マイクロミラーアレイ直描対応感光性フィルム

U.D.C.
771.531.31.02.001.6:621.3.049.73:621.794.4:535.374
マイクロミラーアレイ直描対応感光性フィルム
Photosensitive Film for Micromirror Array Direct Imager
市橋靖久*
鍛治 誠*
Yasuhisa Ichihashi
大橋武志**
Makoto Kaji
磯 純一**
Takeshi Ohashi
熊木 尚*
Takashi Kumaki
Junichi Iso
近年の微細配線化に対応した直描露光方式として,波長405nmの青紫色レーザを光
源とするマイクロミラーアレイ直描方式が提案された。光増感剤の検討とFT-IRによ
る光重合の解析を行い,405nm露光での高感度化とフィルムの安定性を両立させた。
さらに,露光エネルギーのシミュレーションから高解像化のための露光条件を検討し,
マイクロミラーアレイ直描対応新規感光性フィルムとして , エッチング用途のDL1000シリーズを開発した。
A Micromirror Array Direct Imaging system using 405 nm blue-violet Laser Diode
(LD) as a light source has been proposed to apply for fine patterning. We investigated
optimum photosensitizers and analyzed the photopolymerization by using FT-IR. The
compatibility between high photospeed and good shelf life was achieved through these
studies. We also simulated the optimum exposure energy and discussed suitable
exposure conditions for fine pattering. We have developed a new photosensitive film
named DL-1000 suitable for the etching process.
様が変えられることも利点である。
〔1〕 緒 言
現行のマイクロミラーアレイ直描機では,光源に405nmを
近年,配線板の多層化や配線の微細化につれて,スルーホー
発振波長とする青紫色レーザを使用している。このため,こ
ルやブラインドビアなどの穴空け部分への精度要求や,製
の光源に対して分光感度マッチングされた専用のD/Fを開発
品ごとのマスク数増大の問題が隘路となってきている。
する必要があった。また,ファインパターンを解像させるた
電子機器の配線形成は,感光性フィルム(ドライフィルム
レジスト,以下D/Fと略す)を用い,主にマスクを介したイ
メージ露光によりレジスト形成するフォトリソグラフィー法
めに本方式の描画条件を詳しく調べる必要があった。
本報では,それらの検討に基づきマイクロミラーアレイ直
描対応の感光性フィルムを開発したので,以下報告する。
を用いて行っている。分割領域ごとに位置合わせできる投影
露光方式は,PWB用途で検討が始まっており,現行材料がそ
のまま適用できるメリットがある。一方,直描露光方式では,
露光のためにマスクが不要であるため,多品種生産時のコス
ト低減と短納期化にメリットがある(表1)1-3)。また,位置
精度はワークサイズごとではあるが,基板の伸縮にあわせて
オフセット補正が可能である。
従来,直描方式としてガスまたは固体レーザを複数のビー
ムとして独立に変調し,基板レジスト上にラスタ描画するレーザ
描画(Laser Direct Imaging,以下LDIと略す)があった。4)
LDIでは超高感度レジストと高度な光学系の両者を要求し,
あまり一般化するには至っていない。さらにLDIでは,光学
系の物理的制約からビーム径を十分小さく絞れず,微細な配
線加工には対応できなかった。
チップ上に機械駆動が可能な多数個の微小ミラーを有する
MEMS (Micro-Electro-Mechanical Systems)デバイスが開発
され,これを利用した直描露光機(以下,マイクロミラーア
レイ直描機と呼ぶ)の開発が活発に行われている 。マイク
5)
ロミラーアレイ直描機は,微小なマイクロミラーのオン・オ
表1 マスク露光法と直描露光法の工程
直描露光法はフォトツール作
成工程を省略できるため,歩留り向上とサイクルタイム短縮に有効である。
Table 1 Steps in the conventional process and Direct Imaging system
The Direct Imaging system, which does not require a sequence of photo-tool
processes, can improve the yield and shortens the cycle time.
マスク露光 Mask exposure
直描露光 Direct exposure
CADデータ CAD data
CADデータ CAD data
ラスタデータ Raster data
ラスタデータ Raster data
フォトツール露光
Photo-tool exposure
現像 Development
伸縮チェック
Expansion and contraction check
検査 / 修正 Test / Correction
ワークフィルム作成
Preparation of work film
検査 Test
レジストラミネート
レジストラミネート
いる(図1)。また,露光ワークサイズは,面積に応じて,
Resist lamination
Resist lamination
マイクロミラーアレイユニットを増減することで,柔軟に仕
露光 Exposure
露光 Exposure
フで直接描画できるため,微細なパターン形成が期待されて
*
当社 総合研究所 **当社 感光性材料事業部 開発グループ
日立化成テクニカルレポート No.44(2005-1)
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領域では光吸収が無いため,500nm以上の波長領域であるイ
エロー光では感度をもたないようにできると考えられる。以
2D Micromirror array
上の考えに基づいて,青紫色半導体レーザ対応感光性フィル
2Dマイクロアレイ
ムを試作した。
Mirror
Light source
ミラー
光源
従来の一括露光での光源である水銀ショートアークランプ
の露光波長と,直描での露光波長およびフィルムの分光感度
の模式図を図2に示す。
Project system
投影系
i-line
分光感度(a.u.)
Spectral sensitity(a.u.)
強度(a.u.)
Intensity(a.u.)
Blue-violet LD
h-line
図1 マイクロミラーアレイ直描機の模式図 マイクロミラーのオン・
オフでステージ上にパターンを投影する。
Fig. 1 Schematic diagram of a micromirror array direct imager
The pattern image is projected on the stage by the on/off control of the
micromirror.
350
360
370
380
390 400
λ
(nm)
410
420
430
図2 水銀ランプの発振スペクトル,青紫色レーザのスペクトルお
よびフィルムの分光感度 405nmに分光感度をもたせ,かつ可視光領域の
分光感度を低くおさえている。
〔2〕 光増感剤の検討と分光感度設計
従来のマスク露光では,水銀灯の365nmを中心露光波長と
するブロードバンド露光が主であった。これに対して,マイ
クロミラーアレイ直描機では,青紫色半導体レーザの405nm
Fig. 2 Spectra of the Hg-lamp and blue-violet laser, and the spectral
sensitivity of the film
This film has high spectral sensitivity at 405 nm and low spectral sensitivity in
the visible light region.
発振を用いるが,これに対する高感度化とともに,それより
図2のように,青紫色レーザの発振波長に分光感度を持た
長波長の明室下で作業できる必要があることから,可視光感
せ,かつ可視光領域の分光感度を低く抑えることで,高感度
度を低く抑えることが作業性の面から重要である。
とイエロー光安定性の両立を目指した。
表2 光開始剤のモル吸光係数 405nmと,これより長波長(450nm)で
Optical density)を変化させたフィルム(24 mm厚)を作製
の光開始剤の光吸収を比較した。
し6),1 kWの超高圧水銀灯で30秒間光を照射し,分光感度を
Table 2 Molar extinction coefficient of photoinitiators
Molar extinction coefficient at 405 nm and 450nm of photoiniators were
compared.
測定した。結果を図3に示す。
アミノベンゾフェノン系光増感剤を使用し,吸光度(O.D.:
光開始剤
Photoinitiator
モル吸光係数 ε
O.D.(405nm)=0.14
Molar extinction coefficient
405nm
450nm
432
0
1700
0
アミノベンゾフェノン系
光増感剤
Photosensitizer containing
0.44
aminobenzophenone compound
複素環含有光増感剤
Photosensitizer containing
0.81
heterocyclic compound
表2に光開始剤成分のモル吸光係数(ε)の値を示す。こ
こに示した2種類の光増感剤は,いずれも高効率な光増感剤
であり,最小限の405 nmでの増感能とイエロー光下の安定性
405nm
を併せ持つことから,青紫色半導体レーザに対して有用であ
ることを確認できた。
334nm
図3 試作フィルムの分光感度スペクトル 405nmでの吸光度が高くな
アミノベンゾフェノン系光増感剤と複素環含有増感剤を用
いれば,405nm近辺に感度を持たせ,かつ450nm以上の波長
10
365nm
ると高感度になる。
Fig. 3 Spectral sensitivity
Higher absorbance at 405nm enables higher photospeed.
日立化成テクニカルレポート No.44(2005-1)
通常の感光性フィルムで使用される光増感剤量では,405nm
での吸光度は0.14であり,405nmでの分光感度はほとんどな
い。しかし,図4より,光増感剤量を増やすと405nmでの分
〔4〕 露光エネルギーのシミュレーション
マイクロミラーアレイ直描機では,マイクロミラーのオ
ン・オフにより,配線などの画像を形成する。そのため,レ
光感度が向上することが確認できた。
〔3〕 単色光露光における吸光度の最適化
ジスト表面上でのスポットサイズと各々のスポットでの重ね
合わせ間隔であるピッチの大小によって,得られるラインな
マスク露光が水銀灯によるブロードバンド露光であるのに
どのイメージパターン上の露光エネルギープロファイルが異
対し,直描露光では,単色光露光であるために材料設計上,
なるため,当然のことながら,露光後のレジスト形状に影響
注意が必要であることが,これまでの検討で分かっている。
する。
すなわち,単色光露光では,フィルムの吸光度がレジスト形
そこで,スポットサイズとピッチの条件をそれぞれ変えて,
状に与える影響が大きいことが明らかになっている 7)。アミ
露光エネルギー分布がどのようになるかをシミュレーション
ノベンゾフェノン系光増感剤量を変えることで吸光度を変化
した。その結果を図5の上段に示す。左列はスポットサイズ
させたフィルムを作製し,FT-IRを用いて光架橋基(メタク
10µm,ピッチ3.12µm,右列はスポットサイズ5µm,ピッチ
リレートの1650cm 付近)のピークの変化から,405nm単色
1.56µmでのシミュレーションパターンである。スポットサイ
光露光およびブロードバンド露光で光反応率を調べた結果を
ズとピッチをそれぞれ半分に縮小するだけで,エネルギープ
図4に示す。
ロファイルは大きく異なることが分かる。しかしながら,こ
-1
れらは装置上,同一の解像パターンを形成する条件となる。
将来の微細配線形成においては,これらのパラメータを考慮
しながら材料設計することが重要な課題となってくる。
70.0
図5の下段にはシミュレーションの条件で露光したレジス
光反応率(%)
Photoconversion(%)
60.0
ト形状を示す。露光条件を変える事で,レジスト線幅が変化
50.0
することがわかる。今後,特にファイン仕様には,装置の露
40.0
光条件も含めて材料開発を行ってゆく。
30.0
405 nm exp.
20.0
BB exp.
スポットサイズ,
Spot size 10 µm
ピッチ,
Pitch 3.12 µm
10.0
0.0
0
0.2
0.4
スポットサイズ,
Spot size 5 µm
ピッチ,
Pitch 1.56 µm
0.6
Amount of photosensitizer(w t %)
光増感剤量(w t%)
図4 光反応率と光増感剤量
405nm exp.: 405nm単色光露光,BB exp.: ブロードバンド露光
ブロードバンド露光では,光反応率のピークが2つある。
Fig. 4 Photoconversion and the amount of photosensitizer
405nm exp.: monochromatic exposure at 365 nm,
BB exp.: broadband exposure
Broadband exposure has two peaks in conversion.
図4から,405nm単色光露光では,光増感剤量が0.24wt%
でのみ光反応率が最大値をとることが分かる。これに対して,
図5 直描露光の露光シミュレーション(上図)と直描露光による
レジスト形状のSEM写真 (下図) スポットサイズとピッチが大きいとス
ブロードバンド露光では,光増感剤量が0.06wt%と0.24wt%
ペースが埋まりやすい。
に2つのピークが存在する。ブロードバンド露光では,365
Fig. 5 Direct Imaging exposure simulation patterns (upper) and SEM images
of the pattern profiles with using Direct Imaging system (lower)
A larger spot size and pitch will cause a narrower space.
nmの波長の光以外に405nmの波長の光も同時に照射されてい
る。このため,中心露光波長である365nmの吸光度が大きく
なり,365nmの波長の光がフィルムの底部まで届かなくなっ
ても,比較的吸光度の小さい405nmの光が底部まで透過する
〔5〕 マイクロミラーアレイ直描用感光性フィルムの特性
ため,フィルムの底部においても十分硬化し,結果として,
これまでに得られた知見を元に,マイクロミラーアレイ直
レジスト形状が矩形となる。これに対して,単色光露光では,
描用感光性フィルムとして,フォテックDL-1000シリーズを
ブロードバンド露光とは異なり,第二の露光波長による寄与
開発した。表2にDL-1000シリーズの一般特性を示す。なお,
がないため,表層硬化と内部硬化を同時には達成しにくい。
露光量は,この光源波長での光量測定の標準化ができていな
そのため,単色光露光用のD/Fでは,フィルムの吸光度の調
いので,シャープカットフィルターを用いた水銀ショートア
整は,極めて重要であり,露光波長におけるフィルムの吸光
ークランプによる当社の代替評価での値を示した。
度を0.5近辺にすることが望ましい。マイクロミラーアレイ直
マイクロミラーアレイ直描機で得られたDL-1038のレジス
描用フィルムでは,単色光露光で使用されるため,露光波長
ト形状SEM写真を図6に,開発品のファインパターン用のレ
である405nmにおけるフィルムの吸光度を0.5近辺に調整し,
ジスト形状SEM写真を図7に示す。
良好なレジストの底部硬化性およびテンティング性を確保す
ることが出来た。
エッチング用レジストであるDL-1038では,高スループッ
トが要求される高多層板製造においてもマイクロミラーアレ
日立化成テクニカルレポート No.44(2005-1)
11
表3 フォテックDL-1000シリーズの一般特性 405 nmに高感度でテン
イ直描機で量産適応できる高感度を有し,テンティング性も
ティング性に優れるエッチング用D/Fである。
良好である。
Table 3 Properties of PhoTech DL-1000 series
The DL-1000 series feature high sensitivity at 405 nm and good tenting
properties and are suitable for etching process.
項 目
膜厚 (µm)
DL-1029
DL-1038
29
38
20
25
現在,開発中のファインタイプミラーアレイ直描機に対応
したパッケージ基板加工用ファインレジストを装置メーカの
協力を頂きながら進めている。ファインパターン用の試作品
は感度はDL-1000と比べて低いものの,マイクロミラーアレ
イ直描機でL/S=15 µm/15 µmが解像できる。
Thickness (µm)
露光量 (mJ/cm2)*1
〔6〕 結 言
Exposure Dose (mJ/cm2)*1
密着性 (L/S=x µm/400 µm)
Adhesion (L/S=x µm/400 µm)
解像度 (L/S=x µm/x µm)
Resolution (L/S=x µm/x µm)
テンティング性*2
マイクロミラーアレイ直描対応感光性フィルムの開発を目
30
35
405nm露光での高感度化とフィルムの安定性を両立させた。
30
35
Good
Excellent
Good
Good
45
60
Stability under yellow light*3
剥離時間 (s)*4
さらに,露光エネルギーのシミュレーションから高解像化の
ための露光条件を検討した。その結果,マイクロミラーアレ
Tenting property*2
イエロー光安定性*3
的に,光増感剤の検討とFT-IRによる光重合の解析を行い,
Stripping time (s)*4
シャープカットフィルターを使用した代替評価、*2 6mmφのスル
ーホールで評価、*3 イエローランプ下で3日間放置、*4 3wt% NaOH 50
℃ 浸漬テスト
*1
Evaluated by an alternative method using a sharp-cut filter,
*2
Evaluated for 6 mmφ through-holes, *3 Setting under yellow lamp
for 3 days, *4 3 wt% NaOH 50℃ dip test
*1
イ直描機で,高多層板の量産製造に適応可能な感度を有し,
良好な解像度およびテンティング性を持ちながら,従来のUV
レーザ露光用感光性フィルムと同程度の安定性を有するDL1000シリーズを開発した。
ファインパターン用感光性フィルムを検討し,試作品にて
マイクロミラーアレイ直描機でL/S=15µm/15µmの高解像度な
パターンが形成できた。
終わりに,マイクロミラーアレイ直描機の実験の際,御協
力いただいた日立ビアメカニクス株式会社殿,ペンタックス
インダストリアル インスツルメント株式会社殿に感謝致し
ます。
参考文献
1) B. B. Ezra: Laser Direct Imaging, Meeting the Challenges for CostEffective Production, Advanced Technologies, 11, 20-21 (1998)
2) K. H. Dietz: High Speed Photoresists for UV Laser Direct Imaging
(LDI), Electronic Circuits World Convention Tokyo99, PO4-1, 1-4
(1999)
3) J. Murry: Laser Direct Imaging, PC Fab, 22, 22-28 (1999)
4) 村上, 他:
日立化成テクニカルレポート, 37, 21-24 (2001)
5)A. Ishikawa: Diversion of Exposure Technology, Born from
Development of Spherical Semiconductor - The Maskless Exposure
Apparatus -, J. Photopolym. Sci. Technol., 15, 707-712 (2002)
6)I. Itoh and M. Kaji: Resist materials for Two-dementional
Micromirror Array Direct Imager, Proc. RadTech Asia '03, 583-584
図6 DL-1038のレジスト形状のSEM写真(L/S=35 µm/35 µm)
レジスト形状は矩形である。
Fig. 6 SEM image of a pattern profile with DL-1038 (L/S=35 µm/35 µm)
The pattern profile is rectangular.
(2003)
7)Y. Ichihashi and M. Kaji: Analysis of Photopolymerization of
Negative Photoresist by Monochromatic and Broadband Exposure,
J. Photopolym. Sci. Technol., 17, 135-138 (2004)
図7 ファインパターン用試作品(25 µm膜厚)のレジスト形状の
SEM写真 (L/S=15 µm/15 µm) 高解像なパターンが得られる。
Fig. 7 SEM image of a pattern profile with a new trial film (25 µm thick) for
finer pattering (L/S=15 µm/15 µm)
The new trial film will make very fine patterns.
12
日立化成テクニカルレポート No.44(2005-1)