第5章 将来人口の趨勢

第 5 章 将来人口の趨勢
1
長期人口予測を行うときに使われる道具
• 年齢別生存関数 (age-specific survivorship function)
ある年齢の人が次の年も生きている確率を表す.
第 5 章 将来人口の趨勢
• 年齢別出生率関数 (age-specific fertility function) あ
る年齢の 1 人の女性が次の年までに子供を産む確率を
表す.
⋆ 講義ノートは
http://www2.asia-u.ac.jp/˜ shin/lecture/growth.html にある.
⋆ 第 2 版のスライドは
http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 2/ → Classrom ReR Slides にある.
sources → PowerPoint⃝
⋆ 第 3 版のスライドは
Figure 2
人口予測
http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 3/ → Classrom ReR Slides にある.
sources → PowerPoint⃝
人口増加は 1 人当たり所得水準を決定する重要な要因
• ある特定の国や地域の人口予測には移出民を考慮しな
ければならない.
• マルサスモデル
– 天然資源に比べて人口が多い国 → 貧しい
5.1.1
• ソローモデル
死亡率の予測
人口増加率の決定要因: 死亡率の変化と出産率の変化
– 人口成長率が高い国 → 資本希釈 → 貧しい
可妊期間中の死亡率
第 5 章では,
• 可妊期間中の死亡率の低下 (可妊期間 (15-49 歳) 中に
(1) 将来人口予測
生きている確率の改善) −→ 純再生産率 (NRR: net
(2) 年齢別人口構造の変化が 1 人当たり国民所得に与える
rate of reproduction) ↑ −→ 人口 ↑
影響
新生女児が 45 歳まで生きている確率
• アメリカ: 97%
5.1
人口の予測
1958 年度国連の人口学者達は 2000 年になると世界人口
は 62 億 8 千万と予測
Figure 1
世界人口,1850 年から 2150 年
• インド: 82%
■ AIDS in Africa
• AIDS −→ 期待寿命 (life expectancy) ↓ −→ 純
再生産率 (NRR: net rate of reproduction) ↓
老年期の死亡率
• 横軸: 年度,縦軸: 人口
• 1950 年-2000 年: 年間 1.8% 増加
• 2000 年-2050 年: 年間 0.9% 増加 (予測)
• 2050 年-2100 年: 年間 0.2% 増加 (予測)
• 2200 年頃: 110 億以下で安定的と予測
• 老年期の死亡率の低下 (新しく生まれてくる新生児の
数を一定とすれば) −→ 人口 ↑
5.1.2
出生率の予測
• 人口置換水準の出生率 (replacement fertility) 長期に
おける人口規模一定と矛盾しない出生率.
• 先進国の人口置換水準の出生率は女性 1 人当たり 2.1
• 先進国の人口置換水準の出生率 < 発展途上国の人口
置換水準の出生率
第 5 章 将来人口の趨勢
2
国連の人口予測
(2) アメリカの場合
• 今後 50 年で,合計特殊出生率 (TFR: total fertility
rate) が人口置換水準の出生率 (replacement fertility)
1964 には 400 万人の赤ん坊がアメリカで産まれ,アメリ
カセンサス局では 10 年間,年々の出生総数は 500 万人にな
に収束する.
るだろうと予測した.事実は 1974 年に産まれた赤ん坊はわ
• ほとんどすべての国で TFR は 2050 年にはちょうど
ずか 320 万人でしかかなった.
■ テンポ効果
2.1 になるだろうと予測.
• 多くの発展途上国にとってはこうした結果は出生率の
急落を意味し,多くの豊かな国にとっては出生率の顕
• 平均出産年齢の上昇 −→ TFR に影響
著な上昇を意味する.
• テンポ効果 (Tempo Effect): 出産の平均年齢が上昇す
ることにより発生する合計特殊出生率の一時的な減少
• 先進国: 出生率 ↑, 発展途上国: 出生率 ↓
豊かな国の出生率
貧しい国の出生率
• 先進国グループの合計特殊出生率 (total fertility rate)
は 2005 年に女性 1 人当たり 1.6
• グループ内のばらつきが大きい
Table 1
発展途上国の出生状況
• アメリカ: 2.1 ← 先進国の中では高い.
• カナダ (1.6),ドイツ (1.4),イタリア (1.3),日本 (1.3),
スペイン (1.3)
• 2000 年-2050 年の間に,日本の人口は 14% 減少,イ
タリアの人口は 25% 減少
• 合計特殊出生率, 1970-1975: 5.50
• 低い出生率 → 平均年齢 ↑
• 合計特殊出生率, 2000-2005: 2.90
Drucker (1997), “先進諸国は集団自殺の過程にある.”
(1) 日本の場合
• しかし,出生率 > 人口置換水準の出生率
Figure 3
Figure 4
1 人当たり所得と合計特殊出生率
日本の合計特殊出生率: 実際対予測
• 横軸: 年度,縦軸: 合計特殊出生率 (Total fertility
rate)
• 予測の難しさ
• 合計特殊出生率 (total fertility rate) は人口置換水準
の出生率 (replacement fertility) まで回復と予測 →
合計特殊出生率は過去 30 年間下落し続ける
• 横軸: 1 人当たり所得,縦軸: 合計特殊出生率 (Total
fertility rate)
• 国連はナイジェリアが他の貧しい国と同様に,過去に
多くの国が置換水準に達したときよりはるかに低い所
得水準で置換水準に達すると予測している.
• 置換水準を達成しつつある国の所得水準は次第に低下
していた.
第 5 章 将来人口の趨勢
5.1.3
3
人口モメンタム
純再生産率 (NRR: net rate of reproduction)=1 −→ 直ち
に人口増加率が 0 になる必要はない.
人口変化の経済的帰結
5.2
5.2.1
人口成長の鈍化
• 人口モメンタム (Demographic momentum,人口学
的慣性): 出生率が短期間で変化し各世代の人口置換
Table 2
国家群による人口の年平均成長率
水準にまで低下したとしても,人口の規模は増加する
こと1 .
• 人口モメンタムは,出生率が最も高い国で,最も顕著
になる.
今後 50 年間
• 世界人口の年平均増加率: 1.8%
人口モメンタムの測定
• 人口増加率の鈍化は中進国で最も顕著 → 約
人口モメンタムの大きさの便利な指標は 15 歳未満の人口
下落
• 最も豊かな国でも,人口成長は大幅に低下し,完全に
0% に収束
の割合である.
• 低開発国では高い出生率と人口モメンタムの複合効果
で人口成長はごくわずかしか低下しない
• この年齢層の人口比率が高い国 → 可妊期間にいる女
性の増加 → 数十年後人口増加
15 歳未満の人口比率
2
3
■ 地球はどれほどの人口を扶養できるか?
• Leeuwenhoek 134 億 (1679 年予測)
• アフリカ 45 カ国を含む 78 カ国: 40% 以上
• Wells 70 億 (1931 年予測)
• アメリカ: 21%
• Scientific American に掲載された論文 400 億
(1976 年)
• 日本: 14%
人口モメンタムのために将来の人口成長はほとんど避け
• Worldwatch Institute 110 億 (1998 年)
られない.
• Cohen 10 億-1 兆 (1679 年-1994 年の資料収集)
5.1.4
– 生活水準 (standard of living)
超長期の人口
Figure 5
– 持続性の問題 (sustainability)
– 技術水準 (level of technology)
世界人口の増加の大尖塔
人口増加が定常状態における労働者 1 人当たり生産量に与
える影響: 第 4 章を参照
• 横軸: 年度,縦軸: 人口増加率
• ロストウ (Rostow),世界人口の “大尖塔 (the great
spike)” .
• 産業革命以降 2 世紀に渡って増加 → 1970 年頃に頂点
• 大きなジグザグ (great zigzag)
人口成長率 (n) を除いた全ての要因は同様と仮定する.つ
まり,生産性 (A),投資率 (γ),減価償却率 (δ) は同様.
• 国 i と国 j
• 国 i の人口成長率を ni ,国 j の人口成長率 nj
定常状態における国 i の労働者 1 人当たり所得
1
yiss = A 1−α
(
α
γ ) 1−α
ni + δ
1 人口が急速に増加する場合には,子どもの割合が大きいので,たとえ人口置換水準の増加率が達成できたとしても,人口増加率はすぐには
(5.1)
0 にならな
い.なぜなら,出生率が高いときに生まれた子どもたちがまた子どもを産み,その数はそれ以前の小さいコーホート (cohort: 同期間に生まれた集団.特
定期間に結婚した集団をさすこともある) の子ども数より多いからである.人口モメンタムは,年齢構造が人口増加率にもたらす影響を示すものと言える.
第 5 章 将来人口の趨勢
4
定常状態における国 j の労働者 1 人当たり所得
1
yjss = A 1−α
(
γ )
nj + δ
α
1−α
出生率の低下は人口成長の鈍化を招き,昔に産まれた人々
に対する最近産まれた人々の比率を下げ,人口の平均年齢
(5.2)
定常状態における国 i と国 j の労働者 1 人当たり所得の
比率
α
( n + δ ) 1−α
yiss
j
=
yjss
ni + δ
の上昇をもたらす.
Figure 6
人口の年齢構造の変化: 1950-2050
(5.3)
例1
上記の設定を 1 国,2 時点で考える.
• 横軸: 年齢
• 人口成長率が 2.1% から 0.8% に下落
• 縦軸: 人口百分率
• 減価償却率 δ は 5%
• 資本分配率 α =
1
3
→
α
1−α
=
• 子供 (0 歳-14 歳), 生産年齢 (15 歳-64 歳), 高齢者 (65
歳以上)
1
2
• (a) 先進国
( 0.021 + 0.05 ) 12
( 0.075 ) 21
yiss
=
=
≈ 1.11
yjss
0.008 + 0.05
0.058
(5.4)
• (b) 中進国
• (c) 低開発国
この結果は中進国の人口成長の逓減は定常状態で労働者 1
人当たり生産を 11% 引き上げることを示す.
• 共通点: 子供人口比率 ↓,高齢者人口比率 ↑
• 相違点: 構造変化の時期はグループ間で異なる.
例2
資本分配率が α =
2
3
の場合 →
α
1−α
高齢化と経済成長
=2
( 0.021 + 0.05 )2 ( 0.075 )2
yiss
=
=
≈ 1.50
ss
yj
0.008 + 0.05
0.058
労働者 1 人当たり GDP =
(5.5)
人口 1 人当たり GDP =
このケースでは,中進国の人口成長の鈍化は労働者 1 人当
GDP
労働者数
(5.6)
GDP
総人口
(5.7)
たりの所得を 50% 引き上げることになる.
人口 1 人当たり GDP = 労働者 1 人当たり GDP×
結果
労働者数
総人口
| {z }
労働人口比率
• 人口増加率 ↓ → 資本希釈 ↓ → 経済成長 ↑
(5.8)
この式は,国別に 1 人当たり GDP 水準が異なる 2 つの
理由に注目している.
5.2.2
人口の高齢化
今後 50 年,世界人口の中位数にある年齢は 26.5 歳から
36.2 歳になり,約 10 歳高くなると予測されている.
• 労働者 1 人当たり GDP 水準が違うのか
• 総人口に占める労働者の比率が違うのか
Figure 7
アメリカの人口の生産年齢比率,1950-2050 年
世界人口の高齢化
• 死亡率の低下 (declining mortality)
• 出生率の鈍化 (declining fertility)
• 死亡率の低下がより直接に影響
第 5 章 将来人口の趨勢
5
• 横軸: 年度,縦軸: 労働人口比率
例: バングラデシュ
• 1950 年代: 戦後のベビーブームは子供の人口比率を引
き上げ,生産年齢比率は低下した.
バングラデシュでは,生産年齢人口比率の上昇は今後 20
年間に 1 人当たり成長率を年 1.2% 高めるであろう.
• 1965-1985 年: ベビーブーマーが生産年齢に入り,生
産年齢比率は上昇している
• 2010-2030: ベビーブーマーが引退する.再び低下が
その他
予測される.
• 社会が高齢化すると犯罪率は低下するだろう.
• 人口学者アフレッド・ソウヴィ (Alfred Sauvy): 成長
を停止した人口を “古い家で古いアイディアを黙考す
労働人口比率と 1 人当たり所得の増加率
る老人”と評した.
労働者数
= 労働人口比率
総人口
式 (5.8) は
5.2.3
1 人当たり GDP = 労働者 1 人当たり GDP × 労働人口比率
(5.9)
2
世界人口地図の描き直し
人口の再構成
と書ける.式 (5.9) より次式 (5.10) が得られる .
1 人当たり GDP の増加率
世界人口の分布
(5.10)
= 労働者 1 人当たり GDP の増加率
Figure 8
+ 労働人口比率の増加率
例: アメリカ
アメリカの 2010 年から 2030 年の間の労働人口比率は 0.60
から 0.54 に下落.労働人口比率の年平均増加率は
• 横軸: 年度,縦軸: 世界人口の百分率
1
( 0.54 ) 20
労働人口比率の年平均増加率 =
−1
0.60
(5.11)
≈ −0.005 = −0.5%
• アジア,アフリカ,アメリカ,ヨーロッパ
人口変化がアメリカの 1 人当たり GDP 成長率を年あた
り 0.5% 低下させるだろうとわかる.
Table 3
先進国と発展途上国の人口
• 先進国では人口が減少するという予測がある.
人口高齢化の国別効果
• 発展途上国の多くでは,出生率のゆっくりした低下と
人口モメンタムが合わさって大量の人口増加が確証さ
• 人口学的贈り物 (Demographic Gift): 人口構成,出生
率,死亡率の変動に伴って労働力増加率が人口増加率
れる.
1950 年には現在のパキスタンの人口 (4,000 万人) は日本
(8,400 万人) の半分しかなかった.2000 にはパキスタンの人
よりも高くなることにより生じる経済成長の可能性増
口は,2 つの日本より多くなった (パキスタン 1 億 4,100 万
大のことである.
人 vs 日本 1 億 2,700 万人).2050 年にはその人口は 3 倍の
差になろうと予測されている (パキスタン 3 億 4,400 万人
• 人口ボーナス (bonus) と人口オーナス (onus)
2 If
z = xy, then ln z = ln x + ln y −→
ż
z
=
ẋ
x
+
ẏ
.
y
vs 日本 1 億 900 万人).
ある変数の対数を時間について微分すると,その変数の成長率が求められる.
第 5 章 将来人口の趨勢
6
構成効果
豊かな国で暮らす人の比率
Table 4
• 現在 (currently) 豊かな国に住んでいる人の世界人口
に対する比率が下がっても,豊かな国に住む人の比率
構成効果
が減るわけではない.
• 理由は,時間が経てば多くの国々が豊かになって (becoming) いくからである.
単純な経済成長のシナリオを考える.2000 年と 2050 年間
に,1 人当たり所得は世界のすべての国で年 2% の成長率を
もつと仮定する.一見するとこの仮定は世界の平均所得の
• 金持ちと貧乏人の世界全体としてのバランスはもっと
強力な力に依存している.それは貧しい国の高い人口
成長率も 2% であるように思えるがそうではない.シナリオ
成長率ないしは貧しい国の所得成長に依存するからで
では 2000 年から 2050 年までの 1 に当たり平均所得は,わ
ある.
ずか 1.55% の成長率になるだけである.
• 世界の 1 人当たり GDP の平均水準は,各国の平均値
のように成長しない.
• 人口のバランスがより貧困な国に向かって移動してし
まうからである.
• 世界の所得の平均成長率を引き下げる人口の再分配効
5.3
結論
⋆ memo
果を構成効果という.
• 構成効果 (Composition Effect) 世界の人口が豊かな
国から貧しい国へと再分配されるときに世界の 1 人当
たり生産量は低くなる影響
■ 金メダルを獲るには
}
1 人当たり所得が高いほど
−→
人口が多いほど
オリンピックでより多いメダルを獲得
• 人口 2 倍 −→ オリンピックでのメダル獲得確率
1.1% 増加
• 1 人当たり所得 2 倍 −→ オリンピックでのメダ
ル獲得確率 1.0% 増加
1 人当たり GDP × 人口 = GDP
• 一国の総 (total) GDP がメダル獲得数に最も重
5.4
基本用語
• replacement fertility (人口置換水準の出生率)
• tempo effect (テンポ効果)
• demographic momentum (人口モメンタム,人口学的
慣性)
• compositon effect (構成効果)
要である.
人口の再配分に加えて貧しい国は経済的に追う上げる
だろう.つまり,1 人当たり所得は現在の豊かな国より
急成長するので,この成長はオリンピック・メダル数
獲得比率を押し上げることになろう.
5.5
問題
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8