新門司沖土砂処分場における浚渫土砂の沈下管理計測と沈下予測について 北九州港湾・空港整備事務所 第二工務課 第二工務課 ◎山口 ○梅山 誠 崇 1.はじめに 国際競争力の強化、航行船舶の安全確保 下関市 土砂処分対象 となる航路 のため、水深維持、増深、拡幅といった航 関門橋 路浚渫事業は大変重要である。一方で、浚 北九州市 渫土砂の処分先の確保も全国的に大きな課 題となっている。 新門司沖土砂処分場 周防灘 現在、関門航路及び新門司航路の浚渫土 苅田町 砂を受け入れている新門司沖土砂処分場 北九州市 (図-1)では、当該処分場の容量拡大方策 として、バーチカルドレーン(以下、VD) を用いた圧密沈下促進による地盤改良を実 新門司沖土砂処分場 施している。しかし、計画的に土砂処分を 行っていくためには、いつまでに、どれだ けの土量を受け入れられるかをできるだけ 0 1 2 3km 高い精度で把握する必要がある。 本報告は、新門司沖土砂処分場の容量拡 図-1 新門司沖土砂処分場位置図 大に用いた VD による浚渫土砂の沈下予測と計測結果の整合性の評価と、引き続き行う沈下 予測及び沈下管理のためのモニタリング計測計画について発表するものである。 N モニタリングエリア 北深掘部 H25 施工部 250m 482m 2.VD による容量拡大方策の概要 VD とは鉛直排水材のことであり、VD によ る地盤改良とは、処分場内に投入され堆積 した超軟弱な浚渫土砂層から VD で間隙水を 排水することである。本事業では鉛直排水 材としてプラスチックボードドレーン(以 下、PBD)を用いた。図-2 は、平成 25 年度 に打設した PBD の施工区域(648m×250m) と、北深掘部に設けたモニタリングエリア である。 稼働中の土砂処分場においては、打設し た鉛直排水材の上に新たな浚渫土砂が堆積 し、鉛直排水材からの排水を阻害すること になる。このため、今回採用した VD 工法に おいては、泥面上に幅広の PBD 水平排水材 を敷設して VD と接合し、さらに水平排水材 と暗渠材、釜場を接合することにより、釜 場から全排水を放出する排水システムとし た。これを模式的に表したのが図-3 である。 南深掘部 648m 1485m 図-2 平成 25 年度実施の施工区域とモニタリングエリア 1.6m 1.6m 図-3 排水システムの模式図 3.沈下予測と計測結果の評価 3.1 沈下予測手法 当該処分場では継続的に浚渫土砂が投入されているため、VD の設計時点と実際に打設す る時点の地盤状況は異なる。このため、沈下予測にあたっては、まず VD 打設の開始時点の 地盤状況を再現した地盤モデルを初期条件として設定する必要がある。 地盤モデルの設定は次の流れで行った。まず、浚渫土砂の受け入れ実績をもとに、北九 州空港建設の際にも適用した自重圧密解析(CONAN)による予測の事後解析を行った。次に、 事後解析の結果から圧密パラメータを同定し、同定した圧密パラメータと VD 設計時点から 打設開始時点までの浚渫土砂受け入れ計画を考慮した予測解析を行い、その結果から打設 開始時点の地盤条件を推定し、推定された地盤条件により地盤モデルを設定した。 VD 打設後の沈下予測は、設定した地盤モデルに対し、Cc 法とバロンの式の組み合わせに よる予測計算により行った。 3.2 沈下計測計画 モニタリングエリアに設置した計測機器の位置図を図-4、図-5 に示す。 VD 打設後の沈下量、堆積する浚渫土砂の厚さを計測するため、泥面上の 9 地点に沈下板 を設置した。また、排水量は、対象とする領域の圧密沈下量に相当することから、VD 本体 及び VD と VD の間の地盤内の深度方向の水圧分布を把握するため、4 本の VD の深度方向 3 深度(泥面標高 DL+6.2m から DL-5m、-10m、-15m)に間隙水圧計を設置した。さらに、圧密 沈下時の水平排水材内の水圧分布を把握するため、水平排水材及び暗渠材にも間隙水圧計 を設置した。水平排水材の間隙水圧計は、東西方向の暗渠材の間隔が 108m であり、VD から 水平排水材に排出される間隙水は、その中間付近から近い方の暗渠材に向かって流れるた め、この挙動を把握すべく、水平排水材の 3 測線に対し暗渠材から 52.8m を最遠地点とし た 3 地点に設置した。 52.8 32.0 No.4 No.7 No.11 4.8 14.4 No.8 DL-5m No.13 No.9 No.10 :沈下板 沈下板 :水圧計(VD) 水圧計 :水圧計(地盤) :水圧計(HD) 暗渠(南北) 釜場 DL-10m 間隙水圧計 排水材内 4.0 No.6 鉛直排水材 No.12 12.8 No.5 地盤高さ:DL+6.2m 1.6 m 水平排水材 (南北方向に設置) 地盤内 洪積砂層 DL-15m DL-21.4m 16.0 暗渠(東西) 図-4 計測機器設置位置図(平面図) 図-5 計測機器設置位置(断面図) 3.3 地盤性状の評価 まずは、VD 打設時点の地盤性状として設定した地盤モデルの妥当性を確認するため、深 度方向の間隙水圧に着目する。図-6 は、VD 打設直後に計測した VD 本体及び地盤内の間隙 水圧分布を示したもので、縦軸が標高、横軸が計測値である。また、図中には静水圧分布 10 ドレーン材 5 地盤内 地盤モデル 0 標高 DL+m 及び地盤モデルにおける間隙水圧分布も示し ている。 これをみると、VD 本体で計測した水圧は静 水圧分布に概ね一致していることがわかる。 VD の水圧は、VD そのものにより地盤内の過剰 間隙水圧が直ちに消散し、静水圧分布に近づ くものと推察され、これが示された結果とな っている。 一方、地盤内においては、VD 打設直後は過 剰間隙水圧が直ちには消散しないため、VD よ りも高い水圧分布を示すと推察され、計測値 にはその結果が表れている。また、計測値は 3.1で設定した地盤モデルにおける間隙水 圧とも概ね一致しており、設定した地盤モデ ルが妥当であると判断できる。 静水圧(6.5m) -5 -10 -15 -20 -25 0 100 200 300 400 水圧 kPa 図-6 打設直後の排水材、地盤内の水圧分布 沈下量(m) 沈下板位置,泥面表面の地盤高さ (m) 3.4 沈下予測の評価 8 VD 打設後の沈下量、堆積した浚渫土砂の泥 7 面高さ、処分場内の水位の経時変化を示した 6 ものが図-7 である。 5 VD 打設以降、VD 打設時の泥面高は、約半年 4 で 2m、約 1 年半後には 3.5m の程度で緩やか 3 No.4 No.5 No.6 No.7 に沈下が進行した。浚渫土砂の堆積は、約半 2 No.8 No.9 No.11 No.12 No.13 No.4 泥面 No.5 泥面 No.6 泥面 年後に顕著になり始め、2015 年 2 月頃には約 1 No.7 泥面 No.8 泥面 No.9 泥面 No.11 泥面 No.12 泥面 No.13 泥面 3工区内水位 3m の厚さとなっている。水位については、VD 0 2013/8/14 2013/11/22 2014/3/2 2014/6/10 2014/9/18 2014/12/27 2015/4/6 打設以降一時的に DL+7.0m 以上に達すること 年月日 もあったが、2015 年 2 月頃には DL+5.8m 程度 図-7 沈下板、泥面高さの経時変化 となっていた。 0.0 過剰水圧の 設計時の地盤モデルに対して行った沈下予 消散 1.0 1.6m間隔 測及び沈下計測結果を示したものが図-8 であ Cc: 0.95 2.0 Cv: 80 る。これをみると、予測値は計測値をよく表 3.0 現している。設定した地盤モデル、用いた予 モニタリングエリア(No.4 ~13) 4.0 測手法が妥当であり、予測値と計測値の整合 No.4 No.5 5.0 No.6 No.7 が取れていると評価できる。 北掘削部予 No.8 No.9 測解析 No.11 No.12 6.0 1.6m間隔 また、図中に示した「過剰間隙水圧の消散」 No.13 初期過剰水圧消散 予測解析結果 7.0 は、図-6 に示した地盤モデルの過剰間隙水圧 1 10 100 1000 10000 経過日数 (対数表示) が消散する際の沈下挙動を予測したものであ 図-8 予測解析での沈下板設置位置の挙動 る。浚渫土砂の堆積が顕著になる約 200 日ま では計測値の傾向と対応しているが、それ以降では堆積した浚渫土砂の重さによる沈下が 加わり、予測値から乖離し始めている。 3.5 水平排水系の評価 水平排水材内で計測した水圧の経時変化及び暗渠材からの距離との関係を図-9 に示す。 30 測定水圧-静水圧 kPa 設置時 横軸が暗渠材からの距離、縦軸が水位変化に 2014/2/17 25 伴う静水圧の影響を排除するため補正した水 2014/6/24 20 平排水材の計測値である。 2014/11/13 この結果から、暗渠材からの距離によらず、 15 各計測値が時間の経過とともに大きくなって 10 いることがみてとれる。 5 また、暗渠材からの距離との関係において 0 は、暗渠材から遠いものほど水圧が高くなっ 0 10 20 30 40 50 60 暗渠からの距離 m ていることがわかる。このことは、暗渠材か 図-9 暗渠材からの距離と水圧の経時変化 ら遠いほど水の流れとしてのポテンシャルが 高く、ポテンシャルの低い暗渠材に向かって流れていることを表しており、排水システム が機能していると判断できる。 4.今後のモニタリング・調査計画 以上の結果より、今までのところ、今回の北深堀部に位置するモニタリングエリアにお いて設定した地盤モデルが妥当であること、計測値と予測値の整合が図られていることが 確認できた。しかしながら、今回のモニタリングエリア以外では、例えば深掘部以外の沈 下量は小さく、一様には沈下していないことが確認されている。 このため、今後もこれまでと同様、沈下挙動、VD 本体及び地盤性状の継続的な計測を行 い、予測値との整合性を評価し、受入容量の予測向上を図っていく必要がある。 その方法として、次の検討を計画している。 1) 深堀部、深掘部以外の違いなど、エリアごとの沈下挙動を評価し,それを再現できる 地盤モデルを構築する。 2) モニタリングエリアにおける沈下挙動をより理解するために,連続的な地盤性状を確 認して、地盤モデルを高精度化する。 2)を行うために,ラジオアイソトープ付きのコーン貫入試験(以下、RI-CPT)をモニタ リングエリアで実施することを計画している。RI-CPT は、通常の CPT に加えて、密度や含 水比等の地盤内性状を連続的に計測することが可能な機器であり、得られた含水比分布を 直接解析結果と比較・評価することができる。 5.まとめ 当該処分場の容量拡大方策として、圧密沈下を促進するための VD 工法を実施した。本文 では、その効果を確認するための沈下予測と沈下計測結果を報告した。今のところ、今回 モニタリングエリアに設定した深堀部での計測値は予測結果に対応しているが、エリア毎 のばらつきも確認されている。 今後は、着実な容量拡大を図るため、エリア毎の評価、地盤モデルの高精度化を加えて、 さらなる予測精度の向上を目指すこととしている。 厳 原 港 に お ける 周 辺 環 境 に 配 慮し た 海 上地 盤 改 良 に つ い て 長崎港湾・空港整備 事務所 ◎小田 ○吉田 ●山﨑 沿 岸 防災 対 策 室 保全課 沿 岸 防災 対 策 室 栄治 潤 諭 1,はじめに 厳 原 港 は 、九 州 北 西 部 に 位 置 す る 長 崎 県 対 馬 島 の 南 東 に 位 置 し 、釜 山 港 と の 国 際 定 期 航 路 が 就 航 す る な ど 国 際 交 流 が 盛 ん で あ る ほ か 、博 多 港 と も 国 内 定 期 航 路 で 結 ば れ 、 対 馬 の 玄 関 口と し て 重 要 な 役 割を 果 た して い る 港 で あ る 。 一 方 、 厳 原 港 に は フ ェ リ ー や ジ ェ ッ ト フ ォ イ ル 、R RORO 船 、 貨 物 船 等 多 く の 船 舶 が 就 航 し 、狭 隘 な タ ー ミ ナ ル で あ っ た た め 、人 流 と 物 流 が 混 在 す る 危 険 で 非 効 率 な 荷 役 を 強 い ら れ て い る こ と 、施 設 が 約 5 0 年 経 過 し 老 朽 化 が 進 ん で い る こ と 、 加 え て 耐 震 強 化 岸 壁 が 無 い た め 、大 規 模 震 災 へ の 対 応 が 困 難 で あ る と い っ た 多 く の課題を抱えていた。 こ の た め 、 平 成 15 年 度 よ り 乗 降 客 の 安 全 性 ・ 利 便 性 の 向 上 や 荷 役 の 効 率 化 、 岸 壁 の 老 朽 化 対 策 及 び 耐震 強 化 岸 壁 の 確 保を 図 る ター ミ ナ ル 再 編 事業 を実施し て お り 、 平 成 22 年 度 に は 物 流 エ リ ア の 移 転 が 完 了 し 、 現 在 は 人 流 エ リ ア の 国 際 航 路 と 国 内 航 路 を 分 離 する と 共 に 岸 壁 の 老朽 化 対 策等 の 工 事 を 施 工 中で あ る 。 図 -1 厳 原 港 の 位 置 図 お よ び 利 用 状 況 法線 岸壁 設) (新 法線 岸壁 設) (既 2,施工概要 2.1,岸壁改良工事の概要 陸 上 エ プ ロ ン ヤ ー ド の 構 築 方 法 と し て 、新 設 す る 壁 体 に 方 塊 ブ ロ ッ ク を 採 用 し 、そ の ブ ロ ッ ク を 製 作 据 付 後 に 、背 面 を 埋 め 立 て る 前 出 し 工 事 と な っ て い る 。ま ま た 、基 礎 地 盤 に つ い て は 、液 状 化 対 策 と し て サ ン ド コ ン パ ク シ ョ ン パ イ ル 工 法( ( SCP)に よ り 地 盤 改 良 を 行 図 -2 施 工 断 面 図 う こ と と な っ て お り 、 現 在 地 盤 改 良 工 事 を 実 施 中 で あ る 。( 図 -2) 15.00 0.90 15.00 14.10 0.60 14.20 0.20 0 エプロン舗装 t=30cm 路盤(粒調材) t=20cm 0.20 2.80 -1.50 -3.80 -7.60 1:2 1.00 3.00 0.50 0.40 床掘 1.50 -7.60 1: 1. 5 51:2.0 1. 1: 基礎捨石 5~100kg -5.90 1: 5 1. 5.2 20 サンドコンパクションパイル (改良率20%) -16.40 工学的基盤想 定ライン 14.50 7.00 21.50 3.50 2.70 防砂シート 0.50 2.00 0.40 裏込栗石 5~100kg 1: 1.5 4.50 5 1. 1: 基礎捨 捨石 5~200kg 00 -9.0 5.00 0.50 3.86 6.00 6.2 20 地 地盤改良(サンドコンパクション ン) 裏埋土 1: 1. 2 1.00 5.00 0 -5.80 0.60 下段方塊 5.0B×2.0H×3.0L W=69t/個 下段方塊 5.2B×1.8H×3.0L フーチング0.5m W=69t/個 R.W.L. +0.60 1.00 4.10 裏込石 5~100kg 2.0%(既設) +1.00 裏込石 5~100kg 1: 防砂目地板 1. 2 5.30 0.40 上段方塊 2.8B×2.5H×3.0L W=48t/個 中段方塊 4.1B×2.3H×3.0L W=65t/個 1.0%(要協議) 1.0% 前出し及び埋立 +1.00 M.L.W.L.+0.44 L.W.L. -0.06 +3.0 00 0 0.30 0.20 20 0 30 +3.00 V型防舷材 400H L=1500 H.W.L. +1.93 0.20 0.25 車止め 0.50 1.10 1.20 工学的基盤想 定ライン 6.00 -11.20 2 .2 ,サ ン ド コ ン パ ク シ ョ ン パ イ ル 工 法 本 工 法 は 、在 来 地 盤 上 か ら 振 動 機 を 用 い て ケ ー シ ン グ を 挿 入 し 、砂 砂を排出しながら 引き抜き打ち戻す工程を繰り返すこ とで、 締 め 固 め た 砂 杭 を 形 成 し 、地 盤 の 密 度 増 加 に よ り 地 盤 全 体 を 締 め 固 め 、強 度 増 加 を 図 る 工 法( ( 図 -3)で で あ る 。本 本工法の特徴とし て は 、海 域 へ の 汚 濁 拡 散 の 影 響 は 少 な い 一 音・振 動 な ど 周 辺 環 境 へ の 配 慮 が 必 方 、騒 音 図 -3 一 般 的 な サ ン ド コ ン パ ク シ ョ ン パ イ 要な工法である。 ル工 法 3,地盤改良工事について配慮すべ き事項 3.1,騒音・振動の影響 対 馬 で は 、長 崎 県 が 事 務 局 と な っ て 、平 成 26 年 か ら 対 馬 地 域 の 貿 易 活 性 化 の 検 討 が 開 始 さ れ て お り 、そ の 一 環 と し て 水 産 物 の輸出促進がある。 その促進策の前身の意も含めて 地元関 係者により施工箇所近隣海域に生 け簀が 設 置 さ れ て お り 、ブ リ 等 の 魚 が 扱 わ れ て い る ( 図 -44)。 し か し 、 水 中 に お け る 騒 音 ・ 図 -4 周 辺 環 境 振動は魚にとって相応のストレスと なり、 場 合 に よ っ て は 致 死 す る こ と が 懸 念 さ れ た こ と か ら 、国 と し て 国 境 離 島 で あ る 対 馬 の 活 性 化 の た め の 取 り 組 み に つ い て は 影 響 を 与 え な い と い う 判 断 の も と に 、少 しでも騒音・振動を抑える必要があ った。 ま た 、 陸 域 に は 精 密 機 械 が 設 置 さ れ て い る CIQ( 税 関 ・ 出 入 国 管 理 ・ 検 疫 )施 施 設 や 介 護 老 人 保 健 施 設 、病 病 院 等 の 民 間 の 施 設 も あ る こ と か ら も 、騒 音 ・振 動 対 策 に つ い て 配 慮 す る 必 要 が あ っ た 。こ こ の た め 、本 工 事 に お い て は 特 定 建 設 作 業 に 係 る 規 制 基 準 よ り 騒 音 は 85d dB 以 下( 騒 音 規 制 法 )、振 動 は 75dB 以 下( 振 動 規 制 法 ) とした。 フェリー ジェットフォイル 3.2,施工時の水域占有の影響 近年、韓国との地理的距離や費用 面から多く の韓国人観光客が訪島しており、国 際旅客船も 頻繁に行き来している状況である。 一方、サン ド コ ン パ ク シ ョ ン( ン SCP)船 船による 地盤改良工事 で は 作 業 ヤ ー ド と し て 170 0~ 220m の エ リ ア を 確 保する必要があり、隣接する岸壁に 就航するフ ェリーや高速船などが入出港する際 に、航行の CP 船 配 置 図 支 障 と な る た め 、 作 業 船 を 待 避 さ せ る 必 要 が あ 図 -55 入 出 港 ル ー ト と SC っ た ( 図 -5)。 こ の た め 、 作 業 時 間 を 確 保 す る に は 、 待 避 に 要 す る 時 間 を 短 縮 し 作 業 効 率 の 低 下 を 最 小 限に 抑 え る 対 策 工 法の 検 討 が必 要 で あ っ た 。 作業ヤード170~220m アンカー アンカ カー SCP船 SCP区間 4,対策の検討 4.1,騒音・振動対策 騒 音・ 振 動 に 配 慮 し た 工 法 と し て 低 騒 音・ 無 振 動 型 の 油 圧 式 静 的 圧 入 工 法 が 考 え ら れ た 。こ の 工 法 は 通 常 の サ ン ド コ ン パ ク シ ョ ン パ イ ル 工 法 が 振 動 機( 機 バイブ ロ ハ ン マ ー )に よ り ケ ー シ ン グ を 貫 入 さ せ る 工 法 に 対 し て 、本 本工法は振動機を用 い ず に 油 圧 式 の 強 制 昇 降 装 置 に よ り ケ ー シ ン グ を 回 転 圧 入 す る こ と で 、騒 音・振 振 動 を 低 減 さ せ る こ と が 可 能 と な る 静 的 締 固 め 工 法 で あ る ( 図 --6)。 図 -6 地 盤 改 良 工 法 の 比 較 4.2,水域占有への影響対策 図 -5 に 示 す よ う に 、 就 航 船 舶 の 岸 壁 入 出 港 時 に 待 避 す る 場 合 、 一 般 的 な SC CP 船 で は ア ン カ ー の み で の係 留 と な る た め 港外 へ 待 避さ せ る 必 要 が あ る。 し か し 、 4 .1 で 選 定 さ れ た 静 的 圧 入 工 法 を 搭 載 し た 低 騒 音・無 振 動 タ イ プ の 地 盤 改 良 船 旋 は ス パ ッ ド 式 で あ り 、 図 - 7 に 示 す よ う に 入 出 港 が あ る 時 は 作 業 船 本 体 を 90°旋 回 し な が ら 岸 壁 に 寄 せ て 、ス パ ッ ド で 固 定 し た 後 、ア アンカーワ イヤーを緩める手 順 と す る こ と で 、ア ン カ ー 式 に 比 べ て 比 較 的 簡 単 に 待 避 で き る た め 、待 待避時間の 低減を図ることが可能となる。 フェリ リー ジェッ ットフォイル アンカー アンカーワイヤは緩めた状態に にし、 ・ア 入 入出港船舶の航路を確保する。 。 スパッドを を打込み作業船 船を 固定して、アンカーワイ めることができ きる。 ヤーを緩め アンカー SCP船 SCP区間 ・既存岸壁 壁の端部まで退避する。 ・岸壁法線 線に平行方向に配置し、船体は はスパットで固定する。 アンカ カー スパッド 図 -7 ス パ ッ ド 式 に よ る 待 避 状 況 と イ メ ー ジ 図 以 上 よ り 当 港 湾 の 施 工 条 件 か ら 、本 工 事 に は ス パ ッ ド 式 係 留 が 可 能 な 油 圧 式 静 的圧入工法の地盤改良船を採用する こととした。 5,効果検証 5.1,騒音・振動の対策による効 果 施 工 期 間 中 に お い て 、工 工 事 境 界 線 に お い て 騒 音・振 振動の現地 調査結果を実施し た と こ ろ 、図 -8 に 示 す よ う に 静 的 圧 入 工 法 の 採 用 に よ り 、騒 音 で は 65 5dB~ 70d B 程 度 、 振 動 で は 25dB~ 2 33d dB 程 度 で 推 移 し て お り 、 騒 音 規 制 値 ( 85dB ) の 8 割 、 振 動 規 制 値 ( 75dB B) の 4 割 ま で 低 減 さ せ る こ と が で き た 。 な お 、生 け 簀 へ の 影 響 に つ い て は 、本 工 法 を 用 い た 他 港 の 実 績 か ら 魚 へ の 影 響 が な い 音 圧 レ ベ ル ま で 低 減 で き る 事 が 確 認 さ れ て お り 、本 工 事 に お い て も 地 元 関 係者からの特段の苦情もなく施工す ることができた。 図 -8 騒 音 測 定 結 果 ( 左 図 ) と 振 動 測 定 結 果 ( 右 図 ) 5.2,待避方法の工夫による効果 図 -9 に 示 す よ う に ア ン カ ー 式 で 施 工 し た 場 合 が 1 日 当 た り の 作 業 時 間 が 1..0 時 間 に 対 し て 、ス パ ッ ド 式 で 施 工 し た 場 合 は 4.5 時 間 と 4 倍 以 上 の 施 工 時 間 を 確 保 す る こ と が で き 、作 業 効 率 の 低 減 を 最 小 限 に す る と と も に 工 期 短 縮 に よ る 利 用 船舶の安全面に配慮することができ た。 厳原港を利用する定期船の の運航状況 船 社 航 路 船 名 【就航便数 数】 6 7 6:30 高速船ヴィーナ ナス 厳原港~博 入 出 【2便/日】 多港(壱岐 6:45 経由) 九州 ※久 田 地区 から シ フト 郵船 4:40~ し 厳原港~博 フェリーちくし な 多港(壱岐 フェリーきずな 経由) 【2便/日】 オーシャンフラ ラワー 大亜高 厳原港~釜 【3便/週(月 、金、土)】 速海運 山港 未来高 速 8 9 10 11 15 17 16 18 入 20 出 19:40 ※ 久田 久 地 区へ シフ ト 14:40 出 入 出 15:25 8:50 11:40 入 出 16:30 9:55 入 出 16:15 ※下 船 完了 後、 後 久 田地 区へ シ フト 6 7 8 8:30 8 9 10 11 12 運転時間計=270分=4.5時間 停泊時間 13 14 15 16 17 18 11 1:15 8 8:30 9:05 9:30 10:10 25 65 ※30分未満のため施工不 不可 11:55 12:35 13:30 40 14:15 45 15:40 10 15:50 16:45 5 18:45 19:30 19:30 就業10H(休 休憩1H) 就業時間 8 8:30 10:40 5 運転時間計=60分=1.0時間 20 120 ※30分未満の のため施工不可 8 8:30 間 施工可能時間 19 19:30 就業10H(休 休憩1H) 就業時間 静的圧入式SCP 施工可能時間 間 (スパッド式) 振動式SCP (アンカー式) 19 19:10 出 13:15 施工可能時間の検討 項目 14 13:00 入 コビー 厳原港~釜 【6便/週(火 運休)】 山港 工種 停泊時間 13 12 17:15 18:15 19:30 60 10:45 ※30分未満のため施工不可 ※ 図 -9 - 作業効率の検証結 果 図 -10 待 避 状 況 6,おわりに 今 回 の 厳 原 港 に お け る 地 盤 改 良 工 事 に つ い て は 、施 工 箇 所 の 周 辺 環 境 に 配 慮 し た 施 工 と し て 騒 音・振 音 動 対 策 と 航 行 船 舶 へ の 影 響 の 低 減 が 求 め ら れ た 。結 。 果的に 静 的 圧 入 工 法 を 採 用 し た こ と で 周 辺 環 境 に 影 響 を 及 ぼ す こ と な く 、ま た 地 域 の 住 民 の 方 か ら の 苦 情 も な く 施 工 す る こ と が で き た 。今 後 も 引 き 続 き 本 工 法 を 用 い た 施 工 を 実 施 す る が 、本 工 法 を 過 信 す る こ と な く 整 備 完 了 ま で 周 辺 環 境 に 配 慮 し な がら施工して参りたい。 有明海沿岸道路建設における軟弱地盤対策について 佐賀県有明海沿岸道路整備事務所 佐賀県有明海沿岸道路整備事務所 佐賀県有明海沿岸道路整備事務所 1.佐賀県南西部の軟弱地盤特性 1.1軟弱地盤特性によるエリア区分 佐賀県内における有明海沿岸道路の 建設は、計画・調査を経て平成 19 年度 から試験盛土及び本施工に着手してい る。このプロジェクトを進める上で、事 業費のコスト縮減と地盤環境(地下水) への配慮の二つの制約が課せられた。 現在、有明海沿岸道路は佐賀市嘉瀬南 から久保田、小城市芦刈、白石町福富地 区で事業を進めている。 なお、軟弱地盤改良工法の選定におい て、各地区の軟弱粘土地盤の厚さや性状 など地盤特性が異なっているため、図― 1に示すように久保田・芦刈・福富のエ リア毎に軟弱地盤特性を区分した。また、 図―2に同区間の地質想定縦断図を示した。 図-2 地質想定縦断図 ◎南里 ○南里 ●岩永 勝 勝 忠則 久保田地区 芦刈地区 試験盛土箇所 福富地区 図-1 エリア区分 深度 (GL-m) 1.2軟弱地盤(有明粘 圧縮指数 自然含水比 細粒分含有率 Cc 土層)の特性 wn(%) Fc(%) 0 1 2 3 50 100 150 200 0 20 40 60 80 100 佐賀県南西部に拡が 1 る軟弱地盤は、図-3に 2 3 示すように自然含水比 4 が浅層部で 170%程度 5 に達し鋭敏比も高く圧 6 縮性が非常に大きい粘 7 性土から構成されてい 8 9 る。この粘性土は通称、 10 有明粘土と呼ばれるも 11 のである。 12 この軟弱地盤におい 13 14 て、コスト縮減に適う道 路盛土構造と、それを支 図-3 主な地盤特性 える地盤改良工法を選 定する必要があった。また、軟弱粘土層下にある洪積層の地下水環境へ影響を極力抑え る地盤改良工法が求められた。 これらの条件をクリアするため、地盤改良工法(深層混合処理)において、洪積層に 着底しないフロート式地盤改良工法を検討した。 しかしながら、軟弱性が高い有明粘土層の上に高盛土構造(H=5~8m)による道路 建設はほとんど実績が皆無であったため、学識経験者から構成された「軟弱地盤対策工 法技術検討委員会」において協議・検討された。 2.軟弱地盤対策工法の検討フ ロー 図―4に対策工法の検討フロ ーを示した。まず、道路計画を 経て地盤調査に基づき軟弱地盤 特性に応じてエリア区分し、そ の後詳細な地盤調査を実施した。 つぎに解析に必要な地盤定数を 設定しモデル断面を設定した。 そして、対象地区の地盤条件に 応じた対策工法を検討し、変形 量 の照 査 の ため 二 次 元 弾塑 性 FEM 解析を実施した。解析変 形量が許容値を超えないよう最 道路計画 調査計画 (地盤調査等) エリア区分 地盤調査 (詳細) 図-4 FEMによる変形 照査 試験盛土の施工 対策工法の検討 試験盛土動態観 測 モデル断面の設 定 本施工 地盤定数の設定 施工情報を次工 区へフィードバ ック 対策工法の検討フロー 適緒元を決定し、試験盛土の標準断面を選定した。その後、試験盛土を施工し直下の地 盤や周辺部などの動態観測を実施した。この試験盛土の挙動やデータに基づいて、本施 工に着手することとした。さらに、試験盛土や本施工の情報を次の工区へフィードバッ クし、より精度の高い施工を進めていくこととした。 3.軟弱地盤対策工法の概要 3.1工法検討の概要 図-5に、標準断面図を示し た。高盛土(H=5~8m)を支 える基礎としてフロート式(非 着底)深層混合処理工法を選定 した。 フロート式(非着底)深層混 合処理工法の特徴は、図-6に 示すように、①改良コラムが非 フロート式(非着底)②コラム が非連結型(単独コラム)とな っている点である。そこで、当 図-5 標準断面図 工法の妥当性を検証するため地 盤調査データに基づき地盤定数 を設定し、二次元 FEM 解析による安定性を確認した。そして、図-4 の検討フローに基 づき各エリアにおいて試験盛土を実施して、断面緒元及び地盤定数の妥当性を照査し適 正な断面を選定した。 3.2フロート式(非着底)工 法の不思議 高盛土構造物と超軟弱地盤が 力学的にバランスを保つことが できるか。現実に、施工中の有 明海沿岸道路の建設において、 日本有数の軟弱粘性土が厚く堆 積している地盤でフロート式の 地盤改良が現実的にバランスを 保持しながら供用できている。 これは地盤工学的に不思議な感 覚である。 ところで、軟弱地盤を改良し 高盛土を想定した FEM 解析で は、面積改良率が 30%以上にな 図-6 フロート式深層混合処理工法 断面図 れば総沈下量(改良層沈下量+未改良層沈下量)が小さくなり、また、コラム長が長い ほど総沈下量が小さくなることが報告されている。1)また、透水係数が 10⁻⁶cm/s より 小さい地盤では砂層等の洪積層までの厚さが1m程度以上の間隔があれば地下水への 影響がかなり緩和されるという。2) しかしながら、軟弱地盤といっても様々であり土質特性(細粒分・含水比・Cc など) が異なる場合、コラム先端から洪積層まで未改良層の圧密沈下量の評価が容易ではない と考えられる。このため、実測値との差異の照査が重要な課題である。この不思議な感 覚は地盤工学的に未解明な部分であり、今後の現場サイトでの解明が必要である。 4.FEM 解析と試験盛土による工法の選定 4.1FEM 解析による変形量解析 FEM 解析に用いた未改良部の地盤定数は、そのまま軟弱層として評価した。表-1 に示すように盛土高を H=6.0m として余盛り有・無のケースで変形量を解析した。 これから、両ケースの残留沈下が 2.5cm(余盛り無)、2.4cm(余盛り有)となり、 また周辺の地盤変位は 4.8cm(余盛り無)、5.5cm(余盛り有)であった。 4.2試験盛土の設計条件 表-1 FEM 解析による変形量 FEM 解析の妥当性 を検証する ために試 H=6.0m(余盛り無) H=6.5m(余盛り有) 験盛土を実 施した。 フロート高1m フロート高 1m 試 験 盛 土の 設計条件 盛土完成時 17.7 19.9 及び設計基 準値 を表 1 年経過時 36.1 38.6 盛土中央地表面最 -2に示した。 大値(cm) 最終状態 38.6 41.0 試験盛土による検 残留沈下 2.5 2.4 証において、許容沈下 水平変位 4.8 5.8 量を盛土中央部で 10 法尻最大変位(cm) 沈下 8.1 8.7 ~30cm とした。また、 水平変位 4.8 5.5 周辺地盤の 許容変化 盛土周辺最大変位 隆起 2.9 3.2 量を田畑±5cm 程度 (cm) と設定した。前述した FEM 解析による残留沈下 2.5cm、2.4cm、さらに周辺の地盤変位 4.8cm、5.5cm はほ ぼ許容値内と判断した。 4.3試験盛土による動態観測 4.3.1試験盛土(久保田地区)の状況 今回、実施した試験盛土は、久保田地区における軟弱地盤の変形状況・周辺地盤の変 形への影響・地盤改良の効果を確認し、さらに FEM 解析との相違を検証して本施工に 向けた適切な工法を決定することが目的である。 また、現地盤での施工に伴う沈下や変形量を考慮して、本施工時の早期沈下量や供用 時の残留沈下量などの想定も検討すべき事項であった。 試 験 盛 土 の高 さを H=6.0mとして、余盛 り有 H=6.5mの二ケ ースで実施した。改良 率は 30%、施工速度 は 0.1m/日とした。 図-7に、盛土高・ 沈下量及び 水平変位 量の時間的 変化の状 況を示した。 表-2 試験盛土の設計条件等 設計条件・設計基準値 盛土材料 γt=19kN/ ㎥(砂質土相当) 上載荷重 q=10kN/㎡ 備 考 調達可能な盛土材料を設定 施工時の建設機械の稼働、供用後の交通荷重を考慮 10~30cm 以下(盛土中央部) 許容沈下量 (軟弱地盤対策施工指針 p.54 に準拠) (盛土完了後 1 年経過以降を残留沈下量と設定) 周辺地盤の許容変位量 田畑±5cm 程度(事業損失面から許容値は明確にできな いが実態面か設定) 5cm/日(地盤改良無)、10cm/日程度(地盤改良有)(軟 施工速度 弱地盤対策施工指針 p.51 に準拠して粘性土地盤で実績 の多く実際の施工を考慮) 図-7 試験盛土高と沈下量・水平変位量の時間的変化 この図-7から、沈下量が盛土中央部(コラム間)の実測値で盛土立ち上がり後 1 年2ヶ月の沈下量が 59cm となることが分かった。なお、盛土立ち上がり後以降は 16cm の沈下量である。また、盛土立ち上がり後 4 か月程度で沈下量が収束している様子が見 られる。 また、水平変位については、盛土法尻で最大で 9cm 程度の変位があり時間経過とと もに 8cm 程度に収束している。また、法尻から 2m 離れた箇所では最大で 5cm 程度、 その後は 1cm 程度に収束している。 4.3.2残留変形に対する考察 供用時の許容沈下量を 10~30cm と設定した。今回の試験盛土の動態観測結果(盛土 中央部)では、盛土立ち上がり後約 40 日で残留沈下量が 10cm 未満となり許容値内で あると判断した。また、水平変位については許容変位量を±5.0cm としたが、動態観測 結果から 2m 以上離れた箇所においては許容値内であると判断した。以上の結果から、 本施工における地盤改良工法(図-5、図-6)を選定した。 5.供用状況(一部区間) 現在、4.5km 区間を供用中(暫定)であるが全区間で安全な走行性を確保できてい る。なお、橋梁部や函渠部の取付け部では若干の段差が発生しているが、利用者の走行 性や安全性には支障がない状況である。現時点では残留沈下は許容範囲内に留まってい るが、今後も現場の状況を見ながら適切な維持管理を行うことにしている。 6.おわりに 軟弱地盤上に新たなモノを置いた場合、当然バランスを崩すことになる。上のオモシ を軽くするか、下半身を強化するか、いろいろな対応方法が考えられる。上下のアンバ ランスを上手くバランス化することが肝要であるが、理屈だけでなく現場での技術的な アプローチが重要である。 今回、有明粘土を主とする軟弱地盤地帯での道路建設事業について述べた。本論では、 軟弱地盤上の高盛土道路における「コスト縮減と地盤環境(地下水)への配慮」の制約 の下、モデル断面検討・試験盛土検証・動態観測による軟弱地盤改良工法選定の概要を 報告した。 これまで佐賀県有明海沿岸道路整備事務所で実施してきた軟弱地盤に関する「調査研 究・試験盛土・本施工」などの実践は、今後の事業展開において有益な情報と技術力の 取得となり、この軟弱地盤対策工法は地盤工学の進展にも貴重な示唆を与えるものと自 負する。 参考文献 1)総合土木研究所:軟弱地盤上の道路-トータルミニマムへの挑戦、フローテイング基 礎研究会、p.148、2012. 2)厚生省水道部監修:廃棄物最終処分場指針解説 1989 年度版 p.77、1989 小石原川ダムにおける水理地質構造の評価 独立行政法人水資源機構 朝倉総合事業所 第一調査設計課長 ◎有馬慎一郎 第一調査設計課 ○坂井田輝 第一調査設計課 ●前田俊郎 1, はじめに 小石原川ダムは筑後川支川の小石原川に建設中の堤高 139m のロックフィルダムである。ダ ム建設において、ダム堤体の安全性と遮水機能を確保するため、ダム基礎岩盤での基礎処理 (グラウチング)は非常に重要である。そのため、様々な視点から小石原川ダムにおける基 礎地盤の透水性検討を実施し、基礎処理計画において基本となるルジオンマップを作成した。 図-1 に基礎岩盤の透水性検討フローについて示す。 2, 基礎岩盤の透水性に関する検討 2.1, 地質区分と透水性の関係 小石原川ダムのカーテンラインの地質断面 図を図-2 に示す。地域別・深度別の透水性につ いて、基礎岩盤の代表的な地質区分、風化度と の関係で整理し、全体状況を把握した。地質情 報はボーリングコア 11,518m、ボアホールカメ ラ 4,141m 等を中心に、透水性はボーリング 5m 毎にルジオンテストを 1,842 回実施し、これら のデータを基に解析を行った。ルジオンテスト とは、ダムの基礎岩盤の透水性を把握するため に、ボーリング孔に水を注入して行う試験で、 注入圧力 0.98MPa のもとでの 1 分間の注入量を 表している。 高透水ステージのほとんどが浅部に存在す るが、左岸貫入岩周辺ならびに左岸深部の互層 様片状ホルンフェルス(砂質部優勢)aHf(s)に おいて、透水性との関係が認められる。断層等 図-1 基礎地盤の透水性検討フロ- その他の部分については、透水性との間には明 確な関連性は認められなかった。 左岸の貫入岩 An-1 および An-2 は深部まで 50 ルジオン(Lu)以上のステージであり、周辺 の岩盤には片理方向に卓越した開口割れ目が認められ、これに沿って風化が見られ、深部 まで高透水となっている。 左 岸 河床 右 岸 風化度αの上面 風化度γの上面 図-1風化度βの上面 基礎岩盤の透水性検討フロ- 地下水位 An-1 および An-2 図-2 aHf(s) カーテンライン地質断面図 左岸深部の aHf(s)では、周辺の互層様片状ホルンフェルス(泥質部優勢)よりも硬質で あり、選択的に片理面に沿った割れ目が開口しやすく、また左岸は流れ盤構造であるため、 地表から 100m 以上深い風化度αの新鮮部においても、高透水となる場合がある。 2.2, 風化と透水性の関係 図-3 に風化度の区分の定義を示す。風化度αでは、20Lu 以上の高透水部は 10%程度で あるが、風化度βでは 40%程度、風化度γでは 50%程度、風化度δでは 60%程度であり 風化度とルジオン値との間には関連性が認められる。また、同じ風化度区分の範囲におけ る 2 ルジオン以下の低透水部が占める割合は、風化度αでは 60%程度、風化度βで 20%程 度、風化度γで 10%程度、風化度δで 5%程度となる。以上から、風化度αゾーンでは高 透水が急減する傾向が示唆される。 風化度α(新鮮) :岩塊・割れ目とも新鮮であり、割れ目面 風化度γ(弱風化):割れ目沿いに風化が進み、割れ目は には殆ど褐色化が認められない。 強く褐色を帯び、一部軟化している。 風化度β(微風化):岩塊は新鮮な場合が多く割れ目面のみ 風化度δ(強風化):褐色風化が進み岩芯まで風化している。 褐色を帯びる。 図-3 風化度区分 2.3, 割れ目と透水性の関係 ボアホールカメラ観察を実施 深度~ルジオン値 (開口割目なし) 0 したボーリング孔において、開 口割れ目と透水性の関係と方向 性について検討した。開口割れ 5 10 15 20 25 30 深度~ルジオン値 (開口割目あり) ルジオン値(Lu) 35 40 45 0 50 0 0 -20 -20 -40 -40 -60 -60 -80 -80 目の有無が透水性に大きく関与 -100 -100 しており、深度 100m以深にお -120 -120 いても開口割れ目が存在し 20Lu -140 -140 以上の高透水を示す。図-4 に示 -160 -160 図-4 15 20 25 30 ルジオン値(Lu) 35 40 45 50 有 割れ目がないステージでは 10Lu 10 -180 深度(m) -180 深度(m) 無 すように、1mm 程度以上の開口 5 1mm 程度以上の開口割れ目の存在の有無と透水性の関係 以下を示している。また、開口 割れ目が存在するステージは、20Lu 以上の高透水となるステージが多く見られている。こ のことから、透水性は開口割れ目に関連していることが確認できた。 2.4, 地下水位 地下水位は、左右岸ともに山体方向に沿って上昇している。右岸の地下水位については、 EL.280m 付近までは地形沿いに上昇後、右岸アバット部でほぼ水平となり、リム部で再上 昇している(図-2)。この要因は、下流側の沢に繋がる高透水領域と考えられるが、周辺 のボーリング孔で片理面沿いの割れ目と高角度の割れ目が認められることから、高角度の 割れ目が水みちとなっている可能性もある。 3, 基礎岩盤の透水性に関する評価 3.1, 基礎岩盤の透水性に関する一般的性質 基礎岩盤の透水性に関する一般的性質を表-1 に示す。カーテンラインにおいて検討が必 要な「高透水要注意箇所」は①左岸部の貫入岩(An-1,An-2 およびその周辺)、②左岸深部 の互層様片状ホルンフェルス(砂質部優勢)aHf(s)、③右岸深部高透水、④左岸深部高透 水である。このうち水みちとして評価し基礎処理計画において留意するものは①と②であ るが、③と④については、周辺ボーリング孔等の状況から高透水部はレンズ状に分布する と評価した。ただし、③については高角度の割れ目が水みちとなり、地下水位が低くなっ ている可能性もあるため、基礎処理のパイロット孔等の施工においては深部の透水性を確 認するものとする。 3.2, ルジオンマップ 以上の検討・評価結果に基づき、基礎岩盤の透水性と地表からの深度、地質構造、岩盤 の割れ目や風化度等との関係についての評価結果を踏まえつつ、各ルジオン試験結果の左 右岸および上下流方向の分布や連続性を考慮しながら同一ルジオン値ゾーンの広がりを想 定して、ルジオンマップを作成した。カーテンラインにおけるルジオンマップを図-5 に示 す。また、ダム基礎岩盤の透水性から「浅部高透水領域」と「深部低透水領域」に区分し た。左右岸部では、風化度βとαのコアが繰り返し存在する区間と風化度βのコアのみが 主体となる区間の境界にほぼ一致する。なお、河床部では風化度βとαのコアが繰り返し 存在する区間が殆ど存在しないため、「透水領域境界」は風化度αの上面に一致している。 4, おわりに 基礎岩盤の地質区分と透水性の関係について、高透水性と関連すると考えられる風化度 合や割れ目幅等を把握し、総合的な評価を実施した。これにより、ルジオンマップを作成 するとともに、高透水要注意箇所を特定することができた。これらを基に小石原川ダムの 効率的で確実な基礎処理計画を立案し、今後実施工にあたり試験施工を実施していく。 参考文献 1)ダム建設における水理地質構造の調査と止水設計.2001.土木学会 2)グラウチング技術指針・同解説.2003. 財団法人国土技術研究センター 3)総説 岩盤の地質調査と評価-現場技術者必携ダムのボーリング調査技術の体系と展開 -.2012.一般社団法人ダム工学会 表-1 基礎岩盤の透水性に関する一般的性質 浅部高透水領域 深部低透水領域 透水領域境界 高透水要注意箇所③ 高透水要注意箇所④ 高透水要注意箇所① 図-5 高透水要注意箇所② ルジオンマップ(カーテンライン) 球磨川の堤防補強における地下水影響検討について 八代河川国道事務所 工務第一課 ◎島田陵一 ○石松健征 ●伊藤宗輝 1, は じ め に 球 磨 川 下 流 部 6k700~ 有 8k400 の 萩 原 地 区 堤 防 は 山 間 水循環検討領域 から八代平野へ出て、大きく 海 左方向に湾曲する右岸水衝部 にあり、加藤清正公以来八代 八代平野 市街を守ってきた堤防である。 萩原地区 古い堤防の宿命で堤防の質的 整備においてすべり破壊と盤 ぶくれに対する対策が必要と 球 され、矢板による補強工事を 磨 実施している。一方で八代平 川 野では豊富な地下水を水道・ 図 -1 水 循 環 検 討 領 域 概 要 図 工業・農業に利用しており、 本 工 事 の 施 工 中 及 び 施 工 後 に 地 下 水 へ の 影 響 が 懸 念 さ れ た た め 、広 範 囲 の 水 循 環 機構解析と萩原地区堤防の詳細な解析を同一モデルで一体的に解析を行うため に ( 図 -1) の 範 囲 を 検 討 領 域 と し て 設 定 し た 。 萩 原 地 区 堤 防 補 強 工 事 区 間 に は 、 八 代 市 の 水 道 水 源 が 100m と 近 接 し て お り 、 球 磨 川 の 河 川 水 と 地 下 水 は あ る 程 度 関 係 が あ る も の と 予 測 さ れ 、八 代 平 野 全 体 の 地 下 水 の 動 き を 理 解 し た 上 で 、さ ま ざ ま な 状 況 を 想 定 し た 八 代 市 水 源 へ の 影 響 を 検討することが求められた。 本 稿 で は 、球 磨 川 を 含 む 八 代 平 野 の 水 循 環 機 構 を 把 握 す る た め 表 流 水( 河 川 水 ) ~地下水を一体に捉える統合型水循環モデルにて水循環機構をモデル化した上 で 萩 原 地 区 堤 防 補 強 工 事 区 間 の 地 下 水 流 動 へ の 影 響 を 定 量 的 か つ 空 間 的( 多 様 な 方 向 )に 解 析 予 測 し 、施 工 中 及 び 長 期 的 な 地 下 水 へ の 影 響 に つ い て 定 量 的 に 検 討 した内容を紹介する。 2,球磨川および八代平野の水循環機構の把握 2.1,水循環モデルの概要 (1)水 循 環 に 関 わ る 基 礎 資 料 対象地域である八代市域の骨格を表す地形・地質・土地利用等の資料なら びに水流動に係る水文・土壌・水理地質等の資料等、基礎的な整理を行った。 (2)水 循 環 流 動 機 構 の 把 握 と モ デ ル 構 築 流域水循環の視点で客観的に整理分析し、定性的に表流水(河川水)~地 下 水 相 互 の 流 動 機 構 を 明 ら か に し た 。そ の 情 報 を 基 に 八 代 平 野 、球 磨 川 か ら 八 代海に至る萩原地区を中心とした八代平野と北東に位置する二級河川まで網 羅する範囲をモデル領域として 従来の水・物質循環解析 統合型水・物質循環解析 ○ 地表水と地下水の流れを分 ○ 地表水と地下水の流れを、三次元的に 設 定 し( 図 -1)、土 地 利 用 , 水 文 ・ 統一的な数理モデルの下で連成して解析 離して個別に解析 地質構造を反映した 3 次元格子モ デル、および気象・水利用・地下 水 採 取 量 、地 下 水 涵 養 量 を 取 り 込 む表流水(河川水)~地下水を同 時に解析する統合型水循環モデ ル を GETFLOWS に て 構 築 し 、 長 期 に わ た る 水 の 循 環 変 動 ( 水 位 ,流 量 ,流 向 ) を 再 現 し た 。 GETFLOWS 解 析 概 念 図 を 図 -2 に 示 し 、作 成 し た 球 磨 川 下 流 域 の 水 循環モデルの基本仕様をとりま 図 -2 統 合 型 水 循 環 モ デ ル の 概 念 図 と め 表 -1,図 -3,図 -4,に 示 す 。 表 -1 項 基本 条件 気象 目 解析領域 解析格子数 空間分解能 降水 気温 蒸発散 気圧 土地利用・土地被覆 地形 水理 地質 標高 地質区分 地盤物性 2 相流物性 人為的水循環系 境界条件 水循環モデルの基本仕様 概 要 EW 35 km ×N S2 5k m ( 約 4 20 km 2 )( 図 -1 参 照 ) , 深 度 - 1, 0 00 m 57 3, 36 7 10 ~ 20 0m 気象庁、国土交通省 気象庁 気温に基づきソーンスウエイト法により算定 標準大気圧 国 土 数 値 情 報 土 地 利 用 細 分 メ ッ シ ュ ( 平 成 21 年 度 ) (マニングの粗度係数、地表面の透水係数を土地利用種毎に設定) 5m DE M 、 1 0 mD E M ( 陸 域 ) , 日 本 海 洋 デ ー タ セ ン タ ー J -E G G5 00 ( 海 域 ) 河道縦断・横断図(河道周辺) 表 土 層 、埋 立 地 盛 土 、有 明 粘 土 層 、扇 状 地 礫 層 、島 原 海 湾 層 、洪 積 層 、谷 底 低 地 堆積物、火砕流堆積物、水理基盤岩類 絶 対 浸 透 率 ( 透 水 係 数 )、 有 効 空 隙 率 を 水 理 地 質 区 分 毎 に 設 定 一般的な毛細管圧力曲線、相対浸透率曲線を設定 地 下 水 取 水 ( 3 5 個 所 )、 河 川 取 水 ( 球 磨 川 堰 、 遙 拝 堰 ) モデル上面は標準大気圧の定圧境界、モデル側面・底面は閉境界 海域は八代海の実績潮位を与える 横石流量観測地点を流入境界に設定し実測流量を与える 水理基盤岩類 谷底低地堆積物 火砕流堆積物 島原海湾層 扇状地礫層 有明粘土層 埋立地盛土 洪積層 図 -3 3 次 元 格 子 モ デ ル ( 解 析 格 子 数 573,367) 図 -4 3次元地質構造モデル 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 解析領域 水域 地表水 地下水 地下水が川へ流れ 出ている 地下水採取による 流線の集り 図 -6 現 況 再 現 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 ( H24.5.10) 【洪積層基底面付近の深度を出発点とした流線】 降水量 (mm/d) 地下水位 (m) 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 河川水位 (m) 降水量 (mm/d) 2.2,八代平野の統合型水循環モデルによる水循環機構の把握 (1)モ デ ル の 検 証 降水量 (八代) 観測水位 計算水位 10 0 9 100 モデルの検証計算は、近 萩原 【河川水位】 200 8 7 300 年 10 ヶ 年 で 平 均 的 な 降 雨 の 6 400 5 500 年 で あ る 平 成 23 年 と 、矢 板 4 600 3 700 打設の試験施工により観測 2 800 1 900 デ ー タ が 充 実 し て い る 24 年 0 1000 降水量 (八代) 観測水位 計算水位 で実績水文資料により行っ 10 0 9 100 た。降水量、土地利用に応 八代第4号(大福寺) 200 8 【地下水位】 7 300 じ た 粗 度 係 数 ,透 水 係 数 と 6 400 5 500 4 600 水理地質区分ごとの地下透 3 700 2 800 水 係 数 ,有 効 間 隙 率 等 を 与 1 900 0 1000 え、日単位での計算を2年 ‐1 1100 ‐2 1200 間実施し、平野内の水の流 H24 H23 動を面的にチェックし、河 図 -5 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 検 証 結 果 川水位4観測所、地下水位 13 箇 所 の 検 証 ( 図 -5 参 照 ) を 行 い 、 実 観 測 値 の 妥 当 性 確 認 、 モ デ ル 修 整 を 経 て良好な再現性が確保できるに至った。 (2)水 環 機 構 の 図 化 近 年 10 ヶ 年 デ ー タ で シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 解 析 を 行 い 、 そ の 結 果 を 流 線 及 び ベ ク ト ル 図 と し て 整 理 し 、 水 循 環 機 構 把 握 し た ( 図 -6,図 -7)。 流 線 は 、地 上 か ら 涵 養 し た 雨 水 が 地 盤 中 を 浸 透 流 動( 緑 )し 、再 び 湧 出 し て 地 表 水 化( 青 )す る 様 子 を 図 化 し た も の で 、山 間 で は 、地 下 水 へ の 浸 透 は 少 な く 、地 表 水 と し て 流 出 し 、平 野 部 で は 雨 水 が 浸 透 し 、河 川 水 へ と 流 動 す る 過 程 が 再 現 さ れ て い る ( 図 -6)。 解析領域 水域 地下水が川の方 向へ移動 地下水採取による 地下水の集り 図 -7 現 況 再 現 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 ( H24.5.10) 【地下水のベクトル図】 地 下 水 の ベ ク ト ル は 、河 川 へ 向 け て の 地 下 水 の 流 れ 、萩 原 地 区 で の 地 下 水 の 流 下 、球 磨 川 か ら の 地 下 水 の 流 入 を 見 る こ と が で き る 。ま た 、地 下 水 採 取 量 が 多 い 場 所 に 、流 線・ベ ク ト ル が 集 り 、地 下 水 採 取 の 影 響 範 囲 が 想 定 で き る( 図 -7)。 こ れ に よ り 萩 原 堤 防 を 検 討 す る に あ た っ て の 球 磨 川 下 流 域・八 代 平 野 基 盤 モ デルが一次完成した。 3,萩原地区の堤防補強対策の影響と対応策 萩原地区においてすべり 8000 < 5000 ー 8000 3000 ー 5000 破壊防止目的で実施する深 1000 ー 3000 800 ー 1000 500 ー 800 さ 9m~ 13m の 矢 板 施 工 に よ 300 ー 500 100 ー 300 80 ー 100 る 影 響 を 見 る た め 、 平 成 15 50 ー 80 30 ー 50 10 ー 30 年 ~ 24 年 で 矢 板 あ り ・ な し < 10 条件を変えてシミュレーシ ョンを実施した。 広域的な水循環機構への 影 響 を 2011 年 の 日 平 均 地 下 水 流 動 量 ( 図 -8) に よ り 、 八代市水源に対する影響を 流向・流速を示した流動横 断 面 ( 図 -9) に よ り 評 価 し A’ た。流向の変化は若干認め A られるものの、矢板付近の みに限られ堤防から少し離 れた位置では両ケースの水 位・流動量の状態は同じで あった。 次に、濁水の発生・拡散 を 念 頭 に 入 れ 、 100m ご と の 施 工 ス テ ッ プ( 図 -10)に よ る矢板打設直後の流動・挙 動変化について検討も実施 【矢板施工あり】矢板なしに比べ○:低下 ○:増加(ほぼ1ランク) 図-8 矢板施工ありの日平均地下水流動量の変化(2011 年) した。矢板施工前、施工後 の矢板裏、八代市水源の地 A A ’A 下水位変化と八代市水源へ の流入量により評価した。 地下水位変化では、施工 直 後 に 最 大 20cm 程 度 水 位 変 化 が 認 め ら れ る ( 図 -11,ス テ ッ プ ② )。こ の 水 位 低 下 の 影 響 は 、 ス テ ッ プ ① で 、 15 日 ,ス テ ッ プ ② ,③ ,④ で 、75 日 程 度 で 落 ち 着 く 。こ れ は 、 図 -9 矢 板 施 工 に よ る 地 下 水 流 動 方 向 、 流 速 の 比 較 各 ス テ ッ プ 100m 矢 板 打 設 を (横断方向・平水時ケース) 想定しているため、施工速 度 と し て は 、 1m~ 6m/日 と な る 。 施 工 時 期 の 検 討 と し て 、 八 代 市 水 源 へ の 地 表 水 流動量(m3/d) 地下水 流動方向 地下水 流動方向 堤防 球磨川 堤防 球磨川 A’ 八代市水源水位 矢板施工前 地下水位(m) 6.0 矢板① 八代市水源 八代市水源 矢板裏 5.5 矢板②まで施工 【八代市水源水位】 1/1 に ② ま で 施 工 終 了 したと仮定 5.0 4.5 4.0 3.5 矢板② 矢板の施工ステップ 地下水位(m) 図 -10 12/1 11/1 10/1 9/1 8/1 7/1 矢板裏水位 矢板施工前 6.5 矢板④ 6/1 5/1 4/1 3/1 矢板③ 2/1 1/1 3.0 矢板②まで施工 【矢板裏水位】 6.0 5.5 矢板施工による 水位挙動への影響 5.0 4.5 4.0 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 現況‐施工後水位差(m) 1/1 ( 青 )、地 下 水( 緑 )集 ま り を 試 算 し 3.5 3.0 た 結 果 ( 図 -12)、 平 水 時 で 萩 原 堤 防 八代市水源地点 矢板川裏地点 付近の河川が堰上げにより湛水して 0.30 0.25 【 水 位 差 ( 矢 板 施 工 前 - 矢 板 施 工 後 )】 いる場合は、河川より、渇水時に河 0.20 0.15 川水位が下がる場合は、山側から地 0.10 0.05 下水が供給され、萩原堤防からの供 0.00 ‐0.05 給がない様子が試算された。 ‐0.10 な お 、八 代 市 水 源 の 取 水 深 度 付 近 の 土 粒 子 の 平 均 粒 径 1mm に 対 す る 土 図 -11 矢 板 施 工 前 ・ 後 の 地 下 水 位 の 比 較 ( 矢 板 ② ) 【 平 水 時 : 2011 年 10 月 31 日 】 粒 子 が 移 動 す る 限 界 流 速 は 、 6.0m× -3 10 ( m/s)で あ り 、シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る 洪 水 時 の 最 大 流 速 5.8×10 - 4( m/s)に 比 べ て 大 き い た め 、濁 水 の 発 生 は 考 え に く い 。 4,今後の予定 本検討において矢板打設に伴う八代市 水源への取水影響は少ないものと判断し、 今 後 は 工 事 施 工 を 行 う 予 定 で あ る が 、施 工 に 関 し て は 、土 粒 子 へ の 衝 撃 影 響 を 極 力 与 え な い よ う 矢 板 打 設 速 度 に 配 慮 し 、十 分 な モニタリング体制や非常時の対応につい て十分な検討を行う必要がある。 ま た 、本 水 循 環 モ デ ル を 用 い て 考 え ら れ る 球 磨 川 下 流 ~ 八 代 平 野 の 地 下 水 保 全・水 管理への応用についても視野を広げてい きたい。 八代市水源 地表水 地下水 【 渇 水 時 : 2006 年 2 月 20 日 】 八代市水源 地表水 地下水 図 -12 八 代 市 水 源 へ の 水 の 流 れ 三京クリーンランド雨水調整池底泥移送設備設置工事について 長崎市 市民局 環境部 環境整備課 ◎朝長聖治 ○西川康太 ●中田浩二 1,経緯と問題 三京クリーンランド埋立処分場は、長崎市唯一の一般廃棄物最終処分場である。 その構造及び本工事内容のシステムフローを図1に示す。 ① 埋立処分地 :燃やせないごみ、不燃粗大ごみ及び焼却灰を埋立処分する。 ② 排水処理施設:雨水が埋立処分地のごみの中を通過して排出される汚水(浸出水) の処理を行う。 ③ 雨水調整池 :処分場周辺及び処分地内部の表流水を集水し、洪水発生の防止と河 川維持用水の確保を行う。 調整池の水は、排水処理施設の処理水と混合し、河川放流しているが、従前から調整池 の pH が高いことから、これを混合した放流水の pH も同様の傾向にある。 このことに対し、これまでは排水処理施設の処理水の pH を低く保つことによる、対処 療法的な放流水の pH 低減措置に留まっていた。 本件は、放流水 pH の抜本的な改善を目的とし、調整池の pH を低減するための計画と工 事を行ったものである。 図1 三京クリーンランド埋立処分場構造図 放流水の水質については、法により基準値が定められているが、さらに処分場設立時に 地元との間で、法的基準値より厳しい目標値を設定している(表1参照)。 表1 項 放流水に係る主要な基準値及び目標値 目 基 準 値 目 標 値 pH(水素イオン濃度) 5.8~8.6 6.0~7.5 BOD(生物化学的酸素要求量) 60mg/L 以下 5~8mg/L 以下 COD(化学的酸素要求量) 90mg/L 以下 8mg/L 以下 SS(浮遊物質量) 60mg/L 以下 5mg/L 以下 2,計画 2,1,pH 上昇の原因と対策 pH 上昇の原因として、富栄養化(ダムや湖沼などの閉鎖性水域において、窒素やリン の流入等により、微生物の繁殖が活発になる状態)により繁殖した植物性プランクトン の光合成が考えられる。 調整池には、過去に処分場周辺の牛舎や鶏舎からの排水が流入していたことから、平 成 21 年度に調整池底部に堆積している汚泥の調査を実施したところ、全窒素及び全リ ンについて、やや高めの数値となり、富栄養化の傾向にあることが確認できた。 この結果を元に、富栄養化した汚泥を除去することによって pH の改善を図る方針と した。なお、水流発生装置やばっ気等の一般的な対策は既に実施しており、他都市でも それ以外の対策、事例も見当たらないため、内部で対策を検討した。 2,2,汚泥除去の方法 当初、直接的な効果をもたらすと考えられる浚渫による汚泥の除去について検討した が、工事期間中の代替施設がないことによる危機管理上の問題から、実施不可であると 判断した。 そこで、調整池からポンプ等で汚泥水を処分地へ移送する方法を検討した。移送した 汚泥水は雨水と同様に土壌へ浸透し、浸出水となって排水処理施設で処理される。排水 処理施設の微生物による窒素除去機能と、それに伴いリンも除去される仕組みを利用す るシステムである。 この方法ならば、調整池を運用しながら実施できるため、効果が表れるまで相当の期 間を要することは予想したが、現実的な選択肢であると考えた。 2,3,底泥移送設備の考案 汚泥の移送方法として、汎用ポンプによる移送を検討したが、いくつかの懸念事項が あったため、それを改善するために図2のような装置を考案した。 以下、表2に懸念事項と装置メリット、続いて装置概要を示す。 表2 懸念事項と装置メリット 懸念事項 装置メリット 1 調整池底部の事前調査を実施した際、底部 詰りがないエアリフトポンプを採用して にはごみが溜まっていることが確認され おり、さらに、汲み上げたごみは、ストレ ており、特殊なポンプを用いても、ポンプ ーナで除去が可能である。 内の狭小部分で詰りが発生する可能性が 高い。 2 汚泥と共に多くの水を汲み上げ、汚泥濃度 が小さい状態での移送になるため、汚泥の 移送効率が悪く、排水処理施設の無駄な負 荷が増大する。 貯留槽に貯留した汚泥水を一定時間沈降 分離させ、汚泥濃度が低くなった上水を調 整池へ戻すという工程を数回繰り返す機 能を付加することで、移送する汚泥濃度を 高め、移送効率を上げることができる。 3 ポンプに不具合が発生した場合やメンテ ナンスの度に、重量 200kg~300kg のポン プを調整池底部から引き上げなければな らず、実手間に加え、相当のコストが見込 まれる。 メンテナンスがほとんど不要なエアリフ トポンプを採用しており、本装置内の汚泥 ポンプはメンテナンス等に伴う引き上げ が比較的容易である。 4 ポンプ設置場所の移動が非常に困難であ 装置は湖面に浮かべているため、移動が比 る。 較的容易である。 ブロワ 調整池 水面 処分地へ移送 ストレーナ(SUS) 調整池へ戻す 浮体(FRP) 上水 ←上水ポンプ ←貯留槽(FRP) 沈降汚泥 ←汚泥ポンプ 空気 調整池 汚泥+水+ごみ エアリフトポンプ→ 汚泥 図2 底泥移送設備イメージ図 底泥移送設備の概要は次の通り。 ① 調整池底部に停滞する汚泥等をエアリフトポンプ(※1)を用いて汲み上げる。 ② 汲み上げた汚泥等をストレーナに通してごみを除去後、貯留槽に貯留する。 ③ 貯留した汚泥水を一定時間沈降分離させ、汚泥濃度が低くなった上水(うわみず) は調整池へ戻す。 ④ タイマー及びフロートスイッチ制御により、①~③の工程を数回繰り返し、濃度が 高くなった沈降汚泥を汚泥ポンプで処分地へ移送する。 ※1 エアリフトポンプとは、水中の立管の中にブロワから空気を吹き込むことで管内 外の液体に比重差をつくり、汚水や汚物を汲み上げる装置のことである。 3,設計・施工 3,1,材質の選定 エアリフトポンプの配管には、一般的に鋼管を使用することが多いが、雨水調整池の 水位は季節によって変動があるため、フレキシブルな対応が可能なジャバラ配管を採用 した。 埋立処分地までの移送配管は水面に配管することを考慮し、柔軟性及び施工性を考慮 した軟質のポリエチレン配管を採用した。これにより、底泥移送設備の配置を変更する 際の対応も比較的容易となる。 貯留槽は重量、強度及び耐久性を考慮してFRP製とし、浮体への重量負担を軽減し た。 3,2,底泥移送設備の配置 底泥移送設備の効果を最大限発揮できるよう、事前調査により把握している汚泥堆積 量が多い場所で、かつ既設の水流発生装置の水流方向に合わせて配置した。 3,3,自動制御の設定 汚泥移送効率を上げるための工程を自動で行う制御機能を付加し、その設定時間及び 回数は実運用の開始後、最適な状態に変更できるようにした。 現時点では、試運転の状況を踏まえ、設定時間及び回数は図3に示す通りとしている。 エアリフトポンプ 沈降時間 5min 5min 変更可能 30min 5min 30min 5min 上水ポンプ 30min 5min 5min 汚泥ポンプ 図3 底泥移送設備の自動制御 3,4,底泥移送設備の設置及び稼働状況 底泥移送設備の設置状況を図4、稼働状況を図5に示す。 図4 設置状況 図5 稼働状況 4,結果 平成 26 年度及び過去 3 年間における調整池の表層及び中層の pH 比較を行った。 なお、表層とは調整池内の植物性プランクトンが日光を受け、最も活発に光合成を行う 水面付近の層であり、中層とは調整池深さのほぼ中間付近の層であり、雨水調整池の取水 口もここに位置している。表層及び中層の位置関係を図6に示す。 また、表層及び中層の pH の推移を図7及び図8に示す。 常時満水位 水深 0.5m えん堤 表層 水深 2.2m 中層 放流口 取水口 汚泥 図6 表層及び中層の位置関係図 図7 表層 pH 推移グラフ 図8 中層 pH 推移グラフ 平成 26 年度の表層の pH については、過去 3 年間のデータ変動幅の中で推移している。 また、中層の pH については、2 月を除き過去 3 年間のデータと比べても比較的小さい 傾向となっており、平成 27 年度 5 月の pH はさらに低く、7.2 であった。 2 月の pH が上昇した原因としては、降水量が例年の半分以下で特に少なかったため、 酸性雨による pH 低減が小さかったことが考えられる。 以上から、本設備による pH 低減効果が得られたとも見られるが、pH に影響する要素は 汚泥堆積量の他にも水温、天候等があるため、平成 26 年度の 1 年間では効果の検証は難 しい。 pH 上昇の原因となる汚泥は調整池全体に堆積しており、本設備の稼働により汚泥堆積 量が減少し、pH が改善するまでには、長期の稼働が必要であると見込んでおり、今後も 継続的な観測を行うこととする。 5,今後の課題 5,1,調整池底部の汚泥堆積量の調査 一定期間経過後に調査を行い、装置による汚泥の移送状況の確認を行う。また、汚 泥除去の状況と pH 推移の関係性を評価する。 5,2,底泥移送設備におけるタイマー制御の見直し 汚泥の移送状況を確認しながら、沈降時間の延長や短縮、沈降分離の回数等の見直 しを行う。 5,3,設置位置変更の必要性の検討 前述の通り、底泥移送設備は、汚泥堆積量が多い場所かつ既設の水流発生装置の水 流方向に合わせた配置とし、装置の周辺に汚泥が集まる想定だが、汚泥堆積量を確認 し、必要に応じて設置位置の変更を検討する。 鹿児島東西道路における橋梁拡幅の設計報告について 鹿児島国道事務所 工務課 ◎坂元 豊久 ○角口 清彦 1,はじめに 鹿児島東西道路(延長約3.4km)は、高規格幹線道路の結節点である鹿児島ICと 鹿児島市中心市街地及び重要港湾である鹿児島港を結ぶ地域高規格道路であり、鹿児島I Cから鹿児島市街地へのアクセス機能を強化するとともに、都市交通の円滑化と交通混雑 の緩和を目的とした道路である。 現在、武岡トンネル・新武岡トンネルが供用し、鹿児島IC~建部IC間の延長約2. 2kmが暫定供用しており、今後、完成供用に向けては、東西トンネル下り線(仮称)を 整備することとしている。 図-1 鹿児島東西道路概要図 新設する東西トンネル下り線(仮称)の位置は、図-2に示すとおりであり、道路線形 計画としては、供用中の田上高架橋(下り線)部より分岐させ、新設トンネルへ接続させ る計画としている。 本報告は、田上高架橋(下り線)の拡幅計画から設計について、報告するものである。 田上高架橋(下り線)L=240m 拡幅部 L=139m 図-2 橋梁拡幅計画の線形計画 2,既設橋梁について 田上高架橋は、昭和62年5月31日に 完成し、供用から28年が経過した橋梁で ある。昭和55年道路橋示方書に基づき設 計されており、平成21年度に一部下部工 で耐震補強工事を実施している。 橋梁形式は、PCプレテンションT桁お よび中空床版橋である。 建設当時は拡幅計画が無かったため、 拡幅を考慮した設計がなされていない橋梁 である。 表-1 田上高架橋の構造諸元 橋 長 P3~A2 拡幅区間 L=139m (下り線全長 L=240m) P3~P6;PC3 径間連結プレテンション T 桁橋 P6~P7;PC 単純プレテンション T 桁橋 橋 梁 形 式 P7~P8;PC 単純プレテンション T 桁橋 P8~P9;PC 単純プレテンション T 桁橋 P9~A2;PC 単純プレテンション中空床版橋 適用示方書 昭和 55 年道路橋示方書(建設当時) 設計活荷重 TL-20(建設当時) 耐 震 補 強 対策済み 3,拡幅計画について 3.1,拡幅方法について 上部構造の拡幅方法は、既設橋の構造性及び拡幅量から表-2に示す3つの方法が考え られる。 表-2 拡幅量による径間別拡幅方法 3.2,新設橋梁による拡幅 新設橋梁による拡幅構造としては、既設部と新設部を縦目地で分離する「完全分離構造」 と、既設部と新設部を一体化する「一体化構造」の2つの拡幅方法がある。完全分離構造 は、既設部と新設部の応力状態が明確で構造も単純であるが、縦目地による雨天時のバイ クのスリップ事故など走行の安全性が懸念され、耐久性など維持管理上の課題もある。 一方、一体化構造は、既設部と新設部の応力状態を十分に検討する必要があるが、走行 性及び維持管理上の問題点が少ない。 従って、表-3に示すとおり、走行の安全性や維持管理のほか、構造性、施工性、周辺 環境への影響、経済性の総合評価による比較検討を行い、施工の難易度は高いが走行の安 全性および維持管理が優位であり、LCCに優れる「上部工一体・下部工分離」の構造を 採用した。 表-3 橋梁による拡幅方法選定一覧表 3.3,ブラケット横桁増設による拡幅 P5橋脚からP8橋脚は、拡幅量が約3m 以下となることから、図-3のような「ブラ ケット横桁増設」による拡幅の検討を行っ た。「ブラケット横桁増設」は、既設桁から 2m間隔で、PC構造のブラケットを増設 し、その上にPC床版を配置した構造で、景 観に優れた案である。 この構造は、既設PC桁を削孔する必要 があるため、PC鋼材配置を復元した側面図 にブラケット横桁増設の鋼材配置を重ね合 わせ、施工が可能であるか確認を行った。 その結果、図-4に示すように、既設PC 桁のPC鋼材配置と干渉するため、適用困難 であると判断した。 図-3 ブラケット横桁増設構造 図-4 既設PC鋼材との干渉確認図 3.4,床版張出による拡幅 前述により、 「一体化構造の橋梁によ る拡幅」が有利であると判断したが、 P3橋脚からP5橋脚は、拡幅量が約 1m以下と小さいことから 「床版張出」 による拡幅の検討も行った。 図-5 床版張出構造 「床版張出」は、図-5のように、既 設床版にRC床版をアンカー筋で定着させた構造に耐荷力不足分を炭素繊維シートで補強 する構造で、ブラケット横桁増設と同様に景観に優れた案である。 表-4のように、「一体化構造の橋梁による拡幅」と比較するため、P3橋脚からP6 橋脚間について比較した結果、「床版張出+PC単純プレテンT桁橋案」の方が、初期コ ストがわずかに安価になるが、縦目地の維持管理費が必要になり、ライフサイクルコスト を考慮した概算工事費では「一体化構造の橋梁による拡幅(PC3径間連結プレテンT桁 橋案) 」が有利となった。 表-4 床版張出と一体化構造の橋梁による拡幅案の比較 4,一体化構造による橋梁拡幅設計 4.1,橋梁形式について 既設橋の上部工形式は、PC3径間連結プレテンションT桁橋、PC単純プレテンショ ンT桁橋、PC単純プレテンション中空床版橋の3タイプがある。 新設部の橋梁形式は、一般に既設桁と新設桁との挙動が同じようになるように既設と同 一形式とするのが基本であるため、本橋の計画でも同一形式を採用した。 4.2,拡幅構造について 新設部と既設部の拡幅構造は、プレテンションT桁橋では、図-6のように、新設部と 既設部を横桁で一体化を図る構造とし、床版はRC構造で一体化を図る構造を採用した。 図-6 プレテンT桁橋の拡幅構造 プレテンション中空床版橋は、図-7のように、既設桁のPC鋼材部分をはつり、中間 定着工法により既設PC鋼材を仮固定して既設桁を1本撤去し、露出させた既設PC鋼材 と新設PC鋼材をカプラーで接続することで一体化を図ることとした。 図-7 プレテン中空床版橋の拡幅構造 5.一体化構造における解析上の留意点 5.1,活荷重の載荷方法について 適用道路橋示方書の違いから、既設橋 は「TL-20」、新設橋は「B活荷重」 と設計活荷重が異なる。一体化構造とす る場合、既設・新設一体化後に活荷重を 載荷して設計することとなり、B活荷重 を載荷した場合、既設桁の大がかりな補 強が必要となる可能性がある。 しかし、既設橋は平成21年度に耐震 補強を実施した橋梁で、損傷等も特に見 られないことから、既設橋のB活荷重に 表-5 照査フロー よる補強の必要性の判定基準としている 「既設橋梁の耐荷力照査実施要領(案) 平成8年3月 (財)道路保全技術センタ ー」による照査を表-5のフローにより 実施し、表-6の照査結果となったため、 既設橋の補強は不要と判断した。 従って、本設計においては、図-8の ように、新設桁の設計はB活荷重とし、 既設桁の照査においてはTL-20活荷 重で実施することとした。 表-6 照査結果 支間長 21.000m 支間長 17.850m P3~P6間、P6~P7間 P8~P9間 P9~A2間 曲げモーメントに対する照査 0.573 ≦ 1.0 0.571 ≦ 1.0 0.598 ≦ 1.0 OK せん断力に対する照査 0.648 ≦ 1.0 0.653 ≦ 1.0 0.655 ≦ 1.0 OK 5.2,耐震性能について 耐震性能の照査は、既設部と新設部で規模 (幅員)が大きく異なるため、上部工構造・ 橋脚剛性・基礎バネなど、それぞれの変形性 能を考慮した、図-9のような、全体系モデ ルの非線形動的解析を実施し、既設部、新旧 接合部、新設部の各部材を照査し、鉄筋量 を決定するなど設計に反映した。 支間長 16.726m 判定 図-8 活荷重載荷図 図-9 動的解析の橋脚モデル部 6,おわりに 今回の設計では、橋梁による拡幅構造について、完全分離構造より工事の難易度は高く なるが、走行の安全性、維持管理性など総合的に判断し一体化構造による拡幅を採用した。 工事では、下部工位置について、既設上部工の支承線と新設上部工の支承線が同じ位置 になるように管理する必要が生じ、主桁についても、既設路面高・既設桁のそり・主桁横 桁の断面形状を把握した上で製作し、既設桁へ新設桁のクリープ変形の影響が及ばないよ う、主桁製作後6ヶ月間放置するなどの措置が必要になる。 工事発注時には、それらの測量・調査にかかる費用を積算に反映させ、既設橋梁への影 響を把握し、工事を進めていきたい。 伊万里港七ツ島地区 国際物流ターミナルと国道をつなぐ臨港道路の設計について ~計画調整から設計への工夫~ 唐津港湾事務所 工務課 ◎宮本 由郎 ○甲斐野 航 ●西野 智之 1,はじめに 七ツ島地区 伊万里港七ツ島地区では、企業進出や取扱貨 物量の増加に伴い交通量が増加し、既存の道路 では慢性的な交通渋滞が発生している。このた め、円滑な貨物輸送及び交通渋滞解消を目的に 臨港道路が計画された。 臨港道路 臨港道路は当初、既存の国道 204 号に接続す 既存の国道 204 号 ることとしていたが、都市計画道路として国道 204 号の拡幅改良・ルート変更が計画されたた 国道 204 号拡幅改良・ルート変更 図-1 臨港道路計画図 め、都市計画道路の計画に合わせて設計の見直 しを行った。 本論文では、都市計画道路との計画調整から道路線形の見直し、また、詳細設計におい て、橋梁下部構造の設計変更や軟弱地盤における仮設構造物の設計など現地条件を踏まえ た設計について報告する。 2,伊万里港の現状 伊万里港は佐賀県北西部(図-3)に位置する天 然の良港であり、古くは古伊万里など陶磁器の 積出港として、また、大陸との海上交通の基地 として栄えていた。 現在は、木材加工業や造船業など県内唯一の 工業港として、港湾機能拡充と臨海工業団地の 整備が進んでいる。平成 15 年 3 月には伊万里湾 大橋の暫定供用を契機に企業の進出・拡張が行 われ臨海部の港湾活動が活発化している(表-1)。 七ツ島地区では、韓国釜山港や中国上海港、 大連港、青島港など 4 航路が就航しており、 2014(H26)年のコンテナ取扱量(外貿)は過去最 高となるなど、西九州地域における物流の拠点 港として背後圏域の経済発展を担っている。 このような中、七ツ島地区と背後圏の幹線道 路を結ぶ道路が1ルートしかないことから、交 通渋滞(図-4)が頻繁に発生しており、円滑な貨 物輸送の確保及び周辺環境への影響低減のため 新たな臨港道路の整備を実施している。 35,000 表-1 コンテナ貨物量(実入り) 30,000 25,000 伊万里湾大橋 20,000 暫定供用 15,000 10,000 5,000 0 図-2 位置図 輸 出 図-3 輸 入 伊万里港周辺図 3,都市計画道路との調整及び道路線形の見直し 臨港道路の設計にあたっては、図-6 線形計画検討図の当初ルートのとおり、既存の国道 204 号へ接続する計画であった。しかし、国道 204 号の都市計画変更の計画を受けて、臨 港道路のルート変更の検討を行った。 計画見直しの条件としては、①交差点位置が変更となるため平面線形の見直し②橋梁区 間が最短となる橋梁計画及び橋台位置の決定③交差点との縦断勾配の見直し④国道 204 号 との交差点を概ね直角で接続可能となる曲線半径の組合せについて、経済性、施工性で比 較検討を行った。検討した結果については、図-6 線形計画検討図及び図-7 縦断計画図のと おりとなり、橋長については、449m から 431m へ 18m 短縮された。 都市計画道路 七ツ島側 既存の国道 204 号 ① A1 P1 ② P2 変更ルート P3 ③ P4 P5 ① 2 径間連続鋼非合成細幅箱桁 ② 2 径間連結 PC ポステン T 桁 ③ 6 径間連結 PC ポステン T 桁 P6 P7 P8 P9 A2 図-6 線形計画検討図 図-7 4,橋梁下部構造の設計変更について 4.1,当初設計の考え方 当初ルートにおける当該箇所の土質調査結果 では、杭先端付近の土質は風化砂岩であり、亀 裂も多く換算 N 値 150 程度であった。また、周 辺には民家等が隣接しており騒音・振動にも留 意する必要があることから、基礎工の構造につ いては、経済性で優位なバイブロハンマ工法や 打撃工法などの打込み杭工法ではなく、 「中掘り 杭基礎 鋼管杭 コンクリート打設」を採用して いた。 4.2,設計変更の要因 平面線形の見直しに伴い変更ルートの土質調 査を実施したところ、軟弱な地盤直下の支持層 上部に硬質な砂岩が存在し、換算 N 値 500 程度、 一軸圧縮強度が 10MN/m2 以上となっており道路 図-8 縦断計画図 採用基礎工形式(当初) 橋示方書に記載されている硬岩と判定された。また、亀裂が少ない中硬質な砂岩等が深度 5m~15m 程度に分布していたことも判明した。 現土質条件下での、中掘り杭工法の鋼管杭の施工の確実性についてヒアリングを実施し たところ、①風化岩で亀裂が多い場合は中掘り施工が可能であるが、当該箇所の硬岩では 無理である。また、玉石がある場合にはオーガーがぶれるので施工が不可である②中掘り 単独では岩盤層への掘削が困難であり補助工法が必要③杭長が短い箇所(P4~P9)で杭が共 周りすることが想定されるため施工が困難であるという結果となった。 亀裂が多い 亀裂が少ない 写真-1 土質柱状図(当初ルート) 写真-2 土質柱状図(変更ルート) 4.3,設計変更の内容 このため、再度、新たな土質結果を踏まえ基礎形式について検討を行った。 道路橋示方書の基礎形式選定表から硬岩の支持層に対応可能で騒音振動対策である①経 済性で劣っている鋼管ソイルセメント杭②海上での適用性が少ない場所打ち杭(全周回転 式オールケーシング工法)③経済性で劣って いるケーソン基礎(オープン)④経済性で劣 っている鋼管矢板基礎の 4 構造形式について 検討を行った。 比較検討の結果、経済性では②場所打ち杭 が一番優位であったため、水深 5m 未満の水上 施工の適用性について確認を行い、全国の施 工事例から今回の施工と同様の施工実績が確 認された。 また、軟弱地盤での施工において「杭頭の 先細り」 (ケーシング引抜時の鉄筋及びコンク リートの共上がり)が懸念されていたが、施 工時のケーシング引抜速度を管理など施工管 理で十分対応可能であることが判明した。 図-9 採用基礎工形式(変更) 以上の結果より、橋梁の基礎形式につ いては、先行掘削+全周回転式オールケーシング工法(場所打ち杭)に変更することとした。 5,軟弱地盤上での仮設構造物の設計 5.1,土留めの計算手法 5.1.1,一般的な考え方 橋梁下部工の設計については、①海上部での施工となるが、当該箇所は水深が 1~3m 程 度と浅く、海上船舶からの施工は難しいため仮設桟橋を使った海上での仮設構造物となる ②土留めの構造は、止水締切りを基本とした鋼矢板形式を採用した③構造形式の算定にあ たっては、掘削深さから土留め矢板等の応力、変形計算は慣用法で考えていた。通常、陸 上施工であれば土留め矢板等の計算は土圧と内水位の計算で根入れ長や鋼材の規格を決定 する。 5.1.2,当該箇所の設計方法 当該箇所の設計については、施工箇所が海上部となるため、潮位の干満や波浪など不確 定な外力が加わる④A1~P4 区間までの土質は N 値 0~2 程度の軟弱な粘性土地盤が厚く堆 積しており、掘削時における変位や応力計算をより精度良く計算できる設計手法とし、弾 塑性法を用いて計算することとした。 このような条件のなか、土留めの設計 については、慣用法または弾塑性法を用 いて計算することとした。 図-10 土留めの設計基準 ※引用:社団法人日本道路協会 道路土工 仮設構造物工指針 5.1.3,慣用法の設計手法 慣用法の設計手法は、地中のある仮想支持点を支点として、土留め壁を単純梁または連 続梁として考え、土圧及び水圧を作用させた場合に部材に発生する断面力を求める。 5.1.4,弾塑性法の設計手法 弾塑性法の設計手法は、支保工と地盤をばねとしてモデル化し、土留め壁を弾性支承上 の梁として、掘削から本体構築までの各施工段階における部材の断面力と変形を逐次計算 する手法である。慣用法は掘削底面の安定(パイピング,ヒービング,盤ぶくれ)で土留めの根入れ 長を決定するのに対し、弾塑性法は、掘削底面の安定に加え土留壁先端付近の地盤に弾性 領域が存在する深さまで根入れを行うため、施工時の安全性が向上する。 図-11 慣用法及び弾塑性法の設計概念 5.2,仮設構造物を施工するうえでの留意点 橋脚施工時の鋼矢板による締切りは、水深及び掘削深さから 2 段~3 段の切梁を設置す る計画とした。施工時における安全性の照査は、1 次掘削時から最終掘削となる 3 次掘削 時まで根入れに対する曲げモーメントやせん断力、変位量を計算した。また、施工時には、 当該箇所が軟弱地盤のため施工性が悪く、設計時に想定していない地盤沈下による土留め 壁の変形等が生じるリスクも考えられたため、段階施工での鋼矢板等の変位管理を実施す る。 6,まとめ 今回の設計については、都市計画道路である国道 204 号の拡幅改良・ルート変更計画と 本臨港道路の接続について、平面線形から縦横断線形の調整、変更ルートでの土質調査結 果を踏まえた橋梁下部構造の設計、軟弱地盤上での仮設構造物の設計など、複雑な現場条 件や環境条件において、経済的で施工時の安全性も考慮した構造検討を行った。 今後、狭隘な現場条件での施工や海上での施工、また国道との同時施工など様々な環境 下での工事が想定されるため、施工中の事故や工期の遅延等がないように十分に注意し、 港湾取扱貨物量が伸びている伊万里港の円滑な物流を早期に発揮させるために、今後も関 係者と十分に調整を行って事業を進捗させたい。 志布志港(若浜地区)防波堤(沖)上部コンクリート打設における工夫 志布志港湾事務所 保全課 ◎束野忠伸 ○松尾 武 1,はじめに 志布志港は、鹿児島県東部の大隅半島に位置し、背後地域は宮崎県を含めた 南九州地域の畜産地帯となっており、とうもろこしの輸入量や配合飼料の出荷 額は全国第一位を占める。また、国内フェリーや国内 RORO 船及び世界各国と を結ぶコンテナ定期航路を有し、年間 1,049 万トンの貨物量を取り扱う港とな っている。 こうした国内外の貨物船の入港や荷役を安全に行うことができるよう、静穏度 の確保が必要となることから、現在、防波堤(沖)の整備を行っている(図-1)。 しかし、志布志港は地理的に台 風の襲来が多く、また、冬季風 浪の影響も大きいことから、施 工期間や施工方法に制約を受け やすい。本報告では防波堤(沖) 整備について、上部工の形状を 見直したことによって生じた問 題点と、それを解決するための 施工上の工夫、留意点について 報告するものである。 図 -1 志布志港全景 2,防波堤(沖)の構造について 防波堤(沖)は昭和 55 年度に整備を開始して以来、「消波ブロック被覆堤」 構造で整備を進めていたが、新構造形式の開発と相まって、平成 17 年度以降は、 「上部斜面型消波ブロック被覆 堤」構造(図-2)に見直して施工 している。 上部コンクリート この防波堤の最大の特徴は、斜 消波ブロック 面部に作用する水平波力が小さく ケーソン なる一方、耐力側に作用する鉛直 被覆ブロック 被覆石 方向にも働く(図-2 右下)ため、 基礎捨石 波力の分散 前述の構造と比較した場合、図 -3,4 に 示 す よ う に ケ ー ソ ン 躯 体 や基礎マウンドが小さくなり、経 済性に優れる点が挙げられる。 図 -2 上部斜面型消波ブロック被覆堤(イメージ図) 83.1m 15.0m 図 -3 上部斜面型消波ブロック被覆堤(断面図) 87.0m 15.6m 図 -4 消波ブロック被覆堤(断面図) 3,上部コンクリート打設における施工上の問題点について 本港での消波ブロック被覆堤の上部コンクリート打設は、コンクリートミキ サー船が近隣に在港しておらず、回航費等で不経済になるため、ミキサー船を 使用する施工方法ではなく、起重機船とコンクリートバケットによる施工方法 を採用していた。(台船バケット打設)(図-5,6)。 消波ブロック被覆堤 図 -4 上部斜面型消波ブロック被覆堤 台船バケット打設状況① 図 -6 台船バケット打設状況② 図 -3 図 -5 一方で、上部斜面型消波ブロック被覆堤構造は、パラペット天端幅が1m と狭 く、かつ、高さが高くなることで、型枠が大規模になり、45 度の斜面構造のた め型枠の浮き止め防止用の鉄筋(セパレーター)を密に配置しなければならな い(図-7)。そのため、台船バケット打設の場合、上段部に至っては大型バケッ トが型枠内部に入らず、吐出口から打ち込み面までの高さ制限 1.5m 以下を満た すことが出来ない。また、シュート打設では作業効率が低下すると共に、海上 からのコンクリート打設は他工種と競合し、工程に影響を及ぼすことが問題で あった。 1.0 m (セパレーター) 上部コンクリート ケーソン (斜面型枠支保鋼材) 図 -7 上部コンクリート(上段部)型枠内部状況 4,上部コンクリート打設施工について そのため、台船バケット打設以外の施工 方法を検討したところ、既設防波堤には重 機が配置できるスペースがあり、さらに、 多少の不陸はあるが通行路が確保できる ことから、アジテータ車、ポンプ車を防波 堤上に乗せ、コンクリートを打設する方法 (ポンプ車打設)を採用することとした 図 -8 ポンプ車による打設状況 (図-8)。この方法により、ポンプ配管の 吐出口から打設面までの高さを容易に規 定通り確保でき、かつ、安全に施工するこ とが可能となった。また、海上施工である 消波ブロック据付工事などが上部コンク リート打設工事と並行して施工すること が可能となり(図-9)、工期の短縮にも寄 与できた。 図 -9 上部工と消波工の同時施工状況 5,その他施工上の工夫・留意点について 今回、上部コンクリートをポンプ車打設にしたことによる、施工上の工夫や 留意すべき点について述べる。 ① ポンプ車やアジテータ車の運搬 ポンプ車打設する場合、アジテータ車などを既設防波堤まで運搬する必要が あり、通常の台船では構造上の問題で乗下船が不可能であるため、ランプウェ イを装備したフェリーバージにて運搬(図-10)を行った。なお、フェリーバー ジの構造上、干潮時を避けて防波堤に接舷した。 また、既設防波堤はケーソン毎に段差が生じている場所もあることから、段 差の大きい場所には斜路を設置し、アジテータ車などの走行に支障がないよう にした(図-11)。 さらに、車両は施工箇所までバック走行となることから、誘導員の配置はも とより、防波堤からの転落防止のため、目印となる簡易な転落防止柵を設置し た。 図 -10 フェリーバージによる運搬状況 図 -11 既設防波堤上の安全対策 ② 防波堤上に配置した重機による施工 狭隘な防波堤上で安全に施工するため、重機の配置が重要である。そのため、 型枠規模、重量を小さくし、上部コン クリートの打設規模を当初の3段階 か ら 4 段 階 と 小 分 け ( 図 -12) に す る ことで、防波堤上でのクレーンの規模 を小さくして、安全に施工することが ④ ③ 可能となった。同時に1日当たりのコ ① ンクリート打設量を減らすことにな ② り、夜間作業を回避することとなった。 図 -12 上部コンクリート打設割り 6,まとめ 本港の防波堤(沖)の上部斜面型消波ブロック被覆堤の上部コンクリートの ように天端幅が狭く、かつ高さのある構造の場合、台船バケット打設も可能で あるが、施工の工夫によるポンプ車打設を採用したことにより、施工性・効率 性で優位となり、安全性も向上した。 これまで海象条件が厳しい環境下であるにも関わらず、整備計画に遅れや大 事故もなく、工事の進捗が図られており、現在、防波堤(沖)の整備は、最終 段階に入っており、今後も安全に工事を進め、早期完成を目指していく。 大水深防波堤における潜水災害リスクを低減する機械化施工について 宮崎港湾・空港整備事務所 沿岸防災対策室 ◎中村 伸夫 工務課 ○進藤 琢磨 沿岸防災対策室 ●松屋百合男 N 1,はじめに 宮崎県の北部に位置する細島港は、古くから東九州の海上交通の要衝として栄え、四国、 阪神方面との定期航路が開設されて以来、港湾の利用は増加し、昭和26年重要港湾の指 定を受け、以後臨海工業地帯の土地造成及び港湾整備が進められてきた。さらに、日向市 は日向延岡地区新産業都市の指定を受け、東 九州地域を支える流通の拠点として発展し、 南沖防波堤 北沖防波堤 その後、関東関西との国内定期フェリー航路 や韓国との国際定期コンテナ航路が開設され た。現在、東九州自動車道等の陸上交通網の 整備も進展し、新たな国際港を目指して、4 万トン級国際物流ターミナルが本年6月28 日に供用を開始した。本発表は、港内の静穏 度を確保するため、平成10年度より事業着 手している南沖防波堤600mの施工におい て、課題となっている大水深潜水作業の災害 回避について、機械化施工によりそのリスク を低減した取り組みと施工品質についても向 上したことを報告するものである。 写-1 細島港全景 2,施工上の課題と問題点 2.1,大水深で高波浪域の施工条件 細島港南沖防波堤は、太平洋に直接面していることから、周期の長いうねり性の波が港 内に進入することにより、貨物船が動揺し荷役に支障をきたしていることから、港内静穏 度確保のため、計画されたものである。施工場所は、大水深で高波浪域の非常に厳しい自 然条件であることから、大断面となりコストの増大が懸念されたため、防波堤の構造形式 は、経済性に配慮した新形式の半没水型上部斜面堤が採用された。図-1に示すように海 底の現地盤高は標準部で-32m、ケーソン据付マウンドの高さは-19mとなっている。 港外側 図-1 港内側 南沖防波堤標準断面図 -1- 2.2,大水深における潜水作業の災害リスク 防波堤の基礎となる捨石マウンドは、異なる3種類の石材を使用しており、港外側の先 端部には1t/個程度の石材を設置し、中央部に5~100kg/個程度、その両サイド は500~700kg/個程度の石材で覆う形で形成している。石材の設置方法は、底開 式投入船及びガット船により水面下から投入を行うため、捨石マウンド上はかなりの不陸 が生じてしまう。そのため、捨石マウンド上に構造物を設置するには、センチ単位の精度 で石材の均しを行う必要があり、 この作業は一般的に潜水士が行っ ている。このことから、本作業場 所のような大水深の現場では、潜 水士の身体に作用する圧力も大き くなり、陸上工事とは異なる特殊 環境の中で、減圧症等の労働災害 の発生リスクが高い状況で作業が 行われている。 写-2 ガット船による石材の投入状況 2.3,高圧則改正に伴う事業者の今後の課題 今年度より高圧室内業務や潜水業務に係わる減圧症、酸素中毒症等の新たな手法に対応 するため、厚生労働省が所管する「高気圧作業安全衛生規則」(以降「高圧則」という) が改正された。高圧則は、昭和47年の施行以来、根本的な改正が行われておらず、世界 各国で運用される各種減圧表の中でも最も減圧時間が短く、日本潜水協会が過去に会員に 行ったアンケートでは、潜水工事に係わる潜水士の3人に1人が減圧症を経験しており、 減圧症のリスクが高いものとなっていた。また、今回の改正により潜水作業計画は、事業 者が作業状況に応じて作成することになり、労働者の負担がより少ない作業方法の確立や 作業環境の整備に努めることを、事業者の責務として規定した。このことから事業者は、 より安全な潜水作業を計画するため、これまで以上に減圧時間を長く設定する必要があり、 これにより潜水作業時間が減少し、作業工程を検討する上で、潜水作業に対する新たな課 題が発生することになった。 3,施工上の工夫 3.1,潜水作業に対する機械化施工の取り組み 潜水士による捨石均し作業は、水深が深いほど減圧時間を長くとる必要があることから 潜水作業時間が短くなり、施工能力も大幅に低下するため、多くの潜水士を配置し作業し なければならない。しかし、同一場所で集中して複数の潜水士を配置することは、その分 災害リスクも高くなり、更に本事業で取り扱う石材は重量も大きく、潜水士の作業にかか る負担はかなり大きい。この様な現場条件から本事業の着工時の受注業者から現在の受注 業者まで均しの機械化に対する取り組みが引き継がれており、その結果、特に潜水作業に 対する安全性の向上に大きく貢献している。なお、捨石均し作業の機械化施工にも水中バ ックホウ方式や着座型タンパ式等、多種多様に存在するが、本作業現場で主に活用されて いる重錘を使用した施工方法は、一見単純作業ではあるが、水中部の均し面を水面上の起 重機船に搭載したクレーンを操作し、重錘を落下させて均しを行う画期的な手法である。 -2- 重錘(平面転圧用) カウンター 重錘(法面転圧用) 写-3 重錘(平面転圧用) 写-4 重錘(法面転圧用) 3.2,光波式自動追尾による施工管理システムの併用 重錘を使用した施工については、着工当初は潜水士による目視とレベルによる高さ管理 を行っていたことから、起重機船のクレーンオペレ ーターの習熟度が求められる作業であり、安定した 作業能力の確保が難しかった。しかし、近年の技術 開発により光波式自動追尾機能を持った光波測距儀 をパソコンに連動させてシステム化し、施工途中の リアルタイムな測定管理を行うことが可能となった。 これにより海底面の施工状況を陸上部で確認できる ため、視覚的管理が可能となり、確実な作業が容易 に行えるようになった。 写-5 測定管理状況(青色:完了) 図-2 重錘均しの機械化施工概念図 4,機械化施工の検証 4.1,重錘均しによる機械化施工の安全性 一般的な捨石均し方法は、潜水士により作業を行っているが、水深の深い本作業現場で 捨石本均し作業を潜水士1名で行った場合、1日当たり作業できる面積は約12 m2 であ る。防波堤全体の整備スケジュールや細島港特有の波浪条件等を考慮すると、捨石均し作 業が可能な日には、1日当たり約100 m2 の均しを仕上げる必要があった。これを潜水 士により実施すると8名を配置することになるが、30m四方の狭い捨石本均しエリアで -3- 同時に作業を行うため、潜水士の配置間隔の問題や潜水ホースのからみ等が発生する懸念 も想定された。このような災害のリスクを低減するため、重錘均しによる機械化施工を検 討し採用した。 4.2,重錘均しによる機械化施工の品質の検証 細島港南沖防波堤の計画延長は600mであり、 昨年度までにケーソン14函の設置が完了し、現在 の施工延長は390mとなっている。ケーソン据付 マウンドの施工は、過去の経験値から想定沈下量を 60 cm と設定し、石材の余盛りを実施しているが、 重錘均しによる機械化施工が行われてきた結果、マ ウンド沈下量は最も高い数値で40 cm 程度に収ま っていた。また、捨石マウンド厚が13mあるにも 係わらず、著しい不等沈下も発生していない。これ 写-6 捨石本均し状況 は潜水士による人力では捨石マウンド 表面の不陸整正しか行えないが、重錘 を使用して表面を均すことで必然的に 捨石層の内部まで締固めが施されてい ると考えられる。これにより防波堤の 基礎部が堅固に構築され、その上に設 港内側 置される構造物が安定することで、防 波堤全体の品質向上につながっている。 写-7 南沖防波堤の現況 なお、施工管理システムを導入後の重錘均し工法は、平成23年度からと実績が少ないた め、今後も本工法がもたらす高い安全性と水中作業時間の制限を受けない効率的な施工性、 捨石沈下量を軽減し安定した構造物が設置できる品質の高さについて、引き続き検証し、 今後の工法検討等に役立てたいと考えている。 5,おわりに 今回報告した重錘と施工管理システムを活用した機械化施工については、安全性や施工 品質は高く評価できるものであるが、細島港のような水深が深い作業条件の現場は少なく、 水深の浅い海域ではコスト面の問題もあり、施工実績がほとんどない。しかし、今年度改 正された高圧則では、潜水作業時間の制限が厳しくなるなど、事業者への安全に対する責 務が強化されており、本工法を採用する施工現場は増えてくると思われる。また、本工法 以外にも安全性を考慮した施 工システムの導入や機械化施 工も数多く普及しており、大 規模な土木工事でも安全に精 度良く施工できる環境が構築 されることで、より土木の魅 力が向上し、若手技術者の人 港内側 材確保につながることを期待 する。 図-3 南沖防波堤完成イメージ図 -4- ヘリサットの導入と機能について 企画部 情報通信技術課 ◎外山 喜彦 ○岩橋 建一郎 ●吉村 誠 1.はじめに 九州地方整備局では、災害現場における情報収集の高度化を図ることを目的として、平成 27年2月、整備局の保有する防災ヘリ「はるかぜ」にヘリサットシステム※(以下「ヘリ サット」という。)の機上局装置を導入した。機上局装置は、国土交通省内で最初の導入で あり、迅速な防災対応が期待されている。今回、旧設備との比較及びヘリサットの主な機能 について紹介する。 図-1に示すように、従来のヘリテレは、ヘリコプターと地上中継局の間の無線通信によ り、映像・音声の伝送を行っていた。この方式では、受信エリアを広域にするほど多くの中 継局が必要になり、システム全体の整備、保守のコストがかかる。また、地上の中継局との 間に山岳等の電波遮へいが存在すると映像等の伝送が出来なかった。 一方、ヘリサットは衛星回線を活用することにより、山岳や高層ビル等の影響が無くどの 被災地からでも空撮映像をリアルタイムに伝送でき、音声による撮影指示・連絡においても、 機上局と九州地方整備局間で安定した音声通話が可能となった。通信方式は IP 方式を採用し たことで、基地局(本省・近畿地整)で受信した映像及び音声は、九州地方整備局に専用通 信網で伝送され、映像はヘリ位置情報と同時表示や地図上への重畳、蓄積や検索等が可能と なった。 更に、Ku-SAT と送受信の方式を共通化することにより基地局の共通化を図っている。 ※ヘリコプター搭載型衛星通信設備 図-1 ヘリテレ(従来)とヘリサットの比較 2.ヘリサット(機上局)仕様 機上局の主な仕様は以下のとおりである。 -1- ① アンテナ装置 アンテナ形式 :パラボラ形式 有効開口径 :0.4mφ相当 送信周波数範囲:14.00GHz~14.40GHz 受信周波数範囲:12.25GHz~12.75GHz 写真-1 九州地整防災ヘリ「はるかぜ」 ②変復調装置 伝送速度 送信:192kbps/768kbps/ 1.5Mbps/3Mbps/6Mbps 受信:16kbps ③アンテナ制御装置 駆動範囲 :AZ 方向:360°連続、 EL 方向:5°~80° 駆動速度 :AZ 方向:30°/sec 以上 EL 方向:30°/sec 以上 写真-2 ④映像符号化装置 映像入力 :HDTV デジタルシリアル信号 及び SDTV デジタルシリアル信号 映像符号方式 :MPEG-4 AVC/H.264 符号化伝送速度 :6Mbps 写真-3 アンテナ装置 機上局内部 3.ヘリサットの機能概要 ヘリサットの構成図は、図-2のとおりで、各装置の機能概要を次に示す。 図-2 ヘリサット構成図 -2- 3-1機上局装置 ①アンテナ装置 機上局モデムから出力される送信信号を衛星に効率よく放射するとともに、通信衛星から 到来する受信信号を増幅・変換し機上局モデムに出力する。 ②アンテナ制御装置 衛星捕捉・追尾指示、ブロッキング(4-1参照)領域内や障害発生時の送信停止指示な ど、アンテナ装置の制御を行う。 ③機上局モデム 機上局で発生する映像・音声・データを多重化して変調し、送信信号としてアンテナ装置 に出力するとともに、受信信号に含まれる音声・データを分離して復調し、関連装置に出力 する。 ④操作盤 衛星回線制御のための設定および情報の表示を行う。 ⑤映像符号化装置 入力された映像情報を圧縮符号化し多重変換する。 ⑥映像音声制御装置 カメラ映像や音声の入出力、切り替えを行う。 ⑦信号処理装置 ヘリ位置情報などをカメラ映像に重複して映像符号化装置に出力する。 ⑧信号処理装置操作盤 信号処理装置および映像音声制御装置の操作を行う。 ⑨ヘリ位置表示端末 機上でヘリの飛行位置と撮影箇所の画枠を基地局と同じ地図上に表示するとともに、ヘリ 側と基地局側でデータによる相互情報共有を行う。 3-2基地局装置 ① 基地局モデム 基地局で発生する音声・データを多重化して変調し、送信信号としてアンテナ装置に出力 するとともに、受信信号に含まれる映像・音声・データを分離して復調し、関連装置に出力 する。 ②音声マトリクススイッチャ 音声連絡回線の入出力を、基地局内の関連装置間で切り替える。 ③自動応答装置 音声連絡回線を省内の交換網と接続する。 ④ヘリサット制御装置 基地局モデムおよび機上局モデムの設定と、運用状態の監視を行う。 ⑤映像復号装置 入力された信号を復号し、映像信号として出力する。 ⑥映像通信部 基地局で受信した映像を変換し、IP ネットワーク上にマルチキャスト配信する。 -3- ⑦機上通信部 制御装置と基地局モデム間でシリアル/Ethernet 変換を行う。 ⑧タイトルジェネレータ 映像信号に文字タイトルを表示する。 ⑨デュアルエンコーダ ヘリ映像および重畳音声を省内に配信するために、映像信号を H.264 および MPEG2 の IP マルチキャスト映像に符号化する。 ⑩映像管理装置等 映像情報の蓄積や、地図・映像表示端末や Web 端末に表示するデータの生成を行う。 ⑪地図・映像表示端末 映像管理装置から受信した映像と情報を用いて、ヘリ飛行位置や撮影範囲を撮影した映像 と同期させて地図上に描画する。 3-3整備局装置 ① へリサット操作卓 ヘリサット制御装置と連携して、基地局モデムおよび機上局モデムの設定と、運用状態の 監視を行う。 ②地図・映像表示端末 映像管理装置から受信した映像と情報を用いて、ヘリ飛行位置や撮影範囲を撮影した映像 と同期させて地図上に描画する。 ③ヘリ位置表示端末(Web 端末) Web ブラウザ上にヘリの飛行軌跡と静止画を描画する。 4.代表的な機能の紹介 4-1映像伝送 ①機上局から通信衛星方向への送信が、期待自体により遮蔽となる場合のブロッキング(送 信停止)の自動制御を行う機能を有する(図-3)。 図-3 ブロッキング領域図 また、運航地域及び飛行姿勢で変化するブレード遮断時間に対応した、間欠送信による伝 送情報量(符号化レート)の増減制御を行い映像の信頼性を確保している(図-4,5)。 -4- 伝送情報量が少ない 伝送情報量が多い 注)衛星方向は、通常 40°~50°方向 図-4 飛行姿勢による伝送情報量の変化 図-5 間欠送信概略図 ②電波の遮蔽期間の映像情報を蓄積し、遮蔽が改善された後に蓄積映像をコマ送りで自動送 信する。これにより、電波の遮蔽による映像欠落を防止し、情報収集性能が大幅に向上する (図-6)。 図-6 コマ送り自動送信イメージ 4-2複数映像同時受信 本省・近畿基地局で映像情報、ヘリ情報(ヘリ位置情報、カメラ角度情報、ヘリ姿勢情報) を同時受信(最大8機)可能な機能を有する。 4-3映像蓄積及び静止画像処理 本省基地局にて、各地整全ての機上局からのリアルタイム映像、 ヘリ情報を蓄積(360 時間以上)し、ライブ映像の配信はもとより、 一時停止、頭出し、再生(追っかけ再生)が可能となった。 蓄積映像はGPS情報、カメラ角度情報、ヘリ姿勢情報等を保持 しており、抽出した静止画像を地図上に重ねて配置し表示すること が可能である(標準毎秒1枚)。 また、上記の撮影位置特定結果から、重なり合う複数枚の静止画 を選び、その重なり部分を目立たないように混合させ、一枚の静止 画像を作成する静止画の連結が可能である(図-7)。 図-7 -5- 静止画連結イメージ 5.まとめ 今回ヘリサットを導入し、従来映像伝送が出来なかった山地、渓谷、接近した箇所及び離 島の被災状況など通信が可能なエリアが拡大し、 迅速な情報収集及び災害対応が期待される。 以下、実際に映像伝送されたものを示す。 写真-4 H27.2 写真-5 徳島県地震対応 H27.5 写真-6 阿蘇山 H27.5 -6- 桜島 海洋環境整備事業における無人飛行体の活用について ~船舶離発着型ドローンの開発について~ 下関港湾空港技術調査事務所 施工技術課 ◎矢野 博文 ○江頭 隆喜 ●筌場 和宏 1,はじめに 海洋環境整備船は、担務海域において漂流 ゴミの巡回清掃・環境調査に従事し、油流出 事故の際は浮遊油の回収も行っている。近年 はゲリラ豪雨や台風の大型化の影響もあって、 自治体や関係機関からの要請を受けての災害 出動が増加している。管内では平成 18 年 7 月の長崎沖、平成 21 年 9 月の鹿児島沖、ま た平成 24 年 7 月には九州北部豪雨での漂流 図-1 海洋環境整備船の無人飛行体の活用イメージ 木等回収に出動し、管外では平成 23 年 3 月 の東日本大震災で、延べ 4 隻の海洋環境整備船が約 2 ヶ月にわたり、仙台湾及び三陸沿岸海域 で漂流物の回収等、航路啓開作業に従事している。外洋においては、うねりの影響もあって、 広範囲に点在する漂流物を自船から発見することは困難を極める。このため、上空から漂流物 を発見し、点在状況の把握が可能となるよう無人飛行体の活用について検討を行った(図-1)。 本報告は、洋上での飛行性能、移動する船舶での離発着等の課題を整理・検討し、船舶搭載仕 様として提案した自律型無人飛行体について報告するものである。 2,無人飛行体の現状調査 無人飛行体は、飛行船や係留気球等の浮力系、カイトプレーン等の固定翼系、ヘリコプター やマルチローターヘリコプター(以降「マルチコプター」という)等の回転翼系の 3 系統に分 けられる。最近報道されているドローンはマルチコプターを指しており、操縦が容易で、小さ な機体で安定性が高く、機動性が高い等のことから急速に開発・販売が広まった。マルチコプ ターは動力の電源方式により、写真-1 に示す高性能小型軽量バッテリー搭載による無索方式と、 写真-2 に示す地上からの給電ケーブルによる有索方式の2つに分類される。 (参考)Mini Surveyer :千葉大学 写真-1 マルチコプター(無索方式) (参考)HoverMast-100 :Skysapience 写真-2 マルチコプター(有索方式) 有索方式は海外で軍事目的で開発されたものであり、一般に流通していない。海洋環境整備 船における漂流物の発見等の使用においては、広範囲に移動する必要があることから、無索方 式を主として検討を進めた。無索方式の機体は直径 1m、重量 1~2kg 程度で、飛行時間 15~ 20 分、風力制限 5~10m/s のものが多く、自律飛行や目標物追跡機能をもったものもあり、表 -1 に示すように防犯的利用、災害等状況調査、地形測量調査、商業撮影(空撮) 、一般ホビー 等と広範囲に使用されている一方、制御不能による墜落等の事故も多数発生している。 表-1 マルチコプターの活用事例 分野 管理 利用者名 千代田化工 警備 調査 測量 点検 セコム 国交省地方整備局 NEXCO東日本 山崎建設 総務省消防庁 ALSOK 映像 Nsi-真岡 運搬 アマゾン Defonetz社(独) Yo!Sushi(英) 徳島大学 案内 アメリカ 軍事 イスラエル その他 鉱業関係 利用内容 プラント建設現場の資材管理 100万点の資材をGPSを利用してICタグを読み取る 商業施設で不審者を追いかけ撮影 災害現場での土砂流出状況等の調査 橋梁等道路関連施設の点検、被災状況等の調査 航空写真測量 災害状況無人偵察機 試験飛行 太陽光発電所や橋の点検サービス実施 マルチコプター製作。TV局、官公庁等への空撮業務 宅配サービス AED運搬システム 寿司・ハンバーガーの運搬サービス 足場が悪い場所に使える「空中台車」 大学構内の道案内 軍事偵察 危険な場所での状況調査 2.1,無人飛行体の自律飛行 マルチコプターには、自動でルート飛行(自律飛行)することが可能なものがある。自律飛 行を行うには、フライトコントローラー、GPS、加速度計、高度(気圧)計、地磁気コンパス、 方位計(ジャイロスコープ)を本体に搭載する必要がある。 またマルチコプターによる自律飛行は全てウエイポイント方式であり、3D 地図上にて飛行 予定のポイント・高度を地図上でクリックして入力し、更に飛行速度を入力することによりル ートを設定する(図-2)。GO(自動離陸・飛行機能)をクリックすることにより、自動で飛 行を開始し、設定した飛行ルートを飛行後、自動又は COMING HOME(自動帰還・着陸機能) をかけることで、GO をかけた地点に戻ってくる。機体が送信機からの電波を受信できない場 合、現在位置を見失った場合、搭載バッテリー容量が規定容量以下になった場合は、ホーミン グ機能が働き自動的に COMING HOME をかけて戻ってくるため、バッテリー切れに伴う墜 落・紛失の危険を回避している。 自律飛行 地図上で飛行ポイント・高度をクリックしてルートを設定 飛行開始後、自動でGOをかけた地点に戻ってくる GO フライトコントローラ、GPS、 加速度計、高度計、 方位計(ジャイロスコープ) 地磁気コンパス 搭載 図-2 マルチコプターの自律飛行イメージ 3,無人飛行体の船舶搭載への課題 マルチコプターによる漂流物の捜索等は、広範囲に飛行しなければならず、目視による手動 操作は数百 m が限界であるため、自律飛行が必要不可欠となる。また洋上は陸上と比較して環 境条件が格段に厳しく、以下の5つの課題について対応策を検討した。 ① 風や船舶の動揺等、陸上と比較して環境条件が厳しい ② 漂流物の発見等のため長時間・長距離飛行しなければならない ③ 移動する船舶の狭いスペースに帰還するため高い離着陸精度が必要 ④ 海面への不時着等も想定され、搭載機器を含む機体の防水・耐塩害対策が必要 ⑤ 船舶搭載無線等との混信対策が必要 3.1,洋上の環境条件を考慮した検討 一般的なマルチコプターの風力制限は 5~10m/s であるが、陸上と比較して洋上は風が強い ため、洋上版マルチコプターの最低限速力は 10m/s 以上を目標とする。風速 10m/s 以上でも 安定して飛行し離着陸できるよう、どの程度まで能力向上が図れるか検討を行う。また着船時 の船舶動揺を考慮した衝撃吸収装置等の検討も行う。 3.2,航続時間・距離の検討 マルチコプターはできる限り装備重量を軽くする必要があり、電源は軽量な電池とする必要 がある。高容量・高電圧・軽量・充電性に一番優れたリチウムポリマー電池を使用するが、航 続時間は最大で 20 分(片道 10 分)程度が限界である。作業海域の平均風速を約 5m/s とした 場合、巡航速力は 5m/s 程度となり、航続距離は片道 2~3km 程度となる。 3.3,船上での離着陸精度の検討 海洋環境整備船は長さ約 30m、幅約 12m の双胴船であるが、ゴミ回収用のスキッパー、多 関節クレーン、塵芥コンテナ、係船装置、マスト、多数のアンテナ等が配置されているため甲 板上にスペースは殆ど無く、自律飛行では移動している船舶の定点に着陸することは難しい。 このため船舶側及びマルチコプター双方に GPS を搭載し、運航システムソフトにて双方位置 を把握して帰着位置処理計算を行い、モニター表示する等の方策を講じる必要がある。現在の マルチコプターの離着精度は水平±2.5m、垂直±0.8m 程度であるため、これを水平±2m、垂直 ±0.5m を目標に、GPS 等センサー技術及び誘導ソフトによる補正技術を開発する必要がある。 さらに船上に着船できない場合、意図して海面に着水させる、若しくは浮遊式離着陸マットへ の着陸などについても技術的に可能か検討する。 3.4,防水・耐塩害対策の検討 海面に不時着した場合を想定して、以下の対策を講じる。 ・カメラ装置、センサー等重要部の防水化を図る ・機体部材は耐食アルミとし浮力体構造とする ・露出接続電線はシリコンパウンドによる絶縁処理を行い、防水コネクタを使用する ・全般的に必要箇所は、塩害対策専用塗料にて塗装する ・見失わないようにレーダーレフレクタ、LED 発光体等を装備する 3.5,無線の混信対策の検討 マルチコプターから発信される画像取得に電波障害の影響を小さくするため、電波障害に強 い無線機の選定等も考慮する。 4,無人飛行体のシステム案 船舶搭載に向けた対策の検討結果を踏まえて、洋上版のマルチコプターとして必要となるシ ステムの検討を行った。機体の大きさは搭載機器に依存するが、飛行速度、航続時間・距離、 搭載機器等の関係から、現状調査の結果を参考に全長は 1.3m 程度とした。また搭載機器はカ メラ装置以外に、リアルタイムで映像を確認するための画像無線送信機を搭載すると共に、移 動する船舶に離着陸可能な自律飛行システム(GPS 等センサー及び誘導ソフト)を装備し、こ れらは全て防水対策を講じる。表-2 に洋上版マルチコプターのシステム案、図-3 にイメージ図 を示す。 表-2 洋上版マルチコプターのシステム案 項 目 機体寸法 飛行範囲 最大航続時間 ホバリング精度 最大飛行速度 搭載機器 誘導画面 ソフト その他 内 容 全長1.3m程度、全高0.5m程度 1~2km(搭載物、飛行環境、飛行時間による) 20分程度(搭載物、飛行環境による) 水平±2.0m程度、垂直±0.5m程度 水平10m/s カメラ(小型軽量型) ジンバル(振り角 左右±90°、上下+90°~-20°) センサー(GPS、気圧計、角測度計、加速度計、磁力計) ラジオコントロール受信器(ジンバル姿勢制御用) 無線モデム(カメラ操作用)、画像無線送信機 位置情報送受信機 空撮状況画面表示、位置座標、飛行速度等 フライトコントローラー制御ソフト(機体動作) ウエイトポイントソフト(位置制御) 防水・塩害対策、水没対策、安全対策 フライトコントローラ GPS受信機 防水モータ 位置情報送受信機 洋上版マルチコプターの特徴 九州地方整備局 港湾空港部 防水旋回 カメラケース 浮力体兼 プロペラガード ●高性能な自律飛行システム →移動する船舶への帰還が可能 ●防水・耐塩害対策 →海面への着水が可能 図-3 洋上版マルチコプターのイメージ 5,おわりに 今回の検討では、航行する船舶への搭載と洋上における飛行適応性の課題抽出から対応策の 検討、洋上版としてのマルチコプターのシステム案の作成まで行った。今後、移動する船舶へ の離着陸システム、及び着水を考慮した機体構造を構築した上で試作機を製作し、飛行速力・ 時間、ホバリング等の基本性能の確認、動揺する船舶を想定した離発着、着船における位置精 度等の基本性能確認のための陸上試験を実施し、検証結果を以て海洋環境整備船への搭載を考 えている。実用化の際は、漂流木や浮遊油等の発見・状況把握だけでなく、発災時の岸壁や防 波堤等港湾施設の被災状況把握、調査等、幅広い有効な活用も考えられる。 大規模土砂災害を想定した分解組立型バックホウの活用について 九州防災・火山技術センター 九州技術事務所 火山防災減災課 ◎坂井 佑介 ○山口 学 1,はじめに 災害発生時において、現地状況を早急に把握し現場状況にあった対策を迅速に講 じていくことは重要であり、防災計画の充実など体制の強化を図っている状況であ る。 一方で、適切に対策を実施するためには、対策工法に関する正確な知識があるこ とに加え、特性や工期などを勘案して適切な工法を選択する必要があり、日頃実施 していない手法を採用する場合は、工法特性の みならず採用の可否を決める判断材料があるこ とは特に重要であると考えられる。 九州地方整備局九州技術事務所では、平成2 4年7月の九州北部豪雨を踏まえ、近年頻発し ている広域大規模災害に迅速に対応するため、 平成26年3月に「分解組立型バックホウ」を 配備している。 本発表は、分解組立型バックホウを運用する 上での課題について検証し、より迅速かつ効果 的に活用するために作成した活用マニュアルに ついて報告するものである。 写真1 分解組立型バックホウ 2,分解組立型バックホウの概要 2.1,分解組立型バックホウの配備の理由 深層崩壊など大規模土砂崩落による道路 の被災や河道閉塞等が発生すると、迅速な 応急復旧が求められる。しかし、このよう な土砂災害現場等では、災害現場までの通 行経路途絶等により復旧機材が投入できな い、投入できても二次災害の恐れなどで作 業員の安全確保ができない等の課題がある 。 そこで 、迅速な災害復旧作業を行うため 、 容易な分解・組立てにより空輸が可能で、 遠隔操作も可能な分解組立型バックホウを 配備した。 図 1大規 模土 砂災害 とヘ リポ ートの 位置 関係 2.2,分解組立型バックホウの緒言・特徴 ・全長:9.53m ・全幅:2.98m ・平積み容量:1.0m3 ・輸送時全高(組立時 ):3.35m ・1.0m3級で初めて、空輸対応を実現 → 1 2 ブ ロ ッ ク (1 ブ ロ ッ ク 最 大 2 . 8 t ) に分割してヘリで空輸可能 ・ 無 人 化 施 工 (遠 隔 操 作 )に 対 応 し 危 険 な 箇 所 で の 作 業 が 可 能 (操 作 範 囲 約 1 5 0 m ) 図2 写真2 分解組立型バックホウの分割模式図 分解組立型バックホウのヘリ輸送と遠隔操縦 3,活用マニュアルの作成にむけて 3.1,分解組立型バックホウ活用事例分析 分解組立型バックホウは平成 20 年岩手・宮城内陸地震や平成 23 年台風 12 号に よる豪雨災害等の大規模な土砂災害発生時に導入されている。これらの災害時の活 用事例について 、公表資料を収集整理するとともに 、実際に活用した際の関係者( 地 整職員、工事業者、建設メーカー)に聞き取り調査を行って活用の実際や留意点を 確認した。 ・分解組立型バックホウを現場に配備するまでには約1ヶ月程度時間を要する ・ヘリポートや荷降ろし場の伐採、造成用の 0.1m3 バックホウ、ヘリポートや組 立てヤード用の敷き鉄板の導入は多くの現場で必須 ・分組バックホウは工場での分解が効率的 ・住民対応は地方自治体や区長等を通じて実施することが重要 等 3.2,実地検証 平成26年9月1日に熊本県球磨郡水上村において、分解組立型バックホウの空 輸実地検証を行った。分解組立型バックホウは九州技術事務所の室内実験場に格納 されているため、水上村までの陸送を実施した。陸送前には陸送経路や現地状況等 について確認などを行い、陸送計画を作成した。 空輸実地検証では、熊本県球磨郡水上村の市房ダム管理地-しゃくなげ公園間約 6kmを3t吊り大型ヘリコプターによってカウンタウェイト上部、カウンタウェ イト下部、アーム・バケットユニット(以下、アーム)の3パーツを空輸した。 なお、実地検証は川辺川ダム砂防事務所が主体となり、九州技術事務所も参画し て行った。 図3 重機運搬拠点値に関する相関図 実地検証では分解組立型バックホウ事前準備や空輸 について、様々な課題や留意点が確認された。 ・アーム運搬時、ワイヤーが長すぎてバケットに引 っ掛かり、アームが横倒し(荷揚げ時) ・ヘリがホバリングする時に砂塵が舞うので、養生 すべきところ(特にグリース箇所)は養生が必要 写 真 3 ア ー ム 転 倒 (荷 揚 げ 時 ) ・ヘリポート場所に不陸が存在し 、軟弱地質の場合 、 鉄板敷設等の整備が必要 ・プロペラの風圧により飛散する可能性がある物は 事前撤去等の対応が必要 ・陸送の場合、幅員・支障物等の現地確認でしか知り 得ない障害が存在 写真4 砂塵付着状況 ( アーム ) 4,活用マニュアルの作成 以上の検討結果を反映して、分解組立型バックホウを実際の大規模土砂災害時に 活用するための「分解組立型バックホウ活用マニュアル(案 )」を作成した。 活用マニュアルは切迫した状態において、的確に作業手順や内容を把握できるも のとする必要がある。多くの作業内容を羅列的に整理したマニュアル(案)では、 短期間にこれらの情報を的確に把握することが困難である。 このため、活用マニュアル(案)作成においては、全体の流れや構成、作業手順 を時系列的に整理した【導入編】と、分解組立型バックホウに関する基本的な考え 方や作業内容等を整理した【基本編】の 2 分冊とした。 図4 分解組立型バックホウ活用マニュアル(案)フローと【導入編】の導入の判断時 5,まとめ ・全体的な流れや構成などを工夫し、簡潔で理解しやすい活用マニュアルを作成 することができた。 ・実際に活用した際の関係者に聞き取り調査を行ったことで詳細かつ具体的に留 意点などの課題を抽出できた。 ・更に、実地検証を行ったことにより砂塵付着やアームの転倒など想定できてい なかった事項も明らかにすることができた。 ・今後、このマニュアルを元に実際に活用された方に意見を伺い、新たな課題、 留意点などを加味していくことで、より良いものにしていきたい。 長崎県におけるITS技術を活用した高度な移動支援について 長崎河川国道事務所 1.はじめに 今回報告する事業は、長崎県内における道路情報提供に向 けた手法の検討及び道路利用者の移動実態把握手法の検 討・実証並びに検証を行うものである。 長崎県は観光目的等の県外来訪者が多く、道に不慣れな道 路利用者の情報利用ニーズが高いため、様々な機関が個別に 対応している状況であり、ユーザビリティの面で課題が存在 する。 そこで、地域と連携した利便性の高い情報提供の仕組みの 構築や、それに資する道路利用者の移動実態把握手法の実用 化が必要と想定し、交通ビックデータ(道路プローブデータ、 民間企業が保有するプローブデータ等)の収集・活用を検討 し、ETC2.0 の一般道整備・運用開始を見据え、道路プロー ブデータの有効活用方法や、適切な情報提供手法・内容の検 討を実施するものである。 調査第二課 ◎原田 修 ○本多あらし 図-1 事業位置案内図 2.現況把握 検討の基礎資料となり得る、 「情報連携」や「ビッグデータ」に関する、研究開発を含む 利活用事例を収集し、整理を行った。 表 1 収集した資料及びその概要 表 2 交通ビッグデータの活用事例 収集・整理の結果を以下に考察した。 【各種関連機関における道路情報提供状況について】 連携は各機関がそれぞれ所有・運用する独立ページがリンクを主体にした連携であり、利用 者側の目線からは「地図上で一覧できる」「各機関の配信情報が一様に同時確認できる」とい ったサイトの協働運用の事例は少なく、この点の改善により利用者の情報収集の効率化が可能 と考えられる。 【交通ビッグデータの活用事例について】 官は民間のデータ購入に依存しており、同様な交通ビックデータを官整備のインフラから収 集することが出来れば、その利活用効果は大きいことが把握できた。 3.連携システムの検討・運用 現況把握の結果を踏まえ、直轄国道に設置される ITS スポットを活用した各箇所の道路情報提供 のあり方について検討を行った。また、効率的な道路情報発信を継続的かつ自主的に運用していく ために、スマートフォンや Web ページ等のサービスや連携の仕組みについても検討を実施した。 1)ITS スポットの基礎状況把握 設置位置:長崎県には18基が新規整備される。直轄国道に設置される ITS スポットは、 情報収集(経路情報収集)のみを想定したもので、情報提供機能を有していないが、高速道 路上の ITS スポットでは ITS スポットのアンテナから対応車載器の(DSRC 車載器)に文字・ 音声及び画像情報が提供できることから、将来的な活用も見据え、システムの仕様・条件を 把握した。 【仕様の収集・整理】 ・電波ビーコン 5.8GHz 帯データ形式解説書 アップ/ダウンリンク編 Rev1.3 H23.11 (財団法人道路新産業開発機構) ・スポット通信サービス(DSRC サービス)設計マニュアル(案) (平成 21 年;国土交通省国土技術政策総合研究所) ・スポット通信サービス(DSRC サービス)提供マニュアル(案)(第 0.71 版) (H22.11 西日本高速道路株式会社九州支社) 2)道路利用者の特性分析 ・交通量配分による OD 及び利用経路の分析 ・Web アンケートによる道路利用状況の把握 3)情報取得ニーズの把握分析 ・普段利用している交通情報及び情報収集手段 ・運転するときにほしい交通情報 ・物流事業者へのヒアリング 4)ITS スポットからの提供情報の検討 ・道路利用特性、情報取得ニーズの把握分析結果より、各経路情報収集装置からの道路利 用者に有用な提供情報を検討した。 ≪検討結果≫ ・WEB アンケートから一般利用者において全ての情報に一定のニーズが確認されたこ とから、状況に応じた様々な情報を的確に提供する必要があると考えられる。 ・具体的には、通常時の所要時間情報、有事(渋滞、事故、規制)には提供情報を切 り替えることで、利用者に即した、道路情報の提供が可能となる。 ・所要時間情報提供の基準となる拠点は、流動分析結果(OD 分布)から把握する。 ・事業者ヒアリング結果から、事故危険箇所情報、工事実施状況、提供コンテンツ、 情報のパッケージ化を検討。 5)その他情報提供媒体との連携の検討 ・サービスの深度化の検討 ・連携先の拡大の検討 4.移動実態把握手法検討及び実証と検証 1)ITSスポット等からの取得データの把握 表 3 ITS スポット取得データ仕様の整理結果 2)ITSスポット取得データ活用検討及び移動実態把握手法等の実証と検証 3)道路整備前後での区間旅行速度、拠点間旅行速度を比較し、道路整備効果を表現 4)急制動データの発生状況を分析・把握し、事故危険区間を抽出 5)主要渋滞区間通過交通のOD、移動経路分析を用いた渋滞要因分析 5.まとめ 1)連携システムの検討・運用 これらのことから地域との連携・協業による、道路管理者の保有する情報の効果的な道路 利用者への提供が、具体的に拡大していける可能性を確認できた。 また、情報提供サービスを展開する際の利用者ニーズ、路線ニーズなどもヒアリングやア ンケートを通して確認できた。 この検討結果を踏まえ今後は、ITSスポット等を活用した道路情報提供手法を実際に試行 し、その評価・検証を行っていく。 2)移動実態把握手法の検討及び実証と検証 今年度から取得されている道路プローブデータの仕様及び長崎管内におけるデータ取得 範囲を整理した。 また、道路プローブデータと同様な情報を有する民間企業が保有するプローブデータを使 用し、実際の道路事業へのデータ活用モデルケースを作成し、道路事業への適用性を検討し た。 ≪今後の実施事項≫ ① 検討した情報提供手法の構築 ・検討した情報提供手法を実際に構築する。 ・現状で経路情報収集装置には情報提供機能が具備されていないため、スマートフォン のアプリにより経路情報収集装置の情報提供機能を再現。 ② 検討した道路情報提供手法の試行 ・①で構築したツールを道路利用者に実際に利用してもらうための調査を実施する。(自治 体公用車や物流事業者等の車両への端末設置による調査実施を想定) ③ ④ 検討した道路情報提供手法の評価④ アンケート等による評価 評価結果のフィードバック ⑤ 道路事業への適用を見据えた実際の道路プローブデータの取得 ⑥ 実際の道路プローブデータを用いたモデルケースの充実 図 2 ITS スポットからの情報提供を意識したスマートフォンアプリのイメージ 既存ストック活用による八代港国際物流ターミナルの改良事業について 熊本港湾・空港整備事務所 ◎松延 ○西坂 嘉國 博文 1,はじめに 重要港湾である八代港は、九州中南部地域に立地する企 業の物流拠点として重要な役割を担っている。また、九州 のほとんどの地域と直線で150km範囲で結ぶほぼ中央 にある八代港。その地理的優位性が八代港の最も大きな特 八代港 徴である。八代税関支署の統計資料によると熊本県貿易総 額1,367億円のうち、46%の625億円を取り扱っ ており、八代港は熊本県最大の貿易拠点港となっている。 特に外貿貨物の取扱いについては、穀物飼料の原料、ウ ッドチップ及び石炭を主要品目として、立地企業の合理的 な運営とともに物資の低廉な供給等、国益性の高い港湾活 図‐1 八代港位置図 動を行っている。 このような中、穀物を輸送するバルク貨物船の大型化に対応した国際物流ターミナル 整備として、既存岸壁(水深12m)の増深改良(水深14m化)工事を行った。 本文では、荷役作業に極力支障を与えず改良を行う工法検討、施工時における新技術 を活用しての施工結果及び本岸壁の今後の役割について報告するものである。 法線 岸壁 ベルトコンベア 20.00 4.00 2.80 +3.80 タイロープ(TR-338)c.t.c1.569m +1.50 L. W. L.± 0. 00 -1.00 -13.00 S.C.P(80%) -16.50 S.C.P(80%) -23.00 -23.50 図‐2 標準断面図 写真-1 穀物飼料荷役状況 鋼管杭 φ1,100,t=13mm (SKK400) -13.50 砂 -5.00 -27.30 3.施工方法の検討 対象岸壁は、八代港における最大規格の岸壁で 主に穀物飼料の原料を取り扱っており、立地上及 び経済上からも代替施設の設定が困難であるため、 施工方法の選定条件として荷役作業に極力支障を 与えない工法、施工性、経済性に優れた工法、荷 役機械,クレーン基礎に配慮可能な工法が必要と された。 5.00 11.00 +5.50 H. W. L.+ 4.3 0 鋼管矢板 φ1,320.8(SKY490) t=14mm 2,対象岸壁の構造及び利用状況 本工事の対象となった外港地区岸壁(水深12 m)第1バースは控え鋼管杭式の鋼管矢板構造で、 穀物専用アンローダーが2基設置されており、岸 壁エプロン上の全域に渡りクレーンの杭式基礎 が埋設されている。 また、エプロン背後には穀物運搬用のコンベア が設置されているなど、穀物の荷揚げを主とした 岸壁構造となっている。(図‐1) 3,1,改良手法の選定 岸壁の改良方策については、2段タイ材工法、前面矢板式、前面又は背後固化改良よ り比較検討を行った。2段タイ材工法、前面矢板式等については、いずれも既設クレー ン基礎鋼管杭が障害となりタイ材を施工する事が困難であること、前面矢板式は前出し となり連続バースの利用に支障となることから、前面又は背後固化改良工法を選定した。 (表-1) 表‐1 構造形式の選定 3,2,液状化対策 裏埋砂について「粒度による判定」及び「等価N値、等価加速度」による判定を実施 し、対象工区において液状化する事が判明したため、液状化対策を考慮した検討を行っ た。 3,3,増深改良 供用中の岸壁であり、岸壁の利用状況から、大型の作業船による大規模な改良工事は 採用出来ないため、基本的に液状化対策工法と陸側の主動土圧の低減及び海側の受動抵 抗の増大の対応策の組み合わせによる対応策の検討を行った。 3.4改良工法の検討 地盤改良工法として比較検討を行っ た結果、施工性、経済性、改良効果を 考慮し、岸壁背後の液状化対策につい ては溶液型薬液注入工法、主動土圧の 低減対策として高圧噴射攪拌工法、岸 壁前面の受動抵抗の補強対策として深 層混合処理工法を採用した。 (表-2) 図-3 14m改良標準断面図 改良工法 工法概要 長所 短所 経済性 総合評価 (岸壁背後の改良) ・タイ ロ ープ 構造に対応できない。 ・地盤中にセメン トスラ リー 深層混合処理工法 ・確実な改良効果が得られる 。 (粉体)を 吐出し、原位置土と ・陸上・海上での実績は 撹拌混合して地盤を 豊富である 。 固化する 工法。 ・機械撹拌方式の場合、 構造物への密着施工が 難しい。 ・施工時に変位を 伴い、隣接構造物や 高価 ・工法によ っては、変位を 伴う。 (陸上)× 周辺施設に悪影響を 及ぼす可能性が ある ため適用する ことは難しい。 (岸壁前面の改良) ・海上工事の実績が多く、海側の受動土圧の (海上)○ 強度増加が見込まれる 。 高圧噴射攪拌工法 固結工法 (固結・粒度の 改良) 事前混合処理工法 溶液型薬液注入工法 ・水やセメン トスラ リーを 高圧で ・施工機械が小さく、削孔径が ・多重管の場合、高価である 。 単管または多重管ロ ッドを 小さく確実な改良効果が得られ、 ・ほとんど の工法で排泥が 用いて、地中に噴射し原地盤を 切削、撹拌混合し、固化させる 多重管の場合、変位が少なく 構造物直下や直近での施工性に 発生し、その処理が必要。 但し、排泥を 伴わない工法も 工法である 。 優れる 。 一部ある 。 ・掘削土砂に事前に ・新規の埋立に対して有効な ・既設の場合には、大規模 セメン ト等の安定剤を 添加し、 手段であり、経済的である 。 掘削は必要となり、埋立後は 埋め戻す方法である 。 ・確実な効果が得られる 。 転圧が必要である 。 ・砂質土地盤に薬液や恒久 グラ ウトなど を 浸透注入し、 地盤を 固化する 工法。 軽量混合処理土置換え工法 ・気泡とセメン トスラ リーを 機械的に混合して気泡混合軽量土と する 工法。 ・液状化対策として有効である 。 ・低圧・低吐出のため、既設 ・薬液の逸散防止が 構造物への影響が少ない。 必要となる 場合がある 。 ・削孔径が小さいため、 ・細粒分が40%以上の土層に 中詰直下の改良が可能。 対しては、効果が期待できない。 ・施工機械が小型である 。 ・低変位型を 用いれば、変位が非常に小さく、 超高価 隣接構造物や周辺への悪影響が小さい。 ・φ250㎜の削孔径で施工可能である 。 (陸上)○ ・土圧低減が見込まれる 。 ・裏込雑石の背後を 大規模に掘削する 必要 高価 があり、周辺施設への影響が大きい。 (陸上)× ・岸壁の利用、施工性、経済性に劣る 。 ・施工機械が小型である 。 高価 ・岸壁を 供用しながらの施工が可能である 。 ・低騒音・低振動の施工が可能で、隣接 (陸上)○ 構造物や周辺施設への影響が小さい。 ・土圧低減が見込まれる 。 ・重量や強度の調整が容易、 経済的な配合選定が可能。 ・地下水以下で用いる 場合には ・硬化後に固化し、かつ軽量で 軽量なため、材料分離に ある ため、壁体に与える 留意が必要。 ・裏込雑石の背後を 大規模に掘削する 必要 やや高価 があり、周辺施設への影響が大きい。 (陸上)× ・岸壁の利用、施工性、経済性に劣る 。 土圧軽減が可能。 表‐2 改良工法の検討 4,現地施工 4,1,液状化対策 液状化対策としては、岸壁エプロン部の撤去を必要としない薬液注入工(浸透固化処 理工法)の採用により整備費用のコスト縮減を行えた。(写真-2、写真-3、図-3) (削孔状況) (薬液注入状況) 改良球 写真-2 削孔状況 特殊スリーブパッカー 図-4 浸透固化処理施工状況 写真-3 薬液注入状況 4,2増深改良 改良方法は、増深に伴う岸壁本体部の土圧の低減を図るため、高圧噴射攪拌工法によ る改良断面を決定。また、岸壁前面部(泊地部)においては、受動抵抗の増加を図るた めに、既存のサンドコンパクション地盤改良(80%)を改良することとなったことか らエアーとセメントスラリーを霧状に噴射(吐出)しながら施工する硬質地盤対応型の 深層混合処理工法を海上工事では初めて採用した。今回行った深層混合処理工法は従来 工法に比べ品質のばらつきが小さく高品質の改良体を造成することができた。 写真-4 高圧噴射攪拌施工状況 写真-5 深層混合処理施工状況 写真-6 浚渫施工状況 5,期待される整備効果 本事業により期待される整備効果としまして、以下の効果が期待される。 ・入港船舶の大型化への対応 整備前の岸壁では、貨物を満載し入港できる最大船舶は3万トン(DWT)級で あるが、今後は5万5千トン(DWT)級の船舶が満載で八代港に入港することが 可能となる。 ・物流コストの低減 大型船での満載入港が可能となることから、物資や飼料原料の低廉な調達が可能 となる。 ・産業競争力の向上 物流コストの低減により、製造品などの安価な供給や関連産業の国際競争力の強 化を図ることが可能となる。 ・クルーズ船寄港による効果 世界のクルーズ人口増加にともなう我が国へのクルーズ船の寄港増加やクルー ズ船の大型化に対応した寄港が可能となりクルーズ船の寄港による経済波及効果 が期待される。 写真-7 八代港を訪れた見物客 写真-8 ふ頭内物産展 写真-9 日本製品の買い物状況 6,おわりに 八代港が取り扱う輸出入貨物は、穀物やチップなどの原材料の取扱が多く、八代港(外 港地区)国際物流ターミナルの機能強化は様々な産業活動を支援するとともに「物流コ ストの削減」を実現するものである。これらは企業の進出や様々な産業活動を支える重 要な役割を担っている。 本工事は施工箇所の入退場の制限、入港船や荷役作業等の制約の中、荷役作業への影 響を与えることなく安全に工事を完了することが出来た。また供用中の岸壁という条件 下における施工方法として有効な成果を得ることが出来た。本工事で、得られた知見を 今後の工事の参考にして頂ければ幸いである。 最後に、今回新たに既存岸壁を有効利用し岸壁の一部を大型クルーズ船に対応するた めの受入環境の整備を行ったことにより、今後、熊本県を訪れる外国人観光客の増加、 観光収益の向上、地域の活性化が期待される。 苅田港における L 型消波防波堤の被覆ブロックの適用性について 苅田港湾事務所 保全課 ◎吉川 〇下田 信彦 諭志 1.はじめに 【位置図】 本港航路 周防灘西岸に位置する苅田港の歴 苅田港 北九州空港 史は古く、戦前より筑豊炭積出港とし て整備された港で、昭和 31 年には石 炭火力発電所 1 号機が設置され、その 後、セメントや自動車等の関連企業が 立地・操業し、平成 25 年には取扱貨 第 2 南防波堤 物量が約 3,528 万トンを記録するな ど活発な産業活動が続いている。 新松山地区 その取扱貨物の大半を占める石炭、 南港地区 完成自動車、セメント等の需要増加、 松山地区 自動車 本港地区 船舶の大型化による物流機能の強化 セメント 発電所 に対応するため、昭和 58 年の港湾計 画改訂により、国際物流ターミナル整 備事業として位置づけられ、航路の増 深・拡幅、大型岸壁の整備と併せて港 図-1 苅田港第 2 南防波堤位置図 内の静穏度確保及び航行船舶の安全確 保の目的で、昭和 61 年度から第 2 南防波堤の整備を進めている。 この第 2 南防波堤は、より経済的で施工性にも優れた新しい構造形式の開発 が求められる中で、防波堤に国内で初めて L 型ブロックを用いた L 型消波防波 堤である。その整備に当たり、現地ではカキ養殖への影響を考慮し、施工期間 は秋季から冬季の間と制約があるため、施工途中の波浪等を想定して施工手順 を工夫する等、被災発生リスクへの低減策を導入し工事を行ってきた。しかし ながら、それでも冬季の気象急変に伴い手戻り作業が発生しており、更にその 対策が求められているところである。 本報告は、施工時における手戻り状況や波浪情報を把握し、施工時の安全性 確保及び経済性を考慮した被覆ブロックの適用性について検討した結果を報告 するものである。 【苅田港の特徴】 ・軟弱地盤 苅田港の自然条件を踏まえた構造 ・波浪が比較的小さい 2.検討内容 ・水深が浅い海域 2.1 現行の防波堤構造 港外側 防波堤の構造は、ケーソン式を 採用することが多く、本防波堤も 整備開始時点では同様の構造形 式で整備を進めてきたが、苅田港 の特徴である軟弱地盤で波浪が 比較的小さく、水深が浅い海域と 図-2 現行の L 型消波防波堤断面図 いう自然条件を踏まえて、より経済的な構造形式として、平成 2 年度より L 型 ブロックを使用した構造形式を採用している。 港内側 その特徴は L 型ブロックを堤体とし、前面を石材と消波ブロックで被覆する構 造であり、一般的なケーソン式消波ブロック被覆堤に比べ、軽量かつ堤体幅を 縮減できるため、経済性に優れる形式の防波堤である(表-1 参照)。なお、消 波ブロックの下部には、中詰雑石(5~100kg/個)が消波ブロックの隙間から抜 け出さないよう、被覆石(300~500kg/個)で覆う断面としている。 また、設計上はケーソン式防波堤、L 型ブロック式防波堤ともに中詰材も含 めた質量で波力に抵抗する考え方で安定検討されているが、ケーソン式の場合 は4辺で閉塞された函内に中詰材を投入するのに対し、L 型ブロックは3辺で 囲むものの1辺が開放された形状であることから、中詰材の断面保持のために 速やかに被覆石や消波ブロックを施工する必要がある。 しかしながら、施工途中に波浪により被覆石が散乱する等手戻り作業が発生 する場合もあり、その対策として作業工程の工夫を実施してきたところである。 表-1 ケーソン式との構造比較 ケーソン式 L型ブロック式 概略断面図 構造概要 ケーソン前面に消波ブロックを設置した構造 波浪に対する抵抗 ケーソン自身の自重で抵抗 堤体幅 地盤改良幅 経済性 大 大 △ L型ブロックの底版上に中詰雑石・被覆石・ 消波ブロックを設置できる構造 L型ブロックの底版上の中詰雑石・被覆石・ 消波ブロックの重量も加味した自重で抵抗 小 小 〇(約20%コストダウン) 2.2 現行の施工中のリスク低減策 本工事の施工順序は、L 型ブロック据付、中詰 雑石投入後、被覆石投入・均しを行い最後に消波 ブロックを据付ける工程となる。本港特有の施工 上の制約条件に伴い発生するリスクを低減する ため、工程の遅延や手戻り作業に伴う費用が発生 しない対策として、以下により工事を進めてきた。 【苅田港における施工上の制約条件】 ・工事実施可能期間:10 月~年度末の 3 月 理由:周辺海域で行われているカキ養殖の種付け期間 (7 月~9 月)への濁りの影響を回避するため ・その期間の気象条件: 冬季の気象急変に伴う波浪擾乱も度々発生 【想定される施工中のリスク】 ・消波ブロックを据付ける前の被覆石 (雑石 300~500kg/個)等が露出した状態で ①被覆石均し作業の潜水士船の投入隻数 増により、均し作業日数の短縮 ②消波ブロック据付け作業は、作業 の効率性から2層完成据付け作業 としているが、天候の予報状況によ っては、応急的に1層据付けとする 上部コンクリート 波浪を受けると被覆石の散乱等が生じる場合あり ③被覆石のサイズを規格内で大き目の ものを使用 図-3 施工中のリスク低減策 表-2 苅田港における工事工程 主な工種 4~6月 7~9月 10月 基礎捨石投入・均し L型ブロック据付 苅田港の特徴 10月より工事着手 中詰雑石投入 被覆石投入、均し 消波ブロック据付 カキ種付け 備 考 11月 12月 1月 2月 3月 リスク低減策を取りながら施工 気候急変が発生しやすい! 平面図 :被覆石散乱箇所 A-a 断面図 断面図 ・施工延長全域に渡り被覆石散乱。 ・位置は静水面付近。 a 2.3 施工中の被覆石散乱状況 消波ブロック据付前の状態で工事の進捗状況と冬季の気象急変のタイミング によっては、被覆石の散乱による手戻り作業が発生しており、近年では、平成 24 年度、平成 25 年度と 2 ヵ年続いている。発生時の波高は H=1.5m~1.8m で あり、L 型ブロック据付と中詰雑石投入の状態で、L 型ブロックの安定性を確保 した施工時設計波高 1.9m(3 年確率波)より小さい波高であったが消波ブロッ ク据付前の被覆石が露出していた期間に被災したものである。 被覆石 A 消波ブロック 状況写真 断面図(被覆石散乱時) 図-4 被覆石散乱状況(平成 24 年 12 月 21 日発生) 2.4 手戻り作業状況 被覆石散乱に伴う手戻り作業内容は、散乱した被覆石の「移動・再設置」、 「均 し」であり、手戻り作業に掛かる日数は散乱状況にもよるが、4~7 日程度であ る。手戻り作業に使用する作業船舶は、被覆石の「移動・再設置」のために、 起重機船(70t 吊)が、また、「均し」を行うには、潜水士船が必要である。 2.5 課題の整理 本港特有の施工時期の制約を踏まえ、2.2 項に示したリスク低減策を実施し ているところであるが、冬季の気象急変に伴う波浪擾乱により、近年手戻り作 業の頻度が多く、限られた工期の中で散乱した不定形な被覆石を短期に復旧し なければならない等、工程への影響、手戻り作業のための費用、更には波浪擾 乱により散乱した不安定な被覆石を取り扱うため、安全性の課題も生じている。 工事に当たっては、通常の施工期間中も、被覆材の露出期間を可能な限り短縮 させる作業船団で実施しているため、手戻り作業のために作業船を追加配備さ せることは困難である。したがって、これまでの対策に加え、更なる改善策の 検討が必要と考えた。 手戻発生要因: 被覆石露出状態 での波浪襲来 対策:被覆石露出期間の短期間化 ・従来の対策で取組み済み ・但し、作業船団の増にも限界あり 更なる改善策が必要 表-3 被覆ブロックの安定限界波高 2.6 対策工の検討 被覆ブロック 1t 型 現在検討中の複数の対策工(案)の内、 安定限界波高 H 2.51m 被覆石投入・均しから消波ブロックの据付 3 年確率波 までの期間に来襲する波浪により手戻り作 備考(施工時設計波高) (H=1.9m) 業が発生することから、その状況下でも散 乱しない被覆材として、被覆ブロックの適用性についての検討結果を報告する。 被覆ブロックは、手戻り作業発生時の波高(1.5m~1.8m)でも安定する規格 を条件として比較検討を行った結果、1t型が最適と考えられる。当該被覆ブ ロック(1t 型)の安定限界波高は約 2.5mであり、これまでの手戻り作業発生 時の波高(1.5m~1.8m)より大きい値であることから、今までのような手戻り 作業のリスクが大幅に低減されると思われる。 現行の被覆石と被覆ブロック(案)との経済比較については、被覆石の場合、 標準的な工事費用に手戻り作業に伴う復旧費用も考慮すると、被覆ブロック (案)の方が約 5%の縮減となる結果を得た。 さらに、被覆ブロック(案)は、①中詰雑石均しは発生するものの、被覆石 均しが不要であること、②被覆ブロックは形状が定形で、玉掛方法も確立され ており、据付効率が良く安全性も向上するといった施工上の利点も考えられる。 上部コンクリート 被覆石が露出した状態で、波高 1.5m~1.8m で散乱 現行断面(被覆石 2 層厚) 図-5 断面図の比較 上部コンクリート 安定限界波高は 2.5m で、手戻発 生時の 1.5m~1.8m 以上を確保 見直し断面(被覆ブロック1t型) 3.まとめ 苅田港における工事の制約条件となる、 “港内で行われているカキ養殖の種 付け時期(7 月~9 月)”への濁りの影響を回避した 10 月~年度末の 3 月が工 事実施可能期間であること、また、その期間は、冬季の気象急変に伴う波浪 擾乱などの自然特性も踏まえながら整備を進めてきた新構造形式の L 型消波 防波堤であるが、本対策(案)の検討では、消波ブロック下部の被覆材に被 覆ブロックを使用することにより、今までのような手戻り作業のリスクが大 幅に低減され、総合的なコスト縮減が図られ、かつ施工性及び安全性も向上 すると考えられる。 今後は、関係者の協力を得ながら、他の案も含め詳細な検討を進めていく 予定である。また、苅田港と同様な条件であれば、他港への適用も考えられ るため、本港での取り組みが他港の参考となるよう、引き続き施工情報の取 り纏め等を行いつつ、安全施工に努めていきたい。 小石原川ダムにおけるヤマネの巣箱調査と保全対策 河川部 建設専門官 1 ◎夏目 浩和 独立行政法人水資源機構 朝倉総合事業所 環境課 ○村田 裕 1,はじめに 小石原川ダムは、福岡県朝倉 市及び東峰村に建設する多目的 ダムである(図-1)。現在は付替 道路工事や仮排水路トンネル工 事等を実施するとともに、希少猛 禽類やヤマネ、植物の重要な種 等の動植物のモニタリング調査を 行っている。表-1 に小石原川ダ ムの諸元を示す。 2009 年 9 月に小石原川ダム事 業実施区域においてヤマネが初 図-1 小石原川ダムの位置図 めて確認された。ヤマネは国指定天然記念物であり、 福岡県内での分布情報がほとんどないことから、2010 年 6 月より学識経験者の指導・助言を得て事業実施 区域及びその周辺において巣箱調査を実施した。ま た、関係機関とも協議しながら、ヤマネの保全対策を 検討した。本稿は、小石原川ダムにおけるヤマネの 巣箱調査と保全対策について報告するものである。 表-1 小石原川ダムの諸元 型 式 ロックフィルダム 堤 高 139m 流 域 面 積 20.5km2 湛 水 面 積 1.2km2 総貯水容量 約 40,000 千 m3 2,ヤマネの確認とその対応 ヤマネ Glirulus japonicus は、国指定天然記念物であり、本州、四国、九州、隠岐島後に分布 する日本固有種である。環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧(2007)からランク外(2012)に見直さ れた。一方、福岡県のレッドデータブックでは、準絶滅危惧(2001)から絶滅危惧ⅠB 類(2011)にさ れている。また、1971 年に福岡県添田町と大分県中津市にまたがる英彦山で確認されて以来、 福岡県内からの情報はなかったが、近年、2001 年末から 2002 年春にかけて福岡県築上町(旧築 城町)で連続して 3 個体のヤマネが発見され、その後も添田町、豊前市で確認されている。 小石原川ダムでは、2009 年 9 月 30 日に実施した陸上昆虫類相調査(スウィービング調査)に おいて、道路沿いの広葉樹の枝先に補虫網を振った際に、偶然ヤマネらしき小動物を捕獲した。 1.前 朝倉総合事業所 環境課長 この小動物については、文献や学識経験者 により、ヤマネと確認された(写真-1)。ヤマネ の確認情報については記者発表を行い、新 聞やテレビに取り上げられた。 3,巣箱調査 ヤマネについては、学識経験者の指導・助 言により、2010 年 6 月よりヤマネの確認を目的 とした巣箱調査を開始した。調査にあたって は、「文化財保護法」及び「鳥獣の保護及び 写真-1 2009 年 9 月 30 日に確認したヤマネ 狩猟の適正化に関する法律」の調査に係わる 許可を受け実施した。巣箱は直径 2.5cm の出 入口を樹木側に向け、地上から 2.5m 程度の 高さに設置した(写真-2)。また、2013 年 12 月 よりヤマネの生息状況の把握を目的とし、巣 箱を直ちに設置可能な用地取得済箇所に設 置することにし(図-2)、調査頻度を 1 回/月と した。巣箱内にヤマネの個体が確認された場 合(写真-3)には、体重等の計測及び雌雄判 別を行うとともに、2013 年 12 月の調査からは、 個体識別のためマイクロチップを挿入し、速や 写真-2 巣箱の設置状況 図-2 巣箱(400 個)の設置位置図(2014 年 8 月調査時) かに元の巣箱に放獣することにした。 小石原川ダム周辺では、山腹斜面の大部 分が河川の際までスギ・ヒノキ植林である。調 査ではスギ・ヒノキ植林においてもヤマネが複 数確認され、周辺地域には同様の環境が多く 存在していることから、ヤマネが広く生息でき る環境であると考えられる。 また、ヤマネは平均気温が約 9℃になると 冬眠に入るとされている。巣箱調査期間中の 2010 年度から 2013 年度末までの 4 年間の約 写真-3 巣箱内で確認されたヤマネ 3km 離れた江川ダム気象観測所の平均気温 では、12 月から 2 月にほぼ連続して 9℃を下回っていた(図-3)。同期間の巣箱調査では、12 月に 確認された巣箱が 7 個であったが、翌月連続して確認できた巣箱は 2 個のみであり、3 ヶ月連続 の確認は無かった。更に 12 月、1 月の調査では確認されなかったが、2 月に確認された巣箱が 1 個あった。 このことから当該地域のヤマネについては、冬眠期とされる時期においても、一箇所に留まら ず移動していると考えられる。なお、当該地域は豪雪地帯ではなく、12 月から 2 月においても日 最高気温が 9℃以上になる日もあることから、日中の気温上昇とともにヤマネが冬眠から覚め移動 している可能性もあると推察される。 30.0 12月にヤマネが確認 された巣箱は7箇所 25.0 2ヵ月連続確認 は2箇所のみ 3ヶ月連続確認 はなし 気温(℃) 20.0 15.0 10.0 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 平均 9℃ 5.0 0.0 -5.0 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 図-3 巣箱調査期間中の気温推移(江川ダム気象観測所) 4,保全対策 小石原川ダムでは、学識経験者及び有識者からなる小石原川ダム環境保全対策検討委員会 を設置している。ヤマネの保全対策については、委員会委員の指導・助言に加え、関係機関と協 議を行い、以下の4項目とした。 ①工事や湛水等により改変される区域に巣箱を設置し、巣箱内にヤマネが確認された場合、 ヤマネを巣箱ごと一時捕獲し、改変区域外の安全な場所へ移動させる。 ②樹木伐採は、ヤマネが活発に活動しない時期には実施しないよう配慮していく。 ③樹木伐採に際しては、ヤマネの移動経路に配慮して、周辺林との連続性を確保しながら(例 えば、伐採範囲の標高の低い箇所から高い箇所に向けて等)、実施することを基本とする。 ④改変区域内のうち、水没地外の区域(コア山跡地等)では、ヤマネの生息環境に適した常落 混交広葉樹林の復元・整備を実施する。 特に移動先については、工事や湛水等により改変されないことや、移動個体の行動圏にできる だけ近いこと、移動後は自らの意志で陸域を移動できることを考慮し、ヤマネが確認された近接 地に巣箱ごと移動させることとした。なお、ヤマネの保全対策の一時捕獲及び移動については、 文化財保護法に係る現状変更(一時捕獲及び移動)の許可を得て実施している。 5,まとめ 小石原川ダムでは、学識経験者等の指導・助言を得ながら、ヤマネの保全に係わる巣箱調査 及び保全対策を行ってきた。当該地域におけるヤマネの巣箱調査では、同一巣箱での 2 ヶ月以 上の連続確認が稀であった。スギ・ヒノキ植林においてもヤマネが複数確認され、周辺地域には 同様の環境が多く存在していることから、ヤマネが広く生息できる環境であると考えられる。当該 地域のヤマネについては、冬眠期とされる時期においても一箇所に留まらず、移動していると考 えられる。 なお、今後も事業用地の取得状況により順次巣箱を追加設置し、事業者として引き続きヤマネ の保全対策を適切に実施していく予定である。 謝辞 ヤマネの巣箱調査や保全対策の検討にあたっては、九州歯科大学総合教育学分野環境科学 特任教授の荒井秋晴博士から指導・助言をいただいた。また、関係機関には、文化財保護法に 関する手続き等において指導・助言及び協力をいただいた。ここに謝意を申し上げる。 参考文献 1)福岡県 (2011).福岡県の希少野生生物 -植物群落・植物・哺乳類・鳥類-,193 2)阿部永(2008).日本の哺乳類.東海大学出版会,89 3)馬場稔(2003).築城町でのヤマネの発見 個性ある山村地域の再構築実験事業報告 書,86-89 4)湊秋作(2000).ヤマネって知ってる?.築地書館 映像伝送の高度化に関する技術的検証について ◎情報通信技術活用検討会 技術力向上小委員会 ●企画部 情報通信技術課 外山 喜彦 ○企画部 情報通信技術課 南竹 知己 1,はじめに 災害発生時、被災状況の把握には空撮映像 が有効な役割を果たす事は、過去の災害で明 らかになっており、従前より災害対策用ヘリ コプターを用いた空撮が有効な手段として用 いられてきた。広域的な被災状況の把握につ いては、衛星画像や災害対策用ヘリコプター に搭載したカメラにより、現地の詳細な被災 状況の把握は衛星通信車等、地上設置のカメ ラにより取得されてきたが、法面崩落現場等 で必要とされる斜面の高さ方向に対応した空 撮機器については有効な手段が少なく、限定 的な条件において気球空撮システム等で対応 してきたが、本システムはさまざまな実用上 の課題を抱えていた(図 1,写真 1)。 図1 撮影機材の種類と範囲 一方、近年著しい情報通信技術の発展、特 にバッテリーやIP伝送技術、ビデオカメラ の小型化等に伴い、様々なシーンにおいて小 型無人機(ドローン)により上空からの映像 を撮影することが出来るようになり、災害現 写真1 災害対策用ヘリコプタ 写真2 小型無人機(ドローン) 場等においても利活用出来るようになった。ところが、小型無人機は社会的に報道されてい るように、安全に利活用するためには様々な問題もあり、現在も各機関において問題を 解決するための様々な取り組みが行われているところである(写真 2)。 昨年度、九州地方整備局の専門委員会制度の一部会である情報通信技術活用検討会では映 像伝送の高度化として、小型無人機が抱える技術的課題について、技術的検証・検討それに 対する解決策をとりまとめたので報告する。 2,技術的課題の抽出および検証・検討 九州地方整備局における小型無人機は、平成25年度頃から一部砂防系事務所や九州技術 事務所で試験的に利活用を始めている。機体として九州技術事務所ではヘキサローター(6 発)機の「こはる」を運用しており、管内一部事務所では、クアッドローター(4発)機を 運用している。その後、平成26年度には広島市で発生した土砂災害において九州 TEC-FORCE として出動し被災状況調査に活用している。 情報通信技術活用検討会では、技術的課題の抽出として、小型無人機を運用した経験のあ る職員に聞き取り調査を行うことと併せ、インターネットやマスコミ報道等を通じて、他で の利活用事例の情報を広く収集し、解決すべき課題について整理した。 様々な課題が収集出来たが、主に次の5つの内容について検討を進めることとした。 1.飛行中のリアルタイム映像のモニター及び伝送、カメラ操作等の要望 -1- 2.機体管理・点検の手法等 3.飛行可否の判断を行う気象、場所等、各種条件の明確化 4.操縦者の訓練、必要スキルの明確化 5.フライアウェイ(飛行散逸)の防止 このうち、1については九州技術事務所保有のヘキサローター機である「こはる」の改良 を目的とした機器仕様を作成することとし、既存の防災通信設備である i-RAS やウェアラ ブルデバイス等の活用を前提とした検討・検証を行った。 2∼4については、実際に機体を飛行させる必要があると いう結論から、試験専用の機体として「飛行開発実験機」(ク アッドローター機)を調達し、飛行時間にしてバッテリー4 0パック(約10時間)、延べ200回以上の離着陸を含む飛 行試験や機体の分解調査、飛行制御用コンピュータ(FCU) の設定項目・機能の確認等を行い、その結果をとりまとめた。 なお、飛行開発実験機については、試験時の飛行方向や姿勢 の視認を容易にするために前後・上下方向で非対称の塗装と 写真3 飛行開発実験機(情報通信技術課) している(写真 3)。5については、状況等を実際に再現させることが困難(危険)なこと から、実際の複数事例を調査し、フライアウェイ(飛行散逸)が発生する技術的要因につい て検討し、対策についてとりまとめた。 3,技術的課題に対する解決手法と成果 3.1,空撮リアルタイム映像の伝送及びカメラ操作 実際の災害状況調査で運用経験がある 職員に聞き取り調査を行ったところ、リ アルタイムでの映像伝送及び機体状態の 把握が必要であり、さらにカメラ操作に ついては、2人が操縦とカメラ操作をそ れぞれの送信機で行っており、リクエス トに応じて機体を操作するための連絡・ 連携が難しいという意見が聴取された。 これに対し当検討会では、機体状態の把 握については小型無人機用として市販さ れている機体データ伝送装置を利用する こととするが、映像の伝送とカメラの操作 図1 i-RASメッシュ無線LANを応用した小型無人機搭載のカメラ制御システム については4年前に当委員会で開発した i-RAS(統合網無線アクセスシステム) を活用し、国土交通省の防災情報ネット ワークにつながった整備局や事務所等か ら直接、小型無人機搭載のカメラを遠隔 操作することで、現地職員は機体操作に 専念するという方針を決定し、実験を行 った(写真 4,5)。実際の機体への搭載を 模擬して、気球空撮装置に搭載したカメ ラで試験を行い、上空から映像伝送が出来 写真4 空撮映像伝送試験 写真5 地上でのでの映像受信試験状況 ることを確認した。また、搭載カメラについて小型無人機で利用可能な電圧や重量等、小型 無人機特有の制約に対応出来るカメラ及び通信モジュールの選定、合わせてバッテリー残量 や飛行高度等の機体データを伝送する装置に対応した遠隔操縦装置ついて規定し、最終的に -2- は九州技術事務所保有の「こはる」の改良や新規機体納入時の機器仕様書として使用できる 形で検討結果をとりまとめた。 3.2,飛行可否の判断を行う気象、場所等、各種条件の明確化、機体点検の手法 映像伝送を行うプラットフォームとして小型無人機は、人が立ち入れない危険な場所にも 入る事が出来ること、災害対策用ヘリコプターよりも低い高度で災害現場の詳細な状況が撮 影出来る事等、非常に優れた特性がある一方、墜落、暴走そして犯罪等に利用されるという ことが社会問題化している。法規制についての議論は別にして、どのような時間(昼夜)、 場所、気象等であれば技術的に使用可能であるかを判断するために、 1.事故事例の分析 2.飛行開発実験機による飛行試験 3.機体(飛行開発実験機)の分解調査 を行った。 3.2.1,事故事例の分析(写真 6) 実際に発生した小型無人機による事故を報道およびインターネット等からピックアップ し、特に社会的な影響が大きい事例や整備局で使用する条件に近い事例について詳細に分析 を加えた。その結果、主な事故原因は大まかに次の5つに分類されるものとした。 1.操縦者の技量不足、操縦ミス 2.気象条件・周辺環境 3.機体トラブル 4.上記が複合したもの 5.原因不明 上記原因に対する事故を未然に防ぐため、飛行のための技術 基準・操縦者の練度を向上させる制度等について検討する事とした。写真6 事故状況分析(飛行軌跡) 3.2.2,飛行開発実験機による飛行試験(写真 7) 実際に飛行させることで、どのくらいの風速まで制御を行える のか、 GNSS(衛星測位システム)を利用する場合と、利用出来 ない場合の飛行特性の変化や、突然 GNSS 系の制御が遮断された 場合の対応策の策定、操縦用やリアルタイム伝送用の電波の到達 距離の測定等を行い、基準化すべき具体的な各数値の妥当性の確 認(例:耐風速やバッテリー残量等)や操縦者に必要とされるス キルや訓練内容等の検討に結果を活用した。 写真7 飛行試験状況(飛行前) 3.2.3,飛行開発実験機の分解調査(写真 8,9) 飛行開発実験機を分解調査しメンテナンスの必要な部分や実際の飛行時にどのように機能 しているか等を確認し、飛行前の気象や機体のチェックリスト造りの参考とした。 例えば、モーター制御回路の冷却には外気を導入 していることが判明したことから、雨天時に飛行 させると電子回路が被水し破損する恐れがあるこ とや、制御基盤のコネクター抜けが構造的に発生 しやすい箇所があることから、抜け防止対策等を 実施すること等が成果として得られた。 3.3,操縦者の訓練、必要スキルの明確化 写真8 機体分解状況 写真9 GNSSコネクター抜け防止対策 小型無人機は、従来の無線操縦ラジコンと異なり GNSS(衛星測位システム)機能を搭載 することで、その場で自動的に機体位置・姿勢を保持する機能があり、初めて操縦する人で もある程度の飛行が可能となっている。また、何らかのトラブルにより操縦用の通信が切れ た場合でも GNSS を利用することで自律的に離陸した場所に帰還したり、その場で着陸し たりする機能が備わっている。 -3- このように初心者でも少ないスキルで操縦できる反面、事故事例の分析にもあるように、 操縦者の技量不足、操縦ミスによる事故が多く発生している。これは、小型無人機特有の GNSS 機能に大きく依存して飛行していることに気づかないため、本来飛行できないような 厳しい場所(ビルの合間や橋梁下)・環境(強風や強い上昇気流中等)においても飛行させ、 GNSS が機能しなくなった際に操縦困難に陥ることが原因の一つとして考えられている。 また、安全に業務で活用するためには、操縦訓練のみならず、電子工学、通信工学、制御工 学、気象学、航空学等、さまざまな知識が必要であることから、操縦者に対して講習・訓練 を行い、さらには必要なスキル・知識が備わっているか確認を行う必要があるとの結論に達 したため、これらの訓練・研修・ライセンス等の制度設計について検討を行った。 3.4,上記に対する解決手段のとりまとめ(成果) 最終的なとりまとめとして次の5つを策定し、飛行試験を重ねて改良を行い報告書とし てとりまとめた。小型無人機を運用するにあたって必要となるプロセスを示す(図 2)。小型 無人機の利用を予定する場合、計画の段階から飛行直前、次回の利用に向けてのメンテナン ス、それぞれの時点で誰がチェックを行っても同じような結果が出るように以下に掲げるチ ェックリストや管理用データベース等を作成した。 図2 飛行計画から飛行終了後までのプロセス(オペレーションフロー) 3.4.1,飛行計画策定時のリスク判定マクロ(写真 10) 小型無人機を運用する計画の段階で、まず事故はどのように対策を取っても起こりうると いう前提で、万が一事故が発生しても 人身に重大な影響を及ぼさないかどう かを判定し、リスクが大きい場合は利 活用自体が計画出来ないようにする「リ スク判定マクロ」を作成した。これは、 操縦者のスキルや飛行場所の条件、機 体条件や社会的な影響を定量的に判定 するマクロファイルである。それぞれ の条件でリスクをポイントとして積み 上げていき、100点を上限とするこ とで、飛行の可否を判断するように作 成した。リスクを見える化することに 写真10 リスク判定マクロPC画面 より、飛行を計画する者同士の差やその時の裁量によって運用の可否にばらつきが発生し無 理な飛行となることを防止するための仕組みとして考案した。 -4- 3.4.2,飛行前チェックリスト(図3) 次に、飛行計画が承認されたとしても当日に可変する要因(気象条件、周辺環境、要員配 置、機体状態)について、2人以上の者がチェック(ダブルチ ェック)を行い、飛行可否の判断を行うためのツールとして「飛 行前チェックリスト」を作成した。この作成にあたっては、当 初、チェック項目を多く設けていたが内容が多すぎると時間が かかったり、チェックがずさんになったりすることがあり、か といってチェック項目を減らすと、抜けが発生してチェックリ ストの意味がないことから、安全な飛行に必要な適切なチェッ ク項目とすることに苦心した。また、現場で使用することから PC等を用いず、手書きにより各項目について確認出来るよう に作成した。 3.4.3,VRSチェックリスト(図 4) 図3 飛行前チェックリスト 整備局が小型無人機を運用する中で、特に利用するシーンが 多いと考えられる災害現場は、堤防や法面等の斜面が多い。し かし、小型無人機はプロペラピッチが固定されている構造上の 特性から、斜面等で発生する上昇気流の影響を受けやすい。そ のような場所で運用する場合は、機体の進行方向や高度を調節 して特定の状態に陥らないような工夫が必要である。また、回 転翼機特有の現象として無風状態での降下時に特定の現象(V RS:Voltex Set ling)に陥る事があることから、このような状 態を避けるために、安全な進行方向等を判定するためのVRS チェックリストを作成した。これは、平成26年度に発生した 広島市の土砂災害現場において、九州 TEC-FORCE が小型無人 機を運用した際の意見を参考に作成したものである。本チャー トについても「飛行前チェックリスト」と同様に、現場で操縦者 図4 VRSチェックリスト が「飛行前チェックリスト」と同様に、現場で操縦者がPC等を用いなくても手書きにより、 安全な進行方向等を確認出来るように配慮して作成した。 3.4.4,飛行記録簿データベース(写真 11) 飛行試験を行う過程で、バッテリーの劣化や電 池の交換をいつ行ったか、障害やハードランディ ングを行った後の影響やその際の点検の結果を確 認する目的で飛行管理用データベースを作成し た。試験を進めるうちに機体の管理だけでなく操 縦者のスキルを(飛行経験時間)を合わせて管理 するように改良を加えた。機体の飛行時間管理は 消耗部品(プロペラ、モーター等)の点検・予防 交換を行い、事故を未然に防ぐためには欠かせない 写真11 飛行記録簿(データベース)PC画面 データである。 一方で機体の総飛行時間をストップウォッチ等により厳密に管理する方法では、記録簿への 記入を怠りがちになることから、バッテリーの使用本数を機体の総飛行時間と操縦者の飛行 経験時間に換算(1本=15分)することで、管理簿への確実な記載と管理の省力化の両立 を図った。操縦者の飛行経験時間は、後述するライセンス制度への必要条件と位置づけた。 3.4.5,講習教本、ライセンス制度(図 5) 事故原因の分析の中で、操縦者のスキル、ミスによる事故が多く発生していることが判明 -5- したことから、操縦を行う者には講習を実施し、小 型無人機の操縦に求められる操縦技術と最低限の知 識(電子工学、通信工学、制御工学、気象学、航空 学等)を教えるための教本、パワーポイントを作成 した。また、それらの操縦技術や知識が身に付いて いるか確認するため、実技と学科による試験を経た ライセンス制(整備局内で職員が業務で使用する場 合に限る)とすることを提唱した。さらに実際の災 害現場等で飛行することが出来る上位ライセンスの 取得にあたっては、前述の試験に加えて飛行記録簿 を提出することにより機体管理が出来ていなければ ライセンスも取得出来ないという条件を加味し、操縦 図5 操縦技術実技課題ライセンス証(参考) 者スキルの向上と機体の確実な管理の両立が図れるように配慮した。 4,フライアウェイ(飛行散逸)防止 小型無人機の技術的課題として避けて通れないのがフライアウェイ(飛行散逸)防止対策 である。最近ではメーカー各社も GNSS を二重化したり、障害物センサーを組み込んだり 等の対策を行い始めている。当検討会においても、様々な議論・検討を行ったが、飛行散逸 の完全な防止は物理的に困難であるため、最終的には飛行散逸して行方不明になる前に自発 的に墜落させるという方向で検討を行っている。今年度、特殊な通信装置を機体に取り付け て飛行散逸防止に向けた試験を行う予定である。 5,まとめと課題 現在、各省庁・関係機関で小型無人機の規制に向けた制度設計・法整備が行われている。 図6に各機関の打ち出した技術的見地から見た基準の比較を示す。当専門委員会でとりまと めた技術的基準は各関係機関 の規制案に照らし合わせても 現時点では十分であり、むし ろ厳しい基準となっていると 言える(図 6)。 今後の課題もある。その一 つとしては、機体の部品交換 周期や寿命の設定である。そ の他技術の進歩や法令の整備 に併せて検討・検証を続ける 行く必要があると考える。 情報通信技術活用検討会で は、今後もさらなる安全な小 型無人機の活用に向けた技術 的検証を技術の進歩に合わせ て進めていくものとする。 最後に当委員会実施に際し、 フィールド提供や資料提供を 頂いた事務所の方々に委員会 事務局を代表して心より感謝 図6 各関係機関規制案比較 申し上げます。 -6-
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