第 19 回海外水道技術視察調査報告 ら紫外線処理の研究・開発を行い、既に適用して 1.はじめに 第 19 回 海 外 水 道 技 術 視 察 調 査 団 は 、 平 成 19 いる欧州の先端技術を調査しました。 年 9 月 25 日 ( 火 ) ~ 10 月 5 日 ( 金 ) の 11 日 間 、 スペイン、ドイツ、オランダの3か国・7か所の (2) 安 全 お よ び 環 境 に 配 慮 し た 水 道 シ ス テ ム と 水 水道関連機関の調査を実施しました。調査団の構 道技術の実態調査 成 は 、 表 1 に 示 し た 17 名 で し た 。 本稿ではその概要をご報告いたします。 団 長 副 団 長 馬 場 桂 島 名 事業体/会社名 恒 男 剛 員 裏 上 逸 男 小 泉 芳 昭 斉 藤 昌 彦 佐 仙台市水道局 島 野 一 郎 沖縄市水道局 相 馬 孝 浩 谷 田 克 義 野 中 昭 博 株式会社東芝 株式会社神鋼環境ソ リューション 福岡県南広域水道企 業団 住重環境エンジニア リング株式会社 日本ヴィクトリック 株式会社 中 聰 松 本 二 郎 宮 前 卓 也 井 桐ヶ谷 馨 富夫 竹 内 賢 治 松 本 浩 明 (3) 欧 州 に お け る 水 道 事 業 運 営 調 査 規制緩和・官民連携など、今日の日本におけ る水道事業運営をめぐる背景が多様化する中、民 営化が進んでいる欧州の水道事業運営について調 査しました。 株式会社栗本鐵工所 川崎市水道局 森 事 務 局 千代田工販株式会社 荏原エンジニアリン グサービス株式会社 譲 畑 藤 施設の実態を調査しました。 岩崎電気株式会社 ※以下、団員五十音順 団 高く注目を集めている中で、膜ろ過技術やオゾ ン・活性炭等の高度処理技術に関する欧州各国の 【 表 1】 調 査 団 構 成 氏 飲料水水質に対する安全確保技術の関心度が 岩崎電気株式会社 株 式 会 社 NGK 水 環 境 システムズ 3.調査先の概要 調査先の概要を以下に記述します。 (1) カ ナ ル ・ デ ・ イ ザ ベ ル Ⅱ 公 社 / コ ル メ ナ ー ル 浄 水 場 [ス ペ イ ン ・ マ ド リ ッ ド ] コ ル メ ナ ー ル 浄 水 場 は 、 1976 年 に 稼 働 開 始 し たスペインで最大の浄水場で、最大処理能力は1 38万㎥/日です。アタサール・ダムというダム か ら 取 水 し て お り 、 濁 度 が 平 均 で 1.48NTU で あ る など比較的良好な水質ですが、ダムに藻が発生す る関係でジェオスミンなどによる臭気が問題とな っているそうです。対策として、浄水場の手前で (財)水道技術研究 センター 粉末活性炭を注入しています。また、マドリッド 市内は管網が非常に複雑となっており、浄水場を 出 て 最 長 で 15 日 後 に 水 を 利 用 す る ケ ー ス も あ り 、 2.調査目的 本調査の目的は、以下の3点でした。 (1)ク リ プ ト ス ポ リ ジ ウ ム 対 策 と し て の 紫 外 線 消 毒技術調査 2007 年 4 月 1 日 、 厚 生 労 働 省 が 行 っ た 「 水 道 施設の技術的基準を定める省令」の一部改正によ り、クリプトスポリジウム等の耐塩素性病原生物 対策として、一定条件下で紫外線処理が浄水処理 方法として認められることとなりました。以前か クロラミンを注入する中継所を設置しています。 第 19 回海外水道技術視察調査報告 ス チ ル ム 東 浄 水 場 は 14,400 ㎥ / 日 の 浄 水 能 力 を有する浄水場で、ミュールハイム・プロセスと 呼ばれる独特の浄水処理を行っています。そのフ ローは、ルール川の河川水を土壌ろ過し、それを 汲 み 上 げ て 、 オ ゾ ン → 複 層 ろ 過 → 活 性 炭 → UV と いう処理をしています。 ルール川流域には大都市や工業地帯があり、 様々な物質によって汚染されているため、このよ うな複雑な浄水処理を行っています。 【 写 真 1】 調 査 団 ( コ ル メ ナ ー ル 浄 水 場 に て ) (2) ノ ル ト ア イ フ ェ ル 水 源 浄 水 会 社 [ド イ ツ ・ ロ ートゲン] また、ラインウェストファーレン水研究所は スチムル東浄水場と同敷地内にあり、デュースブ ルク・エッセン大学と共同で水道全般に関する先 進的な研究を行っています。 ノ ル ト ア イ フ ェ ル 水 源 浄 水 場 は 、 2005 年 12 月 に 稼 動 開 始 し た 最 大 処 理 水 量 168,000 ㎥ / 日 を 誇 る 世 界 第 6 位 (ド イ ツ 最 大 )の UF 膜 プ ラ ン ト で す 。 処 理 フ ロ ー は 、 粗 塵 除 去 → 凝 集 → UF 膜 → 石 灰 ろ 過 → 消 毒 を 経 て 給 水 し ま す 。 特 徴 的 な の は 、 UF 膜 の ろ 過 で 発 生 し た 汚 泥 水 を 別 の UF 膜 で ろ 過 し 、 処理フローの中に戻し入れている点です。この過 程 が な い 場 合 だ と 、 取 水 し た 95% が 給 水 さ れ ま す が 、 2 段 階 に す る こ と で 99% の 給 水 が 可 能 と なります。 【 写 真 3】 U V 設 備 ( ス チ ル ム 東 浄 水 場 ) (4)オ ラ ン ダ 水 道 研 究 機 関 ( Kiwa) [オ ラ ン ダ ・ ユトレヒト] Kiwa は 1948 年 に 設 立 さ れ た 、 オ ラ ン ダ 水 道 協 会と各水道事業体が株主となっている研究機関で、 上水・工業用水・公共排水・水源の管理・環境・ 水処理等についての研究をしています。我々が訪 問 し た 際 に は 、 Kiwa で 行 わ れ て い る 様 々 な 研 究 内容についてのプレゼンテーションを聴講しまし 【 写 真 2】 U F 膜 プ ラ ン ト ( ノ ル ト ア イ フ ィ ル 水 た 。 特 に 印 象 的 だ っ た の が UV/H 2 O 2 酸 化 に つ い て の 研 究 発 表 で 、 UV ラ ン プ の 種 類 に つ い て 出 力 や 源浄水会社) 消費電力、ランプ寿命の面などから検討し、その (3) ラ イ ン ウ ェ ス ト フ ァ ー レ ン 水 道 組 合 会 社 / スチルム東浄水場・ラインウェストファーレン水 研 究 所 [ド イ ツ ・ ミ ュ ー ル ハ イ ム ] 研 究 成 果 を 反 映 さ せ た 浄 水 場 ( PWN 社 の ア ン ダ イ ク 浄 水 場 / 後 述 ) を 2004 年 か ら 稼 働 さ せ て い る 、 とのことでした。オランダでは浄水処理において、 第 19 回海外水道技術視察調査報告 酸化剤としての塩素は使用しておらず、美味しく 安全な水を供給していることに誇りを持っている ことが感じられました。 【 写 真 5】 Vewin 施 設 内 (5) PWN 社 / ア ン ダ イ ク 浄 水 場 [オ ラ ン ダ ・ ア ン 【 写 真 4】 ラ ン チ ミ ー テ ィ ン グ ( Kiwa に て ) ダイク] PWN 社 は 1920 年 に 設 立 さ れ た 公 立 の 水 道 会 社 (5) オ ラ ン ダ 水 道 会 社 協 会 ( Vewin ) [ オ ラ ン で 、 年 間 約 1.1 億 m 3 の 水 道 水 を 73 万 世 帯 に 供 給 ダ・レイスウェイク] しています。その中で、アンダイク浄水場は Vewin は 1952 年 に 、 水 道 会 社 の 権 利 と 利 益 の 1969 年 か ら 給 水 開 始 し た 浄 水 場 で 、 2004 年 か ら 確保を目的として、水道会社を会員として設立さ UV/H 2 O 2 酸 化 の 設 備 が 導 入 さ れ ま し た 。 処 理 能 力 れた機関です。ここではオランダの水道事情につ は 95,000 ㎥ / 日 で 、 処 理 フ ロ ー は 、 ス ク リ ー ン いての説明を受けました。印象的だったのは、 → 凝 集 沈 殿 → 急 速 砂 ろ 過 → UV+ H 2 O 2 処 理 → 生 物 活 Vewin 設 立 当 初 は オ ラ ン ダ 国 内 に 198 あ っ た 水 道 性炭ろ過→消毒(二酸化塩素)となっています。 会 社 が 、 現 在 は 10 社 と な っ て い る こ と で 、 こ れ 中 で も UV 処 理 装 置 は 、 処 理 能 力 1,500 ㎥ / 時 の はオランダ政府が各水道会社に対して給水件数を 設備が3系列あり、常時2系列を運転し、1系列 10 万 件 以 上 と す る よ う 指 導 し て き た こ と に よ り は予備となっています。建屋はガラス張りで、清 ます。しかも、現在の水道会社への主な出資者は、 潔かつ厳重に管理されていました。 国、州、市町村などであり、公営としての色合い が濃くなっています。また、オランダには運河・ 堤防・ポンプ設備などを流域単位で管理するウォ ーターボードという機関があり、流域の国土開 発・環境保全に関する中央政府や州政府への提言、 水源・取水の許可、流域への排水に関するベンチ マークの作成などを行っています。オランダは国 土の1/4が海面下に位置するなど、水害から切 り離すことができない土地柄であるため、こうし た機関が必要とされてきました。 【 写 真 6】 U V 設 備 ( ア ン ダ イ ク 浄 水 場 ) 第 19 回海外水道技術視察調査報告 4.おわりに ヨーロッパでは、多くの国々が国境を接し合っ ていて、水源の汚染原因も多様であることから、 各地でそれぞれの浄水処理方法を選択しているこ とが印象的でした。 本調査の報告書は本年度内に完成予定です。会 員各位をはじめ、水道関係の皆様のお役に立てる よう願っております。
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