住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 【設例1】条件が異なるローンを比較するポイントは? 質 問 最近、さまざまな住宅ローンが開発され新聞広告などでも盛んにPRされています が、それぞれ微妙に条件等が違うようです。条件が異なる住宅ローンを比較検討する場 合のポイントについて教えてください。 回答 最近ではご質問のように期間を限定した優遇金利やインターネットを利用した申し込みによ る優遇金利、さらにはローン借り入れをしている金融機関に普通預金を預け入れると、その預 金残高分まではローン金利がゼロになる(預金にも利息はつかない)などといった機能を持た せた商品まで、さまざまなローン商品が出てきています。 そこで、このような商品を比較検討するうえでのポイントを紹介しますと、 ①当該ローンで借り入れした場合の総返済額はどのくらいの違いが出るのか ②金利以外のサービスの場合、当該サービスの有用性はどうか ③金融機関自体の利便性はどうか ④金利優遇などの場合、当該サービスの解除条件等がついていないか といった点に目を向けて比較するのが良いのではないでしょうか。 ①総返済額での比較 ローン借り入れが主目的ですから、いかに返済額が少なくなるかが、重要なポイントです。 総返済額の比較は最近では各金融機関のホームページでローンシミュレーションが可能ですの で、そのようなものの利用で簡単に比較することができます。もちろん、ローン窓口に相談に 行き、総返済額を算出してもらうことも可能です。 このときの注意点は単純な総返済額だけの比較ではなく、事務手数料、保証料(金利に含ま れているか別か)、団信保険料が含まれているかといった点にも、気を配ることが必要です。 このようなことについては、新聞広告などでは、注記の部分に小さく書かれていることも少 なくありませんので、よく見るようにしましょう。 ②金利以外のサービスの場合、当該サービスの有用性はどうか 金利以外のサービスとはたとえば、繰上げ返済時の手数料無料、成人病疾病保障付のローン、 13 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 さらには宿泊・レジャー施設等の優待利用特典付といったサービスまであります。 このようなサービスを本当に利用するのか否か、が問題です。サービス・特典がたくさんつい ていると、お得なような気がしてしまいますが、実際に利用できなければ意味がありません。 繰り上げ返済の手数料無料サービスも 100 万円から利用可能なものと、10 万円から可能なも のでは、利用価値が違いますね。10 万円からであれば、ボーナスが入るたびにこまめに繰上げ が可能ですが、100 万円からとなると利用する機会は限られてきます。 また、当該金融機関に給与振込みや公共料金の引き落としといった機能をつけた生活資金口 座を持つことで、一定の金利の引き下げがある場合がありますが、この点については下記で解 説しましょう。 ③金融機関自体の利便性はどうか 総返済額も少なくなるし、利用価値のあるサービスも付帯されているローン商品が見つかっ たとします。では、そのローンを取り扱っている金融機関の利便性はどうでしょうか。 会社から給与を当該金融機関に振込んでもらうことは可能でしょうか。また、普段使う口座 からの住宅ローン返済をすることとした場合、当該金融機関の店舗は便利でしょうか。 金融機関に通うのに特別に交通費がかかるようでは、これもコストと考えれば思わぬ支払い 負担が生じることとなります。また、近くに店舗がなく、預金の引き出しに他行ATMを利用 せざるを得ないようであれば、これまた手数料が意外にかかってしまうことになります。 金融機関の立地や利便も良く考える必要があります。 ④サービスに制限がないか 金利優遇サービスなどでは、「平成 21 年 1 月末までにお借入の場合」といった期間について 制限があるのが一般的です。この期間については注意が必要です。多くの金融機関では上記の ように「~までのお借入に」適用としているケースが多いのですが、民間金融機関の場合、ご 存知のように借入れまでには 借入申込み 審査 融資決定 借入契約 という時間が通常 2 週間程度はかかります。つまり、ローンを比較検討している段階から実際 の借入時までには金利が変わってしまう可能性もあるのです。この点にも、十分注意しましょ う。 また、 「延滞が発生した際には、優遇金利は終了となります」といった注意書きのある金融機 関もあります。この場合には、延滞した後には適用金利が変わり、返済額も多くなってしまう わけです。さらには、優遇金利の適用条件にも注意が必要です。第一順位の抵当権設定が条件 となっている場合には、フラット 35 などの公的融資との併用はできませんし、市街化区域内限 定の場合には市街化調整区域内の住宅には利用できません。 以上のように、比較上のポイントはいくつかありますが、要はローン借入をするのですから、 返済額が一番少なくてすむローンで、利用もしやすいものを選んでいくことが大切です。 14 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 【設例 2】借換えする際の目安は? 質 問 私は旧住宅金融公庫のステップ償還型の固定金利ローンを借りているというお 客さまから、 「借入後 10 年経過した時点で、適用金利が上がってしまい、現在の民間金 融機関のローン金利と比べても大きな差が出ているので、借換えを考えている」との相 談を受けました。借換えをする際の目安というのは、どの程度のものなのでしょうか。 回答 旧公庫のステップ返済型ローンのステップ償還開始(特に 10 年前に時期には当初金利を低く 抑える措置がとられていたので、ステップ償還開始による金利の上昇幅が大きくなっている) では、返済額の急上昇に驚かれる方が多いようです。 さて、住宅ローンアドバイザーの皆さんが当初テキストで学習されたように、一般的に借換 えメリットが出てくる目安は ①現在借り入れているローンの金利との金利差が1%以上あること ②借入残高が 1,000 万円以上あること。 ③返済期間が 10 年以上残っていること。 の 3 点です。もちろん、繰上げ返済の手数料や登録免許税等の経費についても考慮に入れなけ ればなりません。 住宅ローンを借換えするのは何のためでしょうか。毎月の返済負担を減らし、ひいては借換 えによって総返済額を少なくすることです。このため、借換え時にはいくつかの注意点があり ます。 ① 借換え先ローンの返済総額はどうなるか 金利上昇局面での変動金利から固定金利への借換え、あるいは金利下降時の高い固定金利か ら低い固定金利への借換えであれば、それほど神経質にならなくてもよいでしょう。しかし、 借換える先のローンが固定金利選択型(一定期間固定型)の場合には、シミュレーションをし て、本当に借換えが得なのか?を具体的に把握することが大切です。 このときに気をつけるのが、以下の点です。 ②登録免許税等のコストも考える 借換えをする際には、現在借入中のローンを一括繰上げ返済することになります。繰上げ返 済手数料がかかる場合には、ここで手数料をコストとして計算しなければなりません。 また、抵当権の抹消(現在借りているローンの抵当権……数千円) 、設定(借換え先のローン の抵当権……債権額の家屋分 0.1%、土地 0.4%)時に登録免許税と司法書士への報酬(3~5 万円程度)がかかります。これらもコストとして計算した上で、新ローンの返済総額+コスト が、現在のローン返済を続けるより低額となるか否かを判断材料とすることが大切です。 ③ その他の注意点 給与所得者から自営業に転じた方、転職をして間もない方といった場合には、現在のローン を問題なく返済しているといっても、新ローンの借入れが難しいことがあります。また、給与 の減少や教育費の増大等により返済が苦しくなり、このために借換えを考える方もいらっしゃ 15 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 います。 このような場合には、目先の返済額を減らすことだけに目を向けてしまいがちで、結局、総 返済額が大きくなってしまうこともあります。 当面、返済額を低く抑えたいということであれば、借換えよりもまず、借入先の金融機関に 相談してみることが必要です。短期間の返済額の見直しや据え置きで、家計が立ち直れば借換 えよりも良いことがあるからです。 【設例3】ローンが複数ある場合の繰上げ返済のポイントは? 質 問 先日、お客さまより「現在、旧公庫のローンと民間金融機関のローンの 2 本立て て借りているが、遺産相続により資金ができたので繰上げ返済をしたいと思う。どちら のローンを繰上げ返済したほうが良いのか?」との相談をうけました。 「金利の高いほう、 金利が同じなら期間の長いほうを」と答え、その場をしのぎましたが、複数のローンが ある場合にはどのように優先順位を考えればよいのでしょうか? 回答 個人向け国債の表面利率低下が新聞紙上をにぎわしましたが、相変わらず低金利の環境が続 いています。 このような環境においては、預金として預けておくよりも、ローンの繰上げ返済をしたほう が将来の家計的に有利とお考えになる方も少なくないようです。 ご質問の複数の住宅ローン借入れをしている場合における、繰上げ返済の優先順位ですが、簡 単に示してしまえば ①金利の高いもの ②変動金利のもの ③期間の長いもの ④残高の多いもの といった順序といわれています。 繰上げ返済は、元金の一部を返済することによって、その元金にかかるはずだった利息を支 払われないですむというところにメリットがあります。 ここでシミュレーションをしてみましょう。今回はりそな銀行のホームページにある、繰上 げ返済のシミュレーションを利用して計算してみました。 当初借入れ 3,000 万円、借入期間 30 年、現在金利 2.5%、ボーナス返済なしで約 300 万円を期 間短縮型で繰上げ返済した場合の、軽減額を下表に示します。 繰上げ返済と軽減額 (単位:円) 5 年後繰上げ 10 年後繰上げ 15 年後繰上げ 元金分軽減額 2,991,994 2,997,408 3,043,662 利息分軽減額 2,390,985 1,784,430 1,254,425 合計軽減額 5,382,979 4,781,838 4,298,087 ごらんのように、返済期間が短く元金の残高が大きい頃に返済をしたほうが、同額の繰上げ 16 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 返済でも、返済軽減の額が大きいことに気づかれると思います。まずは、この仕組みを頭に入 れておいてください。 そして、先ほどの優先順位ですが、同時期にお借入になった複数のローンであれば、借入期 間は同一にしていることがほとんどだと思われます。そこで、金利の高いものを優先して繰上 げ返済すれば、金利の軽減分が大きくなり効果が大きいと考えられるのです。 次に、変動金利を優先する理由です。我が国の金利情勢はここ十数年、ゼロ金利などと呼ば れた超低金利環境にあります。ところが過去の住宅ローンの平均金利をみると、4~6%に落 ち着きます。つまり今の環境は、ややイレギュラーな金利下にあるわけで、将来の金利上昇リ スクにさらされている、と考えられます。変動金利のものから繰上げ返済するということは、 このリスクを軽減することを意味しています。 そして 3 番目、借入期間が長いものから返済する。これは上の表でもみたとおり、返済の残 り期間が長いものほど、利息分の軽減効果が高いからです。 簡単に優先順位の考え方について解説しましたが、実際には借入額、期間、金利とさまざま な条件を考慮し、シミュレーションをしたうえで、お客さまご自身がお決めになるようにアド バイスするのがベストといえます。 【設例4】住宅ローンの情報を集める際の着眼点は? 質 地方都市で住宅販売の仕事をしています。日ごろは提携ローンの説明が多いのです 問 が、やはりアドバイザーとしてはさまざまな情報を持ったうえで、お客さまに接したい と思います。そこで、インターネットを利用して、住宅ローンについて情報を集めたい と思うのですが、どのような観点で収集・整理するのが良いでしょうか? 回答 住宅ローンの情報を収集する際には、まず借り入れる方の立場になってローン商品を整理し てみるのが良いのではないでしょうか。 ① 金利のタイプ別に整理 地方でお仕事をされているようですので、お客さまがご利用になれる金融機関も自ずとその 範囲も決まってくると思います。その各金融機関で扱っている住宅ローンを、まず、金利タイ プ別に整理してみてはいかがでしょうか。お客さまの資金準備状況によってある程度の、利用 できる金利タイプが決まるでしょうし、お客さまの関心も返済額、ついてはどのような金利タ イプのローンを利用できるのか、といったところが最初の出発点になると尾も追われるからで す。 ②コストについてチェック 住宅ローンに関しては、保証料、団体信用保険料や繰上げ返済手数料など、金利以外にも費 用として支出するものがあります。これら費用の有無について整理しておくことも、お客さま が資金計画を立てる上での重要な要素となりますので大切です。 17 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 ③優遇サービス、機能サービスの有無は? 優遇サービスとは、期間限定の金利優遇、あるいは当該金融機関との取引状況に伴う金利優 遇サービスなどのことです。同じような商品で迷われている場合、意外とこのような優遇サー ビスの有無で、金利等に差が出てくることもありますので、チェックしておきたいポイントで す。 また機能サービスとは、保険付ローンのような機能です。三大疾病保険や所得補償保険とい った、返済中途での「まさか」に備える、リスクヘッジ機能を持たせた商品です。借入期間が 長期間となる住宅ローンでは、このようなリスクに対する備えを重要視するお客さまも少なく ないと思います。 以上のように、住宅ローンの情報収集のポイントをまとめましたが、収集時に注意する点は メリットだけに目を奪われないことと、条件の違う商品同士を単純に比較しないことです。 【設例5】未払利息について教えてください 質 変動金利の住宅ローンでは、金利が急上昇すると「未払い利息」が発生するリスク 問 がある、といわれます。この仕組みが良く分からないので、解説をお願いします。 回答 変動金利タイプの住宅ローンでは、適用金利は半年毎に見直されます。一般的には毎年 4 月 1 日と 10 月 1 日の年 2 回、適用金利の見直しが行われて、次の半年分の適用金利が決定され、 それぞれ 7 月と翌年 1 月の返済分から新しい金利が反映されます。 変動金利型ローンの返済額の変更ルールを思い出してください。変動金利型では返済額の見 直し(変更)は 5 年に毎に行われることになっています。したがいまして、借り入れた翌年の 4 月に金利が上がったとしても、返済額アップという形ではすぐには現れません。 では、どうなるのでしょうか?たとえば、毎月返済額が 10 万円でそのうち返済割合が元金返 済 3 万円、利息分 7 万円だったとすると、金利改訂後は返済割合が元金返済 2.7 万円、利息分 7.3 万円といったように金利上昇分をこの月返済額の中で調整して返済することとなるのです。 ところが、金利上昇はさらに続き、月返済額の全額を充てても利息分の返済に足りないことが 発生する可能性もあります。この、返済額分からはみ出してしまって未払いとなってしまうも のを、その名のとおり「未払い利息」というのです。 もし、未払い利息が発生してしまうと、上記のように元金の減りも少なくなりますから、元 金が減っていない分、支払額見直しの際に返済額が増えてしまうほか、未払い利息分の支払い も生じることとなります。 この未払い利息分の清算の方法は、主に次のようになっています。 ① 一括返済 返済中に生じた未払い利息を、最終返済(完済)時に一括して返済する方法です。未払い利 息の総額が大きくなると、最終回での負担が大きくなり、老後生活等に影響が出ることも考え 18 住宅ローンアドバイザー会報 1 月号 られます。 ② 分割返済 たとえば、1 年間未払い利息が発生した場合に、翌年に 12 ヶ月間で分割して支払うという方 法です。分割期間等は、金融機関によって異なります。 ③ 未払い利息優先支払い 返済予定表どおりの返済を続けていくが、元金・利息の支払いよりも優先して、未払い利息 分を優先して充てていく方法です。毎回の返済額に影響はありませんが、その分、元金の減り がより遅くなり、支払う利息額が増えることになります。 これらの清算方式は金融機関によって異なりますから、ローン選択の際には、未払い利息の 清算方法も確認することが大切になります。 (試験部長 19 安立充典)
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