Overseas Fishery Cooperation Foundation of Japan 評価報告書 ― サントメ・プリンシペ民主共和国 ― ― 船外機の修理・修復及び保守に関するプロジェクト ― (評価実施-2011 年3月:PJ 終了時) プロジェクトの概要 国 名 プロジェクト名 実施期間 覚書署名省庁及び事 業実施機関 サントメ・プリンシペ民主共和国 船外機の修理修復及び保守に関するプロジェクト 2009 年 8 月~2011 年 3 月 覚書署名省庁:農業・漁業・地方開発省 (MAPDR*1) (現 計画・開発省 (MDP*2)) 事業実施機関: 同 省 漁業総局 (DGP*3) (現 漁業局 (DP*4) ) *1 MAPDR: Ministerio da Agricultura, Pescas e Desenvolvimento Rural *2 MDP:Ministro da Plano e Desenvolvimento *3 DGP:Director General de Pesca *4 DP:Director de Pesca プロジェクト実施の経緯と背景 サントメ・プリンシペ民主共和国(以下「サントメ」 という。 )経済は、輸出額の8割を占めるカカオに依 存している。近年はカカオの国際価格が低迷し、国 内経済が打撃を受けており、国内経済の多様化、雇 用拡大が最大の社会的、経済的な課題となっている。 サントメ政府は、2002 年策定の国家貧困削減戦略 文書において、伝統的な経済分野への対策として、 水産業を農業、畜産業、林業及び観光業と同様に重 要視し、国民総生産及び雇用増に貢献することを求 めている。同文書の水産分野における戦略目標は、 以下のとおりである。 (1) 動物たんぱく質の供給への貢献 (2) 漁業セクターの生活、労働水準の改善 (3) 漁業セクターの組織化 1 (4) 零細漁業の生産、流通の開発 (5) 水産資源の管理の促進 MDP は、これらの目的を達成するために現在、新規の水産開発マスタープランの策定作業を行 っている。 サントメの水産業に対しては、これまでに我が国や、台湾、EU、FAO などから零細漁業分野 に無償資金協力、技術協力等が実施されてきたが、漁港等のインフラの整備不足もあり未だ発 達途上の段階にある。 このような中、2008 年 3 月に我が国とサントメとの間で民間漁業協定が更新された際に、サ ントメ政府は、我が国に対し零細漁業の振興に関する技術協力を要請した。その後、財団法人 海外漁業協力財団(以下「財団」という。)に対し、2008 年 6 月 13 日付けの MAPDR 大臣書簡によ り、「船外機の修理修復及び保守に関するプロジェクト」の実施要請があった。 財団はこの要請に応え、サントメの水産振興政策を支援するために本プロジェクトの実施を決 定した。 目標・成果・活動内容等 上位目標 プロジェクト目標 期待される成果 サントメ・プリンシペ民主共和国における零細漁業の振興 船外機の修理修復及び保守等に係る技術移転 1.船外機の修理修復技術が零細漁業者に移転される。 2.船外機の修理修復により、零細漁業者の活動が活性化される。 3.船外機の修理修復及び保守のための施設の改善、充実が図られる。 (初年度:2009 年度) (1) サントメ島の船外機ワークショップの整備 (2) 技術講習会の実施 (3) 零細漁業の実態把握 活 動 (第 2 年度:2010 年度) (1) プリンシペ島を中心とした船外機ワークショップの整備 (2) 技術講習会の実施 (3) 零細漁業の実態把握 投 入 財団側: ・ 専門家;漁船機関(長期派遣): 1 名 漁労(短期派遣) : 1名 ・ 事業費;47 百万円(2010 年度) ・ 主な資機材 ; 船外機、船外機部品、FRP ボート、工具類、車両 等 相手国側: サントメ島 ・ カウンターパート; DP 所属 総括責任者: 2 1名 運営管理者: 1名 漁船機関 : 1名 漁 労: 2名 予備部品管理者: 1名 プリンシペ島 ・ カウンターパート; DP 所属 総括責任者; 1名 総括補佐; 1名 運営管理者: 1名 ・ プロジェクト関連予算、土地、施設等; プロジェクト事務所の提供(漁業総局及びワークショップ内) 評 価 事 項 妥当性 1)プロジェクトの妥当性 本プロジェクトは、サントメ・プリンシペの水産分野の開発戦略目標に沿い、零細漁 業分野の開発にかかる漁船の動力化と船外機の保守整備技術の普及をプロジェクト目 標としており、妥当であった。 下記各項目を内容とするプロジェクト活動は、船外機の保守技術及びその付帯的な 事項の指導に的を絞ったもので、プロジェクト目標を達成するために妥当なものであ った。 ① 船外機のワークショップの整備 修理修復及び技術指導を行うための環境整備 ② 技術講習会の実施 修理修復及び保守に係る理論と実践の指導 ③ 零細漁業者に対する啓蒙活動 安全操業や安定した漁業活動に必要な技術アドバイス 2)環境に対する配慮はなされていたか 本プロジェクトでは、既存の施設を改良し、ワークショップを整備した。その活動時 には、周囲の環境を汚染する惧れのある船外機の廃油の取扱いについては、十分配慮し て処理を行い、問題は無かった。 3 3)水産資源に対する配慮はなされていたか 本プロジェクトは、零細漁業者が使用するカヌーの船外機の保守整備をターゲットと した技術協力であり、プロジェクトの実施によって、漁船数の増加や新たな漁獲対象魚 種の開発など水産資源に対し配慮を要するような内容ではなかった。 効率性 1)資機材、専門家の投入とプロジェクト活動の効率性 2008 年 6 月、9 月及び 2009 年 6 月にプロジェクト形成調査を実施し、プロジェクト計 画を十分に検討した後 2009 年 8 月に専門家を派遣した。 その後購送資機材のサントメ国での通関手続きに時間を要し、ワークショップの整備に 遅れが見られたが、サントメ島で 5 回、プリンシペ島で 2 回技術指導講習会を開催するこ とができ、全体としてプロジェクト活動の効率性については、大きな問題とはならなかっ た。 2)技術移転の効率性 漁船機関分野のカウンターパートには、DP 職員の他、漁業組合員や民間業者から業務 委託を受けて機械類、船外機を修理している者が選定された。彼らは自己流ではあるが、 日常的に船外機を取り扱い、一定の技術レベルを有していたので、財団専門家は、集中 的かつ効率的に技術移転を実施し、所定の成果を達成した。 目標達成度 1)プロジェクト目標の達成度 船外機に関する技術移転については、まず DP 所属のカウンターパートに対し指導を行 った。このカウンターパートが十分な技術を習得した後、各漁村の技術者を対象とした 技術講習会をサントメ島 5 回、プリンシペ島 2 回とそれぞれ開催し、DP 所属のカウンタ ーパートに、指導を任せ今後の自立発展を促した。 多少の計画の遅れは見られたものの、効率的、効果的な活動を実施することにより、プ ロジェクト目標を達成した。 4 2)プロジェクト活動項目及び期待された成果の達成度 次のとおりプロジェクト活動を実施し、期待された成果である船外機保守のためのワ ークショップ整備(サントメ島 1 箇所、プリンシペ島 1 箇所) 、零細漁業(技術)者への 技術移転(サントメ島 13 名、プリンシペ島 8 名)を達成し、零細漁業活動の活性化に貢 献した。 (初年度) ①サントメ島の船外機ワークショップの整備 サントメ島ガンボア地区に、既存施設を利用しワークショップを整備した。 ②技術講習会の実施 零細漁業者あるいは関連地域の技術者を集め、5 回、13 名に対し講習会を実施し た。 ③零細漁業の実態把握 本プロジェクトの付随的活動として、2回に亘り短期専門家をサントメ島に派遣し、 同島周辺の漁場の現状を調査した。この結果、漁場は限定的であり、底魚漁場は期待 できず、漁獲物は浮魚が主体であることが判明した。また、現地零細漁業者の主要な 漁法である刺し網は、仕立てが適切でなく、改良の余地があることがわかった。 (第 2 年度) ①プリンシペ島の船外機ワークショップの整備 プリンシペ島サン・アントニオ地区に、既存施設を利用しワークショップを整備し た。 ②技術講習会の実施 零細漁業者あるいは関連地域の技術者を集め、2 回、8名に対し講習会を実施した。 ③零細漁業の実態把握 2010 年 4 月、短期専門家を派遣し、プリンシ ペ島における各漁村の漁労及び船外機稼動実態 の調査を行った。 この結果、サントメ島同様、刺し網が主体であ り、漁業者は 20 年前に購入した中古の刺し網な ど、劣化した漁具を使用していた。船外機の整備 の必要性は高く、ワークショップ設置の要望が大 船外機 きかった。 インパクト 1)プロジェクト上位目標に対するインパクト 5 船外機に関する技術協力は、同国における零細漁業の活性化に直結しており、上位目 標である同国の零細漁業振興の達成に大きなインパクトを与えると見込まれる。 2)プロジェクトの実施効果によるその他のインパクト プロジェクトの効果である船外機保守技術の普及は、小型カヌー主体の地元漁船の安 全操業に繋がり、安定した漁業活動により所得の向上をもたらすなど、地域社会にもイ ンパクトを与えると期待される。 自立発展性 1)カウンターパート及び供与資機材の有効活用の見込み 船外機は、サントメの零細漁業者にとって唯一の機械的な動力であるが、その普及率 は未だ低い状態にある。サントメ政府は、零細漁業の振興を国の重要な政策としており、 財団が今回行った船外機に関する技術協力の成果を多としている。 プロジェクトで技術移転を受けた漁業局のカウンターパートは、我が国での技術研修も 予定され、一層の技術向上が見込まれる。また供与された資機材は、現在漁業局の適切な 管理下にあり、整備されたワークショップは船外機の修理修復の重要な地域的拠点として、 今後も有効に活用されることとなっている。 2) プロジェクト効果の持続の見込み サントメ国内の水産蛋白食料の需要は根強いものがあり、その供給は政府の重要な政 策の一つであることから、本プロジェクトの効果は持続され、船外機の技術水準の自立 発展性も十分にあると期待される。 以上 6
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