福祉国家の危機 1高度成長の終焉とケインズ主義の解体 1-1高度成長

福祉国家の危機
1高度成長の終焉とケインズ主義の解体
1-1高度成長の終焉
1969 年のニクソン・ショックから 1973 年の第一次オイルショックを直接のきっかけと
して、高度成長は終焉。
*ニクソン・ショック:アメリカが金とドルとの兌換を停止し、国際経済秩序が混乱し
た。
戦後の国際通貨体制
・ドルを貿易や海外投資の基軸通貨とする
・ドルの価値を、アメリカが金とドルとの交換を保証することで担保する。
・各国通貨とドルとの交換比率を固定する。(例えば、1ドル=360 円)
・アメリカ以外の各国は、この固定した交換比率を維持するために外国為替相場
に介入する。
・そのために必要な通貨が不足する場合には、国際通貨基金が資金を貸し付け
る。
というように、究極的には、各国通貨の価値を金の価値で保証することによっ
て、 国際貿易秩序を貨幣面から安定させようとした。
*第一次オイル・ショック
第四次中東戦争をきっかけに、アラブ石油産出国が、イスラエルを支持する諸国への原油
禁輸と原油価格の4倍引き上げを行う。
石油価格、石油製品価格、それらを原料とする製品の価格が急上昇し、先進各国は、猛烈
なインフレーションに襲われる。インフレを沈静化させるための総需要抑制政策によっ
て、先進各国は不況に陥り、以後、高度成長が達成されたことはない。
2高度成長後の経済 日本の場合
高度成長終焉以後の先進国経済がゼロ成長やマイナス成長に苦しむなか,日本経済は例
外的に,相対的に高い成長を維持した.(高度成長期の半分程度)70 年代から 80 年代半
ばの時期についていえば,その背景には,以下のような事情があった.
1)大企業男性正社員層に関しては,その総量を抑制しつつも,高い忠誠心に基づく強
い労働意欲を期待し,それを陶冶する仕組みを広範に導入して,労働生産性の上昇を維持
したことである.伝統的な稟議制の活用,品質管理制度や社員提案制度の活用などがその
事例である.その結果として,少数精鋭の正社員労働者が猛烈に働いて,高度成長期には
見られなかった過労死をもたらすような労働意欲の病的な向上が見られた.また,それ以
外の階層については高い労働意欲は期待せず,低賃金労働や不定期就労を強いた.それが
もたらす弊害を避けるために,こうした階層に依存する職場では,ファクトリーオート
メーションやオフィスオートメーションに代表される自動化や省力化を推し進め,低い労
働意欲でも業務を遂行できる環境を整えた.この部分ではアメリカと同様に,高度成長期
以降の生産性の低下に対して,賃金の低下をもって答えるという解決策を採用したことに
なる.
2)しかしアメリカとは異なって,この時期の日本経済は,円高ドル安やエネルギー価
格の高騰に対応するために,積極的な技術革新に成功した.かつての大衆消費社会を代表
する家庭電化製品と自動車でいえば,マイクロコンピュータをはじめとする電子制御技術
利用した高品質で低価格の製品の開発に成功した.すでに先進諸国では飽和していた家
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電・自動車市場に,日本企業は,低価格と高品質で攻勢をかけ,他国の競合企業から市場
を奪う形で販路を拡大した.さらに工業用ロボット,メディカルエレクトロニクス,ナノ
テクノロジー,半導体,通信,精密機械などの先端産業関連分野でも,技術革新を遂げ
て,世界市場をリードした.
このように日本経済は,70 年代から 80 年代半ばの時期にかけて,低賃金体制への移行
と生産性上昇を組み合わせることで,例外的な成長を維持してきた.
しかしその成長は,家電や自動車といった従来型産業分野で他国の経済成長を阻害する
という近隣窮乏化の性格を伴っていた.日本企業の輸出が集中豪雨型輸出と呼ばれたよう
に、極めて短い期間に特定国に、日本の複数企業の特定製品の輸出が集中したために、輸
出相手国の競合企業が衰退・倒産し、輸出相手国の国内経済を悪化させるという結果を招
いた。世界市場が全体として低迷している低成長期にあって、少しでも市場開拓の余地が
ある地域が見つかれば、そこに輸出を集中せざるを得ないということが、こうした結果を
招いた。典型的なのが、家電・自動車であった。この集中豪雨型輸出によって、ヨーロッ
パのテレビ受像機製造はほぼ壊滅し、アメリカでは、業界第4位であったアメリカン・
モーターズが倒産した。
1980 年代には、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、日本的経営に学べ
という声が先進諸国や東南アジア諸国からあがってきた反面で、先進各国との間で貿易摩
擦が激化し、日本は、輸出規制→企業の海外進出、内需拡大による国内市場中心の経済成
長、製品輸入促進とを余儀なくされた。例えば、1977 年には、カラー・テレビの対米輸出
自主規制が始まり、1980 年に生産額世界一となった自動車産業は、1981 年には対米輸出自
主規制を開始した。また、半導体産業も 1985 年には対米輸出自主規制を開始した。逆に言
うと、当時の日本の経済成長パターンは、諸外国との紛争を激化させるという代償を伴わ
ざるを得ない点で、不安定かつ脆弱なものであったということができる。
にもかかわらず,すでにこの時期に福祉先進国といわれたイギリスにおいてさえ社会保
障制度の後退が進められていた時期に,日本においては,高度成長期と同様の社会福祉政
策が維持された.
1985 年以降のバブル経済は、世界金融市場での資金過剰、中曽根民活路線による電電公
社民営化(NTT)国鉄解体(JR)によって意図せざる結果として生じたものである。中曽根
民活路線は、本来は、アメリカのレーガン、イギリスのサッチャーとともに自由主義的生
産第一主義を志向したものである。しかしそれは、意図せざる結果としてではあったが、
一面では、内需拡大・製品輸入拡大という諸外国の要求に応えるものであり、円高ドル安
を背景に、急激な工業化を達成しつつあった東南アジア諸国からの安価な日用品や、海外
に移転した日本企業の逆輸入、ヨーロッパのブランド品の輸入が急増した。この内需拡
大・製品輸入拡大が、実体経済の発展によってもたらされたとはいえない点で、この路線
も極めて脆弱なものであった。実際、バブル期の日本経済は、総体としては、株式投機・
土地投機によって得た利益を、技術開発・製品開発投資や、新産業育成に向けることはせ
ず、短期的には産業投資よりも高収益が期待できる投機にいっそうのめり込む形となっ
た。その結果、一時はリードしていた先端技術の産業化に関しても、 1993 年のバブル崩壊
時には大きく遅れをとる結果に終わった。例えば、情報通信網整備にアメリカよりも大き
く立ち後れたことなどである。にもかかわらず,この時期には,諸外国の内需拡大要求に
応える形で,経済大国から生活大国へという政策スローガンが掲げられ,その一環として
**
社会保障の強化も図られた.例えば老人医療費の無料化である. 1
現在の日本では、バブルで中断された中曽根民活路線が規制緩和論によって復活し、紆
余曲折はあるもののおそまきながらネオ・フォーディズムが追求されようとしている。
まず財政に関しては、行財政改革によって安上がりの政府を目指す。安価な政府によっ
1**ちなみに,社会保険基金を利用したリゾート施設の建設は,現在では無駄遣いとして
問題視されているが,本来は生活大国化という路線のなかで,年金などの金銭的給付以外
の給付を実現するものとして構想された.
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て財政支出を削減し、累積した財政赤字の軽減を達成する。他方で、財政支出の削減は、
内需を構成する政府支出の減少をもたらすので、景気を上昇させるには、民間活力の強化
が必要となる。
民間活力の強化は、競争制限的な諸条件を撤廃し、企業間の競争を激化させることに
よって達成する。異業種参入の自由化、再販売価格制度等の流通に対するメーカー支配の
撤廃、金融自由化等である。こうした自由化は、逆に、政府規制の撤廃を意味するので、
財政支出の削減に貢献する。
このような条件の下で、個別企業が生き残るには、政府の保護は期待できず、外国企業
との競争を含めた厳しい競争戦に勝ち残らねばならない。そのためには、不採算部門を切
り捨てて成長部門へ人員と資金を迅速に投入できる体制を構築すること、余剰人員の排
除、コスト・パフォーマンスの悪い労働者の排除を含めた内部のむだを徹底的に排除する
ことが必要とされる。これが企業再編成としてのリストラである。
バブル崩壊後の不景気に重なる形で、これがそのまま実行されれば、内需減少による一
層の不景気が予測される。こうした規制緩和論の流れと伝統的な政府の産業保護や景気対
策を望む流れとが、拮抗している。その結果として,行財政改革や規制緩和が叫ばれると
同時に,史上最大規模の財政出動が繰り返されるという矛盾した状態が繰り返されてき
た.しかし、財政状態から見れば、短期的にはともかく、長期的に産業保護政策や景気対
策を実行し続けることは不可能である。(現在の日本の累積した財政赤字は、完全返済が
絶望的な額に達している。1990 年度では、国債発行残高は、166 兆 3379 億円で、GNPの
45.7%。1995 年度では、国債発行残高 213 兆円で、歳入にしめる国債依存度が 17.7%、歳
出にしめる国債費が 18.6%。一般会計の 0.9%分だけ、借金を返済していることになる。
年額でいえばほぼ7兆円に匹敵する。その一方で、少子化と高齢化という財政出動を必須
とする事態が、諸外国よりも急速に進んでいる。)従って長期的には、その他の対案が見
出されない限り、規制緩和論的な方向に動くことになる.
この傾向を代表するのが小泉政権である.行財政改革では,公務員給与の引き下げ,公
務員数の削減,国の業務の地方移転を進めるとともに,自治体統合や地方交付税等の地方
財政支援の削減を進めるとともに,社会保障費や教育関連費といった大きな歳出項目につ
いて,その大幅な削減を狙っている.また規制緩和では,中曽根以来の民活論を継承し
て,民間にできることは民間に任せるという立場を鮮明にしている.郵政民営化がその象
徴であり,いわゆる構造改革特区の設定にも,教育への民間企業の参入を大幅に緩和する
ことなどに,この立場が反映されている.いわゆる福祉ミックス論もこの流れのなかにあ
る.
3新自由主義の立場
このタイプは、レーガン政権下のアメリカ、サッチャー政権下のイギリスで追求され、
現在の日本でも、規制緩和論はこの方向を目指そうとするものである。
この方向が目指すのは、高賃金制度を廃止することによって企業に高利潤を確保しやす
い条件を与え、その高利潤によって高投資が可能になる環境を実現し、先端的な科学技術
の成果を経済的に活用できる条件(=新しい基幹産業の育成)を作り、それによって生産
性の回復をはかる、というものである。
そのために、労働市場に関しては、第一に、生産性インデックス賃金を廃止して、競争
的な労働市場の作用によって賃金を決定しようとする。第二に、競争的労働市場を実現す
るために、労働組合の交渉力を弱体化させ、社会福祉政策を後退させ、能力別賃金格差を
拡大させ、解雇に関する企業の自由度を高める。高度成長終焉後の労働力過剰の時代に
あっては、こうした自由化は、部分的には正社員エリートの中から高額所得者を出現させ
るが、全体としては賃金の相対的な低下をもたらす。第三に正規労働以外の多様な労働形
態を認める。戦後の基本的な労働形態である正規労働は、先進国においては、原則として
雇用期間を定めず、解雇条件も厳しく制限されてきた。それに対して、多様な有期雇用が
認められるようになり、相対的に安価な雇用が可能になった。第四に、女性の労働力化を
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促進する。第一から第三の政策によって、一部のエリートを除いた勤労世帯では、男性家
父長による労働のみでは生計を維持できず、女性の労働力化が急速に進んだ。こうした女
性労働力は、性別賃金格差の存在によって、企業に安価な労働力を供給することになっ
た。こうした政策によって、直接賃金と間接賃金を含む賃金コストを低下させることで、
利潤の回復をはかる。
また、低賃金政策が労働意欲の低下をもたらして、それが生産を阻害する場合には、利
潤の回復は困難になるが、それに対しては、第一に、基幹部門に高賃金労働者を配置し、
フォード主義期以上の高賃金によって高い労働意欲を調達する。それ以外の部門では、貧
しさと解雇によって高い労働意欲を調達する。あるいは、生産設備の自動化を促進し、労
働意欲に極力依存しない生産システムを構築する。(完全ロボット化工場等)
国の財政面では、第一に、利潤に対する課税を軽減して、民間投資資金の拡大をはか
る。第二に、先端技術開発に関して、国が財政的に積極的に関与する。アメリカでいえ
ば、かつてのスター・ウォーズ計画や、現在の情報ハイウェイ構想。第三に、一方で減税
し、他方で強力な産業政策を実施するために、他の財政支出を大幅に見直し、縮減する。
社会福祉の後退をはじめ、後述の規制緩和がこれに対応する。
国際的には、先端技術産業が要求する市場規模が一国経済の枠組みを越えるほど巨大で
あるので、国際経済の自由化を促進する。(例えば、情報通信事業の国際化)
投資面では、様々な分野への企業の進出を容易にし、自由な投資を保証するために、規
制緩和を促進する。公害規制の緩和、金融の垣根の撤廃、海外投資の自由化、多様な金融
商品開発の自由化、国家の産業規制の緩和、独占禁止法の変更等。
生産面では、消費財・生産財の開発部門に資金と人材を注入する。その一方で生産部門
では、多品種少量生産に対応したフレキシブルな万能型の生産ラインを構築し、人員削減
を進めるとともに、作業工程を単純化して低賃金雇用を促進する。企業レベルでは、場合
によっては、自社では開発のみを行い、生産は外注するというシステムを作る。(例え
ば、コンピュータ産業では、ハードからソフトに至る一貫した生産体制を持っているの
は、IBMとアップルのみといってよい。)
このような制度のもとでは、企業の負担が著しく軽減される一方で、企業間の競争も激
化する。激しい競争を勝ち抜いた優秀な企業が成長することで、投資拡大・雇用拡大・経
済成長が達成されると期待された。
*80 年代のアメリカ経済
アメリカを例に取ると、こうした政策は、アメリカの基幹産業が国際競争力を失ってい
る現状を踏まえれば、新産業の育成を目指すという点では意味があった。確かに、こうし
た政策が実行された 1980 年代には、企業の利潤は回復し、雇用も増加した。しかし、増加
した雇用は、サービス業などを中心とする低賃金不熟練労働が主であり、一部の高賃金層
と多数の低賃金層への労働者の階層分化が進み、アメリカのラテンアメリカ化と呼ばれる
現象が生じて、社会の不安定性が増大した。
所得5分位による各階層における一人あたり所得の変化(1976-96)
第1階層(最貧層)-15.9%
第2階層 -13.5%
第3階層(中間層)-11.7%
第4階層 -6%
第5階層(富裕層)+13.2%
1929 年から 60 年代までは,所得格差が縮小する傾向にあったが,その傾向ははっきり
と逆転した.最富裕層のみが所得を増加させ,中間層の没落,最貧層内部での飢餓人口
の増加がみられる.(80 年代末で,飢餓人口は,黒人,ヒスパニック,White Poor を中心
に推定 3000 万人) また、回復した利潤も、期待通りに産業投資には向かわずに、高所得階層の所得に転化し
て、巨大な消費需要を形成した。そして、この消費需要を捉えたのは、投資と近代化に遅
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れたアメリカ産業ではなくて、日本産業であった。
すなわち、アメリカは、高額所得者減税と先端技術開発政策を実現するために、大量の
国債を発行した。その結果として財政赤字は増大したが、景気が回復し国民所得が増加す
れば税収も増加し、財政赤字も解消されると期待された。しかし、減税と産業政策によっ
て拡大した消費需要は、アメリカ産業の製品購入には向かわず、日本を中心とした諸国か
らの輸入品の購入に向かった.国債発行によるドル高がアメリカの輸入拡大に拍車をかけ
た.その結果として、貿易赤字が拡大した。おおまかにいって国民所得=国民総生産=民
間投資+民間消費+政府支出+貿易収支等であるから、貿易赤字の大幅な増加が国民所得
増加の足を引っ張り、税収が伸びずに巨額の財政赤字が累積した。アメリカ経済は、財政
赤字と貿易赤字という双子の赤字に苦しめられることになった。
*90 年代のアメリカ経済
<金融自由化> 80 年代から金融業が拡大し,国内総生産に占める地位は,1991 年には製造業を追い越し
た.(1997 年:金融業 1兆 5703 億ドル 製造業 1兆 3789 億ドル;投資別産業構成
比:金融業 1980 年 5%,1989 年 20%,製造業: 1980 年 23%,1989 年 18%)
その前提となったのが,1980 年の金融制度改革法と 1982 年の預金金融機関法.前者に
よって,定期・貯蓄預金の金利上限が撤廃され,貯蓄金融機関の資産運用範囲の制限が緩
和された.後者によって,金融機関の営業範囲はより拡大された.(多様な金融商品の開
発,金融機関同士の垣根の撤廃など)
こうした金融自由化のなかで,金融機関同士の競争が激化し,中小金融機関の淘汰と巨
大金融機関の成長が進んだ.この成果は 80 年代の末から徐々に現れ,90 年代のアメリカ
経済は,国際金融に引っ張られる形で,成長を開始した.また,高度成長期に拡大した年
金基金が,アメリカ国内の資金としては,きわめて巨大な投機資金として,金融業の発展
を支えた.(世界の年金基金の 50%以上)
1996 年現在
1全米教職員組合年金 1536 億ドル
2カリフォルニア職員退職年金 926 億ドル
3 GM 年金 720 億ドル
<賃金水準>
実質賃金(貨幣賃金を物価水準で補正したもの)は,政府の低賃金政策と製造部門の海
外移転によって低く抑ええ込まれ,上昇率は,1981 年:-0.6% 1989 年:-2% 1993
年:-0.7% 1995 年:-0.5% 1998 年:+2%.労働分配率は低下し,資本分配率が上
昇した.
4サッチャー政権の反福祉国家政策
新自由主義の社会福祉政策の好例は,イギリス保守党サッチャー政権。揺りかごから墓場
までといわれた伝統的な社会福祉国家との対比がクリアだから。
図式
古典的なイギリス労働党 サッチャリズム
社会生活や経済生活への国家介入
小さな政府
市民社会よりも国家が優先
自律的な市民社会
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集産主義(公共財)
ナショナリズム
需要管理と労使協調
道徳的権威主義と個人主義
混合経済,社会的経済
市場原理主義
完全雇用
競争的労働市場
平等主義
不平等の容認
揺りかごから墓場まで
セーフティーネットとしての
福祉国家
単線的近代化 単線的近代化
環境問題への無関心 環境問題への無関心
国際主義
現実主義的国際関係
二極対立の世界観 二極対立の世界観
小さな政府 市場は効率性において国家に優る
市場に不適合だが社会生活に必要なものだけを国家が担う。
市場不適合:利益はあがらないが必要,市場に任せると独占を生む,市場の
存立を支える等
自律的な市民社会 市民社会を構成する主体は自由に振る舞うことが許されねばならず,
政府の介入がなければ,そうした振る舞いが保障されるはず
道徳的権威主義 市民社会における主体の自由な振る舞いは以下のような美徳を発展さ
せる:よき人柄,正直,義務,自己犠牲,名誉,奉仕,自制,忍耐,
敬意,正義,向上心,信頼,礼儀正しさ,不屈,勇気,誠実,
勤勉,愛国心,他人への配慮,節倹,畏敬の念
↑
伝統的な社会福祉国家では,国民は国家が提供するサービスへに対するわがままなクラ
イアントになるので,道徳的に大人になれない。自由な市民社会では自己責任の原則が
貫くので,まともま社会生活を送ろうとすれば,大人にならざるをえない。大人がそな
えるはずの徳目が上述の美徳。
ナショナリズム 市民社会における主体の安全を確保するのは,主体自身の力と,主体を
支える家族の力→家族を脅かすものは国家の敵=単身家族,同性愛家
族,外国人,中絶,多文化主義→ナショナリズム(=異物排除)
*小さな政府と自律的な市民社会,自由な主体を,伝統家族とナショナリズムが支え
る。
*厳しい社会を支える愛情に満ちた家庭
不平等の容認 結果としての不平等は容認するが,機会の不平等については容認派と否定
派に分かれる
競争的市場には不平等がつきものだが,決断力と能力に恵まれた人が,そ
れにふさわしい処遇を受ける限り,不平等は容認すべき
反福祉国家 福祉国家は受益者と見られている人びとに,壊滅的な被害を及ぼす。弱者,
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障害者,恵まれない人びとは,進取の気性と自助の精神を失い,自由社会の
基盤を破壊する。
経済成長が国全体の富を増やすことこそ福祉である。競争の敗者には,進取
の気性や自助の精神を失わない程度の公的な援助。
サッチャー政権の政策の特徴
1)労働組合の交渉力を弱体化させる。組合=経済効率の敵
2)財政改革の推進=福祉・教育・医療・地方自治関連予算の削減,人頭税を含む増税,
不採算国営企業の民営化あるいは独立行政法人化(石油,航空宇宙,道路輸送,自動車生
産,通信,航空,空港,鉄道,鉄鋼,水道,電力,石炭)
3)強い英国を目指す
サッチャー政権の福祉政策
前提となる制度
1)退職年金,就労不能給付,遺族関連給付(遺族一時金、有子遺族手当、遺族手当),
求職者手当,業務災害障害給付等の給付を行う単一の社会保険制度(国民保険)(いずれ
も全国民を対象)(年金保険と労働保険の一元化)
2)医療は,税金を財源とする国民保険サービス(NHS)として全住民を対象に原則無料
3)高齢者,障害者等に対する社会サービスは,地方自治体(原則カウンティ)において
税を財源とした対人社会サービスの提供
年金改革 従来は国庫負担なしの 2 階建て年金制度(基礎年金=強制加入,報酬比例年金),報酬比
例部分については,確定給付型企業年金(日本の厚生年金に近い)での代替を認める(適
用除外,適用除外になるとその分の保険料免除)
これに対してサッチャーは,報酬比例部分の年金給付を賃金スライド制から物価スライド
制に変更,報酬比例部分の廃止を打ち出したが反対が多く実現できず。
その代わりに,報酬比例部分の給付水準の引き下げ,報酬比例部分の代替を個人年金(民
間年金保険)にまで認める。→公的年金を私的年金で代替する。公的年金は最低限の生活
保障(労働者の賃金の 40%強)
さらに支給開始年齢を引き上げる。
*結果
将来的にも年金に関する公的負担増はない。GDP に占める公的年金支出割合の予測では
2050 年でもイギリスは5%前後
企業年金による代替は,労働者が転職した場合の可搬性が低い。被用者でなければ加入で
きない。
個人年金は,保険料が高く,失業中でも保険料納付義務がある。不正販売が横行し,安全
性に問題が出た。
年金生活者のうち低所得者の所得水準が非常に低い。しかも無業者は任意加入なので,無
保険者が多い。
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→「資産調査付社会保障給付」(所得扶助だけではなく、住宅費補助なども含む)を受け
取っている年金生活世帯の割合は,全体(60 歳以上)で 35%。特に 75 歳以上の単身女性
になると,55%は何がしかの所得扶助等を受けている
→所得階層 5 分位別の年金生活者の収入源をみると,単身世帯では,第 1 分位で大体 9
割,第 3 分位でも 8 割ぐらいが公的年金と社会保障給付で賄っている。夫婦世帯でも,第 1
分位で 85%,第 2 分位でも 77%が公的年金などで賄っている。
医療保険改革
従来は NHS の配下に病院があり,病院は国営、医療従事者は公務員。その他に一般家庭医
があり,NHS と契約関係にある独立事業主とされた。国民は救急医療を除き,あらかじめ
登録しておいた一般家庭医の診察を受け,必要に応じて,一般家庭医の紹介により国立病
院の専門医の診察を受ける。
サッチャーは,医療への競争原理の導入を目指し,病院を国立から独立採算制の公営企業
に変更し,一般家庭医に登録患者に関わる予算管理を行わせる(予算保持一般家庭医)
→紹介患者の治療にあたって価格交渉を行う。
*結果 NHS の官僚的硬直性や非効率は改善され,国民医療費の抑制に成功
不採算公益法人の倒産,医療関連投資の不足などにより病院のベッド数が不足し,入院待
機の長期化
→1999 年末のインフルエンザ流行により,がんの手術がベッドや麻酔医不足によりキャン
セルされ手遅れになる等の事案が頻発
民間医療保険,それを対象とする民間病院の隆盛
*ブレア政権の NHS 改革の目標
・最大待機期間を 2005 年末までに外来 3 か月,入院 6 か月とし,2008 年には入院も 3 か月
とする。
・救急患者の最大待機時間を 2004 年までに 4 時間とする。
・2004 年までに一般家庭医へのアクセス待機時間を最大 48 時間以内(熟練看護師等との
面会は 24 時間以内)とする。
保健福祉改革
従来は,地方自治体が個々のサービスごとに申請を個別審査し,当該サービスが必要と判
定された利用者に公営のサービスを直接提供する(税負担)
高齢者福祉,児童福祉,障害者福祉を地方自治体が担当
サッチャーはこれに市場原理を導入
→地方自治体がケアマネジメントを行うことにより申請者個々の福祉ニーズを総合的に評
価し,望ましいサービスの質及び量を具体的に決定した上で,これを最も効率的に提供で
きる供給者を競争で選び,契約によってサービスを提供する
→これにより福祉分野にも競争が導入され,地方自治体福祉部局の組織も,ケアマネジメ
ント及びサービス調達の決定を行う部門,直営サービスを提供する部門,不服審査や監査
を行う部門の 3 部門に再編
→従来主流であった自治体直営サービスが縮小し,民間サービスヘの移行が進む。とりわ
け入所施設(全額自己負担)
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→税制改革により,地方税の中央集権化を進める。各地方自治体の支出額に上限を設け
る。国と地方自治体の予算の全体にシーリングをかける
→自治体による福祉サービスの後退と民営化
5スウェーデンの福祉政策
前提
きわめて強力な労働組合全国組織の存在、高福祉高負担を承認する国民的合意
の存在。高福祉を享受するために高負担に耐え、高負担を可能にするだけの高
賃金を確保するというもの。このような社会的合意が成立している場合には、
低賃金政策は不可能であり、高賃金を吸収できるだけの生産性上昇を達成し、
高賃金と生産性上昇への協力を取り引きする労使妥協を再構築しなければなら
ない。
1970 年代-80 年代
そこで追求されたのが、第一に、賃金上昇は抑制するものの低賃金政策は採
用しない、ということである。経営側は、賃金に代わって、雇用保障、産業構
造転換に伴う職業教育、労働時間短縮による自由時間の増加と雇用の増加、高
福祉負担を提供し、労働側は、それと引き換えに生産性上昇に協力する。
第二に、生産性上昇に関してであるが、生産性上昇の手段は、一般的には、
より効率的な生産設備の導入であり、労働意欲・労働密度の上昇である。ス
ウェーデンでは,効率的な生産設備の導入を追求するが、それ以上に、生産性
の人的要因を重視する。前者については,すでに 1980 年代からコンピュータ教
育を学校教育に導入するなど,生産性上昇を支える技術教育に取りかかった。
また,90 年代からは,そうして生まれた人材を活用する IT クラスタの構築
や,バイオ,ナノテクといった新産業の育成を積極的に進めた。
生産性源泉が枯渇した原因の一つに、高賃金によっては解消されない労働の
単調さ、生活水準が上昇して欲求が高度化したにも関わらず、単純・単調労働
では高度な欲求を充足できない、というものがあった。生産から人的要因を完
全に排除できない以上、いかなる生産システムにもつきまとうこの問題を緩和
することで、労働意欲と労働密度の上昇による生産性上昇を達成しようとし
た。
その手段の一つは、すでに述べたような労働時間短縮等の労使の取引であ
る。もう一つが、労働組織の再編成である。高度成長期には、少品種大量生産
が行われていたが、こうした生産方式にあっては、労働組織は、ラインとス
タッフの分離、上意下達の位階組織、各職位におけるマニュアル化された単純
労働によって構成される。その典型がベルト・コンベアシステムによる自動車
の組立である。そこでは、現場労働者にとって、生産組織の全体像も生産物の
全体像も見えない。作業の動作は、ベルト・コンベアのどこに配置されている
かによって決定され、同じ位置にいる限り、作業は一定の動作の反復になる。
作業リズムと作業スピードは、ベルト・コンベアが流れるスピードによって決
定される。こうした労働者は、生産を実行してはいるものの、どのような構想
-9
-
に基づいて生産するのかということは、他人事になる。
それに対してスウェーデンでは、このような構想と実行の分離を緩和するこ
とを目指す。
そのために、現場労働者の労働に関する判断力を陶冶し、判断を実行に移せる
だけの多様な熟練を陶冶し、そうした判断力と熟練に基づいて生産設備を動か
していく、という方向を目指す。生産現場における労働者の参加意識と責任感
とを強化することで、労働意欲を向上させ、生産性を上昇させようというわけ
である。そして、生産設備に関する技術革新も、こうした方向を強化するよう
な技術開発を目指して行われる。
さらに、生産現場を超えて、一企業レベル、一国経済レベルでも、企業経営
に関する労働者代表の参加を追求し、労働者組織全体として、どのような構想
に基づいて生産するのかという問題を、他人事ではなくて自分たち自身の関心
事とする。こうして、国民経済全体において、労働者の生産に対する参加意識
と責任感とを陶冶しようとする。例えば、政府も参加する中央労使協議では、
賃金だけでなく、社会福祉の水準と負担、衰退産業の切り捨てと成長産業の育
成、それにともなう職業教育や労働者配置の変更等を決定する。
1990 年代以降
この方式は、1990 年代に入る頃までは、かなり成功し、スウェーデンは西
ヨーロッパ諸国の中では高い経済成長を達成した。しかし、1990 年代には、高
福祉高負担を支える高賃金体制を維持することが困難になり、外国の低コスト
地域への生産拠点の逃避による産業の空洞化が生じた。また、賃金格差が極め
て小さかったり、高賃金を得ても重税のために可処分所得が少ないといったこ
とが、逆に労働意欲を弱めるといった弊害も生んだ。それを避けるためには、
高賃金体制を見直さざるを得ず、そのために、長い間法的に制限されてきた有
期雇用(パート、アルバイト、季節労働者の利用等)が大幅に緩和されたり、
競争的賃金制度の導入が進められたりしている。(ただし賃金抑制は,熟練労
働者,経営者,専門技術者といった高所得者層にも及んだ.その結果,賃金格
差は低いままに抑えられた.)
また,外資の導入を積極的に進めるために金融の自由化・国際化を推し進め
た.それに適応できる金融機関の強化をめざした. 1997 年初めには,3 つの大
きな合併があった。1 つはスベンスカ・ハンデレスバンケンによるスウェーデ
ン最大の抵当金融会社スタッズヒポテックの吸収合併で、この合併により同銀
行は国内抵当権市場の約 40%を占めるに至った。また、最大の貯蓄銀行グルー
プであるスパルバンケン・スヴェリエと、本来は農業銀行であったフォレニン
グスバンケンとが合併し、資産額 6,190 億クローネ(約 920 億ドル)というス
ウェーデン最大の銀行が誕生した。この銀行は、約 1,100 の支店を持ち、リ
テール市場の 38%のシェアを享受することになる。もう 1 つは、デン・ダンス
ケ・バンクによるオストゴタ・エンシルダ・バンクの買収。この集約化によっ
て株式上場銀行の数は 8 行から 5 行に減少したが、更なる合併の可能性も論じ
られている。
1996 年、ストックホルム証券取引所は 9,000 億クローナ(約 1,350 億ドル)
という取引高の新記録を打ち立てた。Affaersvaerlden General Index 指数で
10
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38.4%の上昇です。これは、米国の投資信託とその他の金融機関が大部分を占
める外国からの投資が引き続き高水準で推移したことによる。今日ではス
ウェーデン株式価格で約 40%を外国人が保有しており、1996 年で取引量の
32%を占め、スウェーデン 220 億クローナ(約 30 億ドル)のネット購入者に
なっている。
こうした賃金抑制政策,民間投資優遇政策の結果,1990 年代の半ば以降のス
ウェーデン経済は,西ヨーロッパ諸国の平均水準に近いところまで回復してい
る.しかし失業率は8%程度と相変わらず高い水準を維持したままである.そ
れは,スウェーデンのボルボイズムのあり方をある程度は残しつつも,金融の
国際化・自由化,賃金抑制政策,高失業率という点で,アメリカ的な要素をも
含み込んだものである.
そのなかで,在来型産業である自動車,航空機,カメラだけでなく,情報機
器のエリクソンやデータベースの MySQL といったグローバルな企業が台頭し
た。こうした経済成長を受けて,一定の改革は行われたものの,基本的には,
高福祉高負担の社会保障体制が維持されている。
この点では,新自由主義者が主張するのとは違って,社会福祉は必ずしも経
済成長の敵ではない。(逆に社会福祉関連産業は,他産業に比べて大きな雇用
誘発効果をもつことが,実証的に明らかにされている。また,社会福祉関連分
野が,情報通信技術適用の場として,有望であることも示されている。)
スウェーデンの社会保障制度
1概要
広範かつ高水準の所得保障 年金、児童手当、傷病手当などの現金給付が国の事業として実施されてい
る。
保健医療サービスは、ランスティング(日本の県に相当する広域自治体)等が
供給主体となっている。
福祉サービスは、コミューン(日本の市町村に相当する基礎的自治体)によっ
て担われており、高齢者福祉サービス、障害者福祉サービス等が実施されてい
る。
社会保険制度の特徴
より広く税財源で賄われる各種の手当を含む(社会扶助は含まない)。給付の
内容は現金給付(所得保障)であり、我が国の医療保険や介護保険のように、
主としてサービス費用を賄うための制度ではない。社会保険制度は、基本的に
職域の別なくスウェーデンに住む全住民に適用される(また、各種給付は所得
制限を設けず、従前賃金の一定水準を保障するという形態が多い)。
社会保険制度として位置付けられている諸給付は、
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-
1)家族及び児童に係る経済的保障、
2)病気や障害に係る経済的保障、
3)高齢者に対する経済的保障、
の 3 つに分類される。
1)に属するものとしては、児童手当、養育費補助、両親保険、住宅手当等が
ある。このうち住宅手当は、子供のいる家庭や 28 歳以下の若年者を対象に、子
供の数、住居の大きさ、所得に応じた額を支給するものであり、所得制限があ
る。約 14 万件が女性の単親又は独身世帯(平均月額約 1591 クローナ)、約 4
万件が男性の単身又は独身世帯(同 962 クローナ)、約 4 万件が夫婦同居家庭
(同 1677 クローナ)に支給されており(2001 年 12 月)、母子・父子家庭に対
する経済的支援の制度として機能している。このほか、1)の分類に属するもの
としては、児童が傷病、障害等のために特別な介護等が必要な場合に支給され
る障害児介護手当がある。
2)の分類に属するものとして、病気による所得の低下に対する傷病手当があ
る。病気になってから最初の 21 日間(2003 年 7 月以前は 14 日間)について
は、雇用主から病気手当を受け、それ以降は社会保険事務所から傷病手当を受
けることとなる。傷病手当の給付水準は 2003 年 7 月から引き下げられて従前所
得の 77.6%相当(改正前は 80%相当)とされ、さらに失業手当の額を上限とす
ることとされている。このほか医療関係の社会保険給付としては、薬代に対す
る給付、歯科治療に係る給付などがある。また、障害関係の給付として、活動
年金及び傷病年金(これらは日本の障害年金に相当)、障害手当、介助者手
当、近親者介護手当、自動車補助などがある。労災手当も 2)の分類に属するも
のとされている。これは業務上の傷病により傷病手当等の支給期間を過ぎても
稼得能力が低下した状態が継続しているときに、その者の所得に応じた額を支
給するものである。2003 年 1 月には、特別労災手当を創設する等の改正が実施
された。
3)の分類に属するものとしては、老齢年金・遺族年金のほか、低額の老齢年金
受給者等のための住宅費補助、特別住宅費補助といった制度がある。
年金
老齢年金は、1999 年の制度改正により、賦課方式で運営される所得比例年金と
積立方式で運営される積立年金(プレミアム・ペンション)を組み合わせた仕
組みに制度体系が再編され、また、年金額が一定水準に満たない者には、国の
税財源による最低保障年金制度が設けられている。
支給開始年齢は 61 歳以降自ら選択することができる(支給開始年齢に応じて年
12
-
金額を増減)が、最低保障年金は 65 歳からである。所得比例年金の支給額は
生涯に納付した保険料額の水準と国民の所得水準の伸びをもとにしたスライド
率などを基に算出され、また積立年金の支給額は納付保険料の積立分とその運
用利回りによって決定される。なお、積立年金の運用機関は登録された金融機
関等の中から個人が選択する仕組みになっている。所得比例年金の保険料率
は、将来にわたって 18.5%に固定することとされており、原則としてそのうち
16%が所得比例年金分、2.5%が積立年金分として充てられる。
新制度に基づく年金支給は経過措置とともに段階的に導入されるが、特に 2003
年 1 月には、旧制度(基礎年金及び付加年金制度)に基づく従前の給付が廃止
(裁定替え)されるなど、新制度への完全移行が実現した。
遺族年金は、2003 年 1 月から改正が実施され、有期(10 か月)の生活転換年金
及び延長生活転換年金(同居している 18 歳未満の子がいる場合)、寡婦年金
(1990 年に廃止されたが経過的に支給)、遺児年金などの種類がある。
障害年金(活動年金及び傷病年金)についても 2003 年 1 月に改正が実施され
た。改正後の活動年金は 19~29 歳の者を対象とする有期給付(3 年以内)、傷
病年金は 30 歳以上を対象とする無期又は有期の給付である。いずれも医療的理
由によって 1 年以上にわたり 4 分の 1 以上就業能力を喪失した場合に支給され
る。
医療
スウェーデンの医療は、税方式による公営サービスが中心となっている。すな
わち、基本的にはランスティングが医療施設を設置、運営し、費用はランス
ティングの税収(主として住民所得税)及び患者一部負担によって賄われる仕
組みとなっている。
患者自己負担の水準は、「保健医療サービス法」において設定された全国的な
上限額の範囲内で、各ランスティングが設定するのが原則である。法律による
患者の自己負担額の上限は全国一律 1 年間で 900 クローナで,ランスティング
はこれより低い額を定めることもできる。18 歳未満の子については無料であ
る。
入院に係る患者自己負担については、法律による上限額は 1 日当たり 80 クロー
ナである。2004 年の自己負担額は、1 日当たり概ね 35~80 クローナ(子供を除
く)である。
薬剤については、社会保険制度による給付として、全国一律の自己負担額が設
定されており、1 年間で 1,800 クローナが上限である。
スウェーデンの医療提供は、公営サービスが中心であり、これに関連して医療
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-
機関の役割分担が明確になっている。具体的には、特に高度先進的な医療を提
供する圏域病院が全国 6 つの保健医療圏に計 9 つあり、また各ランスティング
ごとに当該ランスティング全体をカバーする計 22 のレーン病院と、ランスティ
ング内を複数の地区に分けてカバーする計 45 のレーン地区病院があり、さらに
プライマリケアを担当する計 864 の保健医療センターがある(2000 年)。
公的扶助
社会扶助は、コミューンの責任の下に運営されており、財源はコミューンの一
般財源である。対象者はスウェーデンに 1 年以上居住する 18~64 歳の者で、公
共職業安定所に求職登録したうえで、就労能力のある者には求職活動が要求さ
れる。給付額は申請者の資力と所得を総合的に算定した額と各コミューンが決
めた基準額との差額となる。2002 年には、23 万 7,000 世帯(18 歳~64 歳に属
する世帯の 6.0%)が受給しており、支給総額 85 億クローナ(1 世帯平均約 3
万 6,000 クローナ)、平均支給期間は 5.8 か月となっている。これらは 1996 年
をピークに減少してきており、 2001 年と比較して受給世帯数は約 6%、支給総
額は約 4%の減少となっている。受給世帯類型別に見ると、シングルマザー世
帯の 23%が受給者となっていること、受給者年齢別では 18 歳~29 歳の世代が
全受給者の 37%を占めるなど若年世代の受給者比率が高いこと、外国生まれの
国民(難民は除く)の 12%が受給していること(スウェーデン生まれの国民の
場合は 2%)、長期失業者(年間を通じて公共職業紹介に登録されている者)
は受給者の約 3%になっている、といった特徴がある。
社会福祉サービス
高齢者福祉
スウェーデンでは、65 歳以上高齢者比率は 1984 年に 17%台に達して以降は安
定的に推移しているが(2002 年 17.2%)、人口高齢化は後期高齢者の増加とい
う形で現れており、80 歳以上人口比率は 1985 年の 3.7%から 2002 年には 5.3%
まで高まってきている。
高齢者福祉サービスには、在宅福祉サービス(ホームヘルプサービス等)と施
設福祉サービス(ナーシングホーム、グループホーム、サービスハウス等)が
あるが、スウェーデンにおける「施設」は高齢者のための「特別の住居」とし
て考えられている。サービスの提供主体は基本的にコミューンであるが、民間
委託も首都ストックホルムを中心に増大傾向にある。2002 年にはホームヘルプ
サービスを受けた高齢者のうち約 9%、特別の住居に居住する高齢者のうち約
12%は民間主体によるものである。
サービスの費用は、基本的にコミューンの税財源とサービス利用者の自己負担
で賄われることから、その具体的内容はコミューンごとに異なるが、2001 年
「社会サービス法改正」の結果、2002 年 7 月から高齢者・障害者福祉サービス
に係る利用者負担限度額保障制度が導入された。これは、サービスの利用者負
担に全国一律の上限額を設定するとともに、利用者負担額を支払った後利用者
の手元に残る額の下限額を設定するものである。2003 年には利用者負担の上限
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額は、ホームヘルプ等について 1,544 クローナ( 2004 年には 1,572 クロー
ナ)、施設サービスについて 1,608 クローナ(同 1,638 クローナ)となってい
る。また利用者の手元に残る最低所得保障額は、単身者について 4,162 クロー
ナ(同 4,238 クローナ)、配偶者がいる者について 3,487 クローナ(同 3,550
クローナ)となっている。
障害者福祉
障害者関係施策は、福祉サービスや所得保障施策(障害年金などの現金給付)
のほか、教育、住宅、交通、就労支援、文化、福祉機器の提供など幅広い分野
において障害者の完全参加と平等の理念の下に実施されている。障害者サービ
スはコミューンを中心として運営されており、ホームヘルプ等の在宅サービス
や、グループホーム、サービスハウス等の施設サービスがある。また、「職業
生活における障害者差別の禁止に関する法律」、「大学における学生の平等な
取扱いに関する法律」といった法律が制定され、また「障害者オンブズマン
法」に基づき国に設けられた障害者オンブズマンが、障害者の完全参加と平等
の理念の実現を図るためのモニタリング、フォローアップ等を行っている。
2000 年 5 月に国会で可決された「障害者施策に係る行動計画」においては、政
府関係機関が講じるべき措置(建物のバリアフリー化、資料作成や政府調達に
当たっての配慮など)、建物・交通機関等のバリアフリー化、地方自治体にお
けるサービスの向上、障害者に対する教育の充実、障害者雇用の促進、必要な
リハビリテーションの確保などの幅広い対策が盛り込まれている。
児童福祉
<児童手当・養育費補助>
児童手当は、(基礎)児童手当、延長児童手当、付加的児童手当(多子加算)
から成る。
基本的に国内に居住する 16 歳未満の子供を持つ親は、子供 1 人当たり月額 950
クローナの児童手当を受けることができる。
延長児童手当は、子供が 16 歳を過ぎても義務教育相当の学校に通っている間支
給されるものである。
養育費補助は、両親が離婚して一方の親と同居している子供に対して、もう一
方の親が予め合意した養育費を支払わない場合等に最高で月額 1,173 クローナ
を社会保険制度から支給するものである。この場合、本来養育費を支払うべき
親は、原則として社会保険事務所から子供に支給された額を返済しなければな
らないこととされており、その点で、この養育費補助は、他の手当とは性質が
異なり、児童の経済的保障等のための国による養育費立替え払い制度というこ
とができる。なお、2003 年 1 月には、養育費を支払うべき親の死亡により遺児
年金を受給できる場合には、養育費補助を支給しないこととする改正が行われ
15
-
た。
<保育サービス>
スウェーデンの保育サービスには、対象児童の年齢に応じて、基本的に 1~6 歳
児(就学前)を対象とする保育所(プレスクール)、就学している児童を対象
とする学童保育所(アフタースクール・センター又はレジャータイム・セン
ター)、そして両者(1~12 歳児)を対象とする家庭保育(ファミリー・デイ
ケア)がある。なお、6 歳児については教育制度の一部として就学前学級(プ
レスクール・クラス)制度が設けられている。
家庭保育は、一定の資格を有する保育担当者が、自分の家で数人の児童を保育
するものである。2002 年において 1~6 歳児の 81%(うち保育所 60%、学童保
育所 14%、家庭保育 7%)7~9 歳児の 72%(うち学童保育所 71%、家庭保育
1%)、10~12 歳児の 9%が保育サービスを利用している(以上 2002 年)。
保育サービスはコミューンの担当であるが、2002 年 10 月時点で、保育所に
通っている児童の 17%(1994 年には約 12%)、学童保育所に通っている児童
の 8%(1994 年には約 4%)はコミューンが設立した以外の施設(親等の共同
運営や企業によるもの)に通っており、サービスの民営化が徐々に進展してい
る。
保育サービスについては、2001 年以降段階的に改革が実施されている。改革は
4 つの部分に分けられ、第 1 の改革は失業家庭の児童に対し最低 1 日 3 時間ない
し 1 週 15 時間の保育サービスを確保するというもので、2001 年 7 月から実施さ
れている。第 2 の改革は、親が育児休業中である児童に対し、最低 1 日 3 時間
ないし 1 週 15 時間の保育サービスを確保するというもので、2002 年 1 月から実
施されている。第 3 の改革は、保育サービスの自己負担額について、2002 年 1
月から上限額を設定する制度の導入である。これは、各コミューンの判断で導
入することとされているが、2003 年 1 月時点で全てのコミューンがこの制度を
導入している。第 4 の改革は、コミューンは 4 歳以上の児童に対し、秋学期か
ら、最低年間 525 時間以上の保育サービスを提供しなければならないというも
ので、2003 年 1 月から実施された。
<育児休業及び両親保健>
スウェーデンの主な育児支援策として、育児休業制度及び育児休業期間中の所
得保障を行う両親保険制度がある。育児休業は、児童が 8 歳又は義務教育第 1
学年終了までの間に取得することができる。
両親保険の給付は、妊娠手当、両親手当、一時的両親手当から成る。
16
-
妊娠手当は、女性が妊娠により仕事に就くことができない場合に最高 50 日間支
給される。
両親手当は、子どもの出生・養子縁組に際し育児休業をした期間について合計
480 日間まで支給される。父親・母親はそれぞれ 240 日間までの受給権を有す
るが、そのうち 60 日間を除けば、父親・母親間で受給権を移転できる。両親手
当は、子供が 8 歳又は小学校の第 1 学年を終了するまで受給することが可能で
ある。両親手当の支給額は、480 日間のうちの 390 日間までは所得の 80%相当
額(150 クローナ(2004 年より 180 クローナ)の基礎額を下限とする)、残り
90 日間については日額 60 クローナ(最低保障額)となっている。また、通常
の勤務時間の 1/4、 1/2、3/4 又は 7/8 だけを勤務した場合に、3/4、1/2、1/4
又は 1/8 の支給額を受給することも可能である。
一時的両親手当は、原則として 12 歳未満の子供の看護等のための休業期間につ
いて子供 1 人当たり原則年 60 日間まで支給される。また、父親については、出
産前後の付添い等のための休業について、10 日間の一時的両親手当受給が認め
られている。なお、両親が学校訪問等のために休業する場合に支給されていた
一時的両親手当(年 1 日間のコンタクト・デー制度)は、2003 年 1 月に廃止さ
れた。
6福祉ミックス論
コンセプト 福祉供給側の公的な独占を廃して,国家(自治体),民間市場
部門(企業内福利厚生,市場での福祉供給),インフォーマル部門(家族,地
域,ボランティア,非営利組織)といった複数の福祉供給サイドを,それぞれ
の機能的・行動的特性に従って,最適な福祉供給を行えるように組み合わせる
こと。
日本での代表的な文献は,ライフデザイン研究所監修『福祉ミックスの設
計』(有斐閣)
理論的には,相対立する複数の政策目標(例えば公正と効率)を政策手段の
組み合わせで実現しようとするマンデルのポリシーミックス論と,トレードオ
フ関係にある複数の政策目標を同時に実現するためには,それと同数の政策手
段が必要だとする,ティンバーゲンの定理を組み合わせたもの。
Rose, The Future of the Welfare State, Oxford 1987 などが有名(ただし
発想としては,高度成長終焉後の 1985 年版の厚生白書が,民間に任せるものは
民間にと主張して,福祉ミックス論的な議論を展開)
具体的には,福祉分野での効率,公正,人間的価値という 3 つの政策目標
を,効率は市場,公正は国家,人間的価値はインフォーマル部門に割り当てて
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実現しようとするもの
効率 高度成長後の各国の財政危機(日本は最悪)を考慮すると,福祉分野
においても効率性を追求せざるをえない。効率を最大限に発揮するのは,完全
競争市場であるが,近似的にそれに近い自由競争市場を福祉分野に導入する。
福祉に関して民間企業の活動を認める。そうなれば,顧客=福祉サービスを受
ける人は,費用が同じならより高いサービスを提供するところから,サービス
水準が同じならより安くサービスを提供するところから,サービスを受けるよ
うにする。
そうすると,民間福祉企業は利益を上げるためには,より安くよりよいサー
ビスを提供するように心がけるようになる。
日本の例 介護保険
それまでは施設は社会福祉法人 国から予算が下りてきて,その範囲内で福祉
サービスを提供
現在は,株式会社が社会福祉施設を経営できる。入所費用は,介護保険+自己
負担分→介護保険報酬は,施設の経営実績に応じて支給される。(何点になる
サービスをどれだけ提供したか)
さらに施設は,例えば,サービス内容だけでなく,機能回復の実績など,サー
ビス実績を公開することを義務づけられており,それを参考にして,入所希望
者が施設を選んだり,介護認定業務を行う自治体が施設を格付けしたりする。
効率重視の前提は,公正を維持する範囲のことは国が行うが,それ以上の福
祉サービスを受けたいのであれば,民間企業からサービスを受けよというこ
と。
医療では,国保や健保を越えた場合は,民間の医療保険でカバーしろという
こと(AFLAC など),年金では公的年金を超える部分は,企業団体年金保険や
個人年金保険でカバーしろということ。
*企業内福利厚生
企業団体年金,財形貯蓄,保養所,勤続休暇などの特別休暇制度,親睦
会,社員食堂,企業内保育所など,企業が給与以外のかたちで,従業員
に提供するサービス
普通の給与=直接賃金に対して,賃金の代わりにサービスを提供するの
で間接賃金とも呼ばれる
企業にとっては直接賃金と間接賃金を合わせたのが,人を雇う費用,働
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く側から見れば,両方を合わせたのが自分の収入。
企業は優秀な人材に長く勤めてもらおうとすれば,その人が望むような
福利厚生を導入し,魅力のない福利厚生(例えば,現在では社員旅行)
を切り捨てる
働く側は,直接賃金以外に間接賃金の内容を見て,職場を選ぶ(例え
ば,子育て中の女性がフルタイムで働くとき,企業内保育所はポイント
になる)
その結果,優良な企業ほど優秀な人材を集めて成長する。
公正 効率だけを重視すると,サービスの対価を支払えない者は,必要なサ
ービスを受けられない。
*効率=経済では需要とは,個人にとっての必要ではなくて,どれだ
け支払う用意があるのかということ。パンがなければ死ぬ人とおやつ
にパンを食べる人がいれば,パン屋は,必要な方にではなくて,たく
さん支払う方にパンを売る。
そこから生じる不公平を緩和するのに,政府が必要最低限のサービス
を提供する。(租税による場合もあれば,社会保険に対する財政援助
の場合もある)
人間的価値 これまでの福祉でもっとも欠けてきたのは,クライアントをあ
らゆる欲望を備え,独自の生活感情と,独自の自分らしさを備えた人間と
して見なかったこと。例えば,遠隔地に入所施設を建設する背景には,入
所者がこれまで築いてきた人間関係を切り捨てても,福祉サービスは提供
できるという考えがなかったとはいえない。
こうした人間的価値を満たすことは,民間企業には不向き(利潤の対価とし
てサービスを提供するだけ,民間企業でそこまで要求されると,施設職員の過
重労働問題が発生する。サービスの種類によっては、支払い能力が有れば提供
する)
国は公正の観点から一律サービスを提供するものであり,官僚組織で運営さ
れるので,個々人に対する細かな配慮は行えない。
そこでインフォーマルセクターが登場
愛情に満ちた家庭という前提が存在するならば,家族によるケアなど
友人が自発的にサービスを提供する
地域社会に人間的な交流があるのなら,地域社会やそのメンバーがクライ
アントと交流
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-
以上は,昔から自然に行われてきたこと。しかし,上の 3 つがうまく機能
しない場合には,それらに代わるか,それらを補完する存在が必要
→ボランティア ボランティアをしたいという個人の自発性に委ねられ
る。この点で,非組織的であり,組織化されても一時的な場合が多い。
→より組織化された形態としては,非営利組織,非営利組織と営利企業の
中間形態である社会的企業,その一部としての協同組合
福祉サービスのクライアントが,多様な欲望と自分らしさを備えた個人で
あるとすれば,サービス内容は,人間が生きて生活する上で必要なあらゆ
る領域にわたる。そのうち国は,生存保障の最低限(年金,医療,介護,
労災,失業給付)しか提供せず,民間企業は儲かるサービスしか提供しな
い。それ以外の広汎な領域は,クライアントが自助努力で獲得できるもの
を除いてインフォーマルセクターに課されることになる
以上が福祉ミックス論の概要 その最大のポイントは,福祉ミックスのなかで最適福祉ミックスを追求するこ
と
最適とは,公的福祉サービスの縮小(健康で文化的な最低限度の生活,健康と
文化の縮小解釈),儲かる分野を民間企業に開放,それ以外はインフォーマル
セクター。こうした役割分担を国主導で進めること。
*最適を追求しなければ福祉ミックスは無意味。 なぜなら現実の我々の福祉は公的サービス,民間サービス,インフォーマルな
サービスの組み合わせで成り立つのが普通だから
例 公的医療保険で病院に入院し,差額ベッド料を民間保険から受け取り,イ
ンフォーマルセクターに属する友達の見舞いに励まされる。
福祉ミックス論は,最適を追求する点で,さらにインフォーマルな領域のうち
伝統的な家族やコミュニティーの人間関係を強調する点で,新自由主義の主張
と重なる。
*しかし使い方によっては大事な点がある。それは,人間的価値の追求とい
う,これまでの公的福祉中心の体制では見逃されてきた点を独自の政策目標と
して提起している点。
*これを提起したのは福祉ミックス論だけではない。ノーマライゼーションの
思想やバリアフリーの考え方,コロニー解放運動のなかにすでにあった。(=
市民運動)
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*だから,こうした下からの力を強めることができるのなら,新自由主義=福
祉ミックスのありうる残酷な帰結に,福祉ミックスが否定しえない土俵の上で
対抗することも可能になる。
*社会的企業
1)収益は無視しないが,収益の最大化を自己目的化しない。
2)低い経済的な報酬を得つつ,収益以外の社会的な目標を達成しようとす
る。
3)従業員には,経済的報酬だけでなく,それ以外の価値=社会的意味のあ
る職業を与える。
→最高の賃金や最短の労働時間でを指向しない従業員を選択する。
4)顧客は,企業が提供するサービスに対するコストパフォーマンスの最適
化を要求するのではなくて,社会的企業への市民参加,意志決定の民主
化に価値を見いだす。
5)一般的な組織形態としては株式会社もあるが,NPO,協同組合,匿名組合
(経営を行う資本家と出資だけする匿名組合員からなる),有限責任
事業組合(出資の有限責任,出資者による経営,組合ではなくて出資者
に課税)など
6)多くの場合,労働生活の豊富化,クライアントや消費者のエンパワーメ
ント,その他の社会的価値の目標達成の高度化に貢献することが,期待
される。
*労働生活の豊富化
もっとも適合するのは生産協同組合
労働者が出資して形成する協同組合(出資は,金,モノ,技能)。
組合の目的は,財やサービスの供給
組合の意志決定は,一人一票をもつ組合員の総意。
利益は,組合の経営基金に組み込まれる他は,組合員に出資に応じて還元
される。還元と組み込みの比率は組合員の総意で決定する。
組合員である労働者が同時に経営者でもあるから,仕事を自分たちにとって
より満足できるものにしてゆく可能性が大きい。
反面では,組合員が自己利益を追求して,サービスのクライアントや資金提
供者に犠牲を強いる可能性もある。
*消費者やクライアントのエンパワーメント
通常の商業的福祉サービスでは,消費者の影響力は,そのサービスを購入し
ないことによって発揮される。(=退出)(→自由競争が行われている場
合, 売れないなら,生き残るためには企業は売れるサービスを提供しようと
努力 せざるをえない)。
公共サービスの場合には,消費者の影響力は,政治的意志決定への影響力の
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行使,通常は数年に一度の投票(=発言)によって発揮される。(なおか
つ, 社会福祉が選挙の争点になる場合に)
これに対して,消費協同組合は,退出と発言という二つのオプションを統合
できる。
消費協同組合
消費者が出資して形成する協同組合(生協のようなもの)
組合の目的は,組合員である消費者が必要とする財やサービスの提供(共
同購入など)
組合の意志決定は,組合員一人一票による総意
利益が発生した場合には,経営基金に組み込む他は,組合員に出資額に応
じて配当。
消費者あるいはクライアントが,財やサービスの提供を同時におこなうの
で,消費者自身が責任を持たざるをえない。
→何を共同購入するのかの決定に自ら参加する(=発言)
→要らないものは共同購入しない(=退出)
→こうして消費者は,組合活動を通じて,責任と権利を強める。
反面では消費協同組合は,成果にただ乗りする組合員,その結果として経
営を独占する官僚を内部に生み出す可能性がある。
消費協同組合に雇用される従業員の待遇が消費者=組合委員に利益のため
に劣悪になる可能性がある。
*目標達成の高度化
ボランタリーな組織がもっとも適合的
ボランティア組織は,多くの場合理念を基礎としたグループか,目的別のグ
ループとして組織される。
→社会全体の要求を満たそうとはせず,その活動の基本的な価値を認めた人
か,少なくともその価値を拒否しない人にサービスを提供する(多くは対
人サービス)
→ボランティアとクライアントの価値共有が期待でき,両者のコミュニケー
ションが促進されうる。
=生産協同組合と消費協同組合との中間形態
*社会的企業のこうした形態を最適ミックスさせることが,重要。
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