環境分野 環境汚染物質を高効率で分解するハイブリッド型触媒の開発 光触媒と金属酵素のコラボレーションで 環境汚染物質のクリーン分解に成功 ─有機塩素化合物を安全かつ高効率に 無害化する技術を開発─ 光触媒である酸化チタンと天然の金属酵素活性部位であるビタミンB12(注1) をハイブリッド化させた環境浄化触媒を開発し、本触媒を用いて、光を当 てるだけで有機塩素化合物を無害な塩化物イオンにまで分解することに成 功しました。 ● ● ● ● 水中のトリハロメタン類やDDT(注2)を、効率良く無害化できます。 従来よりも低コストかつ環境に優しい条件で、環境汚染物質である有機塩 素化合物を分解できます。 生体由来の材料を触媒原料として用いることで、触媒自身が生体や環境に 優しい素材です。 酸化チタン光触媒の新しい用途として期待されます。 ▲ビタミンB12-酸化チタンハイブリッド型触媒の作動原理図 競合技術への強み 脱塩素化能力 中空糸膜及び 活性炭による吸着 (従来技術) 処理速度 × ◎ 単なる除去であり、 無害化技術では ない 菌体による △ バイオレメディエー 基質選択性があり、 ション 広範な有機塩素 (従来技術) 化合物には不可 高炉焼却処理 (従来技術) ハイブリッド型触媒 (本研究) 環境調和性 △ コスト ◎ 吸着現象 なので速い 吸着後の 二次処理が必要 大量生産されて いるため安価 △ ◎ △ 処理速度が 遅い 無害である 菌の培養に 日数がかかる ◎ △ × ハイブリッド型触媒の開発を行います。 産業応用の可能性 ビタミンB12と様々な機能物質を複合化した新しい 機能材料の開発を目的として、1社と契約して共同 研究を推進中です。原料の天然ビタミンB12および酸 △ 高温処理しないと、 新たな環境汚染 物質生成の恐れ 焼却処理 なので速い ダイオキシンなど 新たな環境汚染 物質生成の恐れ 莫大な建設費用が 必要 ◎ ◎ ◎ ◎ 無害な塩化物 イオンにまで 分解 い材料との複合化を行い、より高効率でクリーンな 酵素の高い反応性 を保持している ため速い ビタミンB12、 酸化チタンともに 無害 ビタミンB12、 酸化チタンともに 大量生産されて いるため安価 ▲有機塩素化合物の処理に関する従来技術と本技術との比較 化チタンの供給に関し、定期的な情報交換を数社と 行っています。 【これから応用展開の可能性を探索してみたい業界・企業】 ● 地球環境問題に積極的に取り組む企業。 ● 水質浄化など自然修復に関する業界。 ● 光触媒の新しい用途を推進する企業。 ● クリーンなものづくり(物質変換)を進める企業。 産業界へのアピール 安全、安心な社会を実現するための環境浄化触媒 ❶無害化能:有機塩素化合物中の塩素原子を、無害 た新しい触媒の開発ができると考えました。所属す の開発に成功しました。金属酵素という生体材料と、 な塩化物イオンとして除去できます。 る九州大学人工酵素化学講座の久枝良雄教授がビタ 光触媒という無機材料をコラボレートすることで、 ❷低コスト:ビタミンB12および酸化チタンともに大 ミンB12モデル研究の第一人者であったことから、酸 お互いの機能を相乗させることが可能となりました。 量生産されているため、低コストで触媒を調整でき 化チタンに固定化するためのビタミンB12の化学修飾 本触媒が作用する有機塩素化合物の分解反応は化学 ます。 はスムーズに進行しました。また国内の酸化チタン 物質の変換反応であるため、環境分野のみならず、 ❸環境調和性:ビタミンB12および酸化チタンともに 専門メーカーの協力のもと、様々な酸化チタン材料 光を利用したクリーンなものづくりにもこの技術を 生体に無害であるため、調整したハイブリッド型触 を提供してもらい、研究のスタートダッシュに成功 生かしたいと思います。 媒も無害です。 しました。試作したビタミンB12-酸化チタンハイブ リッド型触媒に光照射して、ビタミンB12が触媒活性 成果の概要 を示す青色に変化した瞬間の感動は忘れられません。 天然の脱塩素化酵素(ビタミンB12依存性酵素)を さらに実験室レベルで有機塩素化合物の脱塩素化に 模倣して、環境汚染物質である有機塩素化合物(ト 成功したことで、日経新聞や科学新聞などのマスコ リハロメタン類やDDT)に対して高い反応性を示す ミでその成果が報道され大きな反響が得られたこと ビタミンB12錯体を合成しました。本研究の鍵物質で は、その後の研究の大きな励みになりました。 あるビタミンB12錯体は、天然由来の生体物質である ために毒性がなく、環境に優しい触媒材料です。さ 今後の展開(研究面について) らに本錯体を光触媒である酸化チタン表面に固定化 ハイブリッド型触媒の有効利用を鑑み、触媒をガ することで、紫外光に応答して脱塩素化活性を示す、 ラス反応容器の内壁に固定化することで、回収・再 新しいハイブリッド型触媒の開発に成功しました。 利用がより簡便となるリサイクルシステムの開発を ビタミンB12錯体を基盤とした脱ハロゲン化触媒の特 行います。また実験室レベルで行ってきた脱塩素化 徴として、有機塩素化合物中の塩素原子を、無害な 反応を実際の汚染水に適用し、共存する物質(金属、 塩化物イオンとして脱離することが挙げられます。 有機物、微生物など)の影響を受けるかどうかなど、 また本ビタミンB12-酸化チタンハイブリッド型触媒 実用化を見据えた条件検討が必須です。また本研究 をガラス基板上に厚さ数百nmの薄膜として固定化す において開発したビタミンB12-酸化チタンハイブ ることにも成功しました。その結果、容易に触媒と リッド型触媒は、紫外線を照射することにより反応 生成物を分離することが可能となりました。 が進行しますが、我々が最も安価で有効に使える光 エネルギーは太陽光です。しかし太陽光に含まれる ブレイクスルーのポイント 紫外線量は乏しいことから、太陽光を利用して屋外 文部科学省科学研究費のプロジェクトで、酸化チ で本触媒を効率よく作用させるためには、可視光に タンの研究者らと交流する機会を得、酸化チタンと 応答する酸化チタンまたは酸化物半導体などを用い ビタミンB12を複合化できれば、両者の機能を相乗し る必要があります。今後はビタミンB12とこれら新し (注1)コバルトを中心金属とする金属酵素の活性部位に存 在。生体内では、代謝反応やアミノ酸の生合成に関 与する。近年、幾つかの脱塩素化酵素の活性中心に も存在することが発見された。飼料として大量生産 されている。 (注2)ジクロロジフェニルトリクロロエタンの略。有機塩 素化合物の一種で、かつて殺虫剤、農薬として使用 されていた。生体への影響および環境への残留が問 題視され、国内ではその使用が禁止されている。 プロジェクトID・研究テーマ名・年度 05A18501d「環境汚染物質の高効率分解を目指したハイ ブリッド型触媒の開発」 (平成17年度第2回公募) 代表研究者・所属機関・所属部署名・役職名 嶌越 恒 九州大学 大学院工学研究院 助教
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