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デジタル・トランスフォーメーション
~顧客中心のデジタル変革
デジタル・トランスフォーメーション
顧客中心のデジタル変革
デジタルは人々の体験を再定義し、
生活、仕事、娯楽、人間関係の在り
方に変革をもたらしています。デジ
タルによりあらゆるものが再考さ
れ、シンプルに、そしてより良いもの
へと変化していきます。人々が生涯
を通じて変わらないと信じてきたも
のまでも、その変化の対象となる
のです。
多くの企業は、人々の行動を形成す
るデジタルの影響力を無視できな
いことに気づきはじめています。
これまで顧客を引き付け、関係を
構築し、保持してきた手法が急速
に陳腐化する可能性もあるのです。
変化が常態化し、ベストプラクティ
スの再定義が異常な速度で見直さ
れているこの時代に、顧客との関
係性を高めるデジタル・ビジネス
を構築するには何をすべきなので
しょうか。
アクセンチュア「マリオット・インターナショナ
デジタルという
眼鏡を通して
調査を見てみると、デジタル時代において
ビジネスを成功させるためには、顧客との
関係性を強化する事がいかに重要であるか
がわかります。
今日、ビジネスを成功させるためには、顧
客中心のデジタル変革が不可欠です。その • ブランド認知 ―― インターブランド社は
2000 年からグローバル・ブランド上位 100 社
ためには、自社にとってより重要性の高い
を発表していますが、毎年トップの座を占
顧客体験を選別し、その顧客体験に即して、
めていたコカコーラが初めて 3 位に滑り落
組織、プロセス、テクノロジーを再編成する
ち、代わってアップルと Google が 1、2 位
ことが必要です。
となりました。事実、グローバル・ブランド
顧客を獲得するには、変化する顧客ニーズ
上位 5 社中 4 社は、デジタル・エコシス
に常時かつ迅速に対応することが必要なた
テムの推進や形成に関わる企業が占めて
3
め、デジタル変革のプロセスは企業によっ
います 。
て異なり、不変ではありません。
• 株価パフォーマンス ―― ウォーターマーク・
先進的な企業は、デジタルにしっかりと軸
コンサルティングの調査では、顧客体験
足を置いた、顧客体験の再定義を始めてい
を重視する企業の株価は市場のパフォー
ます。世界的なホテルチェーンであるマリ
マンスを上回ることがわかりました。過去
オットはあらゆる言語に対応した豊富な
6 年間における累積株価リターンを調べた
サービスをオンラインで提供することによ
ところ、顧客体験を重視する企業は 43% の
り、年間 70 億ドルのネット上の売上を達成
リターンをあげ、S&P 指数の 14.5% を大
1
しています 。またネスプレッソは、マルチ
きく上回りました。反対に、顧客体験をあ
チャネルのデジタルソリューションを活用
まり重視しない企業のリターンは -33.9% で
し、個々の顧客に合わせた、これまでより
市場平均を大幅に下回っています(図表 1
4
も完成度の高い顧客体験を全世界 41 カ国で
参照) 。
2
提供しています 。
• 顧客ロイヤルティ ―― フォレスターの調べ
このような顧客との結びつき、関係性を強
によると、顧客体験の質の向上と顧客ロ
めるデジタル化の取り組みは、もはや選択
イヤルティ醸成による売上増には相関関
肢ではなく必須条件なのです。そして多く
係があります。この顧客ロイヤルティに
の企業にとって、デジタル化への取り組み
は、上質の体験を享受した顧客のリピー
は 将 来 の 存 続 要 件 と な り つ つ あ り ま す。
ト購入増加、購入先乗換率の減少や口コ
今こそ、デジタル化のアクションを取る時
ミ増加が含まれます。同調査では、顧客
です。
ロイヤルティ向上によって大幅な増収が
期待できる業界として、ワイヤレス通信
、航空業界(20 億ドル)
、
業界(30 億ドル)
5
ホテル業界(10 億ドル)をあげています 。
インターブランド「2013 年ベスト・グローバル・
マキシー・シュミット・サブラメニアン(フォレ
1
3
5
ルが取り組むウェブコンテンツの最適化」(2012 年)
ブランド」
スター・リサーチ)「顧客体験が与える事業への影響
アクセンチュア「アクセンチュアとハイブリス・
ジョン・ピコルト(ウォーターマーク・コンサルティ
2
4
チームがグローバル企業向けマルチチャネル型事業
ング)「ウォーターマーク・コンサルティング 2013
ソリューション・サービスを開始」
(2013 年 8 月 5 日
年度顧客体験 ROI 調査」
プレスリリース)
2
(2013 年版)」(2013 年 6 月 10 日)
図表 1 顧客体験(CxP)を重視する企業が市場を圧倒
CxP 重視企業 vs. CxP 非重視企業 vs. S&P500 種株価指数(2007 年~ 2012 年)の 6 年間累積株価パフォーマンス
© 2013 Watermark Consulting
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
CxP 重視企業 43.0%
S&P500 種
株価指数 14.5%
10.0%
0.0%
-10.0%
-20.0%
-30.0%
CxP 非重視企業 -33.9%
-40.0%
3
顧客体験を重視する企業は、デジタルはテ
クノロジーを主力としたものではないこと
を理解しています。こうした企業は、デジ
タルの実態を受入れ、支持するとともに、
既存および見込み顧客との関係性向上(新
たな顧客体験の創出やサービスモデルの構
築から事業変革まで)を考えに考え、考え
6
抜いているのです 。また、自分たちの周辺
にあるあらゆるモノの順序をデジタルが逆
転させる状況を継続して察知し、その変化
に対応しているのです。
あらゆる場面で、常に強化される
顧客のちから
購買意志決定にデジタル・メディアが与え
る影響は増加しています。上述の調査では、
商品情報をデジタル情報源(企業のウェブ
サイト、インターネットのニュースやレビュー
サイト、商品比較サイト)から獲得する機
会が急増していることや、こうした情報源
は顧客の購買意志決定に大きな影響を与え
10
ていることが分かります 。こうした傾向
は、引き続きデジタルチャネルが、主力な
情報源として店舗内広告や印刷広告などの
従来型チャネルを上回って成長することを
示しています。
その他にも、独自の脚本に沿って既存サー
ビスを改良した新興デジタル競合企業の台
頭が見うけられます。 例えば、ペイパルは、
これまで別々の事業領域として考えられて
いた、銀行業と小売業の融合に取り組んで
います。また、テスラは、自動車の購入体
験を一新してしまいました。このように、
従来の業界間の境界線が不鮮明になってい
ることは、全世界の業界大手を相手に、競
争環境を激変することができる新しいパー
トナーシップやエコシステムの誕生を示唆
していると言えます。
有能なマーケティング担当者は、この傾向 テクノロジーは人々の可能性を
の重要性を理解しています。アクセンチュ
向上させる一方、ビジネスを
私たちが暮らすデジタルの世界は、ノンス アの調査では、シニア・マーケティング・
混乱させる
7
トップ・カスタマーを生み出しました 。この エグゼクティブの 65% が、顧客との関係
種の顧客は、よく考え、企業との関係性の 性がマーケティング戦略に最も長期的な影 テクノロジーがデジタル革命に大きく貢献
11
響を与えると回答しています 。これこそ、
強さによって意思決定をします。
していることは疑う余地がありません。テ
優れたデジタル体験を提供することが必須
クノロジーの進展やデバイス革新の量とス
ノ ン ス ト ッ プ・ カ ス タ マ ー は、 す べ て の 条件であるもう一つの理由です。
ピードは、前例のない水準にまで達してい
デジタルおよび物理的チャネルを通じて、
ます。ましてや、今後どのようになるかは
高品質かつ関係性の高いやりとりを実現 競合の変貌、異なる競合の出現
予想できません。そして、大多数の企業は、
するという、企業への期待を増大させてき
続々と登場する新しいプラットフォームへ
ました。実際のところ、ノンストップ・カス デジタルは競争環境に変化をもたらしてい
の対応に苦しんでいるのです。
タマーの多くは、上質の顧客サービスを享 ます。あらゆる業界で、従来型企業は新た
受するために個人情報を共有することを惜 な独自性を探求しています。例えば、英国 テクノロジーの重要性はその機能自体にも
8
しみません 。また、非常に非直線的で複雑 のスーパーマーケット・チェーンであるテ ありますが、むしろその機能が利用者の能
な購買経路を辿ることも特徴です。この種 スコは、オンデマンド・ビデオを提供する 力を向上させ、人々の体験に変化をもたら
の顧客は、コンテンツや様々な顧客体験だ 娯楽サービス事業を開始しました。これは、
すところにあります。メディア、デバイス、
けでなく、製品やサービスにいたるまでを、
同社が顧客のロイヤルティ・カードを通じて プラットフォームの選択肢が増加し、また
12
企業と共に作り上げる機会を強く求めて 蓄積した情報を活用した新規事業です 。 手軽に利用できるようになったことで、こ
い ま す。 す な わ ち、 バ リ ュ ー チ ェ ー ン の また、米国大手小売業のウォルマートは、
れらは人々にとってますます身近なものと
インターネット大学と提携し、
従業員向け教
全行程において顧客との協働が求められて
なり、より多くの形でより多くの利用者に
13
育プログラムの作成に取り組んでいます 。
います。
影響を与えています。
この種の顧客は、ソーシャル・メディアを
通じて自分たちの感動や批判を素早く広め
ることができます。そして、購入した商品
が 自 分 た ち の 求 め た 商 品 で な い 場 合 や、
求めたタイミングで購入できない場合は、
躊 躇 な く 購 入 先 を 変 更 し て い る の で す。
事実、アクセンチュアのグローバル調査で
は、一昨年だけでも 66% の顧客が、顧客サー
ビスへの不満を理由に購入先を変更してい
9
ます 。
アクセンチュア 「 デジタルワールドに向けての
6
成長戦略 」(2014 年 3 月)
アクセンチュア 「 ノンストップ・カスタマーに対応
7
する 」(2012 年 10 月) アクセンチュア・インタラクティブ「調査結果 例えば、文字通り、人をテクノロジーと接
続するウェアラブルデバイス市場は、2013
年の 14 億ドルから 2018 年には 190 億ドル
14
にまで成長すると予想されています 。
アクセンチュア「2013 年グローバル波動調査 9
「デジタル顧客」勝つアクションを取り、負けるアク
ションを止めるのは今」(2013 年 11 月)
同上
10
アクセンチュア・インタラクティブ「CMO の課題
8
11
今日の顧客選好――チャネル、ソーシャル・メディア、
シームレスな顧客体験への道程を計画する」(2013
個人情報とパーソナライズ化された体験」(2012 年
年 5 月)
11 月)
12
BBC「 テ ス コ が 試 験 的 オ ン・ デ マ ン ド の 映 画 と
テレビ番組配信サービスに着手」(2013 年 2 月 12 日
放送、2013 年 12 月 5 日にアクセス)
4
ステファニー・クリフォード、ステファニー・ロー
13
ゼンブルーム「ウォルマートが従業員に大学教育を
提供」(2010 年 6 月 3 日、2013 年 12 月 5 日にアク
セス)
ジュニパー・リサーチ「プレスリリース―モバイル・
14
スマート・ウェアラブルデバイスの市場規模は 2018
年 ま で に 190 億 ド ル ま で 拡 大 予 想( ジ ュ ニ パ ー・
リサーチ調べ)」(2013 年 10 月 15 日、2013 年 12 月
3 日にアクセス)
5
現状維持からの脱出
これまで、多くの企業の事業を成功させて
きたビジネス・モデルは、今や企業にとっ
て悩みの種になりつつあります。既存の大
手企業にとって強みであった規模、組織力、
文化は、デジタル時代において、迅速性を
阻む足かせとなってきています。かつては
情報の標準であったブリタニカ大百科事典
は、2012 年に印刷版百科事典の発行の廃止
を 発 表 し、244 年 の 歴 史 に 幕 を お ろ し ま
した。2010 年には、米国でインターネット
広告収入が新聞広告収入を上回りました。
ちなみに、これは新聞紙面に初めて広告が
15
登場してから 305 年後の出来事です 。
多くの企業は機敏な新規参入企業の後塵を
拝しています。環境の変化はこうした新規
参入企業が創りだして、時には先回りして
いますが、彼らはすでにデジタルの成功か
ら、利益を享受できる体質を持っているの
です。
1 最上の喜びを提供
3 柔軟性のあるプラットフォームを構築
企業がすべてのチャネルにおいて上質の
顧客体験とサービスを設計するためには、
顧客が求めていることを理解しなければな
りません。そして顧客が接するシステムは、
顧客との関係性を高め、シンプルで洗練さ
れたものでなければなりません。これは、
デジタル・ビジネスの先駆者であるアマゾ
ンがいつも得意としてきたことです。アマ
ゾンは、顧客が求めている商品を的確に、
手間のかからない方法で購入できる手段を
提供する事で顧客を獲得すると同時に、常
16
に顧客体験の向上に努めています 。
マーケティング、コンテンツ、コマーステク
ノロジー基盤を最適化する、必要ならば再
構築することは、顧客体験や社内業務に活
力を与えます。テクノロジー・システムは、
堅牢で拡張性に優れ、即座に導入できるも
のでなければなりません。ある大手グロー
バル消費財企業は、デジタル変革プロジェ
クトの延長として、包括的なデジタル・ダッ
シュボード・アーキテクチャの構築に着手
しています。この柔軟性を備えたテクノロ
ジー・ソリューションは、複数のデジタル
ソースからの情報を保持し、グローバルの
デジタル・マーケティング関連分析、イン
サイト会得、各種測定に必要な戦略的ビジ
ネス・インテリジェンス・プラットフォー
ムを提供しています。
2 事業の再設定
企業は、情報分析能力を企業の核として組
幸いなことに、勝機が全くないわけではあ み込みながら、ブランディングと顧客中心
りません。デジタルの実態を受入れ、支持 経営を実行しなければなりません。また、
するとともに、それを活用して顧客との関 業務プロセス・システムは、効果的、効率
係性強化を図る企業にとっては、大きなビ 的かつ投資対効果を得られるものでなけれ
ジネスチャンスが到来していると言えます。 ばなりません。 顧客を主体に自社業務を再
編成する必要性に気付いた BMW は、自動
大半の企業にとってのデジタル変革は、顧 車シートメーカーのリア・コープと提携し、
客との関係性を、持続的かつ大規模に構築 電子かんばん方式のデジタルソリューショ
するために、「外から内」へと視点を転換す ンを採用してサプライチェーンの合理化に
る事を必要とします。企業は、まず「見え 取り組んでいます 17。このシステムでは進
る部分」の改革を検討する必要があります。 捗状況の注意深い監視や、数値を基にした
見える部分とは、顧客が直接的に企業に触 評価とあわせて、必要に応じた柔軟な設定
れる全ての接点です。 企業は明確なカスタ 変更ができます。
マージャーニーを基にして、顧客には「見
えない部分」、すなわち社内業務とテクノロ
ジー基盤を再調整することが必要です。何
故ならば、これらが顧客体験を造成、もし
くは破壊する要因となりうるからです(図
表 2 参照)。
メ ア リ ー・ ミ ー カ ー(KPCB)「Kleiner
Perkins 17 ラディガー・スターン、マティアス・ジーグラー
Caufield Byers インターネット動向 2012 年」(2012 (アクセンチュア)「広報誌 Outlook の Point of View
年 5 月 30 日、2013 年 12 月 3 日にアクセス)
デジタル・バリュー・チェーン対応は十分ですか?」
(
2013 年 8 月)
16
J.J. マッコービ「アマゾン・フレッシュは、ジェフ・
ベゾが挑戦する小売業完全支配への最後の 1 マイル」
(2013 年 8 月 5 日、2013 年 12 月 3 日にアクセス)
15
6
上 記 の 3 要 素 を、 そ の 成 熟 度 の 違 い は 問
わ ず、 再 編 成 し 同 時 に 実 行 す る こ と で、
デジタル変革を実現することができます。
デジタル変革によって、既存事業の有効性
および効率性が急速に改善し、力強い企業
成長が期待できます。あるいは、上質の顧
客体験を実現する新製品やサービスを投入
することによって、事業の差別化を図るこ
とも可能となります。しかし、最大の成果
は業績の画期的な向上です。これはスウェー
デンの携帯電話事業者である 3(スリー)が、
My3 アプリを公開した時に裏付けられま
した。同社は、カスタマインサイトを手引
きに、顧客にとっては不快だった月次請求
書を、強力な顧客関係性を強めるツールへ
と変貌させました。My3 アプリは画期的な
スマートフォン用アプリで、利用者は同社
サービス利用時に必要な情報へアクセスす
ることができるようになり、カスタマー・
センターへの問い合わせ電話件数が減少し
18
ました 。
フィヨルド「楽しい請求書の作成――電話料金請
18
求書に関する疑問を解消する詳細説明サービス事業
を構築」(2013 年 12 月 3 日にアクセス)
図表 2 持続的かつ大規模な顧客関係性の構築
顧客との持続的な関係性を構築するには、以下の 3 要素が必要となります。
最上の喜びを提供
顧客を理解した上で、
すべての
チャネルで上質な体験および
サービスを設計する
関係性、洗練、シンプル
自社事業の再設定
情報分析能力を企業の核として組み
込むと同時に、
顧客中心経営、
機敏性向上に向けた事業展開および
業務プロセスの変革に着手する
有効性、機敏性、ROIの達成
柔軟性のある
プラットフォームを構築
マーケティング、
コンテンツ、
コマーステクノロジー、
業務運営
(機能向上の必要性に応じて拡張)
の
最適化によって事業および顧客
体験に活力を与える
堅牢性、拡張性、即時利用性
7
同じカスタマージャー
ニーは存在しない
マインドセット ―― デジタルの
定義を拡張する
多くの企業は、自社にとってのデジタルの
定義をあまり理解できていません。キャン
ペーン主導による、あるいはテクノロジー
主導によるデジタルの考え方は、デジタル
を組織の一部分に閉じてしまい、持続的な
ビジネスの成功にデジタルを活用しきれな
いことにつながります。企業が実践しなけ
ればならないのは、デジタルをスタッフ、
プロセス、テクノロジーを含む自社のあら
ゆる業務に投入し、全社レベルの包括的
こ れ ま で の ア ク セ ン チ ュ ア の 経 験 で は、
なデジタル・エコシステムを構築すること
5 つの構成要素がデジタル変革を可能にし
です。
ています(図表 3 参照)。デジタル・ビジ
ネスでは極端な顧客中心主義を実践しなけ 英国のある大手小売企業は、この考え方を
ればなりません。データ管理を核としなが 理解し、自社のデジタル変革に適用してい
ら、専門的な分析能力・洞察力、コンテンツ ます。同社はデジタル変革 5 カ年計画を始
管理を支柱とするデジタル・ビジネスは、 動し、デジタル小売業として新境地を開拓
全方位的かつ統合的な顧客体験をもたらす しています。同社の改革はマーケティング
サービスを提供します。組織と企業文化の 領域に留まらず、ビジネス・インテリジェ
改革、そして適切な業務プロセスはこれら 5 ンス機能の向上、マルチチャネル・プラッ
つの構成要素を基に成り立ちますが、これ トフォーム、費用効率の高いサプライチェー
は多くの場合、難易度の高い取り組みです。 ン、新しい販売業務プロセスなどが含まれ
顧客中心のデジタル変革プロセスは各企業
で異なります。多くの場合、継続して改善が
必要な、想定外の回り道が必要になります。
業界の混乱状況や市場成熟度といった多く
の要因が、プロセスの進行を左右すること
になります。デジタル変革は非常に大きな
機会である一方、安易な解決策になること
はないのです。
その取り組みは高いリスクを伴うため、着手
するには多大な労力が必要になると思い
ます。しかし、迅速なデジタル変革を実行
するために、企業が注力すべき事があり
ます。それは、あらゆる場面で顧客体験を
優先していく事です。
ています。
顧客接点 ―― 顧客の自社評価を
把握する
競合他社のベンチマーキングは、デジタル
変革のための正しい洞察を、常に提供して
くれるとは限りません。何故ならば各社の
デジタル成熟度は大きく異なるため、短期
的なベンチマーキングは、リンゴとみかん
を比較するような取り組みになりがちで、
実 用 的 な 示 唆 の 提 供 に つ な が ら な い の
です。また、このような取り組みは、顧客
中心のデジタル・ビジネスにとって重要な
指標を見逃す事につながる場合があります。
すなわち、「顧客は自社をどう評価してい
るのか」という指標です。顧客は自身の顧
客体験を満足できるものと考えているので
しょうか?自社が提供するサービスは、新
規顧客がリピーターとなるほど上質なもの
なのでしょうか?
デジタル変革の一環として、従来からの
ベンチマーキング手法を補強することで、
正しい顧客満足度水準を把握することがで
きます。この手法は、論理的な自社の魅力
と感情的な自社の魅力の両方を測定します。
APCO ワールドワイドが発表する「最も好
まれる企業 100 社」評価は、顧客のブラン
ドに対する意識を理解することに根差し、
顧客と企業の感情的なつながりに基づいて
各社を順位付けしている点で、上記の手法
19
の一例と言えます 。
図表 3 デジタル・ビジネスの構成要素
カスタマージャーニー青写真
統合的サービス
(顧客との対話を
パーソナライズ
する)
分析と
インテリジェンス
データ管理
コンテンツ管理
組織構造、文化、パートナーを連携するエコシステム
8
オムニチャネル
体験(オンライン、
オフライン、
モバイル)
リーダーシップ ―― トップから
の推進力を得る
ユニリーバは、一貫したデジタル教育の必
要性に気付き、既設の上海拠点に加えてイ
ンドにメディア研究所を設立し最先端のデ
デジタル変革は企業のトップが先導し、組 ジタル手法やツールを全社員で共有する努
22
織内に浸透させなければなりません。組織 力をしています 。また、ネスレのデジタ
全体が変革達成目標を共有するためには、 ル化推進部門は、世界各地のマーケティン
全ての最高経営幹部が責任を負い、高いレ グ責任者を一堂に集め、8 ヶ月間の集中デ
ベルで協働することが求められます。CEO、 ジタル研修プログラムを行っています。同
CIO、CMO、あるいは理想的には複数の最 プログラムへの参加者は、研修後はデジタ
高経営幹部が、変革を自社の状況に従って ルに精通した新しい手法の推進者として顧
23
先導することになるため、規範的手法は存 客サービスを提供できるようになります 。
在しません。デジタル変革の場合、最高顧客 こうした研修プログラムは、各市場におけ
体験責任者(CXO: Chief Experience Officer) るデジタル成熟度に合わせて作成すること
といった職務を新設し変革の先導を試みる ができます。
企業もあります。ガートナーの調査では、
企業経営者の 19% は 2014 年内に最高デジ チームワーク ―― デジタル・
タル責任者を設置し、同 17% は最高データ アカウンタビリティの促進
20
責任者を任命する予定があるとしています 。
デジタル変革で不可欠なものとして、名実
バーバリーが、典型的な英国のブランドか ともに協働作業を可能にする組織作りがあ
らグローバルなデジタル先駆者として認 げられます。組織の各事業部門に配属され
識されるまでに進化できたのは、最高経営 たスタッフに対してデジタル・パフォーマ
幹部が変革を先導したからです。前 CEO のア ンス評価指標を設定し、高い評価を得たス
ンジェラ・アーレンツ(現在はアップルの実 タッフにインセンティブを与えることも有
店舗およびオンライン・ストア統括幹部)が 効な方法でしょう。
陣頭指揮を執った同社のデジタル革新は大
成功し、同氏の手腕は大きく評価されてい 起業家精神 ―― 飽くなき向上の
21
ます 。
宣言
教育 ―― デジタルの影響力を
伝える
多くの企業では、一握りの社員しかデジタ
ルに関する専門知識を持っていません。今後
の課題は、デジタルに関する知識を隔離さ
れた集団の中だけに留めず、組織全体に組
み込んでいくことです。
APCO ワールドワイド「ディズニー、Yahoo!、Google
真意でデジタル・ビジネスを主導するため
には、常に誰よりもよく考え、ものごとに
取り組む姿勢が必要です。デジタル変革の
プロセスを通じて、企業は「この状況でアッ
プルや Google ならどう対応するか」を自問
自答する必要があります。
セイガー・マルビヤ & アミット・バプナ「ヒンドゥ
19
22
――最も好まれる企業 100 社」(2013 年 10 月 10 日、
スタン・ユニリーバがムンバイに管理者向けデジタル・
2013 年 12 月 3 日にアクセス )
メディア研究所を設立」
(2013 年 7 月 26 日、2014 年
ガートナー社「CEO と上級管理者調査(2013 年)
20
――不透明感が後退するなかで、未来のデジタル事業
環境が台頭」(2013 年)
シーナ・マッケンジー「アンジェラ・アーレンツ
21
3 月 5 日にアクセス)
YouTube「ネスレのデジタル化推進部」(2013 年
12 月 3 日にアクセス)
23
The
24
Paypers「ギャランティがソーシャル・メディア
(バーバリー CEO)、遺産ブランドをデジタル転換さ
統合型携帯電話専用バンキングサービスを開始」
せた人」(2013 年 10 月 15 日、2013 年 12 月 3 日に
(2013 年 8 月 28 日、2013 年 12 月 3 日にアクセス)
この起業家精神は、企業を安全地帯の外、す
なわち刺激的で素晴らしい出来事が起こる
場所へと導きます。一例としては、トルコ
のギャランティ銀行が iGaranti を立ち上げ
たことがあげられます。iGaranti は同行の
モバイル専用の銀行サービスで、顧客はカス
タマイズした銀行サービスを受けることが
24
できます 。またナイキは、同社が持つ革新
的な DNA を活かし、Nike+ という製品を開
発しました。この製品は靴に内蔵した歩数
計を利用したもので、利用者は自分の運動
成果を測定することができます。同社はこの
製品の投入により、拡がりを見せる「運動
量自己測定」市場への道を切り開いたの
25
です 。
計画 ―― 現状を超えるための、
将来への投資
デジタル投資の成果は短期間で得られると
は限りません。企業は恒久的な変革ビジョン
の一環としてデジタル変革に取り組む必要
があります。さらに、デジタル投資は長期
的な投資であり、短期的な成果を保証する
重点課題解決策ではありません。このため、
変革に踏み切る企業には忍耐力が求められ
ます。カスタマージャーニー青写真を計画、
設定することは、顧客との関係性を高める
デジタル・ビジネスの主要 3 要素すべてに
とって重要です。
現在、ネスプレッソはこの変革に取り組ん
でいます。同社は、顧客に最高の喜びを提
供するために、事業を再編成する長期変革
計画を開始しています。この計画には、特
定市場のニーズに対応できる迅速かつ柔軟
な業務プロセスを後ろ盾として、より均一
な顧客体験提供が可能な、統合されたイン
タラクティブ・プラットフォームの構築が
26
含まれています 。
マーク・パーカー「ナイキ 2011 年株主通信」
(2011 年
7 月 13 日、2013 年 12 月 3 日にアクセス)
25
アクセンチュア「アクセンチュアとハイブリス・
26
チームが、グローバル企業向けマルチチャンネル型
事業ソルーション・サービスを開始」(2013 年 8 月
5 日)
アクセス)
9
全体像を把握する
将来の顧客は
誰か?
自社は顧客に
最上の喜びを、
どこでも、いつでも
提供していけるか?
デジタル変革は憶病な企業には適していま
せん。デジタル変革は、事業の現状と今後
どのように変化していくかを、企業が評価
することを促します。それだけでも大変な
労力ですが、新しい顧客、競合、パートナー、
テクノロジーが台頭するという現実に直面
するなかでは、決して偶然に成功を手に
することはできません。
将来の競合と
パートナーは誰か?
顧客中心のデジタル変革によって顧客との
関係性を持続的かつ大規模に構築すること
は、すべての企業に共通したビジネス要件
と言えます。デジタルを脅威としてとらえ
る か、 難 題 と 見 る か、 あ る い は 機 会 と し
て考えるかは企業によって異なりますが、
それを無視する企業は自ら危険を冒してい
るのです。
今後の事業は
どう変わるのか?
今後、企業は自社の存続のためにデジタル
変革に取り組むことになるでしょう。これ
は業界の大手企業に限りません。多くの場
合、デジタル変革には複雑で慎重な投資が
求められます。さらに、柔軟にビジネスを
遂行するために、戦略、文化、業務プロセス、
業務基盤を絶えず更新するという考え方を
持たなければいけません。
顧客ニーズを予想し、顧客の期待を超える
製品・サービスを提供することは、顧客と
の関係性構築が求められるデジタル時代に
おいては必須条件となるのです。
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アクセンチュア・インタラクティブについて
アクセンチュア・インタラクティブは、世界有数のブランド企業が、あらゆるマルチ
チャネル上での顧客体験において効果的なマーケティングを実現する支援を行ってい
ます。マーケティングを専門とするアクセンチュアの専門家 4000 人とともに、アク
センチュア・インタラクティブは、業界に特化した先進的なマーケティング・ソリュー
ション、分析に基づいたコンサルティングやテクノロジー、アウトソーシングなどの
サービスを提供します。
@AccentureSocial をフォロー、または accenture.com/interactive をご覧ください。
アクセンチュアについて
アクセンチュアは、経営コンサルティング、テクノロジー・サービス、アウトソーシング・
世界 120 カ国
サービスを提供するグローバル企業です。29 万 3 千人以上の社員を擁し、
以上のお客様にサービスを提供しています。豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応で
きる能力、世界で最も成功を収めている企業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強み
を活かし、民間企業や官公庁のお客様がより高いビジネス・パフォーマンスを達成で
きるよう、その実現に向けてお客様とともに取り組んでいます。2013 年 8 月 31 日を
期末とする 2013 年会計年度の売上高は、約 286 億 US ドルでした(2001 年 7 月 19 日
NYSE 上場、略号:ACN)。
アクセンチュアの詳細は www.accenture.com を、
アクセンチュア株式会社の詳細は www.accenture.com/jp をご覧ください。
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