大東文化大学 語学教育研究所所報 No. 39 2016 年 3 月 目 次 平成 27 年度活動報告 平成 27 年度語学教育研究所運営委員及び研究員… ………………………………………… 1 研究員研究分野の紹介…………………………………………………………………… 1 〜 2 平成 27 年度研究発表会・講演会… ……………………………………………………… 2 〜 3 研究発表会要旨……………………………………………………………………… 4 〜 8 講演会要旨…………………………………………………………………………… 8 〜 10 刊行物についてのお知らせ……………………………………………………………………11 原稿募集要項『語学教育研究論叢第 33 号』 … …………………………………………………12 平成27年度活動報告 語学教育研究所所長 田口 悦男 大東文化大学語学教育研究所は外国語学部附置の言語学、応用言語学、文化、そして文学研究など 幅広い分野にまたがる研究機関です。それぞれの学問分野の発展と外国語、文化理解、異文化理解な ど教育研究や実践においても貢献を目指しています。 具体的な活動としては、多彩な学問分野の講演会、研究所研究員の研究活動・発表、そして本学の 外国語教育への貢献など、語学教育研究所は幅広い役割を担っております。 今年度の講演会講師は前ドイツ駐日大使やフランス人の落語家などをお招きして、学生の興味関心 を刺激する興味深い講演が開催されました。研究員の発表もその専門とする分野は多彩で、お互いの 研究を知り、刺激を受ける良い機会となりました。 2015 年度より語学教育研究所が刊行する『語学教育研究論叢』と『語学教育フォーラム』は、大東文化 大学リポジトリを通じて、国内外へ広く発信され、学問の発展に寄与することが期待されます。学生 の外国語学習の環境の充実にも取り組みを進めています。学内の関係組織と連携をし、学生の多読用 図書の充実を図ったり、先生方が御指導にお使いいただけるような資料作成等も行う予定です。今後 ともご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。 2015年度 語学教育研究所運営委員及び研究員 2015 年度 語学教育研究所運営委員 2015 年度 語学教育研究所研究員 所 長 田口 悦男 外国語学部日本語学科 部 会 長 原瀬 隆司 外国語学部中国語学科 研究部会長 原瀬 隆司 外国語学部中国語学科 研 究 員 岡部 謙治 外国語学部中国語学科 学 部 長 渡辺 良彦 外国語学部英語学科 研 究 員 ロバート・シグレー 学科主任 山口 直人 外国語学部中国語学科 外国語学部英語学科 学科主任 靜 哲人 外国語学部英語学科 研 究 員 ジェフリー・ジョンソン 学科主任 中道 知子 外国語学部日本語学科 外国語学部英語学科 研究科委員長 大月 実 外国語学部英語学科 研 究 員 須㟢 文明 外国語学部英語学科 委 員 安藤 好恵 外国語学部中国語学科 研 究 員 中村 隆之 外国語学部英語学科 委 員 ゲーブリエル・リー 研 究 員 須田 義治 外国語学部日本語学科 外国語学部英語学科 委 員 クリスティアン・シュパング 外国語学部英語学科 委 員 フランソワ・ルーセル 外国語学部英語学科 委 員 藏中しのぶ 外国語学部日本語学科 客員研究員 氏 名:呂 浩 所 属:上海交通大学人文学院 副教授 期 間:2015 年 7 月 10 日~ 2016 年 7 月 9 日 研究分野:漢字史、辞書史、漢字域外伝播 研究員分野の紹介 氏 名:原瀬 隆司 所 属:外国語学部中国語学科 研究テーマ:中国語方言、蘇州語アクセントの類型研究、琉球と蘇州浙江との交流研究 氏 名:岡部 謙治 所 属:外国語学部中国語学科 研究テーマ:中国語学、中国語発音教育 氏 名:ロバート・シグレー 所 属:外国語学部英語学科 研究テーマ:Corpus linguistics, Variation and change in contemporary English, Sociolinguistics −1− 氏 名:ジェフリー・ジョンソン 所 属:外国語学部英語学科 研究テーマ:Poetics contributing to a global poetic, and poetics of the American Edgar Allan Poe whose poetry profoundly influenced the French Symbolists and a great deal of poetry after symbolism 氏 名:須㟢 文明 所 属:外国語学部英語学科 研究テーマ:中世から現在までの低地ドイツ語 氏 名:中村 隆之 所 属:外国語学部英語学科 研究テーマ:カリブ海地域を中心としたフランス語圏文学・文化研究 氏 名:須田 義治 所 属:外国語学部日本語学科 研究テーマ:現代日本語のアスペクト論 研究発表会 日 時:平成 27 年 6 月 15 日 発 表 者:中村 隆之(外国語学部英語学科) 題 目:「20 世紀フランス語圏カリブ海文芸誌の研究の現状と課題― 『アコマ』 誌を事例に―」 日 時:平成 27 年 6 月 15 日 発 表 者:原瀬 隆司(外国語学部中国語学科) 研究テーマ:「蘇州方言の連読変調類型と日本語アクセント」 日 時:平成 27 年 10 月 19 日 発 表 者:須田 義治(外国語学部日本語学科) 研究テーマ:「動作を表す名詞述語について」 日 時:平成 27 年 10 月 19 日 発 表 者: 田口 悦男(外国語学部日本語学科) 研究テーマ:「アメリカの日本語学習者を対象とした読みの流暢さの育成の試み」 日 時:平成 27 年 11 月 16 日 発 表 者:須嵜 文明(外国語学部英語学科) 研究テーマ:「フリッツ・ロイターの幼年時代」 −2− 日 時:平成 27 年 11 月 16 日 発 表 者:ジェフリー・ジョンソン(外国語学部英語学科) 研究テーマ: “Permutations of Haiku in Global Poetry” (グローバル・ポーエトリ運動における俳句の改作) 日 時:平成 27 年 12 月 14 日 発 表 者:岡部 謙治(外国語学部中国語学科) 研究テーマ:「日本人中国語朗誦のリズム教育」 日 時:平成 27 年 12 月 14 日 発 表 者:ロバート・シグレー(外国語学部英語学科) 研究テーマ: “A Comparison of the English Knowledge of Japanese University Applicants and Englishmajor Students” (日本の大学受験生と英語専攻大学生における英語知識の比較) 講演会 日 時:平成 27 年 6 月 3 日 講 演 者:フォルカー・シュタンツェル氏(前駐日ドイツ大使) 演 題:「ヨ―ロッパの戦争と平和 ―ドイツとフランスの場合―」 日 時:平成 27 年 7 月 9 日 講 演 者:シリル・コピーニ氏(フランス人落語パフォーマー) 演 題:「仏蘭西& RAKUGO」 日 時:平成 27 年 11 月 8 日 第 3 回講演会では、大学院外国語学研究科日本言語文化学専攻主催第 7 回「東西文化の融合」国際シンポ ジウム「クール・タカラヅカ!クール・ジャパン! 2 ―新源氏物語の出典論と翻訳論・タイにおける日 本語教育―」を共催しました。 日 時:平成 27 年 11 月 26 日 講 演 者:中嶋 幹起 氏(前大東文化大学外国語学部中国語学科教授) 演 題:「北京の人々の言語生活―1980 年代」 日 時:平成 27 年 12 月 16 日 講 演 者:酒井 邦秀 氏(NPO 多言語多読理事長) 演 題:「絵本から世界へ~楽しい英語多読」 −3− 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 6 月 15 日) 20世紀フランス語圏カリブ海文芸誌の研究の現状と課題 ―『アコマ』誌を事例に― 中村 隆之 本報告は、今年度から新たに着手した 20 世紀フランス語圏カリブ海文芸誌の研究をめぐる現時点で の調査の一端を発表した。背景、現状、方法と課題、事例の順番に報告した。 まず報告者が対象とするカリブ海地域のフランス領マルティニック島およびグアドループ島の文学 の特徴、その文学研究をめぐる近年の動向を受けて、カリブ海文芸誌に着目する理由を述べた。端的 には、作家研究における近視眼的側面と、文学史の定説化という、カリブ海文学の研究上の課題を克 服するためである。 次に、文芸誌をめぐる現状として、きわめて重要なコーパスであるにもかかわらず、雑誌それ自体 を対象とする研究がないことを確認し、復刻版の刊行されていない雑誌の調査・収集、関係者への聞 き取りをおこないながら、資料読解を通じて最終的にいくつかの論文にまとめる、という 4 年間の計 画の概要を説明した。 最後に、現在着手している『アコマ』誌の研究に基づいて執筆した論文「エドゥアール・グリッサンと 『アコマ』 (1)」 (『立命館言語文化研究』に掲載予定)の内容を要約的に紹介し、雑誌の企図(雑誌の主宰者 であるグリッサンがおこなう私営の教育施設と相関する研究活動)とその特徴(マルティニックを対象 にした学術共同研究、アメリカスの文化横断的な場) について報告した。 以上を受けて、「アメリカ」を複数形の「アメリカス」 (カリブ海を含めたアメリカ両大陸)と捉えたと ころから示される、アフリカから連行されて奴隷とされた人びとが形成した横断的な文化のことや、 フランス語とともに、マルティニック島およびグアドループ島で話されるフランス語系クレオール語 をめぐり、質疑が交わされた。 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 6 月 15 日) 蘇州方言の連読変調類型と日本語アクセント 原瀬 隆司 蘇州方言は漢語の7大方言のひとつ、呉語の一支で、音声的には連続する語あるいは複合語の構成 要素間の連結部分に音の変化が生じる”Sandhi”といった言語現象を有する言語であることが知られて いる。音の変化が音調の面にあらわれるので、これを “連読変調” といっている。 蘇州方言は「音節アクセント言語」に属すが、上に挙げた連読変調の言語現象がみられ、その単語(複 合語)、句(連語)の多くには連読変調が生じ、「単語アクセント」を構成する。またその音調のピッチ曲 線にはいくつかのパタンのあることが判明しているが、そのパタンの中に、日本語アクセント(東京ア クセント)にある「高低」 「低高」のピッチ曲線と同じ「高さアクセント」のパタンを示すものがみられる。 こうした例を音声分析機器による分析図像を用いて紹介した。 −4− 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 10 月 19 日) 動作を表す名詞述語について 須田 義治 文の名詞述語は、基本的に、「彼は学生だ。」のように、時間をきりすてた恒常的な質や特性を表すの だが、周辺的な用法としては、「さあ、出発だ。」のように、おもに動作名詞において、本来は動詞述語 によって表されるところの、時間の中で展開する具体的な動作を表すことがある。このような用法に ついて、主なもの(下位タイプ)をあげると、次のようになる。 ①説明:「帰れ!もう店じまいだ」 ②様態:言いつつ重雄も缶ビールを開けて直呑みだ。 ③予定:行天さんは、予定どおり明日退院です。 ④判断:となると、明日から夜回りの時間は変更だな。 ⑤意志表示:「ああ、ご苦労さん。あとは報告書にして提出な」 また、こうした用法に多く見られる特徴としては、次のようなものがあげられる。 ①コンテクストにおいて説明的に機能している。 ②話し手の評価や判断を表している。 ③テンスやアスペクトなどの時間的な意味を明示する必要がない。 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 10 月 19 日) アメリカの日本語学習者を対象とした読みの流暢さの育成の試み 田口 悦男 やさしいレベルのテキストをたくさん読むことを目指す多読アプローチは、読みのスキルを修得す るために有効であり、その取り組みは日本の大学でも広がりつつある。一方で、辞書を使って、構文 を解析し、正確に意味を読み取るという伝統的な精読は、外国語教育において依然として重視されて いる。多読に近いアプローチである繰り返し読み(Repeated Reading)は、リーディングの単語認知や 構文解析といった下位スキルの発達を促し、認知資源の多くを理解に振り向けるようにすることで理 解度を向上させる方法である。 本発表は 2015 年 10 月から 12 月にかけてテキサス工科大学で行われた日本語のリーディング指導の 研究報告である。協力者は2セメスターの日本語学習を終えた「日本語 2301」と3セメスターを終えた 「日本語 4300」の2つの日本語レベルのアメリカ人の大学生であった。2 か月という短い期間の取り組 みではあったが、いずれのグループにおいてもリーディングの速度が速まり、読みの流暢さの発達に つながった。 −5− 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 11 月 16 日) フリッツ・ロイターの幼年時代 須嵜 文明 フリッツ・ロイター(1810-1874)は日本ではあまり一般的に知られていないドイツの作家である。 しかし彼の作品は 19 世紀末までに 2000 万部以上が出版されたほど、ドイツでは一世を風靡した作家 であった。 フリッツ・ロイターは北ドイツ、メックレンブルクの Stavenhagen の市長の息子として生まれ、13 歳までは主として家で周囲の大人達によって教育された。その後ギムナージウムを経て、親の意によ る法学を学ぶためロストック大、イェーナ大へと進学した。当時のイェーナ大は 1817 年のウィーン体 制下の自由主義・国民主義に端を発するブルシェンシャフト(ドイツ学生同盟)の中心的存在となって いた。そこで彼は感化され過激な学生政治運動へと走った。これが原因で 23 歳の時 Stavenhagen への 帰郷途上で逮捕され、死刑の判決を受けた。以後 7 年間投獄された。親が政治家であったこともあり、 各方面への働きかけもあって、30 歳で特赦により釈放された。 再度勉学の道を目指しハイデルベルク大に入学するも上手くゆかず、紆余曲折の後アイゼナハに移 住し農業をしたり、家庭教師をしたりして生活をする。その地の牧師の娘ルイーゼ・クンツェ(Luise Kuntze)と結婚してやっと生活が安定した。 その後 53 歳で作家活動を始め、63 歳で死去するまでわずか 11 年間の作家活動であった。1949 年 には死後 75 年を記念して、生誕の地 Stavenhagen の町の名称が Reuterstadt-Stavenhagen と変更され、 2010 年には生誕 200 年祭も祝われた。現在では低地ドイツ語最高の詩人との評価を得ている。いわば 人生の前半は落ちこぼれ、後半は名誉の人。この点に焦点をあて、この作家を紹介しながら、その幼 年期の生活環境について考えた事を報告した。 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 11 月 16 日) Permutations of Haiku in Global Poetry (グローバル・ポーエトリ運動における俳句の改作) ジェフリー・ジョンソン The research presentation by Dr. Johnson centered on the premise that western modernism manifests significant elements of literary Japonisme, and within poetry this comes primarily through haiku into western poetry. He drew examples from haiku translations, and explained the transformation that took place as poetic practice departed from the Japanese originals with unforeseen new directions. The poetic movements referred to were Imagism, Surrealism, the Beat movement and the Brazilian Concrete poets. The elements of change included the use of the space of the page, movements toward pure sound, abrupt and startling juxtapositions of images and allusions to Japanese poetry and arts. −6− 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 12 月 14 日) 日本人中国語朗誦のリズム教育 岡部 謙治 中国語教育の現場で、特に暗誦大会に出場する学生たちに「大きい停頓(pause) ・小さい停頓、長い 息継ぎ(breath)と短い息継ぎ」や「拍(mora)」などのリズムの取り方をトレーニングしてきている。その 際、「中国人は 2 音節(リズム 2 拍)が好き」も訓練の際のキーワードの一つである。 トレーニングには、小学校の国語のテキストが材料となるが、低学年からのスタートになるため、 “儿 歌(子どもの歌)”や“标语(標語)”など所謂「韻文」がその題材となる。 「韻文」といえばその代表は「詩」で あるが、ことばのリズムの教育には、この「詩」の「一句内の語構成」 の理解が不可欠である。 そのために先ずは、古典の「四言詩、五言詩、七言詩」の「語構成とリズム」を学習、習得しておいて もらわねばならない。 その上で、現代中国の国語のテキスト(幼児用及び小学低学年生用)の「韻文」を紹介し、暗記しても らう。 古典「四言詩」の一句「2 + 2」 、五言詩の一句「2 + 2 + 1」or「2 + 1 + 2」 、七言詩の一句「2 + 2 + 2 + 1」 or「2 + 2 + 1 + 2」のリズムが三千年の時を超えて現代の幼児・小児たちに脈々と受け継がれてきてい ることがわかる。 さらに学生は、アナウンサーたちが録音した音源を聞いて、子どもの頃のスポーツ応援で体得した 「三三七拍子」のリズムに似ていることに驚く。中国の子どもが言葉遊びで詠う 「なぞなぞ」 の調子をそっ くり物真似しながら、リズムの刻み方をしっかり体得してもらおうというものである。 この学習はまた、古典、現代を問わず、「リズム単位」と「語構成」が多くの場面で一致しないことを 体得することになり、連語構造のありようや語順など中国語語法の興味に繋がるものである。 〈研究発表会要旨〉 (平成 27 年 12 月 14 日) A Comparison of the English Knowledge of Japanese University Applicants and English-major Students (日本の大学受験生と英語専攻大学生における英語知識の比較) ロバート・シグレー Students majoring in English language at Daito Bunka University were given tests containing questions previously used in the same university’ s ippan nyushi English entrance exams, allowing a matched-item comparison of performance between current students and the original candidates. Two separate studies were carried out on students attending a 3rd-year Media English course, respectively testing grammar knowledge and vocabulary knowledge. Both tests contained matched samples of questions of equivalent difficulty for their original candidates (i.e., high school seniors) from each of four different exam years over the previous decade. Regression models were constructed for item score (in terms of original exam year and original difficulty level), and for student score (in terms of student year, and original method of entering the English department). −7− The main findings were: (i) current English majors did not score significantly higher than the original candidates on average; (ii) students who had entered through exams performed significantly better on average than students who had entered through interviews; (iii) there were no significant differences in item difficulty for current students by original exam year, which suggests that the overall candidate level has not changed significantly over the past decade; and (iv) similar results were obtained both for grammar and for vocabulary. Taken together, these results suggest that many students’ knowledge of English grammar and vocabulary does not develop further during their first three years at university (although there may be some improvements in comprehension and fluency). 〈講演会要旨〉 (平成 27 年 6 月 3 日) ヨーロッパの戦争と平和 ―ドイツとフランスの場合― フォルカー・シュタンツェル博士(前駐日ドイツ大使) ドイツとフランスは宿敵だとヨーロッパではよく言われていたが、現在、ドイツとフランスは共に 「E Uのエンジン」となっている。なぜ宿敵同士が友人となることができたのかを検討した。 一つは、 (日本とは異なり)歴史的にヨーロッパは戦争の続いている大陸である。第二次世界大戦 による崩壊の後に、平和を築くための政策を実現しようとする気運が、ドイツとフランスの政治家 (Adenauer, Schuman)の間で高まったが、同時に、一般のドイツ人とフランス人、特に大学生たちの 間でも、度々国境に集まり、デモを通して、国境などもういらないという運動が生まれた。そして、 「戦 争を構造的に不可能にする仕組み」を実現しようという動きが起こった。その結果、他の西ヨーロッパ の国々と一緒に、ヨーロッパ経済共同体、つまり現在の「EU」 (European Union)という「ヨーロッパ連 合」が生まれたのである。はじめの加盟国は 6 カ国であったが、現在は 28 カ国に拡大したことはその試 みが成功していることを示している。成功の要因は、その独特な組織の構造である。つまり、お互い の利益を結びつけ、相手に不利なことは自分にとっても不利になり、その結果、相手に敵対すること ができなくなる。相手に対抗して自分の利益だけを追求することができなくなる、そのような構造的 な仕組みをつくることであった。現在では、ドイツとフランスをはじめ、その他の国々の間でもお互 いの利害が密接に結びつき、欧州統合が進んでいる。統合に至る重要なステップは、すべて、ドイツ とフランスの間で充分な準備を整えて実現したのである。1993 年のマーストリヒト条約も、通貨統合、 つまりユーロ導入の重要な決定は、ドイツとフランスが事前に万全の準備をした結果であった。 現在、ギリシャ危機、難民危機、テロ危機など様々な難題があり、それを解決できるかどうかはま だわからないが、人々が本当に和解を望むならば、将来にわたり共に平和を実現していくはずである。 〈講演会要旨〉 (平成 27 年 7 月 9 日) 仏蘭西&RAKUGO シリル・コピーニ氏(落語パフォーマー) 語学教育研究所フランス語分野では今年度、上方落語のパフォーマーとして活躍するシリル・コピー ニ氏を講師に招き、7 月 9 日(木)に東松山校舎 5 号館 M ホールにて落語の実演ならびに講演を披露いた だいた。以下、当日司会を務めた中村が報告する。 −8− コピーニ氏の語りは3つのパートに分けられる。まず最初に30分ほど落語を交えた話がおこなわれた。 軽妙な語り口で、フランス語を勉強している学生を想定しながら、フランス語と日本語の違いから現 れる笑いから、小話をフランス風に翻案したもの(早口言葉で知られる「寿限無」 )まで、さまざま話を 流暢な日本語で披露し、会場の笑いを誘った。 次におこなわれたのは、いわゆる講演である。フランスの大学で日本語を勉強したのち、留学し、 二葉亭四迷への関心から落語パフォーマーになるまでの来歴を、面白おかしく語っていただいた。そ れから、質疑応答の時間をとり、上方落語と江戸落語の違い、漫才と落語の違いなどの基本的な事柄 から、日本語からフランス語へ落語を翻案する際の苦労話など、尽きない話題が繰り広げられた。講 演会の締めくくりには「ちりとてちん」で知られる話を渾身のパフォーマンスで披露いただいた。 今回は M ホールでの上方落語の実演ということで、椅子の搬入から高座のセッティングまで会場設 営のための多少の準備が必要だった。ご協力くださった管理課、英仏コースおよびチアリーダー部の 学生、フランス語分野のスタッフに感謝したい。田口所長からは開会の挨拶を賜った。最後に、当日 は木曜 4 限の忙しい時間帯であるにもかかわらず準備した 150 席がほぼ満席になる盛況ぶりだったこと を付記しておきたい。 (文責:中村隆之) 〈講演会要旨〉 (平成 27 年 11 月 8 日) 第 3 回講演会では、大学院外国語学研究科日本言語文化学専攻主催第 7 回「東西文化の融合」国際シン ポジウム「クール・タカラヅカ!クール・ジャパン! 2 ―新源氏物語の出典論と翻訳論・タイにおける 日本語教育―」を共催しました。 〈講演会要旨〉 (平成 27 年 11 月 26 日) 北京の人々の言語生活―1980年代 中嶋 幹起(文学博士、東京外国語大学名誉教授) 今回の講演は、主として本学外国語学部中国語学科の学部生および大学院生を対象にして行われた。 出席者およそ 70 名。田口所長をはじめ、中国語学科の先生方や学外からの一般の参加者があった。上 記題目の下、講演内容は以下のようである。 講演者は 80 年代に数年間にわたり北京に滞在して北京語の観察と研究をおこなった。著作の『北京 口語語彙の研究』 (1995)はその研究成果の一つである。講演者は、 北京語の特徴とは何かと問われたら、 現在の学会でも答えに窮する問題に対して、自ら明快な答えを出す意図を抱きつつ、わかりやすいよ うに音声資料・幼児の言語習得データをもって臨んだ。あらかじめ通知した梗概にあるように、講演 者は中国語(普通話)と比較した上での北京語の 3 つの特徴をまず提示した。講演者の考える特徴とは、 ①児化韻 ②目的語を提前する「把」の存在 ③代名詞の内包形・除外形の存在である。加えて、清朝 の支配言語であったアルタイ系言語の満洲語との密接な関係について研究することが北京語の構造を 解明する上で不可欠であるとの立場を満漢文「子弟書」 資料により表明したのであった。 われわれは中国語の学習として、中国の全土に通じる「普通話」 (プー・トン・ホア 共通語)を勉強 する。この「普通話」は、首都の北京のことばを基礎とした言語であると言われている。しかし、中国 語を十分に学習しても、北京の土着の人々のことばが理解できるかと言えば、そうではない。北京語は、 −9− 「北京方言」と言ってもよいくらいの方言の一種であり、理解が難しいのも当然である。発音も、語彙も、 普通話とは相当に差異がある。学者の間では、 「普通話」 と 「北京方言」 とを区別する基準を客観的にはっ きりと定められないままであるのが現状である。明代の官話(南京語)の北京語への合流も考えなけれ ばなるまい。 北京語の特質を語る時、元・明・清にわたり首都であり続けたことから、北方のアルタイ系民族の 支配下にあったことを抜きにしては語れない。北京は清朝の下で支配言語の満洲語の強い影響下にあっ た。 今回の講演では、実際の北京語の音を聞きながら、特徴的な音声の一つ「児化韻」をとりあげて具体 的な解説をおこなった。あわせて、満洲語の資料に依りつつ北京語との接触とその言語構造の上での 変容のありさまを説明した。 (文責:中嶋幹起) 〈講演会要旨〉 (平成 27 年 11 月 26 日) 絵本から世界へ~楽しい英語多読 酒井 邦秀氏(NPO 多言語多読理事長) 第 5 回講演会は英語分野の主催で、NPO 多言語多読の理事長で、精力的に多読の普及に取り組んで おられる酒井邦秀氏を講師としてお招きしました。酒井氏の多読 3 原則は、1)辞書は使わない 2)分 からないところは飛ばす 3)つまらなくなったらやめるという明快なものです。酒井氏は多読の取り 組みを数値化して評価することに大変懐疑的でした。 授業を担当する教員は学生の取り組みを評価することをいつも求められるわけですが、酒井氏の主 張は、ともかく学生が読むことを楽しむことを重視し、教員はそのサポート役をすることに尽きると いう、まさに多読の理想の姿を実践しておられます。本を楽しんで読むということは、実践を重視す る NPO 多言語多読が大切にしていることで、今後の多読指導に有益な示唆を与えてくれる講演でした。 (文責:田口悦男) − 10 − 刊行物についてのお知らせ 『語学教育研究論叢第 33 号』 (平成 28 年 3 月刊行予定) 『語学教育フォーラム第 31 号』 (平成 28 年 3 月刊行予定) − 11 − 原 稿 募 集 要 項 語学教育研究論叢第33号 語学教育研究所所長 田口 悦男 論 叢 編 集 委 員 長 ジェフリー・ジョンソン 平成27年5月19日 下記の通り原稿を募集します。奮って御執筆くださるようお願い致します。 内 容:言語研究・語学教育に関する論文(書評 、 研究ノート 、 資料等も可とする)。 文学作品等を対象とする言語学・文献学等の方法を駆使した研究も含む。 資 格:1.本学外国語学部専任教員(客員教員 、 特任教員を含む) 2.本学外国語学部非常勤教員 3.共同研究の場合は第一執筆者が該当者であること 4.客員研究員、外国人特別研究員 5.本学大学院外国語学研究科博士課程後期課程に在籍の学生(推薦書が必要) 6.その他編集委員会が適格者として認めたもの(推薦書を必要とする場合もある) ※ 応募論文多数の場合は上記番号順に優先権を有する。 投 稿 申 込:平成 27 年 5 月 19 日(火)から平成 27 年 6 月 26 日(金)15:00 迄に所定の用紙(執 筆申込書)に論文題目等を記入し、板橋校舎2号館6階語学教育研究所宛に提出する。 (※ 郵送の場合は6月 26 日(金)必着) 原稿提出締切:平成27年9月18日(金曜日)15:00迄 時間厳守 ※ 郵送の場合は書留郵便にすること(上記期日までに必着) 投 稿 規 程:1.ワープロ原稿とする。横書き全角 36 字 28 行 A4 用紙 20 枚とする(図版 ・ レ ジュメを含む)。欧文の場合は半角 66 字 28 行 A4 用紙 20 枚以内とする。必ず CD-R(または USB メモリ)に保存したファイルを添付すること。 2.未発表の完成された原稿であること。 3.本文以外の言語のレジュメを論文の前に付すこと。欧文のレジュメの場合もそれ に準ずる。(日本語、中国語は 400 字以内、欧文は 300 語以内) 4.論文の題目は日本語及び中国語原稿には欧文、欧文原稿には日本文を付記する。 5.欧文タイトルの書式は、編集委員会に一任すること。 6.印刷所等は語学教育研究所に一任すること。 7.抜刷り贈呈は 30 部とする。増刷分については個人負担とする。 8.増刷希望の場合、事前に執筆申込書に増刷部数を明記する。 9.規定枚数を超えた場合は、掲載をお断りする場合がある。 10.提出された原稿の審査による採否及び、ジャンルの特定は一切編集委員会に任せ ること。 11.母語でない言語での論文は必ず、事前にネイティブ・チェックを受けること。 校 正:著者による校正は二校までとする。内容及びヘッダー、ページ番号など関連付随事項 に関して、著者の責任において校正のこと。各校正の提出期限までに未提出の場合は、 掲載を見合わせる場合がある。新規加筆は認めない。 発 行 日:平成28年3月初旬 発行予定 原稿提出先: 大東文化大学語学教育研究所 〒 175-8571 板橋区高島平 1-9-1(Tel 03-5399-7330) 編集委員長:ジェフリー・ジョンソン − 12 − 大東文化大学語学教育研究所所報 No. 39 2016 年 3 月 10 日 編 集 発 行 大東文化大学語学教育研究所 〒175−8571 東京都板橋区高島平1−9−1 TEL 03 (5399) 7330 FAX 03 (5399) 7389 印 刷 所 株式会社東京技術協会 〒108−0073 東京都港区三田4−8−41 TEL 03 (3444) 2716 FAX 03 (3445) 6855 − 13 −
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