EY Japanからの提言日本の経済・社会のさらなる発展に向けて対談1 変わるヘルスケア市場とベンチャーの挑戦これからの日本経済躍進の一翼を担うと目されるヘルスケア業界。その可能性と課題について、ミドリムシで話題の大学発ベンチャー、株式会社ユーグレナの出雲充社長とともに展望します。株式会社ユーグレナ代表取締役社長 • Mitsuru 出雲充 Izumo 東京大学農学部卒業。2002年、東京三菱銀行（当時）入行。05年8月、株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長に就任。同年12月、世界初となる微細藻類ユーグレナ（和名：ミドリムシ）の食用屋外大量培養に成功。 Japan Venture Awards「経済産業大臣賞」受賞（12 年）、世界経済フォーラム（ダボス会議）Young Global Leader選出（12年）。信念は「ミドリムシが地球を救う」。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』（ダイヤモンド社）がある。 8 情報センサー Vol.100 January 2015 新日本有限責任監査法人ライフサイエンスセクター日本エリアリーダー公認会計士 • Hironao 矢崎弘直 Yazaki 主として大手および中堅製薬企業、医療機器企業、バイオ企業、病院法人、日本進出海外企業などの監査に業務責任者として、監査業務に加え、会計指導、設立支援、内部統制導入支援、IFRS導入支援などのアドバイザリー業務に従事。主な著書（共著）に『医薬品ビジネスの会計ガイドブック』（中央経済社）などがある。 Mitsuru Izumo 新年号特別企画 New Year Talk〈Special Edition〉変わるヘルスケア市場とベンチャーの挑戦新規参入が相次ぐヘルスケア業界て立つベンチャー企業への支援は、われわれにとっても、やりがいがあることです。矢崎日本のヘルスケア業界が大きく変化しています。二つの重要な流れがあります。一つは、ヘルスケアが病気の治療から健康の増進へシフトしていること、一求められるのは「数字で夢を語る」力つは、自分の健康は自分で守る、健康の自己責任化の流れです。技術の進歩により、こうした流れが加速し出雲実を言えば、私はヘルスケア業界について、飛ています。この変化をチャンスと捉え、異業種から多くび抜けて詳しくありません。なお、伺いたいのですが、の企業がヘルスケア業界に参入し、活気づいています。この業界で伸びる企業と、小さくまとまってしまう企今日は、業界に大きなプレゼンスを示した、株式会社業は、どこが違うと思われますか。ユーグレナの出雲社長とご一緒しています。ユーグレ矢崎いきなり難しい質問ですね。個人的な意見ですナは、世界で初めてミドリムシの屋外大量培養技術をし、ヘルスケア業界に限らないでしょうが、伸び悩む確立し、各方面から関心を寄せられています。ミドリベンチャーは、数字で夢を語ることが苦手かなと思いムシは、人間が必要とする栄養素の大半を含む藻の一ますね。つまり、素晴らしい可能性を持っているのに、種で、食品のみならずバイオ燃料の原料としても期待それを数字で示すことができない。一方、投資家はベンされる天然資源です。EYでは早くから御社に注目し、チャー企業の事業内容に詳しいわけではありませんか 2011年度のEOY Japan でチャレンジング・スピら、ビジネス計画を数字で示してもらわないと判断しリット部門のファイナリストに選出いたしました。そようがありません。しかし、数字を使って自分のビジして、14年の第3回「明日の象徴ネスを説明できれば、投資家も同じ土俵で納得いくま ※1 ※2 」では、ヘルスケア基盤部門で出雲社長個人が受賞されていますね。で話し合い、判断できるのです。出雲本当にありがたいことです。「明日の象徴」の出雲とてもよく分かります。当社は05年にスター授賞式では、天皇皇后両陛下に拝謁する栄に浴し、皇トしたのですが、数年間は本当に苦しい状況が続きま后陛下からは「新聞で、ずいぶんミドリムシさんが取した。そして、もう瀬戸際となった07年12月に、大り上げられていますので、知っておりますよ」とのお手商社からお問い合わせがあったのです。このご縁を言葉もいただきました。生かさなければ当社の未来はないと思い、私は必死に矢崎まさに、ヘルスケア業界の期待の星です。ミドリムシの有用性について話をしました。すると、大出雲期待には応えていきたいですが、まだ始まった手商社の方が「出雲さん、ミドリムシが素晴らしいこばかりです。そもそも私がミドリムシを研究するようとは、よく分かりました。ぜひ応援したいと思いますになったのは、学生時代に行ったバングラデシュで、が、当社も大勢の社員を抱えていますので、利益を出食料はあるのに栄養失調になっている人が多いことをさなければいけません。あなたの会社にどんな強みが知り、何とか解決したいと考えたことが、きっかけであって、どう利益を出すのか数字で示してください」す。それが原点ですから、ゴールはまだまだ先です。と言われたのです。これを聞いて、ハートとビジネスはいえつ矢崎日本のヘルスケア市場は世界第2位の規模といマインドのバランスが取れた会社だと思いました。われ、急速な成長が見込まれる分野です。そうした中矢崎すでにもう、出雲社長ご自身が体験され、乗りで、われわれが特に注目しているのが、御社のような越えられていたのですね。ベンチャー企業です。既成概念にとらわれないチャレン出雲先ほどお話を伺いながらジが、新たなビジネスモデルの構築や、日本経済の活「その話、06年ごろに聞きた性化につながると考え、パートナー企業のマッチングかった！」と思っていました。などの支援を、積極的に行っています。将来を背負っ ※1 アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン。日本のアントレプレナーを国際的なステージに輩出する唯一の起業家表彰制度。 ※2 医療、保健、ライフサイエンスの分野で活躍している35歳以下の期待の精鋭の活動を顕彰するもの。若い人々の活動に光を当てることで、若い世代全体にイノベーション追求の機運が広がること、また、それを奨励、促進する環境を醸成することを目的としている。 Hironao Yazaki 情報センサー Vol.100 January 2015 9 必要なのは税務・財務のプロのサポート IPOや資産運用などをスムーズに進められれば、成功するベンチャーがもっと増えるでしょう。矢崎大手商社との提携後は、経営も順調ですね。12 矢崎最近は、ベンチャー企業のお手伝いをしている年12月にはマザーズ上場を果たしました。会計士も大勢います。当法人にも、優秀な人材が育っ出雲おかげさまで、2年間でおよそ倍の規模になりてきていますので、ご安心ください。ました。そして、IPOが視野に入ってくると、これからは財務を任せられる人材が必要だと考えるようになりました。事業を軌道に乗せるという最初のハードルクライアント企業に会計士の派遣も出雲とはいえ、実際に会計士さんが株式未公開のベンチャー企業に移籍や転職をするとなると、収入がダウンすることもあるでしょう。ご本人が「このベンチャー企業は大いに可能性を感じるから、一肌脱ごう！」と思ってくださったとしても、ご家族は納得できないかもしれない。しかも、そのベンチャー企業が倒産してしまったら、心ある会計士さんの職業人生をつまずかせることになってしまいます。これではベンチャー側も、心置きなく仲間を募ることができません。そこで、私からの勝手なお願いなのですが、監査法人の会計士さんがベンチャー企業に出向して、万一その会社が事業を継続できなくなったとき、所属していた組織に戻ってこられるような制度を整えることはできませんか。矢崎私のこれまでの経験からも、研究開発や商品化研究・技術開発のプロはいても税務・財務のプロが少ないベンチャー企業。ここが成長のネックになっています。で精いっぱいだから資金運用まで手が回らない、というベンチャー企業は少なくありません。しかし、当法人では、サポートすべきだと判断したベンチャー企業に会計士を派遣する制度があり、実際に活用しています。もう何十例もの実績がありますよ。出雲そうですか。それは素晴らしいことです。財務を越えたら、次には、綿密な予算管理体制や、内部統管理で困っているベンチャー企業や、これから起業を制制度に従った資金運用などの財務が大事になると思考えている研究者が奮起できるよう、積極的にアナウンいますが、ここもまたベンチャーのネックです。一般スしていただきたいですね。的にベンチャー企業は、研究や技術開発のプロは大勢矢崎われわれは、ベンチャー企業の活躍こそが日本いても、財務のプロは少ない場合が多く、それがIPO 経済を元気にすると考えています。だからこそ、できの段階で足枷となりがちなのです。当社も例外ではある限りサポートしていきたいのです。われわれが深くりませんでした。そのため、思い切って財務のプロを関わっているヘルスケア業界は、ベンチャー企業や異入れたのですが、これが大正解でした。業種などが続々参入する群雄割拠の時代です。このよ矢崎財務のプロなら、投資家がどんな情報を欲しうな時こそ、まさにチャンスといえるでしょう。がっているのか知っていますからね。出雲まったく同感です。そのように考える財務会計出雲経営者が事業を数字で語れるようになるのがのプロの方がいると知り、本当に心強いです。あしかせベンチャーの第一段階だとすれば、財務を整えて上場するまでが第二段階といえるかもしれません。この段階で、財務・税務経験者の方が仲間に加わってくれると、ベンチャー側としては非常に頼もしく思います。 10 情報センサー Vol.100 January 2015 Mitsuru Izumo 新年号特別企画 New Year Talk〈Special Edition〉変わるヘルスケア市場とベンチャーの挑戦オープンイノベーションで「三方よし」を実現オ燃料の原料となることは知りませんでした。これらは、さまざまな関係者からいただいたアイデアであり、矢崎独自の技術をいかに市場に出すかという点も、オープンイノベーションの成果です。大企業も自前主ベンチャーが成功するか否かの重要なポイントですね。義にこだわらず、フレキシブルにビジネスを構築し、その際、他企業との提携が非常に重要になると思いま業界全体で、より高い効率とクオリティーを目指す時す。御社は、大手商社をはじめ多くの企業と提携を結ん代なのだと思います。でいますが、そのあたりは、どうお考えでしょうか。矢崎まさにベンチャービジネスの神髄を伺ったよう出雲当社のビジネスの原則は、オープンイノベーな気がします。最後になりますが、われわれ税務会計ションです。これはもう必須です。矢崎必須ですか。出雲独自の技術をコアに持つベンチャー企業は、ともすると技術開発から販路開拓まで垂直統合のビジネスをしようとします。しかし、資金を潤沢に持たないため、そうこうしているうちに資金不足を起こしてしまう危険性があります。ですから、われわれは、コアは自社ノウハウとして絶対に守り抜くけれど、そうでない部門については、オープンイノベーションでプロと組むほうが効率的だと考えています。矢崎「餅は餅屋」でやることにより、ビジネス全体もうまく回って、企業価値向上も図れますね。出雲強みを死守しながら、相手にもメリットがあるビジネスの可能性を提供できれば、トータルな企業力ごで引けを取るベンチャー企業も、大企業と伍していけます。自前主義で高利益を狙い、ビジネスとして小さくまとまってしまうより、利益率は多少下がったとしても、多くの企業にチャンスやメリットがあるようにすれば、自然と世間に広まっていくでしょう。そして、おうみ近江商人の経営哲学である「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」を実現することで、長期的他社がまねできない技術をコアにオープンイノベーションで企業価値向上を図る。ベンチャービジネスの神髄です。には大きな利益が期待できます。業界に対するメッセージがあれば、お願いします。出雲失敗を経験しているベンチャー企業の、二度目、業界全体で効率とクオリティーを目指す時代三度目の挑戦を応援していただけると、うれしいです。誰もやらなかったことは、最初は失敗する可能性が高矢崎他社がまねできない技術をコアに、さまざまないです。でも、一度失敗した企業は、それだけノウハ企業が共存共栄を図っていくイメージですね。実際、ウを持っていると考え、また次に期待してほしい。そ御社はさまざまな企業と提携し、ミドリムシを中心にうなれば、日本に本当のベンチャー文化が根付くと思サプリメント、食品、エネルギー、環境など多角的なうのです。よろしくお願いします。事業を展開しています。こうしたビジネス化のアイデ矢崎惜しみない協力を約束いたします。本日は、どアは、どこから生まれているのでしょうか。うもありがとうございました。出雲よく聞かれるのですが、当社や私個人のアイデアではありません。私はミドリムシでバングラデシュの栄養失調を解決できると考えましたが、正直に申し上げれば、ミドリムシの多岐にわたる機能性や、バイ 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