フランス親責任契約と同国の移民政策

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フランス親責任契約と同国の移民政策
相馬恵里香
(前田研究会 4 年)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 親責任契約について
1 変 遷
2 本契約の目的と内容
3 本契約の当事者
4 制裁規定
5 親責任契約概念の理論的分析
6 親責任契約が契約たりうるための要素は何か
Ⅲ 移民第 2 世代・ 3 世代の若者と ZEP(教育優先地域)政策
1 移民第 2 世代・ 3 世代の若者に関する問題
2 ZEP 政策の概要
3 ZEP 政策を導入したリヨン市の中学校
4 親責任契約と移民との関連―2007年移民法
Ⅳ おわりに
Ⅰ はじめに
2005年10月27日、フランスのパリ郊外でアラブ系青年 3 人が、警察に追われ変
電所に逃げ込み 2 人が感電死したという事件が、大きく報じられた。この事件を
発端に移民の若者らが暴動を起こし、それはフランス全土の都市郊外へと拡大し
た。この暴動では、移民などの低所得者たちが多く集まるスラム街周辺を中心に、
車・商店・警察・消防・学校などが標的となって無差別放火・投石などが行われ、
死者まで出す大惨事となった。これは、フランスにおける失業問題と移民問題と
260 法律学研究50号(2013)
いう深い病根により、所得格差や差別的待遇を受けてきたマイノリティたちの不
満が爆発したといわれている1)。これをきっかけに、スラム化した郊外問題が現
在のフランス社会の抱える大きな課題であるという認識を国内外に示すことと
なった。
他方、特にパリ郊外の住民を念頭に、多くの社会問題の基本的責任は、親の機
能低下にあることが指摘されている2)。このような問題を受け、2006年に、フラ
ンスの若者の雇用状況を改善する解決策を主な内容とする機会平等法が制定され
た。同法では、子供に対する親の義務を親自身に想起させ、子供の不登校をなく
させることを目的とした「親責任契約」という類型・制度が含まれている。
本研究では、この機会平等法により導入された親責任契約に着目し、その内容
を紹介しつつ、移民の子供たちの不登校を解決する一助となるかどうかを考察し
ていきたい。もっとも、親責任契約自体は移民の親と子供だけを対象としている
契約ではなく、フランスの全ての親と子供を対象としている契約である。しかし、
フランス郊外に暮らす子供たちの不登校や学校内でのトラブルは近年多くみられ、
親責任契約がその解決のために特に効果的な役割を果たすのではないかと考えら
れている3)。まず、第Ⅱ章では、親責任契約の概要を紹介し、民法上の「契約」
概念との関係やその法的側面に重点を置いて分析する。また第Ⅲ章では、移民の
子供たちの学業不振を解決するべく作られた ZEP 政策を紹介しながら、その効
果も考察していきたい。
Ⅱ 親責任契約について
はじめに、親責任契約の変遷とその概要を紹介していく。
1 変 遷
親 責 任 契 約 は、2006年 の 機 会 平 等 法4)(la loi du 31 mars 2006 pour l’égalité des
chances, Article 48) 第48条 で 制 度 化 さ れ、 ま た、 家 族 社 会 事 業 法 典 (Code de
5)
l’action sociale et des familles)L. 222-4-1条ならびに R. 222-4-1条から R. 222-4-5条
に同内容の条文が組み込まれた。
2 本契約の目的と内容
親責任契約は、親権(l’autorité parentale)6)を果たしていくことに困難を感じて
261
いる親を支援するために作られた体制である。特に、学校への不登校(ずる休み)
(l’absentéisme scolaire)、 学 校 の 機 能 に 混 乱 を 招 く 場 合( 学 校 内 で の ト ラ ブ ル )
(trouble porté au fonctionnement d’un établissement scolaire) ならびに親権の欠如に
関する全ての困難(difficulté liée à une carence de l’autorité parentale)に直面する親
に対して本契約の申込みが行われる(être proposé)7)。
本契約は、親権者の義務を想起させ(rappelle les obligations des titulaires de l’autorité
parentale)、その状況を改善するためのあらゆる支援と社会活動(toute mesure
d’aide et d’action sociale)を行うことをその内容とする。
3 本契約の当事者
本契約は、県議会議長(le president du conseil général)の判断で、同人から、子
供の親またはその法定代理人に対して(aux parents de l’enfant ou de son répresentant
légal)
、本契約の申込み(une proposition de contrat)が通知されることで、その締
結が正式に提案される。この提案は、面談(un entretien)または文書で(par voie
postale)なされる。親は15日間の猶予期間(un delai de 15 jours)が与えられ、同意・
承諾して契約にサインするか、不同意(désaccord)の場合には、反対の意思を通
知し(pour faire part de leur observations)、また場合によっては、その拒絶を正当
化する理由(motifs justifiant leur refus)を説明しなければならない。
親責任契約の内容は、以下のとおりである。
・本契約を締結すべき理由や事情(les motifs et les circonstances de fait justifiant le
recours à ce contrat)
、ならびに、親と子供それぞれの状況が説明されていなけ
ればならない。
・親権者としての義務を想起させること。
・ 契 約 中 で 特 定 さ れ た 困 難・ 問 題(difficulté) を 改 善 す る こ と を 親 と 約 束
(engagements)すること。
・県議会議長が、その困難・問題の解決に貢献できるような支援と社会活動を提
供すること。
・最初の契約期間は 6 か月を超えてはならない。契約は更新可能(renouvelé)で
あるが、全体の契約期間が 1 年を超えてはならない。
・親と子供の状況の再検討(réexamen)は、契約期間中に行われなくてはならな
い。
・親において本契約の債務不履行が存する場合、または、正当理由なく(sans
262 法律学研究50号(2013)
motif légitime)契約にサインしない場合も、等しく後述の制裁(sanctions)が課
される。
上記が親責任契約における主な内容であるが、県議会議長が申込みを行った親
責任契約を受けて、対象とされた親が、その契約締結に対し同意または不同意の
いずれかを選択することができるという可能性8)についてさらに具体的に説明し
ていきたい。
親が親責任契約締結に不同意の場合、その不同意に正当理由(motif légitime)
がある場合は、何らの効果も生じず、そこで終了する。ただし、法律ではその正
当理由がどのようなものであるかを明らかにしていない。反対に、その家族が何
ら正当理由を示さない場合は、次のような 2 つの効果が発生する。第一に、県議
会議長は、子供に帰属する家族手当を一時的に停止する(suspension)ことがで
きる。その停止期間は 3 か月で、12か月まで更新延長可能である。第二に、県議
会議長は裁判に持ちこすことができる(saisir le justice)。しかしながら、第二の
効果については、契約にサインしないことと裁判を起こすこと(saisine d’une
juridiction)との関係は、法的である(juridique)というよりも心理的(psychologique)
であると評価されている9)。法律に違反した行動がなされた場合は、契約へのサ
インは公的権利から変動を起こす力を奪うことはないということはいうまでもな
い(il va de soi, notamment, que si des actions delictuelles ou contraventionelles ont été
commises, la signature du contrat ne prive pas l’autorité publique du pouvoir de mettre en
mouvement l’action publique)
。
親が親責任契約締結に同意した場合であっても、親が契約を尊重するか、尊重
しないか、または時に(épisodiquement)尊重しない、という 3 つの可能性がある。
親が契約を尊重する場合、条文には特にその先は用意されていない。親が契約を
尊重しない場合には、正当理由なく契約締結を拒否した場合と同様、家族手当の
一時的停止という制裁が課される。最後に、親がはじめに契約を尊重しない場合
は(commencer par ne pas respecter le contrat)、家族手当の一時的停止の可能性が
あり、親が義務に応ずるようになれば、家族手当が溯及的に回復することもある。
このように、親責任契約締結の対象となる親が、正当理由なしに契約締結を拒
否した場合や、締結したにもかかわらず契約内容を尊重しない場合、県議会議長
は家族手当を一時的に停止させることができる。この制裁規定は、親責任契約の
最大の特徴であるといえる。次に、この制裁規定について詳しく説明していく。
263
4 制裁規定
( 1 ) 制裁の内容
親が契約上の義務を履行しない場合、または、何ら正当理由なく契約にサイン
しない場合、県議会議長は、以下の 3 つの行動をとることができる。
① 家族手当(les prestations familiales)10) の支払いを一時的に停止(suspension)
することを求めることができる。
しかし、親が義務を果たせば、家族手当は溯及的に(rétroactivement) 支払
われる。反対に、手当の支払い停止期間が終わっても親が相変わらず義務を履
行しないと、家族手当は非溯及的に(sans effet rétroactif)回復し、県議会議長
はこの状況を改善させるための必要なあらゆる措置を講じる11)。
② 家族給付の一部または全部を保護者に支払うかどうかを裁判官に付託できる。
③ 刑法上の行為を継続する可能性について検事に付託することができる(sasir
le procureur de la République de faits susceptibles de constituer des poursuites pénales)
。
親権の行使という法的義務を懈怠した親に対して、2 年間の禁錮(d’emprisonnement)と 3 万ユーロの罰金が用意されている 。
12)
( 2 ) 制裁規定の公平性に関する問題提起
親責任契約における制裁の公平性(l’équité)については議論の余地がある。な
ぜなら、制裁内容は対象となる子供の年齢や生まれ順(兄弟の何番目か)(du rang
et de l’age de l’enfant concerné)との関係で適用の仕方が異なってくるからである。
例えば、その子供に兄(弟)または姉(妹)がおり、その者が21歳以下である場
合にしか、対象となる子供に対する家族手当の停止は行われない。また、制裁を
行うことによって、問題を起こしている子供 1 人のために兄弟全体に困難をきた
す可能性も危惧される。しかし、この議論に関しては、2004年時の以前の制度に
おいて、手当の停止は十分妥当(正当)であると判断されていた13)。
( 3 ) 2004年時の以前に存在した制裁規定(①)ならびに親責任契約における
制裁規定が生まれるまでの経緯(②)14)
2006年の機会平等法により親責任契約が導入される以前から、家族手当の停止
という制裁制度自体は、別の法律(Code de la sécurité sociale art. L. 552-3)を根拠
として存在していた。同法律の内容を以下で紹介する。
264 法律学研究50号(2013)
大学区視学(l’inspecteur d’academie) により、CAF15) は家族手当を一時的に停
止できる。子供が再び 1 か月間学校に通うようになった時に(l’enfant fréquentait à
nouveau l’établissement pendant un mois)、 家 族 手 当 は 回 復 す る(le versement etait
retabli)。学校欠席がなおも長引いた場合は(en cas d’absentéisme prolonge)
、状況
が改善されるまで家族手当は廃止停止される。
こ の 規 定 は、2004年 の 子 供 の 受 入 と 保 護 に 関 す る 法 律(la loi n゚2004-1 du 2
janvier 2004 relative à l’accueil et à la protection de l’enfance)により廃止され、罰金法
(Code pénale art. R. 624-7)により、子供の学校欠席を改善するための措置を講じ
なかった親に対して750ユーロの罰金を課す制裁に置き換えられた16)。
社会危機を背景に、上記のような罰金制度はなくなり、「親の努力なしには、
学校や教育施設だけで(子供の学校長期欠席を)解決することはできない」という
理解と、「親権が機能低下し、助力を要する」という理解を基礎として当世風に
(au goût du jour)回復したのが、機会平等法第 3 章(親責任契約)である。
( 4 ) 以前に存在した制裁規定の実効性(l’efficacite)17)
2004年に存在した制度の実効性について、生徒の不登校率(les pourcentages
d’absentéisme)と、実際に CAF により家族手当の一時的停止がなされた世帯数に
大きな不釣り合いのあることが指摘されている18)。不登校の男子(11~18歳)が
21%、女子(11~18歳)が13%であるのに対し、2001~2002年度では家族手当の
一時的停止または停止の対象とされた世帯数はたったの6700世帯であった19)。
ここまで親責任契約の詳しい内容を条文に沿って説明してきた。次に、親責任
契約を理論的に理解するために、「親」、「責任」、「契約」のそれぞれに焦点をあ
てて分析していく。
5 親責任契約概念の理論的分析20)
親責任契約は 3 つの矛盾した論理(trois logiques contradictoires)を併せ持って
おり、
「親」・「責任」・「契約」の 3 つの概念は、それぞれ独自の領域で発展して
きたものである。まず「責任」とは、他人に与えた損害を償う義務のことである。
次に「親」あるいは「親子関係(le parenté)」とは親権行使のことであり、それ
は機能的権利(un droit-fonction)の枠内に属すものである。そして「契約」とは、
法律の効果を生み出すために自由に取り交わされる約束のことである。この 3 つ
の概念が「親責任契約」の中で組み合わされ、それぞれの理論が互いを引き寄せ
265
あっている。
ここで、
「責任」における意味の変化について指摘しうる21)。通常は、自ら起
こした行動や、自ら冒したリスクに対する責任(une responsabilité pour ses actes
ou pour les risques que l’on fait courir)、つまり「自己責任」が負わされるが、親責
任契約においては「他者」に対する責任(une responsabilité pour l’autre)、つまり
「子供に対する親の責任」が問題となっている。以上の理解に基づいて、親責任
契約においては、未成年(子供)が社会(学校)に与える危険性を評価し、その
制裁の対象となるべき親権の欠如の諸基準が考慮されたのである。制裁規定は、
「親権の欠如」に際して適用されることとなり、これが認められる場合とは、先
述のとおり、「社会に損害を与える場合」や「学校でトラブルを引き起こす場合」
等である。
しかしながら、親責任契約における「責任」は、異なる方法で理解しうる。そ
れ は、「 他 者( 子 供 ) の 成 育 に 対 す る 責 任(une responsabilité pour le devenir de
l’autre)
」である。このような責任は、親権の定義と合せ鏡(miroir avec la définition de l’autorité parentale)のごとく示され、つまり親権の不十分な行使に対する
制裁(la sanction de l’exercice defaillante)として示されるのである。そしてこの責
任は、子供が引き起こした損害を理由とした措置として推測されるのである
(serait evaluée à la mesure des critères de celle-ci, à savoir des dommages subis par
l’enfant)
。このような観点から考えると、ここで問題となる親とは、不登校によ
る教育の機会の喪失(la perte de chance d’une bonne education par absentéisme)、よ
り一般的にいえば、教育を受けさせ、子供の精神的安定を図るという義務を適切
に実行せず(ne pas avoir correctement execute son devoir d’éducation et de protection
de la securite mentale de l’enfant)、また、学業での成功、社会における成功のため
の能力の開発や精神の成熟を支援しなかった(ne pas avoir favorise son epanouissement, sa maturation psychique ainsi que sa réussite scolaire et sociale)親であり、以上
に対する制裁が課されるということである。このような理解の基に、機会平等法
第 3 章では、
「不登校、ならびに、何人かの子供が直面する可能性のある重大な
困難に対して(face a l’absenteisme scolaire, aux difficultés graves que peuvent rencontrer
certains enfants)
、子供の未来が危うくならないよう迅速に対処しなければならな
い(il faut agir rapidement pour que l’avenir de l’enfant ne soit pas compromis)」と規定さ
れている。
次に、親子関係(le parenté)においても、契約と織りなされた責任との関係に
266 法律学研究50号(2013)
よって新たに方向が定められている22)。親子関係と責任が合わさることで、家族
に一定の役目を承認するのである。それは社会的集団の維持(le maintien du corps
social) である。親権の行使は、国家連帯政策と結び付けられ、加えて、子供や
未成年者の逸脱行為を防ぐために機能する。親責任契約において規定されている
親に対する制裁規定では、親権の行使を機能させることを目指しているだけでな
く(これは、権限 autorité を責任 responsabilité という語に置き換えていることがそれ
を物語っている)
、より広く共同体的理念に即し、親において、子供や社会に対す
る法的、道徳的かつ教育的な完全責任の復権を目指している。この点から、親責
任契約が公法としての性格を持ち、その執行をめぐって、行政裁判官が関与する
ことを説明し得る。
最後に、ここでの契約とは、法律効果を生ずるべく約束を表明する意思の合致
とは評価し得ず、拘束的な単なる同意の集積所と評価し得る23)。ここにおいて
「契約」概念が介在する理由は、 1 つには制裁を親権の正常な行使と結び付ける
ためであり、そして、もう 1 つには、規範が単に存在するだけではその意義や効
力が利害関係人により尊重されない実状に鑑み、同規範の実効性を高めるべく教
訓的観点を取り入れること、具体的には、同規範の尊重において「ギブアンドテ
イク」の論理を注入するためである。
ここまで、親責任契約の「親」・「責任」・「契約」それぞれの言葉を分けて分析
してきた。次に、親責任契約は契約であるのか、なぜ契約である必要があるのか
を掘り下げて考えていきたい。親責任契約が導入される以前に存在した CAF に
よる2004年の制裁規定(上述)は、親責任契約とほとんど同様の制裁規定を持つ
ものの、契約という形はとられていなかった。このことをふまえると、親責任契
約がなぜわざわざ契約という形を介入させなければならなかったかを考えること
には意味があると思われる。そこで、親責任契約が契約であるのか、という問い
に対して 2 つの見解を紹介し、双方の共通点と相違点を分析し、最終的に契約の
一般原則と比較していかに親責任契約が特殊な契約であるかを論じていきたい。
6 親責任契約が契約たりうるための要素は何か
( 1 ) 親責任契約は契約であるのか―Rochfeld の場合
親責任契約の導入により、契約の基準が再度問われることになる24)。まず、本
契約は、①親権者(les detenteurs de l’autorité parentale)と県議会議長との間で締
結される。本契約の締結は、子供の学校の長期欠席や学校でのトラブルがあった
267
場合に行われ、②「親権の義務を(親に)想起させること」、ならびに、③「(県
議会議長が)状況を改善するためにあらゆる社会活動や援助を行う」ことを内容
とする。以上の親責任契約の内容・期間・締結の方法はすべてコンセイユ・デ
タ25)で定められる。また、④制裁規定を伴うことも既述のとおりであり、親権
に関する債務不履行に際して家族手当の支払いを一時的に停止させることができ
( 3 か月更新で 1 年まで)
、 2 年の禁錮と 3 万ユーロの罰金を親に対して科すこと
を検事に付託することもできる。
親に対して子供の成長に関する親の義務を想起させること(上段落の②)に関
して、その具体的義務内容は、既に実在する法律で規定されている義務(Code
26)
civil, art. 371-1 ; Code penale, art. 227-17︶
であり、また、国際条約(la Convention
de New York de 1990 relative aux droits des enfants, art. 28︶
27)
の内容となっている義務
である。さらに、状況を改善するための措置を講ずること(上段落の③)に関し
ても、これらの措置も以前から法律で定められていたものに過ぎない。これらの
既存の義務や措置を契約化しているのが親責任契約の特徴である。
制裁規定については、子供の不登校の問題を解決するため、2004年の CAF(la
caisse d’allocations familiales)において以前から存在しており、契約という形式を
とることと直接には関係がない。なお、失業者との間で締結される PARE(le
plan d’aide au retour a l’emploi) と呼ばれる契約があり(「契約」という呼称ではな
28)
いが、内容的に契約としての性質を持っている) 、この PARE も、失業者に義務を
29)
想起させるという特徴を持ち、親責任契約と似た性質を持つが、PARE には制裁
規定が含まれていない。以上より、制裁規定があるかないかは、それが契約であ
るかどうかに影響するものではないといえる。
こうしてみると、合意に組み込まれることによって、法律や義務は契約上のそ
れに成り代わるのである30)。
この新しいタイプの契約(親責任契約や PARE)は、その内容や義務づけにおい
て「教訓的な」機能を持ち、次の 4 つの性質がその特徴として挙げられる31)。①
契約締結の自由は存在せず32)、②契約の相手方選択の自由もなく(親責任契約の
当事者は、対親と県議会議長)、③契約内容についても選択する余地がなく(親責任
契約の内容はコンセイユ・デタで決定される)
、④契約という形式が介入するのは、
個人の経済的利益のためではなく、原則として交渉の余地がない団体的利益のた
めの梃子として、個人の経済的利益を利用する。
親責任契約では、契約の新たな機能が見出される33)。既存の法律や義務の想起
268 法律学研究50号(2013)
( リ マ イ ン ド )、 な ら び に、 義 務 違 反 に 際 し て の 制 裁 規 定 に よ っ て、
「代償
(contrepartie)
」の論理と「ギブアンドテイク(donnant-donnant)」の論理が出現し、
ここには「教訓的な機能(une fonction pédagogique)」を新たに持つ契約の姿を見
ることができる。つまり、親責任契約は、ただ単に法律の効果を生み出すための
当事者間の意思の合致ではもはやなく、既存の法律や義務を自覚するための個人
の意思の附合を示す印なのである。
(a)
Rochfeld の議論のまとめ
親責任契約の契約的性質にかかる Rochfeld の議論は以下のようにまとめるこ
とができる。
①契約の相手方選択の自由がないこと
親責任契約における当事者とは、親権の義務を懈怠した親と県議会議長である。
一般的な契約と比較して、この契約においては、親は契約の相手方を選ぶ余地が
ない(つまり強制的に県議会議長と契約を結ばなければならない)。
②契約が一方的であり双務的であること
親責任契約には契約締結の自由は存在しない。県議会議長の契約申込みにより、
同人は、「親に親権の義務を想起させ」、「状況を改善するためにあらゆる措置を
講ずること」が課され、他方、親には「義務を尊重すること」が課される。これ
らの義務は、既存の法律によってすでに規定されており、双方がこれに合意する
ことによって「契約化」されるのである。この契約は、形式的に見れば、「双務
的な」契約として位置づけられ、フランス民法1134条から生じる拘束力(la force
obligatoire)を持った性格を帯びている。
③制裁規定を伴うこと
親が親権の義務を尊重しなければ、県議会議長は家族手当を一時的に停止する
ことができる。しかし、制裁規定があることは契約であるかどうかにかかわらな
いということは既に述べたとおりである。
④新たな契約の機能―「教訓的」契約論
親責任契約は、親に「親権の義務を想起させ(親としての義務があることを自覚
させ)」
、それを尊重しなければ制裁が加えられるという「ギブアンドテイク」の
論理を持つことから、「教訓的な機能」を新たに含んでいる。
親責任契約は、以上の 4 つの要素を含んだ特殊な契約である。親は自らに親と
しての義務があることを自覚し、それを怠れば家族手当の停止という「代償」が
待っている。そしてその代償は、個人的利益でなく、団体的利益を最大化するた
269
めに支払われるという論理のもと、親責任契約は「契約」たることが必要不可欠
であり、正当化される。
( 2 ) 親責任契約は契約であるのか―Rolin の場合
①この契約の締結が強制的である(obligatoire) ということは、親責任契約が
契約であるというための妨げとはならない34)。契約締結の自由は契約の一般原則
であるが、特別法を根拠として、公法的制限や公共的制限等により、締約強制は
ありうる。
②親責任契約は間違いなく義務を含んだ契約である。条文に、「状況を改善さ
せるためにあらゆる社会的な援助や措置を講ずること」と定められているように、
行政側にも、家族側にもそれぞれ双務的な(synallagmatique)義務が課されている。
また、契約の一方当事者が県議会議長という公人(une personne publique)、つま
り国であることから、親責任契約は行政契約であると考えられる35)。
③この契約は本質的に強制力を持っており、特に制裁規定が用意されているか
らといって、その契約としての資格を奪うものではない。県議会議長は、親が契
約条項を尊重しない場合、その親に対して行政的な制裁を科すことができる。
④コンセイユ・デタにより、親責任契約は、契約に署名しない場合や契約を尊
重しない場合において、最低収入(revenu minimum)の一時的停止が行われる点
で、
「参入契約(le contrat d’insertion)」36)として構成される。参入契約という構成
は、フランスの雇用対策政策で多く用いられている37)。
(a)
Rolin の議論のまとめ
①契約締結が強制的であること(Rochfeld の①および②と比較)
親責任契約締結は強制的に行われる。この契約締結は、契約自由の原則からは
正当に遠ざけられており、公法的・公共的制限等の理念にその根拠を見出すこと
ができる。
②双務的であること(Rochfeld の②と比較)
この契約では、親に対して契約内容を尊重する義務が課され、国は家族の状況
を改善させるためにあらゆる援助を行う義務が課されていることから、以上のよ
うな意味で双務性が存在する。
③制裁規定があること(Rochfeld の③と比較)
県議会議長は、契約締結に署名しないか、契約内容を尊重しない親に対して家
族給付の一時的停止という行政的制裁を科すことができる。親責任契約に制裁規
270 法律学研究50号(2013)
定が存在することは、同契約を契約たる資格から遠ざけるものではない。
④行政契約であること(Rochfeld の④と比較)
親責任契約は、家族給付が参入された、国を一方当事者とする行政契約である。
( 3 ) Rochfeld と Rolin の議論の比較とまとめ
Rochfeld は、親と県議会議長が親責任契約における契約当事者であることを
前提に、この契約は国側の一方的な契約であり、さらに、親が契約内容を尊重し
なかった場合に代償として制裁が加えられる、と説明する。この点においては、
Rolin の説明においても、親と県議会議長の間における契約は強制的であり、制
裁規定が存在するとして共通する。また、Rochfeld は「ギブアンドテイク」の
論理を用いながら、親責任契約は「国が親に親権の義務を想起させる」ための「教
訓的な契約」である、として契約の新たな機能をその特徴として注目する。さら
に両社は、親責任契約における親と県議会議長の間に双務性が存在する点も契約
足りうるための要素として注目し、Rolin は、この契約の一方当事者が必ず国で
あることから、家族給付を参入した行政契約である、としてその性格を説明して
いる。このように、Rochfeld と Rolin のそれぞれの親責任契約の契約たりうる要
素の考え方には共通部分と異なる部分があり、異なる部分は、このタイプの契約
を、
「教訓的」契約(Rochfeld)と捉えるか、行政契約ないし参入契約(Rolin)と
捉えるかという点である。
Ⅲ 移民第 2 世代・ 3 世代の若者と ZEP(教育優先地域)政策
1 移民第 2 世代・ 3 世代の若者に関する問題
ここまで、親責任契約の概要を紹介し、詳しく分析を行ってきた。冒頭で述べ
たように、親責任契約はフランスの親と子供全般を対象としている契約である。
ここからは、親責任契約が移民(特にフランス郊外に住む移民)とどのような場面
で関連し、移民の子供たちが抱えている問題にどのような効果をもたらしうるの
かを考えていく。
そもそも親責任契約が規定された機会平等法とは、フランスの若者が置かれて
いる現実(就業率・失業率)を再確認し、教育と雇用を改善して解決していこう
という方針で制定された法律である。失業率が特に高い移民の若者は、教育・雇
用などの面でどのような状況にあるのか。
271
現在、フランスにおいて移民の人口は431万人にのぼり、その数は人口の7.4%
に当たるといわれている38)。出生地主義により仏国籍を取得している移民の子供
たち ―移民二世・三世 ―は500万人に相当する。彼らは両親の出身国の言葉
や文化を家庭で受け継ぐ一方で、フランス社会のなかではフランス人として生活
している。定住化した外国人にとって、子供の教育の問題は重要である。特に、
外国人の子供や、フランス国籍を取得した移民(移民第 2 世代・ 3 世代の若者)に
とっての大きな課題はフランス語の習得であり、それがしばしば彼らの学業不振
の原因となっている39)。
2 ZEP 政策の概要
ZEP 政策とは、1982年に開始した、教育が十分でない地域(実質的には移民人
口の多い地域)を重点的に救済する施策のことである。
ジョスパン法執行以降、子供たちの学業の成功を目指すようになってからは、
ZEP(教育優先地域)政策に移民の若者への配慮が見られる。社会・経済的環境
の恵まれない地域における子供たちへの教育活動を強化するために開始されたこ
の政策からは、指定地域の住民の職業社会層から、いかにフランスにおいて職業
や経済環境が子供の就学に大きな影響を与えるかが読み取れる。またその対象生
徒の35%は移民出身というデータも得られ、実質的に移民の子供たちに関わりが
深い。ZEP においてはフランス語の強化、市民教育、学校と家庭の連携を 3 つ
の大きな方針としている。一学級における定員を平均より縮小させることや、補
習クラスを設置するといった体制づくりだけでなく、1991年に始まった学校外の
地域活動の振興のための ATS(学校時間調整)政策がこの ZEP 政策のなかに組み
込まれ、学校を地域社会に開放することで教育を地域全体で推し進めることが企
図されている。美術館の見学や読書の推進などを行い、家庭の目を教育に向け、
いっそう関心を持たせるような試みがなされている。ところが、近年の ZEP 政
策下の生徒と他地域との成績や進路などの比較などの資料から、大きな改善傾向
は見られず、依然として職業リセや技術リセへの進学率が高い。
3 ZEP 政策を導入したリヨン市の中学校
(鈴木規子「フランスの移民の教育」40)より)
ZEP 政策下の学校の状況を知るため、フランスのリヨン市を以前訪れたこと
がある41)。美食の町といわれるリヨン市の中央駅からバスで20分ほどいったとこ
272 法律学研究50号(2013)
ろにある小・中学校を訪問した。そのあたりはさびれたカフェが 1 件ある以外に
店はほとんどなく、低所得者向けとおぼしき集合団地がいくつかあった。衛星放
送用のアンテナが多くのベランダに設置されていることから移民が多く住んでい
ると想像できる。我々が訪問した中学校がある一帯は1990年に ZEP に指定され、
1998年には近隣にある小学校(幼稚園も隣接している) 4 校との間で優先教育網
(REP)といわれるネットワークを構成し、ともに問題にあたっている。そのネッ
トワーク全体では2000~2500人の生徒を数え、比較的規模が大きい。この地区の
社会的現状は、「社会・職業分類」(social-professional category)により「恵まれな
い」と分類される家庭が70%を超え、他の REP の平均よりも高い。また、ひと
り親世帯が増えており、生活保護受給者が非常に多い。そして学校に通う子供の
多くは移民第 2 世代だが、フランス国籍も持っている。移民の親子は自分の殻に
閉じこもる傾向があり、問題を抱え込んでしまうことが指摘されている。このよ
うに生徒の多くが家庭に問題を抱えていることが、学校で暴力をふるったり規律
違反の振舞いをしたりする要因のひとつと考えられている。この中学校の生徒の
教育状況は、他の REP と比べてもかなり困難な状況にあった。この中学校の評
価によれば、①小学校での留年率が非常に高いため、中学校に進学した時点での
年齢が高い。生徒の 7 割以上が同じ REP の小学校から来ていて、その半数がす
でに 1 年かそれ以上留年している。②生徒のほとんどが「恵まれない」家庭に属
し、親が労働者か失業中という家庭環境にある。親の失業率は大学区内の平均の
2.5倍。③生徒の半数が 4 人以上の子供がいる家庭で、ひとり親であることが多い。
④中学 1 年目の全国評価の結果はやや優れているが、修了の結果が悪い。つまり
落ちこぼれる生徒が多い。また、中学修了時点の年齢が平均的な16歳よりも高い
生徒が 2 割を占める。これは大学区平均の 2 倍である。
ここから、この地区の抱えている移民問題、失業や生活保護世帯など家計の悪
化、ひとり親世帯に象徴される家庭崩壊などの社会問題が、子供の学業不振とい
う教育状況の悪化につながっていることが分かる。特に、家庭環境の悪化が中学
生という多感な子供に与える影響は大きく、この中学校では校内暴力が起こらな
いように、予防に神経をとがらせていた。こうした状況の学校への優先的な教育
政策はもちろん必要だが、学校や教育だけでは解決できない、社会構造的な要因
があるのも事実である。
273
4 親責任契約と移民との関連―2007年移民法
外国人の入国および滞在ならびに庇護権に関する法典に、L. 第311-9-1条が追
加 さ れ、「 家 族 の た め の 受 入・ 統 合 契 約(CAIF:Contrat d’accueil et d’intégration
pour la famille)」が創設された。この家族のための受入・統合契約とは、家族呼
び寄せを行った子を持つ親が、国と新たに結ぶ契約であり、この契約により、親
は、
「フランスにおける親の権利及び義務に関する研修」を受けることになる。
この研修は、男女平等、政教分離を基本とした、無料、かつ、義務的な学校教育
に関する、外国人および移民受入庁による研修である。家族によって異なるが、
研修は半日または 1 日程度である。なお、この研修費用は国が負担する。仮にこ
の家族のための受入・統合契約を遵守しない場合(すなわち、上述の研修に参加し
ない等の場合)には、まず、知事が県議会議長に申立てを行い、該当する親と親
責任契約を締結する。この親権責任契約とは、本稿で説明してきたとおり、親が
子の教育環境を整える等の努力をすることを義務づける契約である。しかし、こ
の親権責任契約も遵守されていない場合(または当該契約を締結しない場合)には、
県議会議長は、その家庭に支払われる手当を差し止めることができることも既述
のとおりである。また、次の滞在証更新の際に、この事態が考慮されることにも
なる。
このように、新たに入国を考えている外国人(呼び寄せ家族)には、まず家族
のための受入・統合契約を締結させ、その契約内容を遵守しない場合に親責任契
約が補足的に締結される。そしてすでにフランスに入国し、生活をしている移民
家族には、他のフランス人家族と同様に親責任契約が締結されるという仕組みに
なっている。
Ⅳ おわりに
ここまで、フランスにおける移民の子供たちの学業不振や不登校などの問題を
改善する解決策として、親責任契約の内容について細かく紹介してきた。冒頭で
述べたように、親責任契約はフランスの全ての親と子供を対象としている契約で
ある。しかしながら、親責任契約が雇用状況を改善するために子供の教育から解
決していくという目的で機会平等法に規定されているということや、2007年移民
法において移民に対して適用される場面が用意されていることから、同契約は特
274 法律学研究50号(2013)
に移民の親と子供を重要視していると考えられる。
親責任契約の「親」・「責任」・「契約」のそれぞれの概念で分けた分析をとおし
て、子供の学業不振・不登校を改善するためには 1 つの法律に沿って答えが得ら
れるというわけではなく、家族社会事業法や、民法、行政法といった様々な法律
の観点から立体的に見ていかなければ解決策は導き出せないということが分かっ
た。よって、移民の子供たちの抱える問題を改善するためには、学校内で取り組
む教育政策だけでは不十分であり、家庭内にも目を向けて親責任契約が機能的に
役目を果たしていかなければならない。
1 ) 発端となる事件の起きたクリシー=ス=ボワなどフランス語でバンリューと呼
ばれる郊外部は貧困層の住む団地が多くスラム化しており、失業、差別、将来へ
の絶望など積もり積もった不満が一気に噴出したものとみられている(http://ja.
wikipedia.org/wiki/2005%E5%B9%B4%E3%83%91%E3%83%AA%E9%83%8A%E5%A4%9
6%E6%9A%B4%E5%8B%95%E4%BA%8B%E4%BB%B6︶。
2 ) 江口隆裕『フランス少子化対策の系譜』p. 128(http://www.lawschool.tsukuba.
ac.jp/pdf_kiyou/tlj-07/tlj-07-eguchi.pdf)。
3 ) 機会平等法は、雇用と教育によってフランスの若者の失業率を改善することを
目的としている。本文で後述するとおり、パリ郊外に住む移民の若者の雇用状況
は悪く、機会平等法における解決策の中には、不安定な都市区域に住む若者への
特別な援助や差別対策、親責任契約などがあり、フランスの移民の若者の現状を
回復させる可能性を持つと考えられる(http://www.ambafrance-jp.org/spip.php?
article1054︶。
4 ) 機会平等法については在日フランス大使館のホームページに日本語で詳しく紹
介されている。フランスの若者が置かれている状況、特に雇用状況は改善されな
ければならない。国会で採択された機会平等法案は、数十年来続いているこの状
況に対する具体的な解決策が盛り込まれている(例:教育と雇用による解決、差
別対策)
(http://www.ambafrance-jp.org/spip.php?article1054︶。
5 ) 1956年に制定され、家族、高齢者、障害者等に対する様々な社会扶助ないし社
会事業およびそれらを遂行する機関等について定めるのが家族社会事業法である。
社会扶助および社会事業について定める第 2 編の第 2 章は、「児童」と題され
て い る(
(http://www.moj.go.jp/content/000033297.pdf)
、
(http://fr.wikipedia.org/
wiki/ Code_de_l’action_sociale_et_des_familles))。
6 ) 親権については、民法の第 9 章(民法371条から387条まで)に規定されている。
「親(autorité parentale)」は、「子の利益を目的とする権利及び義務の総体」(民
法371条の 1 、 1 項 9 )であり、「子をその安全、健康及び精神において保護し、
かつ、子の教育を保障しその発達を可能とする」という目的のために、父母に帰
属するとされる(同 2 項)。
275
7 ) このような曖昧な表現が用いられているのは意図的であり、特徴のはっきりと
した法律違反の行為をしていない社会から孤立化しつつある何人かの未成年者の
行動も含めるためである(Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 399,
右側 1 段落目のカッコ内)。
8 ) Rolin, F «Revue des Contrats» 2006, p. 850, 3 段落目の Il faut d’abord から。
9 ) Rolin, F «Revue des Contrats» 2006, p. 850, 4 段落目。
10) 4 つ の 手 当 か ら な る 乳 幼 児 保 育 給 付(prestation d’accueil du jeune enfant:
PAJE)に統合され、2004年 1 月から実施されている)。
・出産・養子一時金(prime à la naissance ou à l’adoption):生後 7 か月目までの
乳児等に支給される一時金(2009年現在、894.19ユーロ/月)で、所得制限がある。
・基礎手当(allocation de base): 3 歳までの子供の養育費を補塡するために支
給されるもの(2009年現在、子供 1 人につき178.84ユーロ/月)で、所得制限が
ある。
・就業自由選択補足手当(complément de libre choix d’adoption:CLCA): 3 歳
未満の子供を育てるために離職し、またはパート就労に変更した親に支給される
もの(2009年現在、完全離職の場合には376.05ユーロ/月が支給され、基礎手当
と 併 給 で き る )。2005年 7 月 1 日 か ら、 就 業 自 由 選 択 補 足 手 当(complément
optionnel de libre choix d’adoption:COLCA)も追加され、第 3 子以降について、
受給期間を短縮する代わりに手当額を増額することができるようになった。
・保育方法自由選択補足手当(complément de libre choix du mode de garde): 1
人以上の子供を有する親が、出産休暇の後に職業活動を再開した場合に、 6 歳未
満の子供の育児費用を補塡するために支給されるもので、保育ママの雇上げ費ま
たは在宅保育の費用に充てられる。所得制限はないが、支給額は家族の収入に
よって異なる。
11) Code de la sécurité sociale art. L. 552-3.
12) Code pénale art. 227-17.
13) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 397, 右側 2 段落目 Enfin から。
14) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 395, 右側 2 段落目 Ainsi から。
15) CAF とは、la caisse d’allocations familiales のことである。
16) Code pénale art. R. 624-7.
17) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 397, 左 側 2 段 落 目 の 6 行 目
D’ailleurs から。
18) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 397, 左側 2 段落目(...on soulignait
alors une disproportion importante entre les pourcentages d’absentéisme...)。
19)(http//www.famille.gouv.fr),dossier de presse du mardi 1er oct. 2002 relatif à
l’obligation scolaire。
20) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 397, 右側 3 段落目から。
21) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 398, 左側 3 段落目 En premier
276 法律学研究50号(2013)
lieu から。
22) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 400, 左側 1 段落目 Quant au lien
から。
23) Rochfeld, J «Revue Trimestrielle de Droit civil» p. 401, 右側12行目。
24) Rochfeld, J «Revue des contrats» 2006, pp. 666-667.
25)(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%8B%99%E9%99%A2_(%E3%83%95%
E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9))。
26) Code civil, Article 371-1(http://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do;jse
ssionid=8125D2924B9062244AEBFA75D2F7199E.tpdjo17v_1?idArticle=LEGIARTI0
00006426468&cidTexte=LEGITEXT000006070721&dateTexte=20121031︶.
Code penale, Article 227-17(http://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do;j
sessionid=8125D2924B9062244AEBFA75D2F7199E.tpdjo17v_1?idArticle=LEGIART
I000006418055&cidTexte=LEGITEXT000006070719&dateTexte=20121031︶.
27)(http://www.unicef.org/morocco/french/CDE.pdf)。
28)(http://www.melchior.fr/index.php?id=5128&no_cache=1&type=123︶。
29) Rochfeld, J «La Figure du Contrat Pedagogique»(http://hal-paris1.archivesouvertes.fr/docs/00/36/80/31/PDF/JRochfeld-Repenser_le_contrat-CPedagogiques.
pdf).
30) Rochfeld, J «Revue des contrats» 2006, p. 667.
31) Rochfeld, J «Revue des contrats» 2006, p. 668の En consequence から。
32) ここで、日本民法における契約の一般原則について、山本敬三『民法講義Ⅰ 総則』p. 100から紹介したい。
契約自由:制度的自由としての契約自由、契約自由の 2 つの側面(消極的・積極
的側面)
制度的自由→他人の同意を得ることにより、お互いの生活空間の形成を可能にす
る制度が必要になる。それが契約制度である。
契約自由の 2 つの側面
契約自由の消極的側面
→・契約締結の自由(契約を締結してもしなくてもよいという自由)
・相手方選択の自由(誰と契約をしてもよい)
・内容形成の自由(どのような内容の契約をしてもよい)
・方式の自由(どのような方式で契約をしてもよい)
契約自由の積極的側面
→・契約の承認請求権(国家に対しての契約の法的有効性の承認を求める権利)
・契約の実現請求権(裁判所を通じて契約の強制的実現を求める権利)
上に記した契約自由を、本文に述べた Rochfeld と Rolin の親責任契約における
契約の性質と比べてみる。すると、契約自由の消極的側面における 3 つの自由
(相手方選択の自由、内容形成の自由、方式の自由)は Rochfeld と Rolin が挙げ
277
た特徴(本論文 p. 268の①契約当事者がいること、②契約が一方的であること、
③制裁規定を伴うこと、④教訓的な契約と、p. 269の①契約締結が強制的である
こと、②相互義務があること、③制裁規定があること、④行政契約)のいずれに
も当てはまらない。一方、上に記した契約自由の積極的側面について見てみると、
契約の承認請求権と契約の実現請求権のいずれも、Rochfeld と Rolin が指摘する、
親責任契約の制裁規定の性質に当てはめることができなくもないと考えられる。
33) Rochfeld, J «Revue des contrats» 2006, p. 667, 3 段落目の Mais から。
34) Rolin, F «Revue des Contrats» 2006, p. 851, 右下から。
35) 親責任契約が行政契約であることの説明は、以下に記す論文の第 2 章に詳しく
書かれている。Rolin, F «Revue des Contrats» 2006, p. 852.
また、P. ウェール、D. ブイヨー著、兼子仁、滝沢正訳『フランス行政法 判
例行政法のモデル』pp. 11―17には、行政法における公理(dogmes)は公役務
(service public)であり、市民への給付(prestations)を行う福祉が一般利益の
使命であると説明している。また、役務の需要を充たすべく、行政は必要な行動
手段として公権力特権と普通法外手段(moyen exorbitant du droit commun)を
手にする、とある。これらの「公役務」や「普通法外手段」は、上に記した
Rolin, F の章にも同じように行政契約たりうるための重要要素として論じられて
いる。
36) Le contrat d’insertion(編入契約)の「insertion」とは、日本語で「挿入物、編入」
などと訳されるが、ここでは家族に対する「家族給付」のことであると考えられ
る。他の le contrat d’insertion(編入契約)の例として、志願者に仕事探しを容
易にするために金銭的援助を行う le contrat unique d’insertion(CUI)が挙げら
れる。
37) 高山直也『フランスにおける長期若年失業者と援助契約』。
38)(www.cafefle.org/txtronbun/2004rbtakahashi3pjp.pdf)。
39)(www.blog.crn.or.jp/report/02/61.html)。
40)(www.blog.crn.or.jp/report/02/61.html)。
41) リヨン市のある ZEP の中学校(www.blog.crn.or.jp/report/02/61.html)。