65歳雇用義務化への 対応実務 - JMAR|日本能率協会総合研究所

解説
65歳雇用義務化への
対応実務
改正高年齢者雇用安定法の概要と
雇用延長制度の導入ステップ
2004年6月に 「改正高年齢者雇用安定法」 が成立し, 事業主
に対して65歳までの段階的な雇用延長が義務付けられることと
なった。 雇用延長の義務化は2006年4月からとなっているが,
制度未導入の人事担当者には各方面に対する準備を考慮すると
待ったなし" の状況ともいえる。
こうした中で, 事前に担当者が知っておかなければならない
事項などを整理し, 円滑に雇用延長制度を導入するための基本
的な取り組み内容を, ㈱日本能率協会総合研究所
広田 薫氏
に解説していただいた。
広田 薫 ひろた かおる
㈱日本能率協会総合研究所
労働政策研究室室長・主任研究員
1962年神奈川県横須賀市生まれ。 1985年中央大学法学部卒業。 2003年法政大学大学院
政策科学専攻修士課程修了 (政策科学修士)。 厚生労働省とその関連団体, 各種業界団
体等から, 高齢者雇用推進事業, 産業雇用高度化推進事業, 所定外労働削減プロジェ
クト事業, 派遣労働者の活用の在り方の検討といった雇用・労働政策に関するプロジェ
クトを受託し研究している。 主な著書: 義務化!65歳までの雇用延長制度導入と実務
(2004年7月発行:日本法令)
■関連記事案内
掲
●
載
記
事
159国会で成立した労働関係法律
掲載号数 (発 行 日)
第3637号 (04. 9.10)
●
法令速報 改正高年齢者雇用安定法に関する政省令案要綱
第3641号 (04.11.12)
●
法令速報 改正高齢法に基づく 「募集・採用時に年齢制限を設ける
第3644号 (04.12.24)
場合の理由」 の記載例
●
●
42
改正高年齢者雇用安定法 60歳超雇用確保措置が分かるQ&A22
労働関係法令 (11月)
改正高年齢者雇用安定法の施行通達 (概要)
労政時報 第3649号/05. 3.11
第3645号 (05. 1.14)
第3646号 (05. 1.28)
65歳雇用義務化への対応実務
ポ
イ
ン
ト
1 改正高年齢者雇用安定法のポイント →44ページ
●
●
2006年4月より, 段階的に65歳までの雇用延長制度の導入を義務化
継続雇用制度の対象者は原則, 希望者全員
⇒ただし, 労使協定により対象者の基準を定めることは可能。 さらに, 2006年度から
3年間 (中小企業は5年間) については, 就業規則により対象者の基準を定めるこ
とを認める
※対象者の選別に当たっては, 具体性と客観性のある基準に基づくこと
2 65歳までの雇用確保の現実的な方法 →48ページ
●
最も現実的な方法は継続雇用制度の導入である
理由
継続雇用制度は, 定年到達を機に今まで結んでいた労働契約を解消し, その
人の就業意欲や保有するスキルと会社のニーズがマッチした場合について, 新たな労
働条件で再度, 雇用契約を結べるからである
3 65歳までの継続雇用制度の導入状況 →49ページ
●
厚生労働省/雇用管理調査
65歳までの雇用を確保する企業は約7割, うち希望者
全員を対象とする企業は3割弱
●
今後見込まれる定年退職者の大幅な増加による労働力不足への対応や高齢者の保有す
る高いスキルの継承問題への対応等もあり, 大手, 中堅・中小企業それぞれに, 各社
の実情に合った継続雇用制度を導入している
4 高齢者雇用を推進するにはどうすればよいのか →52ページ
●
高齢者の持つ豊富な経験を最大限発揮させることにより, 高齢者の積極的な活用を企
業競争力の強化に結び付ける発想が求められる
5 65歳までの継続雇用制度の設計方法 →54ページ
●
まず, 部門ごとの要員ニーズ, 高齢者の就業ニーズを把握すること。 そのうえで, 職
域, 勤務時間や雇用形態, 賃金制度について検討する。 具体的には, 高齢者の能力に
応じて, 仕事と勤務時間, 賃金をいかに組み合わせていくかが重要。 併せて職場環境
の改善についても配慮する必要がある
労政時報 第3649号/05. 3.11
43
はじめに
2004年6月, 「高年齢者等の雇用の安定等
ルが進行する中, 60代前半層の雇用の推進は
重要な政策課題であり, 労使が真剣に取り組
むべき課題であるといえよう。
に関する法律の一部を改正する法律案」 (高
なお, 改正高年齢者雇用安定法には, ①65
年齢者雇用安定法の改正法案) が第159回通
歳までの雇用延長制度導入の義務化以外にも,
常国会で可決・成立し, 2006年4月1日より
②高年齢者の再就職促進, ③シルバー人材セ
段階的に65歳までの雇用延長制度の導入が義
ンターの業務の特例, といった項目が盛り込
務化された。 厚生年金 (特別支給の老齢厚生
まれている ([編注] ②③の概要については
年金) の支給開始年齢の引き上げのスケジュー
第3637号−04. 9.10 61ページ参照)。
1
改正高年齢者雇用安定法のポイント
[1]雇用延長制度導入の義務化
るように, 労使協定により継続雇用制度の対
象者にかかわる基準を定めた場合には, この
法改正の柱である65歳までの雇用延長制度
基準に該当する労働者を対象とすること, す
導入の義務化とは, 65歳までの雇用を確保す
なわち希望者全員を対象としないことを認め
るために, 2006年4月1日より, 65歳未満の
ている。
定年の定めをしている事業主に対して, ①定
年年齢の引き上げ, ②継続雇用制度 (現に雇
2006年度から3年間(中小企業は5年間)は
用している高年齢者が希望するときは, その
就業規則等の定めによっても選別可能
高年齢者を定年後も引き続いて雇用する制度)
さらに, 労使協定の締結に努力したにもか
の導入, ③定年の定めの廃止, のいずれかの
かわらず, 協議が不調に終わったときは,
措置を講ずることを義務付けるものである。
2006年度から3年間 (常時雇用する労働者が
300人以下の中小企業は5年間) については,
2013年度までに段階的に引き上げ
ただし, 2006年度から直ちに65歳までの雇
労使協定ではなく, 事業主が継続雇用制度の
対象となる労働者の基準を作成し, 就業規則
用延長制度の導入を義務付けるのではなく,
などに定めて対象者を選別することも認めて
特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の段
いる。
階的引き上げに合わせて, 2013年度までの間,
加えて, この期限が終了する際には, 「中
段階的に雇用延長の年齢を引き上げていくも
小企業における高年齢者の雇用確保の状況,
のである。 これにより, 改正法が施行される
社会経済情勢の変化等を勘案し, 当該政令に
2006年度から2012年度末までは特別支給の老
ついて検討を加え, 必要があると認めるとき
齢厚生年金が支給されるまでの期間の雇用が
は, その結果に基づいて所要の措置を講ずる
確保され, 2013年度以降は65歳までの雇用が
ものとすること」 とされており, 景気の状況,
確保されることになる。
特に中小企業の経営状況によっては就業規則
の定めのみで可能とする期間をさらに延長す
原則は希望者全員,ただし労使協定により
対象者の選別も可能
る含みも持たせている。
こうしてみると, 「希望者全員の継続雇用」
なお, ②継続雇用制度については, 希望者
とはいっても, 労使協定を締結すれば対象者
全員を対象にすることが原則である。 ただし,
を選別することが可能であるし, 2006年度か
各企業の実情に応じた柔軟な対応を可能にす
ら3年間 (中小企業は5年間) については労
44
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
図表1 65歳までの継続雇用制度の義務化の内容とスケジュール
原則は希望者全員
ただし, 労使協定で限定可能
原
則
対
象
範
囲
特
例
大 企 業
経営側の
判断で選別可能
政令見直しで
延長の可能性も
中小企業
65歳
延
長
年
齢
64歳
63歳
62歳
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(年度)
使協定を締結しなくても, 就業規則において
望者全員の継続雇用」 と規定しておきながら,
継続雇用の対象者の基準を会社が定めること
賃金, 職域, 働き方といった労働条件につい
で選別が可能となっている[図表1]。
て継続雇用希望者の保有する技術・技能, ス
し
い
キルや希望をあえて無視し, 恣意的に, あま
[2]対象者の選別方法
「希望者全員の継続雇用」といっても実際に
は全員が継続雇用されるとは限らない
りに低い賃金を提示したり, 転勤を命じたり,
フルタイム勤務希望者に対して週1日のパー
トタイム勤務を提示するような場合は, 「希
望者全員の継続雇用」 とはいえない。
最初に確認しておかなければならないのは,
しかしながら, 継続雇用に際しての労働条
「希望者全員の継続雇用」 と定めた場合, 本
件については, 事業主に定年到達者の希望に
当に希望者全員を継続雇用しなければならな
合致した労働条件での雇用を義務付けている
いのか, ということである。 「何を当たり前
ものではない。 あくまでも事業主の合理的な
なこと」 と思うかもしれないが, ここでは例
裁量の範囲内で職種, 勤務時間, 賃金等労働
として, 本人は60歳以降も就業を希望し, 会
条件を提示し, そのうえで労使が合意した場
社も60歳以降も働いてもらいたいと思ってい
合に, 継続雇用すればよいのである。
たものの, 60歳以降の労働条件において合意
すなわち, 「希望者全員の継続雇用」 とは,
に至らず, 結局, 継続雇用がなされなかった
「継続雇用希望者に対して, その希望者にふ
三つのケース (46ページ参照) が考えられる。
さわしい職務, 勤務時間, 賃金といった労働
それら三つのケースからも分かるように,
条件を会社が提示し, 希望者がその労働条件
「希望者全員の継続雇用」 といっても, 結果
に納得することで双方がマッチングできた場
としては必ずしも希望者全員が継続雇用され
合について継続雇用契約を締結すること」 く
るとは限らない。 もちろん, 建て前上は 「希
らいに広くとらえるのが妥当であろう。
労政時報 第3649号/05. 3.11
45
◆継続雇用されなかった三つのケース
ケース1
技能職Aさんに対して, 会社は60歳以降の仕
事は現職継続, 賃金は定年到達時の4割ダウン
を提示したが, このダウン幅についてAさんが
納得せず, 再雇用契約が締結できなかった。 再
雇用時の賃金については, 就業規則において
「勤務形態, 本人の年齢・技能および経験等総
合勘案して個別の雇用契約書において決定する」
とされており, 本人の技能の度合いに応じて60
歳時の3∼5割ダウンが慣例となっていた。 会
かんが
社はAさんの技能を鑑み, 定年到達時の4割ダ
ウンを飲んでくれれば喜んで再雇用したいと答え
たものの, Aさんは, 「なぜ自分が4割もダウン
されるのか分からない。 同時期に定年を迎えた
Zさんは3割ダウンで契約したではないか」 とし
て, 賃金に不満を持ち再雇用に応じなかった。
この場合, 会社として, Aさんの賃金が保有
する技能に応じて定年到達時の4割ダウンにな
ることが今までの慣習上あまりにおかしい, 恣
意的である, といったことでなければ, Aさん
自身が再雇用契約を拒否したことになるため,
再雇用されなかった責任はAさん自身が負うと
判断するのが妥当であろう。
ケース2
営業職Bさんに対して, 会社は加齢に伴う体
力の低下もあることから60歳以降の仕事は営業
かすための配置転換等については, 実際, 数多
くの企業で行われている。 企業の人事戦略から
補助, すなわち内勤へと配置転換, 賃金は定年
到達時の3割ダウンを提示した。 しかし, 内勤
への配置転換にBさんが納得せず, 再雇用契約
が締結できなかった。 継続雇用制度のある多く
みても, 現役社員には配置転換を行うにもかか
わらず, 定年到達者だけは現職継続を貫くので
は, 人事戦略の柔軟性が失われてしまうことに
なる。
の企業では, 定年到達者の職業能力を活かす意
味からも再雇用に当たっては 「現職継続」 が基
本となっているが, 一方で, 加齢に伴う体力の
低下や人員不足・欠員補充に伴う関連職場への
配置転換, また逆に定年到達者の職業能力を活
したがって, 現役社員を対象としたリストラ
目的に通ずるような配置転換であれば別である
が, そうでなければ, 現職継続に固執し, 配置
転換を拒んだことで再雇用されなかった責任は
Bさん自身にあるといわざるを得ない。
ケース3
60歳以降は週3回のパートタイム勤務として
働きたいとしている事務職Cさんに対して, 会
可能であれば何ら問題は起きないであろう。 ま
た, パートタイム勤務のほうが, 企業経営上メ
と返答したが, Cさんがパートタイム勤務にこ
だわり, フルタイム勤務を拒否したために, 再
雇用契約が締結できなかった。 この場合, フル
社はフルタイム勤務なら再雇用契約を締結する
リットが大きいのであればそれに越したことはな
いが, いくらCさんが今まで会社に貢献してき
たといっても, 今までフルタイム従業員が働い
ていた仕事を急にパートタイマーに任せるといっ
タイム勤務はもちろん, Cさんの希望するよう
なパートタイム勤務も企業が用意して, 定年到
たことはそう簡単にはできない。 パートタイム勤
務にこだわるCさんが再雇用されなかった責任
達者のニーズに応じてどちらかを選択することが
はCさん自身にあることはいうまでもないだろう。
継続雇用対象者の選別基準は?
分協議のうえ, 各企業の実情に応じて対象者
改正法においては, 希望者全員を継続雇用
の選別基準を定めることとされており, その
の対象にすることが原則であるが, 労使協定
内容については, 原則として労使に委ねられ
により継続雇用制度の対象となる労働者の選
ている。 ただし, 協議をして定められたもの
別基準を定めた場合には, その基準に該当す
であっても, 事業主が恣意的に継続雇用対象
る者のみを対象とすること, すなわち希望者
者を排除したり, 他の労働関連法規に反する
全員を対象としなくてもよいとされている。
ケース, または公序良俗に反するケースは認
ゆだ
この場合, 労働組合等と事業主との間で十
46
労政時報 第3649号/05. 3.11
められない。 例えば, 現行の継続雇用制度の
65歳雇用義務化への対応実務
基準とすることが必要である。
導入企業に多くみられるような, 「会社が特
に必要と認めた者に限る」 や 「上司の推薦が
ちなみに, 継続雇用制度の対象者に係る基
ある者に限る」 というのでは基準がないこと
準を労使協定で定めた場合は, 非組合員や管
と等しく, この基準のみでは適切ではない。
理職も含め, すべての労働者に適用されるこ
また, 「男性 (女性) に限る」 という基準は
ととなる。 なお, この場合, すでに継続雇用
男女差別に該当し, 「組合活動に従事してい
制度を導入している大手企業で見受けられる
ない者」 は不当労働行為に該当することから
ような 「管理職のみ対象外」 という基準を設
も, 適切な基準とはいえない。
けることについては, 労使間で話し合われて
継続雇用制度の対象者にかかわる基準とし
定められたものである以上, 法の規定に違反
てふさわしいのは, 労働者自らが基準に適合
するとまではいえない。 ただし, 高齢者が年
するか否かをある程度予見することができ,
齢にかかわりなく働き続けることのできる環
その基準に到達していない労働者に対して能
境を整備することが今回の法改正の趣旨であ
力開発等を促すことができるような具体性を
る点を鑑みれば, 管理職であっても, 労働者
有するものである。 かつ, 企業や上司等の主
である限り, 意欲と能力のある限り継続雇用
観的な選択ではなく, 基準に該当するか否か
されることが可能であるような基準を定める
を労働者が客観的に予見でき, 該当するかど
ことが望ましい[図表2]。
うかについて労使双方で誤解を生まないよう
就業規則の改定
配慮された基準である。 例えば, 「社内技能
検定レベルAレベル」 であるとか, 「営業経
継続雇用制度の導入に当たり, 対象者の選
験が豊富な者 (全国の営業所を3カ所以上経
別を行う場合の就業規則の改定例は以下のと
験)」, 勤務評定が開示されている企業につい
おり。 就業規則には継続雇用制度の根幹部分
ては 「過去3年間の勤務評定がC以上 (平均
のみ記載し, 労働条件等については別途 「継
以上) の者」 といった具体性と客観性のある
続雇用規程」 を設けることが一般的である。
図表2 65歳までの雇用延長制度導入のステップ
定年年齢60歳の場合
定年年齢の65歳までの引き上げ
65歳までの継続雇用の導入
OK
定年制の廃止
OK
希望者全員を対象とする
対象者を選別する
OK
対象者の基準を定める
労使協定に合意
労使協定に合意せず
OK
就業規則にて定める [注]
労働基準監督署に届け出る
[注]
2006年度から3年間 (中小企業は5年間) に限る。
OK
労政時報 第3649号/05. 3.11
47
対象者を選別する場合の就業規則の改定例
者とする。
改定前
第○条
2. 再雇用を認める者は, 次の各号に該当する
正社員の定年は満60歳とし定年に達し
定年年齢到達時に職能資格等級6等級以上
の者
た日をもって退職とする。
ただし, 会社が業務上必要と認め, 本人が
健康であること
希望するときは再雇用を認めることがある。
3. 再雇用に関するその他の事項については,
2. 再雇用を認める者は, 次の各号に該当する
別途定める再雇用規程によるものとする。
者とする。
専門的知識・技術または高度の技能, すぐ
おうせい
れた管理, 監督能力ならびに旺盛な勤労意
欲を持っていること
罰則
本法においては, 事業主に定年年齢の引き
上げ, 継続雇用制度の導入等を義務付けてい
健康であること
3. 再雇用に関するその他の事項については,
るものであり, 個別の労働者の65歳までの雇
別途定める再雇用規程によるものとする。
用義務を課すものではない。 したがって, 継
続雇用制度を導入していない60歳定年制の企
由に60歳で退職させたとしても, それが直ち
改定後
第○条
業において, 2006年4月1日以降, 定年を理
正社員の定年は満60歳とし定年に達し
た日をもって退職とする。
ただし, 以下の条件に適合し, 本人が希望
するときは再雇用を認める。
に無効となるものではない。 ただし, 適切な継
続雇用制度の導入等がなされていない事実を
把握した場合には, 法違反となるので, 公共
職業安定所を通じて実態を調べ, 必要に応じ
て, 助言, 指導, 勧告がなされることになる。
2
65歳までの雇用確保の現実的な方法
冒頭で述べたとおり, 65歳までの雇用延長
紛争を起こさずに雇用を終了させることがで
制度導入の義務化とは, 65歳までの雇用を確
きるというものである。 さらに, 企業と労働
保するために, 65歳未満の定年の定めをして
者の間の貸し借りをいったんそこで解消して
いる事業主に対して, ①定年年齢の引き上げ,
人事の刷新が可能になるとともに, 企業が望
②継続雇用制度の導入, ③定年の定めの廃止,
む労働者に限って継続雇用という手段によっ
のいずれかの措置を講ずることを義務付ける
て引き続き雇用するという, 従業員のスクリー
ものである。
ニングの一手段として位置付けることもでき
このうち, ①定年年齢の引き上げと②継続
よう。
雇用制度の導入については, 我が国に定着し
したがって, ①定年年齢の引き上げについ
ている定年制を前提とした制度であり, 一方
ては, 定年制に内在している雇用・処遇シス
の③定年の定めの廃止は, 定年制それ自体を
テム, とりわけ年功序列・年功賃金制のまま
廃止し, エイジフリー社会を目指すものとい
では, 年齢が上昇するに従って, 人件費コス
える。
トの大幅な上昇を伴ってしまうことになるの
定年制の持つ意味とは, 定年という特定年
で, 年功序列・年功賃金制の廃止といった人
齢への到達により賃金の上昇が抑えられるこ
事・処遇制度の抜本的な見直しが必要になる
と, またその年齢への到達のみを理由として
[図表3]。
48
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
図表3 定年制下における年功賃金のイメージ
賃 金
賃
金
・
貢
献
生産性
おおむね40歳レベルまでは実際の
生産性に比べ支払われる賃金のほ
うが低く, 45歳位以上になると逆
に生産性よりも賃金のほうが高く
なり, 最終的に職業生涯で清算さ
れるというもの
年齢
就職
40∼45歳
退職
また, ③定年の定めの廃止については, す
続雇用制度は, 定年延長とは異なり, 定年年
でにアメリカでは 「雇用における年齢差別禁
齢到達によりいったん雇用契約が切れるので,
止法」 に基づき定年制が廃止されて久しい。
継続雇用に際しては会社と従業員が新たに労
しかし, 日本では 「整理解雇4要件」 が判例
働条件を決定することが基本となる。 したがっ
で確立しているように, 先進国の中でも解雇
て, 定年延長に比べて, 労働条件, とりわけ
が難しい国とされているため, 高齢者が自ら
賃金を60歳以前と比べて思い切って変えられ
退職するまで雇用保障を行うという覚悟がな
る。 60歳に近くなると, 会社に対する貢献と
ければ導入できないだろう。
賃金のバランスがとれない従業員が多くなる
これに対して, 最も現実的な方法は, ②継
が, 定年到達を契機に新たな労働条件を締結
続雇用制度の導入である。 これは, 60歳とい
することから, その際に, 賃金水準を会社に
う定年年齢到達を契機に今まで結んでいた労
対する貢献に応じた金額に設定することがで
働契約を解消し, その人の就業意欲や保有す
きる。 加えて, 雇用期間が1年契約の更新と
る技術・技能, スキルと会社のニーズがマッ
いった短期間のケースが多いため, 予期され
チした場合について, 新たな労働条件の下に,
ない環境変化があっても, 定年延長とは異な
再度, 雇用契約を結ぶというものである。 継
り, 臨機応変に労働条件の変更を行える。
3
65歳までの継続雇用制度の導入状況
[1]65歳までの継続雇用制度を有する企業は
約7割,うち希望者全員とするのは3割弱
定年制を有する企業の割合は91.5% (常用
労働者数30人以上の企業が対象) となってお
り, そのうち一律定年制を定めている企業は
厚生労働省 「雇用管理調査」 (2004年) か
96.8%となっている。 定年年齢をみると, 60
ら職業安定局高齢・障害者雇用対策部が算出
歳から64歳定年企業が92.9%, 65歳以上の定
したデータを基に, 65歳までの継続雇用制度
年年齢を定めている企業が6.5%となっており,
の状況についてみてみよう (編注:第3638号−
ほぼ60歳定年制が定着していることが分かる。
04. 9.24参照)。
これには, 1998年4月から60歳定年制が義務
労政時報 第3649号/05. 3.11
49
図表4 65歳までの雇用を確保する企業割合
定年制を
有しない
企業
8.5%
定年制を
有してい
る企業
91.5%
100%
少なくとも
65歳まで働
ける場を確
保する企業
73.4%
65歳以上
定年企業
一律定年
制を採用
している
企業
96.8%
(100%)
職種別,
その他定
年を採用
している
企業
3.2%
[注1]
(6.5%)
[注2]
60∼64歳
定年企業
(92.9%)
少なくとも65歳までの
勤務延長制度, 再雇用
制度を有する企業
(66.7%)
原則として希望者全員を
対象とする企業
27.8%
企業規模
5,000人以上 ( 7.7%)
1,000∼4,999人 ( 9.3%)
0,300∼0,999人 ( 9.3%)
0,100∼0,299人 (19.2%)
0,030∼0,099人 (33.0%)
うち原則として希望
者全員を対象とする
企業
(15.3%)
内は定年制を有している企業
を100%とした場合の割合
●
( ) 内は一律定年制を有している
企業を100%とした場合の割合
※事業規模30人以上の企業が調査対象
●
出典:厚生労働省 「雇用管理調査」 (2004年) より職業安定局高齢・障害者雇用対策部が算出したもの (第3638
号−04. 9.24で一部紹介)
[注] 1. 職種別その他定年制を採用している企業についても65歳までの雇用を確保する企業が若干存在する。
2. 65歳を超える定年企業も若干存在する。
付けられたことが大きな要因として挙げられ
る。
一方, 60歳から64歳までを定年年齢として
いる企業のうち, 少なくとも65歳までの継続
[2]中堅・中小企業のほうが進んでいる高
齢者雇用
企業規模別に, 65歳までの雇用を確保する
雇用制度 (勤務延長制度または再雇用制度)
企業の割合を上記調査からみると, 全体では
を有する企業は, 一律定年制を有している企
3割弱の企業が原則として希望者全員を対象
業全体に占める割合でみると66.7%と6割強
に何らかの形で65歳までの雇用を確保してい
を占めている。 これにより, 少なくとも65歳
るが, 100∼299人の企業では19.2%と全体平
まで働ける場を確保している企業は全体の73.4
均を10ポイントほど下回るほか, 300∼999人
%と7割を超え, そのうち原則として希望者
および1000∼4999人では各9.3%, 5000人以上
全員を対象とする企業は27.8%と約3割を占
では7.7%と300人以上では1割を切っている。
めている[図表4]。
これに対して, 30∼99人の企業では33.0%と
3割を超えている[図表4]。
このように, 高齢者雇用については大手企
50
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
図表5 中小各社の雇用延長制度
65歳定年制度
建設関連業
最近の60代はまだまだ若く, 即戦力として働くことが十分可能である。 とりわけ長年の経験の中
で身に付けたノウハウや勘はそれほど衰えるものではない。 若年層に対しても良い見本になる。
希望者全員を再雇用
建設関連業
いったん60歳で定年退職となるが, 本人が希望すれば65歳まで正社員として再雇用。 その後, 65
歳になった段階で改めて, 会社として残ってほしい高齢者を選別する。 現在60歳以上の従業員が
11名 (うち65歳以上2名), 現場でフルタイムで働いている。
運
65歳までの再雇用。 再雇用希望者は安全運転センターの適性診断の受講と健康診断の受診を義務
付け, 加えて過去の勤務状況を勘案したうえで契約更新の諾否を決定。 これまでの契約拒否は20
年間で数名程度, いずれも健康状態に不安があったためで, 実際には希望者のほぼ100%が65歳
まで再雇用されている。
送
業
会社が認める者を再雇用
卸
売
業
会社が認める者を65歳まで再雇用。 現在, 62歳の営業所長代理1名。 定年前と同じ仕事, 役職,
正社員と同様の事業場外のみなし労働時間制で勤務。 月例賃金は定年前の6割, 賞与は目標に応
じた成果給。
卸
売
業
1年契約の再雇用。 現業継続が基本。 営業担当者の場合, 一部, 営業テリトリーを狭くし, その
分内勤作業に従事してもらうことも。 月例賃金は定年前の60%程度で, 再雇用1年後からは若干
の昇給あり。 手取りは助成金を加えて定年前の70%程度。
製
造
業
60歳の定年年齢到達後は子会社にて会社が認める者を65歳まで再雇用。 現在6名が在籍, うち3
名が嘱託 (8時15分∼17時勤務), 3名がパートタイム (8時∼15時, もしくは9時∼15時30分)。
定年制度なし
海
運
業
61歳の船員が2名。 船員は豊富な経験が求められるので高齢者のほうがふさわしい。 日の出から
日の入りまで乗船。 毎週日曜日が所定休日, それ以外は6名いる船員が1人ずつ交替で休日を取
得。 船員は55歳から年金が支給されるが, 年金が支給されるからという理由で退職した者は過去
にもいない。
業よりも中堅・中小企業のほうが進んでいる。
雇用を含めた新規採用には慎重な姿勢をとら
この背景には, 中堅・中小企業の場合, 若年
ざるを得ない状況に置かれている。 しかし,
労働者の採用・定着がなかなか難しいことか
「2007年問題」 という言葉に象徴されるよう
ら従業員の高齢化が進んでおり, いきおい高
に, 今後見込まれる定年退職者の大幅な増加
齢者に頼らざるを得ないという面も否定でき
による労働力不足への対応や高齢者の保有す
ない[図表5]。
る高い技術・技能, スキルの継承問題への対
応等もある。 また, 企業の社会的責任を果た
[3]大手各社の雇用延長制度
大手各社については, 厳しい経営環境の中,
す意味からも, 65歳までの雇用延長制度の導
入は避けて通れない課題という認識のもと,
現役世代の雇用確保との調和を図りながら,
新規採用の抑制や出向, 転籍の促進を通じて
高齢者活用と雇用確保についての取り組みが
現役世代の雇用の確保に努めており, 高齢者
進んでいる[図表6]。
労政時報 第3649号/05. 3.11
51
図表6 大手各社の雇用延長制度
定年延長
富士電機
ホールデ
ィングス
55歳時点の面談で65歳までの定年延長か60歳で退職するか本人が選択する。 定年延長希望者は56歳
以降4年間, 賃金・賞与を15%減額, 60歳以降は55歳時のおおむね50%の水準。 勤務時間は通常勤
務を継続し, 会社指定の職務に従事する。 (第3459号−00. 9.15)
松
65歳定年制を1998年から実施。 50歳からは実力型給与制度として, 職務基準の賃金体系に移行。 55
歳時点で65歳定年を見据えたフルタイム勤務, パートタイム勤務, 定年退職扱い早期退職コースの
三つから選択。 (第3358号−98. 7.10)
屋
希望者全員を再雇用
三菱電機
55歳で60歳定年か雇用延長かを選択。 雇用延長の場合, 給与水準は56∼60歳まで80%, 61歳以降50
%に。 (第3459号−00. 9.15)
東
芝
雇用延長希望者は55歳でいったん退職し, グループ会社の正社員に。 その後は東芝の雇用延長制度
に従った処遇基準で給与・退職金が決められる。
カ ゴ メ
63歳まで1年契約の再雇用。 年間所定労働時間は正社員の4分の3。 1日フルで働く場合は時給
1,200円, 出勤日が多い場合は日給9,350円となる。
トステム
希望者全員に対して何らかの仕事を提示する。 派遣業務を行う子会社等で雇用し, そこから派遣ま
たは出向させる形が基本。 仕事に応じて雇用形態, 勤務形態, 賃金設定にフレキシブル性を持たせ
ることでより多くの雇用機会の創出を図る。 (第3501号−01. 7.27)
伊 勢 丹
60歳定年後, 有期契約のエルダー社員として65歳まで変動時間で勤務できる。 勤務時間は本人希望
に沿って複数用意。
会社が認める者を再雇用
石川島播
磨重工業
2004年度より最長2年の再雇用制度を導入。 これまで約100名を再雇用。 少子高齢化社会を見据え,
ベテラン技能者の保有する高い技能や知識の活用を目指す。
トヨタ自
動車
高齢者の豊かな経験と高い技能を低コストで活用することを通じて, 高齢者の働き方の充実と現役
社員を含めた自助努力・自己責任意識の醸成につなげる。 技能職を対象とし, 専門技能習得制度A
級取得者を条件に。 (第3501号−01. 7.27)
出典: 労政時報 ほか
4
高齢者雇用を推進するにはどうすればよいのか
[1]なぜ,高齢者雇用が進まないのか
以上見てきたように, すでに多くの企業が
60歳以降の雇用延長制度を導入しており, 希
全員の継続雇用に対して拒否反応を示すので
あろうか。 本法案の内容を具体的に議論した
労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本
問題部会の議事録から見てみよう。
望者全員でないものまでを含めれば約7割の
同部会において, 使用者側代表委員, すな
企業が65歳まで延長できる制度を導入してい
わち経営者代表からは, 65歳までの雇用の義
ることや, 今後すう勢的に労働力人口が減少
務化は, ①経営への影響が大きいこと, ②年
する中で高齢者雇用の必要性が高まることな
金の支給開始年齢までを雇用でつなげること
どを考えれば, 今回の法改正は経営サイドと
は, 社会的なコスト負担を企業に転嫁するも
しても全面的には反対できない内容といえる
のであること, ③持続的な経営のためには若
のではなかろうか。
それではなぜ, 経営者は65歳までの希望者
52
労政時報 第3649号/05. 3.11
年層の雇用とのバランスを保つことが必要であ
ること, ④中小企業の場合, 高齢者向けの職
65歳雇用義務化への対応実務
図表7 労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会における
使用者側委員の主な意見
論
点
○定年制の禁止や65歳
(年金支給開始年齢)
までは年齢を理由に
退職させられないルー
ル設定について
○65歳 (年金支給開始
年齢) までの定年年
齢の引き上げまたは
希望者全員を対象と
する継続雇用制度の
導入の実施について
使
●
●
●
●
●
●
●
○65歳までの雇用確保
に当たっての労使の
話し合いによる従来
の賃金・人事処遇制
度の見直しについて
●
●
●
用
者
側
委
員
の
意
見
現在の日本の雇用慣行においては年齢という要素が大きな役割を担っており, 定年制は
重要な制度である。 直ちに年齢という概念をなくすことは難しいのではないか。
現在, 労使で協議しつつ継続雇用制度の導入を進めている段階であり, すぐに65歳定年
を義務化ということにはならない。
企業の国際競争力の維持等を考えれば, 高齢法第8条を改正する65歳定年の義務化は困
難。
経済社会の構造変化等が進む中で厳しい状況が続く企業の経営環境等を考えれば, 65歳
(年金支給開始年齢) までの雇用を定年の引き上げ等により企業に直ちに義務付けるの
は困難ではないか。
65歳までの雇用の確保の重要性自体は理解しているが, 一挙に65歳までの義務となるの
は難しい。
高齢期には意欲や能力が多様化する中で, 希望者全員を雇うことは困難ではないか。 企
業ごとに柔軟な対応ができるような制度とする必要がある。 希望者全員というとフリー
ハンドがなくなることを懸念する。
規制が多いと企業の自由な活動が抑制されてしまう。 高齢者雇用の促進は重要だが, 企
業に義務付けるのではなく, 努力義務や助成金で後押しするほうが中小企業には都合が
いい。
高齢者の雇用を義務付けることは企業コストの増加を招くのではないか。
雇用の場は一定であり, さらに人を雇うとすれば, 経済社会の活性化のためには若い人
を優先すべきではないか。 若年者を雇うためにはウェイジシェアをするしかない。
希望者全員の継続雇用というのは定年延長に近く, 企業の人事制度を抜本的に見直す必
要がある。
出典:厚生労働省 「第12回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会議事録」 (2003年)
域拡大等には制約があること, といった理由
ついて, 「定年到達者の知識・経験を活用す
から継続雇用制度の一律義務化ではなく, 企
るため」 (事務・技術部門77.5%, 現業部門
ゆだ
業の実態に合わせた自主的な取り組みに委ね
62.9%) が圧倒的に多く, 次いで, 「高年齢者
るべきとの意見が強く出されている[図表7]。
でも働ける仕事であるため」 (同38.8%, 同
37.3%) となっている[図表8]。
[2]高齢者雇用推進のための基本的考え方
こうしてみると, 厳しい経営環境の下, 競
合企業との差別化を図っていくためには, 仕
このように, 高齢者の雇用延長に対しては
事を通じて蓄積された豊富な知識・経験・ノ
いくつかの重大な阻害要因が指摘されている
ウハウを持ち, かつ, 長年の取り引きで培っ
が, 一方で, 阻害要因があるにもかかわらず,
た顧客企業のニーズについても十分把握して
高齢者を積極的に雇用・活用し, 企業経営に
いる高齢者を活用することが効果的である。
活かしている企業があることも事実である。
また, 高齢者雇用については会社, 本人それ
日本労働研究機構 (現:労働政策研究・研
ぞれに助成金が給付されることもあるので,
修機構) 「職場における高年齢者の活用等に
これらの活用により, 企業競争力の強化に結
関する実態調査結果」 (2000年・第3475号−
び付けるという姿勢が求められる。
01. 1.19参照) から, 定年後の労働者を継続
ただし, こうした雇用を進める際には, 加齢
雇用している理由 (二つまでの複数回答) に
に伴う体力の低下など留意すべき点もあるので,
労政時報 第3649号/05. 3.11
53
図表8 定年後の労働者を継続雇用している理由(二つまで選択可能)
0
20
40
若年・中年層の採用が難しいから
4.5
6.8
3.4
5.2
38.8
37.3
17.8
19.8
定年到達者の就業機会を提供するため
11.7
13.5
高年齢者雇用促進という社会的要請にこたえるため
5.3
6.6
7.1
11.4
賃金が安いので
その他
不明・無回答
(%)
100
62.9
高年齢者でも働ける仕事であるため
継続雇用助成金が活用できるので
80
77.5
定年到達者の知識・経験を活用するため
高年齢者は定着率が良いため
60
2.4
2.6
事務・技術部門
現業部門
10.8
13.7
出典:日本労働研究機構 「職場における高年齢者の活用等に関する実態調査結果」 (2000年)
職域開発や弾力的な勤務制度の導入, 職場環
若いうちからこうした職業能力を意識的に高
境の改善等を行うことにより, 加齢に伴って落
め, 高齢期に至っても企業にとって存在価値
ちる能力を補い, 保有する職業能力を十分に発
のある人材であり続けられるように努力を怠
揮させるような仕組みづくりが必要になる。
らないことが重要である。
一方, 従業員側も, 働き続けたいならば,
5
65歳までの継続雇用制度の設計方法
[1]制度設計の準備段階に必要となる作業
65歳までの継続雇用制度設計に入る準備段
面等) や配慮すべき事項 (安全面, その他職
場・一般社員との調和など) を把握しておく
必要がある。
階としては, 各部門で高齢者の要員ニーズがあ
一方, 高齢期の就業ニーズ (希望の有無,
るかどうか, また, 配置を実施するうえで配慮
処遇, 働き方) は, 現在までの処遇や従業員
すべき事項があるかを把握することが重要であ
一人ひとりの人生設計, また, 地域性に大き
る。 一方, 高齢者の就業ニーズについても, 働
く左右されることから, 高齢者雇用を検討す
き方や処遇などについて制度設計の際に参考と
るうえで把握することは欠かせない。 とりわ
なるので, 把握するように努めることが望ましい。
け, 事業所が複数ある場合や異なる地域に立
要員ニーズとしては, 部門ごとに高齢者を
地している場合には, 異なるニーズが出てく
配置できる要員ニーズを調査するとともに,
るケースがあるので, 全社的な制度を整備す
実際に配置する際の必要条件 (能力面, 体力
るに当たっては注意する必要がある[図表9]。
54
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
図表9 従業員の就業ニーズ調査の項目例
● 目的
高齢者雇用制度の導入に当たり, 対象となる高齢者 (例えば50歳以上の従業員) を対象に,
継続雇用に関する就業希望の割合や勤務形態, 生活の見通しといった従業員側の意識, ニー
ズを把握することを目的に行う。
● 調査項目
(例)
●
就業希望 (60歳を超えて何歳まで働きたい, など)
●
老齢基礎年金部分支給開始年齢までの空白期間の考え方 (就業, 引退, 分からない)
●
就業希望する理由 (生活費が必要, なんとなく将来が不安, 子供の養育等)
定年後に働く際に重視すること (賃金, 労働時間, 役職, 職場の人間関係, 能力・経験の
●
活用など)
●
希望する雇用形態 (現在の会社で継続, 関連会社に就業, 別会社, 自営業主, 派遣など)
●
希望する仕事内容 (現職, 知識・技能を活かせる仕事, まったく別の仕事)
●
希望する勤務形態 (現役従業員と同じ, 短日勤務, 短時間勤務等)
就業希望しない場合, 引退する理由 (退職金・年金がある, 他の収入がある, 仕事がきつ
●
くなる, 気楽にすごす, 地域活動をやりたい, 介護など)
厚生年金を満額もらえるようになった際の生活費のやりくりについて (厚生年金のみ, 年
●
金+貯蓄, 年金+貯蓄+就業収入, 家族が面倒をみてくれる等)
就業できるために必要な準備, 対処についてどう考えているか (専門能力を身に付ける,
●
新しい仕事に挑戦する, 健康管理に注意する等)
[2] 65歳までの継続雇用制度の設計方法
100%異なった業務ではなく, 定年到達者の
知識, 技能, 経験, 資格等を活かした配置転
次に, 65歳までの継続雇用制度の具体的な
換が求められる。 例えば, 大手製造業の現業
設計方法を考えてみよう。 65歳までの継続雇
勤務者の中には, 作業や設備面の知識・経験
用制度の設計に当たっては, 高齢者の職域,
を蓄積している点を考慮して安全衛生専任者
勤務時間や雇用形態, 賃金制度について検討
への任命等が多く行われている。
する必要がある。 併せて職場環境の改善につ
いても配慮しておくべきであろう。
また, 若年・中堅従業員が中心となって働
いている職場の場合では, 若年・中堅従業員
をサポートしたり, 高齢者の持つ高度な技術・
高齢者の経験を活かす職域の確保
技能, スキルを継承するような役割, いわゆ
高齢者と一口に言っても, 働いている職場
るインストラクターとしての役割を持たせる
によって雇用可能性は異なっており, 雇用を
ことで高齢者を活用していくことも考えられ
推進するに当たっては, このような違いを踏
る。
まえて検討しなければならない。 その場合,
なお, 会社と従業員のニーズが一致すれば,
基本的には, 高齢者の保有する能力を十分に
60歳以降の就業を見据えて, 40∼50代のうち
活用することで即戦力の労働者として働ける
に高齢者の雇用可能性の高い職場へ異動する
ように, 定年到達後についても現職の継続が
ことも必要であろう。 例えば, 年齢が高くな
基本となる。
るにつれて就業可能性が低くなるといわれて
ただし, それがかなわない場合には, 配置
転換も考えなくてはならない。 その場合は,
いる技術者であっても, 40代から管理職とし
てプロジェクト管理を行う立場に異動したり,
労政時報 第3649号/05. 3.11
55
技術者の経験を活かして技術に詳しい営業担
務の効率化を進める中で, これまでフルタイ
当者として第一線で働き続けるのは十分可能
ムでなければこなせなかった仕事がパートタ
である。
イムでも対応できる業務として生まれ変わる
ちなみに, 高齢者に求められているのは,
こともあるので, 実際の職場において短時間
職業生活の過程で蓄積してきた豊かな経験や
勤務で対応できる業務があるのか, また, そ
知識, ノウハウを活かして, 企業に貢献する
の場合, フルタイム勤務との調和が取れるの
ことである。 したがって, 従業員一人ひとり
かどうかなどについて検討すべきである。
が日ごろから業務に直接関係する資格の取得
ちなみに, 短時間勤務の設定には, 1日の
はもちろん, 広く経営に役立つ資格の取得と
所定労働時間を短くする, あるいは週・月の
いった自らの職業能力の向上に主体的に取り
所定労働日数を減らす, また, それらを併用
組み, 高齢期になっても第一線で働けるよう
するなどの方法がある。 前者の1日の所定労
な能力を身に付けていくことが求められる。
働時間を短くする方法は, 1日のうちの業務
加えて, 世の中の変化に対応できるよう, パ
の繁忙時間に合わせて働く場合や, 技術・技
ソコン等新しい機械・器具の操作に積極的に
能, スキルの継承等が目的であるため, あえて
チャレンジするといった姿勢も重要である。
1日フルタイムで働く必要のない場合が当ては
一方, こうした従業員個々人の自助努力を
まる。 一方, 後者の週・月の所定労働日数を
積極的に支援するため, 企業としても, 若年
減らす方法を採るのは, 1日 (あるいは1シフ
期から高齢期に至るまで段階的に能力開発を
ト) の途中で労働者が交替するよりも, 異な
行う必要がある。 例えば, スキルアップ, キャ
る労働日に別の従業員が職務に就くほうが職
リアチェンジを目的とした各種セミナーへの参
場への負担にならないという場合が当てはまる。
加の奨励や, 資格取得者に対する報奨制度の
例えば, 岐阜県の家電部品・自動車部品メー
導入, また, キャリア形成に関する助成金制
カーの加藤製作所では, 得意先からのコスト
度の導入を図るなど, 従業員のキャリア形成
ダウン, 短納期要請にこたえるべく, 「モノ
に関する環境・企業風土づくりが求められる。
づくりのコンビニエンスファクトリー」 を旗
印に年中無休で工場を稼動させるため, 60歳
高齢者にふさわしい弾力的な勤務制度の導入
以上の者を土・日・祝日のパートとして雇用
定年を迎えた者が配置される職務によって
している。 時給は800円とそれほど高くない
は, フルタイム勤務でなくてもよい場合, も
が, 「土日だけなら」 と働く場を求める高齢
しくは短時間勤務のほうが成果を生み出しや
者は多く, 10人程度の求人に50人以上が応募
すい場合がある。 実際に, 継続雇用制度を導
するほど人気がある。 この土日高齢者パート
入している企業では, 定年を迎えた者が定年
社員制の導入に当たり, 同社では, 定型業務
前と同様にフルタイムで働くケースが多いも
を標準化してだれでもできるような体制を整
のの, フルタイムで働くものの残業, 休日出
え, 正社員が行っている仕事を徐々に高齢者
勤は極力行わないケースもある。 さらには,
にスライドしている。 このような雇用によっ
1日の勤務時間や週の勤務日数を短くするパー
て, 同業他社と比べて価格競争力は飛躍的に
トタイマーとして働くケースもあり, 実際に
高まっている。 同社では, 高齢者と正社員が
は多様な働き方がなされている。
曜日によって仕事を分かつワークシェアリン
なお, 短時間勤務に適した業務があるかど
うかについては, 企業の事情や職場の方針に
グで, 雇用拡大と企業利益の両立を実現させ
ている。
よるところが大きい。 しかし, 従来から短時
こうした事例のように, 通常のフルタイム
間労働者を活用している職場はもとより, 業
勤務に加えて, 必要に応じて, パートタイム
56
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
勤務といった弾力的な勤務制度を整備するこ
関係について, 以下の①および②の要件を総
とで, 高齢者に対する負荷の軽減と経営の効
合的に勘案して判断することとなる。
率化の両立が可能かどうかについても検討し
①会社との間に密接な関係があること(緊密性)
なければならない。
具体的には, 親会社が子会社に対して明確
な支配力 (例えば, 連結子会社) を有し, 親
高齢者にふさわしい多様な雇用形態の導入
また, 定年退職後の勤務時間だけではなく,
雇用形態についても多様化が進んでいること
を前提に検討すべきであろう。 継続雇用の場
子会社間で採用, 配転等の人事管理を行って
いること。
②子会社において継続雇用を行うことが担保
されていること(明確性)
合, 定年前後で同じ会社において再雇用契約
例えば, 親会社においては, 定年退職後子
を締結し, 即戦力の従業員として働くことが
会社において継続雇用する旨の, 子会社にお
基本となるが, 例えば, インストラクターと
いては, 親会社を定年退職した者を受け入れ
して業務委託契約を締結し, 高度な技術・技
継続雇用する旨の労働協約の締結, またはそ
能, スキルの継承の役割を担うケース, 個人
のような労働慣行が成立していると認められ
事業主になって会社と請負契約を結んで働く
ること。
ケース, あるいはグループ会社へ転籍し, 海
また, その子会社が派遣会社である場合は,
外への技術指導を行うケースなどが挙げられ
継続雇用される労働者について, 「常時雇用
る。 さらに, 会社が設立した派遣会社におい
されている」 ことが必要である (派遣先がど
て派遣労働者として働くケースも今後増えて
こかは問わない)。
くるものと考えられる[図表10]。
これからは, 画一的な人事制度ではなく,
高齢者の能力に応じた賃金制度の整備,
このような多様な雇用形態の中から, 会社と
助成制度の活用
高齢者の双方にとってメリットのある方法で
高齢者の雇用に当たっては, 年齢や勤続年
就業することを可能とする制度を構築するこ
数に過度に依存した賃金体系の場合は, 定年
とが求められる。
前後の賃金の継続性を切り離し, 定年を境に,
なお, 子会社で働くなど, 定年まで雇用さ
高齢者の会社に対する貢献を基準にした新た
れていた企業以外であっても, 両者が一体と
な賃金・処遇制度を導入することで人件費の
して一つの企業と考えられる場合であって,
適正化を図ることが求められる[図表11]。
65歳まで安定した雇用が確保されると認めら
この場合, 定年後の賃金については, 一律
れる場合には, 今回の改正法における継続雇
に賃金を6割とか7割に下げるケースと, 継
用制度に含まれる。 具体的には, 定年まで雇
続雇用される従業員の業務内容や勤務地等の
用されていた企業と, 継続雇用する企業との
市場賃金を踏まえて決定するケースがある。
図表10 派遣社員として高齢者を活用するA社の再雇用制度
A社を定年退職した高齢者の中で就業を希望する者は, 原則として人材センターに派
遣社員として登録し, 人材センターからA社へ派遣されることとなる。
[注]
再雇用決定・通知
登録
→→→
→→→
A社
定年退職者
←←←
←←←
就業
派遣
人材センター:A社が100%株主となって, 1989年に設立。
人材センター
労政時報 第3649号/05. 3.11
57
図表11 60歳時と比べた雇用延長後の
る調整加算, 基準内賃金に○カ月を掛ける方
賃金水準
法, 一般社員 (同一資格) の妥結額に比率を
−年収ベース・%−
区
会社負担
の
み
分
合
計
公的給付
など込み
100.0
100.0
12.1
1.3
60歳時賃金の20∼040%未満
掛ける方法, の3通りに分類できる。 一方,
短時間勤務者の場合は, 定額または一定月数
の月給分を支払う方法と, フルタイム勤務者
の賞与額に一定割合を掛けた金額を支払う方
法がある。
〃
40∼060
〃
38.8
18.8
〃
60∼070
〃
20.9
31.5
なお, 賃金については, 継続雇用後につい
〃
70∼080
〃
18.0
21.5
て定年以前に比べて大きく下がることが多い
〃
80∼090
〃
8.7
18.8
ので, このような場合には, 「在職老齢年金」
〃
90∼100
〃
0.5
4.7
や 「高年齢雇用継続給付」 等を活用すること
1.0
3.4
100%(60歳時と変わらない)
出典:雇用振興協会編 「60歳以上の雇用延長に伴う処
遇上の課題」 (2001年12月)
[注] 1. 「会社負担のみ」 は, 企業が実際に賃金と
して支払う部分を年収で60歳到達時と比較し
たもの。
2. 「公的給付など込み」 は, 公的給付・企業
年金などを含めたうえでの収入の水準を, 年
収で60歳到達時と比較したもの。
により, 労働者の手取り収入があまり減少し
ないように配慮すべきである。
また, このような60歳以降についてのみを
視野に入れた賃金制度から, 少なくとも50代,
できれば40代から, 賃金カーブを緩やかにし
業務の成果は賞与に反映させるなどといった,
65歳までの雇用延長を見据えた賃金制度に設
計し直すことも必要であろう。
後者のように高齢者の市場賃金を踏まえて
決定したほうが, 一人ひとりの能力・成果に
応じた賃金支払いを可能にすることで雇用機
一歩進んだ賃金の決定方法
高齢者のタイプに応じた賃金の決定
会の拡大につながるとともに, 高齢者自身の
さらに進んで, 高齢者雇用を企業経営に積
モチベーションの維持・向上策にもなる。 こ
極的に活かすための賃金制度を整備していこ
の場合の市場賃金とは, 外部労働市場におけ
うとすれば, 高齢者の企業に対する貢献度合
る職種別賃金相場のことで, 例えば, 派遣労
いに応じてきめ細かな賃金決定を行うことが
働者の賃金などがこれに当たる。 ただし, 派
どうしても求められる。 そうすれば, 企業にとっ
遣料金は派遣労働者の賃金に派遣会社のマー
て付加価値の高い仕事を担当する者には高い
ジンを上乗せしているので, 実際の定年到達
賃金を, そうでない仕事を担当する者や短時
者の賃金相場は, 派遣料金のおおむね2∼3
間勤務者には低い賃金を設定することができ,
割程度低く見積もった金額とすればよい。
人件費コストの面からは, 高齢者を雇用して
一方, 前者の定年年齢到達時に一律に賃金
も経済合理性を損なうことがなくなる。
を引き下げる方法の場合は, 就いている業務
それでは, 具体的にはどのようにして賃金
の価値や成果を賞与に反映させるなどの方法
を決定していけばよいのであろうか。 企業に
で, モチベーションの維持・向上に向けた施
対する貢献度合いを測るためには, 技術・技
策を講ずることが求められる。
能, スキルといった保有する職業能力や勤務
ちなみに, 賞与支給の基準や支払い方法と
時間といった相違に着目して, その違いを踏
しては, 一般社員の賞与額に比例させる方法
まえて高齢者を類型化することが前提となる。
や, 定額を定めたうえで査定を行い調整する
まずは, その類型化の方法についてみていこ
方法がある。 フルタイム勤務者の場合の支給
う[図表12]。
額と支給基準は, おおむね, 定額+査定によ
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労政時報 第3649号/05. 3.11
高齢者の保有する職業能力を最大限発揮さ
65歳雇用義務化への対応実務
図表12 高齢者のタイプに応じた賃金の決定プロセス
①保有する技術・技能, スキルに基づき二つのタイプに分類する (職業能力による分類)
●
高度なスキルを必要とし, 付加価値の高い業務
●
定型的な方法, 手段に従って正確かつ効率的に行う業務
②働き方 (勤務時間) に基づき二つのタイプに分類する (働き方による分類)
フルタイム勤務
パートタイム勤務
●
●
③職業能力と働き方のマッチングにより四つのタイプに分類する (職域と働き方のマッチング)
専門能力発揮業務
専門能力サポート業務
継続的定型業務
時間的定型業務
④それぞれのタイプに応じた賃金を決定する (賃金の決定)
せることができる職域と勤務時間をマッチン
横軸に取り, これを 「フルタイム勤務」 と
グさせるためには, 高齢者の職域の確保に資
「パートタイム勤務」 に分類する。
するジョブ・シェアリング (仕事の分かち合
第3に, この 「職業能力」 の軸と 「勤務時
い) とニーズに合った働き方に資するタイム・
間」 の軸を組み合わせることにより高齢者を
シェアリング (勤務時間の分かち合い) の二
四つに類型化 (ここでは, 専門能力発揮業
つの視点を設定することから始まる。 すなわ
務, 継続的定型業務, 専門能力サポート
ち, ジョブ・シェアリングにより高齢者の活
業務, 時間的定型業務と名付ける) するこ
用を可能にするための職域を明らかにするた
とができる。
めに 「職業能力」 の軸を設け, 次にタイム・
このような類型化のプロセスを踏まえ, 高
シェアリングにより高齢者のニーズに合った
齢者のタイプに応じた賃金制度を当てはめる
働き方の実現を図るために 「勤務時間」 の軸
と以下のとおりとなる。 継続雇用する際には,
を設けるわけである。
以下の四つのタイプの中から当該の高齢者が
そのうえで, 第1に, 「職業能力」 を縦軸
当てはまるカテゴリーを選択し, そのタイプ
に取り, これを 「高度な技術・技能, スキル
にふさわしい賃金制度を決定すればよいこと
を必要とし, 付加価値の高い業務」 (高度な
になる[図表13]。
スキルの発揮, 継承の役割を担う場合) と,
専門能力発揮業務の場合
「高度な技術・技能, スキルはあまり必要と
専門能力発揮業務とは, 高度な技術・技
されず, むしろ定められた方法・手段に従っ
能, スキルを必要とする業務である。 具体的
て正確かつ効率的に遂行する業務」 (即戦力
には, フルタイム勤務を希望している者の中
の現場担当者として働く場合) の二つに分類
で, 熟練技能者やインストラクター, 一般の
する。
従業員に対して的確な指示を出すことのでき
第2に, 働き方を規定する 「勤務時間」 を
るマネージャー等高度な技術・技能, スキル
労政時報 第3649号/05. 3.11
59
図表13 高齢者のタイプに応じた賃金制度
インストラクター等
↓
委託料, 契約給
専門能力
発揮業務
普通
時間的
定型業務
継続的
定型業務
(
高い
専門能力
サポート業務
)
職
業
能
力
高度なスキルの
保有者
↓
業績連動型,
成 果 給
パート, アルバイト
↓
時
給
(勤務時間)
パートタイム
勤務
一般的なスキルの
保有者
↓
職 務 給
フルタイム
勤務
を保有している者が行う業務である。 この業
であり, 定型業務であることから, 職務に応
務に従事する者は, 会社に対して高い貢献を
じた賃金体系 (職務給) に基づいて高齢者は
もたらすので, 業績連動型賃金体系, 成果給
働くこととなる。 なお, ここでいう職務給と
に基づいて働くこととなる。 なお, ここでい
は, その従業員の就いている職務の重要度・
う業績連動型賃金体系, 成果給とは, 能力の
困難度に応じて導き出された職務ごとの職務
高い従業員に大きな機会を与え, その与えら
価値に基礎を置く賃金体系のことである。
れた機会を活かして成果を上げた従業員には,
例えば, 愛知県にある金型メーカー (正社
その成果に応じた賃金を払う賃金体系のこと
員150名, 常用雇用のパート・嘱託等70名)
である。
では, 中高年の金型メーカー経験者を1年契
例えば, 福岡県にある大手機械加工メーカー
約の嘱託社員として採用している。 嘱託社員
(正社員1600名, 常用雇用のパート・嘱託等
は, 製造現場の磨き, 分解, 組立工程といっ
650名) の場合, 大部分の定年退職者は嘱託
た補助作業を主に受け持っており, 現在, 60
という形で再雇用されるが, 一部, 参与とい
歳以上の者が20名ほど存在している。 ちなみ
う形で再雇用される場合がある。 参与は正社
に最高齢70歳。 勤務形態は正社員と同様で,
員時の職務内容を活かし, 国内・外, 子会社
賃金は正社員の6割程度となっている。
の指導等を行っている。 年収は正社員時と同
額程度から役員と同額程度までと幅を持たせ
ている。
継続的定型業務の場合
専門能力サポート業務の場合
専門能力サポート業務とは, パートタイ
ム勤務を希望し, かつ特定の分野において抜
きん出た専門性を持つ者がインストラクター
継続的定型業務とは, 定められた方法・
として高度な技術・技能, スキルを指導する
手段に従って正確かつ効率的に遂行すること
というものである。 この場合, 特定企業に対
が必要となる業務である。 この業務は, フル
して指導する以外に, 企業を超えた指導, 例
タイム勤務を希望している者の中で, 一般的
えば, 地域の業界団体等に登録後, 依頼のあっ
な技術・技能, スキルの保有者等が行うもの
た企業に対して指導するといったケースも考
60
労政時報 第3649号/05. 3.11
65歳雇用義務化への対応実務
えられる。 ここでの高齢者は, それぞれの指
ように, 仕事や職場環境の改善を, そこで働
導に応じた委託料, 個別の契約による指導料
く従業員全員の働きやすさ, ひいては業務の
に基づいて働くこととなる。
効率化につなげるといった発想が求められる。
例えば, トヨタ自動車は, 2002年4月にリ
例えば, 兵庫県のOA機器などの素材メー
クルートと合弁で, オージェイティー・ソリュー
カー, I・S・T加美工場は, 従業員180名
ションズという会社を設立。 同社はトヨタ自
のうち60歳以上が約30名を占めているが, 同
動車の熟練技能者, インストラクターをコン
社では定年後の高齢者を活用するに当たり,
サルタントとして依頼のあった企業に派遣し
「仕事のバリアフリー化」 を推進した。 作業
ている。
を難易度に応じて, だれでもできる 「ホワイ
時間的定型業務の場合
ト」 から, 少し改善すればだれでもできる
時間的定型業務とは, 定められた方法・
「グレー」, 専門的な仕事である 「ブラック」
手段に従って正確かつ効率的に遂行すること
の3段階に分け, それぞれの作業の効率化に
が必要となる業務である。 高齢者は, 業務の
努めた結果, これまで全体の2割だった 「ホ
繁忙期等に一般的な技術・技能, スキルの保
ワイト」 の割合は4割まで上がっている。 経
有者にスポット的に働いてもらうことから,
営上の効果は大きく, 生産コストが従来の4
パートタイムもしくはアルバイト契約とし,
分の1に減少した製品もある。 また, 従来工
時給により働く。
場で働いていた若手社員を, 本社の企画開発
例えば, 埼玉県にある建設会社 (正社員20
部門などに配置換えして, 新商品の開発に集
名) では, 業務の繁忙期や正社員の年次有給
中させることも可能となり, 従業員の有効活
休暇の取得時にのみ, 定年により退職した者
用にもつながっている。
をアルバイトとして雇用している。
高齢者の能力を十分に発揮させるような職
場環境の改善
高齢者については加齢による影響が指摘さ
[3]65歳までの継続雇用を円滑に進める
ための環境整備
高齢になっても安心して働いてもらうため
れているが, だからといって高齢者を職場か
の対話の場の設定
ら排除するのではなく, できる限り能力を発
継続雇用に当たっては, 従業員に対する意
揮しやすくするために職場環境を改善するこ
思の確認, 制度の説明, 選考・審査などのプ
とで対応する必要がある。
ロセスを経ることになるが, あらかじめ定年
その際, 体力面の低下を逆手に取って, 高
到達以降の就業形態や賃金等に関する制度を
齢者の働きやすさを追求することで業務の効
当該従業員に明示しながら, 対話の場を設け
率化を推進するという発想も可能となる。 そ
ることが重要である。 例えば, 定年の1年く
の理由は, 従業員, とりわけ若年従業員の場
らい前に, 定年後の再雇用に当たっての職務,
合は少々の職場環境の問題点には気付かずに
働き方, 賃金, 雇用期間といった労働条件等
びんしょう
作業しがちであるが, 体力や敏 捷性の若干衰
を事前に従業員に提示し, この条件で働くか
えた高齢者だからこそ気付く職場の問題箇所,
どうかの話し合いを持つことが考えられる。
改善すべき仕事の仕組みもあるからである。
したがって, 無駄を省き業務の効率化を図る
という視点から, 作業姿勢, 作業環境等を見
会社のニーズと高齢者の就業ニーズのマッ
チング機能の強化
直し, 問題箇所, 改善すべき点があれば一つ
65歳までの継続雇用を推進するには, 高齢
ひとつつぶしていくことが重要である。 この
者のヒューマンリソースを活用し経営成果を
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図表14 B社における社内ハローワークシステムの概要
人の情報
社内ハローワーク機関
会社センター
年度末58・59歳時点
コミュニケーション
プログラム
関連会社
社外
面接
就職希望の有無確認
専
門
性
向
上
面談
Yes
No
職の情報
本部・分社直轄・
共通部門, 当該者
在籍以外の職場
本社・分社
センター
適職開発
エントリーシー
ト (求職票) の
記入作成
事業場内の職場
求人票の作成
事業場
センター
意識
切り替え
求職情報
求人情報
仕事の提示・紹介
No
原則定年退職の
最低6カ月前
Yes
定年退職コース
チャレンジ転職コース
生み出すための適職開発や職域の掘り起こし
直接雇用
高齢者会社雇用
とらえられているケースが多くなっている。
を行い, 保有する知識, ノウハウ, 専門能力
今後, 定年年齢到達者の増加に伴い, 中高
を最大限発揮させるような配置を行う必要が
齢者の就業ニーズの多様化に応じて, 既存の
ある。
早期退職優遇制度に加えて, アウトプレース
あっ せん
このような一連の施策を円滑に遂行するた
メント機能, 他社への斡旋機能を含めたセカ
めには, 同一企業内外を問わず, 継続雇用希
ンドライフ, セカンドキャリア支援制度を強
望者と受け入れ先のマッチング, 再教育など
化することが求められる。 これは, 65歳まで
の一連の仲介機能を強化することが考えられ
の継続雇用制度の導入に伴い弱まる定年制に
る。 そのためには, 求人・求職情報の一元的
よる従業員のスクリーニング機能を補い, 過
な管理を担うとともに, コンサルティングや
度の人件費負担を回避するためにも必要とさ
再教育支援などを行う 「社内ハローワーク」
れるものである。
といった組織の整備についても考慮する必要
がある[図表14]。
とりわけ, ホワイトカラーにおける定年到
達者の急速な増加が予想されており, これら
の層の雇用を自社内だけですべてまかなうこ
セカンドライフ支援制度の導入
とが難しいため, 中高年期の能力開発はもち
大手企業を中心に導入されている雇用延長
ろん, セカンドライフ, セカンドキャリア支
制度は, 定年年齢到達以降の継続雇用制度の
援制度の強化により, 従業員一人ひとりの自
整備にとどまらず, 「セカンドライフ支援制
助努力による再就職を側面から支援すること
度」 「セカンドキャリア支援制度」 等とセッ
が求められる[図表15]。
トになって, 広く人事制度改定の一環として
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65歳雇用義務化への対応実務
図表15 C社のセカンドライフ支援制度
■高齢化対策の方向性
セカンドライフ支援制度を柱とする同社の高齢化対策の基本的な考え方は, 以下のとおりである。
①高齢者の能力開発・職務開発を積極的に推進し, 生産性の向上を図る。
②60歳定年制の維持。
③セカンドライフの支援に当たっては, 「選択と自立」 を促す 「複線型人事システム」 の考え方を取り
入れ, 複数のコースを用意し, 早期に自力解決を図る者に厚く支援する。
④60歳以降は, 社内外から必要とされる能力を身に付けていることを前提に, 意欲・健康にすぐれた者
に対して, 個々人の経験を活かした仕事・働く場・働き方の提供に努める。
■セカンドライフコースの六つのコース
1. 出向・再就職コース (定年前の早期出向を前提とした再就職コース)
①60歳までは出向, 定年後は出向先に再就職し, 最長65歳まで勤務することができる。 60歳以降の処
遇については, 出向先との雇用契約により決定する。
②関係会社や取り引き先等で活かせる技術・技能・知識・経験, さらには意欲や人柄を有しており,
再就職先で業績が上げられることが前提。
2. ワークシェアコース (定年後, 契約社員として会社に残るコース)
●
仕事と処遇を分かち合うという観点から, 勤務は週3日, 処遇は定年時の職能資格に応じて一律と
なる。
3. フリー契約コース (会社との契約による自営的コース)
①在職中に培った専門性や特技を活かして, 会社から特定の業務を受託する自営的コース。
②勤務時間, 勤務日数等にとらわれず, 専門性に見合った処遇と柔軟な働き方を提案する。
4. スタンダードコース (通常の60歳定年コース)
5. マイプランステップコース (定年前に週4日の短時間勤務を行う定年軟着陸コース)
①60歳定年後の生活へのソフトランディングを目的に, 55歳以降, 社員資格のままで週4日勤務を行
う (「ステップ勤務制度」)。
②原則として兼業可。 給与, 賞与等は5分の4。 60歳以降の再就職の斡旋 (契約社員, 関係会社, 取
り引き先への斡旋) は行わない。
6. マイプランコース (50歳以降, 自らの計画実現のために早期に新分野へ転進するコース)
●
退職一時金に加え, 60歳までの期間 「マイプラン支援年金」 を支給する。
終わりに
我が国では, 今後ますます少子高齢化が進
むことから, いつまでも若年労働者や新卒者
講じる先進企業のほうが, これに関心の薄い
企業よりも競争優位性を確保できることは明
らかである。
今回の法改正を機に, 高齢者の雇用が企業
の採用に固執していても, それがそのとおり
経営にもたらすメリットを最大限に活かし,
実現できる可能性は今まで以上に低くなるこ
デメリットをできるだけ少なくする, さらに
とは論を待たない。 ましてや中堅・中小企業
いえば, デメリットをメリットに転化するこ
であればなおさらである。 それならば早くか
とで, 「福祉」 の視点ではなく 「経営」 の視
ら高齢者雇用に積極的に取り組み, それに伴
点を持って高齢者雇用を推進していかなけれ
う問題・課題を明らかにして効果的な対策を
ばならない。
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