石綿肺に続発し悪性腹膜中皮腫に より死亡した全身性強皮症の1例

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日皮会誌:109
(14), 2229―2235,
1999 (平11)
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石綿肺に続発し悪性腹膜中皮腫に より死亡した全身性強皮症の1例
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白井 利彦1)
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山本 純照1)
宮川 幸子1)
竹中
成田
英昭2)
亘啓2)
要 旨
であったため,いわゆる純粋な石綿肺にSSCが続発し
61歳,男性.
た自験例は極めて稀と思われる.また,経過中に悪性
ストエ場に勤務.
1948年から1991年まで43年間アスベ
1992年5月に微熱,咳瞰,喀痰が出
中皮腫にまで至った症例の報告は見受けられず,今回
現し,経気管支肺生検等の結果,石綿肺と診断された.
若干の考察を加えて報告する.
また,同年6月から両側手指の腫脹が生じ,
症 例
Raynaud
現象および皮膚硬化も生じてきたため皮膚生検を行い
患者:61歳,男性.
全身性強皮症と診断.以後プレドニゾロン維持療法に
初診:1992年9月2日.
て肺症状も含め経過を観察していたが,
主訴:両側手指の腫脹.
1996年8月に
悪性腹膜中皮腫を認め,同年9月に腎不全を合併して
職業歴:1948年から1991年まで43年間,アスベス
死亡した.石綿肺をはじめとする塵肺症に自己免疫疾
ト工場に勤務.その間,アモサイト壁材の製造に従事
患が高率に合併し,塵肺症はヒトアジュバント病の観
(直接のアスベスト曝露は32年間).
点からも捉えられている.今回我々は,強皮症が石綿
喫煙歴:10本/day
肺に続発し悪性腹膜中皮腫により死亡した1例を経験
家族歴:特記すべき事なし.
したが,経過中に悪性中皮腫にまで至った症例は極め
既往歴:33歳時に肺結核.
て稀であると思われた.
現病歴:1992年5月に3日間微熱が続き,咳漱,喀
(19歳から61歳).
痰も認めたため当院内科を受診した.経気管支肺生検
緒 言
(transbronchial lung biopsy : 以下TBLBと略す)を
石綿肺をはじめとする塵肺症患者には,しばしば細
施行され,肺胞領域に線維化巣を認め,その一部に含
胞性免疫および体液性免疫の異常が認められ,塵肺症
鉄小体も散見された.石綿肺の診断のもと,精査加療
の発症要因に何らかの免疫学的機序の関与が指摘され
のため同年8月7日に入院となった.また,経気管支
ている1)2)また,塵肺症患者に自己免疫疾患が高率に
肺洗浄(broncho-alveolar
合併することも明らかであり,ヒトアジュバント病
にてもasbest's body が検出された.一方,同年6月頃
(human
adjuvant disease : 以下HADと略す)の観点
から両側手指の腫脹も出現したため自己免疫疾患の合
から塵肺症を捉えた報告も散見される3)町さらに近
併も考慮し,同年9月2旧こ当科を紹介され受診した.
年,石綿曝露の重大な問題の一つとしてその発癌性,
初診時,両側手指が腫脹していたものの皮膚硬化の所
特に悪性中皮腫の発症が注目されている卵).今回我々
見は認めなかった.この時,血液検査にてScl-70(十)
は,石綿肺に続発して全身性強皮症(systemic
sclero-
lavage : 以下BALと略す)
であったが,皮膚生検は行わなかった.以後ドプレド
sis: 以下SScと略す)が生じ,悪性腹膜中皮腫により
ニゾロン30
死亡した1例を経験した.塵肺症中,石綿肺にSSc
症状の軽減および精密呼吸機能検査上でも改善を認め
が続発することは稀である.検索し得た限りでは2症
たため外来加療とし,
例を認めたが,一方7)は石綿とシリカの双方に曝露され
の投薬を中止した.その間,
た症例であり,他方8)も曝露は石綿のみと推測されるも
時にRaynaud現象が出現し,サーモグラフィーでも手
のの,石綿肺を示唆する肺の線組性変化が乏しい症例
指の皮膚温の低下および寒冷刺激負荷後の復温の遅延
i)奈良県立医科大学皮膚科学教室(主任 白井利彦教授)
2)奈良県立医科大学第2内科学教室(主任 成田亘啓教授)
mg/day
にて経過を観察し,咳瞰等の自覚
1994年2月にはプレドニゾロン
1993年2月頃より,寒冷
を認めたため,リマプロストアルファデクス(PGEl
誘導体)内服にて経過を観察した.その後も寒冷時に
平成11年4月23日受付、平成11年6月15日掲載決定
Raynaud現象が出現し,1994年に入り手指の硬化も生
別刷請求先:(〒634-8522)奈良県橿原市四条町840
じてきたため,同年11月16日に左中指の指背より皮
番地 奈良県立医科大学皮膚科学教室 山本 純照
膚生検を施行した.
口煩
山本 純川ほか
!-'ik'.
1 Clinical
FiK. 2 Chest
χ-ray shO \\"S
calcifit・ationof lh(
features
of I he palienl
(削ト
phragni.
生検時現症:鎖骨部および1111漢丿前腕から手指背に光
VijT.3 Hislopatholi
Kical lindi]lgs < f lIU' biopsy speci-
沢があり、躯幹に色素沈谷を認めた.皮膚硬化は躯幹
menにiken卜on卜lsclerotic skilllesion on the dorsal
では顕し杵でなかったものの、両側前腕のトに仙側、お
sul玉ICC( f the linger
よび令指背には咎明に出現していた.また帷度ではあ
るが手指のl/lillllも困邨であった(ドig.1).また、Iヤ)ヽ帯
2231
アスベストーシス誘発性強皮症
︸ しこ ﹂ Table 1 臨床検査所見
抗DNA抗体 3.4
437×104
13.8
g/dl
抗SS-A抗体 (+)
40.2
%
抗SS-B抗体 ト)
二八 抗Sm抗体 ト)
3%
抗RNP抗体 (り
70%
LEテスト ト)
18%
マイクロゾーム抗体 <100
7%
サイログロブリン抗体 <100
2%
腫瘍マーカー
27.3×104
AFP 0.0
ng/ml
30/75
CEA 2.7
ng/ml
CA125 13
U/
CA19-9 20.0
U/ml
SCC抗原 1.1
ng/mi
]
7,300
ト)
(−)
ニ プニおI ブ ゛ ゜ ︷
21
1U刀
pH 7.377
24
IU//
P02 77.7
mmHg
26
IU刀
PC02 45.7
mmHg
343
IU刀
SaO2 94%
7.2
g/dl
胸部Xp
3.9
g/dl
横隔膜石灰化,下肺野縮小,両側上肺野の微細
15
mg/d!
穎粒状陰影
0.8 mg/dl
胸部CT
0.8 mg/dl
honeycomb
TBLB 含鉄小体 ト)
117
BAL asbest'
116
s body
(+)
IU/ml
精密呼吸機能検査
480.0
mg/dl
%VC
61.03 %
1,788.8
mg/dl
FEVi、o%
84.65 %
281.9
mg/dl
DLco
10.05 ml/min/mmHg
149.9
mg/dl
flow-volume曲線:拘束性パタ
−ン
33.7
mg/dl
Schirmer試験
54
IU/dl
右左
50
38う
I■ぐ
18 mm
mm
Rose Bengal 試験
耳下腺遺影にて異常所見を認めず.
の短縮も認めた.
臨床検査所見(Table
られた.精密呼吸機能検査では拘束性換気障害パター
1):ESR,
IgA 480.0 mg/dl,
ンを呈した.
CRPが軽度上昇,
IgG 1,788.8mg/dl.
IgM
と,それぞれ高値を示した.抗核抗体2,560
病理組織学的所見:左中指の指背より皮膚生検を施
行した.表皮基底層に色素沈着が増強し,メラニンの
増生を認める.真皮中層から下層にコラーゲンが束状
倍(diffuse speckled) ,抗Sd一70抗体(+).また呼吸
器関連の検査では,動脈血ガス検査にてPO.
mmHg,
shadow
pleural calcification
(diffuse speckled)
281.9 mg/dl
「
動脈血ガス
2,560倍
RF陽性.
IU/ml
抗Scl-70抗体 し)
77.7
かつ連続性に走行する.また,毛細血管周囲にリンパ
球の浸潤を認める(Fig, 3).
SaO2 94%と低下を認めた.胸部xpでは横隔
膜の石灰化,下肺野の縮小および両側上肺野を中心と
以上,職業歴,現病歴,臨床検査および病理学的所
した微細穎粒状陰影(Fig.
2)を,胸部CTではvolume
見から,石綿肺に続発して生じたSScと診断した.ま
lossを伴ったhoneycomb
shadow
た,抗SS-A抗体(十)ではあったが,蝶形紅斑および
およびpleural
calci一
良a面nをそれぞれ認めた.TBLBにて線維化巣の一部
環状紅斑などの皮膚症状は認めず,抗DNA抗体,C
に含鉄小体が,またBALにてもasbest's
3, C4,
body が認め
CH50も正常範囲内であり,抗SS-B抗体
2232
山本 純照ほか
Fig. 4 Histopathological
findings of malignant
peritoneal mesothelioma
(-),抗Sm抗体(−),LEテスト(-),さらに
悪性中皮腫と診断した(Fig.
Schirmer試験,
合併し,全身状態の悪化により,同年9月22日に死亡
Rose Bengal 試験,耳下腺造影にても
4).以後敗血症,腎不全を
異常所見を認めなかったことから,全身性エリテマ
した.
トーデスおよびSjogren症候群の合併は否定した.
考 按
治療及び経過:以後手指の硬化に著変は認めなかっ
石綿は,断熱性,電気絶縁性などに優れ,化学的に
たが, 1996年5月頃より,労作時呼吸困難の増悪およ
安定であるため,近年工業原料としての用途が拡大さ
び嘸下困難が出現したため,精査加療の目的で,同年
れてきた.しかしその反面,需要の拡大に伴って生じ
7月13日に再度入院となった.同年7月31日に施行
た石綿による健康障害が注目されている.
したGaシンチグラフィーにて,肝臓と一致する部位
石綿肺は,石綿粉塵を吸入することで生じる職業性
にhot area を認め,また同年8月9日に施行した腹部
肺疾患であるが,胸部X線写真にて中下肺野の線状陰
CTでも,右上腹部前方から肝臓を圧排するmass
影や胸膜石灰化等の異常陰影を見るまでには,石綿粉
shadowを認めた.さらに,同年8月10口に急激に腹
塵に曝露されてから数年の経過が必要である.また,
痛が生じ,腹部エコーを施行したところ,肝臓外に存
石綿線維は一一度肺内に取り込まれると,
在する数個のhypoechoic
proteinが表面をcoatingしてasbest's
ロン酸も262
ng/ml
mass
を認めた.血清ヒアル
と上昇しており,基礎疾患として
hapten-protein antigenic complex
ferritinbody
となり,
を形成し,リンパ球
の石綿肺の存在を考慮すれば,悪性中皮腫の存在が十
などに影響を及ぼすと考えられる.従って,曝露後数
分に疑われた.そのため,同年8月14日にエコー下経
年間の経過中に,免疫機構に何らかの変化が生じてく
皮腫瘍生検を行った.同年8月15日に腹痛が増強し緊
ることは十分に予測される.事実石綿肺を含めた塵肺
急開腹したところ,回腸に穿孔が生じ,穿孔部を含め
症では,細胞性免疫の低下,体液性免疫の完進などが
た周辺の腸管表面に直径2mmから7mmの腫瘍を散
高率に認められ,これが石綿肺発症の誘因として考え
在性に認めたため,回腸を約10
られている.
cmにわたって切除し
Langeら9jよ,石綿肺患者の体液性免疫能
た.生検の結果,腺構造への分化は顕著ではないが,
の異常が特発性肺線維症の場合と似通っていることか
大小不同を示す異型性の強い腫瘍細胞を認め,免疫染
ら,石綿が免疫機構を破綻させ,その結果肺の線維化
色にてkeratinおよびvimentinに陽性であったため,
か生じると考えている.またKangらlolは,
asbest'sbody
2233
アスベストーシス誘発性強皮症
がリンパ球等に作用し,
しての自己免疫様疾患は,通常の膠原病とは臨床症状
mediatorを遊出させることに
よって肺の障害を引き起こすと考え,それに加えて,
および検査上でいくつかの相違点が認められている.
石綿肺の進行に相関してT細胞が減少し,B細胞は増
例えば,
加すると述べている.さらに,
に分類され,定型的膠原病ではSScおよびその類縁疾
asbest's body がマクロ
HADは定型的膠原病および非定型的膠原病
ファージを破壊するとの報告11)もあり,免疫担当細胞
患が多くを占める17)が,
HADとしてのSScの場合,臨
であるマクロファージの破壊が免疫異常の一因となっ
床上皮膚硬化の極期に達するまでの期間が短かった
り, Raynaud現象や内臓病変が認められない等の特徴
ている事も考え得る.
ここで注目すべきは,石綿肺を含む塵肺症に,
SSc
が見出されている夙また,塵肺症に続発する自己免
をはじめとする各種の自己免疫疾患が高率に合併する
疫疾患としてSSc
点である.珪肺症に慢性関節リウマチが合併する
身性エリテマトーデス19)多発性筋炎19)橋本病19)
C apian症候群12)もその1例であり,また本症例では,
Sjogren症候群20)自己免疫性溶血性貧血低尋常天
石綿肺に続発してSScを認めたわけであるが,これら
庖雍22)などの多岐にわたる報告を認めるが,吸入する
の原因として,前述のごとくTおよびB細胞の相互作
粉塵の種類により,その後続発する自己免疫疾患の頻
用の破綻,つまりT細胞,特に抑制性T細胞が減少す
度や種類に差異があるかどうかは残念ながら不明であ
ることによりB細胞による免疫グロブリン等の抗体
る.しかし,自験例のごとく石綿肺にSScが続発した
産生が上昇し,本来免疫寛容であるはずの自己に対し
症例はシリカ等と比較すると極めて稀である.ここで,
ても免疫反応が惹起されることが挙げられる.しかし
塵肺の発症病理について言及すると,石綿肺以外の塵
他方,粉塵のadjuvantとしての効果もその一因として
肺症では,粉塵による一種の異物性肺胞炎が粉塵巣発
大きな役割を担っていると推測される.
生の主たる原因となるのに対し,石綿肺の場合は他の
adjuvantは元
',慢性関節リウマチ12)をはじめ全
来,結核死菌とパラフィンオイル,および乳化剤とし
塵肺症とは異なり,長大塵による呼吸細気管支を中心
てのラノリンから成り(complete
とした細気管支炎が繊維化巣の基本的な原因となって
adjuvant),抗原物質
とともに動物に注入され,抗体産生を増強させるため
いる.つまり,吸入する粉塵により塵肺症の発生病理
に用いられたものであるが,同様のことが抗原を使わ
が異なるわけであり,このような点から考えると,そ
ずにadjuvantの単独投与だけでも生じ13)また結核
の後に続発する自己免疫疾患の発症病理,ひいてはそ
死菌を除いたincomplete
の頻度,種類にも多少の差異が生じるのではないかと
adjuvant でも類似の状態が
認められることが確認されている九その作用機序に
推測する.
ついての詳細は明らかではないが,このadjuvantによ
近年石綿曝露による重大な問題の一つとして,その
る感作が過剰になると,生体にhyperergicな状態が生
発癌性が注目されている肖).なかでも,
じてくる.よって,このadjuvantの存在も,自己を含
フリカのNorth
めた本来免疫寛容であるはずの抗原性の弱い物質に対
発症が高率に認められたことをWagnerら・)が指摘し
しても抗体産生が生じてしまう要因の一つと考えられ
て以来,石綿曝露と悪性中皮腫との関連性が確立され
る.岡林勺よ,ウサギに異種アルブミンを長期間感作
てきた.悪性中皮腫は中胚葉由来の漿膜被覆細胞を起
し,自己抗体を伴う自己免疫状態を作成することで遷
源とし,胸膜が主な発生部位(約80%)で,その他腹
延感作の概念を提唱したが,石綿肺の場合も肺に沈着
膜,心膜,精巣鞘膜などにも生じる比較的稀な腫瘍で
しか石綿線維がadjuvant効果を呈し,長期間生体を感
ある.腹部原発例に関して言及すると,本邦では1911
作し続け免疫系を賦活した結果,自己免疫疾患様の病
年刊こはじめて報告されて以来,検索し得る限りで169
態が引き起こされたと言えよう.この意味で,石綿肺
例の報告を見るのみである.また,本邦における腹部
はHADとして捉えることができる.HADは,三好
原発例では石綿が誘因であると推測される症例は少な
ら3)!6)が1965年に,珪肺症に合併した慢性関節リウマ
く,19例のみである.本症例は腹膜に悪性中皮腫を認
1960年に南ア
Cape province の鉱山で悪性中皮腫の
チ,全身性エリテマトーデスの各1例を,先に経験し
め,その発症に石綿との関連が示唆されたわけである
た豊胸術後の2例と併せて報告したことに始まり,も
が,この点に着目すると本症例は非常に稀な症例とい
ちろん免疫素質の差異など個体側の因子の影響も考慮
える.一般に悪性中皮腫は石綿の長期低濃度曝露(20
しなければならないが,その発症における医原的な意
年以上25))により発症するとされているが,その発症機
味合いからも広く関心を集めている.さらにHADと
序については未だ明確な結論は出されていない.しか
2234
山本 純照ほか
し,石綿線維自体についての様々な研究がなされた結
むね確実とみて間違いないであろう.
果,単に石結線維の集積量に比例して悪性中皮腫の発
1960年頃より我が国の石綿輸入量の急激な増加に
症率が上昇するのではなく,石綿綿維の大きさおよび
つれて,石綿曝露人目も増加の一途をたどっている.
種類により左右されることが明らかとなっている.大
現在,どのような人に発症するかの予測は不可能であ
きさに関しては8μm以上の長さで0.25μm以下の太
るが,石綿が肺疾患のみならずSScをはじめとする自
さ,つまり長くて細いものほど発癌性が強く26)種類
己免疫疾患を惹起する可能性を有することを認識し,
に関してはクロシドライト,次にアモサイトと,
Am-
曝露がいくら短期間であっても粉塵作業従事者の健康
phibole系の石綿の危険性か高いとされているへ本
管理を徹底することが重要である.逆に, SSc患者に対
症例もアモサイト壁材の製造に従事していたので,こ
しても,職業歴を含めた環境因子を考慮し,治療を進
れに合致する.また,石綿自体は細胞障害性は有する
めることが必要である.また高齢者では,T細胞の減
が突然変異原性はなく,
少,自己抗体産生など免疫系の変化を示す者が多いと
initiatorというよりはむしろ
promotorの役割を担っていると思われる叫 さらに,
されており仏塵肺患者の延命が可能となるに従い,
NK活性やADCC活性の低下29)も認められ,免疫機構
高齢者の粉塵作業経験者における自己免疫疾患発症の
の破綻が悪性中皮腫の発症に関与していることも推測
危険性は上昇するであろう.それゆえ,石綿曝露が関
される.いずれにせよ,石綿が肺以外の臓器から検出
与する自己免疫疾患および悪性腫瘍への対応も眼中に
されたとの報告3o)もあり,経口や血管等を介して全身
入れた上で綿密な検査を行い,その傍らで職場環境の
に分布していることが予測され,本症例の悪性腹膜中
改善を図るなどの措置が急がれる.
皮腫の発症誘因として石綿が関与していることはおお
文
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to carcinogenecity
Kobayashi
Yamamoto,
Malignant
Sachiko
Mesothelioma
Miyagawa
Department of Dermatology,
and Toshihiko
Shirai
Nara Medical University
840Shijo-cho,Kashihara, Nara 634-8522, Japan
Hideaki Takenaka
and Nobuhiro
Narita
Department of Second Internal Medicine, Nara Medical University
840Shijo-cho,Kashihara, Nara 634-8522, Japan
(Received April 23, 1999 ; accepted for publication June 15, 1999)
The case is a 61-year-old man
who
had past occupational history of exposure
1991. The patient was in 即od health until 1992, when
to asbestos from 1943 to
he firstnoticed febricula,tussis,and sputum. 0nadmis-
sion,he was diagnosed as asbestosis by transbronchial lung biopsy and broncho-alveolar lavage. He gradually
developed
swelling of the fingers. Raynaud's
phenomenon,
and acrosclerosis from
early 1993. A skin biopsy
taken from the back ofa finger confirmed the diagnosis of systemic sclerosis.He was treated with oral prednisolone (30 mg/day).
He suddenly had a pain in his abdomen
was histopathologically made
as a result of percutaneous
ure associated with sepsisin September
in 1996 ; the diagnosis of malignant mesothelioma
tumor
biopsy using echogram.
He died of renal fail-
of 1996.
(JpnJ Dermatol 109 : 2229∼2235,1999)
Key words
: systemic sclerosis,asbestosis.human
adjuvant disease. malignant mesothelioma