DressingSim による仮想試着と仮想設計 Introduce to virtual try

DressingSim による仮想試着と仮想設計
Introduce to virtual try-on and virtual design by using DressingSim.
デジタルファッション株式会社
坂口嘉之
概要 本論文では、三次元 CAD や CG を活用した衣服の仮想試着と仮想設計について述べる。
1.はじめに
仮想試着や仮想設計が実現できたとすると、何
がどう変わるのだろうか。まず、実際の製品がなく
とも、顧客一人一人の反応や意見を知ることがで
き、売れ筋商品を絞り込むことができるであろう。
また、設計に要する時間が短縮され、サンプル試作
も半減できるだろう。さらには、ファッションをデ
ジタル情報で表現できるようになるので、ネット
ワークによるサービスの提供が可能になる。そも
そもファッションという言葉には、単なる流行と 図 2 写真と3 D 衣服の合成
いう意味のほかに、生活様式(Life Style)という
意味もある[11]。各個人によって生活様式が異な
るので、ファッションも各個人毎提供できる仕組
みが必要だと言える。ファッションのデジタル化
は、情報の即時発信を可能とし、新鮮さが命のナマ
モノであるファッションアイテムの販売や生産戦
略を大きく変えていくことだろう。
筆者らは、図1に示すような、魔法の鏡の開発を
目指している[7,8]。この魔法の鏡の前に立つと、
鏡には衣服を着て着飾った自分の姿が映し出され
る。そして、自分が動けば鏡の中の自分も動き、衣
服もその動きに従って動く。そして鏡の中は仮想
世界になっていて衣服の設計や製造ができる。も 図 3 3 D 衣服と顔写真の合成
ちろん、仮想世界で設計した衣服は実際に製造す
図1
魔法の鏡の概念図
図4 衣服写真と顔写真の合成
ることもできる。このような魔法の鏡は、仮想試
着と仮想設計の二つの機能を持っていると言え
る。仮想試着の仕組みとしては、図 2 に示すよう
な人物写真と 3 D 衣服とを画像合成する方法と、
図 3 に示すように、正確な 3D の人体モデルに衣服
を着せて、顔部分だけ入れ替える方法、さらには、
図 4 に示すような衣服画像と顔画像の合成表現が
ある。3D 表現は、衣服や人体の変形や、人物の動
きにまで対応できるが、リアルタイムクロスシ
ミュレーション技術や体型計測機能、モーション
キャプチャ機能、画像合成機能など様々な技術の
図5 パノラマ撮影装置(DRESSTA)
組み合わせが必要である。本論文では、容易な操
作で試着画像が作成でき、表現力が高い写真ベー らカメラで撮影し、回転操作と同期した角度の画像
スの手法を用いた仮想試着が可能なコーディネー を提示すると、人間の認知機能により立体感を感じ
ションソフトウエアを紹介する。
る。
また、仮想設計においては、アパレル CAD で設
計した型紙データを立体的に表現するソフトウエ 3.コーディネーションソフトウエア(HAOREBA)
アが市販されている。これらはプロダクトパター
シミュレーションで衣服形状を算出する場合、型
ンの確認用途が主で、型紙設計(パターンメイキ 紙などの入力データが必要である。しかし、ファッ
ング)には用いることができなかった。本論文で ションの小売の場合、手元に衣服の現物はあるが、
は、リアルタイムシミュレーションにより、コン 型紙などは入手できない場合がある。このような場
ピュータでファーストパターンが作成できるパ 合に、簡易的に擬似 3D 表現し、衣服の組み合わせを
ターンメイキングソフトウエアを紹介する。
変更してファッションコーディネーションを提示す
る方法が有効である。撮影では、マネキンに衣服を
2. 仮想試着について
着せて回転台で一周回転させて画像を撮影する。マ
仮想試着は、二次元の写真ベースの画像合成が ネキンと背景色を一致させておけば、衣服部分だけ
よく知られている。簡単なものでは、雑誌などか クロマキー処理で抜き出すことができる。その後、
らスキャナーで読み込んだファッション画像の顔 マネキン画像の上に、衣服の重ね着順に衣服を描画
部分だけを他の人物の顔にすげかえるものがあ していけば 360 度回転させて見ることができ、擬似
る。近年、3D 表現による仮想試着も登場してきて 3D 画像表現ができる。この場合、被写体は人の頭部
いる[3,7]。仮想試着を三次元的に表現する方法 だけでなく、直立時の全身画像(2m の高さ)まで撮
では、ポリゴンベースの 3 D データにテクスチャ 影できる必要がある。このような大きな被写体の全
マッピングを施す方法が一般的である。衣服のモ 周画像を撮影するには、カメラが回転する方式では
デリングには、シミュレーションによる方法と、 装置が大型になりすぎるため、被写体を回転させる
計測器を用いる方法がある。計測器による方法 形式のパノラマ撮影装置(DRESSTA)を作成した。こ
で、特に三次元スキャナを用いた場合、三次元形 の撮影装置は図 5 に示すように、PC で制御される高
状が得られるが隠蔽部分は測定不能であり、ま 精度回転台とクロマキー用の背景スクリーン、及び、
た、レーザーの場合には反射率の低い黒い色の部 照明装置と DV カメラから構成される。本装置も一周
分も測定できない欠点がある[5]。最近では、パ 30 秒で回転する。照明には、蛍光灯を使い DV カメ
ターン光投影とデジタルカメラにより、この欠点 ラ側で色調整を行った。図 6 に、ブルーマネキンに
は克服されつつある[4]。このようなモデルベー 白 T シャツを着せて撮影した場合を示す。クロマ
スのアプローチの他に、実写ベースで三次元的に キー処理後は、白 T シャツが空中に浮かんだように
表現する方法がある[9,10]。被写体を全周方向か 表示される。このように多数の衣服を撮影し、マネ
キンだけ撮影した画像と重ね合わせ表示すると、
マネキンが衣服を着ているかのような表現ができ
る。マネキンの顔の部分を他の被写体の顔画像と
入れ替えることで、表情の表現も可能である。この
ように撮影された画像は、JPEG 画像郡に変換され、
ビュアーソフトウエア( H A O R E B A ) に入力すること
で、簡単な操作で利用できる。もちろん人物の顔も
DRESSTA で撮影できる。図 7 にブラウザで表示され
た撮影結果と、図 8 に様々なコーディネーション例
を示す。このような方式では、最新ファッションの
サンプルがあれば、手早く撮影ができ、擬似 3D 表
現の電子カタログが作成でき、WEB 配信や CDROM 配 図6 ブルーマネキンとクロマキー結果
布が可能になる。これは、新製品のプレゼンに有効
であり、ファッションショーなどでは時間の都合
で見せることができないコーディネーション例も
十分に表現できる。また、全周画像をデータベース
にしておけば、小売が WEB など電子媒体でセールス
を展開する時に、コンテンツ製作費用を低減する
ことができることだろう。
また、学校教育用途で、コーディネーション演習
にも利用できる。学校教育では、生徒個人のライフ
スタイルの表現方法の基本を教えることで、単な
る流行に左右されないベーシックなコーディネー
ション方法について演習を行うことができる。レ
ンタルの D R E S S T A により、個人の顔や持ち物の
ファッションアイテムのパノラマ画像を撮影し、
様々に組み合わせてコーディネーションを施し、
クラスメイトに見せ合い意見を交換しあうことで、 図7 WEBブラウザでの表示例
自分の表現方法を考え直すことになるだろう。
図8 様々なコーディネーション例
3. 仮想設計について
開始
衣服の設計図である型紙設計をパターンメイキ
ングと呼ぶ。パターンメイキングには、
(1)ファー
型紙読込み
ストパターン(デザイン画から型紙を作成したも
の)、
(2)プロダクトパターン(アパレル生産に必
前後中心線設定
要な情報を付加したもの)、の2種類に大別でき
縫製入力
る。ファーストパターンにおけるパターンメイキ
ングの主な方法には、平面製図法と立体裁断法と
ラグオフの3種類がある[12]。従来の仮想設計シ
ステムには、旭化成 3DCAD のバーチャルフィティ
型紙修正
型紙出力
ングや PAD Systems の 3D モジュールなどがあげら
れよう。これらは、主にプロダクトパターン検証用
途に使われるが、操作が複雑で、計算時間や形状精
終了
図9 AZによるパターンメイキングの流れ
度についても改良が必要であると言われている。
本論文では、リアルタイムシミュレーションによ
り、コンピュータで高精度なファーストパターン
が作成できるパターンメイキングソフトウエアを
紹介する。
4.DressingSim AZ について
DressingSim AZ(以下 AZ と略)は、平面製図法、
立体裁断法と再利用法の 3 種類の方法を実行でき
る、すなわち、ファーストパターン作成段階から利
用できるデジタルパターンメイキングソフトであ
る。主な特徴として、
(1)平面型紙から立体衣服
形状を正確に表現可能、
(2)平面型紙と立体衣服
図 10 AZ の起動画面
形状をリアルタイムで同時に編集可能、
(3)操作
者を選ばない簡単操作、があげられる。特に、リア
ルタイムな応答を可能にするシミュレーションは、
今までになかった技術であり、型紙のどこをどの
ように操作すれば、立体形状がどのように変化す
るか、の理解を助けるものである。AZ は身頃演習
用、襟演習用など、学校カリキュラムに適合(機能
を限定し操作性を向上、低価格)した製品をリリー
スしていく予定である。
図11 型紙原型のデータセット
図 9 に AZ の操作の流れを示す。AZ を起動すると
図 10 の状態になる。画面左は 3D 表示部でありトル
ソが表示されている。右は2 D 表示部である。新規
定する。この設定により、型紙が自動的にトル
作成で、図 11 のように予め登録されている型紙原
ソ上に配置される。次に、型紙同士を縫製して
型のデータセットを読み込むことができる[ 1 3 ] 。
いくと、順次、衣服の立体形状が計算される。こ
れは、再利用法に相当する。もちろん、初めか
データセットには、前後中心線や縫製情報が入力
されているので、すぐに型紙編集作業に移れる。ま
ら2 D 表示部に型紙を描くこともできる。これ
た、アパレル CAD のデータを読み込んで利用するこ
は、平面製図法(drafting)一枚ものの布をト
ともできる。この場合には、型紙に前後中心線を設
ルソに巻きつけて衣服形状に整えていくことも
できる。これは立体裁断法(draping)に相当する。
図 12 に縫製前と縫製後の衣服立体形状の変化を示
す。もちろん、この型紙の縫製結果もリアルタイム
に立体衣服に反映される。型紙形状を修正すると、
衣服立体形状も直ちに修正される。また、図 13 に
示すように、ペンで立体衣服表面に線を描くと型
紙にも反映されるドローイング機能もある。これ
により、立体衣服と型紙の対応が容易に理解でき
る。また、立体形状の拡大、縮小表示や、回転、移
動の操作もマウスだけで行えるよう設計されてい
る。型紙編集ツールには、型紙を切断するはさみ
ツールの他にも、ダーツを容易に作成するツール
も用意されている。図 14 にダーツを挿入した状態
を示す。ダーツ挿入前と比較してゆとり量が少な
くなっているのが分かる。このダーツは自由に移
動させることもできる。また、ゆとり量の検証のた
めに、断面図を表示することも可能である。断面図
図12 縫製情報入力の一例
表示の一例を図 15 に示す。3D の画面で表示された
断面が型紙のどこに対応するかも型紙上に表示さ
れるようになっている。このように型紙設計に重
要なゆとり量の検証が簡単にできる。図 16 に、完
成時の型紙とその立体形状が表示例を示す。
ここでは、一般的なトルソや原型をデータベー
ス化して利用しているが、トルソや型紙原型も、
ユーザの希望に応じて変更可能な設計になってい
る。また、入出力にペンタブレット付液晶ディスプ
レィを使うと、ペン1本で AZ の操作ができるため、
コンピュータに不慣れな人にも使いやすい。
設計後の型紙は、プリンターにも出力可能であ
り、大型プリンターがないユーザにも対応できる
図 13 3D ドローイングの一例
図 14 ダーツの挿入例
よう、型紙を複数枚に分割して出力する機能も備
えている(図 17 参照)。また、DXF 形式で出力でき
図 15 断面表示例
BM では、トルソだけでなくボディスキャナで測
定された様々な人間の体型データを利用できる予
定である。各個人が自分の体型データを持つよう
になると、統計学を使った画一的で工業的なグ
レーディングではなく、各個人体型に合致したパ
ターンメイキングさえ可能になる。これが Made to
Measure である。
5. まとめ
DressingSim による仮想試着と仮想設計について
図 16 完成時の表示例
るので、他のアパレル CAD に読み込みプロダクトパ
ターンを作成することができる。縫い代設定や縫
製指示、裏地、芯地のような副資材の設計、消費者
の体型をカバーする全てのサイズへのグレーディ
ング(grading)などが主な内容になる。この後、効
率的な生産を行うために、原反からパーツを切り
出すためのマーキングを施した後、アパレル CAM に
述べた。パノラマ動画像と 3D モデルによるファッ
ションのコンポジット表現やパノラマ動画像同士
の合成による仮想試着、及び、DressingSim AZ に
よる仮想設計について述べた。
6. 今後の予定
仮想試着については、今後、3台程度の複数カメ
ラによる多視点画像を撮影し、3D モデルの縦軸方
向の回転操作を実現していきたい。これには、各カ
メラ間の画像を滑らかに補間する必要がある。ま
送り生産に移れる。
た、回転台で人物を撮影した場合には、全周画像が
AZ は前述したように、学校教材用途を目的とし
得られるため、人体計測にも応用できる可能性が
たものであり、アパレル CAD の機能は省略してある
ある。人体計測に応用するためには、被写体が 30
が、AZ の後継の BM には、アパレル CAD 機能が追加
秒間回転中に完全な静止姿勢を保つことは不可能
される。また、身頃編集だけでなく、襟、袖、ボト
なので、被写体の動き補正を施す必要がある。撮影
ムなど、衣服設計に必要な機能が一式装備される
後の処理は複雑になるが、被写体の周囲に多数の
予定である。
カメラを配置するのに比較して、装置が小型化で
き低コスト化可能な利点があるため、興味深いと
ころである。また、仮想設計については、ボディス
キャナと連動した個人体型に基づいたパターンメ
イキングシステムに改良していきたい。
製品フ口ー
身
全サンプル作成工程をサポート
頃
エ
リ
ソ
ファッション
ルネッサンス
教育用途
ソデ回りみごろ
デ
ボタン位置/ポケット
統合
プロ用途
システム化
2001/9
図 18 出力例
図 11 ロードマップ
2002/4
2002/8
2003
このような仮想試着や仮想設計がシステム化さ
れていくと図 12 に示すように、
「測る」、「作る」、
Body Scan
う。筆者らは、このパラダイムをファッションル
測る
ネッサンスと呼び、今後の開発指標とし、今後も
,第
六回パターン計測シンポジウム論文集 ,2001.
ひとは見かけによるのです。 , 銀
[12]島崎、佐々木 編 , 衣服学 , 朝倉書店 ,2000.
[13]文化女子大学被服構成学研究編, 被服構成学理
論編 , 文化出版局 ,2000.
デジタル
ファッションショー
DFR
見る
CAD/CAM
HAOREBA
遊ぶ
Real Time
Simulation
物流
ŽQ•l•¶Œ£
[1]CG で布を表現する ,pp69‑87,18,2000,CGWorld.
[2]坂口:クロスシミュレータ DressingSim の研究開発
,pp56‑57,1,2000, 日経 CG.
[3]http://www.mvm.com/
[4]http://www.sanyo.co.jp/R̲and̲D/3Dm/index.html
[5]http://www.minolta‑rio.com/vivid/
[6]渡辺弥寿夫 美濃導彦 坂口嘉之:自分に合った衣服
をオーダーする―仮想服飾オーダーメイドシステム―,
電子情報通信学会誌 ,pp.404‑411,1999 April.
[7]坂口嘉之:"布の力学特性を用いた衣服形状の動的計
算方法 ," 京都大学博士論文(1996).
[8]Koji Imao,”A study on Vitrual Try-on System Based on
Dress simulation”, doctor thesis of kyoto univ. (2001).
[9]竹村伸太郎 ,坂口嘉之,丹田佳子,田中弘美:パノラ
マ画像と三次元衣服付き人体モデルの合成,D-12-61,電子
情報通信学会春季全国大会,2000.
[10]坂口、竹村、今尾 , パノラマ動顔画像と 3D モ
[11]池田ゆう ,
河出版 ,2000.
作る
DRESSTA
開発を続けていく予定である。
デルによるファッションのコンポジット表現
?
LookStailor
DressingSim
AZ
「見る」、
「遊ぶ」の階層からなる新しいファッショ
ンビジネススタイルが実現していこことであろ
WEB
個人情報
製品
利用者
図12 ファッションルネッサンス構想
WEB
ファッション情報