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第16章 特色ある取り組み
(a) 長野県短期大学付属幼稚園との連携による学生教育の充実
【現状の把握】
2005(平成17)年の独立行政法人大学評価・学位授与機構による認証評価の結果、本学の主な優れた点と
して認められた3点のうち、1点は付属幼稚園の設置であった。
「付属幼稚園を有しており、学生の教育研究活動に有効に活用され、また、付属幼稚園教諭は長野県知事
の発令により助手又は副手を兼務し、教育実習に当たって付属幼稚園の現職教諭が学生指導の支援等を行う
体制を構築している」という評価を受けて、本学付属幼稚園では、その後も幼稚園としての教育内容の充実、地
域との連携と合わせて、幼児教育学科を始めとする諸学科と学生教育の上でも効果的な連携に努力してきた。
自己点検・報告書の「第2章 教育研究組織」でも記載した通り、本学には1965(昭和40)年に開園した付属
幼稚園を置き、「付属幼稚園教諭は本学の助手を兼任する」としており、これは先にも述べたように、独立行政
法人大学評価・学位授与機構による認証評価でも高く評価されたところである。
2011(平成23)年3月で満46年を迎えた当幼稚園の当初の設置目的は、次のような内容であった。
(一)入園した幼児を保育してその心身の発達を助けることをねらいとして、
イ 明るい子
ロ 元気な子
ハ 素直な子
ニ たくましい子
(二)本短期大学の研究の一環として幼児教育の理論及び実際に関する研究をする
(三)本短期大学学生に幼児教育の実習と幼児の心身の発達の研究をさせる場でもある
(四)県下の幼児教育の中心として研究発表や保育の実際を公開して、県下の幼児教育
の水準の向上をはかることにつとめる
(注 : 『長野県女子専門学校・長野県短期大学五十年史』から )
当園の規模は、開園当初は 4 歳児30名定員2クラス、5歳児30名定員2クラス、計4クラス120名定員であっ
たが、1995(平成7)年4月、3歳児保育を開始するに伴い、3歳児15名定員2クラス、4,5歳児各30名定員1
クラス、計4クラス90名定員となった。ただし、現在は少子化や市内のドーナツ化現象などの影響から園児の在
籍数は定員を下回っており、2011(平成23)年度は5月1日現在で3歳児12名、4歳児19名、5歳児23名(交
流保育児1名を含む。)計54名である。その後若干の転出入があり、2012(平成24)年1月10日現在で59名
である。当園と本学諸学科・専攻との連携実績は以下の通りである。
その1-教育実習(幼児教育学科)
本学幼児教育学科は、幼稚園教諭二種免許状取得カリキュラムの一環として教育実習4単位の取
得に際し、付属幼稚園とその他の幼稚園との2か所で実習する体制を取っている。
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その理由として、一つには長野県は幼稚園就園率が22.9%(「学校基本調査」平成23年度(速報)2011年
8月4日公表)と全国最低であり、現実問題として付属幼稚園抜きでは必要な実習日数や学生が通勤できる実
習園を十分に確保できないという事情がある。
次に、下表の通り、短大と付属幼稚園が同じ敷地内にあり、実習担当教員と付属幼稚園教員が緊密な連携
をとりやすく、かつ幼児教育学科教員が付属幼稚園長を併任していることから、情報の共有が容易であり、保
育内容や指導方法についても継続的な観察や共同研究がしやすいという好条件がある。
付属幼稚園実習は、入学後最初の実習であることから、教育実習全体のねらいを受けて、更により具体的で
基礎的な点に主なねらいを置いており、外部幼稚園実習と対比すると以下のようになる。
項目
全 体 (外部幼稚園実習を含む。)
付属幼稚園実習
幼稚園の役 幼稚園の教育目的やその機能、社会的な 日常の保育や園行事を観察したり、更にはそれ
割の理解
役割等について、実際の体験を通して理解 らに参加することを通じて、幼稚園の保育内容
する。
幼児理解
に直接触れる機会を持つ。
幼児の発達に関する具体的理解を深め、幼 幼稚園における観察や保育参加を通して、幼
児教育の基本的実際について実践的に理 児の個人的な発達の様子や友達関係、保育者
解する。
とのつながりの様子を直接に、また経過を追っ
て理解する。
指導技術
幼稚園教諭としての基本的職務内容や幼 事後研究を丁寧に行うことで、子どもの行動の
児の指導法について現場教師から直接指 理解、保育者の意図や指導方法を考察する。
導助言を受けるとともに、観察や担任実習 実習に対する基本的な心構えと、実習日誌や
等を通して自ら基本的な環境構成や援助の 指導案の書き方についてその基礎を理解す
あり方を学び研究する。
る。
具体的な付属幼稚園実習の進め方は下記の通りである。
① 1年後期(10月〜2月初旬)
4グループに分かれ、グループごとに原則として下記のように 4 週サイクルの半日日割り実習を
行う。「教育実習」として毎週2コマを確保。
・ 「参加実習」(3、4、5歳の各クラスに2〜3名ずつ配属され、参加観察と担任教諭の助手を行
う。)
・ 「事後研究」(翌週指導教員を加えてグループ討議を行う。)
・ 「教材研究」(自由研究をしてレポート提出を行う。)
・ 「教材研究」(自由研究をしてレポート提出を行う。)
② 春季休業中
2月に2グループに分かれ、各クラス6〜7名で1週間ずつ集中実習(部分担任実習)を行う。
③ 行事等への参加
・ 見学実習(レポート提出を含む。)
・ りんりん祭りの準備と参加(ブースの運営)(レポート提出を含む。)
・ 運動会の見学(レポート提出を含む。)
・ お楽しみ会の見学(レポート提出を含む。)
・ もちつきの見学(レポート提出を含む。)
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そのなかで特徴的なことは、日割り実習の翌週に毎回グループごとに2コマを通じて事後研究を行い、その
記録を作成している点である。この事後研究には、付属幼稚園主任教諭も参加し、実習担当教員と分担して幼
稚園教育のポイントや教師の指導のあり方について、具体的な実習内容に即して学生たちの指導を行ってい
る。
更に、事後研究の翌2週はまず各自で計画を立て、教材研究を行う。その後教材研究レポートを毎回提出し、
担当教員が点検した後、一人一人にコメントをつけて返している。
また、毎年度末に幼児教育学科教員と付属幼稚園教員とで実習反省会を開催し、相互に学生指導について
交流を行っている。
その他、毎年付属幼稚園の紙芝居や絵本は、幼児教育学科学生に貸し出され、教材研究に利用されている。
(2010<平成22>年度 絵本延べ38冊、10人利用。紙芝居延べ28冊8人利用)
その2-研究活動の支援
2006(平成18)年度以降の「幼児教育学総合演習」や専攻科専門科目「幼児教育学専修研究」において下
記の研究テーマに基づく学生の研究に対して指導助言を行った。
2007(平成19)年
「もちっこ広場〜ひろば型子育て支援の実践的研究〜」
2008(平成20)年
「子ども一人ひとりに応じた保育のねらいと関わり
〜実習先で出会った子どもを通して〜」
2009(平成21)年
「幼稚園・保育所実習を通してこれから求められる保育者像を探る」
その3-他学科・専攻との連携
これまでの主な短大と付属幼稚園の協同的取り組み
① 志塚ふじ子教授(健康栄養専攻)「応用栄養学実習」における「幼稚園児のお弁当作成・試食と園児・
保護者への栄養指導の実施」
2006(平成18)年11月、2007(平成19)年10月
② 吉岡由美講師(健康栄養専攻)「栄養指導論実習」において、食育の紙芝居を年中児に読み聞かせ。
2006(平成18)年12月
③ 林千穂教授他生活環境専攻教員の「生活環境ゼミナール」「保育学」等における「付属幼稚園や地域
の親子との草木染め教室」
2006(平成18)年7月、2007(平成19)年7月
④ 谷口真由実教授(日本語日本文化専攻)「総合演習(異文化理解)」における「地域の親子や付属幼稚
園児への中国の民話・古小説の紙芝居・パネルシアター上演」
2006(平成18)年
⑤ 町田章講師(英語英米文化専攻)専攻の学生と年長児が英語で歌やゲームをして遊んだ。
2007(平成19)年12月
⑥ 及川直樹非常勤講師(生活環境専攻)「保育学」で学生が園児の様子を観察 2008(平成20)年
⑦ 中澤弥子准教授(健康栄養専攻、幼児教育学科「小児栄養」担当)が年長児親子と学生と一緒に郷土
料理の調理実習を行った。
2007(平成19)年
⑧ 中澤弥子准教授(健康栄養専攻、幼児教育学科「小児栄養」担当)が年長児と交流、食べ物に関する
発表、調理実習等を行った。
2008(平成20)年7月、2009(平成21)年12月、2010(平成22)年2月、2011(平成23)年2月
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その4-授業以外の教員との連携
本学教員が付属幼稚園の活動に随時協力している。その例を下記に述べる。
① シェロ・カチョフ(英語英米文化専攻) 父親参観日の事業の一環として、幼稚園の保護者に対する講
演「異文化を考える」
2009(平成21)年6月27日
② 小林亮介教授(幼児教育学科)付属幼稚園PTA文化部主催美術創作活動、年長児の親子活動テラコ
ッタレリーフの製作指導、「おやじの会」製作指導等
2008(平成20)年、2009(平成21)年、2010(平成22)年、2011(平成23)年
③ 立浪澄子教授(幼児教育学科)「おやじの会」イベント参加、保護者と語る会出席、機関誌「手をつなご
う」への執筆等
2010(平成22)年、2011(平成23)年
【現状の分析・評価】
まず、本学付属幼稚園の存在意義として、その希少性が挙げられる。全国47都道府県のうち、県立幼稚園
を持つのは本県と新潟県の2県だけである。また、幼稚園教諭養成を行っている公立大学・短大は全国に12
校(4年制大学7校 : 岩手県立、新潟県立、山梨県立、愛知県立、愛知市立、福山市立、福岡県立。短期大
学・短期大学部5校 : 名寄市立大学短期大学部、長野県、島根県立、倉敷市立、新見公立)あるが、そのうち
付属幼稚園を置くのは2校だけであり、特に、幼稚園教諭養成を行っている公立短期大学・短期大学部5校に
あっても、短期大学設置基準(第32条)を踏まえて、付属幼稚園を有しているのは本学のみである。
設立時の目的のうち、(二)及び(三)は、直接本学の学生教育に関わるものであり、(四)は本学の幼児教育
学科の教育目標である「幅広い教養と総合的視野に基づく子ども観・保育観をもち、豊かな人間性、優れた専
門的知識と技能を備えた保育・幼児教育の専門家として地域社会に貢献できる人材の養成」(第1章 理念・目
的・教育目標)を現在でも補完するものである。いずれも、本学学生が、卒業後も幼児教育の専門家としての水
準を高く保ち続けられるように支援することを可能にするものである。
また、先に述べたように、長野県は幼稚園就園率が全国最低であり、県内に幼稚園の絶対数が少ない中、
貴重な実習園として本学幼児教育学科生のみならず他大学の学生の実習も毎年数名ずつ引き受け、保育者
養成に貢献している。
実習園の本学実習生に対する評価では、ほとんどの学生が概ね良以上の評価を得ており、特に大きな問題
は指摘されていない。
なお、学生たちも付属幼稚園実習、外部幼稚園実習を合わせた教育実習に対して 満足度平均4.6と高い
評価をしている。
事後研究は1年次では教員がかなりリードしなければ討議にならないが、3年次の保育所実習終了後の事
後研究では、例年活発な討議が繰り広げられる。これも1年次の付属幼稚園における実習経験が大きな素地
になっていると考えられる。
次に、今後の課題としては、以下の3点があげられる。
(1) 学生の実習経験が少ない。それが時には過度の緊張につながり、外部実習で実力が発揮できなかった
りする学生がいる。もっと回数を増やしてあげたいが、園の規模との関係で思うようにいかない。
(2) 3年制になったが、教育実習は2年前期で終わってしまう。3年次にも実習できるようなカリキュラムの工夫
が必要。これは外部の幼稚園からも要請されている。
(3) 教育実習指導担当者が1名のみで、全員へのきめ細かい指導が行き届かない。できれば複数の担当体
制が望まれる。
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2006(平成18)~2007(平成19)年度に文部科学省の競争的資金である現代GP「テーマ1:地域活性化
への貢献(地元型) 豊かな子ども観を育む総合的短期大学の取組 -長野市次世代育成支援行動計画・地
域再生計画との連携を目指して- 」の採択を受けて、全学的に付属幼稚園との連携が進んだ。このことは、付
属幼稚園にとっても地域へ目をむける機運をより高めることとなった点で高く評価したい。
【改善方策の検討】
これからの幼稚園教諭養成においては、とりわけ「実践力の育成」が重視されている。(注:文科省「幼稚園教
員の資質向上について-自ら学ぶ幼稚園教員のために-」(報告)2002<平成14>年6月24日幼稚園教員
の資質向上に関する調査研究協力者会議報告書)
実践力を養成するためには、養成段階では実習の充実がカギである。しかし、先に述べたように、4単位の
実習では必ずしも十分とは言えない。しかし、短大のカリキュラムでは、これ以上の実習時間を確保することは
容易ではない。また、教員の平均年齢が比較的若い私立幼稚園では実習指導にまだ不慣れな教員も少なくな
い。(注:教諭の平均年齢は公立園38.7歳、私立園29.5歳である。文科省「学校教員統計調査」 2010<平
成22>年度[中間報告]年齢別職名別本務教員数データより)
本学幼児教育学科が4年制になり、実習園の規模と指導体制が拡大されれば、工夫次第によっては1か月
~3か月程度の長期にわたる教育実習も可能である。その場合、実習指導経験の豊富な付属幼稚園教員集団
と養成校教員集団が緊密な連携と情報の共有によって、理論と実践を相互検証し、よりきめ細かい実習指導を
することによって、社会が求める「実践力に優れた教員」を輩出することが可能になるものと考えている。
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