バイオマスを活用した生分解性素材製品の製造及び利用

平成 22 年度
北海道に豊富なバイオマスから生成した生分解性素材
の地域内利用推進調査のうち
バイオマスを活用した生分解性素材製品の
製造及び利用に係る検討調査
報 告 書
【概要版】
1. 調査の背景及び目的 .................................................................... 1
2. 資源利活用モデル ...................................................................... 1
2.1 資源利活用モデルの概要 .............................................................. 1
2.2 資源利活用モデル実現による効果 ...................................................... 2
2.3 資源利活用モデルの実現に向けての課題と解決策 ........................................ 2
2.4 稲わらパルプ緩衝材以外の用途への稲わらパルプの製造 .................................. 3
3.資源利活用モデルの検討に用いた実証試験結果 ............................................. 3
3.1 稲わらパルプ緩衝材の製造実証試験 .................................................... 3
(1) 稲わらパルプの製造 .............................................................. 3
(2) 稲わらパルプ緩衝材の製造 ........................................................ 4
(3) 稲わらパルプ緩衝材製造に係るコスト及びエネルギー使用量 .......................... 4
3.2 稲わらパルプ緩衝材の性能確認実証試験 ................................................ 5
(1) 稲わらパルプ緩衝材の強度に関する計測 ............................................ 5
(2) 稲わらパルプ緩衝材の利用可能性調査 .............................................. 5
(3) 稲わらパルプ緩衝剤の土中での分解性に関する実験 .................................. 6
(4) 稲わらパルプ緩衝材の堆肥化に関する実験 .......................................... 7
4.稲わらパルプ緩衝材の評価 ............................................................... 8
4.1 環境影響評価 ........................................................................ 8
4.2 既存製品との比較による評価 .......................................................... 9
北海道開発局開発監理部開発調査課
1. 調査の背景及び目的
北海道は、豊かな自然環境、雄大な景観を有し、全国にも誇れる優れた環境に恵まれており、この
環境を貴重な財産として次世代に継承していくためには、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄
型の社会から、環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な循環型社会への移行が必要となっている。
北海道においては、農林水産業や食品加工業から発生する廃棄物・副産物等のバイオマスが豊富に
賦存していることから、これらのバイオマスを「資源」として積極的に活用し、地域で発生したもの
は地域内で利活用する(地産地消)という域内資源循環プロセスを確立する必要がある。
これを踏まえ、「バイオマスを活用した生分解性素材製品の製造及び利用に係る検討調査」は、地
域の基幹産業から発生する廃棄物・副産物等のバイオマスから製造した生分解性製品を、農業や生活
において利用し、自然に還元する資源利活用モデルを提示することにより、地域の新たな産業づくり
と資源循環との両立を推進することを目的として、実際にバイオマス(稲わら)を用いて生分解性の
製品(果実用のパルプモールド緩衝材)を試験的に製造し、その製品の利用可能性等を検証するとと
もに、モデル地域において製造・利用する有効性について検討したものである。
2. 資源利活用モデル
2.1 資源利活用モデルの概要
水稲生産地域で発生するバイオマスである稲わらを、生分解性素材であるパルプ(以下「稲わらパ
ルプ」という)とし、それを用いて果実用のパルプモールド緩衝材(以下「稲わらパルプ緩衝材」と
いう)を製造・利用し、利用後の稲わらパルプ緩衝材は地域の生ゴミ等と混合して堆肥化して農業生
産等に用いる「資源利活用モデル」
(図 1)を提案する。
生分解性素材製品としては、平成21年度に実施した「生分解性素材の効率的生産及び利用に係る
検討調査」の結果を踏まえて、稲わらパルプ緩衝材を選定している。
モデル地域として、北海道夕張郡長沼町周辺地域(長沼町・由仁町・南幌町の 3 町とする。
)を設
定した。現状では主として土中に鋤きこまれて処理されている稲わらをバイオマス資源として捉え、
地域において稲わらパルプ緩衝材を製造、利用、処理する。ただし、稲わらパルプ緩衝材への加工は、
地域内に工場がないため、最も近隣にある箇所(青森県上北郡おいらせ町)で行う。
このモデルは、水稲作と果実栽培が行われ、生ゴミの堆肥化処理がなされている他の地域でも応用
できる。
<具体的な概要>
◆北海道を代表する水稲生産地域である長沼町内で発生する乾燥稲わら約 0.9t を、地域内に設置し
た無薬品パルプ製造機械「紙造くん」で処理し、稲わらパルプを製造する。
◆製造した稲わらパルプを青森県上北郡おいらせ町のパルプモールド製造工場に輸送し、その近隣
箇所で収集された古紙パルプと 50%の割合で配合して稲わらパルプ緩衝材を製造する。
◆長沼町周辺地域では、メロン、リンゴ等が生産されていることから、製造した稲わらパルプ緩衝
材を輸送し、長沼町・由仁町・南幌町の果実農家を対象に、果実の販売・流通の際に必要な緩衝
材として販売する(対象果実を 3 町で生産されるりんご及びメロン全量と設定する。)。
◆当該地域では、生ゴミを堆肥化して農家等に販売していることから、農家・小売店等で使用され
た稲わらパルプ緩衝材は、既存のゴミ回収-堆肥化-堆肥販売システムによって堆肥生産センタ
ーに集約され、生ゴミの堆肥化における主資材(堆肥原料)又は副資材(水分調整剤)となる。
-1-
◆こうして稲わらパルプ緩衝材が堆肥として土中に還元され、水稲生産の栄養分として利用される
ことで、資源の循環利用がなされる。なお、一般家庭においては、使用済みの稲わらパルプ緩衝
材を家庭菜園等で土壌に還元利用することも想定される。
図 1 長沼町周辺地域の資源利活用モデル
2.2 資源利活用モデル実現による効果
モデルの実現により、次のような効果が見込まれる。
(1) 地域バイオマス資源の有効利用が図られ、循環型社会の形成に寄与する
(2) 稲わらパルプ緩衝材を使用することで、化石燃料由来(ポリスチレン製)の緩衝材の使用と
比べて、温室効果ガスの発生を軽減(年あたり緩衝材 30,000 枚の製造・利用・処理で
2,472kg-CO2eq)し、地球環境に負荷が少ない農産物の物流を可能にする
(3) 地域に稲わらパルプの製造という新たな産業が創出され、雇用を発生させる(年当たり 30,
000 枚分の稲わらパルプ製造で 34(2 人×17 日)人日分)
2.3 資源利活用モデルの実現に向けての課題と解決策
稲わらパルプ緩衝材は、既存製品(ポリスチレン製の緩衝材)と比較し、環境に負荷をかけないと
いった観点からは優位性がある。ただし、コストや強度については、既存製品と比較して課題が残る。
【課題 1・・・製品の製造実証実験から示された課題】
・稲わらパルプはリグニン等の不純物が比較的多く含んでいるが、稲わらパルプ緩衝材を製造する機
械は、不純物の少ない古紙パルプを前提に各部位が設計・利用されているため、配管等が目づまり
する危険性がある。
-2-
【課題 1 の解決策】
・稲わらパルプに含まれるリグニン等の不純物は、念密な水洗浄によって排除することが必要である。
ただし、水洗浄は、コスト増の要因にもなる。
【課題 2・・・製品の性能確認実証実験から示された課題】
・稲わらパルプ緩衝材の製造コストの試算値は、既製品より高い。(稲わらパルプ緩衝材製造コスト
試算値:54.6 円/1 枚、既製品卸売価格:41 円/1 枚)
なお、54.6 円/1 枚は、稲わらパルプを製造機械を十分に稼働(年間 240 日稼働)させる場合(緩
衝材 41 万枚分のパルプを製造)の減価償却費を考慮した値であり、緩衝材 30,000 枚用のパルプを
製造するのみでは、1 枚当たりの減価償却費の負担が大きくなり、製造コストは更に高くなる。
【課題 2 の解決策】
・稲わらパルプ緩衝材の製造コスト削減のため、製造工程(①稲わらの紙造くんへの投入、②破砕物
の紙造くんへの再投入、③水による洗浄)を全てバッチ式で自動化するシステムを新たに構築する
こと等の検討が必要である。
2.4 稲わらパルプ緩衝材以外の用途への稲わらパルプの製造
上記のとおり、稲わらパルプ緩衝材を利用した資源利活用モデルの実現に向けて、課題と解決策を
示したが、稲わら緩衝材(年間 30,000 枚)のみ製造・利用する資源利活用モデルでは、イニシャル
コストの回収が困難であり実現性は低いと考えられる。このため、より付加価値の高い製品(稲わら
ハガキや封筒)用に稲わらパルプを販売するなども併せて検討することが必要である。
3.資源利活用モデルの検討に用いた実証試験結果
3.1 稲わらパルプ緩衝材の製造実証試験
(1)稲わらパルプの製造
北海道夕張郡長沼町産の乾燥稲わら(約 10kg)を全量、優良パルプ普及協会(埼玉県さいたま市)
に送付し、独自に所有する無薬品パルプ製造機械「紙造くん」を用いて稲わらパルプ約 37kg(含水
率不明)を製造した。無薬品パルプ製造機械「紙造くん」は、機械パルプ製造装置の一種であり、内
部に搭載されたグラインダー(砥石)を用い、水分を加えることで稲わらをパルプ化する機械である。
いわゆる機械式パルプ製造機で製造時に薬品や熱を一切使用しないことが特徴である。
図 2 原料の機械への投入の様子(左)と、製造した稲わらパルプ(右)
-3-
(2)稲わらパルプ緩衝材の製造
製造したパルプ全量はパルプモールドメーカー(O社 K工場:福岡県K町)に送付した後、実験
室レベルでの試験製造(テーブルテスト)を行った。稲わらパルプ 100%で試験的にパルプモールド
を製造した結果、非常に脆い構造となることが明らかとなったが、稲わらパルプに古紙パルプを配合
(原料稲わら配合率 50%(乾燥重量))することで、稲わらパルプ緩衝材を製造することが出来た。
大量生産を考える場合には、工場における最低生産ライン(6,000 枚/1 ロット)を基本に原料の確
保を考え、稲わらパルプの配合率を 10%程度から段階的に配合率を高めていく試験製造を行い、安定
生産可能な配合率を見いだす必要がある。
図 3 原料配合率 50%の稲わらパルプ緩衝材(左)と配合率 100%の稲わらパルプ緩衝材(右)
(3)稲わらパルプ緩衝材製造に係るコスト及びエネルギー使用量
稲わらパルプ緩衝材を製造するための必要コスト(1 ロット=6,000 枚あたり)及びエネルギー使
用量について、優良パルプ普及協会(埼玉県さいたま市)、O社(本社:F県K市)の協力により
調査した結果を踏まえ、以下のとおり、試算した。
稲わらパルプ緩衝材の製造コストは、1 枚当たり 54.6 円と試算した。そのうち、パルプ化のコス
トが 46.8 円/1 枚と大きい。
また、パルプモールド製造に必要となるエネルギーは主として電力と LPG である。
表 1 パルプ化に必要なコスト
項目
ユーティリティ費
メンテナンス費
労務費
原価焼却費
原料費
合計
表 2
割合
コスト(円/年) コスト(円/1ロット)
20.5%
\3,960,000
\57,455
3.1%
\600,000
\8,705
62.0% \12,000,000
\174,107
11.6%
\2,250,000
\32,645
2.8%
\537,600
\7,800
100.0% \19,347,600
\280,713
パルプモールド緩衝材の製造に必要なコスト
項目
原料費
ユーティリティ費
人件費
機械の減価償却費
その他
合計
分類
変動費
固定費
固定費
固定費
固定費
製造コスト(円/パルプモールド1枚あたり)
0.0
10.0
パルプ化 1.3
1.3
2.4
30.0
29.0
2.7
1.3
モールド製造
20.0
40.0
9.6
5.4 1.5
50.0
60.0
46.8
7.8
0.3
全体 2.6
31.4
原料費
人件費
12.2
ユーティリティ費
減価償却費
6.7
1.8
54.6
その他
図 4 稲わらパルプ緩衝材1枚あたりの製造コスト(試算値)
-4-
割合
コスト(円/1ロット)
16.0%
\7,521
34.0%
\15,981
30.0%
\14,101
16.0%
\7,521
4.0%
\1,880
100.0%
\47,003
表 3 パルプ化に必要となるエネルギー
項目
電力
原油
数値
単位
表 4 パルプモールド緩衝材の製造に必要なエネルギー
項目
備考
製造エネルギー
2 kWh/kg 含水率50%パルプ製造に必要な電力(H20実績値)
626.8 kwh/ロット 1ロット(6000枚のパルプモールド)製造に必要な電力
輸送エネルギー
19.3 kg
JEMAI LCA pro(産業技術総合研究所)による試算値
電力
LPG
原油
数値
単位
備考
製造エネルギー
kWh/kg 原料古紙(乾燥重量)1kg使用時に必要な電力
kwh/ロット 1ロット(6000枚のパルプモールド)製造に必要な電力
kg/kg
原料古紙(乾燥重量)1kg使用時に必要なLPG
kg/ロット 1ロット(6000枚のパルプモールド)製造に必要なLPG
輸送エネルギー
19.3 kg
JEMAI LCA pro(産業技術総合研究所)による試算値
0.9
351
0.21
81.9
3.2 稲わらパルプ緩衝材の性能確認実証試験
(1)稲わらパルプ緩衝材の強度に関する計測
試験製造した稲わらパルプ緩衝材について、引張強さ(JIS P8113)及び圧縮強さ(JIS P8126)
を岐阜県産業技術センター紙研究部(岐阜県美濃市前野)の協力により測定した。試験には、試験製
造した稲わらパルプ緩衝材と比較対象用として北海道長沼町のりんご農家で実際に使用されている
古紙パルプ 100%のパルプモールド緩衝材(以下「既成品」とする)を用いた。
試験製造した稲わらパルプモールドは、既成品と比較して、圧縮強さではほぼ同等の強度であった
が、引張強さは既成品の 2/3 程度と、若干脆かった。
表 5
引張試験の結果
表 6
n=10
圧縮試験の結果
試験結果
試験結果
試験項目
引張強さ(N)
(平均値)
試験項目
試作品(稲わら50%配合 既成品(古紙パルプ100%
パルプモールド)
パルプモールド)
32.1
n=5
試作品(稲わら50%配合 既成品(古紙パルプ100%
パルプモールド)
パルプモールド)
圧縮強さ(N)
(平均値)
48.6
37.5
39.2
◆製品の強度に関する計測の結果
・圧縮強さは既成品と比べ同程度の数値を示し、遜色が無かった。
・引張強さは既成品と比べ 2/3 程度と若干低い値を示した。
(2)稲わらパルプ緩衝材の利用可能性調査
本調査で試験製造した稲わらパルプ緩衝材の利用可能性について、北海道夕張郡長沼町内のりんご
農家(3 件)に対して聞き取り調査を実施した(平成 23 年 2 月 16 日)。
その結果、稲わらパルプ緩衝材については、若干の固さが感じられるが、果実表面を損傷するレベ
ルではないため、使用については既成品と比較して遜色が無いという意見が挙げられた。
また、稲わらパルプ緩衝材の購入価格について、既製品と同等の値段であれば、環境影響負荷低減
に寄与するという理由からも利用を検討したいという意見が挙げられた。
図 5 利用可能性調査に使用した稲わらパルプ緩衝剤(左)と既成品(古紙パルプ 100%)(右)
◆製品の利用可能性に関する聞き取り調査で示された意見
・若干表面が固いが、果実表面を損傷するほどではないため使用には差し支えない。
・既成品と同等のコストであれば、環境影響負荷を低減するため導入を検討したい。
-5-
(3)稲わらパルプ緩衝剤の土中での分解性に関する実験
資源利活用モデルにおいて、製造した稲わらパルプモールドの一部は家庭菜園等の土壌に鋤きこま
れ(土壌還元)、分解により、植物の栄養分となることを想定している(一般的に生分解性素材は土
中へ埋没した場合、土中微生物によって最終的に水と二酸化炭素にまで分解される。)。
そこで、試験製造した稲わらパルプ緩衝材の土中での生分解性について調査した。試料は、乾燥し
た稲わらパルプ緩衝材(原料稲わら配合率 50%)と、十分に含水させた稲わらパルプ緩衝材(原料稲
わら配合率 50%)の 2 種類を用意し、それぞれの試料を、一般的な家庭菜園の土壌及び腐葉土を含ん
だ土壌に埋没させた。
埋没させた試料は、一定期間(1 週間)おきに土中から取り出し、目視によりその分解度を観察し
た。なお、試験は平成 22 年 12 月 29 日から平成 23 年 3 月 2 日までの 63 日間(9 週間)実施した。
いずれの試料でも 49 日経過時点で、一定の分解(試料の分断および表面強度の劣化)を確認した。
また、含水した試料は乾燥試料に比べて、初期の分解が進んでいることを確認した。
表 7 稲わらパルプ緩衝材の分解状況(経時変化)
◆製品の土中での生分解性に関する実験で示された結果
・49 日経過時点で全ての試料で目視による一定の分解を確認できた。
・水分を含ませることで土中における初期段階の分解性を高める可能性がある。
-6-
(4)稲わらパルプ緩衝材の堆肥化に関する実験
資源利活用モデルにおいては、生ゴミ等とともに堆肥化することを想定した。
そこで、試験製造した稲わらパルプ緩衝材(原料配合率 50%)を、南空知公衆衛生組合
長沼町堆
肥生産センター(北海道夕張郡長沼町東 5 線北 6)の協力により、実際に堆肥化装置に投入して堆肥
化に支障がないか確認した。なお、当該センター町では、通常、生ゴミの水分調整材として、町内で
発生するもみ殻を用いている。
堆肥化装置へは平成 23 年 3 月 4 日に投入した。
その結果、投入した稲わらパルプ緩衝材は横型パドル式発酵槽以降のトレースが困難となったもの
の、堆肥化は問題なく進行した。また、現在の水分調整材(町内で発生するもみ殻)の代替と考慮す
るならば、年間あたり 1t 程度のを混合しても問題が無いと考えられる。ただし、堆肥生産センター
は通年で稼働していることから、水分調整材として安定的に確保する必要がある。
細かく砕かれた原料
図 6 左上:稲わらパルプ緩衝材(以下原料)
右上:破砕機に投入される原料
左下:細かく砕かれた原料
右下:横型パドル式発酵槽中の原料
◆製品の堆肥化に関する実験で示された結果
・稲わらパルプ緩衝材を堆肥化できることを確認した。
・稲わらパルプ緩衝材を生ゴミ堆肥化の水分調整剤として利用しても、少量(1t 程度まで)な
らば、現状で使用しているもみ殻と同様に用いることが可能である。ただし稲わらパルプ緩
衝材を一度に大量に投入した場合はその限りではなく、C/N 比の調整等が必要となる。
-7-
4.稲わらパルプ緩衝材の評価
稲わらパルプ緩衝材をと既存製品(ポリスチレン製果実用緩衝材)の優位点・劣位点について比較
検討した。
4.1 環境影響評価
稲わらパルプ緩衝材、ポリスチレン製果実用緩衝材それぞれの環境影響評価範囲を以下のように設
定し、それぞれ年あたり 30,000 枚の緩衝材を製造・運搬・処理することによる温室効果ガス排出量
(二酸化炭素換算)をソフトウェア(JEMAI LCA pro 社団法人
産業環境管理協会)を用いて算出
した。その結果、稲わらパルプ緩衝材は、温室効果ガス排出量の面で既存製品である化成品と比較し
て優れていることが明らかとなった。稲わらパルプ緩衝材では、処理プロセス(製品使用後の処分)
における温室効果ガス排出量を無視できること(カーボンニュートラル)が大きな要因である。
輸送①
輸送①
輸送②
輸送②
評価範囲
図 7 環境影響評価の評価範囲
図 8 プロセスごとの温室効果ガス排出量(30,000 枚の果実用緩衝材を対象)
◆環境影響評価の結果
・ 稲わらパルプ緩衝材は処理プロセスにおける二酸化炭素排出量を無視できるため、プロセス全
体で比較した場合、化成品よりも環境影響負荷が小さい。
-8-
4.2 既存製品との比較による評価
稲わらパルプ緩衝材を、一地域において原料調達~運搬~製造~利用~処理することについて、既
存の化成品を調達~利用~処理する場合と比較し、優位点・劣位点について次表に整理した。
表 8
項目
①原料の調達
既存製品(ポリスチレン製果実用緩衝材)との比較による優位点・劣位点
優位点
劣位点
◆バイオマスカスケード利用の促進
稲わらは農家のほ場に鋤きこまれてい
る。パルプモールドの利用・地域内処理
が可能となればバイオマスの地産地消が
実現される。
②運搬
◆運搬距離が比較的短い
米の生産地において稲わらは比較的安定
的に産出され、地域内での収集・運搬は
容易であるため、原料の調達が地域内で
できない既存製品(化成品)と比較し、
運搬距離は比較的短くなる。
③製造
(パルプ製造)
◆バイオマス本来の成分によるパル
プ製造が可能
◆効率的な生産体制が確立していな
い
無薬品パルプ製造には、水しか使用しな
いため、本来のバイオマスを構成する物
質(セルロース等)のみが含有する。よ
って環境負荷への懸念がない。
「紙造くん」は無薬品パルプ製造方法に
おける唯一無二の機械であるが、原料投
入から処理に至るまでがほぼ手動である
ため効率的な生産ができない。
③製造
◆石油以外の原料である
(パルプモールド製造)
原料は無薬品パルプ及び古紙パルプであ
るから石油由来ではない。故に環境負荷
低減に寄与できる。
④利用
◆通気性に優れ、果実の品質保持に
寄与する
◆既存製品と比較して製造コストが割
高である
収穫後の果実は呼吸を続けるため、通気
性は品質保持期間を延長できる可能性が
高い。
無薬品パルプの製造が効率化されていな
いことなどの理由により製造に係るコス
トが高くなる。
⑤処理
◆生分解性素材製品のため、環境負
荷が小さい処理が可能
土中で分解されるため、家庭菜園・ほ場
においても環境負荷の懸念なく処理が可
能である。また生ごみ由来の堆肥生産に
おける主資材(原料)又は副資材(水分
調整剤)として利用可能である。
-9-