第2章 母子健康診査の基礎 第1節 母性保健 1. 妊産婦の健康診査 (1) 健康診査の目標 区 分 成人期(非妊娠期) 妊 娠 期 産 褥 期 少なくとも年1回 妊娠初期∼妊娠23週: 4週間に1回 妊娠24週∼妊娠35週: 2週間に1回 妊娠36週∼分 : 1週間に1回 産褥の初期: 入院期間中は毎日1回 産褥の後期:4週前後に1回 結婚生活及び将来の妊娠・分 が可能な健康状態 心身の発達 栄養状態体格(低身長・肥満) 月経(BBT) 乳房発育 妊娠を維持し、自然分 を遂行 できる健康状態 既応歴(心疾患・腎疾患・糖尿 病・結核・性感染症・ウイルス 性疾患の感染等) 胎児発育、乳房発育、妊娠に伴う 疾病の有無 (既往妊娠・分 歴に注意) 妊娠、分 に起因する障害の影 響、産褥期感染、貧血、妊娠高血 圧症候群の遺残ないし産褥期高 血圧子宮復古、乳汁分泌精神状 態 必 要 な 検 査 血圧、検尿(蛋白・糖) 血液型、貧血 梅毒、HIV抗体検査、風疹抗体 価、B型肝炎(HBs) 血圧、検尿(蛋白・糖) 計測(体重、身長、腹囲、子宮底高 、骨盤) 血液型、貧血、梅毒、HIV抗体 検査、風疹抗体価、B型肝炎 (HBs)等 血圧、検尿(蛋白・糖など) 体重(肥満)の計測、貧血 保 健 知 識 行 動 新婚・婚前学級などの受講状況 定期健診状況(結核など) 家族計画 たばこ、アルコール 口腔衛生 母親教室などの受講状況 妊婦健診受診状況 日常生活の状況(栄養、運動など) たばこ、アルコール 口腔衛生 妊娠の届出と母子健康手帳の交付 退院(入院)時保健指導の有無 育児状況 家族計画 たばこ、アルコール 口腔衛生 家 庭 ・ 生 活 環 境 配偶者又は婚約者の有無と健康 状態家族構成と健康状態 就業状況・経済的状況 食生活の状況 配偶者の有無と健康状態 家族構成と健康状態 就業状況・経済的状況 家族構成と健康状態 就業予定・経済的状況 そ の 他 年齢(高年・若年) 血族結婚、遺伝要因、薬剤使用、 X線被曝など 年齢(高年・若年) 血族結婚、遺伝要因、薬剤使用、 X線被曝など 育児上の問題 健 診 回 数 健 康 状 態 13 (2) 標準的な妊婦健康診査 平成 21 年 2 月 27 日 雇児母発 0227001 号 厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知 一部改正 平成 23 年 3 月 9 日 雇児母発 1309 第 1 号 期 間 妊娠初期∼23週 妊娠24週∼35週 健診回数(1回 目が8週の場合) 1・2・3・4 5・6・7・8・9・10 11・12・13・14 受診間隔 4週間に1回 2週間に1回 1週間に1回 毎回共通する 基本的な項目 医学的検査 妊娠36週∼分 まで ○健康状態の把握 妊娠月週数に応じた問診、診察等 ○検査計測 身長(1回目のみ) 子宮底長、腹囲、血圧、浮腫、尿化学検査(糖・蛋白)、体重 ○保健指導 妊娠中の食事や生活上の注意事項等、具体的な指導 精神的な健康の保持に留意し、妊娠、出産、育児に対する不安や悩みの解消を図る。 ○血液検査 初期に1回 血液型(ABO血液型・Rh 血液型・不規則抗体)、 血算、血糖、B型肝炎抗 原、C型肝炎抗体、HIV抗 体、梅毒血清反応、風疹 ウイルス抗体 ○血液検査 期間内に1回 血算、血糖 ○子宮頸がん検診(細胞診) ○B群溶血性レンサ球菌 (GBS) 期間内に1回 初期に1回 ○超音波検査 期間内に1回 ○血液検査 期間内に1回 血算 ○超音波検査 期間内に1回 ○血液検査 HTLV−1 30週頃までに1回 ○性器クラミジア 30週頃までに1回 ○超音波検査 期間内に1回 (平成23年4月現在) 14 2. 妊産婦の保健指導 (1)保健指導のポイント 妊娠前(中)期 妊 娠 後 期 産褥期(出産1か月前後) ・診察、検査結果に基づいた妊娠 経過とその指導 ・診察、検査結果に基づいた妊娠 経過とその指導 ・診察、検査結果に基づいた産褥 状態とその指導 ・母子健康手帳への記入 ・母子健康手帳への記入 ・母子健康手帳への記入 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・妊娠経過にあわせての一般保健 指導 定期健診の必要性 栄養・食生活の注意 タバコと酒の害 葉酸の摂取 日常生活 性生活の注意 ・妊娠経過にあわせての一般保健 指導 ・産後の経過にあわせての一般保 健指導 食生活、日常生活、性生活 ・母親教室、パパママ教室等受講 勧奨 ・夫や家族など周囲の理解と協力 ・妊産婦体操、呼吸法の指導 ・公費負担制度の活用 ・出産準備の確認(出産医療機関、 里帰り分 、出産準備品) ・出産開始の徴候の指導、不安の 解消 ・母乳育児のすすめ ・育児担当者の確認と乳幼児健診 の紹介 ・公費負担制度の活用 15 ・母乳分泌促進のための指導(止 むを得ず人工栄養の場合は調乳 法、授乳法の指導) ・育児についての保健指導 ・家族計画指導(具体的には成書 を参考にする) (2)ハイリスク妊娠 (松山栄吉:「母子保健選書 母性編(第5巻)より」 ア) 概念 ハイリスク妊娠の定義は現在確定しているわけではないが、 その代表的な概念を述べてみると次のようになる。 「ハイリスク妊娠とは、母体、胎児、又はその両者が、分 前、分 中、 あるいは分 後28日以内に異常を生じ、又は それに伴う障害の発生する可能性のきわめて高い妊娠をいう」 (MaternityCare,1977年発行) 「母児のいずれか又は両者に重大な予後が予測される妊娠」 (日本産科婦人科学会用語問題委員会案) イ) ハイリスク妊娠の内容 <統計的因子> 1. 社会経済的低階層 2.未婚の母 3. 16歳未満の若年妊婦(社会的・心理的問題に関しては、19歳以下の 妊婦も同様) 4. 35歳以上の高年初妊婦 5. 40歳以上の高年妊婦 6. 身長短小 7. 肥満 8. 栄養失調 <既往妊娠の異常> 1. 頻産婦 2. 妊娠中期以後の不正出血 3. 早産 4. 帝王切開 5. 高位鉗子 6. 遷延分 7. 脳性麻 痺、精神発達遅延、分 損傷、 中枢神経障害、先天異常などを伴う新生児の出生 8. 不妊症、反復流産、子宮内胎児死亡、死産、新生児死亡など 9. 過期産 <既往歴> 1. 高血圧、腎疾患 2. 糖尿病 3. 心臓血管障害 4. 低酸素症又は炭酸過剰を伴う呼吸器疾患 5. 甲状腺疾患、 その他の内分泌疾患 6. 特発性血小板減少性紫斑病 7.腫瘍性疾患 8. 遺伝性疾患 9. 膠原病 10.てんかん <その他の産科学的、医学的因子> 1. 妊娠高血圧症候群 2. 尿路感染症 3. 貧血 4. Rh血液型不適合妊娠、ABO血液型不適合妊娠 5. 喫煙の習慣、 アルコール中毒 6. 薬物の常用ないし中毒 7. 多胎妊娠 8. 感染症(風疹、梅毒、結核、HIV 感染症など) 9. 手術ないし麻酔の合併 10.胎盤異常ないし子宮出血 11. 胎位異常、羊水過少、羊水過多 12.胎児発育異常、胎児奇形 13. 子宮奇形 14. 妊娠中の母体外傷 ウ) 妊娠管理面におけるハイリスク妊娠の取り扱い ハイリスク妊娠の各因子をチェックし、総合的に検討して、母体及び胎児に重大な健康問題が予測される場合は その管理が可能な施設へ紹介する。妊婦の状態によっては移送方法も考慮する必要がある。 (3)妊娠中によく発見される疾病とその指導方針 ◆妊娠高血圧症候群 ア) 名称 従来 妊娠中毒症 と称した病態は、妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension;PIH)との名称に 改められた。(日本産科婦人科学会2005年4月) イ) 定義 妊娠20週以降、分 後12週まで高血圧が見られる場合、 または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、 かつ これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいう。 16 ウ) 病型分類 妊娠高血圧腎症 (preeclampsia) 妊娠高血圧 (gestational hypertension) 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿をともなうもので分 後12週までに正常に復する場合をいう。 妊娠20週以降に初めて高血圧が発生し、分 場合をいう。 後12週までに正常に復する 加重型妊娠高血圧腎症 (superimposed preeclampsia) ⑴高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し妊娠20週以降蛋白尿 をともなう場合、⑵高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存 在し、妊娠20週以降、いずれか、または両症状が増悪する場合、⑶蛋白 尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20 週以降に高血圧が発症する場合をいう。 子癇(eclampsia) 妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次痙攣が否定さ れるもの。痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇・分 子癇・産褥 子癇とする。 エ) 症候による亜分類 軽 症 重 症 <血圧>:次のいずれかに該当する場合 収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満の場合 拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満の場合 <蛋白尿>:原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、300mg/日以上で 2g/日未満の場合 <血圧>:次のいずれかに該当する場合 収縮期血圧 160mmHg以上の場合 拡張期血圧 110mmHg以上の場合 <蛋白尿>:蛋白尿が2g/日以上の場合。 なお随時尿を用いた試験紙法による尿 蛋白の半定量は24時間蓄尿検体を用いた定量法との相関性が悪いため、尿中 蛋白の上昇度の判定は24時間尿を用いた定量によることを原則とする。随時尿 を用いた試験紙法による成績しか得られない場合は、複数回の新鮮尿検体で、 連続して3+以上(300mg/dl)の陽性と判定されるときに蛋白尿重症とみなす。 オ) 発症時期による病型分類 早発型 妊娠32週未満に発症するもの 遅発型 妊娠32週以降に発症するもの 17 ◆妊娠貧血 表 母性各期の鉄必要量 妊娠中には生理的に循環血液量が増加 (800∼1500㎖)するが、血球成分の増加に比 1日あたり平均鉄必要量(㎎) し、血漿量の増加が相対的に大かつ速であ るため水血症を呈する。 この状態は妊娠4か 0.6 乳幼児期 月頃から出現し、妊娠7∼9か月頃が最大と 1.2 成長期 なる。従ってWHOは貧 血の基 準をHb値で 1.2 成人女子 +0.8 妊娠前半期 11 g /dl未満、 Ht値33%未満としているが、 +3.0 後半期 水血症状態の経過から後半期の基準をHb +2.4 授乳期 値10.0∼10.5 g /dl程度にする学者もある。 いずれにしても妊 娠 経 過にそった血 液 性 状 の変化を考慮に入れた指導が必要である。 妊娠貧血の殆んどが鉄欠乏性貧血といわれ、妊娠、産褥期の鉄需要(上表)から考えて、妊娠前から、或い は遅くとも妊娠前半期までには、貧血の程度を把握し、十分に栄養指導し、予防していく必要がある。 ただし貧血の中には頻度は少ないが再生不良性貧血や白血病があるので、 その程度が強くまた栄養摂取 や鉄剤投与に反応しない貧血は精検を要す。 ◆糖尿と糖尿病 ・尿糖が陽性になった場合、腎臓の血糖排泄閾値低下による単純な腎性糖尿か真性糖尿かを区別する必 要があるので、妊娠中に空腹時尿糖が2回以上続く場合は、糖負荷テストを行う。(真性糖尿頻度 妊娠の 0.05∼0.5%) ・糖尿病の場合には、妊娠高血圧症候群、羊水過多症などの合併が多く、児については巨大児、奇形児の 発生、周産期死亡の発生頻度が高い上、生後数時間で低血糖を来たし無呼吸発作を起し易いので専門 医の管理が必要である。 【参考】 妊娠糖尿 妊娠後半期に糖尿をみることがある。 これを妊娠糖尿という。 これは腎糸球体濾過率(GFR)が増し、尿細管 でのブドウ糖の再吸収能が低下するためと考えられている。 妊娠糖尿病 妊娠してはじめて耐糖能異常に気づくことがある。妊娠に伴う母体の変化によって高まったインスリン抵抗性 に見合うだけの内因性のインスリン分泌が得られないことによる。治療は、糖尿病合併妊娠に準ずる。 分 後、耐糖能が戻っても、将来糖尿病を発症する可能性が高い。 ◆その他の合併症 ・結核症、気管支喘息、心臓疾患、甲状腺機能亢進症など重大合併症がある場合は各々の専門医の管理 下におき、 その指導内容を把握して援助をする。 ・悪阻の強い場合は、 その症状の客観的判断と、情緒安定への指導が必要。 体重増加が進行する場合 は専門医に紹介する。 ・静脈瘤は長時間の起立、歩行を避け、就寝時、下肢をあげるなどの指導をする。 ・痔は、便通の調整、入浴、局所の清潔、坐薬などの使用により悪化を防ぐ。 ・帯下は、妊娠中に生理的にも増加するが、 自覚症の強い場合は膣炎を疑い、検査、治療をうける。 18 (4) 妊娠時に行う検査とその考え方 ◆血液型 ア) 検査の必要性 ①妊娠・分 に伴う不慮の事故に備える。 ②血液型不適合妊娠の予測。 イ) 血液型不適合妊娠と新生児溶血性疾患の発生についての指導 ①Rh式血液型の場合 Rh陰性の場合は専門医で管理 ②ABO式血液型の場合 O型妊婦の場合は新生児期の重症黄疸についての早期発見の必要性を指導 ウ) 血液型の遺伝についての指導 ①Rh式血液型の頻度とその遺伝様式 ②ABO式血液型 〃 ◆梅毒血清反応 ア) 検査の必要性 ①梅毒の早期発見と早期治療 ②先天性梅毒児の発生予防 イ) 検査のすすめ方 図 妊婦梅毒のスクリーニング法 判 定 (−) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ STS 妊娠34週に再検 (−) BFP (−) →FTA・ABS (+) −TPHA STS定量 (+) 新しい感染 (+) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・比較的古い感染 (注)STS:serologic test for syphilis 非特異的反応である。 感染機会後早期に陽性となる。 治療効果判定に有用。 TPHA:treponema pallidum hemagglutination 特異的反応である。 感染機会後、陽性化まで時間がかかる。 治療しても陰転化しにくい。 FTA・ABS:fluorescent treponemal antibody-absorption 特異性が高い。 感染機会後比較的早く陽性化する。 BFP:biological false positive 19 ウ) 判断のめやす 表 梅毒感染の機会があった場合の検査結果と判断のめやす ◆風疹抗体価検査 ア) 検査の必要性 〇先天性風疹症候群の発生予防 検査時の注意事項 ①罹患、予防接種の既往は参考になるが、 その有無に かかわらず抗体価を測定する必要がある。 ②妊娠前に測定することが望ましい。 ( 検査は1回でよい) ③妊娠中の測定は妊娠前期で2週間隔で2回検査する。 20 イ) 抗体価判断のめやす a 表 風疹HI抗体価と判断のめやす (旧厚生省研究班による) やむをえず1回の 採血による場合 2回以上の採血による場合 感染の機会が あった場合 風疹を疑う症状 のあった場合 その他の場合 採 血 時 期 判 定 採血時期 第1回 感染機会後2週間以内 第2回 第1回の採血後2週間以降 第1回抗体価よりも第2回(以 降)の抗体価が4倍以上上昇し た場合は初感染(発症又は不顕 性)又は再感染による抗体の再 上昇(追加免疫効果)と考えら れる。再感染の場合には妊婦 でも胎児に対する影響はない と考える。 感染機会の あった後4週 間以上を経た 時期 1回の採血による場合に準じ て判断する。(b表参照) 成人女性につ いては妊娠前 の検査が望ま しい 第1回 発症後4日(第4病日)以内 第2回 第7病日以降 正確な判断のためには上記条 件による検査が望ましいが、 上記の条件にあわない場合も 抗体価の確認のため1週間以 上の間隔をおいた2回以上の 検査が望ましい 判定 風疹を疑う症 状のあった時 から2週間以 上経た時期 b 表 参 照 b 表 風疹HI抗体と判断のめやす 8倍未満 8∼128倍 256倍以上 一般的な注意事項 妊婦についての注意事項 風疹に対する免疫がない。 今後風疹に罹患するおそれがあるの女性におい ては妊娠前にワクチン接種を受けておくことが望ま しい。 なるべく風疹患者と接触しないようにつとめること。特 に妊娠第5月までは注意を要する。 風疹に対する免疫がある。 1年以上前に感染して得た免疫である可能性が 高い。 ただし8倍という抗体価を必ずしも確実に免 疫があるといえないこともありうるので、 若い女性の 場合はワクチン接種を受でけておくのもよい。 1年以上前に、多くは小児期に感染して得た免疫で ある可能性が高いが、 抗体価の確認のため、 流行期では妊娠初期1∼2か月おきに採血 して検査を行い、 感染の有無を確かめること が望ましい。 不顕性感染による抗体上昇のはじまりであ る可能性も考えられるので 8∼32倍程度の比較的低い抗体価の場 合は再感染により抗体価の上昇をみる場 合がある 1∼2週以後に再度抗体価を検査することが望ましい。 風疹に対する免疫がある。 最近の2年以内に初感染をうけたか、再感染に よって抗体価の再上昇をみた可能性がある。 最近発疹やリンパ節腫脹を伴う熱性疾患にか かっていれば、 それが風疹であった可能性が強い 最近、発疹やリンパ節の腫脹を伴う熱性疾患にか かっていれば、 それが風疹であった可能性が強い。 ただし風疹様症状が認められない場合は、感染時 期が妊娠前か妊娠後であるか性疾患にかの判定を 行うことは困難である。 そのため周囲の流行状況、 患 者との接触の有無などを参考として判断する程度の ことしかできない。 症状がなくても512倍以上の抗体価が認められた場 合はごく最近(3か月以内程度) に初感染があった可 能性が高いが、 再検査が望ましい。 21 ◆B型肝炎 ア) 検査の必要性 ①B型肝炎の早期発見 ②B型肝炎の垂直感染予防の対策 イ) B型肝炎母子感染防止対策フローチャート ※なお、 HBs抗原陽性の妊婦及び乳児については専門医による定期的な健康管理が必要である。 22 表 血中HBV関連抗原抗体の意義 図 感染形式 23 ◆HIV感染症 (Human immunodeficiency virus) ア) 概念 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によっておこる。感染から発症まで数か月から10数年の長い潜伏期がある。 なかには、 キャリアのまま発症しない例も少数みられる。 イ) 歴史 1981年アメリカで、世界で初めてのエイズが報告された。 もともとアフリカの風土病といわれているが、 その後 急速にアメリカ、欧州、南米に広がり、現在は、サハラ以南アフリカ、 アジア地域にて患者が激増している。 ウ) 病態 a 無症候性キャリア(Asymptomatic carrier:AC) まれに、感染後2∼8週間のちに、発熱・頭痛・全身 怠感などの感冒様症状がみられる。通常は、特に 症状もなくHIV感染に気づかないことが多い。 この期間は、宿主により個体差が大きく、数か月から10数年以 上に及ぶ。 本人に自覚症状はないが、 HIVを保有し、性的接触等により他の人に感染させる可能性がある。 b AIDS関連症候群(AIDS related complex:ARC) ACの後、 『 体の調子がすっきりしない』 というような表現で示される自覚症状を認めるようになる。免疫力の 低下により発熱、下痢、 リンパ節腫脹、口腔カンジダ等の症状が出現する。 この後、速やかにAIDSへ進行し ていく例と、 そのままの状況で数年以上推移する例もある。 c AIDS(Acquired immunodeficiency syndrome) 免疫細胞数が激減し、免疫不全状態となり、健常な人であれば容易に増殖を抑えることができるウイルス・ 細菌・真菌等が宿主の体内で増殖する日和見感染症や、悪性リンパ腫、 カポジ肉腫、神経障害などを発症 する。 エ) 診断 HIV抗体検査のスクリーニング法として、酵素抗体法(ELISA)、 ゼラチン粒子凝集法(PA)があり、陽性例に は、確認検査としてWestern Blot法又は蛍光抗体法(IFA)を行う。感染後、抗体が陽性になるまでに6∼8週 間を要するので、感染機会の時期の確認が重要である。最近では、抗原検査、 PCR法、 ウイルス培養などの病 原検査も行われる。上記によりHIV感染が認められ、かつ特徴的症状 (Indicator diseases、23疾患)のうち1 つ以上が明らかに認められる時はAIDSと診断する。 また、 HIV感染者が妊娠すると、約30%の確率で母子感染がおこる。経路としては、子宮内感染、産道感 染、母乳感染があげられる。 ◆HTLV-1(Human T-lymphotropic Virus Type I)感染症 ア) 病態 ヒトTリンパ向性ウイルス1型(Human T-lymphotropic Virus Type : I HTLV-1) は、 成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL) の原因ウイルスである。HTLV-1とATLの関連については、 HTLV-1キャリア (HTLV-1の 症状はないが、 ウイルスを体の中に持っている状態) が40歳以上になると、 1年間に1000人に1人の割合でATLが発 症すると推測され、 HTLV-1キャリアのATLの生涯発症率は3-5%といわれている。 その他、 HTLV-I関連脊髄障害 (HTLV-1-associated myelopathy:HAM)、HTLV-1関連関節障害(HTLV-1 associated arthropathy: HAAP) 、 HTLV-1関連気管支・肺障害(HTLV-1 associated bronchopneumonopathy:HAB) 、 HTLV-I関連 ぶどう膜炎 (HTLV-I associated uveitis:HAU)を引き起こすことがある。 HTLV-1キャリアの分布には地域性があり、 日本国内では九州、 沖縄などに多く認められる。感染経路としては、 母 乳、胎盤、産道を介して垂直感染する経路と性交、輸血、臓器移植などの水平感染する経路がある。輸血に関して は、 1986年以降、 献血者の抗HTLV-1抗体検査が実施されており、 感染の可能性はほぼ無い。 また、 ATLが発症す 24 るまでには潜伏期間が50-60年あり、成人期以降の水平感染では、ATLが発症する可能性は極めて低い。 そのた め、 ATLの発症を減少させるには、 垂直感染の主な経路である母乳を介しての感染を防ぐことが大切である。 イ) 感染の確認 2010年10月に厚生労働省より、HTLV-1抗体検査を妊婦健康診査の標準的な検査項目に追加するととも に、公費負担の対象とできるように補助単価の上限額を改定する旨の通知が出された。HTLV-1キャリアスク リーニング検査は妊娠初期から妊娠30週頃までにCLEIA法またはPA法にて行うが、いずれの方法にも非特 異反応による偽陽性が存在するため、陽性と診断された場合は必ずWestern blot法で確認する必要があ る。 ウ) 母子感染の予防 長期母乳栄養で15-20%の母子感染が生じる。母子感染を低減する方法として以下の3つが推奨されてい る。 a.人工栄養(母子感染率を約1/6、3%に減少させる) b.3か月までの短期母乳栄養(3か月以内の母乳栄養で1.9%、3-6か月の母乳哺育で約10%、6か月以上の母 乳哺育で約20%の母子感染が生じるとの報告がある) c.凍結母乳栄養(症例数が少ないが、母子感染率を3%に減少させるという報告がある) なお、妊婦が母乳感染のリスクを承知した上で母乳哺育を継続するという選択肢もある。 エ) 出生児への対応 3歳以降にHTLV-1母子感染の有無を確認する。 ◆性器クラミジア感染症 ア) 病態 性器クラミジア感染症はクラミジアトラコマチスが性行為により感染したもので, 本邦の性感染症の中で最も患者数 が多い。女性では子宮頸管炎や骨盤内感染症を、 男性では尿道炎や精巣上体炎を発症する。女性性器への初感 染部位は子宮頸管であり、 感染後1∼3週間で子宮頸管炎を発症する。時に帯下の増量を訴えるが、 約50∼70%は 無症状保菌者といわれており、 受診機会がないと感染源となり蔓延する可能性がある。 妊婦のクラミジア感染症は, 子宮頸管からの感染が拡大すると絨毛膜羊膜炎を誘発し、 子宮収縮を来すことにより 流早産や前期破水の原因となることもある。 また、 産道感染により新生児結膜炎、 咽頭炎、 肺炎などを発症させる。 イ) 診断 新生児クラミジア感染症を予防するためには、妊娠中にクラミジア子宮頸管炎のスクリーニング検査を行い、 陽性者に対して分 前に治療をしておくことが必要である。実施時期に関しては一致した見解はないが、結果 の判定に要する日数と治療期間を考慮し妊娠30週頃までに評価することが望ましいとされている。子宮頸管 へのクラミジア感染の診断は血清抗体検査のみでは不十分であり、子宮頸管の分泌物や擦過検体中のクラミ ジアトラコマチスの検出によりなされることが望ましい。検査方法には、分離同定法、核酸増幅法、核酸検出法、 EIA法があるが、核酸増幅法が高感度である。 一方、流産防止を目的とした妊娠初期のクラミジアスクリーニングの有用性については、否定的な研究結果 が報告されている。 ウ) 治療 日本性感染症学会「性感染症診断・治療・ガイドライン2006」には、妊婦に対する性器クラミジア感染症治療 薬として、 アジスロマイシンとクラリスロマイシンが投与可能と記載されている。治癒の判定には、治療3-4週間 後に核酸増幅法などにより病原体の陰転化を確認する。加えて、 クラミジア陽性妊婦のパートナーにも検査・治 療を勧めることが望ましい。 25 3. 妊娠期からの子育て支援 −虐待予防の視点からのハイリスク家庭の抽出方法と支援について− 子育てを取り巻く環境として、少子化・核家族化が進み、子どもとふれあう経験がないまま親になる人が増え ている。 さらに、昨今景気の低迷で、経済的困窮を訴える人も多くなってきており、子育てを支援する環境が不 十分な中で、生活のために働きながら子育てをする母親も増えている。 また、望まない妊娠や孤立した育児、経済的問題、保護者の生育歴・病気・性格などの問題が複雑に絡み 合うことで、子育てが困難になり、深刻な児童虐待につながるケースがあり、ハイリスク家庭を早期に発見し、早 期に子育て支援を行うことは重要である。 アメリカには周産期や出生直後にハイリスク家庭を把握し、集中的な家庭訪問支援を行うことによって虐待 予防の成果をあげている「健康な家族アメリカ」 (Healthy Families America:HFA)のプログラムがある。 ※ その取組を参考に研究班 では、妊娠中からハイリスク家庭を早期に発見し、支援するための方法を検討して おり、先駆的な県内の取組事例も交えて紹介する。 (1) 支援が必要な家庭の把握 (抽出) −支援が必要な家庭のふるいわけ項目― HFAでは、虐待ハイリスク家族を把握し、集中的な家庭訪問支援を行うために、標準化されたアセスメント 方式を用いることを原則としている。HFAの認可を得たオレゴン州では、初めて赤ちゃんが生まれたすべての 家庭を対象に産院でハイリスク家庭を抽出し、ハイリスク家庭には、 さらにアセスメントを加え、集中的な家庭訪 問支援が行われる。 オレゴン州の産院での虐待ハイリスク家庭の抽出は、全20項目 (子ども情報:4項目、母の情報16項目) により 行われている。研究班では、 これらの項目を参考に日本における支援が必要な家庭を抽出するための項目を作 成した (下表)。 オレゴン州では、下表内の②母の年齢(17歳以下) ⑦現在、 タバコ、 お酒、薬物に依存 ⑩ 心療内科や 精神科で薬をもらったことがある(既往歴) ⑬ ここ1年間に、 うつ状態が2週間以上続いたことがある(不眠、 イライラする、涙ぐみやすい、何もやる気がしない、食欲不振、精神症状があるなど) に1項目でも該当したらハイ リスク家庭とし、 その他の項目では2つ以上該当があればハイリスク家庭としているが、 その基準については、 さ らに検討が必要である。現在試行的にこの項目を取り入れている自治体の結果を踏まえて基準も決め、平成23 年には「ふるいわけ(日本版)」を完成させる予定である。 支援が必要な家庭のふるいわけ項目<案> ① 結婚していない(未婚、離婚)、別居している ② 母の年齢(19歳以下)(オレゴン州では17歳以下) ③ パートナーに(ひとり親は本人に)決まった仕事がない ④ 経済的に困っている ⑤ 高校を卒業していない(父、母) ⑥ 困った時に助けてくれる人がいない(家族や身近な支援がない) ⑦ 過去か現在、タバコ、お酒、薬物に依存 ⑧ 最初の妊婦健診が、妊娠5か月(20週)以降だった ⑨ 2回以上、中絶したことがある ⑩ 心療内科や精神科で薬をもらったことがある(既往歴) ⑪ 望んだ妊娠ではなかった ⑫ 夫婦関係の問題がある(DVなど) ⑬ ここ1年間に、うつ状態が2週間以上続いたことがある (不眠、イライラする、 涙ぐみやすい、何もやる気がしない、食欲不振、精神症状があるなど) ⑭母は日本語が理解できない外国人である ⑮その他気になる理由(多胎、未熟児、ステップファミリー、育児不安など) 26 (2) 支援が必要な家庭のふるいわけ項目の活用と支援 日本の母子保健システムの中では、母子健康手帳交付時に、前述の「支援が必要な家庭のふるいわけ項 目 〈案〉」を組み入れた妊娠届出書やアンケートを実施することにより、妊娠の早期にハイリスク家庭の抽出が可 能となる。ハイリスク家庭については、特定妊婦として養育支援訪問事業や、妊婦の同意を得て、医療機関に 連絡することで医療機関とも連携した支援へとつなげる。 また、周産期医療機関においても、受診時や出産時のアンケートなどにふるいわけ項目を組み入れることによ りハイリスク家庭の抽出を行うことができ、市町村で把握できなかったハイリスク家庭の発見が可能となる。周産 期医療機関が把握したハイリスク家庭については母子連絡票等により保健機関に連絡し、保健師による「新 生児訪問」や「養育支援訪問事業」につなげ継続的な支援を行なう。 (3) 支援が必要な家庭のふるいわけ項目を活用した取組事例 田原市では、平成22年度から妊娠届出書と母子健康手帳交付時アンケートに支援が必要な家庭のふるい わけ項目を組み入れ、試行的にハイリスク家庭の抽出と支援を行っている。 母子健康手帳交付時には、妊娠届出書とアンケートの項目に沿って保健師がきめ細かな面接を行い、抽出 されたハイリスク家庭には、妊娠期から家庭訪問等による支援を行っている。 妊娠届出書やアンケートに支援が必要な家庭のふるいわけ項目を入れたことによるメリットは、以下のとおり である。 ①妊娠届出書:両親の職業や学歴、喫煙・飲酒の状況、出産経験(中絶回数等) を組み入れたことにより、面 接ではやや聞きにくい項目も事務的に把握できる。 ②アンケート:妊娠に対する気持ちやうつ状態などの項目を入れ、母の気持ちなどをさらに深く聞くことができ、 同時に温かいメッセージを送ることができる。 〇巻末参照 ①妊娠届出書(田原市) ②母子手帳交付時アンケート (田原市) ※平成22年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業 「健やか親子21を推進するための母子保健情報の利活用に関する研究」班 分担研究者 山崎嘉久 27 4. 妊産婦の歯科健康診査 (1) 歯科健康診査 目 標 ・妊娠による口腔環境の変化と口腔の健康状態を把握する。 ・妊娠や出産に伴う身体的、心理的、社会的変化に配慮した、生活習慣改善などの保健指導 を行う。 ・歯科治療を勧奨する。 ・母親自身の口腔の健康意識が子どもの歯の健康状態に影響を与えることから、妊娠期に適 切な知識と実践が身につくよう支援する。 望 ま し い 健 診 回 数 妊娠中:2回(初期∼中期、後期) 産後:1回 妊 娠 中 の 主な口腔の 疾病・異常 う 歯周病(妊娠性歯肉炎、歯周炎) 妊娠性エプーリス 健全歯の 痛発作 妊 娠 中 の 口腔内の特徴 ・ホルモン分泌の変化による唾液pH値の低下、歯肉局所の血管系に影響 ・つわりによる不規則な食生活、胃酸の逆流、歯口清掃の困難 ・重度の歯周病と早産・低体重児出生との関連性 ・妊娠性エプーリスの発症(産後縮小あるいは自然消失する症例がある。) ・健全歯の 痛発作の発症(妊娠初期まれに、歯髄充血による内圧高進により発症する。食 事時やブラッシング時に多数歯にわたり 痛を自覚することがあるが、通常5∼6か月で 自然消失する。) 自覚症状:つわりの状態、歯肉の発赤・腫脹・出血、口臭、歯の痛みなど 生活習慣:歯みがきの状況、飲食回数、定期健診の有無、喫煙の有無など 問 診 項 目 ※問診に「歯の健康づくり得点」を活用してもよい。 「歯の健康づくり得点」とは、愛知学院大学歯学部中垣晴男教授グループが開発した、 8020達成(歯の喪失予防)のための生活習慣チェックツール ○住 民:自分自身の歯の喪失リスクを知り、行動変容を促すことができる ○市町村:地域の特徴が把握でき、その地域に必要な施策が検討できる 健 診 項 目 現在歯、う (未処置歯)、補綴(処置歯)の状態 歯周病の状態(CPI) 歯石付着、口腔清掃の状態 その他(軟組織疾患、不正 合など) 記 録 母子健康手帳p.11「妊娠中と産後の歯の状態」の欄を活用する。 報 告 地域歯科保健業務状況報告(様式1)により報告、県集計、還元を行う。 28 (2) 歯科保健指導のポイント 妊娠初期(∼15週) 歯 口 清 掃 ブラッシング 妊娠中期(16∼27週) 妊娠後期(28週∼) ・妊娠による口腔内環境の変化を説明し、プラークコントロールが不十分だとう や歯周病 が発症・悪化しやすいため、ていねいなブラッシングを心がける。 ・出産後の生活の変化により、自分自身の健康管理を怠りやすいため、ブラッシングの習慣 づけを徹底する。 ・歯科医師や歯科衛生士からブラッシング方法やフロスの使い方など、専門的アドバイスを 受ける。 ・つわりで気分の悪い時には、小さめの歯ブラシを使う、歯磨剤を使わない、洗口する、な どの対処法を伝える。 ・体調がよければできる限 り治療を終える。 ・歯周病を予防するため、 歯石除去を受ける。 ・治療が必要な口腔疾患が ある場合は、「妊娠後期 から産後しばらくは治療 や通院が困難になること が多いため」妊娠安定期 に計画的に受診する。 ・口腔内のミュータンス菌 数を減らすため、う 治 療を完了する。 ・歯周病を予防するため、 歯石除去を受ける。 ・重度の歯周病と早産・低 体重児出産との関連性の 報告があることから、歯 周病を放置せず、適切な 治療を受ける。 乳歯の形成と 栄 養 摂 取 ・乳歯の歯胚形成が行われ る時期であるため、たん 白質を十分に摂取する。 ・ほとんどの乳歯の石灰化が進行しつつあるため、カルシ ウムなどの無機質や、カルシウム代謝に関連があるビタ ミンA・Dなどを摂取する。 喫 煙 受 動 喫 煙 ・妊娠期の喫煙は、低体重児出生などの重大なリスクとなるとともに、歯周病のリスクでも ある。 ・受動喫煙においても同様にリスクとなり注意が必要である。 ・禁煙の意思を確認し、早期の禁煙を促す。 (2.4.4 母子保健活動における禁煙支援 参照) 歯 科 治 療 乳 児 の 口 腔 衛 生 ・乳児の口腔内に異常が認められた場合は、保護者のかか りつけ歯科医あるいは小児歯科医に相談する。 ・乳歯の萌出時期について情報提供する。 ・乳児の口腔は大変敏感であるため、歯みがきを始める前 の準備として、ガーゼでの手入れによる脱感作とスキン シップについて情報提供する。 (2.3.2 歯科保健指導のポイント 参照) 29 30 第2節 乳幼児の発育と発達 1. 発育とその評価 (1) 身体計測の手技 <乳 児> 手技・注意事項 測定条件・部位 体 重 (g) 感度10g以下の体重計を使用し、全裸(おむ つを使用する場合はその重量を後で差し引 く)で仰向けか、坐位。10g単位まで読む。 体重計0位確認 針静止時判読 哺乳、排便を考慮 ミリ目盛仰臥式身長計を用い、頭頂と足底を 板に密着させ(耳眼面が台板と垂直、足底面も 垂直)股・膝関節を伸展させ、 1㎜単位まで読む。 補助者に頭部を固定させ、測定者は乳児の右 手に立ち、乳児が力を抜いた時、左手で下肢 を伸展させ、右手で移動板をすべらせる。 身 長 計 (㎝) 眼窩点(A)と耳珠点(B)とを結んだ直線が台板(水平面)に垂直になるように 頭を固定する。図では頭部を保持するための手を省略している。 巻尺(ガラス繊維入りの合成樹脂製、JIS規格) を用い、仰臥位で、前方は眉間点 (左右の眉の 中間点)、後方は後頭点(後頭部の一番突出して いる点)を通る周径を1㎜単位まで読む。 測 測定者は、巻尺の0点を確認して持ち、他手 で後頭点を確認してあて、左右高に注意して 巻尺を眉間点を通らせて、その周径を測定す る。 頭 囲 (㎝) 前方は左右の眉の直上、後方は後頭部の一番突出しているところを通る周径を計測 する。前方はひたいの最突出部を通らないことに注意する。 31 手技・注意事項 測定条件・部位 巻尺 (ガラス繊維入りの合成樹脂製、JIS規格) を用い、全裸で仰臥位にし、両肩甲骨下角の 直下で、前方は乳頭点を通る周径を1㎜単位 まで読む。 計 強くしめずに呼気と吸気の中間で測定する。 泣いている時は避ける。 胸 巻尺が左右の乳頭点(A)を通り、 体軸に垂直な平面内にあるようにする。 測 囲 (㎝) 32 <幼 児> 手技・注意事項 測定条件・部位 体 重 (kg) パンツ1枚で立位で100g単位まで読む。 排便・排尿がすんだ状態がよい。 測定不能の場合は抱いて測定し、後で抱い た人の体重を引く。 原則、足先を30゜位開かせ、踵、臀部、背部 を直線状に尺柱に接しさせ、顎をひかせ眼は 水平正面を向かせ(耳眼面が水平)、1㎜単位ま で読む。 補助者が顔の位置を同じ位の高さにして話し かけ、両手を下げた形で持ってやる。測定者 は児の左側に立ち、可動水平桿を右手で持 ち、軽く頭頂部まで下げる。2歳未満は仰臥 位、2歳以上は立位で計測する。 身 計 眼窩点(A) と耳珠点(B) とを結んだ 直線が水平になるように頭を固定する。 長 (cm) 測 巻尺 (ガラス繊維入りの合成樹脂製、JIS規格) を用い、坐位または立位で、前方は眉間点 (左 右の眉の中間点)、後方は後頭点 (後頭部の一番 突出している点)を通る周径を1㎜単位まで読 囲 (cm) む。 頭 胸 巻尺 (ガラス繊維入りの合成樹脂製、JIS規格) を用い、上半身裸で立位をとらせ、両肩甲骨 下角の直下で、前方は乳頭点を通る周径を1 囲 (cm) ㎜単位まで読む。 33 測定者は巻尺の0点を確認して持ち、他手 で後頭点を確認してあて、左右高に注意し て巻尺を眉間点を通らせて、その周径を測 定する。 両腕を軽く開かせ、測定者は巻尺の0点を 確認して左記の周径を測定するが、巻尺は 強くしめず、皮膚面からずり落ちない程度 とし、呼気と吸気の中間で測定する。 (2) 発育の評価 測定した体重、身長、頭囲の測定値をパーセンタイル発育曲線上にプロットして一定期間の増加量で判断 する。測定値の評価に際しては、在胎週数、生下時体重、親・兄弟の身体状況などを参考にして判断する。早 期産児の場合に修正月齢を用いることは評価に有用である。 一応の基準として10%タイル以下、90%タイル以上は指導または観察対象として検討する。 3%タイル以下、 97%タイル以上は観察または精検対象として考慮する。 ただし、パーセンタイル発育曲線に沿った変化であるかどうかがより重要である。経過観察中に、パーセンタイ ル値の所属が2階級以上、上下した場合は注意する。 報告すべき評価基準は以下に掲載(巻末参照) 4.2.1 体重の評価、4.2.2 身長の評価、4.2.3 頭囲の評価、4.2.5 低身長、4.2.6 身体発育不良 パーセント発育曲線は以下に掲載 パーセンタイル発育曲線(体重、身長、頭囲、胸囲)平成12年乳幼児身体発育調査 【例】体重減少:1階級∼2階級 【例】体重減少:2階級を超えた減少 1日平均増加量を計算し、個人的条件(在胎週数、生下時体重な 生後1か月児健診や3∼4か月健診では、 ど) も加味して判断することもできる。 (参考) 1日平均体重増加量 1∼3か月 30∼25g/日 3∼6か月 25∼20g/日 6∼9か月 20∼10g/日 9∼12か月 10∼7g/日 出典 系統看護学講座 小児看護学[1] (注) 1か月児健診では20g/日未満 (2∼3 週前の測定日から計算)、3∼4か月児健診で は15g/日以下 (1∼2か月前の測定日から計 算) の増加の場合は注意を要する。 34 低出生体重児の分類 低出生体重児(2,500g 未満) 極低出生体重児(1,500g 未満) 超低出生体重児(1,000g 未満) (3) 幼児の肥満とやせの判定 肥満とやせの判定には、肥満度(%) を用いる。 肥満度は、体重と身長から幼児の身長体重曲線または以下の計算式により判定する。 肥満度(%) = (実測体重-標準体重) ÷標準体重×100 ・標準体重(男児) = 0.00206×実測身長(cm) 2 −0.1166×実測身長(cm) + 6.5273 ・標準体重(女児) = 0.00249×実測身長(cm) 2 −0.1858×実測身長(cm)+ 9.0360 報告すべき評価基準は以下に掲載(巻末参照) 4.2.4 肥満度 幼児の身長体重曲線は以下に掲載(巻末参照) 幼児の標準身長体重曲線 平成12年乳幼児身体発育調査 報告に用いる肥満とやせの区分と呼称 呼 称 区 分 1: 肥満度≧30% 2: 30%>肥満度≧20% 3: 20%>肥満度≧15% 4: 15%>肥満度>−15% 5: −15%≧肥満度>−20% 6: −20%≧肥満度 35 ふとりすぎ ややふとりすぎ ふとりぎみ ふつう やせ やせすぎ 2. 発達とその評価 (1) 乳幼児健診での正常発達の評価 ア) 身体計測による評価 身長、体重、頭囲の測定も発達評価の基本となる。当該月齢の正常範囲に達していれば正常と考える。 ま た、身長、体重のバランス (Kaup指数、Rohrer指数など)、身長と頭囲の相関も評価に役立つ。早産児、SFD (small for date)児では、頭囲の増加が発達と関連することがあるので、 これに注意する。 イ) 運動発達 運動発達の評価は乳幼児健診においてたいへん重要である。 それは、評価が容易であること、乳幼児期で は運動発達と精神発達がほぼ比例することによる。 まず運動発達を評価することで、発達全体のおおよその評 価ができるが、両者が一致しない場合、言語発達と社会性の発達が相関しない場合なども起こりえることに留 意すべきである。 運動発達は、粗大運動発達と微細運動発達に分けて観察する。 また、発達の評価には必ず個人差のある こと、遅れが認められても経過を見るうちにキャッチアップすることもまれでないことなどを念頭におく。 ウ) 精神発達 乳児期の精神発達は、周囲に対する関心、反応などでチェックされる。乳児は、1か月半頃で物を見る、2か 月過ぎから物を目で追う、反応笑いがみられる。3か月ではガラガラなどを持たせるとほんのわずか手に持って遊 び、4か月では偶然触れた物をつかみ、5か月では近くの物をつかむ。6か月では手を伸ばして欲しい物をつか み、つかんだ物をもう一方に持ちかえることができる。 7か月頃の人見知り、9∼10か月頃のものまね行動も精神発達の指標となる。 エ) 反射の発達 脳性まひや精神遅滞の運動発達の遅れ、 ミオパチーの運動発達の遅れが疑われる場合には、反射の発達 を確認する。 オ) 疾病の有無 乳幼児では、神経筋疾患以外の疾患でも発達が障害される。例えば、股関節脱臼でギブスをはめている子 どもは歩くのが遅れるし、心臓病や消化器外科疾患などの先天疾患などで長期に入院している場合、身体の 発育が不良な場合にも発達は影響を受ける。 カ) 養育環境 乳幼児が発達するのに適切な環境で養育されているかとの視点もたいせつである。 これは単純に養育環 境が適切かどうかと判断するのではなく、その乳幼児の持っている能力が十分発揮されるにはどうしたらよい かについて、家庭環境や親子のかかわりなどに対する支援を考えるということである。 (2) 1か月児のチェックポイント この時期の姿勢としては、上下肢を半屈曲し、両手を上にあげている姿勢、不完全な緊張性頚反射(Tonic Neck Reflex; TNR)の姿勢、両手を下におろしている姿勢を認める。正常では、決して手を固く握りしめている ことはなく、手を半ば開いているか、軽く握っている。 自発運動はまだ分節的で、全体的な運動である。頭囲が 平均より2.5cm以上大きいか小さい時には、 フォローアップが必要である。 顔を一方に曲げた時の反応は、丸太棒のようにくるりと体を回転する形と緊張性頚反射の姿勢をとるもの、 まったく反応せずにそのままの姿勢でいるものがある。 引き起こし反射では、引き起こす時に頭は背屈し、上肢は伸展し、下肢はそのままである。 腋下を支えて垂直抱きすると、下肢は半屈曲か、半ば伸展する。決して完全に進展したり、逆に屈曲したまま のことはない。 足裏を床につけて、陽性支持反応をみると約半数が陽性となる。陽性支持反応の姿勢で、体を前に傾ける と歩行するかのように足を前に出す(歩行反射)。原始反射のひとつで、生後1か月を境に急速に消失するが、 生後30日過ぎでは50∼60%に認められる。 水平抱きでは、頭、体幹、四肢ともに軽度に屈曲する場合(Landau反射第1相) と、肩の高さまで頚部が伸 展し、体幹、四肢ともに軽度に屈曲している姿勢(Landau反射第2相) とがみられる。 腹臥位では、顔を一方に向けたままで挙上しようとしないものから、正中位でベッドから45度近くまで挙上する 36 ものもある。上肢は屈曲位、下肢は半屈曲位か半ば伸展位である。 チェック ポイント 手技 仰臥位の姿勢 仰臥位での観察 (視聴覚を同時 に観察) 正 常 所 見 異 常 所 見 正常な姿勢・肢位の例 異常な姿勢・肢位の例 ・後弓反張 ・蛙肢位 ・つよいTNR肢位 ・手を強く握ったまま拇指を握りこむ ・四肢半屈曲 ・上肢半伸展、下肢半屈曲 ・ゆるいTNR肢位 ・手はゆるく握っている 自発運動 ・低下、欠如 ・左右差、振せん 仰臥位で観察 引き起こし 児を仰臥位の状 態から児の手掌 の尺側から検者 の拇指を入れ、 把握反射をおこ しながら引き起 こす。体幹が 45°及び90° のところで判定 する。 垂直保持 児の体幹側部を 検者の手掌では さんで、垂直に 引きあげる。 四肢の状態をみ る。 ・45°で手は握り、上肢は伸展、頭部は 背屈したまま後方に垂れ、下肢は半屈曲 位のまま、軽く外転している。 ・90°で頭部はついてきて垂直位ないし はやや前屈する。 ・45°で上肢は力なく完全に伸展、頭部は 垂れ下がり体幹も屈曲する。 また逆に引き起こしに抵抗して体は棒状 のまま立ってしまったり後弓反張位をとる。 ・90°で頭部強く前屈。 ・腋窩で体幹が支えられ、両下肢はゆるい 屈曲位をとる。 ・抱きにくく、肩がすりぬけそうになった り、下肢がぶらぶらで振っても抵抗がない。 ・両下肢を硬く伸展交 、内旋、尖足位をとる。 上肢伸展、回内、手を強く握る。 37 水平抱き (腹位) (Landau) ・頭部は軽く前屈ないし体幹と平行、体幹 は軽度屈曲し四肢はゆるい屈曲位をとる。 ・逆U字型となり四肢がだらりと垂れ下が る。 ・頭を挙げ、体幹、下肢も伸展、そりかえ る。 ・顔を一方に向けるか短時間45°位まで 持ちあげる。上肢半屈曲位、下肢半屈曲 位ないし半伸展位をとる。 ・下肢が屈曲して腹部の下に入り、臀部が 高くあがる。 ・頭を挙げすぎそりかえる。 ・検者(母)の目をみつめる(短時間)。 ・左右に多少追視が可能。 眼球の位置異常 眼振、固視しない。 ・ビクッとする。眼を開いたり、逆に眼は 閉じて泣き出す。 反応が常に出ない。 検者の手で児の 腹部を支え正確 に水平に持ちあ げる。 腹臥位の姿勢 腹臥位で観察 視 覚 固視、追視、眼 振の有無、反射 (瞳孔閉瞼) 聴 覚 突然の比較的大 きい音をたてる (太鼓など)。 (3) 3∼4か月児のチェックポイント 3∼4か月児の健診は、多くの市町村の公的な乳幼児健診に取り入れられている健診である。発達について は、3か月児より4か月児の方が判定しやすいでため4か月児で行われることも多い。満4か月は発達のチェック を行いやすいkey ageであり、頚の坐りの確認、モロー反射や緊張性頚反射などの原始反射の消失傾向、追 視テストなどで評価できる。赤ちゃんは可愛い、子どもを産んで良かったなどと感じる時期でもある。 一般に公的な健診は暦月齢で実施されるが、早期産児では修正月齢で評価することを忘れてはいけない。 1)追視テスト 赤鉛筆、ペンライト、赤色電球などの検体を使用して追視をテストする。 仰臥位の乳児の眼前30∼40cmに検体をもっていき固視したのを確認した後に、左右にゆっくりと移動させ る。左右の目が同じ位置にあるか、眼球の異常運動がないかもチェックする。正常では水平方向に150∼180 度くらいは追視する。 3か月児では上下方向には、 ほんのわずかに追視する。4か月児では上下にも追視する。 2)仰臥位の姿勢 1か月児などに比べて対称的な姿勢を取るようになる。3か月児では両下肢は左右対称に屈曲、 なかば外排 38 しているが、顔はまだどちらか一方を向き、左右の上肢は異なった肢位をとっている。両手はほとんど開いてい る。周囲に対する関心が盛んで、 しきりにあちこちを見まわす。 4か月児では、 さらに対称的となる。一般に顔が正面を向き、両下肢を屈曲してなかば挙上し、両手を顔の前 に持ってきて遊んでいることが多い。 ガラガラを握らせると振ったり、 しばらく眺めたりして遊んでいる。時に顔を 一方に向けたり、緊張性頚反射の姿勢となったりする。 3)頚の坐り 頚の坐りの確認は引き起こし反射で行う。仰臥位の乳児の両手を持って引き起こすと、3か月児は約45度引 き起こされたところで頚が体幹と平行になり、引き起こしたときにしばらくの間、頚が坐っている。乳児の視線が、 別のところを見ていたり、泣いていたりすると引き起こしたときに反りやすい、 また正常でも45度になっても頚が背 屈していることがある。 そのときは、引き起こしてから少し元に戻すと正常では頚が前屈してくる。 頚が坐った状態とは、一般には母親が乳児の後頭部に手をやらずに縦抱きにできる状態とされている。 しか し、少し抱いているとカックンと前屈してしまう頚が坐りたての状態から、 しばらくの間、坐っているが前後にゆら すと前屈してしまうもの、 さらに横抱きにしてゆすっても大丈夫なものまで種々な発達段階がある。 親の抱き方と頚の坐り 親がふだんどのような抱き方をしているかで、頚の坐りは違ってくる。 横抱き:頚を前腕で支え、反って抱く横抱きをしている場合には、引き起こし反射の際に頚が反り やすくなるため、頚が坐っていないと判定されることがある。 背中の棒抱き:膝をあまり曲げないで、乳児を棒抱きにすると、反るくせがつき、やはり引き起こ しで頚が坐らないと判定されることがある。 健診の際も、親がどのような抱き方で、診察室に入ってくるか注目すると良い。 横 抱 き の 抱 き 方 背 中 の 棒 抱 き 4)頚を一方に回転させる 仰 臥 位の乳 児の頚を一 方に他 動 的に回すと身体 全 体が棒のように回転することが多い。 これはn e c k righting reflex as a whole(身体に働く頚の立ち直り反射) あるいはhead righting reflex as a whole (身体に働く頭部立ち直り反射) などの立ち直り反射である。発達の早い子どもでは頭部を一方に回転させると 肩、胴、腰と順に回転していくsegmental rotationの形をとることもある。 この月齢ではどちらも正常である。 5)垂直抱き 4か月児の垂直抱きでは、下肢は屈曲位を取ることが多いものの、そのまま足裏を床につけて体重を支えさ せようとしても、多くは下肢を屈曲したままで体重は支えようとしない。 また、 この姿勢で両手は開いている。2∼3 か月児のように垂直抱きで手を固く握りしめて上肢が回内・伸展傾向をとることはない。 6)水平抱き (腹位) 4か月児を腹位で水平抱きにすると、顔をあげ、体幹が伸展し、下肢は軽く伸展傾向をとる。顔をあげ前方を みつめる。上肢は手を軽く握り自由な姿勢の場合、手を硬く握り上肢を回内、伸展する場合も認められる。 39 7)水平抱き (仰臥位) 3か月児を仰臥位で水平抱きにすると頭は背屈してしまうが、4か月児になると頚を前屈して頭を支えようとす る。 しかしまだ完全には支えられない。弓状に反ってしまうものは背筋のトーヌスの亢進で異常といえる。 8)腹臥位の姿勢 4か月児では、前腕で体重を支え、顔が床から45∼90度上げられるとされているが、実際には顔を真ん中に して瞬間的に挙上する1か月の発達レベルのものから、45度以下しか上げられない3か月の発達レベル、 そして ごくまれに前腕で体重を支え顔が90度まで上がる5か月の発達レベルまでと、4か月児の腹臥位の発達の幅 は、他の月齢に比して広範囲である。 したがって、腹臥位の姿勢のみで発達を評価せず筋トーヌスの低下や亢 進など他の異常所見を加味して判断する。 チェック ポイント 手技 正 常 所 見 異 常 所 見 正常な姿勢・肢位の例 異常な姿勢・肢位の例 仰臥位の姿勢 ・顔は正中を向き、上肢は半伸展 ∼伸展、下肢は半屈曲、手は軽く握って いる。 ・下肢開排可能、膝窩角90∼110° ・後弓反張、蛙肢位 つよいATN肢位、手を強く握る。 ・不随意に口を開ける。 ・下肢開排制限、膝窩角90° ・45°で頭は体幹と同一線上協力するよ うに頭を持ち上げ、上肢は肘をやや屈曲 させ、下肢は屈曲して腹部にひきよせる。 ・90°で坐位となっても首はくらくらせ ず前屈もしない。 ・頭がついてこないで垂れてしまい、上肢 は力なく伸展したまま。 ・棒のように立ってしまう。 そってしまう。 ・90°で頭部が前屈してしまう。 ・上肢は伸展∼半伸展のまま、手は開いて いる。下肢は軽く屈曲、腹部へひきよせ る。 ・すり抜け徴候 ・手を握り、上肢伸展、回内下肢伸展、交 、尖足 仰臥位での観察 (視・聴覚、精 神発達を同時に 観察) 引 き 起 こ し 児を仰臥位の状 態から児の手掌 の尺側から検者 の拇指を入れ、 把握反射をおこ しながら引き起 こす。体幹が 45°及び90° のところで判定 する。 垂 直 保 持 ↓ 立位(陽性支持) 垂直に引きあげ たのち診察台へ 下肢をおろした り、あげたり (ツンツン)する。 40 腹臥位の姿勢 腹臥位での観察 水平抱き (腹位) 検者の手で児の 腹部を支え、正 確に水平に持ち あげる。 視 覚 固視、追視 聴 覚 母 に 向かいあっ て抱かせ、後方か ら左右の耳近くで 音を出 す 。(タイ マーの音など) 精 神 発 達 反応の観察 表情、動作の観 察 ・頭を45°∼90°挙上し、前腕で上体を 支える。 ・頭を挙上せず、手を握り上肢は屈曲、後 方へ或いは伸展、回内、後方へ。 ・下肢は屈曲、腹部へ入り臀部挙上。 ・やや頭を挙げ、体幹はゆるい屈曲か伸 展、上肢は伸展、かるく手を開き、下肢 は軽く伸展。 ・逆U字型 ・そりかえり 固視の時間が長くなり、目と頭を共同させ 180°の追視をする。 固視・追視ができないか、できても不完 全。 音の方へ頭をめぐらせて目でみる。 母の声に反応する。 反応しない。 あやすと笑う。(社会的笑い) くすぐると声を出して笑う。喃語。両手を 顔の前へ持っていき、動かしたりからみ合 わせたり眺めたりして遊ぶ。手を開いて触 れたものを握る。口へ持っていく前に持っ た物をみる。 無欲、無関心、無表情、目をあわせない、 あっても直ぐそらせる。 41 (4) 5か月児の診察のチェックポイント 1) 2) 3) 4) 5か月児は、寝返りを打ち、 自分の意思で近くのものをつかむ、四肢の筋のトーヌスは屈筋優位となり引き起こ すと上下肢が屈曲する。反射では立ち直り反射が著明となり、腰を支えると坐れるようになる。支えて下肢をつ かせようとしても、 ピョン、 ピョンするが足で支えようとはしないなどの運動発達の特徴がある。 仰臥位の姿勢 顔を正面に向け四肢を屈曲し、左右対称性の姿勢を取る。6か月児になるとこの姿勢を嫌がってすぐに寝 返ってしまうことが多いが、5か月児ではこのままの姿勢で遊んでいることが多い。 寝返りをさせる 仰臥位の乳児の両足をつかんで寝返りさせると、下肢、腰、体 幹、肩、頚、頭というように部分的に順々に回転する。 物を見せてつかみ方をみる 色のついた立方体の積み木などを近くで見せ、つかみ方をみ る。5か月児では手全体もしくは手掌でつかむ。 この時、一方の手 でつかんだら、必ず他方の手の近くで積み木などを見せて他方 の手のつかみ方も見る。つかんだものは口へ持っていく。 顔に布を掛けて取らせる 普通のタオルを半分に切った大きさの布を乳児の顔にかぶせ る。正常では顔を振ったり、手を持って行って取ろうとしたり、反り かえってのけようとしたりなど何らかの反応が見られる。何パーセ 顔に布をかけるテスト ントかは、 うまく両手で払いのけるか、取り除くことができる。 顔に布をかけて取らせる。左右差や 顔に布を掛けられても全く反応のない場合は異常である。手 布を取る時のつかみ方も観察。 の使い方の左右差もチェックする。 5) 引き起こし反射 両手を持って乳児を引き起こす。頚は平行または前屈傾向にあり、手足は全体として屈曲傾向を示す。下肢 に屈曲傾向がみられないものは異常である。上肢を伸ばし下肢のみを屈曲する場合は正常である。下肢が伸 び頚が背屈するのは異常とみてよい。 6) 腰を支えて坐らせ、視性立ち直り反射をみる 腰を支えて坐らせ、体幹の安定度をみる。5か月では腰を支えると坐っていられる。 次に身体を左右に傾けると頭を垂直にして立ち直りが認められる (視性立ち直り反射)。傾けた側に凹となっ てしまうもの、立ち直りの見られない場合には、立たせて、体全体を傾け体幹の立ち直りをみる。 7) 腋下を支えて下肢をつかせる 5か月児では下肢をつかせても、 ピョンピョンするか、体重を支えようとしないことが多い。下肢をつけると尖足 位となり、 そのままの姿勢でピョンピョンさせると伸展、尖足傾向が増大するのは痙直性麻痺の疑いがある。 8) 水平抱き (仰臥位) 頚が体幹と平行となるか、前屈しようとして立ち直りがみられる。 9) 水平抱き (腹位) 頭を体の他の部分より十分に上方に挙げる。 10) 腹臥位の姿勢 基本的には、両手を伸ばして手で体重を支える。顔は床より90度近く上げられる。ただし腹臥位の姿勢の発 達は個人差があるので、 これのみでは判定しない。 11) 頚を一方に向ける 仰臥位の乳児の頚を一方に向けると、肩、腰、足と順次回転がみられる (segmental rotation)。乳児はこ の立ち直り反射を利用して寝返るようになる。 12) 背 い 4∼5か月頃より抱くと反りやすく、仰臥位にするとレスリングのブリッジのような姿勢を取り、その後、後頭部を 支点とし足を蹴って背 いをする乳児がまれではあるが存在する。 これは正常発達のひとつの変わった型で、 引き起こし反射でちゃんと引き起こせることにより病的なものとの鑑別が可能である。 42 (5) 6∼7か月児のチェックポイント 7か月児は発達の遅れが判定しやすいkey ageである。お坐りの確認、視性立ち直り反射、顔に布をかける テストでの評価、手を伸ばして物をつかむ、いろいろの音に反応することなどを確認できる。母親がわかり、欲し いものがあると声を出して要求するなど、親子のふれあいを楽しみ、子どもがますます可愛くなる時期である。 チェック ポイント 手技 物 のつかみ方 抱かれて(母の膝 の上)目の前へ物 (オモチャなど)を 出す。物のつかみ 方をみる。 仰臥位の姿勢 仰臥位での観察。 顔 に 布をかける テ ス ト 正 常 所 見 異 常 所 見 正常な姿勢・肢位の例 異常な姿勢・肢位の例 物をとる。とった物をもちかえる。 しばらく遊んで口へもっていく。 握り方 手掌で握る(5∼6か月) ハサミ状に握る(7∼9か月) アテトーゼの出現。片方の手でのみつかむ。 未熟なつかみ方。手を握ったまま。 上下肢とも伸展位 足を手でもったり、しゃぶったりする。 膝窩角=180° 自発運動少ない、欠如、左右差、後弓反 張、蛙肢位 膝窩角<180° 直ぐにとる。(5∼7か月) 異常なとり方(とらない) 異常な姿勢の出現 協力するように肘を曲げ、顎を引いて頭を もちあげる。下肢は時にやや屈曲(6か月)、 または伸展(7か月)して持ち上げる。 反応不十分(未熟な反応) そりかえり 坐らせると坐る。両手を前につき、背中を 丸めて短時間坐る(6か月) ひとり坐りでき、 オモチャを持って遊ぶ(7か月) 後方の物をとっても倒れない(8か月) 前方へ丸くなる。 後方へ倒れる。 ハンカチーフなど 布を顔に被せる。 引 き 起 こ し 児を仰 臥 位の状 態から、児の手掌 の 尺 側から検 者 の 拇 指を入れ引 き起こす。 坐 位 引き起こしたまま 坐位へ。 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 43 チェック ポイント 手技 正 常 所 見 異 常 所 見 正常な姿勢・肢位の例 異常な姿勢・肢位の例 横パラシュート 反 応 倒側の上肢が手を開いて伸展し、手をつい て、体重を支えようとする。反対側への頭 のたち直り。 8か月を過ぎても反応が陰性、左右差、手 を強く握る、たち直りがみられない。 体を支えて立つ。 側方に倒すと頭のたち直り(弱い)がみられる。 すりぬけ徴候 下肢がぐらぐら或いは伸展、交 胸をあげ、両手で上体を支える。 胸があげられない。 頭を挙上し、躯幹、下肢やや伸展、上肢は 自由な位置 逆U字型、そりかえる。 坐位にして後方 から腋窩を支 え、児の手を自 由にして左右に 倒す。 垂直保持から 立 位 へ 、尖足 躯幹を腋窩で支 えてひきあげ立 たせる。 腹 臥 位 腹臥位での観察 水平抱き (腹位) 腹部を支え、正 確に水平に持ち あげる。 聴覚・視覚 精神発達 一次スクリーニングのチェックポイントの 正確な把握。専門医へ紹介。精神発達につ いては保健指導のポイントを参考にする。 ※ アタッチメントの形成とその評価 アタッチメント (愛着) とは、子どもと他の特定な人(主に母親) との間に形成される情愛の絆である。乳児は、生 後2∼3か月までは人、物すべてに反応するが、3か月頃より人に反応するようになる。6か月頃になると特定の養育 者(通常は母親) に、特に強く反応するようになる。 その結果母親以外の人に対して人見知りが見られる。9か月か ら2歳にかけて、後追い行動や母親を基地とする探索行動がみられ、2歳以降には、母親がいなくてもひとりで遊 べるようになり、母子分離ができ、保育園や幼稚園でも安心して遊べるようになる。 44 (6) 9∼10か月児のチェックポイント 10か月は、4か月、7か月に次ぐ発達のkey ageである。運動発達はつかまり立ち、つたい歩き、知的発達はニ ギニギやバイバイなどの動作の真似、人見知り、反射のテストとしては、パラシュート反応やホッピング反応など で評価できる。 1) つかみ方をみる 母親の膝の上に抱いている姿勢、 あるいはイスにつかまり立ちしている姿勢など、乳児が泣かないで周囲に 興味を示す姿勢ならどんな姿勢でもよいのでその状態で診察する。 つかませる物は、色のついた3cmの立方体の積み木と、パチンコ玉、 ビー玉、色のついた碁石などである。10 か月では積み木は拇指と他の指を対向させ指の腹側でつかむ (はさみ持ち)。小さいものは拇指側の指でぎこ ちなくつかむか、早い乳児ははさみ持ちをする。 指全体でつかむものや、つかみ方がぎこちないものは異常である。大きさや重さの違いで、つかみ方も変わる ことに注意する。 2) つかまり立ち 10か月では、 イスや母親などにつかまらせるとしばらくの間立っているか、 自分からつかまって立ちあがる。時 に片手でおもちゃを持ちながら立ち上がれるし、つかまり立ちしながらおもちゃで遊べる。 この姿勢から腰をおろ すことやつたい歩きをすることもある。 3) ホッピング反応 立位にした乳児を、前後や左右に倒すと、前後の場合はどちらかの下肢が一歩出る、左右の場合は反対側 の下肢が交差して体重を支え、体重の移動をスムーズにする平衡反応のひとつである。 最初は、前方か左右のどちらか、 あるいは左右の一方であるが、だんだんと左右前方と出現し、ついには後 方へも出現する。10か月児ではどちらか一方向にホッピング反応が認められればよい。 つかまり立ちをしないといっても、 この反応が出現していれば、やがてはつかまり立ちができるようになる。逆に つかまり立ちをしているといっても、 この反応が陰性の場合には、つたい歩きはできない。 4) パラシュート反応 抱きあげた乳児の身体を支えて、前方に落下させると、乳児は両腕を伸ばし、手を開いて身体を支えるような 姿勢をとる。 この反応をパラシュート反応という。低い位置でのパラシュート反応は8か月頃からみられるが、抱き あげて高い位置でのパラシュート反応は9か月から出現(約60∼70%) し、10か月でほぼ全例に出現する。つか まり立ち、つたい歩きが見られるころに出現する。 泣いている乳児やこわがり屋の緊張の強い乳児では腕をぎゅっと縮めてパラシュート反応が出現しないこと がある。 この場合は、 ほかの発達が正常ならこのまま少し様子を見て差支えない。 反応が出現しない場合は、神経発達の遅れ、精神遅滞や脳障害、手の開き方がおかしいときは脳性麻痺が 疑われる。 また落下した時に一方の手を握っているのは片麻痺がある証拠である。 5) い い 9か月では腹をつけて上下肢を交互に動かす腹 いcrawlingをする。10か月では膝をついて移動する膝 い(高 い)creepingをすることが多い。 6) アタッチメントの形成とその評価 アタッチメントの形成が順調であれば、 この時期では後追い行動や母親がいなくなると不安になって泣く行 動を示す。面接場面では、母親がそばにいた時の遊び方といなくなったときの様子や、再び戻ってきたときの様 子とその後の遊び方により評価される。正常では、母親が一緒だと安心して遊び、 いなくなると後追いをし、 その 後、遊ばなくなる。親が戻ると嬉しそうな行動をするが、 しばらくすると安心して遊び始める。 45 チェックポイント 手 技 坐 位から支 立 へ 異 常 所 見 正 常 所 見 背中は真直ぐに安定した坐位 下肢は前方に投げ出し、伸展。 坐位不可∼不安定な坐位 前屈(背中を丸め前方へ屈曲)、下肢屈曲 とれない。 好きなオモチャを 見 せてから斜 め 後 方の手を伸ば せば 届く範 囲 に おき、 とらせる。 体をねじって後方の物をとる。 とれない。 或いはとろうとすると体が緊張し倒れる。 アテトーゼ出現。左右差がでる。 そのオモチャを見 せながら1∼2m 離れた3 0 ∼ 4 0 ㎝高さの 台 の 所 に置きとらせる。 四つんばい、いざりばいをしながら目的物 に向って移動し、台につかまって、立ちあ がりとる。 とれない。或いは移動の仕方、とり方など が未熟 (腹ばいしかできない)。 物 のつかみ方 人差し指を伸ばして物に触る。 つまみもち、はさみもちをする。 とれない。或いはアテトーゼ、振せん、シ ズメトリー、とれても手掌もち。 視性立ち直り反射がみられる。 立たない。下肢の尖足、伸展、交 がみら れる。立っても倒した方向に倒れる。 両手を開いて上肢を伸展し、着地して体重 を支える。 躯幹の筋緊張低下 反応欠如 (上肢が出ない∼出ても手が開か ない) 下肢開排 膝窩角=180° 足背屈<90° 開排制限 膝窩角<180° 足背屈>90° 協力して容易に坐位をとる。 下肢は伸展したままかかとを診察台につけ たまま、あげずに坐る。 反応不十分 下肢が挙上 そりかえり 坐位の観察 積木、 ビー玉など を前におく。 垂 直 保 持 後 方 から支えて 立たせ、45° 斜め に倒す。 前 方 へ の パラシュート反応 躯幹を支え、上体 を前 方 に 落 下さ せる。 仰臥位の姿勢 観察 引 き 起 こ し 児を仰 臥 位の状 態から、児の手掌 の 尺 側から検 者 の拇指を入れ、引 き起こす。 聴覚・視覚 精神発達など 一次スクリーニングのチェックポイントの 正確な把握。異常がある場合は、専門医へ 紹介。 46 チェックポイント 正常な姿勢・肢位の例 坐位からつかまり 立 ち へ 物 のつかみ方 a e b c f g d h 物のつかみ方の発達 a:手掌でつかむ (palmar grasp) (5か月)、b:手全体でつかむ (whole handgrasp) (6か 月)、c :橈骨側でつかむ (radial grasp) (7∼8か月)、d:母指と人差指でつかむ(10∼12か 月)、e :指を伸ばしてさわる(6∼7か月)、f:挟みもちする(9∼10か月)、g:机につけたまま (pincer grasp)(11か月)、h:持ちあげられる(pincer grasp)(12か月) ものの大きさや重さの違いで、 つかみ方も変わる。 前 方 へ の パラシュート反応 異常の例 引き起こし 47 (7) 12か月児のチェックポイント 12か月児は、発達チェックの上ではかなり判定の難しい月齢である。早い乳児は歩き始めるが、歩けないか らといって異常とはいえない。意味のある単語が言えなくても異常とはいえない。 しかし大多数の乳児は、つた い歩き以上の動作をしている。 1) つかみ方 10∼12か月児では、 それまでの指を伸ばして全体でつかもうとするつかみ方から、はさみ持ちをするようにな る。1歳2か月頃になると、小さいもの(パチンコの玉、色のついた碁石など) を指先で持てるようになる。12か月児 では、 はさみ持ち以上のつかみ方で小さいものがつかめればよい。 2) 追視と音に対する反応 1mの距離からペンライトを見せる。最初に、左右対称に が瞳孔に映っているか確認する。次に左右、前後 に動かして追視のチェックを行う。 音に対する反応は、 おもちゃ、積み木などで遊んでいるときに、後ろや左右から、鈴、太鼓、 ガラガラなどを鳴ら して、振り向くかどうかをチェックする。 3) 独り立ち 12か月児の運動発達の平均は独り立ちである。 しかし、つたい歩きのものからすでにだいぶ歩けるものまで 発達の幅は広い。つたい歩き以上の動作ができれば可とする。 4) ホッピング反応 ホッピング反応は、左右、前と出現している。前に倒すと利き足が前に出て平衡をとる。 しかし後ろに倒しても なかなか1歩後ろへは出ず、 そのまま倒れそうになってしまう。 (8) 1歳6か月児のチェックポイント ころばないで上手に歩け、意味のある言葉を言うのが1歳6か月児である。絵本を見て知っている動物などの 絵を指さし、人形を抱っこしたり、 自動車をブーブーといって押したりする。積み木も2∼3個積めるし、相手をして 遊んであげると非常に喜ぶ。 1) 歩行 歩行は次のように変化する。 ・歩行前期:歩き始める以前の状態で、両手を持つと歩くことができ、片手を持つと歩くこともある。 ・ハイガード歩行:下肢を外旋し、両足を開き、上肢を外転外旋、屈曲挙上した状態で、下肢を伸展したまま身 体をねじって歩行すること。歩行するたびに、骨盤が傾いたり、 ねじれたりする。 ・ミドルガード歩行:今まで伸展していた下肢が、だんだんと屈曲するようになり、 それにつれて挙上していた上 肢が途中まで下降してきた歩行の状態 ・ローガード歩行:さらに歩行の発達が進み、上肢が下に降り、 ある程度上下肢の協調運動が認められるよう になった歩行の状態。 その後2歳過ぎになると、足が内旋し、開いていた足が平行となり、歩幅も一定となり、上下肢のリズミカルな 協調運動がみられるようになって、成人の歩行と似た歩き方となる。 1歳6か月児では、 ローガード歩行やミドルガード歩行が見られることが多い。歩けないのは明らかに歩行の 発達が遅れているといえるが、ハイガード歩行でも遅れている。歩き始めてから、ハイガード歩行の時期が長い 場合には、脳性まひ、注意欠陥・多動性障害、Duchenne型筋ジストロフィー症などの異常も考慮する。 2) ホッピング反応 ころばないで歩けるようになると、 ホッピング反応は、前後左右すべてに出現する。 この頃には、立位の幼児を ゆっくり後ろへ倒すと足を背屈させてバランスをとる反応(dorsiflexion) も認められる。 3) 積み木を積む 色のついた立方体(一片3cm) を積ませる。1歳6か月児では2∼3個以上は積める。 同時につかみ方もチェックする。少なくともはさみ持ちか指先持ちをしているはずである。積み方を観察し、指 先の力の入り方のバランスやつかみ具合も見る。 48 4) 鉛筆でなぐり書き 1歳6か月児では、 なぐり書きができれば可である。最初は、直線でだんだんと曲線がみられるようになってく る。 5) 絵本を見て知っているものを指さす。 イヌ、 ネコ、 自動車などの出ている絵本を見せて、 「ワンワンどぉれ?」などと尋ねて指さしさせる。1歳6か月児で は知っているものを指さすことができる。 さらに進歩している場合は、 「これなぁに?」 と言ってイヌやネコを指すと、 「ワンワン」 「ニャーニャー」などと答える。絵カードを使って、保健師などがチェックすることも多い。 6) 追視テスト (実施法は、4.2.13 追視、4.2.14 斜視を参照) 追視が悪い場合、視力障害の他に、精神発達遅滞によることも多い。他の結果と総合して判定する。 7) 聞こえの検査 (実施法は、4.2.15 聴覚異常を参照) 難聴以外に精神発達遅滞でも聞こえの検査で異常が出やすいが、生活習慣や運動発達の遅れなども参 考に鑑別する。 8) アタッチメントの形成と評価 この時期では特別な人に接近したり、探索行動をする際に、母親を安全基地とするのが特徴である。診察 中など、母親が側についていれば、 イキイキとした表情で自由に探索行動(遊び) を行い、不安を感ずると母親 のもとに戻りしがみついたり、 目で母親を確認する。母親はこれに対し、安心するように声をかけたり、温かな眼 差しで見たり、探索行動を促すような言葉かけを行うことが、 この時期として適切なアタッチメントの状況である。 9) しつけと自律性の確立 しつけとは、子どもが社会生活を送るために、その社会の慣習や決まりを意図的に身につけさせることであ る。 しつける人と子どもとの間の信頼関係の上に立ち、愛情と励ましを持って行う。失敗しても怒らない、 うまくで きたら嬉しそうな顔をしてほめる。子どもは大人のすることを真似るので、子どもにしてほしいことは、大人が率先 して行うようにする。 年齢や発達の程度に応じて、適切にしつけがなされていることで自律性が確立する。子どもの発達を促すこと と、子どもが生活習慣を身につけることは表裏一体の事象である。 (9) 3歳児のチェックポイント 3歳は自我が芽生える大切な時期である。歩く、話すなど自分でできることを自分で行うことが楽しくなり、 だん だんと母親への依存から抜け出してくる。 自分の好きなようにやりたいとの自己主張が強まってきて、母親の干 渉が邪魔になってくる。 しかし社会の秩序や決まりはわからないので、大人の反対や禁止に出会い、反抗しな がら他人の存在や社会性を身につけ始める。 また、3歳児は好奇心旺盛でなんでも自分でしたがるため、一見、 落ち着きがないようにみえることがあるが、経験を積むうちにだんだんと落ち着きがでてくる。 この時期には、 ものの善悪や危険なことの区別、 こらえ、我慢することなど社会性を身につけることは必要で あるが、子どもができることを親が心から喜んで励まし、いっしょに楽しみながら、子どもの独立していく姿をあた たかく支えることがたいせつである。 3歳は、社会性を身につけ始めるたいせつな時期であり、身体的な発達のチェックだけでなく、精神発達の チェックがより重要である。 1) 歩行 3歳児では成人のようにふつうに歩くことが出来る。 つま先歩行は、2歳半∼3歳過ぎから可能となる。踵歩行も3歳過ぎから可能となる。 2) 片足立ち 開眼で好きな方の足で片足立ちさせる。3歳では3秒以上できればよい。4歳では4∼8秒である。 3) 積み木で塔を作る 1辺が3cmの立方体の積み木を積ませ、塔を作らせる。3歳児では8個以上積める。 また、小豆、大豆などの 小さいものをつかませると、指先でつまむことができる。左右差もチェックする。 4) 真似して丸を書かせる 3歳児では、真似して丸を書くことが出来る。 49 5) 言語発達 知能や理解をみるのによい項目である。表出言語のみでなく、言語理解もチェックする。3歳児では名前や年 齢を言え、色やものの大小が可能である。3語文を話すこともできる。 6) 生活習慣 排尿や排便が日中ひとりでできる、食事をほとんどこぼさないで食べる、簡単な靴が履けるなど日常生活での 行動を習慣づける時期である。 7) 眼球運動の検査(実施法は、4.2.13 追視 4.2.14 斜視を参照) 8) 聞こえの検査(実施法は、4.2.15 聴覚異常を参照) 9) 自主性の確立 幼児期には、一つの目的のために同じ行動を飽きることなく繰り返し、動き回る。 それは、 自分から動き、 自発的 に動こうとする行動である。 自主性の確立につれて、 こうした行動が顕著となる。2∼3歳頃からは、何でも自分の 思いどおりにしたがり、親のいうことをきかなくなる。できる・できない、 よい・わるい、の区別なくやりたがるため、失 敗を繰り返しながら、 それにひるまず次第に的確に行動できるようになる。幼児のこのような行動は「遊び」 と解 釈されるが、大人の困る行動は「いたずら」 と呼ばれ、親のいうことをきかない行動は「反抗期」 とも呼ばれてい る。 幼児はこのような行動を通して、 自分のものと他人のものとの区別や、社会のきまりを覚えていく。 この時期に自主性が確立するためには、そこまでに適切なアタッチメントが結ばれていること、子どもの行動や 生活習慣に対する親や周囲の人からの適切な促しが必要である。 (監修 東京慈恵会医科大学名誉教授 前川喜平) 50 ◆健康診査場面で出会う親子の観察のポイントとその基準 (経過観察を中心に) −乳児期の観察− 項 目 8か月前後(7∼10か月児) 5か月前後(4∼6か月児) 1.親へあいさつ 親の反応をみる。 親の反応をみる。 2.追跡観察の目的の 確認 先行する健診での 問診の再チェック 新たな問題点の チェック 親の認識度を知る。 追跡期間の間の変化 (発達、症状) をみる。 新たに起った問題点の有無と内容を知る。 親の認識度を知る。 追跡期間の間の変化 (発達、症状) をみる。 新たに起った問題点の有無と内容を知る。 3.児に対し、 目をあわせ て愛称を呼ぶ。 児の反応をみる。 児の反応をみる。(人見知りを含めて) 4.オモチャを使って 観察をする。 周囲の雰囲気に 慣れさせる 評価 反 応 評価 反 応 ++ 目がしっかり合う (興味をもってじっと見る) ++ 目がしっかりと合う (人見知りがあっても) + 目が合う (興味はそれほどない) + 目が合う (人見知りがあって泣いても) ± チラッと見る程度 ± − 視線を避ける 見ない チラッと見る程度 (人見知りも強くない) − 視線を避ける 見ない ガラガラを鳴らしてから親から児へ渡 す。(左右差もみる) 評価 反 応 ++ 手を伸ばして、取って振る + 持たせると持つ ± 持つ気があるが上手に持て ないで直ぐ離してしまう − 持つ気なし ただ泣くのみ 51 ガラガラを鳴らしてから親から児へ渡 す。次にもう一つのガラガラを渡す。 (左右差もみる) 評価 反 応 ++ 手を伸ばして1つを取り、 もう一方も取って振る 二つのガラガラを打ち合せる + 手を伸ばして1つを取る それを離してもう一方を取る (二つは持たない、打ち合せない) ± 持たせると持つが振らない − 持たない 持っても直ぐ落す 項 目 5か月前後(4∼6か月児) 5.親に児の脱衣を指 示する。 親の脱がせ方をみる。 6.裸の子の運動の観 察をする。 ①首すわりの観察 ①床の上 (シーツをかけたマット、毛布) で 児の両手をもって引き起こしながら首の すわりを観察する。(親にやらせてもよい) ②腹ばいの姿勢∼ はいはいの観察 ③お坐りの観察 8か月前後(7∼10か月児) 親の脱がせ方をみる。 声のかけ方、合理的か否か、 乱暴でないか、事故予防配慮 評価 反 応 ++ ∼ + 頭は引き起こしについてきて 体を支えていれば頭部は 自由自在に各方向へ向く ± 首は一応すわるが不安定 (体をゆすると頭部がぐらつく) − 頭部がついてこない ついてきても前、後に垂れる ②床の上に腹ばいにさせ0.5∼1mほど 前に気に入ったオモチャを置く。 声のかけ方、合理的か否か、 乱暴でないか、事故予防配慮 ① 同 左 同 左 ②床の上に腹ばいにさせ1∼2m前に気 に入ったオモチャを置いて取らせる。 評価 反 応 評価 反 応 ++ 両腕で上体を支え、胸をあげ オモチャの方へ行こうとする (片手を伸ばす) ++ 両手で上体を支え、胸をあげ、 腰をあげ高ばいで近寄り、 オモチャを取る + 両腕で上体を支え胸をあげる + 腹ばいで近寄りオモチャを取る ± 首をあげるのがやっとの状態 ± − 首があがらない或いはあがって も直ぐ垂れてしまう 両腕で上体を支えるが、まだ 体を動かせない − 反応しない或いは未熟な反応 ③壁に寄りかからせて坐らせる。 ③床の上に坐らせる。 評価 反 応 評価 反 応 ++ 壁に寄りかからず自力で何 とか坐る(手をついて坐る) ++ 自力で後方に置いたオモチャを 取って遊ぶ + 壁に寄りかかってなら坐る + ± 少しは寄りかかって坐って いられるが倒れてしまう 背柱を伸ばし手を離して坐りオモ チャで遊ぶ(後方の物は取れない) ± 手で支えて坐る − 坐れない − 坐れない 支えがあれば坐れる 52 項 目 7.躯幹をくすぐったりし ながらあやす。 8.音に対する反応(タ イマーなど注意を ひく嫌な音がよい) をみる。 8か月前後(7∼10か月児) 5か月前後(4∼6か月児) 親の反応をみる。(表情、声かけ) 児の反応をみる。(表情) 評価 反 応 ++ ∼ + キャッキャッと笑う、声を 出して喜ぶ、もっとせがむ ± あやす時だけ喜ぶ − 喜ばない、或いはむしろ嫌がる 親と向かい合わせて子を抱かせ、親に注意 を向けさせてから後方から音を出す。 評価 反 応 ++ ∼ + キャッキャッと笑う、声を 出して喜ぶ、もっとせがむ ± あやす時だけ喜ぶ − 喜ばない、或いはむしろ嫌がる 同 左 同 左 同 左 同 左 9.計測をする。 親の介助の仕方をみる。 同 左 10.診察中の反応をみ る。 親の態度をみる。 児の反応をみる。 同 左 同 左 11.親に児の着衣を指 示する。 親の着せ方をみる。 声のかけ方、合理的か否か、 乱暴でないか、転落の危険 同 左 12.親に当日の結果と 今後の方針とその 理由を話す。 親の理解度をみる。 母子健康手帳への記入をし、その反応 をみる。 同 左 13.あいさつ ①親へあいさつ ②児へバイバイと 言って手を振る。 親の反応をみる。 児の反応をみる。 反 応 評価 同 左 評価 反 応 ++ ∼ + 手を振る ++ バイバイ(これに似た発音) と言って手を振る ± 帰ることがわかる様子をみせる + 手を振る − 反応しない ± 帰ることがわかる様子をみせる − 反応しない 53 −幼児期の観察− 項 目 12か月前後(11∼15か月児) 1.まず親へのあいさつ 児へのあいさつ 親の反応、態度をみる。 児と目を合わせて、コンニチワと言って頭をさげる。 反 応 評価 ++ 真似て頭をさげる + はずかしがるが反応する ± 顔をみてから泣き出す − 反応しない 2.追跡観察の目的の確認 先行する健診における一次問診の再確認 目的の理解をしているかどうかをみる。 先行する健診における一次問診の各項目に対する児 の変化を知る。 例 喃語……その有無、増加、始語など 3.児に対して名前を呼ぶ。 (3歳児には名前と年を聞く) 児の反応をみる。 反 応 評価 4.おもちゃなどを使って観察する。 6∼10か月児 (①ガラガラ、②人形、③クレヨンなど) ++ うながされてうなずく + はずかしがるが反応する ± 泣きだす − 反応なし ①ガラガラなどを鳴らしてから伸ばせば手の届く範 囲におく。 1歳6か月児 (①積木、②絵カード、③クレヨンなど) 3歳児 (①ブロック、②絵本、③クレヨンなど) 評価 反 応 ++ 手を伸ばしてガラガラを取り、振る 持ちかえたりして遊ぶ、頂戴に反応する + 手を伸ばして取り振る、頂戴に反応しない ± 手に触れるが持たない − 反応しない ②人形を抱いてみせてから、人形の頭を一番手に近 い所に置いて抱いてごらんとすすめる。 反 応 評価 54 ++ 頭と足の方向を間違わずに抱く + 方向を間違えて抱く ± 触れるが抱かない − 反応しない 3歳前後(2歳6か月∼4歳) 1歳6か月前後(1歳4か月∼2歳5か月) 同 左 同 左 同 左 同 左 反 応 評価 評価 反 応 ++ 声を出してあいさつ ++ 声を出して頭をさげてあいさつ + 頭をさげる + 声のみ、頭をさげるのみのあいさつ ± もじもじする ± もじもじするのみ − 反応なし、或いは幼い反応 − 反応なし、或いは幼い反応 同 左 同 左 同 左 同 左 例 意味のある言葉……その有無、変化 例 会話……その有無、実例 反 応 評価 評価 反 応 ++ 「ハイ」「ウン」と答える ++ 名前と年が言える + うながされてうなずく + どちらか一方が言える ± はずかしがるのみ ± 「ハイ」「ウン」のみ − 反応なし、或いは幼い反応 − 反応なし、或いは幼い反応 ①積 木を積んでみ せ 、またバラバラにして 与える。 反 応 評価 ①ブロックを使って簡単な家、車などの形を作る。 評価 反 応 ++ 指でつまんで3個以上積む ++ ほとんど同じ形ができる + 2個まで積める + 何とか似た形になる ± 触れるが積めない、親へのクレーン ± 組み合わすが形にならない − 反応しない − 反応しない、組み合わせることができない ②絵本をみせ、内容をきく。 例 数種類の乗り物 ②絵カード (犬、猫、 ミカン、 リンゴなど) をみせ、名を言って 指さし、及び指をさして名を言わせる。 バス、トラック、ショウボウシャ、 オートバイ、ジテンシャ 反 応 評価 ++ 両方できる + 指さしのみできる ± 指さしができるがまちがえる − 反応しない、できない 評価 55 反 応 ++ 区別して名称を言う + 2∼3種類の名称を言う ± ブーブーなどと答えるのみ − 反応しない、言えない 項 目 12か月前後(11∼15か月児) ③紙にクレヨンで円を描いてから、児の前に紙と クレヨンを置く。 評価 5.衣服を脱ぐ時の反応を観察する。 反 応 ++ クレヨンを持ち、なぐり書きをする。 + クレヨンを持ち、書こうとするがまだできない ± クレヨンを持つのみ − 反応しない、クレヨンを持たない 指示して親に脱がせるが、その時の脱がせ方、脱い だ後の仕末など観察する。(話しかけながら、児の 動作にあわせて行うか) できるだけ拒否反応がでないように注意する。 また拒否がある場合はその拒否反応が理由のあ る反応かどうかを判定する。 6.運動機能をみる ①立位→歩行→走行をみる。 評価 反 応 ++ 親の指示にあわせて、手を伸ばしたり、 足を伸ばしたりする + 脱ぐが協力が少ない ± 脱ぐが協力は全くない − 拒否する、脱ぐことを理解できない ①親に児の両手を持たせ、坐位から立たせる。 ②バランスのとり方をみる。 評価 反 応 ++ 親の指 示に従い、立ちあがり1∼2歩 歩く + ほぼ自力で立ちあがる ± 親の力を借りて、やっと立ちあがる − 立ちあがれない ②親に抱かせて高い場所においたオモチャをとら せる 56 評価 反 応 ++ 親の指示に従い、上手にオモチャを取る 上手に持ちかえる + 取るのに時間がかかる ± 取ろうとするがとれない、落してしまう − 反応しない、拒否する 3歳前後(2歳6か月∼4歳) 1歳6か月前後(1歳4か月∼2歳5か月) ③紙にクレヨンで○、□、△を描いてから紙とク レヨンを与える。 ③同 左 評価 反 応 評価 ++ クレヨンを持ちほぼ円に近いものを書く ++ ○□△をその指示で書く + 書くが円にならない + 区別はするが、 区別して書けない (○のみ書く) ± なぐり書きにとどまる ± 区別ができないが○らしいものを書く − 反応しない、幼い反応 − 反応しない、なぐり書きにとどまる 反 応 親に自分で脱ぐように言わせる。 親の説明の仕方を観察。 同 左 反 応 評価 反 応 評価 ++ 簡単なものは (例クツシタ) 自分で脱ごうとする ++ ほとんど自力で脱ぐ + 親に協力して脱ぐ + ± 脱ぐが協力は全くない 簡単なものは(クツシタ、 ズボンなど)脱 げるが手伝いが必要 − 拒否する、脱ぐことを理解できない ± 自力では脱げないが協力する − 脱ぐが協力なし、拒否、理解できない ①走らせる。 ①ひとり歩きをさせる。 評価 反 応 評価 反 応 ++ 上肢をおろした安定した歩き方をする ++ 上手にバランスをとりながら走る + 上肢を上にあげて、不安定だがひとりで歩く + やや不安定だが走る ± 親の手を借りて歩く ± 歩くのがやっとの状態 − 立ちあがるが歩けない − ひとり歩きができない、不安定な歩き ②30∼40㎝の高さで30㎝2の安定した台に乗るよ うに指示し、両足をそろえて跳ばせる。 ①安全な20∼30㎝高さの2∼3段の階段様の台を 用意し、上方に好きなオモチャなどを置きとらせる。 評価 反 応 ++ 指 示により、手を使って、昇り降りができる + 昇ることはできるが降りられない ± 昇ろうとするが昇られない − 反応しない、拒否する 57 評価 反 応 ++ 両 腕でいきおいをつけながらバランスよく 遠くへ跳ぶ + 両足をそろえて跳ぶ ± 片足づつ降りるのがやっと − 跳べない、拒否する 項 目 12か月前後(11∼15か月児) 7.身体計測(体重、身長、頭囲、胸囲)中に観察する。 恐怖感をいだかせないように注意する。 親に介助をできるだけ行わせる。 親に指示して、計測台等に乗せる。 反 応 評価 ++ 親の指示に従ってじっとしていられる + おとなしくしていられないが何とか協力する ± 協力しないが計測は可能 − 拒否する 計測の後、親に指示して躯幹をくすぐる。赤ちゃん 体操(引き起こしなど) などをさせる。 (親の反応もみる) 8.裸の児と親の触れあいの観察 (楽しみながら行わせること) 反 応 評価 ++ ∼ + キャッキャッと言って喜ぶ もっとと言ってせがむ ± うれしそうな顔をするが、その時だけで せがまない − 反応しない、嫌がる、拒否する 9.診察中の反応をみる。 親の態度をみる。 児の反応をみる。 10.衣服を着るとき、衣服に対する児の認知の度合い、 着るときの協力態度、親子関係を観察する。 親の着せ方 (児の頭のくぐらせ方、手、足の抜き方 などの介助をみる)、声のかけ方をみる。 子どもは一般に裸が好きであるので、そのため の拒否態度は異常ととらないようにする。 反 応 評価 11 あいさつ ++ 親の言葉に従って協力して着る + おとなしくはしていないが着る ± 叱られながら着る (着ることの理解が少ない) − 本人の意志なく全て親の介助が必要、拒否 児と目をあわせてバイバイと言って手を振る。 反 応 評価 58 ++ バイバイ (これに似た発音) と言って手を振る + 手を振る ± 手は振らないが、帰ることがわかる様 子を みせる − 反応しない 3歳前後(2歳6か月∼4歳) 1歳6か月前後(1歳4か月∼2歳5か月) 計測者が指示をして計測台に乗せる。 親と手をつないで計測台に乗せる 反 応 評価 反 応 評価 ++ 自分から計測台に乗る ++ さっさと自分から乗る + 親の指示で初めて計測台に乗る + 親の指示で初めて乗る ± 親が抱きあげないと計測台に乗れない ± 親と手をつながないと乗れない − 拒否する − 拒否する 計測のあと親に指示して、遊び相手をしてもらう。 計測のあと親に指 示して たかい、たかい をさせる。 反 応 評価 ++ ∼ + キャッキャッと言って喜ぶ もっとと言ってせがむ 評価 反 応 ++ ∼ + キャッキャツと言って喜ぶ 自分から要求したり、遊びを発展させる ± うれしそうな顔をするが、その時だけで せがまない ± うれしそうな顔はするが、 その時だけで自分か ら親に関わろうとしない − 反応しない、嫌がる、拒否する − 反応しない、嫌がる、拒否する 同 左 同 左 親の指示の仕方、介助の仕方をみる。 パンツ、シャツ、ズボン、スカート、クツシタなど 各々の名称を言って身につけるように指示する。 反 応 評価 ++ 渡されたものを自力で着ようとする + 親の指示に従い協力して着る ± 協力は少ないが、何とか着る − 本人の意志なく全て親の介助が必要、拒否 反 応 ++ 指示されたものを順序よく、自力で着る (特にシャツ、ズボン、スカート) + パンツ、クツシタなど区別して何とか自 力で身につける ± 着るものを区別できないが、渡されると 身につけようとする − 全て親の介助を必要とする、拒否 同 左 児と目をあわせてサヨナラと言って頭を下げる。 反 応 評価 評価 反 応 評価 ++ サヨナラと言ってあいさつ ++ サヨナラと言って頭を下げてあいさつ + 頭を下げる バイバイと言って手を振る + 頭を下げる ± 手を振る ± バイバイにとどまる − 反応しない、幼い反応 − 手を振るのみ、反応なし、幼い反応 59 第3節 乳幼児の歯科保健 1. 口腔機能の発育・発達 年 齢 年 0歳 月 1 口腔の発育 1歳 2 3 ・哺乳に適した形態 ・歯槽堤が低い ・上顎中央部に凹み (吸綴窩) 4 5 ・口蓋が高くなる ・顎の幅が広がる ・舌の動きの 自由度が増す 7 8 9 4本 A A A A A A 哺乳反射 嚥下反射 捕食機能 獲得期 ・下唇の内転 ・舌尖の固定 (閉口時) 成人嚥下 獲得期 押しつぶし 機能獲得期 6本 BA AB A A すりつぶし 機能獲得期 自食 準備期 手づかみ食べ 介助でコップから 飲める ストローで飲める オモチャをかむ 離乳初期 離乳中期 離乳後期 ・なめらかにすりつぶし・舌でつぶせる固さ ・歯ぐきでつぶせる固さ た状態 ・適切な固さの食物を 口に近づけ、 前歯でかじり取らせる ・スプーンを下唇に乗せ、 上唇が閉じるのを待つ ・食べるのを嫌がる ・口の周りを触られ るのを嫌がる ・誤嚥 ・哺乳反射の残存 口腔機能の 問題点と原因 (12) スプーンから一口飲みをする 指をしゃぶる オモチャをなめる 食 べ 方 を 育 てる 支 援 11 ・舌の前後運動 ・舌の上下運動 ・舌の左右運動 ・歯がため ・口唇の閉鎖 ・口角の水平引き・下顎の側方運動 ・手づかみ ・顎はやや動く ・口唇が強く閉鎖 ・口唇の協調運動 ・上唇での取込 ・顎の動きが出る ・口角の片側引き 手を口に持っていく 離乳食の目安 調 理 形 態 10 ・上顎と下顎が 合わさる (萌出歯数) 2本 乳歯の萌出 摂食・嚥下機 能 の 発 達 6 吸い食べ ①② 食物や舌が出る ① ・口を大きく開き過ぎる ・舌を突き出してこぼす ・むせる ・乳児様嚥下 ・逆嚥下 ・舌で押し出す 60 口にためて飲み込まない ②③ 食物が口唇と歯槽堤の 間に残る ①②③ 丸飲み ①②③ 水分を口角からこぼす コップでむせる ①② 原因① 押しつぶしの練習不足 原因② 舌を押上げて飲み込む力が弱い 原因③ 咀嚼がまだ上手にできない 年 齢 年 1歳 月 0 口腔の発育 乳歯の萌出 1 2歳 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 0 3歳 1 2 3 4 6 7 8 9 12∼16本 D BA AB D D BA AB D 16∼18本 DCBA ABCD DCBA ABCD 自食準備期 摂食・嚥下機能 の 発 達 0 20本 EDCBA ABCDE EDCBA ABCDE ・摂食・嚥下機能がほぼ完成 (捕食、臼歯咀嚼、嚥下、 自食) スプーンを使う (3指握り) (手掌握り) 手づかみ食べ 横から → 手のひらで → 前から → 3指で 入れる 押し込む 入れる 入れる フォークを使う (3指握り) (手掌握り) 3指握りが上手 になってから はしの練習開始 自分でコップを持ち 飲めるようになる 離乳完了 離乳食の目安 調 理 形 態 ・歯ぐきでかめる固さ 自立期 軟食から幼児食 ・食べにくい形態の食物には加工が必要 (水分を足す、 とろみをつける、食べやすい食品に混ぜるなど) ・手と口の協調運動を覚える ・食物を自分で手に持ち、 一口量をかじり取る練習をする ・一口量がわかるまで、 手づかみ食べを続ける ・スプーンが上手になったら フォークを使う ・好き嫌いや遊び食べなど の問題が出てくる ・食物形態を工夫する ・はしは、 スプーンやフォーク の手指の動きや力加減が 発達してから使う うまくかめない・飲み込めない・吸い食べ 遊び食べ ④⑤ うまくかめない ④⑤ 丸飲み・こぼす ④⑤⑥ 飲み込めない・丸飲み・遊び食べ ④⑤⑥⑧ よだれが多い ⑦ 口腔機能の 問題点と原因 11 食具食べ獲得期 ・頚部回旋の消失 ・手と口の協調運動 ・前歯で 断 ・口の中央部で捕食 食 べ 方 を 育 てる 支 援 10 ・乳歯の萌出がほぼ終わり 乳歯列が完成 ・顔面頭蓋や顎骨内での歯の発育、 口蓋の高さや深さの顕著な成長 8本 BA AB BA AB 5 犬食い ⑤⑥ 食具で押し込む・こぼす ⑤⑥ 原因④ かむ力が弱い、 かじり取りの練習不足 原因⑤ 手づかみ食べの練習不足(手と口の協調運動、一口量の獲得) 原因⑥ 食具の扱いの練習不足、食物形態が口腔機能の発達に合っていない 原因⑦ 口腔機能の発達が遅い (口唇閉鎖の力が弱い、飲み込む力が弱い) 原因⑧ 空腹ではない、食事に集中できない環境・姿勢 61 2. 歯科保健指導のポイント 年 齢 年 0歳 月 1 1歳 2 3 4 5 6 7 (萌出歯数) 離乳食 食生活 2本 10 4本 A A A A 11 (12) 6本 BA AB A A 乳中切歯が生え始める ・歯槽骨内で 永久歯(第一大臼歯) の 石灰化開始 乳歯の 萌 出 9 A A 乳歯の萌出 永久歯の発育 主な疾病・異常 8 乳側切歯が生える 乳前歯上下8本がそろう ○生歯困難 ○萌出性歯肉炎 ○ヘルペス性歯肉口内炎 ○先天性歯 ○リガ・フェーデ病 ○上皮真珠 ○ヘルペス性歯肉口内炎 ○口唇口蓋裂 ・平均的な萌出時期や順序を説明する ・萌出時の症状(発熱や不機嫌など) に ついて予備知識を提供する ・摂食・嚥下機能の発達に合わせて 離乳食の準備を開始する ・萌出時期や順序は個人差が 大きいことを説明する ・摂食・嚥下機能の発達に合わせて離乳食を開始する ・離乳食の味付けや内容を注意する ・哺乳ビンで砂糖を多く含む飲み 物を飲ませないよう注意を促す 保 健 卒 乳 指 導 ・乳児の口腔内は大変敏感であるため、 ガーゼでの手入れによる脱感作と スキンシップを促す ・授乳後に白湯やお茶を与える ・前歯が4本生えたら、小さめで毛先の やわらかい歯ブラシを使い、機嫌のよ い時に仕上げみがきの練習を開始する ・フッ化物配合歯磨剤の使用方法を 説明し、適切な使用を促す ミュータン ス菌の感 染 防 止 ・親子間の伝播・定着の時期(生後19∼ 31か月) を伝え、感染防止として保護 者のう 治療とプラークコントロールの 重要性を説明する ・保護者のう 治療とプラークコント ロールの重要性を説明する ・口移しやスプーンの共用はできるだけ 避けるとよいが、過度な対応は不要である 歯科受診 ・疾病や異常が認められる場合は、保護 者のかかりつけ歯科医あるいは小児歯 科医に相談する 歯みがき の フッ化物 ポ の 応 用 イ ン ト ・ 1歳の誕生日を迎えたら、歯科 健診とフッ化物塗布を受ける ・保護者が歯列への影響を心配 している場合、無理に止めさせな くてよいと伝え、不安を軽減する 口腔習癖 62 年 齢 年 1歳 月 0 1 2歳 2 8本 BA AB BA AB 乳歯の萌出 永久歯の発育 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12∼16本 D BA AB D D BA AB D 第一乳臼歯が生える 0 3歳 1 2 16∼18本 DCBA ABCD DCBA ABCD 第二乳臼歯が生える 乳犬歯が生える 乳前歯上下8本がそろう 主な疾病・異常 3 ○過剰歯、先天性欠如歯、癒合歯 ○不正 合 ○口腔習癖による歯列 合異常 ○エナメル質形成不全 ○歯肉炎 ○上唇小帯・舌小帯異常 ○口唇閉鎖不全・口呼吸 4 5 6 7 8 9 10 乳歯列が完成する ・第三大臼歯を除く 全ての永久歯の 石灰化が進行中 ○う 夜間の授乳や哺乳ビンで砂糖を多く含む飲み 物を飲む習慣を長期間続けている児では、多 数歯にわたる重症う となる場合がある う の好発部位 上頸前歯の隣接面 上顎前歯の歯頸部 上顎前歯の口蓋側 う の好発部位 臼歯の 合面 う の好発部位 臼歯の隣接面 ・萌出時期や順序は個人差が大きく、 概 ね6か月以上の遅れがなければ問題は い ・極端に萌出が遅い場合は、 保護者のかかり つけ歯科医あるいは小児歯科医に相談する 離乳食 食生活 ・口腔機能の発達に合わせて食物形態 を選択、加工する ・砂糖を多く含むおやつや飲み物の取り方を注意 ・哺乳ビンの使用をやめ、 コップで飲む 練習をする ・間食の回数を増やさない ・間食や飲み物の選択について情報提供する ・母 乳は、 う の直 接 原 因ではないが、 長期授乳や夜間授乳がう リスクを 高めることを伝える ・食事量や発育状況を把握した上で、歯みが きや砂糖を多く含む食品の摂取などに十分 注意し、定期健診を受けるよう助言する ・食後に歯ブラシを持たせ、食べたらみ がく習慣をつける ・寝る前の仕上げみがきを習慣にする ・フッ化物配合歯磨剤を使用する ・隣接面にフロスを使用する ・ブクブクうがいの練習を開始する ・フッ化物配合歯磨剤を使用する 健 卒 乳 指 導 歯みがき の フッ化物 ポ の 応 用 イ ト ミュータン ス菌の感 染 防 止 ・保護者のう 治療とプラークコントロー ルの重要性を説明する ・口移しやスプーンの共用はできるだけ 避けるとよいが、過度な対応は不要である 歯科受診 ・かかりつけ歯 科 医を持ち、定 期 的に 歯 科 健 診とフッ化 物 塗 布を受ける 口腔習癖 ・歯列に影響が出始める場合もあるが、 無理に止めさせなくてもよい 0 20本 EDCBA ABCDE EDCBA ABCDE 乳歯の 萌 出 保 ン 11 ・ ミュータンス菌の定着時期(生後19 ∼31か月) であるため、砂糖を多く含 むおやつや飲み物をできるだけ控え、 歯みがき習慣をつける ・歯列に影響が出ている場合は、外遊びや手 遊びを増やすなど、習癖の頻 度を減らす よう助言する 63 3. 乳幼児に推奨されるフッ化物応用 フッ化物配合歯磨剤 フッ化物歯面塗布 主 な 対 象 乳歯の萌出後∼4歳頃の乳幼児※ う 発生リスクが高い者 ※4歳以降はフッ化物洗口に移行 全年齢層 応 用 場 面 歯科診療所、市町村保健センター等 専門家(歯科医師・歯科衛生士)が塗布 家庭、幼稚園・保育所 ゲル、溶液 ペースト、フォーム (泡状) 、液体、ジェル フッ化ナトリウム(NaF) リン酸酸性フッ化ナトリウム(APF) フッ化ナトリウム(NaF) モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP) フッ化第一スズ(SnF2) フ ッ 化 物 イ オ ン 濃 度 9,000ppm 100∼1,000ppm 一 応 年1∼2回 ※NaFの場合は2週間以内に4回塗布を1回とする 歯みがき時に毎回、1日1回以上 歯ブラシ法(公衆衛生) 1)歯ブラシで口腔内を十分に清掃する 2) ロール綿を用いて塗布歯を孤立させ、 ワッテで 歯面の唾液を拭き取る。歯ブラシの水分も取る 3)薬剤をパイル皿などに1人分の量を出す 4)薬剤を少量ずつ歯ブラシに取り、1∼2本ず つ塗布して歯面全体に薬剤をのばし、隣接 面や小窩裂溝にも届くよう押し込みながら、 できる限り薬剤に浸潤させる時間を長く保つ 5)歯面の余剰に付着した薬剤を拭き取り、 ロール綿を取り除く。 6)塗布後30分間は唾液を吐く程度にとどめ、 飲食や洗口を避けるよう注意を促す 綿球塗布法(歯科診療所) ○省略 1)歯ブラシに年齢相応量の歯磨剤をつける 2)歯磨剤を歯面全体に広げ、2∼3分間みがく 3) ブクブクうがいは、歯磨剤をはき出した後に1 回のみ行う。 ( 5∼10mlの水を口に含みで、5 秒間程度ブクブクうがいをする) 4)歯みがき後1∼2時間程度は飲食をしないこ とが望ましい ゲル:約1g(9mgF) 溶液:2ml(18 mgF) [使用量のめやす] 6か月 (乳歯の萌出)∼2歳:子どもの切った爪程度 ・500ppm製品を選択 (フォームであれば1,000ppm) 3歳∼5歳:グリーンピース大(0.25g) ・500ppm製品を選択 (フォームまたはMFPであれば1,000ppm) 乳歯:30∼40% 永久歯:30% 20∼30% 薬 剤 の 形 状 フ ッ 化 の 種 応 応 う 効 特 般 用 物 類 的 な 頻 度 用 方 用 予 法 量 防 果 徴 ・専門家による個別応用法 ・公衆衛生手段としては、比較的高価、人手を 要する、実施対象が制限されるなどの欠点あり ・他の応用方法が難しい低年齢児にとっては、 年数回の実施で負担が軽く、有効な方法 64 ※ブクブクうがいが上手にできない低年齢 児の場合 ・仕上げみがき時に保護者が使用する ・仕上げみがき後は、歯磨剤の残余物を軽 くふき取る ・入手が簡単(2006年市場占有率89%) ・乳幼児から高齢者まで、 日常の生活習慣の中 で応用可能 <参考>エビテンスに基づくう 予防法の評価(アメリカ予防医療研究班による歯科疾患ガイドライン抜粋) 証拠の質 予防的介入方法 勧告の強さ Ⅱ−1 全身応用:水道水フッ化物添加 フッ化物 局所応用:フッ化物洗口、歯面塗布、歯磨剤 Ⅰ シーラント (予防填塞) Ⅰ 甘いものを控える 食事のコントロール 就寝時の哺乳ビン使用を控える A A A Ⅱ−1 A Ⅲ B 個人的な歯科衛生(フッ化物が配合されていない歯磨剤を用いた歯みがき) Ⅲ C 定期的な歯科検診 Ⅲ C 高 Ⅰ Ⅱ 図 1 乳歯列 Ⅲ 低 Ⅳ 強 A B C 弱 D 図 2 永久歯列 表 1 歯の成長・発育時期 歯 種 歯胚形成 石灰化開始 表1 乳幼児期のP DDを疑わせる養育者か らの訴え 乳 児 期 1 歳 1 歳 代 A 乳中切歯 胎生7週 特 徴 胎生7週 乳 B 乳側切歯 胎生7 週 歯 C 乳犬歯 育てやすさ D 第一乳臼歯 胎生8週 E 第二乳臼歯 胎生10週 6 第一大臼歯 1 中切歯 育てにくさ 永 2 側切歯 久 3 犬歯 歯 4 第一小臼歯 5 第二小臼歯 7 第二大臼歯 愛着行動の欠如 8 第三大臼歯 胎生3 ∼4月 胎生5∼5 月 胎生5∼5 月 胎生5 ∼6月 出生時 7 ∼8月 8 ∼9月 3 ∼4年 歯冠完成 萌 出 上顎 下顎 歯根完成 歯根吸収開始 (脱落) 4年(6∼7年) 6月 7 月 胎生4∼4 月 1 ∼2月 1 年 具 体 的 内 容 5年(7∼8年) 7月 9月 胎生4 月 2 ∼3月 1 ∼2年 7年(9∼12年) 16 月 18月 胎生5月 9月 3 年 8年(9∼11年) 12月 14月 胎生5月 ・寝てばかりいる 5 ∼6月 2 年 8年(10∼12年) 20月 24月 胎生6月 ・おとなしい、要求が少ない 10∼11月 3年 ・親のじゃまをしないで、一人で遊んでいた 6∼7年 6∼7年 出生時 2 ∼3年 6∼7年 7∼8年 3∼4月 4∼5年 ・一日中泣いてばかりいた 7∼8年 8∼9年 10∼12月 4∼5年 9∼10年 11∼12年 3∼5月 ・ひどい夜泣きをした 6∼7年 10∼12年 10∼11年 1 ∼2年・ちっとも寝ない 5∼6年 11∼12年 10∼12年 2∼2 年 6∼7年 11∼13年 12∼13年 2 ∼3年 7∼8年 ・人見知りがまったくない 17∼21年 17∼21年 7∼10年 12∼16年 ・外で迷子になってしまう ・一人でも平気 9∼10年 9∼10年 10∼11年 12∼15年 12∼13年 12∼14年 14∼16年 18∼25年 愛着行動の異常 ・人見知りがひどい ・母親べったりで父親にもなつかない 言語理解の遅れ ・呼んでも知らん顔される ・耳が聞こえないのか心配 65 (Schour&Massle) 図3 歯の萌出図表 胎生7か月 出生時 6か月 (±2か月) 1歳(±3か月) 3歳(±6か月) 6歳(±6か月) (Schour&Massler 原図改変) 日本小児歯科学会 1988 参考文献・出典 1) 「妊産婦、 乳児及び幼児に対する歯科健康診査及び保健指導の実施について」 :厚生省児童家庭局長・健康政 策局長連名通知、 平成9年3月31日、 児発第231号・健政発第301号 2) 「乳幼児に対する健康診査の実施について」 :厚生省児童家庭局長通知、 平成10年4月8日、 児発第285号 3) 「幼児期における歯科保健指導の手引きについて」 :厚生省健康政策局長通知、 平成2年3月5日、 健政発第117号 4) 「母子保健マニュアル」 :厚生省児童家庭局母子保健課監修、 母子保健事業団、 平成8年11月30日 5) 「改訂4版 臨床家のための口腔衛生学」 :中垣晴男ら、 永末書店、 2009 6) 「歯と口の健康からはじめる食育サポートブック」 :東京都保健福祉局・社団法人東京都歯科医師会、 平成21年2月 7) 「歯と口の健康 家族みんなの健康づくり」 :医歯薬出版、 2000 8) 「親と子の健やかな育ちに寄り添う乳幼児の口と歯の健診ガイド」 : 日本小児歯科学会、 医歯薬出版、 2005 9) 「乳幼児の摂食指導」 :向井美惠ら、 医歯薬出版、 2000 10) 「う 予防のためのフッ化物歯面塗布実施マニュアル」 :厚生労働科学研究フッ化物応用研究会、 社会保険研 究会平成19年3月 11) 「う 予防のためのフッ化物配合歯磨剤応用マニュアル」 :厚生労働科学研究フッ化物応用研究会、 社会保険 研究会平成18年3月 12) 「母乳とむし歯−現在の考え方」 :小児科と小児歯科の保健検討委員会、 平成20年6月19日、 社団法人日本小児 科学会・一般社団法人日本小児歯科学会 13) 「おしゃぶりについての考え方」 :小児科と小児歯科の保健検討委員会、平成17年1月12日、社団法人日本小児 科学会・一般社団法人日本小児歯科学会 14) 「指しゃぶりについての考え方」 :小児科と小児歯科の保健検討委員会、 平成18年1月13日、 社団法人日本小児 科学会・一般社団法人日本小児歯科学会 15) 「歯からみた幼児食の進め方」 :小児科と小児歯科の保健検討委員会、 平成19年1月25日、 社団法人日本小児 科学会・一般社団法人日本小児歯科学会 16) 「子どもの歯みがき」 :小児科と小児歯科の保健検討委員会、 平成20年4月1日、 社団法人日本小児科学会・一般 社団法人日本小児歯科学会 66 第4節 親と子への支援 1. 子ども虐待の予防 (1) 虐待を予防する視点で健診に必要なこと −健康診査における虐待予防の視点− ア) 「子育て支援の場」 としての機能を果たす ◆ 来所してよかったと思える健診づくり ・健診は子どもだけでなく、親のための健診として工夫し、 PRをする。 ・母親の精神的な不安やストレス、育児が苦手などことばに出すことで気持ちが軽くなるよう支援する (指導でなく相談者に寄り添い、 よく聴き支援をする)。 ◆ プライバシーに配慮した話しやすい環境づくり ・パーテーションやついたてを利用したり、込み入った話では別室や後日の相談日等を利用し親との 信頼関係を築く。 ◆ 問診票の工夫 ・子育て支援につながる問診項目を取り入れ、支援の糸口にする。 (例−夫・家族の協力、子育てについて話せる人、育児のイライラ、不安や悩み、経済的な心配、 その 他自由記載など) イ) 母親の出会いの場を提供 ◆ みんな同じように悩んでいることを母親が知る。 ・母親同士が情報交換や交流をし、友達が作れるような場を確保する。 ・社会資源の紹介や、子育てボランティアなどと顔合わせの場をつくる。 ウ) 虐待・不自然な親子の発見の場 ◆ 気になる親子への気づき <気になる親の態度> ・子どもに対して物のように接する、子どもの様子を気にかけない、事故防止の配慮がない、平気で 子どもを叩く殴る、厳しくしつける、乱暴に扱う、 「この子はかわいくない」 と言うなど。 <気になる子ども> ・発育・発達に遅れがある、傷、骨折や叩かれた痕がある、表情が乏しい、親子の関係性に違和感が ある、 スタッフにベタベタするなど。 エ) 他職種との連携と相談支援の継続及び必要な機関への橋渡し ◆ 情報の共有化でスタッフ・関係機関と連携 ・スタッフ間による健診後のカンファレンスをとおして支援方針を合意する。 (気になる親子はその他の事業で経過をみるなど) ・虐待が疑われる場合は、親の抵抗がないような理由づけをして、所内の事業につなげたり、医療機 関に紹介するなど継続的に経過をみていく。 ・虐待の重症度により緊急性の高い場合は児童相談センターに通告又は相談をする。 67 オ) 未受診児の状況把握と対応 ◆ 乳幼児の全数把握 ・健診未受診児への再勧奨により全数把握に努める。 ・医療機関受診による未受診児についても状況把握をする。 ・虐待の予防、発見、重症化予防として、未受診児への訪問に積極的に取り組む。 <未受診児への訪問の必要性> ・未受診児の中に子育てに問題のある親子が含まれている。 ・自ら声をあげることのできない育児支援の必要な養育者を発見する機会である。 (参考) ≪子ども虐待の定義≫ ・児童虐待の防止等に関する法律 第2条 「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護 するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同 じ。)について行う次に掲げる行為をいう。 ・4つの行為類型 ア.児童の身体に外傷が生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること。 イ.児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。 ウ. 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の 同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者として の監護を著しく怠ること。 エ. 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶 者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情 にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼす もの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著し い心理的外傷を与える言動を行うこと。 症 状 具体例 68 ≪具体的な児童虐待の該当例≫ ア.身体的虐待 ●外傷とは打撲傷、 あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、 たばこな どによる火傷など ●生命に危険のある暴行とは首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、 布団蒸しにする、 れさせる、逆さ吊りにする、異物をのませる、食事を与えない、冬戸外にしめだ す、縄などにより一室に拘束するなど ●意図的に子どもを病気にさせるなど イ.性的虐待 ●子どもへの性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆など ●性器を触る又は触らせるなどの性的暴力、性的行為の強要・教唆など ●性器や性交を見せる。 ●ポルノグラフィーの被写体などに子どもを強要するなど ウ.ネグレクト ●子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、 ( 1)家に閉じこめる (子どもの意思に反 して学校等に登校させない)、 ( 2)重大な病気になっても病院に連れて行かない、 ( 3)乳幼児を 家に残したまま度々外出する、 ( 4)乳幼児を車の中に放置するなど ●子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。 ●食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。 例えば、 ( 1)適切な食事を与えない、 ( 2)下着など長期間ひどく不潔なままにする、 ( 3)極端に不 潔な環境の中で生活をさせるなど ●親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、 誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、 ネグレクトという虐 待の結果であることに留意すべきである。 ●子どもを遺棄する。 ●祖父母、 きょうだい、保護者の恋人などの同居人がア、 イ又はエに掲げる行為と同様の行為を 行っているにもかかわらず、 それを放置するなど エ.心理的虐待 ●ことばによる脅かし、脅迫など ●子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど ●子どもの心を傷つけることを繰り返し言う ●子どもの自尊心を傷つけるような言動など ●他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする ●子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力をふるうなど 69 (2) 気になる親子を把握するポイント 子どもの虐待を発見するチャンスは、保健活動すべての場面にひそんでいる。 妊娠から出産・育児期を通じて親子の健康支援をする中で、母子健康手帳の交付時、各種制度の申請時、 家庭訪問、育児相談、乳幼児健診等は、貴重な機会となる。特に乳幼児期のネグレクトの発見は保健機関の 役割が大きいと言われる。継続した関わりの中で、子どもへの虐待を発見できることが多い立場であるというこ とを認識する。 気になる親子として把握された場合は、援助の対象を母親や父親に向けて展開していく必要があります。親 の話に熱心に耳を傾けると共に、育児負担の軽減をはかるための支援やサービスの紹介、親子が外に出やす い環境づくりへの支援が必要である。 また、対応する場合は、保健師ひとりで抱え込まないで、チームを組んで多方面から親子を支援していくこと が重要である。 親の表情が硬い、笑顔がぎこちない、本音でない等の子どもや親からのサインを「何か変」 「なんとなく、気に なる」 とキャッチすることから支援が始まる。 ア) 妊娠期のポイント 母子健康手帳から得られる情報は貴重で、記載内容をきっかけに母親白身から妊娠中の体調、気持ち、子 どもへの期待などをふりかえりながら話してもらうことができる。家庭訪問や面接、乳幼児健診の際には、必ず母 子健康手帳を見せてもらうことがたいせつである。乳幼児健診カードにあらかじめ受付で転記されている部分 もあるが、保健師の眼で見ることが必要である。たとえば、家族関係(親の再婚や継母・継父関係)の情報を得 ることができる。 また、 日頃から周産期を扱う医療機関との関わりを密接にして気にかかる事例の援助については、 プライバ シーは十分に配慮をして連絡を取り合うことが必要である。 母子健康手帳をきっかけに得られるハイリスクな状態 ①婚姻形態・状況:未婚、内縁 ②母の妊娠出産等:10代での初産、多胎・低出生体重児出産、多子妊娠・出産、母の疾患あり ③母子健康手帳の発行:出産後または妊娠後期の発行、妊婦白身が記入する項目にほとんど記録がされ ていない(望まない妊娠・出産を思わせる情報) ④妊娠中の状況:定期健康診査が未受診、飛び込み出産 ⑤子どもについて:親が記入する項目にほとんど記載がない イ) 乳児期のポイント 説明の曖昧な傷がある、叩かれた痕がある、骨折がある、 ミルクを飲ませていると言うが体重増加が悪い、が つがつとミルクを飲む、入浴や更衣等ケアされていない、表情が乏しい、 おびえている、視線が合わない、 あやし ても笑わない、抱かれても反り返る、 よく泣く、頭を打ちつけるなど自傷行為があるなど ウ) 1歳6か月児のポイント 説明の曖昧な傷がある、叩かれた痕がある、骨折がある、体重・身長の増加があるときから悪い・横ばい、親 の前で萎縮する、親になつかない、親と別れても泣かない、おびえがある、表情が乏しい、笑わない、がつがつ 食べる、拒食(食べない)、 自傷行為があるなど エ) 3歳児のポイント 説明の曖昧な傷がある、叩かれた痕がある、骨折がある、体重・身長の増加があるときから悪い・横ばい、親 の前で萎縮する、親になつかない、遊べない、多動、 うそをつく、 徊する、かみつく、乱暴、がつがつ食べる、拒 食(食べない)、 自傷行為がある、感情のコントロールが難しい、誰にでもべたべたするなど 70 オ) 気になる親子への気づき 健診への準備ができていない、子どもに対して物のように接する、子どもの様子を気にかけない、事故防止の 配慮がない、平気で子どもを叩く殴る、厳しくしつけると言う、 この子はかわいくないと言うなど虐待ハイリスクに 示された因子の観察という方法もあるが「成長・発達」、 「傷」、 「表情」、 「言動」 「親子の関係性」について感 知することが重要である。例えば、親や子どもの無表情、親が言うほどミルクを飲んでいるとは思えない小さな発 育や、傷のつき方と親の説明の食い違い、親が子どもに声掛けが少ない、子どもが変にスタッフにべたべたす る、親のスタッフヘの拒否的な態度など、数値で測れるものではない気になる親子への気づきを大切にする必 要がある。 カ) 口腔環境からのポイント 常識的に見て説明のつかない症状(う の多発、歯 破折、歯冠の変色など)や口腔粘膜の創傷、 ひどい 口臭、歯垢の大量付着があったり、必要な治療を受けさせず放置されているなど。 キ) マタニティブルーズと産後うつ病 妊娠期は一般的に精神疾患の発病はまれで、 もともと罹患している疾患の悪化も少ないが、産褥期は妊娠 期の約4倍と精神疾患の好発時期である。軽症型としてマタニティブルーズが、 より重症なものとして産後うつ 病と産後精神病がある。 自殺を考えている、病識が乏しい、 また、産後精神病にあげられているような症状がある場合は、事故等の予 防のためにも至急、精神科受診につなげる必要がある。 <マタニティブルーズ> 発 生:出産後すぐから数日間 症 状:涙もろい、抑うつ、疲れ、頭痛、食欲がない、気分がふさぐ、集中しにくい、不安になる、 リラックスでき ない、眠りが浅い・夢を見る、物忘れしやすい、 どうしていいのかわからない 持続期間:分 後3∼10日の間に発症し、一過性の経過で終息 対 応:やさしく接する。夫の援助がもっとも効果的。 自然に良くなり、普通は治療は必要ない 頻 度:(調査法により)産婦の5∼50%に出現するという報告がある 留 意 点:出産して退院前に、 スクリーニングしておく。長引く場合は産後うつ病等の可能性も考えてフォロー をする <産後うつ病> 発 生:出産後1週間からでも出現、産後数か月まで 症 状:抑うつ気分、興味や喜びの著しい減退、食欲の減退や増加またはこれに伴う体重の変化、不眠や 睡眠過多、 イライラして動き回る又は動作緩慢、疲れやすい、家事や育児の気力減退、無価値感、 過剰な罪悪感、思考力や集中力や決断力減退 持続期間:数週間から数か月 (数年に及ぶこともある) 対 応:受容的な対応。実質的なサポート。重症例は抗うつ剤等の精神科治療が必要 頻 度:産婦の10∼20%に出現する。 このうちの1∼2割は重症といわれる 留 意 点:マタニティブルーズと産後うつ病を混同しない <育児不安・産後うつ病に気づくには> マタニティブルーズは出産後数時間から2日目という早い時期に起こるので、 これらが疑われる時には退院 前に医療機関から保健機関へ連絡し、地域でフォローすることが望ましい。 また、 日常の電話相談や乳児健診 などで、育児不安の強い母親に出会ったときには、 自分の気分がどうなのかということに早く気づいてもらい、そ の結果をアセスメントして対応する。 71 <参考>育児不安・産後うつ病を把握するための方法 (質問票例) ①育児支援チェックリスト 結婚や社会経済状況、周囲からのサポート、親密な対人関係などの心 理社会的な問題、育児に行き詰まった状況で母親が抱く気持ちの項目を 含んでいる。 ②エジンバラ産後うつ病質問票 10項目から成る自己記入式質問票。うつ病によく見られる症状を質 問したもの。 ③赤ちゃんの気持ち質問票 10項目から成る自己記入式質問票。赤ちゃんに対する愛着の気持ち について質問したもの。 (参考文献:「産後の母親と家族のメンタルヘルス」、母子衛生研究会、平成17年8月) (3) 愛着形成 ア) 乳児期の愛着形成のポイント ・お母さんの心臓の音を聞かせるような抱き方で母乳をあげるのが理想的である。 ・母乳を飲む時に、 プロラクティンというホルモンが分泌されるが、 このホルモンは「子育てホルモン」 ともいわ れ、 お母さんに子どもが愛しいという気持ちを持たせる。 ・赤ちゃんは、 お母さんの肌のにおいと感触、声の質、 おっぱいの味などを、 「快感」 として楽しむことを覚える。 これが愛着の絆を結ぶ基礎となる。 ・2か月ごろから目がはっきり見え始め、母親の笑顔に自分でも笑顔で応えるようになる。 このころに、人の笑顔 に敏感に反応する脳の部分が育ち、共感能力の発達が始まる。 ・4か月を過ぎると、 自分のほうから笑いかけたり、バブバブと話しかけたりする。 これに母親が笑顔と赤ちゃん 言葉で応えてあげると大喜びする。 「いない、いない、バー」などのゲームは、人の行動を予知できる知能の 発達を助け、対人関係のルールを学ぶ。 ・情緒ある感情の対話を通して、親子の愛着関係を深めていく大切なときである。 6か月までが愛着の絆を結 ぶためにもっとも大切な時期である。 イ) 幼児期の愛着形成のポイント ・(1歳半∼3歳) このころの子どもは、人の痛みに共感でき、恥ずかしい、悪かったなど、人間関係に必要な高 度の感情が発達する。 これに対して、愛着障害児の反抗は攻撃性を帯び、過度の刺激を求めて危険を犯し たり、動物や自分より弱い子をいじめて、支配欲を満たそうとする。人の痛みがわからず残酷なのが特徴であ る。 ・(3歳∼5歳) この時期の子どもは大多数が園に通い始め、親との肉体的分離を経験する。 「他」の概念が広 まって、複数の他人と相互関係を結ぶ能力が発達しているから、親以外の権威を受け入れ、園の先生と、 「先生」、 「生徒」 といった関係を結んだり、 ほかの子どもと友達関係を結んだりすることができる。 参考文献 1) 子ども虐待予防のための保健師活動マニュアル「地域保健における子どもの虐待の予防・早期発見・援 助に係る研究報告」平成13年度厚生科学研究 2) 「子ども虐待対応の手引きの改正について」平成19年1月23日付け雇児総発第0123003号厚生労働省 雇用均等・児童家庭局総務課長通知 3) 北海道: 「乳幼児健康診査マニュアル」第2版 平成11年3月 4) 新潟県: 「乳幼児健康診査の手引き」改訂第4版 平成14年3月 5) 和歌山県: 「親子の健康づくり支援マニュアル」平成15年3月 6) ヘネシー澄子著: 「子を愛せない母 母を拒否する子」学習研究社、平成16年10月 7) 愛知県歯科医師会「歯科医療機関用 児童虐待対応マニュアル」平成15年4月 72 2. 母子保健活動における発達支援 (1) 母子保健活動における発達支援の視点 発達障害は脳炎や脳の外傷など発達期の中途に生じた脳の疾病に基づくものを除けば、大部分は乳児期 すでに存在している。 乳幼児健診においては栄養状態をみたり、小児内科的疾患の早期発見、脳原性運動障害(いわゆる脳性 麻痺)や筋疾患、 そして精神遅滞を中心とする発達障害の早期発見など、発育や発達のスクリーニングを中心 に行われてきた。 そして、障害が発見された後は、子どもには療育、親には家庭での養育支援が必要であり、早期発見と早期 療育をつなぐシステムの整備に努めてきた。 そんな中で乳児期においては、軽い発達の遅れ、 あるいは多くの子どもにみられる姿として、年齢的には支障 がないと認識されていた状態が、 3歳児健診以降から就学前・就学以降に問題点として指摘されることがでて きた。知的発達は良好なのに、 なぜ落ち着きがないのか、 なぜ読み書きや計算が苦手なのか、 なぜ友達と上手 に関われないのか、 という疑問が出てきている。 発達につまづきのある子どもの中で、比較的軽度と考えられている発達に障害のある児がどのような経過を とることが多いか、 そして保健・医療側にはどのような問題点があるかを図1に示した。保育所や幼稚園あるい は小学校で集団生活をするようになると急激に各々の発達障害に起因するさまざまな問題点が指摘されるよう になる。そして、発達障害に起因する問題であるという認識が親などに欠落したまま時を過ごしてしまい、二次 的な適応障害(学校不適応や心身症) を引き起こすという残念な結果になっていることも少なくない。 以下については乳児期に診断のつく重度の発達障害については除き、幼児期に発見される発達障害につ いて述べる。行動の障害も保健指導上は、他の発達障害と代わりがないので、 ここではAD/HD (注意欠陥/ 多動性障害)、 HFPDD (高機能広汎性発達障害)、 自閉症について述べると共に、二次的な適応障害を予 防するために、関係機関が情報を共有し親子に対して一貫した支援を行えるようにしていきたい。 図1 いわゆる 軽度発達障害 の経過と保健・医療上の問題点 保健・医療上の問題点 幼児期 軽い発達の問題 学童期前半 問題の顕在化 学童期後半 学校不適応・心身症 思春期以降 社会への不適応 早期発見の漏れ 症状説明が不十分 医療のかかわりが希薄 (2) 健診等において気をつけたいこと 健診等においては、親の話を良く聴き、支援するという姿勢が基本である。 例えば、親から「落ち着きがない」等の相談が持ち込まれたとき、大切なことは、 「単に元気なだけで心配な いでしょう」 とか「そのうち落ち着きますよ」 といった安易な慰めを言わないことである。相談をもちかけるには、 そ れなりに心配があるわけだから、年齢やどんなときに多動か、著しく衝動的かなどの具体的な情報を得ることが 必要である。 また逆に「AD/HD」等の病名を口にして不安を高めることのないよう、慎重さも求められる。 「この子は、発達 障害なのだろうか、それとも単にやんちゃなだけなのだろうか」迷うことがあるが、 この見極めはしばしば難しい 場合や時間を要する場合がある。見極めは医師や発達相談員等の関係者と連携をとる中で進めていく。 73 親が助言を求める場合は、規則正しい生活リズムをつけることや、 ごっこ遊びや絵本の読み聞かせの大切 さ、 しかり方について説明するが、 このことは、特別なことでなく子育てにおいて共通することであり、少しだけ意 識的に行えるよう親を支援していく。 一方、親からは訴えがないものの、今まで発育発達状況や健診会場での様子から気になることがあれば、子 どもの現在の状況や発達を詳しく聴取し、生活や発達について気になる点について具体的に親に説明し問題 意識をもってもらえるように働きかけ、関わりの工夫をアドバイスして経過をみることが大切である。例えば、言葉 が出ている・語彙がある、やりとりが出来ると親が話す場合も、テレビやビデオに出てくるだけの言葉ではない か、マークや数字などが多く日常生活で使う言葉であるか、やりとりは一見あるが一方的に自分の言いたいこと だけを話していないかなどを見極めることが大切である。 地域の相談・支援体制の状況によっても違ってくるが、早期療育が必要と考えられる場合は、かかわりのある 医師や関係者と今後の方針について協議し、継続的に支援していくことが重要である。 健診においては、 「質的な発達のズレ」 (どのような言葉がでているのか、 どのように目を合わせるかなど) をみ ることが重要である。 発達のズレをみるポイントとして ①できるようになるが時期的に遅い ②正常発達でも見られる行動だが程度がひどい ③正常発達ではみられない奇妙な行動がある、の3点を挙げられる。 表1は乳幼児期のPDDを疑わせる養育者からの訴えをまとめたものである。 この症状があれば、 PDDだとい える症状はなく、 ひとりの子どもの中に両極端な部分が混在していたりするなどもある。 人との関係でも、特徴的なのは適度に人見知りをして、徐々に慣れてくるという通常の対人関係を示すことが ないことである。 場面による一貫性のなさもチェックのポイントとなる。 なお、一対一の場面では指示がスムーズに通りやすいケースが多く、特にHFPDDでは大人とのやりとりがで きるので、同年齢の子どもとの関わりの質をチェックすることが必要である。 表1 乳幼児期のPDDを疑わせる養育者からの訴え 特 徴 乳 児 期 1 歳 1 歳 代 2 歳 代 具 体 的 内 容 育てやすさ ・寝てばかりいる ・おとなしい、要求が少ない ・親のじゃまをしないで、一人で遊んでいた 育てにくさ ・一日中泣いてばかりいた ・ひどい夜泣きをした ・ちっとも寝ない 愛着行動の欠如 ・人見知りがまったくない ・外で迷子になってしまう ・一人でも平気 愛着行動の異常 ・人見知りがひどい ・母親べったりで父親にもなつかない 言語理解の遅れ ・呼んでも知らん顔される ・耳が聞こえないのか心配 ・言葉の理解がない 不安 ・特定の物を非常にこわがる ・病院や床屋にこわがって入れない ・初めての物、場所をこわがる マイペースさ ・思うとおりにならないとすごく怒る ・言い聞かせてもわからない 74 ・人の言うことを聞かない ・言葉の理解がない 2 歳 代 3 歳 代 不安 ・特定の物を非常にこわがる ・病院や床屋にこわがって入れない ・初めての物、場所をこわがる マイペースさ ・思うとおりにならないとすごく怒る ・言い聞かせてもわからない ・人の言うことを聞かない こだわり ・妙に神経質 身辺自立の遅れ ・トイレに行くのを拒否する ・ひどい偏食がでてきた ・自分で食べようとしない ・しつけができない 対人関係の障害 ・友達に興味がない ・子どもをこわがる ・一人で遊んでいる ・集団でやることを嫌がる 生活習慣でのこだわり ・同じ服しか着ない ・靴下を絶対に脱いでしまう ・ウンチをパンツの中でしかしない ・偏食が直らない 集団行動がとれない ・教室にいないで、外に飛び出す ・行事に参加しない ・好きなことしかしない ・給食が食べられない ・昼寝ができない ・勝手な行動をする ・危ないことを平気でする 対人関係の障害 ・いつも独りで遊んでいる ・理由なく友達を噛んだり叩いたりする ・注意しても聞かない 幼 児 期 ︵ 集 団 生 活 ︶ 表2は保育園や小学校での集団生活が始まってからあがってくるPDDの問題行動をまとめたものである。集 団活動では先生から出された指示を聞かなければならない対象に自分自身が入っていると認識できていない ことや「先生の指示に従わなければならない」 という枠組みの認識自体がないことで問題が起こるが、 これらは 「集団活動のルール」を把握できないという社会性の障害による。 保育園等の集団生活に入ってPDDを疑う場合も少ない。親が発達の問題を意識して関わっているかどうか はその後の二次障害の発生などに大きく影響する。少しでも早い時期から丁寧な関わりが重要となることから も、親の障害理解が非常に重要となる。 PDDが疑われる場合、保育園等は集団生活において対応に困っていたり、問題となっている点を親に情報 提供し、保健機関と共同して専門家相談につなげるなどこの時期に果たす役割は大きい。 75 表2 幼児期・学童期のPDDの相談によく出てくる相談内容 相 談 内 容 集団活動 保育室・教室から飛び出す 着席していられない・授業中フラフラ立ち歩く 先生の指示を聞いていない 授業(課題活動)に関係のないことをやっている 授業中ボォーとしている 授業が始まっても授業に必要な用意を出していない 好きなことはやるが、やりたくないことには全く手を出さない やりたいことをやっていると、次の活動(授業)に移ってもずっとやり続けたがる 苦手なことやわからないことは、絶対に手を出そうとしない 当ててもらえないと怒り出す 質問にそぐわない答えを言う・授業内容にそぐわない発言をする 行事に参加できない 何でも「一番」でないと気が済まない・「100点」でないとパニックになる 注意をしても聞かない・注意をすると悪態をついたり「逆切れ」したりする 対人関係 会話が成立しない・一方的に話すばかりで、人の話を聞いていない 聞かれたことには答えるが、自発的には話をしない・保育園や学校でのことを話さない 言葉でのやりとりが出来ず、すぐに手が出てしまう 自分で思うようにいかないと怒り出す・パニックになる 人の物を勝手に持っていってしまう 相手が嫌がっていることでもやめない(かえって面白がっている) 一人遊びが多い・同年齢の子どもと遊べない・友達を作ろうとしない 集 団 遊びのルールを無 視する・自分は守っていないのに、人 が 守っていないことは指 摘して怒る ルールを遵守しすぎる・さらに他の子にも遵守することを強要する クラスのトラブルメーカーになっている 教科学習 学習障害ではないかと担任から言われた 算数はできるが、国語はまったくできない 計算は得意だが、文章題が苦手 漢字は書けるが、読解問題ができない・作文が書けない 家庭生活 身の回りのことで自立していないところがある 自分から物事(身の回りのことなど)をやろうとしない 自分のやりたいこと(ゲームやテレビ)が優先され、必要なことをやれない こだわりが強くて、物事が進められない 兄弟が嫌がることをやり続ける・兄弟のことに干渉しすぎる (3) 気になる点と保護者へのアドバイス 基本的な対応 社会性の問題を抱えている (決して躾の問題ではない) ことを親と共有することが第一歩である。具体的な 行動から子どもの苦手なところを丁寧に押さえる必要がある。問題行動の意味や背景がわかると、 それだけで も親は楽になり、適切な対応の仕方を取り入れやすくなる。 PDDへの対応の基本の一つは指示をわかりやすく的確に伝えることである。 ここで何をすべきか、 また何を してはいけないかを、簡潔明瞭に伝え、 その内容には一貫性をもたせる。 また、対人関係のとり方もパターン的な 形にして教えていく。子どもができているところ、できていないところを把握し、できていないところを手当てしてい く、 と考える。 76 乳幼児期には、出来ないことをスモールステップで教えていく。その過程では言葉でなく、 目でモデルを示す など、他の発達障害にも共通する対応で十分である。 したがって、乳幼児期には疑わしきはPDDと考えて対応 するぐらいでもいいのではないかと考える。 診断確定前の健診等で、言葉の問題やパニックを起こしやすい等の相談を受けた場合、考慮すべき状態 や疾患と対処法については「ADHD、 LD、 HFPDD、軽度MR児 保健指導マニュアル」を参照。 (4) 発達障害の子を持つ保護者への精神的援助 以前は、子どもの発達について保護者が「これでよいのだろうか」 「この子は何かが違う」等で悩んでいても、 発達障害に対するきちんとした理解がなされていない中で子育てやしつけの仕方の問題などと捉えられ、つら い思いをすることも少なくなかった。 発達障害は脳の機能障害が原因で生じることがわかってきたことにより、 それまで悩み続けていた親にとっ てはある意味では朗報となっているが、 まだまだ疾患に対する理解が乏しく、性格が悪いとかしつけができてい ない、 といった捉え方をして子どもや親の心を追いつめていくケースもある。 親の中には、持って行き場のない不安や悩みに押しつぶされそうになりながらも誰にも相談できず、精神的に 余裕がなくなったりストレスが増大しているケースもある。 発達障害について正しい知識と認識を持った上で、保護者の気持ちをくみ取り、不安を受け止めていくこと が必要だと思われる。 反対に親が発達について全く心配していないという場合もある。 そういった場合は発達や生活状況について 丁寧に聴取し、生活の中で出来ていない所や問題となる点を具体的に親に伝え、親の関わりの大切さや関わ りの工夫を伝え経過をみるということが非常に大切ある。 発達障害の中には脳の成熟とともに症状が軽減していくものがあるが、対応を間違うと二次的問題を併発 することもあり、早期から適切な治療や教育が不可欠になる。 その意味においても ○保護者との信頼関係を築く。 ○話をじっくり聞き、不安を受け止める。 ○保護者の頑張りを支持・共感する。 などに配慮しながら、保健師として早期から保護者のよき理解者になれるよう援助していく。 健診の役割はスクリーニングだけではない。サポート (支援)のきっかけという視点が求められる。医療機関 への紹介ができないから、保健機関からのかかわりも終わるというのでは寂しい。 また健診は医学的な診断の 場面でもない。診断があろうとなかろうと、地域で暮らす住民のひとりとして、気になる親子だからこそかかわりを 続けていく、 これが今日的な健診に求められる姿である。 (5) 参考 ア) 診断基準 自閉性障害、 アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症を含む)、注意欠陥/多動性障 害、精神遅滞等の各疾患の診断基準はDSM−Ⅳを参照してください。 イ) PDDの症状 症 状 社会性の障害 具体例 非言語的 コミュニケーション 視線を適切に用いることが出来ない 視線があわない・限られた人としか視線を合わせない 自分から視線を合わせることはあるが、人からの視線は避けたがる 人の目をじーっと見つめすぎる 顔の表情やジェスチャーを適切に理解し、適切に用いられない 表情が乏しい・貼り付けたような笑顔 イントネーションや発声の仕方が不自然 77 芝居がかったような口調・小さすぎる声(大きすぎる声) 社会性の障害 非言語的 コミュニケーション 視線を適切に用いることが出来ない 視線があわない・限られた人としか視線を合わせない 自分から視線を合わせることはあるが、人からの視線は避けたがる 人の目をじーっと見つめすぎる 相手が嫌がっていることを理解できない 表情が乏しい・貼り付けたような笑顔 イントネーションや発声の仕方が不自然 芝居がかったような口調・小さすぎる声(大きすぎる声) 対人関係のとり方 一人でいるほうを好む・相手がいないかように振舞う 自分が必要なとき (要求時) にしか他者を利用しない クレーン現象(人の手を取り、 クレーンのように必要な所に持っていく) 模倣をしない・手遊びに関心を示さない 自分から動くことができない・指示がないと何をしていいかわからない 嫌なことをされても 「イヤ」 と言えない 知らない人にでも平気で話しかける 自分の言いたいことは言うが人の話は聞いていない 遊び方 一人遊びに没頭している 母親であっても、手を出されると怒り出す・手をはねのける 年上か年下の子と遊び、 同年齢の子とは遊べない 自分のやり方を押し通そうとする・思うようにいかないと怒る ルールを無視する・自分はルールを守らないが人がルールを破ると怒る ルールを遵守しすぎる (四角四面にルールを摘要したがる) 集団活動 みんなと一緒の活動ができない やりたいことはするが、 やりたくないことは絶対にやりたがらない 「恥ずかしいこと」がわからない 場の空気が読めず、 ひんしゅくを買う言動をとってしまう コミュニケーションの障害 話し言葉の発達が遅れる 反響言語(echolalia;オーム返し) が多い CMやビデオの台詞の独語が多い 主体と客体を適切に逆転させられない 例:自分が帰ってきた時に「お帰り」 ・ 「もらう」 と 「あげる」の混乱会話が 成立しない (適切な受け答えができない) ・会話が一方的言葉を一 般的でない意味で用いる・限定された意味で用いる 持って回ったような言い回しをする・仰々しい言い方をする 冗談や皮肉を理解できない・字面どおりの理解しかしない 想 こだわり 物の並べ方や道順などが決まっている 自分のやり方が決まっていて、 それ以外のやり方は受け付けない いつもと違うことが起きるとパニックになる 興味の限局性(決まったものにしか興味を示さない) 想 物の一部分の反復的な操作に熱中する 例:ミニカーのタイヤだけに注目し、 回し続ける 手を目の前でヒラヒラさせる、 パタパタするなどの常同的な運動ごっこ 遊びをしない ごっこ遊びをするが、決まったパターンから外れると怒る・やり直す (集団場面)普段と違う活動が入ると対応できない・一緒にやれない 臨機応変な判断ができない 力の障害 その他 力の障害 感覚過敏 嫌いな音があり、耳ふさぎする・嫌いなCMがある 嫌いな接触がある (砂の上を裸足で歩けない・決まった布地の服しか着ない・糊が触れない) 多動 落ち着きがない・好きなことは集中するが、 そうでないと落ち着かない 不器用 手先が不器用・体の動かし方がぎこちない 78 ウ) 歯科から気をつけたいこと 歯科側 保護者 障害の特性理解と、保護者へのやさしいまなざし 発達障害児・者が治療の意味理解が困難であり、治療 動機を得にくい状況を知っておく。 保護者は、子どもの障害に伴う様々な困難を経験し、治 療時の子どもの不適応行動についても保護者のせいであ ると罪悪感を持ちやすい。 しかし、発達障害が生じた責任 は保護者にないことを理解しておく。 障害の特性を理解してもらう 全ての歯科医が発達障害について体系的な研修を受 けているわけではない。だからこそ障害特性や子どもの現 状をきちんと伝え、理解を求める活動が必要である。個人 的な対応が難しい場合は、地域の保護者会が歯科医師 会等を通じて理解を求めていくことが必要である。 まず校医 にアプローチすることも効果的かもしれない。 かかりつけ歯科医院を作り、健診、予防的処置などをして もらいながら少しづつ理解を求めていくことも大切である。 治療態勢の整備 待たされることが苦手であるという障害特性に配慮し、予 約時間は厳守する。 また、保護者の心情に配慮し、他の一 般患者と重なる時間はできるかぎり避けたい。 障害特性に配慮した態勢整備は決して特殊なものでは なく、小児歯科において行われている工夫の延長線上にあ ると考えられる。 待つことの態勢づくり 待たなくてもすむにこしたことはないし、 そのような社会態 勢が理想であるが、現実に難しい。ふだんから、 ちょっとした 時間に気分転換できたり、集中できたりするものを見つけて おく。 これにより、何もせずに待つことを回避し、結果として待 ち時間を延長できると考えられる。 また、下で述べるような視 覚情報を有効に活用する。 物理的構造化と治療手順の視覚的提示 子どもに対するインフォームドコンセントを適切に行なう。 こ のために、写真や図等などの視覚材料で治療手順の提示 や、終りが視覚的に分る工夫を行なう。 また、治療ユニット周辺の治療器具などは見えないような 工夫、治療ユニット間の間仕切りの使用、照明がいきなり視 野に入らない工夫を行なうことも必要である。 普段から視覚的な情報伝達手段を利用する 自閉症などの発達障害児にとって視覚的な情報伝達は 有効である。 しかし、普段からそのような方法に慣れていな いと、子どもにとっても無意味なものである。 例えば散髪場面で、流れを視覚的に示すことで一定の 時間散髪に身を委ねる経験などは役に立つだろう。 パニック等防止への配慮 治療への不安から突然立ちあがったり、 あばれたりする ことが予想されるので、余分な器具、薬剤は周囲に置かず、 クロスアーム型のユニットも避けた方が良い。 短時間に処置を終えた方が後に情緒的な問題を引き起 こさない場合もある。 そのために、行動抑制を行なうのであ るが、物理的な方法や薬物の使用は保護者に抵抗が大き いことを理解すること。 むしろ、人手により対応した方が保護 者にとっては受け入れやすい。 しかし、物理的な手法や薬 物使用にあたっては、保護者に対するインフォームドコンセ ントを充分に行なうこと。 パニック等に対する備え 1日の中で、比較的安定した時間帯に予約を入れてもら えるなどの工夫はできるだろう。 普段と違う状況の要因が多いほど不安からパニックにな るので、治療場面でどうするかということよりも、例えば、 『仰 臥の姿勢で口腔内を触られる経験』 を積むなどを普段から 行なっておくことも大切である。 また、保護者からも視覚資料を使った治療の動機づけ を、事前に行いたい。 予防教育と定期的な健診 間食や甘味食品の過剰摂取によるう の可能性につい て保護者に充分説明するとともに、 日常的なケアの方法に ついても助言する。 また、歯科医院や口腔内を触られること に慣れさせるために、定期的な健診等を保護者に勧めた い。 日常的ケアの実行 発達障害児がブラッシング等日常的なケアの意味を理 解することが困難なことは多い、 またケアに対する抵抗も発 達障害のない児童よりも大きい。 しかし、 日常的なケアをきち んと獲得させることは、将来において、苦痛を伴う治療を避 けることができる。確かにブラッシングに抵抗を示す子どもに 対してこれを行なうことは困難を伴う。 しかし、 むし歯になっ た場合はもっと困難な状況に陥るだろう。 なお、子ども自身 が磨いていても、模倣行動の域を出ず、不充分となってい ることがかなりあるので、保護者の仕上げ磨きは不可欠で ある。 日常的に口腔内をいじられる経験を積んでいれば、治 療においても抵抗が少なくなると期待できる。 また、 日常的に むし歯の早期発見を行なうことも可能である。 79 引用文献 1)和歌山県:親子の健康づくりマニュアルより 2)並木典子、杉山登志郎 広汎性発達障害スクリーニング. 小児科45 1980-1988,2004 3) 石川道子:軽度発達障害の発見と対応. 障害者問題研究30:98-107,2002 4)内山登紀夫、水野薫、吉田友子(編):高機能自閉症・アスペルガー症候群入門. 中央法規, 2002 5)小枝達也:ADHD、 LD、 HFPDD、軽度MR児 保健指導マニュアル.診断と治療社,2002 6) 自閉症ガイドブック 乳幼児編 社団法人 自閉症協会 7)竹内靖人他4名:発達障害児の歯科治療に関するアンケート (平成14年自閉症児等発達障害児の地域 ニーズ調査より) 80 ◆市町村における発達支援の例 豊田市では、地域の専門機関と連携し、乳幼児健康診査後のフォローアップ体制(図1)が取られている。 発達に心配のある子どもと保護者は、乳幼児健診以外の場面でも発見される。地域の様々な機関の間での連 携により、早期療育が円滑に進むよう配慮されている (図2)。 図 1. 乳幼児健康診査後のフォロー体系図 ( 就園まで ) 豊田市子ども家庭課 3∼4か月児健診 1歳6か月児健診(2歳リーフレット配布) 3歳児健診(3歳リーフレット配布) ・3か月健診事後フォロー教室(にこにこ広場):3・4か月児健診時に、育児不安が強い母や、育てにくさの ある児を持つ親子等を対象に集団での教室を実施。 またこの教室は子ども家庭課保健師・臨床心理士の 他、協力機関として豊田市こども発達センターから、小児精神科医師・臨床心理士・保健師・療育機関の保 育士が交代で参加し、超早期からの支援を実施している。 ・1歳6か月児健診:2歳リーフレットを全員に配布しながら、 2歳児の発達を説明。 ・1歳6か月児健診の事後フォロー教室(おやこ教室):児の発達状況により支援の必要な児に対して、養育 者が児の特性を理解し、 その特性に合った関わりができるよう、集団活動を通して児の発達支援を行うと共 に、養育者の育児不安や負担感の軽減を図る目的で実施している。 ・臨床心理士による面接相談:電話相談等で発達面での相談を受けた時に、面接を案内して、児の発達を 確認する場を提供。 ・保健師による電話訪問・家庭訪問・手紙等、 さまざまな方法で支援を実施。 ・専門的療育部門(豊田市社会福祉事業団):豊田市子ども発達センター外来部門あおぞら 81 【用語説明】 2歳リーフレット:1歳6か月児健診受診者全員に2歳児の成長発達の目安がわかるリーフレットを配布。 裏面には育児相談電話や心理士面接相談予約方法等を紹介。 3歳リーフレット:3歳児健康診査受診者全員に3歳児の成長発達の目安がわかるリーフレットを配布。 図 2. 豊田市早期療育システム (3∼4か月児・ 1歳6か月児・ 3歳児健康診査) 82 3. 子どもの事故予防 (1) 子どもの事故を予防するために これまで子どもの事故は偶発的に起こるために防止が不可能であり、 「事故なんだから仕方がない」 とあきら めなければならない不幸な出来事であると考えられてきた。 しかし、最近では子どもの事故の内容や種類は、 その発達段階に応じた行動パターンと密接な関係がある ことがわかってきた。 したがって、発達に伴う行動パターンを理解して早め早めに的確に「対応」すれば、事故の防止は不可能な ことではない。ただし、 その「対応」 というのは子どもの動きそのものに注意するのではなく、子どもがおかれた環 境を事故防止の観点から子どもの目線で見直すという意味である。実際、乳幼児の事故の多くは親が近くにい ても起こっており、親がいくら近くにいても子どもの突然の動きを瞬時に止めることは不可能である。 事故防止の指導をする際には、重傷度の高い事故を防ぐことが非常に大切となる。全ての事故を防ぐことは 不可能なことである。 どの月例・年齢の時にどんな事故が多発し、 その中でも重傷度の高い事故はどんな事故 で、 どういった対策をとる必要性があるのかを具体的に親に伝えていくことが重要である。 表1には子どもの運動機能の発達と事故の関係を示した。 (2) 乳幼児健診の機会を利用した事故予防活動 健診の機会を利用した事故予防対策としては、以下のような方法がある。 ①健診会場でのパネル掲示、 ビデオの放映 ②パンフレット等の配布 ③事故防止対策のチェックリストの活用 ④教材等を用いた個別指導 ⑤内容を統一した集団指導 ⑥内容を統一しない集団指導 特に乳児健診や1歳6か月児健診では、 親に対する乳児期の家庭内環境整備の重要性、 年齢と多発する事故に ついてなどの事故予防教育が重要である。3歳児健診では、 子どもへの事故予防教育も実施されている。 また、地域の子ども事故の実態把握だけでなく、 こうした事故予防活動の効果測定のためにも、乳幼児健診の問 診票などを利用して、 医療機関に受診が必要であった事故の既往などを継続的に調査する子ども事故サーベイラン ス調査の実施が求められる。 【コラム】 健やか親子21の中間評価で下記のような報告がされている。 3∼4か月健診の事故予防対策の取り組みとして、事故防止対策のチェックリストの使用、健診 会場でのパネル掲示やビデオの放映が効果的と考えられた。 1歳6か月健診時の事故防止対策 の取り組みとして、事故防止対策チェックリストの使用、教材等を使っての個別の指導が効果的 と考えられた。一方、パンフレットの配布は3∼4か月健診時、 1歳6か月健診時ともに効果がほとん ど認められなかった。 乳児健診の場において配布した誤飲チェッカーの使用状況と事故による医療機関受診経験 の間には明確な関連性は認めれなかった。 83 こだわり ・妙に神経質 身辺自立の遅れ ・トイレに行くのを拒否する ・ひどい偏食がでてきた ・自分で食べようとしない 表1 子どもの運動機能の発達と事故の関係 (1) ・しつけができない 運動機能の発達 月齢 対人関係の障害 3 ・年齢 歳 代 誕生 転 落 熱 傷 切傷・打撲 ・友達に興味がない ・子どもをこわがる 熱いミルク 親が子どもを落とす ・一人で遊んでいる ・集団でやることを嫌がる 熱い風呂 体 動・足をバタバタ 3か月 生活習慣でのこだわり させる ベッド、 ソファーよ り ・同じ服しか着ない ・靴下を絶対に脱いでしまう 転落 ・ウンチをパンツの中でしかしない ・偏食が直らない 4か月 集団行動がとれない 幼 児 5 か月 見たものに手を出す 期 ︵ 口の中に物を入れる 集 団 生か月 6 寝返りをうつ 活 ︶ 7か月 対人関係の障害 すわる 窒 息 枕、柔らかい布団 による窒息、吐乳 ・教室にいないで、外に飛び出す 床にある鋭いもの ポット・食 卓の湯 、 ・行事に参加しない アイロン (床の上) ・好きなことしかしない ・給食が食べられない ・昼寝ができない ・勝手な行動をする ・危ないことを平気でする 歩行器による転落 ・いつも独りで遊んでいる ・理由なく友達を噛んだり叩いたりする ・注意しても聞かない ストーブ、炊飯器、 階段より転落 タバコ 8か月 はう 9か月 物をつかむ バギーや椅子から の転落 10か月 家具につかまり立ち をする 浴槽への転落 11か月 12か月 一人歩きする 階 段の登り降りの 転落 13か月 スイッチ、 ノブ、 ダイ ヤルをいじる 窓・ベランダより転落 1歳半 走る・登る 2歳 階段を登り降りする 3歳 高い所へ登れる ひも、 よだれかけ 鋭い角の家 具 建 具、 カミソリのいた ずら ナッツ類 テーブルや机の角 引 出し の 角 など (家の中) ブランコからの転落 ビニール袋 マッチ 、花 火 、ライ ター、湯沸し器、花火 家外の石など 3歳∼5歳 84 子どもの運動機能の発達と事故の関係 (2) 月齢・年齢 誕生 交通事故 玩具等 自動 車 同 乗 中 の 事故 水事故 はさむ事故 誤 飲 入浴時の事故 3か月 家のドア 4か月 5か月 6か月 母親と自転車2人 乗り 小さな玩具誤飲 鋭い角のある玩具 プラスチックの接合 部分のささくれ タバコ 7か月 8か月 9か月 道でヨチヨチ歩き、 歩行中の事故、飛 び出し 浴槽への転落事故 ボタンなどの小物 引き出し 10か月 11か月 化粧品・薬品・洗剤・ 歯磨剤 12か月 歯ブラシ、割り に よるノド刺し 13か月 1歳半 滑り台、 ブランコ、花 火 2歳 3歳 三輪車の事故 3歳∼5歳 自転車の事故 プール、川、海の事 故 乗り物のドア (改変:新 子どもの事故防止マニュアルより) 85 (3) 子どもの事故のポイント (重大な結果につながりやすい事故) ア) 転落 1歳を過ぎるとベランダからの転落が最も重傷度の高い事故である。 ・ベランダの柵は安全基準にあてはまる高さ110cm以上、すき間11cm以下(ベビーベッドは8.5cm以下が 望ましい)であるかを確認し、子どもが小さいうちは板やアクリル板を取り付ける。 ・ベランダの柵の近くには踏み台になるような物(クーラーの室外機、 テーブル、古新聞の束、高さのある植 木鉢など) を置かない。 イ) 熱傷 子どものやけどは6か月から1歳半に多く、やけどの事故は家庭内で9割が起こっている。部位別には掌や指 のやけどが多いのが特徴である。 ・やけどを防ぐしつけは「熱いものである」 ということを繰り返し教える。 ウ) 交通事故 交通事故は自動車同乗中の事故、歩行中の事故、 自転車乗車中での事故などがある。 自動車同乗中の事故のうち、時速40km以下の事故が半数を占めている。又、幼児が乗車中の事故の60% 以上は買い物など、 ちょっとそこまでの外出時に起こっている。 3kgの子どもを抱っこしていた場合に時速50k m/hで衝突した瞬間には体重の30倍の90kgの衝撃が腕に掛かることになり、赤ちゃんを腕で支えることは不 可能である。 ・チャイルドシートを正しく着用し、子どもにも車に乗ったときにはチャイルド−シートに座ることを習慣とする。 エ) 水 浴槽での 水が子どもの死亡事故に直結するという意味で、家の中でも一番危険な場所はお風呂場といえる。 1∼4歳児の事故死亡の約3割が 水によるものである。 また、 0∼1歳児の 死の8割は自宅の浴槽で起 こっている。子どもが浴槽で れた事故の状況をみると、約1/3以上は「気がついたら浴槽に浮いていた」 とい う状況で発見されている。 ・風呂場の入り口に子どもが1人で入っていかないように をする。 ・残し湯をしない ・子どもと一緒に風呂に入っている時は絶対に目を離さない。 ・お風呂場に子どもを1人にしておくことは絶対にやめる。 オ) 誤飲・窒息 誤飲の事故は外国に比べて異常に多く発生している。それは屋内では畳や床に座って暮らす生活スタイル が原因とされている。赤ちゃんは生後5∼6か月になると、正常な発達行動として手にしたものを何でも口に持っ ていくようになる。 しかし、赤ちゃんには手にしたものが食べられるかどうかの判断はできない。 もし、手にしたものが食べられな いものなら、誤飲事故が起こってしまう。 誤飲のワースト5は、第1位・たばこ、第2位・医薬品、第3位・化粧品、第4位・洗浄剤、第5位・殺虫剤 ・タバコや医薬品、 39mm以下のおもちゃなどは子どもの手の届かない1m以上の場所に片付ける。 ・トイレ用洗剤などの家庭用の強酸、強アルカリ製剤は手の届かない所に片付ける。 86 対人関係のとり方 一人でいるほうを好む・相手がいないかように振舞う 自分が必要なとき (要求時) にしか他者を利用しない クレーン現象(人の手を取り、 クレーンのように必要な所に持っていく) 模倣をしない・手遊びに関心を示さない 自分から動くことができない・指示がないと何をしていいかわからない 嫌なことをされても 「イヤ」 と言えない 知らない人にでも平気で話しかける 子どもの様子が落ち着いていれば中毒110番に問い合わせると指示が受けられる。 自分の言いたいことは言うが人の話は聞いていない 中毒110番 遊び方 一人遊びに没頭している 母親であっても、手を出されると怒り出す・手をはねのける 大阪中毒110番 TEL072−727−2499 年上か年下の子と遊び、 同年齢の子とは遊べない 24時間受付け 年中無休 自分のや り方を押し通そ う とする・思うようにいかないと怒る つくば中毒110番 TEL029−852−9899 ルールを無視する ・ 自分はルールを守らないが人がルールを破る と怒る 365日 9:00∼21:00対応 ルールを遵守しすぎる (四角四面にルールを摘要したがる) タバコ専用 TEL072−726−9922 無料・24時間対応のテープによる情報提供 年中無休 みんなと一緒の活動ができない 集団活動 やりたいことはするが、 やりたくないことは絶対にやりたがらない 「恥ずかしいこと」がわからない その他に、中毒情報データベース http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf が役立ちます。 場の空気が読めず、 ひんしゅくを買う言動をとってしまう 話し言葉の発達が遅れる 反響言語(echolalia;オーム返し) が多い CMやビデオの台詞の独語が多い 誤飲の際の対応のポイント 主体と客体を適切に逆転させられない 例:自分が帰ってきた時に「お帰り」 ・ 「もらう」 と 「あげる」の混乱 喉の奥を刺激し吐かせる 会話が成立しない (適切な受け答えができない) ・会話が一方的 タバコ ニコチンが体内へ吸収されやすく 吐かせる 言葉を一般的でない意味で用いる・限定された意味で用いる なるため、水や牛乳は飲ませない 持って回ったような言い回しをする・仰々しい言い方をする 冗談や皮肉を理解できない・字面どおりの理解しかしない コミュニケーションの障害 大部分の 医薬品など 想 力の障害 こだわり 水や牛乳を飲ませる 物の並べ方や道順などが決まっている 喉の奥を下方へ押してすぐ吐かせ 自分のやり方が決まっていて、 それ以外のや吐かせる り方は受け付けない る いつもと違うことが起きるとパニックになる 興味の限局性(決まったものにしか興味を示さない) パラジクロルベンゼン 想 ナフタリン 防虫剤など 牛乳は飲ませない 物の一部分の反復的な操作に熱中する 力の障害 防虫剤は油に溶けやすいので牛乳 吐かせる 例:ミニカーのタイヤだけに注目し、 回し続ける を飲ませると毒物の吸収を早める 手を目の前でヒラヒラさせる、 パタパタするなどの常同的な運動 除光液・灯油 ガソリン、 ペンジン などの揮発物質 その他 感覚過敏 トイレ用洗剤 漂白剤などの 強酸性アルカリ 多動 不器用 病 院 へ ごっこ遊びをしない ごっこ遊びをするが、決まったパターンから外れると怒る・やり直す 何も飲ませない (集団場面)普段と違う活動が入ると対応できない・一緒にやれない 至 吐いたものが気管に入り肺炎など 吐かせない 臨機応変な判断ができない を起こすので吐かせない 急 いな音があり、耳ふさぎする・嫌いなCMがある 病 嫌いな接触がある (砂の上を裸足で歩けない・決まった布地の服しか着ない・糊が触れない) 牛乳、卵白を飲ませる 院 無理に吐かせると食道などの粘膜 吐かせない へ 落ち着きがない・好きなことは集中するが、 そうでないと落ち着かない を傷めるので吐かせない 手先が不器用・体の動かし方がぎこちない 87 カ) 歯の打撲・脱臼 転倒などにより歯を打撲した場合、歯髄の内出血により歯の色が黒ずんでくる場合がある。内出血が自然に 吸収することにより歯の色が元に戻ることもあるが、打撲後1か月を経過しても変色が続く場合や、歯の根元の 歯肉に膿の袋が生ずるようであれば、歯科受診を勧める。 また、外傷により歯が完全に脱臼してしまった場合は、直ちに流水で付着している泥等を洗い流し (注:この 場合、歯根の部分を傷つけないよう注意する)、生理的食塩水又は牛乳等に歯を浸すか、若しくは歯を口の中 に含んだ状態で、速やかに歯科を受診することを勧める。 引用文献 1)主任研究者 山縣然太朗 健やか親子21の推進のための情報システム構築及び各種情報の利活用に 関する研究 平成17年度 2)子どもの事故防止実践マニュアル 京都市子ども保健医療相談・事故防止センター,2004 参考文献 1)田中哲郎 新 子どもの事故防止マニュアル 診断と治療社 2003 2)不慮の事故と救命手当て 乳幼児の事故予防・救命手当マニュアル 母子衛生研究会 2003 88 4. 母子保健活動における禁煙支援 (1) 母子保健活動における禁煙支援の必要性 若年女性の喫煙率は上昇しており、妊娠可能年齢とも一致するため、妊婦の喫煙率も今後上昇することが 懸念される。その背景として、喫煙でやせるなどの誤った情報や、女性を意識した製品やテレビコマーシャルの 影響に加えて、女性ホルモンのニコチン依存への関与も示唆されており、女性は男性に比べて喫煙からの離 脱が困難であることが指摘されている。 妊婦の喫煙は、胎児のみならず、妊娠・ 出産にも影 響を与えることは広く知られて 図1 妊婦の喫煙による胎児・妊娠・出産への影響 おり (図1)、妊娠をきっかけに多くの妊婦は ●喫煙が胎児・妊娠・出産に影響を及ぼすメカニズム 禁 煙 する。 しかし、出 産 後に再 喫 煙 する 妊婦喫煙 ケースは少なくなく、母親自身の健康被害と ともに、子どもへの受動喫煙の影響は大き ニコチン 一酸化炭素 乳化剤 く、 さらに母親が喫煙する子どもは将来喫 煙者となる割合が高い。 また、要支援家庭 では喫煙する親が多いことも注目すべきで 神経毒性 血管収縮 一酸化炭素 血管内皮 血栓形成 ある。 による ヘモグロビン の障害 血管収縮 血液量減少 の増加 母子保健活動において、母子健康手帳 胎児の 交付に始まり、乳幼児健診や教室など、親 脳への影響 子に接する機 会は多く、禁 煙 支 援を継 続 胎児・胎盤の 胎盤の退行性変化 注意欠陥多動性障害 的に行うことができる利 点がある。全ての 低酸素状態 胎盤機能の低下 (ADHD) 子どもに無煙環境をつくるためにも、母子保 乳幼児突然死症候群 (SIDS) 健活動の中で禁煙支援に取り組むことは 低出生体重児 早産 大変重要である。 妊娠 ・ 出産異常 (アメリカ保健省: ▲ ▲ ▲▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ タバコ使用と依存の治療、2008改訂版を参考に作成) (早期破水、 胎盤 早期はく離など) 出典:赤ちゃん・妊産婦・家族のための禁煙支援ブック (母子衛生研究会編集/母子保健事業団発行) (2) 母子保健活動における禁煙支援システム 女性にとって妊娠は禁煙の大きなチャンスであり、最も大きい動機づけとなる。母子保健活動に禁煙支援シ ステムを構築し、妊婦から育児中の喫煙者に対する一貫した禁煙支援を行う必要がある。 最初に妊婦と出会う母子健康手帳交付時では、喫煙状況(同居家族も含めて) を把握し、短時間でよいの で喫煙と受動喫煙の害を説明する。喫煙者には、禁煙の意思と関心度を確認し、併せてニコチン依存度(表 4) を把握する。禁煙の意思がある妊婦には、個別支援につなげフォローする。一方、禁煙の意思がない妊婦 に対しては、禁煙支援者として禁煙の必要性と禁煙の方法を具体的に説明し、いつでも支援する姿勢を伝え るとともに、記録に残し、パパママ教室などの保健事業や電話などで継続的にフォローする。 出産後の再喫煙を防止するためには、出産後早期に継続した支援が有効であり、乳児家庭全戸訪問事業 はよい機会となる。禁煙・喫煙状況を確認し、禁煙が継続できていることを褒め、禁煙のメリットを確認するなど、 動機づけを強化する。再喫煙者に対しては、再喫煙のきっかけや禁煙したいかどうかを尋ね、何回でも禁煙に チャレンジすることが大切だと話し、いつでもサポートをすることを伝える。子どもへの受動喫煙の害を説明し、 乳幼児健診や育児相談などにおいて継続フォローする。訪問者が母子保健推進員など専門職でない場合 は、母子保健担当者との連携体制をつくっておく。 また、女性の喫煙率を下げる長期的な取組みとして、園児や小中学生への防煙教育が有効であり、計画的 に事業拡大していくとよい。 89 表1 母子保健活動における禁煙支援システム例(多治見市より資料提供) 1 母子保健事業種類 具体的な支援内容 使用資料 母子健康手帳交付 ・マタニティノート (衛生教育配布用冊子) に、 タバコ・受動喫煙の害等について2P掲載。 ・集団指導にて短時間(5分)の衛生教育実施。 ノートによる喫煙状況の把握と禁煙指導を実 施。 ・個別にて、 マタニティアンケートによる喫煙状況の把握と禁煙指導を実施。 「妊娠が分かってからやめた」 と答えた妊婦を台帳管理 ・マタニティアンケートで「喫煙している」 (電子・紙)する。 (対象者を 「タバコ母子」 といい、母子管理票にシールをつけて分かるようにしている) マタニィティノート マタニィティアンケー ト タバコ母子管理台帳 2 妊娠中の個別支援 ・母子健康手帳交付で把握した喫煙妊婦(母子健康手帳交付時のマタニティアンケートで 「喫煙している」 と答えた妊婦) について、個別で継続的な禁煙支援(訪問、電話、来所面接、 マタニィティセミナー参加時など) を実施。 主に、母子健康手帳交付で「やめたい」 と答えた妊婦や、関係機関から相談があった妊婦 中心だが、 その他の問題を抱えている妊婦が多いので、 ハイリスク妊婦への支援の中でタバコ についても支援する。 3 乳児家庭全戸訪問事業 (こんにちは赤ちゃん事業) ・産後の赤ちゃん訪問について、 タバコ母子のケースについては、 タバコ母子に関わる専門ス タッフ (保健師5、助産師1) で家庭訪問を実施する。 ・タバコ母子専用の訪問記録用紙使用。 ・定期的(1∼2か月に1回) にタバコ母子スタッフケースカンファレンスを実施。 ① タバコ母 子 専 用 の 訪問記録用紙 ② 4 すくすく教室 5 4か月児健診 ・問診票に母親及び家族の喫煙状況の確認項目あり。 ・タバコ母子や受動喫煙の環境にある方について、禁煙指導を行う。 ( 喫煙者: タバコアンケート 実施) ・ 4か月児健診用ちらし作成・配布。 問診票 タバコアンケート (子育てを 頑張っているお母さんへ) 4か月児健診配布用 ちらし 6 10か月児健診 ・問診票に母親及び家族の喫煙状況の確認項目あり。 ・タバコ母子や受動喫煙の環境にある方について、禁煙指導を行う。 ( 喫煙者: タバコアンケート 実施) 問診票 タバコアンケート (子育 てを頑張っているお母 さんへ) 7 1歳6か月児健診 ・問診票に母親及び家族の喫煙状況の確認項目あり。 ・タバコ母子や受動喫煙の環境にある方について、禁煙指導を行う。 ( 喫煙者: タバコアンケート 実施) ★歯科健診にて歯科医師及び歯科衛生士(主) から個別指導。保護者歯科健診もあり。問診 票に家族喫煙状況確認項目あり。子どもの歯肉に着色(黒い)があれば、受動喫煙の害を話 したり家族の禁煙指導を行う。 問診票 タバコアンケート (子育 てを頑張っているお母 さんへ) 歯科問診票 8 3歳児健診 ・問診票に母親及び家族の喫煙状況の確認項目あり。 ・タバコ母子や受動喫煙の環境にある方について、禁煙指導を行う。 ( 喫煙者: タバコアンケート 実施) ・ 3歳児健診用ちらし作成・配布。 ★歯科健診にて歯科医師及び歯科衛生士(主)から個別指導。歯科用問診票に家族喫煙状 況確認項目あり。 子どもの歯肉に着色(黒い)があれば、受動喫煙の害を話したり家族の禁煙指導を行う。 問診票 タバコアンケート (子育 てを頑張っているお母 さんへ) 3歳児健診配布用ち らし ★歯科問診票 9 虫歯予防教室 ★1歳半健診後∼3歳まで計4回あり。歯科用問診票に家族喫煙状況確認項目あり (1歳半と3 歳)。子どもの歯肉に着色(黒い) があれば、 受動喫煙の害を話したり家族の禁煙指導を行う。 ★虫歯 予 防 教 室 問 診票 10 その他の個別支援 ・既存の母子保健事業の時以外でも、随時、来所面接、訪問、電話、 メール等での継続支援が 必要であれば実施する。 ・対象者の状況に合わせて、禁煙チャレンジの様式による継続的な通信制支援、単発の禁煙 相談(問診票、依存度チェック、行動記録など)、禁煙外来の紹介など行う。 ・妊婦・授乳婦で、禁煙外来(禁煙補助薬の使用を含めて) を希望する方については、水田クリ ニックを紹介。 タバコ検査(スモーカ ライザー、尿中ニコチ ン検査、スパイロメー ター)、禁煙セルフヘ ルプガイド問診票、行 動 記 録 票 、依 存 度 チェック 禁 煙チャレンジ媒 体 (レポート、スワンだよ り、禁煙外来一覧表、 役立つHP紹介、禁煙 カレンダーなど) ★中学校用「歯・ハ・ はクイズ」 ・乳児家庭全戸訪問後に継続支援が必要な場合、教室参加時に必要に応じて個別面接、禁 煙指導を実施。 ★歯科保健事業では、中学校から依頼があれば、歯科衛生巡回指導時に「歯・ハ・はクイズ」 受動喫煙の害や家族の禁煙のすすめなど防煙教育をする。 でタバコと歯周病についてふれ、 ★は歯科保健事業 90 ①マタニティアンケート(抜粋) タバコを 吸いますか? ①いいえ ②吸っていたがやめた (やめた時:a. 今回の妊娠がわかって b. 結婚を機に c. 前回の妊娠で d. その他 ③はい ※②③と答えた方・ ・ ・ ・吸い始めの年齢( 歳から、 平均 本/日) ★タバコを吸っている人はやめたいと思いますか? やめたい ・ そうは思わない ・ わからない 同居家族は吸いま ①誰も吸わない (夫、 義父、 義母、 実父、 実母) 喫煙場所は (屋外、 室内、 換気扇の下、 車の中、 その他) すか (複数回答可) ②はい ②乳児家庭全戸訪問事業記録票(抜粋) ○再喫煙が多いのは・・・ ・妊娠がわかってから禁煙した人 ・夫が喫煙者 ○禁煙を継続できているのは・・・ ・妊娠を機に夫も禁煙した人 平成22年度愛知県たばこ対策指導者養成講習会 多治見市保健センター資料を引用 (3) 禁煙支援・禁煙治療のポイント 妊婦や授乳中の女性は禁煙補助薬が使用できないため、禁煙支援の手法として、行動療法(表2) を始めと したカウンセリングが中心となる。禁煙の意思がない者には、個人的な問題と禁煙のメリットを理解させる、禁煙 に対するマイナスイメージや思い込みを正す、禁煙の障害とその解決法を話し合うなど、動機づけの強化を継 続して行うことが有効である。 また、禁煙支援のレベルを一定以上に保つために、各保健事業の中での目標や位置づけを確立し、 リーフ レットや問診票・行動記録票などの資料を作成するとよい。対象者の生活背景や体調に合わせて、 これらの資 料を活用し、面接・訪問・電話・メールなどの個別支援を行う。 なお、授乳を終えた母親に対しては、禁煙治療を積極的に勧めるとよい。 また、産婦人科や小児科、薬局など地域の関係機関と連携して禁煙支援を進めることが望まれる。 喫煙は「ニコチン依存症」という疾患であり、平成18年度から禁煙治療に健康保険が適用されるようになっ た(表3:保険適用要件)。禁煙補助薬を使った禁煙治療では、禁煙成功率が約2∼3倍高まるだけでなく、離 脱症状を抑えながら比較的楽に禁煙できる。 現在使うことができる禁煙補助薬には、ニコチン製剤(ニコチンパッチ、ニコチンガム)と脳にあるニコチ ン受容体に作用する飲み薬(バレニクリン:商品名チャンピックス)がある。 なお、健康保険による禁煙治療を行っている医療機関の検索には、下記のサイトを利用するとよい。 禁煙サポーターズ 愛知県禁煙支援医療機関データベース(禁煙サポーターズ) http://www.pref.aichi.jp/kenkotaisaku/tobacco/supporters/supporters.html 91 検索 表2 禁煙のための行動療法 行動パターン 変更法 環境改善法 代償行動法 喫煙と結びついてい る今までの生活行動 パターンを変え、吸 いたい気持ちをコン トロールする方法 ・洗顔、歯磨き、朝食など、朝一番の行動順序を変える ・いつもと違う場所や店で昼食をとる、禁煙の店を選ぶ ・食後早めに席を立つ、食べ過ぎない ・コーヒーやお酒を控える ・過労でストレスをためないようにする ・夜更かしをしない ・電話をかける時にタバコを持つ側の手で受話器を持つ 喫煙のきっかけとな る環境を改善し、吸 いたい気持ちをコン トロールする方法 ・タバコ、ライター、灰皿などの喫煙具を処分する ・タバコを吸いたくなる場所を避ける (喫茶店、パチンコ店、居酒屋など) ・タバコを吸う人の周囲に近づかない ・宴席などではタバコを吸わない人の横にすわる ・タバコを購入できる場所に近づかない ・自分が禁煙していることを周囲の人に告げる ・「禁煙中」と書いたバッジや張り紙をする ・周囲の喫煙者にタバコをすすめないように頼んだり、自分の近 くで吸わないようにお願いする 喫煙の代わりに他の 行動を実行し、吸い たい気持ちをコント ロールする方法 ・イライラ、落ちつかない時:深呼吸をする、水やお茶を飲む ・体がだるい、眠い時:散歩や体操などの軽い運動をする ・口寂しい時:シュガーレスガムや干し昆布を噛む、歯をみがく ・手持ちぶさたの時:机の引き出しなどの整理をする、プラモデ ルの制作など細かい作業をする、庭仕事や部屋の掃除をする ・その他:音楽を聴く、吸いたい衝動がおさまるまで秒数を数え る、タバコ以外のストレス対処法を見つける 平成 22 年度愛知県たばこ対策指導者養成講習会 医療法人徳洲会胎児科 中村靖先生のスライドを改変 出典:禁煙ガイドライン Circ J 69(Suppl IV) : 1024, 2005 中村 正和、大島 明 : 賢者の禁煙 法研 : 76, 2006 表3 禁煙治療の保険適用要件(患者) 1 ニコチン依存症を診断するテスト 5点以上 (表4) 2 ブリンクマン指数※ 200以上 3 1か月以内に禁煙を始めたいと思っている 4 禁煙治療を受けることに文書で同意している ※ブリンクマン指数 1日の平均喫煙本数×これまでの喫煙年数 表4 ニコチン依存症を診断するテスト(TDS) 1 自分が吸うつもりよりも、 ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。 はい いいえ 2 禁煙や本数を減らそうと試みて、 できなかったことがありましたか。 はい いいえ 3 禁煙したり本数を減らそうとした時に、 タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。 はい いいえ 4 禁煙したり本数を減らした時に、次のどれかがありましたか。 イライラ 眠気 神経質 胃のむかつき 落ち着かない 脈が遅い 集中しにくい 手のふるえ ゆううつ 食欲または体重増加 頭痛 はい いいえ 5 上の症状を消すために、 またタバコを吸い始めることがありましたか。 はい いいえ 6 重い病気にかかったときに、 タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。 はい いいえ 7 タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。 はい いいえ 8 タバコのために自分に精神的問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。 はい いいえ 9 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。 はい いいえ 10 タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。 はい いいえ 合計 点 ※「はい」 を1点として、合計5点以上でニコチン依存症と判定される。 92 (4) 妊婦と子どものための受動喫煙の防止・たばこによる事故防止 受動喫煙の有害性は明らかである。換気扇の下やベランダで吸う、他の部屋で吸う、空気清浄機を使う、車 の窓を開けて吸う、 などでは受動喫煙は防止できない。 また、喫煙者の呼気、髪の毛や衣服、喫煙した部屋の カーテンやソファーなどにも有害物質が付着しており、 それを非喫煙者が吸い込むことで受動喫煙を受ける。 さ らに、乳幼児にとって、 たばこの誤飲ややけどなどの危険も大きく、深刻な問題である。 したがって、妊婦と子どものための受動喫煙の防止とたばこによる事故防止には、同居家族、特に夫の禁煙 が必要である。パンフレットを活用して情報提供を行い、できる限り理解を求める。 また、外食時には禁煙飲食店を利用するよう啓発することも必要である。 愛知県受動喫煙防止対策実施認定施設データベース(タバコダメダス) http://www.pref.aichi.jp/kenkotaisaku/tobacco/damedas/damedas.html タバコダメダス 検索 (5) 禁煙支援者としての心構え 育児にストレスが多いために喫煙する、禁煙をするとストレスがかかりイライラして育児に支障が出る (虐待に つながる)、すぐに禁煙するのは大変なので少しずつ減らせばよい、 これらは全て誤りである。禁煙支援者とし て、 ニコチン依存について正しく理解することが大切である。母親の気持ちに寄り添いながら、根気よく継続的 な支援をしていくことが重要である。 ※多治見市では、喫煙する母親への禁煙支援を通称「タバコ母子活動」としている。 93 平成22年度愛知県たばこ対策指導者養成講習会 多治見市保健センター作成スライドを引用
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