第15期 情報化推進懇談会 第2回例会:平成15年5月20日(火) 『中国企業の I T 戦略』 講師 ㈱グローバル・アドバンテージ 代表取締役 陳 旋 氏 財団法人 社会経済生産性本部 1 『中国企業の I T 戦略』 ― プロフィール ― ㈱グローバル・アドバンテージ 代表取締役 陳 旋 1979 年 氏 中国、南京師範大学付属高校卒業。同年全国大学統一試験合格、南京 大学入学。在学中、中国国産大型コンピュータの研究開発に参加。 1983 年 南京大学コンピュータ・サイエンス学科卒業。理学学士号取得。 同年卒業後、助手として同大学大型計算機センター勤務。 1984 年 来日。国費交換留学生として名古屋大学大学院情報工学専攻に入学。 1985 年 名古屋大学大学院情報工学専攻博士課程入学。在学中、画像処理と画 像パターン認識の研究に従事。特に医用画像へのアプリケーションに 関する研究論文を多数発表。 1990年 名古屋大学大学院情報工学博士修了。工学博士号取得。 同年、渡米。研究員としてシカゴ大学カートロマンス画像研究所勤務。 翌年、同研究所上席研究員としてコンピューターシステムマネージャ ーも兼任。コンピューター支援診断に関する論文を多数発表。一部特 許も取得。 1991年 日本医用画像工学会第一回論文賞受賞。 1993 年 同研究所退職。日本に帰り、嘱託研究員としてコニカ株式会社中央研 究所勤務。在職中、社内公募で中国への工場進出と製品市場調のコ ンサルティング担当。 1994 年 同社退職。システム開発マネージャーとしても株式会社タイテック入 社。画像処理システムの開発、海外ソフトウェア委託開発、ハードウ ェア部品調達等に従事。 1998 年 同社海外事業部長就任。高達計算機技術有限公司総経理(CEO)兼任。 2001 年 同社退職。株式会社グローバル・アドバンテージ設立。代表取締役社 長に就任。 同年、宏智科枝(蘇州)有限公司設立、董事長総経理(CEO)に就任。 2 『中国企業の I T 戦略』 1.「世界の工場」の現状 中国は「世界の工場」とよばれ、最近では携帯電話やパソコンなどIT関連の 製品もかなり売れるようになってきましたが、中国が改革開放で外国企業を入れ た最初のころはローテク製品がほとんどでした。しかし、中国自身もローテク製 品の世界工場では将来性がないだろうと思っています。 実際、中国国内でもローテク製品は非常に激しい競争になってきています。例え ばアパレル産業は、日本ではかなり中国製のものが入っていて、中国のアパレル 産業は非常に繁栄していると思われるかもしれませんが、実は中国国内でもアパ レル産業が過剰になり、技術が古いところはどんどんつぶれていっています。上 海や蘇州など、かつて中国のアパレル産業をリードし、大企業がたくさんあった ところでも、ほとんどのアパレル会社がつぶれているのが現状です。ですから、 中国はローテク製品を作りながらも少しずつハイテク製品に移っていく必要があ ると考えています。 また、WTOへ加盟は、中国の輸出がいっそう増えるというメリットもありま すが、一方で、国内産業に非常に大きな危機をもたらします。工業製品だけでなく、 アメリカの食物や東南アジアのくだものなどがどんどん入ってきて、中国の農業 の脅威となることは明らかです。しかし、その危機を転機にしなければなりませ ん。海外の製品との競争によって、国内産業の技術レベルや生産性を高めていか ないと、淘汰されてしまうのは時間の問題です。そのことは中国もすでに認識し ており、WTO加盟の危機をどのように転機に変えていくかが中国産業界の大き なテーマとなっています。 例えば日本の自動車産業が今どんどん中国に行こうとしていますが、中国国内 の自動車産業も生産性を上げ、国産車の価格をかなり下げています。それも明ら かにこれからの海外の自動車との競争に備えるためといえるでしょう。 また、政治面は経済ほどのペースで進んでいないかもしれませんが、中国は 20 年近く市場経済の導入を進めてきており、市場経済はすでに中国社会にかなり浸 透しています。天安門事件のときにも、中国が昔に戻ってしまうのではないかと 懸念する見方もありましたが、実際にはもう後戻りできない状況になっています。 競争の激しさという意味でも、部分的には資本主義の日本よりも厳しい面があり ます。 その中で、13 億の人口を持つ中国は、世界の工場であると同時に市場としても 注目されています。少しずつ日本でもその認識が強くなってきていると思います が、中国の経済発展に伴い、製造業では部品や工作機械、消費市場でも携帯電話 3 など、いろいろなものが日本から輸出されています。 よく日本では、改革によって中国の地域格差や貧富の格差が大きくなり、問題 になるのではないかといわれます。もちろんそれは社会的不安定の要素にもなり ますが、私はある程度の幅で抑えられれば、それらの格差はあった方が経済発展 の原動力と維持力になる、むしろ格差がなくなるとそれがなくなるのではないか と思っています。世界で見ても、例えば日本と中国に格差がなければ、今のよう な日中間の経済活動は難しいでしょう。格差があるからこそ、お互いに補完し合 ってモノやお金が動いていくのです。 2.政府の役割 中国経済の背景には国全体が改革しようという気運があり、それには政府の役 割が大きいと思います。日本もかつて通産省が主導し、アメリカから「日本株式 会社」とよばれるような経済発展を成し遂げましたが、中国政府の役割として大 きかったのは、経済特区の建設と外資企業の誘致です。 日本でも最近、特区の議論がされていますが、中国の特区には、1つは税制面 での優遇政策があります。もともと国に認められている開発区の法人税は約 15% ですが、特区ではそれを2年間ゼロにし、あとの3年間は半分の 7.5%にしていま す。そのうえ、例えば国が奨励する技術内容や産業であれば、さらに継続されま す。それが日本では 40%くらいになると思いますが、比較するとかなり魅力的な 制度になっているといえます。同時に、中国市場への外資参入を許す一方で、合弁 会社や技術提携によって中国企業への技術移転を促進してきました。 もう1つ大きいのは、国営企業の改革です。中国の産業は基本的に国営企業ばか りですから、国営企業の改革がなければ中国経済の改革はありえません。その改 革の一つとして、外資系企業との合弁、提携によって経営面、技術面、資本面を強 化してきました。特に経営に関しては、国営企業から国有企業への脱皮を図って います。つまり、国が持っている企業でも、経営の方式は従来の国営企業とは根本 的に変えていこうということです。従来の国営企業は資金的にも乏しかったので すが、今は国営企業が株式市場に上場し、資本市場から資金を調達しています。 また、日本では政府が中小企業のことを考えようという話をよくしますが、中 国政府は中小企業よりは大企業中心にサポートしています。なぜなら、中国の中 小企業はあまりに多くてすべての面倒はみられませんし、中核企業がないと中国 国内の産業が育たないと考えているからです。その施策としては、政府発注や税 制面での優遇などがあります。 中国は非常に広く、人口の多い国ですから、物流を含めて情報化によって効率 を上げなければいけません。そのための情報化インフラは国が整備していきます。 4 具体的には高速道路をつくることもありますが、アメリカの情報化ハイウェイ構 想などの影響を受けて、政府主導でさまざまなプロジェクトが進められています。 分野的には、農業、交通、医療、教育、治安情報ネットワークなどのプロジェク トがあります。中国は出稼ぎ労働者などで人口の流動が激しいので、犯罪者が違 うところに行くとわからなくなってしまうというのが問題になっていましたが、 身分証明書を登録し、そこから犯罪経歴が確認できるという治安情報システムは 非常に役に立っています。 3.IT産業の現状 では、実際に中国のIT産業の現状はどうでしょうか。2002 年度はIT産業の 伸び率が 11%で史上最低水準になったのですが、これはITバブルが崩壊した影 響で、輸出より国内の需要がだいぶ減っているのが大きいと思います。 2003 年第1四半期の売上高を見ると、一番大きいのはやはり広東省、その次が江 蘇省、上海市です。広東省はSARSが最初に騒がれたところで、その意味で日 本企業を含めて影響が大きいのではないかと思います。伸び率から見ると、広東 省は 27%で、4割を超えているのは江蘇省、上海市、浙江省といったいわゆる揚 子江デルタ地域です。北京市は売上高では4位ですが、伸び率は 1.7%とほとんど 前年と変わりません。これは、北京市のIT産業の内容から、ITバブルの影響 が大きかったためではないかと見ています。 トップ 10 の中では 10 位の四川省だけが内陸部で、そのほかはすべて沿岸地域 です。今、中国政府は内陸部の開発を進めており、四川省の重慶市が直轄市に挙 げられました。重慶市を入れると、四川省は中国で唯一、省単位で1億人を超える 最も人口の多いところで、将来は中国の西部開発、内陸開発の中心となっていく と思われます。 IT関連の輸出では、カラーテレビ、電話機などが金額的にはまだ結構ありま すが、それほどハイテクな製品ではなくなって伸び率は低くなっています。ソフト ウェアの伸び率はハードウェアよりも大きいのですが、金額的にはハードウェア 製品とは比較できないほど少ないのが現状です。 IT産業で中国のトップ企業としては、日本でもよく報道されているハイアー ル(海爾集団公司)が、2002 年の実績で日本円にして約1兆円の売上高をあげて います。日本企業に比較するとまだまだ少ないのですが、中国で初めて売上が1兆 円を超える企業ができました。ただ、利益率はそれほど高くありません。 このハイアールは完全な民間企業です。7位に入っている通信関係、携帯電話関 係の華為という会社も民間企業です。私自身はソフトウェアをやっていますが、 32 位、57 位、73 位にソフト中心の会社が入っています。経営形態としては、32 5 位の托普という会社が完全な民間企業です。57 位の東軟は日本向けのソフトをた くさん作っていて日本の皆さんもご存じかもしれませんが、ここは基本的には国 営ベースです。73 位の中軟は、中国ソフト研究所のような国の研究機関をベース にした企業で、完全に国営企業です。もちろん国営といっても、先程言ったように 経営手法としては決して単なる国営企業ではありません。利益率としては、ソフ ト関係の会社の方がハードウェア関係の会社よりは高くなっています。 中国のIT企業がどこから来たかというと、一番多くて規模も大きいのは家電 メーカーです。ハイアールももともとは家電メーカーですが、家電の競争が激しく なって利益が少なくなったことから、家電の技術をベースにIT産業の分野に進 出してきています。このような会社は、家電の営業やアフターサービスのチャネ ルを持っているので非常に強い面があります。 最初は海外のITメーカーの代理店だったところもあります。例えば3位の聯 想も今はパソコンシェアで中国のトップですが、もともとはIBMの代理店から 始まっています。そのほかには、ソフトウェア会社やSI会社からスタートし、も っと幅広いIT産業の会社になりつつあるところもあります。 中国IT企業の資本形態は、もちろん国営企業が多いのですが、カリスマ起業 家の立ち上げた民間企業もありますし、複数の法人や個人の出資があり、特にど こが中心になっているわけではないという複雑な成り立ちの会社も結構あります。 IT産業トップ 100 の会社の中で、完全な国有企業は約 60 社、完全な民間企業は 15 社ほどで、民間企業の成長のスピードが速いことが目につきます。 今、中国ではパソコンや通信関係機器がたくさん製造されていますが、実際に 中国で開発されたオリジナルの製品はほとんどありません。そこで、中国政府は、 中国独自の製品を育て、付加価値を付けていくためにはソフトウェアが重要であ るということで、ソフトウェア開発、IC設計の会社をどんどん作って発展させる ことを強く推進しています。 そのために税制面、資金面の支援もしています。例えばソフトやIC中心の開 発区であるソフトウェア開発パークに入ると、非常に優遇的な税制が受けられま す。ソフトウェア会社は小さな会社が多いのですが、独自の製品や海外の企業と競 争できるような中核企業を育てていこうということで、先程のトップ 100 に入っ ていたソフト企業3社のように規模が大きくなってくれば、中国政府もさらにサ ポートしていくだろうと思います。 ビジネスモデルという意味で、中国のソフトウエア産業の現状は、欧州型とイ ンド型に分けられると思います。ここでいう欧州型とは、特殊な人材がいて、規模 はそれほど大きくなくても、特殊な分野での強み、あるいは特徴のあるソフトウェ ア製品を持っている会社と理解しています。インド型とは、海外のソフトウェア 6 開発の受託型です。今の中国のソフトウェア開発はまだこのレベルで、当面はこ のモデルで進めていくことになるでしょう。 そして、その次には日本型です。日本型の定義はIT製品開発融合型で、ハー ドウェアの中にいろいろなソフトウェアが入っているものです。中国のソフトウ ェアビジネスモデルとしてはまだそのレベルにはなっていませんが、ハードウェ アがどんどん国内で作られるようになり、それと同時にソフト開発も進められる ようになっていき、最終的にはアメリカ型になることを目指しています。アメリ カ型とは、ソフト自身の知的財産権を持つパッケージ型の製品です。 中国のソフトウェア、IC設計会社の環境の一例として紹介すると、私どもの 中国での開発センターが、蘇州シンガポール工業園区というハイテクパークのよ うなところの中にあります。ここには規模がまだ小さいベンチャー企業のような ソフト関連、ICデザイン関連の会社がたくさん入っています。 例えば日本企業の金融系のシステムなど、特殊なソフト開発環境が必要なもの のための専用開発ルームも持っています。また、セキュリティを重視し、同じ会社 の中でも全く別のネットワークシステムを使っています。お客様とのコミュニケ ーションを取るためには、もちろんフェイス・ツー・フェイスの打ち合わせもあ りますが、テレビ会議システムがよく使われ、今はSARS対策もあってこれが非 常に力を発揮しています。テレビ会議を含めて日本のお客様とは日本語でやり取 りしています。最近では、日本語だけでなく日本文化も知ってもらおうと、経験 のある日本人の専属教師に社員として来てもらって教育を行っている中国の会社 もかなり増えています。 4.IT産業の現状 外資系企業が中国IT業界の大きいウェイトを占めていますが、中国企業を中 心に考えると、事業展開モデルとしてまず挙げられるのは、やはり国営型です。 国営型は、外資系企業との合弁、提携によって国有企業自身の技術とマネジメント の水準を向上させてきました。国有という意味では、政府との人脈や独自に長く やってきた販売、サービスチャネルを持っているという有利な点があるので、そ れを活用すれば強い競争力になります。そうして発展していって、上場することに よって資金調達をし、M&Aによって早く規模拡大をするというやり方です。 独立民営型は、日本でも同じかもしれませんが、最初は独特な技術を持っていた り、ビジネスモデルを持っていたり、単純にいえば商売がうまいというようなとこ ろで第一歩の成功を収めます。その次には、市場に対する経営者の鋭い分析力と行 動力で急拡大していきます。このような企業は年間2倍から数倍のスピードで短 期間に成長していきますが、そこでは政府発注など政府のいろいろな支援も活用 7 しています。同時に、外資企業との提携で技術移転、技術導入をし、技術レベルを 高めていきます。それで成功した企業も、上場して資金調達をし、M&Aによる規 模拡大していこうというところは国営企業と同じです。 私の感じでは、中国企業はどちらかというとじっくりとやるというよりは、早く 大きくしたいという傾向があって、そこはアメリカに近いのかもしれません。 5.通信市場 通信関係で大きい会社は7つくらいあります。以前は日本のNTTと同じよう な中国電信だけだったのですが、それが中国移動と中国網通に分かれました。中 国聯通という会社は、日本でいえば第二電電のようなものです。事業内容は、最初 に分けられたときには違っていましたが、お互いに参入できるかたちになってい ろいろやってきています。その中で売上トップは、中国移動という日本でいえば NTTドコモのような会社です。そして、日本でいえばNTT東日本、西日本のよ うなところが2位、3位を占め、中国聯通が4位です。 よく携帯電話の伸びがいわれますが、固定電話も伸びており、今、2億 2460 万台 あります。これは農村への拡大が大きいと思います。携帯電話は2億 2150 万台あ り、すでに台数ベースでは世界一になりました。今も月平均 500 万台のペースで 増えていますが、最近、伸び率は鈍化しているといわれています。これは、あま りよくないITの景気と、さらなるサービス向上と価格低下が求められているこ との影響だと思います。 その中で日本と若干違うところは、まず中国版PHS「小霊通」の飛躍です。 日本ではPHSが携帯電話と同じコンセプトで勝負しようとしてうまくいってい ないのですが、中国ではPHSが 2002 年末に 1100 万台あり、2003 年末には 2000 万台を超えるだろうと予測されています。 PHSの会社は、携帯電話に対して徹底的な低価格戦略を取っています。そし て、携帯電話と同じ土俵ではなく、PHSは固定電話の子機というコンセプトの下 で、中小都市、農村部の需要が大きくなっています。村でも固定電話を持ってい ますから、畑で働くお父さんに「ご飯ができたから帰ってきてください」というよ うな、低価格で利用しやすいというPHSの特徴を生かせるところの需要を満た しているのです。 例えば携帯電話と同じコンセプトでインフラ整備をすると、お金がかかりすぎ て大変です。その点、PHSは市場を見て、その需要に合わせて固定電話の延長 でインフラ整備ができます。今の傾向としては、PHSの特徴を利用して大都会に も進出しようというところに来ています。 もう1つ、中国の通信市場で日本と違うのは、IP電話です。日本でも一部I 8 P電話が使われていますが、中国の使用率は日本よりかなり高いと思います。長 距離電話はすでに 60%近くで、国際電話は 70%です。その背景として、1つは中 国人が受けるコスト・パフォーマンスがあります。中国では電話をかけるのにま だ不便なところがありますし、音声の品質もいいとはいえません。ですから、日 本ではまだ使いものにならないといわれるものでも、中国人の感覚では「その値 段でそのくらいの音質ならいいじゃないか」と考えるわけです。一つの予測とし て、2〜3年以内に中国の長距離電話と国際電話はほぼ 100%IP電話になるので はないかという話もあるほどです。 6.ソフトウェア市場 中国のソフトウェアは、日本や欧米と比べるとまだまだ未熟な市場で、規模の大 きい会社も多くありません。その中で、ERP中心で進められている用友という 会社は、最初は会計ソフトからスタートし、今は中国の国産ブランドの中で業務向 け管理パッケージソフトの最大手になっています。将来的にはSCM、CRM、 eビジネスなどへ進むと思いますが、中国の現状としてはERP程度という感じ です。ただ、中国のERP市場の中で、海外のブランドのSAPよりも市場シェア が大きくなっており、年商は現段階で5億元(約 75 億円)です。単純に金額から 見るとそれほどではないと思われるかもしれませんが、単一の業務パッケージと してはかなりのレベルに来ているのではないかと思います。 先程出てきたソフトウェア受託開発の東軟は、大連中心で、日本向けのソフト ウェア開発が多いのですが、最初はアルパインの資本が入っていて、そこを経由し て日本のある自動車メーカーのシステム開発に成功したという話を聞いています。 それをベースに日本向けのソフト開発を拡大し、同時に中国国内のシステム開発 にも広げていっています。中国国内のソフトウェア開発体制の規模としては一番 大きく、3000 人います。インドの会社と比較すると少ないですが、中国にはまだ1 万人を超えている会社はありません。開発管理手法を徹底しており、中国最初の CMM5級が認定された企業です。東軟は、SIも含めて年商が 20 億元(約 300 億円)になっています。 7.中国企業の問題点 中国はいろいろなものを製造していますが、全体としてのレベルは高いとは思 っていません。まず、独自技術の開発能力がまだ弱いので、知的財産権を有する製 品がハードでもソフトでも非常に少ないと思います。 IT製品もたくさん作っていますが、それを作るための精密工作機械、マザーマ シンを製造できないので、かなりの部分は日本から輸入しています。また、大規 9 模プロジェクトの開発経験が少なく、品質保証の制度が未熟です。 日本でも企業統治についていろいろいわれますが、中国企業のコーポレート・ ガバナンスはまだ非常に弱いと思います。国営企業でも民間企業でも、コーポレ ート・ガバナンスが有効に働いていて、経営者に対して監視・監督能力があるとは 言いがたい企業が多く、経営陣内部で問題が起り、業績のよかった企業が悪くな ってしまうというケースもかなりあります。 8.日本企業の優位性と問題点 日本企業は、現時点では中国に比較して完全な優位性を持っています。まず、 独自製品の開発力と製造技術力が非常に強く、製造業に関しては高い生産性が実 現できるマネジメント能力があります。技術者の定着性があり、システム的には 引継ぎなどがうまくできていて、安定な技術継承能力があることも強みです。そ して、これが中国企業では問題ではないかと思われるところです。日本企業でも いろいろあると思いますが、中国と比較すると堅実な日本の製造業は豊富な資金 を持っているといえます。 もちろん日本企業には問題点もあります。1つは、製造部門の生産性は非常に高 いのですが、非製造部門の業務効率が悪い会社も多いのではないかということで す。例えば打ち合わせ一つにしても、コストをかけているという意識があまりあり ません。製造部門の効率のよさを非製造部門の非効率性でマイナスしてしまって、 最終的に利益の向上につながらないということがよくあります。 もう1つは、トータル的なグローバル化戦略が必要だと思います。例えばグロー バル化対応の人材が不足しています。言葉だけでなく、いろいろな場面に対応し てコミュニケーションし、決断できる人材が必要です。例えば海外に進出して、 そこを生産工場だけでなく市場ととらえ、営業でどう攻めていこうかというとき に、その権限は現地には与えられていません。スピードが要求されているところ では、かなりの部分が現地の権限で動かなければ対応できないと思います。特に人 材面では、欧米企業と比べても日本企業では現地の人の責任者が圧倒的に少なく、 日本国内でも大企業の中で部長以上の外国人はほとんどいません。 9.日本にとって魅力的な市場 IT関係で、日本企業にとって中国のどういうところに魅力があるかというと、 例えば携帯電話は少し伸び率が落ちているといっても、月数百万台ベースで伸び ています。しかも、携帯電話は端末自体が日本と比べると中国の方がまだ高いので す。通信費も、絶対金額はほぼ日本と同じくらいになっていますが、物価水準から 考えると価格を下げる余地はだいぶ残っています。デジタルカメラ等のマルチメ 10 ディア製品も日本の得意分野ですが、これも中国でどんどん広げていけると思い ます。 今、欧米企業を含めて日本企業の一部でも、R&Dを現地でやろうしています。 中国を市場と考えるときに、その市場に合った製品開発を、しかも迅速にできると いう意味では、現地でR&Dを進めていくメリットは大きいと思います。 中国が世界の工場であり、市場ともなるとすれば物流がかなり増えてきます。 そこには、物流システムやコールセンターに使われるIT技術が必要になります。 先程お話したERP、SCMといったシステムの需要も増えてくるでしょう。 金融システム開発は国主導で第一開発は終わっていますが、金融システムの健 全化はまだまだです。保険は中国では未整備の分野で、これからそういう関係のシ ステム開発の需要が出てくると思います。 日本が得意とするゲームとアニメのコンテンツも、中国では非常に人気があり ます。また、一人っ子政策で中国も非常に教育熱心ですから、教育関係のマルチ メディアコンテンツ、eラーニングもビジネスになるのではないかと思います。 10.中国ビジネスの注意点 最後に、中国におけるビジネスの注意点をいくつか挙げておきます。 ・人脈は大事だが、過信は禁物 日本においても人間関係は大事ですが、中国でも政府の紹介だから絶対大丈夫 というようなことをしばしば聞きます。それをすべて否定するわけではありませ んが、過信してしまうと逆に危ないのではないかと思います。実際そういう例も たくさんあります。 ・経営者を見て、企業を選ぼう どこかの紹介で、あるいは見た目がりっぱだからということでパートナーを選 ぶのではなく、その経営者とよく話をして、それから判断された方がいいでしょう。 ・互いに利益のある(Win‑Win)関係を築こう 中国に進出する日本企業は、最初は利益がなくても我慢しようという話が結構 あると思いますが、ビジネスをやる以上、最初は小さくてもいいのですが、お互い に何か利益があるパートナー関係を築くべきです。 ・中国の消費パターンを把握してビジネスモデルを構築しよう 中国には独特の消費パターンがあって、安いものをたくさん売るようなパター ンと、ブランド戦略でかえって高い方が売れるものもあります。それをきちんと把 握してやるべきではないかと思います。 ・コスト管理は中国式で考えよう 日本は全体として価格が高いので、中国に行くと何でも安いと感じるかもしれ 11 ませんが、中国の値段で売るのですから、中国のコスト意識で管理しないと売れ ていても採算性が取れなくなります。 ・大切な人材を絶対放すな 日本の場合、いろいろな仕事を与えてチャンスをつくり、そのうちに育ってくる だろうというあいまいなところがありますが、中国の場合は、その人に明確に意識 させた方がいいと思います。本当に大切な人材はそう簡単には切り替えできない ので、そういう人がいたらぜひ大切にしましょう。 以 12 上
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