企業に関与する弁護士・公認会計士 の役割と責任

●シンポジウム
企業に関与する弁護士・公認会計士
の役割と責任
宮澤節生*
本稿は,早稲田大学 21 世紀 COE《企業法
制と法創造》総合研究所が 2007年1月 13日
【プログラム】
に早稲田大学8号館3階 303∼ 305教室で実
(注)所属はシンポジウム当時のものである。
施したシンポジウム「企業に関する弁護士・
公認会計士の役割と責任」の記録である。シ
司 会:宮澤節生(大宮法科大学院大学)
ンポジウムの企画にあたったのは,私が代表
開会挨拶:上村達男(早稲田大学教授・本研
究所所長)
を務める I-C 企画である。
第一部「企業行動に関与する弁護士・公認
I-C 企画は,「企業行動の法的・非法的要因
会計士の役割」
に関する実証的研究」を課題として設定され
報告1:弁護士について:浜辺陽一郎(早
た。ただし,法的要因に関する研究は,実定
稲田大学・弁護士)
法学的研究が大部分を占めるとしても他のほ
とんどの企画でも課題とされているので,本
報告2:公認会計士について:森 公高
企画では非法的要因の検討に力点を置くこと
(日本公認会計士協会・公認会計
士)
にした。企業行動に作用する非法的要因自体
質疑応答
も,企業行動の助言者である各種プロフェッ
ションのあり方から,企業内部的要因として
第二部「企業行動に関する弁護士・公認会
の企業文化を経て,外部的要因としての社会
計士の責任」
文化に至るまで,多様なものを考えることが
報告1:弁護士について:塚原英治(早稲
できる。本企画では,その中でも,エンロン
田大学・弁護士)
事件を契機として問題が露呈した弁護士と公
報告2:公認会計士について:山口俊明
認会計士のあり方について,研究を行ってき
(中央大学・公認会計士)
た。本シンポジウムは,その一環である。
質疑応答
以下,プログラム,報告・質疑の記録とい
う順序で掲載する。当日はどの報告者も詳細
【報告・質疑応答】
な配付資料を用意したが,本稿にはスペース
の制約上掲載することができない。希望者は
私まで電子メールで請求していただきたい。
アドレスは [email protected] であ
る。
* I-C 企画代表者,青山学院大学法務研究
科教授
(注)質疑応答について,質問者が不明の部分
があるので,すべて A, B, C 等の仮名とし
た。また,質問部分についてはテープ録音の
反訳原稿を質問者に校正していただくことが
できないので,司会の宮澤節生が適宜校正し
た。そのため,不正確な部分がありうること
をお断りする。
― 59 ―
第一部「企業行動に関与する弁護士・公認会計士の役割」
〇宮澤:第一部は「企業行動に関与する弁護
はないかと思われるようなアメリカにおいて
士・公認会計士の役割」というタイトルであ
さえ,企業活動に関わる弁護士業務の分野に
りまして,報告は2名。弁護士については早
ついては,問題が多いようです。
稲田大学の教授で弁護士の浜辺陽一郎さん,
アメリカにサーベンス・オックスリー法と
それから公認会計士につきましては,公認会
いう,企業改革法と日本語では訳されること
計士で日本公認会計士協会常務理事の森公高
がある法律があります。その法律の実践に関
さん,お2人にご報告をいただきます。
する面白い文献として,「SOX 法による内部
ご報告の後に,コメンテータとして,早稲
統制構築の実践」という,LexisNexis Japan
田大学教授で弁護士の須網隆夫さんと,住友
から出ている本があるのですが,その中にも,
化学監査役の二宮博昭さんにコメントをいた
あれだけの企業不祥事があり,また弁護士が
だきます。
かなり深く関与していたことが問題として認
その後でフロアからご質問をいただくとい
識されています。
しかし,その中で,弁護士の問題というの
う段取りになっています。それではまず,浜
辺さんからよろしくお願いします。
は,ほとんどメスが入っていないのではない
〇浜辺:皆さん,こんにちは。浜辺でござい
かということが指摘されています。しかも,
ます。
それは制度がそういうものでしかないために,
企業行動に関与する弁護士の存在意義とい
そうなっているというのです。また,アメリ
うことで,私に与えられた時間は,30 分と
カの弁護士会といいますか,弁護士協会のほ
いうことですので,しばらくおつきあいいた
うも強いロビーイングを背景として,弁護士
だければと思います。
に対する規制の動きを跳ね返してきてしまっ
先ほど,宮澤教授のほうから,第一部は
「理想的報告」というお話がありました。実
ていて,弁護士に対する統制が役に立たない
といった趣旨の指摘がされております。
際には,理念的にはこうだというお話もさせ
要は,一般に専門家責任の追及が厳しいア
ていただきますが,それとともに,問題提起
メリカでさえ,そういう状況であって,果た
ということもいくつかかさせていただきまし
して日本はどうなのだろうか,というのが今
て,第二部における議論の導入になればと考
日の私の報告の全体を問題意識です。そこで,
えております。
これからこの問題を少し詳しく見ていこうと
さっそくレジュメに沿ってお話ししていき
思います。
たいと思うのですが。もともと理念的といい
そもそも弁護士の本来的な存在意義という
ますか,本来のあり方としては,弁護士法 1
のを考えてみますと,先ほどの弁護士法 1 条
条にあるような,弁護士の使命と,そこには
の精神を実現するためであるというのが建前
社会正義ということが高らかに謳い上げられ
でございまして,そういった役割というのは,
ているわけです。
もちろん一定程度,果たされているかと思い
ところが,実際の運用や実態にはいろいろ
ます。しかも,そういった目的のための弁護
と問題がありまして,こういう使命どおりの
士の有用性,特に企業法務における弁護士と
制度,あるいは運用になっているかというと,
いうものの有用性ということも,徐々に理解
いろいろ問題があります。例えば,こういっ
が深まりつつあり,また企業と弁護士の協働
た弁護士に対する規制が,比較的厳しいので
といいますか,そのレベル,程度というのは,
― 60 ―
以前と比べれば,私は高まりつつあるのでは
は,企業の活動を規制する弁護士の役割が高
ないかというふうに考えております。
まっていくことを意味するものなのだろうと
その具体的な関与形態というのは,さまざ
いうふうに考えられるわけです。
まな方法があります。
要は,違法な行為は違法だということを教
取締役になる弁護士もいます。これは,法
示して,そういうことはやめさせる。もちろ
務部長として社内弁護士的になる弁護士もい
んどこまで積極的に阻止するのかは,やや問
れば,社外取締役としてなる弁護士もおりま
題が残るところではありますが。あるいは,
すし,あるいは監査役,この場合は社外監査
目的のために適法な方法を助言する。場合に
役であることが多いのですが。あるいは,そ
よっては建設的なアドバイスをしていくこと
ういう役員ではないけれども,社内弁護士,
が期待されていますし,さらにはビジネス・
これは会社と雇用関係といいますか,雇用契
メリットを含む適切・妥当な方法を助言する
約的なものがあるというふうにみとめられる
といったことも期待されているのではないか
ものかと思います。あるいは顧問弁護士,あ
と思います。
るいはそこまでいかなくとも継続的な関係の
そして最近では,より大きな意味で,企業
受任弁護士というのがおりますでしょうし,
価値を高めるためのコンプライアンスの推進
さらにはスポット的な受任弁護士だとか,さ
という役割も一つ期待されているのではない
まざまおります。
かと思うわけです。
また,さらにちょっと見方を変えれば,企
しかし,こういうきれい事だけではなくて,
業を攻撃する弁護士もある意味では,企業の
伝統的な弁護士業務の中には,先ほど上村教
活動の適正を図るために一定の役割を果たし
授の話にもありましたように,法の抜け穴を
ていると評価することもできるだろう。
助言すると,場合によっては法の裏をかくや
それと,ここには書いておりませんが,最
り方を助言するようなことが,依頼者から要
近の提言では,中立弁護士みたいなものが
求されることもあります。あるいは違法行動
あったらいいのではないかといった話があり
があったときにこれを弁護する弁護士の役割。
ます。これは最近出たばかりの,『会社法に
これは,ある意味では正当なものとして,例
おける主要論点の評価』という早稲田大学の
えば刑事弁護では認められている部分がある
先生方などが中心になって書かれているもの
わけです。
ですが,この中でもちょっと紹介されている
一般の社会では,「なぜあんなに悪い人た
のですが,要は,支配株主だとか創業者だと
ちを弁護するのですか?」といわれるわけで
か主要金融機関などから独立している弁護士
すが,これはかなりの部分は,本来の弁護士
として,そういうものを作ってみたらどうか
業務として求められているものでもあるわけ
という提言なのですね。
です。
ただ,これは今,存在していないものと言
また,次に,違法な活動があったときに,
いますか,あくまでも提言ということですし,
できるだけ有利となる結果に導くと。これは
この制度のような,依頼者がはっきりしない
刑事に限らずですが,広くそういうことが期
ものが果たしてできるのかというのは少し疑
待されていることがあるのです。しかし,こ
問でございます。
れが行き過ぎますと,例えば証拠隠滅に関与
いずれにせよ,そういったいろいろな形で
してしまうリスクもはらんでいるということ
の関与形態が考えられるということがありま
であります。結局,何らかの形で,こうした
す。
悪者を弁護するような弁護士の活動も,本来
そうした関与形態が増えていくということ
的にある意味では求められている。あるいは
― 61 ―
期待されている面もあることから,弁護士が
て,弁護士もこういったコンプライアンスに
企業活動に関与すればするほど,企業活動は
寄与するということが期待されてもいるわけ
適正であるのかというと,庶民の感覚からす
です。
ると必ずしもそうとは思われていない節があ
るのではないか。
この究極の目的は,最終的には企業価値を
高めることにつながっていくわけですから,
つまり,「企業にかかわる弁護士が増えた
ある意味では,依頼者のためになることであ
ら,それだけ企業活動は適正になるか」と
るということがいえるわけです。そして,と
いったら,必ずしもそういうことではないの
りわけ訴訟における勝利よりも,例えば訴訟
ではないかと疑惑を持たれるのも当然で,そ
回避のほうが望ましいということも多々ある
の背景には実はこういった弁護士の役割もま
わけですので,ただ単純に勝てばいいという
たあるからだということが考えられるわけで
ことではなくて,より妥当な企業活動のため
す。
という観点から活動することが期待されると
ただ,これについては一般的にどういうふ
いうことが言えると思うわけです。
うに説明するかといえば,それぞれの仕事の
しかし,こういう理屈は一筋縄ではいかな
局面において弁護士の法的な考え方は変わっ
くて,いくつかの問題があるわけです。まず,
てくるのだと。つまり戦略法務,予防法務,
四つの問いが書いてございますが,例えば理
紛争処理の法務,訴訟法務といったような領
念的にはコンプライアンスが企業に有益であ
域によって,局面に応じて,その選択する方
ればいいのだけれど,それでは逆に有益でな
法や選択する法解釈が変わってくるというこ
ければ逆の行動になりはしないかという疑問
とがあるのじゃないかといったことは,あろ
があります。あるいは,コンプライアンスと
うかと思います。
いうことで,なるべく安全策をとるというこ
具体的には,同じ一つの法律問題に対して
とですと,法的に無難な法解釈に流れてし
予防法務の側面では,比較的安全な方法を主
まって,厳しさが欠けるのではないかと。そ
張すると。そういう法的な立場をとると。そ
ういう甘いスタンスというのはちょっと本当
れに対して刑事弁護のときには,できるだけ
にいいのかといったような疑問がありえます。
ぎりぎり被告人の側に有利なような法律論を
つまり,もっとぎりぎりと厳しいところを狙
展開するといったことがあります。
うべきじゃないかという見方も中にはあるわ
これは予防法務の場合と刑事裁判の場面は,
けです。
もう場面が違うわけですから,立場が異なる
あるいは,弁護士の職務とは,そもそもそ
ことも許容されるだろうということが一応理
ういった企業倫理的なことをやることが本来
屈の上では言えるわけですね。
的に必要なのか,あるいは妥当なのか。それ
ただ,それが一般的にそういう仕事をやっ
ている弁護士が,企業活動にかかわることが,
に対して異議を差し挟む見解もないわけでは
ありません。
どこまで社会から信頼されているかというこ
とが,一つの問題として残るわけです。
法律家というのは,飽くまでも法律の専門
家なのであって,倫理の専門家ではないので
そして,最近の動きとしては,この企業に
おけるコンプライアンスの推進というような
ことから,会社法で内部統制が,例えば大会
はないかという人がいます。私は,そうは思
いませんけれども,例えばこれに関連して,
「弁護士は企業倫理の専門家なのか,素人な
社や委員会設置会社では義務付けられたとか,
のかという問題,あるいは専門家たりうるか」
あるいは金融商品取引法で,これから内部統
という問題があります。
制報告書といった制度が導入されるにあたっ
― 62 ―
そして,さらにもっと言うと,コンプライ
アンスというものの価値もまだ揺れ動いてい
たような動きなども進行しているわけです。
ある意味では,これを1つのビジネス・
るところがありまして,コンプライアンスと
いうのは,要は「法の遵守」というところに
チャンスと捉える向きもあるわけです。
着目して,場合によっては,それはお上のた
そして,そういうことが期待される理由と
めの手先のような,そういう活動をするもの
いうのは,要は先ほど挙げた弁護士の使命で
ではないかと。ある意味では,権威主義的,
あるとか,あるいは弁護士の専門家責任,い
管理主義的なそういう活動をするものなので,
ろいろな懲戒システムなどに裏付けられた高
反権力的な視点からすると,果たしてどうな
い職業倫理といったものがあるだろう。そし
のか,といった問題提起も多少あるわけです。
て,また独立的な立場があります。先ほど,
たしかに,コンプライアンスの活動の中には,
中立弁護士という提言があるとご紹介しまし
従業員にいろいろなことを強制する,あるい
たが,そういったものを待つまでもなく,そ
は場合によっては,例えば個人のプライバ
もそも弁護士というものは,第三者的に客観
シーと一部抵触する局面もありますので,そ
的な立場から適正な判断をするものなのだと
の辺のところで,なお,若干の議論が残って
いう,そういう専門家としての職責を果たし
いるようなことがあります。
ていくことが期待されているわけですね。
そして,この内部統制システムの構築義務
独立性については,一部,それは1つ間違
ですが,これは確かに理屈の上で言えば,例
うと依頼者を無視した独善に陥るという点は
えば金融検査マニュアルの中に,内部統制の
留意しなければなりませんが,基本的にはそ
一環として,弁護士と相談しやすい体制,こ
ういった独立性というのは,ポジティブに評
れは一つの望ましい体制として挙げられてい
価されてきたと考えられるわけです。
るといったことからも伺われるように,そう
こういった理念があり,また今の追い風の
いったことは,本来の弁護士が適法な企業活
ような状況の中で,うまく進んでいけばいい
動を担保するために一つの役割を担わされる
のですが,いろいろと弁護士のコンプライア
ということについては,一定の評価がされて
ンス機能を阻むものが存在している。
そこで残った時間で,その阻むものはなに
いるかと思うのです。
そういった中で,これから,こういう金融
かということで,ある意味では問題提起とし
機関のみならず,広く上場会社に内部統制の
て,いくつかお話しておきたいと思います。
レベル,水準が上がっていく中で,弁護士の
まず,第1は,先ほどのお話とも関連する
仕事が増えていくのではないかとの期待もあ
のですが,依頼者の期待の所在がどうなって
ります。昨年の日経新聞のアンケートなどで
いるのかという点であります。
いくら弁護士が高い理念を持っていても,
も,これから増える弁護士の仕事の中に,コ
ンプライアンスというのがかなり高いパーセ
依頼者のほうから,そんなことは全然期待し
ンテージで上がっておりましたが,「本当に
ていないよというふうに,そっぽを向かれて
そうなのか?」というのは,我々,そこに携
しまっては,これはどうしようもない。つま
わる弁護士として,やや疑問がないわけでも
り,依頼者あっての弁護士という面がどうし
ないところがあります。
てもあるわけです。もし依頼者が「弁護士は
例えば,確かに,その辺について弁護士会
法の抜け穴を教えてくれる」ということばか
においては,非常に期待を持っているという
り期待していたら,これはいくら言っても仕
ことは確かでありまして,例えば1つの例と
方ありません。依頼者が「弁護士はどこへ
して,「内部統制システム構築支援検証機構」
行ってもお説教しか言ってくれなくて,もう
というものを NPO として作っていくといっ
そんな話は聞きたくない」ということですと,
― 63 ―
これは困ってしまうわけですね。
は逆に競争が厳しいがゆえに依頼者にこびる
中には,いわゆる法的道具主義といいます
弁護士が,依頼者のときには不当な欲望を実
か,経営者の書いた本を読みますと,「弁護
現するために手を貸すといった事態にもなり
士というのは番犬なんだ」ということを堂々
かねない。
と書いているような経営者の方もおられまし
もしそういうことが起きたら,個別に懲戒
て,要は適法なことをやるのは当たり前のこ
制度で対応すればいいじゃないかと思えるの
となのだから,そんなことのためにわざわざ
ですが,これについてはまた後ほどお話する
弁護士なんかにお金を払って雇うのは意味が
ような限界があるのです。
ないではないかという考え方も一部にあるわ
けですね。
3番目に,弁護士を規制する基準となる
ルールは法律プラス弁護士倫理というものが
これはある意味では,古い考え方といいま
あるわけですが,この弁護士倫理そのものが,
すか,そんなに世の中は単純なものではない
これまたややすっきりしない問題がいろいろ
わけで,適法な活動をするためにもいろいろ
とあります。
なことを考える必要があり,またコンプライ
例えば,真実義務というものがあって,真
アンスにはいろいろなメリットがあるわけで
実,あるいは正義というものは何かというこ
す。こうした状況の中で,要はよい依頼者を
とが問題となりますが,これは場合によって
どのように育てるのかという課題があるので
は相対的なものではないかといった議論もあ
す。
ります。そうすると,真実義務がどこまで厳
そこに「依頼者学」といったものが本当は
しく求められるのかといったことは明らかで
必要ではないかなと,私は個人的には思って
ありません。一応,多数説は,一定の義務が
いるのですが,その辺りのところの課題が
あるのだということではあり,具体的には虚
残っている。ここがうまくいかないと,いく
偽の陳述については制裁があるといったこと
ら理念,きれい事をいっていても,なかなか
が当事者の場合にもあるわけですから,当然
進まないという点があります。
弁護士にも一定程度そういったものの制約の
その意味では,今回,内部統制システムが
中で活動せざるを得ないわけです。ただ,こ
法的にある意味では推進されていることは1
の辺りについては,どうなのだろうかという
つの追い風なので,こうしたことを契機とし
もの,必ずしもすっきりとしない問題がいろ
て企業社会の考え方が高まっていくことが期
いろと残っていると思うのです。
待されています。ただ,これはどこまで浸透
あるいは,我が国の弁護士倫理は,アメリ
するか,現実の中で,それが例えば中小企業,
カの弁護士倫理の規定にあるような能力に関
つまり上場企業以外の会社だとか,企業社会
する規定が欠けていることから,この辺りが
全体,あるいは日本社会そのもので,この考
どうなのかという問題を提起する向きもあろ
え方がどうなっていくのかは一つの大きな問
うかと思います。
題であるわけです。
あるいは,先ほど「独立性」といったよう
第2に,市場競争の激化という問題があり
ます。
な話とはまた裏腹に,依頼者に対する忠実義
務,あるいは秘密保持義務が重要なんだとい
これは弁護士人口の増大ということは皆さ
うのは,現実の弁護士の現場では非常に強く
んご承知の通りですが,これはポジティブに
意識されているわけで,そうすると先ほど
考えれば,弁護士が企業社会の隅々にも行き
言ったような理念としての独立性というのが
渡ることでコンプライアンスが向上するとい
本当にあるのかという疑問があります。
うことですが,しかし懸念される効果として
― 64 ―
建前では,弁護士は独立しているのだとい
うけれども,本当にそうなのだろうかと。経
まして,これが生きているというような感じ
済的にどうしても依存しているということが
であるわけですね。
あるわけですから,そうすると忠実義務を優
こういったセンスのもとにおいて,利益相
先するあまり,場合によっては,依頼者のほ
反に対する考え方が,これに引きずられて,
うの意見になびいてしまうことは,ややもす
弱くなったりあいまいになったりする懸念は
るとあるわけで,その場合,どこまで弁護士
ないのか。これは個別の事例だけの話だとい
倫理が関与できるのかということは非常に難
うのはあるのかもしれませんが,その辺りが
しい問題であると思います。
どうなのか問題です。
そこで,これを規制する手続として,弁護
それから,さらに顧問弁護士と社内弁護士
士会での手続というものがあるわけです。こ
で独立性をめぐる議論でも,先ほど言った独
れは強制加入団体のもとで運営されているわ
立性よりもむしろ,忠実義務や秘密保持義務
けですが,これが本当に正常に機能している
をより優先したような倫理規定といいますか
のかということについてはいろいろな意見が
職務基本規定の構造になっているのではない
あります。もちろん他のものと比べれば比較
かという問題があります。これについては,
的機能しているほうだという評価はできよう
こちらの紀要で以前に書いたことがあります
かと思うのですが,他方,その弁護士の業務
ので,そちらをご覧いただければ思います。
というものが非常に重要で,かつ非常に重た
結論としては,秘密保持を優先するような,
いものが多いだけに,いろいろと厳しい批判
つまり一般的市民的な,公益通報者保護法よ
もあるというのは現実でございます。また,
りは,弁護士特有の秘密保持義務を優先する
確かに弁護士会の仲間でやるということが,
考え方が採られているのではないかといった
仲間主義の弊害になるのじゃないかというこ
ことがあります。要は,弁護士倫理を見てみ
ととか,あるいは確かにそういった弁護士会
ると,けっして弁護士が入ったから一般の人
の中の1つの社会の中で,うまくやっていれ
よりも,より高いレベルの倫理性が担保され
ばいいんだけれどもそうじゃないと逆にどう
るという保証は,どうもこういった制度だけ
なのかと。仲間で仲良くやってないとちょっ
見ていると,本当なのだろうかという疑問が
と異質なものと見られることから,ここに書
ぬぐえないのではないかということがあるの
いてあることを指摘するような向きもあるわ
です。
けですね。現にそういうことを指摘する活字
も出ているということがございます。
そしてさらに,弁護士に対する責任制度,
これが厳しく機能していれば,それなりに信
それから,利益相反に関する我が国の法解
用できるということにもなるのかもしれませ
釈一般の甘さというものがあるのではないか。
んが,ここに大きく分けた民事責任,刑事責
実際は予防法務の局面では,利益相反的なも
任,そして懲戒制度,これは行政責任という
のがあるので避けたほうがいいと考えられる
ことですが,この三つの責任それぞれの状況
ような問題について,裁判になっている事例
は,決して手放しで「まったく問題なし」と
で厳格に考えられているものがありますかと
いうわけにはいかないでしょう。
いうと,意外とこれが弱かったりするわけで
民事責任について言えば,弁護過誤訴訟と
す。かなりどうかなという裁判例もあるわけ
いうのは,もちろん今でもありますけれども,
です。
かなり限定されている。なぜかと言えば,そ
日本の裁判例では,監査役が訴訟代理人に
れは身内を訴えることの難しさもありますし,
なることは,別に双方代理に当たるとは言え
また裁量論も大きな壁になるだろう。事実問
ないという結論の最高裁の裁判例などもあり
題もあります。また,事実はそうだとしてそ
― 65 ―
れをどう評価するのか。これはかなり論点に
いるわけではないかと思いますので,基本的
よって議論がかみ合わなかったり,かなり
な規定をここに引用しております。弁護士の
違っていたりするわけです。
懲戒の種類は四種類あるわけですが,結構こ
さらに弁護士の業態が,中小零細企業的な
れらの相互の間に幅があります。幅というの
業態が多いということから,例えば企業に求
は,戒告というのがあるのですが,その次が
められるような高度な内部統制システムみた
業務停止なのですね。戒告と業務停止に天国
いな,そういうことはなかなか期待しにくい
と地獄ほどの開きがあります。戒告は戒告と
ようなところがあるのではないか。そういっ
いうだけの文字通りのことですが,業務停止
たことも関連して,先ほど言った弁護士会の
になりますと,顧問関係とか全部切らなけれ
強制加入団体が存在し,まだ今2万人ちょっ
ばならないということで非常に大きな打撃を
とですが,地方になりますともう 100 人以下
受けるわけです。
のところも結構ありますので,そういった中
ここに,もう少し中間的なもの,例えば罰
で果たしてどこまでこの民事責任が機能する
金みたいなものがあったほうがいいのではな
かというと,少なくともアメリカほどは機能
いかという気もするのですが,現行はこう
していないのではないかという問題がある。
なっています。
それから,刑事責任の場合は,これはそん
これが一応先ほど申しましたように,それ
なに簡単に使っていいのかという問題が逆に
なりに機能しているという面もあるのですが,
ありまして,あまりにこれが濫用されるのも
なかなかそれが本当にそうなのかというと,
いかがなものかと。つまり,国家権力が弁護
疑問がないわけではなくて,いろいろ不十分
士の活動を規制するという,副作用も懸念さ
なところもあるのではないか。その背景とし
れるわけです。ここに1つの事例について書
ては,例えば今日のテーマである企業活動と
いてありますが,これに似たような問題が,
いう点で言えば,依頼者である企業が自らも
現に摘発されたことがあったわけですね。
関与した不祥事は公にしにくいだろうと。あ
ただ,裁判所のほうで無罪にしてくれたと
いったことがあったようですが,そんなよう
まり人目にさらされたくないと,あるいは騒
がれたくないということがあるでしょう。
なことがありますと,あまり刑事責任をもっ
それでは企業の被害者から見て弁護士が
てなんとかこれを規制していこうという方向
ちゃんとしてなかったということがいえるか
性はあまり妥当ではない。しかし,それでは
というと,普通,弁護士は黒子ですから,被
刑事責任が問われなかったから,本当にいい
害者からすると弁護士は見えにくいわけです。
のかという問題もあります。
そうすると被害者の矛先が弁護士に向かって
つまり,例えば,この事例では,刑事裁判
いくことは通常は考えにくい。
では無罪かもしれないけれど,それでは本当
仮に疑わしくても,事実関係を根拠づける
に何も問題がなかったと言えるのでしょうか。
ような情報を得ることは非常に難しいであろ
企業の活動を適正にするという方向に向けた
う。さらに普段,一般市民はどちらかと言う
弁護士の活動として,これが望ましい理想
と弁護士と協力していろんな運動を展開して
だったのかというところは,なお問題として
いるわけですが,それが今度弁護士を相手に
残るでしょう。
して運動を展開すると,政治的にしっくりと
それから,懲戒制度については,先ほども
こないということもある。そのほか,懲戒制
ちょっとお話しした通りですが,ちょっと懲
度一般の限界などございまして,いろいろと
戒制度については,あまりご存知ない方も多
問題が起こっている。この辺りをいったいど
いでしょう。一般に,必ずしも広く知られて
う考えていくのかという辺りが課題として
― 66 ―
残っているのではないか。
企業に非常に密着しています。公認会計士法
時間が参りましたので,これで終わりたい
は昭和 23年に成立しているのですが,まず,
と思います。どうもありがとうございました。
それ以前の状況はどうだったのかということ
〇会場:(拍手)
からはじめたいと思います。
〇宮澤:どうもありがとうございました。非
旧商法,これは 1899年,明治 32 年に成立
常に早口で話していただいて申し訳ございま
しているのですが,旧商法では,株主総会,
せん。時間ぴったり守っていただいてありが
取締役,監査役の三機関が会社の機関として
とうございました。
設けられていまして,このときは独立した第
次に公認会計士について森さんのほうから
三者の監査人制度は制度化されていません。
パワーポイントでお話を伺います。
ただそうではあるのですが,もうその 10
〇森:公認会計士協会の森でございます。今,
年後には,当時の農商務省から,公共会計制
弁護士についての役割ということでお話が
度調査書というものが出されております。こ
あったわけですが,今度は公認会計士という
れは当時企業の不正,倒産等があり,監査役
ことになります。
制度の限界というものが,すでに出てきてい
昨今は,大型の企業倒産,企業の粉飾があ
まして,その対応として,会計監査の技術に
りまして,公認会計士,監査法人が注目され
精通した専門家を育成する必要があるのでは
ているところでありますけれども,その関係
ないかということで,会計監査士法案が帝国
もありまして,平成 15年に公認会計士法が
議会に提出されています。しかしながら,こ
変わったばかりですが,今現在公認会計士法
れは成立には至っていません。
の改正作業が進められています。
そうこうしている間に,第一次世界大戦後
改正作業の主な論点は,監査法人に対する
の不況もあって,企業の倒産等が出てくると
両罰規定です。監査法人に対して,両罰規定
いうこともありまして,計理士法が成立して,
がなかったので,これを入れたらどうかとい
計理士制度が導入されました。
うことが,今般の公認会計士法改正の作業の
開始の発端になっています。
計理士法は第1条に,「計理士の称号を用
いて,会計に関する検査,調査,鑑定,証明,
その他には監査法人に対する有限責任の問
計算,整理または立案をなすことを業とする
題だとか,監査法人のディスクロージャーの
ものとする」とあり,会計の専門家の走りに
問題,監査法人の品質管理に関係する組織規
なっているだろうということがいえると思い
制の問題,そういったところが今回の公認会
ます。
計士法改正の議論になっているところです。
業務の内容についても,調査,鑑定,証明
年が明けましたので,この通常国会で,公
というのがありますので,おそらく監査とい
認会計士法の改正について是非,成立をさせ
うものも想定されているだろうと思います。
たいというのが当局の考えでもあるというこ
とです。
実際の業務は,記帳代行とか,指導とか金
融仲介,債権取立て,あるいは政府に対する
公認会計士は,弁護士と違って同じ職業専
計算書類の提出だとかにとどまっております
門家といっても,それほどなじみのある職業
ので,必ずしも監査のところまではいってい
専門家ではなかったのではないかと考えてい
ないということです。
ます。
その後,1948年,昭和 23 年ですが,証券
そこで,若干会計監査,職業会計専門家制
度の変遷について触れてみたいと思います。
会計監査職業専門家ということですので,
取引法,公認会計士法が制定されています。
これは第二次世界大戦後,経済復興のために,
主に外資導入の必要があったということで,
― 67 ―
証券市場の整備をしなければならならず,証
第3に,計理士制度では,質,量の面で不
券取引法が成立し,それとともに海外の証券
満足な状態であり,海外との関係もあるので
市場の制度に倣って公認会計士法についても
すが,民間会社の監査導入の前提条件として,
成立したということです。
自由職業者としての高い社会的信用を有する
証券取引法における外部監査の取り扱いと
多数の会計士が必要であるということです。
しては,公認会計士法は同じ年に成立はして
最後に世界水準に達する公認会計士を育成す
いたのですが,適用は遅れましたので,財務
る必要があるということです。こういった提
計算に関する書類について「計理士の署名を
案理由で公認会計士法が成立しています。
受けたものでなければならないことを証券取
現在の公認会計士法も,幾度か改正が行な
引委員会において規則で定めることができ
われていますが,その理由として,高い品質
る」ということになりました。まだ,強制で
だとか,独立性だとか,グローバルスタン
はなかったのですね。
ダードだとか,そういった言葉には変わって
その後,1950年,2年後ですが,証券取
引法の改正によって正式に公認会計士の監査
いますが,だいたい当時,1948 年ですが,
その時の考え方を踏襲しているといえます。
証明を受けなければならないということが明
監査法人制度が昭和 41年,1966 年に導入
記されて証券取引法の外部監査がスタートし
されていますが,このときも大型の倒産が発
ました。
生しています。
ですから,現在ではいろいろな監査がある
例えば,精密工業事件だとか,山陽特殊工
わけですが,監査制度は証券取引法と一体と
だとか,サンウエーブだとか,富士車輌だと
なって導入されたということです。
か,そういった大型の粉飾事件が発生し,組
監査制度の導入時は,まだ日本には海外と
織的監査の必要性から監査法人制度が導入さ
同様の監査制度はありませんでしたので,5
れました。今は,弁護士法人,あるいは税理
年間の経過期間を設けて正式な監査に移行す
士法人ができていますけれども,職業専門家
るということになりました。初年度は会計士
の会社組織といいますか,法人制度の走りに
は 365人しかいませんでした。監査対象につ
なっています。
いても,412社にしかならなかったというこ
とです。
その後,公認会計士監査の対象は,拡大を
していくことになりまして,現在は,会社法
正規の監査のときには会計士もだいぶ増え
になるわけですが,会計監査人の設置という
て,千人程度。監査対象も950 社くらいです。
のは,任意でもできるのですが,委員会設置
公認会計士法は証券取引法と一体となって
会社と,規模の大きいところ,すなわち,資
検討が進められていたわけですが,その法案
本金が 5 億円以上,負債が 200億円以上につ
提出の理由に会計士の役割がよくあらわれて
いては,会社法で会計監査人の設置が義務付
いると思います。
けられています。
これは4つありまして,1つは企業経営が
複雑となる一方で財務書類が企業と投資家を
証券取引法においても公認会計士監査が義
務付けられています。
結ぶ唯1のつながりとなっているということ
それら以外にも,公的分野,独立行政法人
です。第2に,企業経営を公正にして財務書
だとか,あるいは,国立大学だとか,早稲田
類の真実性を確保することが,民主的かつ合
大学もそうですが,私学の学校法人,そう
理的な経済の基礎を確立するということです。
いったところに会計監査が義務付けられてい
財務書類の真実性を確保するということです
ます。
ね。
公認会計士は,監査の品質管理の強化が重
― 68 ―
要とされており,常に改革を,内部でもして
ての職業があるということです。
いますし,外部からも求められています。
次に,公認会計士の職責としては,公認会
1950 年 , 昭 和 25 年 に , 具 体 的 な 監 査 が ス
計士法の1条の2にありますが,品格の保持,
タートしたときに,監査基準,監査実施準則
知識技能の習得,公正かつ誠実に業務を遂行
が制定されて,その後,数度の改訂によって
するということで,これは通常の職業専門家
監査の品質の向上,国際水準への整合性の確
の職責とほぼ同じではないかなと思いますが,
保が図られています。
公認会計士が業務を行うにあたっては,この
こういった会計士の歴史があるわけですけ
れども,平成 15 年に公認会計士法が改正さ
公正かつ誠実にというところ,これをかなり
重視しています。
れて,そのときに,使命・職責というものが
追加されています。
次に公認会計士の業務,これは公認会計士
法第2条ですけれども。よく公認会計士業界
まず,公認会計士の使命ですが,公認会計
の中では,公認会計士の業務について1項業
士法を見ますと,これは後ろの資料,スライ
務,2項業務と呼んでいます。1項業務とし
ド番号でいうと 15 番ですが,「公認会計士は,
ては,財務書類の監査証明。2項業務として
監査及び会計の専門家として独立した立場に
は,財務書類の調整,財務に関する調査立案,
おいて財務書類その他の財務に関する情報の
財務に関する相談,といった業務が定められ
信頼性を確保することにより,会社等の公正
ています。
な事業活動,投資者及び債権者の保護等を図
監査法人について言うと,監査法人のとこ
り,もって国民経済の健全な発展に寄与する
ろの章にまとめて規定されていますが,34
ことを使命とする」とあり,監査法人もこれ
条の5のところに,1項業務,財務諸表の監
は準用されています。
査証明業務です,の他,業務に支障のない限
公認会計士の使命として,役目は国民経済
り,2項業務である財務書類の調整,財務に
の健全な発展に寄与するということで,これ
関する調査立案,財務に関する相談,それと,
は証券取引法の目的にも同じことが書いて
公認会計士試験合格者に対する実務補習を行
あったはずです。特徴的なのは立場のところ
なうことができるとなっています。
で,監査会計の専門家として独立した立場で
ということが書いてあります。
監査法人の業務は,これらに限られること
になります。しかも1項業務の他,業務に支
先ほど,弁護士のところでも独立した立場
というものが求められるというお話でありま
障のない限りとなっていまして,ここが非常
に特徴的なところになっています。
したが,公認会計士の場合ですと,公認会計
昨今の大型の倒産等があって,監査不信が
士法の使命のところにすでに明確にされてい
問題視されていることもあって,金融庁の公
ます。そこが,職業専門家としての,かなり
認会計士・監査審査会,これは公認会計士の
特殊な点ではないかと考えております。
監督機関ですけれども,の立ち入り検査があ
それと,どういったことをやるのかという
りました。大手四法人は,昨年の6月に終了
ことですが,財務書類その他,財務に関する
しているわけですが,その際にも監査法人の
情報の信頼性の確保をするということです。
業務は監査証明業務である1項業務をとにか
目的というのは,会社等の,これは企業行
くしっかりやってもらいたいということで,
動そのものに関係するわけですが,公正な事
支障のない限り1項業務以外の,監査証明業
業活動を図るということ。それと,投資者及
務以外の,いわゆるアドバイザリー業務だと
び債権者の保護を図る。
か,コンサルティング業務だとかの,2 項業
こういった使命に基づいて公認会計士とし
務を実施しても差し支えない,そういう姿勢
― 69 ―
で立ち入り検査が行われたということです。
する,補完する機能を持っているわけです。
公認会計士,監査法人の主要な業務となっ
利害関係者が多くなると,財務情報は,利害
ている財務書類の監査証明業務,1項業務で
関係者に非常に重要な情報になるわけですか
すが,これについて若干触れてみたいと思い
ら,その信頼性は非常に重要です。従いまし
ます。
て,経営者は財務諸表をきちっと作成すると
1項業務は,なんのためにやっているのか
いう作成責任がありますが,監査人は経営者
ということですが,まず前提として,企業に
が作成した財務諸表に対して監査責任を持つ
はディスクロージャー制度というものがある
ということになり,財務諸表に対する二重責
ということです。
任構造になっています。
企業は,年次報告だとか,四半期報告だと
次に,財務諸表監査の機能として,どうい
か,そういった報告制度によって,事業や設
う機能があるのかということですが,批判的
備や経理等の企業活動状況について外部に
機能と指導的機能という二つの機能がありま
ディスクローズしています。これらのディス
す。
クローズ制度については証券取引法だけでは
財務諸表監査は基本的な機能としては批判
なくて,会社法等にも定められているわけで
的機能だと言われています。経営者が作成す
すが,もともとこれは,利害関係者に対する
る財務諸表の適正性について,意見表明をす
報告義務に基づいて行っています。
るということは,その適正性について判断を
企業の受託責任遂行の一環として行われて
いるものです。
するということになりますので,批判的機能
が基本的な機能だということになります。
特に,財務報告については,例えば配当可
それと,指導的機能。これは補助的機能に
能利益や,経営成績や,財政状態などをあら
なるのですが,財務諸表監査は基本的機能で
わす財務情報,非常に利害関係者の関心の高
ある批判的機能が重要なわけでありますが,
いところです。
企業の利害関係者は財務諸表が適正に作成さ
特に,利害関係者間の利害に直接関係する
れていないと,その企業の財政状態や経営成
ものですから,一定の基準に基づいて報告を
績を的確に,あるいは正確に把握することが
行わなければならないということになってい
できません。
ます。
企業のディスクロージャーの目的に適うた
一定の基準というのがいわゆる会計原則や
会計基準と言われているものになります。
めには,利害関係者は適正な財務諸表をもと
もと要求していることになります。
整理をすると,まず企業にディスクロー
虚偽記載や不適正意見の表明された財務諸
ジャーが義務付けられており,企業はその
表,これはまったく利害関係者は期待してい
ディスクロージャーにあたって,例えば財務
ない。期待していないし,経営者サイドも非
報告であれば,会計基準等の一定の基準に基
常に困るわけでありまして,行政当局のいろ
づいて行う必要があります。
いろな対応だとか,あるいは取引所に上場し
次に,これらのディスクロージャー制度に
ていれば上場廃止基準の1つになるとか,そ
関連して,財務諸表監査制度ですが,企業は
ういう制度的な問題もあるわけで,経営者サ
会計基準に基づいて適正な財務諸表を作成す
イドも望んでいないということです。
る責任があり,その企業が作成した財務諸表
従いまして,監査を受ける財務諸表をディ
を監査人が,適正性について意見表明をする
スクローズする段階では全てが修正されて適
という制度になっています。
正になっていること。このことを関係者は期
財務諸表監査は,財務諸表の信頼性を補強
待しているわけです。
― 70 ―
財務諸表というのは,会計帳簿から転記,
若干の調整があって作成されるわけですけれ
ますけれども,内部統制の限界というものが
あります。
ども,企業の活動を会計処理として認識する
以下の場合に内部統制が有効に機能しない
段階から会計基準に準拠した会計処理をする
場合があるということで,四つ挙げられてい
ことが求められます。経営者と監査人はこの
ますが。まず,判断の誤り,不注意,複数の
段階から意見調整することになります。
担当者による共謀がある場合,こういう場合,
企業活動を会計認識するという段階で,適
内部統制が有効に機能しません。
正な会計処理をしなければ適正な財務諸表が
当初想定しない,組織外の環境の変化や非
できないということになりますので,この段
定型的な取引と内部統制が対応していない場
階から会計士が関わり,適正な会計処理を指
合があること。それと,費用と便益の比較衡
導助言するということになるわけです。
量が求められること。内部統制に多額のコス
この指導的機能はあくまでも利害関係者が財
トをかけるとすると,それに対してどれだけ
務諸表に対して求めているものに対する補助
企業がベネフィットを受けられるのかという
的な機能であり,会計監査,財務諸表監査自
ことも,内部統制の構築にあたっては,判断
体は,最終的に作成された財務諸表が適正か
が求められるということになりますので,必
どうかについて意見表明をする批判的なもの
ずしも全部のリスクについて統制機能を入れ
が基本機能になるということです。
ていくということにはならないということで
財務報告にかかわる内部統制の評価及び監
す。
査の制度,これは金融商品取引法によって
それと,経営者,ここは非常に大事なとこ
2008 年4月から導入されることになるわけ
ろだと思いますが,経営者の不当な内部統制
ですが,指導的機能に関係してこの制度を見
の無視,ないし無効とする行為がある場合,
てみます。まず,企業の財務報告に関係する
この場合も内部統制は働かないということで
体制,業務プロセスについてリスクと統制が
す。
明確になるように内部統制を構築する,これ
は経営者の責任です。
次に監査人の独立性についてですが,公認
会計士の使命というところで,独立の立場で
それと,経営者が有効性を評価する。これ
も経営者の責任です。
というのが非常に特徴的だというお話をしま
したが,監査人の独立性というものがスライ
その評価した結果をディスクローズ,報告
ドの記載のように求められておりまして,財
するわけです。監査人は経営者の報告の適正
務諸表監査では,当然ながら精神的独立性が
性について監査をするということで,ここで
必要なのですが,外観的独立性も求められて
も二重責任の構造になっています。
います。
二重責任の構造になっていますので,監査
その外観的独立性にはどういうことを求め
の批判的機能と指導的機能の関係は財務諸表
られるのかということですが,ここに書いて
監査と同様であるわけですが,企業の業務プ
ありますように特定事項についての監査証明
ロセスのリスクと統制が明確になるように内
業務の制限があります。これはまず身分的に,
部統制を構築するということは,これは企業
例えば,役員であってはいけないとか使用人
行動そのものの制約,規制に関係してきます。
であってはいけないとか。監査人が企業の役
この制度は財務諸表監査よりも業務プロセ
員とか使用人ではまずその企業に対して独立
スに踏み込んだものとなりますので,より指
しているとは言えないわけですね。
導的機能が発揮できるのではないかというこ
とです。ただし,この基準にも記載されてい
ですから,身分的に独立していなければな
らないということ。
― 71 ―
さらに財産的,あるいは経済的にも独立し
なり違っていまして,公認会計士,監査法人
ていないと,公正な独立した第三者の立場か
の監督機関としては監督官庁である金融庁と
ら財務諸表に対して意見を表明することはで
日本公認会計士協会の二重構造となっていま
きませんので,制限が設けられています。
す。
監査証明業務と特定の非監査証明業務の同
時提供の禁止。
監督官庁による懲戒処分としては記載にあ
るとおり,戒告,業務停止,登録抹消,さら
同時提供の禁止はかなり明確に定められて
に監査法人の場合は解散というものがありま
いて,これは監査または証明する財務書類を
す。会計士協会による処分としては,戒告,
自ら作成していると認められる業務です。
会計士協会の会員権の停止,会計士協会から
これは自己監査につながりますので禁止さ
れています。
の除名,それと金融庁に対する懲戒処分の請
求です。
例えば企業が,他の企業を買収するときに,
それではまとめに入りたいと思いますが,
監査人がその買収の鑑定をしたということに
公認会計士はまず,個人との関係よりも,企
なりますと,その鑑定価額が,財務諸表の数
業との関係が深いということです。これは証
値の一部を構成することになりますから,そ
券取引法とともに公認会計士制度ができたと
の財務諸表を監査するのは自己監査になって
いうお話をしましたが,まさにそのことを所
しまう。これは独立していないわけです。
以としています。
さらに被監査会社の経営判断に関与すると
それと,監査会計の業務は企業の活動報告
認められる業務。経営者から独立していなけ
である財務諸表と密接な関係があること。適
ればならないわけですから,例えばどこかの
正な会計の実施の指導及び監査を通じて企業
企業を買収するに当たって,買収先の検討を
活動に一定の規制を与えているということが
経営者と一緒に行なうとか,買収先選定のコ
言えます。
ンサルティング業務を行なうなどはしてはな
らないということです。
財務報告にかかる内部統制の評価・監査は,
業務プロセスにより深く踏み込むため,企業
それと監査関連業務の連続関与の制限とし
て,現在公認会計士法では,連続関与は7年,
活動に対する一定の規制の効果はより大きく
なるのではないかということです。
インターバル2年とされており,連続関与を
公認会計士の主要業務である財務諸表監査
すると企業との癒着が生じるだろうというこ
は企業から独立性を保持するため,企業行動
とで,こういう制限も設けられています。
の代理人にはなれません。さらに監査の基本
その他の企業行動との関係ですが,監査・
機能である批判的機能をベースとして,社会
会計の専門家としての業務のうち,被監査証
から期待されている指導的機能を発揮するこ
明業務として,財務調査などがあります。
とにより企業行動を適正なものへと是正する
企業の役員等や,あるいは企業の従業員と
効果・機能があるということ。
して,社内会計士として機能することもあり
ます。
ただし,これらの効果・機能というものは,
内部統制の限界にあるように,経営者の無視
ただいずれにしても公認会計士という資格
等によって無力となる可能性が高いというこ
で仕事をするということになると,公認会計
とです。監査以外の分野においても企業との
士の使命のところ,職責のところに記載され
かかわりは多岐にわたっています。会計は企
ていますように,職業倫理が求められるとい
業活動の記録になるわけですから,監査・会
うことになります。
計の知識・技術を職業倫理に基づいて活用す
規制の構造につきましては,弁護士とはか
ることによって,すなわち,適正な会計を主
― 72 ―
張,あるいは促すことによって企業行動の法
ことは,日本における企業行動が,事実上,
令順守に貢献することができると言えると思
もしくは法律上,専門家の関与を離れて自由
います。
に行うことができる状態ではないという事実
ちょっと早足になりましたけれども,私の
報告を終わらせていただきます。ありがとう
を議論の出発点として認識できるだろうとい
うことです。
ございました。
公認会計士の場合,ご説明がありましたよ
〇宮澤:時間制限をして申し訳ありませんで
うに,そもそも法律上の関与が要件とされて
した。歴史から説明していただいて,今日の
いる場合があるわけですし,弁護士の場合は,
聴衆はどちらかといえば法学関係者が多いと
法律上の要件ではありませんが,特に最近は
思いますので,有益だったのではないかと思
事実上関与が必要とされていると思います。
います。どうもありがとうございました。
これは 90年代半ばごろまで,主要な日本
それではここから先は,コメンテータとい
法が改正される回数が少なかったときは,弁
うことになります。須網教授と,二宮さんに
護士が関与する必要性は相対的には低かった
順次コメントをいただきたいと思います。そ
かもしれないと思います。しかし,最近のよ
れでは須網さん,お願いします。
うに法改正が頻繁に行われると,企業は,判
〇須網:ただ今ご紹介いただきました。須網
例などが確立する以前の段階で,自らその法
でございます。私は,研究者として企業行動
を解釈して行動しなければならない環境に置
に関係するテーマを研究しているわけではあ
かれています。そうであれば,その判断を行
りませんが,以前弁護士をしていた関係で,
うに際して,法律専門家である弁護士の援助
法科大学院で法曹倫理の科目を現在教えてお
を借りざるを得ないでしょう。
ります。
もっとも,先ほど浜辺先生も指摘されたよ
また,早稲田大学は法科大学院付属の法律
うに,弁護士が関与すればコンプライアンス
事務所,「弁護士法人早稲田大学リーガルク
が進むというように,無条件に考えて良いか
リニック」という法律事務所を設けておりま
という点については疑問がありますけれども,
す。私もそこに所属していますが,この事務
私の経験からしましても,まともな弁護士が
所は早稲田大学の顧問業務を併せて行ってお
関与すれば少なからぬ意味はあるはずだと思
ります。
いますし,個人的にはそう信じたいと思って
コンプライアンスが重要であるのは,企業
おります。
には限られず,大学においても,さまざまな
弁護士について,私がこの間,関心を持っ
コンプライアンスが必要であり,特に最近,
ているのは社内弁護士の問題です。浜辺先生
大学における需要が高まっていると感じてお
が指摘されたように,弁護士の企業行動に対
ります。したがって,私も,顧問弁護士の立
する関与にはさまざまな形態があるわけです
場から大学のコンプライアンスに関与せざる
が,取締役・監査役を含めて,「企業の内部
を得ない立場にあります。以上のような立場
に入って活動する弁護士」と,「企業の外部
の者からのコメントであるとご理解いただけ
で活動する弁護士」に大きく分けられるだろ
ればと思います。また,どうしても弁護士に
うと思います。
ついての話が多くなりますが,その点はご容
赦頂きたいと思います。
どちらの形態の弁護士が,コンプライアン
スの推進により貢献できるかは,一概には判
さて,浜辺先生と森先生のお二人から,そ
断できませんが,少なくとも,コンプライア
れぞれ弁護士,公認会計士についてお話が
ンスに貢献できるより多くの機会を持てる立
あったわけですが,お聞きして最初に感じた
場にいるのは,やはり社内弁護士ではないか
― 73 ―
と思います。
ではないかと思います。
個人的な経験からも,顧問業務については,
2つ目は,弁護士側について,社内におい
早稲田大学内部の法務セクションが,一定の
て他の社員とはいささか異なる観点,社員と
選別をした案件だけを我々は扱っているので
してだけではなく法律家として物事を見る観
すが,果たしてその選別自体が,法律家の目
点を維持できるかという「独立性の保持」が
から見て適切であるか否かという問題は残る
問題となります。おそらく弁護士の資格を
わけで,やはり,より現場に近いところに位
持っているというだけで,常に独立した観点
置する社内弁護士のほうが,コンプライアン
が維持できるというわけではないと思うので
スに関して,より多くの機会を有するのだろ
すね。
うと思います。
後半の部で,ご報告があるかもしれません
私は,このような観点から,社内弁護士の
が,最近,明治安田生命の保険金不払いに関
存在は,非常に重要であると思っています。
する事件が明らかになりまして,社内弁護士
特に日本のように,弁護士登録をしたまま社
であった人の関与が,事実かどうかわかりま
員となることを認める場合には,組織内に普
せんが,疑われているわけですね。実は,以
通の社員とは異なる観点から物事を見ること
前に,彼のお話をお聞きしたことがあるので
ができる者がいることが,やはりメリットに
すが,彼の場合には,社員としての意識だけ
なるのだろうと思います。弁護士は,常に法
が非常に強かった。もともと社員であった方
の観点から物事を見ることを訓練されており
が司法試験に受かり,修習を終えて弁護士に
ますし,加えて,先ほどご説明があった弁護
なってまた会社に戻ったというパターンです
士の使命もあります。そして,社内弁護士の
から,他の場所を知らない方だったと思うの
行動は,弁護士倫理と懲戒制度によって裏付
ですね。私は彼の話を聞いて,不祥事が起き
けられているわけです。
る前ですが,強い違和感を覚えて,こういう
ただし,社内弁護士が本来の機能を果たす
人が社内弁護士をしていて,果たしてコンプ
ためには,やはり企業側,弁護士側双方に満
ライアンスは確保できるのだろうかと正直不
たされるべき条件があると思っています。
安に思いました。そうしたところ,不幸にし
これは,企業側については,単なる社員と
て,不祥事がやはり起きてきてしまったわけ
しての義務だけではなく,弁護士としての行
で,単に資格者が社内にすればいいという問
動を余儀なくされている者が企業内にいるこ
題では,おそらくないだろうと思います。
とのメリットを,日本企業がどう考えてくれ
そう考えると,企業内弁護士は,どのよう
るのかということでしょう。最近,学生から
に養成されるべきであるのかということが,
聞くと,法科大学院の卒業生を,法曹資格と
検討すべき課題となります。
は無関係に採用したいという希望しておられ
端的に言えば,弁護士になって,いきなり
る企業が一定数あるようです。これは,法科
社内に入ることが,養成制度として妥当であ
大学院の教育成果を信頼して頂いているとい
るか否かという論点です。
う限りでは,我々として非常にうれしいわけ
現在,日本で企業内弁護士として働いてい
ですが,他方,弁護士資格を不要と考えると
らっしゃる方の中にも,企業に入る前に,ま
いいますか,少なくともあまり積極的に評価
ず外部で弁護士経験を積むべきだという意見
していないという点では,疑問を感じざるを
の方もいらっしゃいますし,諸外国について
得ないわけです。やはり,異なる観点から物
正確な統計は持っていませんが,個人的な経
事を見る人間の存在を,もう少し積極的に捉
験からは,ローファームで一定の経験を積ん
えていただくことが今後の発展のために必要
でからインハウスとなることが,通常の道筋
― 74 ―
ではないかと思っています。逆に言えば,諸
な役割を果たして行かれるだろうと思ってい
外国の場合には,法務部が,インハウスを自
るのです。そのコンプライアンスひとつとり
前で養成するという意識は,薄いのだろうと
ましても,企業の現場では結構難しいところ
思います。この問題は,これまであまり議論
があります。それは,システムの構築にかか
されていないわけですが,今後,議論してい
わる問題でありまして,その会社の事業リス
くべき一つの論点ではないかと思います。
クを睨んだしっかりしたコンプライアンスシ
それでは,ちょうど 10分になりましたの
ステムの構築をきちんとできるかどうかとい
で,ここで終わりに致します。ありがとうご
う点があります。仮にこの構築が出来たとし
ざいました。
ても,さらに難しいのは,その後のシステム
〇宮澤:どうもありがとうございました。
の運用なのです。
それでは,二宮さんにお願いします。
制度を作っても,それを動かさずにいたら,
〇二宮:私は住友化学の監査役をいたしてお
その制度は死んでしまうわけです。こういう
ります,二宮と申します。
現象が世間には極めて多いのですね。不祥事
監査役になる前は,リーガルの世界で長ら
を起こしたときは顔色を変えて,制度を作る
く経験があったものですから,弁護士さんの
が,時間が経つと,また元の木阿弥という
世界とは密接な関係を持たせていただきまし
ケースは枚挙に暇がありません。そういうわ
た。監査役として,現在7年目でございます。
けで,制度を絶えずワーカブルな状態に置い
監査役の世界は,弁護士さんより,公認会計
ておくということが,非常に難しい,しかし,
士さんと深い関係を保っているのが通常だと
それがもっとも大事なことだという実感を強
思います。今,浜辺先生と森先生のプレゼン
く持っています。それでは,どうすればいい
テーションには,非常に身近に感じるところ
のか,それは,各組織の知恵の発揮のしどこ
が多かったのですが,順不同に,私なりのコ
ろだと思います。
メントを申し述べさせていただきたいと思い
ます。
今度の会社法は,内部統制の整備という問
題を法律上の義務として明文化してきたわけ
企業行動の基準としてコンプライアンスの
ですね。「企業集団」という新しい言葉も法
重要性が日を追って大きくなるという中で,
文に出てきました。これは,本社のみならず,
弁護士の役割が今後ますます大きくなるだろ
グループ会社全部を含めての問題ですので,
うという一般的な認識に関しては私もそのよ
その範囲でしっかりした内部統制システムを
うに思っております。なぜならば,企業の中
整備すべし,ということですから,昔のよう
にいてつくづく感じますのは,問題が発生し
に,自分の会社だけしっかりやっておけばそ
たときの取締役等の責任は,厳密な意味での
れでいいという問題ではなくなったというこ
法的責任だけではなくて,社会的責任も含め
となんですね。つまり,本体として,グルー
て , こ の 数 年 か ら 10 年 の 間 に ガ ラ リ と 変
プ会社の面倒もきちんと見ていくという積極
わってきたという点が大きいでしょうし,株
的な心構えが必要ですし,抽象的な指導だけ
主からの責任追及に関する手続き面での容易
でなく,具体的な対策面での指導も必要であ
さも手伝って,企業がナーバスになる局面が
るということになってくるわけでして,その
非常に多くなってきたというところがあろう
過程で,企業の力ではカバーできないところ
かと私は思っております。
を,弁護士さんの力をお借りするというケー
そういうことで,弁護士さんのこれからの
スが出てくるものと予測しています。有事だ
役割についてですが,内部統制とかコンプラ
けでなく,平時においても,弁護士さんにご
イアンスという問題に関して,今迄より大き
登場いただく機会が増えるのではないかと思
― 75 ―
います。
すね。その中に,アメリカでは会計士業界が
少し具体的になりますが,例えば独禁法を
規制される一方で,弁護士業界は相対的に取
遵守しろということを言っても,果たしてそ
り締まられないままの状況にあるという説明
れが具体的に現場でどういう風な形でそれを
があります。私の感想としては,弁護士さん
徹底していけるか。ここで,弁護士さんが,
の仕事と,会計士さんの仕事の内容を比べて
どんな役割を果たすかという問題ですが,先
みますと,ある程度仕方がないというふうに
ほどのように,弁護士会のお話のようですが,
思うのですが,内部統制なりコンプライアン
「大きなビジネスチャンスである」という捉
スとかの面で,企業が大きく変わろうとして
え方は,私もごく自然の受けとめ方だろうと
いる中にあって,弁護士さんの世界が,まわ
思っています。企業がコンプライアンスシス
りの環境に十分対応できているのかどうか,
テムを動かしていく過程で,弁護士さんが講
気にはしております。
師となって,判例とか,行政庁の処文例とか,
具体的に,弁護士さんとコンプライアンス
世間の諸々の生きたケースを活用しながら,
という関係は,一見言語矛盾みたいに聞こえ
こういう場合はこういう不利益が会社に生じ
るかもしれませんが,これはクライアントへ
る,ということを織り交ぜながら,具体的に
のサービス提供とのかかわりにおいて考える
教育をしていけば,効果があがるように思い
と,非常に大事なポイントであり,コンプラ
ます。
イアンス面でのクオリティをアップするとい
実際,こういう教育というのは,一回受け
うか,そういう面での活動,努力も必要では
たら例えば 1 ヶ月くらいは頭の中に残ってい
ないかと思うのです。果たして,弁護士会,
るけれども,その後はすぐ記憶から消えてし
それから各法律事務所がその辺をどこまで
まうというのが,人間の常でございまして,
やってやっておられるのか知りたいと思って
そういう意味では,絶えずそういう教育を
おります。
やって,組織の人間の DNA をしっかりした
ものに変えていくことが必要です。
今, CPA の世界では,金融庁からの業務
改善の指示等があって,一生懸命になって,
ご参考までに,当社の法務部の人員は十数
改革を図っておられます。そして,教育を何
名,15 から 20 名の間を行き来していますが,
回も何回も繰り返してやっておられるのです
弁護士修習を終わったばかりの人を雇用する
ね。ビジネスチャンス云々というときには,
ケースも最近出てきました。あるいは外国人
その前提として,サービス提供に当たっての
弁護士も何人かいて,それらの人々を織り交
クオリティアップのため,しっかりした教育
ぜたタスクフォースで仕事をやっています。
が大事だと思っています。弁護士さんは,こ
コンプライアンス関連業務を法務部は所管し
の辺りどういう状況なのか。また後で機会が
ていますが,現在は,伝統的な法律関係業務
あれば教えていただきたいと思います。
にほとんどの時間を取られ,コンプライアン
インサイダー事件でひっかかった弁護士さ
ス関連業務に割ける時間は限られているよう
んおられますね。各法律事務所ではインサイ
に見えます。そういう会社は結構多いのでは
ダー問題に対応する規定を持っていると思う
ないかと思います。コンプライアンスについ
のですが,そうでないところもあるのではな
ても,外部の弁護士さんの力を借りて,活発
いか。持っている事務所でも,徹底の努力は
な状態にして行くことが今後の課題ではない
どこまでされているのか。クライアントの立
かと思っています。
場からも,あるいは監査役の立場からも,関
それから,浜辺先生の第 1 ぺージ目に興味
心のあるところでございます。
のあるスコット・グリーン氏の話,ございま
― 76 ―
ついでの機会ですから1つ付け加えさせて
いただきます。弁護士さんのこれからの役割
となって行動できるように,日常から情報共
に関してですが,行政の分野で弁護士さんの
有に努めるようになっています。不正会計,
関与の仕方,程度が非常に遅れているのでは
最近でも日興コーディアル事件とか,ミサワ
ないかと思っています。簡単に言えば,行政
ホーム事件とかの問題がありますが,そうい
組織の中にもっと弁護士さんに入ってもらい
う問題の予防には,会計監査人と監査役との
たい。そして,行政組織自体がもっと合理的
情報共有が欠かせないと思われます。
な判断基準で行政を行うことが望まれます。
それから,ご承知のように,会社法のもと
企業なり市民から行政処分の不当性を指摘し
では,監査役は,会計監査人が適正な業務遂
たときに,行政側もきちんと筋の通った話し
行ができる体制を確保しているか否かを
が出来るような体質にしてもらいたいと思っ
チェックする義務を新たに負うことになって
ています。行政権を振りまわして,一切聞く
います。その意味でも,我々は,会計監査人
耳を持たないというやり方があちこちで見ら
の事務所に赴き,当該体制に関してヒアリン
れます。そういうところでも弁護士さんの力
グをするつもりです。それやこれや,会計監
を是非発揮してもらいたいと思っています。
査人とは,協働関係をきちんとして,問題発
次に会計監査人に関しましては,カネボウ
生を防いで行きたいと思っています。
事件等によって財務報告の適正性の問題が非
〇宮澤:どうもありがとうございました。法
常に大きくクローズアップされています。監
務と監査の両方に通じた方らしいお話を伺え
査役は,会計監査人との間では,日常的には
たと思います。報告者2名から一言ずつ,今
会計監査に関する諸問題の情報交換をいたし
のコメントに発言がありましたら,まずそれ
ていますが,重大な不祥事の発生は,ほとん
から伺いたいと思います。
どの場合,監査人と会社幹部との癒着に由来
〇森:コメント,ありがとうございました。
すると言えると思います。それを予防するに
特に,二宮先生のコメントにつきまして,会
はどうしたらいいか,我々にとっても大きな
計のところに触れていただいて,特に,監査
課題になっています。会計監査人が往々にし
役という立場で,会計士について触れていた
て,監査役よりも会社の経理部門のほうに顔
だきありがとうございます。
を向けていて,従って,会計監査人と監査役
ご提案があったとおり,会計監査はこれか
との間の情報共有がもう1つスムーズに行っ
らますます監査役との協働関係が非常に重要
ていないという声が世間的に聞こえてくるの
になってくるだろうと思います。
も気になるところです。会計監査人は,監査
会社と会計士は経営のほうばかりを見てい
役の力を上手に利用することが大事ではない
るというお話がありましが,これは従来の話
かと私は思っているのです。そのためには,
でして,会社法の改正以前から,いろいろな
前提たる情報をきちんと共有していく必要が
大企業の不祥事等の発生によって監査役も責
あると思います。監査人と監査役がうまくタ
任を問われているのですね。
イアップすれば,効果的に執行部を動かすこ
ですから,ある意味では監査役のほうから
とが出来ることが多いのではないかと思いま
も,会計士に対して非常に密接な関係を求め
す。
てくるような状況に数年来なっています。
これに関連して,最近は,社外監査役さん
の役割が現実的にも大きくなり,それに従っ
従来は,監査役機能というところにも問題
があったのかなと思っております。
て,社内監査役と社外監査役との情報共有が
会計監査に関して監査役にご報告申し上げ
密になり,一体感が強くなってきていると思
てもあまり関心を示さない方も結構いらっ
います。有事の時に,バラバラにならず一体
しゃいました。今はまさに,二宮先生がおっ
― 77 ―
しゃったとおり,会計士と監査役が協働して
う部分が2つあるからじゃないかと思うわけ
企業のガバナンスを推進していくと考えてい
ですね。
ます。ありがとうございました。
ただ,浜辺先生がおっしゃられたように,
〇宮澤:ありがとうございました。ここから
いろんな不祥事の可能性とか,さまざまな問
先はフロアとの質疑応答になりますが,でき
題がありますので,例えば,二宮先生がおっ
るだけ多くの方にご発言いただきたいと思い
しゃられたように弁護士自身のコンプライア
ますので,2分以内で質問をお願いしたいと
ンスを正してもらうということに限定して,
思います。ご意見を述べていただくというよ
例えばコンプライアンスのアドバイザリー業
りも,今日の報告内容あるいはコメント内容
務に入る弁護士については,そこに限定して
についてご質問いただくという趣旨で,ご発
最低限の法規制を入れるといったような提案
言をお願いしたいと思います。最初にお名前
について,特別それを信奉しているわけでは
とご所属と,誰に対するご質問かということ
ありませんが,どういうふうにお考えになる
を述べていただいて,簡潔にお願いします。
か教えていただければ幸いです。
〇質問者A:どなたがお答えいただいてもい
〇浜辺:後者のほうから簡単にコメントしま
いのですが,2分以内ということで,2点あ
すと,やはりその辺は,非常に密接に絡んで
るのですが簡潔に申し上げたいと思います。
いるのですね。つまり,予防法務と紛争処理
二宮先生のコメントとも重なると思うので
は全然ばらばらではなくて,これが本当に密
すが,まず第1点はコンプライアンスという
接に絡んでいますから,どこで線引きするの
ときに,権力に対して順応する,受身である
かは非常に難しいと思います。
というのに加えて,弁護士の環境が今後変化
むしろ,その辺が非常に密接に絡み合って
していくと,それに対して能動的に働きかけ
いるために,これらを全体としてどうするの
ていく,場合によっては権力を正すというよ
かということを考えざるを得ないのではない
うなものもあり,その解釈をどんどん構築し
かと思います。
ていったり,立法へ働きかけるという積極的
第1点のほうは,まさにその通りでありま
な役目,立法法務なんてちょっとこなれない
して,コンプライアンスの捉え方については
言葉を使っているのですが,そういうものも
いろいろな論者がいるのですが,かなりこれ
今後求められるのではないか。
を広く考える考え方が強まっており,私もそ
場合によっては,例えばモルガン・スタン
レーやボーイングなど,そういうところだと,
うですし,いろんな先生がそういう提言をさ
れております。
実際に外国の弁護士事務所でそういうことを
その中には,環境構築のコンプライアンス
やっている部分もあるかと思うのですが,こ
活動ということも重要なんだと。つまり,も
れについて見通しはいかがでしょうか。これ
し法規制が不適切なものもあれば,やっぱり
が第1点。
そういうものの改善もしていくという活動も,
第2点は,これも浜辺先生の報告を大変興
これもまた企業はやっていくべきだと。それ
味深くお伺いしたのですが,確かに CPA は
をそのままにしておいて,法律が悪いから適
非常に規制が強い。それに対して弁護士は規
当に自己流の解釈でやると,あるいは逸脱行
制が弱い。
動をすると。これはいくら法が悪いといって
これ,二宮先生がおっしゃるように確かに
弁護士の性格もあって,法というのはコンプ
もそれだけではいけないだろうということで
す。
ライアンスのように,権力の一環,一部分を
もし,その辺りの法規制に問題があるので
担うという部分と,それに対して反権力とい
あれば,そこをきちっと誠実に対応し,それ
― 78 ―
を改めていく活動もしないといけないという
それで,独自性が保証されている公認会計
ことも,コンプライアンスの中の1つの重要
士について言えば,もっとそれはきちんとや
な領域としてあるだろうということを,今,
るべきものであって,そこで癒着を起こすと
コンプライアンスの授業でもやるようにして
いことは本来あってはならない。
います。
それはだから,無能ということと関連する
〇宮澤:他にいかがでしょうか。
のじゃないかというふうに思います。
〇質問者B:お2人のとはちょっと観点が違
それからもう1つついでに,森先生に伺っ
うところがあります。1つは能力の問題が非
ておきたいのですけれども,監査で批判性の
常に重要なのではないかと。
ほうが優先だということですが,それは制度
つまり,プロフェッショナルというのは能
力がなきゃ。私は,能力がないのは,無能は
としてはそうかもしれないけど,実際は違う
のじゃないかと。
罪悪だと,こう言っているわけですけれども,
つまり,受託義務はないわけですよね,公
クオリティという問題を二宮さんが指摘され
認会計士というのは。受託義務がない以上は,
ましたが,その問題が1つあるのですね。
受託するときには,きちんとした監査表明が
もう1つは,どういうふうにしてそれを担
できる。監査表明は,監査役もそうですが,
保するのかが非常に難しいのですが,やはり
要するに適正意見が出るというのが前提なん
淘汰の仕組みをきちんと考える。無能か有能
です。
かということが,外に見えるような仕組みを
初めからおかしいという意見が出ることを
なにか考える必要があるのではないかという
前提として監査をやるというのは,そんなバ
のが,私が前から言い続けていることです。
カげた話はないのですね,本来。そうしたら
それから,例えば公認会計士について言え
儲からなくなりますから,システムが。です
ば,大和銀行で証明書をとらなかったという,
から,初めの段階で,「これはいける」と
1990 年代にもうすでに事件があって,おか
思ってやってもらわないと困るのですね。だ
しいということはわかりきっていた話です。
から,その前提をきちんと確立するというこ
それを見過ごしておいて,ああいう大事件を
とが必要なんだと私は思いますが,その点に
起こして,そんなことを金融庁は問題にしな
ついて。
いとか,おかしいんですよね。だから,そう
いうことがそもそも問題。
もう1つは,今度の会社法では公認会計士
は,会計監査人は事業報告について意見を言
それからもう1つは,システム。それは,
わないということになっています。これは,
無能がいかんというのは法律に書いてあるわ
果たしてどこから出てきた意見なのかよくわ
けです。それが動いていない。それから,確
かりませんが,公認会計士協会はいったいこ
かに制度が違います。弁護士の場合と,公認
れについてどういう考え方を持っているのか。
会計士の場合とは。
そんなバカな話はないと私は思っているので
たぶん公認会計士の場合は,独立性がもの
すが,その辺についてはどういう考え方であ
すごく全面に出てくるということに,制度上
るのかとお訊きしたい。
そうなってますから。だけど,弁護士の場合
〇宮澤:今,浜辺さんと森さんの両方に関係
は,もう1つ,相対性ということ,つまり依
するポイントがあったと思うのですが。
頼者べったりじゃいけないといことがあるの
〇浜辺:私のほうは1点だけ,能力に関する
ですが,これが必ずしも制度としてそうなっ
話をちょっとだけコメントしたいのですが。
ているわけではないというところがあるんで
実はアメリカの弁護士倫理と日本の弁護士
すね。そこが1つ問題。
倫理規定を比べたときに,現行の職務規定を
― 79 ―
作るとき,確かアメリカにあって日本に欠け
会計士協会の役割は会員に対する監督指導が
ているものを埋めるべきではないかという議
入っています。
論をしたと思うのですが。それでアメリカに
その中に,品質管理レビューというものが
ある能力に関する規定,あとでまたこの辺に
あります。各会計事務所,大手は2年に1回,
ついて違うのでしたらご指摘いただきたいの
3年に1回だったかな。中小はもう少し間隔
ですが,私の理解では,能力の規定は弁護士
はあるのですが,品質がきちんとできている
会の賛成を得られないだろうと予想されたの
かどうかについての品質管理の状況をレ
で,提案もされなかったと思います。
ビューをしています。
要は,そういうことで,それは入れなかっ
これも過去からずっとやっていたわけでも
た経緯があるのだろうと,私はそういうふう
なくて,徐々に対象を広げ,頻度も多くして
に理解しています。
いるという経緯になっています。
その代わりといってはなんですが,研修義
この品質管理レビューの結果について,問
務というものを導入し,それで事実上やれば
題があれば勧告をするということになってい
いいじゃないかと。そういう前向き思想とい
ます。会則におけるいろいろな処分につな
えば聞こえはいいのですが,ちょっと厳しさ
がってくるわけであります。
に欠けているような気がしなくはないですね。
その辺,やや問題が残っているのじゃない
かなと私のレジュメの6ページでちょっと指
この品質管理レビューに関しては監督官庁
である CPAAOB,公認会計士・監査審査会
に報告されるということになっています。
それで大丈夫なのかということですが,そ
摘したことで,これは確かに難しいことでは
ういう体制があるということと,それと継続
ないかと思います。
これは,弁護士会が自分で作るということ
的専門教育制度,これは業界内では CPE と
は,おそらく政治的にどうなのかな,難しい
言ってますが,これが義務化されています。
のじゃないかなというのが,弁護士会の全体
義務化されて,もう2年くらい経つのでは
ないかと思います。
の雰囲気から感じるところです。
それと昨年の 12月の会計士協会の臨時総
すみません,これくらいで。
〇質問者B:それは,弁護士会の自治だと
会で承認されたわけですが,協会の中に,上
言っても,弁護士会の体質が問われますよね。
場会社監査事務所の登録制度を設けました。
〇宮澤:後でその話になると思います。職務
登録された事務所について品質管理の面で
基本規程の制定には須網さんも関与したと思
きちっとできているかどうかについて会計士
うので,一言あればと思いますが,まず森さ
協会で審査をするという仕組みを作っていま
んにお願いします。
す。
〇森:たくさんご意見をちょうだいしたわけ
この登録制度は,義務ではないのですが,
ですが,まず能力の点についてお話ししたい
上場会社の監査をやっている事務所でここに
と思います。
登録をしない場合は,その事務所の名前を公
過去,いろいろ事件が起きていて,実際に
表します。ですから,公表されたところは会
監査手続きとして抜けている等の不備があっ
計士協会の上場会社,監査事務所の品質管理
たわけですね。
基準に合っていないと見られてもしょうがな
それに対してどういう対応をしているのか
いということで,あとは市場の判断であるい
ということですが,先ほどの監督の二重構造
は会社の判断で,その監査事務所に監査を依
というお話をしましたが,日本公認会計士協
頼するかどうかは決めてもらうと,そういう
会がその一翼を担っているわけで,日本公認
仕組みになっています。
― 80 ―
それと,事業報告書については,いろいろ
じゃないかというふうに思います。
議論があったんだろうと思います。私は直接
〇森:深い検討をしているつもりなんですけ
議論の場には出ていないのですが,今回,事
れども,十分でないということもあるかもし
業報告書と計算書類に分けて,それぞれに付
れません。今後も十分に検討したいと考えて
属明細をつけるということになりました。実
います。
務としては会計データについては,基本的に
〇質問者B:それから,一応,システムがき
は事業報告書は監査の対象とはしていないに
ちんとしているということを前提にして監査
しても,見ていくということにはなると思い
に入らないと,おかしいのではないか。
ます。
〇森:その点については財務諸表監査の制度
監査基準に有価証券報告書も同様ですが,
自体は,やはり批判的機能が求められます。
経理の状況以外の財務データについても,一
ただ,利害関係者,経営者が求めるのは,
応監査の対象ではなくとも見るということに
批判的機能だけではなくて,適正な財務諸表
なっています。
でなければ使い物にならないわけですから企
そこに整合性を合わせたのかなと考えてお
業行動を注視することになります。
ります。
ですから,結果的に言いますと,会計士が
ですから事業報告書の会計データについて
能力的に使うところは,指導的機能のほうが
も,監査の対象ではないのですが,見ると。
多いのではないかと考えています。
有価証券報告書と同様のレベルで見るという
〇宮澤:須網さんから何かありますか。
ことになるかと思います。
〇須網:私は,職務基本規程案を作成した弁
〇質問者B:それはおかしい。つまり,内部
護士倫理委員会の委員でしたが,授業等も
統制の仕組みというのは,全部事業報告の中
あって,全ての議論には参加していませんが,
で記載することになってますよね。だから,
能力の問題について明確に議論した記憶はあ
業務,財務書類の適正のための内部統制シス
りません。
テムが,示唆だと言っておられるから,それ
ただし,伝統的な考え方によれば,あの難
は内部統制システムがきちっとしていて,会
しい司法試験に合格して,修習も修了したの
計組織がきちっとしていなければ,そんなも
だから,それで弁護士の質は一生分担保され
のは成立しないわけでしょう。
ているということなのではないでしょうか。
それを,会社法上から,今まであった制度
しかし,最近は法律もどんどん変わります
から外すということは,一体なにごとか。そ
し,新しい判例もたくさん出てきます。そこ
れを容認する会計士協会の体質がそもそも。
で,伝統的な考え方に全面的に依拠すること
それからもう1つは,教育をやっていると。
も最早できず,やはり研修を受けなさいとい
弁護士資格もそうですが,教育をやっておる
う傾向が強くなってきているのだろうと思う
と。そんなこと言ったって,体質がそもそも。
のですね。
弁護士会は体質の問題だし,公認会計士協会
この現状が問題であるというご意見は当然
も体質の問題。そこのところを根本から考え
あると思いますが,むしろ私が問題であると
直してもらわないと。
思っているのは,職務規定のあり方について,
〇二宮:私は,要するにコンプライアンスに
常時議論する場所が存在しないことです。弁
関する重大な事件があって,なおかつ体質が
護士倫理委員会は,現在も委員会として形式
改善されないというのがおかしいと思います
的には存続しているかもしれませんが,活動
ね。
は一切停止しています。過去の例から見れば,
とにかくもうちょっと,深い検討が必要
一度規程を作れば,少なくとも 10年くらい
― 81 ―
は,その規程をそのまま用いることが当然に
〇森:わかる範囲でと言いますか,見通しで
予定されているのでしょう。しかし,現在の
すから当たらないこともあるかと思いますけ
職務基本規程は,会規として制定されており,
ど,それはご容赦いただきたいと思います。
米国で SOX を 2002 年に導入して,日本の
これまでの弁護士倫理とは性質が違います。
また,解決しなければならない新しい問題も
企業もこの3月期から監査の適用までになっ
日々生じてきます。そのような状況を考える
ています。日本の企業というのは SEC に登
と,一旦規程を制定してしまえば,それで議
録している企業ですね。米国から見ると外国
論は終わりという現在の体制には問題があり,
企業として適用があるわけです。
弁護士の行為規範について常時議論し,問題
日本と米国の違いの1つは,今ご説明が
があればそのつど直ちに規程の改正を行うこ
あった通り,ダイレクト・レポーティングか,
とができる体制が,弁護士会に必要だろうと
経営者の内部統制の報告書に対して監査人が
思います。以上です。
意見を出すかというところですね。
〇質問者B:とにかく,法律を変える以上は,
審議会の内部統制部会での議論を聞いてい
ちゃんとした根拠がないと困るんですが,根
ると,やはり米国では膨大な時間とコストを
拠なしに会計に関する事項が事業報告に全然
かけてしまったという事実があって,それは
なきゃいいですけど,あるのが明白なのにそ
なんとか避けたいというのが共通の認識で
れを監査から除外するというのは。おっしゃ
あったようです。
る通り,協働体制を組んでやっていただくよ
実施基準は公開草案ですが,おそらく来週
り,この法律についてはしようがないと思い
あたり実施基準が決まって出てくると思いま
ますが。しかし,制度としてはおかしいと。
す。そこでは重要な事業拠点は,2/3であ
おっしゃるとおり,法制審議会も悪いし,
るとか,あるいは重要科目として3勘定を例
法務省も悪い。国会も悪い。
示するなど内部統制の業務プロセスの文書化,
〇宮澤:次に行きましょう。
評価の範囲をかなり絞った形にしています。
〇質問者C:森先生と二宮先生に,それぞれ
ですから,その意味では今の米国の制度に
会計士と経営者の立場で伺いたいのですが。
比べると,相当負担は軽くなっているという
内部統制監査のことで,昨年の末から動きが
認識があります。
ありまして,動きが相反しているというか,
ダイレクト・レポーティングですと,監査
別の方向に行っているように思うのですが。
は,経営者の評価とは別に見ていくわけです
アメリカのほうでは,サーベンス・オックス
ね。ですからここでも相当監査に時間がか
レイ法の2年間の経験を踏まえて,今回,マ
かってしまうということになります。
ネジメントテストという,監査基準テストに
その関係もあったので,日本ではダイレク
なってきて,ダイレクト・レポーティングだ
ト・レポーティングはとらなかったという経
けにしていくという動きになっています。
緯があるのだろうと思います。
かたや, JSOX,日本の内部統制も出まし
ただ,米国でもかなり評価の範囲について
たが,それは,ダイレクト・レポーティング
は緩和をするということになっていますので,
は採用しないという動きになっているわけで,
ある意味では近づいていくのかなということ
くしくも流れが逆の方向に行っているのです
になると思います。
が。投資家保護という中で,JSOX はどのよ
基本的な財務報告に関する内部統制のあり
うな形になるか,アメリカとの比較において,
方,評価,監査とその仕組み自体は米国と日
教えていただければありがたいなと思うので
本では全く違わないと私は理解しています。
すが。
〇二宮:企業側からしますと,コストは絶え
― 82 ―
ず大きな関心事でございます。アメリカの教
ときに,果たしてそれで充分な内部統制の
訓を踏まえながら,合理的なアプローチで日
チェックができるのかどうか,という視点が
本は進んでいると理解しています。例えばダ
重要です。今のところ,特に問題を感じてい
イレクト・レポーティングは初めから考慮の
ません。ただ,監査役が会計監査人に対して
対象ではなく,インダイレクト・レポーティ
どのようなかかわりを持っていくべきか,内
ングで何ら差し支えないと思いますし,業務
部統制監査報告書の作成に関して,監査役は
プロセスにかかる内部統制の評価範囲に関し
どう関与していくのかが現実的な問題だと思
売上高3分の2基準とか,重要な欠陥につい
います。監査役は,金融商品取引法上の責任
ての5%ルールとか,企業の事業目的に大き
はある訳ですから,この問題には非常に複雑
く関わる勘定科目についての売上,売掛金,
な感じをもっております。
棚卸資産とかは,妥当なとらえ方をしている
〇宮澤:どうもありがとうございます。ここ
な,という感じを持っています。
で休憩にしたいと思います。
一方,我々監査役の立場からこれらを見た
第二部「企業行動に関与する弁護士・公認会計士の責任」
〇宮澤:それでは第二部を始めたいと思いま
回収機構( RCC)の中坊公平弁護士(元日
す。まず,弁護士について塚原さんに報告し
弁連会長)のケースがあります(日弁連懲戒
ていただき,続いて公認会計士について山口
委員会平成 17年8月 22日議決・弁護士懲戒
さんから報告していただきます。
事件議決例集第8集256頁)
。
〇塚原:
RCC は「不適切な回収」として発表した
1 弁護士の企業に対する関与の形態
ものですが,刑事で告訴されて起訴猶予に
弁護士の企業への関与の形態は,大きく4
なったときの罪名は詐欺です。債権の回収に
あたって,隣接する2つの土地,A土地は,
つに分けられます。
経営者として,企業内弁護士として,顧問
横浜銀行と明治生命が第一順位で RCC は第
弁護士として,事件受任弁護士として,関与
二順位,B土地が RCC 第一順位であったと
するものです。この最後の類型は弁護士の普
ころ,担保を抹消して売却するのに,土地の
通の活動で,これに関する倫理は,大学院で
買い取り価格について,両社に開示せずに抹
は 10 回くらいかけて講義する中身になりま
消させた。
それについて,刑事は起訴猶予。大阪弁護
すから,今回は省略する予定です。
2 具体的な責任事例
士会の懲戒委員会は,懲戒相当としつつ除斥
「具体的事例」を扱うのが私の役割ですの
期間満了のため却下しました。弁護士の懲戒
で,さっそく具体的な事件をいくつか見てみ
は,懲戒事由が生じたときから3年以内に懲
ましょう。詳しいことは資料に譲り(本誌で
戒手続が開始しなければ懲戒できないとされ
は省略)
,ポイントのみ説明します。
ているためです(弁護士法 63条)。異議の申
出も棄却されています。棄却決定後に弁護士
I.経営者としての弁護士
登録を抹消しています。本人は発覚後,弁護
士を辞めるということを公表していたのです
A 代表取締役として
が,遅れた理由は,弁護士法上,懲戒手続き
代表取締役としての事件では,有名な整理
開始後は登録抹消ができない(弁護士法 62
― 83 ―
条1項),懲戒逃れを許さないという制度に
者責任で賠償責任が認められたケースがあり
なっているためできなかったものです。
ます(東京地判平成4年 11月 27日判時 1466
B 監査役として
号 146頁)。この弁護士はこの事件とは別の
監査役としてのケースはいくつかあります。
事件で,退会命令,さらに刑事事件にもなっ
¸ 伊坂ケース
ています。
» Kケース
平和相互銀行の伊坂重昭さん,この人は元
特捜検事です。監査役でしたが,実質は経営
元検事総長のK弁護士が,店頭公開後に粉
者で実権派四人組と言われていました。不良
飾決算が発覚したアイテックの常任監査役に
貸付で特別背任とされ有罪になった事件です
店頭公開前からなっていたという事件があり
(最決平成 10年 11月 25日・刑集 52巻8号 570
ます。アイテックは店頭公開した翌々年の
頁)。
1992 年に破産,粉飾決算をしていたことが
平和相互の経営者一族だった小宮山さんが
明らかになりました。店頭公開後にはさらに,
やっていた太平洋クラブというゴルフ場会社
元検事長と元国税局長を監査役にしていまし
が経営難に陥り,会員権の保証金の預託期間
た。名前を利用して信用をつけるパターンで
の 10 年が経過して償還請求が殺到すれば太
す。
平洋クラブは潰れる,太平洋クラブが潰れれ
粉飾については,社長と常務は,証券取引
ば平和相互が危ないということで,太平洋ク
法違反と違法配当の商法違反で有罪になって
ラブが持っている土地を高額で他の不良な会
いますが,公認会計士については粉飾はわか
社に買わせ,購入資金と開発資金を融資する
らなかったという判断で処分はありませんで
形で太平洋クラブを支援して,これが特別背
した。破産管財人は,役員に対して賞与と配
任とされた。
当の返還を請求し,Kさんは返還をして責任
伊坂さんは,カミソリ伊坂と言われた敏腕
を取ったと報道されています。
検事で,河井信太郎さんのもとでかわいがら
Ⅱ 企業内弁護士
れて,将来の検事総長との声もあったが,途
中で退官して弁護士になり平和相互に入った
企業内弁護士としては,明治安田生命の上
ことが報道されています。
¹ 眞田ケース
山一知弁護士(取締役法務部長)のケースが
先ほども紹介されました眞田弁護士。日本
あります。この事案は,金融庁の処分理由に
を代表する大手渉外事務所のネーミング・
顕れた簡単な認定事実以外はわかりません。
パートナーでした。有名なインサイダー事件
報道されているレベルでの詳細は中央大学の
があります。彼が監査役をしていたユニマッ
高柳一男先生が公開情報を整理され,「季刊
トの代理人として, M&A をしようとしてい
企業と法創造」6号 202頁以下に掲載したも
た相手方の会社の情報を利用してインサイ
のを参照して下さい。
ダー取引をした。刑事事件で有罪になってい
取締役法務部長の名で出された文書,すな
ます(最判平成 11 年6月 10 日・刑集 53 巻5
わち法務部が保険金部とともに作成し,社外
号 415 頁,東京高判平成 12 年3月 24 日)。逮
極秘で配布した「顧客対応マニュアル」に不
捕された直後に退会届を出し,それまでに懲
適切な記述があったと判断されています。告
戒申し立てがなかった関係で受理されたため,
知義務違反の教唆があっても,顧客の告知義
懲戒はされていません。
務違反を常に問うと解釈されるような文言が
º Ⅰケース
あったと報道されていますが,会社はこれに
弁護士が監査役をしていて,商法上の第三
抗議しています。このケースでは,誰も懲戒
― 84 ―
の申し立て等をしていませんので処分はあり
が問題になりました。例えば大阪弁護士会懲
ません。
戒委員会の議決(平成元年 9 月 25日)を見ま
これまで企業内弁護士の処分例はありませ
すと,「ある企業の法律顧問に就任するとい
ん。企業内弁護士はまだ日本では大変少ない
うことは,その企業の一翼を担い,法律実務
のです。日本組織内弁護士協会(旧名インハ
家としての知識経験を通じて当該企業の利益
ウス・ロイヤーズ・ネットワーク,本日も何
に寄与することを約することであり」「その
人かお見えかと思います)が整理していると
就任を約するには慎重さが要求される。その
ころでは,2006 年2月現在で,企業に所属
顧問料はそれらの対価的性格を持つものであ
するインハウスの弁護士が 160 人です。任期
ることも否定できず,顧問料が高いことは,
つき公務員という形で政府部内にいる弁護士
期待の大きさを図る尺度になるだけに……慎
は,一番多いときは 60名を超えておりまし
重でなければならない。」(弁護士会懲戒事例
たが,2006 年6月現在では,51 名。もっと
集下巻1568頁)
も多いのが金融庁で 13 名,法務省に 10 名,
別の懲戒議決に出てくる議論ですが,ある
公正取引委員会に6名,その他,財務省,経
企業に顧問弁護士がいて職務を行っていると
産省などにおります。両者併せてもたかだか
いうことは,通常企業内外の関係者は,その
全国で 200名くらい,最近急激に増えてその
企業が行っている事業が社会的相当性の範囲
数ですので,今までは処分例がなく,議論の
内にあると信頼する。有名な弁護士が顧問に
素材そのものがほとんどありません。
ついているということであれば,まず世間の
人が信頼をする。豊田商事のときは,行政に
Ⅲ 顧問弁護士
よる取り締まりがなされない,弁護士がつい
ていてチェックしているというのが方便にな
それに対してたくさんの処分事例があるも
り,行政が踏み込めない。
のとしては,顧問弁護士のケースがあります。
この事件は 82年から国会でも取り上げら
¸ 豊田商事事件
れて,マスコミ等でも何度も問題にされてい
社会的に最も問題となりましたのは,1985
るのですが,従業員がひるむと学習会をやっ
年の豊田商事事件があります。
て,顧問弁護士が講師となり,「会社のやっ
豊田商事という会社が,ペーパー商法で,
ていることは法的に問題がない」と解説する。
純金ファミリー契約証券というまがいものを
このように,悪徳商法を続ける会社を支え続
年寄り相手に売りまくり,全国で被害者数万
けた責任を問われたのです。
人,被害総額2千億円という大問題になりま
吉井弁護士については東京弁護士会の会長
した。この会社には十数人の顧問弁護士がお
が,Kという仙台の弁護士(元日弁連副会長)
りました。最も有名だったのが,吉井文夫弁
については仙台弁護士会の会長が,
「会立件」
護士,元検事で,商品取引に関する権威とい
といって,弁護士会自身が懲戒請求をする手
われていた人です。この人がもらっていた顧
続を採っています(弁護士法 58条2項)。そ
問料が月額 500万円。驚くべき額です。その
の後に被害者弁護団が,十数人いた顧問の中
他に二弁のA弁護士は 200 万円。神戸のK弁
で責任の重い7名に対して懲戒請求しました。
護士が 200万円という顧問弁護料をもらって
組織的に懲戒請求した大変珍しいケースです。
いて,あとは 100 万円台。元検事長という一
結果としては,資料に記載のある通りに懲戒
弁の弁護士は 30 万円(この人は懲戒を受け
されています。もっとも重い吉井さんが業務
ていません)。
停止1年です。
この事件では,顧問弁護士の果たした役割
― 85 ―
民事責任の追及もされました。破産管財人
(先ほど出てきた中坊さんですが)から,86
ケースが,三越の河村貢弁護士のケースです。
年の4月に,月額 100 万円以上をもらってい
有名な三越の岡田社長の「なぜだ!」という
た顧問料は公序良俗違反であるから,返せと
社長解任劇がありましたが,これは河村弁護
いう請求をして,顧問弁護士たちは全額返し
士が長期に計画したクーデタでした。顧問弁
ました。被害者弁護団はさらに損害賠償請求
護士として,社長解任のクーデタを 10年に
訴訟を吉井さんともう何人かを相手にして提
わたって準備していた,ということで,懲戒
起し,後に和解をしたと報告されています。
請求を受けたと当時聞きましたけれど,懲戒
顧問弁護士の言い分はこうです。多くは,
不相当で終わったらしくデータがありません。
豊田商事がやっていることが違法であるとは
本当に懲戒請求されたのかもわかりません。
わからなかった,ちゃんと資産はあるという
資料としては,河村弁護士が『解任』(講
報告しか自分たちは見ていないというのが主
談社,1985年)という本を出していまして,
だった弁解です。二弁のA弁護士の懲戒手続
これが大変詳しい。岡田茂さん側の主張は竹
の中での弁解は,「弁護士は裁判官ではない
久みちさんが,最近『罪名女』という本を出
のだから,例えば事件を受任したときに,そ
していまして,それを見ればたぶんわかるは
の事件の正悪を判断するため,弁護士が依頼
ずですが,私は読んでおりません。
者を取調べ,資料をあさりまわることになれ
1982 年にこのクーデタがあるわけですが,
ば,その瞬間弁護士の資格を失い,検察官,
河村弁護士は 73年からクーデタを準備して
裁判官の役割を務めていることになる。これ
いる。73年に国税局の調査があって,岡田
は弁護士の自殺行為だ。後に不正行為が明ら
社長が取引業者に代金を水増し請求させて水
かになったとしても,就任当時には決して明
増し分を自宅改修費に充てた背任行為が発覚
らかではなかった。依頼者の言うことを一応
する。後で有罪になった事件と別件ですが全
信じてやるのが弁護士の本来の仕事なのだ」
く同じ手口だという。竹久みちさんという自
という。これ自体は正論なのですが,縷々弁
分の愛人に金を流すために,三越に損をさせ
解する。
て竹久の会社に流すということもやっている。
問題は,実際に疑問を持つチャンスがな
河村弁護士はそれを調べては検察に情報を流
かったのかどうかというところにあるわけで,
す。そういうことを顧問弁護士としてやり続
そこが懲戒手続では争点になった。客観的に
ける。
見なければいけない。自分が言っていること
自分は親(最高裁判事になった河村大助弁
がそれ自体としては法律上正論であっても,
護士)の代からの三越の顧問ですから,岡田
それが持っている機能を考えないといけない。
を切らない限り三越の明日はないと信じてい
特に講演をさせられるときがそうですね。従
るのですね。そのために,ずっと行動する。
業員相手に説明をするときに,自分たちが主
しかし検察はなかなか動かないために長年経
張する理屈自体は前提条件が満たされれば成
過する。82年になって,独禁法で有名な下
り立つとしても,社会的非難を浴びているの
請けいじめの三越事件(公正取引委員会昭和
が本当かどうかをチェックしないで自分たち
57年6月 17日同意審決),さらには古代ペル
の理屈だけを言い続ければ,それは従業員に
シャ秘宝展という贋作事件が起こって,さす
対し,反社会的行為を正当化する機能を果た
がに社内でも我慢できないという話になり,
す。ここら辺が悩ましいところですが,それ
ようやく何人かが相談にくる事態になる。綿
らで処分をされている。
密な打ち合わせをしてクーデタを実行する,
¹ 三越事件
しかもそのいきさつを後で本にまでした。特
もう一つ,顧問弁護士として大変面白い
別背任の事件も,有名な事件で,高裁で一部
― 86 ―
無罪が出ていますけれど,基本的には岡田社
そうとすることがある。こういう方向の意見
長が竹久氏に金を落とすために三越に損害を
を書いて欲しいと担当者が言うケースがたく
与えたとことが認定されています(東京高判
さんあるわけです。これが大変に危ないです
平成5年 11 月 29 日判タ851 号 122 頁)
。
ね。日ごろ親しくしている担当者だから,い
º 依頼者は誰か
いように書いてやりたいという気持ちがどう
ここでの問題は,組織にかかわる弁護士の
しても働く。しかし,弁護士がなすべきこと
場合,依頼人は誰かということです。三越の
は,依頼者である会社の最善の利益を図るこ
顧問であって岡田個人の顧問ではない。だか
とですから,担当者が言っている通りのこと
ら社長の首を切ることだって顧問弁護士には
を書いていいのか,立ち止まって考えないと
許される。もちろん,自分で切るわけにはい
いけない。これを間違えると後で場合によっ
かないので取締役が切る。このようなことが
ては弁護士も責任の対象になりうるわけです
本当に可能なのか。ここは実は議論がありう
ね。
るところですね。
株主代表訴訟が大量に提起されるように
例えば企業の役員と親しくなると,相手方
なった 1993 年以降は,リーガル・オピニオ
は,会社の弁護士であるにもかかわらず,な
ンをとることがかなり増えましたから,破綻
んとなく自分の弁護士のような気がして,相
した金融機関等で調査に入ると,問題になる
談をするということが起こる。これが大変危
融資について,リーガル・オピニオンをとっ
ない。それがよろしくないことである場合に
ているケースが結構あるのです。私は破綻金
どうするか。法律違反をしているということ
融機関の経営者の責任追及事件を多数担当し
を聞いてしまった。とすると,弁護士は,そ
ていますので,いろいろな法律事務所の意見
の役員に対して,「私が顧問をしているのは
書を読みました。守秘義務があるから詳しく
会社であり,自分の依頼人は会社なのである
はいえませんが,その中には弁護士名で,
から,あなたの代理人ではない。」というこ
「意見書はいつの日付にしたらいいですか?」
とを言わないといけない。「自分は会社の最
なんていうファックスがあってびっくりしま
善の利益を図るために行動しなければならな
した。その趣旨かどうかは不明ですが,バッ
い。あなたが違法行為をしたということは,
クデートの疑いをもたれかねない。どうして
私はトップに言わないといけない。」という
そういうリスクを考えないのか理解できませ
話になる。
ん。
そうすると役員との個人的信頼関係は失わ
NHKの梅田さん(企業内弁護士)に伺い
れる。また,役員との間で守秘義務は生じる
ましたら,NHKでは意見書をとったら確定
のかという問題が生じる。個人の相談を受け
日付をとると言われていました。そうしない
てしまうと守秘義務が生じてしまう。会社と
と信用できないことがある。この判断をした
のコンフリクトが生じるので,どちらも辞め
ときに本当に意見書があったのかなかったの
なければならないという事態が生じる。そう
かわからない。
でなくて聞いたのならば,それは顧問として
弁護士の意見を採るときは書面に必ずして
事情をたまたま聴取したに過ぎないという扱
もらう,口頭でいい加減なことを言う危険を
いになるから,依頼人は会社だとなる。この
封じておくという話を聞きます。これは当た
辺の切り分けが実は大変難しい。
り前かもしれませんが,さらに確定日付まで
あるいは顧問でなくても会社から依頼を受
とるというのは知りませんでした。そこまで
けて意見書を書くというような場合に,担当
やったほうが本当の意味できちんと意見を
者が弁護士の意見を借りて,自分の意見を通
とったということになるのでしょう。
― 87 ―
» 利益相反ケース
それではどうしたらこのようなことが防げ
顧問弁護士として,よくあるのが,利益相
反のケースです。これは懲戒事例が多数あっ
るのか,どういう仕組みがあるのかというこ
とについて,ごく簡単に触れておきましょう。
て,説明に長時間を要するので,詳しくは私
経営者になるというのは,日本の弁護士に
どもの教科書(塚原=宮川=宮澤編『プロブ
とってみれば,非常に最近の出来事です。日
レムブック法曹の倫理と責任(第2版)
』(現
本は,以前弁護士法で,営利業務への従事を
代人文社,2007年))を読んでいただいたほ
基本的に禁止し,例外的に許可制を採ってい
うがいいのではないかと思います。今日の議
ました。2003年の改正で自由化して届出制
論に必要な範囲で有名なケースをあと2つく
にしたのです。フランスなどでは今でも弁護
らいご紹介しておきますと,1つは並木俊守
士が商業活動に従事することは禁止されてい
さんという有名な商法の先生で弁護士でした
ます。大陸法系では弁護士が企業活動はしな
が,顧問先の中堅商社である加商の株の買取
い。アメリカはそういう規制がないので,ア
をめぐって,相手方の会社である(もう潰れ
メリカでは経営者に弁護士が大変多いのです。
てしまいましたが一頃有名だった)「地産」
日本はそういう伝統がないために,規範が熟
の竹井博友社長から1億1千万円の謝礼を受
していないのですが,やはりこれだけ高名な
け取った。顧問が相手方から現金をもらうと
人でも当事者になると危ないですね。
いうのは,弁護士法 26条で「涜職の罪」と
例えば,住専の不良債務について,国民に
して厳しく禁止されている。巨額な謝礼です
二次負担をさせないと宣言してしまうと,
から刑事事件になり有罪になっています(東
RCC の利益を上げるしかない。出来る限り
不良債権を回収するしかない。こうなると,
中坊さんのような人でも無理をするというこ
とが起こる。当事者化してしまうのです。経
営者になっても遵法精神を働かせる必要があ
る。本当は,顧問弁護士がチェックすべきで
すが,このときの RCC の担当顧問弁護士は
中坊さん子飼いの大阪の弁護士なので,機能
しない。回収の極大化を図るということで中
坊さんと一体化している。この案件で問題と
された処理は,この顧問弁護士が自分で考え
たものです。「それは間違いではないか」と
言う人がいないといけないのですが,当事者
化するとそういうことが起こりかねない,大
変怖いことだと思いました。
顧問弁護士とKさんの監査役のケースは,
高額の顧問料でつられるのは危ない,利用さ
れることに注意しないといけない。出処進退
をきちんと考えないといけないということで
すね。
インハウスの倫理については,今後,さら
に詰められていくだろうと思います。
違法行為抑止義務が弁護士にあるというこ
京地判平成4年4月9日判時 1432号 144頁)。
並木さんのときも逮捕直後に,登録抹消され
たので懲戒はされていませんが,刑事で有罪
判決が出ています。
もう1つは,K弁護士(現役で今でも大き
く事務所をやっておられます)の事件があり
ます。有名ホテル内の飲食店の権利の売買で
相手方から巨額の現金を受け取って懲戒され
ています。ブローカー業務のようなことを弁
護士がやって両方から金をもらう。不動産業
者は両方からもらうではないかという弁解が
あり得るのですが,弁護士は不動産業者では
ありません。依頼者のためにベストを尽くす
のが弁護士の倫理なのです。これは有名な弁
護士でもこのようなことを起こしてしまうと
いうケースです。
3 企業に関与する弁護士の留意点
¸ 違法行為の防止策
今回報告をまとめて,どれも元検事のエー
スだったり,日弁連の役員だったり,私も
知っている人が何人かいて,正月から気が重
くなっています。
― 88 ―
とについては,先ほどご紹介した紀要に大宮
できる,このように組み立て直せば,あなた
法科大学院教授である柏木弁護士の詳細なレ
のやりたいことは適法にできるのだと考えて
ポートがありますので,そちらに譲ります。
あげるという姿勢がないと弁護士を頼む意味
¹ 弁護士の独立性と忠実義務
がない。違法なことをそのままオーソライズ
その他の問題としては,一般倫理なのです
するようでは全く役に立たないし,ごまかす
が,弁護士倫理や新しい弁護士職務基本規程
ような弁護士でも困るけど,目的が不当でな
でも弁護士の独立性を非常に強く謳っている。
い,利益を上げることであるという場合に,
これは先ほども言ったように大変重要なこと
たまたま考えているのが誤った手段であれば,
です。依頼者と一体化してはいけない。
そうではない,こういう方法があるんだよと
ただ,これを今まで強調しすぎたのではな
きちんと考えてあげる姿勢が求められている。
いかというのが後でコメントされる大村さん
そのように授業では教えているのですが,果
の意見です。依頼者に対する忠実義務とか熱
たして自分がそこまで一生懸命そこまでやっ
心な弁護というのが,アメリカの弁護士の一
ているかなと反省しながら今回の報告をまと
番重要な倫理の1つです。クライアントのた
めました。以上でございます。
めに全力を尽くして戦うという姿勢です。日
〇宮澤:どうもありがとうございます。ちょ
本の弁護士は,これに欠けるのではないかと
うど 40分で終わっていただいてありがとう
いうのです。
ございます。たぶん,最後の点は言い足りな
豊田商事の顧問弁護士が適例ですが,顧問
料を巨額にもらっていながら,いざ会社が違
いと思います。また後で,質問があって,回
答が得られて,議論になるといいと思います。
法だとして処分を受ける段になるとみんな離
それでは続いて,山口さんのほうから,今
れちゃうのですね。これだけたくさん顧問料
度は公認会計士の事例を踏まえたご報告をお
をもらっていたのなら,会社が危機にあるそ
願いしたいと思います。
のときこそ,処理をしてやらなければいけな
〇山口:それでは,企業行動に関する公認会
いと思うのですが,みんな逃げてしまう。忠
計士の責任について,具体的な事例を通して
実義務に欠けるのですね。
検討すべき方策ということをテーマにいただ
それともう1つ,独立を強調することに
よってクライアントを無視するという傾向が
きましたので,その件について説明をさせて
いただきます。
今まであったのではないか。これはご指摘ご
もっともという面もある。
最初にお詫びしておかなければならないの
は,風邪を引いてしまったらしく,お聞き苦
違法行為の抑止義務を,私の授業で取り上
しいと思うのですが,その点ご了承ください。
げると,だいたいすぐ辞任するという答えに
お手元資料の最後のところに私のレジュメ
なるのですね。依頼人がやろうとしているこ
がついております。1というところを見てい
とが,目的自体が違法だったら,それは体を
ただきますと,公認会計士の企業に関する関
張って止めるか辞めるかしかないですが,目
与の形態ということが書かれております。こ
的は違法ではないけど,手段が違法な場合は
れは先ほど協会の常務理事の森さんのほうか
どうやったら適法にできるかを考えてあげる
らご説明があったのですが,一応私のほうも
というのが大事な仕事なのです。そういうふ
イントロということで,簡単に触れさせてい
うに頭を働かせないですぐに放り投げてしま
ただきたいと思います。
う。それでは依頼人は弁護士に相談した甲斐
この公認会計士法の第1条というのは,先
がない。依頼人が考えている方法が誤りであ
ほどご説明あったと思うのですが,公認会計
るとしたら,それは誤りだから,こうすれば
士法改正したときに,新たに設けられた非常
― 89 ―
に大事な規定なんですね。
ろが広範囲となり,次の¹の2のところを見
今までははっきり書かれてはいないけれど,
ていただければわかると思うのですが,これ
こういうことだと理解されて来たものですが,
を被監査証明業務と呼んだり,普通の会計業
本条の中で,公認会計士というのは監査と会
務と呼んだり,マネージメント・アドバイザ
計の専門家として,独立の立場で財務諸表の
リー業務と呼んだり,ごく最近ではコンサル
信頼性を確保するために財務諸表の監査をす
と呼んでいるのも全部ここに入るのですね。
ることを通じて,企業の公正な行動であると
ですから,文章から読み取れる内容よりも,
か,よく言われる株主とか債権者の保護を
実務は,非常に幅広く行なわれているという
図って,そういうことを通じて社会に,国民
ことです。
経済に貢献していくということを明記したの
ですね。
特に,ここには書いてありませんけれども,
独立性の問題,先ほど森さんから外観的独立
ここでは要旨だけを書いてあるのですが,
性という説明があったと思うのですが,そう
本当は独立した立場であるとか,財務諸表の
いうこととの兼ね合いで,公認会計士や監査
信頼性を確保するというのはどういうことか
法人は,このコンサル業務を非常に制限され
というのは,監査論的には大変大事なことな
ています。
のです。
例えば,監査クライアントに関して,経理
ですが,それはちょっと省略させていただ
のシステムを作るのはやっちゃいけませんよ
いて,ここでは,とりあえず会計というのは
とか,企業の内部監査の補助や代わりにやっ
財務諸表を作り上げること,監査はそれを一
てあげるのはいけませんよとか,財産の評価
定の基準で調べること,それから独立という
といいまして,例えば企業を買収するときの
のは,公平な立場でそれを調べて意見をいう
株式の評価はやっちゃいけませんと色々の制
という程度に考えていただければいいかなと
限がついているのはみんなこういう絡みなん
思います。
ですね。
第1条はそういうことで使命ということで
ここのところはこれだけにして,次にすす
すが,問題なのは,第2条のところなんです
みます。我々が関与している業務の形態を振
ね。先ほどの説明がありましたように,この
り返って見ますと,一つは監査証明業務。こ
第2条の第1項というのが,1項業務,2番
れは非常にはっきりしています。
目のほうが2項業務と言いまして,我々の公
2番目は今説明したことですね。
認会計士の業務が始まってから常に2項業務
3番目は,税理士として登録して税務業務
が議論されてきました。監査のところは,監
を行うこと。これは公認会計士法と税理士法
査業務の種類が増えてきていて,仕事も拡大
との兼ね合いもいろいろとあるのですが,現
してきたということで良いと思うのですが,
段階では税理士として登録して税務をやるこ
この2項業務に相当するところが,監査環境
とはできます。ここまでが伝統的な公認会計
が変わり,非常に難しいのですね。
士の業務なのですね。
ここでは,「公認会計士は,公認会計士の
次に書いたことは,これもさっき森さんの
名称を用いて報酬を得て財務書類の調整し,
説明の中にあったのですが,会社との関係で
財務に関する調査もしくは立案をし,または
言えば,非常勤取締役だとか,非常勤監査役
財務に関する相談に乗ることを業務とする」
或いは会計参与として活躍する場がこの頃広
と書いてあります。
がってきています。
多分,公認会計士制度の出だしはこれで十
分であったと思うのですが,今はここのとこ
会計参与はこの前できたばかりですから,
今後そういう道が開けているということです
― 90 ―
ね。他のことは,会計士の資格とは関係ない
かったのか,あるいは会計士が入っていると,
のですが,会計参与だけは公認会計士,監査
公認会計士は,監査でチェックできなかった
法人,税理士,税理士法人に限ると書いてあ
のか。こういうのがいつも出てくるのですね。
りますから,これは資格の有無に関係をしま
基本的な問題です。
す。
細かくはこの後でご説明するのですが,
それから五番目のところに,企業等におけ
ざっと見たところは,それぞれ会社とかそれ
る会計顧問,会計担当者として,と書きまし
ぞれの立場があるのでしょうけれど,利益を
た。皆さんよくご存知だと思いますが,企業
上げるために,やや法令とか規則というもの
公開する小さい会社が大きくなっていくとき
を無視しながら進んでいったという,そうい
に,現在の複雑な会計を習熟するのに時間が
うコンプライアンスの軽視ということがみん
かかりますので,企業が会計士をヘッドハン
な事件に結びついているということは言える
ティングしていくとか,あるいは自ら企業へ
かと思うのですね。
出て行くことが多くなると思います。こう
いった例が増えています。
不祥事事件には必ず会計士の問題が出てき
ますので,大変残念なのですが,それらの中
それから六番目は,先ほどの弁護士の方と
同じかもしれませんが,企業に勤めた方が,
から,特徴のある五つの例を中心に,説明さ
せて頂きたいなと思います。
試験に合格して公認会計士登録して,内部監
次のページを開いていただきたいのですが。
査人として内部監査の部署に属して仕事をす
例えば,K社はカネボウです。Lはライブド
るとか,あるいは監査役室のサポーターに
ア。Sは西武。Dは大和銀行のニューヨーク
なって活躍しているというケースも非常に多
支店の話です。エンロン社はEです。
いです。
私がとった資料は,法律的にけりがついて
あと七番目は公的機関の調査担当者として
いないものがありますので,どこまでが本当
書いてあるので,ちょっと適切な表現ではな
かどうかはわからない。ですが,一応新聞の
いかもしれません。各省庁や地方自治体から
報道とかですね,本に書かれていることは正
財務に関する調査,立案,事務の助っ人の依
しいものとしての話ですね。
頼があり,期限を切ってその分野に出て行く
というケースが多くなってきました。
私の論点というのは,いくつかに絞られて
いますので,大勢には影響ないかなという判
こんなことが,必ずしも企業だけじゃない
断でメモさせていただきました。
のですが,企業に関連しての業務ということ
になるかと思います。
それで,とりあげた会社について言います
と,左側のところに分析点として特徴と書い
だんだん本論に入って行きます。新聞やテ
たのは,なぜこの5社を選んだのかというこ
レビを見ていますと,不祥事が多発していま
とでありまして,K社の場合はわりあい不正
す。例えば,日興コーディアル,ミサワ九州,
経理が長いのですね。山一もこれによく似て
不二家だとかがあります。最近はビジネス・
いるのです。
リスクという観点から問題となる不祥事があ
それから,L社は,投資事業組合を通した
り,期限切れの原料使用の事件とか,姉歯建
複雑な取引をしているのですね。今は,割合
築士の耐震偽装の事件,また,地方公共団体
はっきりとしているのですが,これをもし,
と民間会社が関係する談合事件がありました。
私が監査人だったら,わかったかどうか難し
そういう不祥事が出るとどうなるかという
いなという気もあるのですね。
と,当たり前のことですが,なぜ起きたんだ
それからS社,これは株式の名義偽装です
ろう,何のためにやったのか,それは防げな
から,会計士の立場からいくと経理の粉飾か
― 91 ―
どうかという議論もあるのですね。ただS社
さらに訴訟の中身を見せてもらうと,結局
の場合にはその前に総会屋との関係とかいろ
その事実を伏せて株式を売却したという問題
んなものがあって,つめていけば金額の多寡
も出てきていますので,また違った問題も出
は別にして経理の問題もあるのでしょうが,
てきた。
それからD社は,海外の担当者が米国債を
その話はおきまして,株式の名義の問題であ
売却して,多額の損失を出した。この場合は,
るというところに特徴がある。
D社は海外支店の話ですね。これは,稲葉
本人が書いた小説もあって,本人が書いてい
先生に怒られるのかもしれませんが,なかな
るから本当であると考えますと,結局誰もわ
か難しいと思うのですね。
からなかったけれど,気がとがめて告白した。
E社は,エンロン社ですから,非常に有名
で残念な不祥事です。これを機会に世界の会
それから不祥事が明らかになったという記事
です。
計,監査,それから証券取引所の制度がが
そのようなことで,これについては,監査
らっと変わった,また,アーサー・アンダー
人はわからなかった,会社もわからないとい
センという監査ファームも潰れてしまいまし
うことで,非常に特徴ある事件だなと。
それから,E社は非常に複雑です。ここで
た。これは歴史的な出来事だった。そういう
は SPC を連結からはずしたとか,負債の未
意味でここに書きました。
粉飾決算の内容について短く書いてますか
計上があったとか,利益の水増しがあったと
ら,私の誤解もあるかもしれませ。まず,K
か,自己株式を資本の減少として示していな
社の例はここに書きましたように,皆さんも
いとか,項目だけ挙げました。
これもちょっと会計が分からないと理解で
新聞でよくご存知だと思うのですが,関連会
社を連結から外したというのがありましたね。
きないかもしれません。今は自己株式は資本
その他に架空売上の計上もあった。それで全
の減少として示されますが,以前はそういう
体としては,ここが問題なのですが,実質
ふうに表示しませんでした。
800億の債務超過であったものが,債務超過
ここでの特徴は3千社からの SPC を作っ
じゃないよという形で始め取り上げられまし
ていろいろな操作をやったのが非常に複雑な
た。
ものであったということ。
債務超過になると何が問題かというと,上
それよりも,先ほど言いましたような歴史
場廃止になる可能性もあるということです。
的事件だったために,我々が反省材料として
それから,L社の例は,ある意味では難し
銘記しなきゃならない,そういうことも含め
い。投資事業組合を使って自社株を売却して,
て取り上げています。
それを連結売上高に計上した。これについて
次のコーポレート・ガバナンスが機能した
は,会計をよく知らないと言っている意味が
かということですが,結論から言うと悪い場
わからないと思うのですが,一応間違いであ
合はみんな機能してないですね。
各事例別に言うと,K社の場合も機能して
ると思っていただければいいですね。その他
いないと思う。私は思うのですが,ずっと続
に架空売上高を計上した。
合わせて,連結ベースで約 53億円の利益
いている不正経理について,例えば関係者,
取締役であるとか監査役であるとか,どの辺
が上がっていますと。
S社の場合は,ここに書いてあるように,
まで知っていたのか知っていないのかという
持ち株比率が全然違うものを有価証券報告書
こと,知っていて議論したのかしないのかと
に記載した。64.8 %持っているのに 43.16 %
いうことがありますが,結論から言うと,そ
と記載して,それを続けた。
ういうものが成り立っていなかったのではな
― 92 ―
いかと思います。
わかりません。
それからL社については,プランを作る人
それからE社,これはよくないと思うと。
と実行する人が率先してやっているわけです
これは,粉飾の内容が非常に複雑で,会計処
から,コーポレート・ガバナンスなんていう
理を弄っていますので,コンプライアンスは
話じゃないと思います。
確保されていないなと。コンプライアンスの
S社の場合,この会社の会長が絶対的な権
限をもっており,どの新聞,雑誌の記事を見
ことは,内部統制の構成要素の基本的な問題
ですので,これはないだろう。
てもみんな会長の顔をうかがっていると書い
ているわけだから,これもないだろうと。
それから,次の四番目の不正経理について
です。ここは大事なところで,不正経理が
次の会社は棒を引いていますが,コーポ
レート・ガバナンスの議論じゃないなと。
あったときに監査人が見つけることができた
のか,できなかったのかということ,知って
それからE社は,これはないと思います。
いたのか知っていなかったのかということは,
アメリカですから日本と違いまして社外取締
ものすごく大事なことですね。K社について
役が多いのですが,お金をもらったり,関係
は知っていたと。これ,結構長くやっていま
するところの寄付をもらっていたようですの
すし,後でまた反省としてのコメントを説明
で,こういう状態ではないのではないかとい
させてもらいます。
うふうに思いました。
それからL社についても,これも知ってい
それから,内部統制の話ですが,内部統制
ると。これもニュースや本の記載の中に,二
については先ほど森さんから丁寧な説明が
段階になっている投資事業組合についてアド
あったと思うのですが,結論は,経営者が悪
バイスをしたという記事がありました。
いことをした場合には内部統制は全く効かな
それからS社は,発見できたかできないか
いということですね。訊くのが愚問というこ
と言いますと,これはよくわからないなとい
とですか(笑)。
うことで棒を引いています。私共は,有価証
K社については,最高責任者が率先して
券報告書の株主のところをよくチェックする
行った組織ぐるみの事件と思われるので,内
のですが,普通は外部の証券代行から来る株
部統制は良くない。
主名簿があって,それによりチェックするの
それからL社も内部統制は働かないと思う。
ですが,このS社は内部でやっていたような
これも経営者がああいうふうにやったわけで
ところがあり,見せられた名簿と一致してい
すからちょっと無理だと思います。
るとそれ以上それを確かめることはやりませ
それからS社については,非常に難しかっ
ん。
たのですが。内部統制についてはビジネス・
D社については,これはわかっていないと
プロセスごとの内部統制というのがあります
思います。会社も誰もわかっていない。本人
から,本当は全部悪いとは思っていないので
の告白からですね,スタートは。
すが,新聞記事の中に,少なくとも株式名義
E社の例では,これは知っていたようです
を偽ったときに,名義株主に株主総会の召集
ね。どの段階から知っていたかということは
通知を送ってないよとか,従業員が代わりに
わかりませんが,『アーサー・アンダーセン
株主総会で議決権を行使しているというのは
消滅の軌跡』という本を見てみますと,ある
ありましたので,これはとても問題にならな
程度内部で検討しているのですね。検討して
いということで,ないと思うと書きました。
いる内部の会議で,反対意見,ダメだという
それからD社については,これはニュー
意見が多かったけれども,そのアンダーセン
ヨーク支店についてはよくなかったと。他は
のテキサス事務所で一応 GO にして,全体と
― 93 ―
しても GO にして進んだということだと思い
取り上げられていますから,ご記憶に新しい
ます。
と思います。もし新聞記事が本当なら,ミサ
それから五番目,次のページを見ていただ
ワ九州のような,できていない建物を売って
きたいのですが,監査意見提出時の審査が行
しまったというのは会計以前の話で間違いだ
われたかどうか。これもすごく大事なことで
とわかりますね。日興コーディアルのような
すね。
場合はちょっと難しいところがあります。あ
K社の例は,これはわかりませんが,新聞
あいった特別な株式の移転付の社債を発行し
記事などでいくと,不備があったのではない
て,片方に利益が出て,片方に損失が出ると
か。不備があったというのは,審査の仕方が
いう構造のときは考えなければならない。そ
悪かったのか,訊き方が悪かったのか,提出
んなようなこと,いろいろあるのですが,こ
書類が,要するに担当している監査チームか
こではこういう五件の事例を勘案して,私と
ら審査の部署への提出書類が悪かったのか,
しては,3番目の会計監査人の果たすべき機
そういうのは一切わかりません。総評的には
能を確保するための方策ということを検討さ
不備があったと言われていますから,不備が
せていただきました。
あったと書きました。
それで,上に述べたような分析をした結果,
L社については,これは監査担当者,初め
粉飾決算の発生した原因というのは,次のよ
の監査担当者が審査担当に対して事実を隠し
うな事項の不備だとか,あるいは自覚の欠如
ていたようなところがありますので,ちょっ
というものがあったところに問題があるので
と無理ですね。
はないかということで,とりあえず,六つ挙
S社,D社については,こういう審査の問
げました。
題は,該当しないということで棒線を引いて
おります。
一つは,経営者のコンプライアンスに対す
る自覚の問題。本当は大変に大事なことだと
E社につきましては,先ほど説明しました
思います。
ように,事務所の関係している人たちは心配
していた,そしてそういうことを認めたらま
それから次に,コーポレート・ガバナンス
がどうであったか。
ずいのじゃないかといっていたと思いますの
次に内部統制制度はどうであったか。会計
で,一応審査は行われたと。いろんなことを
監査人の能力,これは先ほど稲葉先生がおっ
言ってもすでにアンダーセンはなくなりまし
しゃったことで,非常に大事なことだと思い
た。しかし,事例としての価値はあると思い
ますが,こういう問題。
ます。
それから監査意見提出前の審査の話。これ
その下に,私が調べた資料の名前を書いて
は,監査人として品質管理上は大事です。
ございます。この中の2番目に,『綱紀関係
それから,次に会計監査人の公正な意見表
事例集』というのがあるのですが,これは日
明に関する自覚,これは我々,監査やってい
本公認会計士協会が発行したものです。これ
る会計士が肝に銘じておかなければいけない
について,協会に聞きましたら,皆さんにお
事柄ですね。
配りするわけにはいかないということですが,
勉強したい方が協会に行って見せてもらうこ
単に個人の問題ではなくて,制度的に支え
なければならないことです。
とはできるのではないかと思います。
私は公認会計士ですから,会計に関するこ
以上の五件じゃ足りないかもしれませんが,
とだけを報告すればいいのかもしれませんが,
実際には,沢山の例があります。ミサワ九州
会社のことにも触れます。ちょっとここで,
の例もあり,これはまだまだテレビや新聞で
話が飛びますが,期待ギャップ,エクスペク
― 94 ―
テーション・ギャップとよく言われることに
ると思うのですが,その際,財務のことをよ
ついてです。よく不祥事が起きると,監査人
く理解していたのかという,あるいは,して
が入っているのに,或いは監査やっているの
いれるのかという問題が一つあるのですね。
だから何でもわかるのじゃないかという目で
我々の会計監査人制度というのは,ちょっ
見られて,我々がいつも俎上に乗ってくるの
とそれは無理だろうということでできている
ですね。
のですが,まず, CEO と CFO とか,そうい
ですから,会計とか監査の基本的な性格に
う人たちが,どこまで会計等を理解しコンプ
ついて,よく知っていてもらわないといけな
ライアンスというものを重視して,対応して
いなというのが一つ。
いるか。ここが非常に大事じゃないのかなと
次のところにメモしました,これも先ほど
いう気がしました。
ですから,この点に関しましては,私は方
の森さんのプレゼンテーションの中に出てい
策といえるかどうかわかりませんが,昔よく
ましたが二重責任というやつですね。
作成する責任は会社にあって,監査人は監
議論した気がするのですが,経営者の責任と
査した結果に責任を負うのですよと。監査し
は何かということを考えること。企業の責任
た結果,本当は不正だとわかっているものを
じゃなくて,経営者の責任とか,経営者の社
適正だと言ったら,そのことに責任を負うの
会的責任とか,あるいはこれを言うと問題が
ですよと,こういうことをはっきり利害関係
あるかもしれないが経営者の資質ですね。優
者にも知っていて欲しいなということですね。
秀なだけじゃダメだと。経営者は,何故企業
それで,まず(1)のところですが,経営
を起こして,何故企業をやっていくのかを考
者のコンプライアンスに対する自覚の問題で
えていただく。そういうことが必要じゃない
すが,私が見受けるところでは,企業という
のかなという感じがしました。
ものの性格もあるのかもしれませんが,どう
それから次のページ見ていただきたいので
しても利益が出なくて苦しくなってくると,
すが,コーポレート・ガバナンスの話です。
経営者としては頑張るわけですね。株価を上
コーポレート・ガバナンスの議論はいっぱい
げるということが,株主に対して貢献するこ
あると思うのですが,機関設定上の問題もち
とであると考えて頑張るのですが,そのとき
ろん大事なことですが,そういうことよりも,
に多少法律に反しても良いのではないかくら
役員の方が大勢いるときに,そういった内部
いの気持ちでやっていくところからこうした
の情報というものを,役員の方はみんな知っ
不祥事が出てくるのではないかと考えるわけ
ているのかなという疑問があります。
多分,不祥事を起こしている会社はごく僅
です。
企業について言えば,大きい会社もあれば
かです。俗に会社の数は 250万社だとか,公
小さい会社もあります。また,大きい会社も
開会社は約 3700 社だというわけで,その中
売上高が 1500億とか,資産総額で 500億から
で,失礼な言い方だけど不心得の経営者が出
1千億くらいの会社,たいていこの規模です
てくるということですから,本当にごくわず
と公開されていますけど,そういう会社と,
かな方だろうと思うのですが。そういうとこ
本当に売上高が1兆円を超えていくとか,資
ろの会社ですね,果たして,十分そういった
産総額が1兆円を超える会社とは,会社の内
審議事項の説明が行われているのかどうか,
容,システムは全く違います。
こういったことが気になりました。
そういう意味では,我々公認会計士という
企業の利益が出ないときに,会社は意思決
定をする。取締役会とか監査役との関係もあ
のが,会社の経理にタッチしているときに,
りますが,会社の社長は,全ての責任者にな
例えば今の会計は結構難しいので,それを適
― 95 ―
切に判断してはっきりダメならダメだと言い
私が経験している限りでは,すぐにはわか
切るということをやらないと無理かなという
らなくても,何年かすると大体わかります。
気がしていますので,この辺は反省でもあり
ずっとわからないで最後まで行くなんてこと
ます。
はありません。
それから,内部統制制度なのですが,ここ
例えば,我々は初めて監査をやるのを初年
に書きましたように,会社法のところでも,
度監査といい,毎年毎年やるのは連続監査と
取締役は内部統制を構築しなければならない
呼んでいます。初年度のときはよく調査して
ということが書かれるようになりました。今
も,調査漏れということはあるのですが,何
度の金融商品取引法のところでも,20年4
回かやっていけば分らないままということは
月1日以降については,内部統制を構築して,
ありません。
それが監査対象となることも書かれています
だから基本的には会計監査をやっていて,
から,ここのところは,非常に期待が持てる
会計監査人がずっとわからないということは
というふうには考えています。
ないです。ただ,S社,D社の例は,これは
ただ,内部統制の話について,1つぜひ留
別ですね。S社は,さっきも言いましたよう
意していただきたいと思っていることがあり
に,株式名義の話ですから,これはちょっと
ます。内部統制は,会社法で決められたから
難しい。
構築しなければいけないとか,金融商品取引
それからD社は,これは海外の事例で,こ
法で決められたからやらなければいけないっ
れは非常に難しい。結論から言いますと,業
ていうものじゃないと思うのですね。本当は
界のほうでも,あのときの監査手続きは必ず
企業経営を健全にしていくためには,内部統
しも十分じゃないという結論になっています
制がなければ企業経営なんかできっこないわ
が,いろんな方が,何回も行って調査やって
けですよ。
も見過ごしていて,だからいいということで
ですから,内部統制の議論が出る前も,立
はないのですが,ちょっと難しいかなという
派な会社というのは,今いわれている財務報
ことで,稀な例と書いています。わかる,わ
告にかかる内部統制制度はどうかわからない
からないではなくて,稀な例であるとしてい
けれど,全体としては会社が必要と思われる
ます。
業務についての内部統制ってよくできている
のですね。
それから②のところ。会計監査は,試査に
よって行うから,被監査会社の実質的状況を
ですから,この内部統制を議論するときは,
把握するには相当の時間を要する。企業規模
企業経営上大事なものであるということを一
が大であればその分長くなる。これは何を
つ付け加えていただければいいなと思ってお
言っているかというと,今の会計監査という
ります。
のは,試査といって,調査対象物を抜き取り
ちょっとだんだん時間なくなってきました。
で調べていくんですよ。
ここまでは本論じゃなくて,次からが本論な
全部なんていうのは絶対できないのです。
のですが(笑)。»は,会計監査人の能力の
今日,監査論の先生がいたらちょっと問題が
問題です。これは先ほど森さんのほうから協
あるかもしれませんが,どんな理屈をこねて
会の施策の説明がありましたので,それは省
も現実問題できないです,全部なんていうの
略させていただいて,その他について箇条書
は。我々がなぜそれでも心証を得られるかと
き的に説明させていただきます。よく,会社
いうと,それは,内部統制ができているとい
に監査が入っていて,わかったかわからない
うことを,確かめ,確かめやっているからで
かという話がありますね。
きているんですよ。
― 96 ―
ですから,内部統制ができていない会社は
監査なんかできないです。ですから,私なら
帳面に載っていないことを調べるのは,それ
なりの技術を使わなければわかりません。
断りますね。
監査人はある程度「あの辺がおかしい」と
だけど,一般的に言えば公開会社の場合,
事前にいろいろチェックやっていますので,
かって言ってくれれば調べられます。簿外の
資産でも負債でも。
それは大丈夫です。しかし,企業規模の大小
によってはだいぶ差があります。
その見当がつかない間はなかなか難しい。
それを我々はどうするかというと,企業内組
③について,これも大事です。会計監査は,
織をよく視察するとか,会社の人といろいろ
会計の知識とか監査の知識があれば,誰でも
話しをしながら情報をとりながらやらなけれ
監査できると思っているのじゃないかという
ば無理なんです。こういうことをよくご理解
こと。これは国会議員の話なんか聞いていて,
していただければと思います。
資格者の数を増やしてやれば全て解決するよ
5社の例では伺えないけれど,過去の事例
うに思っているように感じますけれども,そ
の中には監査が不十分というものがあります。
れはできないです,言っておきますが。
これはあります。現実にもあります。
これは訓練しなきゃ,スポーツ選手と同じ
例えば,残高証明をコピーでやって大怪我
ですよ。会計とか監査の知識があっても,現
をしたとか,その他に実際のチェックの仕方
場に出て調査を何回も何回も繰り返してだん
が悪くて見過ごしたとか,いろいろあります。
だん監査が出来るようになるのです。
それから,先ほどの大和ニューヨークの話
ですから,私がちょっと言いたかったのは,
そういう問題を忘れないで欲しいなと。
も似た話かもしれませんが,そういうのもあ
ります。
今公認会計士制度というのは,将来に向
それから監査意見提出時の審査。次のペー
かって5万人体制に持っていく方向にありま
ジを見てください。ここのところは,5社の
す。そのときには会計監査だけじゃなくて,
例の中には,審査にかけるときに審査事項か
企業に従事する人,役所に勤める人,先生に
ら外していたと思われる例や,あるいは審査
なる方とかいろいろ出てくるという想定で
システムのところに不備があったというのが
やっているけれど,監査をやるには,ちゃん
見受けられました。これは品質管理基準とい
と監査経験を積んで,訓練してこないと無理
うのができて,その中で対応していますので,
だということですね。
これはだんだん良くなっていくのではないか
そういうことがあるから,私の提案として
と思います。①②はそういうことです。
は,今,協会がやっているのですが,試験に
それから½これも大事。会計監査人の公正
合格した公認会計士に監査経験を積む機会を
な意見表明に対する自覚。これは経営者がコ
与えること。それから,その指導をよくする
ンプライアンスに対する自覚の問題と同じよ
こと。それから,普段から独立性というのは
うに,我々,公認会計士が心しなければいけ
大事だよと,お金を積まれても,悪いものは
ないことです。ここに書きましたが,企業の
悪いと言えるように育ってもらいたい。こう
不祥事に関係しては,監査チームの責任者や
いうことをやらなければちょっと無理だなと
監査事務所が,公正な態度をとることの意識
いうふうに思ってますね。
に結果として欠けていたというしかしょうが
それから④は,監査の実務から言うと,簿
外資産や簿外負債があるときはそれの発見は
ないと思います。特に監査チームの責任者の
自覚が足りない。
非常に難しいです,はっきり言って。帳面に
載っているものを調べることはできるけれど,
監査チームと書きましたのは,監査をわか
らない方のために言いますと,監査事務所っ
― 97 ―
て今もう3千人とか4千人の大きな事務所に
計上の固有の問題というのが,非常に難しく
なっているのですね。それを組織化しまして,
なってきました。それは,なぜかというと,
監査チームを設けます。実際に監査にあたる
日本固有の積み上げた基準の他にグローバ
のは大きな会社なら2,30人,小さいとこ
ル・ベースのものを入れようということで,
ろでは5,6人という組み方でやっていて,
必ずしもイコールじゃないために,ちょっと
そこに責任者が一人ずつついている。その人
難しい。
が問題点をしっかり捉えて,難しければ事前
そのときに,公認会計士協会等は,ある程
に審査にかけていくということをやれば,ほ
度考え方を決めて出しているのですね。です
とんど解決いたします。
から,それに対する判断を誤って粉飾になる
それから,公認会計士の責任という場合に,
例もあるのです。
行うべき職務の遂行という意味と,行うべき
これを防ぐには何をやったらいいかという
業務が遂行されなかったときのペナルティで
と,会社の経理担当と我々監査をやっている
すね,そういったことがありますが,今私が
者がよく話し合ってやる。もちろん今までも
述べたことは,処罰の話は除きまして,中身
粉飾の事例では,話し合った結果粉飾だった
の話だけさせてもらいました。
というのはあるとは思うのですよ。あるとは
それから,次のところに,現在,会計士に
思いますが,行き方としては,仮に過去にそ
対する目は厳しいということで,我々も反省
ういうのがあっても,今後も同じように会社
に立っていろいろ対応しているわけです。そ
との話し合いを進めて結局適正な会計指導を
れはそれぞれの監査事務所もそうですし,公
していくのがものすごく大事じゃないかなと。
認会計士協会,あるいは公認会計士監査審査
それからもう1つ粉飾の例は,それこそ内
会を含めてみんなそうなんですけれども,そ
部統制に関する問題ですが,経営者に関わら
ういうことで努力しているのだけれど,もう
ず組織内の下部のほうで大きな不正をやった
少し時間がかかっていくのじゃないかなとい
場合には,わからないままになってくる不正
う気はします。
というのもあるのです。ですから,そんなよ
それから,最後のフレーズのところでは,
うなことを含めまして,私としては,適切な
これは先ほど森さんからも出ていたところな
指導性ということで解決していくことが大事
のですが,やはり監査の指導制,批判性の問
かなと。
題というのがあって,理屈はともかく私に言
今ですね,どちらかと言うと,会計士の襟
わせれば,理屈はともかく,会社の人にこの
を正す,外観性の独立性を維持するというこ
処理はいけないよということをはっきり言わ
とで,会社との関係というものも非常に難し
なければいけない。
くなって,なまじ親しくつきあっているとや
まとめてみますと,会社の粉飾,今はそれ
を財務諸表の虚偽表示と言うのですが,粉飾
や白い目で見られるからそれを防ごうと。
まったく逆だと思うのですね。
が出るケースというのは,大きくわけて3つ
くらいにわけられるのですね。
敵対関係で監査が成り立つとは私は思って
ないのですよ。監査の基本というのは,良く
例えば,カネボウとか山一のように,経営
話合ってダメなものはダメということをしっ
者が自ら粉飾をやっているのは意図した粉飾
かり意思を通じ合わせない限りは絶対できな
ですから粉飾ですよ。
い。そういうふうに思います。
それから難しいのは,皆さんもよくお聞き
〇宮澤:どうもありがとうございました。
になるかと思うのですが,デリバティブだと
ケース・スタディをちゃんとやってくだ
かいろいろ聞くと思うのですね,こういう会
さったので,これは途中で切るわけにはいか
― 98 ―
ないと思って,ずっと伺っていました。ここ
は連結ベースでコンプライアンスを推進して
で5分休憩しましょう。
いくことであり,連結 500社5万人の活動の
結果,日々起こるマイナス情報を即座に吸い
(休 憩)
上げる体制作りは本当に至難です。それもた
だ単に命令とかに帰する問題ではないわけで
〇宮澤:それでは,コメントをお聞きすると
す。やはり,自ら情報を上げるというふうに
いうところから再開したいと思います。順序
思ってもらわなきゃいけないので,価値観の
はまず大村さんから。
共有ということを我々は言ってます。
〇大村:三菱商事でコンプライアンスを担当
しています大村でございます。
それで明日の日曜も子会社の幹部の人と会
議を持ちますが,私のような拙い人生経験の
私のほうは主として弁護士についてお話さ
せていただきます。
者が本当に価値観の共有を語ることができる
のであろうかと,日々,私自身が実験をされ
コンプライアンスの仕事は,監査役とか内
ているような仕事をしています。
部監査部によるモニタリング中心の仕事もあ
経団連の御手洗会長はコンプライアンスを
りますが,私のほうは取締役会,社長の下で,
企業の視点から非常にうまい表現をしていま
執行サイドでコンプライアンスを実施すると
す。企業は価値創造のために製品,品質の確
いうことです。きわめて広くて,企業理念,
保と向上に日々努力しているが,コンプライ
何のために我が社は仕事をしているのだとい
アンス,内部統制は企業自体の品質の確保の
う理念を考えたり,最終的には違反者を厳し
仕事であるとおっしゃっています。
く罰する,刑事的に容認できないなら刑事告
訴することまで含んでいます。
企業自体の品質,品位を確保しないと,企
業に対する信任が社会から得られず,企業は
三菱商事の刑事告訴状はきわめて立派であ
存続できないということです。こういう考え
るというふうに,このあいだ東京地検から褒
方でやっておるのですが,その基本はやはり
められました(笑)。もし違反者が出たら,
自己規律であります。
社会に対する影響が甚大であれば容認しない,
法律があるからとか新聞から批判されたか
単に社内で解決すれば済む問題ではないとし
らとか,場合によっては当局から指導を受け
て刑事告訴する。この考え方は実際,コンプ
たからとか,そういうことがあってから初め
ライアンス規程として社内規定化しています。
て動くというのは,もうこれは本当に品質確
その規定の導入については,2年くらいか
保になっていないと思います。実務としては
けて社内で議論をして,犯罪者がもし社員に
事後対応が必要ですが,基本は自己規律です。
いたら会社として刑事告訴するという原則を
取引活動,会社経営,あらゆる側面で自己規
規定化しましたが,こういう厳しめの話も仕
律を果たすというのがコンプライアンスの中
事の範囲です。
心だろうと思います。
ただ実際の仕事の中心は,マイナスの情報
をくみ上げることであり,これがもっとも重
そういうことになりますと,やはり専門家
に負うところが非常に大です。
要です。
先ほど,お話がありましたが,グローバリ
このマイナス情報を限りなく早い段階でく
ゼーションが進行した現代では,複雑な法律
み上げるためにはどうしたらいいのだという
制度,会計制度になる一方です。次から次へ
ことを日々考えています。
と新種のビジネス・モデルが出てくる中で,
これについては,三菱商事の本体について
専門家に依拠しないで企業経営は1日もでき
は相当程度進んでいるのですが,一番の課題
ないということになり,ますますその傾向が
― 99 ―
進捗するわけです。そこで,はたと問題とし
内の人間でも,会社が努力すればするほど会
て浮かび上がってくるのは,それではその専
社の信用を悪用する人が出るリスクが高まる
門家たちの自己規律はどうなっているんだと
ということです。ということは,コンプライ
いうことです。姉歯さんの耐震偽装に限らず,
アンスの努力というのは永久にきつくなるだ
いろんな分野の社内外,特に社外専門家の自
けであって,休まることはありえないという
己規律というのは,1つの重大なコンサーン
ような性格を持っているということでありま
です。
す。
そういう中で,本日のこのシンポジウムと
それで,弁護士,公認会計士,いろいろな
いうのは,この専門家の中の代表的な弁護士
問題が指摘されていますが,基本的には難し
と公認会計士の自己規律について,弁護士会
い試験を通って国家試験で,社会から信任さ
とか,公認会計士協会の人も来ていらっしゃ
れているという業界,専門家であります。し
いますが,それよりも,公認会計士サービス,
かし,果たして実際はどうか。信任されれば
弁護士サービスのユーザーの視点,顧客の視
されるほど悪用のリスクは高まる,そういう
点で,果たしてこれらの専門家の自己規律は
問題にきちんと応えているかというのが今日
どうあるべきか,現状どうあるのか,問題は
のテーマかと思います。
何か,将来形はなんだということを,透明性
今日,後ろのほうに日経新聞の三宅記者が
をもって議論するということであり,大変意
参加されているのですが,三宅さんが書かれ
義が深いものではないかなと思います。
た『弁護士カルテル』と言う本がありまして,
私は,この研究会は,テーマが地味だし,
私は感銘を受けているのですが,その 175
休みで外が暗くなっちゃって,数 10名ぱら
ページに,戦後改革の遺産というのがあり,
ぱらというふうに思って来ましたら,こんな
そこで三ヶ月章さんの論文を引用しまして,
に遅くまで皆さん熱心に大勢の方がいらっ
しゃって,大変感銘を受けています。
「占領軍の力を借りたとはいえ,弁護士法改
正により,弁護士は悲願の自治を手にした。
そういう中で,特に塚原先生のご説明,初
それも世界に例のないほどのものであった」
めて聞く方が多かったのじゃないかと思いま
と。要するに,弁護士自治,弁護士の独立は
すし,私も大変勉強になりましたし,どのよ
世界に例がない。実際にはこれは行き過ぎて
うな形で専門家がどういうことに陥っていて,
いるのではないかというふうに私は思ってい
それに対する規律ということについての情報
るのですが。そのあとに,同じく三ヶ月章さ
開示がなされ,透明性を高めることはきわめ
んの文章を引用して,「自由には責任が伴う」
て意味が高いと思っています。
と。「戦後の弁護士法改正により,我が国の
コンプライアンスの世界では,信任の落と
弁護士は,世界の弁護士のどれよりも厳しい
し穴ということが言われています。どういう
自戒が求められ,自由を悪用しない責任を
ことかと言うと,企業が,内部統制,コンプ
負ったはずである」ということです。
ライアンスをしっかりやって,ブランド・バ
先ほどお話したコンプライアンスにおける
リューが高まると,社会と取引先から信用を
信任の落とし穴という本質が,特に弁護士業
得るわけです。そういうブランド・バリュー
界には言えるのではないかなと思います。
が高まれば高まるほど,悪用の誘惑が増す。
ほんのちょっとのことで騙せるわけです。
特に,公認会計士との比較をしますと,公
認会計士の場合には,要は,監督官庁があっ
例えばこの間も三菱のブランドを使って悪
て,監督官庁からチェックを受けて,その上
徳商法をやっていた人がいて,これは警察に
で自分たちの業界で自主的な懲戒をやってお
逮捕されましたが,それは社外の例です。社
り,公認会計士は二重にそういう形で制裁,
100 ―
― チェックを受けている。
クがあります。
ところが弁護士には監督官庁がない。一言
先ほど巨額の月 500万円という顧問料云々
で言うとお手盛りで済むという構造にある。
の話がありましたが,今後はそういう顧問料
それから,企業のコンプライアンスでも,
というよりも個別な件で弁護士が多額の報酬
違反じゃないかと責任を問われた人は,まず
をもらうようになってくるだろうと思われま
最初に頭にくることは,会社,同僚,先輩,
す。
後輩に迷惑をかけるとの思いです。
私は弁護士に対して正当な対価を払うこと
この気持ちというのは,ときにはそういう
を法務部長として促進してきまして,日本の
気持ちが悪いことを起こすことにつながって
弁護士にはもっと払うべきだと公言してきま
いくこともあるのですが,基本的には悪いこ
したが,それなりの報酬を払った場合には,
とをさせないほうに働いています。
今度は弁護士のほうで,違法行為,不適切な
ところが弁護士は,違法な行為をしても犯
行為をしてもらっては困るわけです。これも
罪をしても,弁護士法人であれ弁護士事務所
塚原先生から若干ご説明ありましたが,要は
が制裁を受けるかというと全く受けない。
弁護士が企業の窓口の担当者とか営業部とか,
ネーミング・パートナーが犯罪で逮捕されて
ビジネスを作り上げたい人におもねて,誰が
も,その事務所はなんら痛痒を感じないとい
クライアントか忘れてしまうという事例です。
うのが今の制度であります。
クライアントは会社なのであって,その窓
そのような中で,今日の塚原先生が御紹介
口の担当者とか営業をやりたいビジネスサイ
された事例について2,3,私の視点で感じ
ドの人間が不適切な行為をしていれば,自分
たことを申しますと,まずは先生がおっ
の弁護士料が減っても,早い段階で,そのビ
しゃっているように,弁護士であるにもかか
ジネスを終了させるように持って行くという
わらず,自らビジネスに当事者としてかか
ことが適切ですが,それでは弁護士の収入が
わってしまえばきわめて違反が起こりやすい。
減るという意味で弁護士個人と利益相反があ
法令違反,弁護士法違反が起こりやすい。中
るわけです。これがきちっとできるかどうか
坊さんや伊坂さんのケースがありました。
が問われます。時間がありませんし,私はレ
これは当然,自戒をする必要があって,弁
護士が社外取締役になることは是か非かと,
ポーターではありませんので,詳細は省略し
ますが,それが問題だろうと思います。
アメリカでは議論がされて,かつては弁護士
それから,塚原先生のご説明にあったいろ
が影響力行使のために,社外取締役になるの
いろな事例で,それなりに弁護士会は懲戒を
が流行したのですが,よくないというような
発動したり,努力したりとかありますけども,
議論のほうが主流になっているようです。
正直に言って現時点での企業のコンプライア
弁護士が企業のビジネスとか経営に当事者
ンスの水準から言うと甘いです。
となるということは,今後はますます注意を
時効になった除斥期間になったからもう処
払われるようになってくるのですが,問題は
分をやれなかったとか,それから辞めちゃっ
今後の将来展望,そういうことよりもはるか
たから処罰のしようがないとか,こんなこと
に重要な点は,弁護士自身の弁護士ビジネス
は,現在の企業では許されません。
とコンプライアンスの関係です。すなわち,
時効も除斥期間も検討して,その前に処罰
弁護士が報酬を得るということは,要するに
すべきだし,それから辞めようとしたら辞め
リーガル・サービスを売って金を得ているわ
させないで,ちゃんと処罰を受けてから辞め
けですから,これについては自らのビジネス
ろと,これは私の職場でも必ずやっています。
に関連して違法行為・不適正行為を行うリス
やり逃げは許さないということです。そうい
101 ―
― うことについては,弁護士はやっぱり甘いの
じゃないかなと思います。
これに対して公認会計士の場合は,監査を
請け負うのは健全な会社が原則であって,場
それから,弁護士に対して損害賠償がどの
合によっては会社の経理のプロというのは,
くらい活発になされているか,現状はなされ
公認会計士よりもかなり知識が上の人が少な
ていないが今後の課題になるだろうと思いま
くないわけですね。デリバティブとか保険論
す。
は,専門が公認会計士よりも上だということ
それから犯罪行為をした弁護士を,弁護士
です。弁護士の場合は素人ですが,公認会計
会か弁護士事務所が刑事告訴するのか。容認
士の場合は相手がプロだということで,困難
できない犯罪を犯した弁護士を,弁護士会自
な点かなと思います。
身が刑事告訴する体制をどうして作らないの
もう1つのちがいは,監査は,これは国税
だと。企業は実践しているのでこの問題が問
庁とか警察の強制捜査と違って相手方の協力
われてくるだろうと思います。
がなければできない。相手が嫌と言ったらそ
そういうことが,私のちょっと辛口の(笑)
れでおしまいです。検察や警察の場合は,相
コメントになります。以上です。
手が嫌だといっても捜査して押収できますが,
〇宮澤:どうもありがとうございました。次
公認会計士は相手が嫌だと言ったらそれ以上
に岸田さん,お願いします。
できないという制約があるということです。
〇岸田:早稲田大学ファイナンス研究科の岸
田です。
3番目に法人の問題があります。ご承知の
ように弁護士法は 2004 年に大改正を行い,
最後のまとめとして,この弁護士と公認会
司法書士とか税理士とか,あるいは弁理士な
計士の2つを比較してお話をさせていただき
どとともに,法人制度ができたわけです。監
たいと思います。
査法人は先ほどお話があったように昭和 39
今度の新しい会社法の会社計算規則 149 条
年からあるわけです。
の監査の定義の中に,公認会計士法の2条1
そのとき一番の問題は責任の問題でありま
項の監査の定義が入ってまして,監査役の行
して,監査法人の規定は,従来合名会社の規
う監査は公認会計士の行う監査と同じだとい
定を準用しています。合名会社は民法の組合
うことが書いてありまして,その意味では証
の規定を準用していますから,無限責任です。
取法,金融商品取引法,公認会計士法と,会
弁護士も会計士も基本的に無限責任です。
社法を統一しようという動きがあるようです。
そこで,法改正により,指定社員制度とい
そして,さきほど森先生のお話にもござい
うのを取り入れまして,その指定した社員だ
ましたように,監査という言葉は非常に重要
けが無限責任を負うというように監査法人も
で,監査は公認会計士の独占ということです。
弁護士法人もなったわけであります。
そこでまず公認会計士と弁護士の比較を申
し上げたいと思いますが。
しかし,実際にはあまり使われていないよ
うです。
まず仕事の内容としては,弁護士と医者は
なお,弁護士法人制度は,ご承知のように
トラブル(体のトラブルを含む)を解決する
東京ではほとんど大きな事務所は使っており
ことです。企業の弁護士はこの問題とは
ません。それは支店を設ける必要がないから
ちょっと違いますが。
です。大阪だと東京に支店が必要ですが,東
そして相手方はお医者さんでも弁護士でも
京の弁護士はほとんどその必要がありません。
だいたい素人で,医学知識とか法律知識がな
そして監査法人の場合は,2千人から4千
いのが前提になっています。企業の場合,必
人というのが4大監査法人ですけれども,弁
ずしもそうではないかもしれませんが。
護士の場合多くても 200人くらい。今度,西
102 ―
― 村ときわが合併しても 200人から 400人くら
場合です。その場合,結果として間違ってい
いというように,規模は一桁違うという,そ
たら責任を負えと言われたら誰も書けないわ
ういう違いがございます。
けで,また誰もが見て真っ白とか真っ黒なら
ところで監査法人に対する責任を課すとい
うことで,昨年の5月に中央青山に対する行
書くはずがないわけで,その辺は問題ではな
いかと思います。
政処分があって,法人全体が処分されました。
それから,公認会計士の場合が,不正に積
大村先生からお話があったように,弁護士
極的に加担したカネボウの他に,先ほど上村
の多くは法人形態ではないし,また仮に法人
先生からお話にあったライブドアとか,最近
であったとしても,業務停止にはなりません。
の日興コーディアルの事件は,従来の粉飾と
つまり1人が悪いことしたからといって,法
はかなり違うわけです。
律事務所全体が業務停止ということには法律
どう違うかというと,カネボウは利益が全
上ならないわけです。その辺がかなり違うと
くないのに利益があるように見せかけたとい
いうことであります。
う意味では従来型の不正行為ですが,ライブ
だから,4千人の公認会計士がいて,その
ドアの場合は,別に利益がないわけじゃない。
中の3人の人が悪いことをしたから全体を止
しかも,1回も配当をしていない。上場して
めるということは,被監査会社(クライアン
から1回も配当をしていない。株価を維持す
ト)も非常に困るという大混乱が起きますの
るために粉飾をしたわけです。
で,この問題もちょっと考える必要があるの
ではないかと思います。
日興コーディアルもよくわかりませんが,
別に粉飾する必要はなかったわけです。なぜ
それから不祥事について先ほど塚原先生の
かというと利益はちゃんとあるわけです。
お話を興味深く伺ったのですが,弁護士の不
おそらくあそこの会社は取締役や従業員が,
祥事というのは一般に不正な行為に加担する
株価連動型と言いまして,業績連動型だから
ことです。ところが公認会計士の場合は,不
エンロンの事件と同じで,株価を上げないと
正な行為に加担する,例えばカネボウの事件
報酬が減るからやったのだということで,そ
はありますが,不正を見逃すというのが多く,
ういう場合の会計処理という,粉飾は従来型
この場合,公認会計士の行為は犯罪になりま
と全く違うので,これもどこまで取り締まれ
す。
るのかという問題がありうます。
ところが弁護士の場合は,不正な行為を見
やるほうは灰色のところでやりますので,
逃した場合に犯罪になるのかというと,先ほ
公認会計士としては非常に難しいだろうなと
どちょっといろいろお話がありましたが,自
思います。
分がそういうことを見た場合にやめさせない
それから,監督のことですが,先ほど大村
といけないのか,弁護士が会社の不正を見た
先生がおっしゃったように,日本の弁護士会
場合にやめさせる義務があるのか,それとも
は世界一の自治を持っている。だから弁護士
じゃあ私は顧問弁護士を辞めますと,それだ
がなにか悪いことをした場合に誰が処分する
けでいいのかということになります。それが
かというと弁護士会が行うわけです。これは
弁護士と公認会計士の大きな違いで,責任の
行政庁としてやるわけですが,弁護士会が行
取り方もかなり違うと思います。
うわけで,法務省が処分するわけではないわ
ただ,先ほど塚原先生がおっしゃった,
けです。
リーガル・オピニオンとして弁護士の意見が
これに対して公認会計士でも税理士でも全
出てくるというのは,誰が見ても黒,誰が見
てこれは監督官庁,財務省とか金融庁がやる
ても白という場合ではなく,黒白が分かれる
わけで,第三者ですから,そのほうが公正性
103 ―
― は担保できるということになります。
いました。
そして,情報開示ですね。弁護士の処分事
〇宮澤:どうもありがとうございました。実
例というのは,先ほどずっと塚原先生のお話
は,このセッションが始まる前は,コメント
にありましたように,刑事事件でなかったら,
はできるだけ短くして質疑に時間をとりま
刑事事件でもそうですが,これはほとんど一
しょうと話していたのですが,報告のような
般の人が知ることはありえません。弁護士間
コメントをしていただきまして,それはそれ
では『自由と正義』というのに,その処分事
で参考になったと思います。
例が出るようになりましたが,この本を普通
この後,あまり時間がありませんが,質疑
の人はとっているわけではないわけですから,
ということにしたいと思います。
一般には全くわからない。
〇質問者A:2度目ですみません。最初に山
これに対して先ほどいった金融庁の処分は,
ホームページで出ますし,官報に出ますから,
口先生の報告と塚原先生の報告でもどちらで
も簡単にお答えいただければと思うのですが。
どのことか,誰がどんなことをやったかわか
ります。
私は倫理や自覚を強調して訓練するのは大
賛成なのですが,ただやっぱり悪人は直らな
そして,さっきおっしゃった上場会社につ
いだろうと。能力という問題もありましたが,
いては登録制度であってホームページでそれ
能力が高ければ高いほど悪事はやりやすいわ
を公表することになります。そしてそこでは
けですし。
処分が必ず明らかにされます。
確かに弁護士の規制がゆるいのは,今後整
だから,パソコンでそこを見れば簡単にわ
備しなければいけないのですが,公認会計士
かる。私がお願いしたいのは,弁護士のほう
も今まで規制をどんどん強めていても裏をか
も処分歴はきちっとホームページで見られる
かれて,悪人がどんどん裏をかくという歴史
ようにしていただくことです。
『自由と正義』
だったので,ユーザーのために,岸田先生も
は普通の人は見ませんのでわからない。
言われたような選別制度みたいなものを整備
だから弁護士会も情報開示を,いろんなと
するとか,あるいは何人も先生が言われたよ
ころに言っているなら自分のところでもやっ
うな事後規制,懲罰制度を確立することが重
て欲しい。それをどう判断するかはクライア
要ではないかと思うのですが,いかがでしょ
ントがすることですね。
うか。
最近も,業務停止中にまた悪いことをした
〇山口:基本的には全く同じです。ただです
とかは新聞に出ますが,弁護士会は公表しま
ね,なぜ精神的なところを強調したかという
せんし。
と,結局,処罰は,行為の後ですよね。でき
公認会計士の処分は,昭和 23 年以来,100
るだけ起きないようにする努力を先にしない
件はないと思いますが,公認会計士で処分を
と。どっちかというと,今の環境というのは,
受けた人が,処分終わったから公認会計士に
あれもやっちゃいけない,これもやっちゃい
なるということは,私の知っている限りは一
けないという社会になろうとしていますね。
度もなく,全部廃業しているわけです。弁護
ですが,それぞれ考え方は違うかもしれま
士の場合は処分受けても3年経つとまたやっ
せんが,公認会計士制度というのはどちらか
ている人が結構いますので,これもそういう
というと,自主規制の中で解決できるような
意味で,私的自治のいい点と悪い点と自分た
制度のほうが,今もいいと思っているのです
ちで処分しているからですね,悪いのではな
よ。企業にあっていると思っていますので,
いか。この辺はいろいろご意見あると思いま
それでそのように表現しました。
すが,それが私の感想です。ありがとうござ
〇質問者D:8年半ほど社内弁護士をやって
104 ―
― いたので,三菱商事の大村さんとはいろいろ
を害することをやってはいけないという非常
なところで共鳴する部分がありました。
に巨大な包括条項みたいなのがございまして,
企業は厳しくやっているというお話は,三
その部分で,一体こういう問題をどういうふ
菱商事がやっているのであって,企業全体が
うに考えていくのか。かなり整理する必要が
やっているのではないと,私は認識しており
あるのじゃないかというふうに考えている次
ます。ぜひ,大村さんのような見解を日本経
第ですが,その辺のお考えをお聞かせ願いた
団連でばっちりやっていただければ,おそら
い。
く建設会社の談合問題なんかも解消していけ
特に,私が専門としている金融の部分では
るのではないかというコメントを,まずさせ
かなりグレーな部分がある。適法な取引だけ
ていただきます。
れども社会的に見て許されるかどうかはわか
それで私のご質問ですが,これは塚原先生
らない。レピュテーション・リスクという観
への質問になるかと思うのですが,浜辺先生
点から,それは適法かもしれないけれども,
のご報告にもありましたけれど,弁護士の業
やるべきではないのではないか,というふう
務の中で,法の抜け穴を探すという部分がご
に社内弁護士が意見を言える会社もあるんで
ざいました。
す。
これはやっていいのか,やっていけないの
そういうところではそういう抑制力が働く
かというお話があったのですが,その部分で,
わけですが,必ずしもそうである法務部ばか
弁護士の業務というのをどういうふうに考え
りではない。そういうところにこれから弁護
ていくのかというのが,私はすごく問題だと
士が入っていくときに,そういう部分をどう
思っているのですね。
いうふうに仕分けていけばいいのか,この辺
まず,適法であるか適法でないかという意
見を訊かれたときに,それを判断するのは
についてのお考えをお聞かせいただきたいの
が第一点の質問です。
我々の当然の職務でありますが,そこから先,
第二点は,利益相反。浜辺先生の報告でも
例えば, ToSTNeT(トストネット),1%,
弁護士のかかわり方についてご説明ありまし
先に上村先生が TosTNeT のことを,ライブ
たが,利益相反の問題は,まだまだ十分整理
ドアの公開買い付けを無視した形での買収の
されていないというふうに強く私は感じてい
やり方について,どうも上村先生はドスト
ます。
ネットをやるのは違法であると,当時の法令
例えば,最近,問題になった,先ほどから
でも違法であるというご見解のようですけれ
話に出ている日興コーディアルの件ですが,
ども,私は,適法だったという見解ですが,
これでも監査役の中にはどうも弁護士が入っ
仮に適法だったとして,それに適法意見を出
ているようで,その弁護士は調査委員会に
したと。それについて,弁護士が止めるべき
入っているという報道がなされています。
だったのかどうなのかというような場面があ
りうると思うのですね。
これは私にすれば驚愕で,利益相反そのも
のではないか。不正行為があったということ
私としては,これは適法か違法かと訊かれ
で調査しなきゃいけない委員会の中に,監査
たら,「適法です」という判断を出す。まさ
役である弁護士が入っているというのは,ど
にグレーゾーンの部分ですから,それについ
う考えてもおかしいのですが,そういう部分
て意見を出すのは当然弁護士の職務であって,
について,これだけではなくて,例えば,監
そこから先は,実は企業が判断すべき問題だ
査役をやる弁護士が継続的に仕事を請けてい
というふうに思っているのですが,その辺に
たという,先ほど判例が出ていましたが,そ
ついて,他方において弁護士倫理には,品位
ういう部分でも本当に利益相反にならないの
105 ―
― かどうか。
適用していない。例えば,監査役である弁護
あるいは社内調査をするような事態になっ
士が会社の代理人となれるかについては最高
たときに,会社から継続的に相談を受けてい
裁の判例でも認めております(昭和 61年2
る弁護士がその中に入っていいのだろうか。
月 18日民集 40巻1号 32頁)。その弁護士は,
こういった利益相反の部分は,まだ十分整理
その判決では認定されていませんが,別の事
されていないと。こういうことについてどう
件の判決で当該会社の顧問弁護士であること
いう考え方でいけばいいのかということにつ
が認定されています(最判平成元年9月 19
いて,ご意見をお聞かせいただければと思い
日判時 1354号 149頁)。顧問弁護士が監査役
ます。
になってよいかということについて,日弁連
〇宮澤:では塚原さんから。後で2分ルール
は 1984年2月 17 日の理事会決議で,なれる
を再び発動することにしたいと思います
ということを確認している。そういう考え方
(笑)。
を見直すことが多分必要になってくる。
〇塚原:大変大きな問題ですが,まず,第一
の質問にお答えします。
利益相反については,弁護士が少なかった
ことが大きく影響していて,厳格に規制する
グレーゾーンについてどういう意見を出す
と特に地方の国民が法律サービスが受けられ
べきか。違法説がある以上は,それをきちん
ないという危惧があった。弁護士が増えてく
と紹介する。適法意見を書くのは,自分がそ
れば,利益相反による排除の原則がきちんと
う考えている以上はそれで良い。違法説があ
適用できるようになる。今は過渡期にあると
る,あるいは社会的に不当だと言われる可能
我々の教科書では説明しています。また,監
性があるなら,そのリスクをきちんと書くと
査役の任務についての考えもこれまで甘かっ
いうこと以上に,しようがないのではないか。
たということがある。いずれも,見直しの議
両説が分かれる程度の場合は,それが品位を
論が出てくれば,変わりうるのではないか。
害することには多分ならない。正確に状況を
〇大村:三井物産さんの DPF 事件で,社員
把握して,意見を出していればよい。後に裁
が検察より刑事起訴されましたけれども,三
判所が違法説を採ったからといって,弁護士
井物産さん自身も絶対コンプライアンス違反
が適法説を採ったことで処分されることはな
をしちゃいけないと言っているのに,会社に
いだろう。自分がそう考えていないにもかか
背任したので,元社員をちゃんと刑事告訴し
わらず,阿って書いたとか,裁判所に採用さ
ているのです。要するに,企業がいまや社会
れる可能性が皆無であるような説をとったの
的責任やレピュテーション・リスクで沈みか
ではない限りは,すなわちその説が十分成り
ねないので,結局刑事告訴をやらざるを得な
立つ説である限りは,問題がないのではない
いのです。というように企業,それから公認
か,と思います。
会計士法人,みんな組織が責任をとることに
第2の質問は,今日はこれを展開すると大
なっているために,論理的に突き詰めるとそ
変な話になるので書いていないのですが,日
うなるのです。それが弁護士だけが例外です
本では利益相反についての考え方が非常に弱
よと,この点を指摘しているわけです。
いです。だから,先ほどのようなことが起こ
〇質問者E:例えば, M&A などの企業買収
るのですね。
の場面,あるいは合併という企業結合の場合,
ご指摘のような問題は頻繁に起こっている
企業分割の場面,そういった場面において,
のですが,これは弁護士が少なかったために,
弁護士と公認会計士とが連携して作業をする
利益相反についての規制が非常に弱いのです。
ことが少なくないのではないかと思っていま
条文上はあるにもかかわらず,それを厳格に
す。
106 ―
― そういった場合の両者の役割分担と責任分
士法 57条2項)。業務停止だってできますか
担について,どのようなことが考えられるで
ら,実際にそういうことが起これば所属弁護
しょうか。
士は大変なダメージを受けることは間違いあ
〇宮澤:なにか考えられますか。山口さん。
りません。
〇山口:私の答えはあまり法律的な答えでは
違法行為があったときに,やめさせないこ
ないかもしれませんが,ただ,今のお話の中
とについて罰則があるか。これは,そういう
に出てくるのは我々の独立性の関係で,コン
関係の法規がない限り罰則はないですが,弁
サルの中で,事業再編絡みの中で,例えば合
護士職務基本規程上は,14条でこれを禁止
併だとか,そういったような,それから株式
していますので,現実に懲戒事例もあります。
の取得ですね。こういったときに,さっき
ただ,企業が違法行為をしようとしていると
言った財産評価の問題が出てくるわけですよ。
きに,それを外に公表できるかどうかという
これは,自分が監査をやっているところのも
については,守秘義務との関係で大議論があ
のはやってはダメですよということになって
ります。
いるのですよ。
弁護士の懲戒情報がオープンになってない
ですからその限りでは直接やることはまず
考えられない。
ではないかというご指摘がありました。これ
については,私共は弁護士会内で懲戒事例に
ですけど,ご質問は,弁護士と会計士が監
ついては公表すべきだと言っております。照
査法人ですね,それとが一緒に仕事をすると
会については最近3年以内の処分歴であれば
いったときにどうなるかというと,たぶん,
回答する,それ以前のものは回答しないとい
弁護士サイドの意見は私はわかりませんが,
う方向でとりまとめをしています。
会計士サイドから言えば,今は,自分が監査
業務停止以上は全て公表するという規則を
やっている先に絡んだらやらないと思います
持っている会が多いので,それで新聞記事に
ね。
載っています。戒告は載りません。戒告につ
弁護士サイドのほうは僕にはちょっとわか
りません。
いては『自由と正義』で公表しているという
扱いです。
〇塚原:今のご質問について答えるだけの用
処分を受けた場合,公認会計士であれば辞
意がありませんので,先ほど来コメントされ
めてしまうのに弁護士はいつまでもやってい
たことについて,簡単にコメントさせていた
るではないかという指摘がありました。業務
だきます。
停止は業務停止期間が明ければもちろん仕事
大村さんのコメントで,弁護士ビジネスと
はできるわけです。先ほど3年といわれたの
コンプライアンスというお話がありました。
は除名の場合で,除名されると3年間,弁護
アメリカでは,弁護士の報酬請求について議
士になる資格を失うのですが(弁護士法7条
論があります。タイムチャージで時間をごま
3号),法律上3年経つと登録の申請ができ
かしたとか,同じ問題について調査した成果
るのです。それでも不適格だとしてはねるこ
を援用した場合に,その時間を複数の依頼者
とはあるのですが,行政訴訟が起こせます。
について計上するといったことが,よくある
かつて詐欺や横領で除名になった人の登録申
違法な例と挙げられています。今後,日本で
請を弁護士会が拒絶したところ,行政訴訟を
も問題になることがありうるかなと思います。
起こされて,裁判所がその人を勝たせたとい
弁護士法人に対する処分がないではないか
うこともありますので,行政訴訟を起こされ
というお話ですが,弁護士法人に対する懲戒
ると弁護士会は仕方がないのです。結局,個
手続きはありますし,除名もあります(弁護
人の権利の問題になっているので,裁判所が
107 ―
― そのような訴をはねてくれればいいのですが,
そういうときに法務省に権限を委ねるなど
はねてくれないケースがあるということです
ということは,我々からすると考えられない。
ね。
処分が適切にされていないと言われることに
日本は,世界に冠たる弁護士自治だという
対しては,もちろん我々は反省しなければい
ことを弁護士会が言うので,皆さんそう思い
けないですが。そうはいっても,弁護士の懲
込んでいるわけですが,各国の制度を正確に
戒は何人でも請求できるし,懲戒は機能して
調べていないだけです。
いるのです。
各国とも弁護士の懲戒については特別な制
官に任せておけば機能するか,そんなこと
度を設けているのです。イギリスのバリスタ
はありません。自治を持っておらず,行政が
に対する監督権限はバー・カウンセル(弁護
懲戒するところで,懲戒制度が機能していな
士会)が有しています。懲戒は戒告までの案
い士業は沢山あります。例えば,社会保険労
件であれば委員会で処理する。より重いもの
務士は,1968 年に法律を作ってから 1991年
は Summary Procedure(3名から5名の委
に初めての処分がされるまで 23年間,懲戒
員で構成され,うち1名は市民,残りはバリ
が1件もありませんでした。
スタである)で3月以内の業務停止処分をな
私は 1998 年に隣接士業の懲戒の実態をア
し,さらに重い事案については Disciplinary
ンケートで調べたことがありますが,以下の
Tribunal(1名の裁判官,1名の市民,3名
のバリスタで構成される)で処理します。
フランスは弁護士の懲戒については,所属
の弁護士会の理事会が所管しています。
ドイツは第一審である弁護士裁判所(3名)
の裁判官はすべてその裁判所所在地の弁護士
からなっています。第二審裁判所(5名)で
ある弁護士法院ではやはり過半数を弁護士が
占め,上告審である連邦通常裁判所の特別部
である弁護士部では7名中3名が弁護士です。
裁判所で懲戒するといっても,裁判官の多数
は弁護士なんです。
アメリカの場合は法曹一元ですから,バー
の中の自治です。
日本だけが唯一の弁護士自治だと,弁護士
会がずっとそう言っていたからみんなそう
思っているわけですが,そうではない。弁護
士を適切に処分するには,処分機関の中で弁
護士が多数派でなければいけない。そうでな
いと正確な判断ができない。これは世界の常
識です。そうでないと国家権力と戦えない。
これは世界の歴史,日本の戦前の歴史から
はっきりしていることであって,弁護士は権
力と戦っているのです,行政訴訟も刑事訴訟
も。
ような回答でした。
弁理士は,過去5年間に弁理士審査会の懲
戒部会が開催されたことはなく懲戒の事案は
ない。
税理士は過去5年間に,業務禁止1件,1
年間の業務停止1件のみ。
公認会計士は,過去5年間に公認会計士法
上の懲戒は,虚偽証明による関与会計士の業
務停止と監査法人の戒告1件のみ。協会の会
則上の懲戒は,会費滞納による会員権停止が
13件,除名が3件,虚偽証明による関与会
計士の会員権停止・監査法人の戒告1件と,
会員権停止1件。
司法書士は,1993 年4月から 1998年3月
までの5年間で戒告8件,業務停止5件,業
務禁止3件。
行政書士については,日本行政書士会連合
会に照会したところ,連合会では懲戒の統計
は取っていないので自治省に聞いてくれと言
う回答。
医師は,かっては,刑事で有罪が確定しな
い限り,医道審議会にもかかりませんでした
から,処分されるのはごくわずかです(樋口
範雄『医療と法を考える』
(有斐閣,2007年)
第4章参照)。
108 ―
― 弁護士は悪いことをするやつが多いからか
どうかは知りませんけれども,他の種業に比
れを取り巻く社会的なさまざまな仕組みが,
かなり違っているわけですね。
べれば圧倒的に懲戒は多いのです。
しかし最終的には,この世の中をよくする
弁護士会に対する皆さんの批判も理解でき
ための職業ということには間違いないわけで
るし,私自身弁護士会の中ではさんざん言っ
あって,このテーマでできましたら,来年も
ているのですが,外では,弁護士会の立場も
続けていきたいと思います。
理解して頂く必要があるので一言しゃべらせ
今日いろいろ細かい議論が出たように,弁
ていただきました。
護士についても,公認会計士についても,こ
〇宮澤:他に最後の質問ということで,お一
の肯定的な機能,積極的な機能をどれだけ伸
人だけ受けたいと思います。
ばしていくかという観点も必要ですし,それ
〇質問者F:NHKで社内弁護士をしており
と同時にいかに有効に質を高めていくか,そ
ます。その点で1点だけ補足というか,塚原
して好ましくない事態を防ぐかという仕組み
先生の話の中でNHKは1回1回意見書をと
の設計も考える必要があるように思います。
ると必ず確定証明をとるというのがありまし
そういう意味で,今日の議論は,我々の研
たが,必ずではなく重要なものについてのみ
究会にとっても具体的な研究課題をいろいろ
ですので,ちょっと誤解がないように。
提起していただいたということで,ご参加の
もう1点が,それと別に日本の組織内弁護
士協会の理事長を務めさせていただいていま
皆さんに対して心から感謝申し上げたいと思
います。
すが,その立場で,一番最近の情報ですと,
企業内で今,200 名を超えております。官庁
どうもありがとうございました。これで閉
会にします。
もまた増えて,今 70近くになっているよう
ですので,そこだけ。以上です。
〇塚原:ありがとうございました。
〇宮澤:それではこれで閉会します。一言だ
け申し上げさせていただきたいと思います。
先ほど,大村さんがいみじくも指摘してく
ださいましたが,社会現象としては非常に関
心を集めているのですが,議論の内容は非常
に地味な議論になることは最初から予想され
ていたテーマに,しかも1月のまだ正月気分
があまり抜けていないようなときに,これほ
ど集まってくださったことについて,オーガ
ナイザーとして心からの感謝を申し上げたい
と思います。
我々の研究会では,岸田教授にまず入って
いただいて,それから公認会計士の問題もあ
わせて検討することになりました。今日少し
議論がありましたが,同じ企業にかかわるプ
ロフェッションということであっても,弁護
士と公認会計士とでは,そのかかわり方や行
動のあり方,結果に対する責任の取り方,そ
109 ―
―