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ジェントルマンの国 イギリス
1. ジェントルマンとは何か
私たちは「紳士」とか「ジェントルマン」と聞くと、シルクハット燕尾服、礼儀正しく立ち居振る舞いが
立派である人、教養がある人、社会的地位が高い人…などなど、何となくそんなイメージがありますね。
では、そもそもジェントルマン(Gentleman)とは、いったいどういう人達だったのでしょうか?
語源 … 生まれの良い人、名門出身、高貴な人(古フランス語)
↓
膨大な不動産を所有して、上流の生活をする人。
具体的には、公爵~男爵までの爵位を持つ「貴族」と、身分的には平民の「ジェントリ」の階層で構成される
= ジェントルマン階級
爵位を継がなかった次男・三男が就
く特権的な職業の人も含まれる
(医者、弁護士、軍人…etc)
人口にして全体の約5%くらいの、ごく限られた人たち。
2. ジェントルマン階級成立の歴史
◎そもそもどうやってできたのか?
17世紀の例だと
貴族200家族 + ジェントリ20,000家
族くらい居たと言われています。
<ひと的な観点>
<制度的な観点>
アングロ・サクソン時代
既に地方行政制度が存在していた。
貴族(エアドルマン)=王から地方行政を委ねられた人
ウィリアム1世(征服王) 1066~
ノルマン朝時代
部下に土地を与える代償に、要請した時に自分の下に
↑の地方行政制度を、中央集権体制のために利用
駆けつけることを約束させる。(いわゆる封建制度)
… 王から直接土地をもらった人(直接受封者)→諸侯
… 最下層の騎士たち→ジェントリ
ヘンリー2世 1154~
軍役代納金制度の導入
…お金を支払う代わりに、軍役から解放される。
↓
与えられた土地の経営に力を入れるようになる。
プランタジネット朝時代
司法・行政の組織化が進む。
→王が居ないことが多かった(!)ので、
不在でも、ちゃんと政治が機能するように…)
地方に根を下ろしたジェントリ層に
地方統治の担い手としての役割を
期待するようになる
修道院解散(1536) →
売却された土地をジェントリ層が獲得
⇒ジェントリ層の勃興
⇒このころから、イギリスの支配階層を担うようになる。
<近世以降…>
市民革命(ピューリタン革命、名誉革命)
中核になったのはジェントルマン階級(=普通の一般市民ではない)
・ジェントルマン階級はもともと平民を含む階級 (=平民も努力と運次第でなれる…かも?)
・根本的な制度の転覆をはかるものではない
→フランス革命などとは、一線を画している理由。
産業革命
産業の新興により、土地の持つ意味は次第に小さくなる
中産階級など、新たな階級の台頭
↓
それでも、土地を手に入れ、ジェントルマンに相応しい教育、価値基準を身に付けない限りは
ジェントルマン=支配階級の人として認められなかった。
↓
ジェントルマンに憧れる、なりたい、生活様式を真似る人の増加 → 植民地経営を通じて世界へ…
3. 華麗なるジェントルマンのライフスタイル - ヴィクトリア朝を中心に
◎働いてはいけない
肉体的な意味での労働や、人に雇われるような勤務はしない。
自らの資産からの所得によって、サーヴァントを雇い、政治活動、チャリティなどの社会奉仕、趣味・文化活動を
行いながら暮らす、独自のライフスタイルを築いている人。
→ 自ら労働して報酬を得た場合、ジェントルマンの地位を失うとされていました。
◎教育
パブリックスクール→オックスブリッジ出身者であることが一般的。
きわめて質素、厳しいしつけ、規律の中で過ごす。
話し言葉でどこで教育を受けたか分かる。。。
ギリシャ・ラテンの古典学の知識 + 使命感を持って自分の仕事を遂行する理念を学ぶ
→「6年間この生活に耐えることができれば、世界のどこでも、いかなる環境でも耐えられる!」
◎日々の暮らし
こんな生活を送っていた彼らが
大英帝国の礎になったよ!
・カントリーハウスとタウンハウス
カントリーハウスは、ジェントルマンの所領に立てられた本拠地。(cf. カントリージェントルマン)
対して、タウンハウスは議会中心の政治生活を送るためにロンドンに構えた別邸。
議会の会期に合わせて行き来する。
・自然を愛する
地方の広大な所領で、狩猟、釣り、ピクニックなどを楽しんでいました。
他にも野外のイベント多数。
他の国の貴族の人が王宮など
に住んで、舞踏会にいそしんで
いたのに比べて、意外とアウト
ドア派!
・The Season
議会の会期の時期は、各地の所領からジェントルマン階級の人が集まるようになる
→ロンドンでの社交シーズン
タウンハウスでの舞踏会など。
ウィンブルドン大会やチェルシーフラワーショー、ロイヤルアスコットなどもその名残。
◎ノブレスオブリージ
国家や共同体に災害や戦争などの事態が発生した時は、わが身の危険を顧みず、先頭に立って解決にあたる。
地域の新興や、慈善事業などの無料奉仕…などなど
4. ジェントルマンの今
二度の世界大戦で家督を継ぐべき長男や次男が戦死
景気悪化で広大な所領が維持できなくなる
貴族院の世襲貴族議員が640人→94人に大幅削減(1997)
↓
特権的な地位は徐々に失われつつある。
けれども、数は少なくなったとはいえ、今も先祖から受け継いだ家を守っている人はたくさんいます。
現在でも、産業や金融で成功した人の理想のゴールは、地方に土地を取得してカントリージェントルマンになること。