土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅲ-387 無線式距離計測システムの現地実証実験結果 坂田電機株式会社 正会員 独立行政法人土木研究所 ○永江 祐 正会員 樋口 佳意 後藤 知英 武士 俊也 正会員 千田 容嗣 宇都 忠和 国土交通省 東北地方整備局 北上川ダム統合管理事務所 石淵ダム管理支所 田中 隆俊 1.はじめに 土塊が流動化・泥濘化し計器が埋没したり,5mを 超える大きな変位の発生または積雪のため地盤伸縮 SR-3 計では計測が困難になるような地すべり環境下で確 受信アンテナ移設先 SR-2 SR-1 実に監視を行うためには,新たな観測装置が必要と なる.このような状況への対処を目的とし,2009 年 既設受信アンテナ に土木研究所との共同研究を通じて,筆者らは無線 式距離計測システムを開発した 1). 既設センサ センサ移設先 開発したシステムは,①非接触で大きな変位をイ ンバー線の張替えや保護管の再設置なしに連続的に 測定できる,②距離計測に 1kHz 以下の周波数を使用 ・植生の影響を受けな しているため土・水(積雪 2)) い,という特長を有している. 本報告では,岩手県奥州市に位置する石淵ダム右 岸の実験フィールドでノイズの影響に関する実証実 験を行ったので,その結果について報告する. 図-1 設置平面図(概要) 2.設置概要 2.1 測定の概要 ケーブル敷(許可申請範囲) 1000 本実証実験フィールドは石淵ダム右岸斜面に位置 受信アンテナ (地表埋設) しており,無線式距離計測システムは図-1 に示すよ アンテナケーブル (地表配管) うに 2008 年 6 月の岩手宮城内陸地震によって変状が 雪囲い 生じた自然斜面に対して主滑落崖を挟んで設置した. 本計測システムのセンサ(アンテナ)には指向性 約13m 電源・通信ケーブル (SR-1 より配管) 2.5m があり,センサの姿勢を鉛直に保つ必要があるため, 液体を封入した姿勢制御ケース内に配置して鉛直方 2.5m 測定器 電源装置 センサ (地表埋設) SR-3伸縮計 SR-3伸縮計 (許可申請範囲) 許可申請範囲) 2000 2000 約2m 向を制御し,地表面下約 20cm の深さに埋設した.ま た,冬季は積雪によって約 6 ヶ月間,現地への立ち 入りが困難となるため,バッテリ寿命を考慮し,約 4 時間 30 分ピッチで信号を発信する連続観測を実施し 図-2 設置平面図(移設後) た. 2.2 ノイズの影響を避けるための再設置 電源ケーブルからの電磁波の輻射によるノイズが原 地盤伸縮計との比較検証のため当初 SR-1 に平行 と考えられることから,電源ケーブルの影響が少な して設置していたが,データのバラツキが大きく, い SR-3 から 5m の離隔を取って再設置した(図-2). 利用できるデータは取得できなかった(図-3) . キーワード 地すべり,計測,地盤伸縮計,ICT 連絡先 〒202-0022 東京都西東京市柳沢 2-17-20 坂田電機株式会社 -773- TEL042-464-3281 土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅲ-387 さい地 30 30 無線式距離計 累積変動図(移設前) 20 累 10 積 変 位 0 量 累 10 積 変 位 0 量 c m ‐10 c m ‐10 ( ( 20 無線式距離計 累積変動図(移設後) ) ) ‐20 観測値(cm) ‐20 カルマンフィルタ出力(cm) カルマンフィルタ出力(cm) ‐30 2010/9/9 2010/10/29 観測月日 ‐30 2009/10/14 2009/12/3 図-3 2010/1/22 2010/3/13 観測月日 2010/5/2 2010/6/21 観測値(cm) 無線式距離計累積変動図(左図:移設前、右図:移設後) 表-1 移設前後のノイズの影響とバラツキ 項目 観測期間 計測距離a 信号受信電圧 VS 移設前 2009/11/17~ 2010/4/30 16m 0.166V 0.5m 移設後 2010/10/1~ 2010/10.30 13m 0.303V 2.5m 35 ノイズ電圧(mV) 評価 3σ 0.024V 6.8 62mm 186mm 0.003V 119 9.2mm 27.6mm 離すことで,ノイズ電圧の低減(S/N 比の改善)を S-3周辺 (ノイズ確認) 25 計測値のバラツキ dev 標準偏差 さいすべり地では,電源ケーブルからの距離を数 m S-1周辺 (移設前) 30 S/N比 R 電源ケーブルと受信アンテナ 平均ノイズ電圧 の距離d VN S-3周辺 (移設後) 図ることができることがわかる. 20 5.考察 15 10 今回の実証実験では,本計測システムを設置する 5 上では電源ケーブルと受信アンテナの配置に留意し 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 て S/N 比を向上することで測定値のバラツキが低減 3.5 できることがわかった.しかし,ノイズ電圧は電源 電源ケーブルからの距離(m) 図-4 電源ケーブル-受信アンテナ間距離と ケーブルからの距離だけでなく,電源ケーブルとの ノイズ電圧の関係 位置関係,遮蔽状況や電源ケーブルに接続される負 3.計測結果および移設前後の信号対ノイズ比 荷などの条件で異なること,都市部・工業地区など 図-3 に移設前後の変位計測データ,表-1 に移設前 後の信号対ノイズ比と測定値のバラツキを示す.移 では電源ケーブル以外からノイズが発生することに も注意する必要がある. 設前(図-3 左)と移設後(図-2 右)の観測結果を比 今後は大幅な精度向上に向けて計器設置方法を改 較すると,バラツキが改善されていることがわかる. 良していきたいと考えている. 表-1 の結果から,計測値のバラツキ dev は,ノイズ 【謝辞】 軽減のために受信アンテナの配置を検討し,S/N 比 速道路中央研究所),坂本孝之 前土木研究所交流研究員(現・ を向上すれば,小さくすることが可能となる. (株)エイト日本技術開発)に,多大なるご指導・ご協力を なお,移設前に隣接していた地盤伸縮計 SR-1 の累 藤澤和範 前土木研究所上席研究員(現・(株)高 頂きました.ここに記して感謝の意を表します. 積変位は+5.0mm,移設後に隣接した地盤伸縮計 【参考文献】 SR-3 の累積変位は+0.7mm であり,本システムの精 1) (独)土木研究所ほか (2009): 「厳しい条件下での使用に耐えうる地 度である cm オーダーの検証ができなかった. すべり観測装置の開発」 4.電源ケーブルからの距離とノイズ電圧 共同研究報告書 2009.6 2) 千田容嗣・宇都忠和・藤澤和範・後藤知英(2010) :積雪時での地 電源ケーブルからの距離と,ノイズ電圧との関係 を示す(図-4).バックグラウンドノイズの比較的小 -774- すべり動態観測-無線式距離計測システムの活用-,土木技術資 料,Vol52-12, pp52-53.
© Copyright 2024 Paperzz