉塞する腫瘍あり。
口側の上行結腸から回腸が著明に拡張
→横行結腸癌による大腸イレウスと診断
・受診が週末夜にて、経鼻イレウス管を留置し減圧開始
・第4病日に、大腸ステント留置術を試行
→直腸からS状結腸に硬便が多量にあり、scopeの可動制限あり断念。
経鼻イレウス管にてイレウス症状は改善。
・第9病日 右側結腸切除術+D3郭清
・術後第16病日に軽快退院。
T3(ss), N1, M0 f StageIIIa
症例提示2
大腸ステント留置後の深部大腸評価により
他病変が見つかった一例
症例 :67才 女性
現病歴:1週間続く便秘、腹部膨満、下腹部痛にて来院。
腹部CT:S状結腸に、不整な壁肥厚をみとめ、内腔は閉塞。
口側結腸には、残渣とガスで著明に拡張
→S状結腸癌による大腸イレウスと診断
第3病日 内視鏡的大腸ステント留置術
CF-H260AI
S状結腸に2型全周性狭窄
生検後、肛門側にクリップ
造影カニューラ(MTW)
ガイドワイヤー(0.035 Jagwire)
狭窄長を4cmと判断
WallFlex 22mm 6cm
ステント留置後の全大腸内視鏡(1週間後 PCF-PQ260L)
10cm口側に同時性癌 :1型 20mm大(高分化型腺癌)
・結腸癌の5%程度に、同時性癌が合併している。
・ステントの逸脱を防ぐため、留置後1週間以上空ける。
・細径PCF-PQ260Lがおすすめ
病理結果:ステント口側に潰瘍
・ステント留置Day12: 腹腔鏡下左半結腸切除術+D3郭清
2型 81×45mm, tub2, pT3(SS) + 1型 21×18mm, tub2, pT2(MP)
→T3(SS), N2, M0 fStageIIIb
・術後 Day14に軽快退院
ステント口側フレア部分で、UL-IVに相当する潰瘍性病変
Axial Forceの強く、フレアのあるWall Flexに多い傾向、 S状結腸に多い
Palliative care:4例の詳細
Case 年齢 性別
理由
部位
ステン
ト
規格
食事
開始
転帰
25mm
9cm
―
9日
肺炎死
1
82
M
腎不全
呼吸不全
A
Wall
2
64
M
上行結腸癌術後
腹膜播種
T
Niti-S
3
76
M
S状結腸癌
多発肝転移
S
―
―
―
4
90
F
超高齢
治療拒否
Ra
Wall
22mm
9cm
4日
22mm
10日
6+10cm
手術
まで
手術
25日
3日
軽快退院
人工
肛門
30日
原病死
2ヵ月
存命
処置時の穿孔を防ぐために
✔
屈曲狭窄部位への到達、正面視の
ための内視鏡選択
✔
慎重なガイドワイヤー操作
✔
適切なステントの選択
Through The Scope法の内視鏡の選択
●CF-H260AI, CF-H290I
22mm径ステント留置:鉗子チャンネル径 3.7mm以上が必要
→先端径13.2mm:屈曲部狭窄の正面視が困難
●GIF-Q260J , PCF-H290I (送水機能あり),
18mm径のNiti-S ステント:鉗子チャンネル径 3.2mmで可能
→先端径9.9mm :先端弯曲も小さく有用
●GIF-XP260N
上記いずれでもガイドワイヤー突破が不可能の場合
GIF-XP260N
PCF-H290I
CF-H290I
GIF-Q260J
ステントの選択
WallFlex 大腸用ステント
(Boston scientific )
2012. 1月 保険収載
径 :25mm ,22mm
長さ:6cm, 9cm, 12cm
らせん状に編み込み
約50%のshorting(長軸に伸びる)
→再収納、位置調性可能
直線化しやすい(Axial Forceが強い)
口側がフレア
Niti-S 大腸用ステント
(Century medical)
2013. 7月 保険収載
径 :22mm ,18mm
長さ:6cm, 8cm,10cm, 12cm
網状に交互に編み込み
約25%のshorting
柔軟(Axial Forceが弱い)
屈曲部に無理なく留置(長めを選択)
透視で見えにくい
当院では、緊急用に常備:Wall Flex 22mm/6cm, Niti-S 18mm/8cm
まとめ
✔
大腸ステント留置術は、BTS, 緩和目的いずれにも、患
者のQOLを高め有用であり比較的安全に行える。
✔
安全に手技を成功させるためには、狭窄部位に応じた
ステントの特長を理解し選択する必要がある。
症例提示 3
狭窄部をガイドワイヤーが突破できな
かったpalliative 例
症例 : 76才、男性
現病歴: 便潜血陽性、体重減少を主訴に
当科受診。
大腸内視鏡検査、胸腹部CTにて、
S状結腸癌、多発肝転移と診断。
積極的化学療法をおすすめする
も希望されず、ラドン療法を選択。
初診から8ヵ月後、便秘、腹痛、
嘔吐を主訴に救急外来受診。
腹部CTにて、S状結腸癌増大によ
る大腸イレウスと診断。
SDJに、不整な腫瘍を認め
口側が著明に拡張
症例提示 3
狭窄部をガイドワイヤーが突破できな
かったpalliative 例
・大腸ステント留置術の適応ありと判断し希望されたため第3病日に施行。
SDJで屈曲が強く、内視鏡の軸が合わずGWが狭窄部を突破できず断念。
・同日、経鼻イレウス管留置。
・さらに3日後に人工肛門造設術施行。
・術翌日にイレウス管抜去し、術後3日目より経口摂取開始。
・術後25日目に軽快退院。
現在、2ヵ月外来通院中。
CF-H260I
MTW
VisiGlide, Jag Dreamwire
安全に手技を行うための取り組み
大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインから抜粋
・腸閉塞発症例は、できるだけ早期に導入を検討する。
・CO2送気下で施行する。
・ガイドワイヤーが通過しにくい場合は、内視鏡への先端アタッチメ
ント装着や細径内視鏡、上部消化管用内視鏡への変更。
・逸脱のリスクがあるため、閉塞症状のない症例や細径内視鏡
が通過できる狭窄には、予防的留置は行わない。
大腸ステント留置術の問題点
大腸ステント安全手技研究会HPから引用
・大腸ステントBTS(左側結腸閉塞)で長期予後の悪化があるとの論文
(Annals of Surgery. 2013)
→2014年欧州消化器内視鏡学会(ESGE)が左側閉塞性大腸癌への標準治療と
しての術前ステント留置:BTSは推奨できないとの声明
大腸ステントの留置に伴い一定の率で発生する穿孔が局所再発や腹膜播種を
惹起する可能性が高いために推奨できないとしている。
→ステント留置自体の成績が問題
・一方、本邦では、大腸ステント安全手技研究会が施行した2つの多施設共同前向
き研究では、高い成功率と低い穿孔率が示されている。
・WallFlex/BTSおよびNiti-S短期の有効性に対する多施設前向き試験結果が発表された。