国際人権法 申 惠丰

科目名
担当教員
国際人権法
申
惠丰
授業の目的・到達目標
人権に関する国の義務を定める国際条約であり、かつ日本では国内的効力を有する人権条約を、
国内の人権問題にどのように活かしていくことができるか。原則として国の「管轄下」のすべての
人の人権保障を定めている人権条約の仕組みを十分に理解した上で、様々な人権問題に対し人権条
約の規定を憲法の人権規定とどのように併せ用いることができるか、確かな分析視角を身につける
ことを目的とする。
授業の概要
人権条約が国内法秩序に与える影響は、条約の批准・加入に伴う国内法の制定や改正という立法
措置の面でも重要であるが、日本のように批准・加入した条約がそのまま国内的効力を有する国で
は、裁判の場で直接・間接に援用しうる規範としての人権条約の意義も見逃せない。この授業では、
日本が批准ないし加入している人権条約を中心に、国際的・国内的平面における条約規範の実施に
ついて基礎から説明を進める。条約の国際的実施に関しては、各条約で設置されている条約機関(委
員会)が運用している制度(報告制度、個人通報制度)について概観し、条約機関が採択している
意見や所見の法的意義について考察を加える。国内的実施に関しては、裁判における条約の解釈・
適用のあり方について、総論的にまたテーマごとに、実際の事例を豊富に用いつつ検討する。
成績評価の基準・方法
期末試験( 70 %)
、
その他(
30 %)
通常授業時の出席を評価の前提とし、評価は、上記の通り主に学期末試験によって行う。
「その他」としては、通常授業時の質疑応答で示される理解度や、授業に対する積極的な参加度を
加味する。
使用教材・教科書・参考文献
授業は、担当者がレジメを配布しそれによって行うので、教科書は用いない(基礎ができてから、
自習として論点整理や問題練習をする際に、
『法科大学院ケースブック国際人権法』日本評論社は有
益である)
。レジメには通し番号が振ってあり、しばしばクロス・レファレンスを行うので、レジメ
はファイルして毎回持参する。人権条約が掲載された条約集が必要であるが、これもコピーして配
布する。
事前・事後の学習について
毎回の授業に際し、これから学習する事柄についての事前学習は必要ないが、前回学習したこと
をレジメで簡単に復習することが有益であり、授業でも最初にそのような復習から始める。
履修条件
国際法の履修経験は望ましいが必須ではない。国際人権法の意義を理解し活用の意欲をもつこと。
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2014 年度授業計画
回
テーマ
内容
第二次大戦後における国際人権規範の発展/人権条約における人権保
1
国際人権法の意義
障のあり方と、日本法への影響/憲法秩序における国際人権法の位置
づけ
人権条約の国際的実施(1)人権
2
条約の国際的実施制度と条約
機関の設置
3
4
5
6
人権条約における国際的実施制度と条約機関の設置/条約の解釈原則
と人権条約
人権条約の国際的実施(2)普遍
普遍的人権条約における報告制度とその運用/条約機関の「一般的意
的人権条約における報告制度
見」と国別の「総括所見」/これまでの日本政府報告書審議
人権条約の国際的実施(3)
普遍的人権条約における個人通報制度/個人通報制度の受理要件/個
普遍的人権条約における個人
人通報審査のプロセスと条約機関の「見解」/個人通報の事案におけ
通報制度
る規約解釈の展開/日本への制度適用の可能性
人権条約の国際的実施(4)
ヨーロッパ人権条約における個人通報制度/ヨーロッパ人権裁判所に
ヨーロッパ人権条約における
よる判例法の展開/人権保障に関する締約国の「裁量の余地」とヨー
個人通報制度
ロッパ人権裁判所
人権条約の国内的実施
国内法秩序における条約の位置づけ/条約の国内的「効力」と「直接
適用可能性」
人権条約の規定の直接適用を肯定した判例/人権条約の規定の直接適
7
人権条約と国内裁判(1)
人権条約の直接適用
用を否定した判例/社会権規約の直接適用可能性の一律否定とその打
開
自由権規約の規定を間接適用した判例/社会件規約の規定を間接適用
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人権条約と国内裁判(2)
人権条約の間接適用
9
10
廃条約の規定を間接適用した判例
人権条約の解釈・適用をめぐる
憲法上の人権保障と人権条約上の人権保障を同一視する判例/条約機
諸問題
関の「一般的意見」
「総括所見」
「見解」等の法的意義をめぐって
重要テーマの個別的検討(1)無
実定法上の差別―婚外子差別/私人・私企業による差別の撤廃と国際
差別・平等
人権法―雇用における女性差別・入店等における人種差別
重要テーマの個別的検討(2)刑
11
した判例/人種差別撤廃条約の規定を間接適用した判例/女性差別撤
事手続における人権保障
代用監獄における起訴前勾留・取調べの問題/拷問又は残虐な、非人
道的なもしくは品位を傷つける取扱いの禁止、及び自由を奪われた者
の人道的取扱いの原則
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13
14
重要テーマの個別的検討(3)出
「難民」の要件と難民認定/出入国管理手続における収容と自由権規
入国管理手続における人権保
約・難民条約/退去強制とノン・ルフールマン原則/退去強制と家族
障
生活の保護/人身取引の被害者の保護
重要テーマの個別的検討(4)人
国家管轄権と犯罪に対するその決定基準/犯罪人引渡し/拷問等禁止
権条約と刑事裁判権
条約における普遍的管轄権/日本の法状況への示唆
全体のまとめ
全体の復習及び、模擬問題を用いた論点整理
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