平成28年度 前期 大学院 授業科目 ケースプロジェクト研究 2 単位 担当教官 三品和広 Ⅰ.ケースプロジェクト研究とは 神戸大学大学院経営学研究科の社会人 MBA プログラムでは、教育の方法としてプロジェクト方式を重視して います。プロジェクト方式とは、課題解決学習のことです。教室で講義を受動的に受けるのではなく、自ら 無知の暗闇に立ち向かい、そこに光を照らそうと葛藤する中で、アプローチから論証の仕方まで全て自分の 頭で考える、それがプロジェクト学習の醍醐味と言ってよいでしょう。無から有を知的に生み出すプロセス は、大きな自信をもたらします。さらにつぶしの効く技の習得にもつながります。教授陣も指導や助言をし ますが、解決の主役はあくまでも自分自身と捉えてください。 プロジェクト方式は、研究に基礎をおいた research-based education の一環でもあります。自ら研究に手を 染める機会を最大の教育体験としていただけることを願ってやみません。 この科目は、プロジェクト方式を導入する役割を担っています。そのため、テーマとチーム構成は担当教官 が設定して、時間のかかる助走期間を省きます。それで浮いた時間は、適切なケースの選定に加えて、チー ムとプロジェクトのマネジメントに振り向けてください。この科目では、チームスキルも重要です。チーム のなかにおいて自分が果たしうる役割を、真摯に模索することをお勧めします。 Ⅱ.授業のテーマ 「Derailment:シャープはどこで何を間違えたのか」 筆記具に革命をもたらし、電器に転じてからは長らくソニーと並び称されたシャープが、創業百年余で断崖 絶壁に追い詰められています。このプロジェクトが進むにつれて同社は転落する可能性も否定しきれません。 この悲劇的な現状から時を遡り、その源泉を問いただすのが今年度の趣向です。 ここで言う「源泉」は、そこから先は紆余曲折があったとしても結局は同じ悲劇的な結末に辿り着いてしま うであろう、最も古い分岐点のことを指しています。逆に言うなら、それ以前はやり直しが利いたはずとい うことです。 言葉を足しておくと、X時点におけるAという選択が致命的だったと映っても、実はそれより早いY時点で Bという選択をした以上、X時点ではAを採るしかなかったという展開はよくあります。その場合、X/Aは 源泉と言えません。 この意味における「源泉」は、まさに決定的な瞬間、または決定的な戦略の瞬間と言い換えてもよいでしょ う。帰納的に戦略論を構築しようと思うと、ケース多数について源泉を訪ねる作業は避けて通れません。こ こではケースを一つ取り上げるだけですが、真剣に取り組めば、戦略に関する理解が飛躍的に深くなること 請け合いです。 このプロジェクトは、あくまでもエクササイズに過ぎませんが、皆さんも最盛期で 3 兆円を超えた名門企業 の CEO になったつもりで大局観を持つよう努めてみてください。普段とは異なる視点に立って経営を考え抜 く経験は、きっと貴重なものになると思います。 ケース選択の範囲を一業界に絞るのは、これで四度目の試みになります。三年前まで一貫して「ケース」は 異なる企業を意味していましたが、一昨年度から業種のみならず企業まで統一して、異なる主張、または切 り口を「ケース」と呼ぶことにしています(手元の辞書では case の5番目の意味)。同じ土俵に上がった うえで競合他チーム、そして日本のジャーナリズムを向こうに回すことを十分に意識して、一段と深い、ま たは斬新な見解に辿り着くよう奮闘してみてください。 最終発表の優劣を分けるポイントは、源泉の選定から立論の骨格、そして因果関係を解き明かす論理展開の 緻密さと斬新さになるものと予想されます。言うまでもなく、緻密に論理を展開するためには、納得を呼び 込むキーエビデンスも欠かせません。これを機に、『ハンドブック経営学』の第 1 章も参考にしつつ、有価 証券報告書を丹念に読み込む手法を身につけると、これも随所で役立つスキルになるはずです。 Ⅲ.参考書 神戸大学経済経営学会『ハンドブック経営学』ミネルヴァ書房、2011 年(第 1 章) 小池和男、洞口治夫(編)『経営学のフィールド・リサーチ』日本経済新聞社、2006 年 Ⅳ.授業計画 1. オリエンテーション(3/26) プロジェクト方式の何たるかと、チームの編成を確認します。 2. レクチャー(4/2) ケーススタディを進める上でポイントとなる要点を、ステージ別に伝授します。 3. チームミーティング(4/16) ケース選定についてブレインストーミングの機会を設けます。各チームを巡回しながら、議論の内容につ いて適宜口を挟みます。 この科目では、一つのケース(時点/イベント選択)に深く切り込むことを奨励します。プロジェクトの成 否はケース選定の着眼で7割以上が決まってしまうので、安易な妥協はせず、いくつも候補を出し、チームの 中で徹底的に長短を吟味することで、後悔を残さないケースを選定してください。ここで大切なのは、ケー スの正当性とエビデンスの収集可能性の間で、うまくバランスを取ることです。いくら面白い視点があって も、サポートが弱ければ印象に残りません。一見パッとしない視点でも、リサーチによって深みのあるエビ デンスを掘り起こすことができれば、聴衆が手に汗握る最終発表になる可能性があります。 4. マイルストーン1(4/30) 最初の関門では、各チームの診断(源泉をどこに見出すのか、いつの時点のどの判断を源泉と見なすのか) を問います。持ち時間は5分、パワポ必須です。ここで独自性を認めた診断については、先住権を付与しま す。同じ内容で競合するチームが出た場合は、掘り下げ方の深いほうのチームに先住権を渡します。ここで 先住権を取れなかったチームは、まだ権利の発生していない見解を求めて漂浪の旅に出てもらうことになり ます。 5〜7.マイルストーン2(6/4) この関門では非公開チェックを行います。ここでチェックの対象とするのは、診断時点から結末への必然 性です。各チームとも、パワポでライブラリーリサーチの成果を別室で発表してください。持ち時間は10分 です。このマイルストーンを無事に通過できなかったチームは、ケース選定から出直してもらいます。無事 に通過したチームは、この日以降、フィールドワークが解禁になります。ただし、法人としてのシャープへ の取材申し込みは自粛してください。 8〜11.マイルストーン3(7/2) この関門では、診断時点以前を非公開チェックの対象とします。各チームとも持ち時間は10分で、チェッ クは個別に別室で行います。自ら選んだケースの前には選択の自由が残っていたと考えるエビデンスを論じ てください。エビデンスを築くには、資料や文献をあたるライブラリーリサーチ、現場観察に出かけるフィ ールドリサーチ、関係者の話を聞きに行くインタビューリサーチ、仮説の定量化を試みるサーベイリサーチ など、様々な方法があります。コトの核心に迫ることができるよう、うまく方法を選択し、または組合せ、 重要と考える問いに対して納得の行く答えを見つけるようにしてください。このマイルストーンでつまずい たチームは、メンバー全員の最終成績を10点減点とします。 この関門をクリアしたら、あとは1ヵ月後の最終発表あるのみです。ここからは細部を詰め、サポーティン グエビデンスに磨きをかけると同時に、ロジックを鍛え抜いてください。 12〜15.マイルストーン4(8/6) この日は最終発表会になります。各チームの持ち時間は、セットアップを含めて 20 分です。プロジェクト の成果を取りまとめ、審査員団の前でプレゼンテーションを披露してください。発表順は、8 時 40 分からく じで決めます。一日の終わりには優秀チームの表彰式を行います。 Extra.マイルストーン5(8/20) この日を締切として、個人内省レポートを提出してください。レポートで問うのは、自分がケースプロジ ェクトの全体を通して何を学んだかです。A4 で 5 ページをレポートの上限分量とします。 Ⅴ.成績評価の方法 最終発表会の審査員採点結果が5割、個人内省レポートが5割のウェイトで評価します。審査員の評価が主 観的にならざるをえないことは、あらかじめ断っておきます。
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