研究会研究報告 - 日本科学教育学会

日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ISSN 1882-4684
日本科学教育学会
研究会研究報告
2014 年 12 月 13 日
神戸大学
一般社団法人 日本科学教育学会
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
目 次
次世代の科学教育研究
小学生における生態系の理解に関するラーニング・プログレッション:学校の成績と理解の
関係性に着目して ................................................................................................................................................................................. 鈴木一正・山口悦司
1
動物園来園者の科学的観察を支援する紙芝居の改善:観察行動の評価
...................................................................................... 山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・田中千春・坂東 元
5
柔らかな科学コミュニケーションにおけるミスコミュニケーションの可能性 .................................................................... 奥本素子
9
中学生の科学的モデルに対する認識 ........................................................................................................................................... 雲財 寛・松浦拓也 13
低学年における係活動を通した児童の「己」の深化と変容 ......................... 中嶋千加・宮田和美・赤間彩織・舟生日出男 17
数学教育におけるメタ認知のあり方についての一考察 .......................................................................................................................... 髙井吾朗 21
高大産連携による科学技術人材の育成 ~兵庫「咲いテク(Sci-Tech)
」事業~
........................................................................................................................................................................ 長坂賢司・繁戸克彦・中澤克行・杉木勝彦 27
Twitter 投稿に基づく「授業まとめ記事」のノート機能に関する研究 ........................................................... 森 拓哉・鈴木栄幸 33
能動的な美術作品鑑賞のためのタブレット端末用アウェアネス共有システムの開発
.................................................................................................................................................................. 宮田和美・赤間彩織・堀舘秀一・舟生日出男 37
モバイル端末を用いた野外防災学習の取り組み ......................... 畠山 久・永井正洋・藤吉正明・瀬戸崎典夫・室田真男 41
学習プロセスをもとにした協調学習実践の改善―拡大図 ・ 縮図によるジグソー実践― .................... 遠藤育男・益川弘如 45
日本の中学校・高等学校における宇宙教育の現状と課題 ........................................................................................... 井上晴香・伊藤真之 51
幼稚園での音遊び実践における科学的学び .......................................................................................................................... 藤掛絢子・北野幸子 55
野生動物の保護・保全を目的とした普及活動に関する実地調査 .......................................................................... 岡本友理・三宅志穂 61
タンジブル天体学習用 AR 教材を用いた協調学習における発話分析 ............................... 瀬戸崎典夫・鈴木滉平・森田裕介 67
「理科離れ」を改善する小中連携理科教育 中核的理科教員(CST)として活動報告 ............................................. 井形哲志 71
絵本を通じた幼児期の科学教育実践―子どもの視点から考える― .................................................................... 中川 茜・北野幸子 75
岡山大学の海洋教育普及への取り組み―地域連携による「うなぎ探検隊」の
文理横断学習を中心として― .................................................................... 小林靖尚・筒井直昭・齊藤和裕・坂本竜哉・藤井浩樹 79
反転授業による理科の授業改善:PACA 国際学校を事例として
...................................................................................... 江草遼平・神山真一・山本智一・大黒仁裕・鳩野逸生・楠 房子・稲垣成哲 83
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
小学生における生態系の理解に関するラーニング・プログレッション:
学校の成績と理解の関係性に着目して
Learning Progression for Elementary Students’ Reasoning About Ecosystems:
Focusing on the Relation Between School Abilities and Understandings
鈴木一正、山口悦司
SUZUKI Kazumasa, YAMAGUCHI Etsuji
神戸大学
Kobe University
[要約]ラーニング・プログレッションズを鍵概念とする研究は、学習者の素朴な概念・思考が科学的
な概念・思考へと発達する比較的長期にわたるプロセスを解明しようと試みている。筆者らは、このラ
ーニング・プログレッションズ研究の立場から、小学生における生態系システムの理解の発達について、
日本とアメリカの国際比較を行ってきている。本研究の目的は、日本の小学生の調査結果を中心として、
生態系システムの理解の発達と小学校における理科および生活科の成績との関係性、生態系システムの
理解の発達と学年進行との関係性を検討することであった。小学校第 1 学年から第 6 学年の合計 54 人
を対象とした面接調査の結果、日本の小学生における生態系システムの理解の発達は、学校の成績との
間には有意に関係しないが、学年進行との間には有意に関係することが示唆された。これらの結果は、
アメリカの調査結果と同様の傾向であった。
[キーワード]ラーニング・プログレッション、生態系システム、小学生、学校の成績
本研究の目的は、これらの研究の一環として、
.目的
2000 年代後半からラーニング・プログレッシ
日本の小学生の調査結果を中心に、生態系システ
ョンズを鍵概念とする研究が活発に行われてい
ムの理解の発達と小学生における理科および生
る(Alonzo & Gotwals, 2012; 山口・出口, 2011)
。
活科の成績との関係性、理解の発達と学年進行と
ラーニング・プログレッションズ研究は、学習者
の関係性を検討することである。
の素朴な概念・思考が科学的な概念・思考へと発
達する比較的長期にわたるプロセスを解明しよ
.方法
う と 試 み て い る ( Duncan & Rivet, 2013;
()対象
対象は、国立大学附属小学校の第 1 学年から第
National Research Council, 2007)
。
筆者らは、こうしたラーニング・プログレッシ
6 学年の 54 人(男子 27 人、女子 27 人)であっ
ョンズ研究の立場から、小学生における生態系シ
た。各学年ともに、理科もしくは生活科の成績の
ステムの理解の発達について、日本とアメリカの
上位が 3 人、中位が 3 人、下位が 3 人であった。
国際比較を行っている。具体的には、アメリカの
()調査
調査研究(Hokayem, 2012; Hokayem & Gotwals,
筆者の 1 人が面接者となり、個別面接法による
2013)に基づいて、日本においても同様の調査課
調査を実施した。調査における回答は、ビデオカ
題ならびに分析フレームワークを使用した調査
メラ及び IC レコーダーですべて記録された。調
を実施し、それらの結果を比較してきている(鈴
査時間は、児童 1 人あたり約 30 分であった。実
木 ・ 山 口 , 2013; 鈴 木 ・ 山 口 , 2014; Suzuki,
施時期は、2013 年 11 月及び 2014 年 4 月から 7
Yamaguchi, & Hokayem, 2014; 鈴木・山口, 印
月であった。
調査課題の質問項目(計 13 項目)は、生態系
刷中)
。
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
システムの理解に関する 4 つの構成要素に基づい
表 段階のレベル(+RND\HP*RWZDOV)
て作成された。4 つの構成要素とは、システム論
レベル
1
的分析、システムの相互依存性、動的リサイクリ
ング、環状連結性であった。
「システム論的分析」
の質問項目は、生態系システムが機能するために
2
最も大切なものや不足しているものについて尋
ねるものであった。「システムの相互依存性」の
質問項目は、バッタやキツネ、カラスなどの 1 種
3
類の個体群が絶滅した場合に、他の個体群に与え
る影響を尋ねるものであった。「動的リサイクリ
4
ング」の質問項目は、キツネやネズミなどの 1 個
体が死んだ際の時間経過による死体の変化を尋
5
ねるものであった。
「環状連結性」の質問項目は、
生態系システムの中における個体群間の関係性
や個体群と環境との関係性などについて尋ねる
ものであった。
概要
・擬人化に基づく推論
・美的感覚に基づく推論
(人間の感情や自然の美観と関連付
けた個体群の推論)
・具体的推論
・実践的推論
(日常の経験や観察に基づいた推論)
・単純な因果推論
(現象と関連する外的メカニズムを
見出そうとすること)
・やや複雑な因果推論
(現象に影響する外的要因を 2 つ以
上考慮に入れた推論)
・複雑な因果推論
(生態系における複雑さを反映した
関係性のネットワークを考慮に入れ
た推論)
的な推論を行っている状態である。レベル 3 は、
()分析フレームワーク
表 1 および表 2 は、本研究で使用した分析フレ
「バッタがいなくなるとカエルのえさがなくな
ームワークである。この分析フレームワークにお
る」といった、バッタを捕食している個体群とバ
いては、4 つの構成要素ごとに 5 段階の理解のレ
ッタの 2 個体群間について考慮した推論を行って
ベルが設定されている。表 1 には、この 5 段階の
いる段階である。レベル 4 は、「バッタがいなく
レベルを示している。レベル 1 は、擬人化や美的
なるとカエルとクモのえさがなくなる」といった、
感覚に基づいて推論を行っているという最も低
バッタを捕食している複数の個体群について考
位な段階である。レベル 2 は、具体的推論などを
慮した推論を行っている段階である。レベル 5 は、
行っている低位な段階である。レベル 3 は、1 つ
「バッタがいなくなると、バッタを食べているク
の外的メカニズムを見出した単純な因果推論を
モの数が少なくなり、クモを食べているカラスの
行っている中位な段階である。レベル 4 は、2 つ
数が少なくなり、カラスを食べているキツネの数
以上の外的メカニズムを見出したやや複雑な因
が少なくなり、食物連鎖のバランスがおかしくな
果推論を行っている中位な段階である。レベル 5
る」といった、食物網を考慮した推論を行ってい
は、生態系システムの複雑なメカニズムを考慮し
る段階である。
た複雑な因果推論を行っている最も高位な段階
()分析の手続き
前述の分析フレームワークに基づいて、質問ご
である。
これら 5 段階のレベルが、表 2 のように 4 つの
とにレベルを同定した。その際に、記録を書き起
構成要素ごとに設定されている。例えば、システ
こしたトランスクリプトを利用した。レベルの同
ムの相互依存性の場合、レベル 1 は、個体群の変
定に際して、質的分析法(Erickson, 1986)を用
化がもたらす影響について、「バッタがいなくな
い、分析フレームワークとトランスクリプトを反
ると虫が好きな子どもが悲しむ」といった、個人
復的に往復することにより質問ごとにレベルを
的な兼好に基づいて推論を行っている段階であ
同定した。
る。レベル 2 は、
「バッタがいなくなるとバッタ
の赤ちゃんがもう見れなくなる」といった、具体
なお、4 つの構成要素ごとにレベルの中央値を
算出した。中央値は、全 13 の質問項目ごとに児
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表 つの構成要素ごとの 段階のレベル(+RND\HP*RWZDOV)
レベル
1
2
3
4
5
システム論的分析
システムの相互依存性
・個人的な好嫌で要素を
見出す
・日常的によく見るとい
う理由から要素を見出
す
・1 つの理由を見出して
いるが、エネルギーと
関係していない
・1 つの理由で 2 つの要
素を見出す
・個体群の変化が与える影響について、美的感覚に関すること
を原因とみなす
・個体群の変化が与える影響について、具体的もしくは実践的
なことを原因とみなす
・日光や植物が、生態系
におけるエネルギーの
一次生産者になること
を見出す
・個体群が絶滅することについて、その個体群を捕食している
個体群、もしくは、捕食されている個体群に与える影響を見
出す
・個体群が絶滅することについて、その個体群を捕食している
2 種以上の個体群に与える影響を見出す
・個体群が絶滅することについて、その個体群に捕食されてい
る 2 種以上の個体群に与える影響を見出す
・個体群が絶滅することについて、その個体群を捕食している
個体群、かつ、捕食されている個体群に与える影響を見出す
・生態系に網のような関係性を見出す、1 つの個体群における
変化は生態系の個体群全体に影響を見出す
表 (続き)
レベル
1
2
3
4
5
動的リサイクリング
環状連結性
・死んだ個体はどうなるかについて、霊的な感覚や
人間の感情と関連付ける
・死んだ個体はどうなるかについて、日常生活で見
ることと関連付ける(消えた、腐った)
・死んだ個体はどうなるかについて、土や他の個体
の捕食といった 1 つの要因と関連付ける
・死んだ個体はどうなるかについて、ミミズと菌類
や土と空気といった 2 つ以上の要因と関連付ける
・死んだ個体はどうなるかについて、分解されたも
のが他の個体群に利用されたり、生態系でリサイ
クルされるという物質の分解と関連付ける
・人間関係や個人的な好嫌と関連付
ける
・日常的によく見ることと関連付け
る
・生息地と関連付ける
・何を捕食しているかと関連付ける
・生息地と関連付ける、かつ、何を
捕食しているかと関連付ける
・生態系における食物網を構成する
個体群の捕食被食関係のネット
ワークと関連付ける
童の中央値をそれぞれ算出し、その中央値の中央
.結果
値を構成要素ごとに学年別に求めた。
()生態系の理解と学年との関係
レベルの同定に際して信頼性を高めるために
4 つの構成要素の学年ごとの中央値、及び学年
第三者評定を行った。第三者評定は、Hokayem
とレベルの相関を表 3 に示す。4 つの構成要素の
(2012)や Hokayem and Gotwals(2013)と同
うち、システムの相互依存性と環状連結性の構成
様に、対象の 3 分の 1 にあたる 18 人の児童につ
要素において、学年が上がるほど生態系システム
いて実施した。レベルが一致しなかったものに関
の理解のレベルが高くなるという有意な中程度
しては協議によりレベルを決定した。第三者評定
。一方、システム論
の相関が見られた(p < .01)
の一致率は 96%と高い値であった。なお、κ係数
的推論と動的リサイクリングの構成要素では、学
は 0.94(p < .01)と高い水準であり、レベル同定
年進行と理解のレベルの間に有意な相関は見ら
の信頼性が十分に確保されていたと評価できる。
。
れなかった(p > .10)
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
()生態系システムの理解と成績との関係
表 学年別の中央値及びレベルとの相関
表 4 に学校の成績別の中央値及び成績とレベル
学年
SA
SI
DR
CC
との相関を示す。「下位」は理科もしくは生活科
1
3.00
2.00
2.50
3.00
の成績が下位、
「中位」は成績が中位、
「上位」は
2
2.50
2.75
2.50
3.00
成績が上位の児童の中央値である。すべての構成
3
3.00
3.00
3.00
4.00
要素において、成績と生態系システムの理解のレ
4
3.00
3.00
2.50
4.00
5
3.00
3.00
2.50
4.00
6
3.00
3.00
3.00
4.00
ベルに有意な相関は見られなかった(p > .10)
。
.考察
-.136
.423**
.183
.452**
N=54。**p < .01。SA はシステム論的分析、SI
はシステムの相互依存性、DR は動的リサイクリ
ング、CC は環状連結性の略称である。
相関係数
本研究の結果から、日本の小学生における生態
系システムの理解の発達は、学校の成績との間に
は有意に関係しないが、学年進行との間には有意
に関係することが示唆された。これらの結果は、
表 成績別の中央値及びレベルとの相関
アメリカの調査結果(Hokayem, 2012; Hokayem
& Gotwals, 2013)と同様の傾向であった。
附記
本研究は JSPS 科研費 25282038 の助成を受けたものである。
引用文献
Alonzo, A. C., & Gotwals, A. W. (Eds.): Learning progressions
SA
SI
DR
CC
下位
2.75
3.00
2.50
3.50
中位
3.00
3.00
2.50
4.00
上位
3.00
3.00
3.00
4.00
.254
.167
.242
.180
N=54。SA はシステム論的分析、SI はシステム
の相互依存性、DR は動的リサイクリング、CC
は環状連結性の略称である。
相関係数
in science: current challenges and future directions,
Netherlands: Sense Publishers, 2012.
成績
National Academies Press, 2007.
鈴木一正・山口悦司:生態学のシステム論的推論に関するラーニ
Duncan, R. G., & Rivet, A. E.: Science learning progressions,
ング・プログレッションズ:小学生を対象として,平成 25 年
Science, 339, 396-397, 2013.
度日本理科教育学会近畿支部大会発表論文集,94,2013.
Erickson, F.: Qualitative methods in research on teaching, In
鈴木一正・山口悦司:小学生における生態系の理解に関するラー
Wittrock, M. C. (Ed.), Handbook of research on teaching (3rd
ニング・プログレッション:構成要素間の関係性に着目して,
ed.), 119-161, New York, NY MacMillan Press, 1986.
Hokayem, H. A.: Learning progression of ecological system
reasoning for lower elementary (G1-4) students (Doctoral
日本科学教育学会年会論文集 38,419-420,2014.
Suzuki, K., Yamaguchi, E., & Hokayem, H. A.: Learning
progression for Japanese elementary students’ reasoning
dissertation), Retrieved from ProQuest, (MI 48106-1346),
about ecosystems, Paper session presented at IOSTE 2014,
2012.
Hokayem, H. & Gotwals, A. W.: Learning progression for early
2014.
鈴木一正・山口悦司:小学生における生態系の理解に関するラー
elementary students’ ecological systemic reasoning, Paper
ニング・プログレッション:性別と理解の関係性に着目して,
presented at the National Association for Research in
Science Teaching 2013 Annual Meeting, Rio Grande, Puerto
平成 26 年度日本理科教育学会近畿支部大会,印刷中.
山口悦司・出口明子:ラーニング・プログレッションズ:理科教
Rico, 2013.
National Research Council: Taking science to school: Learning
and teaching science in grades K-8, Washington DC: The
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育における新しい概念変化研究,心理学評論,54(3),358-371,
2011.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
動物園来園者の科学的観察を支援する紙芝居の改善:観察行動の評価
Improvement of Supporting Zoo Visitors' Scientific Observation Through the Picture-Story Show:
Evaluations of Visitor Behaviors
山橋知香 *,山口悦司 *,稲垣成哲 *,奥山英登 **,田嶋純子 **,田中千春 **,坂東元 **
YAMAHASHI Chika*, YAMAGUCHI Etsuji*, INAGAKI Shigenori*,
OKUYAMA Hideto**, TAJIMA Junko**, TANAKA Chiharu**, BANDO Gen**
*
神戸大学,** 旭川市旭山動物園
*
Kobe University, **Asahikawa Asahiyama Zoological Park
【要約】筆者らは,動物園来園者の科学的観察を支援するため,紙芝居を用いて観察の視点を提供する
という試みを行っている.これまでの研究を通して,紙芝居は科学的観察を支援しうるものの,その
効果は限定的であるという課題が明らかとなった.この課題を克服するために,紙芝居の改善を行った.
本研究では,改善版紙芝居の評価の一環として,紙芝居で提供した視点に基づいて動物を観察できた
のかを検討するために,計 14 組の家族を対象として,来園者の観察行動を分析した.その結果,すべ
ての家族が紙芝居で提供した複数の視点を用いて動物を観察できていたことが明らかとなった.
【キーワード】動物園,科学的観察,紙芝居,観察行動
1.問題の所在と目的
ことのできるメディアだということである(子ど
学校外における科学教育は,重要視されている. もの文化研究所,2011).動物園には,子どもか
それは,子どもから大人まで幅広い年齢の人々に
ら大人まで様々な年齢の人が来園する.そこで,
科学的知識・思考の獲得や科学に対する興味・関
幅広い年齢の人々にとって親しむことのできるメ
心の向上といった学習の機会を提供することがで
きるからである(Bell, Lewenstein, Shouse, & Feder,
ディアが必要である.2 点目は,伝えたい内容を
2009).動物園は学校外における科学教育の場の
1 つであり,同様の効果が期待できる(Patrick &
である(鬢櫛・種市,2012).動物園の教育担当
者が伝えたい動物の生態や形態などを紙芝居に入
Tunnicliffe, 2013).しかし,来園者が動物に対し
れることで,来園者に明確に伝えることが可能で
て求めていることは「かわいらしさ」であり,動
ある.3 点目は,紙芝居は,演者と聴衆がコミュ
物園で飼育されている野生動物に対しても「かわ
ニケーションを取りながら,物語を展開させてい
いらしさ」を重視しているのが現状である(石田・
くメディアだということである(まつい,2012).
濱野・花園・瀬戸口,2013).
動物園における学習には,コミュニケーションが
このような「かわいい」という感情だけでな
必要であると指摘されている(並木,2005).演
明確に伝えることのできるメディアだということ
く,野生動物の本来の特徴を理解するためには, 者と聴衆のコミュニケーションによって展開され
科学的に観察することが必要であると指摘されて
ていく紙芝居は,動物園における学習に効果的な
いる(羽山・土居・成島,2012).科学的な観察
メディアである.
とは,科学の学問領域と関連づけられた観察であ これまでの研究を通して,紙芝居は,動物園来
る
(Eberbach & Crowley, 2009).動物園においては, 園者の科学的観察を支援しうることが示唆され
動物の生態や形態など生物学と関連づけられた観
た.しかし,紙芝居で提供した観察の視点のうち,
察である.
多くの家族によって利用されなかった視点があっ
そこで筆者らは,紙芝居を利用して観察の視点
たことなどから,その効果は限定的であるという
を提供することで,来園者の科学的な観察を促進
課題が明らかとなった(山橋ら,2013a;山橋ら,
させるという試みを行っている(奥山ら,2013). 2013b; 山 橋 ら,2013c;Yamahashi, Yamaguchi,
紙芝居を利用した理由は,次の 3 点である.1 点 Inagaki et al., 2014).
目は,紙芝居が幅広い年齢の人々にとって親しむ
このような課題を克服するために,筆者らは紙
― 5 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
解答を提示する
習成果の評価と来園者による改善版紙芝居の評価
予想を検討する
た.この改善版紙芝居の評価として,来園者の学
観察をする
探究のプロセスに基づいて実演することであっ
予想を立てる
問題を提示する
芝居を改善した(Okuyama, Tajima, Hirano, Tanaka,
& Bando,2014)
.具体的には,紙芝居を科学的
を行ってきた(山橋ら,2014a;山橋ら,2014b;
Yamahashi, Yamaguchi, & Inagaki, 2014).
図 1 改善版紙芝居実演の流れ
本研究では,改善版紙芝居の評価の一環として,
紙芝居で提供した視点に基づいて動物を観察でき
たのかを検討するために,来園者の観察行動を分
析した.
2.方法
(1)改善版紙芝居
改善版紙芝居で提供した観察の視点は,ペンギ
ンに関する以下の 4 つの特徴であった.①水中で
の泳ぎ方(泳ぎ方),②瞬膜の役割(瞬膜),③旭
山動物園で飼育されている種類(種類),④足跡
図 2 紙芝居実演の様子
の形態(足跡).改善版紙芝居の実演は,科学的
探究のプロセスの一部を取り入れた方法で行われ
た.図 1 に,改善版紙芝居実演の流れを示す.ま
語的行為をビデオカメラと IC レコーダーで記録
した.観察行動の全体傾向を検討するために,言
語的・非言語的行為の記録データに基づいて,ペ
立てさせた.次に,ペンギン館内を自由に観察し, ンギンに関する 4 つの特徴のそれぞれが各家族に
予想を検討させた.最後に,紙芝居において解答 よって観察されたか否かを同定した.あわせて,
ず初めに,紙芝居において問題を提示し,予想を
を提示した.図 2 には,紙芝居実演の様子を示し
ている.動物園職員 2 名が演者となり,舞台を用
観察行動の内容を検討するために,典型的な観察
いて行われた.来園者は,舞台の前に座って紙芝
ソードを作成し,その質的分析を行った.
行動の言語的・非言語的行為を書き起こしたエピ
居を鑑賞した.
3.結果・考察
(2)対象
対象は,一般公募による家族 14 組(大人 21 名, (1)観察行動の全体傾向
子ども 20 名)であった.子どもの平均年齢は 7.3 表 1 は,観察行動の全体傾向として,各家族の
歳(SD=1.6)であった.家族構成については,半 観察・会話の有無を示したものである.特徴別の
数が大人 1 名と子ども 1 名であった.他にも,大
傾向については,泳ぎ方,瞬膜,種類が全ての家
人 2 名と子ども 2 名,大人 2 名と子ども 1 名など
族によって観察されていることが明らかとなっ
た.足跡は,14 組中 9 組の家族によって観察され
の家族構成が見られた.
ていることがわかった.家族別の傾向については,
ワークショップは,約 2 時間かけて実施された. 14 組中 9 組の家族が,すべての特徴を観察してい
初めに 50 分かけて,改善版紙芝居の実演を行っ ることが明らかとなった.残りの 5 組の家族は,
た.次に,10 分間ペンギン展示を自由に観察さ 3 つの特徴について観察していることが明らかと
(3)ワークショップ
せた.その後 30 分間で,ペンギンの散歩を観察 なった.
し,最後の 30 分でまとめの活動を行った.時期は, (2)エピソード 1:家族 No.11 における泳ぎ方の
観察
2014 年 2 月上旬であった.
図 3 には,家族 No.11 における泳ぎ方の観察の
(4)分析
ワークショップ中,各家族の言語的行為と非言
エピソードを示している.家族全員が,泳いでい
― 6 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表 1 観察行動の全体傾向
家族 No. 泳ぎ方
瞬膜
種類
足跡
1
○
○
○
2
○
○
○
○
3
○
○
○
○
4
○
○
○
○
5
○
○
○
6
○
○
○
7
○
○
○
8
○
○
○
○
9
○
○
○
○
10
○
○
○
○
11
○
○
○
12
○
○
○
○
13
○
○
○
○
14
○
○
○
○
14
14
14
9
合計
○:観察有,—:観察無
のに対して,C1 も,C2 の動作と同じ動作をして
いる(4C2n,5C1n).以上のことから,この家族は,
合計
3
4
4
4
3
3
3
4
4
4
3
4
4
4
観察行動において,ペンギンの水中での泳ぎ方と
ペンギンの生物分類の知識を結びつけていること
がわかる.
(3)エピソード 2:家族 No.4 における泳ぎ方の観察
図 4 には,家族 No.4 における泳ぎ方の観察の
エピソードを示している.この家族は,水中トン
ネルで泳いでいるペンギンの方を向いている(図
4a,1Aln).その後も家族全員で,泳いでいるペ
ンギンを目で追っている(図 4b,2Aln).M の「飛
んでいる鳥を追いかけているみたいだね」(2Mv)
という発言に対して,C が「昔,空を飛んでいた
るペンギンの方を向いている(図 3a,1Aln).M からね」(3Cv)と発言している.この子どもは,
が C1 に対して,「どうやって泳いでいた」(2Mv) 翼を上下に動かすというペンギンの泳ぎ方を観察
と問いかけている.それに対して,C1 は,「あれ することで,ペンギンが昔は空を飛んでいたとい
で,あれで,羽で」(3C1v)と返答しており,視
点の 1 つである翼を上下に動かすというペンギン
う進化の過程を思い出している.以上のように,
の泳ぎ方を観察している.さらに,この家族の母
での泳ぎ方とペンギンの進化の過程に関する知識
親や子どもたちは,ペンギンの泳ぎ方とペンギン
を結びつけていることがわかる.
この家族は,観察行動において,ペンギンの水中
は鳥類であるという生物分類の知識とを結びつけ
ている.C2 が「つめかき(水かき)はあるけれど, 4.結論
鳥やから」(4C2v)と発言して,手をパタパタさ 本研究における観察行動分析の結果から,来園
せながら,ペンギンが水の中を泳いでいる様子を
表現している(図 3b).C2 が手をパタパタさせな
者は紙芝居で提供した視点を用いてペンギンに関
がら,ペンギンが鳥類であることを解説している
したがって,本研究の結果は,改善版紙芝居が来
通し番号
1
する特徴を観察していたことが明らかとなった.
言語的行為
非言語的行為
Aln:((泳いでいるペンギンの方を向いている))【図
3a】
2
Mv:どうやって泳いでた?
3
C1v:あれで,あれで,羽で.
4
C2v:つめかき((水かき))はあるけれど,鳥やから. C2n:((手をパタパタする))【図 3b】
5
C1n:((手をパタパタする))【図 3b】
Al:家族全員,C1:子ども 1,C2:子ども 2,M:母親,(( )):非言語的行為・注釈
C1
C2
図 3a
図 3b
図 3 エピソード 1:家族 No.11 における泳ぎ方の観察
― 7 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
通し番号
1
言語的行為
非言語的行為
Aln:((水中トンネルで泳いでいるペンギンの方を向い
ている))【図 4a】
Aln:((泳いでいるペンギンを目で追っている))【図
2
Mv:飛んでいる鳥を追いかけているみたいだね.
3
Cv:昔,空飛んでたからね.ペンギンは.
4
Mv:こっからだと飛んでいるようにしか見えないね.
Al:家族全員,C:子ども,M:母親,(( )):非言語的行為・注釈
4b】
図 4a
図 4b
図 4 エピソード 2:家族 No.4 における泳ぎ方の観察
園者の科学的観察を促進させるということを示唆
している.
附記
本研究は,JSPS 科研費 24240100 の助成を受けたもので
ある.
引用文献
Bell, P., Lewenstein, B., Shouse, A. W., & Feder, M. A. (Eds).:
Learning science in informal environments: People, place,
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2009.
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芝居コンテストの取り組みを通して−,名古屋柳城短期
大学研究紀要,34,77-86,2006.
Eberbach, C., & Crowley, K.: From everyday to scientific
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world. Review of Educational Research, 79(1), 39-68, 2009.
羽山伸一・土居利光・成島悦雄:野生との共存 行動する
動物園と大学,地人書館,2012.
石田戢・濱野佐代子・花園誠・瀬戸口明久:日本の動物観—
人と動物の関係史,東京大学出版会,2013.
子どもの文化研究所:紙芝居—子ども・文化・保育,一声社,
2011.
まついのりこ:紙芝居・共感のよろこび,童心社,2012.
並木美砂子:動物園における親子コミュニケーション,風
間書房,2005.
Okuyama, H., Tajima, J., Hirano, K., Tanaka, C., & Bando, G. :
Integration of scientiffic inquiry with the picture-story show
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at the meeting of ASERA 2014, Melbourne, 2014, July.
奥山英登・田嶋純子・堀田晶子・田中千春・坂東元・山橋
知香・山口悦司・稲垣成哲:旭山動物園のペンギン展
示における紙芝居を利用したワークショップ,日本理
科教育学会全国大会発表論文集,11,474,2013.
Patrick, P. G., & Tunnicliffe, S. D.: . Zoo talk. Netherlands:
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Yamahashi, C., Yamaguchi, E., & Inagaki, S.: Evaluation of an
inquiry-based picture story show for supporting zoo visitors'
scientific observations. Poster session presented at the
meeting of ASERA 2014, Melbourne, 2014, July.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・平
野京子・田中千春・坂東元:動物園来園者の科学的観
察を支援する紙芝居の改善:描画法を利用した学習成
果の評価,日本理科教育学会全国大会発表論文集,12,
483,2014a.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・
堀田晶子・田中千春・坂東元:動物園来園者の観察を
支援する紙芝居の評価:質問紙調査を通して,平成 25
年度日本理科教育学会近畿支部大会発表論文集,100,
2013a.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・堀
田晶子・田中千春・坂東元:動物園来園者の観察を支
援する紙芝居の評価:面接調査を通して,日本科学教
育学会研究会研究報告,28(2),85-88,2013b.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・堀
田晶子・田中千春・坂東元:動物園来園者の観察を支
援する紙芝居:旭山動物園のペンギン展示を事例とし
た予備的分析,日本理科教育学会第 63 回全国大会発表
論文集,11,238,2013c.
Yamahashi, C., Yamaguchi, E., Inagaki, S., Okuyama, H.,
Tajima, J., Horita, A., Tanaka, C., & Bando, G.: Supporting
zoo visitors' scientific observations through the picture-story
show. Paper session presented at the meeting of IOSTE 2014,
Kuching, Malaysia, 2014, September.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・田
中千春・坂東元:動物園来園者の科学的観察を支援す
る紙芝居の改善:来園者の主観的評価,日本科学教育
学会年会論文集,38,543-544,2014b.
― 8 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
柔らかな科学コミュニケーションにおけるミスコミュニケーションの可能性
The possibilities of miscommunications in the Soft science communication
奥本素子
Motoko Okumoto
総合研究大学院大学
SOKENDAI
[要約] 近年、科学コミュニケーションは科学的知識の普及だけでなく、科学にまつわる感
情や価値観といった多義的テーマを扱う「柔らかな科学コミュニケーション」を通して、
市民の信頼や科学への興味を喚起しようとする動きがある。
「柔らかな科学コミュニケーシ
ョン」は形や答えのないテーマを取り扱うため、イメージで伝えるアナロジーという説明
手法が多用される。しかしアナロジーは前提の違いによって誤解や偏見といったミスコミ
ュニケーションのリスクをはらんでいる。本研究ではアナロジーという説明技法がはらん
でいるミスコミュニケーションの可能性について検討していく。
[キーワード]科学コミュニケーション,アナロジー,ミスコミュニケーション
を含んだ科学コミュニケーションが必要だ
1. はじめに
近年、福島第一原発事故や STAP 細胞問題
と提言されている(加藤
2009)。
など科学活動に対する市民の不安をあおる
本研究ではこれらの感情や文化を含んだ
ような事件が相次ぎ、科学コミュニケーシ
科学コミュニケーションを「柔らかな科学
ョンという科学活動への信頼を取り戻す必
コミュニケーション」と定義する。
要性が改めて注目されている。
2.ミスコミュニケーションの事例としての
科学コミュニケーションは、科学的知識
科学教育学会の表紙問題
の普及を中心に展開されてきたが、先行研
「柔らかな科学コミュニケーション」は
究によると、科学にまつわる科学者と市民
市民の科学や科学者に対する信頼や親近感
とのミスコミュニケーションは市民の科学
を獲得する可能性がある一方、その使い方
的知識の不足のみに原因を有するものでは
を誤ると、誤解や不信感を生む原因にもな
ないことが明らかになっている(Nisbet
ると考えられる。その一例が図 1 の人工知
2005)。そのため、近年では科学コミュニケ
能学会表紙問題である。人工知能学会では、
ーションは科学的知識の普及である公衆の
人工知能のイメージを市民にもわかりやす
科学理解(PUS:Public Understanding of
く伝えようと、学会誌の表紙をイラストに
Science)だけでなく、感情的なものを含め
変更したところ、ジェンダーの観点から批
た 公 衆 の 科 学 へ の 気 づ き ( PAS : Public
判を浴びた(鳥海ら
2014)。
Awareness of Science)を促進させること
この事例の一つの解釈として、アナロジ
や(Van der Sanden & Meijman 2007)、市
ーの活用が招いたミスコミュニケーション
民と科学者との価値観を含めた異文化理解
というものが挙げられる。アナロジーは,
― 9 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
図3
アナロジー空間における
サイエンスカフェ
る知識の違いによって別の解釈が生まれて
しまうという課題がある(ホリオーク&サ
図1
ガード
人工知能学会の表紙
1998)。図 1 の事例もこのベースの
違いが生み出した解釈の齟齬と考えられる。
3.科学者のアナロジー活用場面の分析
具体的に科学者はどのような場面でアナ
ロジーをどのように使っているのであろう
図2
か。本研究ではアナロジー空間におけるサ
アナロジーの原理
2013)、そ
前提知識の違う他者への説明として科学コ
イエンスカフェを実施し(奥本
ミュニケーションにおいても多用され(ホ
の会話記録を分析した。茶室という空間の
リオーク&サガード
1998)、また科学教育
中で、研究を例える道具を様々に用意する
においても概念変化を促す手法として活用
と、市民との対話の中で、自然に科学者は
されている(竹中他
アナロジーを用いた説明を行った(図 2)。
2005)。解釈多様で正
解のない科学の価値観や文化をイメージと
その際、科学者はいくつかのアナロジー
して伝達する際、アナロジーは有効なメデ
を出し入れし、市民が一番興味を示したア
ィアだと考えられる。アナロジーは、ベー
ナロジーを用いて説明を進めた。
スという既存知識を用いて、ターゲットと
事例①は科学者の視点を話した科学者 A
呼ばれる未知の知識を,構造まで含め説明
の話を補足するため、科学者 B がアナロジ
する手法である(図 2)。人工知能学会表紙
ーを使い始めた事例である。
問題の場合、読書をしながら掃除をする女
[事例①]
性という見慣れた知識を用いて、人工知能
科学者 A
研究が目指す思考する人工知能という未来
です。
像の説明に使った事例であると考えられる。
市民①
アナロジーを用いれば、単独の知識だけで
いから。
なく、ある事柄の状況を含めて理解ができ
科学者 A
るという利点がある一方、ベースと呼ばれ
学者なんて特に何も知らないことをどんど
― 10 ―
発見というか、これが自然なん
自然、ねぇ。私は知らないこと多
むしろ誰も知らないんです。科
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
んわかっていくって言う。
(中略)分からな
現しているっていう。全く同じ。
(中略)深
いことが面白いっていう。
さとか時間の流れというのが感じるわけな
市民①
(小声で)フーン、そうなのね。
んですよね。
科学者 B 【アナロジー1】この借景も、普
*【筆者注】
[事例①]では、科学者 A の発言に対して
段から見えている土湯の景色を切り取ると、
崖の良さが、あの崖がすごくきれいで(中
市民①が「私は知らないことが多いから。」
略)気づくわけじゃないですか。
と落ち込むような発言をしたため、科学者
市民①
A が研究は分からないことが面白いとフォ
(小声で)フーン。
科学者 B
たぶん科学者も一緒で、僕は生
ローしたが、伝わらなかった。そこで科学
物やってるんですが、自然の中のこういう
者 B は A の説明をアシストする意味で借景
一部だけを切り取って、すごく凝視してい
を使ったアナロジーで説明をしたが、市民
るんですよね。
①には伝わらなかった。また市民②にも、
市民①
この説明は「うーん。」と首を傾げられてい
(小声で)あー。【共感せず】
だから普段漫然とあるものを見
る。そこで、科学者 B はカメラの例を出す
るって決めてギュッと見たのが、たぶん研
と、市民②がたまたまカメラマンだったた
究で、A 君のは金の光なんですけど、普通
め、そのアナロジーにより市民②の理解が
金をみんな、僕は分野が違うのでしないと
得られた事例である。
科学者 B
[事例 2]
思うんですけど、A 君はああいう見方をし
市民③
て、
ということは目で見ると金色にみ
市民②
(小声で)うーん。
えるけど、色がそれだけ混ざり合うと金に
市民①
形にしてね。
なるっていう意味?
科学者 B
いろんな光を出すっていう、そ
科学者 A てか、そこがちょっと違くって、
ういう見方をしているっていう。
でかいものはどんなに拡大しても金なんで
(中略)
すよ。でも金自体を細かく切り刻んでちっ
科学者 B 【アナロジー2】たぶんそれは皆
ちゃい粒子にしてしまう。そうすると、色
さんの職業にもあって、たぶん写真を撮ら
が変わるんです。ガラッと。金色から赤色
れていたら、僕らは普段、普通に写真を撮
とか。
るんですけど、プロとして写真を撮られて
市民③
いたら表情とか僕らとは見方が違うんじゃ
ってこと?錬金術って別のものを合わせて
ないかと思うんですけど。
金にしていくっていう。
市民②
しゃくなげ壮の 3 階に私写真を展
それって錬金術の逆を行っている
科学者 A
あー、
示しているんですけど、
ファシリティター
科学者 B あー、あのこけしの。
くなったら、色が変わるの?
市民②
科学者 A
なんか、今の話と全く同じで、自
どうして金は小っちゃ
それはものが見えるというのは
分を切り取って、凝視して、凝視した中か
どういうことかというと、光が当たるじゃ
ら、要するにあのーもー感じ取るものを表
ないですか?そうすると、物質の表面にあ
― 11 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
る電子が光と相互作用して、そのあと疲れ
があり、理解が進んでいることが分かった。
たらまたその電子が光りだして、目に届い
アナロジーを用いるときに、この出し入れ
たら、見えるんです。
がないと、相手には伝わらないアナロジー、
市民③
無言
さらには前述したような相手に誤解を与え
科学者
ははは。いやそういうのがあるん
てしまうアナロジーになりかねない。
学習科学で近年注目されている認識作用
ですけど、いやダンスしてるんですここで。
市民③
の共有(Shared Epistmeic Agengy)による
すごいねー。
科学者 A
金のでかい状態だと、小さい粒
協調学習の促進効果(Damşa et
al. 2008)
子にしちゃうと(筆者注:光と)ダンスの
というものが指摘されているが、本研究で
仕方が変わるんですね。てか、色っていう
も科学コミュニケーションにおいて市民と
のは全部そういう風に変わってて、全部ダ
科学者が最初の前提をどう共有化するのか
ンスの仕方が違うってだけなんです。
は、その後の説明においても重要な課題と
(中略)
なりうると考えている。今後は、そのよう
市民③
な先行研究も参考に研究を進めていく。
【参考文献】
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ディアを活用した研究の発信,日本教育工
学会 第 29 回全国大会
加藤浩(2009)異文化コミュニケーションと
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ホリオーク,K.J.and サガード,P.(1998)
アナロジーの力―認知科学の新しい探求,新
曜社
竹中真紀子(2005)Web Knowledge Forum に
支援されたアナロジーと概念変化 : 動物の
発生と成長をテーマとした小学校の理科授業
を事例にして,科学教育研究 29(1), 25-38
鳥海不二夫他(2014)「人工知能」の表紙に関
する Tweet 分析, 人工知能, 29(2), 172-181
Damşa , C.I. et al. ( 2008 ) Shared
Epistemic Agency: An Empirical Study of
an Emergent Construct,Journal of the
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van der Sanden, M.C.A. and Meijman ,
F.J.(2008) Dialogue guides awareness and
understanding of science: an essay on
different goals of dialogue leading to
different
science
communication
approaches.Public
Understanding
of
Science January 2008 17: 89-103,
Nisbet, M.C. (2005). The Competition for
Worldviews: Values, Information, and
Public Support for Stem Cell Research.
International Journal of Public Opinion
Research, 17, 1, 90-112.
光が当たるから変わるの?
科学者 A 光が...
市民③
光とダンスしないと...
科学者 A 見えないですね。
[事例②]では市民③から質問をしてい
るが、科学者 A の答が分からなかった市民
③が「錬金術の逆」というアナロジーを用
いてアナロジーでの説明を求めている。そ
れに対し、科学者 A はアナロジーを用いず、
説明するが、市民③は無言で共感を示さな
い。そこで科学者 A は促されるようにアナ
ロジーを用いて説明するようになっている。
4.柔らかな科学コミュニケーションにおけ
るアナロジー
市民と対話的に科学を語る柔らかな科学
コミュニケーションでは、アナロジーの出
現は頻繁に目撃された。科学者自身がアナ
ロジーを複数出す場合もあれば、市民側か
らアナロジーを促し、それに科学者が答え
る形でアナロジーを使う場合もある。
どちらの場合も、アナロジーが文脈に関
係なく表れるわけではなく、科学者と市民
との間にいわゆる「アナロジーの出し入れ」
― 12 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
中学生の科学的モデルに対する認識
Cognition of Scientific Models on Lower secondary school students
○雲財寛*, 松浦拓也*
UNZAI, Hiroshi*, MATSUURA, Takuya*
*広島大学大学院教育学研究科,
*Graduate School of Education, Hiroshima University
[要約]本研究の目的は,中学生の科学的モデルに対する認識の実態を明らかにすることである。調
査の結果,中学生は,科学的モデルを,現象を単純化したり,可視化したりしているものとして捉え
ている傾向にあり,モデルが現象の説明や予測に使われるといったモデルの目的や,モデルが持つ説
明の限界性や暫定性といったモデルの性質に関する認識がまだ確立していないことが明らかになっ
た。これらの実態をふまえ,モデルベース推論を育成する指導法を構想する際には,モデルの目的や
性質を実感できるような学習活動が必要であることを指摘した。
[キーワード]理科教育,中学生,科学的モデル,科学的推論,モデルベース推論
の意味論的捉え方では,科学者の主要な活動は,
1.研究の背景
科学的に推論する能力を育成することは,理科
モデルの構築とテストで説明される(Giere,1991)
。
教育における重要な目標の1つである。そして,
Develaki(2007)によれば,科学理論の意味論的捉
近年では,科学的推論の中でも,モデルベース推
え方は,科学的方法を適切かつ実践的に説明しう
論と呼ばれる推論に注目が集まってきている(例
るものであり,理科教育に援用することで,科学
えば,Lehrer & Schauble,2006)
。モデルベース
的モデルの性質をもとにした科学の本質(nature
推論は,主に「モデルの構築」に関するモデルベ
of science)の理解につながるという。現在では,
ース推論と,
「モデルの適用」に関するモデルベー
国内の理科教育研究においても,モデルベース推
ス推論の2つに大別することができる。モデルの
論に関する関心は徐々に高まってきており,(例
構築に関するモデルベース推論は,モデルの構築,
えば,内ノ倉,2008)
,モデルベース推論に関する
評価,修正といった自然現象を説明するモデルの
研究の蓄積が求められている(稲田ら,2014)。
構築活動における推論である(例えば,Justi &
Gilbert,2002)
。一方,モデルの適用に関するモ
2.問題の所在と研究目的
デルベース推論は,既存のモデルを適用し,仮説
これまでの研究から,モデルベース推論を促進
を形成したり未知の現象を説明・予測したりする
す る諸 要素が 明ら かにさ れて いる。 例え ば,
といった,知識の創造や精緻化における推論であ
Schwarz et al.(2009)は,
「モデルは,可視化しに
る(例えば,Nersessian,1999)
。
くいまたは理解されにくい価値や特徴を表すこ
このモデルベース推論に近年改めて注目が集
とができる」,
「モデルは,現象を例証したり,説
まっているのは,科学哲学における科学理論の意
明したり,予測したりするのに使われる」などの
味論的捉え方の興隆が関係している(Develaki,
科学的モデルの目的や性質に関する認識が,モデ
2007)
。科学理論の意味論的捉え方とは,科学理論
ルベース推論を促進すると述べている。これに関
を,世界を抽象化・理想化した「モデル」と捉え
して,筆者らは中学生と大学生を対象に,質問紙
(森田,2010)
,科学理論を意味論的対象とみなす
を用いて科学的モデルの目的や性質に関する認
立場のことである(戸田山,2005)
。この科学理論
識の実態を明らかにしている(雲財・松浦,2013)。
― 13 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
分析を行った。分散分析の結果,各因子の得点の
表1 観点と質問項目の例
質問項目の例
平 均 値 に 有 意 な 主 効 果 が 見 ら れ た ( F (2.33,
現象の説明・予測
科学では,モデルを用いることで,
現象を説明・予測することができる
242.5) = 13.02, p < .05)。そこで,どの得点間に,
特徴の顕在化
モデルは複雑な現象を単純にし,簡
潔に表すことができる
有意な差があるのかを明らかにするため,
限界性
モデルによる現象の説明には限界
がある
暫定性
モデルは,一時的なものであって,
変化する可能性がある
観点
Bonferroni の方法を用いて多重比較を行った。多
重比較の結果,
「特徴の顕在化」と「現象の説明・
予測」の得点間,
「特徴の顕在化」と「限界性」の
得点間,
「特徴の顕在化」と「暫定性」の得点間に
具体的には,表1に示すような,科学的モデルの
有意な差が見られた。具体的には,
「特徴の顕在化」
目的や性質に関する4つの観点を設定して質問
が,他の3つの観点(「現象の説明・予測」,
「限界
紙調査を実施し,中学生は4つの観点全てにおい
性」,「暫定性」
)よりも,有意に高かった。
て大学生よりも認識が低いことを明らかにして
いる。
また,これら3つの観点の質問項目における各
選択肢の選択割合に着目してみると,中学生は,
このように,雲財・松浦(2013)では,中学生
と大学生の比較を中心として科学的モデルに対
全ての質問項目において「3.どちらでもない」
を選んでいる割合が大学生よりも高かった。
する認識の全体的な特徴を明らかにしているも
のの,中学生や大学生の詳細な実態については言
5.考察
及できていない。一方で,筆者らは,中学生を対
本研究の目的は,中学生の科学的モデルに対す
象としてモデルベース推論の育成を目指してい
る認識の実態を明らかにし,モデルベース推論を
る。そこで,本研究では,特に中学生の科学的モ
育成する指導法への示唆を導出することであっ
デルに対する認識の実態を詳細に検討し,モデル
た。まず,中学生の科学的モデルに対する認識の
ベース推論を育成する指導法への示唆を導出す
実態に関しては,調査の結果,
「特徴の顕在化」が
ることを目的とした。
他の3つの観点に比べて有意に高かった。このこ
とから,中学生はモデルを,現象を単純化したり,
3.研究の方法
可視化したりしているものと捉えている傾向に
中学生の科学的モデルに対する認識の実態を
あるといえる。
明らかにするため,雲財・松浦(2013)で用いた
他の3つの観点については,観点の平均値が3
データ(公立中学校第3学年 105 名,国立大学 89
を超えているものの,各質問項目における各選択
名)をもとに,科学的モデルの目的や性質の各観
肢の選択割合においては,中学生は,
「3.どちら
点における認識の違いに着目し,再度分析を行っ
でもない」を選んでいる割合が大学生よりも高い。
た。
このことから,モデルが現象の説明や予測に使わ
れるといったモデルの目的や,モデルが持つ説明
4.結果と分析
の限界性や暫定性といった性質に対する認識が
まず,質問項目の得点を合計し平均値(5点満
まだ確立していない中学生が多いと考えられる。
点)を算出した。表2に,質問項目別,及び観点
これは,モデルを用いて現象の説明や予測をする
別の平均値と標準偏差を示す。また,各質問項目
学習活動や,現象を説明するモデルに修正を加え,
に対する回答状況を検討するために,質問項目別
モデルを洗練するような学習活動が少ないこと
に各選択肢の選択割合を示す。
に起因していると考えられる。
次に,中学生の各観点の平均値について,違い
以上,調査結果の分析について述べてきた。次
があるかどうかを統計的に検討するために,分散
に,調査結果の分析と先行研究を踏まえ,科学的
― 14 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表2 質問項目の各種統計量
観
点
現
象
の
説
明
・
予
測
特
徴
の
顕
在
化
質問項目
平均値(標準偏差)
3.49 (0.91)
3.76 (0.89)
3.44 (0.71)
3.76 (0.66)
3.16 (0.81)
3.34 (0.81)
3.50 (0.93)
4.08 (0.70)
3.74 (1.12)
4.38 (0.63)
3.70 (1.10)
4.44 (0.62)
3.85 (1.01)
4.34 (0.72)
3.45 (0.98)
4.11 (0.85)
3.24 (1.01)
4.17 (0.77)
3.53 (0.91)
4.39 (0.67)
3.14 (0.96)
3.98 (0.90)
3.13 (1.07)
4.09 (0.72)
2.73 (1.04)
1.76 (0.78)
科学では,モデルを用いることで,現象を説明・予測す
ることができる。
科学における現象の説明や予測は,モデルを用いて行わ
れる。
科学では,これまでに作られたモデルを別の現象に適用
することで,新たな予測を行う。
科学において,モデルは現象の説明や予測など,重要な
役割を果たしている。
モデルは複雑な現象を単純にし,簡潔に表すことができ
る。
モデルは理解しにくい抽象的な性質を,分かりやすく表
すことができる。
モデルは目に見えにくい現象を,目に見える単純な形で
表すことができる。
モデルによる現象の説明には限界がある。
限
界
性
モデルは現象を完全に説明することはできない。
モデルには,現象を説明する上で利点と欠点が存在する。
暫
定
性
モデルは,一時的なものであって,変化する可能性があ
る。
現在科学者の間で認められているモデルは,時代が変わ
ると,変化することがある。
科学におけるモデルは,一度作られると将来変わること
はない。(R)*
3.40 (0.62)
3.73 (0.51)
3.77 (0.93)
4.39 (0.48)
3.40 (0.76)
4.23 (0.62)
3.18 (0.78)
4.10 (0.68)
1,2
13.3
11.2
8.6
4.5
14.3
12.4
11.4
3.4
16.2
1.1
16.2
1.1
12.4
3.4
13.3
7.9
21.0
3.4
8.6
2.2
23.8
7.9
24.8
3.4
40.0
87.6
選択割合(%)**
3
4,5
28.6
58.1
16.9
72.0
42.9
48.6
22.5
73.1
58.1
27.6
47.2
40.4
38.1
50.4
10.1
86.5
18.1
65.7
4.5
94.4
19.0
64.7
3.4
95.5
16.2
71.4
1.1
95.5
39.0
47.6
6.7
85.4
42.9
36.2
12.4
84.3
46.7
44.8
3.4
94.4
44.8
31.4
14.6
77.5
40.0
35.2
11.2
85.4
40.0
20.0
7.9
4.5
上段が中学生,下段が大学生 *:(R) は反転項目,暫定性の観点の平均値を算出する際には,得点を反転させた。
**:1,2 =「1.全くそう思わない」,「2.あまりそうは思わない」と回答した割合,3=「3.どちらでもない」と回答した割合,
4,5 =「4.ややそう思う」,「5.強くそう思う」と回答した割合
モデルに対する中学生の認識について考察する。
されていなかった観点である。このため,本調査
科学的モデルに対する学習者の認識を調査した
では中学生の科学的モデルに対する認識におい
Treagust et al.(2002)は,質問項目別の各選択
て,これまでに顕在化されていなかった実態を明
肢の選択割合をもとに,中等学校の生徒はモデル
らかにすることができたといえる。
を,現象を説明・予測するものとしてあまり認識
していないという実態を明らかにしている。この
6.モデリング能力を育成する指導法への示唆
ような実態は,今回の調査結果とも一致している。
今回の調査結果から,モデルが現象の説明や予
このほか,Carey & Smith(1993)は,生徒は科
測に使われるといったモデルの目的や,モデルが
学的なモデルの役割に関する知識をほとんど持
持つ説明の限界性や暫定性といった性質に関す
っていないと述べている。つまり,中学生は,モ
る認識がまだ確立していない中学生が多いこと
デルが現象の説明や予測に使えたり,科学理論を
が示唆された。これらの実態をふまえ,モデルベ
発展させたりすることができるといったモデル
ース推論を育成する指導法への示唆として,以下
の目的に関する認識が低いといえる。また,調査
の2点を導出した。
結果の分析から,中学生は限界性や暫定性といっ
第一に,そもそも中学生は,モデルが現象の説
たモデルの性質に関する認識も低いことが明ら
明や予測に役に立つということをあまり意識し
かになった。これらモデルの限界性や暫定性につ
ていないため,様々な学習場面においてモデルを
いては,これまでの調査研究においてあまり着目
用いて推論させ,モデルが現象の説明や予測に役
― 15 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
に立つことを実感させる必要がある。例えば,松
ルに関連する能力の育成から考える理科カリキュ
浦・佐伯(2013)は,中学校理科第一分野「化学
ラム -「霧の発生」のモデル実験に対する大学生
変化と原子・分子」の酸素を取り除く反応(酸化
の認識調査-,日本理科教育学会第 64 回全国大会
銅の還元)の単元において,
「酸化銅から銅を取り
論文集,85,2014.
だすにはどのようにしたらよいか」という課題を
Justi, R. S. & Gilbert, J. K.: Modelling, Teachers'
設定し,既習事項である化学反応式を用いて仮説
View
on
the
Nature
of
Modelling,
and
を設定させる学習活動を取り入れている。そして,
Implications for the Education of Modellers.
仮説を設定させる際に,
「化学反応式カード」と呼
International Journal of Science Education,
ばれる化学反応式のモデルを試行錯誤すること
24(4), 369-387, 2006.
ができる教材を用いることで,酸化銅から銅を取
Lehrer, R. & Schauble, L.: Cultivating Model-
りだす化学反応について,様々な仮説を形成でき
Based Reasoning in Science Education, In
たことを報告している。このような学習活動を取
Sawyer, R. K.(Ed.), The Cambridge Handbook of
り入れることで,モデルが現象の説明や予測に役
the Learning Science, Cambridge University
に立つことを実感させることができると考える。
Press, 371-387, 2006.
第二に,科学的モデルの限界性や暫定性を直接
松浦拓也・佐伯貴昭:科学的な思考の具体とその育
的に学習する機会は少ないため,このような特性
成の視点,理科の教育,62(9),48-51,2013.
を実感させることは難しい。しかし,科学的モデ
森田邦久:理系人に役立つ科学哲学,科学同人,2010.
ルを用いて現象を説明する場面において,「その
Nersessian, N. J.: Model-Based Reasoning in
モデルでは,どこまでが説明できて,どこからが
Conceptual Change, In Magnani, L., Nersessian,
説明できないのか」といった説明の限界点につい
N. J., & Thagard, P. (Eds.), Model-Based
て話し合ったり,科学的モデルはどのような経緯
Reasoning
で構築・修正されていったのかを学習したりする
Springer, 1999.
ことで,科学的モデルの限界性や暫定性を実感す
in
Scientific
Discovery,
5-22,
Schwarz, V., Reiser B., Davis, E., Kenyon, L., Achér, A.,
ることができると考える。
Fortus, D., Shwartz, Y., Hug, B., & Krajcik, J.:
・引用文献
Developing a learning progression for scientific
Carey, S., & Smith, C.: On Understanding the
modeling: Making scientific modeling accessible and
Nature of Scientific Knowledge. Educational
meaningful for learners, Journal of Research in Science
Psychologist, 28(3), 235-251, 1993.
Teaching, 46(6), 632-654, 2009.
Develaki, M.: The Model-based View of Scientific
戸田山和久:科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方
Theories and the Structuring of School Science
Programmes, Science & Education, 16(7-8), 725-749,
法をさぐる,NHK ブックス,2005.
Treagust, F., Chittleborough, G., & Mamiala, T.:
Students' understanding of the role of scientific models
2007.
in learning science,International Journal of Science
Giere, R. N.: Understanding Scientific Reasoning,
Education, 24( 4), 357-368, 2002.
Harcourt College, 1991.
Grosslight, L., Unger, C., Jay, E., & Smith, C. :
内ノ倉真吾:理科授業におけるモデルとモデリング
Understanding models and their use in science:
-中学校電気単元を事例として-,科教研報,
Conceptions of middle and high school students and
22(3),17-20,2008.
experts, Journal of Research in Science Teaching, 28(9),
雲財寛・松浦拓也:科学的推論に関する基礎的研究
799-822, 1991.
-中学生と大学生の比較を中心として-,日本教
稲田結美・齋藤恵・内ノ倉真吾・小野瀬倫也:モデ
― 16 ―
科教育学会第 39 回全国大会論文集,124-125, 2013.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
低学年における係活動を通した児童の「己」の深化と変容
Deepening and Change of Pupils' Self-identification through
Charge Activities in Lower Grades of Primary School
中嶋千加*1,宮田和美*2,赤間彩織*2,舟生日出男*2
NAKAJIMA, Chika*1, MIYATA, Kazumi*2, AKAMA, Saori*2, FUNAOI, Hideo*2
創価大学教職大学院*1,創価大学教育学部*2
Professional School for Teacher Education, Soka University*1, Faculty of Education, Soka University*2
〔要約〕本研究では、小学校低学年の児童が係に対する目的観を持っているのか、そしてその
目的観がどのように変容していくのかを調査した。係活動への取り組みの様子と、これからの
係に対する希望についてアンケート調査を実施した後に、自由記述の内容における主体者や対
象に着目し、【自分】もしくは【他者】にカテゴライズして分析を行った。その結果、既存の
今の係や次になりたい係に対しては【自分】に焦点を当て、新しく係を提案する時や、なぜ自
分が係り活動をするのかに対しては【他者】に焦点を当てていることが分かった。これらのこ
とから、児童が自分の役割を認識して係活動をしているということや、【自分】のためや【他
者】のためといった目的観を持つようになった姿を確認することができた。
〔キーワード〕 低学年,係活動,己,目的観,自分,他者
1.はじめに
生活へ適用し、係活動へとつなげる。係活動は自
係活動は特別活動に位置づけられており、学級
分の役割を知り、できることを増やしながら活動
の学習や生活を、児童たちが豊かなものにしてい
できるものであるため、低学年のキャリア教育を
くために行われる活動である。しかし、ただ豊か
考える上で重要である。
なものにすれば良いというわけではなく、自主的、
本研究を始めた動機には、昨年、教職大学院の
かつ、実践的に行われることが望ましい(文部科
カリキュラムによる 60 日間(15 週間)の実習を
学省,2008)。一方、低学年生活科の単元「みん
経験したことが大きく関係している。実習では第
ないっしょに」
(東京書籍「あたらしいせいかつ」
,
1 学年の児童を担当したのだが、児童たちは係に
2011)は、学習指導要領の内容「家庭生活を支え
対してとても積極的で、仕事をもらえることに楽
ている家族のことや自分でできることなどにつ
しさを抱いていた。しかし、楽しさや面白さばか
いて考え、自分の役割を積極的に果たすとともに、
りが先立ち、「何のため」といった目的観があま
規則正しく健康に気を付けて生活することがで
り感じられなかった。実習を終えるまでに、そう
きるようにする。」を受けて設定されている(文
した様子を把握するにとどまった。しかし今年度
部科学省,2008)。つまり、自分の一日の生活を
に入って、その児童たちが第 2 学年に上がってか
振り返り、家の人と一緒に家事をしたり、自分の
らも観察する機会を得ることができた。そこで本
役割が増えたりすることの喜びを感じるという
研究では、係活動において、第 1 学年の時と比べ
目標で、授業が展開されるのである。
て第 2 学年では、役割に対する認識や目的観につ
また、低学年におけるキャリア教育では、自分
の好きなことや、得意なこと、できることを増や
いて、どのように変容しているのかを調査するこ
ととした。
し、様々な活動への興味・関心を高めながら意欲
本調査を通じて、1)第 2 学年になった児童は、
と自信を持って活動できるようにすることが大
係に対する必要性を感じ、目的観を持って過ごし
切である(文部科学省,2011)。
ているのではないか、2)係活動への取り組みに
以上を踏まえて本研究では、生活科で展開され
た「家庭での役割を積極的に果たすこと」を学校
おける課題点が見つかるのではないか、の 2 点に
ついて明らかにする。
― 17 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
2. 参与観察対象の学級と係活動について
3.2. 質問項目
2.1. 対象の学級
アンケートの質問項目は、以下の通りである。
対象の学級は、東京都にある公立小学校の第 2
①わたしは
がかりです。
学年である。担任と児童(男子 14 名・女子 20 名)
②どんなしごとをするかかりですか。
が対象である。
③かかりかつどうはすきですかきらいですか。
参与観察は、2014 年 9 月 1 日から継続している
○をつけましょう。
(2015 年 3 月で終了予定)。係活動のアンケート
なぜすき(きらい・どちらでもない)だとおも
調査は 9 月 26 日に実施した。
いましたか。
対象の学級の児童観として、本学級は第 1 学年
④こんどどのかかりになりたいですか。
なぜそうおもいましたか。
からの持ち上がりで、学級の構成員に大きな変動
はない(但し、転校生が 2 人存在する)。比較的
⑤こんなかかりがあるといいなとおもうものは
ありますか。
落ち着いた学級で、元気よく外で遊び、授業は集
中して受けることができる。また、当番や係活動
なぜそうおもいましたか。
に対しても意欲的である。しかし、自分のなりた
⑥なぜかかりかつどうをするのですか。
かった係になれなかった児童の、係に対する意欲
3.3. 結果
質問項目①「わたしは
はあまり高くないようである。また、係活動を積
がかりです。」
極的に行う児童と、あまり活動が見られない児童
について児童は、全員が自分の係について答える
の双方が見られる。
ことが出来ていた。つまり、自分が何係なのかを
2.2. 係活動の提案と決め方について
認識していることが分かった。
担任は必要がありそうな係を考え児童に提示
質問項目②「どんなしごとをするかかりです
する。一方、児童は担任が決めた係からなりたい
か。」について児童は、全員が自分の係の内容に
係を選択し、希望者が多い場合は「じゃんけん」
ついて答えることが出来ていた。つまり、自分の
で決めていく方法で決定している。じゃんけんを
係が何をするのかその内容について認識してい
して勝ったらその係になれるが、負けてしまった
ることが分かる。
質問項目③「かかりかつどうはすきですかきら
場合、第二希望・第三希望と選んでいく。
いですか。○をつけましょう。」について児童は、
2.3. 係の種類について
この学級では、「生物係・くばり係・図書係・
すき(25 人)きらい(1 人)どちらでもない(7
体育係・宿題チェック係・保健係・整頓係・せい
人)という結果になった。『なぜすき(きらい・
れつ係・生物係・時間係・窓係・電気係・お休み
どちらでもない)だとおもいましたか。』に対し
カード係・郵便係」の 14 種類を担任が採用して
ては、すきな理由として「面白いから」、
「人の役
いる。
に立てるから」などと答えている。きらいな理由
として「係の仕事が少ないから」と答えている。
3. アンケート調査
どちらでもない理由として「めんどくさい」でも
3.1. 調査方法
「楽しいときもある」と答えていた。
質問項目④「こんどどのかかりになりたいです
係に対するアンケート調査を実施した。対象は
第 2 学年 2 組の児童で、男子 13 名、女子 20 名、
か。」について児童は、黒板係(8 人)、配り係(7
合計 33 名が回答した(1 名が欠席)。アンケート
人)、整列係(4 人)の順番に多く、その他は比較
の内容は、係活動への取り組みの様子と希望につ
的均等に分かれていた。
いてである。時期は、2 学期が始まって係を決定
「なぜそうおもいましたか。」に対しては、
「黒
した 1 か月後であった。自由記述の中で言葉が足
板を消すのが自分は上手」、
「お礼を言われると嬉
りず理解が難しい部分などは直接、その児童にイ
しいから」、
「みんなを並ばせてみたい」、
「生物が
ンタビューを行って補足した。
好きだから」といった回答が見られた。
― 18 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
質問項目⑤「こんなかかりがあるといいなとお
ね高く、カテゴライズされたカテゴリーは妥当だ
もうものはありますか。
」について児童は、
「クイ
と判断し、採用した。
ズがかり」、
「お笑いがかり」、
「おとしものがかり」
、
3)カテゴリーに基づく項目間の関連の分析
「お手伝い係」、
「天気予報がかり」などが挙げら
【自分】と【他者】のカテゴリーに基づいて、
れていた。
『なぜそうおもいましたか。』に対して
③~⑥の回答傾向の差を、マクニマーの検定によ
は、「みんなが楽しくなれるから」、「眠そうな人
って分析した。
がいても目が覚めると思うから」、
「先生やみんな
4)分析結果
が助かる」などが挙げられていた。
ア. ③と④の回答傾向の差
質問項目⑥「なぜかかりかつどうをするのです
表 1 に示すように、③では大半が自分に焦点を
か。」について児童は、
「みんなが笑顔になれるか
当てており、④でも同様に大半が自分に焦点を当
ら」、
「先生ばかりすると疲れてしまう。先生を助
“既
てている(χ2=0.25, p>.05 ns)。したがって、
けるため」、
「みんなの生活を明るくするため」な
存の”今の係や次になりたい係に対してはどちら
どの回答が見られた。
も、自分に焦点を当てながら考えていることが分
3.4. 分析
かる。
1)自由記述のカテゴライズについて
質問項目③~⑥の自由記述(以下③~⑥と記載)
表 1 ③と④の回答傾向
について、自由記述の内容の主体者や対象に着目
し、【自分】もしくは【他者】にカテゴライズし
③
た。2 人の分析者が独立してカテゴライズし、一
致しない場合は 2 人で協議の上で決定した。
自
他
計
自
26
3
④
他
1
1
29
2
計
27
4
31
【自分】に関しては、自分の感情を表現してい
る言葉である「楽しい」
「うれしい」
「おもしろい」
イ. ③と⑤の回答傾向の差
表 2 に示すように、③では大半が自分に焦点を
を軸に分類し、【他者】に関しては、対象が「友
達」「みんな」「先生」「生物や物」の 4 つの視点
からカテゴライズした。その例を以下に示す。
a. 「くばりがかりをはじめてやったとき面白か
ったから」という回答については“面白かっ
た”という点に着目して、【自分】にカテゴ
ライズした。
b.「出番は少ないけれど、みんなの役に立てる
から」という回答については“みんな”に着
目し、【他者】にカテゴライズした。
c.「このかかりがないとみんなが困ってしまう
から。みんなのためにやるのがすきだから。」
という回答については、“みんな”とあるこ
とから【他者(みんな)】にカテゴライズし
た。“すきだから”に関しては【自分】にカ
テゴライズできる。しかし、このように【自
分】と【他者】の両方にカテゴライズできる
場合は、【他者】のカテゴリーを採用した。
2)カテゴリーの一致率
カテゴライズ全体を通して、一致率は 86%と概
当てている。しかし、⑤では半数以上が他者に焦
点を当てている(χ2=10.56, p<.01**)。したがっ
て、既存の今の係に対しては自分に、新しく提案
する時は他者に焦点を当てながら考えているこ
とが分かる。
表 2 ③と⑤の回答傾向
③
自
他
計
自
9
1
10
⑤
他
15
2
17
計
24
3
27
ウ. ④と⑤の回答傾向の差
表 3 に示すように、④では大半が自分に焦点を
当てている。しかし、⑤では半数以上が他者に焦
点を当てている(χ2=12.07, p<.001***)。したが
って、次になりたい係に対しては自分に、新しく
提案する時は他者に焦点を当てながら考えてい
ることが分かる。
― 19 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表 3 ④と⑤の回答傾向
④
自
他
計
自
10
0
10
その視点には、1)【自分】に対して、2)【他者】
⑤
他
14
1
15
に対して、の 2 つがある。
計
24
1
25
ただし本研究では、自由記述をカテゴライズし
てからアンケートを分析したため、【自分】に対
しての目的であると判断された中には、【他者】
を見据えた内容のものも含まれているかもしれ
ない。しかし少なくとも、児童らは係に対して何
エ. ④と⑥の回答傾向の差
表 4 に示すように、④では大半が自分に焦点を
当てている。しかし、⑥では半数以上が他者に焦
点を当てている(χ2=14.06, p<.001***)。したが
って、次になりたい係に対しては自分に、自分が
係活動をする目的に対しての思いは他者に、焦点
らかの目的意識を持っていることは明らかにな
ったと言えるだろう。
児童の成長段階によっては、担任があらかじめ
係を決定しておくことが必要だろう。しかし、児
童一人ひとりの「己」を見ていくと、成長するス
ピードは多様であるが、低学年でも係に対しての
を当てながら考えていることが分かる。
目的観をしっかり持っている。そして、学校生活
表 4 ④と⑥の回答傾向
④
自
他
計
自
4
0
4
の中で友達や先生を助けようとする心や学級を
⑥
他
16
1
17
より良くしようとする思いが強い。したがって、
計
20
1
21
小学校低学年からでも十分に、自主的かつ、実践
的に係活動に取り組むことができると考える。そ
して、低学年であっても、自分たちで必要な係を
考えて、自分が担当する係に責任をもって行動す
ることができると考える。
オ. ⑤と⑥の回答傾向の差
表 5 に示すように⑤では半数以上が他者に焦点
を当てており、⑥でも半数以上が他者に焦点を当
4. おわりに
てている(χ2=1.13, p>.05 ns)。したがって、新し
アンケート調査の結果、児童たちは第 2 学年に
く提案する時や自分が係活動をする目的に対し
なって、自分の役割を認識して係活動をしている
ての思いについてはどちらも、他者に焦点を当て
ことや、【自分】のため、そして【他者】のため
ながら考えていることが分かる。
といった目的観を持っていることが分かった。
これらの結果を踏まえて本研究では、係り活動
表 5 ⑤と⑥の回答傾向
⑤
自
他
計
自
2
2
4
⑥
他
6
10
16
について、次の 2 点を提案する。
1)係の種類を、子どもたちに考えさせ、必要な
計
8
12
20
ものを出させて決めさせる。
2)現状の係であっても「他人に対してどのよう
に貢献できるか」を考えさせる場を設ける。
これらについては、今後自らの教育実践の中で
取り組んでいく予定である。
3.5. 考察
以上の結果から、既存の今の係のことやこれか
らなりたい係について聞かれている場合は、【自
引用・参考文献
分】に焦点を当てて考えており、その一方で、新
文部科学省:小学校学習指導要領解説―特別活動編―,
2008
しい係を自由に提案させた場合は、【他者】に焦
点を当てて考える児童が多くなることが分かる。
したがって、児童たちは係活動をする背景にその
文部科学省:小学校学習指導要領解説―生活編―,2008
文部科学省:小学校キャリア教育の手引き(改訂版),2011
東京書籍:生活科「あたらしいせいかつ」,2011
目的を確かに持っていると言えるだろう。そして
― 20 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
数学教育におけるメタ認知のあり方についての一考察
Whole Concept of Metacognition in Mathematics Education
髙井吾朗
TAKAI, Goro
愛知教育大学
Aichi University of Education
[要約]本発表の目的は,問題解決研究を取り巻く状況が変わる中,問題解決能力の 1 つとされて
きたメタ認知は現在でもその役割を果たすことができるのかを考察し,これからのメタ認知のあり方
について提言することである。まず本発表では,これまでのメタ認知の役割について述べ,問題解決
能力の 1 つとして,どのような役割を果たしてきたかを述べた。次に,問題解決研究を取り巻く状
況として,個人から集団解決へとその焦点をシフトさせていること,狭義から広義の問題解決へと拡
充されていることを挙げ,それぞれの変化に対して,メタ認知が対応できているかを考察した。結果
として,集団解決に対してはすでにメタ認知の拡張により対応しているが,広義の問題解決に対して
は,認知的対象の変更,メタ認知の目標に対する明確化を行うことが必要であることが示唆された。
[キーワード]メタ認知,練り上げ,広義の問題解決,統計的リテラシー
過程の積極的なモニタリングとその結果生じる調整
や編成のことを指し,通常は何らかの具体的な目標
や目的に従っている。(Flavell, 1976, p.232)
1.はじめに
数学教育においてメタ認知という概念は,
「問題解
決能力に対して,知識・理解・技能がかなりの寄与
をしていること,ついで,ストラテジー活用能力,
この説明から,メタ認知とは,知識でもあり活動
メタ認知能力が一定の寄与をしている」(清水, 1996,
でもあるということ,様々な認知過程に対して作用
p.66)というように,問題解決能力のひとつとして捉
するものと解釈できる。では,具体的にメタ認知と
えられている。
は,どのような概念であり,どのようなモデルなの
しかし,数学教育における問題解決研究を取り巻
かというと,Lesh & Zawojewski(2007)は,
「メタ認
く状況は変わりつつあり,現在でもメタ認知は問題
知の定義は、一つの意味に向かって収束するわけで
解決能力の 1 つとして作用するのかということにつ
はないが、ほとんどの研究者がメタ認知と認知を別
いては疑問が残る。そこで本発表では,問題解決研
個の存在とし、そして、性質において階層的な存在
究の取り巻く状況を述べた上で,メタ認知という概
である」(p.711)と指摘している。つまり,メタ認知
念がどの程度現在の状況に対応できているのかを理
を扱う研究者によって,メタ認知という概念の捉え
論的に考察することにより,これからのメタ認知研
方が違うということであり,清水(2007)もメタ認知
究に対する示唆を提示することを目的とする。
の意味の規定について,
「用語を最初に定義した研究
者の意図に遡って調べることが有効であり,またそ
2.これまでのメタ認知の捉えられ方
れが必要であろう」(p.47)と指摘している。
メタ認知という概念は,
非常に曖昧な概念である。
まず,Flavell(1976)の説明を見てみよう。
このことから,メタ認知を用いてなんらかの研究
を行おうとするならば,必ず誰のメタ認知を元にし
て,どこまでそれに従うのか,ということを明らか
『メタ認知』とは,自己の認知的過程や所産,そ
して,それらに関連するあらゆるものに関する知識
を指す。
(中略)メタ認知とは,認知的過程が関わっ
てくる認知の対象やデータとの関わりにおける認知
にしなければならない,ということになる。では,
何故このような曖昧な概念が数学教育に取り入れら
― 21 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
する場面が入っていることであり,日本においては
れたのであろうか。
それは,Flavell(1979)が,
「最近,研究者たちが出
「練り上げ」
という固有名詞で語られるものである。
した結論によれば,メタ認知は情報の言語的コミュ
また,これまでの問題解決過程を狭義の問題解決
ニケーション,言語的説得,会話の理解,読解,書
と表現し,現実的課題を解決する流れを広義の問題
くこと,言語の獲得,注意,記憶,問題解決,社会
解決と表現する(小山, 2009)という流れもある。
的認知,および種々のタイプの自己制御や自己教示
「PISA 調査では,生徒が現実生活の問題を解決する
に重要な役割を果たすということである」(p.906)と
ために使用する基本的なプロセスは,数学化と呼ば
述べるように,メタ認知が様々な認知的過程を説明
れている」(OECD, 2007, p.91)というように,広義の
するために便利な概念であったからと言えよう。
問題解決を5つの数学化の段階として捉えた上でモ
数学教育における認知的過程とは,
「問題解決」と
デル化しているので,以下に示しておく。
いう文脈におけるものであり,
「問題解決過程の成
(1)現実に位置づけられた問題から始めること。
(2)数学的概念によって問題を構成し,関連する数学
を特定すること。
(3)仮説の設定,一般化,定式化などのプロセスを通
じて,次第に現実を取り除くこと。それにより,
状況の数学的特徴を高め,現実世界の問題をその
状況を忠実に表現する数学の問題へと変換するこ
とができる。
(4)数学の問題を解く。
(5)数学的な解答を現実の状況に照らして解釈するこ
と。これには解答に含まれる限界を明らかにする
ことも含む。
功・不成功を説明し記述するためのキー概念として」
(岩崎,2007, p.91)取り入れられ,問題解決過程を
Polya(1945, 1973)の「理解→計画→実行→検討」とし,
問題解決に関わる要素をメタ認知と関連させて,描
き出している(例えば,Garofalo & Lester, 1985 の「認
知-メタ認知の枠組み」
,Schoenfeld(1985)の「知識
と行動の四つのカテゴリー」
)
。その結果として,メ
タ認知は問題解決における「推進力(driving force)」
(Silver, 1985)という問題解決において育成すべき能
力として認められ,
「ある意味で
『自己教育力の育成』
現実の世界
数学の世界
という生涯学習社会の最終目標に重なるもの」(岩崎,
2007, p.91)として,数学教育に位置づけられている。
(5)
現実的課題
(5)
3.現在のメタ認知を取り巻く状況
このように,
メタ認知は 1980 年代から盛んに行わ
れている問題解決研究と共存する形で研究が進めら
現実の世界
れてきている。一方で,問題解決研究においては,
の問題
数学的解答
(4)
(1) (2) (3)
数学の問題
認知心理学において「実験室の学習研究から日常の
学習研究へ」(三宮, 2008, p.18)と指摘されるように,
図1 数学化のモデル(OECD, 2007, p.91)
閉鎖的な研究者と被験者だけで行う研究から,実際
に行われる授業場面における研究へとシフトしてい
狭義の問題解決は,
図1においては
「数学の問題」
る。
これは数学教育においても同じことが言える。授
→「数学的解答」の部分となり,広義の問題解決は
業場面としては,問題解決型授業の典型例として,
狭義の問題解決を含んだ現実と数学の往還を目指し
問題を把握する場面,問題を解決するための計画を
たサイクルとなっている。
立てる場面,個人で解決する場面,集団で解決する
このように,問題解決研究においては,授業場面
場面,問題解決を終えて振り返る場面を挙げること
を想定し,集団解決という場面を研究対象としてい
ができる。これは Polya(1978)の問題解決過程と同じ
るだけでなく,問題設定自体も数学の問題から現実
流れとなっているが,大きく違うのは,集団で解決
の問題まで射程を広げている。この 2 つの問題解決
― 22 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
における変化に対して,メタ認知はどのように対応
団解決とは練り上げと呼ばれ,
「多様な考え方を取り
しているのであろうか。
上げて,集団でよりよい考え,よりよい表現・処理
(1)個人から集団への変化に対して
へ高めていく」(矢部他, 1997, p.29)場面である。また,
集団による解決について述べる前に,個人による
溝口(2000)は練り上げについて,
「
『コミュニケーシ
解決場面に対するメタ認知研究の成果を挙げていく。
ョン』という視点で捉えることができると考えられ
1990 年に入り,数学教育におけるメタ認知研究では,
るが,
『コミュニケーション』は,それ自体が目的な
授業の中でどのように個人のメタ認知を育成するの
のではなく,それが極めて数学の本性に関わるもの
かということが研究されてきている。その方法とし
であることからこそ重要である」と指摘している。
ては,加藤(1999)の「メタ認知的支援」や,清水(2007)
つまり,練り上げとは,コミュニケーションを手
段とし,集団としてより良い解決方法を創り上げて
の「ペアによる問題解決」が挙げられる。
この 2 つの方法に共通な点は,メタ認知育成に他
いく場面といえる。このことから,練り上げという
者という存在が欠かせないということである。重松
授業場面では,
自己解決のためのメタ認知だけでは,
(1990)が「内なる教師(inner teacher)」とメタ認知を呼
問題解決能力としては不足するものとなり,メタ認
んだように,子どものメタ認知は教師(この教師と
知という概念では,練り上げという場面を説明する
は,クラスの友人を含む)によって,よいものを与
ことができないのである。
えられる場合もあれば,悪いものを与えられる場合
このような状況に対して,丸野&加藤(1996)は,
もあるということが示唆されている。つまり,メタ
議論過程におけるメタ認知として,
「他者モニタリン
認知研究において他者とは,個人を変容させるため
グ」の重要性を提言し,筆者(2012)は練り上げにお
の 1 変数であり,自分を変えるための要素として捉
いてはたらいているメタ認知として,メタ認知的技
えられている。
能,メタ認知的知識を拡張し,その際に行われる指
これに対して,Cobb & Bauersfeld(1995)の研究に代
導のあり方についても提言を行った(表1)
。
表されるように,数学教育においては,心理学的観
このメタ認知の拡張により,練り上げというコミ
点と社会学的観点の協調から授業を分析するという
ュニケーションを手段とした解決過程において,問
手法が構築されている。この研究手法の特徴は,
「教
題解決者がどのような活動を行い,その活動に至っ
室にいる子どもや教師の当事者の視点(心理学的立
た経緯をメタ認知によって明らかにすることが可能
場)と教室の観察者の視点(社会学的立場)の両方
となる。
の視点を相互に参照し合う立場」(関口, 2010,
そして,メタ認知を拡張することによって,新た
pp.39-40)を取ることにある。こうした研究から,教
な課題も表出している。
それは,
練り上げ以外にも,
室文化という考え方を,個人の信念や集団の規範,
授業において集団活動が行われるという点である。
ルールという概念で説明することで,個人と集団に
具体的には,問題把握,計画立案を教室全体で考え
よって構成される授業を有機的に捉えることが目指
るという場面であり,練り上げのために拡張したメ
されている。
タ認知が,この 2 つの場面でどのようなはたらきを
このように,メタ認知研究においては,他者がど
しているのかを明らかにしなければ,問題解決授業
のようなはたらきかけをし,個人が変容したかとい
全体をメタ認知という概念で分析することができな
うことに焦点が当てられているが,数学教育全体の
いであろう。また,これまで,児童・生徒に対する
研究の流れを見ると,授業という状況を個人と集団
メタ認知の調査は数多く行われているが,他者モニ
の相互関係という立場から見ることが進められてい
タリングがどの程度行われているか,どの程度他者
る。
と共有するメタ認知的知識を有しているのかという
では,話しを戻して集団による解決に対するメタ
状況調査は為されていない。
認知のあり方を見ていこう。まず,日本において集
― 23 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表1:メタ認知の拡張(髙井, 2012,p.86)
これまでのメタ認知
拡張されたメタ認知
メタ認知的知識の価値付 第一次の実現可能性
第二次の実現可能性
け
間主観
主観
メタ認知的技能
(モニタリ 自己内
自己,他者,他者間,教室全体
ング)の範囲
主たる指導方法
自力解決における教師と生徒間 練り上げにおける教室集団全体へのメタ認
のメタ認知的支援,ペアによる社 知的支援,教室集団の制御
会的相互作用交渉
数・数学の問題を,既習の知識を用いることで解決
(2)狭義から広義の問題解決に対して
次に,狭義の問題解決から広義の問題解決に広が
を図るということが認知的過程の流れである。その
りを見せる問題解決過程に対してメタ認知がどの程
際に算数・数学で学習したどの知識,技能,ストラ
度寄与するのかを考えていこう。
テジーが使えるかということをモニタリングし,実
まず,岩崎(2007)によると,数学化のモデルにお
際に活用するというのが,認知とメタ認知の関係で
ける 4 つの矢線部に対して,
「記号化」
,
「解法」
,
「文
ある。つまり,算数・数学という固有な領域内の知
脈化」
,
「確認」(p.101)という活動が行われるとし,
識・技能をメタ認知によって制御できれば解決可能
これについては,以下のように述べている。
な状態となり,これまでのメタ認知研究ではその部
分に焦点が当てられてきているということである。
数学の問題は現実のままではありえない。それは
問題として意識化された内容であり,その程度にし
たがって言語化され,記号化される。そしてこのよ
うに記録されれば,記述された世界で解答が図られ
る。その解答過程は,言語・記号に基づく判断の連
鎖と考えられるから,論理・巣学の介入する余地が
生ずる。しかし,解答が解決になるというのは,現
実との対応の問題であって,それは論理・数学を超
えた経験の領域である。(岩崎, 2007, p.101)(下線部は
筆者挿入)
しかし,広義の問題解決においては,数学という
固有な領域は,
「数学の問題」→「数学的解答」とい
う部分だけであり,
「現実の世界の問題」→「数学の
問題」
,
「数学的解答」→「現実的解答」
,
「現実的解
答」→「現実の世界の問題」という 3 つの過程部分
については,これまでの数学教育におけるメタ認知
研究の成果だけでは,どの程度影響を与えるのかは
わからない。
また,矢線部はいずれもメタ認知的営為を示唆して
具体的に考えると,
「現実の世界の問題」→「数学
おり,
「数学が『思考の道具』である限り,数学とメ
の問題」
において,
どのような認知的要素が必要で,
タ認知はコインの裏表の関係にある」(p.101)とも指
それを使えるかどうか判断するようなメタ認知的知
摘している。
識はどういったものが必要なのかということを考え
この岩崎の言に従えば,広義の問題解決において
なくてはいけない。他にも,
「数学的解答」→「現実
もメタ認知は有効にはたらくということになるが,
的解答」において,本当に正しいかどうかを検討す
上記の下線部にあるように,
「文脈化」
,
「確認」にお
る際に,メタ認知がはたらくというが,そもそも既
いては,数学を超えた経験が必要となることから,
習事項とは何なのかということがわからない。
狭義の問題解決においてはたらき,培われるメタ認
つまり,広義の問題解決においてはメタ認知が必
知的知識では,対応できないと,解釈することがで
要だが,どのようなメタ認知が必要なのか,そもそ
きる。
もメタ認知がはたらくのかという,根本的な問題が
そもそも狭義の問題解決においては,新たな算
残されているといえよう。
これについては,統計教育に視点を変えて考察し
― 24 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
げることを,生徒に持たせるような思考習慣
(Cuoco et al, 1996 p.378)
てみたい。何故統計教育かというと,現実との関係
性が高い分野であり,PPDAC サイクル(Wild &
Adaptive reasoning:概念,状況,数学的方法もし
くは主張の正しさを正当化したり最終的に証明
したりすることの関係性について論理的に思考
する能力。同様に adaptive reasoning には,パタ
ーン,類推,もしくはメタファーに基づく推論
が含まれる。(Kilpatrick et al, 2001, p.170)
Pfannkuch, 1999)(Problem→Plan→Data→Analysis→
Conclusion)と呼ばれる解決過程と数学化のモデル
の共通部分が多いからである。
PPDAC サイクルの流れは,以下の通りである。
現実世界の問題を解決可能な形に定式化し
(Problem),何を測定するかを決めその方法を考える
(Plan)。そしてデータを収集・整理・クリーニングし
(Data),統計的手法を持って処理する(Analysis)。最
後に,分析結果に基づいた解答を得て,根拠も含め
て伝える(Conclusions)。
また Gal(2005)は,
「統計的リテラシー」という統
計教育における育成すべき能力を挙げ,
「統計的リテ
ラシーとは,統計的情報,データ関連の議論,また
は確率的現象について解釈し批判的に評価する,そ
この統計的リテラシーにおいて本研究に示唆を与
える部分としては,認知的要素における「文脈的知
識または世界認識」
,
「批判的な問いの知識」という
ものである。ある意味では,現実の問題を扱うのだ
から当たり前のことかもしれないが,統計領域以外
の知識を統計教育において必要な力とするのは,非
常に興味深い。つまり,統計教育だけでは能力の育
成が完結せず,他の教科や生活経験までを視野に入
れた教育のあり方を模索しているということである。
して関連するときは自分の意見を述べるための人々
の能力」(p.44)としている。つまり,統計的リテラシ
ーとは現実の問題を統計的手法によって明らかにす
るために必要な能力であり,広義の問題解決に対し
てどのようなメタ認知が必要なのかということにつ
いて示唆を得ることができると考える。
Gal(2005)は,統計的リテラシーを「認知的要素
(cognitive components)」と「付属的要素(dispositional
components)」に分け,認知的要素には「リテラシー
スキル」
,
「統計的知識」
,
「数学的知識」
,
「文脈的知
識または世界認識」
,
「批判的な問いの知識」という
5つの知識基盤が含まれており,付属的要素には,
「批判的姿勢」
,
「信念や態度」という存在が含まれ
また,付属的要素の「思考習性」
,
「適応性のある
推論」
,
「信念」は,
「高次の思考(higher-order thinking)」
(Lesh & Zawojekski, 2007, p.770)と呼ばれるものであ
り,メタ認知もこの高次の思考に含まれている。こ
のことから,
付属的要素とはメタ概念を指しており,
認知的要素を支えるものとして機能していると考え
ることができる。では,
「メタ認知=付属的要素」と
いうように書き換えられるかというと,それは過大
解釈すぎるであろう。何故なら,Gal(2012)で追加さ
れた「思考習性」
,
「適応性のある推論」は,明確な
目標に対して行うメタ活動であり,メタ認知という
非常に広い概念ではなく,統計教育の認知的要素に
対応した固有なメタ活動であるといえよう。
ている(リテラシースキルは,統計的リテラシーと
は違うものであり,
「テキスト情報を理解するという
意味」(Gal, 2012, p.5),つまり「読み書き算盤」とい
う識字能力と捉える)
。
さらに Gal(2012)は,付属的要素に「解決を積極的
にするプロセス(enabling process)」を入れ,そこには
「思考習性(habits of mind)」,「適応性のある推論
(adaptive reasoning)」を含めている。
Habit of mind:一般的な発見法や,様々な異なる状
況においても適用できるアプローチの範囲を広
以上のことから,メタ認知に対して示唆されるこ
とは,数学以外の認知的要素を取り入れ,その知識
をどの場面で使うことができるのかということ,そ
して,広義の問題解決のそれぞれの過程において,
単にメタ認知をはたらかせるということではなく,
過程にあった明確なメタ認知的活動とは何かという,
2 点を明らかにすることである。
4.おわりに
― 25 ―
本発表では,授業における個人から集団解決,狭
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
義から広義の問題解決という問題解決の拡充の流れ
からそれぞれでこれからのメタ認知のあり方につい
ての考察を行った。結果として,個人から集団解決
への拡充に対しては,メタ認知の拡張により対応で
きると考えるが,授業の練り上げ以外の場面でのメ
タ認知のはたらきの検討,拡張したメタ認知に関す
る状況調査が課題として残されている。一方,狭義
から広義の問題解決に対しては,現状のメタ認知研
究では対応しきれないものとして,数学以外の知
識・技能(文脈的知識や世界認識)をどのように捉
え,それに対するメタ認知をどのような状況で育成
すべきかという大きな問題が示唆された。
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― 26 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
高大産連携による科学技術人材の育成 ~兵庫「咲いテク(Sci-Tech)
」事業~
Fostering scientists and engineers by cooperation with High Schools, Universities, Industry
長坂賢司
繁戸克彦
中澤克行
杉木勝彦
NAGASAKA,Kenji SHIGETO,Katsuhiko NAKAZAWA,Katsuyuki SUGIKI,Katsuhiko
兵庫県立神戸高等学校
Hyogo Prefectural KOBE High School
[要約]
「地域の高校生の科学技術分野における探究活動」をキーワードとして,主に高校生の探究活動
の普及や充実及び高校と大学,企業,研究機関など異業種間との交流を通して相互理解を深めることを目
的とした兵庫「咲いテク(Science&Technology,Sci-Tech)
」事業を実施した.本事業で,探究活動に関す
るプログラムを実施し,また,高校及び大学,企業,研究機関などが科学技術分野の合同研究発表する「サ
イエンスフェア in 兵庫」を開催した.ここでのアンケート調査により,参加者同士の交流が非常に活発に
おこなわれ,高校生の科学技術分野への期待と憧れを十分に強めたことがわかった.高校の探究型科学教
育を通した新たな科学教育推進のモデルとして報告する.
[キーワード]探究活動,課題研究,科学教育,SSH,高大産連携
とする.これらの活動は主に部活動,SSH,理数科や専
Ⅰ.はじめに
日米欧や世界各国で理数教育の充実が図られている. 門学科及び自然科学系コース等を有する高校で実施さ
中でも,探究型科学教育(inquiry-based science
れ,普通科でも,
「総合的な学習の時間」等で実施され
education,IBSE)の重要性が示され,この効果も報告
始めている.また,近年では,高校生の科学技術コン
されている(科学技術振興機構,2008)
.ここでは,
「探
テストも整備され,高校生の探究活動に対する理解が
究とは,問題を診断し,実験を批評し,別の選択肢を
広がっている.しかし,普通科の高校では,探究活動
区別し,調査を計画し,推論を研究し,情報を探索し,
を対外的に発表する機会が毎年ある割合や自らの指導
モデルを構築し,仲間と議論し,論理的一貫性のある
技術について肯定的な回答をした教員の割合が低いな
論旨を形成する意図的な過程」と定義されている.
どが報告(科学技術振興機構,2010)されている.
一方,我が国では,科学技術基本計画が策定され,
また,このような探究活動を外部がサポートする仕
学校教育による理数教育・技術教育の充実が掲げられ
組みはまだ十分ではなく, 地域として,高校生の探究
ている(文部科学省,2011)
.その1つがスーパーサイ
活動をサポートするには,高校並びに大学,企業,研
エンスハイスクール(以下,SSH と略記)である.平
究機関(以降,各団体と表記)などが連携して体制を
成26年度は204校が文部科学省から指定を受けており
つくることが重要である.兵庫県には多くの大学や研
(文部科学省,2014a)
,兵庫県立神戸高等学校(以下,
究機関があり,さらに,神戸市は医療関連産業の集積
本校と略記)は平成 25 年度に3度目の指定を受け,理
及び産学官の連携を推進するクラスター地域であるが,
数教育の研究・開発に取り組んでいる(兵庫県立神戸
地域の各団体の関係者と教育関係者(特に教員)が直
高等学校,2008~2013)
.これら SSH 指定校では,高校
接情報交換する場が今まで少なく,現場レベルでの相
生の科学技術分野の探究活動である「課題研究」に取
互理解が進まなかったと思われる.これらを踏まえ,
り組んでおり,本校もこの探究活動によってさまざま
本研究では,
「地域の高校生の科学技術分野における探
な力が育成できると認識し,その充実を図ってきた.
究活動」をキーワードとし,高校生の探究活動の発展・
なお,本文でいう探究活動とは,「情報を収集し,仮説
充実及び企業や大学,研究機関など異業種間との交流
(テーマ)を設定し,観察や実験を計画し,観察や実験
を通して相互理解を深めることを目的とした兵庫「咲
で検証し,データを分析することを一定期間継続的に
いテク(Science&Technology,Sci-Tech)
」事業を実
実施し,仮説
(テーマ)
は科学技術分野に関連したもの」
施した.以下でその実施状況及び「サイエンスフェア
― 27 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
in 兵庫」でのアンケート調査の結果を報告する.なお,
的とし,以下の4つの取組を実施している.
高校と各団体とが相互理解をし,地域社会が探究型科
(1)兵庫「咲いテク」事業推進委員会の組織・運営
学教育をサポートすることで,地域或いは国全体の活
(2)兵庫「咲いテク」プログラムの実施
性化が図れるのではないかと期待している(図1)
.
(3)「サイエンスフェア in 兵庫」の開催
(4)兵庫「咲いテク」ネットワークの構築への取組
地域力向上→魅力ある兵庫、神戸
兵庫「咲いテク(Sci-Tech)」事業
科学・技術イノベーション人材
科学・技術活用人材
科学・技術のよき理解者
企業・研究機関
サイエンスフェアin兵庫
参加・出展
高等学校と大学、企業、研究機関等との科学技術分野
における合同成果発表会・交流会
地域・社会
大学
課題探求能力の修得
企画・運営
成果の普及
成果の普及
参加・
探究型科学教育
新たな
科学技術人材育成
プログラム開発
課題研究的な活動を中心とした人材育成プログラム
・PDCAのプロセス
・コミュニケーション
小・中・高校
「生きる力」の育成
・確かな学力
・健やかな体
・豊かな心
共同開発
兵庫「咲いテク」プログラム
合同実験実習会
・情報活用能力 等
意欲
態度
思考力
判断力
表現力
情報交換会
・共同研究等
・交流会
交流合宿
指導書の活用
知識
技能
開発
企画・運営・
評価
企画・
参加・
兵庫「咲いテク」事業推進委員会
家庭
参加・
発表
図1 探究型科学教育による地域力の向上
連携校
参加
連携・意見交換
出展・
●県内SSH指定校
評価
(神戸高・三田祥雲館高・尼崎小田高・明石北高・加古川東高・豊岡高・
龍野高・神戸市立六甲アイランド高・武庫川女子大附属中高)
●県教育委員会 ●大学・企業関係者等
参加・連携依頼
参加・
協力依頼
Ⅱ.本校の取組と兵庫「咲いテク」事業
体制の構築
助言
参加
1.概略
大学・企業・研究機関・
平成 26 年現在,兵庫県内では本校含めた9校が SSH
関係機関等
の指定を受けている.本校では,8つの力(問題を発
見する力,未知の問題に挑戦する力,知識を統合して
図2 兵庫「咲いテク」事業概念図
活用する力,問題を解決する力,交流する力,発表す
る力,質問する力,議論する力)を科学技術分野で国
なお,本事業は現在,平成 25 年度に本校が採択され
際的に活躍できる力と定義し,
「サイエンス入門」
「課
た SSH「科学技術人材育成重点枠」
(3年間)の取組と
題研究」
「科学英語」
「数理情報」
「理数理科」などの科
して実施している(文部科学省,2014b)
.
目,施設見学や特別講義などで,力の伸長に取り組ん
2.兵庫「咲いテク」事業推進委員会の組織・運営
できた.そして,特に「課題研究」はこの8つの力を
兵庫県教育委員会事務局高校教育課長を委員長,本
大きく伸長させることがわかった.なお,本校の「課
校校長を運営委員長,本校を事務局,県内 SSH 指定校
題研究」は,総合理学科第2学年で実施し(週1回,
担当者を委員,企業・大学関係者を顧問とした兵庫「咲
1年間)
,生徒は,研究テーマの設定,実験・観察の計
いテク」事業推進委員会で本事業全体を運営する.
画及び実施,データの分析,論文・ポスター作成,発
3.兵庫「咲いテク」プログラムの実施
表会の実施など研究に関わる一連の流れを経験する.
県内 SSH 指定校が幹事校となり,地域の高校等との
これらの活動を地域に普及し,地域の理数教育の充
共同実験実習会やフィールドワーク,情報交換会など
実を図るために新たな合同発表会を企画・実施するこ
を実施する.実施に際して,大学や企業,研究機関等
とにし,平成 21 年2月に「第1回サイエンスフェア
の協力を得るなどし,相互理解を図る.
in 兵庫」を開催した.翌年には,
「第2回サイエンス
4.
「サイエンスフェア in 兵庫」の開催
フェア in 兵庫」を高校だけでなく,大学や企業,研究
高校生の科学技術分野の探究活動の発表の場,及び
機関等の出展も得て,神戸国際展示場第2号館(神戸
異業種間の交流の場として,以下のように実施する.
市中央区)で実施した.そして,平成 22 年度に,本校
a.目的
がコア SSH(地域の中核的拠点形成)に採択され(3
① 高校生・高専生の科学技術分野における研究や実
年間)
,県内 SSH 指定校と県教育委員会とで兵庫「咲い
テク」事業推進委員会を組織し,
「兵庫「咲いテク」事
践の拡大,充実,活性化を図る.
② 科学技術分野の研究・開発に取り組む団体間の交
業を現在まで展開してきた.本事業は,主に高校生の
探究活動の発展・充実及び企業や大学,研究機関など
流を促進し,ネットワークの形成を図る.
③ 将来の日本を担う若者の科学技術分野への期待と
異業種間との交流を通して相互理解を深めることを目
― 28 ―
憧れの増大を図る.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
b.主なプログラム
3.
「サイエンスフェア in 兵庫」の開催
① 高校生・高等専門学校生によるポスターセッショ
a.全体の日程
ン発表(以降,高校生ポスター発表と略記)
本企画は1月中旬~2月上旬の日曜日に実施してい
ポスターを貼ったパネル(W90cm×H210cm)の前で,
る.第1回は本校で,第2回以降は神戸国際展示場第
各班は3回程度の発表(発表 10 分,質疑応答3分,
2号館で以下のように実施し,
効果の向上を図った
(図
移動2分)をする.
3)
.
その中でスペシャルメッセージも実施した
(表2)
.
10:00
② 企業・大学・研究機関・高専によるポスターセッ
ション発表(以降,各団体ポスター発表と略記)
高校生に対して,科学技術分野に関する話題や経験
14:00
15:00
16:00
開
会
行
事
高校生
発表1
(3回)
昼食
高校生
自由
発表2
鑑賞
(3回)
各団体
発表
閉会
行事
第5回
開
高校生
会 スペシャル 自由
発表1
行 メッセージ 鑑賞
(3回)
事
昼食
高校生 自由
発表2 鑑賞
(3回) 2
各団体
発表
閉会
行事
スペシャル
レクチャー
スペシャル
レクチャー
高校生
発表1
(3回)
開
会 スペシャル
行 メッセージ
事
第6回
談を伝えるスペシャルメッセージを実施する.
5.兵庫「咲いテク」ネットワークの構築への取組
13:00
第4回
鑑賞とし,来場者は自由にブースを見学する.
③ スペシャルメッセージ
12:00
第3回
ポスターを貼ったパネル(W90cm×H210cm,2枚)
及び展示物の前で,出展者が来場者に説明する.自由
11:00
開
会
行
事
高校生
発表2
(3回)
昼食
昼食
閉
会
行
事
各団体
発表
高校生
発表
(5回)
各団体
発表
フリーセッ
閉会
ション
(自由 行事
鑑賞)
図3 「サイエンスフェア in 兵庫」の日程
高校だけでなく,大学や企業,研究機関等の参加者
が一堂に会して,相互理解を図る場を創出する.
表3 スペシャルメッセージ(レクチャー)
第3回
題目
スペシャルレクチャー(40 分)
「日本独自の複合化技術を神戸から世界へ」
第4回
スペシャルレクチャー(50 分)
Ⅲ.事業の実施
渡辺 充 氏(シスメックス株式会社 取締役 執行役員)
1.兵庫「咲いテク」事業推進委員会の開催
題目
年間7・8回実施し, 企画・運営,評価,広報等に
江口 至洋 氏
(理化学研究所 HPCI 計算生命科学推進プログラム)
第5回
関して検討した.
第6回
表1及び表2のように,多くの企画を実施し,多く
実施により,幹事校の参加者数が多い.
b.参加状況
表1 兵庫「咲いテク」プログラムの実施状況
参加校
参加生徒(人)
スペシャルメッセージ(合計 30 分)
太畑 貴綺 氏(大阪大学大学院理学研究科)
樋口 真之輔 氏(岡山大学教育学部)
の学校から参加を得た.なお,平成 23 年度は講演会を
企画数
スペシャルメッセージ(合計 30 分)
谷 沙織 氏(神戸大学大学院理学研究科)
大和 一恵 氏(パナソニック株式会社)
2.兵庫「咲いテク」プログラムの実施
H22 年度
H23 年度
H24 年度
H25 年度
H26 年度
「スーパーコンピューター「京」~生命に吹き込む新しい風~」
表4より高校ポスター数が増加している.これは,
参加教員(人)
92
174
6
51
11
62
2159
425
10
61
261
187
11
45
563
223
10
現在実施中
※参加者は延べ人数で幹事校及び県内 SSH 指定校の参加も含む
本企画が目標の1つとなってきたことと,県内で探究
活動に取り組む高校が増えたことが考えられる.各団
体の出展も,第3回以降は常に 40 を超えている.
表2 平成 25 年度 兵庫「咲いテク」プログラム一覧
プログラム名
幹事校
実施日
主な実施場所
数学探究~美しき数学の世界
県立明石北高等学校
7月 14 日(日)
第 6 回 科学交流合宿研修会-2013 サ
イエンスコラボレーション in 武庫川
-
武庫川女子大学附属中学校
・高等学校
7月 22 日(月)~
7月 23 日(火)
(1泊2日)
県立明石北高等学校
武庫川女子大学附属中学
校・高等学校および同大
学、丹嶺学苑研修センタ
ー、兵庫医科大学、関西
大学、神戸大学、大阪大
学等
竜山石の粉末を利用した陶芸科学
共同研究会
県立加古川東高等学校
兵庫県に生息するカタツムリの遺伝
子解析実験実習会
プラネタリウム解説体験~星空の感
動を伝えよう~
兵庫県下の付着海岸生物調査と遺伝
子解析実験・実習会
“Science and Art of Perfume”実験
実習会
課題研究中間発表会兼課題研究
研修会
第 4 回兵庫県内の高校・高等専門学校
における理数教育と専門教育に関す
る情報交換会
日本海形成に伴う多様な地形、地質を
探るフィールドワーク
小高連携のための教材開発「光ファイ
バーツリーの製作 ~小学生に感動
を伝えよう~」
県立神戸高等学校
7月 28 日(日)、
8月 17 日(土)、
11 月 24 日(日)
8月2日(金)、
8月 23 日(金)
表4 「サイエンスフェア in 兵庫」の発表参加状況
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
県立加古川東高等学校
兵庫県立神戸高等学校
県立三田祥雲館高等学校
8月 26 日(月)
明石市立明石天文科学館
県立尼崎小田高等学校
9月 14 日(土)
県立尼崎小田高等学校
神戸市立六甲アイランド
高等学校
9月 21 日(土)
神戸市立六甲アイランド
高等学校
県立加古川東高等学校
9月 25 日(水)
県立加古川東高等学校
県立神戸高等学校
10 月 20 日(日)
県立神戸高等学校
県立豊岡高等学校
11 月 24 日(日)
但馬北部各地
県立龍野高等学校
12 月 14 日(土)
県立龍野高等学校
発表
高校数
高校
ポスター数
10
29
25
34
37
37
19
51
58
82
89
103
発表
団体数
※なし
団体
ポスター数
※なし
28
41
40
47
49
48
61
70
54
50
総参加者数(人)
約 200
515
815
1422
1224
1389
※第3回以降が兵庫「咲いテク」事業として実施
高校のポスター数,発表生徒数が増え,高校ポスタ
ー数は第6回で 103 ブースに達し,各団体の発表も,
企業や研究機関から1ブースずつ,大学から複数のブ
ース出展を得て 50 ブースを超え,
第4回以降の総参加
者数は 1200 名を超えている(表5,表6)
.
― 29 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表5 「サイエンスフェア in 兵庫」の参加者内訳
第3回
第4回
第5回
第6回
462
879
868
935
222
358
356
405
240
521
512
530
104
150
99
815
145
185
213
1422
84
128
144
1224
141
147
166
1389
発 発表高校数
表 高校ポスター数
25
58
34
82
37
89
37
103
発表団体数
41
40
34
33
6
18
15
2
6
16
16
2
5
9
18
2
4
8
19
2
61
70
54
50
参 高校生
加
発表生徒
者
見学生徒
高校教員
各団体関係者
来賓,一般(当日)
総参加者数(人)
大学
企業
研究機関等
高等専門学校
団体ポスター数
互理解を進めることができた.
表7「第5回情報交換会」の概要
「第5回兵庫県内の高校・高等専門学校における理数教育と専門教育に
関する情報交換会~科学技術分野における人材育成~」
日程及び内容:平成 26 年 10 月 19 日(日) 本校にて実施
全体会① 12:30~14:00
・基調講演(神戸大学大学院システム情報学研究科 田中成典教授)
・地元企業・高校・大学によるパネルディスカッション
分科会
14:25~16:05 取組報告及び高大産の連携についての協議
全体会② 16:25~17:10 分科会での協議の報告
b.
「科学技術系人材に関するアンケート」の実施
平成 25 年度に,
各団体に科学技術系人材育成に関す
るアンケートを送付し,50 団体の回答を得た.アンケ
※同一大学の発表であれば,発表団体を1つとした
ートは 20 項目で,主に「高校年代の研究活動の普及・
表6「第6回サイエンスフェア in 兵庫」発表団体
音羽電機工業 株式会社 広報室
川崎重工業 株式会社 CSR 推進本部
ハリマ化成 株式会社 加古川 研究開発セ
ンター
シスメックス 株式会社
関西海事教育アライアンス,テクノオーシ
ャン・ネットワーク,日本船舶海洋工学会
海洋教育推進委員会
共和産業 株式会社 技術研究室
株式会社 新井組
株式会社 神鋼環境ソリューション 総務部
特許機器 株式会社 技術本部
関西ネットワークシステム(KNS)
第 30 回 ISTS 兵庫・神戸大会地元事業実行
委員会 事務局
神戸大学大学院理学研究科化学専攻固体化
学研究室
神戸大学 大学院工学研究科技術室
神戸大学 大学院理学研究科・化学専攻
神戸大学 発達科学部人間環境学科
神戸大学 発達科学部人間環境学科 自然
環境論コース
神戸大学サイエンスショップ 発達科学部
神戸大学大学院海事科学研究科 海事環境
管理研究室
神戸大学大学院海事科学研究科環境応用計
測科学研究室
神戸大学大学院海事科学研究科 電子物性
工学研究室
神戸大学大学院海事科学研究科 エネルギ
ー流体科学(宋)研究室
交換会の概要である.これにより,高校と各団体が相
発展に必要な取組」
「科学技術系人材として活躍するた
兵庫県立大学 天文科学センター西はりま
天文台
兵庫県立大学大学院 工学研究科 物質制
御計測化学研究グループ
めに,高校年代で身につけておきたい力,その力を伸
長するために今後必要な環境・体制・企画・組織,力
関西学院大学 理工学部 (5ブース)
を評価する方法」
に関する質問である.このアンケート
武庫川女子大学 薬学部 (3ブース)
により,各団体の考えへの理解が高校関係者で進み,
公益財団法人 ひょうご環境創造協会兵庫
県環境研究センター 水環境科
また,平成 25 年度の情報交換会にて報告することで,
独立行政法人情報通信研究機構 未来 ICT
研究所
独立行政法人理化学研究所 計算科学研究
機構
独立行政法人理化学研究所 放射光科学総
合研究センター
独立行政法人理化学研究所 HPCI 計算生
命科学推進プログラム(HPCI 戦略プログ
ラム 戦略分野1)
独立行政法人理化学研究所生命システム
研究センター
独立行政法人理化学研究所 ライフサイエ
ンス技術基盤研究センター 生命機能動的
イメージング部門
独立行政法人理化学研究所 発生・再生科
学総合研究センター 国際広報室
一般財団法人 近畿高エネルギー加工技術
研究所(AMPI)
公益財団法人 兵庫県健康財団
山陰海岸ジオパーク推進協議会
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研
究センター 健康科学部
兵庫県立工業技術センター 技術企画部
高大産の連携の足掛かりにできた.
Ⅳ.参加者の確認及びアンケート調査の実施
1.参加団体及び参加者の確認方法
本事業では,事前の申し込みで,氏名,学校や団体
を登録し,当日にも参加者の確認をしている.なお,
「サイエンスフェア in 兵庫」では,発表生徒,見学生
徒,参加教員,各団体の参加者を区別した確認もおこ
なっている。さらに,
「サイエンスフェア in 兵庫」の
一般の来場者には受付で記名させて,
確認をしている.
2.アンケート調査の方法
兵庫県立人と自然の博物館 生涯学習課
兵庫「咲いテク」プログラム及び「サイエンスフェ
神戸市 企画調整局医療産業都市推進本部
ア in 兵庫」では,平成 22 年度からそれぞれ同じ質問
神戸市立青少年科学館
用紙を使用して,参加者にアンケートを取った.
明石工業高等専門学校 都市システム工学
科
神戸市立工業高等専門学校 専攻科電気電
子工学専攻
a.兵庫「咲いテク」プログラム
開催日当日に参加者全員(生徒,教員等)に配布し,
プログラム終了後回収した(記名式)
.
4.兵庫「咲いテク」ネットワークの構築への取組
「サイエンスフェア in 兵庫」以外に,特に以下の取
b.
「サイエンスフェア in 兵庫」
当日に参加者全員に質問用紙とマークカードを配布
組によって,高校生の探究活動のサポート体制及びネ
し,閉会行事後にマークカードを回収する.無記名方
ットワークの構築についての検討を行った.
a.兵庫「咲いテク」プログラム:情報交換会の開催
高校及び地元の企業、大学、研究機関、高専等の関
式の選択回答(単一回答及び複数回答)で,マークカ
ードの裏面に自由記述欄を設けている.
係者が科学技術分野の人材育成に関する情報交換,交
流の機会の場として,
情報交換会を平成 22 年度から実
Ⅴ.
「サイエンスフェア in 兵庫」アンケート結果
施してきた.なお,以下の表7は,平成 26 年度の情報
― 30 ―
以下では,
「サイエンスフェア in 兵庫」の当日のア
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ンケート調査より,
「参加者同士の交流」及び「高校生
表9 参加者から発表生徒への質問回数
の科学技術分野に対する意識の変化」
について述べる.
質問 6
1.参加者同士の交流について
①1~3回(%)
38.6
30.2
41.8
46.6
②4~6回(%)
33.7
29.1
32.8
30.1
③7~9回(%)
10.8
10.5
9.0
6.8
④10 回以上(%)
1.2
8.1
1.5
6.8
15.7
22.1
14.9
9.6
①~④小計(%)
84.3
77.9
85.1
90.4
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
83
86
67
73
第3回
高校生ポスター発表と各団体ポスター発表で,参加
者間でどのような交流
(質問)
が行われたのかを示す.
⑤0回(なし)(%)
a.高校生ポスター発表での交流
高校生ポスター発表に関するアンケート項目を以下
に示す.表8は生徒用アンケート,表9は参加者用ア
発表者(生徒)に対して合計で何回質問をしましたか
第4回
第5回
第6回
b.各団体ポスター発表での交流
各団体ポスター発表に関して,表 10,表 13 は生徒
ンケートの結果である.これらから,以下がわかる.
用アンケート項目,表 11,表 12,表 13 は参加者用ア
① 生徒同士の交流
生徒の約5割が発表生徒に質問をし(表8質問 15①
~④小計)
,
発表生徒の約9割が見学生徒から質問を受
ンケート項目である.これらから,以下がわかる.
① 生徒と各団体発表者の交流
生徒の約8割が各団体発表者と話す機会を持ち(表
けた(表8質問 16①~④小計)
.
10 質問 19①~④小計)
,内容は主に団体の研究である
(表9質問 20~22)
.各団体発表者のほぼ全てが生徒
表8 高校生ポスター発表での質問状況
から質問を受け(表 11 質問 10①~④小計)
,それは主
質問 15 発表者に対して合計で何回質問しましたか。
第3回
第4回
第5回
第6回
①1~3回(%)
29.0
31.5
35.5
38.8
②4~6回(%)
9.8
8.6
9.6
9.4
③7~9回(%)
3.4
2.9
2.7
2.2
④10 回以上(%)
1.3
1.9
2.9
1.6
⑤0回(なし)(%)
56.5
55.1
49.3
48.1
①~④小計(%)
43.5
44.9
50.7
51.9
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
379
695
592
769
発表・見学生徒数(人)
462
879
868
935
回答率(%)
82.0
79.1
68.2
82.2
に団体の研究に関する質問である
(表 11 質問 11~13)
.
表 10 生徒と各団体発表者との交流
質問 19 合計で何人の発表者(ブースでの説明者)と話す機会がありましたか
第3回
第5回
第6回
33.8
40.5
49.5
49.3
②4~6人(%)
35.4
27.3
22.7
27.0
③7~9人(%)
7.6
8.1
5.5
6.5
④10 人以上(%)
3.8
4.2
4.3
1.6
15.6
⑤0人(なし)(%)
質問 16 生徒から合計で何回質問されましたか
(発表者として参加した生徒のみ回答)
第4回
①1~3人(%)
19.5
19.9
17.9
①~④小計(%)
80.6
80.1
82.0
84.4
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
814
有効回答数(人)
370
692
598
①1~3回(%)
37.8
38.2
33.1
39.8
発表・見学生徒数(人)
462
879
868
935
②4~6回(%)
25.0
30.9
38.7
30.0
回答率(%)
80.1
78.7
68.9
87.1
③7~9回(%)
16.9
11.1
9.5
13.0
④10 回以上(%)
5.2
8.0
8.1
6.6
15.1
11.8
10.6
10.7
①その研究に関する内容(%)
52.8
56.7
36.6
60.4
①~④小計(%)
84.9
88.2
89.4
89.3
②その団体に関する内容(%)
25.8
22.2
16.4
19.7
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
③その人に関する内容(%)
④あなたの学校での生活や
研究に関する内容(%)
⑤その他(%)
10.0
9.5
22.5
9.3
10.4
9.1
22.5
9.6
0.9
2.6
2.1
0.9
99.9
100.1
100.0
100.0
530
969
432
1177
第3回
⑤0回(なし)(%)
第4回
第5回
第6回
有効回答数(人)
172
262
284
347
発表・見学生徒数(人)
222
358
356
405
回答率(%)
77.5
73.2
79.8
85.7
質問 20~22 その人とは主にどのような内容を話しましたか(3つまで回答可)
第3回
合計(%)
質問 17 専門家(教員や関係者など)から合計で何回質問されましたか
(発表者として参加した生徒のみ回答)
第3回
第4回
第5回
有効回答数
第4回
第5回
第6回
※有効回答数からそれぞれの割合を算出した
第6回
表 11 各団体発表者が生徒から受けた質問
①1~3回(%)
52.7
41.9
46.4
44.0
②4~6回(%)
27.8
33.2
24.6
29.9
③7~9回(%)
8.3
9.4
7.6
10.5
④10 回以上(%)
3.0
8.7
5.4
5.7
①1~3人(%)
15.6
16.7
13.0
18.8
⑤0回(なし)(%)
8.3
6.8
15.9
9.9
②4~6人(%)
50.0
26.7
39.1
34.4
①~④小計(%)
91.8
93.2
84.1
90.1
③7~9人(%)
12.5
20.0
13.0
25.0
合計(%)
100.1
100.0
100.0
100.0
④10 人以上(%)
21.9
30.0
30.4
21.9
有効回答数(人)
169
265
276
334
0.0
6.7
4.3
0.0
発表・見学生徒数(人)
222
358
356
405
①~④小計(%)
100.0
93.4
95.7
100.0
回答率(%)
76.1
74.0
77.5
82.5
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
32
30
23
32
質問 10 何人の生徒から質問を受けましたか
第3回
⑤0人(なし)(%)
第4回
第5回
第6回
質問 11~13 その生徒から主にどのような質問を受けましたか(3つまで回答可)
② 発表生徒と参加者の交流
第3回
発表生徒の約9割が参加者(各団体関係者や教員,
一般参加者など)
から質問を受けたと回答している
(表
8質問 17①~④小計)
.また,参加者の約9割が発表
生徒に対して質問をしたと回答した
(表9①~④小計)
.
第4回
第5回
第6回
①団体の研究に関する
内容(%)
47.4
50.0
74.4
48.4
②団体に関する内容(%)
22.8
25.0
15.4
24.2
③説明者(あなた)に
関する内容(%)
21.1
25.0
10.3
25.8
8.8
0.0
0.0
1.6
100.1
100.0
100.0
100.0
57
52
39
62
④その他(%)
合計(%)
有効回答数
※有効回答数からそれぞれの割合を算出した
― 31 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
機関からも非常に多くの発表をする状況となり,その
② 参加者同士の交流
表 12(参加者用アンケート)により,参加者の約9
中で,参加者同士の交流が非常に活発におこなわれ,
割が各団体発表者と話をしていることがわかる(表 12
高校生の科学技術分野への期待と憧れを十分に強める
①~④小計)
.
ことができた.
さらに,情報交換会や各団体へのアンケ
ートの実施により,高校及び各団体と情報交換や相互
表 12 参加者と各団体発表者の交流
理解を図ることができた.しかし,連携の具体的な取
質問 8 合計で何人の発表者(ブースでの説明者)と話す機会がありましたか
第3回
第4回
第5回
第6回
①1~3人(%)
41.7
30.8
26.6
44.7
②4~6人(%)
35.7
35.9
39.1
30.3
③7~9人(%)
14.3
11.5
12.5
5.3
④10 人以上(%)
4.8
10.3
15.6
9.2
⑤0人(なし)(%)
3.6
11.5
6.3
10.5
①~④小計(%)
96.4
88.5
93.7
89.5
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
84
78
62
76
組みを始めるところまでは至れていない.今後もこの
事業を充実させながら,
これらのことにも取組みたい.
引用文献
以上により,高校生ポスター発表及び各団体ポスタ
兵庫県立神戸高等学校:兵庫県立神戸高等学校スーパ
ーサイエンスハイスクール研究開発実施報告書,
ー発表で,生徒同士,生徒と参加者,参加者同士の活
2008~2013.
発な交流がおこなわれたと言える.
科学技術振興機構理科教育支援センター:科学技術イ
ノベーションを支える卓越した才能を見出し,開花
2.高校生の科学技術に対する意識の変化について
させるために,2010.
表 13(生徒用アンケート)のように,
「科学技術分
野に対する期待や憧れ」は生徒の約8.5割が強まっ
たと回答し(表 13①~③小計)
,生徒以外の回答者の
科学技術振興機構理数教育支援センター邦訳:
「今日の
科学教育:欧州の将来に向けた新しい教授法」
,2008.
http://www.jst.go.jp/cpse/risushien/news/20081
約9割も強まったと回答している(表 14①~③小計)
.
017.pdf
表 13 生徒の「科学技術への期待や憧れ」の変化
(原文 European Commission : Science Education
質問 29 あなたの「科学技術分野に対する期待や憧れ」はどのように変化しまし
たか
第3回
第4回
第5回
第6回
①大いに強まった(%)
20.4
19.8
20.5
20.6
②強まった(%)
36.1
37.6
31.7
37.3
③少し強まった(%)
31.8
28.2
34.0
31.5
④特に変化はなかった(%)
11.7
14.4
13.8
10.6
①~③小計(%)
88.3
85.6
86.2
89.4
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
377
696
580
797
発表・見学生徒数(人)
462
879
868
935
回答率(%)
81.6
79.2
66.8
85.2
Now: A renewed pedagogy for the future of Europe,
2007.
http://ec.europa.eu/research/science-society/d
ocument_library/pdf_06/report-rocard-on-scienc
e-education_en.pdf)
国立青少年教育振興機構:高校生の科学等に関する意
識調査報告書,34,2014.
表 14 参加者から見た生徒の変化
文部科学省:第4期科学技術基本計画,2011.
質問 20 生徒の「科学技術分野に対する期待や憧れ」はどのように変化したと思
いますか
第3回
第4回
第5回
第6回
①大いに強まった(%)
18.1
25.6
16.7
25.3
②強まった(%)
44.6
48.8
47.0
43.0
③少し強まった(%)
30.1
19.5
27.3
21.5
④特に変化はなかった(%)
1.2
0.0
6.1
5.1
⑤分からない(%)
6.0
6.1
3.0
5.1
①~③小計(%)
92.8
93.9
91.0
89.8
合計(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
有効回答数(人)
83
82
66
79
文部科学省:平成 26 年度スーパーサイエンスハイスク
ール(SSH)指定校の内定等,2014a.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/03/1345
968.htm
文部科学省:科学技術人材育成重点枠研究開発課題,
2014b.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/03/1331
Ⅳ.成果と課題
269.htm
兵庫「咲いテク」事業の実施により,
「地域の高校生
の科学技術分野における探究活動」を共通のキーワー
ドにして,高校と大学,企業,研究機関など関係者が
参加する多くの場を設定することができた.また,
「サ
イエンスフェア in 兵庫」は,現在は 1300 名を超える
参加者で開催し,高校だけでなく,大学・企業・研究
― 32 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
7ZLWWHU 投稿に基づく「授業まとめ記事」のノート機能に関する研究
Proposal and Evaluation of Twitter-based Collective Note Taking Method
森 拓哉 鈴木栄幸
MORI, Takuya SUZUKI, Hideyuki
茨城大学
Ibaraki University
〔要約〕本研究では、7ZLWWHU と 1$9(5 まとめを用いたノートテイキング手法を提案し、評価実験を
行った。評価実験では大学生の2グループに紙ノート使用(以降、紙群)と 7ZLWWHU・1$9(5 まとめ使
用(以降、7ZLWWHU 群)の2条件で講義ノートを作成させ、授業後、確認テストを実施した。その結
果、講師の印象的な発言を挙げる問題と講義で紹介された5つの事例(理論)を挙げる問題において
7ZLWWHU 群が紙群よりも得点が高いことが確認できた。被験者が構成したノート内容を比較したとこ
ろ、7ZLWWHU 群のノートは紙群と比較して①情報量が多いこと、②自身の理解プロセスの再構成にな
っていること、が確認された。
〔キーワード〕ノートテイキング、7ZLWWHU、1$9(5 まとめ、協同学習,高等教育
研究から、講義に関するメモを Twitter を使って
はじめに
私たちにとってノートをとることは日常的な
投稿しあうことで共有し、それらの投稿を利用
行為である。あらゆる場面で情報を得て必要と
して個人のノートを構成するようなノートテイ
感じたとき、私たちはノートをとる。このノー
キング手法に思い至った。
トをとる」という行為を本研究ではノートテイ
研究の目的
クと呼ぶ。
岸・塚田・野嶋の研究では、ノートテ
本研究では、7ZLWWHU と「まとめサイト」を
イクによって授業の理解度が上がることが指摘
利用した共同学習的ノートテイクの手法を考案
されている。しかし近年では、ノートを取らな
し、紙でのノートテイクと比較することで効果
い・取れない大学生が問題視されている。沖田
を検証する。
によると、
「ノートをとらない・とれない」
のはほんとんどの大学に共通の現象である。こ
ノートテイク手法の提案
のような状況の中、大学生を対象としたノート
本研究では 7ZLWWHU と 1$9(5 まとめを用いて
テイキング支援やノーテイキング教育が注目さ
授業のまとめ記事を作成するようなノートテイ
れている。
ク手法を提案する。
一方、近年では学習環境に ,&7 の導入が盛ん
具体的には、①授業内容に対して 7ZLWWHU で
に行われている。今井・岡部は 7ZLWWHU
メモやコメントなどを自由に投稿し、グループ
によって異なる 大学間の授業を繋げた授業を
内で共有する、②「1$9(5 まとめ」を利用して
展開し、そこでは時間や場所の制約なく相互の
それらの投稿を配置・編集することでノートを
受講生が交流できること、第三者が授業に参加
作成する、という方法である。
しやすいこと等を確認した。75$)72 ら (2001)
手法の中で使用する 7ZLWWHU とは 文字で
はオンラインノートを使ったノートテイクの効
即時的に思っていることや考えていることを投
果を検討し、オンラインノートは問題解決や自
稿できる 616 であり、リアルタイムでフォロー
己説明に効果があると確認した。これらの先行
しているアカウントの投稿情報見ることができ
― 33 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
る。
「1$9(5 まとめ」とは特定の視点を元にあら
②授業中に 7ZLWWHU 群は 7ZLWWHU で授業を受講
ゆる情報を収集・選別し、自由に組み合わせ、
してメモやコメントなどを投稿していく。対し
ひとつのページにまとめて保存・紹介し、一般
て紙群は紙にメモやコメントなどを書いてノー
に共有するサービスのことである。画像や
トを作成。
7ZLWWHU 投稿、ZHE ページなどを使用することが
③授業終了後、7ZLWWHU 群は 1$9(5 まとめでま
できるのも特徴のひとつである。
とめ記事を作成。紙群は紙にてノートを完成さ
本手法の期待される利点は以下の通りである。
せる。その際、清書してもしなくてもよい。
7ZLWWHU の持つ即時性や他者情報を確認できる
④一週間後、出来上がったノートとまとめ記事
ことから①鋭いツッコミなどノートでは書かな
を回収。その後、確認テスト①を実施。
いことがみられる、②複数の視点から学ぶこと
⑤ つのグループの条件を入れ変えて①~④を
ができると考えられる。また共有した 7ZLWWHU
繰り返す。ただし④では確認テスト②を実施。
図 に実験の流れを示す。
等を 1$9(5 まとめを使って再配置・再編集する
ことで①理解するための材料が多くなる、
また、
②投稿を編成することで授業の流れをもう一度
思い出すことができる、と考えられる。
評価実験
提案した手法の学習効果を確認するために評
価実験を実施した。実験は被験者を2つのグル
ープに分けて実施した。
被験者
図 実験の流れ
人文系大学生 名。
実験環境
表1に確認テストの内容を示す。
対象としたのは「学習環境デザイン論」とい
うタイトルの授業である。この授業は、パソコ
表 確認テストの内容項目
ン教室でパワーポイントを使用して行われた。 回のうち4回を実験に充てた。1回目は実験
の説明と 7ZLWWHU 投稿やまとめ記事作成の練習。
2,3回目がノートテイキング対象講義(講義
1、講義2)であった、3回目と4回目の開始
直後には前回講義の確認テストを行った。講義
1では、社会構成主義の5つの具体例について、
講義2では社会構成主義の つの理論について
扱った。
実験の流れ
①7ZLWWHU・1$9(5 まとめを用いた手法を使うグ
ループ(以下、7ZLWWHU 群)と紙のノートを使
うグループ(以下、紙群)の つに分ける。紙
ノート群のために、下書きスペースと清書スペ
ースからなるノート用紙を配布した。ノートは
確認テスト①、②の内容は殆ど同じであるが、
授業中に書き終えても、後で清書しても良いと
被験者に伝えた。
講義1と2の内容が同じではないため、知識を
― 34 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
説明させる問題については若干質問に仕方を変
えた。また同じ理由で5つの例(理論)を書き
挙げる問題でも、テスト①では事例をテスト②
では理論を挙げさせた。
結果と分析
事例の分析
図2は講義1の終盤における 7ZLWWHU 投稿で
ある。
図3 1$9(5 まとめの例
ノートは、用語
(バフチンの対話理論や専有)
とその説明の記述から始まる。その後、被験者
$ は、「バフチンさんは良くこんな考えを・・・
何でこんな小難しいの?」という他の学習者の
図 7ZLWWHU 投稿の例
感想コメントを引用してくる、そしてその直後
に「専有ってなんだ?難しい。。
。」というテキス
図2は上の投稿が最新の投稿、下はそれより
トを追加した。用語説明をまとめることは出来
前の投稿である。「やべぇバフチンマジパネェ」
たが、実はよく理解できないという共有された
「ひかごおおおおお」といった私語に類するコ
「実感」がここに現れている。ここから、被験
メントから、
「ひとりでできた活動でもお母さん
者 $ は専有概念に関する投稿をさらにまとめて
の言葉、行動に支配されてたり」といった自分
いく。単なる定義だけではなく、
「あーそうです
の経験を絡めた発言、
「一人で出来るようになっ
かは対話じゃない」といった他の学生による個
たとき、その能力は誰のもの」といった疑問が
人的理解を示すような投稿を引用しながら、つ
発信されているのが確認できる。これらの投稿
いに、
「ちょっとわかった気がする」というテキ
を用いて被験者 $ は 1$9(5 まとめの記事を作成
ストを挿入するに至る。さらに最後の部分に具
した。その一部を図3に示す。
体例や経験談を使用することで理解を固めてい
図3に挿入された赤い矢印と四角形囲みは筆
るのが確認できる。このノートには、被験者 $
者らが説明のために挿入したものである。矢印
が 7ZLWWHU 投稿をもとに改めて講義内容を辿り、
は理解までの流れを表し、四角形の囲みは同系
理解を再構成していった過程が現れている。
統の投稿のまとまりを示している。
一方、紙のノートは用語と用語説明のセット
で構成されていた。多くが、講義スライドから
得た情報をそのまま書き写したものであった。
― 35 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
このような特徴は紙群の被験者全員に共通して
と考えられる。また 1$9(5 まとめによってそれ
いる。
らの投稿が利用されることで授業全体の振り返
ノート事例の比較より、7ZLWWHU・1$9(5 まと
りとなり記憶を強くしていると考えられる。
めを利用したノートテイクでは理解までの過程
また 7ZLWWHU 群は紙群より合計点の散布度が
が可視化されることと情報の種類が多いことが
小さいこともわかった。これは 7ZLWWHU によっ
確認できた。
て聞き逃した情報や個人の経験を絡めた理解を
確認テストの分析
グループ内に共有したことで知識量や理解が均
表2に各群の設問ごとの得点を示す。
一化したと考えられる。
実際のノートと記事の構造の比較から、
表2 各群の設問ごとの平均得点
確認テスト①
確認テスト②
7ZLWWHU 紙
7ZLWWHU 紙
知識説明
事例(理論)列挙
講師への質問
印象的発言再生
問題作成
合計得点
7ZLWWHU・1$9(5 まとめによるノートは紙ノート
おわりに
と比較して情報量が多いこと、そして、理解の
プロセスが再構成されていることがわかった。
このことは授業に関する知識などの記憶と理解
を補強する効果があると期待できる。
7ZLWWHU・1$9(5 まとめを利用したノートテイ
確認テスト②の印象的な発言をあげる問題では
7ZLWWHU 群は紙群よりも平均点が高く、W 検定に
ク手法考案し、紙との評価実験を実施した。
よって の優位差が認められた(W GI いくつかの点で 7ZLWWHU・1$9(5 まとめを利用し
S )。
またその他の各項目での 7ZLWWHU 群と
たノートテイクと紙によるノートテイクの学習
紙群の得点間に有意差は認められなかった。
効果が確認できた。
今後は、学習手法と利用メディアの関係につ
合計得点にも有意差はなかった。得点分布を
比較 ] したその結果、テスト①、②ともに
いて詳細に分析することをとおして、手法の改
7ZLWWHU 群では紙群よりも散布度が小さい傾向
善をおこなう。
が見て取れた。
次に 7ZLWWHU 使用時と紙ノート使用時の被験
引用及び参考文献
者内の得点変化を検討した。平均点の異なる2
『気付きから学びへ -東レ経営研究所 人材
つの確認テストの得点を比較するため、得点を
開発の現場から-第七回 東大生もノートを
偏差値に変換した。その結果、 つの例(理論)
とらない・とれない』
を挙げる問題と合計において 7ZLWWHU 利用時の
(沖田 浩 特別研究員東レ経営研究所 経営
方が、紙ノート利用時よりも得点が高かった W
センサー 月号 1R)
検定の結果 水準で有意であった(W 岸俊行・塚田裕恵・野嶋栄一郎()
「ノート
GI S )。その他の項目には有意差は認
テイキングの有無と事後テストの得点との関連
められなかった。
分析」『日本教育工学論文誌』
(VXSSO
考察
今井福司・岡部晋典()
「7ZLWWHU を用いた
確認テストから、印象的な発言をあげる問題
大学間授業実践」『情報の科学と技術』 巻 と5つ例(理論)を挙げる問題において 7ZLWWHU
号
群が紙群より効果が高いことが確認できた。こ
75$)721-*DQG75,&.(776%()
のことは 7ZLWWHU が即時的に投稿でき共有でき
Note−Taking for Self([SODQDWLRQDQGSUREOHP
る点から講義内容にあまり関連性のない発言や
Solving. Human−Computer Interaction,16():
聞き逃した情報を確認することができるからだ
1−38
― 36 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
能動的な美術作品鑑賞のためのタブレット端末用アウェアネス共有システムの開発
Development of an awareness sharing system for a tablet terminal
for active appreciation of artistic works
宮田和美*1,赤間彩織*1,堀舘秀一*1,舟生日出男*1
MIYATA, Kazumi*1, AKAMA, Saori*1, HORITATE, Hidekazu*1, FUNAOI, Hideo*1
創価大学教育学部*1
Faculty of Education, Soka University*1
〔要約〕座学における美術作品の鑑賞において、学生の感じた事柄を言語化し表明することで主体的
に参加することができる。また言語化することで、鑑賞方法が構造化され定着し、教師も学生の理
解状況を把握することが可能になると考えられる。しかし、座学においては一般的に、学生は消極
的・受動的であり、そうした活動は難しい。そこで本研究では、美術作品の注目箇所をアウェアネ
スとして外化・共有し、それに基づいて、学生が何を感じ、考えたのかを全体に表明することを促
すことで、教師・学生間のインタラクションを活性化することを目的として、
「タブレット端末用ア
ウェアネス共有システム」を開発した。
〔キーワード〕美術作品、鑑賞教育、アウェアネス、外化、共有、タブレット端末
った過程を通し、言語化される(向角, 2013)。
1. はじめに
美術作品の鑑賞は、美術教育における領域の 1
しかしながら、一般的に座学において、学生は
つである。教室において行われる座学では、一斉
受動的・消極的な受講態度に陥りやすい。まして、
授業で作品のレプリカを学生に提示したり、作品
美術に対する関心の低い学生にとっての座学は、
をプロジェクターに投影したりするなどの工夫
なおさらそのような受講態度になると考えられ
がなされる。その際、教師から、作者や年代、文
る。その上、美術に関心があったとしても、その
化的背景や関連作品など作品についての情報の
ような受動的・消極的な学生の多い教室の雰囲気
他、視点や角度、作品との距離の取り方など、鑑
内では、自身が作品に対し、感じたことや考えた
賞する上でおさえるべきポイントが示される。例
ことを表明することは難しいと考えられる。
えば 4 つの作品要素(主題、表現性、造形要素、
このような状況下において教師は、自身の指導
スタイル)と 6 つの鑑賞行為(連想、観察、感想、
内容を学生らがどれだけ理解しているのか判断
分析、解釈、判断)からなる鑑賞レパートリー(石
することは困難である。学生が作品に対し、どの
崎・王, 2006)や、仏像鑑賞における「迎角」
(水
ように感じ、また考えたのかを表明することがで
野谷, 2010)のように、観る方法や観るべきポイ
きれば、その内容から教師も、学生の理解状況を
ントは美術作品ごとに様々である。
つかむことができるだろう。
また、美術作品を鑑賞して終わるのではなく、
また、言語化し意見を表明することにより以下
観るべきポイントに沿い、そこから感じた内容を
の点が期待される。曖昧な感覚であった違いが明
言語化し、表明することも重要である。作品を通
確になり、より作品の理解・鑑賞も進むと考える。
して感じたことや考えたことなどを言語化する
そして、それが鑑賞の一方法として生徒に定着い
ことで、それらが明確になる。
できれば、生徒は今後、鑑賞した美術作品を自分
どのような実践で言語化を行うことが可能だ
で分類整理し、自分の美術作品趣味体系を作りあ
ろうか。例えば、中学生を対象に、「スパイダー
げる事も不可能ではない。(有田, 2009)そして、
チャート」を用いた実践では、事物や事象の発見、
鑑賞の方法が生徒に定着すれば、それが構造化さ
それらから感じるイメージの想起、想像の理由や
れ保有される。発達者は基盤となる知識を幅広く
根拠づけ、作品への同化、作品鑑賞のまとめとい
保有しているだけではなく、それぞれが構造化さ
― 37 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
れているために、知識にアクセスする能力が非常
や、自身が異なる個所が着目されていること
に高い。
(王・石崎,2009)そこから美術作品鑑賞
が分かり、新たな気づきにつながる。
c. 教師は共有したアウェアネスを活用して、感
のための下地が完成する。また、意見を表明する
ことで、学生は主体的に講義に参加できるだろう。
じたことや考えたことの意見表明を、学生に
以上のことから、本研究では、美術教育の座学
促す。このようにすることで、自主的には発
における美術作品の鑑賞において、学生が作品に
言できなかった学生にとって、言及すべき対
対し何を感じ、考えたのかを表明することを促す
象や内容が明確になる。またそのことによっ
ために、アウェアネスの外化に着目した。
て、発言しやすくなる、もしくは、発言しな
アウェアネスの外化の先行研究として、理科実
ければならないという感覚を与えることが
験の指導場面を描写したマンガ教材をタブレッ
できる。また、コンピューターの学習プログ
ト端末上に表示し、着目した箇所(アウェアネス)
ラムには、多くの情報へのアクセスやインタ
にピンを打つように外化した後、他の学習者と共
ラクティブな学習を通して、個人の自主的な
有するシステムが開発されている。
学習ができることが期待される。(石崎・王,
2004)
初任教師や教職課程の学生を対象としたこの
システムの活用により、対話活動は活性化され、
アウェアネスを外化する手段は他にもあるだ
理科実験を指導する上での着眼点が育成される
ろう。例として、美術作品のコピーを拡大して張
ことが示されている(Daikoku, et al., 2013)。こ
りだし、そこに付箋紙を貼ったり、書き込んだり
の成果から、美術作品上でも、着目箇所をアウェ
するという手法も考えられる。しかし、そのよう
アネスとして外化・共有することで、対話活動や、
な紙メディアによる手法では、事前の準備が面倒
それ以前の学生の意見の表明が活性化されるこ
であるだけでなく、授業中の活動が繁雑になって
とが期待できる。
しまう。そこで本研究では、先に記した活動を実
アウェアネスの外化を考えた際、タブレット端
末は、美術教室にも気軽に持ち込むことができる、
現するためにタブレット端末で動作するアウェ
アネス共有システムを開発した。
手元で操作できる、ノート PC に比べ前方の視界
を妨げないなど、座学の美術鑑賞の場面において
2. 本システムの概要
も、有効性が高いと考えられる。
本研究では、「タブレット端末用アウェアネス
美術教育におけるタブレット端末を利用した
事例としては、博物館におけるガイドシステムが
共有システム」を開発した。具体的には、次の 2
点を支援する。
開発されている例(宮内・中川, 2012)があるが、
1)学生は、タブレット端末上の学習者用シス
本研究で目指すようなアウェアネスの共有を目
テムの中で表示された美術作品について、自身が
的とした開発例は未だ見られない。
着目した箇所に印をつけることでアウェアネス
そこで本研究では、学生の意見表明を促し、教
を外化する。
師-学生間のインタラクションを活性化するた
2)教師は、教師用の共有システムを用いて、
め、以下のような美術作品の着目箇所の外化、共
学生らが外化したアウェアネスを重ね合わせて
有、表明を支援するためのシステムを開発した。
表示しすることで、全体の状態を共有する。
a. 作品上で着目した箇所をアウェアネスとし
本システムは、iPad の Safari 上での表示に最
て、学生に外化させる。この外化によって、
適化された Web アプリケーションであり、無線
自身がどこに着目したのか、より明確に意識
LAN ネットワークを介して、サーバに接続して
できる。
利用する。後で説明するように、作品とクラス ID
b. 学生が外化したアウェアネスを教室全体で
共有する。皆で共有することで、自身と同じ
は事前にサーバに登録しておく必要がある。
2.1. 開発環境と動作環境
個所に着目している学生が他にもいること
― 38 ―
まず、開発環境について説明する。Windows 7
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
上に Apach
he 2.2.22、PHP
P
5.3.16、MySQL 5.5
5.27
が自
自身の割り当
当てられた IID を選択し
しタッチする
でアプリケ
ケーションサーバの環境を構築し、統
統合
こと
とでアウェア
アネスを共有
有する準備が
が整う。
開発環境の
の Eclipse 上で
上 PHP 部分
分を開発した
た。
作品が表示さ
作
されるので(
(図 1)、画面
面右上のカー
ー
同様の環境
境であれば、他の
他 OS 上で
でも運用でき
きる。
ソル
ル a~c をス
スワイプ操作
作で動かし、漫画の吹き
次に、動
動作環境について説明する。クライア
アン
出し
しのように左
左上のとが った部分で注目したい
い
ト(学生用
用システム、教師用システ
テム)のユー
ーザ
ポイ
イントに合わ
わせる。この
の時カーソル
ルはユーザー
ー
インターフ
フェースは、iPad の Saffari 上で無駄
駄な
ID と同色である。カーソル
ルは a~c と 3 種類用意
意
く表示され
れるように最
最適化されて
ている。しか
かし、
され
れているので
で、使用の例
例を表すなら
らば、目に留
留
HTML、Ja
avaScript、Ajax で構成
成されている
るた
まっ
った部分が a、講義内で
a
で説明を受け
けた鑑賞ポイ
め、他の多く
くの OS や Web
W ブラウザ
ザでも動作可
可能
ントを b のよう
うに意味を持
持たせ、全体
体で共有する
である。
際に
に活用する。この機能に
によって 1.で
で示した「a..
2.2. 学生用
用システムの
のユーザイン
ンターフェー
ース
作品
品上で着目し
した箇所をア
アウェアネス
スとして、学
学
iPad にお
おいて、システムの URL
L を Safari に
に入
力し、システムを起動する。作品選
選択の画面が
が表
生に
に外化させる
る」ことが支
支援される。
2.3
3. 教師用システムのユー
ーザインター
ーフェース
示されるの
のでアウェア
アネスを共有
有する作品を
を選
教師用のイン
教
ンターフェー
ースにおいて
ても、作品と
択しタッチ
チする。次にクラス ID の選択ページ
の
ジが
クラ
ラス ID の選
選択までの過
過程は、先述
述した学生用
現れるので
で、同様に選
選択しタッチす
する。
イン
ンターフェー
ースと同様で
である。しか
かし教師用で
で
先に述べ
べた通り、作
作品とクラス ID は事前に
にサ
は、クラス ID の選択後に
に作品の画像
像が現れる。
ーバ上で設
設定する必要
要がある。ここでは作品は
は5
の画面上では
は、全ユーザ
ザーID のカ
カーソルは重
重
その
つ、クラス
ス ID は 2 つ表示されてい
いるが、実際
際に
ねて
て表示されて
ている。カー
ーソル上では
は a~c の後
後
はさらに多
多くの作品とクラス ID を設定するこ
こと
にユ
ユーザーID が記されて
ており、カー
ーソルの色と
が可能であ
ある。続いて
てユーザーID
D の選択ペー
ージ
とも
もにユーザー
ーを判別する
る基準となる
る。そのため
め
が現れる。ユーザーID
D として色の
の違う 1~30
0の
どの
の学生が置い
いたカーソル
ルなのか判別をつける
数字が表示
示されている
るので予め教
教師が各学生
生に
こと
とが可能であ
ある。これに
によって教室
室全体で、着
着
ユーザーID
D を割り当て
てておく必要
要がある。学
学生
目箇
箇所としての
のアウェアネ
ネスを共有できるとと
も
もに、特徴的
的なアウェア
ネ ス を 示して
ている学生
を
を指名し、意
意見の提示が
が
容
容易になる。
カーソルの
の状態は、画
画
面
面下側にある
る「更新」ボ
ボ
タ ン を タッチ
チすること
で
で、最新の状
状態に更新さ
れ
れる。自動で
で更新されな
な
い
い理由として
ては、学生用
イ ン タ ーフェ
ェースで行
わ れ る 修正が
がその都度
反 映 さ れる こ と を 防 ぐ
た
ためである。
にある a~cc
画面下側に
の チ ェ ックボ
ボックスの
図 1 学生用のユ
ユーザインタ ーフェース
― 39 ―
選 択 状 態を切
切り替える
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ことで、a~
~c のカーソ
ソル
の表示・非表
表示を切り替
替え
ることも可
可能である。カー
カ
ソルに意味
味づけした事
事柄
について説
説明するため
めに
それだけを
を表示し、カー
ーソ
ルが重なり
りすぎて見え
えづ
らい時に表
表示数を減ら
らす
など、この機
機能によって
て調
整できる。
これらの
の機能や操作
作に
よって、1.で
で示した「b.. 学
生が外化し
したアウェア
アネ
スを教室全
全体で共有す
する。
皆で共有す
することで、自身
自
と同じ個所
所に着目して
てい
る学生が他
他にもいるこ
こと
図 2 教師用
用のユーザイ
インターフェ
ェース
や、自身が異
異なる個所が
が着
リーの考察
察, 美術教育
育学: 美術科
科教育学会誌
誌
目されてい
いることが分
分かり、新たな
な気づきにつ
つな
がる」こと
とと、「教師は
は共有したア
アウェアネス
スを
活用して、感じたことや考えたことの意見表明
明を、
(27) , 29-4
41, 2006,
王文
文純, 石崎和
和宏: 鑑賞ス
スキルの熟達
達化と転移に
に
関する一考
考察 美術教
教育学: 美術
術科教育学会
会
す」ことが支援される。
学生に促す
誌 (30) , 465-476,
4
20009,
向角
角典倫: 対話
話による意味
味生成的な美
美術鑑賞教育
育
3.まとめと今後の課題
における美
美術鑑賞シン
ンキングツー
ール「スパイ
本研究で
では、座学における美術作
作品の鑑賞に
にお
ダーチャー
ート」の開発
発及び活用に関する研究,,
いて、学生
生が何を感じ、考えたのか
かを全体に表
表明
日本教育工
工学会研究報
報告集 13(1
1), 283-288,,
することを
を促し、教師・学生間のイ
インタラクシ
ショ
ンを活性化
化することを目指し、美術
術作品のアウ
ウェ
アネスとし
して外化し共
共有すること
とが可能なシ
シス
2013,
Daikoku,
Funaoi,
H.,
Kussunoki,
F.,,
a, M., & Inaagaki, S.: De
evelopmentt
Takenaka
テムを開発
発した。今後は、授業実践
践で活用して
て評
and Evalu
uation of C
Case Metho
od Teaching
g
価し、改善
善を行う予定
定である。
Materials Using Maanga on Tab
blet PCs: A
ntry-type Trial. ESERA
A
Scene Awareness En
引用・参考
考文献
n Science Education
n Research
h
(European
有田洋子:美
美術作品の美
美的理念を比
比較抽出させ
せる
鑑賞教
教育方法-菱
菱田春草「黒き
き猫」
「柿に猫
猫」
を教材
材例として-
-, 美術教育学: 美術教育
育学
Associatio
on) 2013.
野谷憲郎: 日本の美術鑑
日
鑑賞学習メソ
ソッドの開発
発
水野
研究 : 仏像
像鑑賞におけ
ける「迎角」, 淑徳短期
期
会誌(3
30), 53-64, 2009,
石崎和宏, 王文純: 美術
術鑑賞のマル
ルチメディア
ア教
材「ア
アート・リポ
ポーター」に
に関する一考
考察,
宇都宮大学教育学部紀要,第一部
T.,
大学研究紀
紀要 49, 1233-139, 2010,,
宮内
内泰明, 中川
川祐治: Andrroid タブレ
レットによる
54,
115-13
30, 2004,
石崎和宏, 王文純: 美術
術鑑賞文にお
おけるレパー
ート
― 40 ―
ガイドシス
ステムの構築
築, 電子情報
報通信学会技
技
術研究報告
告. PRMU, パターン認
認識・メディ
ア理解 112(225) , 41--45, 2012,
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
モバイル端末を用いた野外防災学習の取り組み
A report of approaches using the mobile device in outdoor disaster prevention education
畠山 久* ***,永井正洋*,藤吉正明*,瀬戸崎典夫**,室田真男***
HATAKEYAMA, Hisashi* ***, NAGAI, Masahiro*, FUJIYOSHI, Masaaki*
SETOZAKI, Norio**, MUROTA, Masao***
首都大学東京*,長崎大学**,東京工業大学***
Tokyo Metropolitan University*, Nagasaki University**, Tokyo Institute of Technology***
[要約] 災害時における主体的な判断を育成するため,野外において災害時のことをイメージ
しまとめていく授業を設計した。この学習を支援するため,情報を記録し防災マップのよう
にまとめるためのタブレット端末向けシステム "FaLAS" を開発した。また,野外において
学習者の意欲を高めるため,システムにはオリエンテーリングのようなゲーム性を持たせた。
このシステムを用いて,著者らは地域の状況を踏まえ災害時のことを考える野外調査学習を
千葉県内の公立高校において実践した。本稿ではこの授業実践について報告する。
[キーワード] 防災教育,野外学習,防災マップ,タブレット端末,システム開発,授業実践
1.はじめに
2.研究の目的
2011 年 3 月の東日本大震災以降,学校教育の現
知識学習,特に地域に関する知識を学ぶ方法と
場における避難行動のあり方や児童・生徒の安全
して,本研究では防災マップ作成に着目した。防
確保など災害発生時の課題が浮き彫りとなった。
災マップは地域の危険箇所や避難所などを写真
これを受けて文部科学省が立ち上げた有識者会
と共に模造紙上の地図にまとめたもので,地域の
議では,今後の防災教育の考え方の方向の一つと
防災意識向上の手法として小学校や自治組織で
して「自らの命を守り抜くための主体的に行動す
広く行われている。類似する研究として,三石ほ
る態度の育成」があげられており,主体的に行動
か(2013)は地域における防災・防犯の観点から
するための基本的な防災知識に関する指導充実
情報を集約する安全マップ作成のためのタブレ
について述べられている。一方,現在の学校教育
ット端末向けシステムを開発し,小学校において
においては防災教育の時間は限られており,指導
授業実践を行っている。この研究では防災意識の
内容等も十分に整理されていない(文部科学
向上が報告されているが,安全マップ作成自体が
省,2012)。
目的であるため地域における具体的な危険箇所
これを踏まえ,「防災や地域に関する基本的な
の認知に留まっている。
知識の習得(知識学習)」と「主体的に行動する
本研究では,野外学習において観察した内容防
学習(判断学習)」の両側面を備え,ICT を活用す
災マップとしてまとめる活動を通して,自らの知
ることで効果的な防災教育を実施する取り組み
識に基づき災害時にどのように判断・行動すべき
を行った。
かを考えさせることで,主体的な判断力を身につ
けることを目的とする。また,その考えを記録し
― 41 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
学習者間で共有・振り返り学習に用いることで,
ことができる。
主体的な判断の育成が期待される。
2)学習者の意欲を高める仕掛け
3.研究の方法
学習者の意欲を高めるため,オリエンテーリン
1)システム開発
グのようなゲーム性を取り入れている。野外調査
野外における調査記録を手軽に行い,共有・振
範囲には複数のミッションエリアを設けている。
り返り学習に利用するため,今回の授業実践に合
それぞれのエリア内にいくつかのチェックポイ
わせた野外学習支援システム "FaLAS (Fieldwork
ントを設定し,対応するヒントを学習者に提示し
and Learning Assistant System)" を開発した(畠
ている。
山ほか,2014)。FaLAS はタブレット端末で動作す
学習者が各エリアにおいてチェックポイント
るクライアントアプリケーションと,入力された
を見つけ観察記録として登録することで,そのエ
情報を受信し蓄積するサーバアプリケーション
リアに対するミッションをクリアしたこととな
から構成される。
る。学習者はミッション全体と達成状況をいつで
クライアントアプリケーションは,地図上に情
も確認することができる。これにより,学習者が
報を記録し閲覧するインターフェースを備えて
自身の進捗を確認し積極的に取り組めるように
いる(図 1)。メインの画面である地図表示画面で
なるだけでなく,学習者に各エリアをまわるよう
は,野外調査範囲となる学校周辺の地図が表示さ
指示することで調査範囲全体を回遊させやすく
れている。同時に,地図上には GPS を用いて測位
なることが期待できる。
された端末の現在位置を表示している。学習者は
野外にて記録する場所に立ち,
「安全な場所」
「危
3)授業実践
険な場所」「避難情報が得られる場所」の 3 区分
平成 26 年 9 月から 11 月の計 3 回にわたり,千
から選びウィザードに従って情報を入力する。コ
葉県立天羽高等学校の一年生(4 クラス 106 名)
メント入力や写真撮影を行い,登録を行うと位置
を対象として防災学習の授業を実施した。「総合
情報が自動的に記録され,地図上にピンとなって
的な学習」の時間において 4 クラス同時に実施し
表示される。これらの記録をサーバに送信するこ
たため, 5-6 人ごとに分けたグループでの学習の
とで,他の学習者の記録と重ね合わせて閲覧する
形をとった。
表 1 授業実践の実施計画
回
実施日
時間
学習内容
1
9月4日
100 分
基礎的知識の学習
システム利用練習
2
10 月 9 日
130 分
野外調査学習 (1)
3
11 月 6 日
155 分
振り返り学習
野外調査学習 (2)
図 1 FaLAS 地図画面
― 42 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
A)
基礎的知識の学習
気づいたことがあれば自由に入力するよう指示
調査学習に先立ち, 9 月 4 日の前半に防災や地
した。
域に関する基本的な知識を学ぶ授業を実施した。
防災に関する簡単なクイズを実施し,その後資料
C)
振り返り学習
に沿って教員から説明を行う座学の形式で実施
11 月 6 日の前半に,西側調査のグループ・東側
した。利用した資料は本授業実践のために独自に
調査のグループにわかれ,それぞれに教師が付き
作成したもので,防災の知識として地震・大雨・
振り返り学習を行った。タブレット上で同じ範囲
洪水などの自然災害の概要や仕組み,地域の知識
を調査した全グループの記録が集約された防災
として千葉県富津市地域の地理的特徴や過去の
マップを閲覧し,危険と思う場所・安全と思う場
災害,想定される災害(ハザードマップ)を取り
所・情報が得られると思う場所を一人一人で選ん
上げた。
でもらった。そして,対象物ごとにグルーピング
したシートにシールを貼付することで 10 グルー
B)
野外調査学習(1)
プ分全体の評価を集約した。これを用いて,危険
10 月 9 日には学校周辺において,グループによ
る野外調査学習を実施した。グループについて 1
性・安全性などの判断について振り返る学習活動
を行った。
台,FaLAS クライアントアプリケーションが動作
するタブレット端末を貸与した。天羽高等学校の
西側と東側に半径 500m 程度の調査範囲を設定し,
10 グループずつ割り振って野外調査学習を行っ
た。それぞれの調査範囲には 5 カ所のミッション
エリアがあり,エリア内には合計 19 カ所(安全
な場所 2 カ所,危険な場所 12 カ所,避難情報が
得られる場所 5 カ所)のチェックポイントを設定
している。85 分間の調査時間内にそれぞれのグル
図 3 振り返り学習の様子
ープでミッションエリアをまわりながら調査学
習を実施した。また,ミッションエリアに限らず,
D)
野外調査学習(2)
11 月 6 日の後半は,前回と調査範囲を入れ替え
グループによる野外調査学習を行った。ミッショ
ンエリア・チェックポイント・調査時間は同じ条
件として実施した。
4.結果と考察
10 月 9 日の野外調査学習では,西側で 65 件,
東側で 60 件,合計 125 件の記録が行われた。ま
図 2 システム利用の様子
― 43 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
た,11 月 6 日は西側で 52 件,東側で 63 件,合計
と比べても多いことから,野外調査時に学習者が
115 件の記録が行われた。これらを,種類別に集
危険な場所ほど着目しやすい可能性が考えられ
計したグラフを図 4,ミッションエリアごとに分
る。1 回目と 2 回目を比較すると,エリア外での
類したグラフを図 5 に示す。なお,ミッションエ
登録数が顕著に増えている。この原因については
リア以外での登録は「エリア外」としてまとめて
自由記述で記録されたコメントや,学習者へのア
いる。
ンケート調査などを用いて今後検討していきた
い。
安全な場所
危険な場所
避難情報が得られる場所
91
5.おわりに
71
災害時における主体的な判断を育成するため,
20
14
24
20
野外調査を基に災害時のことをイメージし,タブ
レット上で防災マップとしてまとめていく授業
10月9日
11月6日
を設計・実践した。また,野外において学習者の
意欲を高めるために簡単なゲーム性を持たせた
図 4 地点の種類別記録数
システムを開発した。このシステムを用いて,地
40
域の状況を踏まえ災害時のことを考える野外調
30
査学習を実践した。
20
本研究の実施にあたり,授業実践のご協力をい
10
0
ただいた千葉県立天羽高等学校の関係者の方々
に厚く御礼申し上げます。
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ 外
10月9日 17 15 17 1 11 22 7 6 5 15 9
11月6日 6 5 13 6 3 17 6 11 11 6 31
引用及び参考文献
畠山久・永井正洋・室田真男:モバイル端末を用
図 5 ミッションエリアごとの記録数
いた防災マップ作成システムの開発, 日本
野外調査学習全体では計 10 カ所のミッション
教育工学会第 30 回全国大会 大会講演論文集,
エリアが設定されており,訪れた数は平均 5.95
カ所となっている。また,グループ毎の記録数は
平均 12 件となっている。野外調査ではグループ
pp.653–654, 2014.
三石和輝・立花光平・金子亜佑香:タブレット端
末を用いた小学校安全マップ活動支援シス
で自由に行動してもらったが,範囲の差はあるも
テムの開発と活動報告, 教育システム情報
のの全てのグループが調査範囲を回遊し記録が
行われていることからミッションエリアを設定
したことが学習者の意欲に一定の効果があった
学会研究報告, 27(6), pp.65–72, 2013.
文部科学省:「東日本大震災を受けた防災教育・
と考えられる。
種類別記録数では,危険な場所の記録数が多く
なっている。設定したチェックポイントの種類比
― 44 ―
防災管理等に関する有識者会議」最終報告,
19p, 2012.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
学習プロセスをもとにした協調学習実践の改善
―拡大図・縮図によるジグソー実践―
Improving collaborative learning lessons using learning process analysis:
Through practicing jigsaw classrooms in a scaling unit of math
遠藤 育男 益川 弘如
Ikuo, ENDO* Hiroyuki, MASUKAWA**
静岡県伊東市立対島中学校* 静岡大学大学院教育学研究科**
Ito City Tajima Junior High School*
Graduate School of Education, Shizuoka University**
>要約@学習者自らが知識を発見し,そこから悩み対話し検討する活動につながることでより確かな知
識にすることを目的に,小学校6年生算数「拡大図・縮図」の中の 1 時間をどのようにジグソー学習法
で扱ったらよいか検討した。検討にあたり,先行研究をもとに改善案を考え,実践,評価し,さらに改
善,実践,評価という流れで行った。改善案を考える際には学習プロセスをもとに評価し,授業を再デ
ザインした。また,改善案は,どのようなワークシートで考えさせたらよいかだけに視点を絞り,授業
者の介入は一切行わないようにした。ワークシートを学習者の反応をもとに改善した結果,改善前と比
べてより本時のねらいに則した発見が授業者の支援なしに学習者に生まれた。このことから,学習者が
本時のねらいに即した発見ができるよう配慮する必要がある反面,過度な配慮がねらいとは違った学び
を引き起こしてしまうこと,また,ねらいを絞って取り組む必要があることがわかった。
>キーワード@ ジグソー学習法,デザイン研究,学習プロセス,協調学習
1.研究の背景と目的
ように授業を再デザインし,実践・検討した報告はあ
知識基盤社会では,知識創造組織で他者と共に新た
まり多くない。そこで本論文では,6 年生算数「拡大
な知識を生み出し続けることが重要であるとされてい
図・縮図」の授業について,ジグソー学習法をもとに,
る(Scardamalia,2012)
。また,Schwartz ら(2012)
学習者自らが知識を発見し,対話検討することでより
は教えて考えさせるよりも,考えさせてから教えるほ
確かな知識にすることができるよう授業をデザインし
うが,包括的に解き方を考えられるようになるため,
直し,実践した取り組みを紹介する。
未来の学習への準備ができるとし,学習者の自発的な
取り組みの重要性を主張している。そのため,三宅ら
2.研究方法
(2012)は,すべての学習者により深い知識構築プロ
研究においてはデザイン研究という研究手法を用
セスを引き出す
「協調による概念変化モデル」
を示し,
いた。
「デザイン研究」とは,
「学習科学」研究で積極
協調学習を用いて学習者が自発的に取り組みながら再
的に用いられており,学習プロセスを詳細に分析し,
構築活動を起こすことを提案している。現在は,知識
実践的な学習理論を構築している(益川,2012)
。統
構成型ジグソー法として多くの県市町村教育委員会と
制群を設けず,長期にわたって繰り返し検証し,全て
連携し,実践を行っている(三宅 ,2013:東京大学
の人々がもっている学習可能性をいかに引き出すこと
大学発教育支援コンソーシアム推進機構,2014)
。そ
ができるかに焦点を当てた研究方法である。
研究に当たり,第 1 筆者が授業デザイン及び分析に
こでは,
ジグソー学習法を型にした授業案はもとより,
学習者の学びの様子,授業者の反省もインターネット
協力者として,第 2 筆者が共同研究者として携わった
上で公開されており,誰もが簡単に授業実践・授業改
2010 年 12 月 8 日授業(松島ら,2011)をもとに行っ
善ができるように準備されている。ただし,学習プロ
た。今回の実践は 2013 年に第 1 筆者が在籍する学校
セスをもとに学習者自らが知識を発見・検討していく
(6 学年 2 学級)で 2013 年 12 月に第 1 筆者が授業者
― 45 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
として 2 クラス 2 回行った実践である。なお,実践に
大した形,縦方向に拡大した形と,教科書で扱われて
当たり,第 1 筆者及び第 2 筆者で授業設計を行った。
いる形にした(図 4 参照)
。
学習内容は「拡大図・縮図」である。学習指導要領
長方形,三角形,台形の特徴を持ち寄って話し合い
では,
図形についての観察や構成などの活動を通して,
検討することで,
「対応する辺の長さの比が等しく,対
縮図や拡大図の関係について,対応している角の大き
応する角の大きさが等しい」ことをより確かな知識と
さはすべて等しく,対応している辺の長さの比はどこ
することをねらった。
も一定であることを理解することを求めている。この
内容を教師が一方的に教えるのではなく,学習者自ら
が発見し,対話検討することでより確かな知識にする
ことを目的に授業をデザインすることとした。なお,
授業形態はジグソー学習法を用いることとした
(図1)
。
① 2010 年実践(15 名)
・改善案
② 2013 年プレ実践(21 名)
・再改善案
(改善案をもとに再デザイン)
図 長方形エキスパート資料①
③ 2013 年本実践(19 名)再々改善案
(再改善案をもとに再々デザイン)
学習者自らが知識を発見し,対話検討すること
でより確かな知識にすることを目的
*ジグソー学習法のワークシート改善
図 授業実践の流れ
3.研究実践
1 年実践デザイン
2010 年実践では,長方形,三角形,台形のそれぞれ
で「大きさが違うのに,同じ形に見えるのはどうして
か」を考える活動を行った。長方形,三角形,台形の
図 三角形エキスパート資料①
それぞれがエキスパート活動で話し合うことで,
「対応
する辺の長さが等しい」
,
「対応する角の大きさが等し
い」ことの両方を発見できることをねらった(図 2,
図 3,図 4 参照)
。また,各資料とも比較対象が多くな
らないよう図形の数を 4 つとした。
長方形資料では,長方形以外の四角形を入れようと
いう意見もあったが,明らかに形が違うことはわかる
と判断したため,扱わなかった(図 2 参照)
。
三角形資料では,正三角形,正三角形と同じ辺の長
さをもつ直角二等辺三角形,正三角形と同じ角をもつ
直角三角形を扱うことにした(図 3 参照)
。
図 台形エキスパート資料①
台形資料では等脚台形を扱うこととし,横方向に拡
― 46 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
2 年実践結果及び改善案
なるよう設定し,
回転移動しても拡大図・縮図であるこ
長方形,三角形,台形のそれぞれで「対応する辺の
とに気づけるようにした(図 5 のイ,エ参照)
。
長さの比が等しい」
,
「対応する角の大きさが等しい」
平行四辺形は,辺の長さを同じにし,角の大きさの
ことの両方を発見できることをねらったが,エキスパ
みを変えるようにして
「対応する角の大きさが等しい」
ート活動の結果は表1の通りであった。また,授業後
ことに気づけるようにした(図 6 カ,ク,ケ参照)
。
の感想をねらいにそって集計した結果は表 2 の通りで
台形は,同じ角度だが辺の長さの比が違う形,辺の
あった。授業終わりに「対応する辺の長さの比が等し
比が同じ部分もあるが角度が異なる形を扱った。
また,
い」
,
「対応する角の大きさが等しい」ことの両方を記
対称移動も取り入れ,
対称移動しても拡大図・縮図であ
述した学習者は 15 名中 7 名であった。
ることに気づけるようにした。
(図 7 サ,ス参照)
。
表 年各図形での発見結果
n=15(名) 長方形 3 名 三角形 6 名
台形 6 名
3
0
0*
0
辺の比
角の大きさ
3
6
辺の比ではなく,横の比と高さの比で表している 6 名
*
表 年授業後振り返り記述内容
n=15
記述なし
辺のみ
角のみ
両方
人数
3
4
1
7
これらの結果を受け 2010 年のワークシート改善案
は以下の 2 つが出された。
図 長方形エキスパート資料②
・3 つのエキスパート活動で提示する図形に平行四
辺形を入れたらどうだろうか。
・3 つのエキスパート活動で提示する図形はそれぞ
れ,対応する辺の長さと角の大きさの関係を発見
しやすいような数値設定にしたらどうか。
この改善案をもとに再デザインすることとした。
3 年プレ実践デザイン
2010 年の改善案をうけ 2013 年プレ実践では,長方
図 平行四辺形エキスパート資料①
形資料で「対応する辺の比が等しいこと」
,平行四辺形
資料で「対応する角の大きさが等しいこと」
,台形資料
で「対応する辺の比」もしくは「対応する角の大きさ」
のどちらかが等しいことを発見し,ジグソー活動の話
し合いで,
「対応する辺の比が等しく,対応する角の大
きさが等しいこと」を発見することができるようにワ
ークシートを再デザインした(図5,6,7参照)
。
長方形については,前回,辺の長さの比が 2 対 3 で
あったため,今回は 1 対 2 となるように数値を設定し
直した。ただし,図形を 90 度回転させ、縦と横が逆に
― 47 ―
図 台形エキスパート資料②
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
4 年プレ実践結果及び再改善案
平行四辺形資料では,横と高さの比で答える学習者
2013 年プレ実践において,長方形,平行四辺形,
が見られたため,回転させ高さをわかりにくいように
台形の各エキスパートでの結果は表 3 の通りであった。 した(図 9 参照)
。
また,授業後の感想をねらいにそって集計した結果は
台形資料では,角の大きさに比べ辺の長さの比に着
表 4 の通りだった。授業終わりに「対応する辺の長さ
目できる学習者が少なかったことから,対称移動した
の比が等しい」
,
「対応する角の大きさが等しい」こと
図形をなくし,辺の長さの比に着目できるようにした
の両方を記述した学習者は 21 名中 14 名であった。移
(図 10 参照)
。
動しても拡大図・縮図であるという記述は 0 名だった。
表 プレ実践各図形での発見結果
n=21(名) 長方形 7 名 平行四辺形 7 名
0
0
辺の比
角の大きさ
台形 7 名
5
7
2
3
*
**
5 名が面積で 4 倍と答える(イにエを敷き詰める)
*
**
辺の比も答えるが,高さの比も答える
表 プレ実践授業後振り返り記述内容
n=21
記述なし
辺のみ
角のみ
両方
人数
1
1
5
14
*
図 長方形エキスパート資料③
辺でなく高さの比が同じと答えた 3 名を含む
*
これらの結果から再改善案に以下のものが出された。
・長方形は敷き詰められないように配慮すること。
・平行四辺形は,高さを求めにくくすること。
・台形は対称移動した図形をなくし,辺の長さの比
に着目できるようにすること。
この改善案をもとに次なる授業を再々デザインす
ることとした。
5 年本実践デザイン
2013 年プレ実践での再改善案をうけ,本実践では,
図 平行四辺形エキスパート資料②
長方形資料で再び「対応する辺の比が等しいこと」
,平
行四辺形資料で「対応する角の大きさが等しいこと」
,
台形資料で「対応する辺の比」と「対応する角の大き
さ」の両方が等しいことを発見し,ジグソー活動の話
し合いで,
「対応する辺の比が等しく,対応する角の大
きさが等しいこと」を発見することができるようにワ
ークシートを再々デザインした。
長方形資料では,敷き詰められないよう辺の長さの
比を 2 対 3 に戻した。また,回転移動した図形を用い
ることをやめた(図 8 参照)
。
図 台形エキスパート資料③
― 48 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
6 年本実践結果
本実践において,長方形,平行四辺形,台形の各エ
キスパートでねらった結果は表 5 の通りであった。ま
た,授業後の感想をねらいにそって集計した結果は表
6 の通りであった。
表 本実践各図形での発見結果
n=19(名) 長方形 6 名 平行四辺形 6 名
6
0
辺の比
角の大きさ
台形 7 名
5
6
7
0
表 本実践授業後振り返り記述内容
2
0
1
0
実
践
2
表 ワークシート改善推移
長方形
三角形
台形(等脚台形)
(縦,横)
カ 4cm30°60° (上底,下底,高さ)
ア 2,4
キ正三角形 6cm サ 2,6,4
イ 3,3
ク直角二等辺三 シ 2.6.5
ウ 4,7
エ 3,6
長方形
角形 6,6
ス 4,8,2
ケ 8cm30°60° セ 1,3,2
平行四辺形
台形(2 角 90°)
0 (縦,横)
(1 辺,1 辺)
(上底,下底,高さ,角)
1 ア 3,5
カ 6,4,45°
サ 2.9,
4 ,
2,
60°
3 イ 4,8
キ 3,2,60°
シ 6.4,3.8,3,60°
プ ウ 3,3
ク 6,4,30°
ス 5.8,
8 ,
4,
60°
セ 5.8,
8 ,
4,
50°
n=19
記述なし
辺のみ
角のみ
両方
レ エ 4,2
ケ 6,4,60°
人数
1
2
0
16
実 オ 3,7
高さ測りやすい *対称移動
践 *回転移動
授業終わりに「対応する辺の長さが等しい」
,
「対応
長方形
平行四辺形
台形(2 角 90°)
する角の大きさが等しい」ことの両方を記述した学習
2 (縦,横)
(1 辺,1 辺)
(上底,下底,高さ,角)
者は 19 名中 16 名であった。
0 ア 2,6
カ 6,4,45°
サ 2.9,
4 ,
2,
60°
1 イ 3,6
キ 3,2,60°
シ 6.4,3.8,3,60°
4.まとめ
3 ウ 3,3
ク 6,4,30°
ス 5.8,
8 ,
4,
60°
ワークシート改善にあたって,辺の長さや角度をど
本 エ 2,4
ケ 6,4,60°
セ 5.8,
8 ,
4,
50°
のように変えたのかについてまとめたものが表 7 であ
実 オ 4,7
高さ測りにくい *対称移動なし
る。各資料のみで「辺の比が等しい」
,
「対応する角が
践 *回転移動
等しい」ことを発見できたかを割合で求め,それぞれ
なし
表 8,表 9 にまとめた。また,授業後振り返り結果の
推移を表 10 にまとめた。
学習プロセスにもとづいてワークシートを改善し,
実践した結果,振り返り記述に「対応する辺の長さが
等しい」
,
「対応する角の大きさが等しい」の両方を記
述した割合が 47%,67%,84%と増える結果となっ
た(表 10 参照)
。高さを測りにくくして学習者が本時
のねらいを発見しやすくするような配慮が必要だった
反面,移動した図形を「扱う」
・
「扱わない」で難易度
を操作しようと工夫した過度な配慮が,ねらいとは違
った学びを引き起こしてしまうことがわかった(表 7,
表 8,
表 9 参照)
。
プレ実践では移動した図形も拡大図・
縮図であることを発見させようとしたが,その記述は
1 人も見られなかった(表 10 参照)
。他のねらいを達
成させようとした配慮が本来のねらいを阻害してしま
った可能性があることから,
多くをねらうのではなく,
― 49 ―
表 「辺の比が等しい」発見結果
長方形 三角形/平行四辺形
台形
(%)
100%
50%
0%
2010 年
0%
29%
71%
プレ
100%
83%
100%
本実践
表 「対応する角が等しい」発見結果
(%)
長方形 三角形/平行四辺形
台形
0%
100%
0%
2010 年
0%
43%
100%
プレ
0%
100%
0%
本実践
表 振り返り記述内容変化
記述なし 辺のみ 角のみ
(%)
20%
27%
7%
2010 年
5%
5%
24%
プレ*
5%
11%
0%
本実践
両方
47%
67%
84%
移動した図形も拡大図・縮図ととらえる記述 0 名
*
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ねらいを絞って取り組む必要があることがわかった。
ジグソー学習法で扱うワークシートを工夫し取り
参考文献
益川弘如:デザイン研究:デザイン実験の方法,清水
組ませることによって,授業者の支援なしに学習者自
康敬,
中山実,
向後千春編
「 教育工学研究の方法」
,
らが知識を発見することができるようになること,そ
177-198,ミネルヴァ書房,2012.
の後の対話検討により発見した知識をより確かな知識
松島充,三輪彩乃,曽根田太郎,酒井宣幸, 益川弘如:
へと高めることができる可能性が示された。なお,3
教職大学院における協調学習を目指したデザイン
回の実践を通して,拡大図・縮図の場合,長方形エキ
研究の取り組み:算数科におけるジグソー学習法
スパート資料③(図 8)
,平行四辺形エキスパート資料
の活用を通して,日本教育工学会研究報告集
②(図 9)
,台形エキスパート資料②(図 7)が話し合
2011(1), 25-30, 2011.
わせる資料として引き起こしたい発話,授業目標に沿
三宅なほみ,齊藤萌木,飯窪真也,利根川太郎:学習
った発見が得られる可能性の高いことがわかった。今
者中心型授業へのアプローチ:知識構成型ジグソ
後実践し検証していきたい。
ー法を軸に,東京大学大学院教育学研究科紀要,
51:441-458.2012.
また、これから実践・検証を他の単元や教科にもひ
ろげながら積み重ねることで、授業者の支援なしに学
三宅なほみ:持続的に発展する実践研究,日本教育工
学会第 29 回全国大会講演論文集,3-4,2013.
習者自らが知識を発見して悩み対話する活動につなが
るような「ワークシートのデザイン原則」の整理につ
東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構:自
なげていきたい。
治体との連携による協調学習の授業づくりプロジ
ェクト,平成 25 年度活動報告書,2014.
Scardamalia, M., Bransford, J., Kozma, R., &
謝辞
本論文作成にあたり,
2010 年実践の第1筆者であり
Quellmalz,
実践者である松島充教諭には大変お世話になりました。
environments for knowledge building. In P.
また,伊東市立東小学校の丸井純教諭を始め,多くの
Griffin, B. McGaw, & E. Care (Eds.),
先生方に御協力いただきました。深く感謝します。
Assessment and Teaching of 21st Century
E.
:
New
assessments
and
Skills (pp. 231-300). Springer, 2012.
附記
Schwartz,D. L.,&Martin, T.,Inventing to prepare
本研究は JSPS 科研費 MEXT/JSPS(26910004)
for learning. The hidden efficiency of original
の助成を受けた。
student production in statistics instruction.
Cognition &Instruction,22,129-184,2012.
― 50 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
日本の中学校・高等学校における宇宙教育の現状と課題
Current Status and Problems of Space Education in Japanese Junior High Schools and High
Schools
井上晴香,伊藤真之
INOUE, Haruka, ITOH, Masayuki
神戸大学人間発達環境学研究科
Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University
[要約]日本の中学校・高等学校における宇宙教育の現状について把握することを目的として,全国
の中学校・高等学校の理科教師を対象にアンケート調査を行った。その結果,中学校・高等学校共に,
教師は,生徒の関心が宇宙全般及び天文分野では高いと考えているが,技術分野の関心は高いとは考
えていないということや,中学校の教師は授業時間は充分であると考えているが,高等学校の教師は
不足していると考えていること,希望するサービスは,双方共に,実用的な教材・資料や専門家の出
前授業,教師対象の研修会などであることが分かった。これらの一部に関しては JAXA などによる既
存のサービスがあり,ポータルサイトの開設などを通じてそれらの認知を高める取り組みが有意義で
あると考えられる。
[キーワード]宇宙教育,科学技術,天文教育,宇宙開発利用
.はじめに
平成 25 年 1 月に内閣の宇宙開発戦略本部に
より, 5 年間のタイムスパンで日本の宇宙開発
利用に関する基本方針を定めた宇宙基本計画が
策定された。同計画には,
「宇宙開発利用全体の
研究開発を引き続き先導する人材と,宇宙機器
産業の人材に加え,宇宙利用の拡大を支える宇
宙利用サービス産業やユーザー産業における人
材,さらにはプロジェクトをまとめ上げる総合
力を有する人材が求められており,政府,自治
体,大学,JAXA,産業界等が連携し,人文・
社会科学分野も含めた人材の育成及び確保や宇
宙教育の強化を図る」と記され,宇宙開発利用
の推進に向けて多様な人材育成の必要性とその
ための宇宙教育の強化がうたわれている。
また,
「科学技術に対するリテラシーを向上させる上
で,宇宙は青少年期から興味や関心を持ちやす
い分野であり,学習意欲の向上にも有効と考え
られることから,宇宙教育を重要な手段として
科学技術に関する初等中等教育を充実する」と
述べられており,宇宙教育が科学技術教育の充
実に向けて重要な役割を果たすことが期待され
ている。このように,日本において科学技術政
策及び科学技術教育の観点から宇宙教育の重要
性が指摘されている。本論文では,日本におけ
る宇宙教育の今後の展開に向けて,宇宙教育の
現状と課題について調べ,今後に向けて有効と
思われる取り組みを探る試みについて報告する。
.研究の方法
我々は,中学校および高等学校教師を対象と
して,宇宙に関する授業についてのアンケート
調査を 2 度行った。全国の中学校・高等学校か
ら無作為に 350 校を抽出し,第 1 回を平成 26
年 4 月から 5 月に,第 2 回を 8 月に郵送で調査
を行った。1 校あたり複数の教師から回答を得
た場合は独立に扱った。質問項目は選択項目 19
問,記述項目 5 問の計 24 問で,質問内容は教
師自身について 3 問,生徒について 3 問,授業
について 16 問,要望と課題について 3 問であ
った。アンケートを送付した 350 校の内,96
校から 125 件の回答が得られた。回答者の性別
は男性が 105 件,女性が 20 件であった。年齢
は 20 代が 19 件,
30 代が 29 件,40 代が 34 件,
50 代以上が 43 件であった。その内,中学校は
57 件,高等学校は 68 件であった。
回答の分析方法について述べる。選択項目は
四段階評定尺度で,分析方法としては,
「そう思
う,ややそう思う」を肯定側,
「ややそう思わな
い,そう思わない」を否定側として回答数を合
算し,2×1 の直接確率検定で両者の差の有意性
を評価した。記述項目は複数回答を許容する形
とし,集計では類似意見をまとめ,意見と意見
を出した人数を分析した。
.結果
教師自身,及び生徒についての質問への回答
― 51 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
は表 1 のようになった。教師自身の知識量,及
び情報源の心当たりについては,中学校よりも,
高等学校の教師の方が自分の知識に自信があり,
情報源の心当たりもあることがわかった。授業
を行う上での情報源については,中学校,高等
学校共に「インターネット」
,
「科学雑誌」とい
う回答が多い結果となった。尚,
「科学雑誌」に
は学会誌等も含まれている。教師が考える生徒
の関心領域については,中学校・高等学校共に,
宇宙全般及び天文分野に対する関心は高いとす
る回答は有意に多いが,技術分野に対する関心
では肯定,否定に有意な差は得られなかった。
授業についての 16 問の内,抜粋を表 2 にま
とめた。
「教科書の内容が充分であるか」という
質問については,中学校では肯定側が有意な結
果となったが,高等学校では有意差は見られな
かった。
「授業時間は確保されているか」という
質問に対しては,中学校は肯定側の意見が有意
に多いが,一方で高等学校は否定側が有意に多
い結果となった。これらのことから,教科書の
内容や授業時間などについて,中学校ではある
程度確保されているものの,高等学校ではそう
とは言えず,教師は授業時間が不十分であると
感じていることがわかる。授業内容については,
画像資料,図書館・インターネット上の文献,
メディア教材については中学校では多く取り入
れられている一方,高校ではそうとは言えない
という結果になった。また,野外学習や学外施
設,講師の招待などは双方共にあまり行われて
いないことが分かった。また,授業において工
夫がなされているかについては,中学校では肯
定,否定に有意差は得られなかったが,高等学
校では否定側が有意な結果となった。これらの
ことから,授業の工夫について,中学校に比べ
高等学校の教師はあまり工夫を行えていないと
感じていると考えられる。
課題と要望に関する 3 問はいずれも記述項目
であった。それぞれについて,回答数上位 5 つ
を表 3 にまとめた。課題に関しては,中学校で
は「観測が難しい」,
「実体験しにくい」などの
授業の内容に関する課題が多く挙げられたが,
高等学校では「時間がない」
,
「地学を開講して
いない」などの授業の枠そのものに関する課題
が挙げられた。尚,実体験の中には,
「(無重力
などの)実験など」と記述されているものもあっ
たので,
観測と実体験とを分けて集計を行った。
また,教師についての質問(1),(2)の結果では高
等学校の教師の方が自分の知識に自信があると
いう結果になったが,
「教師の知識量が足りない」
という課題が多く挙げられたのは高等学校の方
であった。尚,中学校の方で「教師の知識量が
足りない」ということを課題として挙げたのは
表:教師について,生徒についての選択項目(単位:人数 中学校(N=57),高校(N=68))
質問項目
A B C D 無回答
宇宙に関する分野の授業を行う上で,知識が充分ある。
中学 *
3㻌 17 26 10
1
1
高校 n.s.
6㻌 32 17 13
0
宇宙に関する分野の授業を行う上で,充分な知識を得る情報源 中学 n.s.
4㻌 25 24 3
1
2
に心当たりがある。
高校 *
10 34 17 7
0
図書館 科学雑誌 ウェブ その他
宇宙に関する分野について,授業を行う上で充分な知識 中学
9㻌
30
45
15
3
を得る情報源について,具体的に何を利用していますか? 高校
10㻌
43
56
18
A B C D 無回答
宇宙に関する分野について,生徒の関心は高いと思う
中学 **
12㻌 35 9 0
1
4
(今受け持っている学年に拘らない)
。
高校 **
17 31 11 7
2
宇宙に関する分野の中でも,天文の分野について,生徒の関心 中学 **
8㻌 34 14 0
1
5
は高いと思う。
高校 *
13 30 13 10
2
宇宙に関する分野の中でも,技術(観測技術・人工衛星・ 中学
n.s.
5㻌 19 30 2
1
6
ロケットなど)の分野について,生徒の関心は高いと思う。
高校 n.s.
3 29 25 9
2
** : p<.01 * : p<.05 n.s. :not significant
回答コード: そう思う:A,ややそう思う:B,ややそう思わない:C,そう思わない:D
― 52 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
2 名であった。また,双方共に「観測が難しい」
ということが課題として挙げられた。授業で扱
ってみたいトピックスについては,
双方共に「は
やぶさ」
「ロケット」
,
「
,国際宇宙ステーション」
など,メディアに取り上げられた話題に関連す
るものが多く挙げられた。しかし,その次に続
くものとしては,中学校は「ブラックホール」
,
「月食・日食」などどちらかといえば天文分野
の話題に,高等学校は「人工衛星」,
「宇宙開発」
といったどちらかといえば技術分野の話題とな
った。希望するサービスについては,双方共に
「実用的な教材・資料」
,
「画像や動画を集めた
もの」
「
,機材のレンタル」
「
,専門家の出前授業」,
「教師対象の研修会」などが挙げられた。
.考察と今後の課題
アンケートから明らかになった主な結果は以
下のようにまとめられる。(1)中学校よりも,高
等学校の教師の方が自分の知識に自信があり,
情報源の心当たりもある。(2)授業を行う上での
教科書以外の情報源としてはインターネットや
図書館が使われている。(3)中学校・高等学校共
に,教師は生徒の関心が宇宙全般及び天文分野
では高いと考えているが,技術分野は高いとは
考えていない。(4)中学校の教師は,教科書の内
容や授業時間は充分であると考えているが,高
等学校の教師は教科書についてはそうとは言え
ず,授業時間は不足していると考えている。(5)
中学校においては授業の中で画像資料や書籍・
インターネット,メディア教材などはよく利用
されている一方,高等学校ではそうとは言えな
い。(6)中学校・高等学校共に,野外学習や学外
施設の利用,外部講師の招待などはあまり行わ
れていない。(7)教師が抱える課題として,中学
校では授業の内容に関するものが挙げられたが,
高等学校では授業の枠そのものに関するものが
表:授業についての選択項目抜粋(単位:人数 中学校(N=57),高校(N=68))
質問項目
A B C D 無回答
宇宙に関する分野の授業において…
中学 **
4㻌 35㻌 15㻌 2㻌
1㻌
7 教科書の内容は充分である。
高校 n.s.
3㻌 24㻌 28㻌 11㻌
2㻌
中学 n.s.
9㻌 22㻌 20㻌 2㻌
4㻌
8 資料集の内容は充分である。
高校 n.s.
6㻌 19㻌 29㻌 9㻌
5㻌
中学 *
9㻌 29㻌 16㻌 3㻌
0㻌
10 授業時間は充分に確保されている。
高校 **
2㻌 19㻌 28㻌 17㻌
2㻌
中学 ** 22㻌 23㻌 8㻌 4㻌
0㻌
12 教科書・資料集以外の画像資料を取り入れている。
高校 n.s. 13㻌 21㻌 16㻌 17㻌
1㻌
中学 ** 15㻌 29㻌 8㻌 5㻌
0㻌
13 図書館やインターネット上の文献を取り入れている。
高校 n.s. 13㻌 19㻌 21㻌 14㻌
1㻌
中学 ** 17㻌 24㻌 13㻌 3㻌
0㻌
14 メディア教材を取り入れている。
高校 n.s. 11㻌 19㻌 14㻌 23㻌
1㻌
中学 n.s. 16㻌 16㻌 15㻌 10㻌
0㻌
15 コンピュータを取り入れている。
高校 **
7㻌 14㻌 9㻌 36㻌
2㻌
中学 **
野外学習を取り入れている。
(天体観測や水ロケット,
0㻌 6㻌 16㻌 35㻌
0㻌
16
実習体験など)
高校 **
2㻌 10㻌 10㻌 43㻌
3㻌
中学 **
1㻌 2㻌 5㻌 49㻌
0㻌
17 外部施設を利用している。
高校 **
0㻌 3㻌 7㻌 55㻌
3㻌
中学 **
0㻌 0㻌 1㻌 56㻌
0㻌
18 外部の講師を招いている。
高校 **
1㻌 2㻌 7㻌 55㻌
3㻌
中学 n.s.
6㻌 19㻌 26㻌 6㻌
0㻌
20 工夫を凝らした授業を行っている。
高校 **
2㻌 10㻌 23㻌 29㻌
4㻌
** : p<.01 * : p<.05 n.s. :not significant
回答コード: そう思う:A,ややそう思う:B,ややそう思わない:C,そう思わない:D
― 53 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
挙げられた。(8)授業で扱いたい題材は双方共に
メディアで報道された話題に関することが多く
なった。(9)希望するサービスとしては,双方共
に,実用的な教材・資料や専門家の出前授業,
教師対象の研修会などが挙げられた。
アンケートの結果が上記のようになったこと
から,以下のことが考えられる。(1)高等学校に
ついて,
指導要領における宇宙の扱いが少なく,
時間を確保することが難しいのではないか。(2)
希望するサービスについて,実際には, JAXA
の Web サイトで「指導案付き活動教材」
,
「解説
付き導入教材」など,授業を作りやすいように
工夫された教材が無償で提供されている。
また,
JAXA 職員の派遣授業なども行われている。こ
のことから,これらのサービスの認知が十分拡
がっていないことが推察される。(3)上記の提供
されている教材について,大まかな内容による
分類で公開されているので,学年別の分類や,
必要時間の表示を行えばより利用しやすくなる
のではないかと考えられる。また,
「知識が充分
ではない」と回答した中学校教師が多かったこ
とから,それぞれの教材について詳細な予備知
識を教師が学ぶことができるものがあればより
自信を持って授業を行うことができるのではな
いかと考えられる。(4)画像・動画資料について
も,様々な機関等からインターネット上で公開
されており,それらを指導要領に沿う形でまと
めたポータルサイトがあれば,データがより活
用しやすくなると期待される。
本研究の今後の展開としては,以下を予定し
ている。(1)今回行ったアンケートは教師のみを
対象にしているため,
(独)科学技術振興機構理
数学習支援センターが行った,
「平成 24 年度中
学校理科教育実態調査」の中に関連するものが
ないか調べる。(2)米国などにおける宇宙教育の
展開の経緯や現状などについて宇宙機関の取組
みを中心に調査し,日本との比較・分析を行う。
(3)今回のアンケート結果を含めて,具体的なサ
ービスの提案,さらには提供を試みる。
引用及び参考文献
内閣府宇宙開発戦略本部:宇宙基本計画,2013.
表:課題と要望について,人数の多かった意見 つ
(22) 宇宙に関する分野の授業を行うにあたって,あなたが課題だと感じたこと,
感じていることはありますか?
課題(中学校(N=57))
人数
課題(高校(N=68))
観測が難しい㻌
18㻌 時間がない㻌
実体験しにくい㻌
11㻌 地学を開講していない㻌
教材が足りない㻌
5㻌 観測が難しい㻌
空間的な思考が苦手な生徒が多い㻌
5㻌 教師の知識量が足りない㻌
イメージがわきにくい㻌
5㻌 基本的な予備知識が生徒にあまりない㻌
人数
9㻌
7㻌
6㻌
6㻌
6㻌
(23) 宇宙に関する分野について,現在教科書で扱われていること以外に,
授業で扱いたいトピックスはありますか?
トピックス(中学校(N=57))
人数
トピックス(高校(N=68))
はやぶさ㻌
12㻌 国際宇宙ステーション㻌
ロケット㻌
7㻌 ロケット㻌
国際宇宙ステーション㻌
8㻌 はやぶさ㻌
ブラックホール㻌
4㻌 人工衛星㻌
月食・日食㻌
4㻌 宇宙開発㻌
人数
11㻌
10㻌
8㻌
5㻌
5㻌
(24) 宇宙に関する授業を行う上で,このようなサービスがあればいいと思ったものはありますか?
サービス(中学校(N=57))
人数
サービス(高校(N=68))
人数
教科書に沿った資料・教材㻌
11㻌 専門家の出前授業㻌
8㻌
画像や動画を集めたもの㻌
9㻌 教材㻌
6㻌
専門家の出前授業㻌
6㻌 教師対象の研修会㻌
5㻌
機材のレンタル㻌
5㻌 機材のレンタル㻌
3㻌
教師対象の研修会㻌
4㻌 画像や動画を集めたもの㻌
2㻌
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
幼稚園での音遊び実践における科学的学び
Sound Making Play in Kindergarten: How to Encourage the Scientific Learning
藤掛絢子
北野幸子
FUJIKAKE, Ayako
KITANO, Sachiko
神戸大学
神戸大学
Kobe University
Kobe University
[要約] 幼児期における,子どもたちの科学的な探求心や好奇心を育む環境は,その後の科学性の育ちに
重要である。本研究では,特に「音」に焦点を当て,ハーレン・リプキン(2007)『8 歳までに経験して
おきたい科学』を取り上げ,その内容を整理するとともに,幼稚園での音遊びの事例を分析すること
によって,音にかかわる科学的な学びをいかに育むことができるか検討することを目的とした。その
結果,幼児期の主体的な音遊びの中には,振動,伝播,ものの性質と音の違い等,音に関する科学的な学
びが含まれており,子どもたちは,特に意識をしなくてもそれらを感覚的に学びとっていることが明
らかになった。このことから,保育者が科学的な学びを見とる視点を持って主体的な音遊びを観察す
ることによって,援助や環境構成の工夫ができ,子どもたちの「音」への科学的な興味や思考を深め
ることにつながると考えられた。また, 音色の違いや音の大小,音の高低といった特徴への気付きが
見られ,これらの音の特徴は音楽領域においても重要な学習内容であることから,科学領域との連携
を図ることによって,相互作用的に学びが深まっていく可能性が示唆された。
[キーワード] 音遊び, 科学的学び, 探求心, 保育実践
1.はじめに
科学的な思考につながる経験を学習活動に含め
幼児期の子どもたちは,生活や遊びの中で,好
ることが重要であるとされる(文部科学省,
奇心や探求心を持って対象とかかわっている。全
2008:4)。そのうち,「音」に関しては,「自然
米科学教師協会による『乳幼児期の科学教育に関
の事物や現象がもつ形や色,光や音など自然現
する見解声明書』では,乳幼児期における科学的
象そのものが児童に与える不思議さ」(文部科学
な経験は,子どもたちを取り巻く環境を探求する
省, 2008:39)を実感できるように工夫すること
好奇心を育み,K-12,また生涯にわたる科学的な
とされる。これに対してイギリスでは,小学校ナ
学習の基礎となると述べられている(NSTA, 2014)。
ショナル・カリキュラム『サイエンス
また,Bosse ほか(2009)によると,子どもたちは生
(Science)』Key Stage 2 (Year 4)において,
まれたときから好奇心旺盛であり,子どもたちの
「音」に関する記述が見られる。例えば,「振動
知りたい気持ちや探求心に寄り添い,大人がそれ
と結び付けてどのように音が出されているのか
を援助していくことが,科学性の育ちに重要であ
を知る」「振動が耳を通して伝わることを知る」
る。幼児期に育んだこうした科学性の芽ばえは,
「音の高低と音が出ているものの性質との関係
小学校以降の学習へどのようにつながっていく
を見出す」「音の大きさと振動の強さとの関係を
のだろうか。
見出す」「音源から遠ざかると音は小さくなるこ
我が国では,平成元年より,小学校低学年を対
とを知る」ことが内容として示されている(DFE,
象に,「生活科」が新設された。平成 20 年度
2013)。また,指導のためのヒントとして,以下の
『小学校学習指導要領解説 生活編』において
記述があり,これは「音楽(Music)」とのかかわ
は,「気付きの質を高めることが,科学的な見方
りがあるように思われる。例えば,「身の周りに
や考え方の基礎を養うことにつながる」とされ,
ある様々な異なる楽器から,振動によってどのよ
― 55 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
うに音が出されるのかを探求し,知る。そしてど
し,これらの先行研究では,幼児期の主体的な音
のように音の高低や音の大きさを変化させるこ
遊びの中にどのような科学概念が含まれている
とができるか考える。」(DFE, 2013: 163)という
のか,具体的には示されていなかった。また,科
記述である。その他,子どもたちの科学的な学習
学性の芽ばえを育むための,保育者による援助の
を促すために,異なる大きさのなべのふたや,異
方法についてもさらに検討することが必要であ
なる太さの輪ゴム等によって作られる音の関係
ると考えた。
を見出すことや,音高や音の大きさについて学習
そこで本研究では,まず,(1)ハーレン・リプキ
したことを用いて,自分で楽器を作ったり鳴らし
ン(2007)『8 歳までに経験しておきたい科学』を
たりすることも提案されている。イギリスにお
取り上げ,そこに述べられている 13 の科学概念⁽
いては,「音楽」と「サイエンス」の内容に関し
¹⁾のうち「音」に関わる部分を抽出し,その内容
て,相互につながりを持たせつつ,音を主体的に
を整理する。そして,(2)報告者が幼稚園での好
探求する経験によって,科学的な音の概念を学習
きな遊び場面を観察して既に収集した事例を紹
することができる構成であると考えられる。
介しながら,子どもたちが科学的な興味を持って
これまで,保育実践研究においても音への科学
いかに音とかかわっているのかを検討する。さ
的な探求心を育む実践の提案がなされてきた。
らに,(3)好きな遊び場面における子どもたちの
例えば,「楽器コーナー」において,小さなバイ
興味関心を起点とした音遊びを構想,実践し,保
オリンから糸巻きや弦をはずし,こまを取り外し
育者が科学的な知識を持ちつつ,音遊びを援助す
て音の鳴るしくみを考える等,楽器の構造を探求
ることによって,幼児期の音にかかわる学びをい
し,そのしくみを理解できる環境を構成すること
かに育むことができるか検討することを目的と
や(Kenney, 2010),鍋や牛乳瓶等,身の周りのも
する。
のを使って音を探求したり,多様な音の出る楽器
を作ったりする活動には科学的な内容が自然と
2.文献の検討
含まれている(ORC and ODE, 2010)。また,北野
科学分野「音」に関する内容
(2008)は,幼児を対象に音遊び実践を構想すると
先述したように,イギリスの小学校ナショナ
ともに,養成教育において,音を探求することの
ル・カリキュラム(DFE, 2013)には科学的な学習
できる教材作りや指導案の作成を試みている。
内容が具体的に示されていたが,幼児期の子ども
子どもたちが音を出すことに加えて,音を聴き比
たちが遊びの中でそれらを体験として学ぶこと
べるためには,保育者自身が科学概念に関する知
は可能だろうか。ハーレン・リプキン(2007)に
見を持ち,実践研究や教材開発を継続していくこ
おける「音」に関する科学分野では,振動,伝播,
とが重要であると述べている。子どもたちが,体
性質による音の違いを遊びながら体験的に学び,
験の中でどのように音楽的要素を感じ取ってい
科学的な音の概念理解につなげていく幼児期(8
くのかということを検討した水野(2006)は,5 歳
歳まで)の活動が提案されている。表 1 は,音に
児の子どもたちが音程や音色の違いに興味を持
関する科学概念と,それらを幼児期に,体験的に
ち,発音の仕組みや響きの構造への気付きが見ら
学ぶことのできる活動例である。音に関する科
れ,この時期に,「音への興味が科学的な広がり
学概念は,(1)振動,(2)伝播(音を通すものの性
を見せる」(水野, 2006: 64)ようになると述べ
質),(3)振動するものの大きさに分類され,さら
ている。このことから,「音」に関する学びは,
に(2)については空気,水,固体,ひもの 4 種類の
音楽的な見方だけでなく,音を科学的な視点から
素材を音がどのように伝わるのかを探求する活
捉えることによって,音の概念への気付きにつな
動が示されている。例えば,水が音の振動を伝え
げていくことも重要であると考えられる。しか
るかどうかを探求する活動では,水を入れていな
― 56 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
いバケツの横に耳を当て,はさみの音を聴いた場
て,音とかかわる 8 つの活動⁽²⁾が挙げられてい
合と,水の入ったバケツの中で鳴らした音を聴い
る。そのうち,例えば,「鑑賞活動」においては
た場合を比較し,どちらの音が大きく聴こえたか
紙やすり,小さなベル,ビンの王冠等,音の鳴る素
を考える。また,振動するものの大きさと音の違
材を用意し,それと同じ素材を探し当てる「音当
いを比較する活動として,輪ゴムを用いて,振動
て」,小石,砂,コイン等を詰めたフィルムケース
する弦の長さによって音の高低があることや,振
による「音合わせ」がある。「創造的な思考活
動する空気の量による音の違いを聞き分けるこ
動」では,目をつぶり,どのような音のイメージ
とが提案されている。
を思い浮かべることができるか考える試みが挙
ここでは,また,他領域との統合的な活動とし
げられている。
表 1 音に関する科学概念および実践事例
実践事例の紹介(抜粋)
音に関する科学概念
学習のねらい
活動内容
○音とものの振動との関係に気づき驚く
・牛乳パックの輪ゴムをはじく
・砂、米、発泡スチロールを缶のふたの上に置き、ふたをたたく
【振動】
○音と振動との関係を楽しみ、思い出に残る経験をす
・ねじを巻いたオルゴールの振動を感じる
る
空気
【伝播】
音を通すものの性質
水
固体
ひも
○空気が音の振動を伝えることを、楽しみながら確か ・ホースの片端を口に、もう片端を耳に当てて、声を出す
める
・ホースの先に手を当て、声を出す
・互いにビニルチューブで話をして遊ぶ
○水が音の振動を伝えるということを驚きながら発見 ・水を入れていないバケツに耳を当て、はさみの音を聴く。
する
・水の入ったバケツの中で鳴らしたはさみの音を聴く。
・どちらの音が大きいかを考える。
・テーブルをたたき、音を出して聴く
・片方の耳を手でふさいで、もう一方の耳をテーブルにつけて聴
○固体が音を伝え、音を強めることに驚く
く
・空気を伝わった音と木のテーブルを伝わった音の大きさの違い
を感じる
○ピンと張ったひもが音をよく伝えることを発見して ・金属製の重いものをひもの先につけて振動させて音を聴く。
楽しむ
・糸電話で遊ぶ
○音の高さの違いを聞き分けたり、その違いが振動す ・3つの大きさの違うプラスチックの箱に輪ゴムをはめ、はじい
る弦の長さに関係することを知って喜ぶ
て音の高低を考える
【振動するものの大きさ】
○空気が振動するとき、その空気の柱の長さで音の高 ・ビンの中に水を入れ、振動する空気の量の違いによって、音が
さが違うことを知って喜ぶ
どう違うか試してみる
Note. J.D.ハーレン・M.S.リプキン(2007) pp.249-256.に基づき,報告者が作成
3.好きな遊び場面における音とかかわる科学的
11 月 6 日までの 12 日である。手続きは,(1)好き
な学び
な遊び場面を観察し,(2)子どもの音への興味関
次に,子どもたちが科学的な興味を持ち,いか
心や主体的な音の探求が見られる事例を抽出す
に音とかかわっているのかを検討することを目
る。そして,(3)ハーレン・リプキン(2007)を基
的とし,幼稚園における好きな遊び場面の観察を
に報告者が作成した,「音に関する科学概念」
行った。好きな遊びの時間には,子どもたちがブ
(表 1)を分析の視点として,発話や行動のビデオ
ロック遊びやままごと,絵画製作等,やりたいと
分析を行う。
思うことを自由に選んで遊ぶことを楽しんでお
結果として,これらの事例では,振動,伝播(特
り,報告者はこの間参与観察によって事例を収集
に空気の振動による音の伝播),振動するものの
した。対象は,K 幼稚園年中児 32 名(男児 12 名,
大きさに関する気付きが見られた。本論では,以
女児 20 名)であり,日時は 2012 年 6 月 1 日から
下の 2 つの事例を挙げて考察する。
― 57 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
2012 年 11 月 6 日
事例Ⅱ:たくさん入っているよ 2012 年 6 月29 日
A 児は,作品展に向けた製作をしながら①
G 児がブロックマラカスを思い切り振ると,S
筒を口にあてて声を出す。K 児と G 児がそれを
児が①その音に合わせて自分のマラカスを振
模倣する。K 児は 自分の耳に筒を当てた後,
って音を聴く。 ②「こっちが大きい。いっぱ
「アー。」と A 児の耳に筒を当てて言う。②G 児
い。」と言った S 児に,実践者が「あっ,いっぱ
は筒を自分の口に当てて片方の端を手でふさ
い入ってる。
」と応答する。S 児は「ちょっと待
いで声を出す。S 児は筒を③口に当てて息を吹
って,トーントン♪」と歌い,マラカスの中を見
き,筒の端を手でふさぐ。A 児は「アーーー。」
る。その後,実践者が「どう違うの?音。」と尋
とだんだんと声を大きくして言う。そして ④
ねると,③一人ずつ鳴らして音を確かめた。
事例Ⅰ: おばけみたいな声
「耳に当てるとな,おばけの声がする。」と言
事例Ⅱでは,S 児が自分の作ったマラカスと G
い,K 児の耳に当てもう一度「アーーー。」と声
児の作ったマラカスの音を比較して聴くこと
を出す。S 児は ⑤音高を変えながら声を出し
(①)によって,中身の量によって音の大きさが変
たり,⑥筒で画板や足をたたいて音を出したり
わることに気付き,「たくさん入っているから音
する。
が大きい」という仮説を立て(②),音を一緒に鳴
事例Ⅰでは,作品展の製作のために用意してい
らすことによってその違いを確かめた(③)。こ
た筒が,A 児が筒を通すと声が変化することに気
れは,ハーレン・リプキン(2007)の指摘する,
付いたことによって,声を探求する遊びへと変化
【振動するものの大きさ】による音の違いを探
した。最初は,どのように声を出そうか試してい
求していると考えられ,音の大小の学びが含まれ
たが,だんだんとその方法に工夫が見られるよう
ていた。
になる。ハーレン・リプキン(2007)における,音に
その他,素材を変えて音を試したり,音の違い
関する科学概念【振動】を探求し,筒の中で空気が
を中に入っている素材の数で理由づけしたりす
振動して,声が伝わっていくこと【伝播】を楽しみ
ることによって,音色や音の大小を探求する姿が
始める(①)。そして,G 児は筒の片方の端を手でふ
観察された。これらの事例から,主体的な音遊び
さいで音を試すようになり(②),喉の振動が空気
において科学的な学びが自然と埋め込まれ,子ど
を伝わっていることを手で感じていると思われ
もたちは特に意識をしなくても,問いを立てたり
る。音を通す【空気】の性質を遊びながら学んで
比較したりして音を探求していることが示され
いるのである。その後の A 児による,「おばけの声
た。
がする」という発話は,音色が変化したことへの
気付きから,音にイメージを付与して表現したも
4.「音遊び・音比べコーナー」における科学的
のであり(④),他領域との統合的活動としてハー
な音遊びの実践
レン・リプキン(2007)によって提案されている
以上のように,好きな遊び場面における事例を
「創造的な思考活動」であると考えられる。さら
検討したところ,子どもたちが振動や伝播,もの
に,子どもたちは,声ではなく息を吹いたり(③),
の性質による音の違いに関心を持ち,主体的に探
声の高さを変えたり(⑤),筒で画板や足をたたい
求する姿が確認された。本論では,さらに,そう
たり(⑥)しながら,主体的に多様な方法を使って
した好きな遊び場面において,音とかかわる子ど
音を探求し,音の違いを確かめた。この事例では,
もたちの姿を起点とした音遊びコーナーの実践
音色,音の大小,音高の音楽的要素が探求されて
を構想し,音にかかわる学びを育む保育者の援助
いた。
と環境構成について検討した。対象は K 幼稚園
― 58 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
年中児 32 名(男児 12 名,女児 20 名)であり,日時
入れたよ。」と言う。実践者が「どう,音する?」
は 2012 年 11 月 9 日から 12 月 21 日までの 6 日
と尋ねると,C 児は ③「見てー。こんなに音小
である。手続きは,(1)子どもの興味関心に関連
さくなったー。」と声をあげる。
「あー,本当だ。
したねらいを設定し,(2)音遊び・音比べコーナ
小さくなった。何で小さくなるんだろうね,不
ーでのマラカス遊びの構想と実践を行い,(3)実
思議だね。」と言うと,砂を半分に減らしてか
践後の発話や行動のビデオ分析と評価を行っ
ら, ④「こんなに高い音するのにー。この音が
た。環境構成としては,初日は,①どんぐりとペ
どんどんどんどん小さくなっていくー。こんな
ットボトルのみを用意し,その後 5 日間は,②
音―。」と言って音を聴く。
「音遊びコーナー」と「音比べコーナー」の 2
事例Ⅲでは,最初はペットボトルに砂を入れ,
つを構成した。前者はペットボトルの中にどん
音を聴いているが,砂の音への興味から音の変化
ぐりを自由に入れて音を探求し,後者では,3 種類
を楽しむようになる。C 児の発話(①)(②)(③)か
の量のどんぐり,米,小豆を入れたペットボトル
ら,中に入れる砂の量によって音の大小や高低が
と,ビー玉,割りばし,画びょう,クリップ等の異
変わることに気付いていることがうかがえる。そ
なる素材の入ったペットボトルを用意し,音を聴
の後,砂の量が少ないほうが,音が高く,音が大き
き比べることのできる環境を構成した。ねらい
いことについて自ら砂の量を変化させながら試
として,(1)素材や中身の大きさや数,量によって
す(④)。この事例は,ハーレン・リプキン(2007)に
音の大きさや種類が違うことを知ること,(2)友
挙げられている,【振動するものの大きさ】を探求
だちと一緒に音を聴いたり,合わせたりすること
しており,音色,音の大小の変化,音高の音楽的要
を楽しむことを設定した。
素の学びが含まれていた。
その結果,初日には,①の方法で環境構成を行
ったところ,どんぐりをたくさん入れることや,
5.おわりに
音を立てることに活動が偏り,音の聴取や音の違
本論では,既に報告者が収集した事例のうち,3
いへの気付きが見られなかった。そこで,先述し
事例を取り上げて分析した。報告者の修士論文
た②の方法で環境構成を改善し,援助として,中
(2013)では,『小学校学習指導要領解説 音楽
身の量や素材の種類,空間の広さ等に関する子ど
編』に挙げられている音楽的要素を基にこれら
もの気付きを取り上げ,より科学的に説明した
の事例を分析しており,音を感受し,表現する,
り,確かめたりするように働きかけた。本論で
「音楽」の観点から事例を考察している。それ
は,収集したもののうち,次の事例を挙げて考察
に加えて本論では,幼児期の主体的な音遊びの中
する。
には,振動,伝播,ものの性質と音の違い等,音に
関する科学的な学びが含まれており,子どもたち
事例Ⅲ: 砂の音
2012 年 12 月 14 日
は,特に意識をしなくてもそれらを感覚的に学び
C 児が「見て。お砂ってこういう音するんだ。
とっていることが明らかになった。また,問いや
マラカスみたいなこーんな音する。」と言って
仮説,比較といった科学的な探求心を持って対象
自分で砂を入れ,ペットボトルを振る。実践者
とかかわることによって,素材による音色の違い
が「どのくらい入れたの?」と聞くと,指で少
や音の大小,音の高低等の特徴への気付きが見て
しというしぐさをする。次に C 児は ①砂の量
取れた。このことから,保育者が視点を転換さ
を変えて「さっきより太いねえ。」と言い,今度
せ,科学的な学びを見とる視点を持って主体的な
は ②砂を増やして量を確かめながら,「おー,
音遊びを観察することによって,援助や環境構成
もうここまでいっちゃってるー。ここまで
の工夫ができ,子どもたちの「音」への科学的な
― 59 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
興味や思考を深めることにつながると考えられ
stages 1 and 2 framework document, 2013.
る。また,音楽領域においても,これらの音の特
・藤掛絢子: 音楽表現領域における保育実践開
徴は重要な学習内容の一つとされており⁽³⁾,科
発 -学びの連続性を考慮して-, 神戸大学大
学領域との連携を図ることによって,相互作用的
学院人間発達環境学研究科修士論文, 2013.
にこれらの学びが深まっていく可能性が示唆さ
・藤掛絢子,北野幸子: コーナー遊びに関する保
育実践研究
れた。
-音楽表現を中心に-, 日本保
育学会第 66 回大会発表要旨集, 725, 2013.
しかし,本報告で分析できたのは一部の事例に
すぎない。今後の課題として,科学に対する好奇
・J.D.ハーレン,M.S.リプキン: 8 歳までに経験し
心を育み,小学校の学習へとつながる音遊び実践
ておきたい科学, 深田昭三,隅田学監訳, 北大
の開発と評価を行うこと,幼児期の生活や遊び場
路書房, 2007.
面の中に,具体的にどのような音に関する科学概
・Kenney, S.: Preschoolers Teach the
念の学びが含まれているのかを,より詳細に明ら
National Standards: Informances With
かにすることが挙げられる。
Four-Year-Olds, General Music Today, 23
(3), 36-41, 2010.
・北野幸子: 「音」を探求する遊びの構想:保育
注
実践と教材(オモチャ)の紹介, 日本理科教育
(1)ハーレン・リプキン(2007)に挙げられている
学会第 58 回全国大会要項, 108, 2008.
13 の科学概念は,「植物」「動物」「ヒトの体」
・水野伸子: 「幼保小の連携」において,音楽指導
「空気」「水」「天気」「岩石と鉱物」
「磁石」
「重力のはたらき」「簡単な機械」「音」「光」
に求められる今日的課題及び実践的試論, 岐
「環境」である。
阜女子大学紀要, (35), 57-67, 2006.
・文部科学省: 小学校学習指導要領解説音楽編,
(2)ハーレン・リプキン(2007)には,他領域との
2008.
統合的な活動として,「算数の活動」
「造形表
現の活動」「遊び」「鑑賞活動」「創造的な身体
・文部科学省: 小学校学習指導要領解説生活編,
2008.
表現」「創造的な思考活動」「食べ物を使った
活動」「園(校)外での学習活動」が挙げられて
・National Science Teachers Association
(NSTA).: NSTA Position Statement: Early
いる。
Childhood Science Education, <http://
(3)『小学校学習指導要領解説 音楽編』[共通事
項]では,「低学年で取り扱う音楽を特徴付
www.nsta.org/docs/Position Statement_
けている要素は,音色,リズム,速度,旋律,強
EarlyChildhood.pdf> (最終閲覧日:平成 26
弱,拍の流れやフレーズなどである」(文部
年 11 月 14 日), 2014.
・The Ohio Resource Center & The Ohio
科学省, 2008, 33)と示されている。
Department of Education(ORC & ODE).: The
主要引用・参考文献
Sound Project, <http://rec.ohiorc.org/
・Bosse, Jacobs and Anderson.: Science in
InquiryProjects/Project/sound.aspx?page=0
the Air, Young Children, 64, 10-15, 2009.
> (最終閲覧日:平成 26 年 11 月 14 日),
2010.
・Department for Education(DFE).: The
national curriculum in England: Key
― 60 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
野生動物の保護・保全を目的とした普及活動に関する実地調査
岡本友理
OKAMOTO, Yuri
神戸女学院大学人間科学部環境・バイオサイエンス学科
Kobe College, School of Human Sciences, Department of Biosphere Sciences
三宅志穂
MIYAKE, Shiho
神戸女学院大学人間科学部
Kobe College, School of Human Sciences
[要約]
野生動物の保護・保全を目的とする組織や施設が提供する、一般向けの普及活動とは
どのようなものなのか。本研究では子どもから大人まで幅広い年齢を対象にするプログ
ラムにおいて、何がどのようなやり方で提供されているかについて実地調査した。実地
調査によって、いかに一般の人々に野生動物の保護・保全を身近に感じてもらうかとい
う工夫がなされていることが分かった。
[キーワード]野生動物の保護・保全、普及教育、生涯学習、一般向けフィールドワーク
普及活動の対象は、
「学びたい」と思う人
1.はじめに
近年日本では、地球環境問題への関心が
である。そのため、その現場は「学びたい、
高まり、野生動物の保護・保全活動が盛ん
伝えたい。」と思う人々の意識が合わさるこ
に行われている(高槻、2006)。これらに取
とで成立する場であると考えられる。では、
り組む人々は保護活動だけでなく、一般向
野生動物の保護・保全を目的とする組織や
けに普及活動にも力を入れている。例えば
施設は実際にはどのような普及活動を一般
WWFジャパンでは鳥取県とツキノワグマ
向けに提供しているのであろうか。本研究
の共同プロジェクトを行い、地域住民と一
では、実地調査を通して、その特色を明ら
体となってクマとの共存を考えるシンポジ
かにする。
ウムや勉強会を開催している(佐久間ら、
2014)。その他にも 2000 年 4 月に、日本や
2.研究の目的と方法
世界のサンゴ礁保護の拠点となる「サンゴ
本研究では、野生動物の保護・保全を目
礁保護研究センター(通称:しらほサンゴ
的とする普及活動として、何がどのように
村)」を設立し、地域住民の協力を得ながら、
行われているのかを実地調査した。実地調
保護活動と調査や環境教育などの普及活動
査は以下 a から e の 5 つの取り組みについ
に力を入れている(佐久間ら、2014)。
て行った。
― 61 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
a.第 15 回野生動物リハビリテーター初
級認定講座&試験
日時:2014 年 6 月 28~29 日
場所:札幌エルプラザ 2 階・環境研修室
住所:札幌市北区北 8 西 3
b.釧路湿原野生生物保護センター
日時:6 月 30 日 10 時~16 時
住所:北海道釧路市北斗 2-2102
c.自然のカタチをつなぐ手つながる手
釧路の湿原獣医 齋藤慶輔先生のお話し
会日時:6 月 28 日 14 時~16 時
場所:レストランのや
住所:北海道札幌市中央区北 2 条東 11-
23-14
d.サンゴ礁と共に生きる
ホームスティ
島人に触れる
世界有数のサンゴ礁環境
保全と島文化を学ぶ
石垣島 4 日間
日時:2014 年 8 月 23~26 日
住所:沖縄県石垣市字白保 118
e.第 17 回旭川動物園教育ワークショッ
プ
日時:2014 年 8 月 29 日 13 時~16 時
場所:北海道旭川市立神居東小学校
住所: 北海道旭川市神居 1 条 17 丁目
3.実地調査
実地調査した普及活動のプログラム・
活動のスケジュールは表 1 のとおりであ
る。それぞれの概要や展開について以下
に記す。
a. 第 15 回野生動物リハビリテーター初
級認定講座&試験
参加者 12 名うち大学生 8 名、社会人 4
名であった。大学生は獣医学科や獣医看
護学科の学生だった。また、社会人のK
氏は偶然、野鳥を救護した経験をきっか
― 62 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
けに野生動物の保護に関心を持つようにな
ったと話していた。
1 日目は講義が主体であった。内容は北
海道に生息する野生生物の種類やその現状
ついて学んだ。また、野鳥を救護する際の
チェックポイントや応急処置の方法につい
て学んだ。2 日目は実習だった。12 名のう
ち、6 名ごとに 2 班に分かれて、鳥の検体
写真1. 展示コーナーの様子
の測定と生きているマガモに補液と強制給
餌を行った。私は最初に鳥の検体の測定を
剥製が置かれていた。そのほかにも野鳥を
行った。検体は 1 人に 1 個体与えられ、野
紹介する立ち木のジオラマがあり、迫力が
口先生から各部位の測定方法やテーピング
あった。またセンターに保護されているシ
方法を実践的に教えていただいた。次に斉
マフクロウのリハビリの様子が映像で流れ
藤先生から鳥の給餌の方法を学んだ。実際
ていた。2 階にはフィールドスコープを使
にマガモの胃にカテーテルを通して給餌す
って釧路湿原に訪れる季節ごとの野鳥を観
ることで、その感触を確かめることができ
察するコーナーや、釧路湿原自然再生事業
た(野生動物リハビリテーター協会、2011)。
を紹介するパネル展示があった。次にセン
この講座では一般の方でも資格を持ち、野
ターに入って左手にあるのが、猛禽類医学
生動物の救護に関わることで、野生動物保
研究所だ。ここでは、野生動物の救護や生
護・自然環境保全に貢献することができる
息状況調査が行われている(斎藤、2008)。
と参加者に伝えることが目的とされている
私は今回、研究所の代表を務められる斎藤
ことを、実地調査を通して理解できた。
慶輔獣医師に許可をいただいて施設内を見
b. 釧路湿原野生生物保護センター
学させていただいた。施設内には保護収容
このセンターは釧路湿原国立公園内にあ
されたシマフクロウやオジロワシの経過を
る施設である。環境省によって 1993 年に設
観察するためのモニタリング室と救急で運
立された(釧路湿原国立公園連絡協議会、
ばれてくる野生生物を診るための手術室が
2007)
。施設は一般向けのコーナーと猛禽類
あった。また建物の外には猛禽類を収容、
医学研究所の、大きく 2 つに分かれている。
リハビリするためのゲージがあり、6 羽の
入って、すぐ右手の入り口にあるのが一般
オジロワシと 1 羽のシマフクロウがいた。
向け展示コーナ-
この施設にいるオジロワシの多くはもう野
だ(写真 1)。ここでは、北海道東部に生息
生復帰が難しいとされていた。その理由は
するシマフクロウやタンチョウなど絶滅の
交通事故で羽が折れてしまい、自力で餌を
恐れのある野生生物について展示されてい
捕ることができないためであった。そのな
た。また、釧路湿原の生態系やその保護の
かの 1 羽のシマフクロウは生まれつき障害
現状が紹介されていた。パネル展示だけで
を抱えており、野生復帰が難しいため、野
なく、ヒグマやゼニガタアザラシの大きな
生動物の現状を伝えるための、普及活動の
― 63 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
フクロウの親善大使として活躍しているこ
参加だった。大学 2 回生が 3 名、3 回生が 1
とが分かった(斎藤、2014)。
名、4 回生 1 名、社会人 2 名でそのうちの 1
c.自然のカタチをつなぐ手つながる手 釧
名は小学校の教師だった。出身地は関東方
路の湿原獣医 齋藤慶輔先生のお話し会
面が主で、名古屋・埼玉・東京・大阪だっ
店内 2 階の貸しきられたスペースはほぼ
た。大学生のうちI氏は専攻で環境教育を
満席で約 20 人の人が参加していた。年齢層
学んでおり、残りの 3 名は環境問題に高い
はだいたい 30 代~40 代前後であった。女
関心を抱いていた。1 日目、石垣島に到着
性の方が多かったことが印象に残っている。
し、白保サンゴ村で入村式とオリエンテー
講演会はパワーポイント使ったスライド形
ションが行われた(写真 2)。そして、サン
式で行われ、画像や動画を交えた 2 時間は
ゴ礁の生態や現状について講義を受けた。
あっという間だった。講演の最初に先生の
その後に白保集落を散策し成り立ち(サン
自己紹介が行われて、釧路周辺の川にやっ
ゴ礁保護研究センター、n.d)を教えていた
てくる野鳥を撮影した映像が映し出された。
だいた。
また、釧路野生生物保護センターの治療室
2 日目はシュノーケリングで実際にサン
も写されていた。斎藤先生はセンターのな
ゴを観察して理解を深めた。次にサンゴの
かでも猛禽類医学研究所を拠点に活動され
減少の要因である農地からの赤土流出防止
ている。現在、猛禽類の多くが絶滅の危機
のためにグリーンベルトとして月桃樹の植
に立たされている。今回の講演ではその大
栽活動を行った。サンゴ村に戻り、白保の
きな原因の 1 つである、鉛中毒についての
方言を学んだあと、島人との夕食交流会で
話が主であった。鉛中毒にかかった猛禽類
伝統芸能を楽しんだ。
3 日目は 2~4 人のグループに分かれて、
は激しい貧血や神経症状によって運動能力
が低下し、消化器系や泌尿器系に深刻な障
ホームスティ先に移動した。菊の花の植え
害をきたし最終的に循環器不全などにより
付け作業のお手伝いをさせていただき
衰弱死する(斎藤、2014)。その原因は狩猟
島人の暮らしを体験した(写真 3)
。
最終日はホームスティ先のご家族の皆様
で射止められ放置された動物の被弾部を餌
と誤って猛禽類が食べてしまうためである。
と竹富島を散策し、その後はサンゴ村に戻
北海道では鉛中毒を防ぐために狩猟の際に
り離村式を行い空港へと向かった。
鉛弾を使うことは禁止された。しかし今も
なお、鉛中毒によって死亡するワシがいる。
鉛中毒を完全に防ぐためには、まだたくさ
んの課題があることが分かった。
d.サンゴ礁と共に生きる
ームスティ
島人に触れるホ
世界有数のサンゴ礁環境
保全と島文化を学ぶ
石垣島 4 日間
スタディツアーの参加者は 9 名で、全員
が女性だった。そのうち、1組は母娘での
― 64 ―
写真2. 入村式の様子
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ラーメン・揚げ油・洗剤などがあった。
次に、現在のボルネオにおけるアブラヤ
シのプランテーションの広がりと、そこに
住む野生動物の様子について映像を使って
説明が行われた。子ども達からは「かわい
そう。」という声が多くあがった。こうした
現状を踏まえて、自分達にできることはど
んなことがあるのか、子ども達に考えても
らった。その意見の一部として、
「動物達に
写真3. 菊の花の植え付け作業
動物園に引っ越してもらう。広いジャング
e. 第 17 回旭川動物園教育ワークショップ
ルに移す。」「プランテーションを他の場所
北海道旭川市にある旭山動物園が取り組
に移して、これ以上ジャングルをなくさせ
む活動のなかに「恩返しプロジェクト~ボ
ない。」「パーム油をボルネオからもらって
ルネオへの恩返し~」というプロジェクト
いる会社にあんまり油を使わないようにし
がある(旭川市旭川動物園、n.d)。今回は
てもらう。」という意見が上がった。パーム
この取り組みを中心に、小学校 3 年生の子
油をまったく使わない、などという極端な
ども達に、ボルネオ島で起きている環境破
意見が出てこないことに驚いた。また、こ
壊について学び、子どもたちにできる環境
の授業全体を通して、ワーク形式を取り入れ
保護活動を考えてもらう授業が行われた。
ることや、子ども達に発言を求め、それに子
ボルネオ島とは赤道直下にある世界で 3
ども達も積極的に答えるという学校の教育
番目に大きな島であり、広大なジャングル
スタイルの変化も体感することができた。
にはゾウやオラウータンなどの野生動物が
たくさん暮らしている。そのジャングルが
4. 野生動物の保護・保全を目的とした普及
年々減少しており、野生動物に対する影響
活動の特色
が深刻だ。その原因は人間がジャングルの
5 つの実地調査を行って、野生動物の保
木を切り、パーム油と呼ばれる油を絞るた
護・保全を目的とした普及活動の特色とし
めのアブラヤシの畑を広げ続けているため
て以下のことを見出した。
である。私たちは普段の日常生活において、
aの講座は比較的、安価に野生動物につ
そのパーム油の恩恵を受けている。このこ
いて学ぶことができ、獣医師の方から直接、
とを子どもが実感できるように、教師はワ
実技を学ぶことができるのでより実践的で
ークシートを準備していた。ワークシート
ある。また資格という形で認定してもらえ
には、身の回りにあるさまざまな製品のパ
るので、継続的に活動を続けることができ
ッケージに記載されている原材料名に着目
る。協会から会報が定期的に送られてくる
して、共通して使われているパーム油を見
ので情報を手に入れやすいというメリット
つけさせる工夫がなされていた。製品には
もある。
ポテトチップス・アイスクリーム・カップ
― 65 ―
bのセンターは、入館料が無料で朝 10 時
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
~17 時まで開放されている。来場したい人
ての学びや、マスメディアを介した情報は
にとって時間や費用の負担を少なくしなが
豊富にあるが、やはり自分自身の目で見て
ら、野生動物の問題が生じる現場の感覚を
確かめることの重要性を改めて感じた。ま
学ぶことができる。
た、本研究の調査を通して、環境問題に関
cのお話会ではレストランで行われてい
心を持ち、講演会や講座に参加している一
た。これは一般の方が日常的に行く機会の
般の方々にたくさん出会った。こういった
ある場所を利用することで、誰もが参加し
人々が活躍できる受け皿となる場所が今後、
やすくなる工夫であると考えられる。
求められていくのではないかと感じた。
d はツアーとして実施されており、環境
保護・保全のことだけでなく、地元の人々
引用文献
との交流も含まれていた。参加者が楽しん
旭川市旭山動物園:ボルネオへの恩返し、
で体験できる内容であり、期間内に集中し
http://www5.city.asahikawa.hokkaido
て学べるので、インパクトが強く印象に残
.jp/asahiyamazoo/zoo/sc02_top.html、
ると考えられる。
n.d、2014 年 11 月 19 日閲覧
最後にeの小学校での授業では対象が子
釧路湿原国立公園連絡協議会:釧路湿原基
どもであり、いかに野生動物の現状につい
礎知識、http://city.hokkai.or.jp/
て身近に感じてもらうかがポイントとなっ
~kkr946/shisetsu_yaseiseibutu.html、
ていた。そのため身の回りにあるものから
2007 年、2014 年 10 月 29 日閲覧
環境について考えさせていて、この捉え方
斎藤慶輔:希少猛禽類の保全医学的保護活
は年齢に関わらず、身近な問題として受け
動、日本獣生大研報、31-35 頁、2008 年
取ってもらうために重要な工夫であると考
斎藤慶輔:野生の猛禽診る
獣医師•齊藤慶
えた。また、授業という形をとることで子
輔の 365 日、北海道新聞社、24-36 頁、
ども達の話を聞く姿勢が整いやすく、保
103-137 頁、2014 年
護・保全に取り組む組織や人々は、一般向
佐久間浩子・三間淳吉・鈴木智子:会報W
けに普及活動を行う際、いかにして身近に
WF11・12 月号、vol.44、No.384、
感じてもらうかということに注視した展開
9-12 頁、2014 年
サンゴ礁保護研究センター:活動トピック、
の仕方を工夫していると理解できた。
http://www.wwf.or.jp/activities/nat
ure/cat1153/cat1187/cat1588/、n.d、
5.おわりに
2014 年 11 月 1 日閲覧
5つのフィールドワークに参加した結果、
保護・保全を行っている対象である野生動
高槻成紀:野生動物と共存できるか、岩波
物を実際に自分の目で見ることが大切だと
ジュニア新書、153-203 頁、2006 年
分かった。その現状を肌で感じることで、
野生動物リハビリテーター協会:野生動物
はじめて野生動物の美しさを体感し、次世
リハビリテーターについて、http://wra-
代に残したいという思いが自然と沸き起っ
hokkaido.org/、2011 年、2014 年 10 月
てくるのではないかと考える。座学を通し
26 日閲覧
― 66 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
タンジブル天体学習用 $5 教材を用いた協調学習における発話分析
Protocol Analysis of Collaborative Learning Using AR Learning Equipment
with Tangible User Interface for Astronomy Education
瀬戸崎典夫 鈴木滉平 森田裕介
Norio SETOZAKI, Kohei SUZUKI, Yusuke MORITA
長崎大学 早稲田大学 早稲田大学
Nagasaki University, Waseda University, Waseda University
>要約@ 天文分野における月の満ち欠けのしくみは,高次な視点移動能力を必要とし,児童・
生徒にとって理解困難である.一方,実世界指向インタフェースが注目されており,拡張現実
やタンジブル・ユーザ・インタフェースなどの活用によって学習者の理解促進が期待できる.
そこで,本研究では,模型操作と連動したタンジブル天体学習用 AR 教材を用いて協調学習を
行い,本教材の有用性を発話分析によって明らかにすることを目的とした.発話分析の結果,
地球視点をモニタに提示することで,俯瞰視点と地球視点を連動させた思考を誘発することが
示された.また,TUI や AR を実装することにより,学習者間の知識共有に有用であることが
明らかになった.一方,地球模型に設置された無線カメラの画角による誤概念を生成させない
ように留意するとともに,本教材の特徴を活かした授業デザインの必要性が示された.
>キーワード@ タンジブル・ユーザ・インタフェース,拡張現実,天体学習,協調学習
の 概 念 と し て 知 ら れ て お り ( ISHII and
1.はじめに
天文分野における「月の満ち欠けのしくみ」は,
ULLMER 1997),仮想オブジェクトと物理オブ
高次な視点移動能力を必要とするため,児童・生
ジェクトをシームレスに連動した 3D インタラク
徒にとって理解困難である
(縣 2004,
益田 2007)
.
ションを提供することができる.これらの技術は,
天体の相対的な位置関係よって起こる現象を理
コンピュータを意識することなく実世界の物理
解するには,天動説的な視点と地動説的な視点の
オブジェクトを用いて仮想環境とインタラクシ
切り替えを自在に行う必要があり,中高下(2002)
ョンすることによって,効果的な学習支援が期待
は,実際に存在する具体物を操作すると同時に,
されており,天文分野における教材開発にも応用
地球からの視点を観察することが有用であるこ
されている(川崎ら 2010,瀬戸崎ら 2012)
.森
とを示唆した.
田ら(2010)は,模型操作と仮想空間を連動させ
一方,実世界のものや特定の場所を使ってコン
たタンジブル教材の活用により,学習者間のコミ
ピュータとインタラクションする実世界指向イ
ュニケーションを促すことを示した.また,葛岡
ンタフェースが注目されており,天文分野におけ
ら(2014)は,天文学習におけるタンジブル学習
る課題解決の一助として期待されている.拡張現
環境に関するデザイン原則を検討し,地上視点と
実(Augmented Reality:AR)は,現実の環境に
俯瞰視点を複合的に考察されるために,タンジブ
仮想オブジェクトを合成提示することができる
ル教材への AR 技術の利用を挙げた.
技術として,天文分野において有用性が示唆され
そこで,本研究は具体物である天体模型をイン
ている(小松ら 2013,瀬戸崎ら 2011)
.タンジ
タフェース(TUI)とした天体学習用 AR 教材の
ブル・ユーザ・インタフェース(Tangible User
有用性を検討すべく,協調学習における発話を分
Interface:TUI)は,触れるコンピュータを創造
析した.
するヒューマン・コンピュータ・インタフェース
― 67 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
2.方法
タンジブル天体学習用 AR 教材を使って回答する
1)タンジブル天体学習用 $5 教材の概要
ように指示した.課題の内容は,「地球の自転・
本教材は,テーブル上に設置された地球模型と
月の公転運動(2問)」,「月のみかけの形状によ
月模型を操作することによって,月が満ち欠けす
る天体の配置(4問)」,「時間概念を考慮した天
る様子を観察することができる.テーブル上では,
体の配置と方位(9問)」,「日の出,日の入時の
地球の自転運動と月の公転運動を軌道プレート
天体の配置(2問),
「時間概念と方位概念を考慮
に沿って直観的に操作する.テーブルの正面には,
した月の満ち欠け(2問)
」
の合計 19 問であった.
42 インチのモニタが設置されており,地球模型に
なお,筆者が講師として課題を口頭で出題し,
内蔵された小型無線カメラ(30 万画素,水平画角
被験者らは天体模型の配置や口頭による回答を
48 度)からの実映像が提示される.
した.また,協調学習の様子を分析するために,
図1に重畳表示された CG モデルによって,月
課題遂行時の様子をビデオカメラで記録した.
模型が新月から満月に変化する様子を示す.テー
ブル下に設置された Web カメラから取得した地
3.結果
球模型と月模型の位置情報を基に,無線カメラか
表1に日の出の時間帯における地球模型の配
らの実映像に CG の太陽モデルを設置し,地球模
置に関する課題遂行時の発話を示す.学生 B は,
型と月模型に対して照射される光の方向が想定
発話 ID 02「そしたらこっちから<太陽が>出て
できるようにした.また,月模型に対して,太陽
くるじゃん.」 に示されるように,地球模型を自
光が照射されない影の部分を重畳表示すること
転させることでモニタに太陽 CG を表示させ,方
によって,地球模型からみた月模型が満ち欠けす
位を確認しようとした.また,学生 A は,発話
る現象を表現した.さらに,地球模型の自転によ
ID 03「こっちから見たら東だもんな.
」や,発話
る昼夜を表現すべく,月模型の背後に背景となる
ID 05,07 で地球模型からの視点を考慮し,太陽
CG モデルを配置した.配置した背景の CG モデ
が東から昇るという既存知識と関連付けている.
ルには,無色から黒となるグラデーション効果を
そこで,学生 C が発話 ID 08「だから,地動説で
設定した.したがって,観察地点(無線カメラレ
考えてたからだ.」と発言しており,俯瞰視点で
ンズ部)が太陽モデルと反対方向にある場合,月
のみ考えるのではなく,地球模型への視点移動に
模型を除く背景が暗くなり,夜間の観察を疑似体
ついて述べた.
被験者らは,発話 ID 09「これでいいです.」で
験できる.
2)評価方法
観察地点が日の出となる時間帯を図2の配置で
大学生4名を1組とし,「月の満ち欠けのしく
あると回答した.しかしながら,図2に示すよう
み」に関する課題を与えた.また,課題に対して,
に,本教材では地球模型に設置された無線カメラ
太陽 %) モデル
新月
三日月
背景 %) のグラデーションで月模型を除く背景が暗くなる
上弦の月
十三夜月
図1 月模型が新月から満月に変化する様子
― 68 ―
満月
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
表1 日の出の時間帯における地球模型の配置
発話ID 発話者 発話内容 (行動)<補足説明>
表2 日の出の時間帯における方位
発話ID 発話者 発話内容 (行動)<補足説明>
こう回ってるんだよな.地球って?
19 学生A
日の出の時間帯での東の方向はどち
らですか?
こっち?東から出るんだから.(東の
20 学生C
こっちですね.(地球模型のカメラに
21
22
23
24
ん?
どんどん動かしながらでいいですよ.
こっち側から出てきます.
01 学生A
02 学生B
03 学生A
04 学生D
05 学生A
06 学生C
07 学生A
08 学生C
09 学生D
10 講師
11 学生A
12 講師
13 学生B
14 学生A,C
15 学生A
16 学生B
17 学生A
18 学生B
(地球模型を自転方向に回転させて)
うん.暗いねぇ.それで,そしたらこ
っちから<太陽が>出てくるんじゃ
ん.(モニタにおける地球視点での東
を指して)
あ,それでいいのか.こっちから見た
ら東だもんな.(地球模型上での東を
指して)
え?え?
こいつ<地球模型>から見たら,東か
ら出とるんよ.
そうそうそう.
(地球模型を指して)こいつからみた
ら東日本から出とるんよ.
だから,<俯瞰視点のみで考えて>地
動説で考えちゃってたからだ.
これでいいです.(地球模型から太陽
CGが見える位置に地球模型を配置し
て)
日の出の時間帯です.観察地点はここ
ですよね.太陽はこちらにあります.
これで大丈夫ですか?
どういう?え?
日の出って,ようするに日が昇ってく
るんですよね.回しながら考えてもら
ったときに,真夜中はどの位置です
か?観察地点が真夜中になるときで
す.
真裏だからこっちだよね.(地球模型
18 講師
学生A
講師
学生C
学生A
25 学生C
26 学生C
27 学生D
28 学生A,C
方向を指して)
指が映るようにして,太陽CGがある
方向を指して)この指のある方から.
(学生Dがボールペンを取り出して
地球視点からの映像に映す動作を見
て)ボールペンキープで.
(ボールペンを地球模型の東西方向
にあて維持して)キープ,キープ,キ
ープ.ボールペンを画面に沿うように
ついてって.
(地球模型を自転方向に回転しなが
ら)こういうことで,太陽はこっちか
ら昇ってくればオッケーだから,東か
ら出てくる.
だから,だから.
(東方向を指して)こっち.こっち.
太陽 &*
観察地点
視認範囲
地球模型からの視点
から見た太陽CGとは反対側を指し
て)
あぁ,なるほど.
ということは,(地球模型に照射され
る太陽光の境界線を指して)こっちか
こっち.さっき<地球の自転は>どう
回ったんだっけ?そう.だから,この
辺じゃない?
なにが?ちょっと待って.教えて.
(地球模型に太陽光が照射される部
分を指して)だから,太陽がこうなっ
とるから,光が当たってるのは厳密に
はここまで.
わかった.
地球模型
カメラ画角°
テーブル上面
太陽 &*
モニタ
図2 無線カメラの画角と視野範囲
17 で具体物である地球模型を使い,太陽光が照
射される境界線を示すとともに,「太陽がこうな
っとるから,光が当たってるのは厳密にここま
で.」と地球の自転を考慮した日の出の時間帯に
の画角が 48 度で視認範囲が狭いため,太陽 CG
おける観察地点の配置について説明した.
の右端がモニタに表示されたときが日の出の時
表2に日の出の時間帯における方位に関する
間帯ではなく,回答は誤りであった.そこで,発
課題遂行時の発話を示す.発話 ID 20,24 の際
話 ID 10,12 で講師が誤りを指摘した.被験者
の行動に示されるように,学生 C や学生 D は,
らは,発話 ID 11「どういう?え?」の時点で課
地球模型視点を表示したモニタに指やボールペ
題の誤りに気づいていないが,講師の誘導によっ
ンを示すことで,俯瞰視点と地球視点を連動させ
て学生 A と学生 C が発話 ID 14「あぁ,なるほ
ている.さらに,学生 D と学生 C は,発話 ID 25
ど.
」で誤りに気づいた.学生 A は,発話 ID 15,
「キープ,キープ,キープ.ボールペンを画面に
― 69 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
沿うようについてって.
」
,発話 ID 26「こういう
あることが示されたといえる.
ことで,太陽はこっちから昇ってくればオッケー
だから,東から出てくる.」において,ボールペ
5.まとめ
ンで方位を示しながら協力して地球模型を回転
本研究では,模型操作と連動したタンジブル天
させ,太陽 CG が表示されることを確認しながら
体学習用 AR 教材を用いた協調学習における発話
課題を遂行した.
分析によって,本教材の有用性を明らかにするこ
とを目的とした.
4.考察
発話分析の結果,地球視点をモニタに提示する
本教材は,モニタに地球視点を示すことで,俯
ことで,俯瞰視点と地球視点を連動させた思考を
瞰視点だけでなく,地球視点と連動した思考を誘
誘発することが示された.また,TUI や AR を実
発することが示された.したがって,他視点提示
装することにより,仮想環境内で現実環境のオブ
の有効性が示されたといえる.一方,地球模型か
ジェクトを関連付けることでき,学習者間の知識
らの視点をモニタに示すことによって,課題の回
共有に有用であることが明らかになった.一方,
答がすぐに表示されてしまうため,学習者の思考
地球模型に設置された無線カメラの画角による
を妨げるおそれがある.
誤概念を生成させないように留意するとともに,
また,図2に示したように,地球模型に設置さ
本教材の特徴を活かした授業デザインの必要性
れた無線カメラの画角が 48 度で視認範囲が狭い
が示された.今後の課題は,本教材を有効活用で
ため,出題する課題によっては,モニタに回答が
きる授業デザインを考案し,教育現場において実
直接表示されない.表1の発話 ID 01 ~09 に示
践的に評価することである.
されたように,モニタに表示された視覚情報にの
参考文献
み頼ることで誤って回答することがある.したが
って,本教材の特徴を理解した上で,誤概念を生
成させないように留意するとともに,教材の特徴
を活かして学習者の思考を妨げない授業進行を
デザインする必要がある.
表1の発話 ID 15,17 に示されたように,具
体物である地球模型を使い,太陽光の照射範囲を
示しながら説明することで,学習者らが理解した
内容を共有できる.したがって,実物模型をイン
タフェースとした TUI が学習者らの知識共有に
有用であることが期待される.
また,表2の発話 ID 20,24 で示されたよう
に,学習者らは地球視点のモニタ映像にボールペ
ンや指などを提示し,俯瞰視点と地球模型視点を
連動させながら課題を遂行できる.さらに,発話
ID 25,26 で示されたように,重畳表示された仮
想オブジェクト(太陽 CG)に対して,現実環境
に存在するボールペンなどを手掛かりとして関
連付けながら,課題を遂行することができる.し
たがって,現実環境と仮想環境を融合させた AR
環境を示すことで学習者間の知識共有に有用で
縣秀彦:理科教育崩壊-小学校における天文教育の
現状と課題-,天文月報,97 (12),726-736 ,
2004.
Ishii, H., Ullmer, B.: Tangible Bits : Towards
Seamless Interfaces between People, Bits and
Atoms,Proceedings of CHI,234-241,1997.
川崎亨ほか:身体動作に連動した直感的な視線操作
と視点の切り替えが可能な仮想天体学習環境の
構築,日本教育工学会論文誌, 34(3),153-160,
2010.
小松祐貴ほか:月の満ち欠けの理解を促す AR 教材
の開発と評価,科学教育研究, 37(4),307-316,
2013.
葛岡英明ほか:天文学習のためのタンジブル学習環
境に関するデザイン原則の検討,科学教育研究,
38(2),65-74,2014.
益田裕充:学習指導要領への位置づけの変遷と子ど
もの空間認識に基づく発展的な学習内容の検討
-「月が満ち欠けする理由」をめぐって-,科学
教育研究,31 (1),3-10 ,2007.
森田裕介,瀬戸崎典夫,岩崎勤:模型操作と連動す
るタンジブル太陽系教材の開発と評価,科学教育
研究, 34 (2):128-137 ,2010.
中高下亨ほか:中学校天体学習に関する一考察-自作
モデル教材の導入と生徒の方位認識-,理科教育
学研究,43 (2),35-42 ,2002.
瀬戸崎典夫,岩崎勤,森田裕介:多視点型天体教材
を用いた授業実践における能動的学習の効果,日
本教育工学会論文誌,36(2):81-90,2012.
― 70 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
「理科離れ」を改善する小中連携理科教育
中核的理科教員(CST)として活動報告
Revitalizing㻌 Science Enthusiasm Among Apathetic Students by CST
井形哲志
IGATA, Satoshi
上尾市立大石中学校
Ageo City Oishi Junior High School
㻌
[要約]本研究では,小中連携を通しながら,児童生徒の「理科離れ」を防ぐ取組を
日々実践していった。その結果,理科好きな児童生徒を育てることができた。
[キーワード]小中連携,中核的理科教員,CST
㻌
のような結果が出ている。
1.問題の所在
(1)児童生徒から見た「理科離れ」
・教員が理科指導を苦手としている。
諸外国と国際比較をした国際数学・理科教育動
向調査(国際教育到達度評価学会,)による
と,以下のような結果が出ている。
・理科の学習が楽しくない。
理科の成績の点数は諸外国・地域と比べ高い。
しかし,小学校4年生だと87%の児童が理科の
勉強は楽しいと感じているが,中学校2年生だと
59%の生徒しか理科の勉強が楽しいと感じて
いない。年齢が上がると好きではなくなる。
また,全国学力学習状況調査(文部科学省,
約6割の小学校教員が理科指導を苦手として
)によると,以下のような結果が出ている。
いることが分かる。小学校教員の理科指導に関す
・理科の学習は大切でない。
る自己の知識や技能に対する評価では,
「授業内
「理科の勉強は大切だと思う」小学校6年生は
容の知識が十分ある」42%,
「観察実験の知識
86%,中学3年生は69%である。一方,
「国
が十分ある」30%,「観察実験の技能が十分あ
語の勉強は大切だと思う」小学校6年生は93%, る」34%といずれも十分な自信をもっていると
中学3年生は90%である。理科が大切だと思う
は言えない。
児童生徒の割合は,他教科に比べて低い。
また,
「千葉市理科教員の現状と課題」
(千葉
・理科は普段の生活や社会で役立たない。
市教育センター,)によると,小学校で観察・
「理科の授業で学習したことは,将来役に立つ
実験の障害となるものは,
「準備・後片付けの時
と思う」小学6年生は73%,中学3年生は5
間が不足している」
・
「観察・実験の知識・
3%である。一方,
「国語の授業で学習したこと
技能不足」
・「薬品の取扱いに自信がないこ
は,将来役に立つと思う」小学6年生は89%,
と」である。
中学3年生は83%である。理科が普段の生活や
社会で役立つと思う児童生徒の割合が他教科に
比べて低い。
・将来の職業につながらない。
「将来,理科や科学技術に関係する職業に就き
たいと思う」小学6年生は29%,中学3年生は
24%である。半数以下である。
(2)教員から見た「理科離れ」
教員の理科に対する意識はどうであろうか。平
したがって,児童生徒および教員の「理科離れ」
成 年度小学校理科教育実態調査及び中学校理
はあり,改善することが急務である。
科教師実態調査に関する報告書 改訂版(独立行
そういった状況の下,私は平成25年度より中
政法人 科学技術振興機構,)によると,次
― 71 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
核的理科教員(&RUH 6FLHQFH 7HDFKHU 略して
&67)として活動をすることになった。中学校第
3学年担任として担任学級の指導をしながら,週
4日継続的に近隣小学校に出向き,児童や小学校
教員に対して「理科離れ」を改善するための手立
てを行ってきた。本稿では、その一部を紹介する。
2.研究仮説
教師自身の「理科離れ」を改善し、小中連携して理
科教育の充実を図ることで、理科好きの児童生徒が
育つであろう。㻌
以上のように研究仮説を掲げ、以下のように研究
の全体構想を練った。㻌
㻌
埼玉大学
㻌
県立総合教育センタ
㻌
ー㻌 㻌
研修の受講
㻌
勤務校にて
㻌
中学校(&67 拠点校)
公開授業および
㻌
研究協議会の
理科支援
㻌
実施
㻌
㻌 㻌
小学校(&67 支援校)
㻌
図のように、筆者自身が
㻯㻿㼀 活動の連携先である
埼玉大学や埼玉県立総合教育センター等において
研修を受けながら、小中学校への理科支援を行った。
筆者の勤務先である中学校では、担任する中学校
第3学年を1学級指導しながら、学級担任の業務の
合間をぬって、近隣の 㻯㻿㼀 支援校へ赴き小学校第6
学年の理科支援を行った。さらに、埼玉県南部地区
の理科担当教員を対象に、公開授業および研究協
議会を行ったり、県や市の理科実技研修会の指導者
として研修会を行ったりした。㻌
㻌
3.児童生徒の「理科離れ」を改善する取組
(1)理科の興味関心を高める導入㻌
生徒の理科の興味関心を高めるために、筆者の所
属する第3学年では、理科通信を不定期に発行し、
授業の導入に活用した。できるだけキャリア教育の観
点から「科学者紹介を含めた科学史」や「科学と社会
との関係」について紹介をした。㻌
理科通信は筆者を含め第3学年理科担当の3名の
教員が共同で作成した。㻌
(2)スケッチの指導
中学校第1学年の最初に「植物のスケッチ」を
行う内容がある。生物スケッチは、気をつけない
と図画工作科や美術科で行うようなスケッチに
なってしまいかねない。
生物スケッチとは異
なるものである。第6
学年で植物の葉の気孔
のスケッチをした際に、
・1本の線で描くこと
・見えたまま描くこと
・かげはつけないこと
の3つを重点的に指導
児童のスケッチ例
した。すると、目の前に
見えている事象をそのまま描こうとする姿勢が
身についてきた。中学校ならではの専門性をいか
すことができた事例である。
(3)定型文指導 ~結果と考察の区別~
児童は,実験の結果は
書き残せるが,そこから
どんなことが考えること
ができるかを書くことが
難しかった。そこで,「考
察」を「結果から分かる
こと」とし,「このこと
から…ということが分か
った」という定型文を用
いて指導を重ねた。
児童の考察例
㻌
㻌
4.教員の「理科離れ」を改善する取組
(1)実験器具のデータベース化
理科指導のための準備はできるだけ短い時間
でできるようにするために,小中学校の理科室お
よび理科準備室のすべての棚に番号をつけ,何が
入っているのかすべて明らかにした。
名前から場所が検索できるようにしたり、単元
を指定したりすることで、単元で必要なものだけ
を表示できるように工夫した。
授業の導入に活用した。内容
例として…㻌
・ノーベル賞㻌
・同位体とその利用㻌
・脳科学㻌
・リチウムイオン電池㻌
・p㻴 が大事な仕事㻌
・クローン技術㻌
㻌
理科通信(科学の花)
実験器具データベース
㻌
― 72 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
単元名を選ぶと、その単元
で必要な物のみがリストアッ
プされるようにしている。これ
を印刷して理科室に持って
いけば、単元で必要な物を
用意する時間が短縮すると
考えた。㻌
(2)理科教育の情報提供
小学校第6学年の内容に限らず、
「&67 通信」を
通じて理科についての情報提供を小学校教員に
対して行った。同様に中学校でも情報提供を行っ
た。
理科の情報提供(&67 通信)
<内容例>
・問題解決の流れ
・気体検知管の使い方
・だ液実験の改良法
・理科実験器具データベース
・生物スケッチの仕方
・気孔の観察法
(3)研修会の実施
教員を対象とした研修会において、指導者とし
て活動を行った。
ダンシング・スネーク㻌
㻌 →声を筒に向かって
出すことで、ヘビが
動き出す。㻌
教員に紹介した理科の題材例①
ニボシの解剖㻌
㻌
→解剖の題材と
しては簡単であ
り、小学生でも解
剖が可能。㻌
教員に紹介した理科の題材例②
表 指導者として行った理科実技研修会
内容
対象
県南部地区
公開授業
小中学校教諭
① 中学校第3学年
星と宇宙
② 中学校第1学年
身のまわりの物質
安全な水素爆鳴実験
同上
音や風のおもちゃづくり 近隣小学校教諭
ガスバーナーの使い方
市内小中学校教諭
葉脈標本づくり、
県内中学校5年次
星や宇宙の指導法
理科教諭
化学分野における
県内小学校
基礎的な理科実技
初任者教諭
ニボシの解剖
学会年会参加者
(年会企画の一環)
および小中学校教諭
5.支援活動の評価
(1)児童生徒の理科についての意識
対象:小学校第6学年児童(&67 支援校)
中学校第3学年生徒(&67 拠点校)
平成24年度全国学力・学習状況調査と同様の
調査項目について、「①そう思う ②どちらかと
いうとそう思う ③どちらかというとそう思わ
ない ④ そう思わない」で選択させた。
設問1 理科は好き。
設問2 理科は大切だと思う。
設問3 理科はよく分かる。
設問4 理科は将来役に立つ。
設問5 理科がかかわる職業につきたい。
表 理科について肯定的回答をした割合
― 73 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
この表の通り,どの調査項目においても平成2
4年度全国学力・学習状況調査の全校平均を上回
る結果が出た。
(2)教員の理科についての意識
教員対象の研修会の結果の一部を紹介する。
時期:平成25年11月
対象:公開授業および研究協議会に参加した埼玉
県南部地区小中学校教員
内容:公開授業および研究協議会、
天文単元についての指導法の紹介
㻌
公開授業の様子
㻌
天文指導の例(モデル実験)
研修会終了時に、以下のアンケートを行った。
設問1 習得した研修内容は実践するか。
設問2 研修内容は楽しかったか。
設問3 研修内容はよく分かったか。
設問4 研究授業単元の指導に自信/苦手
意識があるか。
結果は、以下のグラフの通りである。グラフ内
数字は回答数である。
設問4で研究授業単元(天文)に苦手意識があ
ると回答した20名の教員に、研修後の苦手意識
の変化についてきくと、以下のグラフのようにな
った。
さらに、苦手意識がなかった13名の教員へ
の理科指導への意識の変化をきくと、以下のグラ
フのようになった。
このように、研修会を通して理科指導について
より苦手意識が改善したり、より自信がついたり
する結果が出た。
他の研修会においても同様の結果が出た。
6.実践のまとめ
以上により、活動の成果として以下を挙げる。
児童生徒の理科への意識を全国平均以上に高
めることができたと共に、小中学校教員の理科指
導への苦手意識を減らしたり、理科指導への自信
をつけさせたりすることができた。
7.課題
・小学校全学級で指導の仕方を統一すること。
・日常的に小学校教員と意見を交わすこと。
・中学校第3学年担任と &67 との両立。
が課題として残った。
8.今後の展望
今後は、以下の活動を行っていく予定である。
・研修報告会の実施
・&67 支援校卒業生とそれ以外の生徒の比較
参考文献
国際教育到達度評価学会:国際数学・理科教育動
向調査(7,066),
文部科学省:平成 年度全国学力学習状況調査,
(独)科学技術振興機構:平成 年度小学校理
科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査
に関する報告書(改訂版),
千葉市教育センター:千葉市理科教員の現状と課
題,
― 74 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
絵本を通じた幼児期の科学教育実践
-子どもの視点から考えるー
Science Picture Books for Early Childhood:
How can we use them from children’s perspectives?
中川 茜
北野 幸子
NAKAGAWA,Akane
KITANO,Sachiko
西宮市立北夙川保育所
神戸大学大学院
Nishinomiya City Kitashukugawa Nursery shool
Kobe University
[要約]近年,幼児期の科学教育が重視され,幼児の科学的探求へのきっかけ作りとして科学絵本の活用が有効であ
ると言われている。幼児対象の科学絵本の実態を明らかにするため,絵本が扱っている科学分野を,文献を参考に
13 に分類し分析した。その結果,日本で出版されている科学絵本は動植物が約7割を占めており,物理や化学分野
の絵本が少ないことが明らかになった。また,5歳児の好きな遊びの観察から幼児の興味関心に沿った絵本を選択
し,読み聞かせる実践では,動植物以外の内容にも興味を抱く姿や,絵本を読み聞かせた後に,絵本内容についての
会話や実験をしたり,既有経験との比較や,因果関係を思考したりする姿が観察された。本研究から動植物以外の絵
本の充実と,幼児が日々遊びの中で抱く科学的興味・関心に応じた絵本を読み聞かせることの重要性が示唆された。
[キーワード]保育実践,科学教育,絵本
絵本は保育施設で広く導入されている教材である。
はじめに
幼児期は好奇心,探究心が旺盛である。幼児は,遊
金子・北野(2010)の研究では,園において 9 割近い
びや生活の中で,科学的な思考や知識へ将来発展して
保育者が毎日1冊以上の絵本を読み聞かせていること
いくであろう,多くの体験を積み重ねている。この体
が明らかにされている。そして保育者が絵本を選択す
験は,
「科学する心」の育ちとか芽生えとして,重視さ
る基準として「季節」
(62.4%)と「年齢」(48.2%)を重
れている。ハーレン・リプキン(2007)は 8 歳までに
視していることが明らかにされている。絵本の選択に
経験しておきたい科学として,植物,動物,ヒトの体,
おいては,
「季節」や「年齢」のみならず,幼児の興味
空気,水,天気,岩石と鉱物,磁石,重力,簡単な機
関心や科学的探究心に応じた絵本を選択することもま
械,音,光,環境の 13 分野をあげている。しかし,こ
た必要ではないかと考える。
の分野の経験が実際に保育現場で取り上げられている
そこで本研究では,幼児期の科学教育や科学絵本の
かどうかは疑問がある。先行研究では保育者の物理化
現状を明らかにした上で,子どもの視点から,遊び場
学分野への苦手意識や,どのように科学を保育に取り
面において見られる子ども自身の科学的興味・関心を
入れたらよいかへの苦慮が指摘されている(小谷,
重視しそれに応じた絵本の読み聞かせの保育実践方法
2009 等)
。日本の保育現場では,動植物とかかわる保
を検討した。
育実践が多いようにも思われる。
近年,幼児の科学的な興味関心を踏まえ,さらにそ
1.幼児期における科学教育
の育ちを促す教材として科学絵本の活用が期待され,
幼児期の科学教育はどのように位置づけられている
その効果が検討されている(滝川,2010)
。保育者の力
のであろうか。保育実践においては,幼児期の科学教
量形成ともかかわり、科学絵本の読み聞かせを通じて,
育が実際にどう捉えられ,実践されているのであろう
幼児だけでなく保育者も,簡単に科学的知識や科学的
か。保育所保育指針および幼稚園教育要領,小学校学
思考に触れることができる点も注目されている(山口,
習指導要領,全米科学教育スタンダード(National
2011)
。
Science Education Standards,1996)を比較,検討す
― 75 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
ると,全米科学教育スタンダードでは,幼児期から高
であった。
校までの一貫したカリキュラム構成がなされていた。
近年,
「科学読み物」や「科学絵本」の活用が注目さ
一方,日本の要領や指針では,小学校第 1,2 学年の生
れ,その効果が期待されている(滝川 2009)
。そこで
活科,小学校第 3 学年以降の理科の学習に繋がる「科
出版年についても注目した。その結果,10 年スパンで
学性の芽生えの基礎」として,身の回りの事象や物事
みたところ、近年に出版された絵本数が一番多いこと
に対する態度や感性,好奇心や探究心を育んでいくこ
が明らかになった。しかし,出版数は増えているにも
とを重視するよう幼児期の科学教育が位置づけられて
かかわらず,それ以前と比較すると,科学分野は減少
いた。
していた。出版数の増加分は「動物」と「植物」が 8 割
公益財団法人ソニー教育財団では,幼児教育支援プ
以上を占めていることが明らかになった。
ログラムにおいて「科学する心を育てる実践」を表彰
幼児の遊びにみられる科学的探究の姿は動植物以外
している。2002年度から2012年度までに優秀園・最優
の科学にもひろがっている。子どもの多様な科学的興
秀園として評価された5歳児対象の実践を検討してみ
味や関心に応えるためにも,今後,動植物以外の科学
た。その結果,動植物の飼育や栽培を活動内容とした
絵本の充実が望まれる。
ものがと半数を超えていることが明らかになった。先
にあげたように、ハーレン・リプキン(2007)では8歳
までに経験しておきたい科学として,13の分野があげ
られており,幼児期の科学教育では,子どもの興味・
関心に沿った内容であること,子どもが直接的な体験
を通して学ぶことが指摘されている。ソニー教育財団
の保育実践においても,子どもたちが直接体験する中
で自発的に考えたり,発見したり,試したりする活動
を重視している。しかし,その内容は動植物に関する
ものが多かった。
図 1 .科学分野別絵本出版数
2.科学絵本の現状
教材としての科学絵本を検討するため,科学絵本の
出版状況及び,絵本内容の分析を行い,科学絵本の現
3.科学絵本を活用した保育実践の開発
1,2の検討結果をふまえ,実際に科学絵本の読み
状について調べた。小学校低学年以下の科学絵本を対
象に参考文献や絵本ポータルサイトで紹介されている
聞かせ実践方法の開発をおこなった。
科学絵本を,381 冊を分析の対象とした。分析にあた
開発の趣旨は,動植物に限らず,より広い分野につ
っては、絵本内容からハーレン・リプキン(2007)の
いて,幼児の遊びの姿から、科学への好奇心や科学的
文献を参考に 13 の科学分野に分類した。その結果,
探究心、その芽生えが見られる場面を抽出し,それを
「動物」が 50.4%,
「植物」が 19.4%となっており,動
起点として科学絵本の読み聞かせを行い,その後の評
植物だけで全体の約 70%を占めていた。一方で「天気」
価を行うことにある。
実践方法の開発にあたっては,まず,参与観察によ
「水」
「光」
「簡単な機械」
「音」
「岩石・鉱物」
「空気」
「磁石」
「重力」の 9 分野は出版数が 10 冊以下となっ
って,子どもの遊び場面のデータを収集した。次に,
ており,科学分野に大きな偏りがあることが明らかに
その場面について、興味・関心を抱き,自分なりに思
なった(図1参照)
。
考したり,好奇心や探究心を膨らませたりしていると
さらに,
分野別の出版数が 10 冊以下であった
「空気」
「岩石・鉱物」
「磁石」
「重力」に関してはすべてが訳書
考えられる行動と発言を子どもの遊びの観察記録から
抽出した。さらには、評価項目を作成していった。
― 76 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
本研究では協力園 A の5歳児を対象に,子どもの遊
考えたことを友達や保育者に伝える・説明する,8) 経
びの観察記録から,子どもが興味・関心を抱いている
験したことと新しく知ったことを自分の体験や知識と
と考えられる事柄や現象に対して科学絵本を選択し,
関連づけて語る,の 8 項目が抽出された。また,発言
読み聞かせる実践を4つ開発した。それぞれで教材と
に関しては 1)感動,2)新しい知識の理解,3)因果の理
して活用した絵本、取り上げた科学の分野は表1のと
解,4)説明,5)仮定,予想,予測,6)比較,7)疑問,8)
おりである。
伝える,の 8 項目と各項目に対する具体的な発言例を
抽出することができた。これらを先行研究と比較し分
表1.実践1~4で読み聞かせた絵本と科学分野
類した結果,上位項目(①疑問に思う,②調べる,③気
実践
科学分野
づく,④仮定・予想する,⑤理解・納得する,⑥説明す
実践1 どんぐりころころ
植物・環境
る,⑦伝え,共有する)7項目と下位項目 34 項目から
実践2 はなのあなのはなし
ヒトの体
なる評価項目が作成された。
読み聞かせた絵本
各実践に対して読み聞かせ前の子どもの姿の観察記
実践3 ばばばあちゃんのやきい 燃焼
録,選択した科学絵本の分析,読み聞かせ時の子ども
もたいかい
実践4 しずくのぼうけん
の姿と読み聞かせ後の遊びの観察記録をまとめ,作成
水
した評価項目をもとに実践を評価・反省し,改善案を
実践方法の開発の手順(研究対象、期間、方法)は、
提案していった。
表 2 のとおりである。
読み聞かせ中の子どもの姿と,実践後の遊びの観察
記録から子どもの発言や行動をもとに実践を評価した
表2.実践開発の手順
対象:協力園A園の 5 歳児クラス(25 名:男児
ところ,子どもの遊びや実態をもとに教育的意図をも
12 名,女児 13 名)
ち,科学絵本を教材として活用することで,幼児の好
期間:2012/6/8~2013/2/26 のうち週1回(計 17
奇心や探究心が深まっていく様子がそれぞれの実践で
日間,記録時間は約 86 時間)
明らかになった。
方法:戸外での自由遊びを中心に子どもの遊び
をビデオで記録する。記録の中から探究
例えば実践4では,以下の子どもの姿が観察された。
心や好奇心が深まったと考えられる子ど
(1) 氷ができていることに気づくと,遊びに取り入
もの「発言」と「行動」を抽出して分類
れたり,触ってみたり積極的に関わる
し,実践の評価項目を作成する。
(2) 寒い日は氷ができていること,その氷が溶けて
水になり,いつのまにか消えていることに感動した
り,自分でも氷を作ってみたりしようとしている
観察の結果,子どもが興味・関心を抱き,自分なり
に思考したり,好奇心や探究心を膨らませたりしてい
(3) 氷が溶けることと日が当たっていることの関係
ると考えられる行動は 1)じっと見る,2)2 つ/3 つ以
性に気づく
上のものを比較する(見比べる,相違点や共通点を言
これらを踏まえて以下の 2 点をねらいとして絵本を
葉にする)
,3)試す,実験する(試したあとも継続的に
観察する)
,真似する(自分もやりたいと思う)
,4)「見
読み聞かせた。
つけたい」という目的をもって事物や事象を探す,5)現
象や対象物をみつけて,自分から関わろうとする(向
ねらい1:絵本の物語を通して体験したり,絵本内
かっていく,触れる)
,6) 真似する(人の行動や発言な
容と自分の経験を比べたりしながら,氷と水・水蒸
どを参考に自分もやりたいと思う)
,7)発見したことや
気が可逆的に変化することや,変化したものが基
に戻ったりするときの規則性に気づき,それらに
― 77 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
興味をもつ
多様な科学にも興味をもち,発見や疑問を抱いたり,
自分なりに試したり考える姿が多く観察された。しか
ねらい2:生活や遊びの中で触れ合うことの多い
し,科学絵本の現状としては,科学分野に動植物への
水が水蒸気になったり,雨になったり,氷になった
偏りがみられている。保育現場で働いている筆者の周
り,つららになったりと,姿や形を変えて身近にあ
りにも,子どもの興味や関心に合わせて科学絵本を活
ることに気づいたり,そのことに面白みを感じる
用していきたいと考える保育者がいる。しかし実際に
は保育者自身が多様な科学分野の科学絵本に触れる機
絵本の読み聞かせの後の子どもたちの姿としては、
会は少なく,保育への活用方法も含めてもっと科学絵
例えば、氷と水の変化に「太陽」が関わっていること
本について知りたいと考えている保育者も多い。今後
を自分の経験にそって考える発言や氷と水と水蒸気の
多様な科学分野を扱った絵本が広く出版され,保育者
可逆的な関係に気づき,
「乾いた」という言葉で説明し
も含めた周りの大人たちがより科学絵本に興味をもつ
ようとしている発言など,子どもが水に関する興味を
ことで,子どもたちが科学絵本を手にとり,身近にふ
深め,自分なりに考える姿が読み聞かせ直後に観察さ
れあう機会が増えることが期待される。
れた。
読み聞かせの保育実践では子どもの興味や関心に合
本研究から,実践を通して,子どもの興味・関心や
わせて科学絵本を選択して読み聞かせることで,子ど
疑問・発見を抱く姿を見逃さずに受け止める子ども理
もたちの好奇心や探求心が深まり,幼児期の科学教育
解力や,子どもが興味をもっている科学を他の科学分
で重視されている「科学性の芽生え」を育むことがで
野にも多様に結びつけ,子どもがさらに考えたい,試
きたように思われる。幼児の実態に合わせて選択した
してみたいと思えるような環境構成や援助を可能にす
科学絵本の読み聞かせによって,幼児の好奇心や探究
るための科学的知識や科学的視点が保育者にあれば,
心は深まったが,本研究では幼児の観察期間が短く,
子どもたちの科学的探究が深まることが示唆された。
継続的でなかったことや,観察から読み聞かせまでの
子どもの生活や遊びの中にある科学に関する実体験
時間が空いた実践もあったことが課題としてあげられ
を概念化するためにも,子どもがその時に興味をもっ
る。日々変化する幼児の興味や関心にできるだけ合わ
ている事柄や現象に関しては科学言語への置き換えが
せるため,その日のうちに選択した絵本を読み聞かせ
必要であると考える。例えば,温度や重量を計り,具
ることや,読み聞かせ後の幼児の遊びや生活の変化を
体的な数値を使って比較することや,水の状態変化を
継続的に観察する必要があろう。さらに,科学絵本を
「蒸発」という言葉を使って表現することなどである。
読み聞かせるだけでなく,その後も幼児の姿に合わせ
そういった科学的な言葉に置き換える力や子どもの科
て保育者が援助や環境構成を行う必要性やその効果に
学的探求に合わせて気づきを深める力が保育者自身に
ついても今後検討していきたい。
あるかということが,子どもたちの科学的探求の深ま
りに大きく関わってくると考える。これらの目的を達
5.主要参考文献
成するための手段の1つとして科学絵本の読み聞かせ
ハーレン,D.J. & リプキン.M.S. (深田昭三,墨
を取り入れることは,科学的知識が十分にない保育者
田学監訳)
:8 歳までに経験しておきたい科学.北大
でも簡単に使うことができ,保育者自身も子どもたち
路書房,2007
と一緒に学ぶことができ,子どもたちに科学的探求の
金子幸・北野幸子:幼児の自己肯定感を育む教育方法
「きっかけ」を与えることができるという点で有効で
に関する研究―メディアとしての絵本とその活用法
あることが実践から明らかになった。
―」 国際幼児教育学会編,国際幼児教育研究,第 18
号,5 頁-13 頁,2010
北野幸子編:子どもの教育原理,建帛社,2011
4.おわりに
本研究では,遊びの中で子どもたちが動植物以外の
滝川洋二編:理科読を始めよう,岩波新書,2010
― 78 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
岡山大学の海洋教育普及への取り組み -地域連携による「うなぎ探検隊」の文理横断学習を中心として- Okayama University’s Approach in Spreading Marine Education: A Focus on Cross-Learning in Science and
Literature based on a Local Community Linkage featuring “The Expedition of Japanese Eel”
小林靖尚 A, 筒井直昭 A, 齊藤和裕 A, 坂本竜哉 A, 藤井浩樹 B
KOBAYASHI YasuhisaA, TSUTSUI NaoakiA, SAITO KazuhiroA, SAKAMOTO TatsuyaA, FUJII HirokiB
岡山大学海洋教育グループ (理学部附属臨海実験所 A, 大学院教育学研究科 B)
Ushimado Marine Institute, Faculty of Science, Okayama UniversityA,
Graduate School of Education, Okayama UniversityB
[要旨] 我々は岡山県において初等・中等教育課程への海洋教育の普及活動を行っている。こ
のような取り組みを行う際に,児童・生徒の海洋に対する関心の実態を把握することは重要
となる。そこで今回は,海洋教育の一環として岡山県内外の様々な組織と協力して地域連携
による文理横断学習「うなぎ探検隊」を開催し,参加した児童ならびに保護者を対象とした
質問紙調査によって海洋に対する関心の実態把握を試みた。調査の結果,学習に対する肯定
的意見は多く,海を含めた水辺の環境を保全することの重要性を伝えるという学習の目的は
達成された。そして,海洋に対する意識や関心は児童,保護者ともに高いことが明らかにな
った。一方,参加者の半数が身近な海や川に接する機会がないことも明らかとなった。 [キーワード] 海洋教育, 地域連携, 自然体験学習, 文理横断
1.はじめに 洋教育の推進は,上述のように未だ十分な取り組み
我が国では 2007 年に施行された海洋基本法とそ
が行われているとは言い難い。一方, 政府は 2013
れに基づいて策定された海洋基本計画において, 学
年に海洋基本計画の見直しを閣議決定し,その中で
校教育における海洋教育の普及促進が掲げられた。
海洋教育について「初等中等教育及び高等教育のそ
これを受け, 学習指導要領改訂後の小学校教科書で
れぞれで実施している海洋に関する教育を充実する
は、海洋に関する学習項目が改訂前に比べて 20.8%
とともに,それらを体系的につなげる方策を検討す
増加し,その詳細度は 38%増加した(海洋政策研究
る」という,より踏み込んだ内容を示して, 国の責
財団, 2012)。しかし, 全国の小・中学校を対象に
任を明確にしている。したがって今後は,海洋教育
した海洋教育に関する調査では, 海洋教育に対する
に関する教育課程や授業, 教材を開発するとともに, 認知度は全体の 29%であり, 70%の学校関係者は海
海洋教育を指導できる教員の養成・研修等を,関係
洋教育を知らないと回答している(日本財団・東京
機関の支援体制を構築する中で促進する必要がある。 大学海洋教育促進研究センター・海洋政策研究財団, 岡山大学理学部附属臨海実験所は,同教育学部と
2012)。加えて海洋教育の実施状況を見てみると,
共に日本財団の支援を受け,様々な形で海洋教育の
全体の 13.7%は未実施で, 主体的に取り組んでい
普及に向けた活動を行っている。その一つに,関係
る学校は僅か 20%にとどまっている。また,海洋教
機関と連携して実施している地域連携による文理横
育に関する教育内容を比較的多く含んでいるのは理
断型の自然体験学習がある。 この学習は 2012 年よ
科諸科目であるが,中学校の理科教育に関する調査
り年一回のペースで行っているが,本報告では 2013
では,理科の指導が苦手であると感じている教員や
年(第 2 回目)の内容について概説する。 理科の実験・観察に関わる知識・技能が低いと感じ
ている教員の割合が高いことが指摘されている(科
2. 研究の目的 学技術振興機構理数学習支援センター, 2013)。 前述の通り海洋教育を普及させるためには,教育
海洋基本法制定を契機とした学校教育における海
課程や授業、教材の開発することが必須であるが,
― 79 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
それには児童・生徒の海洋に対する関心の実態を把
教員, 研究者, 大学生, 高校生, 漁業関係者) が指
握することが求められる。そこで本研究では,地域
導員として対応。 連携による文理横断型の自然体験学習を開発・実践
実習内容:タモ網/投網/カゴ網を用いた生物採集, ならびに救命胴衣の着用よる川流れ体験。 し, 学習に参加した児童とその保護者の海洋に対す
実習で得られた水棲生物:表1に示す絶滅危惧種や
る関心の実態を明らかにすることを目的とした。
特定外来生物を含む様々な水棲生物。 3. 研究方法 (2)調査 (1)地域連携による文理横断学習 対象者:実習に参加した児童およびその保護者。
実習の名称:旭川うなぎ探検隊 調査方法:質問紙による。
実習の目的:①海洋教育の普及(水辺の環境を守ろう
調査項目:実習に関する感想, ならびに海や川に接
する機会や興味・関心を中心とした以下の項目。
-川は海の入り口,川と海を行き来する生き物-),
②環境学習(岡山の豊かな自然に触れよう-川に
・ うなぎ探検隊はどうでしたか?
住むいろいろな生き物-),③社会学習(魚をとる
・ 来年も、うなぎ探検隊に参加したいですか?
いろいろな道具を知ろう, 川流れ体験をしよう)。 ・ 今日の探検隊で,海や川などの水辺の環境のすば
らしさや水辺の環境を守ることを考えるきっか
連携機関:岡山大学理学部附属臨海実験所,東京大
けになりましたか?
学保全生態学研究室,水産総合研究センター増養
殖研究所,岡山の自然を守る会, 岡山県環境保全
・ 海に遊びに行くことはありますか?
事業団環境学習センター「アスエコ」,旭川南部
・ 川に遊びに行くことはありますか?
漁業協同組合連合会,岡山県内水面漁業協同組合
・ 川 と 海 が つ な が っ て い る こ と を 知 っ て い ま す
か?
連合会, 岡山県/岡山市教育委員会。 ・ 学 校で海や川のことを習いますか?あるいは,
実習日時:2013 年 8 月 9 日 習ってきましたか?
実習場所:旭川明星堰(岡山市中区今在家地先) 参加者:児童(35 人)とその 保護者(25 人) 実施体制:児童 2~4 人に対してスタッフ(約 20 人; 4. 結果 実習に参加した児童 35 名,保護者 25 名より有効
な回答が得られた。 (1)実習について 以下のグラフが示すように, 学習(うなぎ探検隊)
の内容に関しては、肯定的な意見が大部分であった。
また, 学習の目的の達成度を問う設問「水辺の環
― 80 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
境のすばらしさや水辺の環境を守ることを考えるき
• テナガエビがとれてうれしかった。
っかけになりましたか?」では,きっかけになった
• 魚がたくさんいたのでびっくりした。
という回答が児童で 89%(31 人),保護者では 100%(25
• モズクガニをもらえてうれしかった。しらべてか
ってみたいです。
人)となった。 (2)小学校で海洋教育を受けているか
• オイカワがきれいだった。
海洋教育の現状を問う設問「学校で海や川のこと
• 川あそびがながくできてよかった。
を習いますか?あるいは、習ってきましたか?」に
保護者(一部抜粋, 原文通り) 対して,習わない/習ってきてないと答えた児童は
• 川流れ遊びを通じて,実際に川に流された時の予
防になったと思う。
18 人(51%),保護者は 2 人(8%)であった。加えて海
洋に関する基礎的な知識を問う設問「川と海がつな
• 川で遊んで楽しかったです。
がっていることを知っていますか?」に対して,知
• 暑い中有り難うございました。川と海が繋がって
らないと答えた児童が 7 人(20%)であった。 いることなど再認識できて良い体験になりまし
(3)家庭や地域で海や川に触れる機会 た。
海や川など,家庭や地域で海や川に触れる機会が
• 魚だけではなく川流れなど遊びも体験できて良
かったです。
あるかどうかを問う設問「海や川に遊びに行くこと
はありますか?」については, 下記の回答を得た。 • 川に入って魚採りをしたことが本当に楽しかっ
たです。
• 子供が川流れを楽しめて良かったです。
• うなぎに会えなくて残念でしたが,たくさんの種
類の魚が見れておもしろかった。
• 体調が悪くなり御手数をお掛けしました。御陰様
で早く楽になりました。
• シロヒレという珍しいモノが捕れたので良かっ
たです。岡山はたくさんの魚が居るというのを知
らなくて良かったです。スタッフの方が一人ずつ
ついてくださって安全に楽しめて良かったです。
• 大学生の方々やスタッフの方々が親切で,よく子
(4)その他 アンケートの最後に設けた自由記述欄には,実習
供を見て下さり,私も童心に返って夢中に魚採り
に対する様々な感想が寄せられた。
しました。来年も是非参加したいです。
• なかなか機会が無い中,川遊びが出来て楽しかっ
児童(一部抜粋, 原文通り) • 川ながれたいけんがたのしかった。
たです。スタッフの皆様お世話になり有り難うご
• 魚がたくさんとれてよかった。
ざいました。
• ながれたのがたのしかった。おたまじゃくしがと
• 旭川の上流に来るのは初めてでした。こんな自然
に恵まれ,多くの生物の存在を知り大変勉強にな
れたのがうれしかった。
りました。
• えびがとれた。
• 普段なかなかできないことを体験させてあげる
• およいだりつかまえたりしてよかった。
• おにいさんやおねえさんがやさしかった。
ことが出来てとても良い機会でした。特におたま
• 今までつかまえられなかったメダカがつかまえ
じゃくしを見つけたときの嬉しそうな顔が印象
的でした。
られてうれしいです。
• リーダーの大学生のお兄さんがとても良く子供
― 81 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
る。海洋教育を進める上では, 児童・生徒に対する
の面倒をみてくれました。
学校教育のみならず,その親世代や地域社会に対し
5.考察 ての啓蒙活動も重要である。そうした社会教育の必
(1)地域連携による「うなぎ探検隊」の文理横断
要性は, 先に述べた海洋基本法の第 28 条に明記さ
れている。
学習について 本学習で採集した様々な水棲生物の中には絶滅危
(3)海洋教育の今後について 惧種や特定外来種も含まれており,生態系や環境を
我々が実施した実習を学校教育に取り入れること
守るためにそうした指定がなされていることを説明
を考えた場合, 自然を相手にすることによる日程調
することができた。また,生活史の中で海と川の両
整の難しさや児童の安全の確保などの様々な課題が
方を利用する生き物も多く採集されたことから,海
生ずると考えられる。しかしながら今回行った調査
と川はつながっていること,一方の環境を守ること
から,川での自然体験を伴う学習が海洋教育にとっ
はもう一方の環境の保全にもつながることを実感し
て非常に有効であることが改めて明らかになった。
てもらった。さらに,川に流されるという普段にな
したがって今後は,海洋教育の実習の事例を増や
い(あってはならない)体験もあった。こうした内
すとともに,その関連情報を学校が容易に参照でき
容が,参加者の学習に対する高い肯定的評価につな
るような仕組み作りが必要である。さらに海洋に関
がったものと考えられる。
する教育に取り組むことに意欲を持つ教員の参加・
今回の学習内容を発展させると,海につながる河
参画により,海洋教育の活動がさらに推進されると
川の水産漁業・環境保全・管理などの社会科学も含
考えられる。これらの結果, 海洋教育がより社会に
めた「里海」の視点に立った海洋教育の一形態が提
波及拡大していくことが期待される。
案できる。こうした形態は、海から離れた中山間地
において、海洋教育の導入として有効に機能すると
謝辞 思われる。海洋教育のシーズの発見や具体化に向け
本報告で取り上げた実習は, 日本財団の支援によ
て,本学習を今後も実施する予定である。
って行われた。また実習の準備から開催にあたり,
(2)海洋に対する児童の関心と海洋教育の現状 実際に児童に接して川に入ってくれた学生諸氏をは
学習に参加した児童のおよそ半数が学校において
じめ多くの方の御協力を賜った。記して深く感謝い
海洋について学んでいないと思っていることが明ら
たします。
かになった。川と海のつながりを認識していない児
童もいた。本調査は児童の学年について尋ねていな
引用文献 いことから,児童が実際に海洋に関する内容を習っ
科学技術振興機構理数学習支援センター(2013)学校
ていないのか,あるいは習う学年に達していないの
理科教育実態調査 集計結果(速報)
かは不明である。しかし,習っていないと回答した
http://www.jst.go.jp/cpse/risushien/secondary/c
児童の中にも,海洋に対して元々非常に強い関心を
pse_report_016.pdf
持っていると考えられる場合が多くあることを,自
海洋政策研究財団(2012)「小学校検定教科書にお
由記述のコメントから読み取ることができた。
ける海洋教育関連内容の抽出・分析」. また家庭や地域で,児童が海洋教育の入口となる
日本財団,東京大学海洋教育促進研究センター,海
場(川, 海)に触れあう機会が少なくなっているこ
洋政策研究財団(2012)「小中学校の海洋教育実
とが明らかになった。これが水辺の生き物や環境に
施状況に関する全国調査」.
触れることを目的とした本実習に自主的に参加した
児童や保護者の結果であることを考慮するなら,児
童全体としての数値はより低くなることが予想され
― 82 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
反転授業による理科の授業改善:PACA 国際学校を事例として
Improvement of Science Class Using Flipped Method:
A Case Study of Ecole Internationale Provence-Alpes-Cote d'Azur
江草遼平 1,神山真一 1,2,山本智一 3,大黒仁裕 1,鳩野逸生 1,楠房子 4,稲垣成哲 1
EGUSA Ryohei1, KAMIYAMA Shinichi1, 2, YAMAMOTO Tomokazu3,
DAIKOKU Masahiro1, HATONO Itsuo1, KUSUNOKI Fusako4,INAGAKI Shigenori1
1
神戸大学,2 神戸大学附属小学校,3 兵庫教育大学,4 多摩美術大学,
1
Kobe University, 2Elementary School attached to Kobe University,
3
Hyogo University of Teacher Education, 4Tama Art University
[要約] 本研究では,反転授業を導入した理科の授業改善について,アクション・リサーチを用いた
PACA 国際学校の小学校日本語セクションへの介入的な参加観察を行っている.反転授業では,
動画と説明文からなるデジタル教材を作成し,児童にそれを用いた基本的な学習を授業前に行
わせる.これにより,児童は,事前に知識を得た状態で,対面授業での発展的課題や実験に取
り組むことができる.授業者自身による自由記述評価では,国際学校での授業時数,複式学級
といった制約条件下における反転授業の効果的な側面と,改善すべき点について明らかにする.
[キーワード] 反転授業,理科,国際学校,アクション・リサーチ
1. 問題の所在
エクサン・プロヴァンス市に近いマノスク市の郊
本研究は,反転授業の導入による理科の授業改
外である.在校生は,フランス国籍者が中心であ
善について検討するものである.反転授業とは, るが,外国籍の子女が多く,幼稚園から高等学校
基本的な学習を授業前に行い,知識の定着や活用
まであわせて約 300 名程度である.教育課程にお
を対面式の授業で行う授業方法である(e.g. バー
いては,フランス語による授業と母国語(ドイツ
グマンら,2014;重田,2014).研究方法論としては, 語,イタリア語,英語,日本語,スペイン語,中
対象となる学校に長期間にわたり介入的に参加観
国語等)による授業がほぼ対等な比率で構成され
察し,リアルな状況下に生起している現実の諸問
ていることが最大の特色である.これらは語学教
題を観測・記述するアクション・リサーチの手法
育ではなく,複数の言語による教科教育の実施で
を採用している.
あり,こうしたことから,本校はまさにグローバ
本報告では,その目的達成のための第一歩とし
ルな学習環境にあるといえる.なお,小学校の日
て,フランスの PACA 国際学校日本語セクション
本語セクションには,12 名の児童が在籍している.
にて遂行中である反転授業を取り入れた,理科の
授業に関するアクション・リサーチの途中経過を
3. 理科授業のアクション ・ リサーチ
事例的に検討する.海外の学校を対象としている
1) 概要
のは,そこでの学習環境の制約が厳しく,反転授
本研究のアクション・リサーチは,2014 年 9 月
業の効果が期待できるためである.以下では,ま
から 2015 年 6 月までの期間で実施される計画で
ず PACA 国際学校の概要を示し,次に,アクション・
ある.現在,開始後,約 2 ヶ月が経過している.
リサーチの実際を事例的に報告する.
本報告の共著者の 1 人が,現地でインターンの教
師として小学生を対象とする理科を担当し,介入
2. PACA 国際学校
的な参加観察に従事している.
PACA 国際学校は,2007 年に設立された公立の
調査対象の PACA 国際学校における小学校の日
学 校 で あ り, 正 式 名 称 を Ecole Internationale
本語セクションに在籍する児童は少数で,カリ
Provence-Alpes-Cote d'Azur とする.所在地は, キュラム上の理科の時間数も週に 1 時間程度と僅
― 83 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
少である.介入的な参加観察は,その 4・5 年生
ものは温めると体積が変わること,金属は体積が
の複式学級で実施されている.
大きくなるが変化は小さいことをとらえる内容で
あった.2 回目のサイクルのデジタル教材は,金
2) 反転授業を採用した授業デザイン
属も水も空気も熱すると温まること,金属の温ま
現在,上述の制約条件下で,実験・観察を通し
り方は,熱した部分から順に熱が伝わって温まっ
た探究的な授業を可能にするために,反転授業を
ていくことをとらえる内容であった.3 回目は,
一部採用している.重田(2014)によれば,反転
ものは温度を変えると状態を変えること,各状態
授業とは,授業と宿題の役割を「反転」させ,授
の特徴,水は 0℃になると固体になること,水は
業時間外にデジタル教材等により知識習得を済ま
固体になると体積が増えることをとらえる内容で
せ,教室では知識確認や問題解決学習を行う授業
あった.4 回目は,固体のものは熱し続けると液
形態のことを指している.この反転授業の導入に
体になり,さらに熱し続けると気体になること,
よって,授業時間外に学習する単元の基礎的な知
気体になると見えなくなること,水を熱している
識を習得させることが可能になり,対面の授業で
ときに出てくる泡が水の気体(水蒸気)であるこ
は,実験・観察を通して,既習知識を活用した探
と,水が気体になる温度は 100℃であるとする内
究的な学習が保障されることになる.
容であった.
このようなデジタル教材の提供により,児童は
3) 反転授業の実際
好きな時間に次の授業の為に予習することや,授
反転授業が導入された本単元は 4 時間で計画さ
業後の復習をすることができた.図 1 は,デジタ
れており,「金属,水及び空気を温めた時の体積
ル教材として示された説明文コンテンツの例であ
変化」「金属,水及び空気を温めた時の温まり方」 る.ここでは,本単元で扱った「金属,水,空気
「水の状態変化」の 3 つの内容で構成されていた. と温度」の内容のうち,温度の変化による物質の
この展開の中で,児童は,自宅でデジタル教材に
体積,状態変化に関する文字情報と画像情報が提
よる個人学習を行い,対面授業によって実験を行
供されている.次に,図 2 は,デジタル教材とし
うというサイクルを 4 回経験した.対象は 4 年生
て示された動画コンテンツの例である.ここでは,
2 名(男子 1 名,女子 1 名),5 年生 2 名(男子 1
金属球を加熱して体積変化を起こす演示実験を動
名,女子 1 名)の計 4 名であった.授業の時期は, 画として提供している.児童は,これらのデジタ
2014 年 9 月から 10 月であった.
ル教材を活用し,事前知識を得て,授業での応用
1 回目のサイクルにおける反転授業としてのデ
的な課題に取り組む.説明文コンテンツは 1 ペー
ジタル教材は,ものには 3 つの状態があること, ジ 1 分程度,動画コンテンツはおおよそ 5 分程度
図 1 説明文コンテンツの例
図 2 動画コンテンツの例:金属球の加熱実験
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
で閲覧できるため,予習にかかる時間的負担は低
う上で.デジタル教材が効果的に働いたことを示
いものとなっている.
す記述である.授業者は,「日本の小学校では,
実験をする時間はあると思うが,PACA 国際学校日
4) 反転授業の評価
本語セクションでは,理科の時間を週に 1 回とる
反転授業の評価として,授業者自身を対象とし
のがやっとである.(中略)このような特別な状
た自由記述法による質的評価を行った.表 1 は, 況におかれている学校にとっては,理科の反転授
自由記述された授業者の反転授業に関する評価で
業をすると実験の時間が確保でき,効果的ではな
ある.評価では,デジタル教材を利用した授業に
いかと思った」と記述している.また,「理科は
対する利点と改善点について回答させた.
事前に予習サイトで見てきているので,説明を理
利点は,次の 5 つであった.要約すると,
(1) 解するのが早い」と記述しており,厳しい授業時
実験の時間を確保できること,(2)内容の分から
数の制限下において,質の高い実験や応用課題に
ない箇所を反復視聴できること,(3)児童の理科
取り組む時間を十分確保するのにデジタル教材を
に対する興味が深まったこと,(4)家庭において
用いた反転授業の形態が有効であるとしている.
親子で理科に接する機会が増えたこと,(5)対面
(2)は,複式学級における授業内容に関する児
授業の際の説明の理解が早いこと等であった.
(1) 童の理解に関わった記述である.「予習サイト(デ
(5)は,僅少な授業回数で効率的な授業実践を行
ジタル教材を指す)の動画を見てきた回数に注目
表 1 授業者自身による反転授業の評価
■良かった点
(1) 今回,授業をしてみて,児童にとって一番よかったことは,実験ができたことだと思う.いままでの理科は,「NHK for
school」でビデオをみたり,プリントをしたりするだけだった.そのような説明の時間を家庭にまわすことで,実際に実験
をする時間が生まれたことが反転授業の良い点だと思う.日本の小学校では,実験をする時間はあると思うが,PACA 国際学
校日本語セクションでは,理科の時間を週に1回とるのがやっとである.また他の日本語補習校も国語に時間を費やしており,
理科の時間はとれないと聞いた(マルセイユ日本語補習校は,毎週土曜日に開校されており,ほぼ3時限国語を行う).この
ような特別な状況におかれている学校にとっては,理科の反転授業をすると実験の時間が確保でき,効果的ではないかと思っ
た.PACA 国際学校も日本語補習校も週に 1,2 回しか学校に通える機会がないため,家庭の協力が当たり前と考えられている.
(2) 予習サイトの動画を見てきた回数に注目してみると,1 回授業を行う毎に 5 年生はほぼ 1 回しか見ていないのに対し,4 年
生は 2 〜 3 回繰り返してみている.授業で予習サイトの内容を尋ねると,5 年生と 4 年生両方答えることができている.授業
の前段階で,4 年生と 5 年生の差を予習サイトが埋めることができているかまでは分からないが,分からないところは繰り返
しみることができる点は良いと思う.
(3) 児童の理科に対する興味が深まったと思う.それは目に見える形に表れていて,例えば,いままで理科関係の本を学校で
借りなかった児童が,借りるようになったり,「今日はどんな実験をするのか?」と朝,教室に入ってくるなり聞いてきたり
する.保護者と一緒にみるようにしているため,家庭によっては,理科について話をする機会が増えている.
(4) 予習サイトは短時間であるので,児童も負担なく毎週見ることができていた.反転授業は予習サイトを見てくることが前
提であるので,毎週見てくれてきたのは良かった.これには,保護者の協力が不可欠だと思う.保護者の方々は,毎週児童
と一緒に予習サイトをみたと言ってくれていました.
(5) 私は第 4 学年と第 5 学年の算数と理科を担当しているが,両教科を見ていて思ったことは,新しいことに対する理解の早さ
が違うということある.算数は,新しい単元に入ると説明をしても,いわれていることを理解するのに時間がかかるが,理
科は事前に予習サイトで見てきているので,説明を理解するのが早い.
■改善すべき点
(1) 今回は,自宅で予習サイトをみて,「わかったこと」をワークシートに書いてきてもらった.しかし,そのワークシートを
回収してみると,こちらが分かってほしいことの一部分しか書いていないことが多かった.予習サイトの内容をもう少しよ
く理解させるためには,予習サイトを見た後にできる簡単なプリント(選択や穴埋め問題)を配布したらどうかと考えた.
(2) 予習サイトの動画は,まとめて作成するのではなく,その週の授業が終わり次第,次の更新日までに作成するべきだと思った.
動画をまとめて作成してしまうと,一つの授業で必ず進まなければいけない範囲がでてきてしまう.そうすると , 児童の理
解が不十分であったり,実験がうまくいかなかったりすると時間内に想定した内容まで終わることができなくなってしまう.
実際に,私はそうやって決められた時間に終えることができませんでした.しかし,1 つの授業が終わり次第,次の授業の動
画を準備するには 3 日ほどしかなく,できるかはわかりません.
(3) 児童がわかりやすい日本語で予習サイトを作成する.理科は知らない単語がよく出てくるので,児童がわからなそうな単
語には,その単語の説明を予習サイト画面の下のほうに載せる.
(4) 予習コンテンツの展開を少し速くする.前回は意識的に言葉を話す速度や場面の移り変わりをゆっくり目にしたが,もう
少し速くてもいいという意見がでたので,全体的に速く作成しようと思う.
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 3(2014)
してみると,1回授業を行う毎に 5 年生はほぼ 1
てきてしまう.そうすると,児童の理解が不十分
回しか見ていないのに対し,4 年生は 2 〜 3 回繰
であったり,実験がうまくいかなかったりすると
り返してみている.授業で予習サイトの内容を尋
時間内に想定した内容まで終わることができなく
ねると,5 年生と 4 年生両方答えることができて
なってしまう」というように,授業の進行が予定
いる」と記述している.複式学級の中で当然発生
と変わった際の対応について述べられた.これは
する学年間の知識,理解の差について,授業前に
本単元において,デジタル教材コンテンツを全て
繰り返し視聴できるデジタル教材で補うことで, 事前に作成していたことに起因する.授業の実態
児童全員が授業での実験や応用的な課題へ容易に
にあわせた柔軟な教材の運用が求められる.
参加したことを示唆している.
(3)(4)では,「理科は知らない単語がよく出
(3)(4)は,デジタル教材が児童の科学への興
てくるので,児童がわからなそうな単語には,そ
味促進について記述されたものである.「例えば, の単語の説明を予習サイト画面の下のほうに載せ
いままで理科関係の本を学校で借りなかった児童
る」「(筆者注:動画コンテンツについて,)前回
が,借りるようになったり,「今日はどんな実験
は意識的に言葉を話す速度や場面の移り変わりを
をするのか?」と朝,教室に入ってくるなり聞い
ゆっくり目にしたが,もう少し速くてもいいとい
てきたりする」といった,児童の実際の行動とし
う意見がでたので,全体的に速く作成しようと思
ての科学に対する興味の発現が観察されたほか, う」等,日本語理解に困難のある国際学校の児童
「保護者と一緒にみるようにしているため,家庭
や,学年別に知識,理解度に差のある複式学級特
によっては,理科について話をする機会が増えて
有の問題についての言及がなされている.理解の
いる」というように,家庭でのデジタル教材の利
差に対応したフォローや保護者との連携が課題解
用が家庭内での保護者と児童の科学に関係するコ
決の方法となると考えられる.
ミュニケーションを促したことが示された. 改善すべき点は,次の 4 つであった.(1)デジ
4. まとめと今後の課題
タル教材の理解が限定的であること,(2)教材の
PACA 国際学校での理科授業において,反転授業
内容と授業の進行を同調させること,(3)デジタ
の導入を行った.この授業方法は,特に時間数の
ル教材における説明文作成に配慮すること,(4) 僅少さ,複式学級という制約条件に対し効果的な
動画コンテンツの展開速度について配慮すること
側面が見られた.また,いくつかの改善すべき点
である.
についての知見を得ることができた.今後は,反
これらは,デジタル教材上に想定された学習者
転授業の実践を継続的に行いながら,PACA 国際学
像と実際の学習者の間のギャップについて言及し
校におけるアクション・リサーチに取り組む予定
たものである.
(1)では,「ワークシートを回収
である.
してみると,こちらが分かってほしいことの一部
分しか書いていないことが多かった」と記述して
附記
いるように,児童の学習活動に直接的に関与する
本研究は,科学研究費補助金基盤研究(B)課
ことができない予習の段階で,授業者の意図が達
題番号 24300270 からの支援を受けている.
成されにくいことを示している.特に,反転授業
の形態では,授業時における学習者の事前知識が
引用文献
重要となるため,デジタル教材の構成や授業開始
ジョナサン バーグマン・アーロン サムズ著 時のアプローチに改善の必要性がある.具体的に
山内祐平・大浦弘樹監 上原裕美子訳:「反
は,「予習サイトを見た後にできる簡単なプリン
転授業」,オデッセイコミュニケーションズ,
ト(選択や穴埋め問題)を配布したらどうか」等,
東京,2014
重田勝介:反転授業 ICT による教育改革の進展,
副教材を用いた改善案が考えられる.
(2)では,「動画をまとめて作成してしまうと,
一つの授業で必ず進まなければいけない範囲がで
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情報管理,56(10),677-684,2014 日本科学教育学会研究会研究報告 科教研報 Vol. 29 No. 3
発 行 2014 年 12 月 13 日
発行人 一般社団法人 日本科学教育学会 会長 中山 迅
発行所 〒 602-8048
京都市上京区下立売通小川東入ル 中西印刷株式会社