精神疾患動態研究チーム Laboratory for Molecular Dynamics of Mental Disorders 躁うつ病の原因はここまでわかった! 研究課題のうち、代表的なものを紹介します。 私たちは、2大精神疾患の一つである躁 うつ病(双極性障害)の原因を明らかにし、 新しい診断法や治療法を開発することを 目指しています。 主なテーマは、「躁うつ病にミトコンドリア によるカルシウム制御メカニズムの障害が 関係している」という仮説に基づく研究、 「DNAマイクロアレイ」という新しい方法で 躁うつ病に関係する遺伝子を直接調べる 研究などです。 チームリーダー 加藤忠史 躁うつ病(双極性障害)とはどんな病気? −100人に1人もの人が発症する、頻度の高い疾患です −社会的に成功した人を突然襲い、躁・うつの繰り返しのた めに人生に大きな影響を与える、重大な疾患です -リチウムなどの予防薬がありますが、副作用が強く、効 果も不十分です −セロトニンなどの神経伝達物質の信号を細胞の中に伝え る働きの異常が関係していると考えられています −発症には遺伝的な体質が関与しますが、一つの遺伝子 の異常で生じる遺伝病とは異なります。 Z g j ‹ E ~ g R h J A V E ミトコンドリアの神経細胞での役割 細胞内のカルシウム濃度は、細胞の外に比べて非常 に低い濃度でコントロールされています。 神経細胞の 突起の先端から出たセロトニンなどの神経伝達物質が 相手の細胞に働いて、その細胞の状態を変化させる時、 この信号を伝える物質の一つが、カルシウムです。 -患者さんの脳ではエネルギー代謝(=ミトコンドリア 機能)が変化している -ミトコンドリア病でうつ病になることがある -患者さんの脳で欠失型のmtDNAが増えている -mtDNAの個人差が躁うつ病と関連している −統合失調症に比べて、まだまだ研究が遅れています 躁うつ病を研究する目標は何でしょうか? -躁うつ病を診断できる検査の開発(今は、主観的な体験 や行動の観察に頼って診断しています) -どの薬が効くのかわからない→検査で薬を選べるように -副作用の少ない予防薬 -今までの薬が効かない患者さんにも効く薬 -偏見が残っている→原因を解明して、脳の病気で、治療 できることをアピールしなければいけない 躁うつ病とセロトニンが関係するというこれまで の説 セロトニン •抗うつ薬 •コカイン •抗精神病薬 •レセルピン =うつを改善 =躁を起こす =躁を改善 =うつを起こす 図1 輪回しをする躁うつ病 モデルマウス 図2 躁うつ病モデルマウス(メ ス)の行動パターン 横軸は時間(24時間)、縦軸が輪 回し行動量を示す。5日毎に行動 量が多くなっている様子がわかる。 なぜミトコンドリアDNA(mtDNA)なの? -ミトコンドリアに存在する短い環状の DNA -ミトコンドリアはエネルギーを作ったり、カルシウム濃 度のコントロールをしている -個人差が大きい -一つの異常が、色々な病気を起こす -DNAを守る機構が未熟なので、変異がおきやすい 仮説に基づく研究 Hypothesis-Driven Approach −精神療法は効きめがなく、リチウムが奏効する、脳の病 気です この遺伝子改変マウスは、輪回し量の周期的な 変化など、躁うつ病によく似た特徴が認められ、躁 うつ病モデル動物としての期待がかかっています。 躁うつ病とミトコンドリアの関係 当チームの研究テーマ −躁うつ病による社会の損害は莫大で、高血圧、糖尿病に 匹敵します −自殺する方が少なくありません (昨年1年間の国内の自 殺者は、3万人以上に及び、交通事故死者の倍以上です) mtDNAを合成する酵素の遺伝子は、核(染色 体)にあります。この遺伝子に、人工的に変異(正 常とは異なった配列)を入れると、この人工的な酵 素は、異常なmtDNAを作るようになります。私たち は、脳の神経細胞だけでこの人工的な酵素が産 生される遺伝子改変マウスを作成しました。 神経細胞において、カルシウム濃度の調節には、細胞 内小器官であるミトコンドリアが関係しています。 -ヒトのゲノムのアキレス腱であり、 色々なありふれた 疾患の原因になっているかも知れない なぜ躁うつ病を研究するのでしょう? 遺伝子改変マウスを用いた研究 Z v ^ [ ・躁うつ病患者の血液から培養した細胞、および患 者さんのmtDNAを持つ細胞を使った、細胞内 Ca2+変化とその分子メカニズム ・ミトコンドリアがCa2+を制御するメカニズムの解明 ・異常なmtDNAを脳に蓄積させることによる、躁うつ 病モデル動物の作成とその解析 発見的手法 Heuristic Approach ・DNAマイクロアレイを用いた躁うつ病関連遺伝子 の同定 図3 リチウムの効果。 縦軸は行動量、横軸は日数を示す。4 日毎に行動量が多くなっていたマウスにリチウムを投与したとこ ろ、行動量の波が収まった。 DNAマイクロアレイによる研究 ヒトの身体を作り、働かせる設計図はDNAです。 DNAは、RNAという分子に転写され、これが蛋白質 に翻訳されて、働きます。一人のヒトのDNA配列を 全部解読するには、現在でも、途方もない時間とお 金がかかりますが、どのくらいの量のRNAができて いるかについては、ほとんど全ての遺伝子について、 一網打尽に調べられる方法が開発されて、広く用い られています。これが、「DNAマイクロアレイ」です。 私たちは、このDNAマイクロアレイを使って、患者 さんの脳やリンパ球で、健常な人と比べて、どんな 遺伝子のRNA量が変化しているかを調べています。 ふたご(一卵性双生児)の方々では、ほとんど全て のDNA配列が同じですから、ふたごなのに、一人だ け躁うつ病を発症した方々のリンパ球のRNA量を 調べることで、一気に「躁うつ病の原因」を明らかに 出来ると考えて、研究しています。 双極性障害の病態仮説 ミトコンドリア関連核遺伝子変異・多型 mtDNA多型・変異 mtDNA欠失蓄積 ミトコンドリアCa2+ 制御障害 別人同志 =かなり違う 健康なふたご =そっくり 1人だけ躁うつ病を 発症したふたご (タテ軸が患者さん) =ごく一部だけ違う 小胞体ストレス 神経可塑性変化 細胞死脆弱性 反応障害 縦軸、横軸は、それぞれ別の人のリンパ球における、各遺伝子のRNA の量を示しています。 再発脆弱性 難治性 こうした研究から、「小胞体ストレス」系が躁うつ病に 関係があると考え、現在研究を進めています。 双極性障害 躁うつ病のミトコンドリアカルシウム仮説 また、一卵性双生児の間で遺伝子発現量が異なる原 因の一つとして、「DNAメチル化」が考えられます。私 たちは、精神疾患に関して不一致な一卵性双生児の間 のDNAメチル化の違いを探しています。 私たちは、躁うつ病は、ミトコンドリアのカルシウム を取り込む働きが低下しているために、細胞内の情 報のやりとりが変化して発症するのではないかと考 えて、詳しく調べています。 (もし、このような研究に協力してくださるふたご(一卵 性双生児)の方がいらっしゃいましたら、是非御連絡い ただければ幸いです。 連絡先: 加藤忠史 [email protected])
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