10Key Trends2006本文の抜粋

Ten Key Trends in
Functional Foods 2006
By Julian Mellentin
Case Study
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
目 次
キーポイントのまとめ
4
1. はじめに:食品、栄養、健康分野における 10 のキートレンド
8
2. 10 のキートレンド
12
トレンド 1:転換期を過ぎ、健康は食品の未来である
12
ケーススタディ 1:Kraft 社は、新しい健康シンボルで、Pepsi 社の後ろにぴったりと付いている
16
ケーススタディ 2:Pilgrim 社は最も健康的な鶏肉を狙う
16
ケーススタディ 3:Chupa Chups 社は、ぺろぺろキャンディに健康を取り入れた
17
トレンド 2:元来健康に良い食品のマーケティングパワー
19
ケーススタディ 4:天然の栄養豊富な伝統的な食品の成功
20
ケーススタディ 5:嗜好品で天然の健康を訴求
21
トレンド 3:果物−機能性食品の未来か?
27
ケーススタディ 6:洋ナシは健康的な食品として再ポジショニングされる
31
ケーススタディ 7:ザクロ−2006 年の健康的な奇跡の果物
32
トレンド 4:食物繊維は前途洋々
34
ケーススタディ 8:全粒粉の戦略をヨーロッパに持ち込む
38
ケーススタディ 9:美味しい全粒粉のマーケティング
39
トレンド 5:「個」の時代のパッケージ
40
トレンド 6:機能性飲料のブームが押し寄せる
44
ケーススタディ 10:バーのブランドが 1 回飲みきりサイズの飲料へ拡張
45
トレンド 7:プライベートラベルの機能性商品の急増
46
トレンド 8:機能性原料をニッチから脱却させる賢いマーケティングのためのチェックリスト
48
ケーススタディ 11:効果の伝達は成功の鍵だ
51
トレンド 9:健康分野ではアジアがリード
53
ケーススタディ 12:日本の機能性食品のイノベーションがまたヨーロッパに参入
トレンド 10:子供の栄養は優先度の高い戦略
54
55
ケーススタディ 13:複数のトレンドに対応することで成功が促進される
57
ケーススタディ 14:母乳成分で免疫強化
58
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
囲み記事・グラフ
囲み記事
Box 1:全ての食品が機能性食品になったら、貴方はどうしますか?
10
Box 2:健康的なオランダとフランスの心臓に払戻し
15
Box 3:「○○フリー」や「天然」が最強のメッセージ
22
Box 4:消費者は「天然」の健康食品を好む
23
Box 5:ブルーベリーのブーム
31
Box 6:食物繊維および機能性繊維の分類
37
Box 7:ヘルスクレームは、過大評価されているコミュニケーションツールか?
51
グラフ
グラフ 3.1 ヨーロッパにおけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
28
グラフ 3.2 米国におけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
28
グラフ 3.3 日本におけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
28
グラフ 3.4 ヨーロッパにおけるザクロ配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
29
グラフ 3.5 米国におけるザクロ配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
29
グラフ 3.6 ヨーロッパにおける果物配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
30
グラフ 3.7 米国における果物配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
30
グラフ 4.1 ヨーロッパにおける繊維の表示している食品の発売数 1995∼2005 年
35
グラフ 4.2 米国における繊維の表示している食品の発売数 1995∼2005 年
35
グラフ 4.3 一部アジアにおける繊維の表示している食品の発売数 1995∼2005 年
36
グラフ 4.4 ヨーロッパにおける繊維の表示している飲料の発売数 1995∼2005 年
36
グラフ 4.5 米国における繊維の表示している飲料の発売数 1995∼2005 年
36
グラフ 4.6 一部アジアにおける繊維の表示している飲料の発売数 1995∼2005 年
37
グラフ 9.1 日本の特定保健用食品市場−20 年が経ち、健康維持商品が過半数を占めている
54
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
キーポイントのまとめ
トレンド 1:健康は食品の未来
健康問題はすっかり定着し、食品業界が現在行なっていることは非常に基礎的なことであり、各社の戦
略プランにとって健康は非常に重要である。今まで健康が重要視されてこなかったことが信じがたい。
2004 年末に Ten Key Trends for 2005 を発行した際、2004 年を振り返り、止まるところを知らない健康
およびウェルネスの勢いを感じて、2004 年は健康およびウェルネスの転換期だったと述べた。我々の
予測どおり、2005 年には、「ウェルネスは業界標準」というトレンドが急速に高まった。健康に対するトレ
ンドは、小売売上を見ると明白だ。
トレンド 2:全ての食品が急速に機能性食品となっている
上昇トレンド
ダークチョコレート
フルーツスムージー
Hershey 社によると、過去 3 年間の米国におけるダークチョコレートの小売市場の
年間成長率は 24.6%だという(トレンド 2 参照)。
2005 年の米国におけるスムージー市場の成長率は 40%で、3 年以内に売上は
14 億ドルに達すると思われる。
ヨーロッパでは、1 日量サイズ(一般的に 100mL/本)のプロバイオティック飲料
プロバイオティックの
は、1995 年には存在しなかったが、2005 年には小売売上が約 37 億ユーロに達
1 日量の乳飲料
した。2005 年のイギリスにおける同市場は、2 億 6,200 万ポンド(4 億 6,2800
万ドル)だった。
コレステロール低下
このカテゴリーは 2 年前には存在しなかったが、2005 年のヨーロッパにおける小
1 日量サイズの飲料
売売上は既に 2 億ユーロ近い。
ブルーベリー
ザクロ
オリーブオイル
オーツ麦ケーキ
イギリス最大の食品チェーン店におけるブルーベリーの売上は 100%増加した。
食品原料としての売上も伸びている。
ザクロ配合商品の発売が急増している。米国の Pom Wonderful 社のザクロジュ
ースの売上は、2002 年から 2005 年の間にゼロから 6,000 万ドルになった。
オリーブオイルの売上は堅調に伸びている。イギリスでは、2000 年から 2005 年に
かけて売上は 39%増加し、1 億 700 万ポンドとなった。
伝統的なスコットランドのクラッカーは、激変し、再ポジショニングされた。2001 年
から 2005 年の間に売上は 100%増加した。
下降トレンド
ポテトチップ
非炭酸清涼飲料
脂質と塩分というイメージがあるポテトチップの売上は減少している。2005 年、
Frito-Lay 社のイギリス事業である Walker’s ブランドは、売上を 7.3%落とした。
イギリスにおける非炭酸系清涼飲料の 2 大ブランド(Robinsons と Ribena)の 2005
年の売上は 4%減少した。
出所:New Nutrition Business、ACNielsen および IRI のデータ、業界インタビューより
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
全ての食品が急速に機能性食品となっている。元来健康に良いと言われている食品のマーケティング
は、明るい未来を企業にもたらす強力なツールである。
トレンド 3:果物は未来の機能性食品か?
元来健康に良いと言われている食品を販売する企業が増え(トレンド 2 参照)、そのような健康メッセー
ジに対して消費者が好意的に反応する市場において、このトレンドの恩恵を最も受けるのは、果物およ
び果物関連の商品を販売している企業だろう。生鮮ではなく、食品原料または飲料として加工された
果物は、健康志向の高まりや、健康効果に関する科学的根拠の増加により、売上が伸びている。
トレンド 4:食物繊維は前途洋々
現代の食生活では食物繊維が不足しているという事実にも関わらず(あるいは、不足しているからこそ)、
食物繊維は好調だ。公衆衛生の専門家や学者たちは食物繊維をもっと摂るように呼びかけ、多くの消
費者は食物繊維の効果を認識し、食物繊維が食品に含有されていることを喜ぶ。食物繊維の原料は、
Orafti 社や National Starch 社など、世界でも有数の原料マーケティングに長けている企業が供給して
いる。これらの点を総合的に考えると、食物繊維の未来は明るい。読者の中には、食物繊維の需要お
よび必要性の高まり、および公衆衛生からの明確な要求が、機能性食品の始まりだったことを思い出
す方もいるでしょう。1980 年代、食物繊維の摂取量を増やすというニーズから、今日我々が考える機能
性食品というアイデアが日本で生まれた。
トレンド 5:「個」の時代のパッケージ
消費者の注意を惹くようなパッケージデザインを使うことは、食品のマーケティングにおいて最も基本的
な原則のひとつだ。パッケージデザインに焦点を当てる理由は単純だ。平均的なスーパーマーケット
には、約 2 万品目が陳列されており、買い物客は 1 分間に 300 品目の前を通り過ぎる。買い物全体の
75%は店内で意志決定され、買い物かごへ商品を入れる前に商品ラベルを見る時間は平均 4 秒だ。
パッケージのイノベーション、特にアジアで生まれた「1 日量サイズ」の飲料は、食品、栄養、健康ビジネ
スにおける重要な成功要因であり、利益の出る新しいカテゴリーおよび市場セグメントの創造につなが
ることが既に証明されている。
トレンド 6:機能性飲料のブームが押し寄せる
昨年、我々のキートレンドの予測の中で、栄養ビジネスにおける最も印象的な事柄は、個人に合わせ
た栄養や消費のトレンドであり、このトレンドが近年の栄養バーや飲料に急成長をもたらしていることを
述べた。栄養バーおよび飲料が栄養商品全体の売上の約半分を占める。今後も間違いなく、ほとんど
の企業が新しい栄養コンセプトを市場へ投入する際に、バーまたは飲料という形態を選択するだろう。
しかし、興味深いことに、新しい栄養コンセプトを提示する際に最も選択される形態は、バーよりも飲料
が多い。「オールナチュラル」を訴求する際、あるいはコレステロールや血圧の低下など明確な機能を
訴求する際、ほとんどの企業は飲料を選択するようだ。成長率が一桁台前半で推移する傾向にある食
品業界において、最も成長率の高いカテゴリーは栄養飲料である。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 7:プライベートラベルの機能性商品が急増
小売業者が、機能性食品分野でプライベートラベルのブランドを発売し始めた。多くの場合は、非常に
過密している原料市場において、ブランドオーナーに採用されなかった原料サプライヤーの支援を受
けて参入している。今まで多くの食品会社は、健康および栄養の分野において、付加価値を付けたブ
ランド商品を開発し、プライベートラベルの増加や小売でのディスカウント競争により価格が低下してい
る他事業の埋め合わせをしていた。しかし、この仕組みが試されようとしている。ヨーロッパの小売業者
は、栄養・健康分野においても、プライベートラベル戦略を適用し始めている。イギリス最大の小売業
者である Tesco は、2006 年初めにステロール配合のコレステロールを低下させるプライベートラベル食
品を発売した。オランダ最大のスーパーマーケットチェーン店である Albert Heijn は、我々が把握して
いる限りではヨーロッパ(および米国)初の、ヘルスクレームを記載した新しいプライベートラベル商品を
発売した。
トレンド 8:機能性原料をニッチから脱却させる賢いマーケティングのためのチェックリスト
過去 10 年以上の間、何百社もの企業が、新しい栄養技術に基づく機能性原料を販売しようとしてきた。
このような企業すべてに共通することがある。創業者が期待したほどの成功を勝ち取った企業や利益
を得た企業がほとんどないことだ。実際、我々が 2005 年に調査した研究開発型企業 50 社のうち、全て
の企業が遅くとも 1995 年には機能性原料の販売を開始しているが、46 社が赤字で、創業以来毎年営
業損失を出している。多大な時間、お金、努力を科学、研究開発、知的財産権に費やしてきた。しかし、
その機能性原料が市場で受け入れられるために必要なこと、特にどのように新原料を消費者に共感し
てもらうか、ということに多くの注意を払った企業はほんのわずかだ。機能性食品の歴史も 10 年が過ぎ、
消費者の「プル」を創造するための方法が確立されてきた。企業は、他企業のベストプラクティスを受け
入れるか、あるいは消滅しなくてはならない。
トレンド 9:アジアがヒントかつ健康のリーダーシップ
昨年の Key Trends で述べたとおり、大成功を収めている多くの機能性ブランドや機能性商品のコンセ
プトの起源はアジア、特に日本にある。プロバイオティックの乳飲料、エネルギードリンク、機能性ウォー
ターなどはすべて、古くからアジアで確立されていた。例えば、Red Bull は、オーストリアの企業がその
コンセプトを取り入れる何年も前からタイ市場にあった。また、西洋では高成長を遂げている万能食品
である大豆は、何世紀もの間、アジアの食生活の一部だった。また、「1 日量サイズ」のヤクルトのような
商品パッケージのコンセプトは、現在では世界に広まり、ヨーロッパでも一般的だが、これもアジアが起
源だ。2005 年、Unilever 社は、ヨーロッパにおける大々的な新商品のひとつに、日本の商品コンセプト
と原料を採用し、既に日本で広く成功を収めているコンセプトをヨーロッパ市場で効果的に模倣した。
このことは、アジアがイノベーションの宝庫だと言うことを我々に思い出させた。
トレンド 10:子供の栄養は優先度の高い戦略
最近の子供の肥満問題は、車での移動が多く、多くの時間をテレビやビデオゲームの前で過ごし、外
で遊ぶ機会がほとんどない、現代の座った姿勢の多いライフスタイルと切り離すことはできない。しかし、
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
このことによって、両親、健康に関する専門家、公衆衛生の活動家が抱いている子供達の食品の栄養
の質に対する疑念が低下する訳ではない。食品業界は、子供達のためにもっと健康的な食品を開発し
販売すること、同時に子供達の健康に対する高まる懸念に取り組むというチャレンジに直面している。
複雑な子供の栄養分野において、「ナチュラル」と「健康」の二つが、最も強力かつ利益の出るトレンド
である。子供の栄養は、食品業界にとっては、重要性の増す分野である。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
1. はじめに:食品、栄養、健康分野における 10 のキートレンド
このレポートでは、今後 1 年間に食品および飲料業界に大きな影響を与えると思われる 10 の大きな
トレンドについて詳しく述べていく。これらのトレンドは、今年だけでなく、今後数年間続く食品、栄養、
健康ビジネスの将来的な方向性を示すと考える。
2004 年を振り返った Ten Key Trends for 2005 では、2004 年は食品、栄養、健康ビジネスの転機だっ
たと述べた。本レポートに記述するとおり、2005 年を振り返ると我々の分析は正しく、トレンド 1 で示す売
上数値のとおり、食品および飲料業界全体の新しい標準として、健康とウェルネスというトレンドが勢い
を増している。
多くのトレンドが、昨年のレポートで示したトレンドと同じだが、読者の皆様はいくつかの違いも発見す
るでしょう。以下は、昨年から継続しているトレンドだ。
1. 健康は食品の未来である
2. 全ての食品が急速に機能性食品となっており、元来健康に良いと言われている食品のマーケティ
ングは、明るい未来を企業にもたらす強力なツールである
3. パッケージのイノベーション、特にアジアで生まれた「1 日量サイズ」の飲料は、食品、栄養、健康ビ
ジネスにおける重要な成功要因であり、利益の出る新しいカテゴリーおよび市場セグメントの創造
につながることが既に証明されている
4. 飲料は、将来の機能性食品の開発において重要な分野であり、ベネフィットを提供する手段として
は、バーを凌いだと思われる
5. アジアは、ヒントを得られる地域であり、現在我々が当然だと考えている機能性食品のコンセプトの
多くがアジアで生まれた
6. 子供の栄養は今後とも業界において優先度の高い分野である
新しいトレンド?
今年新しく追加したトレンドは、「トレンド 3:果物は未来の機能性食品」である。このトレンドは、「トレ
ンド 2:元来健康に良いと言われている食品のマーケティングの力」から派生した。過去一年間で、ベリ
ーの売上は著しく増加したが、そのほとんどは栄養豊富なフルーツ飲料の売上だった(いくつかのセグ
メントでは年間成長率が 40%)。果物は、健康的なイメージを伝える最適なプラットフォーム(味、利便
性、消費者の受容性、パッケージイノベーションの機会)のひとつであることが示された。これまで以上
に、フルーツ飲料に対する様々な取り組み、および果物の健康を活用した商品が見られるようになるだ
ろう。
また、トレンド 8 の「賢いマーケティング」も追加した。弊社の雑誌 New Nutrition Business(および Kids
Nutrition Report)に掲載された過去 2 年間の記事および原料企業やブランド企業など業界専門家に
対する何百件ものインタビューから、自社の原料をニッチからより広範な消費者に受容される製品にし
たいと望む企業が参考にできるベストプラクティスのモデルが明らかになった。
そこで、昨年のトレンド 8 として、サプリメント以外で競争する原料が増えていることを追加した。サプリ
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
メントから消費者が受け入れやすい食品や飲料へ移項するために、(グルコサミンのような)新しく馴染
みのない原料が成功する唯一の方法は、まだ予測するには早いが、多くの企業が現在行っていること
ではなく、賢いマーケティングである。
変更したトレンド
昨年の「良い炭水化物と悪い炭水化物:全粒粉と低 GI の台頭」は修正した。現在は、食物繊維の効
果に焦点が当てられている。明らかに全粒粉はこのトレンドの一部である。低 GI に関しては、オーストラ
リアでは大変注目されているが、その他地域ではゆっくりと認識が高まっている。低 GI とは、(事例を挙
げると)全粒粉の食品の効果である。この考え方は注目を集め続けるだろうが、今年のトレンドからは除
いた。消費者がどのように反応するかによるが、来年にはまた顕著なトレンドとなるかもしれない。
除外したトレンド
「良い食事と悪い食事よ、さようなら、良い食品と悪い食品よ、こんにちは」は、昨年のキートレンドの
ひとつだった。良い食品や悪い食品というものはなく、良い食事や悪い食事というものだけが存在する
という古くからの栄養学界における主張に疑問が投げかけられた。2004 年にこの議論に関して明確に
意見を述べたのが、Harvard School of Public Health の栄養学部長 Walter Willett 氏とイギリスの食品
安全管理局の局長 John Krebs 卿だった。
Willett 氏は、2004 年の New Nutrition Business のインタビューで、長期的かつ大規模な調査の結果、
甘い飲料は「健康を気にする人は飲むべきではない」という結論に至ったという見解を説明した。John
Krebs 卿は、イギリスの全国紙で、悪い食品は、適度な量であったとしても、バランスの良い食事を摂る
ことを難しくすると書いている。
我々は、この複雑な議論に関して、一方の意見を急いで支持することはしない。しかし、我々が支持
しようと否と、議論は著名な人達によって行われている。昨年我々が述べたような議論は消えておらず、
活発になっているようだ。特に、Walter Willett 氏は、より良い食事の支持者で、粘り強く、経験豊富で、
成功を収めてきた人だ。15 年前にハーバード大学が発表したトランス脂肪の健康に対する危険性は、
当時、業界内で軽視され、改善が妨害されたことを忘れてはいけない。しかし、今日では、米国および
その他の国において、トランス脂肪が含まれている商品には、その旨をラベルに表示しなくてはならな
い。世界中の企業は、自社商品からトランス脂肪を除去することに慌しく取り組んでいる。
ファーストフードでは、揚げたスナック類や甘い飲料が非難されており、「良い食品、悪い食品」の議
論が、新たな勢いを得るのではないか、と我々は考えている。しかし、現在では、この問題は沈静化し
ているので、今年のトレンドからは外した。
追加したトレンド−プライベートラベルの脅威
今年追加した重要なトレンドは、小売業者によるプライベートラベル商品だ。我々は、このトレンドを
2005 年 6 月まで予測できなかったことを認めなくてはならない。ご存知の通り、小売業者は、カテゴリー
の発展を見守り、そのカテゴリーがある一定の規模に達したら、トップブランドと同様のプライベートラベ
ル商品を作り、価格で競争する。このトレンドが進んでいる国はイギリスだ。イギリスでは、スーパーマー
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ケットの売上の 40%がプライベートラベルである(急速に 50%に近づいている)。世界中の小売業者は、
プライベートブランドが利益増加に貢献する潜在性を見抜いている。一方、世界中のブランド商品は打
撃を受けている。例えば、フランスの Carrefour(カルフール)は、Danone 社を厳しい状況に追い込み、
市場リーダーの利益を圧迫している。
機能性食品に対するひとつの考え方は、ブランドオーナーが商品に付加価値を付け、小売業者から
の止まるところを知らない価格低下による利益の減少を埋め合わせようとすることだ。しかし、最近では、
小売業者は、価格低下の戦略を機能性食品にも持ち込んでいる。例えば、ドイツの 1 日量サイズのプ
ロバイオティック飲料市場では、第 1 位が Danone 社の Actimel で、第 2 位はドイツのディスカウントスト
ア Aldi である。Danone 社は、価格競争を受け入れ、果敢な応戦によりトップの座を守っている。我々が
行なったスーパーマーケットの調査によると、ドイツにおける Actimel の価格はヨーロッパで最低であ
る。
トレンド 7 の中で、コレステロール低下のプライベートラベル食品が既にヨーロッパで発売され、その
他多くの商品が開発中であることに触れている。このトレンドは、製品コンセプトを直接小売業者へ売り
込む原料サプライヤーによって後押しされている。つい最近まで、原料サプライヤーは、ブランドオー
ナーに対してのみ提案を行なっていた。
食品と健康というトレンドは企業にとって不可欠なものになっており、今後 1 年間は、業界にとって厳し
くかつ刺激的な年となるだろう。来年は、市場が切り開かれ、栄養革命がどのような結果をもたらすかと
傍観している企業は厳しい状況に追い込まれるだろう。
Box 1:全ての食品が機能性食品になったら、貴方はどうしますか?
「我々は、消費者の官能や食欲を満足させると同時に、消費者が必要とする健康への効果を提供する
ことを約束する。これが、官能的な栄養のすべてである」と、Campbell Soup 社が所有するベーカリー企業
Pepperidge Farm 社の事業担当取締役 Ruthann Walsh 氏が、同社の新商品ラインの目的について語っ
た。これは、栄養ビジネスに関わる全ての人がガイドラインとして扱うべき内容である。更に、誰もが従うべ
き優先事項である。つまり、健康よりも食欲や官能の満足が先である。
弊社が 2004 年末に発行した“Ten Key Trends for 2005”を読まれた読者は覚えているかもしれないが、
トレンド 1 として「健康は食品の未来」ということを掲げた。健康的な食品は、マーケティング上の機会では
なく、いつの日か成功している企業が作る唯一の食品となるかもしれない、と述べた。
このトレンドは、既に Pepsi 社や Kraft 社のような企業によって推進されている。これらの企業は、自社の
商品から脂質、砂糖、食塩の量を減少させようと取り組んでいる。カテゴリーによって差はあるものの、ス
ーパーマーケットではほぼ全てのカテゴリーで、健康への効果が重要な売り文句となっている。魚にはオ
メガ-3 脂肪酸が含まれており、消費者が抗酸化の力について知るようになってブルーベリーの売上は急
増し、保存料不使用のフルーツスムージーは「天然の健康」をアピールしている。
しかし、全てのカテゴリーが健康を標準とし、全てのブランドに健康効果があり、全てのブランドが同様
の原料を用いて同様の健康効果をうたったとしたら、どうなるだろうか。このようなことがスーパーマーケッ
トの大部分で起こる日は遠くないだろう。日本では、乳製品カテゴリーで競争しようとする企業にとって、
プロバイオティクスの効果は、既に当たり前のことであり、ヨーロッパでも急速に当然のこととなりつつある。
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しかし、健康が標準事項として最も定着しているカテゴリーは朝食用シリアルである。
カテゴリー全体が、科学的に明白な現代の食生活によるギャップを埋めるための健康効果を提供して
いる。ほとんどの商品が FDA で認められている心臓の健康に関するヘルスクレームをし、General Mills
社は心臓の健康への効果を朝食用シリアルの標準とした。General Mills 社に加え、ライバル企業の
Kellogg 社やその他企業も同様の取り組みを行なっている。以前は付加価値のある栄養商品が少なかっ
たが、現在では差別化のポイントにならなくなった。
米国のベーカリー売り場では、全粒粉の商品が急速に一般商品となっている。しかし、Pepperidge
Farm 社は、味を売りにして、栄養マーケティングの未来を開拓している。「弊社の新しい全粒粉の商品の
要は味である。同時に、消費者に特別な食経験を提供したかった。パンの香りから、クルトンの食感、そし
て Goldfish クラッカーに書かれたスマイルの絵。新商品ラインは、非常に目の肥えた消費者にも、官能的
な満足感を与える」と Pepperidge Farm 社の Walsh 氏は語る。
Pepperidge Farm 社の調査によると、消費者の 97%が、商品選択時の最大のポイントは味だと答えた。
味が第一であることを我々は忘れてはならない。栄養は 2 番目に多かったポイントだが、約 60%の消費者
が、健康的な食生活を送るために味を犠牲にしたくないと答えている。機能性食品のカンファレンスへの
参加をやめ、代わりに味に関するカンファレンスへ参加するべき時代が来たのかもしれない。
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2. 10 のキートレンド
トレンド 1:転換期を過ぎ、健康は食品の未来である
New Nutrition Business が 2004 年後半に行なった PepsiCo 社の最高イノベーション責任者 Brock
Leach 氏へのインタビューで、同氏は「過去 15 年間は利便性の時代だったが、今後 15 年間はウェルネ
スの時代になるだろう」と述べた。我々も同意見で、健康は、食品業界にとって基礎的なことであり、企
業の戦略プランにおいて極めて重要だと考える。
2005 年は、「ウェルネスは業界標準」というトレンドに勢いが増した。小売における売上データを見る
と、健康というトレンドは明白だ。
上昇トレンド
Hershey 社によると、ココアの自然の健康効果を訴求しているダークチョコレート
ダークチョコレート
の過去 3 年間の米国小売市場における年間成長率は 24.6%だという。Hershey
社のダークチョコレート商品の同期間の売上は 33.5%増加した(トレンド 2 参照)。
2005 年の米国におけるスムージー市場の成長率は 40%で、3 年以内に売上は
フルーツスムージー
14 億ドルに達すると思われる。イギリス市場はもっと小さいが、同様の成長を遂
げており、リーディングブランドの Innocent の 2005 年の売上は、対前年比約 30%
増の 6,000 万ドルと推定される。
ヨーロッパでは、1 日量サイズ(一般的に 100mL/本)のプロバイオティック飲料
は、1995 年には存在しなかったが、2005 年には小売売上が約 37 億ユーロに達
プロバイオティックの
1 日量の乳飲料
した。同市場は、Danone 社の Actimel ブランドが占有している。イギリス
では、Actimel は非炭酸系清涼飲料ブランドの中で売上第 3 位のブランドで
あり、2005 年の小売売上は、対前年比 50%増の 1 億 1,500 万ポンド(2 億
300 万ドル)だった。2005 年のイギリスにおけるカテゴリー全体の市場規
模は、2 億 6,200 万ポンド(4 億 6,280 万ドル)だった。
プロバイオティクスと同様に、100mL 入りボトルが一般的である。このカテゴリー
コレステロール低下
1 日量サイズの飲料
は 2 年前には存在しなかったが、2005 年のヨーロッパにおける小売売上は既に 2
億ユーロ近い。例えば、2005 年のイギリス市場では、トップブランドは、
売上 3,500 万ユーロの Benecol で、第 2 位は、昨年発売した Unilever 社の
Pro.activ の 2,200 万ユーロである。
21 世紀の万能フルーツのひとつであるブルーベリーは、健康への効果がメディ
ブルーベリー
アから注目され、イギリス最大の食品チェーン店におけるブルーベリーの売上は
100%増加した。また、食品原料としても使用されるようになり、米国およびヨーロ
ッパにおけるブルーベリー含有商品の数は 20%増加した。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
もうひとつの万能フルーツがザクロである。米国の Pom Wonderful 社のザクロジュ
ザクロ
ースの売上は、2002 年から 2005 年の間にゼロから 6,000 万ドルになった。ザクロ
配合の商品の発売が急増している。
オリーブオイルは、「健康に良い」イメージの恩恵を受け、売上は堅調に伸びて
オリーブオイル
いる。イギリスでは、2000 年から 2005 年にかけて売上が 39%増加し、1 億 700
万ポンド(1 億 8,890 万ドル)となった。液体の油市場の 50%を占めている。
オーツ麦から作る丸くて薄い伝統的なスコットランドのクラッカーは、激変し、再ポ
オーツ麦ケーキ
ジショニングされた。「オールナチュラル」という健康効果を訴求したことにより、売
上は 2001 年から 2005 年の間に 100%増加した。
下降トレンド
消費者がより健康的なスナックを求めるようになり、脂質と塩分というイメージ
ポテトチップ
があるポテトチップの売上は減少している。市場シェアが 50%で、食品業界
全体の中でも最高のマーケティングを行なっている Frito-Lay 社のイギリス事
業である Walker’s ブランドでさえ、2005 年の売上を 7.3%落とした。
イギリスにおける非炭酸系清涼飲料の 2 大ブランド(Robinsons と Ribena)の
非炭酸清涼飲料
売上合計は 4 億 1,000 万ポンド(7 億 2,420 万ドル)だが、2005 年の売上は
4%減少した。カテゴリー全体では、売上は 5%減少した。
出所:New Nutrition Business、ACNielsen および IRI のデータ、業界インタビューより
2005 年のトレンドを裏付ける事例を少し紹介する。
•
ヨーロッパ諸国の政府は、食品業界に対して、商品の健康さを高めるように圧力を強めた。例えば、
イギリス政府は、商品に含有される塩分の削減を企業に求める発議をした。
•
2005 年、オランダおよびフランスでは、保険会社が、将来の治療費削減を期待する健康管理策と
して、ステロール含有のコレステロール低下食品の費用を保険でカバーするプログラムに調印し
た。
•
子供の肥満に対する高まる懸念に応えて、フランス政府は、甘い飲料や揚げたスナック類を学校
の自動販売機で販売することを禁止し、そのような商品の広告をした企業には 1.5%の「脂肪税」を
課すことにした。
•
スウェーデンでは、シリアルの会社が、処方を見直し、砂糖の含有量を削減した。大手小売業者
は、シリアルには砂糖が大量に入っているという評判に応えて、ある商品の販売を中止した。
•
カリフォルニア州では、シュワルツネッガー州知事が、カリフォルニア州が「米国において、健康、
栄養、フィットネスのモデル」となることを期待して法律に署名した。この法律は、米国内で最も厳し
い栄養基準を示している。
•
イギリスでは、有名シェフ Jamie Oliver 氏が学校給食の質が低いことを指摘したことを発端に、国
民やメディアからの圧力を受け、政府は、栄養基準の改善および予算増加の約束を強いられた。
13
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
業界レベルでは、健康問題に対応する多くの新商品が発売された。多くの新商品の中から、いくつか
事例を挙げる。
•
Unilever 社は、日本の技術を用いた血圧低下の 1 日量サイズの飲料を発売した(トレンド 5, 6, 9
参照)。
•
Unilever 社は、1 日 5 杯の野菜と果物という推奨量に対し、2 杯分を満たす 1 日量サイズの飲料を
発売した(トレンド 3, 5 参照)。
•
多くの国で、子供をターゲットとしたプロバイオティクスの乳飲料が発売された。ほぼ全ての商品が
1 日量サイズの商品であり、ヨーロッパでは、この形態が急速に新しい健康的な商品の標準となっ
ている(トレンド 5, 10 参照)。
•
特にベーカリーやシリアルのカテゴリーでは、既存商品を全粒粉に変更する動きが急増した(トレ
ンド 2, 4 参照)。
•
オメガ-3 脂肪酸は、小規模だが増加している健康意識の高い消費者によって受け入れられてい
る原料として発展した(トレンド 8, 10 参照)。
•
食品業界では、食品が元来持つ健康効果を高め、商品の処方を見直し、脂質、食塩、砂糖やそ
の他「悪い」原料を除去する動きが続いている(トレンド 2 参照)。
•
栄養科学に基づき、自社商品が元来持つ健康効果を特定し、それをマーケティング上のメッセー
ジとして利用する、という食品会社の間では定着したトレンドが、更に勢いを増している(トレンド 2,
3 参照)。
つまり、健康に対するトレンドの勢いは疑いの余地がない。健康効果のある食品や飲料は、もはや特
別な別個のカテゴリーとは考えられない。全ての商品に、何らかの栄養価値がなくてはならない。「ウェ
ルネス」が主要なトレンドである。「ウェルネス」が自社商品にどのような影響を与えるのか、ウェルネスが
標準である中でどのようにビジネスを行なうのか、という点に関して各社明確な考えを持つ必要がある。
公衆衛生の力
食品や健康に関する様々な活動は密室で起きているのではなく、公衆衛生が、業界の発展や消費
者の意識に影響を与えることがあることを認識しておくことは重要だ。例えば、機能性食品というコンセ
プトは、1980 年代後半に、日本人はもっとカルシウムや食物繊維を摂らなくてはならない、という明確な
公衆衛生のニーズを受けて日本で生まれた。
フィンランドやスウェーデンが機能性食品のイノベーションにおいて世界的リーダーであることも偶然
ではない。1970 年代以降、食事と健康という強いメッセージが、国の公衆衛生の取り組みの一部だっ
た。両国の食品業界には、健康的な食品を作るために、公衆衛生の指導者と協力してきた長い歴史が
ある。
同様に、全粒粉やオメガ-3 脂肪酸は、公衆衛生のガイドラインが、健康を促進するこれらの成分の摂
取を増やすように求めたことから、注目されるようになった。例えば、General Mills 社は、米国およびイ
ギリスにおける同社のシリアル商品を全て全粒粉に変更し、食事ガイドラインで求められている全粒粉
の摂取量増加と同社ブランドを明確に関連づけている。同じ理由から、米国では全粒粉を使ったパン
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
の新商品が急増し、オーストラリアでは全粒粉のパンのブランド Burgen が、2∼3 年間でシェアを 0.5%
から 4%に伸ばした。果物の分野では、米国の洋ナシの販売会社が、洋ナシには食物繊維が豊富に含
まれていることを強調し、食事ガイドラインでは健康的な果物のリストのトップに洋ナシが記載されてい
ることを消費者に伝えている。
賢明な企業は、自社ブランドと公衆衛生のガイドラインを関連付け、自社商品の信頼性を高め、それ
を活用しようとしている。
Box 2:健康的なオランダとフランスの心臓に払戻し
2005 年、オランダの健康保険会社はヨーロッパ初(おそらく世界初)の企業となっ
た。コレステロール低下食品を購入した保険加入者に払戻しをするというのだ。次の
保険は、妊娠時期に葉酸を摂取する女性に対する払戻しかもしれない、とその企業
は語る。
オランダ最大規模の健康保険会社である VGZ-IZA Group 社は、Unilever 社の植
物ステロールを原料としたコレステロールを低下させる Pro.activ ブランドには、著名
な研究機関からの支持があることを知って、Unilever 社に接触した。健康に寄与する
と認められている商品を使用する顧客に払戻しをするというコンセプトは、VGZ 社の治療よりも予防という
考えに適合し、医薬品の請求書を減少させる潜在的効果も考えられる。現在、VGZ 社の顧客は、オラン
ダで Pro.activ ブランドの商品(スプレッド、牛乳、ヨーグルトを含む)を購入すると、年間 40 ユーロまでの
費用の返還を求められる。
「弊社は、多額のお金を医薬品に費やしている。コレステロール低下の医薬品であるスタチンの費用
は、年間約 3,500 万ユーロだ。このコストを削減できる方法があれば歓迎だ」と VGZ-IZA 社のスポークス
マン Bert Rensen 氏は New Nutrition Business に語った。
現在は、保険の払戻しは、Pro.activ ブランドに限られるが、VGZ 社では、効果に関する根拠が最高レ
ベルの基準を満たせば、その他の商品にも拡大する計画だ。
「Pro.activ には、同商品のクレームを支持する科学研究者が 30 名いる。Pro.activ 商品が、EU 新規食品
委員会、オランダの食品規制を担当する政府機関、オランダの心臓協会に認められていることも意志決
定の要因となった」と Rensen 氏は述べる。また、「もしある商品が医療費削減に寄与するのなら、その根
拠がある商品であればいつでも話し合いに応じる」と付け加えた。
フランスでは、2005 年 11 月、Unilever 社が、同様の取り組みを民間の健康保険会社 Maaf 社と締結し
た。保険会社は、Flora Pro.activ 商品を購入した消費者に対して、年間最大 40 ユーロを返金する。Maaf
社は、フランスで 6 番目に大きい保険会社で、81 万 4,000 名の加入者を持つ民間の健康医療制度であ
る。同社は、心疾患のリスクを低減させる Unilever 社のコレステロール対応食品を日常的に摂取した消費
者には払戻しをすると述べる。
年間 7 商品以上を摂取した人には、平均 380 ユーロの請求書から 10 ユーロの減額を行う。年間 14 商
品以上の場合は 22 ユーロ、21 商品以上の場合は 40 ユーロの減額をする。顧客は、商品購入の証拠と
して、スーパーマーケットのレシートを保険会社に送付するように求められる。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
ケーススタディ 1:Kraft 社は、新しい健康シンボルで、Pepsi 社の後ろにぴったりと付いている
2005 年前半、Kraft Foods 社は、健康に対するコミットメントを同社のビ
ジネスの中心として掲げ、消費者が容易に識別できるように、栄養豊富な
食品にはラベルを貼付するプログラムを開始した。
Kraft 社では、各カテゴリーの商品に対して、より健康に良い栄養基準
を設定し、その基準を満たした食品や飲料商品には、パッケージに目立
つ「旗印」を貼付するという Sensible Solution ラベルプログラムを発表し
た。多くの場合、その旗印には、商品が持つ主要な栄養効果についての情報が記載されている。
同社は、このプログラムの基準を満たさない商品に関して、子供向けの広告を見直す計画だ。例え
ば、人気アニメ番組では、通常の Kool-Aid 飲料の広告を止めるだろう。
米国でこの旗印を貼付している商品には次のような商品がある:Kraft 2% Shredded Reduced Fat チー
ズ、Post Shredded Wheat シリアル、Minute Rice Instant 全粒黒米、Triscuit Original 全粒小麦クラッカー、
Crystal Light 飲料。各国の規制や検討事項を考慮して、同様のプログラムを他の国でも実施する計画を
している。
次の栄養基準二つのうちいずれかを満たさなくては Sensible Solution シンボルを付けることはできな
い:蛋白質、カルシウム、食物繊維、全粒粉など効果的な栄養素を意味ある量含有しているか、または心
臓の健康や水分補給などの機能的効果を持ち、かつ、カロリー、脂質(飽和脂肪およびトランス脂肪を含
む)、ナトリウム、砂糖が一定量以下である場合。もう一つの基準は、カロリー、脂質、飽和脂肪、砂糖、ナ
トリウムに関して、「減」「低」「無」を謳うための基準を満たしている場合。
ケーススタディ 2:Pilgrim 社は最も健康的な鶏肉を狙う
健康トレンドが続き、健康が食品業界の標準となりつつあることは、鶏肉業界にも影響を及ぼしている。
鶏肉の売上は、健康的かつ低脂肪のイメージに後押しされ、ここ数年間増加している。米国最大規模の
鶏肉加工業者は、市場において最も健康的な製品をつくることで差別化を図ろうとしている。
北米の鶏肉業界第 2 位の Pilgrim’s Pride 社は、2005 年半ば、栄養に着目した新しい製品ライン
EatWellStayHealth を発売した。「この新製品は、消費者が買い物をするとき、その製品がどういうものなの
かを明確かつ即座に分かるようにしている」と Pilgrim’s Pride 社の創業者で会長の Bo Bilgrim 氏は言う。
米国で販売されている他の鶏肉製品と同様に、同社の製品パッケージには、米国心臓協会の認可シー
ルが貼ってある。しかし、Pilgrim 社の EatWellStayHealthy 製品には、米農務省によって規定されている
「ヘルシー」という文言が記載されており、競合他社の栄養中心の製品を上回っていると主張する。
EatWellStayHealthy ブランドの 8 製品には、胸肉や様々な味付けが
された肉がある。
鶏肉加工のライバル企業である Tyson 社は、過去 2∼3 年間、マーケ
ティングで栄養と健康を強調してきた。しかし、Pilgrim 社の新しい
EatWellStayHealthy は、脂質、コレステロール、ナトリウムに関する栄養
的な基準を満たし、パッケージには「ヘルシー」という文言を書き、米心
臓協会の要求を上回る「より高い要求を満たす」製品である。
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
例えば、米心臓協会によると「低脂肪」とは、脂質が 5g 以下の製品と定義されている。一方、米農務省
では、製品に「ヘルシー」と記載するためには、脂質は 3 グラム以下でなくてはならないと規定している。
別の例を挙げると、米心臓協会では、「低コレステロール」とは、コレステロールが 95mg 以下の製品と定
めているが、米農務省の規定では 60mg 以下と厳しい。
「このような市場におけるギャップを埋め合わせる必要がある」とマーケティング担当副社長 Dan Emery
氏は New Nutrition Business に語った。
ケーススタディ 3:Chupa Chups 社は、ぺろぺろキャンディに健康を取り入れた
健康的なぺろぺろキャンディを作ることは無理難題のように思われる
が、バルセロナにある世界的なぺろぺろキャンディの企業である Chupa
Chups 社は、Cremosa ブランドでこれを実現した。2003 年の発売以降、
約 25 カ国で成功を収め、いくつかの国ではシェアを倍増させた。
Cremosa とは、クリームとストロベリーの味が付いた 10g のぺろぺろキャ
ンディで、赤と白のストライプは、ペパーミントのキャンディを連想させ
る。イソマルトとマルチトールで甘みを付けたこの商品は無糖で、1 個ま
たは 4 個入りで販売されている。従来の Chupa Chups 社のぺろぺろキャ
ンディの価格が約 0.3 ユーロであるのに対して、新商品の価格は 0.5 ユ
ーロと 66%のプレミアム価格である。
Cremosa は、母親と子供の興味を惹きつけることを目的とした、きめ細か
いコミュニケーションを行なっている。Chupa Chups 社の健康マーケティング
マネージャーTamara Pirojkova 氏によると、マーケティングでは 2 つのアプ
ローチを使用しているという。「我々は、子供にとって魅力的な商品を作ろう
としている。そして、子供達は理解できるだろうが、気にしないと思われる健
康メッセージを追加している。母親が気にしているからだ。従って、健康効
果を伝えることで、健康意識の高い母親にアピールし、お菓子、特にぺろ
ぺろキャンディに対する障害を取り除こうとしている」。
Cremosa は「歯を大事にし、カロリーが低い」というメッセージを伝えてい
る。機能性お菓子業界の現状を見ると、カロリー削減、低 GI、歯に対する効果が、製造業者の焦点となっ
ている。Pirojkova 氏によると、Cremosa の場合、主要な効果は歯の健康だ。母親にとって、子供の虫歯は
心配事項である。Pirojkova 氏は、メッセージが明確な程、消費者から支持を受けやすい、と強調する。従
って、同社は、歯に対する効果に特化している。一部の市場では、虫歯予防の機能を説明する際に、無
糖というメッセージにも触れている。
Chupa Chups 社の歯の健康に対する取り組みにおいて、推奨も重要な要因である。最も良く知られてい
る第三者機関の Toothfriendly International が、同商品の歯への影響を試験し、認めている。
Pirojkova 氏は、Cremosa ブランドを発展させていく上で、信頼性は非常に重要である、と言う。「信頼性
の一部は Chupa Chups 社という企業ブランドから、一部は推奨によって得られる」。まずは、消費者が商
品とその効果について理解することが不可欠だ。それが確立されたら、「信頼性の重要性が増す。歯に
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
関するメッセージの信頼性が高まると思うので、世界的に、パッケージに推奨文を記載したいと思ってい
る」。
Chupa Chups 社が無糖のぺろぺろキャンディに取り組み始めてから 15 年が経つ。元々、同社は、薬局
向けに製品を開発した。無糖商品が一般的な市場のトレンドとなり、大きく発展したので、メインストリーム
向けの新しい無糖のぺろぺろキャンディにも機会があると判断し、2003 年に発売した。
現在、売上は 2 億 9,390 万ドル以上で、150 カ国以上で販売している。売上の 90%以上はスペイン以
外の海外だ。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 2:元来健康に良い食品のマーケティングパワー
天然エビ、洋ナシ、ダークチョコレート、ピノ・ノワールに共通することは何だろうか?答えは、美味しい
ということだけではない。2005 年、これらの素材が元来持っている健康効果を伝える新しいマーケティ
ングの取り組みが行われた。昨年我々が予測したとおり(Ten Key Trends 2005 のトレンド 2、New
Nutrition Business 2004 年 12 月号参照)、元来健康的な食品のマーケティングが、機能性食品の戦略
として、最も頻繁に見られた。このトレンドは、今後も勢いを増すと思われる。
過去 10 年間以上にわたる栄養科学の急速な進歩により、多くの食品に健康への効果があることが明
らかにされ、これらがマーケティング上のメッセージとして利用されている。オリーブオイル、全粒粉、ア
ーモンド、クルミ、ブルーベリー、ザクロ、その他多くの食品が、今日では健康に良い食品として販売さ
れている。クランベリージュースが、この戦略の力を示す最適な事例である。クランベリーには尿路感染
症の発症を低減する効果がある、と初めて言われた 1994 年以降、クランベリージュースの売上は堅調
に増加している。
この戦略が頻繁に取り入れられる理由は明白だ。既存商品の健康効果をアピールして消費者の関
心を惹くことは、リスクの低い戦略である。新しい活性成分を商品化するときのように、多額の研究開発
費や新商品開発の努力は必要ない。新しい健康メッセージを伝えるためのマーケティングは、既存ブ
ランドの新たなセールスポイントを作り出すことにつながる。従って、新しいブランドを立ち上げるよりも、
リスクやコストは小さい。
小売業者は、元来健康に良い食品の潜在性を既に見抜いている。米国の健康食品/自然食品の
大型チェーンである Wild Oats は、元々低カロリーで、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質やその他健康的
な成分が豊富なベリーや種子、ヨーグルトなどの「スーパーフーズ」20 品目を販売促進している。Wild
Oats の Sonja Tuitele 氏によると、「我々は、『ここには、あなたの食生活から取り除くべき食品ではなく、
追加するべき食品がありますよ』と伝えかった」と言う。
生理活性のある成分を添加した商品を販売している企業にとって、このトレンドは無視できない。10
年前は、生理活性のある成分を添加し特別に処方された機能性食品のみが、ヘルスクレームをできる、
と考えられていた。しかし、特別に開発されたプレミアム価格の商品だけではなく、日常食品も、健康メ
ッセージを伝えるようになっている。ホールフーズ(食品丸ごと)というヘルスクレームは一般的になって
いる。更に、この種のヘルスクレームは、商品ラベルに記載する必要がない。常に、メディアは、天然の
健康的な食品に関する話に飢えており、記事を掲載したいと思っている。クランベリー、ブルーベリー、
トマトは、元来健康に良い食品のマーケティングから最も恩恵を受けた三大食品だろう。これら 3 つの
食品の商品ラベルには何も記載されていないが、売上は口コミやメディアの影響で増加している。
元来健康に良い食品が急成長しているということは、活性成分を添加した新しい食品や飲料を発売
しても、もはや目新しいまたは差別化のある健康効果ではなく、商品にプレミアム価格を付けることは不
可能に近い、ということを意味している。また、多数の臨床試験を実施したという事実は、消費者が求め
ているベネフィットではないので、ほとんど差別化にはならない。消費者は、どれだけの科学があるかを
求めているのではないからだ。
例えば、Coca-Cola 社の Minute Maid は、米国のスーパーマーケットで 2 年前からコレステロールを
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
低下するオレンジジュース Heart Wise を販売している。スーパーマーケットには、全粒粉シリアル、オー
ツ麦、大豆食品など、多数の心臓の健康(特にコレステロール低下)を訴求した商品がある。Heart
Wise は通常のオレンジジュースと同じ価格帯で、卓越したマーケティング活動を行っているにも関わら
ず、売上規模は程々で、ニッチ商品である。
自然の健康的な食品というイメージとはかけ離れている PepsiCo 社でさえ、オールナチュラルの果物
をベースとした商品で、健康食品/自然食品の分野に参入した。消費者調査や業界の洞察などに多
大な資源を投入するこのような企業が、無視することのできない将来の成長分野はここにあると考え、
高価な活性成分の使用を見送った。
ケーススタディ 4:天然の栄養豊富な伝統的な食品の成功
オーツ麦クラッカーとは、イギリス、特にスコットランド地方の伝統的な食品で、オーツ麦から作られた甘
くない丸い形をしたクラッカーで、通常チーズと一緒に食べる。
この古いイメージの伝統的な食品の市場は低成長が続いていた。市場リーダーであるエジンバラの
Narin’s ブランドは、このオーツ麦クラッカーを、天然、栄養豊富、小麦不使用、健康的なオーツ麦が豊富
に含まれている、自然の持続可能なエネルギー源として再ポジショニングした。
この戦略が功を奏し、低迷していた伝統的な商品の売上は、2003 年から 2005 年の間に 100%増加し
た。Narin’s ブランドは、初めて海外展開を果たし、米国の Wild Oats や Whole Earth などの自然食品店や
その他の国で販売されている。
果物は、機能性食品の未来か?
健康に良く、オールナチュラルの食品というメッセージから最も恩恵を受けているのは、果物やフルー
ツ飲料、果物由来の原料を扱っている企業だ。果物は、機能性食品の未来になるかもしれない。
例えば、ブルーベリーは、ここ数年間、一部の地域だけでなく世界的に消費者の需要が伸びている。
その理由のひとつが、元来健康的な食品であるというイメージだ(抗酸化物質が多く含まれている)。日
本における販売量は毎年増加しており、ヨーロッパにおける最近の売上成長率は 100%であり、サプラ
イヤーは需要に応じることができていない。
果物に対する関心が高まっている理由は、健康への効果だけではない。美味しいということが鍵であ
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
る。果物の成功事例についてのケーススタディを見てみると、健康への効果が、味や利便性、パッケー
ジのイノベーションと組み合わせられたとき、成功を収めている(トレンド 5 参照)。
利便性が最も優れていると考えられている商品形態は飲料だ。また、健康的な果物を用いた商品の
需要も飲料にある。カリフォルニア州の Pom Wonderful 社のザクロジュースは、超短期間で売上 8,000
万ドルのブランドへ成長した。どのように健康効果を市場に送り出すか、ということを把握するための良
いモデルである。Pom Wonderful 社は、革新的なパッケージ、賢明なマーチャンダイジング、美味しさと
健康効果を組み合わせた。
「不健康な」カテゴリーの改革
「嗜好品」カテゴリーは、売上増加や変化の少ないカテゴリーを守ることを期待して、健康へシフトして
いる。
特に目立っているのは、チョコレート業界である。チョコレート業界は、ある特定のチョコレートに含ま
れるフラバノールが健康に良いとプロモーションしている。
「ココアやダークチョコレートの抗酸化力を認識する消費者が増えている」(Hershey 社上席副社長
Tom Hernquist 氏による報道発表)という事実に基づき、Hershey 社は米国でココアが健康に良いことを
訴求している。
Hershey 社によると、ダークチョコレートの過去 3 年間の複合年間成長率は 24.6%だったという。同社
のダークチョコレート製品の売上は、過去 3 年間で 33.5%増加した。
このトレンドの勢いを維持するために、Hershey 社では、同社のダークチョコレート製品に含まれてい
るココアの含有量と、ココアは抗酸化物質のフラバノールを多く含有していることを商品ラベルに記載し
始めた。
最近 Hershey 社は、抗酸化物質のフラバノールは、天然のココアを含有している全ての商品に含有さ
れており、「一般的に入手可能なチョコレート製品の抗酸化力は、商品に含有されている天然ココアの
量と比例する」という研究結果を発表した。
ケーススタディ 5:嗜好品で天然の健康を訴求
「嗜好品」カテゴリーは、売上増加や変化の少ないカテゴリーを守ることを期待して、健康へシフトして
いる。
Hershey 社は、新商品 Extra Dark を発売した。通常のダークチョコレートよりも、ココ
アおよびフラバノールの含有量が多く、抗酸化のロゴを貼付している。Extra Dark
は、ブルーベリーやクランベリー、マカデミアナッツ、アーモ
ンドなど健康的なイメージを持つ果物やナッツ類と組み合
わせている。
Hershey 社は、ココアは抗酸化物質フラバノールを高含
有するということを宣伝するため、ダークチョコレート商品に
新しいラベルを貼付している。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
まとめ
•
栄養商品のマーケティングにおいて、最もコストおよびリスクが低い方法で成功を収めるためには、
一般的に入手可能な科学を用いて、できる限り、自社の商品が天然かつ本来健康に良い食品で
あることを立証することである。
•
追加のベネフィットとして、元来健康に良い食品であるというメッセージを消費者に伝える。今まで
好んで食べていた食品が、健康にも良いと知ると、消費者は喜ぶ。
•
自社ブランドと健康をできる限り関連付ける。利便性、パッケージ(トレンド 5 参照)、そして何よりも
味において最大限のベネフィットを提供できると、売上は増加する(ダークチョコレート、ブルーベ
リーザクロジュースなどのように売上が急増することもある)。
•
元来健康に良いことを訴求することは、カテゴリーの防衛戦略となる。ダークチョコレートや Nairn
社のオーツ麦クラッカー(ケーススタディ 4, 5 参照)の場合、伝統的な確立されたカテゴリーに近代
的なベネフィットを持ち込むことで、新しい道が開かれ売上も増加した。
このような環境において、生理活性のある原料を中心に扱っている原料企業の多くは、ビジネスプラ
ンの見直しが必要である。自社原料を科学のある製品としてではなく、天然のソリューションとして販売
することが必要になるかもしれない。
Box 3:「○○フリー」や「天然」が最強のメッセージ
過去 10 年間、健康を促進する活性成分を食品や飲料に添加することで利益を得ようと試みた企業は
苦戦を強いられ、成功を収めた企業はほとんどなかった。2005 年に New Nutrition Business が行った調
査によると、1995 年以前に設立された研究開発型の機能性原料企業 50 社のうち、46 社は赤字経営だ。
10 年経過しているにも関わらず、黒字の企業は 4 社のみだった。活性成分を添加した商品にヘルスクレ
ームができないという法規制上の問題を理由にする企業が多い。しかし、ヨーロッパのプロバイオティクス
の乳飲料市場は、10 年経たないうちに、ゼロから 30 億ユーロに急増した。また、ヨーロッパにおけるコレス
テロール低下食品の市場は 5 億ドルに成長している。これらの事例から、ヘルスクレームは言い訳であ
り、問題は製品化戦略の脆弱さにあることが分かる。
科学者たちは、新しい原料技術を用いた、特定の健康効果をもたらす、特別に開発された食品を人々
が競って求めることを期待するかもしれない。しかし、健康を意識した成功ブランドは、そのような成分を
付加したものではなく、ある成分を取り除いたものである。
天然およびアレルゲンフリーは、複雑な栄養市場における二大トレンドであり、最も利益をもたらす。成
功している栄養商品は、下記のひとつまたは 2 つ以上を訴求している傾向にある(Box 4 参照)
•
乳製品フリー
•
小麦フリー
•
グルテンフリー
•
トランス型脂肪ゼロ
•
硬化油ゼロ
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•
低ナトリウム
•
高果糖コーンシロップゼロ
•
無糖
•
濃縮物ゼロ
•
甘味料不使用
•
保存料不使用
•
合成食品添加物、着色料、香料不使用
自社商品と「オールナチュラル」や「○○フリー」というメッセージをできる限り多く関連付けられる企業
は、市場で成功を収めている。
Box 4:消費者は「天然」の健康食品を好む
ACNielsen 社が最近発行した世界の消費者調査の結果によると、味、価格、信頼性に対する消費者の
懸念を克服しなくても、機能性食品にはまだこの先長い道があることが分かった。また、多くの機能性食
品のコンセプトがまだニッチであることも分かった。
ACNielsen 社が年 2 回、ヨーロッパ、アジア太平洋、北米、ラテンアメリカの 38 カ国、21,000 名を対象に
実施しているオンライン調査 ACNielsen Global Online Consumer Opinion Survey の結果だ。
特定の健康効果を促進する食品のリストから、回答者が購入する食品を選択してもらった。
•
コレステロール低下の油およびマーガリン
•
「善玉」菌含有の発酵飲料
•
アシドフィルス菌やプロバイオティクス含有のヨーグルト
•
豆乳
•
栄養素/ビタミン強化牛乳
•
栄養素/ビタミン強化のパン
•
全粒粉、高食物繊維の商品
•
葉酸強化のシリアル
•
栄養素/ビタミン強化のジュース
•
ヨウ素強化の食塩
これら 10 種類の食品のうち、1/3 以上の消費者が日常的に購入している食品は 4 種類だった。別の 4
種類の食品については、1/3 以上の消費者が購入をしたことがなく、2 種類の食品は、消費者の 10%が
聞いたことがないと答えた。
国際的な比較をすると、南米の消費者(特にブラジル、チリ、メキシコ)は、健康を促進する食品の価値
を最も確信しているようだ。「栄養素/ビタミン強化牛乳」を日常的に購入すると答えた消費者は南米に
最も多かった。非常に数多くの強化牛乳のブランドが南米にあることを考えれば、驚く結果ではないかも
しれない。
予想通りの結果は、南米およびアジアパシフィックの消費者が、最も「善玉菌含有の発酵飲料」を購入
していることだ。商品コンセプトの起源はアジアにあり、40 年以上前から市場は確立されていることを考慮
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すれば当然だ。南米は、Danone 社、Nestle 社、ヤクルト本社が、マーケティングに相当の投資をしてお
り、同市場は非常に確立されている。一方、米国では、日常的に購入すると答えた消費者はたった 4%で
あり、市場にひとつしかブランドがなく、商品コンセプトがほとんど知られていないことを反映している。
表 1:イギリス人消費者が健康効果のある食品を購入する頻度は?
食品
日常的+
日常的
時々
買わない
知らない
時々
全粒粉/高食物繊維
89%
48%
41%
10%
1%
コレステロール低下
65%
28%
37%
34%
1%
栄養強化ジュース
60%
16%
44%
38%
3%
プロバイオヨーグルト
58%
18%
40%
37%
5%
善玉菌飲料
53%
13%
40%
45%
3%
葉酸強化シリアル
41%
12%
29%
40%
19%
栄養強化パン
40%
7%
33%
56%
4%
豆乳
19%
7%
12%
79%
1%
栄養強化牛乳
18%
3%
15%
77%
6%
出所:AC Nielsen 2005
表 2:機能性食品を日常的に購入する米国人消費者
商品カテゴリー
世界平均
米国
全粒粉/高食物繊維
40%
50%
ヨウ素効果食塩
33%
30%
コレステロール低下油&マーガリン
31%
36%
栄養素/ビタミン強化ジュース
29%
29%
アシドフィルス菌/プロバイオヨーグルト
25%
21%
栄養素/ビタミン強化牛乳
18%
25%
栄養素/ビタミン強化パン
17%
24%
善玉菌含有発酵乳
16%
4%
出所:AC Nielsen 2005
予想通り、アジア太平洋地域の国では、伝統的食品である豆乳を購入する消費者が多い(日常的な購
入者が 28%)。比較すると、ヨーロッパでは、日常的に豆乳を購入する人はたった 6%だった。ヨーロッパ
では、大豆が如何に新しい食品で、ニッチかということを考えると、驚く結果ではない。大豆に関しての興
味深い結果は、日常的に豆乳を購入すると答えた米国人が 9%に過ぎなかったことだ。米国の豆乳市場
は約 10 億ドルの巨大市場だが、極限られた小数が大量に消費しており、マスマーケットの商品でないこ
とが示唆される。
24
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
表 3:健康効果のある食品を「日常的」に購入する消費者の国際比較
食品
アジア
太平洋
ヨーロッパ
北米
ラテン
アメリカ
南アフリカ
世界平均
全粒粉/高食物繊維
37%
38%
55%
51%
61%
40%
ヨウ素強化食塩
32%
30%
24%
56%
30%
32%
コレステロール低下
28%
27%
41%
54%
58%
31%
栄養強化ジュース
32%
26%
32%
36%
43%
30%
プロバイオヨーグルト
30%
20%
22%
27%
44%
25%
栄養強化牛乳
25%
12%
23%
30%
18%
19%
栄養強化パン
24%
10%
25%
26%
43%
18%
善玉菌飲料
21%
14%
4%
21%
9%
17%
出所:AC Nielsen 2005
リストに記載されたカテゴリーの商品を購入したことがない、または聞いたことがないと答えた人は、ヨー
ロッパが最も多く、中でもデンマークが一番多かった。商品を購入したことがない、または聞いたことがな
いと答えたデンマーク人は、「豆乳(94%)」、「栄養素/ビタミン強化牛乳(94%)」、「栄養素/ビタミン強
化パン(83%)」、「栄養素/ビタミン強化ジュース(69%)」だった。ヨーロッパ人にとっては、このデンマー
クの結果は驚くことではない。ヨーロッパの中で、スペインが最も健康に積極的な国民であるとしたら、デ
ンマークが最も非積極的な国民だ。Health Focus International 社などの消費者調査会社によると、デンマ
ークの食事は既に十分健康的なようだ。また、デンマーク政府は、健康に関するコミュニケーションに対し
て極端に厳格な考えを持っており、法規制が厳しいので、ヨーロッパの中で最も機能性食品市場が発展
していない。
調査地域における消費者の約 1/3 が、主張どおりの健康効果が本当に期待できるとは思わないと答
えた。アジア太平洋、ヨーロッパ、南アフリカでは、ジュースに対して懐疑的であり、北米およびラテンアメ
リカでは、コレステロール低下の油/マーガリンに対して懐疑的だ。
表 4:健康効果のある食品を購入しない主な理由
価格が高すぎる
アジア
太平洋
ヨーロッパ
北米
ラテン
アメリカ
南アフリカ
世界平均
コレステロール低下
16%
16%
16%
26%
11%
16%
全粒粉/高食物繊維
18%
12%
14%
23%
13%
15%
栄養強化ジュース
15%
14%
16%
24%
11%
15%
ヨウ素強化食塩
10%
7%
7%
12%
8%
8%
25
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
効果があると思わない
アジア
太平洋
ヨーロッパ
北米
ラテン
アメリカ
南アフリカ
世界平均
コレステロール低下
31
42
36
27
40
38
全粒粉/高食物繊維
24
29
20
13
26
26
栄養強化ジュース
42
48
32
23
45
44
出所:AC Nielsen 2005
イギリスの調査結果から、消費者調査の問題点が浮き彫りになった。大多数の回答者が、全粒粉やコ
レステロール低下商品など健康効果のある商品を日常的または時々購入すると答えている。しかし、
ACNielsen 社によると、実際の食品の購入内容を毎週記録する消費者購買データでは、2005 年 5 月ま
での 1 年間にコレステロール低下商品を購入した世帯は 20%以下に過ぎない。今回の調査では、健康
効果のある商品を実際よりも頻繁に購入しているように回答したと思われる。
ACNielsen 社の事業洞察ディレクターJonathan Banks 氏は、「多くの人が、実際よりも多く、コレステロー
ル低下商品を購入していると回答していることは興味深い。良い食事を摂りなさいというプレッシャーが強
いので、実際よりも優れた食生活を送っていると信じようとしているのかもしれない。あるいは、健康効果
のある商品について混乱しているのかもしれない。弊社が最近実施したラベル表示の調査では、イギリス
人消費者の 40%が食品の表示ラベルを完全には理解していないことが分かった」と述べた。
リストの中で、イギリス人が最も頻繁に食べている食品は、高食物繊維または全粒粉の商品だ。消費者
の 89%が、日常的または時々購入すると答えている。面白いことに、商品ラベルを見て食物繊維を確認
すると答えた消費者は 17%しかいない。全粒粉のパン、ふすまのシリアル、焼いた豆などの天然の商品
は今や非常に確立されており、食物繊維が豊富に含まれていることが良く知られているため、消費者の
頭の中では本能的に食物繊維と結び付けられている。
米国人消費者は、世界で最も全粒粉の商品を購入する国民のひとつだ。米国人のための食事ガイド
ラインが改正され、米国の食品業界が、全粒粉商品の販売を大幅に増加させたからだろう。
イギリス人消費者は、栄養強化牛乳やパンを購入しない傾向にある。この傾向は、スーパーマーケット
における販売データと一致する。イギリス人消費者は、パンや牛乳はそのままでも健康的だと考え、更に
何かを強化した商品を購入する必要性を感じていない。
概して、消費者が特定の健康効果をうたっている商品を購入しない主な理由は、本当に健康効果があ
ると信じていないからだ。イギリスでは、栄養強化牛乳やパン、フルーツジュースに対して、非購入者の懐
疑心は高い。消費者の 60%が「天然」の食品を好むと言う。
26
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 3:果物−機能性食品の未来か?
元来健康に良いと言われている食品を販売する企業が増え(トレンド 2 参照)、そのような健康メッセ
ージに対して消費者が好意的に反応する市場において、このトレンドの恩恵を最も受けるのは、果物
および果物関連の商品を販売している企業だろう。生鮮ではなく、食品原料または飲料として加工され
た果物は、健康志向の高まりや、健康効果に関する科学的根拠の増加により、売上が伸びている。
例えば、ブルーベリーは、ここ数年間、一部の地域だけではなく世界的に消費者の需要が高まって
いる。心臓の健康に対して効果のある抗酸化物質が大量に含まれているため、健康に良いというイメ
ージを持たれていることがその一因だ。
しかし、このような抗酸化力の強い果物の主要な成功要因は、単に健康効果だけではない。より重要
なことは、美味しく、利便性の高い形態であることだ。健康は二の次であり、味、利便性、パッケージイノ
ベーションの方が重要だ。ほとんどの国の食事ガイドラインで、果物をたくさん食べることを推奨してい
る。また、世界保健機関が支持する「5-a-day(1 日 5 杯)」運動でも、果物の摂取量を増やすことがキー
メッセージとなっている。果物の健康効果をうたうことで、健康の専門家と同調することができる。
利便性に優れているのは飲料だと思われる。機能性食品分野で大きな成功を収めているのは全て
飲料だ。健康的な果物をベースとした商品において、需要が最も大きいのは飲料だということに驚かな
い。驚くほど短期間で 6,000 万ドル近くのブランドに成長した Pom Wonderful 社のザクロ飲料の事例は、
どのように新しい果物の効果を市場に導入するかを示唆している。同商品の成功は、単にカリフォルニ
ア州の企業が(自社の果樹園でザクロを栽培し)ザクロを販売したにすぎない。しかし、ザクロの科学的
根拠に対する理解は、科学ではなくブランドによって促進された。
Pom Wonderful 社は、革新的なパッケージ、賢いマーチャンダイジング、美味しい味を組み合わせ、
健康効果を提供している。しかし、健康効果に関するコミュニケーションは弱い(ボトルにヘルスクレー
ムは記載されていない)。この事例は、天然の食品が持つ健康効果は、科学ベースのメッセージよりも
強い売り文句になるということを示している。健康を強調し、心臓の健康に対するメッセージを掲げる
Pom Wonderful 社の売上は、わずか 3 年足らずで、米国のステロール由来のコレステロール低下商品
市場全体と同規模になった。
Pom Wonderful 社の事例は、味と利便性の基準を満たせば、消費者が新しい果物を受け入れようと
する、ということを示している。新しく馴染みのない原料の場合、特に「あまりにも科学的」すぎると、大半
の消費者が懐疑的になったり、拒絶したりする。この鉄則は、どれほど新しい原料の効果が証明されて
も変わらないようだ。消費者の認知または受容性が限りなくゼロに近いことで苦戦している植物ステロー
ルの製造業者に聞いてみると分かるだろう。
しかし、新しい(美味しい)果物の場合、果物は健康に良いという意識があるので、消費者は例外を作
ろうとする。これは、ジュースの製造業者にとっては格好のニュースである。Pom Wonderful 社のように、
新しい果物(および果物が本来持つ健康への効果)で、真に革新的な商品を作る門戸が開かれている
ことを意味する。
27
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
グラフ 3.1 ヨーロッパにおけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 3.2 米国におけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 3.3 日本におけるブルーベリー配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
28
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
グラフ 3.4 ヨーロッパにおけるザクロ配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 3.5 米国におけるザクロ配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
ザクロの成功に続き、最近ではブラジルのアサイベリーなどの「新しい果物」が出てきている。世界の
栄養ビジネスにおいて、果物商品が、イノベーションと売上の成長を牽引するカテゴリーとして、乳製品
と張り合い始めたことが示唆される。
果物の健康効果に関するマーケティングは、増加しているものの、非常に少ない。問題は、果物でユ
ニークなブランドプロポジジションを築くことが難しいことだ。飲料カテゴリーの方が、突出したブランドを
作り出す機会が大きい。究極的な利便性と健康の組み合わせが売りのメッセージで、推奨量である 1
日 5 杯の野菜と果物のうち 1∼2 杯を満たし、果物の効果と美味しさを提供し、皮を剥く手間やゴミが省
け、便利で持ち運びやすい形態に収まっているフルーツ飲料やフルーツスムージーが適している。
面白いことに、その理由は分からないが、消費者は、果物丸ごとよりも美味しい飲料という形態での方
が、新しく馴染みのない果物を試してみようと思うようだ。(少なくとも西洋では)ほとんど知られてなく、
消費されていなかった果物の需要を飲料という形態で喚起したのがザクロだった。
29
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
また、フルーツ飲料は健康に良い原料や効果を提供する、と消費者は考えている。少なくとも米国で
は、ハーブや大豆タンパク、ビタミンなどを添加したフルーツスムージーの売上が増加している。
以上のポイントを踏まえると、ブルーベリーが急成長を図るセグメントは飲料かもしれない。2005 年の
初めの 6 ヶ月間、米国だけでも十数種類の新しいブルーベリージュース商品が発売されたが、全て好
調だという。
グラフ 3.6 ヨーロッパにおける果物配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 3.7 米国における果物配合の飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
生産者にとっては幸運にも、ブルーベリーのようないくつかの果物は、スナックバー、マフィン、シリア
ルなどに添加することが適している。しかし、果物の加工業者の大半は、加工食品の原料として使用し、
技術的に競争力のある果物にするために、技術開発やアプリケーション開発に対して懸命に取り組ま
なくてはならない。この戦略は、効果的であることが最近証明された。Ocean Spray 社の原料技術グル
ープでは、クランベリーを様々なアプリケーションに使用できる付加価値のある原料にする方法の開発
30
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
に成功した。アプリケーション開発および消費者からの「プル」を作り出す戦略の効果は証明されてい
る。日本の専門家によると、「日本では、消費者が多くの広告を目にしたため、ブルーベリーに対する
認知度が高まったと思われる。また、ブルーベリーの消費量は、ヨーグルトやベーカリー、アイスクリー
ム、清涼飲料など、アプリケーションが拡大したため増加した」と言う(Box 5 参照)。
現在、日本は年間約 15,000 トンの冷凍ブルーベリーを、主に食品加工用に輸入している。更に、生
鮮のブルーベリーを 1,700 トン輸入している。
Box 5:ブルーベリーのブーム
「ここ 2∼3 年間で、ブルーベリーを使用した商品の数は、年間 10∼20%増加した」と U.S. Highbush
Coucil の業界コンサルタント Tom Payne 氏は言う。「これ以上は無理だろうと言い続けているが、まだ成長
している。ブルーベリーを使用することは、食品にベネフィットをもたらす素晴らしい方法であり、商品のラ
ベルに記載することができる。ブルーベリーを使用している製造業者のほとんどが、パッケージにブルー
ベリーの写真を大きく載せている」と同氏は言う。
Kellogg 社およびその他のメインストリームの企業から新しく発売されたシリアルにも、ブルーベリーが強
調されている。「100%天然のシリアルでは、シリアル 1 ポンド(450g)当たり 6.5 ポンド(2.9kg)のブルーベリ
ーが使用される。大量のブルーベリーだ。業界関係者によると、最近最も成功している新商品は、ベリー
が配合されているシリアルだという」と Payne 氏は述べた。
ブルーベリーは、バー市場でも急増している。「3 年前には、ブルーベリーが入っているバーを目にする
ことはなかった。これは、ある意味恥ずかしいことだった。しかし、今では、Tradeer Joe’s の店内を見ると、
20∼30%のバーにブルーベリーが使用されており、全てのラベルにブルーベリーが表示されている」と同
氏は語った。
ケーススタディ 6:洋ナシは健康的な食品として再ポジショニングされる
果物の栽培者や公衆衛生の活動家は、加工食品業界によるマーケティングの雑音を
凌ぎ、果物丸ごとの摂取量を増加させることによる健康効果をどのように消費者に伝えた
ら良いか悩む。そこで、米国の洋ナシの事例を見てみたい。オレゴン州にある Pear
Bureau Notrhwest では、新しい米国人のための食事ガイドラインを活用して、洋ナシに
は、全粒粉の食品やその他多くの果物よりも食物繊維が豊富に含まれていることを消費
者に啓蒙し始めた。中ぐらいの大きさの洋ナシのカロリーはたった 100kcal だが、食物繊
維は約 5g、成人の推奨量の約 17%が含まれている。食事ガイドラインの付録では、食物
繊維の供給源として、洋ナシが果物中では 1 番目に記載されている。
Pear Bureau のパンフレットおよび米農務省のウェブサイトによると、洋ナシの食物繊維の内 41%がペク
チンだという。ペクチンとは、水溶性食物繊維で、血中コレステロール値を下げたり、血糖値を調整したり
する効果がある。炭水化物に対する意識が高い人に対しては、Pear Bureau は、洋ナシは超低 GI(グリセ
ミックインデックス)かつ低 GL(グリセミックロード)だということを伝えている。また、生鮮の洋ナシ 1 個に
は、1 日当たりのビタミン C の推奨量の 10%が含まれている。
31
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
ケーススタディ 7:ザクロ−2006 年の健康的な奇跡の果物
イランやトルコなどの国では、古代より日常食品としてザクロを食べてきたが、西洋ではほとんど知られ
てなく、ほとんど食べられていなかった。しかし、目を惹くパッケージの美味しいジュースで、心臓の健康
に対する効果が元々あるという賢明なマーケティングにより、ザクロは、米国ジュース市場において奇跡
の果物となった。2005 年 6 月までの 1 年間で売上は 175%増加し、6,000 万ドルとなった。価格は、他の
ジュースと比較すると、驚くほどのプレミアムだ。最近、ザクロジュースはヨーロッパでもデビューした。この
類稀な事例は、ユニークなブランドプロポジションを築くことに焦点を当て、夢を追い求めた企業の話だ。
「ザクロジュースは、最先端の健康素材だ」とニューヨーク州 Ryebrook に拠点を置く Cadbury Schweppes
Plc 社 Nantucket Nectars 部門のマーケティングディレクターJim Crooks 氏は言う。
飲料業界のコンサルタント Tom Pirko 氏によると、ザクロジュースは、「まさに消費者が、元々健康に良
く、健康に対する効果があり、クランベリーよりも美味しい何かを求めていたときに、市場へ投入された」と
言う。
米国におけるこの果物市場の飛躍的な進歩の恩恵のほとんどは、ザクロを栽培、加工しているロサンゼ
ルスの Pom Wonderful 社が受けている。同社は、Pom Wonderful というザクロとその他の果物をブレンドし
た、目を惹くボトルの飲料を扱っている。
栽培業者を代表する業界最大の団体、Pomegranate Council(ザクロ協議会)のマネージャーTom
Tjerandsen 氏は、これまでザクロの売上が低迷していたことは、「多大な時間とエネルギーをかけて、この
素晴らしい果物を生産している者にとってもどかしかった」と言う。
しかし、Pom Wonderful 社が全てを変えた。1980 年代後半、花のオンラインショッピングでも有名である
Lynda Resnick 氏が、ザクロの木が多少生えているカリフォルニア州中部の土地を購入した。彼女は、10
年かけて、7,000 エーカーの土地に 6,000 本以上のザクロの木を植えた。既存の栽培業者が所有してい
る土地が 7,000 エーカーだったので、栽培面積を 2 倍にしたことになる。Resnick 氏の企業は Pom
Wonderful 社と名づけられた。同社が収穫する果物(ザクロ:Pomegranate)に由来する。
1998 年までに、Pom Wonderful 社は、ザクロの潜在的な健康効果の研究に
対して真剣に取り組んだ。研究初期段階で、ザクロに含まれる抗酸化物質の
量 が 確 認 さ れ た こ と に よ り 、 研 究 は 後 押 し さ れ た 。 2000 年 初 め 、 Pom
Wonderful 社は、10 月から 1 月の季節限定で、生鮮のザクロを米国、カナダ、
ヨーロッパで販売することに重点を置いた。
しかし、2002 年、Pom Wonderful 社は、ザクロジュースの市場潜在性を認識
し、ザクロの実が二つ重なったような形の 16oz および 24oz のボトルに入った
ジュースを発売した。「当初から、このジュースはユニークな商品となるように
設計されている。中身と同様にパッケージもユニークだ。弊社のマーケティン
グにおいて、これは重要な部分である」と同社は New Nutrition Business に述べた(トレンド 5 参照)。
Pom Wonderful 社の成功は、既に業界の予想を上回っている。「米国人消費者は、この新しい味の感
覚と特定のベネフィットをもたらす本物の商品に惹かれた」と Tom Pirko 氏は言う。
Pirko 氏は、Pom Wonderful の「思いつきの良いパッケージと美味しい味」を称賛するが、それ以上に、
32
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
ザクロ元来の味と栄養的な魅力を米国人消費者の間で確立し、ザクロと言えば Pom Wonderful という連
想を作りだすために、同社が投資をしていることに感銘する。
「同社は二つのことに特化している。ひとつはザクロで、もうひとつは Pom だ。同社が、最も力を入れた
かったことは Pom というブランドだ。同社は良い名前を選んだ。ブランドは比較的成功している。付帯的な
取り組みでは、ザクロ自体よりも Pom という商品に光を当てている」と Pirko 氏は説明する。
1 オンス当たりの価格を比較すると、Pom Wonderful は、Ocan Spray のクランベリージュースや Tropicana
の 100%オレンジジュースなど健康に良いイメージのある主要なジュースのブランドよりも 400%高い。つ
まり、もし Pom Wonderful が 64oz 入りのパックで販売されていたとしたら、Ocan Spray のクランベリージュ
ースが$3.99、Tropicana のオレンジジュースが$3.49 なのに対して、$12 になる。
33
New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 4:食物繊維は前途洋々
食物繊維は好調だ。現代の食生活では食物繊維が不足していることが認識されており、公衆衛生
の専門家や学者たちは食物繊維をもっと摂るように呼びかけ、多くの消費者は食物繊維の効果を認識
し、食物繊維が食品に含有されていることを喜び、食物繊維の原料は、Orafti 社や National Starch 社
など、世界でも有数の原料マーケティングに長けている企業が供給している。これらの点を総合的に考
えると、食物繊維の未来は明るい。読者の中には、食物繊維の需要および必要性の高まり、および公
衆衛生からの明確な要求が、機能性食品の始まりだったことを思い出す方もいるでしょう。1980 年代、
食物繊維の摂取量を増やすというニーズから、今日我々が考える機能性食品というアイデアが日本で
生まれた。
食物繊維が健康的な食生活において重要な一要素であることは、世界的に科学的コンセンサスがと
れている。国際的に同意された食物繊維の定義は存在しないが、成長の見通しを妨げるものはない。
2005 年 1 月に発表された新しい米国人のための食事ガイドラインでは、食物繊維を含有する全粒粉
(非常に簡単に述べると、ふすまや胚芽を除去していない穀物)の消費を大幅に増加するように求めた。
このことは、マスメディアの大きな注目を集め、全粒粉を多く配合した新商品の発売が加速している。
2005 年、欧州委員会は、健康に対する全粒粉の役割、およびどのように全粒粉の消費を増加させる
か、という件に関する大規模な研究プロジェクト(HEALTHGRAIN)に資金提供をすることを発表した。
複数の消費者調査から、消費者は「高食物繊維」と記載されている商品ラベルを好むことが分かって
いる。HealthFocus International 社によると、米国人の 40%およびヨーロッパ人の 33%が、食物繊維の
表示を好む。
様々な種類のある食物繊維には、腸管通過の改善という効果だけでなく、心臓の健康や血糖反応
の改善、プレバイオティック効果(腸内細菌の増加)などの効果もある。また、イヌリンはカルシウムの吸
収を補助する。トレンド 2 で述べたように、栄養科学の進歩により、長い間食事の一部として確立されて
きた食品の元来持っている健康効果が明らかになっている事例である。食品技術の開発では、如何に
利便性の高い広範囲の食品に素材を使用できるようにするかということと同時に、如何に健康を促進
する物質を保持するか、ということに取り組んでいる。
Orafti 社や National Starch Food Innovation (NSFI)社のような国際企業が、食物繊維の効果を出来
る限り広く伝達し、食物繊維の消費を増やすということに強いコミットメントを示しているので、食物繊維
はその恩恵を受け続けると思われる。
特に Orafti 社は、食生活における食物繊維の重要性を消費者にもっと認識してもらうこと、および食
物繊維の使用を検討している食品加工業者にとって同社が素晴らしいパートナーになることについて
賢明な戦略を推し進めている(トレンド 8 参照)。
NSFI 社の Hi-maize という難消化性でんぷんには、技術的および健康上の利益があるので、世界中
の約 100 商品に使用されている。小麦粉よりも白い Hi-maize は、例えば、パンの弾力性を高めたり、ボ
ウルに入れたシリアルを長持ちさせたり、賞味期限を延ばすことに役立つ。Hi-maize は、商品の食感を
改善する。例えば、パンで使用する小麦粉を最大 20%まで Hi-maize に置き換えることができる。しかし、
同素材を使用した商品の味や食感、外観には影響を与えない。白パンの食物繊維を増やす素材とし
34
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
て適しており、パンは Hi-maize の最も成功しているアプリケーションのひとつである。
Orafti 社の水溶性食物繊維は、世界の数千商品に採用されている。
Orafti 社や NSFI 社が、その他のほとんどの原料サプライヤーと一線を画している要因のひとつは、
最終消費者を理解しようと決意していることだ(トレンド 8 参照)。両社ともに、世界規模の消費者調査に
対して相当の投資をしている。そして、その結果を踏まえ、消費者の理解できる言葉で、製品の効果を
伝える文言を作り出している。
また Orafti 社は、顧客企業に対してプロトタイプの商品を作ったり、健康の専門家に対するコミュニケ
ーションやPRにも積極的に投資している。まとめると、食物繊維の成功は、原料サプライヤーによる非
常に専門的な「プッシュ」に牽引され、消費者コミュニケーションに投資することで消費者の「プル」を作
り出し、公衆衛生の「プル」を活用したことに起因する。
グラフ 4.1 ヨーロッパにおける繊維の表示している食品の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 4.2 米国における繊維の表示している食品の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
35
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
グラフ 4.3 一部アジア(日本、中国、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール)における繊維の表示
している食品の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 4.4 ヨーロッパにおける繊維の表示している飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 4.5 米国における繊維の表示している飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
グラフ 4.6 一部アジア(日本、中国、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール)における繊維の表示
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
している飲料の発売数 1995∼2005 年
出所:Productscan.com
Box 6:食物繊維および機能性繊維の分類
天然に存在する食物繊維
繊維
リグニン
食物繊維/
概要
溶解性
炭水化物ではない。木やその種子の細胞壁に
不溶性
食物繊維*
機能性繊維
含まれる。食物繊維の生理学的効果に影響を
与えるので繊維に分類される。
セルロース
植物の細胞壁にある主要な構造上の物質。
不溶性
食物繊維*
β-グルカン
キノコ、藻類、大麦などの植物の成分。
水溶性
食物繊維*
ヘミセルロース
様々な多糖類のグループで、セルロースの周り
水溶性/
食物繊維*
の細胞壁に含まれている。
ペクチン
ガム糊
多くの果物やベリーの細胞壁や細胞間組織に
不溶性
水溶性/
含まれている。
不溶性
通常種子から分離され、粘性がある。グアーガ
水溶性
ムはグアー種子を製粉して作られる。
イヌリン/オリゴ果糖
様々な天然の植物に含まれているが、商業的
天然界に存在するが、食品加工中にでんぷん
食物繊維/
機能性繊維
水溶性
には合成または分離されたものもある。
難消化性でんぷん
食物繊維*
食物繊維/
機能性繊維
不溶性
RS1、RS2−
が変化することでも作られる。RS1∼4 の 4 種類
食物繊維、
がある。
RS3、RS4−
機能性繊維
37
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分離された繊維およびサプリメント
繊維
概要
溶解性
食物繊維/
機能性繊維
サイリウム
サイリウム種子の皮で非常に粘度が高い。
水溶性
機能性繊維
キチン/キトサン
節足動物(カニやエビ)の外骨格やキノコの細
水溶性
機能性繊維
水溶性
食物繊維/
胞壁に含まれている。主にサプリメントとして消
費される。
フルクトオリゴ糖
食品添加物として使用される合成の果糖鎖。
機能性繊維
ポリデキストロース/
ブドウ糖や糖アルコールから合成する。食品の
ポリオール
充填剤や時には砂糖代替品として使用される。
難消化性デキストリン
熱及び酵素処理によって合成される。食品へ
水溶性
機能性繊維
水溶性
機能性繊維
の添加が容易だ。
* 天然の繊維を原料として分離することもできる。その場合は、機能性繊維に分類される。
出所:Institute of Medicine of the National Academies, 2002, The Linus Pauling Institute’s Micronutrient
Information Centre
ケーススタディ 8:全粒粉の戦略をヨーロッパに持ち込む
General Mills 社と Nestle 社のヨーロッパにおける合弁会社
で、ほとんどのヨーロッパの国で Nestle ブランドのシリアルを
販売している Cereal Partners 社は、2005 年初めにすべての
シリアル商品を全粒粉に変更する意図を発表し、ヨーロッパ
でリードを奪った。2004 年後半に General Mills 社が米国に
おける同社のシリアル商品をすべて全粒粉に変更すると決
定したことを受けて、このような発表がされた。General Mills
社の取り組みは、世界初の試みで、結果として、FDA が認めている全粒粉と心臓の健康に関するヘ
ルスクレームを全ての商品に記載することが可能となる。
Cereal Partners 社は、全粒粉に関するコミュニケーションやイギリスにおける全粒粉シリアルのブラ
ンド(Shredded Wheat や Cheerios)の心臓の健康に対する効果を伝えるマーケティングにおいて、
1990 年代後半以降、長い間にわたって先駆者的存在だった。それ以来、消費者の同社ブランドに
対する反応は好調で、売上は二桁成長を遂げた。また、消費者調査によると、消費者は、全粒粉と
心臓の健康との関係についてのクレームは信用でき、自然なものと受け止めている。
2002 年 6 月、イギリスのヘルスクレームに関する自主規制組織である UK’s Joint Health Claims
Initiative (JHCI)は、1 食分の重量当たり、全粒粉が 51%以上を占める食品にヘルスクレームをする
ことを認めた。それは次のようなクレームだ:健康的な心臓を持つ人は、健康的なライフスタイルの一
環として、全粒粉の食品を多く食べている傾向にある。その他、ヨーロッパで全粒粉の食品に心臓の
健康のクレームを認めている国は、スウェーデンおよびフィンランドのみだ。
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
全粒粉の効果はかなり証明されているにもかかわらず、イギリスでは、米国とは異なり、しかしほと
んどのヨーロッパ諸国と同様に、全粒粉の推奨量が食事ガイドラインで定められていない。調査によ
ると、イギリス人の 90%は、米国で推奨されている 1 日 3 杯の摂取量を満たしてなく、約 25%は、全く
全粒粉を摂取していない。Nestle 社によると、シリアルを全粒粉に変更すると、イギリス人消費者の
食生活を全く変化させることなく、イギリス人の食生活に、毎年 26 億杯分の全粒粉を追加できる。
ケーススタディ 9:美味しい全粒粉のマーケティング
Ultragrain は、2004 年 8 月の発売以来、世界の食品ビジネスにおいて、最もヒットしている新原料
だろう。同製品は、特別な知的財産権のある薄力粉と強力粉の味を混ぜたもので、ほとんどの全粒
粉商品に使用されている原料よりも甘みがある。特許出願中の製粉技術によって、全粒粉(胚芽と
ふすま)の粒子を、精製した小麦粉に近いサイズにまで小さくさせる。ConAgra 社はこの技術の開発
し、Ultragrain を仕上げるまでに約 10 年を費やした。
ConAgra 社は、ほとんど自力で、全粒粉の大きな新しい市場を米国で作り上げた。Ultragrain は白
く、パンやシリアル、その他商品で使用されている通常の精製した小麦粉に近い味や食感を提供す
る。そして、オマハに拠点を置く大手食品会社が、この成長市場でのリードを維持するために、最善
の努力を払っている。
2004 年後半の ConAgra 社による報道発表から 2 週間も経たないうちに、General Mills 社は、同社
のシリアル商品をすべて全粒粉に変更することを発表し、栄養界だけではなく、報道メディアやその
他のところで話題となった。General Mills 社の新しいシリアルの中核を担うのは Ultragrain だという推
測が広まっている。
Ultragrain は弾丸のような出だしで、それ以降様々な商品に採用されている。Sara Lee 社の新しい
Soft & Smooth の商品ラインは、参入した市場すべてにおいて売上トップのパンとなった。また、
Pepperidge Farm 社の Goldfish Crackers にも採用されている。
イノベーションのひとつは、全粒粉でつくった The Max ピザである。ConAgra 社は、「学校給食の
確固たる改善を求める両親、子供、学校のニーズに応えます」と発表している。米国の 2,600 以上の
学区が、今年度の学校給食に The Max をメニューに加えると同社は言う。
ConAgra 社が実施した調査の結果、The Max は子供たちの人気を集めるだろう、という強い示唆
が早い段階で得られていた。また、調査によると、子供が好きな食べ物に全粒粉を使用することで、
The Max は子供の全粒粉の摂取量を効果的に倍増できる。ConAgra 社が後援したミネソタ大学の
調査によると、学校に通う子供たちは、Ultragrain を使用した人気ある食品を、従来の小麦粉を使用
した食品と同じぐらい食べたという。
ConAgra 社によると、Ultragrain を用いた The Max が短期間で成功を収めることができた主な要因
は、穀物の技術者、栄養科学者、学校給食の開発者や販売者、官能科学者、原料エンジニアなど
を集めた多機能型のチームをつくり、消費者の考え、製品設計、栄養科学を短期間で統合できたこ
とによる。
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 5:「個」の時代のパッケージ
食品のマーケティングにおいて最も基本となる原則のひとつが、消費者の注意を惹くパッケージデ
ザインを用いることだ。パッケージデザインに焦点を当てる理由は単純だ。平均的なスーパーマーケッ
トでは、約 2 万品目が陳列されており、買い物客は、1 分間に 300 品目の前を通り過ぎる。買い物全体
の 75%は店内で意志決定され、買い物かごに商品を入れるまでに平均 4 秒間ラベルを見る。
このような非常に競争の激しい環境において、パッケージデザインは、ブランドオーナーが消費者に
影響を与える最後のチャンスとなる。マーケティングの巨匠 Philip Kotler 氏は「5 秒間コマーシャル」と
呼ぶ。
それでは何故、栄養商品ブランドでは、パッケージデザインにほとんど注意を払って来なかったのだ
ろうか?機能性食品の分野において、科学のイノベーションと同様に(恐らくそれ以上に)、パッケージ
のイノベーションが成功に影響を与えるという根拠は十分ある。
弊社の自己満足をお許し頂きたいが、弊社ではパッケージに関する予測をしていた。覚えておられ
る読者もいるでしょうが、弊社の雑誌 New Nutrition Business の 2004 年 12 月/2005 年 1 月合併号で
は、Ten Key Trends for 2005 を取り上げ、その中で、パッケージのイノベーション、特に 1 日量サイズの
形態が重要な成功要因だと主張した。
我々は昨年、「1 日量サイズ」の飲料(通常 65mL∼125mL)が、多
くの機能性食品のコンセプトの主要な成長要因となっており、ヨーロ
ッパの 1 日量サイズのプロバイオティック乳飲料(1994 年に導入され
て以来、市場規模は 30 億ユーロにまで成長し、現在でも年間成長
率は 30%である)で起きたことは、その他多くの素材でも起こるだろう
と予測した。しかし、我々の予測がここまで当たるとは思っていなかっ
た。以下に、これから起こることの前兆と思われる、主な昨年の進展
を記述する。
Unilever 社:アングロサクソン系のオランダの大手企業は、1 日
量サイズの飲料には大きな潜在性があるという弊社の予測に同意
しているようだ。同社が過去 12 ヶ月間に発売したすべての栄養商
品が 1 日量サイズの商品だった。新商品を一部紹介する:Pro.activ
ブランドのコレステロールを低下させる 100mL の乳飲料がヨーロッ
パ諸国で発売された;Pro.activ ブランドの血圧を低下させる 100mL
の乳飲料がヨーロッパ諸国で発売された;多忙だが健康意識の高い消費者向けの濃
縮型商品で、2 杯分の果物と野菜を摂取できる 100mL ボトルの Knorr Vie がヨーロッ
パ諸国で発売された。
Danone 社:大きな成功を収めている 100mL のプロバイオティック乳飲料とともに、
ほとんどのヨーロッパ諸国で 100g のコレステロール低下飲料 Danacol を発売した。
Benecol:かつて、コレステロール低下のスプレッド Benecol は、その将来予測につ
いて最も意見が割れていたブランドだった。スイスにおける Bencol の販売パートナー
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
である Emmi 社が、コレステロール低下の 1 日量サイズの飲料をつくるという画期的なアイデアを出し、
70g の商品を開発したことで、Bencol は新たな運命を辿ることとなった。
1994 年、70g 入りの Benecol 飲料は 1 億個、小売金額ベースで 9,000 万ユ
ーロ売れた。このパッケージのイノベーションの結果、Benecol の原料を製
造しているフィンランドの Raisio 社の運命は変わり、Benecol のステロール
原料ビジネスは、10 年後に初めて営業黒字を出した。
益々成長するプロバイオティクス:1 日量サイズのプロバイオティック市場
は、Danone 社の Actimel やヤクルトが市場を開拓し、現在でも両ブランドが
市場のリーダーである。(正確ではないが我々の知る限り)ヨーロッパだけでも少なくとも 50 ブランドが存
在する(アジアには 1000 ブランドある)。ヨーロッパでは、このカテゴリーは、乳製品に限らず、プロバイ
オティックジュースやプロバイオティック大豆飲料へと拡大している。
プライベートラベル:Tesco、Carrefour、Aldi やその他多くのヨーロッパにおけるスーパーマーケットの
チェーン店はすべて、自社ブランドの 1 日量サイズのプロバイオティック飲料を扱い始めている。これら
のブランドの出現は、メインストリームになったという明白なサインである。一方、南アフリカでは、スーパ
ーマーケットのチェーン店 Woolworth が、1 日量サイズのプロバイオティック飲料を初めて発売し、市場
を切り開いた。
米国で商品開発に携わっている人たちは、これを広くヨーロッパで見られる現象と安心することはで
きない。1 日量サイズの商品形態は、アジアから始まった。アジアには様々な健康効果を訴求する商品
が何千種類もあり、市場は非常に確立している。メキシコでは、昨年、65mL 入りのヤクルトが 100 万個
以上消費され、Danone 社や Nestle 社の商品もほぼ同量消費された。
小さい容器以上の意味−1 回量サイズの力および「個」の栄養
ヤクルト、Danone 社やその他の企業の大成功は、すべて一人用
の飲みきりサイズの商品であるという事実と切り離せない。伝統的
な食事場面が減少し、就業時間が長くなり、単身世帯が増加して
いることは、一人でまたは急いで食事をすることが増えている要因
の一部である。また、人々は、食品や健康についての溢れるほど
の情報に埋もれている。そしてその情報の多くは、混乱を招くもの
や矛盾するものである。その結果、人々は、自分には何が必要で、
自分のライフスタイルでは何が最適か、ということについて自身で
個人的な考えを作っている(トレンド 5 参照)。これらのトレンドを総合すると、1 リットル入りのファミリーサ
イズの栄養商品はほとんど購入されず、一人で消費するのが適しており、必要であれば急いで食べら
れる容器の商品が購入される。
従って、もし栄養ブランドで成功を収めたいのであれば、このようなトレンドに対応し、できるだけ(唯
一の方法かもしれないが)1 回量サイズの容器で提供する必要がある。
このアプローチには、消費者へのアピールに加え、別の利点がある。企業は、(高価な成分が入って
いる商品ならば)プレミアム価格を付けることができる。飲料売り場に陳列されている標準的な 500mL
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New Nutrition Business
Ten Key Trends in Functional Foods 2006
や 1L の商品の場合、標準的な商品との価格差が明白になるため、消費者はすぐに思いとどまるだろう
から、プレミアム価格を付けることはできない。以下、いくつかの事例を紹介する。
1. Innocent 社−イギリスおよびアイルランドにおけるスムージーのトップ企業で、その他多くのヨーロ
ッパの国でも販売している。250mL ボトルのフルーツスムージーの小売価格は約 1.75 ポンド(3.02
ドル)である。一方、一般的なフルーツジュースの価格は 1L 当たり約 1.10 ポンド、Tropicana のよう
なプレミアムブランドの場合は 2.10 ポンドだ。別の指標で示すと、Innocent の小売価格は 1L あたり
7 ポンドで、300%のプレミアムだ。Innocent ブランドが最終的に 1L パックを発売したら、これほどの
プレミアム価格を要求することはできず、度重なる値引き後、2.37 ポンドで落ち着いたことは驚かな
い。
2. Unilever 社−同社の新商品 Knorr Vie Shots は、イギリスでは、100mL ボトルが 3 本入りで 1.89 ポ
ンド(3.31 ドル)である。これは、1L 当たり 6.30 ポンドであり、一般的なジュースよりも 500%のプレミ
アムだ。
3. Pom Wonderful 社−Pom Wonderful の米国における小売価格は、16oz 入りパックが 3.49 ドルで、
24oz 入りのボトルは 4.50 ドルだ。1 オンス当たりの価格を比較すると、Pom Wonderful は、Ocan
Spray のクランベリージュースや Tropicana の 100%オレンジジュースなど健康に良いイメージのあ
る主要なジュースのブランドよりも 400%高い。つまり、もし Pom Wonderful が 64oz 入りのパックで販
売されていたとしたら、Ocan Spray のクランベリージュースが 3.99 ドル、Tropicana のオレンジジュー
スが 3.49 ドルなのに対して、12 ドルになる。目を惹くパッケージデザインや、一般的ではないパッケ
ージサイズにより、プレミアム価格が目立たなくされている。一方、イギリス企業が、
Pomegreat というブランド名で、標準的なサイズである 1L パックのザクロジュース
を発売したが、一般的なジュースと比較して 25%以上のプレミアム価格を付ける
ことは出来なかった。
4. Zestlife 社−ニュージーランドで販売されている初乳の生乳飲料は、牛乳に初乳
(出産後最初の母乳)を添加したもので、300mL ボトルの小売価格は 3.90NZ ドル
(2.75 ドル)だ。1L 当たり約 13NZ ドルに相当する。一般的な牛乳の価格は 1L 当
たり 1.90NZ ドルなので、600%のプレミアムだ。
Red Bull、ヤクルト、Danone Actimel はすべて、ひときわ目立つ革新的なパッケージの強みをもって、
新しいカテゴリーを作り出した。これらの企業が、今まで店頭になかったような新しいカテゴリーを作りだ
している、と消費者に知らしめたのは革新的なパッケージだった。
新しいセグメントの創造において、パッケージのイノベーションの力を過小評価するべきではない。オ
ランダ市場における主要なジュース企業の事例は、このことを示す最適な事例だ。2 年前、Hero 社は、
1 日当たり 5 杯という野菜と果物の推奨量のうち 2 杯分を満たす 200mL ボトルのジュース、Fruit2Day
を発売した。パッケージは、2 つの果物に見えるようにデザインされている。これは、単純かつ分かりや
すい健康のプロポジションで、パッケージが明確にメッセージを伝えており、大成功を収めた。Hero 社
は、売上を公表していないが、業界関係者によると、小売売上は 1,500 万ユーロと推定される。人口が
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
2,000 万人しかいない国においては、悪くない数字だ。
飲料またはバーのすべてに当てはまる話
最後に、個の栄養というトレンドから最も恩恵を受けるのは 1 回分量の飲料やバーであることを再度強
調しておく。物理的な理由から、パッケージのイノベーションが最も進んでいるのは飲料だ。これは昨
年我々が主張したトレンドであり、このトレンドは消え去らないだろう。
まとめ
1. 原料に科学的根拠があるだけでは十分でない。競争優位を得るための重要な点は、どのようにそ
の原料を提供するかである。言い換えると、どのようなパッケージで、消費者に提供するかというこ
とだ。
2. 良くデザインされた競争力のあるブランドが目に入ると、かなりの消費者が、買い物中の最後の瞬
間に、いつものブランドを買うことを躊躇する。
3. 従って、製造業者は、市場に商品を提案する際に、パッケージを活用しなくてはならない。
4. 貴社の機能性食品・飲料にどれだけの科学があるか、どれだけの費用を研究開発や広告に投資
するか、ということに加え、商品パッケージもプロダクトミックスの一部として同等の重要性をもつ要
素としてとらえなくてはならない。
5. 商品パッケージが消費者のあくびを招くだけのものだとしたら、科学に対する多大な投資はどう活
用されるのか?
6. 「この原料はどのようなクレームをできるか?」、「この効果に関して、どれだけの科学的根拠がある
のか?」という質問を最もよく耳にするが、これらの質問とともに、商品を開発または販売する者は、
「このパッケージはどの程度素晴らしいものか?健康を示唆するか?プレミアム価格を付けられる
か?」ということを確認する必要がある。
ある歌の歌詞から引用する(1980 年代の女性グループ Bananarama の歌より)「貴方が何をするかで
はなく、貴方がどのようにそれをするかが、結果につながる」。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 6:機能性飲料のブームが押し寄せる
昨年、我々のキートレンドの予測の中で、栄養ビジネスにおける最も
印象的な事柄は、個人に合わせた栄養や消費のトレンドであり、このトレ
ンドが近年の栄養バーや飲料に急成長をもたらしていることを述べた。
栄養バーおよび飲料が栄養商品全体の売上の約半分を占めている。
今後も間違いなく、ほとんどの企業が新しい栄養コンセプトを市場へ
投入する際に、バーまたは飲料という形態を選択するだろう。しかし、興
味深いことに、新しい栄養コンセプトを提示するために選択される形態は、バ
ーよりも飲料が多い。「オールナチュラル」を訴求する際、あるいはコレステロ
ールや血圧の低下など明確な機能を訴求する際、ほとんどの企業が飲料を
選択する傾向にある。
成長率が一桁台前半で推移している食品業界において、最も成長率の高
いカテゴリーは栄養飲料である。以下、事例を示す。
•
1 日量サイズのプロバイオティック飲料は、ヨーロッパで成長を
続け、年間成長率は 30%だ(トレンド 5 参照)。
•
また、ヨーロッパでは、新しいコレステロール低下の 1 日量サ
イズの飲料市場が、1 年間で売上ゼロから 1 億ドルになった(ト
レンド 5 参照)。
•
Naked などのスムージーが、米国では年間 40%の成長率で伸
びている。また、イギリスの Innocent の今年の成長率は 50%程
度と予想される。
•
ザクロやブルーベリーの栽培業者が学んだように、果物丸ご
とを、美味しく便利な飲料にするという新しい利益の出るカテ
ゴリーが作られた。
このトレンドを強化させる事柄があるとしたら、それは、利便性、
飲みやすい形態、パッケージのイノベーション、そして様々な種類
の飲料に健康素材を容易に処方できることだろう。今後は、「機能性食品」ではなく、「機能性飲料」と
いう用語を使わなくてはならないかもしれない。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
ケーススタディ 10:バーのブランドが 1 回飲みきりサイズの飲料へ拡張
2005 年、米国のバー市場でトップブランドの PowerBar は、Pria という女性
向けの栄養商品ラインから、女性のために処方した PowerBar Pria Complete
Nutrition という栄養豊富なバーとシェークを発売した。
炭水化物、蛋白質、20 種類のビタミンとミネラルをバランス良く配合し、1 日
当たりのカルシウム推奨量の 40∼50%を満たし、食物繊維は 5∼7g で、カロ
リーは 170kcal の低糖の商品ラインだ。
「これらの商品は、満たされていない消費者のニーズに応えているので、大きく伸びると考えている」と
PowerBar Pria のブランドマネージャーAndy Hill 氏は、New Nutrition Business に話した。「女性は食品
に 3 つのことを求める:利便性、味、栄養だ」と同氏は述べた。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トレンド 7:プライベートラベルの機能性商品の急増
小売業者がプライベートラベルで低価格のコピー商品を販売し始めると、
真似されたブランドが上手くいっていると言うことができる。小売業者がプラ
イベートラベルのカテゴリーを築こうとすると、長期間にわたる価格破壊が
じわじわと起こることは避けられない。これは避けられないプロセスであり、
ある国では他の国よりもこの傾向が進んでいる。ヨーロッパのいくつかの国
では、プライベートラベルの浸透はスーパーマーケットの 15%程度と低い
かもしれないが、イギリスでの浸透率は 40%であり、急速に 50%に近づい
ている。この至る所で見られるトレンドは、小売業者が成長するためのもの
で、Tesco のような小売業者に多大な利益をもたらす。
プライベートラベルのトレンドにより、いくつかのブランドオー
ナーは、既に困難に直面している。例えば、フランスでは、
Danone 社は、同社の商品と同じぐらい美味しく、パッケージも
良くできており、非常に価格競争力のあるプライベートラベル
の商品が、すぐ隣りに並べられるという状況に直面している。カ
ルフールが Danone 社の乳製品市場のシェアを奪っている。こ
のような状況において、Danone 社の Actimel や Activa などのプロバイオティックブランドは、利益を得
るための最後の砦だ。
今まで健康および栄養の分野において、Danone 社のような多くの食品会社は、付加価値を付けた
ブランド商品を開発し、プライベートラベルの増加や小売でのディスカウント競争により価格が低下して
いる他事業の埋め合わせをしていた。
しかし、この仕組みが試されようとしている。オランダ最大のスーパーマーケットチェーン店である
Albert Heijn は、我々が把握している限りではヨーロッパ(および米国)で初めて、ヘルスクレームを記
載した新しいプライベートラベル商品を発売した。更に重要なことには、(オーツ麦β-グルカンに関す
る)クレームは、オランダ市場で初めてのものだった。ブランドオーナーと同様の健康におけるイノベー
ションを小売業者が果たしたことは大きな動きだ。
実際、機能性原料の販売業者は、健康のイノベーションに関して、ブランドオーナーと同様に、最近
では小売業者もターゲットとするようになっているようだ。例えば、南アフリカでは、Woolworh というスー
パーマーケットチェーン店が、プロバイオティクスの原料を提供する Danisco 社と協力して、南アフリカ
市場で最初の 1 日量サイズのプロバイオティック乳飲料を
発売した。
同様の動きがヨーロッパでも見られる。2005 年に Forbes
Medi-Tech 社の Reducol というステロールを初めて採用した
のは、ブランドオーナーではなく、小売業者のプライベート
ラベルだった。フィンランドでは、食品小売業者の中でトッ
プの Kesko が、Pirkka というプライベートブランドのヨーグル
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
トを発売した。「Kesko は、Pirkka という健康的な食品のプレミアムブランドの開発に投資するという戦略
的意志決定を行った」と Kesko の副社長 Harri Sivula 氏は言う。
そのヨーグルトには、コレステロール低下のヘルスクレームがされており、フィンランド最大の乳業メ
ーカーVailio 社のコレステロール低下ヨーグルトよりも 15%安価だ。
米国の小売業者は、ヨーロッパの小売業者ほど積極的にプライベートラベルの機能性食品をまだ扱
っていないが、時間の問題だろう。
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トレンド 8:機能性原料をニッチから脱却させる賢いマーケティングのためのチェックリスト
過去 10 年以上の間、何百社もの企業が、新しい栄養技術に基づく機能性原料を販売しようとしてき
た。このような企業すべてに共通することがある。創業者が期待したほどの成功を勝ち取った企業や利
益を得た企業がほとんどないことだ。実際、我々が 2005 年に調査した研究開発型企業 50 社のうち、
全ての企業が遅くとも 1995 年には機能性原料の販売を開始しているが、46 社が赤字で、創業以来毎
年営業損失を出している。
また、いくつかの「ヒット素材」と思われる原料を使用した何十社ものブランドオーナーは、採用した原
料やその原料の健康効果は、売上や消費者に対して何の影響も与えないことを発見した。
多大なる時間、お金、努力が科学、研究開発、知的財産権には費やされている。しかし、その機能
性原料が市場で受け入れられるために必要なこと、特にどのように新原料を消費者に共感してもらうか、
ということに多くの注意を払った企業はほんのわずかだ。
過去 10 年間以上の業界誌やコンサルタントのレポートを読み返すと、次の「ヒット」素材は何かという
予測が多数見つかるだろう。しかし、サプリメント市場で確立された原料は多数あるが、より難しく複雑
な食品および飲料市場で成功を収めた原料は非常に少ない。せいぜいオメガ-3 脂肪酸などの原料が、
成長しているが、取るに足らない。
原料サプライヤーおよびブランドオーナーの両者にとって、新しい原料に関して、消費者の「プル」
を確立させることは重要だ。幸運にも、機能性食品の歴史も 10 年が過ぎ、消費者の「プル」を創造する
ための方法が確立されてきた。そして今後 10 年間、より多くの企業が、市場創造のための方法を同じよ
うにたどり始める、というトレンドが見られるだろう。以下に、原料サプライヤーおよびブランドオーナー
の両者が、使用するようになってきている新しく証明された戦術をまとめる。
1. 消費者調査
National Starch 社、Solae 社、Tate & Lyle 社、Orafti 社などの大手原料メーカーに共通することは何
か?答えは、これらすべての企業が、消費者調査の価値を認めていることだ。
•
Solae 社は、過去 3 年間で、大豆タンパクを用いた 200 種類以上の商品コンセプトに関して、1 万
名以上の消費者の意見を基にスクリーニングした。1 回の調査につき 500∼1000 名の消費者の反
応をインターネットで集め、Salae 社は、コンセプトが「好きか」、「ユニークか」などのスコアを付け、
購買意志を測定した。これらのデータは、マーケティングマネージャーたちにとって価値あるもの
だ。「2∼3 件のフォーカスグループを実施したと言うよりも、定量的かつ統計的有意なデータを持
って Nabiscosha へ行くほうが、より効果的である」と Solae 社マーケティングおよび事業開発担当
副社長 Garnet Pigen 氏は言う。4 回ほど、同社の潜在顧客のマネージャーから、大豆蛋白に関す
る彼らの商品コンセプトをスクリーニングして欲しいと依頼を受けることさえあったという。
•
National Starch 社では、世界的な大規模な消費者調査を実施したところ、消費者の胃腸の健康に
対する関心が高まっていることが分かった。そこで、同社は、その結果を前提に様々なマーケティ
ング上のメッセージをテストした。このデータのおかげで、難消化性でんぷんブランド Hi-Maize に
関する大型の供給契約を締結することができた。「調査は、製品の効果を如何に消費者が理解で
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きる文言で説明するか、ということを割り出すことに役立った。従って、弊社の顧客は、この点に関
して投資をする必要がない」と栄養事業開発マネージャーRhonda Witwer 氏は言う。
2. 適合性を想像し、プロトタイプを試作する
食品および飲料企業は、自社の商品やブランドにとって意味のある原料や効果を求めている。一方、
味やその他の要素が変わるリスクや、自社ブランドに対する消費者の意識が変わるリスクを望まない。
これらの企業のブランドは、貴社の素晴らしい科学を伝達するサプリメントではなく、人々の生活の中で
感情的な場面を共にする食品である。原料サプライヤーは、自社の新原料が潜在的パートナーのブラ
ンドに対してどのような付加価値を与え、どのような健康効果をもたらすのかを明確に理解しなくてはな
らない。もし既存商品との適合性がないのならば、いくつかの美味しい試作品をつくり、パートナー企
業のビジネスとの適合性を論理的に示し、その潜在性を明確にする必要がある。ブランドオーナーの
新商品開発部門は、時間やお金の制約が大きいので、貴社の原料が自社の製品群と如何に適合す
るのか、ということに取り組むことはできない。従って、試作品をつくることで、物事が容易に進み、貴社
が潜在的パートナーに対してコミットメントを持っているように思われる。
3. 人々が理解できる健康効果のプラットフォーム
非常に単純なことだが、消費者の視点から見て、貴社の原料が提供するベネフィットは何か、どのよう
な商品形態が最もそれを伝達できるか?原料と消費者のニーズ、ベネフィットを関連付け、そのベネフ
ィットを伝えるための最適な商品形態を特定するという考え方は、潜在的なビジネスパートナーに対す
るプレゼンテーションで、より筋の通った信憑性のあるメッセージを伝えることを可能にする。聞き手は、
貴方の分析に同意しないかもしれないが、少なくとも情報に基づくディスカッションを行い、他者以上の
信頼感を得るための十分な仕事をしたことになる。しかし、「私はこれを作った。これを欲しい人は誰?」
と言う原料サプライヤーは残念ながらまだ多数いる。
4. 消費者コミュニケーションの能力がキーである
栄養ブランドを販売している者なら誰もが直面する大きな課題のひとつが、如何に消費者が容易に
理解し、関連付けをできる方法で健康効果を伝えるかということだ。この点に関しては、「元来健康に良
い」商品の多くが長けている(トレンド 2 参照)。例えば、Ocean Spray 社は、クランベリーには科学的に
証明されている尿路感染症に対する効果があるというメッセージを送っている。これは、理解することが
容易で、全女性の 25%に影響する実際の問題と関係している。
理想としては、ある程度高い割合で、消費者市場は原料やその効果を受け入れていなくてはならな
い。例えば、オーストラリアでは、地元メディアがオーストラリアの科学界のオメガ-3 脂肪酸に対する取り
組みを取り上げたため、オーストラリア人消費者のオメガ-3 脂肪酸に対する認知度は世界で最も高い。
このことにより、オーストラリアのベーカリーグループである George Weston 社は、オメガ-3 脂肪酸を添加
したパンのブランドを作りあげ、世界第 2 位のオメガ-3 脂肪酸ブランドとなった。
しかし、消費者の認知と商品を購入しようという動機とを混同しないことが重要だ。消費者調査で質問
すると、消費者は「知っている」かもしれないが、それと、原料 X を含有する商品を購入したいと思うか、
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
ということを結びつけることは、非常にかけ離れた話である。
実際は、消費者の認知度はほとんどの健康素材において非常に低いので、誰かがその認知度を高
めるための投資をしなくてはならない。これを実行する責任は、ブランドオーナーだけにあるわけでは
ない。原料サプライヤーが投資することも戦略だ。参考となるコミュニケーションを下記する。
a) 消費者に対するPRに相当の投資をする。科学者や信用できる有名人などをスポークスマンとして
起用する(例えば、どこの国にも著名な医師がいる)。
b) 貴社がターゲットとする消費者にとって重要なメディアを慎重に選出し、的を絞った広告を行う。テ
レビはマスマーケットでは重要だが、もっと健康意識の高い、価格に対してあまり敏感でない「早期
導入者」を狙うのであれば粗雑な媒体である。このような消費者をターゲットとする場合は、食品や
ライフスタイルに特化した雑誌の方が適切だろう。
c) 健康分野の専門家によるコミュニケーション。科学的に信用のあるスポークスマンが、ホームペー
ジや資料集、カンファレンスなどを通して、栄養学者や栄養士に対して、情報提供や教育を行う。
原料会社を含め多くの企業が、様々な健康分野の専門家を日常的にターゲットとしている。以下事
例を示す。
•
McNeil Nutritionals 社は、医師や栄養士を対象に、オフィス訪問や学会、ダイレクトメールなどを
通して、同社の甘味料 Splenda が如何に肥満や糖尿病に役立つかというメッセージを送り、信頼
性を築き上げた。「医師は、栄養についての知識をもっと深め、日常的にそれを実践に取り入れな
くてはならないと認識するべきである」と MacNeil 社の専門家向け営業マーケティングディレクター
Sandy Hirsch 氏は言う。「きちんとした科学に基づくメッセージを持っていく限り、医師は時間を割
いてくれる」と同氏は追加した。
•
食物繊維の供給業者である Orafti 社は、数年間にわたり、誠実な代理人を活用して、効果的に
「市場への種まき」をしてきた。それは、ヨーロッパの国際的な栄養学会に隔年でスポンサーとなる
ことから始まった。このような取り組みは、栄養士などの独立系専門家に同社のイヌリン Beneo の効
果を納得してもらうのに役立った。その後、何名かの専門家には、Beneo の効果についての論文
執筆を依頼した。また、Orafti 社は、ヘルスクラブのトレーナーや栄養士などにも接触し、次第に
彼らが、多くの消費者から信頼される影響力のある代理人のグループとなった。「彼らは健康の専
門家として見られることが多く、消費者は、彼らからの健康に関する情報や推奨を信用する」と同
社のスポークスマンは言う。「もしジムに来て、トレーナーにお金を払っているとすれば、彼らのアド
バイスを得るために支払っているのでしょう。ジムに来る人達は、既に健康に注意しており、健康
のために投資しているのだ」と付け加えた。
d) サンプリング:消費者は、懸命に働いて稼いだお金で何か新しい原料の入った食品を買う前に、そ
れが「食べられる味」であるかを確認したいと思う。サンプリングは不可欠だという教訓は、どの商品
にも当てはまることだ。過去 10 年間で、最も強力かつ繰り返し耳にしたメッセージだ。
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Ten Key Trends in Functional Foods 2006
Box 7:ヘルスクレームは、過大評価されているコミュニケーションツールか?
健康効果のマーケティングにおいて、ヘルスクレームの役割は、多くの人々が考えているほど明確では
ない。Ocean Spray 社の事例は参考になるが、同社は科学には投資をしているが、今のところ「広告やラ
ベルでヘルスクレームを使用したことは一度もない」と同社のコミュニケーションマネージャーCynthia
Taccini 氏は言う。その代わり、コミュニケーション戦略では、味やリフレッシュに焦点を当て、「健康は明ら
かに二次的な売りのプロポジションだ」と Taccini 氏は言う。同社は、一貫した緻密なPR活動、消費者およ
び健康の専門家に対する教育、口コミ、そして実際に消費者が効果を感じられる商品であるという事実に
依存している。
これまでに実施されたほとんどの消費者調査(米国の International Food Information Council やイギリス
の Food Standars Agency の調査など)によると、消費者はヘルスクレームの理解に苦闘しており、商品ラ
ベルに記載されていることにすら気付かないかもしれない。多くの成功ブランドは、強力な、または認証さ
れているヘルスクレームを使用していない。例えば、ブルーベリーの売上は急成長しているが、科学レベ
ルはまだ初期段階で、専門家が我々に語ったところによると、ヘルスクレームを立証することはほぼ無理
だろうと言う。重要なのは、健康に良いということで、特定のヘルスクレームではない。
健康的な食品を選択したいと望む消費者は、ヘルスクレームだけでなく、様々な情報源を基に食品を
選択しているだろう。例えヘルスクレームが認められたとしても、それはコミュニケーション戦略全体の一
部に過ぎない。米国のウォールナッツの栽培者に聞いてみよう。ウォールナッツは FDA よりヘルスクレー
ムが認可されているが、業界団体によると、売上にはほとんど、あるいは全く影響していないと言う。
まとめ
•
新しい栄養科学を商品化することは、想像以上に難しいことであり、「ベストプラクティス」はまだ広
く学ばれていない。
•
新しい原料の効果を消費者に認識してもらうためには、長期的な相当の投資が不可欠であり、そ
れなくしては、今日多くの原料がそうであるように、ニッチに留まり、食品や飲料市場での飛躍はな
い。
•
消費者へのコミュニケーションにおいて重要なことは、サンプリング、PR、健康の専門家へのコミュ
ニケーションである。
ケーススタディ 11:効果の伝達は成功の鍵だ
高カルシウムの牛乳を摂取すると、骨の健康が改善し、骨粗鬆症のリスクが低減するということを消
費者に対してどのように示すか?これは、ニュージーランドの主要な乳製品メーカーである Ronterra
社が、1990 年代に、同社の高カルシウム牛乳のブランド Anlene をアジア地域へ輸出し始めた際に
直面した問題だ。どれだけの人が、自分自身の骨の状態を知っているか?また、「高カルシウム」牛
乳とは、競合他社が容易に模倣することができるので、競争力の強い商品ではない。
Fonterra 社の答えは、消費者に対して、骨のスキャンニングサービスを実施することだった。訓練を
受けた専門家のチームが、クリニックやスーパーマーケット、ショッピングモールを訪問し、骨のスキ
ャンニング機械を設置し、無料で通りがかった人々に骨のスキャンニングをサービスした(写真参
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照)。
骨のスキャンニングとは、骨密度を測定するもので、骨の健康状態が安全かつ信頼できる方法で
分かる。このサービスでは、健康の専門家による結果の解説と栄養カウンセリングも付く。
1991 年の発売以来、Anlene は、マレーシアだけで、15,000 件もの骨のスキャンニングを実施した。
アジア全体では、病院が実施した検査数よりも多く、骨のスキャンニングを実施したのではないかと
同社は考える。また、その検査データは、地域の医学界に提供されている。
この教育に対する投資の結果、利益の高いブランドの Anlene は、アジア各国で、付加価値のある
牛乳市場でトップとなり、それを持続している。例えば、マレーシアでは 70%の市場シェアを握って
おり、このような骨の健康に対するサービスを実施していない競合企業に差をつけている。
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トレンド 9:健康分野ではアジアがリード
Unilever 社が、2005 年前半に日本のイノベーションを採用して血圧低下の乳飲料をヨーロッパで発
売したことは、アジアのトレンドおよびイノベーションが世界の機能性食品および飲料市場に影響を与
え、どれほど我々西洋人はアジアの事例から学ばなくてはいけないか、ということを思い出させた。
昨年の Key Trends で述べたとおり、大成功を収めている多くの機能性ブランドや機能性商品のコン
セプトの起源はアジア、特に日本にある。プロバイオティックの乳飲料、エネルギードリンク、機能性ウォ
ーターなどはすべて、古くからアジアで確立されていた。例えば、Red Bull は、オーストリアの企業がそ
のコンセプトを取り入れる何年も前からタイ市場にあった。また、西洋では高成長を遂げている万能食
品である大豆は、何世紀もの間、アジアの食生活の一部だった。また、「1 日量サイズ」のヤクルトのよう
な商品パッケージのコンセプト(トレンド 5 参照)は、現在では世界に広まり、ヨーロッパでも一般的だが、
これもアジアが起源だ。
2005 年、Unilever 社は、ヨーロッパにおける大々的な新商品のひとつに、日本の商品コンセプトと原
料を採用し、既に日本で広く成功を収めているコンセプトをヨーロッパ市場で効果的に模倣した(Case
Study 12 参照)。
約 20 年前に機能性食品というコンセプトを生み出したのは日本だ。そして、今日でも日本の機能性
食品・飲料市場は、ヨーロッパや米国よりもはるかに発達している。日本の事例から得られる明確な教
訓は、機能性商品の売上は、整腸という「健康維持」の分野が圧倒的に大きいということだ(特保市場
5,669 億円のうち 64%を占める)。ヨーロッパでも同様に、プロバイオティクスの乳製品が機能性食品市
場を占有している。長年にわたって、消費者教育やプロモーション、革新的な商品開発が多数行われ
てきたが、特に高血圧やコレステロールをターゲットとする食品は、チャートが示すとおり、日本におい
ても、機能性食品市場全体からみると小規模だ。
新しいトレンド、新しい商品アイデア、新しい技術を求めている人は、まずアジアを見たら良い。エネ
ルギードリンクやプロバイオティクスの乳飲料というコンセプトは、Red Bull やヤクルトが西洋に導入され
たときには、真剣に捉えられなかったが、両者ともに数十億ドルのビジネスになっている。
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グラフ 9.1:日本の特定保健用食品市場−20 年が経ち、健康維持商品が過半数を占めている
ケーススタディ 12:日本の機能性食品のイノベーションがまたヨーロッパに参入
2005 年 7 月、Unilever 社は、血圧低下商品(100g 入りの 1 日
量サイズの乳飲料)を初めてヨーロッパで発売した。同商品に
は、日本のカルピス社からライセンスを受けたペプチドを有効成
分として使用している。新商品のパッケージには、その原料(ペ
プチド)が血圧を調整する、と書かれている。
新商品に使用されている有効成分は、ラクトトリペプチドとして
知られている AmealPeptide で、カゼインを酵素を用いて加水分解したカルピス社の知的財産権のあ
る原料だ。AmealPeptide という原料ブランドは、商品ラベルにはっきりと記載されている。
AmealPetide は、日本では、高血圧の人のための Ameal S というブランド商品に使用されている。
同商品は、1997 年にカルピス社によって発売された。Ameal S は、特定保健用食品として認可され
ている。カルピス社の Ameal S ブランドの飲料は、血圧対応特保市場で 70%のシェアを握ってい
る。カルピス社は、2003 年より、カリフォルニア州北部で、サプリメントという形態で Ameal S の販売を
開始し、全米への拡大を計画している。また、インターネットマーケティングも開始し、現在、
Drugstore.com を通して全米で購入可能である。
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トレンド 10:子供の栄養は優先度の高い戦略
最近の子供の肥満問題は、車での移動が多く、多くの時間をテレビやビデオゲ
ームの前で過ごし、今の親達がかつてやったように外で遊ぶ機会がほとんどない、
現代の座った姿勢の多いライフスタイルと切り離すことはできない。しかし、このこと
によって、両親、健康に関する専門家、公衆衛生の活動家が抱いている子供達の
食品の栄養の質に対する疑念が低下する訳ではない。
食品業界は、複雑なライフスタイル問題の責任の大半を不公平なまでに負わさ
れていると思っているかもしれないが、そのことに文句を言っても批判がなくなるわ
けではない。人間は得てして問題の即時解決や「特効薬」を好むものである。関係
者全員が、食品業界が行動を改めてジャンクフードの販売を中止しさえすれば、
即、子供の過体重の問題はなくなるだろうと議論すれば、非常に訴求力のある即
時解決策となる。食品業界がいくら議論しても批判する者の考えを変えることはな
いだろう。子供の運動プログラム等に企業がいくら資金提供しても、現代社会の根
本的に不均衡な「エネルギーの摂取に対するエネルギーの消費」の方程式を均衡化させることにはな
らないだろう。子供の肥満は複雑な社会問題であり、幼年時代の運動を促進するための活動を食品業
界が行っても、このような状況下では、大きな違いをもたらさない。
余談だが、この問題がどれほど複雑かを示すのに、2005 年前半にイギリスの有名シェフ Jamie Oliver
氏が行ったイギリスの学校で出される食品の健康レベルを改善させようとするキャンペーンの成功は忘
れられない。実際に、相当数の親達が、新しい健康的な学校給食プログラムから撤収し、Jamie Oliver
氏が激しく非難した脂質や砂糖の多い食品を使ったお弁当を自宅で用意して持たせた。これらの太っ
た反乱者達に共通するのは、経済的階級が最も低いということだ。この最下層の集団に、肥満や食事
に関連した病気が最も集中している。彼らは、スーパーマーケットでは、価格を決め手に買い物をする
傾向が最も高く、(一般的にプレミアム価格の)健康的な食品を最も買わない。
残念ながら、多くの企業が、運動プログラムの PR でカムフラージュしたり、スポーツに資金提供したり
することで十分だと考えている。そして残念ながら、多くの企業が、自社商品の改善を約束するが、実
際にはほとんど改善されていないか、されていたとしても非常にゆっくりとしたペースでの改善だ。
食品業界は、道徳的に高い社会倫理観念を持ち、すべての企業がすべての商品から脂質、糖質、
塩分を劇的に減らし、あまり健康的でない成分を健康的な成分に置き換えるための行動を起こしたほう
が良いと思われる。いったん、食品業界が社会問題のいけにえとされることがなくなれば(あらゆる食品
が本当に健康的なら一体いけにえにされる可能性があるだろうか)、そのときこそ、社会は、「現代のラ
イフスタイル」という本当の問題に立ち向かわざるを得なくなるだろう(19 世紀の著名なイギリス人作家
Anothony Trollope 氏の本のタイトルであり、同氏は自らの行き過ぎた 1 日を非難していた)。
残念なことに、これは理想的かつ達成不可能なビジョンである。業界にとっては残念なことだが、出来
る限り自然に近く、健康的な食品を作ることによって、多くの企業は、多くの利益を得ている。
複雑な子供の栄養分野において、天然と健康は、強力かつ最も利益をもたらす二大トレンドであるこ
とは事実である。
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1. 自然の健康:科学ではなく、単純さを追求して、子供向けのブランドを親と築く
子供の食品は可能な限り加工せず、人工添加物や保存料を使用しない、というアイデアは、これらの
基準を満たす商品にプレミアム価格を払おうとする親達に受け入れられることが証明されている。
「オールナチュラル」のシリアルを製造している米国の Nature’s Path 社が実施した調査によると、子供
たちは、様々な成分が入っている複雑なものではなく、シンプルなものを求めていることが分かった。パ
ッケージは、「楽しいもので、明らかに肥満から守ろうとしているような斬新なものは求めていない」と
Nature’s Path 社の営業マーケティング担当副社長は New Nutrition Business に語った。また、多くの母
親は、グルテンフリーのシリアルを求めている。その結果、同社の Envirokidz ブランドは大成功した。カ
リフォルニア州にある自然食品の売上を追跡する SPINS 社から Nature’s Path 社に提供されたデータに
よると、同ブランドは、シリアル市場全体の約 10%を占め、自然食品店で販売されている、子供向けの
オーガニックのシリアル市場で約 89%のシェアを握っている。業界情報によると、同市場の小売売上は、
1,000 億ドルに近づいている。
イギリスでは、オールナチュラルですぐに飲める形態のスムージー市場において、トップ企業である
Innocent Drinks 社が、濃縮物から作るのではなく、オールナチュラルの子供向け飲料を商品ラインに
追加したところ、同ブランドの信頼性が確立された。これは、イギリス市場で初めてメインストリームのス
ーパーマーケットで販売された商品だ。Innocent 社は、180mL の Tetra Wedge を 4 本入りパックで販売
し、イギリスの子供たちがお弁当と一緒に持っていくことを狙っている。180mL のパックには、1 日当たり
のビタミン C 推奨量を 100%満たしており、果物が丸ごと 1 個分入っている。子供向けの商品も、設立
間もない活動的な企業が名前を知らしめた 1 回飲みきりタイプの Innocent スムージーと同様に、オール
ナチュラルで、濃縮物から作らず、保存料を使用せず、砂糖を添加しないことを約束している。
2. オメガ-3 脂肪酸の機会
親達が「オールナチュラル」の商品を選択したいと望む理由は、我が子のために最善の選択をしたい
と思うからだ。多くの親たちは、我が子のための最善の選択の一部として、オメガ-3 脂肪酸(天然原料、
魚油)を受け入れたいと望んでいる。また、別の理由ではあるが、現代のライフスタイルと関連して、親
達は、子供たちの学校での成績が心配の種であり、子供たちの学校や将来の職の見通しで競い合っ
ている。
このような親の心配事が、脳のための食品というオメガ-3 脂肪酸のメッセージの受容性を高めている。
彼らは、心臓の健康のためにオメガ-3 脂肪酸入りの牛乳を飲んだことがないかもしれないが、もし学校
での成績が良くなるのであれば、子供の脳の健康のために購入を検討するに違いない。多くの科学界
や医学界の専門家が、子供のオメガ-3 脂肪酸摂取を支持していることも、子供に必要な栄養素として
の信頼性を獲得するのに役立っている。
イギリス初のオメガ-3 脂肪酸強化生乳は、健康意識の高い母親をターゲットとした。ヨーロッパでは、2
つ目のオメガ-3 脂肪酸強化生乳である Dary Crest 社の St. Ivel Advance ブランドには、250mL 当たり
113mg の EPA と 63mg の DHA が添加されている。
「St. Ivel Advance は、子供の発達には栄養が重要だと考える 1∼11 歳の子供を持つ母親を主にター
ゲットとした」と Dairy Crest 社は New Nutrition Business に語った。同社は、オメガ-3 脂肪酸の摂取と子
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供の学習能力および集中力の改善の関連性を発見した、世界的に注目された試験 Durham Study を
マーケティング上のメッセージをサポートするために引用している。同社によると、同試験の結果は、
「医学界が無視できないものだ」という。同試験では、3 ヶ月以上サプリメントを摂取した子供の読み書き
の能力が 40%向上した。
Dairy Crest 社は、「学習能力と集中力に対する効果は、核となるプロポジションであり、心臓の健康以
上に伝達していく」と語る。そのため、St. Ivel のボトルには、次のような文言が書かれている:オメガ-3 脂
肪酸は、学習能力や集中力を高める可能性がある。
米国では、ある企業が、天然とオメガ-3 脂肪酸
の効果を組み合わせようとしている。水牛のミルク
から作ったオールナチュラルのヨーグルトやチー
ズを生産している Woodstock Water Buffalo 社の
社長 Adrian R. Grundy 氏は、子供に対するオメガ
-3 脂肪酸の効果を知っている母親から大きな関
心が寄せられた、と弊社の Kids Nutrition Report
に語った。米国の粉ミルク市場において、オメガ-3
脂肪酸を強化した商品は大きなシェアを占めている。健康意識の高い母親が、効果を得るために子供
に与えたいと思うのは天然商品だ。DHA 強化の粉ミルクを既に使用している母親が、歩き始めた幼児
にもオメガ-3 脂肪酸を与え続けたいと望んでいるという強い関心が、同社が、米国初のオメガ-3 脂肪酸
強化ヨーグルトを自然食品店チャネルで発売し、同社の競争力を高める重要な大きな要因となった。
Grundy 氏は、オメガ-3 脂肪酸を添加するという意志決定には悩まなかったという。何故ならば、「弊社
はグルメな高級商品を提供しており、オメガ-3 脂肪酸を理解している教育のある消費者の共感を得て
いるからだ」。
健康に関する情報を十分得ている母親からの関心があったので、同社は、子供向けのより利便性の
高いオメガ-3 脂肪酸配合の商品の開発を計画した、と Grundy 氏は言う。「栄養に関する非常に重要な
ギャップを埋め、食品ピラミッドのすぐそこにある顕在化されたニーズに対応している」。
ケーススタディ 13:複数のトレンドに対応することで成功が促進される
アイルランド最大の乳業メーカーである Glanbia 社は、1 日量サイズのボトルに入った乳飲料を子供の
健康をサポートする商品として発売した。これは、トレンド 5、6、10 に対応している。
昨年前半に発売した Yoplait Everykid は、Everybody のサブブランドとして設計された。Everybody は、
「主に大人が摂取している」ブランドだと Glanbia 社の Yoplait ブランドのマネージャーLesley Sweeney 氏
は語る。
2001 年に発売した Yoplait Everybody は、Everykid の親ブランドであり、現在、アイルランドのヨーグルト
市場における 1 日量サイズのプロバイオティック飲料の約 20%占める。売上は 4,480 万ユーロだが、過去
3 年間で倍増した。1 日量サイズのプロバイオティック飲料を購入する世帯の 48%には子供がいるため、
これらの世帯は子供向け商品の明確なターゲットだった。
Glanbia 社は、フィンランドの Valio Dairy 社から、世界で最も研究されている乳酸菌のひとつである
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Latobacillus Goldin & Gorbach (LGG)菌のアイルランドにおける独占的権利を獲得している。LGG に
は、免疫強化や呼吸器感染症の発症低減など、子供の健康と関連する効果が確立されている。
90g 入りの Everykid は 4 個パックで販売されており、7∼12 歳をターゲットとしている。Everykid の焦点
は、LGG 菌の効果に特化しており、パッケージには、「自然の抵抗力を高めるのに役立ちます」と書いて
ある。
Everykid のコミュニケーションキャンペーンには、テレビやラジオでの広告や、土曜日のショッピングセ
ンターや映画館など、母親と子供が一緒にいる場所でのサンプリングが含まれる。「親のそばで子供にサ
ンプルをあげることが重要だ。保育所でサンプルを与えると、子供は飲むが、母親はそれを知ることがな
い」と Sweeney 氏は語る。
ケーススタディ 14:母乳成分で免疫強化
栄養商品に関してはヨーロッパの中でも最も革新的な乳業メーカーのひとつである、
スペインの Puleva Foods 社は、生来の防御機能を高めるというクレームをした、子供向
けの「1 日量サイズ」のプロバイオティックヨーグルトドリンクを発売した。
Max Defensas は、90mL 入りの PET ボトルが 6 本パックで販売されている。ストロベリ
ーとプレーンの 2 種類のフレーバーがある。有効成分は、Hereditum と呼ばれる知的
財産権のある乳酸菌で、Puleva Foods 社の関連会社で研究開発型企業の Puleva
Biotech 社がヒトの母乳から分離した菌株を組み合せた。Puleva 社によると、臨床試験
では、腸内バランスや微生物に対する防御の改善が見られた。Max Defensas は、この
プロバイオティクスを応用した初めての商品だ。
Max Defensas は、2003 年後半に発売された Puleva Max ブランドの拡張品として発売された。Puleva
Max ブランドには、Max Energía +という一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸(リノレン酸とα-リノレン
酸)、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、ビタミン A、B、C、D を強化した脂肪半分の乳飲料がある。同
商品は、1 リットル入りのパックで販売されている。
Max Energía +および Max Defensas ともに、4∼12 歳の子供をターゲットとしている。ポジショニングは、
日々の栄養を補完し、身体発達のために不可欠な栄養素の摂取をサポートすることだ。この点に関し
て、コミュニケーションが行われている。主要なメッセージは、「健康的な成長期のために」だ。
Max Defensas では、Maxi というネコのキャラクターを使い、パッケージは色鮮やかで魅力的だ。ヨーロッ
パでは、90mL の小さなボトルが健康飲料の標準的な形態となってきている。このサイズは、子供にとって
魅力的であり、適切な用量である。フレーバーは子供向けに開発され、コミュニケーションは子供と母親
の両方をターゲットとしている。Puleva 社は、最初の Max 商品の成功を繰り返そうと狙っている。最初の
Max 商品は、2003 年の発売以降、子供向けの栄養ミルク分野でトップブランドとなり、2005 年 5 月にはシ
ェア 44%を獲得した。
Puleva 社は、複数の栄養乳製品で大きな成功を収めてきた。そのひとつが、海洋由来のオメガ-3 脂肪
酸を強化した牛乳で、世界最大の大人向けのオメガ-3 脂肪酸強化牛乳であり、スペインでの小売売上
は、年間 1 億ユーロを超えている。
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著者
Julian Mellentin
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The Centre for Food & Health Studies
Crown House
72 Hammersmith Road
London W14 8TH
UK
発行所
株式会社グローバルニュートリショングループ
〒107-6012 東京都港区赤坂 1-12-32 アーク森ビル West 12F
電話 03-4360-3638 / ファックス 03-4360-8201
発行日
2006年4月20日
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