山口県内で発生したニホンミツバチのコロニー「崩壊」現象 誌名 ミツバチ科学 = Honeybee science ISSN 03882217 著者 山下, 奉海 田中, 進 巻/号 28巻2号 掲載ページ p. 73-80 発行年月 2011年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat ミツバチ科学 2 8 ( 2 ) :7 3 8 0 HoneybeeS c i e n c e( 2 0 1 0 ) 山口県内で発生したニホンミツバチの コロニー「崩壊 J現象 山下奉海・田中進 野性を残すニホンミツバチは病気や外敵に強 め , 2010年 5月から 8月にかけて山口県中央 いミツバチとされ(久志, 2009),海外で家畜 部と島根県南部のニホンミツバチ養蜂家に対し 種として飼育されるセイヨウミツバチでたび て,蜂場での急激なコロニーの「崩壊(簡き蜂 たび話題となる蜂の大量死(ジエイコブセン, 数の急減と逃去などを帰結とする最終的な消 2009) は,今のところあまり報告されていな 滅) J の有無,崩壊が認められた場合にはその い. しかし,筆者らがニホンミツバチ養蜂を行 特徴について罰き取り調査を行った. っている山口県では, 2009年頃より複数のニ 間 lには開き取り調査を行った養蜂場の位置 ホンミツバチ養蜂家が飼育するコロニーの急激 とその蜂場での急激なコロニー崩壊の有無を示 な「崩壊Jz'訴えている.これと同様のことは す.ここに示すように龍査は 13か所の養蜂場 九州や中国地方のニホンミツバチ養蜂家の簡で を対象とし,うち 7か所の蜂場で近年の急激 も起きているが,原因は明らかにされていない. な餌育コロニーの崩壊が認められた.これらコ ニホンミツバチ蜂場で続発する 大量蜂児出しとコロニー崩壊 ロニーの崩壊が認められた蜂場は山口県の中央 から南寄り,崩壊が認められなかった蝉場は中 央より北寄りと,地域により偏りがあるように 筆者らは山口県周辺においての飼育ニホンミ も見えた.表 1には急激なコロニー崩壊が認 ツバチコロニーの急激な崩壊の実態を探るた められた 7か所の蜂場のコロニー崩壊が始ま b 図1 1 1 1口県中央部と島根県南部 において開き取り誠査を行ったニ 凶ホンミツバチ養蜂場の位置│惑とそ L の蜂場においての急激なコロニ一 台? 崩壊の有無 ヘ w i認仁11 の A~G は急激なコロ ニー崩壊の宛られた養! i 引揚 ( 表 1参照)の位置を, O: r D はコロニー崩壊のないことが 確認された蜂場の位践を示 す. グ ノ 7 4 表 1 急激な飼背ニホンミツバチコロニーの崩壊現象 地域 ABCOEFG 山口 1 1 1口 1 1 1 1 二l 湖南 周商 担国 柳 : J j コロニー崩壊が 始まった年 2 0 0 9年の 2010 2009 2009 2 0 0 9 2010 2 0 0 9 2010 2 3 総巣箱数 4 4 48 2 2 8 2 0 1 0年 8月 現夜の巣箱数 崩壊 i 坊の特徴 0 0 大量蜂児出し 大量蜂児出し 0 0 0 ~三最蜂児出し, スムシ 大i 立総児出し, スムシ 大盤蜂児出し 大議蜂児出し,スムシ 大量蜂児出し った年,崩壊巣箱数,崩壊時の特徴を示す.各 る蜂場で,図 1では Bと Dで示しである.こ 蜂場で急激なコロニーの崩壊が始まったのは一 の蜂場では, 2009年に合計で 52箱 (B蜂場 様に 2009年から 2010年にかけてである.ま 4箱 , D蜂場 48箱)のニホンミツバチを飼育 た各蜂場はこの 2年間で保有している巣箱の していた.しかし,陪年夏場より大量蜂児出し ほとんどを失っており,多い所では 2009年に を伴う原因不明のコロニー崩壊が起こり,冬場 合計で 50箱近くあった餌育巣箱が翌与三には 1 ) . までには 49箱のコロニーが崩壊した(表 2 箱となっている.これら飼湾巣箱を失った蜂場 そこで, Bおよび D蜂場を監視蜂場として,蜂 で特徴的であったのは,すべての蜂場で大量の 群崩壊に関する詳細なデータ収集を行った.翌 : Hし」が確認されていることである.こ 「蜂兇 / 年の 2010年には野外からの分蜂群採取などに こでいう「蜂児出し J ( 1蜂児捨て J とも呼ばれ 1箱 (B蜂場 2箱 , D よりコロニー数は合計 1 る)とは,コロニーから巣房内で死亡した幼虫 嶋場 9箱,それぞれの巣箱は隣り合う巣箱と が融き蜂により巣外に除去される行動を示す俗 5 m以内の誼離に設歯されていた)にまで増 称であり(図 2,表紙写真参照),行動自体は宮 えたが,これらのコロニーも 2009年同様の大 原・近藤 ( 2006)によりすでに報告されている. 0箱が崩壊した(表 2 ) . 量蜂児出しが起こり 1 大量蜂見出しが起こったコロニーでは,当然巣 したがって, 2010年 9月現荘で本蜂場に残っ 内から大量の幼虫が失われる. たコロニーは l箱のみとなった. 監摂蜂場におけるコ口二一崩壊 表 3に本蜂場で 2010年に崩壊したコロニー I,崩壊時の状況を記す. の巣の形成日,崩壊 E 山口県内で急激なニホンミツバチコロニーの 2010年に崩壊したコロニー 1 0箱のうちの 9箱 崩壊が認められた蜂場のうち, 2つの蜂場は, では大量蜂児出しが確認された.また大量蜂児出 ニホンミツバチ養蜂を行うアグチ興産が所有す しのあったコロニーのうち 6箱では,巣板中に 図 2 いわゆる「蜂児出し Jのようす(表紙参照) 7 5 表 2 監視自草場(アグチ興産蜂場 BとD) におけるコロニ…崩壊の発生 総巣箱数 5 2( B :4, D :4 8 ) : 9 ) 1 1( B :2,D 2009年度 2010年度 最終的な巣箱数 3( B :0, D :3 ) 1( B : Q D :1 ) 崩壊巣箱数 4 9( B :4, D :4 5 ) 1 0( B : 2,D : 8 ) 010年度に崩壊したコロニーと崩壊時の状況 表3 2 蜂t 易 巣箱形成日 I D 0 9 / 0 4 / 0 8 記録なし 0 9 / 0 4 / 0 8 1 0 / 0 4 / 1 4 1 0 / 0 4 / 2 5 1 0 / 0 4 / 2 8 1 0 / 0 5 / 1 4 1 0 / 0 7 / 0 4 1 0 / 0 7 / 1 0 1 0 / 0 7 / 1 0 大量蜂児出し 1 0 / 0 5 / 2 2 1 0 / 0 7 / 1 0 1 0 / 0 6 / 0 8 1 0 / 0 7 1 1 9 1 0 / 0 4 / 2 7 1 0 / 0 7 / 1 0 1 0 / 0 7 1 1 2 1 0 / 0 7 / 0 6 1 0 / 0 7 / 2 3 1 0 / 0 8 / 0 7 崩壊時の状況 スムシ 働き峻産卵 C C C C O C O C f、 ¥ ¥ノ C 0000 nuhunu ロunununuRuhunμ 0 9 ω 1 0 9 2 0 9 3 1 0 1 1 0 2 1 0 3 1 0 4 1 0 5 1 0 6 1 0 7 巣箱崩壊日 C ( ) o ヘ f 」ノ O (早朝 5 : 3 0 ) に巣箱陵部に落ちていた蜂児数と スムシ(種間定は行っていない)の繁殖が見られ た.なかには大量蜂児出しが認められた後に, の比を求め,以降,巣箱の底部に落下していた 働き蜂産卵を行ったコロニーもあった.このコ 蜂兇数にこの比 ( 3 . 1倍 ) を 掛 け 合 わ せ 日 ロニーでは何らかの理由で女王蜂が死亡したと あたりの蜂児出し数(推定備)とした. 関 3に そ の 経 過 を 示 す . こ の コ ロ ニ ー は 考えられる.また最終的にコロニーが消滅する 2010年 4月 1 4日に分蜂群を採取することで 直接的な原因は,多くの巣箱で逃去であった. 形成された.そして巣が形成され 20日が経過 コロニー崩壊までの経緯 した壊に大量蜂児出しが始まった.除去される 大量蜂児出しを伴い崩壊した lつのコロニ 幼虫の数は蜂児出しが始まって 1週間程度で ー(表 3の 1 0 1 ) において,蜂児出しパター ピークを迎えた.ピーク時には 1日に 130倒 ンの観察を行った.このコロニーでは,巣の形 体程度の死亡幼虫が巣外に出されたと推定され 成から崩壊までの期間の 1E Iあたりの蜂児出 た蜂児出しピークのさらに 1週間後には 1日 し数を推定した.これに先行して 1 0日間の韓 に巣外に出される蜂児の数はピークの 1 1 4程度 児出し数を計測し,ミツバチの活動が始まる前 ( 3 0~ 40匹程度)になった.この期間は 1か [l蜂児出… 8 0 &v 4 4 / 1 2 4 / 2 2 5 / 2 5 / 1 2 5 / 2 2 6 / 1 6 / 1 1 m O 4 砂 ロ二一崩壊思 午 AV 分蜂 - 去さ川旬、諜 (巴¥叫 一))日制Jhz 1 2 0 4 0 ? l • ••• • • • •• • ••・ • • 巣内個体数ピ 1 6 0 。 • •• •• 7 / 1 7 / 1 1 7 / 2 1 図 3 コロニー 1 0 1における巣の形成からコロニー崩壊までの l日あたりの推定蜂児出し数 7 / 3 1 7 6 50 ~ 40 す r - 童30 2 若 手 j 320 ム ÷ J ? 、 ァ ー n u l o00 O ~4 7112 7/19 コロニー 1 0 1における帰巣!燦中の花粉採餌!燥の比率 ( 1 0 0個体を観察して得られたもの) 図ヰlの Oは , 1 0 0{[~I休あたりで花粉採餌個体が 0 [1;であったことを示す 月程度続いた.そして蜂児出しが始まってから を覆う働き蜂の数が半分以下に減少しているよ 約 2か月後,巣内に残った 1 0 0個体程度の集 6月 28日,図 5中).さらにそ うに見える ( 屈が逃去を行い,このコロニーは消滅した. の l週間後には,巣板の下部にいる働き蜂はほ 一方,筆者らは,上記のコロニー 1 01にお 悶 いて,帰巣個体 1 0 0個体中のあたりの花粉採 餌蜂の比率を算出した(関心.花粉採餌蜂率 とんど見られなくなってしまった ( 7月 4日 , 図 5右). このように監視蜂場の大量蜂児出しを伴い崩 は晴れた日の 9 ・ 00~ 1 2 : 0 0において,ランダ 壊したコロニー 1 0 1では,分蜂から 1か丹と ムにカウントした帰巣簡き蜂 1 0 0個体のうち 経たないうちに大量蜂見出しが始まり,その後 で花粉を持ち帰った個体数の割合で示しであ 1週間程度で推定蜂児出し数がピークを迎え, る.密1 4に示すように,このコロニーでは蜂 その後ピーク時の数分の一程度の個体数が出さ 児出しピーク(図 2 ) 前までは,帰巣働き蜂の れる期間が続き,最終的には{個体数が減少した 4割程度が花粉を持ち帰っていたが,蜂児出し コロニーが巣箱から逃去し,消滅した(関 3 ) . ピークの頃より花粉の持ち帰り率は減少してい そこに至るまでの聞には,花粉採餌蜂率は減 き,ピークを過ぎて 2週間経過した頃からは 少し(国 4 ),巣内の働き蜂数もみるみる減少 帰巣働き蜂 1 0 0銅体あたりで花粉を持ち帰る していった(閣 5 ) . これら一連のパターンは, 個体が見られなくなった. 問じ蜂場で、大量蜂児出しを伴い消滅したコロニ 関 5にこのコロニーにおける大量蜂児出し ーのほとんどで同様の額向であった(ただし, 出し 期間の巣内状況の変選を示した.大量蜂児 i 多くのコロニーでコロニー 1 ひlのような定量 がピークの頃には,巣全体を覆う程度の働き蜂 的なデータはとれていない.また,推定蜂見出 が存在した ( 6月 2日,図 5左).しかし,蜂 し数にピークが見られないといったように異な 児出しがピークを過ぎ 4週間ほど経つと,巣 る傾向を示すコロニーもあった). 図 5 巣箱 ( I DlO-l)における蜂児出しピーク時からコロニー崩壊前までの巣内状況の変遷 6 / 2:蜂児出しピーク, 6/28:約 4週間後, 7/5:約 5逓間後 77 除去される蜂児の特徴 ー崩壊が起こった蜂場に地域差があったことか 監視蜂場において,大量蜂児出しによって出 ら(図1),大量蜂児出しには幼虫が感染する される蜂児は必ず幼虫設階であった.筆者ら 伝染病のようなものが関わっていることを疑っ はルーペを用いて掻き出された直後の幼虫を た.そこで,山口県東部家畜保健嬬生所の紹介 100個体以上観察したが,観察した個体はす を受け,名古屋大学大学院生命農学研究科門脇 べてまったく動かず,すでに死亡していると判 辰彦准教授に死亡幼虫サンプル(表 3の コ ロ 断された.図 6に表 3のコロニ-1 0 1におい ニー 1 0 7から除去されたもの)を 1 1個体送 て , 6丹 2日(蜂児出し開始から 15E I後)と 付し, PCR検査による病原体検査を依頼した. 7月 2日(蜂児出し開始から 45日後)に除去 平成 2年 8月 2 1臼付の病原体検査の結果に された直後の幼虫 ( 7月 2呂には前踊が含まれ よれば,送付ーしたミツバチ幼虫からはノゼマ微 る)を示した. 2010年に監視蜂場で見られた 胞子虫 Nos θmac e r a n aθ とサックブルード病ウ 一般的な傾向では,蜂児出しが始まってピーク イルス SBVが検出された(検査項目には,ア を過ぎる一か月間程度の開には,見た目が新 カリンダニ類,急性ミツバチ麻陣病ウイルス, 鮮な幼虫死体が巣外に出されていた.この期 黒王台ウイルス,慢性ミツバチ麻痩病ウイルス, 間の幼虫を蜂児出しが行われている 5コロニ 麹形変形病ウイルス,イスラエル麻陣病ウイル ーから 20個体ランダムに採取し,全長を計測 ス,カシミールミツバチウイルスも含まれてい したところ,平均全長 (1標準偏差)は 9. 23士 たがいずれも睦性であった).ただし,ノゼマ 0 . 8 8mmとなり,大きさは概ねそろっていた. 微胞子虫は存在量が極めて微量であり,幼虫死 その後,蜂児出しがピークを過ぎると除去さ 亡の i 直接的原因とは考え難かった.一方で,サ れる幼虫は新鮮さを失い,原形を留めず,褐 ックブルード病のウイルス量は極めて高く,検 色をしたものが多くなった.これは,蜂児出 査コロニーでの異常はサックブルード病ウイ し後期には死亡してからある程度の時間が経 ルスとの関係に基づいたものである可能性が高 過した個体が外に出されていることを示唆し く,コロニー内の幼虫大量死やその他の諸症状 ている. との関連性を示唆するものといえる. 崩壊コ口ニーの病原体検査 サックブルード病の概況 筆者らは,監視蜂場の大最蜂児出しにより除 監視蜂場で消滅したニホンミツバチコロニー 去される幼虫が必ず死亡していたこと,同じ では,サックブルード病ウイルスが検出された. 蜂場内において大量蜂児出しが行われる期開 サックブルード病とその病原体であるウイル にコロニー間でタイムラグがあったこと(表 スについては, B a i l e ye ta . l( 19 82) や A u b e r t 3 ),さらに山口県内においての急激なコロニ e ta . l( 2 0 0 8 ) などに詳しいので,ここでは詳 友 図 6 巣箱 0 0 1 0 -1)において巣の外に除去された蜂児 :6月 2臼(蜂児出し前期),右 : 7月 2日(蜂児出し後期) 78 掘を述べることを避けるが,サックブルード病 ウミツバチで検出されるサックブルード病ウイ の大要をかいつまんで記すと,この病気はセイ ルスとは少し型の異なるウイルスが検出されて ヨウミツバチ A p i sm e l l i f e r a, トウヨウミツバ いる ( B a i l e ye ta , . l1 9 7 7 ) . セイヨウミツバチ チA .c e r a n aともに発症が確認されている伝染 とは異なり,タイサックブルード病(図 7 )を 性の疾病で ( B a i l e ye ta , . l1 9 6 4 ;1 9 8 2 ), 卵 発症したトウヨウミツバチは崩壊に至る可能 成虫のすべてのステージ¥または雌雄関わず感 性が高く, 1 990年代にはインドからタイなど 染が認められる ( C h e ne ta , . l2 0 0 6 ) . しかし, の東南アジアにかけての地域において,本病 はっきつりとした症状が克られるのは幼虫期 による深刻な被害が報告され(佐々木 1 999, のみであり ( B a i l e ye ta , . l1 9 6 4 ;A u b e r te ta , . l Thomase ta . l2 002),特に猛威をふるった温帯 2008),感染した幼虫は踊になることができず 地域では, に死亡し,死亡後は頭部に水が j 留まり袋(サ 滅したといわれている ( V e r m ae ta , . l1 9 9 0 ) . ック)のような形状になるのが病徴とされる ( B a i l e ye ta , . l1 9 6 4 ;A u b e r te ta , . l2 0 0 8 ) . トウヨウミツバチの 95%以上が死 監視蜂場で見られた異常と,インド,東南ア ジ、アのタイサックブルード病の病徴的な類似性 一般に飼育されているセイヨウミツバチで は明らかではない.しかし,ニホンミツバチの は,サックブルード病ウイルス感染により大 分類学的位讃(岡田, 1 991)や本蜂場におい 量の死亡幼虫が児られることは稀とされてお てのコロニー崩壊状況を考慮すると,インド, り ( A u b e r te ta , . l2 008),病気にかかったコロ 東南アジアの飼宵下のトウヨウミツバチで起こ ニーも自然と回復する場合が多いとされている った被害を念頭に置き,今後の研究を進めるこ ( B a l la n dB a i l e y,1 9 9 7 ) . つまり時種では,こ とが重要であろう. の病気がコロニーを高確率で崩壊させるような 深刻な疾病とは考えられていない.このことは, サックブルード病の感染拡大 サックブルード病が伝染性のウイルス性疾病に コロニー崩壊の時期的な問題もあって,監視 も関わらず¥腐朗病などのように法定家畜伝染 蜂場において死亡幼虫の病原体検査を行うこと 病指定や国際獣疫事務局 (OIE) 疾病リスト登 ができたコロニーは,表 3のコロニー 10-7の 載がなされていないことからも何える. みであった.ゆえに路実にサックブルード病ウ これに対してトウヨウミツバチでは,タイサ イルスが検出されたコロニー,つまりウイルス ックブルードウイルス ( T S B V ) というセイヨ 感染が客観的に示唆されたのはこのコロニーだ けとなる.しかし,崩壊状況を観察したコロニ - 1 0 1も含めて,この監視蜂場の崩壊コロニ ーのほとんどにおいて,前述したような大量 蜂児出し(幼虫大量死),花粉採餌の減少,働 き蜂数の減少といった同様の症状が見られた. 病原体検査そ行っていないコロニーでのサッ クブルード病ウイルスの感染については正確 な判 i 析はできないが,サックブルード病がウ イルス性の{云染病であること,本蜂場の崩壊 コロニーで見られた大量蜂児出しなどの症状 図 7 タイサックブルード病に権怒したトウヨウミ ツパチの前腕(上 4匹)と正常な吉右腕(下) 頭部狽J Iが袋状化して透明になるなどの特徴が知 られているが,今聞のニホンミツバチの事例で、 は,こうした典型的な病徴は確認できていない. (写真提供:玉川大学ミツバチ科学研究センター) の類似性,巣箱閣の距離などを加味すると, 本蜂場で 2009年より崩壊したコロニーはこ のウイルスが感染していた可能性が十分にあ ると考えられる.また,山口県内において近年 に大量にコロニーを失った他の蜂場でも大議蜂 79 児出しは確認されていることから(図1,表1), 妨げることで結果的に僧体数が減少する,病 これらの蜂場の崩壊したコロニーについてもサ 気感染が女王蜂の産卵を減少もしくは停止さ ックブルード、病感染に疑いを持ち注意を払うべ せるなどサックブルード病感染と成虫個体数 きかも知れない. の急激な減少の関連性を想像することは可能 である.スムシに関しては,サックブルード サックブルード病とニホンミツバチ アグ、チ興産蜂場で、近年に崩壊(逃去を含む) 病感染のさまざまな症状がコロニーを弱勢化 させ,結果としてスムシを防除することがで したコロニーの多くでは,大量蜂児出し,花粉 きず,スムシの繁殖を許してしまったと予想 採餌の減少,成虫個体数の急激な減少,スムシ さ:hる. の繁殖が認められる傾向があった.これらのす 以上のような理由から,少なくとも今回の監 べてはニホンミツバチにとっていわば異常な状 視蜂場においてのサックブルード病感染は,さ 態であり,コロニー崩壊の要因となりうると考 まざまな症状を引き起こすことでコロニーの えられる.このうちの大量蜂児出しについては, 崩壊に直接的,もしくは間接的に関わった可能 幼虫が死亡するという症状からサックブルード 性が高い.ただし,これらの症状のそれぞれ 病との関連性は高いと考えられる. が関連性を持つものであると考えられ,それ 2010年 に 観 察 を 行 っ た コ ロ ニ ー 1 0 1が ぞれの症状のコロニー崩壊における位置づけ, サックブルード病に感染していると仮定した また症状間の相互作用などは今後の研究を必 うえで考察すると,この巣箱では l日に除去 要とする. された死亡幼虫の推定数は最大で 1 3 0 l I T程 度であった(関 3 ) . このような幼虫の大量 おわりに 死はコロニーにダメージを与えることは関連 監視蜂場では, 2009年より急激な飼育コロ いないと思われる.しかし,健康なニホンミ ニーの崩壊が起こっている.そして,本蜂場の ツバチコロニーの女王蜂の 1日の産卵数が lつの巣箱からは多量の SBVが検出され, 也 { 100~ 1500であることを考えると(佐々木, の崩壊巣箱においても大量蜂児出しなどの SBV 1999),この程度の幼虫死亡数がコロニーを 検出巣箱と同様の症状が認められた.このこと 直接崩壊に導くかについては疑問も残り,サ は,本l 9 筆場のニホンミツバチコロニー崩壊にサ ックブルード病による幼虫死亡とコロニー崩 ックブルード病が関与している可能性を示すと 壊の関係については,さらなる調査研究を必 考えられる.また山口県内の{也の蜂場において 要とすると考えられる.また花粉採餌行動に も,同様の症状でニホンミツバチのコロニーの ついては, A ndersonandG i a c o n C1992) が 崩壊が起きていることも注意を払わなければな サックブルード病に感染しているセイヨウミ らない.サックブルード病は,セイヨウミツバ ツバチでは,健康なコロニーよりも花粉の持 チにおいてはそれほど危険な病気とは考えられ ち帰り数が少ないことを報告している.その ていないが,ニホンミツバチにおいては本蜂場 ため,崩壊コロニーで起きた花粉採餌率の減 での事例を見る限りコロニーの崩壊を招く潜在 少についてもサックブルード病の影響による 性を持つ脅威である可能性がある.したがって, ものとは考えることには一定の合理性はある. 今後はこの病気の広域的な被害状況を慎重に調 成虫の急激な減少については,サックブルー 査する必要があろう.また他方で,養蜂家の方々 ド病の成虫への影響は明らかになっていない が白蜂場で蜂見出しを伴う急激なコロニーの崩 部分が多く C A u b e r te ta , . l 2008),直接的な 壊が起こった場合には,ひとつの可能性として 関連性については不明である. この病気を疑ってもいいのかも知れない. しかし,この病気への感染が成虫の寿命を とはいえ,今回報告を行ったニホンミツバチ 短くする,大量の幼虫死亡が成虫数の増加を コロニー崩壊とサックブルード病については, 80 あくまでもアグチ興産蜂場においての一事例の 報告である.したがって,本報告は本邦で、起こ るこホンミツバチコロニーの大量蜂兇出しもし くはコロニーの急激な崩壊=サックブルード病 を主張するものではない.筆者の私信で、は,大 量蜂見出しにも卵が出される場合,踊が出され る場合,多様なサイズの幼虫が出される場合と 様々なパターンがあり,これらすべてについて サックブルード病の疑いを持つのは不適切かも しれない.また,今回の報告では,コロニーの 崩壊と天候,温度,湿度,照度などの環境要因 や農薬の影響,その他野生群との関係などにつ A u b e r t .M . .B .B a ll .I .F r i e s .R .M o r i t z .N .M i l a n i and I .B e r n a r d i n e l li .2 008.V i r o l o g yandt h e hon 己yb e e .EuropeanC o m m i s s i o n .458p p .h t t p : / / e c .e u r o p a . e u / r e s e a r c h / a g r i c u l t u r e / p df !v i r o l o g y _ a n d _ t h e _ h o n 巴y _ b e e . p d f B a i l e y .L .andR .D .Woods. 1 9 7 7 . ] .G e n .V i r o. l37 1 7 51 8 2 . B a i l e y .L . . ] .M.C a p p e n t e randR .D .Woods.1 9 8 2 .J I n v e r t e b r .P a t h o . l3 9 :2 6 4 2 6 5 . B a i l e y .L . .A .] .G i b b i sandR .D .Woods.1 9 6 4 .V i r o l ogy2 3 :4 2 5 4 2 9 . B a l l .B .andL .B a i l e y .1 9 9 7 .I NMorseR .A .andK . F l o t t u m( E d . ) .Honeybeep e s t s .p r 巴d a t o r s& d i s e a s e s .p p .1 1 3 2 . C h e n .Y .P . .] .SP e t t i s .A .C o l l i n sandM.F .F e l d l a u f e r 2 0 0 6 .App . lE n v i r o nM i c r o b i o l O7 2 :6 0 6 6 1 1 久志富士男 . 2009. ニホンミツバチが日本の農業主E 救 う高文研, } : I U 5 t198p p . ローワン・ジ、エイコブセン(中堅京子訳).2009. ハチ はなぜ大量死したのか.文室主春秋,東京. 320pp 階的一次.1991 . ミツバチ科学 1 2 :1 3 2 6 佐々木正己 .1999. ニホンミツバチ 北恨の A p j s 7 手j 好会,東京.1 9 1pp c e r a n a .! 菅原道夫・近藤勝彦 . 2006.2006年度財悶法人国際 花と緑の博覧会協会助成研究報告. pp.1-8 Thomas0 . .N .P a landrιSubbaRaoK .2 0 0 2 .A p i a c t a3 .h t t p : / / w ww .c u l t u r a a p i c o l a . c o m . a r / a p u n t e s / r e v i s t a s e l e c t r o n i c a s / a p i a c t a / 2 0 0 2 /1 / 01 .pd . f V e r m a .L .R . .B S .RanaandS .V e r m a .1 9 9 0 .A p i d o l o g i e2 1 :1 6 9 1 7 4 . 同 町 いては調査を行っていない.サックブルード病 のニホンミツバチコロニーへの本当のインパク トを探る際には,これらのデータを加味した複 合的な検証が必要となるであろう. サックブルード、病の疑いを持ったら SBVへの感染は,専問機関による適切な病 原体検査でのみ判定されるため,正確な自己 診断はできない.そのため自蜂場にてサック ブルード病の疑いが持たれた場合については, 地域の畜産関係の保健機関など専門機関に指 ‘ 町 導を仰ぐことをお勧めする.また,サックブ ルード病は{云染病であるため,疑いを持った 方は最大限の「広げない」努力をする必要が あると思われる. 謝辞 TOMOMIYAMASHITAandSUSUMUT A N A K A .Colony c o l l a p s eo fJapanesehoneybeei nYamaguchi P r e f e c t u r e .HoneybeeS c j e n c e (2010) 28( 2 ) 7 3 8 0 .A g u c h i r く o s a nC o . .Susumao2 8 9 9 .S h u n a n . Yamaguch . i745-0121Japan 本事例報告を作成するにあたって,大楽院登 氏,越智登司氏,秋本勝義氏,伊村美智男氏を はじめとした地域のニホンミツバチ養蜂家の皆 様には,貴重な情報そご提供いただいた.病原 体検査に際して便宜をお図りいただいた山口県 東部家畜保健衛生所の皆様,病原体検査などを 執り行っていただいた名古屋大学大学院生命農 学研究科門脇辰彦准教授ならびにスタッフの 方々に,合わせて浮く御礼申し上げる. ( 〒 7 45-01211 -1日照周潟市須々万奥 2 89-9 アグチ興産) 引用文献 Anderson.D 司 L .andH .G i a c o n .1 9 9 2 .] .E c o n .E n t o mo . l8 5 :4 7 5 1 Thei n c i d e n c eo fc o l o n yc o l l a p s eo fJapanese p j sc e r a n ajaponka.hasbeenfound h o n e y b e e .A i nYamaguchiP r e f e c t u r es i n c e2 0 0 9 .T h i sa r t i c l e reportsthed e t a i l eo ft h ec o l l a p s et y p i c a l l y preceededbyamassivebroodremovalandt h e r e s u l t so fsomed i a g n o s t i ct r i a l st odetermine t h ep o s s i b l ec a u s e s .Fromar e s u l to fmolecular s c r e e n i n g .i ti sshownt h a tbeesfromc o l l a p s i n g c o l o n i e swerei n f e c t e dw i t has t r a i no fs a cbrood v i r u sw i t h o u tt y p i c a lsymptomo ft h i sd i s e a s e s F u r t h e ri n v e s t i g a t i o n sa r己 necessaryt oi d e n t i f y t h ec a u s eandt ot a k et h em e a s u r e s .a tt h ep r e s e n t wea r er e q u e s t e dt op r e v e n tt h es p r e a d i n go ft h e i n c i d e n c eo fc o l l a p t i o nt ow h o l ec o u n t r γ
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