経営の国際化の時代 • 日系製造業企業の海外売上高は90兆円、日 経製造業企業の総売上高の約20%(海外事 業活動基本調査、2010年) • 従業員数は国内雇用者1000万人に対し、日 経製造業の海外子会社従業員数は約400万 人。 国際化と企業戦略(1) 国際化の概要 • 海外は日系製造業の事業活動の重要な一部 であり、海外事業なしには経営はなりたたな い。 1 国際化の進展の背景 2 未熟な国際経営(吉原、1996) • 海外子会社において社長をはじめとする経営幹 部に依存として日本人が据え置かれている。 • 各国政府が輸入代替工業化政策をとり、輸 入規制を推進。海外直接投資を奨励。 • 米国、ヨーロッパの保護貿易主義 • 海外子会社でも、日本的なものの考え方や経営 手法を変えない。 – ローカル・コンテンツ(部品などの現地調達) • 円高の進展 • 国内・先進国市場の縮小、海外市場の成長 • 日本親会社側では、海外経験のある人材が少 なく、国内事業だけで育ってきた経営幹部が多 い。 日本企業は当初、①消極的かつ、②横並び的 に海外直接投資に進出 • 多国籍企業であるにも関わらず、日本語を重視 し、英語あるいは現地語を使うことができない。 3 4 企業が自国以外で外部顧 客に対して販売した製品・ サービスの売上高のこと。 5 製造業は 平均18.3% (2012) 増加傾向 6 国際化のエントリーモード(1) 国際化のエントリーモード(2) • その他 ‒ ライセンシング: • 輸出 • 間接輸出:輸出代行者に任せる • 直接輸出:生産業者が自ら自社製品を輸出する • 特許や発明、コピーライト、商標、技術ノウハウなどに対するアクセスを 与える。 • 海外生産(海外直接投資) • グリーンフォールド投資 – 外国に投資をする際に法人を新しく設立して、設備や従業員の 確保、チャネルの構築や顧客の確保を一から行う投資の方式 – 自社の経営資源を現地に持ち込む • 買収・合併(M&A) – 相手先国企業の株式を買い取り所有権を獲得する。現地の経 営資源を買い取る。 – 即戦力となる経営資源を獲得できる – 適切な買収先が見つかるとは限らず、また買収先との調整が 重要 7 国際化のエントリーモード(3) • 資金がかからないというメリットの反面、ライセンシーへのコントロール が及ばない、世界レベルの調整ができない、技術ノウハウのライセンス による潜在的競合相手育成になる可能性などの不安要素がある。 • E.x. ゼロックスと富士ゼロックスの関係 – フランチャイジング: • 海外フランチャイジーに社名ブランドを許可するかわりに、現地運営の やり方に関して細かい規則を課すもの。 • 海外オペレーションのコストとリスクを軽減するというメリットであるが、 世界中のフランチャイジーのサービスの維持・管理の困難さがある。 • e.x. マクドナルド、セブンイレブン 8 海外子会社の所有政策(1) 完全所有 • グリーンフィールド投資か、買収か? – 買収のメリット – 完全所有のメリット • 買収によりてっとり早く現地の既存企業からの各種経営 資源を入手することができる。 • 現地企業のもつ対外的ネットワークを入手できる • 現地国からの政治的・心理的反発を弱めることができ る。 合 弁 – 合弁のメリット • 単独に比べ投資額が少なくて 済む • 戦略やオペレーショ ンや経営資源に対し コントロールがきく。 • パートナーから重要な情報やノ ウハウを入手できる • 政治的バッシングを受けにくい • リスク分散 – 完全所有のデメリット • 失敗のリスクを一手に 負うことになる。 – 買収のデメリット • 企業文化が衝突する可能性 • 買収プレミアム(被買収企業の価値以上の支払い額) • 被買収企業の負の遺産も引き継ぐ可能性があり、リスト 9 ラを行う可能性もある 海外子会社の所有政策(2) – 合弁のデメリット • たやすく撤退ができな い(特に保護主義国の 場合)。 • 相手企業との戦略的な統一の 難しさ • 調整の困難さ • コントロールが行き届かない • 意志決定の遅さ 10 国際化の発展段階(Dunning,1993) (磯部、牧野、チャン、2010) • 現地パートナーとの出資比率よりは、現地パートナーと の関係が重要(合併失敗の原因) – 出資比率が高いからといって、現地国側の事情にとって、企 業の自由にできない場合がある(進出国が現地化政策を進め ている場合など)。 • 海外子会社への出資比率は、自社の経験則に基づい て決定される企業が多い。 – 日本企業は「完全出資」、「経営トップを日本人」で進 出するケースが多く、また出資比率決定については 親会社の圧力が大きい • 現地国の政治的な不安定さが大きいほど、現地国パー トナーの出資比率を多くする傾向がある。 11 • 第一段階:間接輸出 • 第二段階:直接輸出 – 海外での自社販路の開拓、現地販売子会社設立 • 第三段階:現地生産(海外直接投資) – 部品の現地組み立て、生産 • 第四段階:現地生産 – 新製品、研究開発の現地生産 • 第五段階:地域・グローバル統合 – 研究開発など高付加価値な活動を国境を越えて行う 12 海外活動の比率の推移 13 海外生産比率=( 海外生産高 ) / ( 国内生産高 + 海外生産高 ) 海外売上高比率=( 海外売上高 ) / ( 国内売上高 + 海外売上高 ) 海外収益比率=( 海外事業の営業利益 ) / ( 海外事業の営業利益 + 国内事業の営業利益 ) 14 現地法人とは • 「現地法人」とは、日本側出資比率が10%以 上の外国法人(海外子会社)および、日本側 出資比率が50%超の海外子会社が50%超 の出資を行っている外国法人(海外孫会社) 現地法人 50% 以上 10% 以上 50% 以上 外国法人 外国法人 海外子会社 15 海外現地法人数の増減(2013年中) 16 生産・販売における海外現地法人 現地法人は増加。 中国、ASEAN, 欧州の増加が著しい 17 18 投資決定のポイント (上位4項目の推移) 進出先の選択 • 市場の魅力 – 市場規模、購買力、成長性 • 顧客の国際化 – 部品メーカーと組み立てメーカーの関係 • 競争環境 • 現地国の能力 – 目の肥えた消費者、デザインにうるさい消費者、学歴 • 安くて良質な労働力 • 政治的安定 • 規制 – 従業員の解雇、退職金、年金、生活支援など • 文化的要素 % 20 19 製造業の現地法人 従業員数 事業者数 558万人の従業員が 海外現地法人で働 いている。 大半が現地採用者 21 撤退の要因 非製造業の現地法人 現地法人の従業員数 22 • 現地国の要因 – 進出国のカントリーリスク – 進出国における政策(グーグルが中国市場を撤退した例) – 進出国の需要要件(顧客の文化・習慣・規則などと事業の 不適合など) – 進出国における要素要件(原材料、労働力のコストなど) – 進出国における競争環境の激化 • 自社の要因 – 戦略の変更(全社的なターゲット市場のシフトなど) – マネジメント上の問題 – 業績の悪化 事業所数 23 24 日本企業の撤退の実証研究 (磯部、牧野、チャン、2010) • 海外子会社の撤退の多くは、設立後の不測の事態による 「意図しない撤退」が多い。 – 現地市場の需要動向や競争に関係する理由が多い – 海外での流通やマーケティング、それを支援する組織体 制が日本企業の課題 • 完全株式所有子会社と合弁会社の撤退率の差はあまりな い。 • 戦略的資産の獲得を目的とした海外進出は存続期間を短く していた。いかに戦略的資産獲得のための海外進出を行う かが日本企業の課題である。 25 撤退を阻害する要因 26 国際化は空洞化を促進するか? • 組織慣性 • サンクコスト – せっかく多大なコストをかけてオペレーションを立ち 上げたので、撤退するのはもったいないとする。 海外直接投資をして いる企業のほうが成 長性が高い。 • 社内ポリティックス(政治) グローバル化は『ドーナ ツ化=産業空洞化」で はなく、「ピザ型(おいし いところは国内に残る) 」ではないか。 – 現地化を推進した政略が政治的影響力の保持を かけて撤退に反対する 27 国内=開発、海外=製造 という分業は続くのか? 28 リバース・イノベーション • 「途上国で生まれたイノベーションを先進国に 逆流させること。最初から新興国を目指して、 低価格化、小型化などの機能を凝らした製品 を開発し、それを先進国に逆流させること」 • 国際プロダクトライフサイクル(IPLC) 2013年6月12日 日経産業新聞 29 – 米国→他の先進国→途上国、と順を追って普及 (テレビ、電話、自動車などはこれに従った) – しかし近年、それに反する流れが出てきている 30 イノベーションは自 国で行い、製品 サービスは他国に 普及 製品・サービス の修正、価格 を安く ローカル特有の顧 客ニーズを満たす ために必要なソ リューションを創出 ローカルで行う、「グ ローバルのための」 イノベーション 31 32 リバース・イノベーションの事例(2) リバース・イノベーションの事例(1) • GEヘルスケア Vscan • GEヘルスケアのMAC400 – 2002年に中国市場向けに超低価格・携帯性超音 波装置。 – 先進国で3000ドル以上の心電 計を、インドの劣悪な医療事情 に合わせて800ドルで作った。 簡便・計量の新機種「MAC40 0」を作り – 中国農村地帯の患者は診察のために都市部まで 出向くことができないため携帯性が必要 – 中国農村地帯では専門医療よりなんでも屋が求め られることに配慮 – 低コスト、劣悪な環境下でも使 えるという機能が先進国でも受 け入れられ、普及 33 34 おまけ リバース・イノベーションの事例(3) • 南極でプレハブ式の建築法が生まれた・・・ • 1950年に日本が南極観測隊に参加した時に、 プレハブ工法を採用。 • 東芝のインド向けTVのRI • レグザS5 – インド人は大音量でTVを見るのが好き – スピーカーを前面に見せるデザインの採用 →デザインの奇抜さ、低コストなどが逆に魅力 • 以後、日本の住宅にも使われるようになる(か つてはプレハブを「越冬小屋」と呼んでいた)。 • レグザP2 – インドは停電が多いのでバッテリー内臓TV →日本での節電・省エネ製品として売り出す 35 36 富裕国と途上国の間にある 5つのニーズのギャップ リバースイノベーションの事例 • ケニアのN-PESAの例 • 先進国の15%の価格で50%の機能(性能のギャ ップ) • http://www.jetro.go.jp/tv/internet/20130315 194.html • 不安定な電力供給環境での使用に耐えうる製 品(インフラのギャップ) • 深刻な大気汚染への配慮(持続可能性のギャッ プ) • 現地政府の規制(規制のギャップ) • 現地の文化的多様性を取り入れた製品(好みの ギャップ) 37 組織内にある支配的論理のレベル 38 リバース・イノベーションのための組織 – レベル1の思考 • 重要なのは富裕国だけである。 – レベル2の思考 • 貧困国の経済ピラミッドの最上位に市場がある。 – レベル3の思考 • ローカル・グロース・チーム(LGT) – 新興国市場に物理的に所在する、小さな機能横断型の 起業家的な組織単位のこと • ローカル・グロース・チーム(LGT)に権限を委譲する • 新興国市場の顧客は、富裕国の顧客とは異なるニーズを 持っている(カスタマイズで十分)。 – レベル4の思考 • 新興国市場の顧客は富裕国の顧客とは全く異なるニーズ を持っている(イノベーションが必要)。 • 多くがビジネスモデルのイノベーションを含んでいる – レベル5の思考 39 • 問題はローカルよりグローバルだ リバースイノベーションの3つのステップ • 組織の重心を新興国市場に重心を移す。 • 人材、権限、資金、注意を成長している場所に移す。 • 新興国市場に関する知識と専門性を深める。 • 新興国市場で経験を積んだリーダーを配置。 • 社員に現地研修、集中研修、 • 途上国で取締役会、経営幹部会議、幹部向け教育プログ ラムの実施 • 個人としてはっきりと目に見える象徴的な行動をとることで社 内の雰囲気を変える。 • CEOが新興国市場で勝つことが重要であるという雰囲気 作りをする。 41 – 人材、権限、資金を、成長している場所である途上国に 移す。 – 損益責任を与える – どの製品を開発し、どのように生産、販売、サービス提 供をするかをローカル・グロース・チームに決めさせる • 迅速かつ経済的に、重要な事柄の解明に注力し、リ バース・イノベーションを統制のとれた実験として管 理する。 – 素早く最少のコストで実験 40
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