入管への難民収容は「拷問」か? 今日の内容 拷問等禁止条約(CAT)とは

世界人権デーを記念して
入管への難民収容は「拷問」か?
今日の内容
①拷問等禁止条約と「拷問」について知る
-拷問禁止委員会日本政府報告審査最終所見から-
②日本政府報告書審査とNGOの活動を
紹介
小川 昂子
神戸大学大学院
国際協力研究科
③今後の課題とNGOの役割について考
える
(2007年12月15日)
拷問等禁止条約(CAT)とは
正式名称:「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は
品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」
– 1984年:採択、1987年発効
– 2006年5月22日時点で、締約国141カ国 (外務省HP)
– 1970-80年代:中南米等で拷問が広範化
→73年AI報告書「現代の拷問」
→1975年「拷問等禁止宣言」
– 世界人権宣言第5条、国際人権規約自由権規約第7条
拷問等禁止条約の特徴
• 政府報告制度(第19条)
• 個人通報制度(第22条)
拷問等禁止条約の特徴
• 「拷問」の範囲を幅広く規定 (1条)
• 「品位を傷つける取扱いや非人道的取扱い」も禁止
(16条)(ただし、「拷問」とは区別あり)
• 事後的対処+防止措置 (2条1項)
Ex.「ノン・ルフールマンの原則」(3条)
日本と拷問禁止条約
• 1999年6月29日に加入、7月29日発効
*国内法より上の地位
• 加入に伴う国内法改正なし
• 第22条の「個人通報制度」と選択議定書は留保
• 拷問=国際犯罪 (「普遍主義」)(5条~7条)
• 日本は、第一回報告書の提出期限を2度守らず(2000
年、2004年)
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拷問とは
• 拷問とは何?(第1条)
①「重い苦痛を故意に与える」こと
②一定の目的や動機が存在すること
拷問とは
①「重い苦痛を故意に与える」こと
→肉体的だけでなく精神的苦痛も
・苦痛の程度が強くなると「品位を傷つける取扱
いや非人道的扱い」から「拷問」に
③「公務員その他の公的資格で行動する者」が
なんらかのかたちで関与していること
拷問とは
② 一定の目的や動機が存在すること
→人に何かを強制するためや
差別的動機からの拷問も含まれる
Ex. 外国人差別
拷問とは
③「公務員その他の公的資格で行動する者」がな
んらかのかたちで関与していること
→上記の者が直接実行した場合だけでなく、
これらの者の煽動、同意、黙認による場合も
含まれる
→被害者の範囲は限定なし=入管収容者も
品位を傷つける取扱い等
ノン・ルフールマンの原則
• 第3条でノン・ルフールマンの原則を規定;
• 「残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い
又は刑罰」に当たるものの防止を規定(16条)
• 「拷問」との違いは、加えられる苦痛の程度
• 用いられた手段や方法、行為の反復や期間、被害
者の年齢・性別・健康状態などを相対的に判断
「締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が
行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な
根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引渡して
はならない。」
→難民条約(33条)より包括的で除外条項なし
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ノン・ルフールマンの原則
• 「すべてに関連する事項」の考慮(3条2項)
→個人の状況+一般的人権状況
• 「個人通報制度」(22条)と相互補完的関係
「入管事件簿」とCAT
• 強制送還 (裁判権の剥奪)、入国拒否
→「ノン・ルフールマン原則」(3条)違反の可能性
• 入管内の食事、医療問題、不当な隔離、支援者への嫌
がらせ
→1条or 16条違反の可能性
• 救済の不十分さ→12条や14条違反の可能性
政府報告制度
政府報告制度
• 審査は政府との「建設的な対話」の場
≠条約違反の追及
• 全締約国には、条約の国内実施状況につ
いて委員会に報告する義務がある(19条)
• 報告書の提出は、4年に1回(最初は1年以
内)
なぜ国際的なロビー活動?
• 国内では実現しにくい要求を国際的な場に持っ
ていき、国際的な圧力をつくりだす
• NGOのロビー活動の目的
①委員に日本国内の実情を知ってもらう
②状況改善に必要な勧告を提示してもらう
→国際的な圧力
• 委員会の審査後、最終見解・勧告の発表
→国内状況の改善をせまられる
拷問禁止委員会
Committee against Torture
• 1987年に設置
• 10名の独立専門家で構成 (17条)
(女性3名、男性7名、その内、日本担当者2名)
• 各国の政府報告書や個人通報・国家通報を審査
• 国連人権高等弁務官事務所内に設置
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CAT委員会第38会期
• 2007年4月30日〜5月18日にジュネーブで開催
• 日本の第一回審査
その他、伊、蘭、ポーランド、デンマーク、
ルクセンブルク、ウクライナ
• 初めてのNGOと委員の公式ミーティング設置
→委員会もNGOからの情報を重視
NGOのロビー活動(現地)
• 各国審査会議の間に委員を引き留め、直
接話しを来てもらう
• 主張の要点等、追加資料の作成・配布
• 映画レセプションの開催
• メディアへの働きかけ(記者会見etc.)
• 現地のINGOとの協力
• 事務局員とのコンタクト etc.
NGOのロビー活動(出発前)
• 日本のNGO側からは、日弁連、CAT-Network 、 アジア
女性資料センター、国際人権活動日本委員会、国民救
援会が参加 (アムネスティは欠席)
• それぞれ事前にカウンターレポートを作成
• NGO間の打ち合わせ
• 国内で政府との意見交換会
NGO公式ミーティング
• 38会期から開催(非公開)
• 4団体の発表後、委員から質問
• 3条関連では、①退去強制されるまでの収容の
期限、②拒否する者への救済の有無について質
問あり
• その後も3名の委員と直接対話
公式ミーティング前の様子
日本政府報告審査(5月9日)
• 入管・難民に関して、政府は、改正入管法( 特 に
仮滞在制度と参与員制度の導入)を強調。
ノン・ルフールマン原則は担保されていると主張。
• 政府の報告後、委員から10個以上の質問
• 翌日の政府返答に備えて、NGO側は「オルタナ
ティブ・アンサーズ」として資料を作成
会場のPalais Willson
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日本政府回答(5月10日)
• 政府、難民・入管部分に関して、大方予想を
していた返答をする
• 委員の一人から再度、第3条について質問
→関心の高さの表れ
• NGO側、勧告案を作成
→翌日、勧告ドラフトを作成する事務局職員に手渡し
ロビー活動「成功」の理由?
日本政府に対する勧告
• ノン・ルフールマン原則の国内法における明確な保障
の欠如
• 難民認定の再審査をする独立した機関の欠如
• 法的救済手段の不十分さ
• 入管施設内での不十分な医療措置 etc.
→改善するよう勧告
さらに・・・
一年以内に、第3条に関する追加情報を政府に要求
その後のNGOの活動
• NGO同士の連携
• 勧告発表直後、プレスリリースを発表
• 条約の範囲
• 国会への質問主意書の提出
• 現地INGOとの連携
• 外務省への申し入れ
• 報告会の開催 etc.
• 十分な情報
今後の課題とNGOの役割
1. 最終見解の活用方法
2. 「個人通報制度」の受諾
3. 選択議定書への批准/加入
1.最終見解の活用方法
① 国内裁判での「規範」としての活用
→むずかしい
② 国会や行政への働きかけ
→Ex. 質問主意書の提出
③ 国際的な場での働きかけ
→さらなる国際的圧力の引き出し
I. 自由権規約委員会の対日審査
II. 国連人権理事会の「普遍的定期審査(UPR)」
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2. 「個人通報制度」の受諾
2. 「個人通報制度」の受諾
• 通報は、「違反の被害者であると主張する者」だ
けでなく、「その者のために行われる通報」として
事実関係を知る第三者も行うことが可能(22条)
• これまでの通知件数は、25カ国332件
(145件は判断済み、45件の違反認定、
不受理58件、検討中止83件) [2007年11月23日現在]
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cat/stat3.htm
• 受諾宣言が必要
• 通報の圧倒的多数、決定されたケースの8割以上
が3条関連。
• 2007年11月現在、61カ国によって受諾
→欧米諸国が中心
• 「仮保全措置要請」の慣行
→「ノン・ルフールマン原則」の担保に期待大
3.選択議定書への批准/加入
3.選択議定書の批准/加入
• 議定書の目的;
「拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位
を傷つける取扱い又は刑罰を防止するために、
人々が自由を奪われている場所への独立した国
際的及び国内的な機関がその責務を負うところ
の定期的な訪問制度を設置すること」(第1条)
• 欧州拷問禁止条約の防止メカニズムの影響
• 2007年10月11日現在、締約国34カ国
http://www2.ohchr.org/english/bodies/ratification/9_b.htm
• 国内での人権侵害を調査・救済する独立機
関の設置が先決
Ex. 刑事施設視察委員会
→防止メカニズムの二重構造
参考文献
わたしたち一人ひとりにできることは?
• 日本にいる難民や入管収容施設の実態を
知る
•
•
•
• 一般市民が声をあげる
→マスコミや国会議員が動く
•
•
• 面会などのボランティア活動をしてみる
Etc.
小川昂子「拷問等禁止条約日本政府報告書審査の様子と庇護希望者の問
題」移住労働者と連帯する全国ネットワーク編『M-ネット 2007年7月号』 (移
住労働者と連帯する全国ネットワーク、2007年7月)
アムネスティ・インターナショナル日本支部編『拷問等禁止条約 NGOが
創った国際基準』 (現代人文社、2000年)
拷問等禁止条約の国内実施に関する研究会編『拷問等禁止条約をめぐる
世界と日本の人権』 (明石書店、2007年)
日本弁護士連合会編『改革を迫られる非拘禁者の人権 2007年拷問等禁
止条約 第1回政府報告書審査』 (現代人文社、2007年)
CATネットワーク『拷問禁止委員会・第1回日本審査報告/資料集 拷問な
き明日へ』(CATネットワーク、2007年10月)
URL:
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR) :
http://www.ohchr.org/EN/Pages/WelcomePage.aspx
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