講演1 口腔悪性腫瘍の画像診断の展望 ー 臨床腫瘍学・外科治療的見方を続けて ー 昭和大学歯学部歯科放射線学教室 木村幸紀 第20回 SORA臨床放射線研究会 2003年2月15日 東京 本学における原発性口腔癌の頻度 − 画像診断例(1990年6月〜2002年12月) − ・舌 癌 ・ 下顎歯肉癌 ・ 上顎歯肉癌 ・ 口腔底癌 ・ 頬粘膜癌 ・ 顎骨中心性癌? 200例 (42.6%) 91例 (19.1%) 63例 (13.2%) 63例 (13.2%) 51例 (10.7%) 8例 ( 2.7%) 合計 476 例 本日のコンテンツ 1.口腔扁平上皮癌原発巣の画像診断 舌癌,下顎歯肉癌,上顎歯肉癌 2.その他の口腔悪性腫瘍の画像診断 肉腫,転移癌(他臓器癌) 時間があれば・・・ 3.口腔扁平上皮癌の所属リンパ節 (頸部リンパ節)転移の画像診断 舌癌の画像診断 1.進展範囲の把握:治療範囲の設定 2.舌癌の頸部リンパ節転移 ・ 潜在性転移の早期発見 3.深達度(浸潤の深さ)の分類 ・ 筋層浸潤の有無 →転移の予測 4.局所再発の発見とその解釈 ・ 口底部再発 or 舌リンパ節転移 舌癌の画像診断 32歳・男性,T3N1M0 1999年10月 舌神経浸潤は? 舌癌の筋層浸潤とリンパ節転移 ・ 浸潤の深い大きな舌癌の予後の悪さは予測できる。 T1N0M0 のような小さな癌でも予後は楽観できない。 40歳・男性,整形外科医 (癌研症例) 6mm 3mm 93年4月 筋層浸潤あり 術後5か月で リンパ節転移, 11か月後に 口底部再発, 3か月後には 頸部再発す。 合計7回の 手術も空しく 2年10か月で 腫瘍死。 下顎歯肉癌の画像診断 1.下顎歯肉癌の分類 ・ 下顎管分類 : 深さの目安,旁神経浸潤は? ・ 軟組織進展の分類 ← 軟組織再発が多い ・ 骨内進展範囲の把握 → dental CT,MRI 2.下顎歯肉癌の性質を捉えた診断 ・ 舟底型(皿型) : 緩慢な発育 → シンプルな治療 ・ 浸潤型 ・ 虫喰い型 : 悪玉である → アグレッシヴな治療 下顎歯肉癌の 舟底型(皿型)浸潤 歯肉癌の中では 境界明瞭な辺縁 55歳・女性,T2N0M0,1993年12月 オトガイ孔 オトガイ孔 オトガイ孔 下顎歯肉癌の浸潤型浸潤 57歳・女性, T3N0M0 93年8月 境界不明瞭 下顎管 下顎管 下顎管 下顎管 下顎管 下顎歯肉癌の虫喰い型浸潤 上眼窩裂で 再発した後, 頭蓋内進展 1990年8月 55歳・男性, T1N0M0 1989年12月 小骨片残存 (喰い残し像) 下顎管浸潤? 1990年8月 上顎歯肉癌の画像診断 1.上顎歯肉癌の分類 ・ 洞底分類(99年 独協医大口外):T4 は洞内進展 ・ 洞内チョロでもT4?→ 軟組織進展の分類も ・ 上顎洞癌との鑑別:T4 v.s.T2,3 では予後に大差? 2.上顎歯肉癌の頸部リンパ節転移 ・ 対側転移が高頻度 : 下顎歯肉癌との違い ・ 咽頭後リンパ節転移 上顎歯肉癌の対側リンパ節転 移 術後4か月 64歳・女性,T2N0M0, 1990年5月 91歳・男性,T2N0M0, 1990年8月 治療後2か月 上顎歯肉癌の洞底分類 洞癌 (T3N0M0) 75歳・女性 1991年11月 73歳・女性,T3N0M0, 1992年8月 洞底線の淡化 洞底線の淡化 顎骨中心性扁平上皮癌の画像診断 1.顎骨内潜在癌の発見 ・ 下(口)唇の麻痺→下顎神経の旁神経浸潤は? ・ う蝕のない歯痛 →上下顎神経の旁神経浸潤は? ・ 歯槽歯肉の麻痺 →上下顎神経の旁神経浸潤は? 2.歯肉癌・顎骨骨髄炎との鑑別 ・ 歯肉癌とは予後に差? ・他の組織型の予測 ・ 無意味な消炎療法の防止 3. T分類,Origin を考慮した分類 ・ de nuvo type, 良性病変の癌化型, 予後の予測 顎骨中心性扁平上皮癌の画像診断 顎骨骨髄炎との鑑別点は? T分類は? 86歳・女性,2000年9月,膿瘍合併例 60歳・男性,1993年3月 65歳・男性,2000年4月 67歳・女性,2002年3月 42歳・女性,1997年2月 顎骨中心性扁平上皮癌の画像診断 顎骨嚢胞の癌化型? 54歳・男性,1994年8月 65歳・男性,1990年5月 1 1 12 23 小 括 (1) 口腔扁平上皮癌原発巣の画像診断 − 将来に向けて − ・ 舌 癌 : 筋層浸潤のマイクロ的構造の描出 ・ 下顎歯肉癌 ・ 上顎歯肉癌 T分類の画像学的再考 ・ 顎骨中心性癌 口腔原発扁平上皮癌以外の 悪性腫瘍の画像診断 1.腺様嚢胞癌 2.顎骨骨肉腫 3.転移癌(他臓器癌) 4.悪性リンパ腫など 下顎骨内腺様嚢胞癌の画像診断 49歳・女性,1999年9月 下顎歯槽部粘膜に異常なし 骨内広範性びまん性浸潤 下顎骨内腺様嚢胞癌 下顎管内旁神経浸潤 骨内広範性びまん性浸潤 下顎骨内腺様嚢胞癌の画像診断 旁神経浸潤 骨内広範性 びまん性浸潤 頸神経周囲浸潤 卵円孔浸潤は? 骨肉腫の画像診断 ① 骨造成型 ② 骨融解型 ③ 混合型 ② ・ 骨膜反応検出, 骨髄炎と鑑別を要する 28歳・女性,99年3月 ① 28歳・女性,96年1月 ③ 28歳・男性,93年4月 転移性癌 肺癌の転移 の 画像診断 70歳・女性, 70歳・男性,89年9月 02年11月 甲状腺癌の転移 転移性癌の 画像診断 子宮癌の転移 52歳・女性, 1991年3月 乳癌の転移 39歳・女性,1995年1月 59歳・女性,2000年1月 悪性リンパ腫の画像診断 10歳・男児,94年1月 ・ 浸透性発育 ・ 広汎性転移 骨内浸透性浸潤 広汎性転移 転移性 悪性腫瘍の 画像診断 多発性骨髄腫の両側性下顎骨転移 81歳・男性,90年12月 64歳・男性,92年12月 髄外性形質細胞腫の転移 小 括 (2) 口腔扁平上皮癌以外の悪性腫瘍の画像診断 − 将来に向けて − ・ 口腔内や顎骨内に原発する扁平上皮癌 以外の悪性腫瘍の発生頻度は,極めて 稀れであるため困難ではあるが, 画像所見の特徴を見極めようと努力する ことが重要。 口腔扁平上皮癌の所属リンパ節転移 − 画像診断の意義と modality − ・ 頸部リンパ節転移の有無は,口腔癌の予後に 大きく関わる最も重要な予後因子である。 ・ 造影CT, MRI, US ・ 色素法 ・ アイソトープ ( PET など) 口腔癌の頸部リンパ節後発転移部位と頻度 T 1,2口腔癌(昭和大学症例) 5/25 (20%) 7/25 5/25 (20%) (28%) 3/25 (12%) 7/25 (28%) 3/25 (12%) 2/25 0/25 (8%) (0%) 1/25 (4%) 1/25 (4%) 99年10月 歯科放射線学会総会 頸部リンパ節転移の画像診断 上頸部リンパ節転移 とCT診断 上頸部リンパ節転移とUS診断 61歳・男性,口底癌(T2N1M0),術後9年経過後に発症 口腔扁平上皮癌の稀なリンパ節転移 1.舌リンパ節転移(外側,正中) 2.頬リンパ節転移(前方群,後方群) 3.下顎リンパ節転移 4.耳下腺リンパ節転移 深耳下腺リンパ節 耳下腺下極リンパ節 5.外側咽頭後リンパ節転移 舌癌の舌リンパ節転移 1991年1月 41歳・女性,T3N2bM0 1991年9月 外側舌リンパ節転移とCT診断 頬粘膜癌(T2N0M0)の 頬リンパ節転移 上顎洞癌(T4N0M0)の 頬リンパ節転移 初診時 Case 1 初診時 Case 2 84歳・女性,1993年5月 51歳・男性,1994年3月 上顎歯肉癌(T2N0M0)にみられた異時性の 頬リンパ節転移 と 下顎リンパ節転移 Case 3 75歳・女性,1998年3月 1998年6月(3か月後) 頬粘膜癌の下顎リンパ節転移 (T2N1M0),初診時 Case 2 65歳・男性,1996年5月 (T3N2bM0),術後3か月 Case 3 58歳・女性,1996年2月 耳下腺リンパ節転移の画像診断 深耳下腺リンパ節転移 66歳・女性,頬粘膜癌(T2N2bM0) 原発巣切除+RND後5か月 (90年12月) 59歳・女性,頬粘膜癌(T3N2bM0) 61Gy+原発巣切除+RND後 ( 97年7月) 耳下腺リンパ節転移の画像診断 耳下腺下極 リンパ節転移 86歳・女性,下顎歯肉癌(T2N2cM0) 原発巣と対側頸部に照射後(92年8月) 52歳・女性,左側口底癌(T1N0M0) 59歳・女性,口底癌(T1N2bM0) 口底癌切除+両側頸部郭清後に 対側頸部再発,照射中(93年9月) 口底癌切除術+頸部郭清後に 対側頸部転移。対側頸部郭清 の後に左口底部再発 (94年1月) 上顎歯肉癌の外側咽頭後リンパ節転移 (T2N0M0) Case 1 91歳・男性,1991年1月 (rT2N0M0) Case 2 72歳・女性,1991年5月 上顎洞癌(T3N0M0)の外側咽頭後リンパ節転移 Case 3 60歳・女性,1991年11月 化学療法1クール後(1992年1月) 上顎歯肉癌(rT1N2cM0) の 両側性外側咽頭後リンパ節転移 Case 4 52歳・男性,1993年7月 化学療法1クール後(1994年1月) 上顎歯肉癌(rT1N2cM0) の 両側性外側咽頭後リンパ節転移 Case 4 外照射18Gy後(1994年2月) 局所の効果はみられた。しかし, 多発性肝転移 →1か月後に肝転移死 上顎洞癌(T3N2bM0)の 両側性外側咽頭後リンパ節転移 Case 5 66歳・男性,1994年2月 化学療法2クール後(1994年3月) →1か月後に全身転移にて腫瘍死 口底癌(T1N0M0), 66歳・男性 外側咽頭後リンパ節転移 術後6か月で頸部再発(1993年12月) Case 6 頸部郭清+化療1クール後(1994年9月) 癌性胸膜炎?(95年2月)→9日後に腫瘍死 下顎歯肉癌再発例の 外側咽頭後リンパ節転移 Case 7 64歳・男性,再術後10か月(00年5月) → 6か月後に肺転移死 頬粘膜癌(T2N2bM0)の 外側咽頭後リンパ節転移 Case 8 81歳・男性,術後8か月(01年1月) → 5か月後に肺転移死 原発不明の リンパ節転移 舌癌(T2N0M0) 52歳・男性,1995年2月 右側下顎歯肉癌(T2N0M0) 48歳・男性, 1997年8月 食道癌の食道旁リンパ節転移 食道癌の鎖骨上リンパ節転移 下咽頭癌の リンパ節転移 鎖骨 70歳・男性,99年6月 小 括 (3) 口腔扁平上皮癌リンパ転移の画像診断 −将来に向けて − 1. センチネルリンパ節の概念を口腔癌では どう扱うか。また,どのリンパ節までを みるのか? 2. 診断技術の向上:撮像や診断基準の追求. 3. 扁平上皮癌以外の転移の診断基準の確立. 4. 他臓器悪性腫瘍からの転移の診断. 5. 画像ガイド下による針生検や治療のトライ. 甲状腺乳頭癌リンパ節転移を 合併した下顎歯肉癌症例の 後咽頭間隙内嚢胞様病変 64歳・女性,1992年10月 Fine Needle Aspiration Biopsy 後咽頭隙 81歳・男性, 頬粘膜癌 術後8か月 (01年2月) 扁桃部 59歳・男性, 舌癌術後(99年7月) 側頭下窩 75歳・男性, 下顎歯肉癌 術後6か月 (02年1月) 耳下腺 97年11月 ま と め (1) 1)既診断例のレビュー:過去の反省無くして展望もなし ・ 病変を良く知る, 誤診の原因追求,マニアックでない 2)治療への積極的参入:治療法を支援しうる診断を下す ・放射線治療の計画と実行,外科治療のナビゲ−ション 3)医科技術の取り入れ:医療の進歩の流れに合わせて ・ FNA,PETなど 4)検査法の継承と改善:従来型の検査法の長所を再確認 ・デンタル,パノラマからの機能的診断:虫食い=高悪性 5)画像診断方針の確立:将来の課題 ・ 検査法の継承と改善:唾液腺造影の意義は? ま と め (2) 口腔悪性腫瘍の画像診断 − 将来に向けて の Key Word − 1.機能からみた診断 2.マイクロ的診断 3.遺伝子診断とのリンク → オーダーメイドの画像診断
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