THE ENVIRONMENT OF YOUNG DESIGNERS

NOT JUST A LABEL
新進気鋭ファッションデザイナーたちの紹介と育成を目的として立ち上げられたコミュニティーサイト「NOT JUST A
LABEL(NJAL)
」
。デザイナーたちは自分のコレクション写真をオンライン上で発表することができる。今回はこのサイトから、
Geoffrey B. Small 氏が書いた若手ファッションデザイナーたちを取り巻く環境についての記事を抜粋、紹介します。
THE ENVIRONMENT OF
YOUNG DESIGNERS
若手ファッションデザイナーたちを取り巻く環境
今回で 58 回目の参加となるパリコレが近づいたころ、NJAL(NOT JUST A LABEL)から、小さなブランドや若手ファッション
デザイナー、そして彼らが直面している問題や現在の状況について、なにか書いて欲しいとの依頼がきた。私がパリでコレクショ
ンを発表する理由は、パリがハイレベルなリサーチとデザインの分野で、世界で最も競争が激しい場所であり続けているからだ。
パリコレに 15 年参加し続けている経験をもとに、いまから率直に思っていることを書こうと思う。
author: Geoffrey B. Small / special thanks: NOT JUST A LABEL (NJAL) / translation: ?????????????
http://www.notjustalabel.com/
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ま
ことができるバイヤーたちも、お金と時間の
たちは消えゆくか、ラグジュアリー市場に
ンデザイナーが成功する可能性
使い方にとても気をつけていて、すべての
挑戦するかの選択を迫られてしまう。低価
は本当に低い。
コレクションを回れる人は誰もいない。
格帯の市場では、大企業にまったく太刀打
ず最初に、現在、若手ファッショ
また、若手は本当にすばらしいコレクション
コレクションを発表すれば、ショウルーム、
これ以上説明するスペースもなくなってきた
いようにし、顧客が本当に欲しいものを作
トレードショウ、宣伝、PR、キャットウォー
が、私はこの恐ろしいゲームを生き抜いてき
り続ければ彼らはついてくるだろう。もしつ
ク、雑誌などのために、もっとお金が必要
た。
コレクションと魂を両方保ち続けるのは、
いてこなければ、ついてくるまで作品のクオ
になる。そのうえ、
それぞれの担当者たちに、
このゲームの達人ではないと無理だろう。
リティを上げなければいけない。結局、とて
もシンプルなのだ。モノを作ってモノを売
彼らなしではなにもできないといわれるだ
ろう。
彼らには力があって、
若手のデザイナー
パリのレベルで達人になるには、たくさん
る。両方できればかっこいい。どちらかが
たちは無力に等しいのだ。このように、パリ
のスキルが必要になる。アート、ファッショ
できなければゲームオーバー、もしくは誰か
はとても高くつく。ファッションウィークで
ン、技術、リサーチ、商業、プロダクション、
に助けを乞わなければいけない。だが誰も、
は、1メートルのスチールラックを借りるの
物流管理、ファイナンス、会計、言語、メ
無償では助けてはくれない。しかも、期待
に 100 ユーロ以上も払わなければいけない
ディアの知識、グラフィック、テキスタイル、
にあった働きをしてくれる場合はほとんどな
のだ。しかもそれだけではない。もちろん、
法律、体力、忍耐、ストレス予防、お金と
い。お金だけがなくなっていく場合が多い。
周りの人も無償では働いてはくれないとい
人の扱い方などなど。原則としてすべてが
うことも忘れてはならない。
必要だが、悲しいことに、世界中のファッ
残念だが、もう行かなければいけない。パ
ションスクールを探しても、この世界で生き
リで新しいコレクションがはじまるのにも
厳しいことに、このシステム全体が、デザ
抜くため、成功するために必要な準備をさ
う 15 日もない。そして自分自身、生き抜
イナーをチェスゲームの駒としか見ていな
せてくれるコースは見つからないだろう。
くためにたくさん仕事をしないといけない。
結局は、ひとりぼっちなのだ。
じめているし、すでに 2500 ものコレクショ
ニューヨークで銀行のシステムが破綻しは
いのだ。つまり、業界を操っている人たち
にとって、デザイナーはありふれた存在でし
ンが発表され、バイヤーの奪い合いをして
かない。そこで重要となるのが、大都市の
影響力のあるセレクトショップだ。バイヤー
運がよければ欲が深くないアドバイザーを
いるからだ。57 回目のコレクションを発表
がリサーチをかねて訪れ、そこで取り扱って
見つけられ、情報、知識、経験などを教え
した後でも、忘れてはいけない、先代の達
いるブランドのコレクションを買い付けるか
てもらえるかも知れない。私はパリにいる
人たちからの言葉がある。
「すべての新しい
らだ。むしろ有名セレクトショップにお金を
インディペンデント・デザイナーを支援す
シーズンは、まったく新しいビジネスチャン
払ってもいいかもしれない。
るためのショウを立ち上げたことがあるが、
スを生む。そしてあなたは、
前回のコレクショ
支援できたデザイナーはごくわずかだった。
ンと同じぐらいのできでしかない」
。もしこ
しかしながら、セレクトショップとのビジ
ちなみに、以前、イギリスで一番成功したイ
の 58 回目を生き抜けば、また少し話しがで
ネスにおいても、さまざまな契約によって、
ンディペンデント・デザイナーの会社で働
きるかも知れないが、私にとっても状況は
(←必要経費?)を十分に手に入れること
いていた人からアドバイスをもらったことが
厳しいというのが本音だ。
ができないこともある。ショップや都市の
あるが、その会社のモットーは、
「エージェ
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ちできないからだ。しかしもちろん、
ラグジュ
影響力/規模が大きければ大きいほど、バ
ンシーはいらない。自分たちですべてやれ。
いまだかつてないほどに、新しいコレクショ
パリコレに来るバイヤーは、平均して 3 〜 4
アリー市場も楽というわけではない。イメー
イヤーたちの買い付けによる支払額は少な
誰も信用するな」だそうだ。
ンは本当にすばらしくなければならない。
Geoffrey B. Small
を発表しなければ、すぐに消えてしまうだろ
日間滞在し、買い付けをする予定のコレク
ジ、独占性、プロダクト、クオリティに対す
くなるだろう。オーダー数が多いほど、デ
う。ありきたりのコレクションなど、もう誰
ションを10 から20 件ほどまじめに観る。そ
る敷居は上がり続け、巨大なグローバル企
ザイナー側が最初に使うお金は多くなる
加えて必要なのは情熱だ。情熱がなければ、
も観たくない。ウィメンズデザイナーウィー
してもし時間があれば、トレードショウを1
業が、ハイとロウの両極の市場を独占しよ
が、バイヤーたちにすぐに見捨てられてし
この不可能としか思えないゲームを生き抜
ク中、パリだけで 1,500 以上のコレクショ
つか 2 つ回り、数百のブランドをみる。した
うとしているからだ。彼らのもつ莫大な資
まうこともある。次の期待の新人デザイナー
けないだろう。情熱がない人は、論理的で、
ンが発表され、各ブランドは注目されようと
がって、少なくとも1000 以上のコレクショ
金、広告力、流通力、生産力、そしてメディ
を発掘したからだ。そこで抗議でもしよう
すぐに辞めてしまう(これは正しい選択だ)
。
競争する。しかし、次のシーズンの買い付
ンはまったく観られもしないということにな
アの力を使って。
なら、今後 10 年間は業界のブラックリスト
本当の情熱を持った人は、なにがあっても
けのために世界中から集まってくるバイヤー
る。コレクションが失敗に終わる確率はかな
に載るはめになる。つまり、流行や才能な
やり続ける。この業界で生き続け、訓練を
たちは、4,000 人ほどしかいない。彼らは、
り高い。パリコレ参加ブランドの95%は、
まっ
現在のファッションビジネスは、大きな嘘
どはどうでもよく、大切なのは権力とお金
し続けた者だけが、自分の名前でコレクショ
パリに到着したときにはすでに、ニューヨー
たくなにも売ることができず、3 シーズンも
の固まりかもしれない。多くの人にに夢を見
なのだ。才能なんて、安く買うことができ
ンを持てたり、自分の作品を生産、流通さ
ク、ロンドン、ミラノで嫌というほどの数の
しないうちに潰れてしまうのだ。現実として
させ、お金を使わせたい大企業が、世界中
るという状況なのだ。
コレクションを観てきている。疲労もピーク
は、若手や無名のコレクションの買い付けに
で繰り広げられるファッションのメディア
せることができるのだ。スポンサーや、ライ
センス、親会社、エージェンシーなどに頼
になっていて、ディオール、コム デ ギャル
割り当てられる予算の平均は、全予算の 3%
戦略を、お金を支払って操っている。ほか
たとえ自力のみである程度、ビジネス的にも
ソン、ランバンなど、パリコレでの買い付け
以下だということだ。このようなことから、
の金持ちに自慢をしたい金持ちは、たくさん
上手く展開したとしても、これまでに説明
分野で自力で生き抜き、すばらしい顧客が
をさっさと終わらせて、自分たちの国に帰り
若手が生き残れる可能性はかなり低い。
お金を使って有名ブランドを買いあさる。そ
したような理由により、すぐに、ひとりでは
ついて来る。これこそが本当の達人とよば
れるべきだろう。
らず、アーティスティックとファイナンスの
して、以前はディーゼルのジーンズ一本に
これ以上はなにもできないと気づくだろう。
それにもかかわらず、世 界 中で 見られる
100ドルを払っていたたくさんの人々も、い
これまですでにたくさんのお金を使っている
景気悪化、中流階級の顧客の減少、そして
ファッションのメディア戦略のため、デザ
までは 14.99 ドルのザラのジーンズしか買
が、またさらに多くのお金が必要になるだ
度重なる旅行費用の上昇のため、バイヤー
イナーになりたい人の数は急上昇している。
わない状況も出てきている。また、
ファッショ
ろう。もちろん、権力もだ。パートナーも、
誇大な宣伝や、システムの流れなどに頼ら
たちは時間とお金のやりくりに、どんどん神
問題は、競争は過熱し続けているにもかか
ンデザイナーを志す熱心な学生たちは、親
支援者も、エージェントも、プロダクショ
ずに、本当の意味でのまったく新しい作品
や、デザインとイノベーションに基づいた
たいというのが本音だ。
そういったデザイナーだけが、メディアの
経をすり減らしている。また、以前よりデザ
わらず、市場自体は縮小しているということ
のお金でファッションスクールに通い、パ
ン担当も必要となってくる。さらにパター
イナーアイテムの売り上げが下がっている
だ。H&Mやザラなどの(←低価格な洋服??)
リ、ロンドン、ミラノ、東京に移り住み、無
ンナー、縫い合わせる人、プレス、洋服の
新しいファッションを作り出せるのだと思
ため、買い付けのための予算も削られている
を定期的に買える消費者は世界的に減少し
償のインターンシップを何年もやり、上手
最終仕上げをしてくれる人、そして成功に
う。情熱、訓練、献身、忍耐の要素を兼ね
そろえたデザイナーのみがこのレベルに達
のだ。そして経費削減のため、多くのバイ
ている、そのような顧客を増やしたり、保ち
くいけばビックメゾンや大企業に就職。ま
導いてくれる人も必要不可欠。まさに悪夢、
ヤーたちは、買い付けのためのコレクション
続けることができるお店も減ってきている。
たは自分自身のブランドをはじめ、新しいビ
危険なゲームのはじまりだ。コレクションば
することができ、唯一の経済的支援者であ
回りを止め、自国内のディストリビューター
また、ハイとロウの二極化と、かつて栄えて
ジネスのために、またたくさんのお金を使い
かりか、魂まで失わなければいけない可能
る顧客を得ることができるだろう。このゲー
から買い付けを行っている。買い付けに回る
いた中流階級市場の衰退のため、デザイナー
続ける。そして、パリのような主要都市で
性も十分あるだろう。
ムのシステムの流れに、できるだけ乗らな