主催:日本労働組合総連合会(連合) 日時:2015 年 5 月 7 日(木)15:00~17:00(14:30 開場) 会場:連合会館 2F「大会議室」 講演録(2) トラムカAFL-CIO会長講演 ありがとうございます。非常に温かいお言 葉をいただきました。今回、日本を訪れるこ とができたことをとても嬉しく思います。 AFL-CIO のパートナーである連合の古賀会 長、神津事務局長、そして連合の数多くの仲 間たちに心から感謝の意を表したいと思い ます。 日米それぞれの労働運動を率いる AFL-CIO と連合は、近年ますますその協力 の度合いを強めています。それはわれわれの 継続的協働があってこそ、世界中の労働者の 力を強めていくことができると信じるため です。その協力を確たるものとするために、 今回私は日本にやってまいりました。招聘を いただいた連合と古賀会長に心から御礼を 申し上げます。連合と AFL-CIO は分かち難 い強い絆で結ばれているということを、今一 度確認したいと思います。この関係が、この 友情が、極めて重要であるということです。 労働者のリーダーとして、われわれは大き な課題に直面しています。われわれ全員が、 1人ひとり直面する課題です。それは、世界 中に広がる「格差の拡大」という問題です。 これを何としても食い止めなければなりま せん。そのためにすべての労働者は連帯し、 賃金引き上げを求め、働く者があまねく繁栄 を手にすることができるようにしなければ なりません。 皆さんご存知かもしれませんが、2016 年、アメリカでは大統領選挙が行われます。 既にいま、選挙戦の火蓋は切られています。 何十億ドルもの金額が選挙戦に投入されま す。ここでの米国の労働運動の大きな目標は、 働く人々と家族の関心事項と、その直面する 問題を選挙戦の最前線のど真ん中に据えよ うということです。たくさんの課題がありま す。しかし突き詰めて考えれば、究極的な答 えはたった1つです。労働者の賃金は上がっ て然るべきだ、ということです。 先週私は、大統領選に関する講演で、米国 の政治論議をあるべき姿に戻さなくてはい けないと述べてきました。すなわちワーキン グプア、働けど貧困にあえぐ仲間から中産階 級の労働者まで、すべての働く者の根幹的ニ ーズへと政治の焦点を移す必要があると言 ってきました。 その講演の中で私は、われわれ労働者がど んな視点で大統領候補を見るのかについて も語ってまいりました。われわれの基準は単 純明快です。その候補は、労働者の家族を助 けるのか、助けないのか。失われる賃金を戻 すのか。賃上げを実現するのか、しないのか。 甘言を弄する輩には関心はありません。おざ なりの施策を打って事足りるとするなら、そ んなものはいらない。私たちは正々堂々と団 体交渉のできる土壌をつくってほしい。国民 の利益となる公共投資をしてもらいたい。債 務にあえぐ学生をその借金から解放してい きたい。アメリカの優先順位を正すため、ウ ォール街の税負担を増し、男女所得差を埋め るべきだ。これが私たちの望みです。解決策 が欲しいのであって、言い訳も聞きたくない し、謝ってもほしくない。そして労働者の票 が欲しいのなら、どうやって労働者の賃金を 引き上げるかという、大胆かつ包括的な計画 を提示せよ。これが大統領候補たちへのわれ われ労働者のメッセージです。働く者すべて の輝かしい未来のための投資を確実に行う ということが、その大前提となります。 さて、ここで大切なのは、対象としている のがなおざりにされがちなワーキングプア だけではなく、給料で生活する中産階級まで のすべての労働者であるという点です。ブル ーカラー労働者もホワイトカラー労働者も、 またそのいずれにも属さない労働者も、すべ てを対象としているということです。 この講演で、私はいわば大統領選に向けて のひとつの基準を提示しました。あらゆる勤 労者世帯にとって、これは唯一絶対の基準と なります。この譲れない一線をめぐり、私た ちは候補者を見極め、地域で、あるいは職場 で組織化と動員と集票活動を行います。「労 働者の賃金を上げろ」という要求、そのあら ゆる含意は間違いなく世界中に伝わってい きます。住む場所がどこであれ、どんな職業 に就いていようと、私たちはすべてより良い 生活のために働きます。誰もが自分と家族の ために良い生活を築きたいと願っています。 日本でもアメリカでも、世界のほかの地域で もみんな同じです。あらゆる国で、労働者は 賃金の底上げのために闘い、そして、労働組 合の力を奪うための企業戦略であるところ の非正規労働の多用に強く反対しています。 しかし米国において、われわれはますます 苦戦を強いられています。1980年代以降、 米国では金持ちの中でも最も富裕な者が政 治権力を手中に収め、労働法、税法、通商法、 通貨政策、財政政策、そして金融規制まで、 すべて企業有利・労働者不利な方向に書き換 えてしまいました。その結果、民間投資は投 機へと向かうようになり、公共投資よりも減 税に重きが置かれるようになりました。その 結末はどうなったでしょう? 野火のごと く広がる格差です。格差であり、失業であり、 賃金の低下。これらがその結末でした。経済 は不安定化し、インフラはもはや崩壊寸前と いうありさまです。米国の国家としての競争 力も大きく損なわれました。すべては、経済 と政治の途方もない不均衡により生み出さ れたものです。 その全体像を示すために、単純な数字を示 したいと思います。1978年以降 37 年間 のあいだに、米国企業のCEO(最高経営責 任者)だけにする報酬額は1000%伸びて います。米国にチポトレというファストフー ドチェーンがあります。このファストフード チェーンのCEOの報酬は、1時間当たり1 万3000ドルとなっています。しかし、わ れわれはどうか。われわれ労働者の仲間のう ち9割は、年収が 37 年前よりも低くなって いるんです。これは、アメリカという地が約 束するその姿に反するものではないでしょ うか。女性労働者の状況はさらに酷いと言え ます。同じ教育を受け、同じ経験を持ちなが ら、女性労働者は男性の 78%の収入に甘ん じているという現実があります。 そして今、米国の右派の政治家と組合嫌い の経営者たちは、この歪められた政治論理と 米国流労使関係を、欧州や日本にまで持ち込 もうとしています。この動きに抵抗していく ために、われわれは労働者の声を結集しなけ ればなりません。労働者叩きに立ち向かい、 最善の力は「団結」。これはアメリカも日本 も同じはずです。AFL-CIO は皆さんと共に あり、一丸となってこの難局に挑む構えであ るということを、ここではっきりと申し上げ たいと思います。ここで声を大にして申し上 げたいと思います。共に協力をし、状況を変 えましょう。労働者の地位を向上すべく、今 こそ日米の労働者の声を結集しようではあ りませんか。 今、われわれは重大な岐路に立たされてい ます。アメリカではいよいよ、国民の中に「賃 金を上げろ」という機運が高まっています。 それがひとつの大きなうねりとなりつつあ ります。潤沢な資金を背景に、企業が労働者 の賃金をさらに引き下げるための圧力を強 める中、いま何が起こっているのか。これを 皆さんに説明したいと思います。国民の中に 広がるこの大きなうねりとは何なのか、そし て、そこから何が感じ取れるのかということ です。 「私たちのウォルマート(Our Wal-Mart)」 という運動をご存知でしょうか。この「私た ちのウォルマート」というのは、ウォルマー トストアの労働条件改善を求める世界規模 の運動です。雇用する労働者の数が世界一と いうウォルマートについては、皆さんよくご 存知のことと思います。今や、この小売業界 の巨人たるウォルマートだけではなく、その 他のスーパー大手のターゲットや T.J.Maxx などでも週を追うごとに、月を追うごとに、 公正な賃金を求める運動が大きな広がりを 見せています。 別の例をお話しします。全米「行動の日」 に展開されたファストフード労働者の運動 は、時給 15 ドルを要求するものでしたが、 そこにもまた信じがたいほどの労働者の連 帯の姿がありました。ファストフード店で働 く者だけではなく、消防士あり、大学助手あ り、在宅医療従事者ありと、さまざまな職業 の労働者が結集しました。あらゆる労働者の 賃金を引き上げること。これが米国のめざす 道です。正規労働者も非正規もパートもみん な同じ労働者だ。今こそ、みんなのために闘 わなくてはならないのです。 アメリカでは出産や病欠、介護で職場を離 れる労働者を守る国家的な取り組みが存在 しません。それがゆえに、われわれは全米の 多くの州で、病欠、有給休暇や育児休暇ある いは介護休暇を求める運動を展開していま す。 賃上げを求める運動は、もはや組織労働者 だけの運動ではありません。真の意味での力 を持ちたいのならば、組織の中だけを見てい ては駄目だということに私たちは気づきま した。組織の外のグループとも連携する必要 があるのです。例えば女性のグループ、市民 団体、人権擁護団体、環境団体などとパート ナーシップを結ぶということです。ここから 国民規模の大きなうねりが生じ、われわれの 運動も次の段階へと高めていくことができ るようになります。 しかし同時に、アメリカの労働者は大きな 課題にも直面しています。その1つが、企業 の倫理による破壊的通商法の抑制であり、そ れをどのように打破するかが今後の私たち の活動の正念場となります。もちろん、すべ ての輸出入が悪いと言っているわけではな いし、これまでも AFL-CIO は貿易をめぐる さまざまな協定や推進策について、それは労 働者に便益をもたらす限り支持を表明して きました。われわれが反対しているのは悪し き通商であり、その代表がTPPです。TP Pは格差を解消し、労働者に便益をもたらす モデルとは絶対になり得ないとわれわれは 考えています。 今、アメリカにおいて、貿易促進権限、通 称ファストトラック権限の法案が審議され ている最中です。われわれはファストトラッ ク(貿易促進権限)を利用することにより、 TPPのような大規模な貿易法案を通過さ せることに対して、一致団結して反対してい ます。なぜならば、これは健全な意見交換を 許さないからです。ファストトラック権限は 修正案なしで、賛成票か反対票しか連邦議会 の議員に許していません。 この貿易協定の詳細の部分について言及 するだけの時間の余裕はありませんが、特に 先週の安倍首相のワシントンD.C.ご訪問を 鑑みますと、日本の多くの皆さんがこの問題 をフォローしていらっしゃることは承知し ております。しかし、これは申し上げます。 私たちはファストトラックに反対していま す。繁栄を共有することにコミットメントを 示しているからです。ファストトラックは労 働者、そして民主主義を妨げるからです。T PPは賛成・反対の対象になるには巨大過ぎ るのであります。世界経済の4割を占めるこ とになります。そしてTPPの結末は、あま りにも深刻な結末です。間違いは決して許さ れません。TPPはあまりにも企業の特別な 利害を満たします。さらにすべての労働者た ちを後回しにしてしまっています。 AFL-CIO においては、より良い貿易モデ ルを獲得するために、アメリカ国内において もグローバルな同盟を結んでいる同志とも 努力を続けています。最近、欧州の組織と共 同声明を発表いたしました。われわれが本協 定において何を求め、それによって新たな質 の高い労働ならびに環境基準が代表され、ほ かの重要な問題についても対処するもので あるよう、ここ日本においても欧州と合意に 達するようご検討されていらっしゃること と承知しております。これらの合意は、労働 者のために機能するものでなければなりま せん。これは大変重要なことです。貿易法が 環太平洋の日本、アメリカや、ほかの国々の 労働者たちを競争させてはならないのです。 それは情け容赦のない底辺への競争になる だけです。お互いに支え合う必要があります。 そうすることにより、尊敬に値する役割モデ ルを創造し、企業が日本とアメリカにおける 強力な労働者の権限を支持しなければなら ないのです。私から見れば、あまり選択肢は ありません。自分としては、基本的な不平等 が近代の生活の一部であるという考えは決 して受け入れません。それは正しくありませ ん。理不尽です。われわれは、それを何とか できるはずです。 アメリカにおけるわれわれの良からぬ貿 易政策に対する活動は、われわれの労組内外 の大きな包括的な戦略のほんの一部にしか 過ぎないのです。われわれの他のキャンペー ンのいくつかをご紹介いたしましょう。ほか にも不平等に対する攻撃に挑んでいます。わ れわれの社会、そして各地域において、正義 を獲得するための活動に焦点を当てており ます。仲間と話し、新たな味方を得るために も、より大きな連立をつくり上げています。 なぜならば、賃金引き上げは社会的にも経済 的にも正義を、またほかの正義を組み合わせ る接着剤であるからです。 アメリカにおいて AFL-CIO は、全国的に 展開されている集団監禁に終止符を打つた めのキャンペーン、並びに市民権を獲得する ための道筋つきの包括的な移民政策改革に 主要なパートナーとして参加をしています。 アメリカにおいてこれらのキャンペーンは、 賃金を引き上げるための努力の中心となっ ています。当然、するべきことです。しかし、 これらは労働問題でもあります。1100万 人のそれを証明する書類こそはないが、名目 上以外の面において、アメリカ人である労働 者が職場における基本的な権利やディーセ ントな賃金を日常的に否定されています。な ぜならば、かなりの悪い使用者が、労働者た ちが組織化しようとすると入国管理局の警 察を呼ぶ。このようなことが米国の連邦議会、 ワシントンD.C.のすぐ裏でもしょっちゅう 起こっていることなのです。これは根底から 間違っています。なぜならばアメリカは移民 の国であるからです。移民がわが国を建国い たしました。今もなお、移民の国です。私は、 移民が夢見るアメリカへ来て頑張って仕事 をし、成功してより良い生活を築き上げると いう夢を信じています。私の組合はその価値 観を、そしてこの夢が叶うよう、またそのた めに努力を行うよう教えてくれます。それを 私たちは歓迎いたします。 集団監禁ですと、アフリカ系アメリカ人の 男性 15 人に1人は、米国では投獄されてい ます。白人男性の場合は、100人に1人以 下。これは黒人男性と白人男性がほぼ同じ率 で犯罪を起こしているのにも関わらず。アメ リカの刑務所の囚人総数が、営利目的の刑務 所が数十年前に誕生してから爆発的に増え ていることは決して偶然ではありません。こ れは不当であり、地域社会を引き裂いている 結果となっています。大勢の黒人男性を犯罪 者扱いしています。この慣習は、賃金を抑え る結果ともなっております。なぜならば、服 役した何百万人の求職者に重罪判決が下さ れていないか使用者が審査を行い、労働市場 から締め出してしまうからであります。警察 や看守も含めたありとあらゆる労働者たち が影響を受けています。彼らの仕事も、ショ ウエキ(省益?)に関する法律や過密な刑務 所の現状によって、ますます危険になってき ています。 兄弟姉妹の皆さま方、労働基本権、社会的 正義や経済的正義はかけ離すことはできま せん。それぞれ別々に見ることはできないの です。皆さんの権利が標的となれば、私の権 利も脅かされます。われわれはそれを何度と なく、何度となく、何度となく目の当たりに しています。そのために、労働組合運動を行 っているわれわれは進歩的な闘いに挑み続 ける必要があります。 労働運動においてわれわれは、どう団結す べきか知っています。不正な行為はそのまま ずばり、それを指摘する。そして、それを正 すために闘う。われわれは労働者を動員する 方法を知っています。あなたのピケラインは、 私のピケライン。私のピケラインは、あなた のピケラインです。そしてわれわれが勝てば、 われわれ全員が勝つ。それが賃金引き上げの 世界の良さなんです。 兄弟姉妹の皆さん、働く人々の課題はグロ ーバルな規模に見ましても実に多いのであ ります。政治的な敵が、私たちをやっつけた がっています。使用者が競争して、労働基準 を下げようとしています。アメリカでは各州 において、知事がわれ先と労働権法を署名し て、労働者がより良い生活のために交渉する ことをより難しくしています。労働組合運動 として目標は、組合員に対してサービスを提 供する以上のことを目標に掲げなければな りません。だいたいの模範を提供しなければ なりません。そうすることにより、集団の声 が大勢のために役立つように。 本日、皆さんと私は、日本とアメリカの労 働社会の連帯を強化しています。これはパー トナーシップです。このパートナーシップを 成長させ、深めていかなければならないので す。日本の賃金は、ほかの国々の賃金を影響 します。その逆も言えます。そして労働者の 権利も然り、環境基準も然り、そして公民権、 人権もそうであります。そして広範囲な連立 は、政治を、そして経済を形成する政策をも 一変させます。それを私は目の当たりにして います。これは重労働ではあります。しかし、 働く人々が力を蓄えるためには最善の方法 です。団結することにより、われわれが多数 になる。団結することにより、強い経済を構 築する。賃金引き上げは、経済的にも政治的 にも効き目あり。やるべきことでもあり、わ れわれ1人ひとりのためになります。 われわれは、あらゆるレベルで選挙政治に おいても、職場においても、地域社会におい ても、国際的にも、私たちが願う世界をつく り上げていっています。皆さんと団結してい ます。共通の利害を追求するために、共に会 社において組織をしていきたいです。団体交 渉をアメリカで行うことにより皆さんの賃 金を引き上げ、ここ日本において皆さんの機 会を増やしたいのです。また、日本における それらの実現が、アメリカの仲間を助けます。 一緒に達成できるたくさんのことに対して、 期待を寄せます。日本とアメリカの働く人々 のより強力なパートナーシップ。これを私は 願っています。賃金が引き上げられる世界を、 共に期待感を抱きながらもたらしましょう。 ディーセントな賃金を獲得することができ るように。そして社会が、私たちが日々やっ ている仕事に対して尊敬心を抱いてもらえ るよう。皆さま方、ご尽力ありがとうござい ます。ご清聴ありがとうございました。 (司会・南部副事務局長) トラムカ会長、ありがとうございました。 本当に力強いお話をいただきました。労働者 の賃金は上がって然るべき、労働者賃金は上 げるのが当然ということを運動のど真ん中 におかれて、そして多くの取り組みのお話を いただきました。本当にありがとうございま した。 さて、ここからはトラムカ会長と会場の皆 さまの対話の時間でございます。コーディネ ートを早稲田大学大学院 篠田徹教授にお 願いしております。篠田先生のご経歴はお手 元のパンフレットにございますのでお読み 取りいただきたいと思います。先生におかれ ましては比較労働政治がご専門で、アメリカ の労働運動をずっとウォッチされておりま して、この間、アメリカにも行かれ、本日こ こに駆けつけていただきました。 それではここから篠田先生、よろしくお願 いいたします。そしてトラムカ会長、再度よ ろしくお願いいたします。 (了)
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