子宮内膜癌の術中迅速病理 診断による低リスク群

熱き思いシリーズ②
~子宮体癌にかける熱き思い~
子宮内膜癌の術中迅速病理
診断による低リスク群診断の
評価に関する検討
鹿児島大学病院
九州がんセンター
簗詰伸太郎
齋藤俊章
研究背景
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子宮内膜癌に対する手術療法は、単純子宮全摘術+両側
付属器摘出術が標準的手術であり、骨盤および傍大動脈
リンパ節郭清は進行期の決定と術後療法の決定に必要と
されている。
近年の報告では、早期子宮体癌における系統的リンパ節
郭清の延命効果は認められなかった。
リンパ節郭清に伴うリンパ浮腫などの合併症の軽減のた
め、早期症例においては手術の縮小化が図られるべきで
ある。
しかし、術中迅速診断(FS)によるリスク診断は必ずしも正
確ではない。
FSの精度に関する研究は比較的少ない。
目的
FSによるリスク診断について腫瘍径(TD)が及ぼ
す影響を検討し、リンパ節郭清省略の条件を明ら
かにする。
リスク診断は、低リスク群:筋層浸潤1/2未満かつ
分化度1-2、中高リスク群:低リスク以外に分類
した。
対象
1997年10月から2007年12月までの期間に九州
がんセンターで子宮内膜癌の診断で子宮全摘術
を行った症例のうち、術前の画像診断で子宮外
病変が明らかでない228例。
方法
手術時に摘出子宮の病巣中央部に縦切開を加え切片を切り出し、
液体窒素法による凍結切片を用いて術中迅速組織診を行った。
• 肉眼的腫瘍の最長径を計測
した。筋層浸潤が確認されない
場合は、追加切り出しした。
• FSと永久診断の一致率の
評価にKappa値を用いた。
• 腫瘍径ごとの精度の傾向分析
にはJonckheere-Terpstraテスト
を用いた。
検討項目
|
腫瘍径
(TD≦3cm、3cm<TD≦6cm、6cm<TD)
迅速診断及び永久診断
| 組織型 (類内膜腺癌、それ以外)
| リスク分類 (低リスク、中-高リスク)
分化度 (G1,2,3)
筋層浸潤 (なし、1/2未満、1/2以上)
| リンパ節転移 (あり、なし)
対象症例の特徴
症例数
腫瘍径(中央値±SD)
症例数
35±41.5mm
筋層浸潤
FIGO
stage
腫瘍なしor 浸潤なし
1
179
2
5
< 1/2
112
3
41
≧1/2
54
4
3
組織型 類内膜腺癌
腫瘍なし
7
リンパ節転移
あり
16
なし
179
分化度 1
110
2
69
低リスク群
3
32
中高リスク群
類内膜腺癌以外
10
低リスク群;筋層浸潤1/2未満で分化度1-2
62
リスク群
149
79
結果(1)
筋層浸潤 ½未満の診断精度
Tumor diameter
TD≦ 3cm
3cm< TD≦ 6cm
6cm< TD
Jonckheere-Terpstra
n(%)
感度
特異度
正確度
94
67
67
100
100
100
p=1.000
71.4
66.7
62.5
p=0.640
97.9
92.5
82.1
p=0.000
陽性的中率 陰性的中率
97.8
91.2
74.5
p=0.000
100
100
100
p=1.000
筋層浸潤1/2未満に対するFSの陽性的中率及び、
正確度は腫瘍径が小さくなるに従い有意に高くなる
傾向を認めた。
結果(2)
分化度1-2の診断精度
Tumor diameter
n(%)
TD≦ 3cm
3cm< TD≦ 6cm
6cm< TD
Jonckheere-Terpstra test
81
67
67
感度
特異度
正確性
陽性的中率
陰性的中率
98.6
94.4
96.0
p=0.379
75.0
38.5
76.5
p=0.675
95.1
83.6
91.0
p=0.320
95.8
86.4
92.3
p=0.356
90.0
62.5
86.7
p=0.580
分化度1-2に対する迅速診断の陽性的中率及び
正確度は、腫瘍径に有意な相関は認めなかった。
しかし、TD≦3cmでの正確性は比較的高値であった。
結果(3)
低リスク群の診断精度 (1)
低リスク群;筋層浸潤1/2未満で分化度1-2
TD≦3cm
迅速診断
低リスク予備群
中高リスク予備群
3cm<TD≦6cm
迅速診断
低リスク予備群
中高リスク予備群
6cm<TD
迅速診断
低リスク予備群
中高リスク予備群
永久診断 (%)
中高リスク群
低リスク群
75 (93.8)
0 (0.0)
5 (6.2)
14 (100)
Kappa rate=0.817
永久診断 (%)
中高リスク群
低リスク群
43 (81.1)
2 (14.3)
10 (18.9)
12 (85.7)
Kappa rate=0.552
永久診断 (%)
中高リスク群
低リスク群
28 (75.7)
1 (3.3)
9 (24.3)
29 (96.7)
Kappa rate=0.706
結果(3)
低リスク群の診断精度 (2)
Tumor diameter
n
TD≦3cm
3cm<TD≦6cm
6cm<TD
Jonckheere-Terpstra test
94
67
67
感度 (%) 特異度 (%) 正確度 (%) 陽性的中率(%) 陰性的中率(%)
100
95.6
96.6
p=0.118
73.7
54.5
76.3
p=0.485
94.7
82.1
85.1
p=0.036
93.8
81.1
75.7
p=0.004
100.0
85.7
96.7
p=0.939
FSにおける、筋層浸潤及び、分化度を合わせた低リスク
群(筋層浸潤1/2未満かつ分化度1-2)の診断の正確性
は腫瘍径が小さくなるにつれて有意に高くなる傾向を認めた。
結果(3)
迅速診断のリスク評価と腫瘍径の関係
迅速診断
低リスク群
中高リスク群
Tumor diameter
1cm≧
2cm≧
3cm≧
4cm≧
5cm≧
6cm≧
6cm<
All
リンパ節陽性 /症例数
0/12
0/36
0/55
2/86
2/98
2/107
3/36
5/143
リンパ節陽性 /症例数
0/0
0/3
2/10
2/15
3/19
6/24
5/28
11/52
結果のまとめ
筋層浸潤(1/2未満)、分化度(grade1-2)に
対するFSの正確性は腫瘍径3cm以下で
高値であった。
| 低リスク群に対するFSの正確性は腫瘍径
3cm以下で94.7%と高値であったが腫瘍
が大きい程、有意に低下した。
| 腫瘍径3cm以下において、FSにおける低
リスク群でのリンパ節転移は認めなかった。
|
考察
子宮体癌の迅速診断において、腫瘍
径3cm以下の場合、正確に低リスク群
を抽出することができ、さらには安全に
リンパ節郭清を省略することが可能と
考えられた。
結果(3)
迅速診断のリスク評価と腫瘍径の関係
Tumor diameter
1cm≧
2cm≧
3cm≧
4cm≧
5cm≧
6cm≧
6cm<
All
Frozen section diagnosis
Low risk predictor
Intermediate-high risk predictor
Number
Number
positive/total
positive/total
0/12
0/36
0/55
2/86
2/98
2/107
3/36
5/143
0/0
0/3
2/10
2/15
3/19
6/24
5/28
11/52
腫瘍径(中央値±SD)
35±41.5mm
筋層浸潤
FIGO stage
179 (78.5)
腫瘍なしor 浸潤なし
1
62 (27.2)
2
5 (2.2)
< 1/2
112 (49.1)
3
41 (18.0)
≧1/2
54 (23.7)
リンパ節転移
組織型 類内膜腺癌
腫瘍なし
7 (3.1)
あり
16 (7.0)
なし
179 (78.5)
分化度 1
110 (48.2)
2
69 (30.3)
低リスク群
3
32 (14.0)
中高リスク群
類内膜腺癌以外 10 (4.4)
低リスク群;筋層浸潤1/2未満で分化度1-2
リスク群
149 (65.4)
79 (34.6)