神経難病・筋委縮性側策硬化症の原因に 蛋白質分解異常が関与する

神経難病・筋萎縮性側索硬化症の原因に
蛋白質分解異常が関与する可能性
ー遺伝子改変マウスでの知見からー
2013年1月9日(水)
説明者
和歌山県立医科大学 神経内科学講座 教授
伊東 秀文
Journal of Biological Chemistry 287(51):42984-94, Dec 14, 2012
責任著者 : 伊東秀文・高橋良輔
今回の発表のポイント
• 今回我々の開発したマウスが、孤発性筋萎
縮性側索硬化症(ALS)に類似した運動機能
異常・病理所見を世界で初めて示したこと
• ALSで蛋白質分解系の障害の関与が示唆さ
れていたが、これが原因になり得ることを動
物で初めて示したこと
• このマウスモデルを用いて、ALS病態機序の
解明・治療法の開発が期待できること
その他の学術的な意義
• ALSにおいて、オートファジー・リソソーム系で
はなく、ユビキチン・プロテアソーム系が主因
となることを示したこと
• これまでALSモデルマウスとして用いられて
いた変異SOD1マウスでの限定的なアプロー
チからの脱却
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)
Jean-Martin Charcot (1825 - 1893)
1869年にALSを医学論文に記載
Lou Gehrig (1903-1941)
Babe Ruth (1895-1948)
紀伊 ALS(牟婁病)
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)
脊髄の横断像
側索
前角
運動ニューロンが選択的に変性する
孤発性筋萎縮性側索硬化症 (SALS)
スケイン様封入体(SLIs)
TDP-43免疫染色
円形硝子封入体(RHIs)
TDP-43免疫染色
多くの神経変性疾患では異常な蛋白質の蓄積が認められる
ポリグルタミン病
パーキンソン病
ALS
アルツハイマー病
異常な蛋白質の蓄積
神経変性・神経細胞死
プリオン病
タンパク分解機構異常を中心とした
神経変性メカニズム仮説
タンパク質分解系の障害
異常タンパク質の蓄積
神経細胞の機能障害
神経変性
神経細胞死
主な蛋白質分解経路
ユビキチン・プロテアソーム系
オートファジー・リソソーム系
ユビキチン・プロテアソーム系
ユビキチン
E2
E3
蛋白質
プロテアソーム
オートファジー・リソソーム系
リソソーム
オートファゴソーム
オートリソソーム
ユビキチン・プロテアソーム系を障害するために
プロテアソーム機能に必須である
Rpt3タンパクを欠失させた
Rpt3
オートファジー・リソソーム系を障害するために
オートファジーに必須な蛋白質である
Atg7タンパクを欠失させた
Atg8/LC3
Atg4
Atg5
LC3
Atg12
Gly
E1
Atg3
PE
Atg10
Atg7
E2
E2
LC3
Atg5
Atg12
LC3
脊髄の運動ニューロンでのみ障害が起こるように
目標の場所だけで遺伝子を欠損させるシステムである
Cre-loxPシステムを利用した
AL H A
AL A H
Wild Type Rpt3
AL A H
AL A H
A
NEO
R1
AL A H
F1 AL H A
Targeted Rpt3
Floxed Rpt3
AL H A
AL H A
R2
プロテアソーム障害マウス
(Rpt3-CKO)
Cre酵素
Knockout Rpt3
1Kb
Cre酵素を目標の場所だけで発現するように設定
loxP 配列
loxP 配列
欠損予定の遺伝子
(Komatsu M, et al., J Cell Biol. 2005)
オートファジー障害マウス
(Atg7-CKO)
loxP 配列
運動ニューロンのみで
Cre酵素が発現するマウスを使用した
VAChT (vesicular acetylcholine transporter) Cre マウス
このマウスは運動ニューロンのみでCre酵素を発現する
(Misawa et al. 2003)
プロテアソーム障害マウス
Rpt3-CKO
の結果
プロテアソーム障害マウス(Rpt3-CKO)は
8 週齢以降に筋力低下の症状である振戦(ふるえ)様症状を示
し、尻尾吊り下げ時の下肢伸展反射が低下した
体重差
*
体重 (g)
**
対照マウス
Rpt3-CKO
週齢
§§* §* §
*
*§
プロテアソーム障害マウスは運動機能が低下した
Rpt3-CKO
対照マウス
プロテアソーム障害マウスは運動機能が低下した
Rpt3-CKO
対照マウス
プロテアソーム障害マウスは運動機能が低下した
握力測定
ロタロッドテスト
§
§
ロタロッドテスト (秒)
*
*
§
*
*
§
* * *
* §
§
§ §
§
§
§ §
§§ §§ §
握力 (g)
§ § *
§ §
前肢
§
週齢
*
§ § § §
*
握力 (g)
*
§ * *
§
後肢
週齢
* *
§ §
プロテアソーム障害マウスは
運動ニューロン数が進行性に減少した
§
§
対照マウス
§
§
NS
Rpt3-CKO
運
動
ニ
ュ
ー
ロ
ン
数
6
12
40
6
12
40
週齢
週齢
Scale bar 30μm
対照マウス
Rpt3-CKO
ALS患者
Rpt3-CKO
マウス
プロテアソーム障害マウスは
運動ニューロンにALS類似の神経細胞変性を認めた
中心性色素融解
好塩基性封入体
Scale bar 10μm
Ubiquilin2
Optineurin
FUS
TDP-43
プロテアソーム障害マウスは
運動ニューロンにALS類似の神経細胞変性を認めた
対照マウス
6
Rpt3 CKO マウス
6
週齢
12
ALS患者
オートファジー障害マウス
Atg7-CKO
の結果
オートファジー障害マウス(Atg7-CKO)の
運動ニューロン数や運動機能は
マウスの寿命である2年齢まで変化がなかった
対照マウス
Atg7-CKO
ヘマトキシリン&エオジン染色
Atg7CKOマウスにおける 凝集体
Atg7 CKO
対照マウス
オートファジー障害マウスの運動ニューロンは
細胞内に大きな封入体が形成されるが
細胞死は認めなかった
電子顕微鏡写真
Atg7
CKO
対照マウス
Atg7-CKOマウスの封入体では
孤発性ALSで出現する代表的蛋白質は陰性であった
P62, Nbr1
オートファジーで
分解される蛋白質
Ubiquitin
TDP-43
FUS
p62
Nbr1
Atg7
CKO
対照マウス
H&E
Optineurin Ubiquilin2
発見のまとめ
運動ニューロンのみに蛋白質分解機構を障害させたマウ
スを作製し解析を行ったところ、プロテアソーム障害マウス
にALSに類似した運動機能異常や病理所見が認められた。
プロテアソーム障害マウス
・運動機能異常
・運動ニューロン死
・ALS様病理所見
ALSに類似した症候
オートファジー障害マウス
・運動機能に異常なし
・運動ニューロン死を認めない
・ オートファジー障害に関連す
る病理所見のみ
ALSとは異なる所見
今後の展開
プロテアソーム障害マウスのより詳細な解析を行い
ALSの発症機序を解明する
プロテアソーム障害マウスの中で何が起こっているか
蛋白質やRNAなどの挙動変化を追い
ALS患者のデータと比較して病因となる分子を同定する
今後の展開
プロテアソーム障害マウスを用いて治療法の開発を行う
ロタロッドテスト
ロタロッドテスト (秒)
§
§
*
*
§
*
*
§
* * *
薬剤の投与
週齢
・運動機能の保持や、病理変化の抑制・改善が認められる
既存薬の探索や新規薬の開発に対する動物モデル
今回の研究成果発表については、原著論文に記載ある通り
以下の共同研究機関と共に研究を行い成果を得たことを記す。
(原著論文は現在 http://www.jbc.org/content/early/2012/10/24/jbc.M112.417600.full.pdf より取得可能)
・京都大学
・滋賀医科大学
・新潟大学
・慶応大学
・順天堂大学
・東京都医学総合研究所
・JST-CREST
問い合わせ先
和歌山県立医科大学 (伊東秀文)
電話:073-441-0654
FAX :073-447-9488
e-mail: [email protected]