社外取締役と 弁護士

社外取締役と
弁護士
2015 年 2 月 26 日
はじめに
この号の内容
1
はじめに
2
社外取締役の選任
3
弁護士に期待される役割
4
社外取締役の活動指針
企業を取り巻く幅広い利害関係者からの信頼確保と企業統治のあり
方・親子会社に関する規律を見直す平成 26 年改正会社法が、本年 5 月
に施行される。また、安倍政権の成長戦略「第三の矢」の一環として
機関投資家が対話を通じて企業の中長期的な成長を促す受託者責任を
果たすための日本版スチュワードシップコードが平成 26 年 2 月 26 日
に公表され、(http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/201402272.html#02)会社が株主等のステークホルダーの利益を考慮したうえ
で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うためのコーポレート
ガバナンス・コード(案)が平成 26 年 12 月 12 日付で公表された。
(http://www.fsa.go.jp/news/26/sonota/20141217-4.html)
これで本年の上場企業株主総会における機関投資家への指針と、会社
側の企業価値向上のための枠組みが出揃うことになり、日本企業がグ
ローバル化の波の中で国内外の投資家に対し透明性の高い、効率的な
企業活動をする基盤が整備されたことになる。
弁護士を社外取締役・社
外監査役として活用する
には
社外取締役の選任
改正会社法は社外取締役・社外監査役の要件を見直し(2 条 15
号・16 号)、①非業務執行者要件を厳格化し、親会社等の関係者
及び兄弟会社の業務執行者やその 2 親等内の親族を非適格とすると
ともに、②過去要件については、就任前における株式会社又はそ
の子会社との関係が 10 年間非適格でないこととしてこれを緩和し
た。顧問弁護士についても、多額な報酬を得ている場合などには
社外性が無いと判断されることとなる。
これらの要件を満たす取締役を選任しない場合には、当該事業年
度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当
でない理由を説明しなければならないとされている(327 条の
2)。
現在の上場企業の社外取締役設置割合は6割を超えているが、東
証は 2 月 24 日に社外取締役を 2 名選任することを義務付けると発
表している。
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社外取締役と弁護士
弁護士に期待される役割
コーポレートガバナンス・コードに定められた
基本原則は、①株主の権利・平等性の確保、②
株主以外のステークホルダーとの適切な協働、
③適切な情報開示と透明性の確保とされてい
る。
これらは法令の解釈を伴う概念、すなわちこの
基本原則のいずれもが、会社法・金融商品取引
法の解釈を基礎とする概念であるため、必然的
にこれら法令の解釈・運用を熟知しているこ
と、企業活動のコンプライアンスのプロである
ことが社外取締役に求められる要件である。
他方、取締役会を中心とする業務執行は、当然
のことながら、法令順守のみで動くものではな
い。企業にとって一番重要なのは、高収益を上
げることによって株主、従業員、取引先という
ステークホルダーに対するリターンを最大限確
保することであることは言うまでもない。
また、法令解釈とコンプライアンスについて
は、社外「取締役」でなくとも、顧問弁護士の
立場で十分対応できるものである。
そこで弁護士が「社外取締役」として求められ
るのは、その企業の全体としての運営がコーポ
レートガバナンス・コードで求められる基本原
則を満たすものとなるよう、会社全体の経営組
織と経営・管理に携わる役職員のガバナンスに
対する見識を高めるために、業務執行役員をサ
ポートしていく役割である。
社外取締役の活動指針
情報収集
危機対応
社外取締役として正しい判断をするためには判
断の基礎となる情報が正確かつ十分であること
が前提である。この情報収集については、顧問
弁護士など外部の第三者と異なり、社外取締役
は十分な情報収集を行う責任を負っている。
会社の経営判断が十分な情報収集のもと、適
正に行われていれば問題は生じないが、現実
には十分注意をはらっていてもリスクは発生
するものである。
他方、会社としても社外取締役の監督機能を十
分に発揮させるためには、情報提供することが
必要である。
このような会社と社外取締役の情報提供(収
集)のプロセスは、当初社外取締役が会社内部
を知るまでは質より量が重視されるが、会社の
特徴を知るにつれて、ポイントを絞った質の高
い収集に移行していくはずである。
社内の体制整備
質の高い情報を社外取締役に提供するには、会
社の社内体制として、法務・コンプライアンス
に精通した会社担当者を育成していくことが必
要である。そのためには、社外取締役が積極的
に、会社の抱えるリスクを分析する能力を高め
る専門知識を提供することが必要である。
大事なのは、リスクの発生を最小限に抑え、
それでも発生したリスクに対し適切に対処す
ることである。そのためには、まず、事実関
係を社外取締役を含めた経営陣全員で把握
し、これに対処するための適切なプロセス、
工程を立ち上げることである。
弁護士が顧問として会社の法的問題に対処す
るのは、おおむね問題が発生してからであ
り、相談された問題に対し限られた時間で適
切な対処法をアドバイスすることが求められ
ている。このような弁護士の経験と知識に基
づくノウハウは、社外取締役として会社の危
機に対応するにあたって役立つであろうと期
待している。
文責:森 順子