塩化ビニル系ジオメンブレン概説 - 国際ジオシンセティックス学会 日本支部

ジオシンセティックス技術情報
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9
9
6
.1
1
特集:塩化ピニル系ジオメンブレン概説
日本ゼオン株式会社環境資材事業部鈴木
総合開発センター
茂
土屋佳胤
1.はじめに
塩化ビニル系ジオメンブレンは、塩化ビニル樹脂に可塑剤等の添加剤を混合し、シート状に成
形加工したもので、通常品である「軟質シート」と弾力性・耐寒性を強化した「超軟質シート」
がある。いずれも柔軟性に富んでおり、下地地盤に良く追従し、山間部などの凹凸の多い地盤で
も敷設が容易である。また熱風または熱コテタイプの自動溶着機、手動溶着機で熱溶着が簡単確
実に出来るなど、極めて施工性が優れていることが特長である。
2. 塩化ピエル系ジオメンブレンの製法
(1)塩化ピニル樹脂の製法
塩化ビニル樹脂は、岩塩などの塩 (NaCQ
) から製造された塩素 (CQ2
) と石油を精製して
得たエチレン (C2H4) を化合させて得た塩化ビニルモノマーを重合して得られる。我が国では、
1
9
5
2年日本ゼオン(株)の静岡県蒲原工場において月産 2
5
0t
o
n
fで生産開始したのが商業生産の始
まりである。塩化ビニル樹脂は、塩素 57% 、石油化学原料 43%から成り、製造トータルエネルギ
ーは他の汎用樹脂(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン)に比べて少ない。
塩化ビニル樹脂は、可塑剤
の添加量を変えることによっ
塩素
て、幅広い硬度の製品が得ら
塩化ビニール樹脂
れることが特徴であり、硬質
エチレン
製品では、水道管、雨樋、波
板、窓枠など、軟質製品で
図 -1 塩化ビニル樹脂の製造方法
は輸血用のバッグ・チューブ、ホース、農業用フィルム、電線被覆、自動車内装、鞄外装、ビニー
ルクロス、長靴など、医療資材、農業資材、建築資材、土木資材、自動車資材、家庭用品などに
幅広く使用されている。
(
2
) 塩化ビニル系ジオメンブレンの製法
塩化ビニル系ジオメンブレンは、塩化ビニル樹脂に可塑剤、安定剤、滑剤、充填剤、着色剤等
を添加してコンパウンドとし、加熱溶融したものをシート状に成形加工して製造する。
1)コンパウンドの組成と特徴
①塩化ビニル樹脂
重合度(分子量)が製品の品質に影響を与える。重合度が高いと強度が高い。
「軟質シート」は重合度 1
,0
0
0前後、
「超軟質シート J は
1
, 5
0
0前後である。
-27-
②可塑剤
製品に柔軟性を与える。添加量が多いほど硬度が低くなる。
③安定剤・滑剤
コンパウンドの加熱溶融・混練時、安定して均一に混練されるように、樹脂の熱安定性
・滑り性を確保する。亜鉛、カルシウム、バリウムなどのステアリン酸塩(金属石鹸)が主
に使われる。
④充填剤
製品の比重を制御する。主に、炭酸カルシウムが使われる。
⑤着色剤
シートの耐候性を確保するために、黒色に着色される。カーボン(スス)を主成分とし
た顔料が使われる。
的
ノ
3枚)熱融着して製品を得る。
② Tダイ押出法
図 -2 カレンゲー法
製造ライン
加熱筒の中にスクリューを配置した押出
機で加熱溶融・混練し、加熱筒の前方のス
(Tダイ)からシート
リットを付けた金型
状の成形品を押出して製品とする。
3. 塩化ピニル系ジオメンブレンの品質
①押出機 ② Tーゲイ ③冷却ロール
⑤引取口一品 ⑤ト )
1ミ
ンゲロール ⑦引取ロール
⑧9
ーレ')ト式巻取機
(
1
) 一般物性
塩化ビニル系ジオメンブレンの一般物性規格を
図 -3 Tゲイ押出法
製造ライン
表ー 1に示す。
表- 1
試験項目
単位
N/cm
2
ヲ│張強さ
破断伸び
引裂強さ
比重
耐寒性
k
gf/cm2
%
N/cm
k
gf/cm
C
。
一般物性規格(土木シート協会)
規格値
軟質系
超軟質系
1570以上
1370以 上
160以上
140以 上
300以上
400以 上
440以上
290以 上
4 5以上
30以 上
1
.3
5以下
1
.3
0以 下
3
0以下
4
0以 下
-28
④冷却ロール
測定方法
J
I
S K6008
に準ずる
J
I
S K7112
J
I
S K6723
機
、AYJ取
器
戸 O Hき
F﹄
定a
4
1巻
姻
酬
一
.
,
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4
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ラ、
厚 LJ
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仁
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一戸
却) r
型冷て
フィルムを数枚重ねて(製品厚さ1.5
m
m なら
z
ィルム(通常厚さ O
.5
m
m
) を製造し、この
機 機 傾 た BKJ1
融・混練して、ロール間隙を通して薄いフ
EU
探押
属はD
'包 門
金又,h k γ
二本の熱ロールでコンパウンドを加熱溶
知出、‘五コ)
①カレンダー・ラミネーション法
r
t
h・必 w
2
) 成形加工
(
2
) 耐久性
塩化ビニル系ジオメンブレンの日光に長期間暴露した場合の品質安定性(耐候性)、土中に長
期間埋設した場合の品質安定性(土中耐久性)、薬品に捜した場合の品質安定性(耐薬品性)
は、比較的優れていることが知られている。たとえば、人工光線暴露試験では、サンシャインウ
,0
0
0時間暴露後の引張破断伸びの保持率は 80%であり、保持率 50%を限界とすれ
ェザーメータ -4
0年の耐久性がある。土中においては、更に長期間の使用に耐える。また、
ば、短く見積もっても 5
耐薬品性に関しては、有機溶剤、ガソリンなと、分子量の小さい油には侵されるものの酸・アルカ
リに対しては安定で、 P
H
2'
"
'
'1
3程度の状況下では極めて安定している。
(
3
) クリープ特性
ジオメンブレンの耐久性評価には、長期間荷重が加わる場合や長期間延伸される時の品質が問
題になる場合がある。この点に着目し、クリープ試験、応力緩和試験を実施した。
1)試験方法
①試験条件
0"
C
-試験温度 2
・試験体(ゼオンシート軟質タイア、 厚さ1.5
阻
、 J
I
SK
6
3
0
13
号ゲンヘ.ル)
・標線開距離 2
0
m
m、チャック問距離 4
0
m
m
②載荷方法
現地の載荷状況を考慮し、表 -2に示す 3ハ。ターンで実施した。
表 - 2 載荷パターン
ケース
載荷・計測方法
1
荷重制御、荷重(引張応力)一定・伸び計測
2
変位制御、伸び一定・引張応力計測
3
00%、 1
0
0時間変位制御後(応力緩和後)、短期引張試験実施
伸び 1
2) 試験結果
4
0
0
①ケース 1
3
5
0
荷重載荷レベル(短期引張試験の
(JF)
を 7種類変え、それぞれについて伸
信
号
千
4に示す。 80%と高い荷重レヘ'ルでは
1
5
0
I ti
l
t
t
t
t
t
I
P
1
0
0
5
0分で破断に至る。 30%を超えるい
5
0
0
0時間(12
.5日)
ずれにおいても 3
υ
n
し
Ill11111
断に至らず安定している。
5
3
以
I
W
k
♀
l
l
l
i
l
i
l
3
十時レベル(も) 7
0
│ー←荷重レベル(唱) 8
s
ド/
ち
…
-Dー荷重レベル(百) 6
7
Ilillllll:=
レ
ノ
ド
2
5
0
2
0
0
びの経時変化を観測した結果を図-
(
2
8日)で伸びは 1
4
5%となるが破
│
3
0
0
0
0k
gf
!c
m2に対する割合)
破断強度 2
以内に破断する。 2
0%では 6
7
2時間
日
出
ーー-荷量レベル(首) 2
0
ー金一荷量レベル(唱) 3
0
ー←荷量レベル(覧) 4
0
_
.
.
レ
s
ト4
││1ν│ v
.
-
H
干
し
ト 「
(
│
o1
1
1
1
1
0
経過時間
(
h
o
u
r
)
! 1111111
1
0
0
図 - 4 荷重制御クリープ線図
1
0
0
0
nJUM
n﹃υ
荷重レヘールと破断時間の関係(クリー i
1
0
0
9
0
8
0
破壊曲線)を図 -5に示す。両者の関
係は右下がりの曲線で表され、荷重レ
~
」
v
2
0
%が下限値となる。これよりゼ
事
ヘJ
、
ト
7
0
、
、
、
60
ぞ
5
0
、
、
J 40
、
、
、
0 i
オンシートの許容荷重は短期引張強度の 2
& 30
2
0
%程度と推定される。
1
0
1
1
0
0
②ケース 2
1
0
1
0
0
1
0
0
0
1
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
破断時間 (
h
o
u
r
)
初期の伸びを 4
種類変えて残留引張
図 -5 クリープ破壊線図
応力の経時変化を観測した結果を図-
6に示す。短期引張試験での破断伸び
2
0
0
(400%) 以下ではいずれも破断には至
1
8
0
らない。また残留応力は短期破断強度
モ1
4
0
1
6
0
0
'
"
'
'
2
0
%程度で初期伸びが大きい程
の1
1
0
0
残留応力も大きい。この残留応力と、
580
6
0・
ケース 1の限界荷重とが同じい'ルにな 塑
"
ることは興味深く、これが安定的にシー
2
0I
Jと判断される。
トを使用できる荷重レヘ.v
0
o0
1
o1
1
1
0
延伸時間
③ケース 3
初期伸び 1
00%で 1
0
0時間経過するま
1
0
0
1
0
0
0
(
h
o
u
r
)
図 -6 変 位 制 御 応 力 緩 和 状 況
での残留応力曲線と、その後引き続き
行った短期引張試験の荷重
伸び曲線を図 - 7に示す。短期引張試験(通常引張試験)
の曲線との違いは、前者に降伏点が認められることである。しかし破断荷重および破断
伸びはほとんど同ーとなる。
2
0
0
2
0
0
1
7
5
1
7
5
1
5
0
1
5
0
クリープ告
‘
+
ー
bD
三
重
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句
ぎ
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、
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出 75
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議 75
犬
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一
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一
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一 トー一一一一
トー
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0
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し/
ヨ
l
張賦験
O
.1
5
0
一一一クリープ後引強
ト ー 一2
5
一 ,-一一一ー
1
0
。
。
1
0
0
短期引張紙験
1
0
0
2
0
0
伸び(%)
経 過 時 間 (hour)
図ー 7 変位制御後
短期引張試験結果
-30-
3
0
0
4
0
0
3
) まとめ
① 破 断 強 度 の 20%を超える荷重が長期にわたり γがン 7
'V
/に作用し、しかも下地が軟弱
地盤等で圧密沈下が進行するようなところでは γがン 7
'V
/は破損しやすい。この様な場
合は地盤改良を行うなど、なんらかの変形抑制対策を講じる必要がある。
②荷重が一定の場合の下限界荷重レヘ'ルと伸び一定の場合の緩和応力レヘ'ルはほぼ同じで、
これがゼオンシートの許容引張強度であると推察される。
③初期ひずみが短期の破断ひずみ以下であれば、長期安定性は確保される。
④ 初 期 ひ ず み が 100%程度であれば、その後の引張強度・破断伸びは短期のものとほぼ
同一である
4
. おわりに
塩化ビニル系ジオメンブレンの紹介とクリープ特性について述べた。塩化ビニル系ジオメンブ
レンの耐久性については、これまでにも要求条件の厳しい廃棄物最終処分場で多用されてきた実
績から、現場でも高く評価されてきた。今回のクリープ特性評価試験からもそれを裏付けるデー
タが得られたと確信している。ただし、一定応力が長期にわたって掛かり続ける様な条件下での
使用に際しては"要注意"との示唆を得た。
今後もジオメンブレンの長期安定性の観点から下地地盤の形状や保護層の役割等、基礎的なデ
ータの蓄積を計り、設計の基礎資料整備に役立ててゆきたいと考えている。
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