平成23年4月 第688号 METI主催海外貿易会議(航空機)に参加して 平成23年3月7日から11日までの5日間、川井昭陽氏(三菱重工業㈱常務執行役員、航 空宇宙事業本部長)を団長として総勢24名は、モロッコおよびスペインの航空宇宙産業 を視察した。その中で航空新興国の躍進と欧州中堅国の戦略の動きを見ることができた。 ここにその概要を報告する。 中央がシャミモロッコ経済・貿易・新技術大臣、その右が川井団長、近藤課長 1.今回のモロッコ、スペインでの調査目的 際分業の在り方や、生産技術等の具体的な革 経済産業省主催の海外貿易会議(航空)は、 新方策について調査検討し、もって我が国の 昭和58年以降、これまで23回開催されており、 航空機産業・貿易の更なる発展に資する機会 航空機産業分野における諸外国との情報交 とするものである。 換、相互理解の増進を図る機会としての役割 を果たしてきた。今年度は、MRJ試作機の製 造が開始される等の着実な進展が見られる 中、我が国の航空機産業としても新たなパー 2.モロッコ (1)モロッコ政府の政策 Ahamed Chami 経済・貿易・新技術大臣から、 トナー企業との関係構築や国際的なサプライ モロッコ政府の政策全般および航空産業に対 チェーン構築の在り方について、改めてその する戦略について話を聞くことができた。同 検討を深めることが重要になってきている。 大臣は自動車関連企業の誘致などで、日本に そのため各国の航空機産業と連携を深めてい 何度か出張したことがあり、知日家振りが伺 るモロッコとスペインを訪問し、具体的な国 えた。 1 トピックス 冒頭、リビア等近隣諸国で民主化を求める が、5ヵ所に建設され、1万4千人もの雇用を 大衆デモ、戦闘行為が多発していることに対 生み出している。航空分野は、ここ10年で海 し、1)モロッコは複数政党による民主的な 外からの投資を受入れることで急成長し、全 議会政治を行っており、独裁政治ではない、2) 土で8千人の雇用がある。航空分野での戦略 国王がフランスからの干渉を拒絶したので、 として、1)技術力vs技術分野のマップを作成 国王に対する信頼が厚い、などを挙げリビア し、自分たちの現状を把握する、2)どこに などと国情が異なり、政治的に安定している 有利な点があるか、特定する、3)どの分野 ことを強調した。 の技術力を高めるべきかを策定する、といっ 政府の経済発展の柱は4つあり、①自動車、 た考え方で進めている。日本のみならず、米 航空機といった製造業、②エネルギー、③農 国企業などを積極的に大臣自身が訪問して誘 業、④観光を挙げている。また、地政学的な 致活動を行い、欧米企業のアウトソース事業 観点からも、欧州、米国、アフリカに対する を同国に積極的に引き入れようとする姿勢が 中継基地となっていること、FTA(Free Trade みられた。低賃金を1つの戦略にしているた Agreement)は44ヵ国と締結し、貿易関税が め、競合するメキシコ、ポーランドといった ないなどの利点を挙げている。また、低賃金 欧米企業の2次、3次下請け国を意識した説明 も売り物にしており、平均的な賃金は$360/月 が目立った。 (約3万円/月@83円/$)で、隣国スペインの 1/7、東欧ポーランドの1/2と、格段に労働力 (2)モロッコ訪問先企業 訪問した9社は100人∼600人規模の工場で、 が安いことを強調した。 外資導入は最重要課題とされ、日本からの その主要製品は以下の表による。 投資では、住友電工による自動車用配線工場 2 NO. 会社名 主要製品、等 1 MATIS Aerospace(JV Boeing-RAM-Labinal) ハーネス製造、工業電子システム 2 IMA - Moroccan Aerospace Institute 作業者、技術者、中間管理職への教育・訓練 3 Aircelle Maroc スラストリバーサ構造組立、複合材部品製造 4 Royal Air Moroc Industry 航空機整備 5 Snecma Morocco Engine Services エンジン修理/整備 6 Le Piston Francais (SERMP) 航空機械ユニット製造−精密機械加工 7 EADS Maroc Aviation 胴体/機体装置・器具・部品の製造及び組立、 内装設計、整備、 カスタマサポート 8 Safran Engineering Services 航空工学:計算及びメカニカルコンセプト 9 Sagem Defence Security 開発及びメンテナンス用ソフトウェア(情報技術と生体認証) 1)MATIS社 イング社向けハーネスの製造を開始し、 モロッコ航空関係の企業の中ではNo.2 以降、ファルコン機、エアバス機などの の企業で、ボーイング社、フランス・ラ エンジン、機体両方のハーネスを広範囲 ビナル社、ロイヤル・エア・モロッコ社 に製造している。年間2,000セットを出荷 が1/3づつを出資している。ワイアリング し、従業員600人で、5千3百万ドル(約 ハーネスが主力製品で、2002年からボー 44億円@83円/$)を売り上げている。客 平成23年4月 第688号 先別の売り上げでは、ボーイング社が けなど多彩である。 34%、エアバス社が18%、エンジンのス ここモロッコでは、小型機用スラスト ネクマ社に43%、ダッソー社に5%となっ リバーサは完成組立まで行うが、中、大 ている。工場は、機種ごとに区分され、 型機用スラストリバーサーは、小部品を 長い板の上にワイアリングのルートが下 製造し、最終組み立て地のフランスに出 書きされ、作業指示に従い、端末のコネ 荷している。2004年の設立で、現在従業 クターから別のコネクターに1本づつ、 員312名で€52M(約60億円)を売り上げ 配線、結線を主に女性作業者が行ってい る。 た。作業者は、女性が約7割を占めている。 工場には、A320向けのCFM56エンジン 現場に投入される作業者は、5週間の座 に装着する複合材パネルの成形、その超 学、2、3週間のOJT教育を受けている。 音波検査機器、複合材ライナ(吸音板) また、現場から管理者に登用するといっ への穴明け作業、外板補強のハニカム接 た方式を採用し、活性化を高めている。 着作業(メタルサンドイッチ)などを見 学した。また、ビジネスジェット機向け 2)IMA(職業訓練施設) BR710 エ ン ジ ン に 装 着 す る ス ラ ス ト リ 現在、施設が建設途中の状況であった。 バー付ナセルの完成品も多数置かれてい 工作機などを設置して実技を教える体育 た。 館のような工作実習室、座学のための校 舎、食堂、独身寮、運動場などを備えて 4)Royal Air Morocco いる。工作実習室には、工作機械10台ほ 同社は、モロッコ国際空港に隣接した どが設置されているが、空いたスペース 工業団地の一角に工場を持ち、自社保有 もあることから、さらに工作機械を追加 の ボ ー イ ン グ 社 製 機 材(B747、B757、 導入するとのことである。ここでは、複 B767、B737)の整備をおこなっている。 合材、電気配線、機械加工など7つのコー 特に、整備の外売りは行わず、自社整備 スを設けており、フランスからの教師派 を中心とした事業である。 遣も受けることで運用し、年間300人の 育成から開始し、年間800人まで引き上 5)Snecma Morocco Engine Service げる計画がある。 同社は、モロッコ国際空港に隣接した 工業団地の一角に工場を持ち、SNECMA 3)Aircelle Morocco社 社を親会社として、年間60台程度のエン 仏サフラン社を親会社に持ち、主に民 ジン整備を行っている。競合相手は、ポ 間機用エンジンナセルの製造を行う会社 ルトガルやトルコなど低賃金でエンジン である。仏、英、モロッコに併せて7工 修理を行う国であるという。 場 を も ち、全 体 で 年 間 1000 ユ ニ ッ ト、 €733M(約840億円@115円/€)を売り上 6)Le Piston Francais(SERMP)社 げている。機種は、Airbus社向けを始め、 親会社は、LE PISTON France社で、戦 中国(C919) 、エンブレア社、ボンバルディ 後間もない1947年にパリで創業し、タイ ア社、ロシア(Superjet)、ダッソー社向 ヤのブレーキ用ピストンを中心に事業展 3 トピックス 開をした。2009年の全社売り上げは€42M ては、低圧タービンのリグ試験機基本計 (約48億円)で、顧客はボーイング社が 画から始まり、強度解析、計測設計を行っ 30%、ダッソー社が20%、ユーロコプター た後、製造図の作成まで一貫した設計作 社が18%、エアバス社が17%となってい 業をしていた。これには25人が1年半関 る。 わった、という。なお、空力、伝熱など 欧州、東欧、北アフリカに5工場を保 の境界条件はすべてスネクマ社からも 有しているが、ここモロッコ工場は1999 らっており、経験が少ないエンジニアか 年に設立され、90人で、ピストンのほか、 ら構成される組織では、元受の相当な支 機体構造部品の機械加工、エンジン・ディ 援があるものと想像され、解析結果など スク加工、各種治工具の製造ほか、上流 を評価できる現地エンジニアの育成が急 の設計開発、スペア部品の出荷など特定 務であろう。 部品の一貫したサービスを行っている。 なお、この工場の責任者はフランス人2 9)Sagem Defence 名がいるのみで、その他管理者は現地採 Safran社の一部門で、高速道路での車 用という。モロッコでの人件費、輸送費 番認識などセキュリティ関係のソフトウ を入れた諸掛かりは輸送費込の1時間当 エアの開発を行っている。130人のエン たりレートは45ユーロで、輸送費を使っ ジニアを抱え、来年間伝意200人に増員 てもフランスの半分で、人件費の安さが する計画がある。ここで開発しているソ こういったところからも伺える。 フトの例は、運転免許書と指紋の照合、 夜中に走行する車のナンバーの認識など 7)EADS Marocco Aviation で、スピード違反の検挙と連動するとい 同社は、モロッコ国際空港に隣接した う。既にこのソフトは欧州数カ国で運用 工業団地の一角に工場を持ち、金属製床、 されている。 客室頭上荷物入れ、座席の金属性構造品 などを手掛けている。顧客は、Airbus社、 ATR社、Bombardier社など多角化を図っ ている。 3.スペイン (1)スペイン航空宇宙防衛工業会 最 初、1954 年 に ス ペ イ ン 航 空 工 業 会 (ATECMA)が、次いで防衛工業会が1985年に、 4 8)Safran Engineering Service 更に宇宙工業会が1995年にそれぞれ設立さ 2005年にモロッコに設立し、治工具な れ、この3団体が2009年に合体して、スペイ どの製造支援、設計支援(構造解析、リ ン航空宇宙防衛工業会(TEDAE)として新た グ試験装置の設計)などを手がけている。 に組織された。現在75社が加盟し、直接雇用 現在48名のエンジニアと40名の作業者を 4万5千人を擁し、売り上げは€8.5B(6,200億円) 擁 し、120 台 の ワ ー ク ス テ ー シ ョ ン で で、欧州で仏、英、独、伊に次ぐ第5位の航 CATI、NASTRANなどのソフトを使って 空宇宙防衛団体である。航空に限れば、€5.4B 設計・解析作業を実施している。顧客比 (6,000億円)で、GDPの0.5%を占めている。 率は、スネクマ社が41%、Aircelle社(前 製品別売り上げは、航空機関連77%、エンジ 述)が52%となっている。設計の例とし ン10%、装備品13%で、国内の地域別では、 平成23年4月 第688号 マドリッドが58%、アンダルシアが24%、バ が挙げられる。最新の民間機であるA350は昨 スク10%などとなっている。 年12月に製造を開始したという。少し前の欧 エアバス社のTier1になる企業は、ITP社、 州プロジェクトとしては、A310/A320/A330、 Alestis社、ACETORRI社、Aeronova社などが エンブレア社、ボンバルディア社の民間機、 挙げられ、最初の3社を今回訪問した。 ユーロファイター戦闘機とそのEJ200エンジ 同国は、歴史的に第2次大戦前のスペイン ン、軍用輸送機Cn-235/C-295、ミサイルでは 内戦のため欧州と一線を画したことがあり、 TARUS、MEREORなどがあり、同国航空機 航空機は自力開発せざるを得ず、1950年代の 産業の生産基盤確保に寄与している。 HA200ジェット練習機、70年代にC101ジェッ スペイン工業会の専務は、「スペイン航空 ト練習機、80年代のC212輸送機、90年代の 宇宙産業は成長過程にあり、日本は最先端に C295 戦 闘 機、な ど を 開 発 し た。ま た、F5、 ある。協調していけることを模索したい」と MirageⅢなどのライセンス生産などを通し その説明を締めくくった。 て、航空機産業はその実力をつけた。最近欧 州の一員として参加しているプログラムは、 A380、A350の民間機およびTrent900エンジン、 (2)スペイン訪問先企業 スペインを代表する以下の中堅企業を訪問 することが出来た。 防 衛 で は A400 輸 送 機、Tiger 戦 闘 ヘ リ コ プ ター、A330空中給油機、TP400エンジンなど NO. 会社名 主要製品、等 1 Iberia Mantenimiento 機体メンテナンス、エンジンメンテナンス 2 ALESTIS 金属組立、複合材組立、構造修理、自動リベッティング 3 ITP(Bilbao) エンジン部品 設計・製造 4 ACITURRI 複合材構造部品 1)Iberia Maintenance社 全体の収益改善に寄与するため、と述べ イベリア航空の整備部門であるが、イ ている。従業員はスペイン全体で約4,000 ベリア航空は英国航空との間で持ち株会 人、ここマドリッド工場が主力工場で機 社(IGA社)のもと、それぞれの名前で 体重整備、エンジンや装備品整備などを 運航を行っている。同社は、2010年の売 手がけ、約3,500名が従事している。第2 り上げが€777M(約890億円)であるが、 工場はバルセロナで、機体整備のみであ 航空機、エンジン、装備品など社外から るが268名が従事している。 の仕事がその45%を占め、外売りのエン まず、エンジンショップを見学した。 ジン整備事業だけで全体売り上げの約 現在年間200台を出荷し、売り上げ€300M 25%を占める。さらに外売りを増加させ (約350億円)で、イベリア航空のエンジ る戦略をとり、エンジン、脚修理など修 ン修理はその3割で、残りは、米国コン 理開発に積極的に投資しているという。 チネンタル航空、中国(エアラインは不 理由は、運航部門を含めたイベリア航空 明)、ドイツDHLなどからの受注という。 5 トピックス 対象エンジンは、CFM56とRB211である。 されている。ここスペインが本拠地だが、 高圧圧縮機のみの点検であれば7日で出 英国、米国、メキシコなど数箇所に工場 荷するといい、同ケーシングの上部が外 を持つ。売り上げは€500M(約580億円) されたエンジンが置かれていた。洗浄工 で、従業員は2,500名という。スペイン国 程では自動洗浄機を導入し、2人の作業 内 に は 4 工 場 が あ り、1)機 械 加 工、 者がプログラム管理を行っていた。圧縮 2)鋳 物、3)配 管、4)組 み 立 て・運 転 機翼チップの肉盛り自動溶接機器、圧縮 と事業を分担している。客先は、民間の 機ロータのチップ研磨機、ケーシング溶 RR社やハネウエル社、産業用エンジンの 接補修後の熱処真空炉、HVOF式プラズ GE社、防衛用ではEADS社で、欧州にこ マスプレーなどの修理設備を備えてい だわらず米国も顧客としている。発足当 る。ま た、エ ン ジ ン 試 験 設 備 は 1 基 で、 時は、RB211、TAYのRR社エンジンの部 年間200台運転できるという。入荷から 品製造から始まり、この21年で合計3つ 出荷までの期間は、整備内容にもよるが、 の工場建屋を持つに至っている。 65日が目標という。 主な事業は、エンジニアリング、製造、 機体部門整備では、スペイン空軍の空 サービスの3本柱である。1)エンジニア 中給油機(B707改造)の整備機体が数機 リングとしては、低圧タービンの空力通 在場し、別棟ではタイヤ、ブレーキの修 路設計、構造解析などを含む基本設計、 理部門を見ることができた。 詳細設計と一貫した設計が可能で、また、 後述する空力リグ試験設備を隣に持って 2)Alestis社 おり、空力設計を評価することも出来る。 スペイン南部のセビリアにある機体部 また、外部配管や推力変更ノズルの一部 品製造の中堅メーカで、エアバス社およ の設計製造も業務範囲としている。2) びボーイング社の両社を客先として、胴 製造面では、ケーシング、ストラットな 体下面フェアリング、テールコーン、主 ど比較的大型部品を対象としている。ス 脚ドア水平安定板などが主な製品であ トラットは板金構造を得意とし、一部に る。この地区に2つの工場を有し、サン 自社製の鋳物部品を採用して溶接構造と パブロ工場で子部品の製造を、アエロポ している。これは、鋳物設計者と溶接技 リス工場でその子組み立てをおこなうと 術者の連携で技術を培ったことによる。 いう分業体制をとっている。複合材の積 ディスク、シャフトなどの機械加工はこ 層作業は手作業だが、B777のエルロンで こで行い、タービン静翼加工は近隣工場 は、この工場が単一供給者となっている で、圧縮機ロータは英国工場が担当して という。 いるという。3)サービス部門では2つの 事業があり、1つは回転機器の空力設計、 6 3)ITP社 艤装設計、計測設計、構造回転試験など 設立21年の比較的新しい会社で、ビル 多岐な設計支援である。もう1つは、修 バオ空港のすぐそばにある工業団地の一 理事業で、小型ターボシャフトエンジン 角にある。株主は53%がスペインのセネ や防衛エンジンなどを担当している。 ル社、47%のロールス・ロイス社で構成 工場見学では、7年前に出来た新鋭工 平成23年4月 第688号 場に案内され、ユーロファイター向けケ 外に位置し、小型機の中央翼、中型機の ミカルミリング工程を見学した。直系1m 水平安定板、主脚ドア、大型機の胴体下 余りのチタン製ダクトを化学電解法で薄 面フェアリングなどの機体構造部材の製 肉加工するもので、100㎏の素材を33㎏ 造と、エンジンの一部部品を製造してい まで削り込むという。この一角に、日本 る。この工場は、複合材の成形を得意と 製ケミカル・ミリング機械がドイツ製の し、複合材プレプリグシートの自動積層 機器と並んで置かれていた。日本製は堅 機が3台稼働し、さらに2台の追加発注を 牢で使いやすいが、価格が高いとの評価 行 っ て い る と い う。こ れ ら 投 資 は、 であった。また、チタン板金やニッケル A380、A350XWBなどの機種への対応と 素材をプレス整形する電気炉式超塑性加 説明し、工場拡張計画も持っている。 工機も置かれていた。別棟の機械工場で は、溶接構造のタービン・リア・フレー 4.所感 ムが、所狭しと置かれており、仕事が順 モロッコは航空新興国にみられる低賃金を 調に来ていることをうかがわせた。フ 売り物に、労働集約的な仕事を引き受けてい レーム類は、一般的に溶接構造と一体鋳 る。そこには、モロッコ政府の強い支援や、 物と2つの製法があるが、後者は大型に フランス産業会などの後押しなどがみられ、 なるほど製造メーカが限定され、価格、 即戦力の人材教育、工業団地の整備など国を 鋳物欠陥の管理が難しくなるが、前者は 挙げて力を入れていることが感じ取れる。日 100点からなる子部品溶接してゆくので、 本も今、地方を中心に、航空機産業への転換 その品質、工数管理に難点があるといわ を目指しているが、力強さから見ると今一歩 れている。時代の技術と価格でどちらを の感がある。ここモロッコは、日本の強敵に 採用するか揺れているが、この会社は溶 なるというより、日本がどのような仕事がア 接に活路を見つけている。 ウトソースできるのか、興味のあるところで また、同社に隣接してCAT(Center of ある。 Technology for Aerodynamics)と称した官 スペインは、エアバス社の見学は一切許可 民合同の研究設備が置かれていた。同社 されなかったが、Tier1と称する優良企業を見 が低圧タービンに特化していることか ることができた。ここも、新興の工業団地が ら、その回転空力試験機と低速風洞を設 整備され、地方公共団体などの支援も受けた 置している。地方政府と同社の共同出資 研究センターなどが整備され、産学連携が円 で運用している模様で、職員が10人程度 滑に進んでいることを目の当たりにした。企 で、試験機の組み立て、試験、計測デー 業も、新たな生産設備の導入など積極的な投 タの取得などを行っている。 資をスペイン国内に行うとともに、海外企業 の買収などにより、生産拠点をふやすといっ 4)ACITURRI社 た戦略をとっている。民間機のエアバスファ スペイン国内に6ヵ所の工場を持ち、 ミリー、戦闘機のユーロファイター、輸送機 合計約1,000名の従業員を擁する中堅企業 のA400M、戦闘ヘリコプター・ティーガなど である。訪問した工場は、マドリッドの の欧州での共同開発機体が牽引して、スペイ 北西約200㎏にあるバジャドリッド市郊 ン航空工業の基盤をしっかりと形成している 7 トピックス ことがうかがえる。いまとなっては、完成機 を作ることは行っていないが、その生産基盤 はしっかりしていると、感じた。 5.謝辞 視察先の報告は、2グループに分かれたこ とにより、筆者1人で回りきれないところも 最後に、スペインでの視察先日程調整が完 あ り、執 筆 に 当 た り、METI 中 島 正 登 氏、 全に設定できてないまま出発し、現地工業会 JADC今野冬彦氏、JAEC加藤明子氏の協力を を訪問したところで、追加の見学企業などの 得ました 。ここに謝辞を述べ、感謝する次第 提案を受け、同行された方々には、無理のあ です。 る日程をお願いすることになってしまいまし た。来年に向けて大いに反省しております。 〔(社)日本航空宇宙工業会 国際部長 板原 寛治〕 この事業は、競輪の補助金を 受けて実施したものです。 http://www.ringring-keirin.jp 8
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