第7回 インド特有の課題を克服して急拡大する消費者をつかめ

し、中間層予備軍ともいうべ
ンドの消費者市場は急拡大
しい農村地域に住むインドでは、低
とどまる。人口の約7割が総じて貧
シャンプーを1回
ことに着目した。
世界的消費財メーカー、ユニリー
バの子会社ヒンドゥスタン・リーバ
るため複数の価格
消費者層に対応す
境を勘案して、泥や水、ホコリに耐
電話を共有有
有できる。また農村部の環
話帳機能が搭載され、家族で1台の
人口の地理的分散性と相まって、ユ
が、インド社会の圧倒的な多様性や
だ。これは、未整備の公共インフラ
インド市場攻略に関する二つ目の
課題が﹁アクセシビリティの低さ﹂
間会話をすると自動的に通話が切
遅い。劣悪な道路条件や激しい渋滞
社会インフラに関しては、たとえ
ば、貨物の輸送スピードが圧倒的に
110
2011.1.15 週刊東洋経済
イ
インド市場の難しさの一つは、バ
リュー・フォー・マネー、つまり
社は、インド農村部の消費者を深く
帯でのパッケージ
を収めている。さ
売し、大きな成功
満たない価格で販
1㍓︵2円弱︶に
分の小分けにして
て、参入が可能となることが多い。
価格にパッケージすることで初め
いる。今回もインドに焦点を当て、
きネクスト・ビリオン層が台頭して
企業がインド市場に参入する際に立
ちはだかる二つの課題と、市場攻略
バリュー・フォー・マネー
とアクセスの壁
﹁価格に対する価値﹂を消費者が徹
観察した。そこから、消費者は1度
提供も始めた。
らに、さまざまな
底的に追求する姿勢である。インド
製品を使ってその価値を自ら確かめ
のためのポイントを解説したい。
人は比較的裕福な層でも、バリュー
たうえで、初めて本格的な購入に至
に広く普及し、その年、ノキアは
えうる仕様にするとともに、農村部
ーザーや各種のリソースに容易にア
した。
の電力事情の悪さやトラック運転手
クセスできない状況を指す。
年にNo kia 1200という端末
のニーズに対応し、トーチライトを
れ、料金を節約でき
べて非常に時間がかかる。海上輸送
のため、トラック輸送は先進国に比
でも、港湾における船の平均停泊時
るタイマー機能な
うまくくみ取った機
さらに、電力供給は安定せず、高
コストだ。現在、首都ニューデリー
べて5∼8倍も長い。
間は、タイやスリランカのそれに比
ンド人でも納得でき
そして価格は、バ
リューにうるさいイ
能も追加した。
ど、現地のニーズを
先端部に取り付けた。さらに一定時
を発売した。1台の端末に五つの電
50
る 台 ㌦未満。この端末はインド
をよりシビアに見極める。そもそも
また、グローバルな携帯電話メー
カーであるノキアは、現地のニーズ
回
ること、また量は少なくても、価格
第
全世帯の過半数が年収2000㌦未
劣悪な道路条件などにより、貨物輸送スピードは圧倒的
に遅い。だが、その環境が革新的販売手法を生んでいる
%に迫るマーケットシェアを確保
40
をつぶさに観察した結果、2007
1
が安いほうが購入に結び付きやすい
ロイター/アフロ
満、9割弱が年収4500㌦未満に
集中連載
新興国市場 で勝 つ
五十 嵐 啓 朗 ● ボ ス ト ン コ ン サ ル テ ィ ン グ グ ル ー プ
プロジェクトリーダー
市 井 茂 樹 ● ボストン コンサルティング グループ
パートナー &マネージングディレクター
インド特有の課題を克服して
急拡大する消費者をつかめ
の 略
戦
7
から成り、公用語は 言語。国民の
また、インドは圧倒的に多様な色
彩を帯びた国である。336の民族
程度しか達成されていない。
去の計画では、いずれも目標の半分
改善を強力に推し進めているが、過
インフラ投資計画に沿ってインフラ
倍である。インド政府は、中長期の
シアの約1・5倍、中国の約1・2
度にすぎない。電力コストはマレー
たり電力消費量は中国の4分の1程
ですら停電が散発しており、1人当
理部品をくまなく流通させることは
われ、海外のトラックメーカーが修
場とでもいうべき零細修理工場で行
ービスの約6割は、道路脇の青空工
要視されている。だが、アフターサ
買判断でも﹁修理のしやすさ﹂が重
修理が必要なためだ。ユーザーの購
ンテナンス不足などから、日常的に
に、恒常的な過積載や違法改造、メ
インドではトラック修理の需要が
大きい。未舗装の道路が多いうえ
海外メーカーの参入を阻んでいる。
も困難だ。トラック業界ではこれが
し、リーバ社製品の健康や衛生に対
た。彼女たちが直接消費者を訪問
の女性の生活自助グループを活用し
った農村部へのアプローチに、地元
る。同社はこれまでリーチが難しか
った革新的な販売手法を確立してい
前出のヒンドゥスタン・リーバ社
は、この乏しいインフラを逆手に取
る一つの要因となっている。
リビューション戦略が、勝敗を分け
インフラの中での効果的なディスト
劣勢に立たされている。脆弱な社会
れた。結果、海外メーカーは極めて
くい﹂という回答が第1位に挙げら
革新的なディストリビューション戦
に応じ、リーバ社の例に見るような
会インフラや言語・宗教・生活環境
部・農村部、地域によって異なる社
2点目が、効率的・効果的なディ
ストリビューションである。都市
ィングと、それぞれの層が求めるバ
例に見るような適切な顧客ターゲテ
必要がある。そのうえで、ノキアの
とらえるのか、しっかりと見極める
ーゲットとし、どのようなニーズを
的にも分散した市場の中で、誰をタ
∼
∼
Key Data 新興国市場の真実
18
た収入ができ、彼女たちの自立と起
に、自助グループの女性にも安定し
プローチできるようになった。さら
った市場に低コストかつ効率的にア
とにより、これまでリーチできなか
高いブランド力と認知度を確立して
を収めている多国籍企業の多くが、
に高い。実際、インドで大きな成功
された商品に対する購入意欲も非常
リューに厳しい一方で、ブランド化
3点目が、信頼されるブランドの
構築である。インドの消費者は、バ
価格・価値の提示が重要になる。
リュー・フォー・マネーに合致した
信仰する宗教は、主要なものだけで
困難である。現に、海外メーカーの
業家の育成にも役立っている。
いる。韓国LGエレクトロニクス
は、大規模な広告と独自の販売網や
アフターセールス拠点などの顧客接
てきた。インドのミドルクラス消費
点を通じて、信頼のブランドを築い
では、日本企業はこうした課題に
どう対処すればよいのだろうか。そ
者のよりよい生活へのあこがれに訴
のポイントを 点挙げたい。
トユーザーや状況に応じたユーザー
る。圧倒的に多様な民族、また地理
ティング手法を選択することであ
築をしていくことが重要だ。
教育を行い、信頼されるブランド構
求する一方で、それぞれのターゲッ
点目が、ユーザーへの徹底的な
理解に基づき、適切な商品・マーケ
顧客のニーズ見極めと
効果的な流通網の構築を
に現地の自助グループが対応するこ
も八つある。一つの国と考えるよ
(出所)
NSS Household consumption expenditure survey、
インド国立応用経済
研究所「Great Indian Middle Class Report」
を基にBCG作成
略を持って、コスト効率の高いリー
2億4800万(100%)
するメリットを説くのだ。地理的に
2億1700万(100%)
トラックのイメージを尋ねたユーザ
総世帯数
り、むしろEUのように複数の文化
8400万
(34%)
チを実現することが大切だ。
1億2100万
(56%)
分散した農村部の多様な言語・民族
3700万
(15%)
ー調査では、
﹁修理部品が入手しに
ネクスト・ビリオン層は
インドでも数年後に急拡大
を持った地域の集合体であるととら
2000万
(9%)
えたほうが実態に
∼2000ドル
近い。さらに人口
は地理的に分散し
ており、人口の7
割が農村部に、ま
た 万もの集落が
へ届ける、という
品をユーザーの元
ちろん、部品や商
が難しいことはも
者にリーチするの
ゲットとする消費
こういった事情
から、企業がター
る。
全国に存在してい
65
意味でのアクセス
週刊東洋経済 2011.1.15
111
3
1
1億0500万
(42%)
4500ドル
1200万
(5%)
1万1000ドル
2000
400万
(2%)
1万1000
1000万
(4%)
2万2000ドル
4500
200万
(1%)
2万2000ドル∼
2015年
2008年
世帯数
年間世帯収入
ネクスト・
ビリオン層
7000万
(32%)
∼
新興国市場で勝つ12の戦略