PDF版 - 消費者の窓

2.ア
メ
リ
カ
第一部
アメリカでの消費者 ADR の概略
第二部
ヒアリング報告
消費者 ADR に関する調査
米国東海岸
第一部
アメリカでの消費者 ADR の概略
三枝健治
早稲田大学法学部
1.
序
アメリカでの消費者 ADR については、Rogers 報告がヒアリング調査のうえ詳細に解説す
ることになっているが、本稿は、同報告とは別に、アメリカの現況をごく簡単にまとめ、
その概略を示すことにしたい。
そもそもアメリカでは、別添のレポート資料から明らかな通り、各種の消費者 ADR が広
く積極的に活用されている。消費者紛争の損害は比較的低額であることが多いから、厳格
な手続の下に運営され、かつ弁護士が必要となる訴訟での解決に比べ、コストと時間のよ
りかからない ADR を消費者サイドが希望する理は他国と同様である。しかし、アメリカで
他国以上に消費者 ADR が実際により積極的に活用されているのは、消費者サイドに止まら
ず、実は企業サイドにも ADR による紛争解決を望むニーズが強くあることにその理由があ
り、その点にこそアメリカならではの事情が認められる。すなわち、アメリカ法では権利
の集合的な行使であるクラスアクションや、高額になりがちな懲罰的損害賠償が認められ
ているため、訴訟によると、賠償額が想定以上に膨れあがる危険性が常にあるが、ADR に
よると、一般に、あるいはそれらを排除する旨明示的に予め定めておくことで1、クラスア
クションや懲罰的損害賠償を回避することができ、それゆえ企業にとって、ADR が紛争解
決の手段として、訴訟より魅力的なものになっているのである。
企業の中には、こうした ADR による紛争解決のコスト低減のメリットを考え、ADR、とり
わけ仲裁を、訴訟に代わる唯一の紛争解決手段として義務づける、いわゆる義務的仲裁を
約款で定めるところもある2。消費者契約におけるかかる義務的仲裁に関しては、確かに、
1
クラスアクションの排除条項については、Gregory C. Cook and A. Kelly Brennan, The Enforceability
of Class Action Waivers in Consumer Agreements, 40 UCC L.J. 331 (2008)等、また、懲罰的損害賠償
の排除条項については、6 Bruner & O'Connor Construction Law Guide § 20:136 (2007)等参照。但し、
これらの排除条項が仲裁合意に明示的に定められている場合、一般にその効力は認められるが、近時、そ
の排除を制限的に解する動きがある――仲裁の「訴訟」化現象と言えよう。E.g., Green Tree Financial
Corp. v. Bazzle, 539 U.S. 444 (2003)〔明示的に否定する条項がない限り、集合的仲裁[class arbitration]
が可能と判示〕; Stark v. Sandberg, Phoenix & von Gontard, P.C., 381 F.3d 793 (8th Cir. 2004)〔懲
罰的損害賠償を排除する旨明確に定められていないと判示〕. もっとも、以上の近時の動きも仲裁に関し
てで、相手企業との合意により内容が定まる調停においては、救済として当然、クラスアクションのよう
な権利の集合的行使や懲罰的損害賠償は排除されることになる。
2
例えば、電話会社大手の Verizon の携帯電話の約款(Customer Agreement Terms & Conditions)では、
「紛争解決及び義務的仲裁(Dispute Resolution and Mandatory Arbitration)」という見出しの条項の
下、行政機関にトラブルを相談して解決することのほか、紛争解決は専ら、後述する AAA や BBB の調停又
は仲裁による旨規定されている。すなわち、当該条項は訴訟でのクラスアクションや懲罰的損害を排除す
る意図で挿入されたものである。See Verizon wireless' Customer Agreement Terms & Conditions,
available at hrtps://www22.verizon.com/ForYourHome/NewConnect/WirelessDisclaiM
ers.aspx?Content=CustAgreement.
29
クラスアクションや懲罰的損害賠償等の法律上認められる権利を消費者に強制的に放棄さ
せるものであるとして、否定的に扱われる向きも強い3。しかし、この義務的仲裁の問題を
別にすれば、消費者 ADR は、アメリカでは一般に、消費者サイドはもとより、クラスアク
ションや懲罰的損害賠償の制度の脅威の下、企業サイドからも歓迎され、両者の合意に基
づいて実際に多く活用されている状況にあることはまず確認しておきたい--なお、係属
訴訟件数の多い裁判所にしても、ADR による解決はその負担軽減につながるので、それが
公正・公平である限り、一般に好意的に受け止めている。
2.
ADR の類型
今日、アメリカで積極的に活用されている消費者 ADR には幾つかのタイプがある。ここ
では、(a)一つは ADR サービスの提供主体が「民間」か「行政」か、(b)もう一つは ADR サ
ー ビ ス の 提 供 内 容 が 当 事 者 間 で 解 決 策 の 合 意 を 目 指 す 「 調 停 (mediate) 」 か 、 仲 裁
(arbitration)のように、第三者の裁定による紛争解決を目指す「裁定」かに分けて、以下
に整理したい。すなわち、(a)(b)に応じて、消費者 ADR として、①「民間・調停」型、②
「行政・調停」型、③「民間・裁定」型、④「行政・裁定」型の四類型があることを念頭
に、それぞれ簡潔に特徴をまとめよう。
2.1
民間型 ADR
アメリカでは、民間型の消費者 ADR(類型①③)が実際に多く利用されていることは別
添のレポート資料の通りである。特に身近な紛争解決手段として広く認識されているビジ
ネス改善協会(Better Business Bureau、略して BBB)の制度については、その組織の概
要も含め、別添のレポート資料が解説しているので参照されたい――概略、BBB の提供す
る ADR は、企業が会員料を払って BBB の会員となり、その会員企業との間で紛争を抱えた
消費者が、申し出により、BBB の調停(類型①)や仲裁(類型③)による紛争解決を利用
できる、というものである。こうした BBB の他、民間型 ADR として多く活用されているの
がアメリカ仲裁協会(American Arbitration Association, 略して AAA)の制度である。AAA
の制度やその組織の概要については、Rogers 報告を参照されたい。
ところで、民間型 ADR にとってポイントは、第一に、その活動に必要な「資金」をいか
に確保するか、第二に、その運営の「中立性」をどう確保するのか、第三に、いかに企業
を ADR に応じさせるか、すなわち対企業との関係で「強制力」をどう確保するか、である。
この三点につき、主として、利用件数の最も多い BBB を例に確認してみよう。
まず「資金」については、民間団体の運営である以上、後述の行政型 ADR と異なり、い
ずれにしてもどこからか確保しなければならない。BBB は、上述の通り、会員企業から会
3
統一商事法典(UCC)第二編改正作業で議論になったいわゆる「Gateway Problem」は元々この消費者契約
における義務的仲裁に関する争いに端を発する。三枝健治「UCC 第二編改正作業における約款の『採用』
規制の試み(2)(3)」新潟法政理論 38 巻 3 号、4 号参照。
30
員料を徴収することで、これを賄っている--会員料を企業から徴収しない AAA は、消費
者の利用料が無料の BBB とは異なり、企業とともに消費者も平等に利用料金を支払い、そ
れが重要な運営の「資金」となる。BBB のように、企業から ADR の運営団体に資金供与さ
れるシステムが成り立つのは、既に述べた通り、アメリカでは、最悪のケースともなれば
懲罰的損害賠償の伴うクラスアクションにまで消費者トラブルが発展する可能性があるの
で、会員料を払ってでも ADR を利用できるようにしたほうが結果としてコスト高にならず
経済的に得であると判断する企業が少なくないことが理由の一つであろうが、それに止ま
らず、調停を通じて比較的短期間に低コストで消費者と企業の双方が納得した形で紛争解
決できることに会員料を支払うに足る価値を見出す企業が多いことも理由と考えられる。
事実、BBB の加入企業には比較的優良企業が多いように見受けられるが、それは消費者紛
争の解決に対する積極的姿勢を示すことで、市場での評判を得ることに関心を持つ企業が
BBB に加入していることを示すものであろう。
もっとも、BBB のように、専ら企業スポンサーからの「資金」を活動資金とすると、ADR
の運営の「中立性」に疑義が生じかねない。この点を捉えて BBB に批判的な論者もいるが、
BBB としても、実際の紛争解決にあたって資金提供者である会員企業は完全に排除してお
り、その中立性の確保に特段の配慮をしている。ひと度企業側に有利な形でしか問題を解
決しない団体であるとの世評が立てば、消費者から利用の申し出はなくなるから、中立性
を損なうことは当該団体にとって自殺行為である。今日、BBB の利用件数が多い現状を見
ると、運営の中立性が消費者に相当程度信頼されていることが窺える--BBB は企業側に
有利な運営はしていないとする反面、消費者に有利な運営もするわけではないと宣言して
いる。
なお、BBB の提供するサービスには、大別して調停(類型①)と仲裁(類型③)があり、
消費者の申し立てを受けた BBB は、まず調停からはじめ、それが不調に終われば拘束力の
ない形で自ら調停案を示し、その調停案に当事者が同意しない場合に、更に当事者の合意
を待って仲裁へと進む。仲裁には、事業者側のみを拘束するタイプと、消費者と事業者の
双方を拘束するタイプの二種類あるが、いずれにしても調停と異なり、後に司法判断を改
めて得る機会を当事者の一方又は双方から奪う仲裁に関しては、特にその手続ルールを予
め策定・公表し、より一層、運営の「中立性」の確保に BBB も留意している――企業スポ
ンサーの「資金」に依存しない AAA に対しては、いわゆる repeat player の問題を別にす
れば、運営の「中立性」の疑義は相対的に生じないであろうが、しかしそれでもやはり、
仲裁の手続ルールが予め策定・公表されている。
運営の「資金」や「中立性」については以上の通りであるが、民間型 ADR にとってより
問題となるのは、対企業との関係で「強制力」をいかに確保するかである。一民間団体の
行う民間型 ADR は、あくまで当事者の任意の合意に基づいて進められるものでしかないか
ら、消費者から申し出があっても、それに応じる義務は相手企業にはなく、調停や仲裁に
入ることを強制することはできない。この点、BBB は、消費者の依頼を受けて開始する調
停において、企業が消費者との話し合いを拒まないよう、会員企業には予め BBB 加入に際
して応諾義務に同意させ、万が一話し合いを拒んだときは当該企業を除名処分にするとし
31
て、ADR を進めるために必要な「強制力」を確保する工夫をしている。しかし、かかる会
員企業も、調停で話し合いに応じる義務はあるものの、消費者側の希望する内容で最終合
意することまで義務づけられるわけではないから、場合によっては紛争解決の話し合いが
不調に終わることも勿論あるし、そもそも除名覚悟で話し合いを拒否する会員企業もあり
うる。また、BBB は、会員でない企業との間で調停を実施することも可能であるが、しか
しそれは当該非会員企業が調停に入ることを個別に同意した場合に限られるから、市場で
の評価を気にせず、裁判外での紛争解決を頑なに拒否する企業との間で調停を実施するの
は不可能である。結局、対企業との関係で「強制力」を持たない民間型 ADR では、相手企
業の協力を得られず、紛争を解決できない場合が不可避的に生じうる。民間型 ADR のこう
した弱点を補うことができるのが次に見る行政型 ADR である。
2.2 行政型 ADR
行政型 ADR は、行政が主体的に ADR を提供するので、運営の「資金」やその「中立性」
に特に問題はない--利用料も無料であるのが一般的である。
行政型 ADR の中心的な担い手は、各州における州法務長官(State Attorney General)で
ある。州法務長官は、いわゆる各州のミニ FTC 法等により、詐欺的な取引行為を規制する
広範な権限が与えられており、法違反行為に対しては、調査のうえ、刑事訴追はもとより、
民事罰を科し、あるいは差止や、被害消費者のために代わりに損害賠償を求める訴訟を起
こすことができる4。消費者行政の要である州法務長官に与えられたこうした強力で広範な
規制権限の下、多くの州で州法務長官事務所が消費者のために調停サービス(類型②)を
提供している(但し、調停はその性質上あくまで当事者の任意の合意に基づくべきもので
あるから、話し合いに応じる義務が法定されているわけではない)が5、その際、この規制
権限は州法務長官事務所からの調停の働きかけを企業が理由なく断ったり、また消費者に
著しく不利益な形で調停したりするのを事実上困難なものにしている――例えば、ニュー
ヨーク州では、州法務長官事務所に設置された消費者詐欺対策及び消費者保護部門(New
York State Attorney General's Consumer Fraud and Protection Bureau)が、消費者か
らの申し立てを受け付け、州法務長官の権限をちらつかせながら、調停サービスを含む、
消費者保護の各種活動をしている6。
なお、問題企業がライセンス(営業許可)を得て営業している場合、調停はそのライセ
ンスを与えた部局や委員会が実施することになっており、州法務長官事務所に持ち込まれ
た案件は該当するライセンスの発行部局や委員会に回される。これらの部局や委員会は、
法違反があれば調査のうえ、ライセンスの停止・取消しをはじめ、種々の行政処分を科す
権限が与えられているから、やはりそれが事実上の「強制力」となり、企業との間で調停
4
例えば、ニューヨーク州について言えば、N.Y. Gen. Bus. Law §§349-350 や NY Exec. Law§63(12)等
参照。
5
その役割は、消費者の個別的な紛争を解決することもさることながら、寄せられた情報を活用して規制
権限の行使も含め、消費者行政一般に役立てることにもあろう。
6
See e.g., Stephen Mindell, The New York Bureau of Consumer Frauds and Protection-A Review of
Its Consumer Protection Activities", 11 N.Y.L.F. 603 (1965).
32
を進めるうえで大きな効力を発揮する――調停成立前にとどまらず、調停成立後も、企業
がその調停の定める合意内容に従わないときは行政処分の対象となり、やはり「強制力」
が及ぶ。中には、複数のライセンス発行部局と委員会を統合ないし統括する消費者保護機
関 を 別 途 も う け る 州 ( 例 え ば 、 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 消 費 者 行 政 局 [California State
Department of Consumer Affairs、略して Cal. DCA]7)や、市長村レベルで同様な機関を
設置するところも見られる(例えば、別添のレポート資料に詳しく紹介されているニュー
ヨーク市消費者行政局[New York City Department of Consumer Affairs、略して NYC DCA]8)。
いずれにしても、行政型 ADR の強みは、このように、州法務長官はじめ、行政が持つ規
制権限を事実上の「強制力」に、企業との間で ADR を実効的に進めることができる点にあ
り9、それゆえに、BBB 等の民間型 ADR で解決しなかった紛争が行政型 ADR に持ち込まれる
例も多いと指摘されている。
ところで、行政型 ADR にも、調停型(類型②)と仲裁等の裁断型(類型④)が考えられ
るが、実際には、現時点で前者は多いのに対して、後者はあまり見られないようである。
それは、州の規制権限、特にライセンス停止・取消しその他の行政処分を事実上の強制力
とした調停で十分な効果を実際にあげており、そうであれば、裁断を下す機関を別に設置
・運営するに更にコストのかかる裁断型の ADR まで行政が自ら進んで提供する必要性は必
ずしも高くないと判断されたことによるのではないかと推測される――第三者の裁断を希
望するのであれば、少額裁判所の利用も考えられることも理由となろう。もっとも、こう
した「行政・裁断」型の ADR(類型④)が全く存在しないというわけではない。例えば、
ニューヨーク州では、購入した自動車のトラブルに関して、仲裁プログラムが一定の要件
の下に提供されており10、また、カルフォルニア州では、請負工事により完成した建造物
のトラブルについて、やはり仲裁プログラムが一定の要件の下に提供されている11――い
ずれの仲裁も、消費者と企業の双方を拘束し、その後に改めて司法判断を受ける機会は原
7
See e.g., Stephen Mindell, The New York Bureau of Consumer Frauds and Protection-A Review of
Its Consumer Protection Activities", 11 N.Y.L.F. 603 (1965).
8
NYC Charter Ch.64, §§2201 - 2204 〔NYCDCA の組織構成に関する規定〕. NYC Admin. Code Tit. 20
〔NYC DCA の規制権限に関する規定〕。NYC DCA は、所管の範囲で州法務長官と同様の機能を果たすものと
も評価されている。Mary Dee Pridgen, Consumer Protection and the Law §7:28 (2007).
9
E.g., David A. Rice, Remedies, Enforcement Procedures and the Duality of Consumer Transaction
Problems, 48 Boston Univ. L. Rev. 559, 586 (1968).
10
N.Y. Gen. Bus. Law §198-a(k) and §198-b(f)(3) , and 13 N.Y. Comp. Codes R. & Regs. §§300.1
et seq. Cf. N.Y. Gen. Bus. Law §198(g)〔業界スポンサーの ADR について規定〕. ニューヨーク州が提
供するこの仲裁プログラムは、いわゆる lemon 法の下で中古車・新車売買の瑕疵に関して認められるもの
で、その運営は全て、州法務長官事務所により、ニューヨーク州紛争解決機関(株)(New York State Dispute
Resolution Association, Inc. 、略して NYSDRA)という非営利団体に委託されている。なお、この NYSDRA
は、ニューヨーク州の他の消費者仲裁プログラムも請け負っている。See NYSDRA's web site, available
at http://www.nysdra.org.
11
Cal. Bus. & Prof. Code, §§7085 et seq. カルフォルニア州が提供するこの仲裁プログラムは、Cal.
DCA の傘下の州建築業者ライセンス委員会(Contractors State License Board、略して CSLB)が提供する
もので、代金又は損害額に応じて①消費者と企業双方の合意に基づいて手続きに入る任意仲裁(契約金額
又は損害額 12500~50000 ドル)と②消費者の申し立てにより自動的に手続きに入る義務的仲裁(契約金額
又は損害額 12500 ドル未満)の二つのタイプがある。仲裁に際して CSLB は、必要に応じて、費用負担して
専門家鑑定人(expert witness)を指定する。
33
則として否定される12。行政が自ら裁断型の ADR を提供する例が限定的にせよ見られるの
は、例えば、損害額が比較的高額な、頻発する紛争類型で、しかも瑕疵の有無等、微妙な
専門的判断を要するケース等、一定の場合には、なおそのニーズがあることを示している
とも言えよう。要は、行政型 ADR としては、現時点で、一般に調停型で足りるが、裁断型
も特に必要があれば例外的に用意されていると評価できる。
3.
まとめ
以上を踏まえ、最後に改めてアメリカでの消費者 ADR の概略をごく簡単にまとめておこ
う。
そもそも損害が比較的低額な消費者紛争にあっては、消費者にとって、コストと時間の
かからない ADR は合理的な紛争解決手段となるが、特にアメリカでは、クラスアクション
や懲罰的損害賠償の制度が存在することにより、より一層、企業にとっても、高額な賠償
を課される危険のある訴訟に比べ、ADR が望ましい紛争解決手段と考えられる状況にある。
そうした状況だからこそ、民間型の消費者 ADR の利用が実際に活発で、運営の「資金」や
「中立性」の問題をクリアーしながら、例えば AAA や BBB といった非営利団体によって実
施されている調停(類型①)や仲裁(類型③)が、既に相当の実績を上げている。
もっとも、この民間型 ADR はあくまで紛争当事者である消費者と企業双方の合意によっ
て可能となるものである。それゆえ、その任意性から、一方で、クラスアクションや懲罰
的損害賠償を希望する消費者にも、それらの権利行使を否定する仲裁を、訴訟に代わる唯
一の紛争解決手段として義務づける、いわゆる義務的仲裁が約款に盛り込まれ、いわば強
制されるという問題(濫用的な「過大」利用)が、他方で、消費者が調停を希望しても、
相手企業が理由なくその話し合いに応じないという問題(濫用的な「過小」利用)が生じ
ている。
このうち後者の問題を解決ならしめるものとして注目されるのが行政型の消費者 ADR
で、各州で、州法務長官、ライセンス(営業許可)を与える部局や委員会、更には消費者
保護機関が、消費者のための調停(類型②)を行っている。そこでは、それら行政の有す
る規制権限が事実上「強制力」となり、多くの企業が、刑事訴追や、ライセンスの停止・
取消し等の行政処分を恐れ、行政からの調停の働きかけに応じて消費者との間で紛争解決
に向けた話し合いを進めており、実際に行政型 ADR が消費者の紛争解決に大いに役立って
いる実態が認められる。行政自らが更に進んで仲裁(類型④)を実施する例は現時点でさ
ほど多くはないが、しかしそれでも実例はあるから、一定の場合にそうしたニーズがある
ことは確認できるし、また何より、そのことは、行政による調停活動が大いに効果を上げ、
それで足りている現状を示しているとも言えよう。いずれにしても、こうした行政型 ADR
は、特定の消費者の個別的な紛争を解決するにとどまらず、例えば、その調停を通じて得
た情報を活用して州法務長官が問題企業による欺罔的取引行為の差止を求める等して、不
12
ニューヨーク州の lemon law 仲裁プログラムについては、13 N.Y. Comp. Codes R. & Regs. §300.16(h)、
カリフォルニア州の CSLB の仲裁プログラムについては、Cal. Bus. & Prof. Code,§7085. 2 を参照。
34
特定多数の消費者一般の利益の保護につなげられており、単なる相談窓口以上の機能を行
政が果たす契機となっていることは注目される。
こうしたアメリカでの消費者 ADR の現状から我が国が示唆を受ける点は多くあるが、こ
こではそのうち幾つかを特に挙げておこう。まず民間型 ADR について言えば、訴訟コスト
がアメリカに比べて高くない我が国で民間型 ADR が成功するか否かは、
企業にとっての ADR
利用のメリットをいかに示すことができるかにかかっていること、また、その実際の運営
にあたっては、「資金」と「中立性」の確保が重要な課題となることを指摘できよう。他
方、行政型 ADR について言えば、任意性の限界がある民間型 ADR を補完しうる存在として
その必要が高いことは確かで、事実上の「強制力」となる行政の規制権限をいかに整備・
強化し、ADR の実効性に結びつけるかが制度設計に際し重要な課題となることを指摘でき
よう13。
13
例えば、現在でも特定商取引法 68 条は、規制権限を都道府県にも与えており、都道府県の消費者セン
ターが消費者の申し立てに基づき相手企業と話し合いをする際、いわば「丸腰」なわけではない。
35
36
第二部
ヒアリング報告
消費者 ADR に関する調査
米国東海岸
A
ニューヨーク州消費者保護委員会
(New York State Consumer Protection Board)
B
ニューヨーク市消費者行政局
(New York City Department of Consumer Affairs)
C
ビジネス改善協会協議会
(Council of Better Business Bureaus (CBBB))
D
全米消費者連盟(National Consumers League:NCL)
第二部 ヒアリング報告
消費者 ADR に関する調査 米国東海岸
Christine Rogers
リーガルコンサルタント、
マサチュセッツ州アンドーバー
1.
序論
米国全体の消費者 ADR についての分析は前掲の三枝論文でなされたが、以下では、東海
岸の次に掲げる調査対象の諸機関のヒアリング調査結果とその他の入手資料を下に、その
組織形態から、行政型 ADR、民間型 ADR、司法型 ADR として大きく分けて整理している。そ
のうえで、それぞれ、①背景と特徴、②他の機関との連携、③実績、④手続き、⑤解決ま
での期間、⑥手続き責任者の選任、⑦審理方法、⑧仲裁裁定、⑨仲裁人・調停人の育成、
その他、⑨オンライン ADR や⑩最近の問題などの項目について共通して取り上げて叙述し
ている。必ずしも各調査対象からここに挙げたすべての項目について回答が得られたわけ
ではないが、このような共通項目を析出することで、上記の類型を相互に比較することが
可能となり、それによって各 ADR 類型の機能的な共通性と差異を浮き彫りとすることがで
きると考えたからである。なお、各調査報告と参考資料としての用語の定義の仮訳は順に
後掲している。
調査先:
A ニューヨーク州消費者保護委員会(New York State Consumer Protection Board)
B ニューヨーク市消費者行政局(New York City Department of Consumer Affairs)
C ビジネス改善協会協議会(Council of Better Business Bureaus:CBBB)
D 全米消費者連盟(National Consumers League:NCL)
2.
消費者問題を扱う ADR 機関
2.1 行政型 ADR
米国では、連邦・州・地方の各レベルにおいて、消費者問題に関するサービスを向上さ
せ、行政や訴訟にかかるコストを軽減するために、ADR 制度を利用している省庁・部局が
多数存在する。たとえば、連邦通信委員会(Federal Communication Commission: FCC)は、
消費者照会・苦情部を設けており、FCC やその他の関連法の規定と整合性を保ちながら、
インフォーマルな調停を行ない、また、個人消費者の問合せに回答し、苦情を解決するな
どの業務を行なっている。
多くの州政府、州法務長官、および郡法務局では、製品およびサービスに関わる消費者
紛争の調停・和解のサービスを提供している。たとえば、ニューヨーク州法務長官事務所
37
では、消費者詐欺対策および消費者保護部門(Bureau of Consumer Fraud and Protection)
を運営しているが、この部門では、詐欺的・誤認を招く・虚偽的ないしは違法な、取引方
法に関わる、毎年数千件にものぼる個人消費者からの苦情に対応している。また、欠陥車
に関するレモン仲裁プログラムを実施している。営業許可を交付する州の委員会や、営業
許可の必要な事業を規制する州の担当部局(たとえば、自動車修理、電子・家電製品の修
理、不動産売買、建築業者に関わる部局など)では、通常、苦情処理制度を実施している。
多くの市町村でもまた、消費者問題室を設けて ADR サービスを提供している。たとえば、
ニューヨーク市消費者行政局では、営業許可を与えている事業者に関する苦情のみならず、
どんな種類のビジネスであっても(ただし不動産業は除く)、それが消費者関連の商品また
はサービスに関わる貸付金ないしは賃貸料に関するものである場合には、対応をしている。
多くの州では、州全体の仲裁サービスの調整を支援する事務所をおいており、そのうちの
あるものは州政府が全面的または一部を出資しており、またその他の組織は独立の非営利
団体である。
行政の各機関や部門は、消費者からの苦情への対応についてそれぞれ管轄(ある特定の
業界に関わる問題の管轄であったり、ある特定の性質の問題の管轄であったりするが)を
有し、各種の法律や規則を執行する。省庁ごとに、その取り扱う消費者問題の範囲は、広
範かつ全般的であったり、また逆に、特定の業界に限定するものであったりする。
消費者保護機関は、消費者を保護する使命を有するのはもちろんであるが、他方、市場
における公平性や信頼確保を実現するという、より大きな目標を有している。行政機関は、
ADR サービスを提供する際、消費者と企業の間の紛争がよりエスカレートしてしまわない
うちに解決するよう努めている。その調停人は中立性を保つよう訓練を受けており、また、
調停は合意に基づく手続である。
<背景と特徴>
歴史的には、調停自体は何百年も前から存在する制度であるが、ADR は 1960 年代の政治
的および民事的紛争の増加と共に、米国で急速に発達した。新しい法律が導入されること
によって、市民および消費者の権利を保護する動きが強まり、差別と不正に対して、より
厳格な姿勢をとろうとする動きとあいまって、紛争解決の手段として訴訟を起こす人々の
数が増加した。同時に、女性の地位向上や環境問題に関わる運動の活発化により、訴訟の
件数は大いに増した。やがて裁判制度はこうした訴訟の増加に対応しきれなくなり、手続
が遅滞したり、訴訟費用が高騰したり、ときには手続上の誤りが引き起こされる事態も生
じた1。また、学術的な観点から見ると、ある種の紛争、たとえば、相互に関連した多数の
争点を抱えた紛争においては、裁判の判決の有する「全か無か」というアプローチでは、
紛争解決がうまくいかないという問題も明らかになった。調停や仲裁のような制度は、
1
Brad Spangler, “Alternative Dispute Resolution (ADR)”, June 2003 at
http://www.beyondintractability.org/essay/adr
38
種々の紛争を処理するとともに、裁判制度の抱える過重な負担を軽減する方法として広ま
った。1923 年の連邦仲裁法(Federal Arbitration Act:FAA)2はそれまでのコモンローを
一部廃止するものであり、それに合わない仲裁合意を無効にしうるものであった。それ以
降、FAA の下で有効な仲裁合意の実施を推し進めるランドマーク的な最高裁判決がいくつ
か出された。1955 年には統一仲裁法が統一州法全国会議で採択され、その後改正はあるも
のの、州の仲裁法のモデルとして複数の州で採用されている。
1976 年には、米国法曹協会(American Bar Association: ABA)は軽微な紛争に関する
特別委員会を設立し、ADR 発足に向けた運動を公式に是認した。この委員会が、やがて現
在の ABA の紛争解決部となった。連邦レベルでも州レベルでも、司法型 ADR 制度の設立、
ならびに消費者保護機関を含む、行政機関による積極的な ADR 政策の採用を義務づける法
律が制定された--なお、消費者保護機関はこの頃目覚ましい存在になり始めた。以下は
そうした法律の例である。例えば、連邦法では、ADR プログラムを少なくとも 1 つ立ち上
げることを全ての連邦裁判所に求めた 1998 年の ADR 法(Alternative Dispute Resolution
Act, 28 U.S.C.A. §651 et seq.)、利害対立状況での規制制定に代わるものとして交渉
による規制制定を連邦機関が取り入れることを認めた、交渉による規制制定に関する 1990
年法(Negotiated Rulemaking Act of 1990, 5 U.S.C.A. §581)、連邦機関に ADR の任意
利 用 を 進 め る 政 策 を と る こ と を 求 め た 、 交 渉 に よ る 規 制 制 定 に 関 す る 1996 年 法
(Negotiated Rulemaking Act of 1996, 5 U.S.C.A. §571-584) 等。他方、州法でも、
ADR の利用に触れる規定が多く、また、ほとんどの州には紛争に先立つ仲裁合意の実施を
促進する法律がある。さらに弁護士に対してはクライアントに ADR の選択肢があることを
アドバイスすることを求める倫理規定を採用している州もある3。
行政型消費者 ADR の特徴として、政府機関と連携をしているので、苦情受付の担当機関
から、いくぶん高度な配慮を得られる可能性があること、さらに、調停人は、いかなる関
連法にせよ、それを説明する際に、より高い信頼性があると期待できることが挙げられる。
そのためか、たとえば、ヒアリング調査を行なった、ニューヨーク市消費者行政局および
ニューヨーク州消費者保護委員会では、いずれも非常によく利用されているという当局者
の話であった。またニューヨーク州はとりわけ人口密度が高く消費者苦情直通ダイアル
「311」がよく知られており、これも利用度の高い理由の1つであろう。他の州における行
政型 ADR サービスは一般的に非常によく利用されているというわけではないようであるが、
PR 次第で、もっと利用されるだろうという指摘がある。
フロリダ州においては、1998 年から 1999 年にフロリダ州紛争解決コンソーシアムによ
2
9 U.S.C.A. §§1-16
連邦仲裁法第2条は、契約が取り消されるという場合を除いて、全ての商取引契約の仲裁合意の有効性
を保護するものであると規定している。
3
詳細は, Jacqueline M. Nolan- Haley, Alternative Dispute Resolution in a Nutshell 2d. ed. West
Group, St. Paul, MN, 2001, Pgs. 4-12, “Background of the Alternative Dispute Resolution
Movement”.) (Roth, Bette J., Esq. “History of Arbitration in the U.S.” Arbitration Practice
Update 2007, Massachusetts Continuing Legal Education, Inc. 2007, at 15-26.を参照。
39
ってパイロット・プロジェクトが行われたが、その際の行政型 ADR の利用度の低さについ
ての分析も参考になろう4。
次に、連邦・州・地方の消費者行政型 ADR の管轄についてであるが、消費者問題の大半は
州内で州法に基づいて対処される。特に連邦法違反がある場合や、あるいは事態が州際通
商に影響を及ぼすおそれがある場合には、連邦が関与してくることがある。地方の行政型
消費者 ADR 提供機関は、市の消費者保護関連法令その他の関連条例および州法の執行によ
り、市によって営業許可された事業から生じる問題に対処する。他方で、行政の消費者保
護機関は、あらゆるレベルにおいて、相互に重複し補完し合う ADR 教育、公衆の認知度向
上プログラムや他機関への紹介サービスを行なっている。行政機関の多くはまた公的な紛
争解決のために、州内全域にわたる ADR 活動の調整を行なったり、中立的第三者に技術的
支援を提供し、研修を行なったり、基準を設定するなどの活動をする紛争解決部署を設置
している。
そのほかの行政型の ADR を扱う機関としては、自治体立調停センターがあり、低費用の
地方レベルの調停サービスを求める重要な需要に応えている。自治体立調停センターは、
通常、州および自治体からその資金の大半を得ている非営利団体である。その主な長所は、
地元の裁判所には受理されない、もしくは良好に対処されないことの多い、少額の消費者
債権のような小規模な事件について、対費用効率の良い解決法を提供している点である。
調停人たちは通常、特に専門分野を有する必要はなく、ボランティアであることが多い。
事件は、判事・警察・地方検事ならびに社会福祉事務所などによって、自治体立の調停セ
ンターに移送される。
2.2 民間の ADR 機関
特にビジネス改善協会(Better Business Bureaus、略して BBB)や米国仲裁協会(American
Arbitration Association、略して AAA)のような、大規模な民間消費者 ADR 機関において
4
フロリダ州の裁判制度における調停がうまく機能しているとの認識にもとづき、フロリダ州議会は行政
がおこなう ADR を奨励するため、1996 年に行政手続法 (APA) を改正した。改正法では行政紛争の当事者
に対して、調停が利用可能であることを知らせるように求めている。そして、より円滑で話し合いが尽く
されるようなルール作りの手法を用いるための規定を設けている。1998〜99 年には、フロリダ州紛争解
決コンソーシアムは州機関の行政紛争解決パイロット・プロジェクトをおこなった(「フロリダ州 ADR パ
イロット・プロジェクト」http://consensus.fsu.edu/ADR_Project)。そこで調査したいくつかの事例に
おいて、なぜ行政型 ADR の利用度が低いのか、または低く見えるのかの理由を次のように分析している。
1. 行政審判部門で争われた事件総数は明らかになっているが、その一方、州機関が、現実の使用
についての情報が限られており実体の把握が十分出来ない。
2. プロジェクト中の省庁の実態調査では、交渉または調停によって解決される事件について記録を
とっている機関がほとんど挙げられていない。
3. 調査した機関のうち、行政事件の訴訟との対比で、紛争解決に投じた人材と資金源について、明
確な基準を示したものはないこと。
4.行政訴訟における調停の利用可能性について、制定法上の規定により関係機関が当事者に通知する
ことを要求しているが、その適用または準拠例が少なく限定される。
40
は、公的な司法手続と、他の効率的・効果的な紛争解決手続とを融合させたような、高度
に整備された規則や手続を用意している。これらの規則、手続は、民間型消費者 ADR の特
徴であるが、費用、処理遅滞、それに公的な裁判制度にはつきもののプライバシー欠如な
どを、解消もしくは軽減させるものである。
北米の BBB 全体を統括する組織であるビジネス改善協会協議会(Council of Better
Business Bureaus、略して CBBB )5などの民間型 ADR 機関は、米国内全域にわたり、全分
野を対象にした ADR のサービスを提供している。民間型 ADR 機関の多くは、会員特典付与
や、成人教育・成人職業訓練、公開講座その他のサービスを提供し、また同様のサービス
を行なう一連の機関と提携関係にある。米国における民間の消費者 ADR 利用の全体像がわ
かるような統計は存在しないようだが、次に挙げる主要民間型 ADR 機関ではもっぱら消費
者問題を扱うか、もしくは ADR によって多数の消費者紛争を処理する部署を有し、多数の
事件を扱っていることが報告されている6。
ビジネス改善協会 (BBB):2006 年に 110 万件以上の苦情を処理した7。
全米証券業者協会 (NASD):
米国仲裁協会(AAA):
2004 年には 8,200 件以上の仲裁を行なった。
年間 20 万件以上の紛争を仲裁している。「消費者フォーカス・
エリア」では、2006 年に 1,294 件の消費者仲裁事件が処理され、そのうち 77%は消費
者側が提訴している。
全国仲裁フォーラム (NAF):
年間 5 万件以上の事件を処理している。
司法仲裁調停サービス社 (JAMS):
年間 1 万件以上の紛争を処理している。
スクエア・トレード (オンライン紛争解決、略称 ODR)8: 1999 年の設立以来 120 か国、
5 言語にわたる 200 万件以上の紛争を処理してきた。
2.3 司法型 ADR
裁判所附属型 ADR 制度の大きなメリットは、当事者たちに対し、法廷外で事件を解決
するよう強く促すことによって、裁判所の処理すべき訴訟の負担と、裁判所の運営コスト
とを軽減できることである。もちろん、この点に関する実際の成功率は、その制度の利用
度に応じて、州ごと、制度ごとに異なる。紛争当事者の視点から見れば、上記制度は、従
来の訴訟に代わる、より安価で、より短時間で解決のできる選択肢を提供するものである。
<少額裁判所>
司法型 ADR の中でも、消費者紛争を取り扱う特殊な機関として少額裁判所があげられる9
5
後述(各調査報告を参照)。
European Committee: United States National Report- 15 November 2006, p. 4
http://ec.europa.eu/consumers/redress_cons/adr_en.htm#docs
7
報告書 A の「CBBB」を参照のこと。
8
後述「オンライン ADR」参照。
9
http://consensus.fsu.edu/ADR_Project
6
41
10
。少額裁判所で扱う事件は、訴額の上限が 2,000 ドル〜7,500 ドルの範囲内であるものに
限定している(一部の少数の裁判所では、請求最高額 10,000 ドル〜15,000 ドルの事件も
受理している)。このため、少額裁判所は、比較的軽微な消費者契約紛争を、対時間・対費
用効果の高い方法で、多数処理できることになる。それゆえ、消費者紛争解決の一つの形
式として、米国社会では広く受け入れられている。この制度は連邦にはなく、州レベルで
存在する。少額裁判所では、管轄権の範囲内で、あらゆる種類の紛争をも受理しているが、
特にリース契約におけるように、事実と関連法規が明確で、各当事者の法的権利が文書で
平明に記述されているような事件を処理する場合には、とりわけ有効である。これらの事
件は、たいてい個人間の紛争や不十分な意思疎通によってもたらされる場合が多い。しか
るに、裁判官は、提示されている法律問題に直接関係するものでないこれらの事件を扱う
には、十分な時間や権限また関心を欠く場合が多く、従ってこれらの事件は調停向きであ
るといえる。現在、訴訟当事者が裁判に持ち込む前に紛争解決を試みる制度として、多く
の少額裁判所が調停制度を備えている。
ほとんどの場合調停は任意であるが、州または郡によっては、訴訟を起こす前に調停を
試みるよう当事者に対して求めることがある。
裁判所附属の調停制度では、法廷に持ち込まれるほとんどすべての範囲の消費者事件、
とりわけ消費者契約紛争を取り扱う。事件の内容は、たとえば、契約および人身被害に関
する紛争、欺瞞的取引慣行に対する消費者からの苦情、損壊した商品、不完全な修理およ
び保証などである。
<裁判所附属の消費者 ADR>
裁判所附属の消費者 ADR 制度では、多くの州・地方・連邦の裁判制度において早期中立
評価11や略式陪審裁判 12 などの制度も使用されている。
これらの連邦裁判所の ADR の調停人は、主に連邦訴訟の特定の分野で幅広い経験を有す
る独立開業弁護士である。州や地裁の調停人は多くの場合、裁判所専従の調停人か、ある
いは個人的に開業している (地元の弁護士会や、行政および民間の消費者団体のような、
他の調停人紹介業者によって配属される) 弁護士であり、また、外部の請負業者である場
合もある。これらの裁判所附属の消費者 ADR 制度のうちには、その調停サービスの大半を、
自治体の調停センターを通じて提供しているものがあり、その場合の調停人は、とりたて
て専門分野を持たないボランティアである場合が多い13。
州および地方の裁判所の調停制度においては、その手続きや、調停人を使用した場合の
報酬の支払い方法、そして当事者に対して費用が発生した場合の金額などについて、大き
なばらつきがある。
10
少額裁判所・裁判所付属 ADR に関しては、Peter Lovenheim and Emily Doskow, ‘Becoming a Mediator’
Nolo, 2004, Berkeley, CA, pgs. 3/7-3/10/ www. nolo.com.に拠った。
11
参考資料1参照。
12
参考資料1参照。
13
裁判所付属の調停制度の、州ごとの概要については、www.ncsconline.org を参照。
42
いくつかの州では14、ADR は、州 ADR コーディネータ(State ADR coordinator)が指揮す
る、裁判業務進行部内の一部門である、統一裁判所 ADR システムを設けている。たとえば
ニューヨーク州では、ニューヨーク州裁判所統一裁判外紛争解決プログラム(New York
State Unified Court System of Alternative Dispute Resolution Programs) (「州 ADR
オフィス」15)などがある。州 ADR コーディネータは、地域社会や裁判所が要請する事柄に
応じられるような紛争解決プログラムを構築するために、裁判官、裁判所事務官、ならび
に弁護士たちと共に作業をしている。州 ADR オフィスを通じて、ニューヨーク州の多くの
郡では、マルチオプション ADR を提供する最高裁判所プログラムを設けている。マルチオ
プション ADR とは、民事調停、民事中立評価、略式陪審裁判ならびに民事仲裁などを含む
ものである。さらに、民事・地区・町村レベルの裁判所において、州 ADR オフィスは強制
および任意の双方の仲裁を含むプログラムを監督している。州 ADR オフィスは、さらに、
ニューヨーク裁判法第 21-A 条16の下で設立され、州内全域にわたって多数存在するコミュ
ニティ紛争解決センター (Community Dispute Resolution Center: CDRC) を監督している。
プログラムを執行するための規則は、ニューヨーク州規則第 116 節17
に述べられている。
<ニューヨーク州利用統計18>
2002 年には、最高裁判所において公判の用意ができている「争点通知」の段階に達した
訴訟のうち約 67,545 件が処理された。これらの訴訟のうち、約 67%は示談によって処理
され、約 10%は評決もしくは判決によって処理され、約 16%は調停に移された。その他の
事件は、申立てによる処理もしくは他の裁判所への移送によって処理された。また、これ
らの統計によると、2002〜2003 年の会計年度において、28,548 件の事件のうち、消費者紛
争を含む約 85%が、州レベルの調停あるいは CDRC を通じたその他の ADR 制度によって解
決されている。
2.4 消費者 ADR 組織の連携および実績
<連携>
ほぼすべての消費者問題を取り扱う機関は、その組織の公私を問わず、消費者にとって
公正で倫理にかなった市場を確保することを目指している。行政型 ADR 機関においては、
そのほかに行政訴訟費用の削減に配慮し、裁判所附属型 ADR においては、訴訟件数や裁判
の運用コストの削減の努力をしている。民間の ADR 組織には、様々な機関があり、非営利
機関や営利機関、また、大規模な全国的組織から小規模な地方組織、もしくは他の団体に
所属しない独立型の中立的組織もある。こういったさまざまな消費者 ADR 機関で相互の連
携が図られることにより、消費者の利便性はより増していく。
14
ニューヨーク州紛争解決協会(Dispute Resolution Association, Inc.)については, ‘Overview’ at
http://www.nysdra.org/about/about.aspx 参照。
15
www.nycourts.gov/ip/adr
16
New York Judiciary Law
Article 21-A - Community Dispute Resolution Center Program
17
22 NYCRR §116.1 以下参照。
18
ニューヨーク州統一裁判制度 www.courts.state.ny.us
43
さまざまな ADR 提供機関が相互に連携する方法の一つに、紹介サービスがある。行政型、
裁判所附属型ならびに民間の消費者問題組織のなかには、個々人や企業に、それらが抱え
る紛争を解決するのに最も適切な ADR 提供機関を紹介する支援を行なっているところが多
くある。次に挙げた機関がこうした紹介サービスを行なっており、その苦情内容に応じて
消費者に最も適した ADR 提供機関を紹介している。
- 州法務長官もしくは地方の消費者保護機関
- 少額裁判所その他の裁判制度
- 非営利目的の紛争解決機関
- 弁護士会ならびに法科大学院の法律相談所
- 民間の消費者組織(たとえば BBB)
- 一般の ADR もしくは紛争解決機関
例えば、もし、ある消費者が、免許を有する分野の専門家に対する苦情を BBB に持ち込
んだ場合、BBB では、この消費者に適切な州の免許交付機関を紹介することができる。こ
の州の免許交付機関は、場合によっては自前の ADR 制度を備えている。人材については、
各機関は自前のスタッフを有するが、なかには独立した中立的第三者がいくつかの消費者
ADR 提供機関のために働いていることもある。
州や地方の政府機関の中には「紛争総合受付センター(multi-door courthouse center)」
を設けているところがあり、さまざまな紛争解決サービスや紹介サービスを提供している。
当事者たちは、紛争をこのセンターに提起し、事案は、どの手段がベストかという視点に
拠って、調停・仲裁・裁定あるいはその他の手段に託される。
ニューヨーク州では、87 の州立の消費者保護機関があり、さらにそれぞれの郡にそれぞ
れ消費者機関がある。これらの機関では処理手続きは統一されておらず、苦情データベー
スのシステムも別のものを使用しているため、19州消費者保護委員会(NY State Consumer
Protection Board: CPB)の委員長は、これらの組織間の連携を図ろうとしている。
ニューヨーク州の諸機関のネットワークは、異なるタイプの ADR 提供機関同士の連携を
支援したり、あるいは連携とまではいえないまでも、在る程度まで結びつける仕事を行っ
ている。その例を次にあげる。
同州の統一裁判所制度は、調停、グループファシリテーション、その他の ADR のオプシ
ョンを提供している地元の非営利団体と提携関係を結んでいる。ニューヨーク州紛争解決
協会(New York State Dispute Resolution Association, Inc.: NYSDRA)はそのような非営
利団体の1つであり、ニューヨーク州法務長官事務所と契約を結んでおり、いくつかの州
政府の部局、および連邦政府のために、CDRC の全州的なネットワークを通じて、調停・仲
19
ニューヨーク市消費者行政局報告参照。
44
裁サービスを管理運営している。NYSDRA は、1985 年に設立された専門家協会であり、そ
のメンバーとして、ニューヨーク州にある 62 の郡すべてにあるコミュニティ紛争解決セン
ター(CDRC)、個別の ADR 主宰者、ならびに ADR 分野における組織などが加入している。こ
うした NYSDRA などの組織においても、現在、州内で活動する多くの ADR 提供者たちの専門
性を鑑みた、認証、倫理ないし基準などに関する包括的な規範の確立に向けての作業が行
われている。上述の CDRC については、1981 年に制定された裁判所法第 21-A 条20の下に、
コミュニティ紛争解決プログラムが確立され、それが今では州 ADR 部内の一部局となって
いる。このプログラムの行政的規則は、ニューヨーク州裁判所規則第 116 節に規定されて
いる。その他に、民事手続法規則(Civil Practice Law and Rules: CPLR)およびニュー
ヨーク州裁判所規則は ADR に関連した規定を備えている21。
NYSDRA は、その他、多くの州と連邦の契約を管理運営し、研修を実施し、専門家養成・
ADR 教育・会員サービスを提供し、他の ADR 組織と協力し合って、ADR 実施への認知度向上
と利用促進に努めている22。
<実績>
消費者 ADR 機関は、特定の種類の消費者苦情を処理する場合の、管轄範囲や適合性、手
続、当事者の支払う費用、組織が用いる調停人や「中立的第三者」の種類などに関して、
多種多様である。米国では、過去 20 年以上に渡る法制度の中で、制定法・判例および慣習
等を組み合わせることによって、公私、営利非営利を問わず様々な組織において、ADR の
体系的な運用が開始されてきた23。
米国内または各州において、行政型や民間型の消費者 ADR 機関が併存している場合、こ
れらの運用実態を調整・管理する、包括的統一的な監督基準・監視制度は存在しない。し
かしながら、AAA など多数の機関が基準や規約(protocol)をドラフトし、これらの基準
や規約はある限度内ではあるが基準として採用された24。近年 ADR の認知度が高まるにつ
れ、このような機関の数は大幅に増加した。これらの機関が、全米の ADR の発達をさらに
20
The Judiciary Law, Article 21-A (ss849-a through 849g)
CPLR 第 75 条(調停を行なうことへの合意)、CPLR 第 3405 条および統一規則第 28 節(調停による裁判外
紛争解決)、統一規則第 137 節(弁護士費用紛争解決プログラム)など。
22
http://www.nysdra.or
23
各調査報告「業績」および「最近の動き」参照。 本文「4.その他」参照。また、この点について
も、前述のフロリダ州での ADR パイロット・プロジェクトでの分析
http://consensus.fsu.edu/ADR_Project が参考になるであろう。
24
これまでにも、このような努力はいろいろ試みられている。例えば、ADR 実務における倫理および標準
に関する CPR ジョージタウン委員会は、2002 年に、ADR サービスを提供する団体、これらサービスを利用
する消費者、一般公衆、ならびに政策立案者らに、指針を提供するための原則や、「中立な第三者として
働 く 弁 護 士 の た め の 職 業 上 の 行 為 に 関 す る CPR ジ ョ ー ジ タ ウ ン ・ モ デ ル 案 」 を 作 成 し て い る
(http://www.abanet.org/cpr/ethics2k.html )。また、AAA (米国仲裁協会)は、他に先駆けて、ADR のた
めの仲裁規則、プロトコルおよび倫理綱領の作成している。消費者適正手続プロトコルについては、AAA
および多数の他の組織が過去 10 年間にこれを実施し、これまでに複数の裁判所が、適正行為に関する標
準として繰り返し言及している(このプロトコルについての詳細は、
「最近議論されている問題点」参照)。
21
45
推進するという共通の目標に向けて、協力して事業を進めれば、一般の人々によりよいサ
ービスを提供できるであろうことは明らかである。
<実績に関する統計>
米国では、個々の組織の統計が示すところによれば、消費者 ADR は非常にうまく行って
いるとされる。
その例としては、次のものが挙げられる。
-
CBBB の報告によると、2006 年における、米国およびカナダの BBB に提訴された苦情全
体の平均解決率は、72.2%であった。
-
ニューヨーク市消費者行政局の報告によれば、同部局が消費者を救済するために確保し
た年間約 300 万ドルの被害賠償額のうち、半分以上は調停によって解決された事件からも
たらされたものであった。
<ADR の位置づけ>
従来の考え方としては、ADR は、裁判の代替紛争解決手法として、対面式交渉から、格
式ばった拘束力のある調停にいたるまで、さまざまな手法が用いられるというものであっ
た。しかし、今日では、ADR の実務家たちも一般の人々も、訴訟を標準としてその他すべ
ての手続を訴訟の『代替物』であると見なすというのではなく、訴訟という手続が、
「適切
な紛争解決」の手段として考え得る幅広い選択肢の中の一つであるという考え方をするよ
うになってきている。
「適切な紛争解決」手続は、当事者たちがどの程度まで自分で紛争をコントロールする
ことを譲歩して、手続と結果を中立の第三者に委ねるか、その度合いに応じて様々である。
また、中立の第三者が手続もしくは紛争の対象について有すべき専門的知見、ならびに、
結論の如何にかかわらず、ADR 手続から導かれる解決法がどこまで当事者たちによって受
容されるか、それらの度合いの如何によっても異なる
25
。これらの選択肢があることによ
って、消費者が自分の紛争を、その特定の状況に最もふさわしい方法で解決することがで
き、対決色の濃い訴訟では不可能な、事業者との良好な関係をも維持することができるの
である。
3. 手続の個別的内容
3.1 取扱いの範囲
ADR 機関の扱う苦情内容は各機関によって対象が異なり、機関によって例外などを設け
ている場合やある分野に限定している場合がある。本調査で調査した機関については、次
のとおりであった。
25
http://www.nycourts.gov/ip/adr/What_Is_ADR.shtml
46
ニューヨーク市消費者行政局については、不動産を除いて、同局から営業許可を受けた
業者がかかわる業種の消費者との間の苦情を受け付けている。ニューヨーク州消費者保護
委員会においては、あらゆる種類の苦情を受付けているが、事案によってはもっと適切な
機関を紹介することもある26。BBB では、市場に関する消費者が関与する苦情一般を扱うが、
投資家、証券会社、あるいは個人の登録証券販売員との金融ないし業務上の紛争、雇用紛
争、政府機関の専門家たちを相手とする訴えは扱わない。また、製造物責任、人身被害な
どは例外として仲裁から外される27。
3.2 取扱い手続きと形式
仲裁・調停の手続規定については、多くの消費者 ADR 提供機関はそれぞれ個別に規則お
よび手続を設けている。これら規則および手続は、ときに他の機関によって是認され推奨
されることがある。たとえば AAA28は「消費者関連紛争解決のための仲裁規則」や「商事紛
争解決手続(仲裁規則および調停手続)」
「消費者関連紛争のための追加手続」などの手続・
規則、ならびに調停および仲裁のための多数の指針を備えている。
こうした AAA の規定の中には、他の機関と共同で制定されたものがある。たとえば「商
事紛争における仲裁人の倫理規定」は、AAA と米国法曹協会が共同で起草し、是認し、推
奨したものである。また、
「調停人のための行動模範基準」は AAA、米国法曹協会ならびに
紛争解決専門家協会の各代表が起草し整備したものである。
[ADR の手続規定については、各州においても多数の関連する法規・条文があり、司法に
おいても、裁判所規則や連邦民事手続規則、証拠規則などがあり、オンラインで入手でき
る。]
ADR には、従来型の民間型 ADR から司法型 ADR、その他複合型のものまで様々な形式や方
法がとられている。民間型の交渉・調停・強制仲裁・任意仲裁、司法型における早期中立
評価・略式陪審裁判、複合型の示談協議・ミニ審理・ミーダブ・和解・ファシリテーショ
ン・レファレンス手続・ネグレグなどの手続きの定義については、添付の参考資料1を参
照されたい。
国際的な事件を扱う ADR 提供機関のなかで、AAA では、世界市場における商事紛争を解
決するために、仲裁を用いることが徐々に増えている。国際紛争解決センター
(International Centre for Dispute Resolution:ICDR)は、国際的な場で紛争当事者たち
が紛争の解決を求めるこうした動きを支援するために 1996 年に設立され、国際的事件の処
理の円滑化を図るために、世界中の仲裁機関との間に、多数の共同契約が結ばれている29。
26
27
28
29
より詳しくは、ニューヨーク市消費者行政局、ニューヨーク州消費者保護委員会報告を参照。
より詳しくは、CBBB 報告を参照。
www.adr.org
43 カ国の 62 の仲裁機関と提携。 http://www.adr.org/sp.asp “International”
47
そこでは、以下のような規則および手続が使用されている:
・ 国際紛争解決(International Centre for Dispute Resolution :ICDR)手続(英語)
・ 国際商事仲裁(International Commercial Arbitration :ICC)補足手続
・ UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)仲裁規則の管理下にある事件のための手続
・ 南北アメリカ商事仲裁調停センター(Commercial Arbitration and Mediation Center
for the Americas: CAMCA)調停仲裁規則
・ 米州商事仲裁委員会(Inter-American Commercial Arbitration Commission:IACAC)
規
則
・ 米州商事仲裁委員会(Comisión Interamericana de Arbitraje Comercial
Procedimientos:IACAC)規則(スペイン語)
・ AAA 商事仲裁規則・調停手続(大型・複雑商事紛争のための手続も含む)
・ アイキャン(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers:ICANN)
立審査手続の
独
ための ICDR 補足手続
民間の消費者 ADR 提供機関のなかには、会員制のものがあるが、これら会員制機関にお
いては、企業は、その機関を利用することを約束し、それと引き換えにさまざまな特典を
得る。例えば BBB の場合、会員企業は BBB の承認証を使用することを許可されるが、それ
により消費者から信頼と信用を得ることができる。
行政型 ADR 機関のなかには、たとえばニューヨーク市消費者行政局のように、営業許可
を与える権限を有するものがある。営業許可を交付された側の企業にとっては、その営業
許可を維持するために、一定の行為規範を遵守しなければならず、行政型 ADR 機関と企業
との間に一種の力関係を生じさせている。
こういった場合、非協力的な企業が、会員の資格あるいは営業許可を停止もしくは剥奪
され、悪評にさらされるという事態が起こり得る。
例えば、BBB の要請に反応のない BBB の会員の場合、BBB は、その企業が仲裁合意の署
名を怠っていても、この合意を受諾していると見なすことができる30。
また、ニューヨーク市消費者行政局などの営業許可を付与する行政機関は、営業許可を
与えられた企業が契約を遵守せず消費者に代金などを返還しない場合などには、債権の回
収手続を開始することができる。さらに、行政型 ARD 提供機関によって励行されている法
規に基づいて、企業は罰金を科せられることがある31。
3.3 詳細についての議論
3.3.1 手続の開始
ほとんどの場合、当事者はだれでも ADR 手続の開始を請求することができる。相手方当
事者にこの ADR 手続を遵守させることができるか否かは、当該企業の ADR 提供機関との間
の関係や、行政型 ADR 提供機関が強制できる管轄権を有する法的根拠が存するかどうかに
30
31
ニューヨーク市消費者行政局報告参照。
ニューヨーク市消費者行政局報告参照。
48
拠る。
消費者の請求は、多くの場合、まず電話による口頭による申立てで始まり、そのあと文
書の請求が続く。
消費者団体が行うものとしては、多くはクラスアクション(集団訴訟)であり、法廷で判
決が下される。構成員を代表しての組織そのものによる金銭的な損害賠償請求は、まだ裁
判所に認められていない。しかし、被害を受けた構成員によって「特定の認定可能な被害」
として申し立てをなしうるならば、組織がその構成員を代表して、差止めによる救済を求
めることは、すでに可能になっている。連邦民事訴訟規則 23 条および類似の州の民事訴訟
規則は、このような集団訴訟の法的根拠となっている32。行政機関は、消費者に対し詐欺
行為を働いた企業を相手取って、集団訴訟に類似した訴訟を起こすことができる33。
クラス/集団的争点についても仲裁で解決を導くことは可能ではある。しかし、この手法
が消費者団体によって用いられているかどうかは不明である。2004 年に、AAA は 60 件以上
のクラスアクション仲裁を処理し、これらの事件を処理するために、クラス仲裁のための
補則を制定した。また、AAA は商事仲裁規則および調停手続(大型・複雑商事紛争)、クラ
ス仲裁に関する方針を設けており、AAA ウェブサイトに検索可能な集団訴訟事件一覧表を
掲載している。AAA は、前提となる契約の紛争が調停によって解決されると指定され、な
おかつ、この契約がクラス請求や請求の合同ないし併合に関して何も規定していない場合
について、クラス仲裁で処理している34。
<費用>
行政型:
行政型 ADR 提供機関においては、通常、紛争当事者に費用は発生しない。
少額裁判所:
少額裁判所の提訴料は州によって異なる。多くの場合、請求額の多寡に拠る。また、被
告に召喚状を発するためにサービス料が発生したり、証人の移動のための手当が発生する
ことがある。困窮した原告については、提訴料を免除している裁判所が多い。原告は、通
常、敗訴当事者から裁判費用を回収することができる。
民間型:
民間の ADR 提供機関の料金体系は、複雑で変更されることも多い。私企業である ADR 機
関の場合は手続料・聴聞料を請求するのが一般的で、独立中立機関は毎時間あたりの料金
を請求するのが典型的である。しかし、例外として会員制をとる BBB の ADR サービスの場
合は、法的な費用が発生した場合以外は無料である。AAA の手数料は次のようになってい
る。
32
European Committee: US National Report, Nov. 15, 2006, p. 2-3。
http://ec.europa.eu/consumers/redress/reports_studies, 第 2.3.1-2 節
ンを参照。
33
ニューヨーク市消費者行政局報告「主要手続」の項を参照。
34
www.adr.org “Claims Programs” “Class Arbitrations”
49
集団訴訟/クラスアクショ
AAA の調停費用:
AAA による調停を開始するには、申立料などは発生しない。調停の費用は、調停人の AAA
プロフィールに掲載されている毎時間あたりの料金に拠る。この時間料金は、調停人の受
け取る報酬と AAA のサービスに対する割当て金額とをカバーしている。調停協議について
は、4 時間分の最低料金が定められている。もしも事件が両者引き分け、ないしは事案取
り下げになった場合、あるいは、調停を行なう旨の合意がなされた後で、なおかつ調停協
議が始まる前に、示談にもちこまれ解決した場合には、250 ドルに調停人の時間給および
その他の経費を加えた合計が料金となる。紛争当事者は、特段の合意がないかぎり、すべ
ての費用を平等に負担する。参加者の費用は、それぞれの参加者の出席を請求した側の当
事者が負担する35。
AAA による仲裁費用:
AAA による仲裁手続には、AAA の手続料と仲裁人料金の 2 種類の費用体系が適用される。手
続料は、請求額および反訴要求額の多寡に基づく。この料金は、実際の損害額に基づくの
であって、たとえば弁護士料や懲罰的損害賠償額などの、追加的に発生した損害にも基づ
くものではない。仲裁人料金は、現地に出向いて審問を行なう場合の日当は 750 ドルであ
り、書類または電話で審問を行なう場合は、日当 250 ドルである。AAA の規則は、困窮時
の手続費免除などを含め、料金およびデポジットの払い込み期限日程などについて規定し
ている。仲裁人のなかには、無料奉仕でサービスを提供する者もある。仲裁人の報酬につ
いては、消費者側の負担する金額に上限が定められている。すなわち、請求額 10,000 ドル
以下については 125 ドル、請求額 75,000 ドル以下については 375 ドルである36。
<申請内容の妥当性>
申請内容の妥当性の判断については、ADR 提供機関では、多くの場合、協会の会員、許
可交付手続、その他の種類の契約を通じて、すでに企業と関係を有するがゆえに、苦情申
請を受理した場合にその内容を審査しその妥当性を判断する一連のシステムを有している。
苦情を受けつけたスタッフは、原告から情報を得て、この事件が、自己の管轄内の事案で
あるか、それとも他所に移送されるべき事案であるかを判断する。
3.3.2 解決までの期間
<所要期間>
平均所要期間は、例えば 2006 年度 AAA における調停については、消費者事件は書面の
みによる審理の場合(裁定が下された事件のうち 34%)3.8 か月、対面審理の場合(裁定が下
された事件のうち 66%)は、7.4 か月であった37。
<迅速化>
35
36
37
www.adr.org
www.adr.org
各報告 「期間」の項を参照。
50
ADR 提供機関のなかには、紛争解決手続のさまざまな段階における所要時間の最大枠に
ついて、その手続規則のなかで規定しているものがあり、紛争解決の迅速化を図っている。
たとえば、ニューヨーク市消費者行政局においては、苦情受理されてその内容が業者に
伝達されて後、業者には回答を 20 日以内に文書で提出するよう求めており、迅速な対応を
目指している38。事実、数回の電話による調停で決着がつくようである。また、BBB の仲裁
については、BBB 仲裁規則において、申立てから 60 日以内に審理を終了するようにあらゆ
る努力をしなければならないとしており、制度からの迅速化を図っている39。
3.3.3 手続の責任者の選任
BBB においては、調停人は通常 ADR 提供機関によって任命される。もっとも、利益相反
あるいは偏向を理由に、任命された者が当事者によって却下されたり、他の者に取って代
わられたりすることもありうる。
一般に、利益相反または偏向を理由とする場合は証拠が求められる40。
3.3.4 審理の手法
BBB においては、審理に際し、通常、調停の事案には中立的第三者が 1 名参加する。し
かし、複雑な仲裁手続の場合には、3 人もしくはそれ以上の中立的第三者で構成された諮
問機関が設置されることもある41。
調停手続のなかには、審理方法に関して紛争当事者自身が決定を下せる事項がある。た
とえば、BBB による調停では紛争当事者の双方が調停の場に出頭する場合、対席型で行う
かまたは別の部屋を使うかなどについては紛争当事者自身で決定することができる。
ADR 手続のなかには、ニューヨーク市消費者行政局(報告を参照)による手続の場合のよ
うに、もっぱら電話のみで行なわれる事項がある42。他の消費者 ADR 提供機関でも、AAA の
ように、電話による審問を行なうものがある。この場合、紛争当事者たちは、電話会議の
最中に、自分たちの事件につき仲裁人に対して話をする機会を有する。このような紛争当
事者から仲裁人への話は、紛争当事者が仲裁人に事前に目を通してもらうために文書を送
付した後になされることがよくある。電話を通じての審問は、出頭して行なう審問に比べ
ると、廉価でより容易な場合がある。AAA の商事紛争解決手続および商事関連紛争のため
の補則に準拠する場合、一方の紛争当事者の要求に応じて、略式審問が行なわれることが
ある。この略式審問は、電話を通じて行なうことができ、その際、他方の紛争当事者は、
出頭してもしなくても、どちらでもよい。また、AAA では、書面仲裁も行なっている。書
面仲裁の場合、双方の紛争当事者は、自分たちの主張と証拠を仲裁人に対し文書で提示す
39
CBBB 報告を参照。
CBBB 報告「所管官庁」および「当事者による中立的第三者の選任」を参照。
41
CBBB 報告「所管官庁」および「当事者による中立者の選任」を参照。
42
その場合の本人確認の問題については、ニューヨーク市消費者行政局は当事者企業に認可を与え、そ
の企業に関知しているので、そのような問題は生じていない。
40
51
る。審問は一切行なわれず、仲裁人は文書のみに基づいて裁定を下す。書面仲裁は、請求
額もしくは反訴額が 10,000 ドルを超えない事案で用いられる。しかし、いずれの紛争当事
者も、審問を請求することができ、仲裁人は審問が必要であるか否か判断することができ
る。43
3.3.5 仲裁裁定
消費者仲裁の判断に関しては、ニューヨーク州消費者保護委員会では、一般的に仲裁人
は法の厳格な適用のみに拘束されるということはなく、法のみならず社会通念や一般常識
(条理)をも加味して判断を下すことになる。
<内容の公表>
一般に、仲裁・調停の内容は公開されないが、情報公開法の下では、市民は紛争の性質
と種類、および相手方の事業者名についての情報は入手することが可能である。例えばニ
ューヨーク州消費者保護委員会においても、消費者の個人情報を除いて、紛争処理の議事
録は入手可能である。消費者保護委員会の行政審判の決定はインターネット上に掲載され
る44。
BBB は、仲裁記録は公開しないが、企業情報として、消費者による申立てや特定の企業
に対して起こされた訴訟を含む情報を、企業信頼性リポートに公表している45。
消費者 ADR 提供機関のなかには、ニューヨーク市消費者行政局のように、紛争が ADR で
解決せず当事者がさらに紛争解決サービスを必要とする場合に、引き続きその対応を行な
っているものが多い。こうした事後的な対応のなかには、たとえば、助言や、適切な裁判
所あるいは所管官庁、ないしは弁護士への紹介などがある。場合によっては、ニューヨー
ク市消費者行政局の行政裁定委員会は、裁判所での紛争解決を助言された紛争当事者の一
方のために、訴状を無料で書くなどのサービスを提供することもあるが、当事者への財政
援助に関する具体的な規則があるかは不明である。
<時効中断効>
ADR の申請の時効中断効については、裁判所はまず仲裁請求が時効規定で禁止されてい
ないかどうか、また裁判所か仲裁人かどちらによって決められる事項なのか調査する。ま
た、合意がない場合については、最高裁判所は、時効のような「手続的仲裁可能性
(“procedural arbitrability”)」の問題は仲裁人によって決められるものであるという
見解を出している46。
43
www.adr.org
ニューヨーク市消費者行政局報告参照。
45
CBBB 報告参照
46
Howsan v. Dean Witter Reynolds, Inc., 537 U.S. 79, 123 S. Ct. 588, 154 L. Ed. 2d 491 (2002),
citing RUAA at Section 6, comment 2
44
52
3.3.6 オンライン ADR など47
48
オンライン消費者 ADR システムの開発は、それ自体が研究テーマとなっており、オンラ
イン紛争解決の評価と分析が「ABA ジャーナル」2007 年 10 月号でなされている49。それに
よると、2000 年代初期には、法曹界はオンライン紛争解決(Online Dispute Resolution:
略して ODR)が利用されることに関して大いに期待をしていたが、その後、利用が伸び悩
んだ時期があった。しかし現在になって再び、ODR は活発化してきている。
以下に、オンライン紛争解決の適用例を挙げる:
1. オンラインによる提訴
一番よく知られているのが 1999 年に設立されたスクエアトレード(Square Trade)で
ある。これは電子商取引をめぐる紛争解決法の開発における先駆的存在である。イーベ
イ、ヤフー、グーグル、カリフォルニア・リアルターズ協会(California Realtors
Association)、FTC のイー・コンシューマ・ガバメント・プログラム、その他、何千も
のオンライン取引業者の取引にサービスを提供しており、イーベイは消費者トラブルを
解決する目的で、スクエア・トレードのオンライン紛争解決(ODR)サービスを使用し
ている50。これまで 120 カ国5言語で 200 万件を超える紛争を取り扱っており、現在で
は 200 名を超える調停人、仲裁人を使っている51。
スクエア・トレードは、すべてコミュニケーションを E メールによって行なうダイレク
ト・ネゴシエーション(直接交渉)というツールを用いている。たとえば、苦情の内容
や解決策の提案などを説明したり、弁護側に反論する意思があるかどうかを確かめたり
するのにも、オンラインの書式を用いるものである。もしダイレクト・ネゴシエーショ
ンで解決がつかない場合には、調停人が介入することができる。
2. 解決オファーのやりとり
サイバーセトル(“Cybersettle”)のシステムにおいては、訴訟請求の専門家が非公開
の申込みによって手続を開始する。被告は、ファックス・E メール・郵便のうちのいず
れかの方法で通知を受け取る。被告は損害請求額を決着させるまでに、トライを 3 回ま
で行なうことができる。もし原告の提示額が被告の提示額よりも少ないか同額である場
合には、請求は、決着する。
3. 争点についての議論
E アービトレーション T・オープンソース・グループウェア・アンド・カスタマー・リ
レ ー シ ョ ン シ ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト ・ ス イ ー ト (The E-Arbitration-T Open Source
47
European Commission: US National report - 15 November 2006, p. 9-10 参照。
FTC のウェブサイト www.ftc.gov には多くの情報がある(同 URL「消費者保護」「刊行物」
「ADR」の項
を参照)。連邦取引委員会(FTC)のワークショップ「ボーダーレス・オンライン市場のための裁判外紛争処
理」http://www.ftc.gov/bcp/altdisresolution/comments には、消費者取引や裁判外紛争処理に関連す
る消費者団体・専門家によるコメントや提言が多数ある。
49
http://www.abajournal.com/magazine/2007/10 “Settling it on The Web”, by Jason Krause
50
European Commission: US National Report – 15 November 2006, p.9
51
European Commission: US National Report – 15 November 2006, p.9
48
53
Groupware and Customer Relationship Management Suite)では、紛争当事者がオンラ
イン紛争解決システムを全部、自分たちで作りあげられるようにしている。すなわち、
事件書類をオンラインで処理し、当事者全員間で共有し、完全な秘密保護を提供するこ
とによって、これを実現しているのである。ウィキ52やホワイトボードのような既成の
手段を用いることによって、紛争当事者たちは、情報を共有し、議論を行ない、共同で
書類を作成することができる。さらには合意達成までも、オンラインで実現することす
らある。
4. 合意書への署名
2000 年の連邦電子署名法の発効以来、電子書類および電子署名は法的に有効なものとし
て認められている。ID 認証に関しては、ニューヨーク市消費者行政局においては、当事
者たる企業が当局から営業許可を受けており、所管官庁がすでに認知している企業なの
で、問題は生じていない。
3.3.7 国際取引について
クロスボーダーの紛争 ADR(仲裁)については、BBB では電話での苦情申立てを受け付
けているので扱うことは可能である。審問の前に証拠提出を義務付けており、審問では両
当事者は代理人を立てることができる。実際の紛争において、これまで BBB はほとんど北
米でしか活動をしておらず、それ以外の地域の企業は会員でない場合が多く、BBB は営業
許可の取消や除名などという手段による影響力を発揮できないので効果的ではない。2005
年には北米以外の初の組織であるルーマニアの BBB に営業許可を与えた。しかし、一般的
に、BBB の調停においては、両当事者本人の出席を求めており、クロスボーダーの紛争解
決には向かないと思われる。
4.
仲裁人・調停人の教育・育成53
行政型:
一般的に仲裁人・調停人は十分な訓練を受け豊富な実務経験を有する者が多い。政府官
庁が専従の中立人を雇用していない場合には、紛争当事者に民間の中立的第三者の名簿を
渡すのが一般的である。これら民間の中立的第三者は、教育・訓練は十分に受け関係分野
の知識を持つ者で選抜された者たちである。
司法型:
連邦の ADR 制度においては、調停人は、大抵は連邦訴訟の特定分野における豊富な経験
52
「Web ブラウザから簡単に Web ページの発行・編集などが行なえる、Web コンテンツ管理システム。Wiki
は、内容の編集・削除が自由なこと、基本的に時系列の整理を行なわないことから、誰もが自由に「記事」
を書き加えていくコラボレーションツール、もしくはグループウェアと言える。」
http://e-words.jp/w/Wiki.html
53
Peter Lovenheim and Emily Doskow, ‘Becoming a Mediator’ Nolo, 2004, Berkeley, CA, at 3/7-3/10/
www.nolo.com.参照。
54
を積んだ民間の開業弁護士である。州や地方レベルの ADR 制度では、調停人たちは、裁判
所で働く弁護士か、または民間の事務所で開業している弁護士であることが多い(彼らは地
元の弁護士会や、他の調停者紹介サービス業者を通じて見つけることができる。調停者紹
介サービス業者とは、たとえば、行政または民間の消費者団体など)。また、外部の有給の
請負業者である場合もある。
州および地方レベルの裁判所 ADR 制度の多くは、調停サービスの大半を、地域の調停センタ
ーを通じて提供している。これら地域の調停センターの調停人は、特定の専門分野を持たないボ
ランティアであることが多い。ニューヨーク・コミュニティ紛争解決センター(CDRC)の認定調
停人は、まず、州 ADR 室による認定を受けた講師が指導する、30 時間の調停研修を修了し
なければならない。つぎに州 ADR 室の許可を受けた研修プランにもとづく見習い研修を修
了しなければならない。さらに、毎年最低 6 時間の継続教育を修了しなければならない。
特殊な事件のためには、上級の研修も行なわれている。
少額裁判所を構成する有資格者は、任命された判事、法廷コミッショナー、または然る
べき研修を受講したあと判事代行に任命された開業弁護士である。
民間型:
民間の大企業の大半、そして中小企業でも、その多くは、紛争調停人名簿を持っている。
これらの名簿に掲載されている者が、どの程度、調停の訓練を受け、技能を有しているか
は、千差万別である。元裁判官や開業弁護士であったり、不動産や建設業といった特定分
野における専門家であったりする 55。また、一つの ADR 組織に専属の者もいれば、複数の
ADR 組織をかけもちしている者もいる。一部の企業では、ある ADR に固有の教育や訓練を
提供している。米国法曹協会(ABA)、 AAA、 BBB といった、民間の大手 ADR 提供機関の大
半は、それぞれ独自の研修制度を備えている。たとえばニューヨーク州紛争解決協会のよ
うな、一部の組織では、ADR 実務を行なうために必要とされる包括的な認証・倫理・行動
規範の制定について、現在作業中である。
ABA は一般向けのサービスの情報源として ADR 研修提供者のデータベースを構築してい
る 56。
5. その他
最後に、最近の動きや議論されている重要な問題点を挙げておく。
55
ロサンゼルスにおける事例の研究について、
http://www.rand.org/pubs/research_briefs/RB9020/index1.html を参照。
56
http://www.abanet.org/dispute/adr_training.html
55
1) 米国における ADR の実務を統括する、州全体あるいは国全体の統一基準といったもの
は存在しないので、消費者にとっては、自分の必要をもっとも良く満たしてくれる ADR
のタイプを選択し、提供されるサービスの質を評価することは、ときによっては難しい 57。
したがって、現在、多くの組織では、基準となる規則や手続、それにプロトコル、認証制
度、倫理規範などを作成する作業に取りかかっている。
2)
2007 年 12 月に、AAA は消費者適正手続プロトコルの基本原理に基づいて適正手続の
法制化を推進するため、合衆国上院に声明書を提出した。それによると、1923 年の制定
された連邦仲裁法 (FAA)は、米国における非常に広範な仲裁活動に供する法律であり、最
高裁や各裁判所の判決によって、具体化・精緻化されてきており、多くの B to B や B to
C その他の仲裁において、良好に機能してきており、また国際基準とも合致しているので、
消費者仲裁手続のための法制化は、連邦仲裁法 FAA を修正するものではなくて、それを補
足する立法によるべきである、と述べている 58。
3)
調停は法律家が行う法実務ではないが、法情報に関わる議論を伴うことがしばしばあ
る。こうした理由から、これまで調停人たちに対して、無許可で法実務を行なっていると
の非難が向けられることがしばしばあった。ADR を完全なものにするためには、ADR に従
事する中立的第三者が高水準の訓練を受ける必要があるばかりではなく、各専門分野間の
違いを明確化するような教育プログラムもまた必要である(ニューヨーク州紛争解決協会
ホームページ)59。
4) 消費者 ADR に関わる大きな論点は、消費者たちがその存在を知らないことが多い、消
費者契約における、重要な法的権利や法的救済方法を放棄させる内容を含む拘束力のある
義務的な仲裁条項の使用についてである。消費者保護活動家たちは、このような条項の使
用に強く反対している。州によっては、消費者保護立法を通じてこの問題に対処しようと
してきたところもあるが、裁判所は、連邦仲裁法やその他の連邦法が、そうした州法に優
先すると解釈してきたため、連邦仲裁法本来の立法趣旨とは逆に、現状では消費者たちは
自分たちの意に反して仲裁を強いられている。ここ数年の間に、統一仲裁州法改正案、全
国消費者センターによる統一仲裁法改正案など、こうした状況を改善するような法律を作
ろうという試みがいくつか見られる 60。
57
FTC Website には、消費者にとっての正しい ADR プログラムの選び方に関するチェック項目を掲載して
いる。www.ftc.gov/bcp/edu/pubs/consumer/general/gen05.shtm
58
Arbitration Fairness Act の法案は 2007 年 12 月に米議会審議され、現在はペンディングになってい
る。この AAA の声明書は法案審議のための参考意見として出されたもの。
http://judiciary.senate.gov/print_testimony.cfm?id=3055&wit_id=6825
59
www.nsrda.org
60
個人の人権保全と強制的仲裁制限に関する NCLC モデル州法、および FAA と州法との関係に関する分析
は、http://www.consumerlaw.org/issues/model/index.shtml and NCLC’s Consumer Arbitration
Agreements (2d ed., 2002)。
56
5) ADR 条項、および ADR 条項が裁判権に及ぼす影響に対して消費者がはたしてどれだけ認
知しているかという問題点以外にも、消費者分野において注意に値する事柄は多数ある。たとえ
ば以下のものが挙げられる。ADR 制度に関する情報へのアクセス、調停人および仲裁人の独立
性および公平性、手続の質および中立者たちの力量、ADR 手続の費用、立地条件ならびに時
間枠、代表権、仲裁審理の根本的公正さ、情報の入手方法(発見)の難易度、救済策の性質と
範囲、仲裁裁定書の司法審査の幅、などである。もう一つ気になるのは、企業的 ADR 提供機関
の役割、およびそれら企業的 ADR 提供機関が事件をたびたび ADR 提供機関に提訴するような
ある種の企業との間に有する関係である 61。
61
www.bNet.org
57
A
ニューヨーク州消費者保護委員会
New York State Consumer Protection Board*
Christine Rogers
1.
概要
消費者保護委員会(The Consumer Protection Board :略して CPB) は、ニューヨーク
州議会によって 1970 年に設置され、州内で最も権限のある消費者のための監視機関ならび
に「シンクタンク」として活動している。
CPB の主要な任務は、悪意のあるまたは疑義の多い商取引や製造物のリコールを公表す
ることによって、ニューヨーク市民を保護すること、そのための調査や審問を行うこと、
迷惑電話拒否法(Do Not Call Law)の執行、問題事案の調査研究、法制化の促進、消費者
教育のためのプログラムや教材の開発、消費生活から生じる個々の苦情に対して、自発的
な同意に至るよう配慮して対処すること、公務委員会(Public Service Commission:略し
て PSC)および他の州や郡の行政機関に対して消費者の利益を代表すること、等がある。
消費者保護委員会(CPB)の構成と職務
ニューヨーク州消費者保護委員会(CPB)は執行法(Executive Law) 552 および 553 の
規定に従って 1970 年に設置された。消費者保護委員会(CPB)の任務は、消費者の保護と
教育にかかわり、また消費者を代表することである。そのために CPB には 3 つの主要な事
務局、すなわち部がある。
1)アウトリーチ・プログラム開発局(The Outreach and Program Development Bureau:略
して OPD))は広汎的な消費者教育プログラムの開発をし、個人情報の漏洩、インターネットの
安全性、クレジットカードの管理、家のリフォーム等の問題に関するパンフレットの作成を行
う。この部局は消費者支援部門(Consumer Assistance Unit:略して CAU) の任務も兼務して
おり、苦情の受付を、
週に 5 日午前 8:30~午後 4:30、無料の電話相談(Tel. 1-800-697-1220)、
また 24 時間ウェブサイト(www.nysconsumer.gov.)を通じて行っている。CAU は、年に 2
万件以上の、製造物の返品や返金、クレジットカードに関する紛争、インターネット・サ
ービス、家のリフォームや個人情報の漏洩などに関する苦情を仲裁したり解決したりして
いる。
* NYS CPB の議長 Mindy A. Bockstein 氏より、2008 年 4 月 26 日、比較法研究センターが研究のた
めに使用することの承認を得ている。
* 本報告書の情報は、NYS CPB の公式ウェブサイト(www.consumer.state.ny.us )および 2008 年 4
月 10 日に行なった Ms. Lisa Harris 氏(Deputy Executive Director and General Counsel, ニ
ューヨーク消費者保護委員会(New York State Consumer Protection Board, 5 Empire State Plaza
Ste. 2101, Albany, New York)とのインタビュー取材に依拠する。
58
2)相談・政策・調査局( The Counsel, Policy and Research Bureau)は、ニューヨーク
州の 迷惑電話拒否法の執行や、セキュリティ侵害告示(Security Breach Notification)
が CPB に適用される場合、その運用や、立法プログラムの実施、調査の実施、政策の研究、
州や郡の消費者問題についてのコメントの発表、公聴会の実施、郡および地域の消費者保
護団体との連携などの、当委員会の法的な機能に関する業務を行っている。また、当部局は
広報部門(Public Information Unit)を抱合しており、メディアとのパートナーシップを維
持し、広報を発行し、CPB から消費者へのメッセージや警告を出す、等の任務を負う。2006 年
には、ニューヨーク消費者保護協会は、州の“迷惑電話拒否登録制度”(“Do Not Call”
Telemarketing Registry)を導入し、この制度により、新たに 130 万件のニューヨークの
電話番号が国の登録簿に記録された。具体的に、CPB は、58 の電話勧誘業者と和解に達し、
35 万 US ドル以上の罰金を徴収することにより、消費者からの苦情に対応した。
3)公益事業・電信電話・新技術局(Thu Utility, Telecommunications and New Technologies
Bureau)は、公共事業関連の事案について、公共サービス委員会(Public Service Commission:
略して PSC)より前に、消費者に代わって仲裁に入る。この部局ではまた、Long Island Power
Authority (LIPA)に関する消費者からの苦情は PSC では受け付けてもらえないので、これら
の苦情に対応している。さらに、当部局は、有線や無線の電信電話通信ならびにラジオの周
波数、衛星およびブロードバンドのコミュニケーションシステム等の新しいテクノロジー
に関する事案をも扱っている。
消費者保護委員会(CPB)は、新しい分野の消費者問題や様々なツールを使用する問題
にも焦点をあて、これらの問題点を分析し、その守備範囲を広げてきている。加えるに、
職員は消費者からのより多くの苦情を仲裁し、解決に導いてきている。2007 年の上半期に
は、製造物の返品から電話サービスに至るまで、およそ 4 千件の苦情を受け付けた。州の
消費者問題シンクタンクとして、CPB は公私ともに、より強固なパートナーシップを築き、
政策開発をすすめ、より賢明な消費活動のために必要とされる多くの情報や手段をニュー
ヨーク市民に提供してきている。
<以上、NYS CPB の公式ウェブサイト(www.consumer.state.ny.us )に拠った>
2.
活動の詳細
2.1 消費者からの苦情の記録の公開と連携
ニューヨーク州 CPB は、ニューヨーク州知事によって任命された議長ならびに理事であ
る Mindy A. Bockstein
氏に代表される。1996 年の執行令(Executive Order) number 45
により、議長および理事は本委員会のすべての権限と義務を有する。
本委員会に関する規定は、ニューヨーク州一般事業法(General Business Law) の
59
550-553 に定められ、これに CPB の権限と義務が詳述されている。
これらの権限と義務の中で、CPB は以下の任務を負っている:
1)
四半期ごとに報告書を作成し、州知事、議会議長ならびに 上院与党の党首に提出
すること。この報告書には、主に、その四半期の間に当委員会に寄せられた苦情の分類
と数が、消費者の保護のために新たな法律の必要性を求めるに至った詳細な理由ととも
に報告されている。さらに、以下のような項目に従って、主だった苦情・質問が詳細に
分類され、報告されている:
迷惑電話拒否法、事業慣習、クレジットカード、オンラインサービス、製造物、中古車、
家のリフォーム、行政サービスならびにその機関、通信販売、電話等;また、電話、オ
ンラインフォーム、郵便、ウェブマスター、ファックス、スペイン IVR 等の受付方法の
違いによる苦情の量的分析;消費者が得た金額の分析;郡ごとの苦情量;消費者が回避
できた金額;新規のプロジェクト;消費者の苦情を解決に導いた成功事案例、など。
ニューヨーク州立では 87 の消費者保護機能をもつ機関があるが、それぞれの処理手続
きは個々独立したものであり、さらに、それぞれの郡にもそれぞれの機関があり、これら
には統一性がない。これらの機関の報告・データベースシステムについても、別々のもの
を使用しているので、相互の連携を図るには非常に非効率なものにしている。ニューヨー
ク S CPB 議長は連携を図ろうと試みてはいる。しかし、消費者苦情取り扱い機関とその解
決方法について情報を共有しうる共通の公開・DB システムがない。
日本政府は、これから新しい ADR 提供プログラムを立ち上げていく場合、すべての ADR
提供機関に共通の報告システムの活用を推進することで、より効率的な連携を図ることが
できるであろう。各機関相互の連携が円滑で、効率のよい情報交換が行われれば、複数の
苦情の申し立てを受けている事業者の特定がより容易になり、法の実施に貢献するものと
思われる。例えば、ある会社に対する消費者から苦情の申し立てがある機関になされた場
合、もしかすると別の機関が当該事業者が州からの認可を受けてない情報を把握しており、
また、第三の機関が,当該事業者が税の滞納をしていること示す記録を持っているかもしれ
ない。
2) 消費者からの苦情を受け付け、その苦情に対し相応した対応を取るために、法的権
限のあるしかるべき郡や州または地域の機関に照会すること。
これは、異なる行政レベルの消費者保護機関の相互の連携を保つ一つの方法である。ニ
ューヨーク州 CPB
はあらゆる種類の消費者問題を受け付け、あらゆる事案の仲裁を試み
る一方で、また、特殊な事例の場合は、よりふさわしいと思われる地方や州または郡の機
関に照会することもある。
60
2.2 ニューヨーク州 CPB
仲裁サービス
上述されたように、CPB の消費者支援部門(Consumer Assistance Unit:略して CAU)
は無料電話やウェブで受け付ける。事業者がニューヨーク州に事業所を置いている限り、
あらゆるタイプの苦情を受け付ける。6 名の CAU の職員が紛争解決のための調停を行なう。
調停不調の場合、その事案は州、地方、または連邦レベルの別の機関に移送される。
消費者保護委員会(CPB)は迷惑電話拒否法 (General Business Law, s. 399-z) とモ
ーター燃料市場慣行法 (Motor Fuel Marketing Practices Act, s.580)により執行の権
限を付与されているが、召喚権限などの法的根拠となるほかの執行権限がないので、消費
者 ADR としての活動は調停に限られる。
CAU は毎年 20,000 件の消費者紛争を解決しており、100 万ドルを超える金額について消
費者の損害を救済している。仲裁手続きは法の執行力を有さないが、非公式な手続きです
み、年に何千もの苦情を処理するのに有効である。また司法手続きと比べて、廉価、迅速
である。
調停手続きは、苦情が受理されると相手方事業者に文書が送達される。CPB は上述した
ごとく一部を除き権限はないが、事業者からの回答率および遵守率は高い。このことは、
州政府の用箋で苦情送付がなされるので、消費者から直接に手紙が送られるよりも、より
公式で権威的な印象を与え、より従わねばならないとの説得力をもつように感じられるこ
とが一因であろう。しかし、ADR 主宰者にもっと執行権限与がえられていれば、ADR サービ
スはもっと効率的なものになるであろうとも言われている。
この無料の一対一でのサービスに対する消費者の反応は大きい。CPB は消費者にこのこ
とを周知してもらうことが大事であると考え、一般の人々向けにラジオ・バス・テレビで
キャンペーン広告を行なっている。
仲裁は技術的には公開されていないが、情報公開法の下で市民は苦情の種類や性質、な
らびに苦情の対象となった企業名に関する情報の入手が可能である。
CPB の仲裁人は特別な仲裁教育を受けておらず、むしろ仕事をするうちに学んでいくこ
とになる。現在の職員のほとんどが長年 CPB で働いている。新しい調停員は職場で 1 年間
訓練を受け、その後、自分で事案を受け持っている。調停員の職務は両当事者を合意に至
るよう支援することで、法的なアドバイスを与えるものではない。
61
B
New York City
ニューヨーク市消費者行政局
Department of Consumer Affairs(DCA) ∗
Christine Rogers
1.概要
背景および任務: ニューヨーク市は、消費者行政局(以下、ニューヨーク市 DCA)を 1969
年に創設し、ニューヨーク市 DCA は消費者や事業者の権利および責任などの事項を主に扱
う米国初の市機関となった。その唯一の目的は、消費者や事業者が公正かつ活気に満ちた
市場の恩恵を受けることにある。
ニューヨーク市 DCA の役割の概観:
1. 消費者の苦情を調停し、解決を図ること。
2. 高い公正性と公に対する説明責任の順守を確保するため、55 の事業種の営業許可
(licensing)を行い、現場の監査を実施すること。
3. ニューヨーク市消費者保護法ほか、関連した市法・州法を執行すること。
4. 消費者および事業者に対し、様々な公的プログラム、ニューヨーク市 DCA ウェブサ
イト、数ヶ国語で書かれた発行物を通じて権利や責任に関する教育を実施すること。
当局は、消費者保護を目的とした立法を推進し、その支援のため連携を進めていく。
5. 違法行為を行う事業者に対して、提訴し、行政審判を実施すること。
法の執行: ニューヨーク市 DCA により執行されている法律は、以下の通りである。
1. ニューヨーク市消費者保護法(NYC Consumer Protection Law):消費財・サービス
取引を行う際、公正を欠く、または不公正となる「可能性のある」取引慣行を禁止
し、消費者債務の回収に際した適切な手続きを提示している。
2. ニューヨーク市ライセンシング法(NYC Licensing Law)
:55 の事業種に適用され、
ニューヨーク市 DCA が事業者を把握し、消費者の苦情がある際の直接介入すること
が可能となっている。
3.
ニューヨーク市度量衡法(NYC Weights and Measures Law):いかなる品目も正し
い度量で販売しなければならない、と規定している。
4. 当局はまた、市の消費者保護法を通じて、あるいは連邦法・州法に基づいた権限委
譲により、連邦法および州法を執行する権限を有する。
こうした法に違反した事業者は、罰金・制裁措置等の罰則を科せられる。
∗
本報告書中の情報は、http://www.nyc.gov のウェブサイトおよび 2008 年 2 月 26 日に実施されたニュー
ヨーク市 DCA 法務顧問マーラ・テッパー氏へのインタビューに基づいて作成するものであり、同局による
公式レポートではないことに留意されたい。
62
紛争解決サービス: ニューヨーク市 DCA は、毎年何千件もの消費者苦情を処理している。
同局の法域内に苦情が入った場合、消費者・事業者間で電話による調停を実施している。
調停により問題が解決できない場合は、行政審判に進み、同局の行政審判官がその事案の
審判を行う。適当と認められる場合、同局の法規課が、消費者に詐欺を働く事業者に対し
て訴訟を進める。事案によっては、少額裁判所で審理される可能性もあり、その場合、訴
訟対象額の上限は$5,000.00 である。少額訴訟の被告がニューヨーク市 DCA によって営業
許可を受けた業者である場合、その企業が契約を遵守せず消費者に代金などを返還しない
場合などには、ニューヨーク市 DCA は債権の回収手続を開始するなどの支援をすることが
可能である。同局規則によると、営業許可を受けた業者はすべて、自らが「エントリー」
された後 30 日以内に未払いの支払い命令につき支払をなすこととなっているが、本規則は
同局から営業許可を付与された事業者にのみ適用されている。同局から消費者に対して、
上記の各手段を用いての苦情処理方法に関する情報が提供されている。
ニューヨーク市 DCA は、同局の扱う事業種の中でも最大で、高額の苦情を伴う事業種で
あるリフォーム請負業種について、特別のプログラムを実施してきている。この分野の事
案の電話での調停は難しいため、同局はリフォーム請負業者ファンドを設立し、リフォー
ム請負業者は、営業許可の取得時、および更新時に一定の金額($200)を支払うこととし
ている。このシステムにより、リフォーム請負業者の債務不履行や不払いがあった場合、
同局はファンドから損害を受けた消費者に対して最高$15,000 の補償を行う。しかし、リ
フォーム請負のケースの訴訟は特に件数が多く金額も高くなるとも考えられ、このような
ファンドを維持することが必ずしも他の消費者苦情分野についても適切であるとも限らず、
この手法が適用できるとも限らない。
ニューヨーク市 DCA の扱う消費者訴訟の領域: ニューヨーク市 DCA は、同局から営業許可
を受けた事業者や他事業種(不動産を除く)について、消費財・サービスの販売、リース、
レンタルもしくはローン(貸付)にかかわるケースについて、苦情を受けつけている。行
政審判は営業許可が付与された事業種にのみ適用される。同局は、虚偽・詐欺の「可能性
のある」行為や慣行の禁止の追加を盛り込み、1969 年改正のニューヨーク市消費者保護法
の執行によって、幅広い訴訟に対する権限を有している。この法改正により、立証基準が
変更され、消費者保護のために事業者に対する未然防止策をとりやすくなった。
ニューヨーク市 DCA は、以下の苦情については調停を行わない:
-
事業者間の苦情
-
ニューヨーク市 5 区外の業務に関する苦情
-
発生後 3 年以上経過した問題に関する苦情
-
オンライン(ネット)・オークションに関する苦情
-
消費者の自宅で行われた電気系統および配管作業に関する苦情
63
消費者がニューヨーク市 DCA の規制を受けない業種に対する苦情を持ち込んできた場合
には、同局は消費者に対して適当な機関への連絡手段に関する情報を提供している。苦情
の内容同局の管轄領域外であることもある。例えば、ID 窃盗を伴う苦情であれば FTC(連
邦取引委員会)に、また刑事問題であれば地区検察局に引き継がれることがある。
ニューヨーク市 DCA は毎年平均 300 万ドル の消費者補償を請け負っている。この補償
の半分以上は、調停により解決した訴訟に依拠し、残りは法的活動によるものである。
苦情解決の実績:
ニューヨーク市 DCA は、裁判制度であれば、それに要する時間や経済的負担、弁護士を
使わずに法的措置をとる方法がわからない等の消費者の知識不足などの理由で、自分では
調停をすることができない消費者苦情の調停し、毎年何百万ドルもの損害金の返還をさせ
ている。調停プロセスはより迅速で、費用もかからず、通常、事業者が消費者と良好な関
係を維持できると共に、その後の訴訟を妨げることもない。
ニューヨーク市 DCA の主な業務は事業者の市場における公正性と説明責任を確保するた
め、許可と監視業務を行うことにある。このため、消費者からの苦情は迅速かつ効果的に
受理され、当システムで処理され、解決に導かれねばならない。同局がこのために採って
きた手段の一部は以下の通りである:
-
市内の消費者にとって、知名度が高いニューヨーク市消費者サービスセンター電話
番号 311 番を通じて苦情を受け付け、消費者に苦情の申し立ての迅速かつ容易な手
段を提供すること。
-
効率的な苦情処理のインフラを整えること。インフラ整備には、消費者にとってわ
かりやすい苦情申立用紙の導入や、同局スタッフが苦情の受理情報や必要書類の作
成が調停に進む前段階で完了していることを確認する審査システムの整備が含ま
れる。
-
専門的マネージャーが調停システムの管理を行うこと。担当マネージャーは、弁護
士ではなく規約(プロトコル)を活用することで事案解決のスピード化を図ること
に専心する。弁護士には、業務管理を任せるのではなく、法的問題の専門家として
の役割を期待すべきである。
ニューヨーク市 DCA は、営業許可機能という面で他の消費者機関とは区別されており、
その機能により、消費者と事業者間の公正なバランス維持を目指すという立場によってそ
の信頼性が高まっている。営業許可を受けた事業者は、同局の監視下にあり、消費者に対
して公正を保たねばならず、公正が維持されない場合にはニューヨーク市内で事業を行う
資格を失う恐れがあることを理解している。
ニューヨーク市 DCA は 2007 年に業務の変更を行い、苦情受理数の大幅な増加にもかか
64
わらず、苦情処理にかかる時間は著しく改善された。さらに、同局の裁定による消費者へ
の返還金額が 2007 年には著しく増大した。これらは主に、リフォーム請負業界における、
契約、写真、領収書等の必要証拠書類が消費者の損害賠償請求の際に提出されているか確
認を怠らなかったという努力の成果である。2007 年にはまた、紛争解決の結果として徴収
された罰金も増加した。ニューヨーク市 DCA は ADR プログラムを、訴訟の前段階の、消費
者問題解決のための「業務」システムと位置づけている。
2.
ADR 手続の内容
ADR 手続開始:
苦情の多くはニューヨーク市の市民サービスセンター電話番号 311 番(非
緊急政府情報・サービスを提供)を通して受けられており、ニューヨーク市民の知名度の
高い 311 番のオペレーターが最初の苦情電話を受け、適切な機関に引き継ぐ。
調停:
消費者が事業者に対して苦情を申し立てようとする際、インターネット上で、もしくは
ニューヨーク市 DCA 消費者苦情用紙をダウンロードして、苦情について詳細な説明を行い、
申し立てることができる。その後、同局スタッフがそれに目を通し、当機関の管轄内の事
案であるか、また、内容の記載漏れがないか判断する。漏れがないとされれば、同局はそ
の苦情事案に「事件整理番号」と呼ばれる事案番号および調停担当者を割り当て、同局に
よる調停プロセスが開始される。漏れがあり不十分であるとされた場合には、消費者に領
収書、契約、売渡証、支払い済み小切手、保証書等の裏づけ資料の提供を同局が求める。
そして、同局は事業者に連絡の上、訴状の写しを提供し、20 日以内の書面による説明を求
める。消費者と事業者双方からの情報を照合し、調停人は合意を引き出して問題を解決す
るよう努める。問題が解決できない場合、同局の行政審判官が事案を審理するか、もしく
は同局が少額裁判所に委任する。
行政審判:
ニューヨーク市 DCA が事業者を違法行為で摘発した場合、事業経営者は行政審判の通知
を受け取る。行政審判では、事案にかかわる関係者が審理の対象となる。事業者はその後、
紛争解決担当者(Settlement Officer)と面会し、罰金を支払うか審理に出席するか、とい
う選択肢を与えられる。多くの場合、郵便により解決することも可能であり、ニューヨー
ク市 DCA に足を運ぶこともない。同局の和解担当者と面会した後、もしくは、審判官と言
葉を交わした後、和解を選ぶ当事者もいる。このような場合、当事者らは、各当事者の責
務を規定した文書による和解の合意に入る。いったん合意書に署名した事業者が、その後
合意内容に従わなかった場合は、追加の罰金、さらに/もしくは、ライセンスの一時停止・
取り消しの対象となる。
主な手続規則:
65
調停:
ニューヨーク市 DCA 調停は電話でのみ実施されている。架電数の増加が成功率に比例し
ないという追跡データがあることから、調停担当者の架電数には枠が設けられている。調
停により苦情が解決しない場合、少額裁判所に委任されることがある。営業許可が供与さ
れている事業者にかかわるケースであれば、同局内の行政審判所に引き継がれることもあ
る。裁判所に持ち込まれたケースの一部については、同局の行政審判所は告発内容の草案
を消費者に無償で作成することも可能であるが、その場合、消費者の代理人を務めること
はない。
ニューヨーク市 DCA から営業許可を受けていない事業者に対する苦情を受けた場合でも、
調停を進めるよう尽力するが、事業者からの協力を得るための影響力は行使できない。た
だし、特定の事業者に対する苦情が続く場合、同局は、被害を受けた消費者全員に代わり
(集団代表訴訟に類似)その事業者に対して法的手段を取ることもある。
行政審判:
ニューヨーク市 DCA の行政審判は、非公式に行われる手続きであるものの、同局の公開
の規則・規定に従って行われる。審理は、行政審判官により進められ、行政審判官は全関
係者から証言等の証拠を得る。各当事者は自分の側の話をするとともに、相手側の証人の
反対尋問を行うことが認められている。審判官は、各証人について質問をすることが許さ
れている。行政審判は、公聴会であり、オーディオテープに公式に記録される。審判官は、
法律や法廷規則(courtroom decorum)などの基本ルールに従って審理を行うが、証拠につい
ての形式規定の利用は義務付けられていない。当事者は、審理において代理人を立てない
という選択も可能である。当事者が証拠開示手続きを請求することも可能であり、その場
合相手方は審理に呼ぶ予定の証人の氏名、および提出予定の文書を送付せねばならない。
すべての証拠について審理と再検討を行った後、審判官は文書で結論を出し、その内容は
全当事者に郵送され、インターネット上 http://www.citylaw.org/city/admin.php に掲載
される。審判官の決定の全体あるいは一部を不服とする者は、不服申し立てを行うことが
できる。審理決定を受けてから 30 日以内に不服申し立てがない場合、その決定が最終結論
となる。その後、決定に対する不服申し立ての再審理請求がある場合は、ニューヨーク民
事手続法規則第 78 条の手続きに基づき、ニューヨーク州最高裁判所に持ち込まれる。
救済: 調停決議案 は、当事者間の合意により決定される。行政審判に従い、事業者は罰
金を科せられる可能性、さらに/もしくは、ニューヨーク市 DCA ライセンスの一時停止ある
いは取り消しとなる可能性がある。
コンプライアンス: ニューヨーク市 DCA は違反のあるライセンス事業者に対して債権の回
収措置をとり、ライセンスの停止もしくは取り消しを行うことができる。同局の消費者苦
情について出した結論に対するコンプライアンス・レベルは高い。
66
費用:ニューヨーク市 DCA の調停および行政審判手続きに際して、消費者側の金銭的負担
はない。行政裁判所の判決に上訴する場合、控訴費として 25.00 ドルの負担がある。
期間:ニューヨーク市 DCA が消費者苦情を受けると、事業者に連絡、苦情内容の写しを提
供し、最高 20 日以内に文書での説明を求める。実際には、同局はより迅速に回答を得るよ
う努めており、その努力の成果も出ている。調停は通常、数回の電話で決着する。
守秘義務:
情報自由法により、ニューヨーク市 DCA の紛争処理議事録が極秘となること
は不可能である。電話で過去の紛争に関する情報を得ることはできるが、同局が特定の消
費者についての情報を開示することはない。行政審判は公開・記録され、決定はインター
ネット上に掲載されている。
所轄官庁: ニューヨーク市 DCA の 調停担当者は、通常、調停技術について教育を受けて
入局するわけではなく、むしろ実際の仕事を通して経験を積んで技術を身に着けていく。
同局は大量・かつ広範な調停案件を受けており、調停担当者は実践的経験を多く積むこと
ができる。同局は最近、法律専攻ですでに調停に関する教育を受けている学生のための専
門相談プログラムを開設した。こうした学生の大部分は、事案の解決と消費者への損害金
の返還をさせるという面で実績を上げている。調停担当者は、問題について話し合い、知
識をわかちあうため、週に 1 度集まっている。同局は特定の専門対象分野に調停担当者を
限定することはない。調停担当者が、幅広い問題を扱うことを許されているほうが、より
効果的に役割を果たし、
「燃え尽き」も軽減されると考えられているからである。調停担当
者は弁護士の直接の指揮下にはないものの、同局は法規課を有し、調査も法的サービスも
提供し、影響力の高い訴訟を扱っている。法規課におけるトレーニングには、調停トレー
ニングも含まれている(弁護士の指揮・調停担当者の管理については上記「実績」欄を参
照のこと。)
ニューヨーク市 DCA の行政法審判官は同局の規則に通じており、公正性および不偏性を
守る責任を担っている。
オンライン ADR: ニューヨーク市 DCA は現在、より充実したオンラインサービス技術を提
供できるようなインフラを獲得しつつある。現在オンラインによる営業許可付与機能の統
合に取り組んでいる。
現時点における課題:
1. ニューヨーク市は現在、311 番(電話)を通じて提供されている情報より豊富な情
報を必要としている消費者のため、E211 番の開設に取り組んでいる。
67
2. ニューヨーク市 DCA による真の ADR サービスは唯一電話による調停である。同局に
は営業許可の付与という側面により、行政裁判所も備えており、それは大部分の行
政機関と異なる部分である。調停と裁判所の裁断的機能の間に、仲裁のような中間
的な ADR 手続きを設ける余地があろう。
68
C
ビジネス改善協会協議会
∗
Council of Better Business Bureaus (CBBB)
Christine Rogers
1.
概要
ビジネス改善協会協議会(CBBB) (カナダでは CCBBB)は、北米のビジネス改善協会(BBB)
全体を統括する全国組織である。CBBB は、各業界の代表的存在である約 200 の組織、なら
びに北米全域の 130 以上の独立系 BBB との間に、相互支援の関係を有する。この独立系 BBB
とは、各地域社会において、BBB 認定企業や消費者のために活動を行なっている団体であ
る。CBBB の理事会は、通常、地域の BBB 代表と全国的企業各社から成る。CBBB は、BBB 制
度によって提供されるプログラムやサービスを監督し、全国レベルの ADR サービスを管理
運営する。
BBB 制度は、民間の非営利組織であって、その財源はほとんど全てが、会員企業の支払う
会費によってまかなわれている。これら会員企業とは、市場における、一般市民との相互
関係について、BBB が定めた高い倫理水準を順守する旨、自発的に同意した企業である。
加入していない企業についても、BBB の基準を満たしているところには、加入するよう勧
誘をしている。そして、地域の理事会に紹介され、BBB 認定企業となるための資格審査を
受け、加入の適否を判断される。BBB は会員企業および非会員企業の背景について報告を
行なう。背景とは、たとえば、もしあるとすれば、その企業が過去に消費者から苦情を受
けた経緯などを指す。BBB は、300 万以上の地方および全国レベルの企業および慈善団体を
評価し監視している。また、BBB は、啓蒙的な消費者情報、出版活動、および ADR サービ
スを提供している。
背景および活動目的:1900 年代初期に初めて設立された BBB の、当初の目標は、詐欺まが
いの広告活動に対処することであった。この活動目的は、じきに拡張された。新たに含ま
れた活動目的とは、たとえば、業績を監視すること、企業活動に関する必要不可欠な情報
を顧客に提供することなどである。今日、BBB は、市場で起きる問題のほとんどは、自発
的な自己調整によって是正されうるという信念に基づいて活動している。BBB の活動目的
は、消費者のなかに信頼感を浸透させ、誰からも信頼される、倫理にかなった市場の形成
に寄与することによって、企業と消費者とのあいだに、誠実で迅速な対応をする関係をは
∗
このリポートに掲載されている情報の入手元は、つぎのとおり:ビジネス改善協会(BBB)公式サイト
www.us.bbb.org 、ビジネス改善協会協議会の副顧問リチャード・ウッズおよび顧問弁護士ジェニファー・
グリーンの両氏に対して、2008 年 2 月 8 日に行なわれたインタビュー)、ならびに欧州委員会(European
Committee)による US National Report(2006 年 11 月 15 日)の 2.1 BBB Dispute Resolution Services
(http://ec.europa.eu/consumers/redress/reports_studies/28nationalreports.zip より閲覧可能)。
なお、本レポートは、作成後、リチャード・ウッズ氏の校閲を受けた。
69
ぐくむことである。
BBB の提供する ADR プログラムのうち主なもの:
BBB 制度には、たとえば以下のような ADR プログラムがある:
1)「自宅出張解決(Right at Home)」:このプログラムでは BBB の自発的調停ならびに
拘束力のない仲裁の制度を用いる。これにより、プレハブ住宅会社に、迅速で安価な紛
争解決方法を提供する。BBB は、顧客の自宅で行なわれる調停の話し合いを通じて、住
宅建築業者と顧客の双方と共同で問題に対処する。
2)「BBB オートライン(BBB Auto Line:オートライン)54」:BBB の紛争解決プログラムの
なかで最大規模のもの。BBB オートラインでは、専門家が消費者および関与している製
造業者の両者と緊密に協力して働き、自動車の保証をめぐる紛争解決の迅速化を図る。
2005 年に受理された紛争全 37,682 件のうち圧倒的多数は、仲介の審理に至らないうち
に解決された。受理された申立てのうち、正式な調停を必要としたのは、16%に過ぎな
かった。
3)BBB 引越し・保管プログラム(BBB Moving and Storage Program):このプログラムは、
引越し業者が州際通商委員会廃止法を遵守するのを助ける。州際通商委員会廃止法は、
仲裁サービスに関する条項を設けること、および州境を越えて家財道具を運搬する輸送
業者に対して、仲裁可能性を通知することを要求している。
CBBB の全国広告部門(The National Advertising Division of CBBB):この部門は、法
廷外で解決可能な全国広告に関する紛争について、これを解決するためのフォーラムを
提供し、政府による規制の必要を最小限に抑える。この部門は、裁判所や FTC の訴訟を
必要とすることなく、ミニ裁判形式の ADR を提供する点においてユニークである。
さらにまた、イーベイモータース、ヴェライゾン・ワイヤレス、ブリヂストン/ファイ
アストンなどの業界大手各社は、顧客との間の紛争解決手続を実施するために、BBB 制度
を利用している。
BBB の提供する紛争解決サービスの種別:
BBB 制度が提供する裁判外紛争解決サービスのなかには、たとえば、和解・調停・条件
付きで/全面的に、拘束力のある仲介などがある。CBBB が地域の BBB と協力して開発を行
なっている紛争解決プログラムは、さまざまな企業や業種の有する特定の市場的必要性に
応じて調整されたものである。全国レベルで見ると、CBBB は、大企業やその顧客に対して、
全国組織の紛争解決サービスを提供したり、BBB に対して和解・調停・仲裁、ならびに関
連した紛争解決テクニックについての専門的訓練を施すことによって、企業を支援してい
54
http://www.dr.bbb.org
70
る。一部の企業では、ある特定の性質を有する顧客紛争についてはすべて、まずは BBB の
紛争解決サービスを使用すると明言している。これに対し、他の企業では、BBB の ADR サ
ービスの使用が、もう少し限定的である。すなわち、会社の自前の顧客支援制度では問題
が解決できないかどうかに応じて、ケース・バイ・ケースで、BBB の ADR サービスを紛争
解決に役立てている企業もある。
BBB は設立以来最初の 70 年間、消費者紛争解決の方法として、和解サービスを提供して
きた。1970 年代に入ると、ADR サービスは拡大し、調停や仲裁をも含むようになった。し
かし、今なお焦点が当てられているのは、紛争の激化を回避すること、ならびに企業と消
費者のあいだに信頼と善意をはぐくむことである。和解は依然として有効な紛争解決手段
である。BBB が受理する申立ての大部分は、和解によって解決されている。仲裁手続にお
いてさえも、BBB は、仲介人が従来よりもっと積極的に参加するよう奨励している。BBB
は、独自の仲裁規則 (拘束力あり)、および非公式紛争解決プログラム (「自宅出張解決」)
を有する。BBB はまた「紛争前の拘束力ある仲裁条項の規制下にある、紛争のための拘束
力ある仲裁に関する規則」をも有する。BBB が独自の規則を起草したのは、企業が自社の
仲裁条項に BBB 紛争解決サービスに関する文言を書き入れる傾向が始まったころである。
もしも企業の仲裁条項が BBB の基準に合致するならば、BBB は仲介の管理執行を行なう。
仲裁人は、適用法の下で許可されている、いかなる救済方法を与える裁定を下してもよい。
ただし、当事者たちが、これは受け入れられないと、あらかじめ同意してあったたぐいの
裁定は、いずれも下してはならない。
さらにまた、BBB が提供している、インフォーマルな紛争解決サービスの一種として、
非公式紛争解決 (IDS) がある。IDS とは、マグナソン・モス保証法規則第 703 号の実施の
強制を認めた米連邦取引委員会の裁定に関連するものである。IDS のプロセスは、BBB の拘
束力のある仲裁の、規則・形式・手続に似ている。しかし、仲裁とは異なり、IDS の下す
裁定は「勧告」にすぎない。
「勧告」は当事者双方が受諾しないかぎり、当事者のいずれに
対しても、法的拘束力がない。これはつまり、どちらの当事者とも、この勧告を確認ない
し執行する目的で裁判に訴えることはできないということを意味する。とはいえ、顧客が
こうした目的を背景として提訴した場合、仲裁人の勧告は証拠として認定されることがあ
るであろう。
BBB によって処理される消費者事件の範囲:
BBB は、市場の問題に関連した消費者の申立てを処理する。市場の問題とは、たとえば、
商品の問題や企業のサービスなどである。BBB は、投資家、証券会社、あるいは個人の登
録代理人(=登録証券セールスパーソン)との、またはこれらの者どうしの、金融ないし
業務上の紛争は処理しない。BBB は、雇用紛争や、政府機関によって統御されている専門
家たちを相手どった訴えは扱わない(ただし、請求書に関わる申立ては、別である)。企業
が紛争解決の目的で BBB サービスを利用すると、あらかじめ明言している場合には、請求
71
や仲裁によって下されるであろう救済方法の種類が特定されることがしばしばある。
以下に掲げるタイプの紛争については、BBB は仲裁を行なわない。ただし、会社が事前
に確約した事項のなかに、参照するべく特に引用されているたぐいの紛争は別である。(し
たがって、重要なのは、会社が BBB を仲裁に使用すると事前に確約しているのは、どこま
での範囲の紛争であるかを、顧客が理解していることである)
また、仲裁人がその紛争を
扱ってもよいと、当事者双方が書面で同意した場合も例外である:
- 犯罪行為についての申立て
- 製造物責任に基づく申立て
- 人身被害についての申立て
- 取引に関わる商品またはサービスについて、欠陥や問題がなにも主張されていない場合
における申立て
- 以前の訴訟、仲裁、または当事者間に交わされた契約書によって解決されている申立て
ADR 利用に関する統計:
BBB 制度に関する報告によれば、BBB は消費者や企業の紛争を年に 100 万件ちかくも解
決するのに役立っている。米国の ADR 提供機関のなかでも最大の解決総数を達成している
かもしれない。2006 年には、米国とカナダの BBB に提訴された訴え全体についての平均解
決率は 72.2%だった。おなじ年に BBB が解決した市場紛争の数は、米国では 110 万件、カ
ナダでは 35,971 件だった。これらの紛争の大部分は和解によって解決された。調停および
仲裁による審理にまわされたのは 43,204 件だった。
申立てられた事項が決着したと見なされるのは、以下の各場合においてである。すなわち、
争点が和解によって解消された場合、会社が事態の解決のために公平かつ合理的な努力を
した場合、あるいは、事態が調停または仲裁によって解決し、当事者たちが裁定もしくは
和解協定を甘受した場合である。申立ては、以下のような事情・理由がある場合には未解
決と見なされる。すなわち、会社が申立てに反応しなかった、ないしは紛争解決のために
相応の努力を払わなかった場合、当事者の一方が仲裁裁定または調停解決協定を遵守する
のを怠った場合、あるいは会社の所在地を見つけられない、ないしは管轄上の理由により、
BBB が申立てを処理または追求できなかった場合である。消費者および企業からの申立て
のうち、BBB によって処理され決着がついたもののなかには、BBB 宛てに郵送されてきたも
のや、電話またはオンラインで申請されたものもある。
米国において 2006 年に受理された業種別申立てのうち、最も多いもの 11 業種は、つぎ
のとおり:
1. 携帯電話の通信会社および機器販売会社
2. 新車ディーラー
3. インターネット・ショッピング
72
4. 家具小売り
5. 銀行
6. 代金取立業
7. インターネット・サービス(=プロバイダ)
8. テレビ放送(ケーブルおよび衛星)
9. 電話会社
10. クレジットカード会社
11. 中古車ディーラー
成果:
- BBB 制度の ADR プログラムが成功をおさめているのは明らかである。ADR プログラムは、
消費者や企業が毎年 100 万件以上もの紛争を解決するのをサポートしている。BBB の ADR
サービスは、消費者の苦情をすばやく解消するための、使いやすくて廉価な方法である。
- 取引の当事者双方——企業と顧客——と協働することによって、BBB は以下の二つの目標を
達成している:すなわち、顧客の市場にたいする信頼を回復すること、そして、より実効
的な商慣習を奨励することである。
- BBB 制度は、北米全域をつうじ、知名度と高い評価を獲得しているため、広範に成功を
おさめており、一般市民に対して重要な影響を及ぼしてきている。
- BBB は、単に ADR を提供しているだけではない。低料金もしくは無料で、ADR サービスを
提供することができる。そのため幅広い層の消費者にとって利用可能なものとなっている。
- BBB の企業信頼度リポートの制度は、各企業をより透明度の高いものにしている。この
制度のおかげで、消費者は、ある企業との取引に着手するまえに、その企業をチェックす
ることができる。ある特定の企業が BBB の提供する ADR サービスに従属すると分かってい
れば、万が一紛争が発生した場合でも、消費者は一定水準の安心感を抱くことができるし、
企業側は信用を維持することができる。
2.
ADR 手続の内容
ADR 手続の開始:
BBB の提供する ADR プログラムの利用は、大半の場合、当事者間の合
意によって行なわれる。BBB 制度に参加している企業は、顧客との間の紛争を、明確な範
囲内で、調停または仲裁に付すことに、あらかじめ同意している。BBB はまた、非会員に
対しても、ケース・バイ・ケースで ADR サービスを提供することができる。実際には消費
者が手続を開始するのだが、企業側も消費者が手続を開始するよう提案することができる。
紛争(または、その任意の一部分)が仲裁に付され得るかどうかに関する裁定は、ひとえ
73
に BBB にかかっており、BBB が従う仲裁の規則に拠る。契約書のなかの仲裁条項のために、
BBB の提供する ADR を利用しなければならない消費者の場合は、連邦仲裁法ならびに大半
の州の仲裁法は、公序の問題に抵触しない、よくある紛争について、このような条項を認
めている(後掲「現在の問題点」参照)。しかしながら、BBB は、契約の仲裁条項が、ディ
スクロージャーや承認(acknowledgement)に関する BBB の政策(方針)を満足するものでな
い場合には、その仲裁を取り仕切ることを辞退する可能性もある。
おもな手続上の規則:
調停:調停において BBB は、当事者双方から、事実に関わる情報を収集する。そして、
当事者間に、オファーの交換をも含めた、開かれた対話が行なわれるよう促す。当事者双
方は、承諾可能な解決策に向けて、相互に協力しあうよう、真摯な努力を行なわなければ
ならない。BBB の仲裁人は、当事者のうちどちらの立場についても、その優劣を議論して
はならない。また法的助言も行なってはならない。当事者双方は調停の場に弁護士および
/または証人、ならびに調停の専門家を連れて来てもよい。しかし、当事者双方はそれぞ
れ自らに有利なように話すと予期される。調停人は非公開の調停の審議を取りすすめるあ
いだ、だれが部屋に同席してもよいかを決定する。調停の審議は、全当事者との最初の協
議のあと、BBB によって指定された場所で行なわれる。提訴のとき身元を特定された主要
当事者は全員、この調停の審議に出席しなければならない。当事者たちは、調停に同意す
る旨の書類に署名し、BBB の調停規則に従うことに同意しなければならない。本調停期間
の後、調停人は当事者双方と、それぞれ個別に協議をしてもよい。
IDS(Informal Dispute Settlement):「非公式紛争解決」(IDS) のために、BBB は専門的な
訓練を受けた審理担当者を用意する。この審理担当者は、当事者双方の主張を聞き、当該
紛争を解決する方法について、法的拘束力のない裁定を下す。
仲裁:条件付きで拘束力のある仲裁において、BBB は専門的な訓練を受けた仲裁人を用意
する。この仲裁人は、当事者双方の主張を聞き、もし消費者が受諾するならば、当事者双
方に拘束力のある裁定を下す。手続上の規則は、拘束力のある仲裁のための規則と同じで
ある。当事者たちは、BBB による仲裁を開始するために 1 年間の期間を有する。ただし、
会社が BBB による ADR サービスを利用するとあらかじめ明言していた場合は、例外的に別
の期間が特定される。拘束力のある仲裁においては、BBB は、まず消費者と協力して、事
件の事実関係に基づき、争点と仲裁判断の種別を説明した仲裁契約書を作成する。BBB は、
当事者双方に対し、この仲裁契約書に調印するか否かについて 5 日間の期間を与える。さ
もなければ、審理は遅れる。もし、消費者の主張が、BBB に従うとしていた会社の事前の
約束内容に合致するならば、会社が仲裁契約書に調印を怠ったのは、契約書を受諾したも
のと見なされる。
そして、BBB は当事者たちへの審問の予定を決定する。大半の事件は、審問を 1 回しか
74
必要としない。しかし、必要ならば、2 回以上予定を組むことも可能である。審問におい
ては、当事者双方が、それぞれの視点から見た事実を陳述する機会を持つ。当事者双方は
また、相手方に対し複数の質問をする機会も有する。仲裁人もまた、紛争の不確かな箇所
をはっきりさせるために、複数の質問をすることができる。証人たちは、本人が出頭する
か、もしくは陳述書を提出する方法によって証言を行なうことができる。最後に、当事者
双方は、それぞれの見解の要約をまとめて陳述し、公開で質問された事項にすべて回答し、
どのようなタイプの仲裁裁定を要請するかを明らかにしなければならない。審理進行中に
提出が可能であった証拠、もしくは仲裁人がすでに裁定を下した証拠は、審理終了後には
受けつけられない。
当事者の一方もしくは仲裁人は、事件に関連する商品またはサービスの検分を要求する
ことができる。また、仲裁人が要請した場合には、BBB は公平な専門家に、その商品また
はサービスの検分を行なうよう要求することができる。当事者双方は、専門家の資格およ
び知見について評価し、コメントすることができる。また、当事者は費用自己負担で、自
分のための専門家を雇い、証人を務めさせることができる。当事者は弁護士に代理を務め
させることができる。しかし、当事者は弁護士の氏名および住所を、審理の少なくとも 8
日前までに BBB に通知しなければならない。これは相手方当事者も弁護士を探すかどうか
を決めることができるようにするためである。
当事者は、自己の弁護士費用を支払う責任がある。
当事者の一方が、審理の少なくとも 7 日以上まえに要求した場合、BBB は当事者に、そ
の陳述および証拠を電話または書面で提出させるよう手配することができる。現実的にみ
て可能な範囲内で、審理は消費者にとって便利な場所で行なわれるものとする。当事者の
一方が要求した場合、BBB は州法に基づいて事件に関連性のある目撃者または証拠を召喚
し、または提出させるものとする。これは、BBB の仲裁人がその召喚ないし提出の命令を
必要だと考えた場合の話である。
救済方法:
BBB に持ち込まれるすべての苦情を BBB の仲裁に付すという事業者からの事前の申し出
などがある場合、BBB による仲裁は、以下の各救済方法を提供する:
1. 取引に関わる商品および/またはサービスの費用の全額または一部分の返金。この費用
には、当該商品またはサービスの販売に関連して直接発生した、売上税その他の雑費をも
含む;
2. 約束された仕事の完了、または契約上の義務の履行;
3. 不良品の修繕、または修繕費の弁済;そして/または、
4. 当該サービスの提供によって引き起こされた、2,500 米国ドルを超えない額の、あらゆ
る種類の実際の現金支払損失または物的損害の金額。
75
BBB による仲裁は、会社が BBB に従うとあらかじめ約束していた場合、もしくは当事者
双方が、このような救済方法が得られることについて書面で同意した場合においてのみ、
追加的救済を提供する。賃金の損失補償についての裁定想定額、精神的苦痛、懲罰的損害
賠償金、もしくは弁護士費用もまた、当事者間で事前に支払いが認められていなければな
らない。
拘束力ある仲裁に関する BBB の規則は、裁定は仲裁人が公平だと考え内容であって、か
つ裁定規則および仲裁に関する契約書の想定する範囲内でなければならないとしている。
そして、仲裁人は自らが紛争の公平な解決と考える結論に到達するにあたって、法原理を
適用する義務はない。
契約による仲裁条項の下に仲裁が行われる場合は、BBB の仲裁人は、法律で可能なあらゆ
るタイプの救済を裁定することができる。
調停においては、当事者双方が合意するならば、適用されるべき救済方法のタイプには、
なんら制限はない。
消費者の負担する費用:
BBB による ADR サービスについては、通常は、消費者が負担しなければならない費用は
一切ない。しかし、当事者たちは、自己の弁護士費用を支払わなければならない。そして、
もし当事者の一方が弁護士を雇うと決めたならば、相手方当事者もまた、弁護士を雇わな
ければならないと感じるかもしれない。BBB による仲裁は、当事者たちによる質問および
証人の召喚状が関わる場合がありうるので、場合によっては、当事者たちが、同様に熟練
した弁護士に助言を請うことが重要であるかもしれない。
期間:
調停の会期は典型的には 2〜3 時間を要する。消費者調停の大半は 1 回の会期で済む。
調停は自発的な手続なので、当事者はどちらも、BBB に然るべき通知を行なうことによっ
て、調停を終了させることができる。
BBB の仲裁審理は、少なくとも 10 日前までに通知がなされなければならない。BBB は苦
情が申し立てられてから 60 日以内に、申立てに対する最終的な解決策を求めなければなら
ない。BBB の仲裁規則は、州法または連邦法が別段の規定を設けていないかぎり、BBB が申
立てに対する最終解決策を 60 日間以内に得るために、あらゆる努力をしなければならない
と規定している。この期間日数は、消費者の要求に応じて延長することができる。
BBB のオートライン規則は、州法または連邦法が別段の規定を設けていないかぎり、BBB
は、最終解決策を苦情申立てのあったときから 40 日間以内に得るために、あらゆる努力を
しなければならない、と。
76
秘密保持:
調停会期中のすべての会話と提出資料は非公開であって、調停人および相手方当事者の
許可がないかぎり公表してはならない。
BBB 仲裁規則の下で仲裁に従うにあたって、当事者たちは仲裁人がどちらの当事者によ
っても召喚されてはならない旨を同意する。BBB オートライン仲裁規則の下で扱われる苦
情に関しては、仲裁裁定は裁判における証拠として用いることができる。BBB の規則にあ
るいかなる条項も裁判所の証拠規則を制限するものではない。BBB は、公開することが法
律によって強制あるいは要請されない限りは、仲裁記録は公開しない。
BBB は企業に関する情報を収集する、企業信頼性リポートに公表される。この情報は、
消費者による申立て、および特定の企業に対して起こされた訴訟を含む。
所轄官庁:
BBB の中立者は地域社会からのボランティアであって、地域の BBB によって承認されて
いる者である。BBB の調停人は、利害関係を基盤にした調停モデルを重視する、5 日間コー
スの基本的調停技能に関する訓練を修了することが望ましい。この訓練は実地経験に焦点
を合わせたものである。
BBB の仲裁人たちは、仲裁されるべき問題について、必ずしも特定の専門知識を持つわ
けではない。しかし彼らは必要に応じて、専門家の支援を要請することができる。BBB の
仲裁人は通常、その服務について報酬を払われることはない。しかし 100 米国ドルの謝礼
金を受け取る。
BBB の仲裁規則は、BBB、CBBB、および仲裁人は、仲裁に関わる、いかなる作為または不
作為についても、責任を負わないと規定している。
拘束力ある仲裁に関わる規則の下で、BBB は、いかなるときにも、いかなる事件につい
ても、いかなる州法/連邦法または規則との抵触、ないし当事者の行動を理由として、仲
裁の執行を中止する権利を保有する。
当事者による中立者の選任:
典型的な事例において、BBB は当事者たちに対し、2 人以上の仲裁人をボランティア要
員のなかから選び、その氏名と経歴を通知する。当事者のうちのいずれかの者と仲裁人と
の間に、財政的・競業的・職業的・家族的ないし社会的関係のいずれかが存在する場合、
当事者双方は、その仲裁人を拒否しなければならない。その場合、優先順位は残りの仲裁
人に割りふられる。BBB の選択によって、もしくは法または契約上の義務の要請によって、
77
3 人以上の仲裁人から成る諮問機関を選任することができる。仲裁人の資格についての情
報は、請求すれば入手できる。
非公式紛争解決(IDS)においては、BBB は専門的な訓練を受けた審理担当者を用意してい
る。この担当者は当事者双方の主張を聞き、紛争の解決法について、拘束力のない裁定を
下す。BBB の審理担当者は、CBBB の認定を受けた、地域社会のボランティアである。
クロスボーダーADR: BBB は電話による審理を実施し、書面による証拠に基づいて裁定を
下すので、クロスボーダーの原告が参加する見込は高い。しかし、クロスボーダーの原告
は、審理に先立って、自己の有する証拠を提供しなければならない。さらにまた、クロス
ボーダー争訟の原告または被告は、自分たちの代わりに代理人を審理に送ってもよい。
BBB は北米以外の地域では、充分に確立されていないため、ある企業に承認証を取消すこ
とは、北米の企業に対して加えられるほどの大きな圧力を、その組織に対して加える結果
にはならないかもしれない。
BBB 引越し・保管プログラム(上述)および BBB オンライン・プログラム(後述)を参照。
調停が本当に有効に機能するのは当事者本人が出頭する場合であるので、BBB による調停
は、クロスボーダー問題には不向きであるかもしれない。しかしながら、BBB は遠隔地の
当事者間の電話による仲裁を行うことは可能である。
オンライン ADR55:
BBB オ ン ラ イ ン 信 頼 性 ・ プ ラ イ バ シ ー (BBB Online Reliability and Privacy
www.bbbonline.org)プログラムには、信頼性認定証も含む。信頼性認定証は、ウェブ・ユ
ーザーが信頼できる企業をインターネットで見つけるのに役立つし、また、信頼できる企
業が自社をアピールするのにも役立つ。認定証を自社のウェブサイトに表示することを許
可された企業は、BBB 会員であって同時に、広告、紛争解決、ならびに安全な電子商取引
のための正直さ/誠実さに関わる厳格な基準に合格した企業である。これらの企業は、オ
ンラインのいかなる紛争をも、BBB オンライン信頼性プログラムによって解決すると確約
している。2006 年に一般公衆は、32,000 以上の企業のウェブサイトに掲示されている、
1,700 万件以上もの「安全なショッピング」に関する信頼性およびプライバシーについて
のオンライン確認メッセージを受けとった。CBBB は、ゆくゆくは世界的な信頼マーク・ア
ライアンス(global trust-mark alliance: GTA)制度を設置したい意向であるが、国際機
関を調整することは困難であることも認識している。
55
www.ftc.gov/bcp/altdisresolution/comments/underhillbbb.pdf.
オンライン」(2000 年 3 月 21 日)参照。
78
「ADR コメント:BBB
3.
現在の問題点56
1) 当事者たちは、犯罪または不法行為に該当しうる事件を、仲裁人に審理してもらうこと
に同意することができる。それゆえに、消費者が以下の二点を理解していることは重要で
ある。まず、企業が BBB の行なう仲裁に従うことをあらかじめ確約している紛争とは、ど
こまでの範囲を指すのかという点。つぎに、契約は潜在的に適切な、あらゆる救済方法を
含むという点である。期待と懲罰的損害賠償金は一般に仲裁においては得ることはできな
い。このことを、BBB が消費者に説明することは重要である。仲裁契約書の締結は、当事
者の期待が適度であるかどうかを確認する良い機会となりうる。
2) BBB の標準的な仲裁規則には、契約に仲裁条項があるにもかかわらず、少額裁判所で事
態を追求したいと考えている消費者のためのオプトアウト条項は含まれない。これは、CBBB
が現在検討中の問題点である。
3) 弁護士が仲裁の審理に出席する旨を発表する最低 7 日間前の事前通知要件については、
相手方当事者が弁護士を使っていることを知ったあとで、当事者が自分も弁護士を確保し
ようとした場合、7 日以上かかるかもしれないので、その日数が十分でないという指摘が
ある。
4) 当事者双方が相互に質問をする機会は、仲裁人が課す質問についての手続規則による
のであるが、一方では有益かもしれないが、他方では審理が荒れたり、権利が侵害された
りといった害も招きかねない。BBB は、当事者間に不毛な議論が生じるのを防ぎ、当事者
から役に立ちそうな情報を積極的に取得することができるように、仲裁人の訓練を行なっ
ている。
5)
契約書の文中の拘束力のある仲裁条項は、BBB による仲裁を明記しているかもしれな
いが、裁判制度によって判断を下されたほうが良い公序の問題に関わる争点を含む場合が
ある。
6) 原告たる消費者が、BBB の召喚状制度の下で自らの事件を組み立てられるだけの充分な
(相手方からの)陳述が得られるかどうかは明確でない。
7) 消費者契約における、義務的で拘束力のある仲裁条項の問題は、消費者が契約書に調
印する際、自分たちが今まさに同意しようとしている事柄が、どこまでの範囲を指すのか
を知らずにいることが多いので、BBB にとっての関心事である。BBB はこれらの条項が BBB
56
欧州委員会(European Committee)による US National Report(2006 年 11 月 15 日)の 2.1
BBB Dispute Resolution Services
http://ec.europa.eu/consumers/redress/reports_studies/index_en.htm を参照。
79
の基準に合致する場合にだけ、仲裁を行う。また、これらの事例に適用できる、紛争前の
拘 束 力 あ る 仲 裁 条 項 に 関 す る 紛 争 の た め の 拘 束 力 あ る 仲 裁 規 則 (Rules of Binding
Arbitration for Disputes Subject to Pre-Dispute Binding Arbitration Clauses)を出
版した。BBB はまた、消費者からの信頼を獲得し、消費者の満足度を最大化するために、
紛争が生じた後に、企業に対して、消費者に仲裁を申し入れるように勧めている。
BBB の制度の下では、BBB による ADR について、企業会員はこれに従うとすでに確約してい
る。もしそれら企業会員が非協力的な場合には、それらの企業の会員資格を停止または剥
奪する場合もある。BBB は非協力的な企業に対し、こういった企業を会社の信頼性リポー
トのなかで報告することもでき、その世評に関して影響力を有する。
4.
その他
消費者から一方的に ADR 開始の申請がなされた場合、事業者の手続への協力義務という
ことについては、企業会員は、BBB による紛争前 ADR に対して、すでに同意しており、仲
裁の審理においては、もし消費者の請求が会社の BBB に対する事前の確約の範囲に相当す
るならば、この会社の未調印の事実は、その契約書への同意と見なされる。一方、 ADR 開
始の申請は、事業者からも行うことができるが、消費者はこれに応じることを強制される
ものではない。
ADR 開始の申立ては、BBB の該当する請求用紙を用いて書面で行なわれる。最初の連絡
は電話で行なわれることが多い。そのあと BBB は、関与する企業に通知し、顧客にはクレ
ームの用紙を送る。
BBB のスタッフは請求を受理したら、その申請内容の妥当性・適格性を非公式に評定す
る。BBB オートラインの紛争においては、事件の専門家が自動車の年式、走行距離、請求
が BBB の規則の範囲内かどうか(ゆえに、個人の損害の請求を含むか否か)などの基準に照
らして確かめて、適格性を判断する。BBB スタッフは、争いのない事実が BBB の管轄外で
ない限りは、その申請は適格であるとみなす。
ひとたび手続を開始したのちも、もし手続主宰者についての抵触や偏向などを示す証拠
が見つかれば、当事者は中立者に異議を申し立てるか、あるいは中立者は任務を辞退する
ことができる。
手続きは、一般的に 1 名の仲裁人(または調停人)によっておこなわれる。僅かな場合
ではあるが、3 名またはそれ以上のパネルで行なわれることもある。
調整型手続においては、当事者たちは、審理方式についてどの手法を用いるかを決定す
ることができる。審理には、できれば当事者双方を出席させることが望ましい。そのうえ
80
で、当事者双方は、別々の部屋を使用するかどうか、などを決定することができる。
申立てに名前が記載されている主要な当事者は全員、調停に出席することを勧められる。
当事者が要求した場合には、BBB は当事者に、電話か書面で自分の陳述および証拠を提示
させることができる。
当事者たちは、何が仲裁されるべきか、そしてどんな救済方法が可能であるかを、決め
ることができる。当事者たちは手続を修正することに同意しようと思えばできる。しかし、
そのような事態は通例ではない。一方当事者は、たとえば管轄権に関する規則を、他方当
事者の同意なしに変更することはできない。
仲裁人は当事者に事実に関して質問をすることができる。しかし、どこかに出向いて、独
自の事実究明調査を行なうことはできない。また、審理の最中、あるいは終了後のいかな
るときであっても、技術方面の専門家を要求することができる。BBB オートライン仲裁に
おいては、企業が技術専門官の費用を支払う。
ADR で紛争が解決しなかった場合は、BBB は苦情を扱ってくれる弁護士または適切な機
関を見つける手伝いをすることもある。
BBB は消費者仲裁のみを扱う。したがって、仲裁に関する一般規則と特則のような区別
は行なっていない。BBB は、仲裁人たちが、通常よりもう少し積極的な役割を果たすこと
を許可している。なぜならば、BBB の目的は、当事者間に生じる摩擦を可能な限り最小限
に抑えて、裁定に到達することだからである。しかし、BBB は、調停と仲裁の両手法を混
合したミーダブ(med.-arb)の手続は利用しない。代わりに当事者たちと討議して、意思決
定者の関与に関わる問題、および秘密保持に関わる問題を提起する。
消費者仲裁においては、法のみならず社会通念や一般常識(条理)をも加味して判断し
ている。また、当事者が別段の取り決めをしない限りは、仲裁人は、当該紛争の公正な解
決に基づいて裁定を下し、法原理には拘束されない。
将来、消費者 ADR への関心がより高まることが予測され、国際的にも BBB の ADR サービ
スが利用されることを願っている。
81
D
全米消費者連盟
National Consumers League (NCL)
∗
Christine Rogers
1.
概要
全米消費者連盟(NCL)は消費者の市場や職場での問題を扱う民間、非営利の消費者擁
護団体である。1899 年設立で、NCL は国内で最も古い消費者擁護団体である。消費者保護・
擁護、法律、ビジネス、労働、広報といった分野の経験のある役員で構成される役員会に
よって管理運営されており、各州からの支部メンバーがいる。NCL は、全国に広がる消費
者活動ネットワークと協力し合っている。その使命は、アメリカ合衆国内外の消費者と労
働者のために、社会的、経済的正義を守り推進することにある。
2.
活動内容
NCR は ADR サービスを提供しておらず、主な活動内容は以下のとおりである。ライフス
マート(LifeSmarts)というティーンエイジャー向けの消費者教育コンテストのコーディ
ネート。テレマーケティングやインターネット詐欺についての消費者の問い合わせや被害
相談にカウンセラーが応じる、オンライン苦情処理システムの運営。食品の安全、ラベル
の真実性、ヘルスケアなどの問題を扱う 54 以上の連合、諮問委員会、審議会などへの参加。
多くの消費者問題についてのフォーラムや立法説明会の後援。研修教材開発やワークショ
ップ、フォーカスグループの開催。消費者金融、食品や医薬品の安全性、オンラインショ
ッピングなどについてのパンフレット類の作成、配布、ウェブサイトを通じての消費者へ
の情報提供。 Alliance Against Fraud、 Child Labor Coalition、SOS Rx という3つの
連合の管理。重要な消費者問題に関するニュースレターの発行。
なお、電子市場における消費者のための ADR システムの発展に関しては、NCL と電子プ
ライバシー情報センター(the Electronic Privacy Information Center)と全米消費者連盟
が 2000 年 6 月 23 日に出した連邦取引委員会と商務省へのコメント「ボーダーレス・オン
ライン市場における消費者取引のための ADR」を参照されたい57。
∗
本レポートは、全米消費者連盟の公式ウェブサイト www.nclnet.org 、2008 年 2 月 7 日のサリー・グリ
ーンバーグ氏(Ms. Sally Greenberg)への電話インタビュー、2008 年 2 月 8 日に NCL の事務所で入手し
た刊行物に基づいて作成したものである。
57
http://www.ftc.gov/bcp/altdisresolution/comments (No. 29, National Consumers League).
82