使いやすいパソコン室の環境とは

使いやすいパソコン室の環境とは
−総合教育センターパソコン室の更新を通して−
概要
各学校でもパソコン教室の機器更新の時期を迎え,担当者は頭を悩ませているところもあるよう
である。センターでもパソコン室の更新があるので,現場で参考になるように更新時の流れについ
てまとめてみた。
キーワード
パソコン室
1
更新
管理
使いやすい
更新時の基本的な考え方
校種ごとに最適なパソコン室は違ってくるが,現在ではパソコンの操作方法を指導する時代からパ
ソコンを利用して調べる・コミュニケーションをとる・活用する方法を指導する方向に向かっている。
そのため,パソコン室に要求される環境も変わってきている。
パソコン室更新のポイントとしては,次のことが挙げられる。
・導入後に管理者ができるだけ容易に維持管理できること
・児童生徒(センターでは受講者)にとって使いやすい環境にすること
・コンピュータが苦手な先生にも利用しやすい環境にすること
・上の条件の範囲内で,出来るだけ一般的(家庭や社会に出てから,本センターでは学校に戻っ
て活用できる)な構成にすること
実際の構築(更新)の流れとしては,次の様になると思われる。
・全体計画
・導入ソフトウエアの選定
・機器の選定と導入
・ネットワークの構築・設定
・保守契約と取扱いマニュアルの作成
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具体的な構築の流れ
(1)全体計画
通常は予算と部屋の広さは既に決まっていることが多いと思うので,その範囲内で何台のパソコンを導入す
るかを考える。今後は児童生徒1人に1台の導入が望ましい。
台数が決まったら次はパソコンの配置の検討だが,利用目的によっていくつか種類があり,それぞれ特徴が
あるので学校ごとに一番適した形を選択する。窓やドアの位置によって変更は必要だが,例を挙げてみると
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パターン1
パソコンを教室の壁に向けて
設置する方法で,最近増えて
きた。ケーブル類も壁側に集
まるので邪魔にならない。
○教員の話を聞く時間とパソコンで作業する時間のメリハリがきちんとつく
○教員から児童生徒の様子やパソコンの画面が一望出来る
○総合的な学習等でパソコン以外も併用した共同学習が中央の作業スペースで出来る
×パソコンの台数の割に広い床面積を必要とする
×部屋が広すぎると逆に指導しにくい
パターン2
本センターと同じ設置方法で
ある。
○沢山のパソコンを効率良く設置出来る
○教員から児童生徒の様子が一望しやすい
△教員の話を聞く時間とパソコンで作業する時間のメリハリがある程度つく
△児童生徒の中に立つと半分のパソコンの画面だけが見える
×作業スペースがない
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パターン3
従来多かった設置方法。
○普通教室と同様な配置なので違和感が少ない
×後ろの席だと教員の顔が見えにくい
×作業スペースがない
×教員の話を聞く時間と,作業する時間のメリハリが付けにくい
パターン4
パソコンを後ろに向けて設置す
る方法で,生徒は必要に応じ
て振り返って教員の話を聞く。
○教員の話を聞く時間とパソコンを作業する時間のメリハリがつく
○教員からパソコンの画面が一望出来る
×後ろの席だと教員の顔が見えにくい
×作業スペースがない
パターン1が最近増えてきた原因としては,パソコンの使い方の指導だけでなく書籍等を参考にしたり,児童
生徒同士で直接話し合う機会を授業の中で用意するケースが増えてきたためと考えられる。
パターン3・4の場合は教員と児童生徒がお互いに見えやすくなる様に,パソコン本体を机の下に置いたりモ
ニタを小さめにする(低く設置する),教壇を高くする等の工夫が必要である。
パターン3の様に児童生徒の画面が直接見えづらい場合は,生徒用モニタの監視も検討します。以前はソフ
トウエアを使った監視方法は遅くて使いづらかったが,最近は快適に使用できるようになってきた。
他にはグループ学習に特化したと思われる丸テーブルにパソコンを数台ずつ置く方法もある。
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次に教員の画面を児童生徒に提示する方法を考える。例を挙げると
①児童生徒用パソコン2台に1台の割合で提示用のモニタを配置する(本センターの設置方法)
○後ろの席に座っても提示画面の細かい部分まで良くわかる
○児童生徒の画面と提示用の画面を見比べる時に視線の移動が少ない
×設置スペースが余分に必要
②プロジェクタ1台で大きく表示する
○児童生徒と教員との直接のコミュニケーションが取りやすい
○天井にプロジェクタを設置すると邪魔にならない
×部屋が明るいと画面が見にくい
③大型のマルチメディアボード1台で大きく表示する
○児童生徒と教員との直接のコミュニケーションが取りやすい
○プロジェクタの様に教員が眩しくないので使いやすい
×後ろの席の子から画面の下の部分が見えづらいので人間も乗れる台を用意する必要がある
×非常に重いので震災時や移動する場合は注意が必要
上記のとおり,それぞれ特徴があるので目的にあった方法を選ぶようにする。
続いて,キーボードを正しい姿勢で操作するためにテーブルや椅子を選ぶ。姿勢が悪いと疲れやすく,集中
力を保つことが出来ない。特に小学生にとって大人用のテーブルは高すぎて使いづらいので,専用のテーブル
(例
http://www.sanwa.co.jp)等を検討する事も必要である。高機能の割に安価な椅子は壊れやすいので注
意が必要。画面の高さも目より若干下になる方が疲れが少ないと言われている。
(2)導入ソフトウエアの選定
どんな授業をするかによって必要なアプリケーションは変わってくる。同種のアプリケーションが複数有る場合
の選定の考え方には大きく分けて3つある。
①児童生徒が使いやすいプログラムを選択する
②世の中に沢山出回っているプログラムを選択する
③値段が安く将来普及率が上がると思われるプログラムを選択する
小学校では①でもよいが,高校では②を選ぶべきである。小学校で②を選ぶと指導するのは大変だが,児童
生徒は自宅のパソコン等をすぐに活用出来る。職業高校等では実社会に出て早く戦力になれるように,企業で
よく使われるプログラムを調べる必要がある。(企業では一太郎の使用率が下がっている)③を選ぶのは予算の
都合もあるが,出来るだけ避けた方がよい。
導入予定のアプリケーションとOSの対応状況の確認も必要である。(例・WindowsXP対応かどうかの確認な
ど。新品パソコンでWindows98SE対応機は一部の企業で出荷中,WindowsME対応機を出荷している企業はな
い)
本センターのライブラリには各種学校向けのアプリケーションが準備されているので,どの様なアプリケーショ
ンを導入するか迷った時は,必要に応じて試行が可能になっている。
アンチウイルスソフトは必ず入れる。アンチウイルスソフトについては,次年度以降もウイルス情報の更新が必
要なので予算を確保しておくことが重要である。
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スクールアグリメント等のライセンス契約で運用するとパソコン室がすっきりするし,アカデミックパック等が利
用可能な場合はどんどん利用して,安くなった分を他の部分に利用するほうがよい。
一部の教育機関でOSにLinuxを導入するところが出てきたが,一般の教員の手にはおえない可能性がある。
十分なスキルを持った人に継続してサポートしてもらえる保証がある場合に限ってのみ,導入を検討する価値
がある。
(3)ネットワークについて
現状では値段とのバランスを考えると100BASE-TXが良いが,予算に余裕が有ればネットワーク機器はさらに
高速なものがお勧めである。
無線LANは便利だが,速度が安定しなかったり古い規格の物はセキュリティの問題があるので,導入には慎
重になるほうがよい。教員用のネットワークとの間にファイアウォールが無い場合は,最新の規格の無線LANで
あっても導入しない方がよい。
パソコン室の出口にはアドレス変換装置を入れないほうがよい。アドレス変換装置は職員室からパソコン室を
遠隔で管理したり,教材を転送したり,TV会議やアクセスログの調査をする時の障害となる。
(4)機器の選定と導入
使用するアプリケーションが決まったら,それに必要なコンピュータの性能を調べる。
アプリケーションにはそれぞれ推奨される性能が書かれているが,ウイルス駆除ソフトも同時に動かすために
は最も性能が必要なアプリケーションより若干余裕を持った機器が必要である。導入には通常1ヶ月程度の期
間が必要なので,夏休み等の授業が無い時期に作業できるように計画する。
ネットワークはインターネットへの接続だけでなくサーバを一台置くとさらに便利に使うことが出来る。サーバに
はファイル共有・ウイルスチェックの管理サーバ・内部Webサーバ等の機能を持たせ,パソコンはサーバのドメイ
ンにログオンする形式にするとログオンスクリプトやドライブの自動マウントという仕組みを利用して授業開始時
の資料の配付や管理が楽になる。
Webやメールの利用に関してイントラネット内専用のWeb(掲示板,チャットルームを含む),メール,DNSサー
バを作って校内でインターネットのシミュレーションを生徒同士で出来るようにすると,いきなり生徒が何処かの
掲示板にいたずらして校長先生が謝罪するようなケースも減り,更に教材の配布や校内のアンケートにも利用
出来る。
サーバの導入時は必ず定期的にバックアップを取り,データはクライアントに置かない様にする方が安全であ
る。サーバには無停電電源装置(UPS)も付けるようにする。
サーバのOSは特に拘りがなければMicrosoft製にした方が使いやすいと思うが,初期導入時にきちんと安全
な設定を業者にしてもらうことと,接続するパソコンの台数分のクライアントアクセスライセンスを用意することを忘
れないこと。サーバの導入や管理については,教育センターの研修教材公開ページ(http://kensyu.kai.ed.jp/
koukai/)も参考にしてほしい。
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ファイルの共有機能を利用する場合,クライアントがドメインにログオンする形式でない場合はクライアントのイ
メージ展開時にsysprepコマンドを使用する必要がある。詳細は
http://www.microsoft.com/japan/windowsxp/pro/using/itpro/deploying/introduction.asp
パソコン室でWebの有害情報を見せたくない場合は,インターネット接続プロパイダのサービスを利用する
か,全てのパソコンに専用ソフトをインストールする,またはコンテンツフィルタリング機能を持ったルータを使用
すると制限が可能となる。パソコンの台数が多い場合は専用ソフトを台数分インストールすると,かえってコストが
高く付く可能性がある。
最近のOSは管理者権限を持ったユーザとそうでないユーザを分けることが出来る。児童生徒が使う場合は管
理者権限を持たないユーザにした方が,パソコンにダメージを与えられる可能性が減るし,ウイルスやスパイウ
エアの侵入の可能性も減る。児童生徒がそのパソコンの管理者権限を持ったユーザで使用していると,勝手に
インターネットからダウンロードしてきたゲームをインストールされたり管理者パスワードが変わってしまったりして
後で慌てることになりかねない。しかし管理者権限を持ったユーザでないと動かないプログラムもあるので,必要
に応じて環境復元ソフト(HDD-Keeper,リカバリ王等)の導入も検討するとよい。若干高度な設定になるがポリシ
ーエディタを使用すると壁紙等を勝手に変更されることが無くなる。
パソコンの画面表示は特殊な場合(デザイナー養成等)を除いて液晶モニタにする事がお勧めである。ブラウ
ン管より価格は若干高いが,漏洩電磁波・消費電力・発熱の少なさや省スペース等多くのメリットがある。
プリンタはインクジェットかページプリンタになると思うが,高速印刷が不要な場合はインクジェットプリンタの方
が値段も安く使い勝手が良い場合が多い。ただしインクが詰まりやすい物もあり,ヘッドの部分を自分で交換出
来る機種もあるので使用頻度が低い場合はその点も検討した方が良い。ネットワークが接続されていればネット
ワーク経由で印刷が出来た方が便利である。ネットワーク経由で印刷する方法はサーバに直接接続してプリン
タの共有設定をするか,ネットワーク対応プリンタを購入するか,プリントサーバを導入するかの3つの方法があ
る。
予算に余裕が有ればスキャナ・デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ等の映像を取り込むための機材も導入
すると授業の幅が広がる。高機能な物は通常は必要ないが頻繁に壊れる様では困るので,信頼のおけるメーカ
の低グレード製品を選択するのがよい。
導入前に業者と十分打ち合わせをして,日程や設定内容を確認しておくことが重要である。パソコ
ンのイメージも展開前によく確認しなければならない。展開後に修正を要求しても,打ち合わせ内容
に無かった内容だと業者によっては対応に時間がかかってしまうこともある。作業状態の確認もかね
て,定期的にパソコン室を覗くほうが後のトラブルが少なくなる。
(5)保守契約と取扱いマニュアルの作成
きちんと管理するには専門知識と十分な時間が必要になるので,業者と保守契約をして問題発生時にはす
ぐ対応してもらえるのが理想的である。
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保守契約を結ぶ場合,ハードウエア(機器自体)とソフトウエア(プログラムの部分)で別契約が必要な場合も
あるので注意が必要である。知らないで契約すると,機器が壊れた場合の交換作業しかやってもらえない可能
性もある。リース契約の場合でも別途保守契約が必要なこともあるので注意したい。
トラブル時に業者が駆けつけるまでに時間がかかる場合や,保守業者の変更に備えて導入時にマニュアル
や設定資料(完成図書)はきちんと作ってもらうことが必要である。
サーバのバックアップやユーザ登録までは業者にやってもらえない場合が多いので,その場合の作業手順
書も作ってもらう とよい。
予算の都合で十分な保守契約を付けて貰えない場合は,校内で2〜3名の管理者を決めて,一人が旅行等
で不在な場合や人事異動に備える必要がある。
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構築後の運用
構築後は保守契約を出来たとしても,教員がやらなければならない作業が出てくる。例えば
・データのバックアップ
・各種修正プログラムの適用
・ユーザ登録・削除
・ユーザごとのアクセス権の設定
・パソコン室を使い慣れていない教員への指導
・故障時の業者対応
校務分掌を調整して一人の教員に負担が集中しないことが大切である。担当者が変わる時は業者が作成し
た手順書には載っていない細かなノウハウ等を,(実際には大変だが)きちんと引き継げるようにする事も必要で
あり,そのためにはパソコン室に作業メモを記入するノートを置いて,作業ごとに変更点や気が付いたことを書き
留める等の方法もよい。
パソコン室の使い方についても,全職員を集めて説明会を開いておくと導入後の問い合わせが減り,担当者
の負担の低減に繋がると考えられる。出来れば導入業者に説明会の講師を頼むと,その場で不明点を確認で
きてよい。
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計画時のチェックリスト例
・予算はいくらか
・何台のパソコンを導入するか
・どの様な部屋の配置にするか
・管理ツールを導入するか
・教員の画面を提示する方法はどうするか
・椅子やテーブルは更新するか
・どんなプログラムを導入するか
・ウイルス駆除ソフトは導入したか
・ネットワークの速度をどうするか
・パソコンに必要な性能はどの程度か
・校内にサーバ(UPS,バックアップ装置)を置くか
・sysprep が必要かどうか
・ディスプレイ・プリンタ・等の機器は何にするか
・スキャナ・デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ等は導入するか
・保守契約はどこまでつけるか(ハード・ソフト・運用)
・
・
導入時のチェックリスト例
・業者との打ち合わせや実際の工事日程の確認
・作業の進捗状況の確認
・パソコンのイメージを展開する前の詳細確認(修正プログラムが全て入っているか等)
・完成図書とマニュアルの内容確認
・
・
運用時のチェックリスト例
・作業用のメモ帳は用意したか
・パソコン室の使い方の説明会を開くか
・学校の担当者を 2 名以上決めたか
・
・
平成16年度
執
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筆
者
山梨県総合教育センター
研修主事
三井
智
研修主事
秋山
聡